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事件 平成 24年 (行ケ) 10411号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/05/30
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成25年5月30日判決言渡

平成24年(行ケ)第10411号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成25年4月25日

判 決



原 告 X

訴 訟 代 理 人 弁 理 士 田 中 聡



被 告 東洋エンタープライズ株式会社



訴 訟 代 理 人 弁 理 士 野 原 利 雄



主 文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。



事 実 及 び 理 由

第1 原告の求めた判決

特許庁が取消2012−300230号事件について平成24年10月23日に

した審決を取り消す。



第2 事案の概要

本件は,商標法50条1項に基づく不使用取消請求(ただし,指定商品「被服」

についてのみ。)を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,@指定商品の使用

の有無及びA審決時における手続違法の有無である。

1 特許庁における手続の経緯




(1) 被告は,下記本件商標の商標権者である。

【本件商標】




・登録第4695627号

・平成14年7月5日出願登録

・平成15年8月1日設定登録

指定商品:第25類 被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベル

ト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴

(2) 原告は,平成24年3月22日,特許庁に対し,商標法50条に基づき,

本件商標の指定商品のうち「被服」について不使用による登録取消しを求めて,審

判請求をした(取消2012−300230号)。

(3) 特許庁は,平成24年10月23日,本件請求は成り立たないとの審決を

し,その謄本は同年11月1日原告に送達された。

2 審決の理由の要点

本件商標の通常使用権者である株式会社レイラニトレーディング(以下「レイラ

ニ社」という。)が平成24年2月6日に,本件商標と社会通念上同一の商標を使用

して革製ジャケット(以下「本件商品」という。)の広告をインターネットを介して

行ったものと認めることができ,これは「商品に関する広告情報に標章を付して電

磁的方法により提供する行為」(商標法2条3項8号)に該当する。

そうすると,被告は,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,通

常使用権者がその請求に係る指定商品中の「革製ジャケット」について,本件商標

を使用していたことを証明したものということができる。



第3 原告主張の審決取消事由

1 被告による指定商品の使用の事実の有無(取消事由1)




(1) 法人によるブログにおける広告・宣伝の可否

審決は,アメーバブログ上の記載(乙5)に基づき,レイラニ社の商品使用につ

いて認定した。しかし,アメーバブログでブログを開設するためには性別及び生年

月日を登録する必要があるが,これらの項目は法人ではなく個人を特定するための

ものであるから,ジャンキーブログの登録者が,レイラニ社のような法人であるは

ずがない。よって,レイラニ社が,ジャンキーブログにおいて使用商品の広告・宣

伝をしたとは認められない。しかも,アメーバブログでは,営利を目的とする行為

が認められていない。広告のように,商業上の目的で,商品やサービス,事業など

の情報を積極的に広く宣伝することはアメーバブログの利用規約に反する。よって,

ジャンキーブログにおける広告・宣伝を商標法50条にいう登録商標の使用に当た

るということはできない。

(2) レイラニ社が本件商標の通常使用権者ではないこと

ア 同族会社等の判定に対する明細書(乙8,14)は,レイラニ社がAの

100%出資する同族会社であることを示すものであるが,同社が被告と同族会社

関係にあることを示すものではなく,その他の証拠も,同社が被告と同族会社関係

にあることを示していない。また,同社はウエアハウスからも商品を仕入れており

(甲24),その取り扱う商品のほとんどが,本件商標を含め,被告が権利を保有す

る他の登録商標を付した商品であるとはいえない。よって,同社が,被告から本件

商標の通常使用権を許諾された者と推認することはできない。

イ 仮に,レイラニ社が同族会社であると認められたとしても,それだけで

は,同社が,被告から本件商標の通常使用権を許諾されたと推認することはできな

い。商標権者と使用権者との間では金銭的授受が行われるものであり,被告がレイ

ラニ社に無償で許諾した場合には利益相反が生じるからである。

(3) アメーバブログの日付の書換えの可能性について

ア 被告は,ジャンキーブログ(乙5)から平成24年2月6日に本件商標

が使用されたと主張し,審決もまた,ジャンキーブログの内容に何ら不自然な点は




ないから,同ブログは平成24年2月6日に投稿されたものと見ることができると

判断した。

ジャンキーブログ(乙5)の1,2頁には,
「こんにちは。Bです 雨ですね〜 予

報じゃ夜からだったのに朝からで嫌になっちゃいますね(以下省略) と記載されて


おり,同記載によると,ブログに記載した日は朝から雨が降っていたことになる。

確かに,インターネットで検索すると,
「Yahoo!天気・災害」及び「日本気象

協会 tenki.jp」のホームページ上,同日の天気は雨である(甲29,30)。しか

しながら,「日本気象協会 tenki.jp」における同日の詳しい気象データを示す別ペ

ージでは,朝から13時まで降水量は0となっている(甲31)。また,「goo天

気」では,朝は曇りとなっている(甲32)。

このように,ジャンキーブログ(乙5)の内容には不自然な点があるため,同ブ

ログは,平成24年2月6日に投稿されたものと見ることができない。

イ ジャンキーブログ(乙5)では画面が小さいため確認しづらいが,ブロ

グに掲載された写真上バイクの影が明らかに地面に存在する(甲26) 雨の日であ


っても確かに日が差す場合もあり得るが,上記「日本気象協会 tenki.jp」
(甲31)

によると,平成24年2月6日の日照時間は0である。また,バイクが写っている
写真の地面が濡れているようには見えない(甲26)。

このような点においても,ジャンキーブログ(乙5)の内容は不自然である。よ

って,同ブログは内容において不自然な点があるため,平成24年2月6日に投稿

されたものと見ることができない。

ウ 被告は,当該ブログ中に貼り付けられた写真画像のアップロード時期の


データ(乙20)は,被告側が勝手に操作して変更することはできない(乙25)。

したがって,ジャンキーブログ(乙5)に貼り付けられている写真画像は,少なく

とも,平成24年2月にアップロードされた画像であることは明白な事実であり,

当該ブログの投稿日,すなわち,本件商標の本件商品についての使用日が,要証明

期間内の平成24年2月6日であることを示すものである。」と主張する。




しかし,マイクロソフトのような巨大企業であっても完璧なプログラムを作成す

ることは難しく,その都度バージョンアップを繰り返しており,プログラムを使用

している以上,アメーバブログにおいてもブログのプログラムが完璧であるとはい

えない(甲33)。アメーバカスタマーサービスとの受信記録(乙24)は,画像フ

ォルダ内の画像の移動ができないという単なるアメーバブログの仕様を述べたもの

であり,画像フォルダ内の画像を移動することが技術的にできないことを証明した

ものではない。

ジャンキーブログには不自然なところがあるため,何らかの方法により,平成2

4年2月6日とは別の日に,写真およびブログをアップしたと解すべきである。

2 手続的違法性について(取消事由2)

(1) 被告は,審判手続の中で唯一提出した答弁書において,本件商標の使用形

態として,商標法2条3項1号及び2号のみを主張しただけであったにもかかわら

ず,審決では,被告が全く主張していない商標法2条1項8号の「商品に関する広

告情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」を通常使用権者の行為とし

て認めた。確かに,商標法に基づく審判については,商標法56条において特許法

152条153条が準用され,職権による審理の原則が取られ,特許法153条
1項によれば,審判においては当事者の申し立てない理由についても審理すること

ができる。しかし,かかる規定が設けられた趣旨は,商標登録の有効性が一般公衆

の利害に関係するものであって,本来取り消されるべき商標登録が当事者による主

張が不十分なために維持されるのでは第三者の利益を害することになるからであっ

て,商標権者である被告が主張しない理由について審理をし,商標登録を維持する

ことは,同条の趣旨を逸脱するものである。

(2) また,商標法56条で準用する特許法153条2項は,審判において当事

者が申し立てていない理由について審理をしたときは,審判長は,その審理の結果

を当事者に通知し,相当の期間を指定して,意見を申し立てる機会を与えなければ

ならないと規定している。これは,当事者の知らない間に不利な資料が集められて,




何ら弁明の機会を与えられないうちに心証が形成されるという不利益から当事者を

救済するための手続を定めたものである。たとえ当事者の申し立てない理由を基礎

付ける事実関係が当事者の申し立てた理由に関するものと主要な部分において共通

していたとしても,職権により審理された理由が当事者の関与した手続の中に表れ

ておらず,これに対する反論の機会が実質的に与えられていないと評価し得るとき,

意見を申し立てる機会を与えなければ,当事者に実質的な不利益が生じる。被告は,

審判手続において,ジャンキーブログを証拠として提出したが(乙5),商標の使用

形態が異なれば,その商標に対する不使用である旨の反論もその裏付けとなる証拠

も異なってくるのは明らかであり,原告には審判において反論の機会が実質的に与

えられておらず,このような審理は原告にとって不意打ちというべきであって,本

件審判手続には違法がある。



第4 被告の反論

1 本件商標の使用の事実の有無

(1) 商標権者である被告が本件商品を企画・製造して使用商標(乙2,5)を

付して出荷(卸売)したことは明らかであり(乙16ないし18,26),そして,
レイラニ社は,本件商品を被告より購入し,TOYO ENTERPRISE CO., LTD と表記

された品質表示ラベル(乙26)を付けたままの状態で,なおかつ,使用商標及び

本件商品に何ら変更を加えることなく販売等に供したものである。したがって,以

下の(2)ないし(4)に掲げた商標の使用行為は,商標法2条3項規定の,通常使用権

者であるレイラニ社の使用行為であるとともに商標権者である被告の使用行為と認

められるものである。

(2) 商品に標章を付する行為(1号)

商標権者である被告が本件商品「革製ジャケット」の襟口に本件商標と社会通念

上同一性のある「標章(使用商標)を付した」ことは明らかである。そして,商標

は転々流布する商品の流通過程で,商品の出所を表示し,品質を保証する等してそ




の機能を発揮するものであるから,商標に化体した商標使用者の信用を保護すると

いう商標法の目的からすると,「標章(商標)を付す」とは「標章(商標)を付し

た状態も含まれる」と解すべきである。

レイラニ社のジャンキーブログ(乙5)において,商標が表記された襟口が掲示

されていることは,本件商標と同一性ある標章を本件商品に付した状態を示すもの

であって,同社の当該行為を介して,商標権者である被告による商標法2条3項

号に規定する使用行為「標章を付する行為」があったものと認められる。

(3) 商品に標章を付したものを譲渡等のために展示する行為(2号)

レイラニ社は,そのインターネット上のショップサイト(乙25)において,譲

渡を目的として(乙32),同サイトと一体となっているジャンキーブログ(乙5)

で,本件商標と同一性ある標章を付した本件商品を出品(掲示)しているのである

から,当該行為は,通常使用権者であるレイラニ社による,また,同社の当該行為

を介しての商標権者である被告による,商標法2条3項2号に規定する使用行為「展

示する行為」があったものと認められる。

(4) 商品に関する広告情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為(8

号)
レイラニ社は,ジャンキーブログ(乙5)において,本件商標と同一性ある標章

を付した本件商品を掲示し,顧客に本件商品を認知させ理解を深めてもらおうと,

商品の特徴や商標の由来等の情報を写真情報とともにインターネットを介して提供

している。

レイラニ社による当該行為は,本件商品に関する広告又は本件商品を内容とする

情報を電磁的方法により提供する行為ということができるのであるから,通常使用

権者であるレイラニ社による,また,同社の当該行為を介しての商標権者である被

告による,商標法2条3項8号に規定する使用行為「商品に関する広告情報に標章

を付して電磁的方法により提供する行為」があったものと認められる。

(5) アメーバブログの登録者が個人であってもリンク元は当該個人の所属する




会社のショップサイトであるから,リンク元のショップで販売している商品の広

告・宣伝をしていることに何ら変わりはない。商品の宣伝・広告を目的としたショ

ップスタッフによるブログが利用規約に違反するとしても,それは利用者と管理者

の間の問題にすぎない。

(6) レイラニ社が本件商標の通常使用権者であること

@レイラニ社と被告とは本店所在地が同じであること,Aレイラニ社は,被告代

表者(A)が100%出資する会社で,被告とは同族会社関係にあること(乙8,

14),Bレイラニ社が取り扱う商品のほとんどは,本件商標を含め,被告が権利

を保有する他の登録商標を付した商品で(乙27「取り扱いブランド」欄,28),

被告が企画・製造し,卸売りした商品(乙16ないし19,23,26)をレイラ

ニ社が小売販売する(乙6,18,19,27)関係にあり,レイラニ社の店舗は,

いわゆる,被告商品のアンテナショップ的役割を果たしていること,Cこのような

関係が長年続いているにもかかわらず,被告はレイラニ社が本件商標を使用するこ

とについて何ら異議を申し出ていないことといった事情から,被告がレイラニ社に

対し黙示的な商標使用の許諾をしたものと考えるのが極自然であって,これを否定

するいかなる事情もない。
よって,レイラニ社を通常使用権者と推認することができるとした審決の判断に

何らの誤りはない。

(7) アメーバブログの日付の書換えの可能性について

本件商標を付した商品「革製ジャケット」は,被告によって平成15年6月に企

画・製造され(乙16,17),同年8月より出荷販売を開始したものである(乙

18)。そして,要証明期間(審判請求の登録前3年以内)の平成24年2月6日

においても本件商標の本件商品についての使用は継続されている(乙5)。

ジャンキーブログ(乙5)の投稿日は変更することができるとしても,当該ブロ

グ中に貼り付けられた写真画像のアップロード時期のデータ(乙20)は,被告側

が勝手に操作して変更できない(乙25)。管理者(株式会社サーバーエージェン




ト)側サーバのアメーバ画像フォルダ内に保存されている画像データ(乙20)を

見ると,ジャンキーブログ(乙5)に貼り付けられている写真画像は,平成24年

2月にアップロードされた画像であることが示されている(年月は表示されるが日

時は表示されない)。したがって,ジャンキーブログ(乙5)に貼り付けられている

写真画像は,少なくとも,平成24年2月にアップロードされた画像であることは

明白な事実であり,当該ブログの投稿日,すなわち,本件商標の本件商品について

の使用日が,要証明期間内の平成24年2月6日であることを示すものである。な

お,この写真に写っているショップスタッフがレイラニ社に入社したのが平成23

年7月11日以降であることの事実(乙22)を考え合わせると,この写真の撮影

日は,平成23年7月11日ないし平成24年2月28日の間のいずれかの日であ

ることは明らかである。

2 手続的違法性について

商標法50条の取消審判制度において,審理は特許庁の審判合議体による職権審

理を基調とする。したがって,当事者が提出した証拠について積極的に解釈を行い,

それに基づいて当事者の主張を補完しつつ事実を認定することは許されるものであ

る。審決で使用の形態を「商品に関する広告情報に標章を付して電磁的方法により

提供する行為」と認定判断したのは,根拠法条や主要事実の変更ではなく,それま

で審判手続の中で当事者双方の争点となっていた「本件商標が使用されていたかど

うか」を判断する中において,その理由付けの一つとして使用の形態を特定したに

すぎないのであるから,商標法56条が準用する特許法153条2項にいう「当事

者が主張していない理由」について審理判断したものということできない。



第5 当裁判所の判断

1 商標使用の基礎事実

この関係での事実を次のとおり認定することができる。

(1) 被告の所持する革製ジャケットの襟口には下記の標章(以下「本件標章」




という。)が付されている上に(乙1,2),取り付けられた2枚の下げ札のうち1

枚にはほぼ同様の標章が付されている(乙3)。時期は特定できないが,商標権者で

ある被告は,上記革製ジャケットを企画・製造して本件標章(乙2,5)を付して

出荷(卸売)し(乙16ないし18,26),レイラニ社が,本件商品を被告より

購入し,TOYO ENTERPRISE CO., LTD と表記された品質表示ラベル(乙26)を

付けたままの状態で,なおかつ,使用商標及び本件商品に何ら変更を加えることな

く販売等に供した。上記革製ジャケットとデザインや色が若干異なるが,同種同型

で襟口と下げ札に上記と同一標章が付された革製ジャケットのタグには TOYO EN

TERPRISE CO., LTD と表記された品質表示ラベル(乙26,34)が付されてい

ることからすると,いずれの革製ジャケットについても被告が製造者,販売者であ

ることが推認される。

【本件標章】




(2) 平成24年5月23日に「Yahoo!」で検索した結果,ジャンキーブ

ログが一覧に挙がってきた(乙4) ジャンキーブログはアメーバ会員のブログであ


るが,そのページには,
「2012−02−06 12:44:57」の日時及び「今

だからこそ,このライダースを提案します!」の見出しが付され,さらに「今回は

ライダースジャケットを紹介!」の見出しの下,【ALLSTATE】Two−T


one Leather Jacket」と記載され,その説明として「『ALLS

TATE』を実名復刻 『BUCO』のJ−82にそっくりなこのジャケット」な

どとして,6葉の写真で当該革製ジャケットの特徴を紹介し,さらに「タグもこの

通り完璧に再現」として,襟口部の拡大写真には本件標章が写されている(乙5)。

これらの写真の商品は,そのデザイン等から上記(1)と同型の革製ジャケットと認め




られる(なお,サイズは異なる。。同ブログには「¥108,000」の記載のほ


か,
「本日も22時まで営業しております。 とし,
」 問い合わせ先として,電話番号,

メールアドレス,URLが記載されている(乙5)。

(3) ジャンキーブログのショップスタッフのブログは,レイラニ社の運営して

いる「JUNKY SPECIAL」のホームページにリンクされ,同ウェブサイ

トでは,上記革製ジャケットがインターネット上で販売されている(乙5,25,

27,32)。

(4) 「ALL STATE」の在庫の状況

平成23年7月10日において,レイラニ社の卸売り在庫の「ALL STAT

E」の革製ジャケットは,S,M,Lサイズ各1着の3着あった(乙21)。同革製

ジャケットのデザイン等は不明であり,本件商標が襟口に付されていたか,下げ札

が付いていたか等の事情は不明である。

2 本件商標の使用の有無

(1) 使用標章は上記1(1)【本件標章】のとおりであるところ,本件商標におけ

る文字に「ALL」と「STATE」の間に空白がないが,その文字は文字枠およ

びアメリカ合衆国の地図をあしらった図形部分を凌駕して独立の標章と認識し得る
ものであり,社会通念上本件商標と同一の商標と認められる。また,使用商品は「革

製ジャケット」であり,本件商標の指定商品である「被服」の範ちゅうの商品と認

められる。

(2) 商標使用は,商標権者が登録商標管理として入念に配慮しなければならず,

その関係の内部資料を保管しているべきであって,たやすく立証可能な事実である

のに,被告はネットの掲載などの断片的な証拠を提出するのに甘んじている。しか

し,上記1認定の各事実を総合すると,レイラニ社は「2012−02−06」す

なわち平成24年2月6日に「ALL STATE」の文字を含む本件標章を取り

入れた革製ジャケットについてネット上で広告・宣伝したことはかろうじて認める

ことができる。同社のこの行為自体は,商標法2条3項8号に規定する「商品に関




する広告・・・を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」

に該当するというべきである。なお,アメーバブログの登録者である会員が個人で

あってもリンク元は当該個人の所属する会社のショップサイトであるから,リンク

元のショップで販売している商品の広告 宣伝をしていることに何ら変わりはない。


商品の宣伝・広告を目的としたショップスタッフによるブログが利用規約に違反す

るとしても,それは利用者と管理者の間の問題にすぎないから上記認定を左右しな

い。

(3) なお,上記1(4)の認定事実によれば,在庫商品の「ALL STATE」

の革製ジャケットに本件商標が付されていたのか不明であり,商標法2条3項1号

に該当する使用の事実があったか必ずしも明らかではないといわざるを得ない。

ただし,上記1(1)の認定事実によれば,レイラニ社の在庫商品として刻印,下げ

札等により商品に本件商標を付していたことがうかがわれ,かかる行為自体は,商

標法2条3項1号に該当するといってよい。もっとも,その時期は特定されておら

ず,本件審判請求の登録前3年以内であるか否かは必ずしも明らかではないといわ

ざるを得ない。

また,レイラニ社の本件商標の付いた在庫商品の数は平成23年7月10日分し
か判明しておらず,その前後の変動は不明であり,在庫商品が実際に販売に供され

て譲渡されていたかもまた不明といわざるを得ず,商標法2条3項2号に該当する

行為があったとは認められない。

以上のとおり,本件商標使用の事実立証は極めて雑ぱくなものといわざるを得な

いが,当裁判所は,上記(2)におけるただ1回の広告・宣伝の事実だけはかろうじて

認定が可能と評価したものである。

通常使用権者について

(1) レイラニ社と被告との関係につき次のとおり認められる。

ア レイラニ社と被告である商標権者とは本店所在地が「

」と同じである(乙10,弁論の全趣旨)。




イ レイラニ社は,被告の代表取締役であるAが100%出資する会社で,

被告とは同族会社関係にある(甲24,乙8,10,14)。

ウ レイラニ社が取り扱う商品の多くは,被告登録商標を付した被告商品で,

被告が企画・製造し,卸売りした商品をレイラニ社が小売販売する関係にあり,現

在,レイラニ社の店舗は,いわゆる,被告商品のアンテナショップ的役割を果たし

ている(甲43,乙6,9,16ないし19,23,25ないし28,32ないし

34)。

エ このような関係が長年続いているにもかかわらず,被告はレイラニ社が

本件商標を使用することについて何ら異議を申し出ていない(弁論の全趣旨)。

(2) 被告とレイラニ社との関係は,被告自身よく了知している事実関係である

から,被告自らその契約書等を書証として提出して通常使用権設定を立証すべきで

あるが,当裁判所は,上記認定事実により,かろうじて,商標権者である被告とレ

イラニ社は極めて親密な関係にあると認め,両社の間には本件商標の使用につき黙

示の許諾があったと評価したものである。かかる判断は,レイラニ社がウエアハウ

スからも商品を仕入れていたとしても(甲24)左右しない。

この点,原告は,通常使用権には財産的価値があり,許諾において商標権者と使
用権者との間で金銭的授受が行われ,被告がレイラニ社に通常使用権を無償で許諾

した場合に利益相反が生じることを前提に,同社が本件商標の通常使用権を許諾さ

れている者と推認できないと述べる。しかしながら,被告にとってみれば,広告や

販売網を拡大するという意味で,レイラニ社に本件商標を使用させることが当然に

利益相反に当たるとは必ずしもいえない。加えて,利益相反の有無と通常使用権

付与の有無は論理必然の関係になく,主張は理由がない。

(3) アメーバブログの日付の書換えの可能性

原告の主張するとおり,ブログの投稿日時の変更は可能であるが(甲2),当該ブ

ログ中に貼り付けられた写真画像は,投稿前に管理者側のブログ管理サーバにアッ

プデートしたものしか使用することはできず,当該ブログに張ってある写真画像の




アップロードデータ日時のデータは,管理者側のサーバに保存されているデータで

あるから,利用者である被告が勝手に操作して別の日に変更することはできない性

質のものである(乙24)。とはいえ,管理者側のサーバのアメーバ画像フォルダ内

に保存された画像データを見ると,ジャンキーブログに貼り付けられた写真画像は

平成24年2月にアップロードされたものであることが示されている(乙20) し


たがって,平成24年2月のいずれかの日にアップロードされたものであるといえ

る。これは,同写真に掲載されたショップスタッフが平成23年7月11日以降に

レイラニ社に入社した事実(乙22)とも整合する。

この点,原告は,当該写真が平成24年2月6日に撮影されたものであることを

前提として,当日の気象状況が雨であるというジャンキーブログの内容とは異なる

日本気象協会の降水量ゼロの気象データ(甲31)「goo天気」の曇りという気


象データ(甲32)をもとに同ブログの内容の不自然性を指摘するが,降水量ゼロ

という表記自体が,0.1ミリ以下の降雨しか観測できない場合を含んでいる蓋然

性が高いと考えられる上に,東京のある観測地点のデータをもってレイラニ社の所

在する一地点の降雨がなかったことまで意味しないというべきであって,二重の意

味でブログが不自然であるとはいえない。また,ジャンキーブログの記載内容(「春
が待ち遠しい 何故なら(私の)バイクが戻ってきたのです (その下にバイクの

写真)。乙5)からすると,当日にバイクが戻ってきて写真を撮影した上でブログ


に掲載したとは必ずしも認められないから,掲載された写真に影が写っていること

(甲26,乙5)と平成24年2月6日の日照時間がゼロである(甲31)とも矛

盾するとはいえない。原告は,抽象的に完璧なプログラムの困難性を指摘して画像

フォルダの書換えの抽象的可能性を指摘するが,具体性に欠く。

結局,原告の主張は,写真の撮影日を平成24年2月6日とブログ書き込み日と

同一であることを当然の前提とした上で天候との矛盾を指摘するものにすぎず,画

像フォルダの日付が具体的に書き換えられた事実を認めるに足りる証拠はないし,

少なくとも平成24年2月中,すなわち本件審判請求前3年前以内にジャンキーブ




ログに同画像が掲載されたという事実は動かすことができない。

4 取消事由1について

以上1ないし3での認定判断によれば,本件商標につき平成24年2月6日にお

ける商標法2条3項8号の使用のあったことを認めた審決に誤りはなく,取消事由

1は理由がない。

5 手続的違法性の有無(取消事由2)

原告は,被告が審判時においては,本件商標の使用形態として商標法2条3項

号,2号のみを主張したにもかかわらず,審決では同法2条3項8号の行為を認め

たことにつき,商標法56条の準用する特許法153条1項,2項の趣旨を逸脱す

るものであると主張する。

しかしながら,特許法153条1項は,いわゆる職権探知主義を採用しており,

弁論主義を採用していないことを明らかにしているのであって,被告が主張してい

ない使用形態を認めたことが直ちに同条項の趣旨の逸脱になる余地はない。もっと

も,特許法153条2項は,当事者に意見を述べる機会を与えることから不意打ち

を防止する趣旨で設けられた規定であることは原告主張のとおりである。とはいえ,

上記第2の1記載の本件審判手続の経過にかんがみれば,被告は,審判時において,
商標法2条3項8号の使用を明確に主張しなかったものの,ジャンキーブログ(乙

5)を証拠として提出したものであり,商標法2条3項8号に該当する蓋然性のあ

る基礎的事実については証拠関係,事実関係が既に審判に表れていたものと認めら

れるから,原告にとって不意打ちを与えるものであったとはいえず,特許法153

条2項の趣旨に違反するともいえない。

以上の次第であって,審判手続に原告主張の違法はなく,取消事由2も理由がな

い。



第6 結論

以上より,原告の請求は理由がない。




よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第2部




裁判長裁判官

塩 月 秀 平




裁判官

池 下 朗




裁判官
新 谷 貴 昭