• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 24年 (ワ) 12967号 商標権移転登録手続等請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所 
判決言渡日 2013/09/12
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成25年9月12日判決言渡 同日判決原本交付 裁判所書記官

平成24年(ワ)第12967号 商標権移転登録手続等請求事件

口頭弁論終結日 平成25年7月9日

判 決



原 告 株式会社デジタルデザイン



同訴訟代理人弁護士 藤 井 勲

同 西 野 航



被 告 株式会社オーリッド




被 告 P1

上記2名訴訟代理人弁護士 河 野 善 一 郎

同 楠 本 敏 行

同 津 島 成 治

同 森 正 憲

主 文

1 被告株式会社オーリッドは,原告に対し,次の各金員を支払え。

(1)3013万7705円及びうち3000万円に対する平成24年10

月1日から支払済まで年14.7%の割合による金員

(2)294万円及びこれに対する平成24年9月1日から支払済みまで年5

%の割合による金員

(3)294万円及びこれに対する平成24年9月29日から支払済みまで年

5%の割合による金員
(4)525万円及びこれに対する平成24年11月1日から支払済みまで年

5%の割合による金員

(5)4500万円及びこれに対する平成24年10月1日から支払済みまで

年6%の割合による金員

(6)6000万円及びこれに対する平成24年11月1日から支払済みまで

年6%の割合による金員

(7)630万円及びこれに対する平成24年9月1日から支払済みまで年6

%の割合による金員

(8)420万円及びこれに対する平成24年9月1日から支払済みまで年6

%の割合による金員

(9)556万5000円及びこれに対する平成24年10月1日から支払済

みまで年6%の割合による金員

2 被告株式会社オーリッドは,原告に対し,別紙商標権目録記載の各商標権

について,移転登録手続をせよ。

3 被告 P1 は,原告に対し,別紙株券目録記載の株券を引き渡せ。

4 訴訟費用は被告らの負担とする。

5 この判決は,第1項及び第3項に限り,仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第1 当事者の求めた裁判

1 原告

主文同旨

2 被告

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2 事案の概要

1 前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)
(1)当事者

原告は,ソフトウェアライセンスの販売,製品サポート,ソフトウェアの委託

開発販売及び支援サービス等を目的とする株式会社である。

被告株式会社オーリッド(以下「被告会社」という。)は,インターネットを

利用した各種情報提供サービス,ソフトウェアの開発,販売,リース等を目的と

する株式会社であり,その株式については,株券が発行されている(甲1)。

被告 P1 は,被告会社の代表取締役である。

(2)原告と被告会社間の取引の経緯(乙1,21)

被告会社は,手書き文字や印刷文字をテキストデータ化するに当たり,OCR

の読み取り精度不足を,クラウドを介した人的資源を活用することにより補う事

業を展開していたが,様々な経営環境の変化に伴い,一部事業譲渡を行うなどし

て,主に個人向け事業に力を注ぐこととなった。

被告会社は,かつての社外取締役であったP2 の紹介を受けて,原告との間

で交渉し,平成24年4月ころには,原告が,被告会社の事業に関連する製品の

販売協力,ソフトウェア開発の支援を中心とした協業を行う旨合意するに至った。

(3)業務委託

ア 本件取引基本契約

原告と被告会社は,平成23年9月20日,被告会社の有するソフトウェアに

関する技術開発,それから生じる成果物の提供を原告が行うこと及び原告・被告

会社間のその他の継続的取引に関する取引基本契約(以下「本件取引基本契約」

という。)を締結した。

イ 業務委託個別契約(平成24年7月分)

原告は,被告会社から,平成24年7月1日,本件取引基本契約に基づき,要

旨次の内容の業務を受託した(以下「本件業務委託個別契約1」という。)。

業務委託目的 版 開発

版 開発
業務内容 @ 版 開発:1.5〜2人月

A 版 開発:1.5〜2人月

B その他,付随する業務全般

業務委託期間 平成24年7月1日から同月31日

業務委託料 280万円(消費税別)

遅延損害金 年5%

支払期限 平成24年8月31日

ウ 業務委託個別契約(平成24年8月分)

原告は,被告会社から,平成24年8月1日,本件取引基本契約に基づき,要

旨次の内容の業務を受託した(以下「本件業務委託個別契約2」という。)。

業務委託目的 版 開発

版 開発

業務内容 @ 版 開発:1.5〜2人月

A 版 開発:1.5〜2人月

B その他,付随する業務全般

業務委託期間 平成24年8月1日から同月31日

業務委託料 280万円(消費税別)

遅延損害金 年5%

支払期限 平成24年9月28日

エ 業務委託個別契約(平成24年9月分)

原告は,被告会社から,平成24年9月1日,本件取引基本契約に基づき,要

旨次の内容の業務を受託した(以下「本件業務委託個別契約3」という。)。

業務委託目的 版 開発

版 開発

業務内容 @ 版 開発:1.5〜2人月

A 版 開発:1.5〜2人月
B 版 開発:2〜3人月

C その他,付随する業務全般

業務委託期間 平成24年9月1日から同月30日

業務委託料 500万円(消費税別)

遅延損害金 年5%

支払期限 平成24年10月31日

(4)覚書(平成24年6月27日)に基づく返金及び受注

ア 売買取引基本契約

原告と被告会社は,平成24年6月27日,被告会社が提供するデジタルデー

タ化サービス( )へ原告が画像ファイルを送信するための機器に関

する売買取引基本契約(原告:買主,被告会社:売主。以下「本件売買取引基本

契約」という。)を締結した。

イ 覚書(平成24年6月27日)

原告と被告会社は,平成24年6月27日,本件売買取引基本契約に関し,要

旨次のとおり合意した(以下「本件覚書1」という。)。

@ 原告は,本件売買取引基本契約が対象とする上記機器の納品後2か

月経過後は,被告会社に対し,同機器を原告が被告会社から購入した金額での買

戻し(返品)を請求することができる。

A 被告会社は,@の買戻しの代金を,買戻しの請求のあった翌月末日

に,原告の指定する口座に送金する。

B 上記買戻しに当たって,被告会社は,原告から,1個2800円

(消費税込)の原告の商品を,買い戻す上記機器と同数購入する。

ウ 商品の発注・納入・返品

(ア)原告は,本件売買取引基本契約及び本件覚書1に基づき,被告会社

に次の各商品を発注し,被告会社から納品を受けた。

@ 平成24年6月28日検収分
商品 ( ! 2年モデル) 1500台

代金 4500万円

A 平成24年7月31日検収分

商品 ( ! 2年モデル) 2000台

代金 6000万円

(イ)代金支払

原告は,被告会社に対し,平成24年6月28日に7500万円(平成24年

6月28日検収分の代金4500万円及び同年7月31日検収分の代金6000

万円のうち3000万円の合計)を支払った。

平成24年7月31日検収分の代金6000万円のうち残りの3000万円は,

同月20日,被告会社から株式会社大分銀行に債権譲渡された。原告は,同年1

1月22日,同銀行に対し,同代金3000万円を支払った。

(ウ)第1回返品

原告は,被告会社に対し,平成24年8月31日,本件覚書1に基づき,

( ! 2年モデル)1500台(代金4500万円分)

を返品した。

(エ)第2回返品

原告は,被告会社に対し,平成24年9月30日,本件覚書1に基づき,

( ! 2年モデル)2000台(代金6000万円

分)を返品した。

エ 原告製品の受注・納品

(ア)原告は,被告会社から,平成24年8月31日,本件覚書1に基づ

き,要旨次のとおり,商品を受注し,納品した。

目的物 " # 1ライセンス

代金 420万円

支払期日 平成24年9月30日(月末締め翌月末払い)
(イ)原告は,被告会社から,平成24年9月28日,本件覚書1に基づ

き,要旨次のとおり,商品を受注し,納品した。

目的物 " # %ライセンス

代金 556万5000円

支払期日 平成24年10月31日(月末締め翌月末払い)

(5)停止条件付代物弁済契約

ア 原告と被告P1は,平成24年6月27日,要旨次の内容の停止条件

付代物弁済契約(以下「本件代物弁済契約」という。)を締結した。

@ 契約の目的

被告P1が,被告会社の債務不履行を条件として代物弁済を行うことを目的と

する。

A 停止条件付代物弁済

被告P1は,原告に対し,被告会社において本契約等(本件売買取引基本契約

に基づく個別契約,本件覚書1及び後記(6)の金銭消費貸借契約)の債務につき

不履行があったときは,通知催告なくして,被告会社の原告に対する債務の代物

弁済として,被告P1が有する被告会社株式7333株を原告に譲渡する。

(6)本件金銭消費貸借契約

原告は,被告会社に対し,平成24年6月28日,要旨次の約定で3000万

円を貸し付けた(以下「本件金銭消費貸借契約」という。)。

@ 貸付金額3000万円

A 弁済期元本については,平成24年9月末日限りで一括して支払

うものとする。

B 利息は,本貸付日より発生するものとし,年365日の日割計算

とし,元金に対する年6%の利率により算出される利息相当額につき,毎月末日

までに当該月分の利息を指定する金融機関口座に送金して返済する。

C 遅延損害金年14.7%(年365日の日割計算)




$
(7)覚書(平成24年7月20日)に基づく譲渡担保及び商品の受注

ア 覚書(平成24年7月20日)

原告と被告会社は,平成24年7月20日,前記(4)ウ(イ)の債権譲渡を原告

が承諾する条件として,以下の記載がある覚書(以下「本件覚書2」という。)

を締結した(以下,本件覚書2の4項に基づく契約を「本件譲渡担保契約」とい

うが,その成立については争いがある。)。

「1.乙(被告会社)は,平成24年8月2日付で,甲(原告)に対して支払期

日を平成24年9月28日とする原告製品「コーポレートキャスト」ライセンス

及び保守サポート費用で構成される合計600万円相当(消費税抜き)の正式発

注書を発行するものとします。」

「4.乙(被告会社)は平成24年8月2日付で,乙(被告会社)が保有する特

許権並びに商標権等の知的財産権の一切を甲に譲渡担保として差し入れるものと

します。

ただし,当該譲渡担保については,平成24年6月28日付で甲乙間において

締結された金銭消費貸借契約書(本件金銭消費貸借契約)に基づく乙の債務履行

が完了した時点で解放するものとし,乙が債務不履行となった場合,甲は当該譲

渡担保権を実行するものとします。」

イ 被告会社の保有する知的財産権(平成24年8月2日時点)

被告会社は,平成24年8月2日当時,別紙商標権目録記載の各商標権(ただ

し,同目録11から13までの商標については,当時出願後登録前であり,商標

登録出願人の地位にあった。以下これらを併せて「本件各商標権」という。)を

保有していた。

ウ 原告製品の受注・納品

原告は,被告会社から,平成24年8月31日,本件覚書2に基づき,要旨次

のとおり,商品を受注し,納品した。

目的物 " # 5ライセンス




&
代金 630万円(消費税込)

支払期日 平成24年9月30日(月末締め翌月末払い)

(8)原告の被告会社に対する債権額(平成24年10月16日時点)

ア 債権額

前記経過により,原告の被告会社に対する債権額は,平成24年10月16日

時点で,次のとおり,1億6355万1459円であった。

@ 平成24年7月分業務委託料(消費税込) 294万円

A 平成24年8月分業務委託料(消費税込) 294万円

B 平成24年9月分業務委託料(消費税込) 525万円

C ! (平成24年8月31日返品分)

4500万円

D ! (同年9月30日返品分)

6000万円

E " # 1ライセンス 420万円

F " # %ライセンス 556万5000円

G " # 5ライセンス 630万円

H 貸付金 3000万円

I 貸付金利息 13万7705円

J 遅延損害金5%(項目@ABに係る) 3万6951円

K 遅延損害金6%(項目CDEFGに係る) 80万8278円

L 遅延損害金14.7%(項目Hに係る) 37万3525円

イ 債務承認等

被告会社は,原告に対し,平成24年10月17日,前項の債務を承認し,同

年11月30日までに支払うことを約した。

また,原告は,被告P1に対し,同年10月19日,前記アの債務を原告と被

告会社との間で相互に確認したものとして通知した。




'
被告会社は,上記期限までに原告に対する同債務を履行しなかった。

(9)相殺の意思表示

被告会社は,平成24年12月21日,原告に対し,後記第3の2【被告らの

主張欄】記載の原告の不法行為により,被告会社が原告に対して有する5億円の

損害賠償請求権を自働債権として,原告の本訴請求債権と対当額で相殺するとの

意思表示をした(乙20の1・2)。

2 原告の請求

原告は,被告会社に対し,以下の各金員を請求すると共に,本件覚書2(譲渡

担保契約)に基づき,本件各商標権の移転登録を請求し,また,被告P1に対し,

本件代物弁済契約に基づき,別紙株券目録記載の株券の引渡しを請求している。

(1)本件金銭消費貸借契約に基づく貸金等返還請求権

元本 3000万円

利息 13万7705円

遅延損害金 3000万円に対する平成24年10月1日から支払済

まで年14.7%の割合

(2)業務委託料の支払請求権

ア 平成24年7月分業務委託料

294万円及びこれに対する平成24年9月1日から支払済みまで年5%の割

合による遅延損害金

イ 平成24年8月分業務委託料

294万円及びこれに対する平成24年9月29日から支払済みまで年5%の

割合による遅延損害金

ウ 平成24年9月分業務委託料

525万円及びこれに対する平成24年11月1日から支払済みまで年5%の

割合による遅延損害金

(3)本件覚書1に基づく買戻代金返還請求権




(
ア 平成24年8月31日第1回返品分

4500万円及びこれに対する翌月末日の翌日である平成24年10月1日か

ら支払済みまで年6%の割合による遅延損害金

イ 平成24年9月30日第2回返品分

6000万円及びこれに対する翌月末日の翌日である平成24年11月1日か

ら支払済みまで年6%の割合による遅延損害金

(4)売買代金支払請求権

ア " # 5ライセンス

630万円及びこれに対する平成24年9月1日から支払済みまで年6%の割

合による遅延損害金

イ " # 1ライセンス

420万円及びこれに対する平成24年9月1日から支払済みまで年6%の割

合による遅延損害金

ウ " # %ライセンス

556万5000円及びこれに対する平成24年10月1日から支払済みまで

年6%の割合による遅延損害金

3 争点

(1)本件譲渡担保契約の成否 (争点1)

(2)原告の被告会社に対する不法行為の成否及び損害額 (争点2)

第3 争点に関する当事者の主張

1 争点1(本件譲渡担保契約の成否)について

【被告会社の主張】

本件覚書2では,原告と被告会社間において,譲渡担保設定の予約がされた旨

の文言が記載されているにとどまる上,被担保債権も特定されていないのである

から,本件覚書2をもって譲渡担保権の設定契約が成立しているとはいえない。

【原告の主張】
被告会社の有する本件各商標権は,本件覚書2の締結によって,原告のため譲

渡担保に供されたのであり,本件譲渡担保契約は,予約にとどまるものではない。

その被担保債権は,平成24年7月20日時点で原告が被告会社に対して有し

ていた債権の全て(同日以降の利息及び遅延損害金を含む。)と解される。仮に

そう解されないとしても,前記第2の「2 原告の請求」で挙げられている本訴

請求債権のうち,本件覚書2の各項と関連がある(1),(2)ウ,(3)及び(4)の

債権は担保されているし,少なくとも(1)が被担保債権であることは文言上明ら

かである。

2 争点2(原告の被告会社に対する不法行為の成否及び損害額)について

【被告らの主張】

被告会社は,平成24年8月に資金不足に陥り,原告を含めた債権者への支払

を遅延する事態に陥ったが,事業再建計画として,プラネックスホールディング

株式会社(以下「プラネックス社」という。)との間で,被告会社の事業を譲渡

する交渉を進め,同年10月18日には,対価を10億円として,同年11月2

0日ころまでに事業譲渡契約を締結し,対価のうち5億円を契約締結時に受領す

る旨の口頭合意にまで至っていた。そして,被告会社は,同月16日,原告に対

し,プラネックス社の社名こそ伏せたものの,事業譲渡や株式売却による債務整

理を検討していることを正直に話した上,これが実現すれば原告に対する債務も

履行できるので少し待ってほしい,交渉先に対して勝手な接触を控えてほしい旨

要請し,原告からもこれらの点で了承を得ていたのである。

ところが,原告は,同月22日,「ご連絡」と題する書面を一方的にプラネッ

クス社に交付した。その書面には,原告が被告会社との間で各種取引契約を締結

していることのほか,本件代物弁済契約や知的財産権に係る譲渡担保契約のこと,

被告会社が同年9月28日に債務不履行に至ったため,本件代物弁済契約及び譲

渡担保契約に係る権利等を既に原告が取得したこと,そして,原告は債権回収を

最優先に考えているので,代物弁済で取得した株式等の買取りの相談に応じるな
どと記載されていた。その結果,プラネックス社への事業譲渡交渉は頓挫し,被

告会社の事業再建が妨げられたものである。

このような原告の行為は,原告にとって取引上の利害関係のない第三者に対す

るもので,被告会社が交渉を進めていたプラネックス社との事業譲渡の成立を妨

害する意図で,このようなことをすれば,交渉が決裂して被告会社が損害を被る

ことを予見し,又は予見し得たにもかかわらず,あえて敢行されたものであり,

内容的にも被告会社の業況及び信用を棄損する事柄を,文書投げ込みという不穏

当な手段で行ったものであり,自己の権利を保全する手段としての限度を越えて

いるから,被告会社の信用及び契約交渉業務を不当に棄損及び妨害した不法行為

に該当するものであり,これにより原告は5億円の損害を被ったものである。

【原告の主張】

以下のとおり,不法行為に係る被告らの主張は失当である。

(1) 原告の行為の正当性

原告は,本件代物弁済契約及び本件覚書2に基づき,被告P1が有する被告会

社の株式及び被告会社が平成24年8月2日に保有していた知的財産権一切につ

いて,同年10月時点で正当な権利を有していた。ところが,被告らは,原告に

対する債務を履行せず,それら知的財産権や株式の引渡しにも応じないばかりか,

原告に無断でそれら財産を処分しようとしていたのである。原告からすれば,そ

れら財産の二重譲渡により,正当な権利行使を妨げられる危険性が極めて高い状

況にあった。

そのため,原告としては,プラネックス社に対し,被告らが行おうとしている

ことが二重譲渡に当たる旨認識してもらう必要から,その旨の通知をしたにとど

まる。また,原告のとった通知方法は,書面によるものであり,内容としても事

実及び原告の見解を伝えただけという穏当なものであった。原告の行為は正当な

権利行使であり,何ら違法なものではない。

(2) 因果関係の不存在
そもそも,被告会社とプラネックス社との事業譲渡交渉が破断したのは,被告

会社が原告に無断で,かつ,原告への担保提供の事実を隠してプラネックス社と

交渉したことをプラネックス社が問題視したためである。そして,このような事

実は,原告の通知がなくても,事業譲渡の手続の中でいずれは判明することで

あった。そのため,原告の行為と,被告会社及びプラネックス社間の事業譲渡交

渉破談との間には相当因果関係がない。

(3) 損害

原告に5億円の損害が生じたとの根拠は全くない。

第4 当裁判所の判断

1 事実経過

前提事実,証拠(甲1,8,甲12,13の各1・2,甲14,30,31,

乙1〜10,乙13の1・2,乙16〜19,21,証人P3 ,被告P1

本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1) 被告会社の資金不足と事業再建計画

被告会社は,平成13年9月28日に設立された会社であり,手書き文字や印

刷文字をテキストデータ化させる クラウドサービス「 」

(以下「 事業」という。)などの事業を行ってきたもので,平成23年

11月以降,原告とも業務委託,売買などの取引関係を持つこととなった(具体

的 な 契 約内 容 は前 提 事 実記 載 のと お り。) 。 本 件各 商 標権 に 係 る商 標 も ,

事業において使用されてきたものである。

しかし,被告会社は,平成24年4月ころ,新規商品である「

( )」の発売開始が遅れたことから,資金不足に陥り,原

告ほか数社からの借入れなどによって資金繰りをしなければならない事態となっ

た。原告と被告会社あるいはその代表取締役兼最大株主(平成23年12月31

日時点での持株比率は42.87%)である被告P1間の本件覚書1,本件代物

弁済契約,本件金銭消費貸借契約及び本件覚書2は,そのような状況下で締結さ
れたものであった。

の販売開始に伴い,いったん被告会社の資金繰りは好転したかに見え

たものの,結局平成24年8月には,金融機関及び取引先への支払が遅延するに

至った。被告会社は,原告との関係においても,同年9月13日,債務残高が9

151万7704円であることを承認し,同月28日までに支払うことを約した

が(甲8),この期限までに債務を履行することはできなかった。

そのような中,被告会社は, 事業そのものは他社へ譲渡し,自社は販

売代理店化するとの事業再建計画のもと,プラネックス社との交渉を進め,平成

24年10月10日には,プラネックス社に対し,対価20億円, 事業

関連資産の譲渡及び被告会社正社員の転籍などを内容とする事業譲渡契約を同年

11月中に締結するとの提案を行った(乙7,8)。その際,被告会社は,プラ

ネックス社から支払われる対価を原資に,原告を含め,金融機関以外の取引先に

対する債務合計約3億円(うち原告に対する債務は約1億6000万円)を全て

完済でき,被告会社の株式に係る本件代物弁済契約や本件各商標権を含めた知的

財産権に係る譲渡担保に係る本件覚書2も解消できると考えていたこともあり,

プラネックス社に対し,これら担保契約のことを知らせていなかった。

なお,当時被告会社の金融機関に対する債務は合計約30億円であったが,上

記事業譲渡後に私的整理を行う計画であった。被告らの所有する不動産には,こ

れら金融機関の債権を被担保債権として抵当権又は根抵当権が設定されていた。

(2) 原告からの履行催告等

原告の取締役らは,平成24年10月16日,被告会社を訪れ,遅滞に陥って

いる金銭債務の速やかな履行を求めると共に,それができないのであれば,本件

代物弁済契約に基づく被告会社の株券引渡し及び本件覚書2に基づく知的財産権

の移転を直ちにするよう求めた(甲30,証人P3)。被告会社の代表取締役で

ある被告P1は,被告会社の株券を引き渡すと現在進めている事業再建計画に支

障を来すので応じられない,被告会社が進めている相手先への接触は控えてほし
いなどと対応したが,両者間の話し合いが具体的な進展を見ることはなく,何ら

かの合意がされることもなかった。また,被告P1は,原告に対し,被告会社の

事業や株式の譲渡を検討している旨の説明こそしたものの,その具体的内容や交

渉先を開示することはなかった。

原告は,被告P1の言動から,被告会社が事業譲渡又は被告P1の有する被告

会社株式の譲渡を行おうとしていると受け止め,そうすると本件代物弁済契約及

び本件覚書2に基づく原告の優先的地位が害され,損害を被るおそれがあると判

断した。そこで,原告は,平成24年10月22日,被告会社の交渉相手として

想定されるプラネックス社に対し,「ご連絡」と題する書面(乙13の2)を送

付した。同書面において,被告会社株式に係る本件代物弁済契約,知的財産権の

譲渡担保に係る覚書(本件覚書2)及び倒産手続開始時における事業譲渡として

被告会社を交渉先の第1順位として優先させる旨の覚書(本件覚書1)の存在と,

被告会社が同年9月28日を期限とする7920万円の債務を履行しなかったた

め,上記代物弁済契約及び覚書に基づく権利移転事由が生じていること,同年1

0月16日時点で本件代物弁済契約の対象債権額が1億4476万5000円

(債権総額は元金1億6233万2704円)であることを通知した。それと共

に,原告としては被告会社からの債権回収を最優先で考えているので,これが実

現するのであれば,上記株式や知的財産権の処理について相談に応じる用意があ

る旨の意向も示した(以下「本件通知」という。)。

プラネックス社は,平成24年10月18日時点で,被告会社に対し,同年1

1月20日ころまでに対価10億円で事業譲渡契約を締結した上,同契約締結時

に5億円を支払い,残り5億円を1年間の分割払とする旨の意向を示していたが

(被告P1本人),原告からの本件通知を受け,被告会社から本件代物弁済契約

や本件覚書2のことを知らされていなかった点に不信感を抱いたこともあり,同

年10月24日,事業譲渡に関する上記意向を撤回した(乙18)。被告会社は,

同月17日には,原告に対し,同月16日時点での債務が総額1億6355万1
459円であることを承認し,同年11月末までの支払を約したが(甲10の

1),上記事業譲渡計画が頓挫し,見込んでいた対価を受領することができなく

なったため,この期限までにも原告に対する金銭債務を履行することはできな

かった。

2 争点1(譲渡担保契約の成否)について

被告会社は,本件譲渡担保契約が予約にとどまるものであり,被担保債権も特

定されていないと主張する。

しかし,前提事実(7)のとおり,原告と被告会社とが平成24年7月20日に

締結した本件覚書2には,「乙(被告会社)は平成24年8月2日付で,乙が保

有する特許権並びに商標権等の知的財産権の一切を甲(原告)に譲渡担保として

差し入れるものとします。ただし,当該譲渡担保については,平成24年6月2

8日付で甲乙間に締結された金銭消費貸借契約書に基づく乙の債務履行が完了し

た時点で解放するものとし,乙が債務不履行となった場合,甲は当該譲渡担保権

を実行するものとします。」との条項が含まれていた。かかる合意内容及び前記

認定の事実経過に照らせば,原告と被告会社間では,本件覚書2により,本件消

費貸借契約に基づく貸金返還,利息及び遅延損害金の各債権を被担保債権とし,

平成24年8月2日をもって,本件各商標権を含め,被告会社が有する知的財産

権の一切について原告のため譲渡担保権を設定する旨の本件譲渡担保契約が成立

したものと解される。

そして,被告会社が,本件消費貸借契約に基づく上記各債務を履行していない

ことは争いがない。

したがって,被告会社は,原告に対し,本件譲渡担保契約に基づき,本件各商

標権の移転登録手続をすべき義務を負っている。

3 争点2(原告の被告会社に対する不法行為の成否及び損害額)について

(1) 被告会社は,原告による本件通知は,正当な権利行使の範囲を逸脱し

た違法な行為で,被告会社の業務を妨害し,その信用を毀損したものとして不法




$
行為が成立する旨主張する。

しかし,前記1で認定した事実経過のとおり,原告は,平成24年10月16

日の時点で,資金繰りに窮する被告会社に対して約1億6000万円の金銭債権

を有していたのみならず,被告P1との間で被告会社株式に係る本件代物弁済契

約を締結し,被告会社との間で本件各商標権も含めた知的財産権一切に係る譲渡

担保権を有する地位にあった。しかも,被告会社は,同年9月13日に当時の未

払債務を承認し,同月28日までに支払うことを約しながらこの期限までに履行

をすることができず,さらに原告の取締役らが同年10月16日に被告会社を訪

れ,速やかな債務履行や本件代物弁済契約に基づく株券の引渡しなどを求めるも,

これに応じることはなく,交渉の具体的進展が見られないという経過を辿ってい

た。

ところが,当時被告会社は,原告に対する正確な情報開示のないまま,自社の

基幹事業である 事業を第三者であるプラネックス社へ譲渡する交渉を

進めていたものである。同事業譲渡の実現により原告への金銭債務を完済できる

見込みもあったことは被告らの主張するとおりであるし,本件各商標権も含めた

知的財産権の一部は事業譲渡の対象となっていなかったと見る余地もある(被告

P1本人)とはいえ,当時の原告の立場から見れば,担保目的物が第三者へ譲渡

されることで優先弁済を受けることができなくなり,多額の損失発生が懸念され

る状況であったといわざるを得ない。このような当時の状況に鑑みれば,原告に

おいて,自社の損失発生を防止する目的で,被告会社が事業譲渡先として交渉を

進めていたプラネックス社に対し,被告会社の株式や知的財産権に係る自社の法

的地位などを通知すること自体,被告会社の債権者の行為として社会通念上相当

な範囲を逸脱するとはいえない。

また,本件通知の文面(乙13の2)を見ても,原告と被告ら間の客観的な契

約関係や債権額をありのまま知らせると共に,原告が債権回収を最優先としてお

り,被告会社の株式や知的財産権そのものの取得にこだわるわけではないことを




&
示唆しつつ,それらの権利処理に関して交渉の用意がある旨の意向を伝えており,

本件通知の目的に照らして相当な範囲の内容といえ,違法,不当に被告会社の業

務を妨害したり,その信用を毀損したりするものではない。

(2) なお,原告は,本件通知に先立つ平成24年10月19日,被告会社

から,同年11月末日までに原告に対する全ての金銭債務を履行する旨の提案を

受け,改めて正式な回答をする旨同月22日に返答していたものである(乙11,

12)が,そのようなやりとりがあったからといって,原告がプラネックス社へ

の接触をしないなどと約したとは解されず,原告による本件通知が信義に反する

と評価されるものでもない。

(3) したがって,不法行為に係る被告らの主張は採用できず,損害賠償請

求権を自働債権とする相殺の抗弁及びこれに伴う被担保債権消滅の抗弁は理由が

ない。

4 単純併合の適否

なお,被告らは,原告による株券引渡請求及び商標権移転登録請求と,それら

によって担保されている金銭請求は両立しないため,これらを単純併合して請求

することは不適法である旨主張する。しかしながら,上記移転登録請求は本件譲

渡担保契約に基づく債務の履行を求める(担保権実行のための準備行為とみられ

る)ものであり,これと被担保債権たる金銭請求とが論理上矛盾する(両立しな

い)関係にあるとはいえないから,被告らの主張は採用できない。

5 結論

以上の次第で,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文の

とおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部

裁 判 長 裁 判 官 山 田 陽 三




'
裁 判 官 松 川 充 康




裁 判 官 西 田 昌 吾




(
(別紙)

商標権目録
1 登録番号 第4644512号 オーリッド

2 登録番号 第4651881号

3 登録番号 第5292316号 \オーリッド

4 登録番号 第5299240号 )

5 登録番号 第5311635号 ) **

6 登録番号 第5367621号

7 登録番号 第5379581号 ) +

8 登録番号 第5383182号

) , \- " . +/ 0 & 12

9 登録番号 第5388424号 ) +

( 登録番号 第5468420号 3

登録番号 第5567032号(出願番号:商願2011−090878)

4 5

登録番号 第5526258号(出願番号:商願2012−030089)

名刺無制限 6

登録番号 第5577863号(出願番号:商願2012−040737)
(別紙)

株券目録


被告P1が有する被告株式会社オーリッドの株式にして,7333株に満つる

まで。

なお,被告P1が有する被告株式会社オーリッドの株式が,7333株以上あ

る場合には,株券発行番号の若いものから順次7333株に満つるまで。

  • この表をプリントする