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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10519審決取消請求事件 平成19行ケ10091審決取消請求事件 判例 商標
平成15ワ10368損害賠償等請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  包装 /  出所表示機能 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  記述的商標(3条1項3号) /  周知性 /  品質誤認(4条1項16号) /  類似性(類否判断) /  結合商標 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  警告 /  判定 /  差止 /  継続 /  商号 / 
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事件 平成 16年 (ワ) 781号 商標権侵害差止等請求事件
原告 株式会社ウイルソン
訴訟代理人弁護士 片岡義夫
被告 株式会社竹原
訴訟代理人弁護士 神戸正雄
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2004/07/28
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙目録(1)ないし(3)の容器に収納された自動車用つや出し剤を製造又は販売してはならない。
2 被告は,その本社及び営業所に存する別紙目録(1)ないし(3)の容器を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,金552万8250円を支払え。
事案の概要
本件は,原告が被告に対し,別紙目録(1)ないし(3)の容器に収納された自動車用つや出し剤を製造及び販売する被告の行為が,原告の有する後記商標権を侵害し,また,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号及び同項13号に該当すると主張して,別紙目録(1)ないし(3)の容器に収納された自動車用つや出し剤の製造及び販売の差止め及び廃棄並びに損害賠償金の支払を求めた事案である。
1 争いのない事実等(認定の根拠を掲げない事実は当事者間に争いがない。) (1) 当事者 原告は,自動車用つや出し剤の製造販売を業とする株式会社である。
被告は,自動車用品の製造及び販売,研磨剤の製造及び販売等を業とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
(2) 原告の有する商標権 原告は,以下の商標権(以下「原告商標権」といい,その登録商標を「原告商標」という。)を有している(甲12)。
登録番号 第4629817号 登録年月日 平成14年12月13日 商品区分及び指定商品 第3類 つや出し剤 登録商標 別紙目録(4)記載のとおり (3) 原告による自動車用つや出し剤の販売 原告は,平成13年9月から,別紙目録(5)ないし(7)の容器に収納された自動車用つや出し剤(以下,これらを順に「原告製品1」,「原告製品2」などといい,これらを併せて「原告製品」という場合がある。)の販売を開始した。 (4) 被告の行為 被告は,別紙目録(1)ないし(3)の容器に収納された自動車用つや出し剤(以下,これらを順に「被告製品1」,「被告製品2」などといい,これらを併せて「被告製品」という場合がある。)を業として製造販売している。なお,被告製品1及び2の容器には,「鏡面ツヤ出しワックス」との標章(以下「被告標章1」という。)が,被告製品3には,「鏡面耐久ワックス」との標章(以下「被告標章2」という。また,被告標章1及び2を併せて,以下「被告標章」という場合がある。)が付されている。
2 争点 (1) 被告による被告標章を容器等に付した被告製品の製造販売が原告商標権の侵害となるか。
(2) 被告による被告製品の製造販売が不競法2条1項1号に該当するか。
ア 原告製品の容器の形状,色彩,模様(以下「形状等」という。)は,原告の周知な商品等表示といえるか。
イ 被告製品の容器の形状等は,原告製品の容器の形状等と類似しているか。
ウ 原告製品と被告製品との間に混同のおそれがあるか。
(3) 被告による被告製品の製造販売が不競法2条1項13号に該当するか。
(4) 原告の被った損害の額は幾らか。
3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)(商標権侵害の有無)について (原告の主張) 原告商標は,「WILLSON」との原告の商号の一部を英文字で表記したもの(以下「原告標章WILLSON部分」という。)と,「鏡面」(以下「原告商標鏡面部分」という。)との文字からなる結合商標であるが,これらはいずれも原告商標の要部である。
一方,被告標章1のうち,「ツヤ出し」の部分は,効能を示すありふれた語であり,「ワックス」の部分は,商品の内容を示した語である。また,被告標章3のうち,「耐久」の部分は,効能を示すありふれた語であり,「ワックス」の部分は,商品の内容を示した語である。そうすると,被告標章の要部は,いずれも「鏡面」である。
したがって,被告標章の要部は,原告商標の要部の1つと同一であり,被告標章は原告商標に類似するから,被告標章を容器等に付した被告製品の製造販売行為は,原告商標権の侵害となる。
(被告の反論) 原告商標のうち,原告商標鏡面部分には識別力がない。このことは,第3類つや出し剤を指定商品とした「鏡面」及び「鏡面コンパウンド」との商標の登録出願に対し,特許庁審査官が拒絶理由通知を発し,そこで上記各商標は識別力がない,又は単なる品質表示にすぎない旨判断されたこと,また,被告の判定請求に対し,原告商標の「鏡面」の文字部分が商品の品質・効能を表示するものと判定されたことからも明らかである。したがって,原告商標の要部は「原告標章WILLSON部分」である。
そして,この原告商標の要部と被告標章とを対比すると,称呼,外観,観念のいずれも異なる。
したがって,被告標章の使用は,原告商標権を侵害しない。
(2) 争点(2)(不競法2条1項1号該当性)について ア 原告製品の容器の形状等の周知性について (原告の主張) 自動車用ワックスの業界においては,原告とソフト99コーポレーションが2大メーカーであり,両社で約70パーセントの市場占有率を占め,その次にリンレイ,タイホー工業,シュアラスターなどが続く。被告は業界第6位で,原告に比し,約15パーセント程度の市場占有率を有する。自動車用ワックス業界は,比較的小さな業界であり,業界内の競争は激しい。
原告は,昭和26年の会社創立以来,技術開発に企業努力を傾注し,当業界において最も信用される「品質のウイルソン」なるのれんを築き上げてきた。
原告は,平成13年9月から原告製品の販売を開始し,それ以来約2年にわたり大々的に宣伝広告を行い,その費用は合計で金744万2130円に達した。その間,原告は,原告製品の販売拡大に努め,つや出し剤のシェアで上位30位までに原告製品及び液体タイプの原告製「鏡面Wax」が4種類含まれている。その結果,遅くとも原告が被告に対して警告書を発送した平成14年11月1日の時点において,以下の@ないしCの原告製品の容器の形状等の特徴部分(以下,順に「原告表示@」,「原告表示A」などという。)は,自動車の車体表面の細かい磨き傷,洗車傷を簡単に修補し,鏡の如くつやのある表面を現出する原告製品の商品等表示として一般取引者の間において周知となった。
@ 容器の外形が,背の低い円筒型である。
A 容器の大きさが,直径12.5cm,高さ8cmである。
B 容器本体外周面に,「鏡面Wax」と表示されている。
C 容器の蓋に,「輝く!!」と表示されている。
(被告の反論) 以下のとおり,原告製品の容器の形状等(原告表示@ないしC)は,商品等表示とはいえない。
(ア) 原告表示@,Aについて 原告製品の容器は,既成の,ありふれたものであって,以前から同業他社においても用いられており,被告も,平成8年以来,被告製品と同一形状の製品を販売している。
したがって,原告製品の容器の形状・大きさ(原告表示@,A)は,何ら特徴のない一般的なものであり,商品等表示となり得ない。
(イ) 原告表示Bについて 原告表示Bのうち,「鏡面」は品質・効能の表示であり,「Wax」は商品の普通名称であるから,両者の結合である「鏡面Wax」の表示は,出所表示機能を有しない。仮に「鏡面Wax」が需要者に広く知られるようになったとしても,需要者は「鏡面Wax」を出所表示として認識しているわけではないから,原告の商品等表示として周知であるとはいえない。
しかも「鏡面」との表示は,被告が平成8年に最初に使用して以降,同業他社も使用しており,需要者にとって既に既知のものとなっているから,原告の商品等表示として周知性を獲得することはない。
(ウ) 原告表示Cについて 原告表示Cの「輝く」との表示は,自動車用ワックス等の製品では,使い慣らされた表現方法であり,このような表示が商品等表示となることはない。
(エ) 宣伝広告について 原告が行ったとする宣伝・広告は,通常行われる程度のものにすぎず,この点からも原告製品の容器の形状等が周知性を獲得したとはいえない。
類似性について (原告の主張) 以下の点に照らすと,原告製品と被告製品とは容器の形状等が全体として類似している。
(ア) 容器の外形・大きさ(原告表示@,Aとの類似) 容器の外形が背の低い円筒型であり,その大きさについても,原告製品の容器は直径12.5cm,高さ8cmであり,被告製品の容器も直径12cm,高さ8.5cmであって,両者はほぼ同一である。また,蓋と本体の高さの割合は,1対2であり,ほぼ同一である。
(イ) 容器本体外周面の表示(原告表示Bとの類似) 容器本体外周面において,原告製品は,「鏡面Wax」と表示され,被告製品は,「鏡面ツヤ出しワックス」又は「鏡面耐久ワックス」と表示され,いずれも「鏡面」「ワックス(又はWax)」の表示が包含されてるほか,容器全体に文字部分が表示されている点において,相互に類似している。
(ウ) 容器の蓋の表示(原告表示Cとの類似) 容器の蓋の表示において,原告製品には,「輝く!!」と表示され,被告製品には,「輝き!!」と表示されている。また,この文字は,いずれもやや斜めに,同一の字体で表示され,かつ,「!!」が付されており,色も金色又は黄色であって極めて近く,同一の横に細い枠で囲まれている点において,外観及び称呼が類似している。
(エ) 容器全体に対する文字の大きさ 上記(イ)及び(ウ)の各文字の容器全体に対する大きさの割合は,相互に近似している。
(被告の反論) 以下のとおり,原告製品と被告製品の容器の形状等は類似しない。
(ア) 容器の外形・大きさ 被告製品の容器の形状は,ありふれたものであって,以前から同業他社においても用いられており,被告も,平成8年以来,被告製品と同一形状の製品を販売している。したがって,容器の外形・大きさの共通点は,原告製品と被告製品との類似性を基礎付ける要素になり得ない。
(イ) 容器本体外周面の表示 a 被告製品1及び2 被告製品1及び2の容器本体外周面に付された被告標章1の「鏡面」部分の左隣直近に被告の営業を示す表示として周知である「PROSTAFF」の文字を四角枠で囲った表記部分があり,両者の接近具合からすれば,需要者には,「鏡面」の文字と共に「PROSTAFF」の文字が,ほぼ同時に目に入る。
また,被告標章1の「鏡面ツヤ出し」「ワックス」の文字は2段書きであり,「鏡面ツヤ出し」と「ワックス」とは切り離されていること,「ツヤ出し」の文字が「鏡面」と「ワックス」との間に介在していることから,これを,一連に称呼することは考えられないので,被告標章1及び2から,「鏡面ワックス」の称呼は生じない。したがって,被告標章1及び2と原告製品の「鏡面Wax」との表示部分とは,称呼において類似しない。
b 被告製品3 被告製品3の容器本体外周面表示には,「キズ消し鏡面耐久ワックス」と一連に記載され,「キズ消し」部分が目に付きやすい表示がされている。
「鏡面」の文字部分は下段に記載され,しかも,「キズ消し鏡面耐久ワックス」の一連表示の途中に存在するので,被告標章3から「鏡面ワックス」の称呼は生じない。したがって,被告標章3と原告製品の「鏡面Wax」の表示部分とは,称呼において類似しない。
また,「キズ消し鏡面耐久ワックス」との表示は,「キズ消し」,「鏡面」,「耐久」という,被告製品の品質・効能を羅列したものにすぎない。
したがって,被告製品3と原告製品とは類似しない。
(ウ) 容器の蓋の表示 被告製品の「輝き」との表示部分は,自動車用ワックス等の製品では,使い慣らされた表現方法であり,同表示部分が共通することは,類似性を基礎付ける要素になり得ない。
(エ) 容器全体に対する文字の大きさ 原告製品の文字の配置に個性的特徴はない。
ウ 混同のおそれについて (原告の主張) 前記イ(原告の主張)欄記載のとおり,原告製品の容器の形状等と被告製品の容器の形状等は全体的に類似しており,一般の需要者に混同されるおそれがある。
仮に,原告製品と被告製品との間で,商品の混同がされなくとも,原告と被告との間に経済上又は組織上何らかの関係があるものと誤認される可能性がある。
(被告の反論) 前記イ(被告の反論)欄記載のとおり,原告製品と被告製品とは,容器の形状等において類似しないので,一般の需要者に混同されるおそれはない。
また,被告製品には,「PROSTAFF」の文字を四角枠で囲った表記部分が容器本体の左右側面及び蓋上面に需要者の目に付くように表示されているのに対して,原告製品には,楕円で囲んだ「WILLSON」との原告の名称が表示されているから,原告と被告の間に経済上又は組織上何らかの関係があるものと誤認されることはあり得ない。
(3) 争点(3)(不競法2条1項13号該当性)について (原告の主張) 鏡面ワックスとは,傷を消すアルミナ等の化合物とその上に塗布される光沢を出すポリエチレン,カルナバ等の化合物を含む自動車用ワックスを指し,傷ついた塗装表面を平坦にする効果と,さらにその表面にワックス被膜を形成し,つやのある滑らかな表面外観を得る効果を併せ有する。このような品質基準は,当業界において,事実上の基準として確立されている。
ところが,被告製品には,傷を消すといった効果はなく,塗布後の光沢度において原告製品より7ないし8ポイント低く,脱脂後の光沢度において,10ないし13ポイント低い。
したがって,被告製品は,その品質において,鏡面性,すなわち小さな傷を簡単に,かつ持続的に除去する効能が欠けており,鏡面との表示に伴う品質を具備していない。そうすると,被告が被告製品に「鏡面」との表示を使用することは,不競法2条1項13号所定の品質誤認行為に該当する。
(被告の反論) 不競法2条1項13号の適用に当たっては,社会通念上,公平性のある客観的な基準に照らして,品質誤認を惹起するか否かにより判断すべきである。
原告の主張する鏡面性に関する品質基準は,未だ確立していない。「鏡面」と表記された場合の品質表示は,具体的な数字で値を設定できるような客観的な品質を一義的に導き出し得る性質の表示ではない。したがって,被告製品が「鏡面」との表示に伴う品質を具備していないとの原告の主張は失当である。
(4) 争点(4)(損害の額)について (原告の主張) 被告が,平成14年11月以来弁論終結時まで被告製品を製造販売したことにより,原告製品との混同が継続的に発生し,その結果,原告の売上高は,平成14年から平成15年の間に1105万6500円減少した。そして,原告の利益率は50パーセントであるから,原告は,552万8250円(1105万6500円×0.5=552万8250円)の損害を被った。 (被告の反論) 争う。
当裁判所の判断
1 事実認定 前記争いのない事実等,証拠(甲2,4の1,2,乙4ないし10,13の1ないし13)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができ,これを覆すに足りる証拠はない。
(1) 原告製品と被告製品の各容器の形状等について ア 原告製品の容器の形状等 原告製品の容器の形状等は別紙目録(5)ないし(7)のとおりであり,配色がそれぞれ異なるものの,いずれの製品も以下の形状等を有している。
(ア) 容器の外形・大きさ 容器の外形は,背の低い円筒型であり,その大きさは,直径12.5cm,高さ8cmである。蓋と本体の高さの割合は,ほぼ1対2である。
(イ) 容器本体外周面の記載 容器本体外周面には,2か所に「鏡面Wax」が表記されている。同表示は,各文字を傾斜させて記載され,「鏡面」の文字部分は,明朝体様の字体で記載され,上部から下部に向けて白色から黄色に色彩を変化させたグラデーションが施され,「Wax」の文字部分は,ゴシック体様の字体で記載され,上部から下部に向けて,赤色を次第に濃く色彩を変化させたグラデーション表示が施されている。「鏡面」の文字部分は,「Wax」の文字部分より,大きく記載されている。
「Wax」の文字部分の上側には「キズ消し・光沢」と記載されている。また,2か所の「鏡面Wax」の間には,いずれも「WILLSON」との文字が楕円形で囲まれた表示(「原告標章WILLSON部分」と同一の表示)が記載されている。
(ウ) 容器底面の記載 容器底面には,最上段には「WILLSON」(「原告標章WILLSON部分」と同一の表示),「鏡面Wax」の文字が,その下には「キズが消えて,ボディが輝く!」,「●光学レンズ磨き用の超微粒子パウダーが,細かいキズ・洗車キズ,ボディのシミ・水アカ汚れをみるみる消します。」,「●鏡面光沢樹脂により,もう一度新車の磨きがよみがえります。」の文字が,下段には原告の商号等が,それぞれ記載されている。
(エ) 容器の蓋の記載 容器の蓋の外周部分には,黄色字で「輝く!!」と大きく記載され,その左側には,2段にわたり「洗車キズ,磨きキズなどの」(黄色字),「小キズが消え」(白色字)と記載されている。これらの文字は,いずれもやや傾斜させて同一の字体で記載されている。「小キズが消え」,「輝く!!」の部分は,それぞれ異なった大きさの横に細長い帯状の枠で囲まれている。これらの記載は,正面及び背面の2か所に表記されている。蓋の上面部分には,「鏡面仕上げ」,「細かい洗車キズ,磨きキズがみるみる消える!!」と記載されている。
イ 被告製品の容器の形状等 (ア) 被告製品1及び2 被告製品1及び2の容器の形状等は別紙目録(1)及び(2)のとおりであり,配色がそれぞれ異なるものの,いずれの製品も以下の形状等を有している。
a 容器の外形・大きさ 容器の外形は,背の低い円筒型であり,大きさは直径12cm,高さ8.5cmである。蓋と本体の高さの割合は,ほぼ1対2である。
b 容器本体外周面の記載 容器本体外周面には,「鏡面ツヤ出しワックス」(被告標章1)との表示が,ゴシック体様の字体で,被告製品1については青色と白色の,被告製品2については山吹色と白色の縞模様で,それぞれ赤色で縁取りされ,上下2段にわたり記載されている。「鏡面ツヤ出し」の文字部分は「ワックス」の文字部分より,大きく記載されている。「ワックス」の文字部分の左側には,「深みのある豊かなツヤ!車本来の輝きを引き出す!」が,「鏡面ツヤ出し」の文字部分の左側には,「PROSTAFF」が,それぞれ記載されている。これらの記載は,容器本体外周面に,それぞれ2か所ずつ存在する。
c 容器底面の記載 容器底面には,最上段に2段にわたり「鏡面ツヤ出しワックス」の文字が,「ワックス」との文字の左側には「販売名 タケハラ」の文字が,その下には,「深みある豊かなツヤと新車時の輝きを実現!!」の文字が,下段には,「PROSTAFF TAKEHARA」との名称及び本社・工場等の住所等が,それぞれ記載されている。
d 容器の蓋の記載 容器の蓋の外周部分には,1か所,金色字に赤色の縁取りで「輝き!!」の文字が,その左側には,自動車の図柄が,その下には「新車時のような」の文字が,それぞれ記載されている。これらの記載は,横に細長い帯状の枠で囲まれている。蓋の上面部分には,「PROSTAFF」と記載されている。
(イ) 被告製品3 被告製品3の容器の形状等は別紙目録(3)のとおりであり,以下の形状等を有している。
a 容器の外形・大きさ 容器の外形は,背の低い円筒型であり,大きさは直径12cm,高さ8.5cmである。蓋と本体の高さの割合は,ほぼ1対2である。
b 容器本体外周面の記載 容器本体外周面には,「キズ消し鏡面耐久ワックス」との表示が,ゴシック体様の字体で2段にわたり記載されており,「キズ消し鏡面耐久」部分が「ワックス」の部分より大きな文字で記載されている。「鏡面耐久ワックス」との記載の左側には,「小キズを消す!鏡面光沢を実現!」と2段にわたり赤文字で記載され,「キズ消し」との記載の左側には,「PROSTAFF」と記載されている。これらの記載は,容器本体外周面にそれぞれ2か所ずつ存在する。
c 容器底面の記載 容器底面には,最上段に2段にわたり「キズ消し鏡面耐久ワックス」の文字が,「鏡面耐久ワックス」との文字の左側には「販売名 タケハラ」の文字が,その下には,「洗車キズ等の小キズを消して鏡面光沢を復活!!超耐久ワックスで輝きを長時間キープ!!」の文字が,下段には,「PROSTAFF TAKEHARA」との名称及び本社・工場等の住所等が,それぞれ記載されている。
d 容器の蓋の記載 容器の蓋の外周部分には,上方から下方に向けて,緑色から白色に次第に色彩を変えて「消す!!」の文字が,その左側には,使用前及び使用後の写真が,その下に「スリキズ・小キズを」の文字が,それぞれ記載されている。これらの記載は,横に細長い帯状の枠で囲まれている。蓋の上面部分には,「PROSTAFF」と記載されている。
(2) 「鏡面」を含む商標の出願状況等 ア エステー化学株式会社(以下「エステー化学」という。)による出願(乙7) エステー化学は,平成11年8月20日,指定商品に商品区分第3類のつや出し剤,研磨剤を含む,標準文字「鏡面」を商標とする商標登録出願(商願平11-75171号)をした。
これに対し,特許庁審査官は,研磨方法において,鏡面加工,鏡面研削によって,表面を光沢のある鏡面に仕上げることが,該業界において普通に行われており,前記商標を指定商品中,研磨に使用する商品,例えば,「研磨紙等」に使用しても,鏡面加工するための商品であること,すなわち該商品の品質を表示した文字からなるものと理解させるにとどまり,需要者・取引者が何人かの業務に係る商品であるかを認識できない商標であるとして,商標法3条1項3号に該当し,また,前記商品以外の商品に使用するときは,同法4条1項16号に該当するとの平成12年9月8日(発送日)付拒絶理由通知書を発し,その後,前記登録出願に対し,拒絶査定をした。
イ 原告による出願(乙8) 原告は,平成11年11月8日,指定商品を商品区分第3類のつや出し剤とし,標準文字「鏡面コンパウンド」を商標とする商標登録出願(商願平11-100917)をした。
これに対し,特許庁審査官は,前記商標は,指定商品との関係において,「鏡のように滑らかな表面仕上げをするための,粒子が細かい蝋状の研磨・つや出し剤」ほどの意味を容易に認識させるものであり,これをその指定商品中,上記文字に照応する商品に使用するときは,単に商品の品質,用途,形状を表示するにすぎないして,前記商標が商標法3条1項3号に該当し,前記商品以外の商品に使用するときは,同法4条1項16号に該当するとの平成12年9月1日(発送日)付拒絶理由通知書を発し,その後,前記登録出願に対し,拒絶査定をした。
(3) 被告製品及び他社製品における「鏡面」との表示の使用状況等 ア 被告の製造に係る製品 被告が平成8年8月に作成した被告製品のカタログ(乙5)には,「鏡面仕上げクリーナーキット」との商品名の商品が掲載されている。この商品の包装には,「光沢の復元・汚れ取りに」,「気になる雨ジミも簡単に除去」,容器には,「鏡面仕上げに最適」,「汚れ取り・ツヤ出し・・」と記載されている。
また,同じ商品が,平成9年4月30日発行の雑誌「カーアクセサリーガイド’97」(乙6)にも掲載されている。
イ 株式会社リンレイ(以下「リンレイ」という。)製のワックス 乙2添付の「カーグッズマガジン Vol.22 2002年11月号」においては,リンレイ製の「光沢復元ワックス」が,「キズ消しタイプ」のワックスとして紹介されている。この商品の容器の蓋部分には,「細かな洗車キズ・磨きキズを消し表面ツルツル! キズ消し! 鏡面仕上げ!」との記載がある。
ウ 乙4記載のつや出し剤 乙4(被告代理人作成に係る平成16年2月1日付の報告書面)には,以下の商品についての記載がある。
(ア) タイホー工業株式会社製のつや出し剤 タイホー工業株式会社製のつや出し剤の容器の本体部分には,「キズ消し鏡面」との記載がある。また,蓋部分には,「光沢復元率100%」との記載がある。なお,甲25の2にも,同様の記載がある容器を使用したタイホー工業株式会社製のつや出し剤の写真が掲載されている。
また,他のタイホー工業株式会社製のつや出し剤の容器には,「鏡面ツヤ出し」,「洗車キズ・水アカ クスミを除去」との記載があるほか,「鏡面仕上げ剤専用セット」なる商品も存在する。
(イ) 株式会社オカモト製のつや出し剤 株式会社オカモト製のつや出し剤の容器には,「キズ・くすみ・汚れ解消!」,「鏡面仕上げコンパウンド」との記載がある。
(ウ) リンレイ製のつや出し剤 リンレイ製のつや出し剤(「MiraX」)の容器には,「光沢復元」,「鏡面仕上げ」との記載がある。
エ 乙13の1ないし13記載のつや出し剤 乙13の1ないし13は,いずれも,被告会社の従業員が,平成16年4月23日,愛知県稲沢市所在のラビット稲沢店において,自動車用つや出し剤の販売状況及び販売品を撮影した写真である。同書証によれば,原告製品及び被告製品は,いずれも,他の製品と区別されることなく,共に棚に並べて販売されていることが明らかである。そして,同書証によれば,同日現在,原告製品及び被告製品以外にも,以下のような「鏡面」との表現を容器・包装等に使用した商品が販売されていた。
(ア) SOFT99コーポレーション製のつや出し剤(液体のもの。乙13の2ないし4) SOFT99コーポレーション製のつや出し剤(液体のもの)の容器には,その正面に「素早くキズを消す」,「超ミクロンコンパウンド」,「強力鏡面仕上げ」,「磨いて磨いて輝き復活!」などと記載されている。また,その包装には,その正面に「キズ消し超鏡面仕上げ用」,「愛車のボディから小キズを消し去る」などと記載され,その背面には,「超ミクロンコンパウンド液体セット ●超鏡面仕上げ,つや出し ●小キズ,洗車キズ消し・・・」などと記載されている。
(イ) SOFT99コーポレーション製のつや出し剤(固体のもの。乙13の5) SOFT99コーポレーション製のつや出し剤(固体のもの)の容器には,その正面に「キズ消し&超鏡面仕上げ」,「超ミクロン粒子パワー ●超鏡面仕上げ,つや出し ●小キズ,洗車キズ消し・・・」などとの記載が,その背面には「塗面をやさしくリフレッシュし,光沢を取り戻します。」,「●ツヤ引けの原因,劣化塗膜や細かなスリキズ,シミを消し去り,光沢感のある塗装面を復活させます。」などとの記載がある。
(ウ) SOFT99コーポレーション製のつや出し剤(黒色容器入りの液体のもの。乙13の6) SOFT99コーポレーション製のつや出し剤(黒色容器入りの液体のもの)の容器には,その正面に「システムでできる超光沢仕上げ」,「超鏡面用」などとの記載が,その背面には,「●超鏡面に塗装を仕上げるスーパーコンパウンド。●0.5ミクロンのケタ違いの微粒子が驚くほどの光沢を出します。・・・」などとの記載がある。
(エ) リンレイ製のつや出し剤(乙13の7,8) リンレイ製のつや出し剤の容器正面には,「光沢復元」と記載され,その蓋部分には,「細かな洗車キズ・磨きキズを消し表面ツルツル! キズ消し! 鏡面仕上げ!」との記載がある。また,蓋の上面部分には,「ボディ表面の細かなキズを消し 写像性の高い鏡面光沢を実現! 鏡面仕上げ!」,「鏡面光沢復元特殊成分配合」などとの記載がある。
(オ) リンレイ製のつや出し剤(「MiraX」,乙13の9,10) リンレイ製のつや出し剤(「MiraX」)の包装の正面には,「ボディの細かなキズを消し,鏡のような光沢を復元」,「鏡面仕上げ」との記載が,一方の側面には,「塗装をくもらせる細かなキズを取除き 透明感のある鏡面光沢を実現」との記載が,他方の側面には,「キズを消し光沢を復元!!」,「1 ナノパウダーでキズを消す」,「2 鏡のような光沢を復元」との記載が,上面には,「鏡面仕上げ」との記載がある。
また,乙13の10の製品(乙4記載のリンレイ製のつや出し剤と同一の製品)の容器にも,その正面に「光沢復元」,「ボディの細かなキズを消し,鏡のような光沢を復元」,「鏡面仕上げ」との記載が,その背面に「塗装をくもらせる細かなキズを取除き 透明感のある鏡面光沢を実現」,「キズを消し光沢を復元!!」,「1 ナノパウダーでキズを消す」,「2 鏡のような光沢を復元」との記載がある。
(カ) 乙13の11及び12のつや出し剤 乙13の11及び12のつや出し剤の包装には,その正面及び上面に,「キズ消し鏡面クリーナーPRO」との記載が,背面に,「驚異のキズ消し性能&ツヤ出し!!」,「POINT1 車の塗装面のキズを消すのに最も適した高品質の超微粒子特殊アルミナを配合。細かいキズ,洗車キズを誰でも簡単・キレイに消して滑らかな仕上がりが実現。」,「POINT2 高品質カルナバロウの働きで,キズを消した塗装面にWAX被膜を形成。美しいツヤ&きわだった光沢が得られ,鏡面状態に仕上がります。」との記載が,側面に「ツヤ復活!!鏡面仕上げ」との記載がある。
(キ) 乙13の13のつや出し剤 乙13の13のつや出し剤の容器の本体部分には「キズ消し鏡面」の,蓋部分には「洗車キズ拭きキズを消して光沢復元率100%」との記載がある。
2 争点(1)(商標権侵害の有無)について (1) 原告商標と被告標章1の類否 ア 原告商標について 原告商標は,原告の商号の一部である「ウイルソン」を英文字で表示したもの(WILLSON)を楕円で囲んだもの(「原告標章WILLSON部分」)及び「鏡面」との文字部分(原告商標鏡面部分)を,いずれもほぼ同じ縦の長さの文字を用い,左から順に横書きした構成を有している。横幅については,英文字部分が鏡面部分より長い(甲11)。
「鏡面」とは,一般に,「鏡やレンズの表面」という意味を有する語であり,この表示を自動車用つや出し剤に使用した場合には,需要者は,当該表示を,商品の品質又は効能を示す表示であると理解すること,前記のとおり,原告商標の登録以前に,「鏡面」及び「鏡面コンパウンド」の各商標登録出願が同様の理由により拒絶査定を受けていること,原告商標の登録以前から,被告の販売する製品において「鏡面」との文字が使用されていたこと,現在においても,原告及び被告以外にも,同業他社が,「鏡面」との文字を用いた商品(自動車用つや出し剤)を多数販売していること等の事実に照らすならば,原告商標鏡面部分は,商品の品質又は効能を示す表示であって,自他商品の区別する上での格別の識別力を有しないものと認められる。
他方,「原告標章WILLSON部分」は,本件においては,原告の商号の一部を示す表示と認識されるから,識別力を有するものと認められる。
したがって,原告商標は,「原告標章WILLSON部分」のみが自他商品の識別力を有する部分(要部)であるというべきである。
これに対し,原告は,原告商標は,「原告標章WILLSON部分」及び原告商標鏡面部分とが結合された商標であり,それぞれの部分が原告商標の要部である旨主張するが,上記に判示したところに照らして,到底採用することができない。
イ 被告標章1について 被告標章1は,「鏡面ツヤ出しワックス」と2段にわたり横書きした文字標章であり,「鏡面」,「ツヤ出し」及び「ワックス」の各語を連結して構成されたものである。「ワックス」とは,「ろう,特に床・金具・板金などのつや出しに使うものや,滑りをよくするためにスキーの滑走面に塗るもの」を意味する語であるから,被告製品の種類等を示すものと認識され,また,「ツヤ出し」の部分は「金属・木・石などを磨いたり塗料を塗ったりしてつやを出すこと」を意味し,製品の性質ないしは効用を示すものと認識されるから,いずれの部分も自他識別力を有しない。
また,前記アで判示したところに加え,前記1,(3),ウ及びエのとおり,「鏡面」の表示は,他社の自動車用つや出し剤においても,「キズ消し」などの当該製品が傷を消す効果を有する旨を示す表記と共に用いられ,さらに,「新車のような輝き」,「光沢感のある塗装面を復活させます」など,当該つや出し剤の使用により輝きや光沢を得られる旨の表記と共に用いられていることに照らすと,被告標章1の「鏡面」との部分も,「鏡の面のような光沢・輝きを出すことができる」という製品の品質ないし効果を表すものと認識されると解される。そうすると,この部分が格別の自他識別力を有するということはできない。
原告は,被告標章1の要部は,「鏡面」の部分である旨主張するが,上記の判示に照らし,採用することができない。
ウ 小括 以上によれば,原告商標と被告標章1との類似性は,原告商標の上記の要部と被告標章1の全体とを対比して判断すべきである。
そうすると,原告商標の要部である「原告標章WILLSON部分」(「WILLSON」を楕円で囲んだもの)と被告商標1「鏡面ツヤ出しワックス」とは,称呼,外観,観念のいずれも異なるから,原告商標と被告標章1とは類似しない。
よって,原告商標と被告標章1とは類似せず,被告が被告標章1を使用する行為は,原告商標権を侵害しない。
(2) 原告商標と被告標章2の類否 ア 被告標章2について 被告標章2は,「鏡面耐久ワックス」と横書きした文字標章であり,「鏡面」,「耐久」及び「ワックス」の各用語を連結して構成されたものである。
「鏡面」及び「ワックス」の各部分が自他識別力を有しないことは,前記(1)イのとおりである。また,「耐久」とは,「長く持ちこたえること。長持ち。」を意味する語であり,製品の性質ないし効用を示すものと認識されるから,この部分も格別の自他識別力を有しない。
イ 小括 以上によれば,原告商標と被告標章2との類似性は,原告商標の上記の要部と被告標章2の全体とを対比して判断すべきである。
そうすると,原告商標の要部である「原告標章WILLSON部分」(「WILLSON」を楕円で囲んだもの)と被告標章2「鏡面耐久ワックス」とは,称呼,外観,観念のいずれも異なるから,原告商標と被告標章2とは類似しない。
よって,原告商標と被告標章2とは類似せず,被告が被告標章2を使用する行為は,原告商標権を侵害しない。
(3) まとめ よって,原告の原告商標権侵害を理由とする請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。
3 争点(2)(不競法2条1項1号該当性)について (1) 原告製品の容器の形状等の商品等表示性 原告は,原告製品の容器の形状等の原告表示@ないしCが原告製品の商品等表示であるなどと主張するので,以下,この点について検討する。
ア 容器の外形・大きさ(原告表示@,A) 乙11の1ないし6によれば,自動車用つや出し剤において,原告製品のように,容器の外形が背の低い円筒型となっている製品は,原告製品の販売前から多数販売されていたことが認められる。したがって,原告製品の容器の外形は,他の同種製品と識別し得る独特の特徴的な形態とはいえず,商品等表示とはならない。
また,原告製品の容器の大きさ及び蓋と容器本体の大きさの比率についても,証拠(乙11の1ないし6,乙13)及び弁論の全趣旨によれば,他の同種製品と大きく異なる点があるとは認められないから,他の同種製品と識別し得る独特の特徴的な形態とはいえず,商品等表示とはならない。
イ 容器本体外周面の表示(原告表示B) 原告製品の容器本体外周面には,「鏡面Wax」との表示が存在する。
「鏡面Wax」との表示は,前記1(1)ア(イ)のとおり,「鏡面」との文字部分と「Wax」の文字部分を組み合わせた表示であるところ,前記2(1)ア及びイのとおり,「鏡面」の部分は,「鏡の面のような光沢・輝きを出すことができる」という製品の品質ないし効用を認識させるものにすぎず,「Wax」の部分は,「ワックス」を指す英単語と容易に認識され,製品の種類を示す語であると認識される。そうすると,これらを組み合わせた「鏡面Wax」の表示は,出所表示機能を有するとは認められず,原告製品の商品等表示とはなり得ない。
ウ 容器の蓋の表示(原告表示C) 原告製品の容器の蓋には,横長帯状の枠で囲まれた「輝く!!」との表示がある。原告製品がつや出し剤であることに鑑みると,「輝く」との部分は,その性質を示すありふれた表現であり,「!!」の部分も,これが付された文字を強調する表現であると認識される。さらに,横長帯状の模様も,従来から使用されてきた模様にありふれた着色をしたものである。
そうすると,容器の蓋の上記表示は,原告製品の商品等表示とはなり得ない。
エ 小括 以上のとおり,原告製品の原告表示@ないしCは,いずれも商品等表示とはいえない。
(2) 原告製品の容器等と被告製品の容器等の類否 以上認定判断したとおり,原告製品の原告表示@ないしCは,商品等表示とはいえない。原告が,原告製品と被告製品とは容器の形状等が全体として類似する旨主張していることに鑑み,念のため,この点についても,補足して判断する。
ア 原告製品と被告製品1及び2 (ア) 前記1(1)のとおり,原告製品と被告製品1及び2との間には,容器の外形が円筒状であるほか,その大きさがほぼ同じであること,容器の蓋部分には,横長帯状の模様が記載され,この模様に囲まれて黄色文字で「輝き!!」ないし「輝く!!」というほぼ同一の観念を生じしめる表示がされていること,容器外周面には,大きく「鏡面」及び「Wax」(被告製品1及び2においては,称呼は同一であるものの「ワックス」と記載されている。)の文字を含む表示が記載されていることにおいて共通する。
しかし,前記(1)で判断したとおり,これらの点は,いずれも商品の出所識別力を有しない表示部分が共通しているにすぎないから,不競法2条1項1号の不正競争行為の有無には影響しない。
(イ) 具体的な表示態様等を対比すると,最も需要者の注意を引く部分と認められる原告製品の「鏡面Wax」との表示と被告製品1及び2の「鏡面ツヤ出しワックス」との表示態様は,以下のとおり大きく異なる。
原告製品においては,「鏡面Wax」の表示は,横一列に全体的に斜めに記載され,「鏡面」の文字部分は,明朝体様の文字で,文字の下部から上部に向かって黄色から白色へ連続して色彩を変化させたグラデーション表示が,「Wax」の文字部分は,ゴシック体様の文字で,文字の下部から上部に向かって濃い赤色へ連続して色彩を変化させたグラデーション表示が,それぞれ施されているのに対して,被告製品1及び2においては,「鏡面ツヤ出しワックス」の表示は,ゴシック体様の文字で,被告製品1については青色と白色の,被告製品2においては,山吹色と白色の縞模様で,かつ赤色で縁取りされた態様で,上下2段にわたり記載され,両者は,「ワックス」の部分に英語とカタカナの違いがあるほか,字体及び配色において異なっており,外観が大きく相違する。 また,容器全体の配色及び模様も,原告製品においては,容器本体,蓋部分とも黒色,銀色,白色などの配色がされ,「鏡面Wax」の表示部分の背景部分には,放射線状の模様が記載されているのに対して,被告製品1においては全体の配色が濃い青色に,被告製品2においては,本体部分が白色,蓋部分が赤色とされており,容器全体から受ける印象が大きく異なる。
さらに,原告製品並びに被告製品1及び2のいずれにおいても,「鏡面Wax」や「鏡面ツヤ出しワックス」という注意を引く部分の横に,原告製品においては原告商号を英文字表記したものを楕円形で囲った表示(「原告標章WILLSON部分」と同一)が,被告製品1及び2においては「PROSTAFF」の表示がされている。蓋部分の表示についても,原告製品においては高さの異なる2つの横線の模様のある横長の枠で囲まれた「輝く!!」との表示,及び「小キズが消え」などと記載されて,全体として「小キズが消え,輝く!!」との印象を与えているのに対して,被告製品1及び2においては,横長の枠には横線の模様はなく,「輝き!!」の表示の左側には,青色の自動車の絵が記載され,その下に「新車時のような」と記載され,全体として「新車時のような輝き!!」との印象を与えている点で,異なっている。
(ウ) 以上の点に加え,別紙目録(5)ないし(7)の原告製品の写真と別紙目録(1)及び(2)の被告製品1及び2の写真とを対比してみると,原告製品の容器の形状等と被告製品1及び2の容器の形状等とは,全体としてみても類似していないというべきである。
イ 原告製品と被告製品3 (ア) 前記1(1)のとおり,原告製品と被告製品3との間には,容器の外形が円筒状であるほか,その大きさがほぼ同じであること,容器の蓋部分には,横長帯状の模様が記載されていること,容器外周面には,大きく「鏡面」及び「Wax」(被告製品3においては,称呼は同一であるものの「ワックス」と記載されている。)を含む表示が記載されていることにおいて共通する。
しかし,前記(1)で判断したとおり,これらの点は,いずれも商品の出所表示力を有しない部分の表示が共通しているにすぎないから,不競法2条1項1号の不正競争行為の有無には影響しない。
(イ) 具体的な表示態様等を対比すると,最も需要者の注意を引く部分と認められる原告製品の「鏡面Wax」との表示と被告製品3の「キズ消し鏡面耐久ワックス」との表示態様は,以下のとおり大きく異なる。
原告製品においては,「鏡面Wax」の表示は,横一列に全体的に斜めに記載され,「鏡面」の文字部分は,明朝体様の文字で,文字の下部から上部に向かって黄色から白色へ連続して色彩を変化させたグラデーション表示が,「Wax」の文字部分は,ゴシック体様の文字で,文字の下部から上部に向かって濃い赤色へ連続して色彩を変化させたグラデーション表示が,それぞれ施されているのに対して,被告製品3においては,「キズ消し鏡面耐久ワックス」の表示は,ゴシック体様の斜めの文字で,白色の文字を金色で縁取りした態様で,上下2段にわたり記載され,両者は,「ワックス」の部分に英語と片仮名の違いがあるほか,字体及び配色において異なっており,外観が大きく相違する。 また,容器全体の配色及び模様も,原告製品1ないし3では,それぞれ,容器本体,蓋部分とも黒色,銀色,白色などの配色がされ,「鏡面Wax」の表示部分の背景部分には,放射線状の模様が記載されているのに対して,被告製品3においては全体の配色が下側から蓋部分を含めた上側にかけて,白色から灰色を経て黒色になるというグラデーションが施されており,容器全体から受ける印象が大きく異なる。
さらに,原告製品及び被告製品3のいずれにおいても,「鏡面Wax」や「キズ消し鏡面耐久ワックス」という注意を引く部分の横に,原告製品においては原告商号を英文字表記したものを楕円形で囲った表示(「原告標章WILLSON部分」と同一),被告製品3においては「PROSTAFF」の表示がされている。蓋部分の表示についても,原告製品においては高さの異なる2つの横線の模様のある横長の枠で囲まれた「輝く!!」との表示,及び「小キズが消え」などと記載され,全体として「小キズが消え,輝く!!」との印象を与えているのに対し,被告製品3においては,横長の枠には横線の模様はなく,「スリキズ・小キズを」,「消す!!」と記載され,全体として「スリキズ・小キズを消す!!」との印象を与えている点で,異なっている。
(ウ) 以上の点に加え,別紙目録(5)ないし(7)の原告製品の写真と別紙目録(3)の被告製品3の写真とを対比してみると,原告製品の容器の形状等と被告製品3の容器の形状等とは,全体としてみても類似しないというべきである。
(3) 小括 よって,原告の不競法2条1項1号に基づく請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。
4 争点(3)(不競法2条1項13号該当性)について (1) 判断 前記2(1)イのとおり,つや出し剤の容器等に「鏡面」との表示がされた場合には,当該つや出し剤が,「鏡の面のような光沢・輝きを出すことができる」という製品の品質ないしは効用を有するものと認識されるものといえる。
そして,前記認定のとおり,「鏡面」との表示が自動車用つや出し剤に広く使用されていることからすれば,そこで用いられている「鏡面」とは,厳密に「鏡の面のような光沢・輝き」を出すことができることまで意味するものではなく,当該つや出し剤を使用した場合に,自動車の表面がかなりな程度「鏡の面のような光沢・輝き」を出すことができる製品であることを示す表示であると需要者は理解しているものと推認できる。被告製品がそのような意味での「鏡の面のような光沢・輝き」を出すことができない製品であることを認めるに足りる証拠はない。
かえって,甲28の2によれば,被告製品の「光沢値」が,原告製品を含めた他の製品とほぼ同じ値を有していることが認められる。
そうすると,被告製品において用いられている「鏡面」との表示が,不競法2条1項13号にいう商品の品質を誤認させるような表示であると認めることはできない。
(2) 原告の主張について ア 「鏡面ワックス」の品質の基準について 原告は,「鏡面ワックス」は,傷ついた塗装表面を平坦にする効果と,さらにその表面にワックス被膜を形成し,つやのある滑らかな表面外観を得る効果を併せ有するものであり,このような品質基準は,当業界において,事実上の基準として確立されている旨主張し,これに沿う証拠であるとして甲29の1ないし甲31の2を提出する。
しかし,甲29の1,2では,「正しい洗車術」が紹介されているが,「鏡面」ないしは「鏡面ワックス」について何の記載もされておらず,したがって,甲29の1,2から「鏡面」ないしは「鏡面ワックス」の品質について何らかの基準を読み取ることはできない。甲30の1ないし5については,甲30の4において,「ペイントシールド」という名称の塗装保護剤を塗布する作業の内容の1つとして「鏡面処理 塗装面をさらに磨き上げ鏡面加工仕上げ」と記載されているが,これは,「ペイントシールド」の作業内容の1つにすぎず,「鏡面ワックス」に関するものではない。また,甲31の1,2においては,「必見!超鏡面磨き世界(シングル磨き)」として,自動車の塗装面につき「鏡面仕上げ」を行う方法が記載されているが,「鏡面ワックス」については何の記載もない。そうすると,前記各証拠から,「鏡面ワックス」の品質に関し,原告が主張するような基準が存在すると認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
イ 原告製品と被告製品との比較実験について 原告は,原告製品と被告製品とを比較する実験を行った結果,被告製品は,原告製品よりも光沢度が劣っていることが明らかであるから,被告製品は,前記の品質基準を満たしていない旨主張する。
しかし,「鏡面」の品質に関し,原告の主張する内容の基準が存在するとは認められないことは前記アのとおりであるから,原告の主張はその前提を欠く。
さらに,被告製品の光沢度が原告製品の光沢度を下回るとしても,被告製品の光沢度が,「鏡の面のような光沢・輝きを出すことができる」との品質を有するというには不十分であることを認めるに足りる証拠はない以上,被告製品が,「鏡の面のような光沢・輝きを出すことができる」品質を有しないものと認定することはできないし,仮に「鏡面」の品質に関し,原告の主張する内容の基準が存在したとしても,原告の実験結果は,被告製品の効用が原告製品を下回るものであることを示すものにすぎず,原告の主張する基準を満たさないことを示すものではなく,前記判断を左右するものとはいえない。
(3) 小括 したがって,原告の不競法2条1項13号に基づく請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。
結論
以上のとおり,原告の請求はいずれも理由がない。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 榎戸道也
裁判官 神谷厚毅