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事件 平成 24年 (ワ) 6892号 商標権侵害差止等請求事件
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裁判所 大阪地方裁判所 
判決言渡日 2013/01/24
権利種別 商標権
判例全文
判例全文
平成25年1月24日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成24年(ワ)第6892号 商標権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日 平成24年12月7日

判 決



原 告 有限会社Cache

被 告 P 1

同訴訟代理人弁護士 中 西 敏 夫

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

被告は,原告に対し,金31万8499円及びこれに対する平成24年7月

8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,後記商標権を有する原告が,別紙被告標章目録記載1,2の標章(以

下「被告標章1」「被告標章2」という。
, )を使用した被告の美容室の営業が,

原告の商標権を侵害したと主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償

として,金31万8499円及びこれに対する不法行為の後である平成24年

7月8日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求

める事案である(なお,原告は,被告標章1の使用等の差止め,廃棄も請求し

ていたが,これらの請求については,訴えの取下げがされた。。


1 判断の基礎となる事実等(証拠を掲げた以外の事実は,当事者間に争いがな

い。)

(1) 本件商標権
原告は,次の商標権を有している(以下「本件商標権」といい,その登録

商標を「本件商標」という。。


登録番号 第5441186号

出願日 平成23年6月21日

登録日 平成23年9月30日

指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分 第44類 美容,理容

登録商標 Cache(標準文字)

(2) 被告の行為

ア 被告は,平成18年8月9日,岐阜市<以下省略>に美容室を開店し(以

下「被告店舗」という。 ,同店舗で被告標章2を使用して営業していた。


被告は,平成19年4月30日付けで被告店舗を一旦は廃業したが,平成

22年7月5日,岐阜市<以下省略>で被告標章2を使用して営業を再開

した(乙1,2,5。なお,原告は,訴状では被告が被告標章1を使用し

ていたとも主張するが,この点については,何らの立証もなく,同事実は

認められない。。


被告店舗は,ウェブサイト上で「カシェ」として紹介されるなどしてい

た(甲3,4)。

イ 被告は,原告の申し入れを受けて,平成24年6月20日,被告標章2

の使用を停止した。

ウ 本件商標と被告標章2は類似する(弁論の全趣旨)。

2 争点

(1) 被告の先使用権の成否(争点1)

(2) 原告の損害 (争点2)

第3 争点に係る当事者の主張

1 争点1(被告の先使用権の成否)について

【被告の主張】
被告は,本件商標の登録出願前の平成18年8月9日から,不正競争の目的

なく,被告標章2を使用して美容室の営業を行っていた。

被告による被告標章2の使用は,被告店舗の存する岐阜市<以下省略>及び

岐阜市<以下省略>付近では,広く認識されていた。

したがって,被告による被告標章2の使用には先使用権(商標法32条1項

が成立する。

【原告の主張】

否認又は争う。

2 争点2(原告の損害)について

【原告の主張】

(1) 被告は,平成23年10月1日から平成24年6月20日までの間,本件

商標権を侵害した。

(2) 被告は,本件商標を原告とのフランチャイズ契約に基づいて使用する場合,

最低でも一店舗につき毎月3万5000円を支払わなければならない(甲6

4参照)。

被告は,上記期間中,本件商標を一店舗で使用したことから,その使用料

相当額は31万8499円(消費税込み)であり,同金額が損害額である。

(3) 本件商標は,これまでの10年間に数多くの広告や雑誌掲載,年間1万通

近くのダイレクトメール発送等がされており,長年積み重ねられた価値ある

商標である。

また,原告によるフランチャイズの一環として,愛知県稲沢市,三重県津

市への出店計画が進行していたが,被告店舗の存在が同計画の大きな障害と

なり,出店計画は1年以上凍結され,原告には損害が生じている。

【被告の主張】

被告は,被告標章2の使用を自主的に止めており,原告に損害は発生してい

ない。
第4 当裁判所の判断

1 争点2(原告の損害)について

本件事案の性質に鑑み,まず争点2について判断する。

(1) 事実関係

掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,上記第2,1に加え,以下の事

実が認められる。

ア 原告による美容室の営業

(ア) 店舗展開等

原告代表者は,平成13年,大阪市<以下省略>に美容室「Cach?」を

開店し,平成15年に原告を設立して,その後は,原告が同美容室を経

営していた。原告は,その後,100%子会社である有限会社 GLEAM.Inc

(以下「原告子会社」という。)を設立し,原告子会社は,平成17年,

大阪市<以下省略>に美容室「 ? PRIVEE」を開店した。原告子会社

は,平成21年,上記2店舗を統合して,新たに同区<以下省略>に美

容室「Cach? 」を開店し,以後,美容室の経営は原告子会社が行った。

原告子会社は,平成23年,大阪市<以下省略>に美容室「Cach? 」を

開店した。

原告は,平成23年6月21日,本件商標の登録出願を行い,同年9

月30日,その登録を得た。

(イ) 広告宣伝

原告又は原告子会社の上記店舗は,平成14年1月から平成23年1

2月にかけて,関西のヘアサロンを地区別に多数紹介した雑誌「カジカ

ジH」(甲17? 47)において,平成19年4月から平成24年3月

頃,同様の雑誌「カンサイ・ガールズ・スタイル・エクスプレス」(甲

48? 60)において紹介されたほか,平成21年から平成24年頃,

全国版の雑誌「愛されヘアカタログ」でも紹介された(甲14? 16)。
また,原告は,平成14年頃から,雑誌「ホットペッパー」等に広告

を掲載する等していた(甲61,62)ほか,原告の店舗で働く美容師

が,美容室向けの専門誌で紹介されることもあった(甲6? 13)。

イ 被告による被告標章2の使用について

(ア) 被告は,岐阜市<以下省略>の自宅の一階で,平成18年8月9日,

美容室の営業を開始し,その際,辞書で見つけた言葉から被告標章

2を店名として使用した。被告は,平成19年4月30日に一旦同

店を廃業したが,平成22年7月5日,岐阜市<以下省略>で店舗

を再開し,被告標章2を使用して美容室の営業をした(乙5)。

被告は,上記いずれの店舗でもスタッフは雇わず,被告が美容師とし

て週6日営業しており,顧客は,店舗の周辺の住民を中心に,1日当た

り3,4名程度であった(乙5)。

(イ) 原告は,平成24年2月15日付け文書により,被告に対し,被告標

章2の使用は,本件商標権の侵害となる旨を通知した(乙3)。

(ウ) 被告は,前記通知により,被告標章2の使用を止めることとしたが,

これを原告に適切に伝えないまま,岐阜市保健所に対し,同年6月20

日付けで美容所廃止届出書を提出した。その後,被告は,同届出書の写

しを原告に送付したが,原告は,同月26日,本件訴状を当裁判所に提

出した(乙1? 4)。

(2) 損害の発生

ア 商標権は,商標の出所識別機能を通じて商標権者の業務上の信用を保護

するとともに,商品の流通秩序を維持することにより一般需要者の保護を

図ることにその本質があり,特許権や実用新案権等のようにそれ自体が財

産的価値を有するものではない。したがって,登録商標に類似する標章を

第三者がその製造販売する商品につき商標として使用した場合であって

も,当該登録商標に顧客吸引力が全く認められず,登録商標に類似する標
章 を使用することが第三者の商品の売上げに全く寄与していないことが

明らかなときは,得べかりし利益としての実施料相当額の損害も生じてい

ないというべきである(最高裁平成9年3月11日・民集51巻3号10

55頁参照)。

イ 本件で,原告又は原告子会社は,平成13年以降,大阪市内で「Cach?」

の名称の美容室を2店舗営んでおり,これらの店舗は,関西のヘアサロン

を紹介した雑誌等を中心に広告宣伝されていたことが認められるが,これ

らの雑誌では同時に多数の美容室が紹介されており,原告又は原告子会社

の店舗はそのうちの一つにすぎないことからすれば,本件商標が,関西圏

においても他の美容室と差別化を図るほどの強い顧客吸引力を有してい

たとまでは認められないし,原告が,被告が営業する岐阜県岐阜市で店舗

展開や営業活動をしていたとは認められず,美容室の商圏がそれほど広域

には及ばないことも考え合わせれば,本件商標は,被告の営業する地域に

おいては,一般需要者の間に知名度はなく,原告の営業としての顧客吸引

力を有しないものであったといえる。

また,被告は,その営業に被告標章2を使用していたものの,ことさら

同標章を強調して広告宣伝していたような事情も見当たらず,被告の顧客

は店舗周辺の住民が中心であったことからすれば,被告の売上げは被告自

身の営業活動等によるものというべきであって,被告標章2の使用がこれ

に特に寄与したということはできない。

なお,原告は,愛知県及び三重県にフランチャイズ事業の出店計画があ

った旨主張するが,原告がフランチャイズ計画を具体的に進めており,被

告店舗が出店の妨げになった事実までを認めるに足りる証拠は提出され

ていない。

ウ 以上認定した原告の営業の態様,被告の営業の態様,岐阜市と大阪市の

距離関係等を総合すると,被告が,本件商標登録後に上記認定の限度で被
告標章2を使用したことによって,原告には何らの損害も生じていないと

いうべきであって,本件において,商標法38条3項に基づく損害賠償請

求は認められない。

2 結語

したがって,原告の請求は,その余の争点について判断するまでもなく理

由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。



大阪地方裁判所第21民事部



裁判長裁判官 谷 有 恒




裁判官 松 川 充 康




裁判官 網 田 圭 亮