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事件 平成 25年 (行ケ) 10078号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2013/10/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成25年10月31日判決言渡

平成25年(行ケ)第10078号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成25年10月17日

判 決




原 告 X

訴 訟 代 理 人 弁 理 士 酒 井 一

蔵 合 正 博



被 告 特 許 庁 長 官

指 定 代 理 人 栗 林 敏 彦

二 ッ 谷 裕 子

窪 田 治 彦

堀 内 仁 子



主 文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と

定める。



事 実 及 び 理 由

第1 原告の求めた判決

特許庁が不服2011−14005号事件について平成24年11月5日にした

審決を取り消す




第2 事案の概要

本件は,拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決取消訴訟である。争点は,進

歩性判断の当否である。

1 特許庁における手続の経緯

原告は,平成13年2月15日,発明の名称を「マチ付きプラスチック袋」とす

る国際特許出願をした(WO01/60706,特表2003−525177,パ

リ条約に基づく優先権主張外国庁受理,平成12年2月15日,米国)。

原告は,平成23年2月22日付けの拒絶査定を受けたので,同年6月30日,

拒絶査定不服審判を請求し(不服2011−14005号) 平成24年6月18日


付けで手続補正をした(甲4。本件補正)。

特許庁は,平成24年11月5日,本件補正を却下するとともに「本件審判の請

求は,成り立たない。」との審決をし,同月20日に原告に送達された(附加期間

90日)。

2 本願発明の要旨

本願発明(本件補正後の請求項1の発明)の要旨は以下のとおりである。

【請求項1】

側部にマチを有するプラスチックフィルムのチューブを含むプラスチック製Tシ

ャツバッグであって,該マチはそれぞれ,内側折目と,該内側折目と交差するバッ

グ底部のシール線と,バッグのマチ部分に形成した取っ手とを含むTシャツバッグ

において,バッグの底部に接着し,前記シール線の近傍若しくは該シール線に重な

って,前記各内側折目を横切って延設した,前記プラスチックフィルムとは別個の

補強手段を備え,該補強手段はバッグの取っ手が形成された部分には接着されてお

らず,該補強手段は,バッグに物を入れた時に,該内側折目と該シール線との接合

点が弱る傾向を低減することを特徴とする,プラスチック製Tシャツバッグ

3 審決の理由の要点




(1) 引用文献1(米国特許第4812055号明細書。甲1)記載の発明(引

用発明1)

引用文献1には「側部にマチを有する熱可塑性樹脂フィルムのチューブを含む熱

可塑性樹脂製アンダーシャツ型バッグ10であって,マチはそれぞれ,内側折目と,

内側折目と交差するバッグ底部のヒートシール18と,バッグ10のマチ部分に形

成した取っ手22とを含むアンダーシャツ型バッグ10において,バッグ10に物

を入れた時に,内側折目とバッグ底部のヒートシール18との接合点24が弱る傾

向を低減するシール領域26を備えた熱可塑性樹脂製アンダーシャツ型バッグ1

0」が記載されていると認められる。

(2) 本願発明と引用発明1との対比

(一致点)

側部にマチを有するプラスチックフィルムのチューブを含むプラスチック製Tシ

ャツバッグであって,マチはそれぞれ,内側折目と,内側折目と交差するバッグ底

部のシール線と,バッグのマチ部分に形成した取っ手とを含むTシャツバッグにお

いて,バッグに物を入れた時に,内側折目とシール線との接合点が弱る傾向を低減

する手段を備えたプラスチック製Tシャツバッグ

(相違点)

本願発明では,補強手段が,バッグの底部に接着し,シール線の近傍若しくはシ

ール線に重なって各内側折目を横切って延設して,バッグの取っ手が形成された部

分には接着されていない,プラスチックフィルムとは別個の補強手段であるとされ

ているのに対し,引用発明1では,補強手段がシール領域26である点

(3) 相違点についての検討

拒絶理由に引用された引用文献2(実願昭56−14737号(実開昭57−1

29050号)のマイクロフィルム。甲2。引用文献2に係る発明を「引用発明2」

という。)には,プラスチック製バッグにおいて,シール線に重なって接着されるプ

ラスチックフィルムとは別個の補強手段である補強テープにより,強度が弱く破れ




やすいシール線が破れることを防ぐ点が記載されている(特に,2頁6〜11行,

4頁15行〜5頁6行,5頁18行〜6頁6行,第1図参照。。


そして,引用発明1及び引用発明2は,ともにプラスチック製バッグの強度が弱

く破れやすい箇所が破れることを防ぐという共通の課題を有するので,引用発明1

において,シール領域26に代えて又は加えて,引用発明2の補強手段を,シール

線が存在するバッグの底部にシール線に重なるように接着し,強度が弱く破れやす

い各内側折目との接合点を横切って延設して設けることは,当業者が容易になし得

たことである。

また,補強手段をバッグの取っ手が形成された部分に接着しないようにすること

は,引用発明1において,バッグの取っ手が形成された部分に接合点24やシール

領域26は存在せず,バッグの取っ手が形成された部分に補強手段を必ず設けなけ

ればならないとする特段の理由もないことから,当業者が適宜なし得たことである。

そして,本願発明が奏する効果は,引用発明1及び引用発明2から当業者が予測

できたものであって,格別顕著なものとはいえない。

したがって,本願発明は,引用発明1及び引用発明2に基づいて,当業者が容易

に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を
受けることができないものである。

(4) 付記

原告は意見書において,
「さらに重要なことは,別個のテープを用いてシール領域

26を設けても,内側折目とシール線との接合点を補強するという本願請求項の要

件を満たすわけではないということです。引用文献1において重要なのは,シール

領域26を接合点から離れた位置に設けて,接合点にかかる応力を軽減するという

ことですので,シール領域26にテープを貼着しても接合点は補強されないことは

明らかです。」と主張する。

しかしながら,引用発明2は,強度が弱く破れやすいシール線に補強手段を接着

するものであることから,引用発明1に引用発明2を適用する際には,引用発明1




のシール領域26に補強手段を接着するのではなく,引用発明1において強度が弱

く破れやすい領域とされている,内側折目とシール線との接合点24を横切るよう

にシール線に重なって補強手段を接着することは明らかであるので,原告の主張を

採用することはできない。



第3 原告主張の審決取消事由

1 取消事由1(引用発明1の認定の誤り)について

(1) 審決の認定では,シール領域26を設ける箇所について何ら記載されてい

ない。しかし,引用発明1において,シール領域26を設ける箇所は,引用発明1

の作用効果を得るために非常に重要な構成である。引用発明1のクレーム1に,

「・・・各エリアシールは,前記横方向シールから離隔し,且つバッグの各側部の

マチの最も内側の折目から離隔した位置に配置され,
・・・」と明確に規定されてい

ることからも,引用発明1に必須の構成である。ここで,前記「エリアシール」は

「シール領域26」に相当し,また,前記「横方向シールから離隔し,且つバッグ

の各側部のマチの最も内側の折目から離隔した位置に配置され, という記載は,
」 シ

ール領域26が,接合点24から離隔した位置に配置されることを意味する。
また,引用発明2との組合せを判断するためには,引用発明2との組合せの部分

である設置個所についても引用発明1として認定する必要がある。

したがって,審決の「バッグ10に物を入れた時に,内側折目とバッグ底部のヒ

ートシール18との接合点が弱る傾向を低減するシール領域26を備えた熱可塑性

樹脂製アンダーシャツ型バッグ10」という引用発明1の記載は,
「バッグ10に物

を入れた時に,内側折目とバッグ底部のヒートシール18との接合点が弱る傾向を

低減する,接合点24から離隔した位置に配置されたシール領域26を備えた熱可

塑性樹脂製アンダーシャツ型バッグ10」と認定されるべきである。

(2) また,本願発明の「近傍」とは,
「シール線に重なって」と同等の技術的効

果,すなわち,補強の効果が得られる位置のことであり,
「近い」ことに技術的意義




がある。これに対し,引用発明1の「隔離」とは「離れていること」であり,そこ

に技術的意義がある。このように,両者は技術的思想において正反対であるから,

この点も認定する必要がある。

(3) 以上のとおり,審決においては,引用発明1の認定に誤りがある。

2 取消事由2(本願発明と引用発明1の相違点の認定の誤り)について

(1) 審決は,本願発明と引用発明1の相違点につき,
「引用文献1に記載された

発明では,補強手段がシール領域26である点」と判断した。しかしながら,引用

発明1において,シール領域26は「補強手段」とは認められない。例えば,引用

文献1には,
「これらのエリアシール(シール領域26)は,…横方向シールが四層

フィルムシールから二層フィルムシールへと延在するシール領域点における,マチ

を拡げた際の応力を軽減するように配置されている」「第 1 図の24で示される領


域に集中しやすいひずみや応力は,…シール領域26に転化され軽減されることが

分かる」と記載されているように,シール領域26は,接合点24自体を「補強」す

る手段ではなく,接合点24にかかる応力を分散させて軽減する手段である。

(2) また,本願発明の「近傍」とは,
「シール線に重なって」と同等の技術的効

果,すなわち,補強の効果が得られる位置のことであり,
「近い」ことに技術的意義
がある。これに対し,引用発明1の「隔離」とは「離れていること」であり,そこ

に技術的意義がある。このように,両者は技術的思想において正反対であるから,

この点は相違点として認定する必要がある。

(3) したがって,審決においては,本願発明と引用発明1との相違点の認定に

誤りがある。

3 取消事由3(引用発明2の認定の誤り)について

(1) 審決は,引用発明2について,
「プラスチック製バッグにおいて,シール線

に重なって接着されるプラスチックフィルムとは別個の補強手段である補強テー

プ」と認定した。この部分では,まず「シール線」が形成された後に,それに重な

って補強テープが接着されていると認定されていると思われる。




しかしながら,引用文献2には「本考案の包装用袋を製造するには,袋本体1の

端縁に予め補強テープ2を全面接着した後,該補強テープ2の上から袋本体1の内

側面同士(原文の"同志"は明らかな誤記である)をヒートシールして封じるのであ

る」と記載されている。この記載より,補強テープ2は,先に形成されたシール線

の上に重なって接着されるものでないことは明確である。

(2) また,引用発明 1 との組合せの当否を判断するためには,引用発明1との

組合せに関する部分,すなわち,作成順序,形成手順も引用発明2の記載事項とし

て認定する必要がある。

(3) したがって,審決においては,引用発明2の認定に誤りがある。

4 取消事由4(引用発明1と引用発明2の組合せの動機付け,結果の認定・判

断の誤り)について

(1) 審決は,
「引用文献1に記載された発明において,シール領域26に代えて

又は加えて,引用文献2に記載された発明の補強手段を,シール線が存在するバッ

グの底部にシール線に重なるように接着し,強度が弱く破れやすい各内側折目との

接合点を横切って延設して設けることは,当業者が容易になし得たことである」と

認定したが,そもそもこの二つの文献に記載された発明を組み合わせる動機が当業

者にはない。

引用発明1は,強度が弱く破れやすい接合点24自体を直接「補強」するのでは

なく,接合点24にかかる応力を分散させて軽減することをその発明の目的として

いる。つまり,引用発明1は,内側折目とシール線との接合点24は強度が弱く破

れやすいという課題を,接合点24にかかる応力を分散させて軽減することによっ

て解決するという思想に基づいている。そして,接合点24から離隔した位置にシ

ール領域26を設けることを,その解決手段としている。

これに対し,引用発明2では,「この破袋の原因としては,…ヒートシール部3’

の境界部がヒートシール部3’に沿って厚みが薄くなる為にこの部分の強度が弱く

なって破れやすく」なるという課題に対し,
「ヒートシール部に沿ってその境界部の




厚みが薄くなりにくく」することを目的としている。そして,その課題及び目的に

対し,袋本体1に予め補強テープ2を全面接着した後,該補強テープ2の上から袋

本体1の内側面同士をヒートシールして封じる,という解決手段を提供している。

マチの拡幅時における接合点の応力軽減を図ることは,側部マチ付きのTシャツバ

ッグ特有の課題であって,引用文献2はマチを有する構成ではないから,引用発明

1と共通の課題は構造的にあり得ない。

このように,強度が弱く破れやすい接合点が弱る傾向を低減するために,接合点

24とは離隔した位置にシール領域26を設けるという手段を一貫して示している

引用発明1と,強度が弱く破れやすいヒートシール部を設ける前に,その部分を補

強テープ2で補強しておくという引用発明2とは,課題に対する解決手段が全く異

なる。よって,引用文献1に一貫して記載されている思想を無視して,このような

二つの従来技術を当業者が組み合わせる動機があるとは認められない。

(2) また,たとえ組み合わせることができたとしても,引用文献1には,上述

のとおり,強度が弱く破れやすい接合点24自体を直接「補強」することは一切記

載も示唆もされていない。他方,引用文献2には,上述したように,「補強手段を,

シール線が存在するバッグの底部にシール線に重なるように接着」することは記載
されていない。よって,引用発明1と引用発明2とを組み合わせた結果として得ら

れるものは本願発明ではなく,引用発明1のシール領域26の位置に,引用発明2

の補強テープ2を接着した後にヒートシールしたものにすぎない。

また,本願発明は,接合点の脆弱化を低減するために,厚さの比を小さくすると

いう解決手段を見出したもので,かかる知見なくして引用発明1と引用発明2を組

み合わせても,接合点に補強テープを設けることには想到できない。

(3) 以上のとおり,審決において,引用発明1と引用発明2の組合せの動機付

け及びその結果の認定・判断に誤りがある。

5 取消事由5(本願発明の効果についての判断の誤り)について

審決は,
「本願発明が奏する効果は,引用文献1及び引用文献2に記載された発明




から当業者が予測できたものであって,格別顕著なものとはいえない」と認定した。

しかしながら,本件出願人の宣誓書(甲7)に記載した実験結果は,本願発明が

引用発明1よりも顕著な効果を奏することを示している。

また,本願明細書(甲3)の段落【0036】【0037】に「補強ストリップ


(補強手段)を設けると,マチ領域22Aはマチなし領域22Bの1.5倍の厚さ

となり,補強ストリップがないと,マチ領域はマチなし領域22Bの2倍の厚さと

なる。この厚さの比を改善する(小さくする)と,接合点24の強度は上がる」と

記載されているように,別個の補強手段を設けることは,フィルムの厚さを同じだ

け厚くするよりも強度が増す。このことはTシャツバッグについての発明である引

用文献1にも一切示唆すらされておらず,ましてやマチのない袋についての発明で

ある引用発明2から予測することは不可能である。

したがって,審決においては,本願発明の効果について判断を誤ったものである。

6 取消事由6(付記事項の判断の誤り)について

審決は,付記事項において,
「引用文献2に記載された発明は,強度が弱く破れや

すいシール線に補強手段を接着するものであることから,引用文献1に記載された

発明に引用文献2に記載された発明を適用する際には,…引用文献1に記載された
発明において強度が弱く破れやすい領域とされている,内側折目とシール線との接

合点24を横切るようにシール線に重なって補強手段を接着することは明らかであ

る」と認定した。

しかしながら,接合点24から離隔した位置にシール領域26を設けて,接合点

24にかかる応力を分散させて軽減するという引用文献1に一貫して記載されてい

る思想を,当業者が無視して,接合点24を横切るようにシール線に重なって補強

手段を接着することはできないはずである。

また,引用発明1において強度が弱く破れやすい領域とされている領域に,引用

発明2の補強手段を設けても,本願発明とはなり得ない。つまり,引用発明1にお

いて強度が弱く破れやすい領域とされているのは,内側折目とシール線との接合点




24(左右二つ)である。この二つの接合点24に引用発明2の補強手段をそれぞ

れ設けることができたとしても,二つの接合点24を横切るようにシール線に重な

って補強手段を接着することは,当業者がこれらの引用文献に基づいて容易に想到

できることではない。

そもそも,引用文献1では,
「マチの折目線XYZが外側へ動く,つまり点Yを中

心として枢動すると,マチの折目XYの底部がシール領域26に接触し,点Yにお

ける歪が軽減される…」と明確に記載されているように,マチの折目XYの底部(接

合点24)のそれぞれが対応するシール領域26に向かって移動することを想定し

ている。この動きによって接合点24にかかる応力が分散されて軽減されるからで

ある。

これに対して,本願発明では,シール線の近傍又はシール線に重なって,各内側

折目を横切って延設した補強手段により,各接合点が相対的に移動しないようにす

ることができるという顕著な効果も奏するものである。つまり,袋に物を入れても

二つの接合点24同士が互いに離れにくくなっていることにより,接合点24の破

損を防止している。このような効果は,引用文献1及び2のいずれにも示唆すらさ

れていない。
したがって,審決は,この点において判断を誤ったものである。



第4 被告の反論

1 取消事由1(引用発明1の認定の誤り)に対して

(1) 一般的に,引用文献に記載された発明は,本願発明との一致点,相違点が

適切に認定できるように認定すれば足りるのであり,それ以上に,本願発明との一

致点,相違点の認定に関係しない部分についてまで認定する必要はなく,むしろ,

本願発明との一致点,相違点の認定に関係しない部分についてまで,引用文献に記

載された発明を認定してしまうと,かえって,本願発明との一致点,相違点が曖昧

になったり,不正確になったりすることもあり得るから,相当ではない。




本願発明の補強手段は,シール線に重なって設けるものだけではなく,「シール

線の近傍」に設けるもの,すなわち,「接合点24から離隔した位置に配置」する

ものも含んでいる。具体的には,本願明細書段落【0034】に記載され,図14

に示されているように「パネル11,13の一方若しくは両方に貼着するテープ3

0は,シール線14と重なっていなくても,かなりの補強効果があることがわかっ

ている。従って図14に示すように,テープ30をシール線のわずかに上方(実線

で示す)若しくはシール線のわずかに下方(点線で示す)に配置しても,実質的に

補強効果が得られる。例えばテープをシール線の 1mm 上方若しくは下方に配置して

もよい。」ものである。

このように,本願発明の補強手段,すなわち,「内側折目とシール線との接合点

が弱る傾向を低減する」手段は,「接合点24から離隔した位置に配置」するもの

も含んでいるので,引用発明1と本願発明とを対比すると,「内側折目とシール線

との接合点が弱る傾向を低減する」手段の配置箇所に関しては相違がないから,引

用発明1の認定に際しては,配置箇所について認定をしなかったにすぎない。シー

ル領域26を設ける箇所について,審決が認定しなかった点に誤りはない。

(2) さらに指摘すれば,補強手段の一種である「強度が弱い部分に働く力(応
力)を分散し,軽減する手段」の配置箇所は,引用発明1と引用発明2とで異なる

ので,引用発明1に引用発明2の補強手段を適用することにより得られる「本願発

明の構成要件を充足する発明」の該補強手段の配置箇所も,引用発明1におけるシ

ール領域26の配置箇所とは異なる。このため,審決では,補強手段に関し,本願

発明における補強手段の配置箇所についての特定事項である「バッグの底部に接着

し,シール線の近傍若しくは該シール線に重なって各内側折目を横切って延設して,

バッグの取っ手が形成された部分には接着されていない」点をも含めて,引用発明

1と本願発明との相違点として適切に認定している。審決において,シール領域2

6を設ける箇所について認定しなかったことにより,引用発明1と本願発明との対

比結果に誤りが生じているわけではないから,この観点からも,審決に誤りはない。




2 取消事由2(本願発明と引用発明1の相違点の認定の誤り)に対して

(1) 引用発明1のシール領域26を「補強」手段と認定した審決は誤っている

という原告の主張は,本願明細書及び特許請求の範囲の記載に矛盾する主張であり

失当である。「補強」という用語の用法には,原告の主張するように,補強しよう

とする対象物それ自体の強度を増強することのみを「補強」と呼び,補強しようと

する対象物の近傍に別の手段を配置して対象物に係る応力を分散させることは「補

強」と呼ばない用法もある。しかし,補強しようとする対象物の近傍に別の手段を

配置して対象物に係る応力を分散させることを含めて「補強」と呼ぶことも,普通

の用法であって,引用発明1のシール領域26により,袋としての耐久性,強度が

接合点24付近において向上しているから,その意味においてシール領域26は「補

強」手段といえるし,以下に説明するように,本願明細書及び特許請求の範囲の記

載では,応力を分散させることも含めて「補強」と呼んでいる。

(2) 本願発明の補強手段は,シール線に重なって設けるものだけではなく,
「シ

ール線の近傍」に設けるもの,すなわち,「接合点24から離隔した位置に配置」

するものも含んでいる。「接合点24から離隔した位置に配置」した補強手段は,

「接合点24自体」を補強するのではなく,接合点24に係る応力を分散させて軽
減するものであることは,当業者にとって自明であるから,本願明細書及び特許請

求の範囲に記載された「補強手段」とは,「接合点24に係る応力を分散させて軽

減する手段」をも含む意味であることが明らかであるし,本願明細書段落【001

3】に「通常はシールとマチとの接合点にかかる力をテープへと移し,袋が二つの

接合点領域から裂け始めないようにすることができる」と記載されている。

したがって,「シール領域26は,接合点24に係る応力を分散させて軽減する

手段であり,接合点24自体を補強する手段ではないから,『シール領域26は補

強手段ではない』」旨の原告の主張は,本願明細書及び特許請求の範囲の記載に矛

盾する主張であり,失当である。

3 取消事由3(引用発明2の認定の誤り)に対して




審決は,引用発明2の完成状態,すなわち,ヒートシールして封じられた状態の

プラスチック製バッグ(包装用袋)の構成を認定したものであり,その作成順序な

いしは形成手順については認定していないのであって,原告は審決を正解していな

い。そもそも,本願発明は,物の発明であって,製造方法の発明ではないし,いわ

ゆるプロダクトバイプロセス発明でもないから,本願発明と技術内容を対比する文

献の記載事項に関し,作成順序ないしは形成手順を認定することに意味はない。

そして,「シール線が形成された後に,それに重なって補強テープを接着」して

も,「予め補強テープを接着した後,該補強テープ2の上からヒートシール」して

も,完成状態では,「シール線に重なって接着されるプラスチックフィルムとは別

個の補強手段である補強テープ」が設けられた状態になることは明らかである。し

たがって,審決の認定に誤りはない。

なお,本願発明においても,引用文献2に記載されたものと同様に形成されるも

のが「補強手段」として想定されているから(本願明細書段落【0035】図15

参照),いずれにせよ結論に影響するものではない。

4 取消事由4(引用発明1と引用発明2の組合せの動機付け,結果の認定・判

断の誤り)に対して
原告は,審決が引用文献1に一貫して記載されている思想を無視していると主張

しているが,そのようなことはない。むしろ,本願発明の補強手段は「接合点24

自体を補強する手段」であるという原告の認識に問題がある。

本願発明の補強手段は,「接合点24から離隔した位置に配置」した補強手段で

あって,「接合点24に係る応力を分散させて軽減する手段」をも含むものである。

したがって,「接合点24から離隔した位置に配置した」「接合点24に係る応力

を分散させて軽減する手段」を意味する点において,本願発明の補強手段と引用発

明1の補強手段とに相違はない。

原告は,自らの発明である本願発明の補強手段が,「接合点24から離隔した位

置に配置した」「接合点24に係る応力を分散させて軽減する手段」を含むことを




忘れて,あるいは,無視して,本願発明と引用発明1とが異なる旨の主張を繰り返

している。

引用発明1と引用発明2とは,いずれもプラスチック製バッグ(袋)であるので

技術分野が一致し,かつ,ヒートシール部の強度が弱い部分を破れにくくするとい

う共通の課題を有している。

このように,引用発明1と引用発明2とは,技術分野が一致し,かつ,解決すべ

き課題も共通しており,加えて,所定の技術的課題に関し複数の解決手段が知られ

ている場合,これらを適宜に代替,重畳することは,通常行われているところであ

るから,引用発明1と引用発明2を同時に知り得た当業者であれば,引用発明1の

課題解決手段である「接合点24とは離隔した位置に設けるシール領域26」に代

えて,又は,この「シール領域26」に加えて,引用文献2記載の課題解決手段で

ある「強度が弱い部分となる,ヒートシール部となる部分の全体を覆う補強テープ

を袋本体の外側面に全面接着した後,該補強テープの上からヒートシールする手段」

を採用し,「接合点24」となる部分を含めて「補強テープ2で補強しておくとい

う手段」を採用することは,容易に推考し得たことである。

また,引用発明1のシール領域26は,接合点24の応力を軽減する作用効果を
奏するものであるところ,引用文献2記載の補強テープ2も,その作用効果の1つ

として,ヒートシール部に働く力を分散し,ヒートシール部の破袋が起きにくくす

る作用効果を奏するものである(本願明細書5頁18行〜6頁1行参照)。そうす

ると,引用発明1のシール領域26と,引用文献2記載の補強テープ2は,共に,

ヒートシールの弱い部分に働く応力を分散して軽減するという共通の作用効果を奏

するから,引用発明1に引用文献2記載の技術を組み合わせる動機付けは,一層強

く存在するといえる。

引用文献1の記載において,「強度が弱い部分」として認識されているのは,「接

合点24」であって,「シール領域26」ではない。そして,引用文献2の補強テ

ープ2は,「強度が弱く破れやすいヒートシール部」に,ヒートシール前に補強テ




ープ2で補強しておくという技術思想である。そうすると,引用発明1に引用発明

2の補強テープ2を適用する場合には,「強度が弱い部分」として認識されている

「接合点24」部分を補強しておくという技術思想が得られるものである。当業者

が,引用発明1に引用文献2記載の技術を適用した結果,引用文献1において「強

度が弱い部分」とは認識されていない「シール領域26」部分を補強しておくとい

う技術思想を得るとは,通常の技術常識からは考えられない。

「引用発明1に引用文献2の補強テープ2を適用すると,得られるものは,引用

文献1のシール領域26の位置に,引用文献2の補強テープ2を接着した後に,ヒ

ートシールしたもの」である旨の原告の主張は,独自の見解であり,失当である。

なお,原告主張のように,引用発明1に引用文献2記載の技術を適用した結果,シ

ール領域26の位置に補強テープを配置するとしても,その場合,補強テープはシ

ール線の近傍に配置されるといえるから,得られるものは本願発明の構成要件を充

足することになる。

5 取消事由5(本願発明の効果についての判断の誤り)に対して

宣誓書(甲7)に記載した実験結果が,引用発明1よりも本願発明が顕著な効果

を奏することを示しているとは必ずしもいえない。接合点24の破損強度は,シー
ル領域26の技術的条件,又は補強ストリップの技術的条件によって大きく影響を

受けるところ,甲7はこれら技術的条件の詳細を示していないし,実験結果の量か

ら見て,種々の条件について実験をしたものともいえない。したがって,甲7に記

載した実験の範囲内では,シール領域26を設ける構成よりも,補強ストリップを

設ける構成の方が接合点24の破損強度が大きいと認められるものの,必ずしも,

本願発明の要件を満たす構成の全てが,引用発明1の要件を満たす構成のどれより

も顕著な効果を奏することが立証されているとはいえない。

なお,シール領域26を設ける構成では,元々のTシャツバッグに対して何も材

料を付加しないのに対し,補強ストリップを設ける構成では,元々のTシャツバッ

グに対して補強ストリップという別の材料を付加している。そうすると,わざわざ




実験をするまでもなく,当業者は,技術常識に基づいて,別の材料を付加している

分だけ,補強ストリップを設ける構成の方が,破損強度が大きくなる可能性が高い

と予測できるものである。

また,そもそも,本願発明が,破損強度に関し引用発明1以上の効果を奏すると

しても,引用発明1と引用発明2とから,本願発明の効果が予測できないことには

ならない。引用発明1に引用文献2記載の補強テープを適用すれば,本願発明の構

成要件を全て充足する発明が得られるし,その発明は,本願発明と同様に,補強テ

ープによる補強効果を奏するものである。そして,接合点を補強することにより,

他の箇所を補強する場合に比べて,補強テープが格別顕著な補強効果を奏すると認

めるべき理由は存在しないし,本願明細書等にも,そのような説明はなされていな

い。したがって,本願発明の補強テープによる補強効果も,引用発明1に引用文献

2記載の補強テープを適用して得られた発明の補強テープによる補強効果も,同等

と予測されるから,本願発明が奏する効果は,引用発明1及び引用発明2から当業

者が予測できたものであって,格別顕著なものとはいえない。

まず,本願明細書の段落【0037】に記載された効果は,段落【0035】,

【0036】及び図15に記載された実施態様の構成が奏する効果であって,本願
発明が特定する技術的事項によって奏される効果ではない。図5,図6,図14に

記載された実施態様の構成は,段落【0037】に記載された効果を奏しない。す

なわち,段落【0037】に記載された効果は,本願発明特有の効果ではない。

また,本願明細書の段落【0037】に記載された効果は,本件出願時点(優先

権主張日)における技術常識でもある。Tシャツバッグ等のマチ付きバッグをヒー

トシールする場合,同一のシール形成バーによってシールされるにもかかわらず,

フィルムが4層の部分と2層の部分とが存在する。このため,4層から2層(ある

いは2層から4層)に変化する箇所では,厚さが急激に変化するため,同一のシー

ル形成バーによって適切なシール形成条件を維持することが困難であり,この部分

のシール強度を大きくすることが困難なのである。そして,厚さの急激な変化を緩




和すれば,適切なシール形成条件に近づけることが可能となり,その結果,当該部

分のシール強度を大きくできることが,技術常識である。

このような技術常識に基づく効果は,引用文献に記載しているか否かにかかわら

ず,当業者が当然予測し得ることであるので,本願明細書の段落【0037】に記

載された効果は,引用文献1にも引用文献2にも記載も示唆もされていないから,

当業者は予測できないとの原告の主張は失当である。

したがって,審決が,「本願発明が奏する効果は,引用文献1及び引用文献2に

記載された発明から当業者が予測できたものであって,格別顕著なものとはいえな

い」と認定したことに誤りはない。

6 取消事由6(付記事項の判断の誤り)に対して

原告は,本願発明は,「二つの接合点24を横切るようにシール線に重なって補

強手段を接着する」構成を有するものであって,「二つの接合点24のそれぞれに

補強手段を設けた構成」は,本願発明の構成ではないと認識しているようであるが,

このような認識は,本願明細書及び特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。

本願発明の補強手段は,「接合点24から離隔した位置に配置」した補強手段を

も含むものである。「シール線に重なって補強手段を接着する」構成は,本願発明
の実施態様の構成であるにすぎない。

また,本願発明は,補強手段の配置箇所について「バッグの底部に接着し,前記

シール線の近傍若しくは該シール線に重なって,前記各内側折目を横切って延設し

た,前記プラスチックフィルムとは別個の補強手段」と特定しているのであり,「1

つの補強手段が,二つの接合点24を横切るように設けられる」とまでは特定して

はいないし,本願明細書段落【0020】に「接合点領域のみに別個のテープ,例

えば1/2インチ角(1.27cm角)のテープを貼着しても,ある程度の効果は

得られる」と記載されているように「二つの接合点24のそれぞれに補強手段を設

けた構成」も,本願発明の構成である。

引用発明1に引用文献2に記載の技術を適用して,「強度が弱い部分となる,ヒ




ートシール部となる部分の全体を覆う補強テープを袋本体の外側面に全面接着した

後,該補強テープの上からヒートシールする手段」を採用すれば,各外側面に全面

接着した補強テープは,それぞれ,「二つの接合点24を横切るようにシール線に

重なって補強手段を接着する」構成となるもので,そのように構成することが自然

な発想である。引用発明1に引用文献2に記載の技術を適用しても,「二つの接合

点24を横切るようにシール線に重なって補強手段を接着する構成」は得られない

旨の原告の主張は,客観的根拠のない,原告独自の主張であり,失当である。

なお,線状のヒートシール部では,「ヒートシールを十分にしたものは……ヒー

トシールの際の加熱溶融,加圧溶着過程において,ヒートシール部3'の境界部がヒ

ートシール部3'に沿って厚みが薄くなる為にこの部分の強度が弱くなって破れや

すくなり」(引用文献2明細書2頁2〜10行参照)という傾向があることが知ら

れているものの,ヒートシールの条件によっては,線状のヒートシール部分は,ヒ

ートシール部の境界部を含めて必要十分な強度が得られるものでもある。このため,

引用発明1で,線状のヒートシール部分は,ヒートシール部の境界部を含めて必要

十分な強度が得られる条件である場合には,補強テープをヒートシール部となる部

分の全体を覆うように設けるのではなく,本願明細書段落【0020】の記載のよ
うに,「接合点領域のみに別個のテープ」を設ける構成とすることも,当業者が容

易に推考し得たことである。

「二つの接合点24を横切るようにシール線に重なって補強手段を接着する」構

成は,本願発明の実施態様の構成ではあるものの,本願発明の構成ではない。した

がって,「二つの接合点24を横切るようにシール線に重なって補強手段を接着す

る」構成が,仮に,原告が主張する「各接合点が相対的に移動しないようにするこ

とができる」という効果を奏するとしても,それは本願発明特有の効果ではない。

たとえ参酌するとしても,当業者であればその構造から十分予測可能なものであっ

て格別でもない。

また,引用文献1には,「接合点24のそれぞれが対応するシール領域26に向




かって移動すること」は記載されていない。引用文献1には,「マチの折目線XY

Zが外側へ動く,つまりYを中心として枢動する」(引用文献1の訳文4頁9〜1

0行)と記載されている。Yは,接合点24そのものである。引用文献1には,接

合点24が動くことが記載されているのではなく,接合点24を枢動の中心として,

折目線XYZが動くこと,換言すれば,接合点24は動かないことが記載されてい

る。接合点24が動く旨の原告の主張は,引用文献1の記載内容を誤認したことに

基づく主張であり,失当である。



第5 当裁判所の判断

1 取消事由1(引用発明1の認定の誤り)について

(1) 出願された発明が,特定の公知の発明(引用発明)に基づいて容易に発明

をすることができたとして,その進歩性を否定しようとする場合,当該引用発明は,

出願された発明と対比して進歩性の検討を行う上で必要な事項のみを認定すれば足

り,出願された発明と同一の構成を詳細に認定する必要はないものというべきであ

る。

本願発明の補強手段は,特許請求の範囲に記載されたとおり,
「前記シール線の近
傍若しくは該シール線に重なって,前記各内側折目を横切って延設した」ものであ

って,
「シール線の近傍」に設けたものを含むから,引用発明1のシール領域26を

「接合点24から離隔した位置に配置」したものを包含し,
「バッグに物を入れた時

に,該内側折目と該シール線との接合点が弱る傾向を低減する」ための手段の配置

箇所について,本願発明と引用発明1とに差異はない。

そうすると,原告が主張するように,引用発明1について,シール領域26の配

置箇所を認定したとしても,当該配置箇所は,本願発明との対比で一致点となり,

相違点の認定事項に変更は生じないから,相違点の判断を含めて,審決の結論に影

響を及ぼすものではないことは明らかである。

よって,審決がシール領域26の配置箇所を認定しなかったことに誤りはない。




(2) また,審決は,シール領域26を補強手段に置換する場合(「代えて」)の

みならず,シール領域26に補強手段を併用する場合(「加えて」)についても検討

していることからすると,引用発明1のシール領域26の設置箇所がどこであって

も,引用文献2の補強テープ2を併用することは可能だから,その場合,シール領

域26の設置箇所を論じる必要はないことになる。

よって,シール領域26の配置箇所を認定しなければ,引用発明1に引用文献2

の記載事項を組み合わせることの適否が判断できないとする原告の主張は,失当で

ある。

(3) さらに,本願発明の「近傍」という文言自体に「同一地点ではない」とい

う意味が含まれていることは明らかであるところ,本願発明におけるシール線の「近

傍」に配設された補強手段と,引用発明1における接合点24から離隔した位置に

配置されたシール領域26とがともに有する,接合点にかかる応力を分散させて軽

減するといった作用は,シール線や接合点から離れるにつれて低下することは技術

上当然である。そうすると,引用発明1の「離隔」という文言自体に「近くない方

がよい」という概念は含まれていないというべきであって,本願発明の「近傍」と,

引用発明1の「離隔した位置」との間に,その機序や技術的意義に格別な差異はな
い。

したがって,本願発明と引用発明1は,原告の主張するように,正反対の技術的

思想に基づくものであるとはいえないから,原告の主張は採用できない。

2 取消事由2(本願発明と引用発明1の相違点の認定の誤り)について

原告は,シール領域26が,接合点24にかかる応力を分散させて軽減する手段

であり,接合点24自体を補強する手段ではないから,シール領域26は補強手段

ではない旨主張する。

上記主張は,本願発明の「補強手段」の技術的意義を,補強しようとする対象物

それ自体の強度を増強するものに限定し,補強しようとする対象物の近傍に別の手

段を配置して対象物にかかる応力を分散させることを排除するものと解されるが,




そのように解すべき合理的根拠はない。本願明細書の記載を参酌しても,本願発明

の「補強」を,補強しようとする対象物それ自体の強度を増強するといった意味に

限定解釈すべき理由を見出だすことができず,かえって,段落【0013】に「通

常はシールとマチとの接合点にかかる力をテープへと移し,袋が二つの接合点領域

から裂け始めないようにすることができる」と記載されていることに照らせば,本

願明細書における「補強」とは,補強しようとする対象物の近傍に別の手段を配置

して対象物にかかる応力を分散させるといった意味も有するというべきである。

本願発明の補強手段は,シール線に重なって設けるものだけではなく,
「シール線

の近傍」に設けるもの,すなわち,
「接合点24から離隔した位置に配置」するもの

も包含する。補強手段を「接合点24から離隔した位置に配置」した場合,補強手

段は,接合点24自体を補強するのではなく,接合点24にかかる応力を分散させ

て軽減するものとして機能することは,当業者にとって自明である。

他方,引用発明1では,シール領域26により,袋としての耐久性,強度が接合

点24付近において向上しているから,その意味においてシール領域26は補強手

段ということができる。

したがって,原告の主張は,特許請求の範囲及び本願明細書の記載と整合しない

ものであって失当である。

3 取消事由3(引用発明2の認定の誤り)について

引用発明2は,本願発明と同様に物の発明であって,審決は,引用発明2の完成

状態,すなわち,ヒートシールして封じられた状態のプラスチック製バッグ(包装

用袋)の構成を認定しているが,その作成順序ないしは形成手順については認定し

ていない。なぜなら,
「シール線が形成された後に,それに重なって補強テープを接

着」しても,
「予め補強テープを接着した後,該補強テープ2の上からヒートシール」

しても,どちらも完成状態では,
「シール線に重なって接着されるプラスチックフィ

ルムとは別個の補強手段である補強テープ」が設けられた状態になるからである。

したがって,シール形成とテープ接着の時間的先後関係をいう原告の主張は,審




決を正しく理解しないものというべきであって,採用できない。

4 取消事由4(引用発明1と引用発明2の組合せの動機付け,結果の認定・判

断の誤り)について

引用発明1及び引用発明2は,いずれもプラスチック製バッグ(袋)であるので

技術分野が一致し,かつ,ヒートシール部の強度が弱い部分を破れにくくするとい

う共通の課題を有するものと認められる。また,引用発明1のシール領域26は,

接合点24の応力を軽減する作用効果を奏するものであるところ,引用発明2の補

強テープ2も,その作用効果の1つとして,補強テープ2によってヒートシール部

に働く力を分散し,ヒートシール部の破袋を起きにくくするといった作用効果を奏

するものである(明細書5頁18行〜6頁1行参照)。そうすると,引用発明1のシ

ール領域26と,引用発明2の補強テープ2は,共に,ヒートシールの弱い部分に

働く応力を分散して軽減する点において,共通の作用効果を奏するものといえる。

加えて,所定の技術的課題に関し複数の解決手段が知られている場合,ある解決

手段を別の解決手段に置換すること,あるいは,ある解決手段に別の解決手段を併

用することは,当業者の通常の創作能力の発揮として,普通に行われていることで

ある。そうすると,引用文献1と引用文献2の記載事項とを同時に知り得た当業者
であれば,引用発明1の解決手段である「接合点24とは離隔した位置に設けるシ

ール領域26に代えて」,又は,この「シール領域26に加えて」,引用発明2の解

決手段である「強度が弱い部分となる,ヒートシール部となる部分の全体を覆う補

強テープを袋本体の外側面に全面接着した後,該補強テープの上からヒートシール

する手段」を採用し,
「接合点24」となる部分を含めて「補強テープ2で補強して

おくという手段」を講じることは,容易に推考し得たことである。

確かに,原告が主張するように,引用発明2は,マチを有さない包装用袋である

から,Tシャツバックのような接合点は存在しない。しかしながら,応力のかかる

接合点それ自体がなくとも,ヒートシール線上に位置するある点をテープによって

補強することには何らの問題もないから,引用発明2に接合点がないことは引用発




明1への適用阻害要因とならない。上述したように,引用発明1及び引用発明2は,

ヒートシール部の強度が弱い部分を破れにくくするという点で課題の共通性が認め

られるから,引用発明2の構成がTシャツバックでなく,それゆえに接合点が存在

しないことは,引用発明1への適用を阻害するものではない。

また,引用発明1において,「強度が弱い部分」として認識されているのは,「接

合点24」であって,
「シール領域26」ではない。そして,引用発明2の補強テー

プ2の技術的意義は,
「強度が弱く破れやすいヒートシール部」となる部分に,ヒー

トシール前に補強テープ2で補強しておくことにある。かかる技術的意義に照らせ

ば,引用発明1に引用発明2の補強テープ2を適用する場合,当業者としては,補

強の対象として,
「強度が弱い部分」として認識されている接合点24と考えるのが

自然であって,補強の対象をシール領域26とすべき理由はない。

したがって,引用発明1と引用発明2の組合せに動機付けがあるとし,その結果

が本願発明になるとした審決の判断に誤りはない。

5 取消事由5(本願発明の効果についての判断の誤り)について

原告は,本願発明が顕著な効果を有するとして宣誓書(甲7)を提出するところ,

確かに,甲7の実験の範囲内では,シール領域26を設ける構成よりも,補強スト

リップを設ける構成の方が接合点24の破損強度が大きいと認められる。しかしな

がら,接合点24の破損強度は,シール領域26の技術的条件,又は補強ストリッ

プの技術的条件等によって大きく影響を受けることが明確であるところ,甲7は,

これら技術的条件の詳細を示しておらず,また,実験結果の数量から見ても,種々

の条件について実験をしたものとはいえない。したがって,原告の主張するように,

甲7の実験結果が,引用発明1よりも本願発明が顕著な効果を奏することを示して

いるとは必ずしもいえないというべきである。そもそも,本願発明が顕著な効果を

奏することにより進歩性を獲得するためには,引用発明1及び引用発明2を組み合

わせることにより得られると予測される以上の効果を奏する必要があるのであり,

本願発明が引用発明1以上の効果を奏するとしても,そのことをもって,本願発明




の効果が顕著であることを論証したということにはならない。

さらに,原告が主張するように,フィルムとは別個の補助手段を設けることで,

フィルムの厚さを同じだけ厚くするよりも強度が増すとしても,かかる効果は,引

用発明1に引用文献2の記載事項を適用した構成も同様に奏するものであるから,

引用文献1及び2に記載がないとしても,単なる効果の追認にすぎず,格別その効

果が顕著なものとは認められない。

よって,原告の主張はいずれも採用できない。

6 取消事由6(付記事項の判断の誤り)について

本願発明の補助手段は,特許請求の範囲の記載によれば,バッグの底部に接着し,


前記シール線の近傍若しくは該シール線に重なって,前記各内側折目を横切って延

設」されるものであって,
「二つの接合点24を横切るように」接着することを発明

特定事項とはしていない。しかも,本願明細書の段落【0020】に「接合点領域

のみに別個のテープ,例えば1/2インチ角(1.27cm 角)のテープを貼着して

も,ある程度の効果は得られる。」と記載されているように,本願明細書には,二つ

の接合点24のそれぞれに補助手段を接着することも開示されており,ある程度の


効果は得られる。 と記載されていることから,
」 補助手段を二つの接合点24の各々
に別個に接着させた態様も,本願発明に包含される実施形態である解される。

よって,本願発明が二つの接合点24を横切るように接着することが必要条件と

なることを前提とする原告の主張は,特許請求の範囲及び本願明細書の記載に基づ

くものとはいえず,理由がない。



第6 結論

以上のとおり,原告の請求は理由がない。

よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第2部




裁判長裁判官

清 水 節




裁判官

池 下 朗




裁判官

新 谷 貴 昭