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事件 平成 25年 (行ケ) 10090号 審決取消請求事件 
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2014/01/29
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成26年1月29日判決言渡

平成25年(行ケ)第10090号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成25年11月26日

判 決



原 告 株式会社ビルドランド



訴訟代理人弁理士 中 畑 孝

市 橋 俊 一 郎

三 田 大 智



被 告 株 式 会 社 デ ー ロ ス



訴訟代理人弁護士 藤 原 誠

安 田 嘉 太 郎

谷 中 克 行

伊 丹 香 寿 美

川 向 隆 太

増 山 晋 哉

橋 本 薫

垣 内 大 河

藤 原 尚 樹

疋 田 優

大 塚 千 代



主 文




特許庁が取消2012−300362号について平成25年2月22日

にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。



事 実 及 び 理 由

第1 原告の求めた判決

主文同旨。



第2 事案の概要

本件は,商標法50条1項に基づく不使用取消審判請求を認めた審決の取消訴訟

である。争点は,@指定商品又は指定役務についての登録商標使用の有無及びA被

告による審判請求が権利濫用か否かである。



1 登録商標

(1) 本件商標

原告代表者Aは,次の商標(本件商標)の設定登録を受けた。(甲1,20)



「 デーロス 」(標準文字)

@ 登録番号 第4857066号

A 出 願 日 平成16年 8月27日

B 登 録 日 平成17年 4月15日

C 商品及び役務の区分並びに指定商品及び指定役務

第 7類 土木機械器具,荷役機械器具

第37類 建設工事,土木機械器具の修理又は保守,土木機械器具の貸与

(2) 商標権者

Aは,平成20年1月10日,原告に対して本件商標権を移転し,同月25日付




けで上記移転登録がされた。(甲20,21)



2 特許庁における手続の経緯

(1) 本件審判の請求

被告は,平成24年5月7日付けで,特許庁に対し,商標法50条1項に基づき,

上記1Cの指定商品及び指定役務のすべてについて本件商標の使用がされていない

として,本件商標登録を取り消すことについて審判を請求した(取消2012−3

00362号)(甲16,20)


(2) 本件審判の請求の登録

特許庁は,平成24年5月25日,上記(1)の審判の請求の登録をした。
(甲20)

(3) 審決

特許庁は,平成25年2月22日,
「登録第4857066号商標の商標登録は取

り消す。」との審決をし,その謄本は同年3月4日に原告に送達された。



3 審決の理由の要点

審決は,次のとおりに認定判断して,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国

内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが請求に係る指

定商品又は指定役務について,本件商標の使用をしていたことが証明されたもので

はないとした。

(1) 被告(通常使用権者)による建設工事の役務における使用について

A又は原告と被告との間で本件商標の使用に関する合意がされていたとは認めら

れないから,被告は本件商標権の通常使用権者ではない。

(2) 原告(商標権者)による建設工事の役務における使用について

原告が本件商標を建設工事の役務に使用していたとは認められない。

(3) 株式会社デーロス・ジャパン(通常使用権者)による建設工事の役務にお

ける使用について




株式会社デーロス・ジャパン(デーロス・ジャパン)は,本件商標の通常使用権

者と認められるが,デーロス・ジャパンが本件商標を建設工事の役務に使用してい

たとは認められない。

(4) その他の指定商品及び指定役務について

商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが,本件商標をその指定商

品又は指定役務について使用していたということはできない。

(5) 権利濫用について

本件審判請求が権利濫用により不適法なものとはいえないから,商標法50条

準用する特許法135条により本件審判請求を却下すべきものではない。



第3 原告主張の審決取消事由

1 取消事由1(登録商標使用の有無)

(1) 被告(通常使用権者)による使用

@ 原告,被告及びAとの間の平成19年12月24日付け合意書(甲3。
「本件

合意書」,平成20年1月22日付け協議録(甲4。
) 「1月協議録」)及び平成20

年2月9日付け協議録(甲5。「2月協議録」)は,A及び原告が,被告に対し,平

成21年12月23日まで「デーロス」を社名として使用しないことを合意したも

のであるが,これは裏を返せば,A又は原告が,被告に対し,同日まで「デーロス」

を社名として使用することを認めていることであり,すなわち,A又は原告が,被

告に対し,本件商標の使用を許諾したか,又は被告の商号の使用をもって本件商標

の使用としてこれを許諾したものである。

A 被告は,少なくとも,この許諾に基づいて本件商標(商号)を平成21年1

2月23日まで使用していた。

(2) デーロス・ジャパン(通常使用権者)による使用

使用許諾の有無

デーロス・ジャパンは,本件商標権の通常使用権者である。




イ 登録商標と使用商標との社会通念上の同一性

(ア) 使用商標「デーロス・ジャパン」について

「デーロス・ジャパン」は,「デーロス」と「ジャパン」との間に「・」があり,

この「・」にて両者は「デーロス」と「ジャパン」とに明確に区切られているとこ

ろ,
「ジャパン」は商品の販売地,役務の提供場所,法人の国籍等を表すものにすぎ

ず,自他商品・役務の識別機能を有する部分ではないから,
「デーロス」が自他商品・

役務の識別機能を有する要部である。

そうすると,
「デーロス・ジャパン」と本件商標(デーロス)とは,外観称呼

観念のすべてにおいて共通するものであるから,
「デーロス・ジャパン」と本件商標

(デーロス)との間には社会通念上の同一性がある。

(イ) 使用商標「DEROS JAPAN」について

「DEROS JAPAN」は,
「DEROS」と「JAPAN」との間に空白が

あり,この空白にて両者は「DEROS」と「JAPAN」とに明確に区切られて

いるところ,
「JAPAN」は商品の販売地,役務の提供場所,法人の国籍等を表す

ものにすぎず,自他商品・役務の識別機能を有する部分ではないから,
「DEROS」

が自他商品・役務の識別機能を有する要部である。

また,「DEROS」からは,「デロス」の称呼のほかに「デーロス」の称呼も自

然に生ずる(甲40)。

そうすると,「DEROS JAPAN」と本件商標(デーロス)とは,「DER

OS JAPAN」の要部である「DEROS」が本件商標(デーロス)ではアル

ファベット表記であるほかは,称呼観念において共通するものであるから,
「DE

ROS JAPAN」と本件商標(デーロス)との間には社会通念上の同一性があ

る。

指定商品(土木機械器具)についての使用

「スーパーナロースペース\ウォータージェットシステム」との表題の文書(甲

36,37。「甲36・37文書」)




[1]<商標の表示> 甲36・37文書には,「DEROS JAPAN」との表

示がある。

[2]<商品の表示> 甲36・37文書は,土木機械器具に関するパンフレットで

ある。

[3]<商標の使用>

商標法2条3項8号 甲36・37文書は,デーロス・ジャパンがヨシダ印刷

株式会社( )に依頼し平成23年10月に作製されたもの

である。そして,財団法人高速道路調査会主催のハイウェイテクノフェア(甲38

の1・2)の会場,並びに愛知県,名古屋市及び名古屋商工会議所で構成されるメ

ッセナゴヤ実行委員会主催のメッセナゴヤ(甲39の1・2)の会場において,甲

36・37文書は,その中で紹介されている土木機械器具の模型や紹介ビデオと共

に,取引者・需要者に展示又は頒布された。

指定役務(建設工事)についての使用

@「DJプライマー」との表題の文書(甲12の1。「甲12文書」)

[1]<商標の表示> 甲12文書には,
「DEROS JAPAN」
「デーロス・ジ

ャパン」との表示がある。

[2]<役務の表示> デーロス・ジャパンは,靱性モルタルライニング工法と称す

る表面被覆工法を行っているところ(甲24〜29),甲12文書は,靱性モルタル

ライニング工法を用いた建設工事に用いられるDJプライマーと称する建設工事用

接着剤に係るパンフレットである。

[3]<商標の使用>

1)商標法2条3項3号,4号又は5号 甲12文書に記載されているDJプラ

イマーは,上記[1]の表示を付した状態で建設工事の役務の提供の用に供された。

2) 商標法2条3項8号(取引書類) デーロス・ジャパンは,平成22年10

月,日高振興局地域振興部に対し,靱性モルタルライニング工事に関する見積資料

として甲12文書を提出した。




A「靱性モルタルライニング」との表題の文書(甲29。「甲29文書」)

[1] <商標の表示> 甲29文書には,「DEROS JAPAN」「デーロス・

ジャパン」との表示がある。

[2] <役務の表示> 甲29文書は,
「靱性モルタルライニング」と称する表面被

覆工法に係るパンフレットである。

[3]<商標の使用>

商標法2条3項8号 甲29文書は,デーロス・ジャパンが平成20年7月8

日に自社内でグラフィックソフトウェアを用いて作成し,その後更新を重ねてきた

パンフレットである(甲46,47の1〜5,48の1〜28)。甲29文書は,取

引者・需要者に頒布された(甲52〜56)。現に,平成23年3月31日更新に係

る甲29文書は,長野県松本地方事務所に工事施工協議書又は工事打合せ簿に関す

る資料として(甲48の16・17,49,50),平成23年5月10日更新に係

る甲29文書は,上伊那地方事務所に工事施工打合せ簿に関する資料として(甲4

8の18・19,51),それぞれ保管されていた。



B「DJプライマー H」との表題の文書(甲13の1。「甲13−1文書」)

[1] <商標の表示> 甲13−1文書には,「DEROS JAPAN」「デーロ

ス・ジャパン」との表示がある。

[2] <役務の表示> 甲13−1文書は,
「DJプライマー H」と称する建設工

事に用いる打継用エポキシ樹脂接着剤に係るパンフレットである。

[3] <商標の使用>

商標法2条3項3号,4号又は5号 甲13−1文書に記載されているDJプ

ライマリーHは,上記[1]の表示を付した状態で,デーロス・ジャパンがした北陸自

動車道安原川橋工事(甲30の1・2)及び市道B第351号線河南大橋橋梁補修

工事(甲31の1・2)の用に供された。




C平成23年3月22日付け建設工事下請契約書(甲13の2。甲13−2文書」
「 )

[1] <商標の表示> 甲13−2文書には,
「デーロス・ジャパン」との表示があ

る。

[2] <役務の表示> 甲13−2文書は,北陸自動車道安原川橋工事(甲30の

1・2)に係る中日本ハイウェイ・メンテナンス北陸株式会社とデーロス・ジャパ

ンとの間の請負工事契約書である。

[3] <商標の使用> 上記[1]の使用は,商標法2条3項8号(取引書類)の使用

に該当する。



D平成23年11月30日付け工事請負契約書等(甲31の1〜4。以下,まと

めて「甲31文書」という。)など

[1]<商標の表示>

1) 甲31文書には,「デーロス・ジャパン」との表示がある。

2) デーロス ジャパンがした市道B第351号線河南大橋橋梁補修工事に際し,


工事用黒板には「デーロス・ジャパン」との表示があった(甲31の3)。

[2]<役務の表示>

1) 甲31文書は,市道B第351号線河南大橋橋梁補修工事に係る加賀市とデ

ーロスジャパンとの間の工事請負契約書(甲31の1)及び同工事変更請負契約書

(甲31の2)並びに同工事に係る工事写真帳(甲31の3)及び完成写真(甲3

1の4)である。

2) デーロス・ジャパンは,市道B第351号線河南大橋橋梁補修工事をした。

[3] <商標の使用>

1) 上記[1]1)の使用は,商標法2条3項8号(取引書類)の使用に該当する。

2) 上記[1]2)の使用は,商標法2条3項5号の使用に該当する。





E看板(甲15の1・2。以下,まとめて「甲15看板」という。)

[1] <商標の表示> デーロス・ジャパンが使用する事務所ビル(

)前には石看板(甲15の1)と電飾看板(甲15の2)が設置さ

れており,石看板には「デーロス」との表示が,電飾看板には,
「デーロス\ビルデ

ィング」及び「デーロス・ジャパン」との表示がある。なお,
「デーロス\ビルディ

ング」は,
「デ−ロス」と「ビルディング」とを二段書きし,かつ「デーロス」のみ

をデザイン書体で表示しているところ,
「ビルディング」は単に役務の提供場所を表

すにすぎず,自他商品・役務の識別機能を有する部分ではないから,
「デーロス」が

自他商品・役務の識別標識として要部たり得る。したがって,
「デーロス\ビルディ

ング」と本件商標(デーロス)とは,外観称呼観念のすべてにおいて共通する

ものであるから,社会通念上の同一性を有する。

[2] <役務の表示> デーロス・ジャパンは,建設業を主たる業務としており,

そのことは会社案内(甲24)やホームページ(甲25)で容易に確認することが

できる。また,来客(取引者・需要者)は,デーロス・ジャパンが建設業務を行っ

ていることを明確に把握して同社の事務所ビルを訪問する。

[3]<商標の使用> 上記[1]の使用は,商標法2条3項8号(広告)の使用に該

当する。



F「Petapeta工法」との表題の文書(甲32。「甲32文書」)

[1] <商標の表示> 甲32文書には,「DEROS JAPAN」「デーロス・

ジャパン」との表示がある。

[2] <役務の表示> 甲32文書は,Petapeta工法と称するコンクリー

ト構造物の補修,補強,剥落防止工法に係るパンフレットである。

[3]<商標の使用>

商標法2条3項8号 甲32文書は,デーロス・ジャパンが自社内でグラフィ

ックソフトウェアを用いて作成し,その後更新を重ねてきたパンフレットである(甲




57の1〜5)。甲32文書は,取引者・需要者に頒布された。



G「マウスインジェクタ工法」との表題の文書(甲33。「甲33文書」)

[1] <商標の表示> 甲33文書には,「DEROS JAPAN」「デーロス・

ジャパン」との表示がある。

[2] <役務の表示> 甲33文書には,マウスインジェクタ工法と称する低圧樹

脂注入工法に係るパンフレットである。

[3] <商標の使用>

商標法2条3項8号 甲33文書は,デーロス・ジャパンが平成22年3月2

6日に自社内でグラフィックソフトウェアを用いて作成し,その後更新を重ねてき

たパンフレットである(甲58の1〜5)。甲33文書は,取引者・需要者に頒布さ

れた。



H「マウスインジェクタA工法」との表題の文書(甲34。「甲34文書」)

[1] <商標の表示> 甲34文書には,「DEROS JAPAN」「デーロス・

ジャパン」との表示がある。

[2] <役務の表示> 甲34文書には,マウスインジェクタA工法と称する速硬

型低圧樹脂注入工法に係るパンフレットである。

[3] <商標の使用>

商標法2条3項8号 甲34文書は,デーロス・ジャパンが平成22年3月2

6日に自社内でグラフィックソフトウェアを用いて作成し,その後更新を重ねてき

たパンフレットである(甲59の1〜5)。甲34文書は,取引者・需要者に頒布さ

れた。



I「アルマグジョイント」との表題の文書(甲35の1。「甲35文書」)

[1]<商標の表示> 甲35文書には,
「DEROS JAPAN」
「デーロス・ジ




ャパン」との表示がある。

[2]<役務の表示> 甲35文書は,建設工事の用に供する橋梁用伸縮装置に係る

パンフレットである。

[3]<商標の使用>

1)商標法2条3項3号,4号又は5号 甲35文書に記載されているアルマグ

ジョイントは,上記[1]の表示を付した状態で,デーロス・ジャパンがした一般国道

249号橋梁補修工事(剱地大橋)に係る建設工事の用に供された(甲35の2・

3)。

2) 商標法2条3項8号 甲35文書は,デーロス・ジャパンが自社内でグラフ

ィックソフトウェアを用いて作成し,その後更新を重ねて作成してきたパンフレッ

トである(甲60の1〜3)。甲35文書は,取引者・需要者に頒布された。



J会社案内(甲24。「甲24文書」)

[1]<商標の表示> 甲24文書には,
「DEROS JAPAN」
「デーロス・ジ

ャパン」との表示がある。

[2]<役務の表示> 甲24文書には,デーロス・ジャパンの業務内容が表示され

ている。

[3]<商標の使用>

商標法2条3項8号 甲24文書は,デーロス・ジャパンが平成20年2月

29日に自社内でグラフィックソフトウェアを用いて作成し,その後更新を重ねて

きた会社案内である(甲42の1〜33)。甲24文書は,取引者・需要者に頒布さ

れた。



Kホームページ(甲25。「甲25ホームページ」)

[1]<商標の表示> 甲25ホームページには,
「DEROS JAPAN」
「デー

ロス・ジャパン」との表示がある。




[2]<役務の表示> 甲25ホームページでは,デーロス・ジャパンの建設工事の

広告がされている。

[3]<商標の使用> 上記[1]の使用は,商標法2条3項8号の使用に該当する。



L「靱性モルタルTYPE−1N」との表題の文書(甲28の1〜3。以下,ま

とめて「甲28文書」という。)

[1]<商標の表示> 甲28文書には,「デーロス・ジャパン」との表示がある。

[2]<役務の表示> 甲28文書は,「靱性モルタルTYPE−1N」と称する建

設工事に用いる高靱性繊維補強セメント複合材のパンフレットである。

[3]<商標の使用>

商標法2条3項8号 甲28文書は,デーロス・ジャパンが平成21年12月

22日に自社内でグラフィックソフトウェアを用いて作成し,その後更新を重ねて

きたパンフレットである(甲27,43の1〜7,44の1〜5)。甲28文書は,

取引者・需要者に頒布された。現に,平成23年5月10日更新に係る甲28文書

は,関東農政局中信平二期農業水利事業所に材料承諾願に関する資料として保管さ

れていた(甲43の6・7,45,46)。



(3) 原告(商標権者)による使用

@ 甲12文書

甲12文書には,総販売元として原告(ビルドランド)の表示があり,そのほか

は上記(2)エ@のとおり。

A 甲29文書

甲26文書には,製造元として原告(ビルドランド)の表示があり,そのほかは

上記(2)エAのとおり。

B 甲13−1文書

甲13−1文書には,総販売元として原告(ビルドランド)の表示があり,その




ほかは上記(2)エBのとおり。

C 甲13−2文書

上記(2)エCのとおり。

D 甲31文書

上記(2)エDのとおり。



2 取消事由2(権利濫用の有無)

本件合意書,1月協議録及び2月協議録により原告に本件商標の使用を禁じてい

た被告が,原告に対して本件商標の不使用取消審判請求をすることは,権利の濫用

であり,不適法な審判請求として却下すべきである。

したがって,審決の認定判断には,誤りがある。



第4 被告の反論

1 取消事由1(登録商標使用の有無)に対して

(1) 被告(通常使用権者)による使用に対して

@ 本件合意書(甲3)及び1月協議録(甲4)には,商標に関する合意があっ

たことを推認させる何らの記載もない一方で,
「新会社の社名」
(甲3の 2)項)「社


名変更」
(甲4の 1)項)との記載がある。また,2月協議録(甲5)には,
「新会社

商号」「社名変更」との記載がある(甲5の1項)。すなわち,本件合意書,1月

協議録及び2月協議録は,商号に関する合意・協議に係るものにすぎない。

A 単に商号を用いることが,直ちに商標としての使用になるものではない。原

告は,被告の商号(デーロス)の使用が商標としての使用となることの根拠を何ら

示していない。

(2) デーロス・ジャパン(通常使用権者)による使用に対して

使用許諾の有無に対して

原告の主張は争う。




イ 登録商標と使用商標との社会通念上の同一性に対して

(ア) 使用商標「デーロス・ジャパン」について

デーロス・ジャパンと被告とは,ほぼ同じ内容の建設工事を行っており,デーロ

ス・ジャパンと被告とのそれぞれの商品・役務の出所が識別されるためには,被告

商号(デーロス)とデーロス・ジャパンの商号(デーロス・ジャパン)とが区別

でき得るということが前提である。

したがって,
「デーロス・ジャパン」と本件商標(デーロス)との間には,社会通

念上の同一性はない。

(イ) 使用商標「DEROS JAPAN」について

@ 「DEROS JAPAN」は,平易な綴りである「DEROS」と「JA

PAN」という2つの単語で構成され,両者間のスペースも広くはないことからす

れば,一般人としては,両者を一体として捉えるのが通常である。

したがって,
「DEROS JAPAN」と本件商標(デーロス)との間には,社

会通念上の同一性はない。

A 本件商標(デーロス)はギリシャのデロス島にちなむものであり,デロス島

をアルファベット表記した「DEROS」という文字(ただし,正しい英語表記は

「DELOS」である。)から連想される称呼は,「デロス」又は「ディロス」であ

り,「DEROS」が「デーロス」と称呼されることはない。

したがって,
「DEROS JAPAN」と本件商標(デーロス)との間には,社

会通念上の同一性がない。

(ウ) 使用商標「デーロス・ジャパン」
「DEROS JAPAN」について

デーロス・ジャパンは,被告の北陸支店が置かれていた住所に本店を置いて,同

支店が使用していたビルを使用し,同支店において行っていた業務内容とほぼ同じ

建設工事を行っている上,デーロス・ジャパンの従業員は,被告の北陸支店に所属

していた従業員とほぼ同じメンバーである。

したがって,デーロス・ジャパンにおいて,同社の工法と被告の工法とを混同さ




せずに両者を識別させる意図の下にあったのであれば,デーロス・ジャパンとして

は,一体としての「DEROS JAPAN」や「デーロス・ジャパン」を標章と

して使用するはずであって,これを分断した「DEROS」や「デーロス」のみを

標章として使用する意図はないはずである。

したがって,
「デーロス・ジャパン」
「DEROS JAPAN」と,本件商標(デ

ーロス)との間には,社会通念上の同一性がない。

指定商品(土木機械器具)についての使用に対して

甲36・37文書に対して

[1] <商標の表示>に対して 甲36・37文書の自他役務の識別機能は,
「スー

パーナロースペース\ウォータージェットシステム」という標章が果たしており,

甲36・37文書中の「デーロス・ジャパン」
「DEROS JAPAN」との記載

は,甲36・37文書がデーロス・ジャパンのパンフレットであることを示すための

商号としての表示であり,商標としての表示ではない。

[2]<商標の使用>に対して

商標法2条3項8号に対して 甲36・37文書が展示又は頒布されたことを

明らかにする証拠はない。

指定役務(建設工事)についての使用に対して

@甲12文書に対して

[1]<商標の表示>に対して 「DEROS JAPAN」
「デーロス・ジャパン」

との表示は,DJプライマーの販売代理店がデーロス・ジャパンであるとの商号

しての表示であり,商標としての表示ではない。

[3]<商標の使用>に対して

1) 商標法2条3項3号,4号又は5号に対して 甲12文書は,役務の提供(建

設工事)に当たり,役務の提供を受ける者(工事依頼者)が利用する物でも,役務

の提供の用に供する物でもない。

2)商標法2条3項8号に対して 甲12文書が頒布されたことを明らかにする




証拠はない。



A甲29文書に対して

[1]<商標の表示>に対して 甲29文書の自他役務の識別機能は,「靱性モルタ

ルライニング」という部分が果たしていることから,甲29文書中の「DEROS

JAPAN」
「デーロス・ジャパン」との記載は,甲29文書がデーロス・ジャパン

のパンフレットであることを示すための商号としての表示であり,商標としての表

示ではない。

[3]<商標の使用>に対して

商標法2条3項8号に対して

1) 甲29文書が展示又は頒布されたことを明らかにする証拠はない。

2) 広告等を頒布したといえるには,広告等が一般公衆による閲覧可能な状態に

置かれる必要があるが,原告は更新を重ねてデータの存在を明らかにしただけであ

り,それを印刷したものが一般公衆による閲覧が可能な状態に置かれたことを明ら

かにする証拠はない。

3) 甲29文書が配布先に保存されていたとしても,保存者が甲29文書に掲載

された材料を使用したことのない者であれば別段,そうでない限り,甲29文書が

一般公衆による閲覧が可能な状態に置かれたとはいえないところ,甲29文書の保

存先は工事の発注者である。



B甲13−1文書に対して

[1]<商標の表示>に対して 「DEROS JAPAN」
「デーロス・ジャパン」

との表示は,DJプライマーHの総販売代理店がデーロス・ジャパンであるとの商

号としての表示であり,商標としての表示ではない。

[3] <商標の使用>に対して

商標法2条3項3号,4号又は5号に対して




1) 甲13−1文書は,役務の提供(建設工事)に当たり,役務の提供を受ける

者(工事依頼者)が利用する物でも,役務の提供の用に供する物でもない。

2) 原告主張の工事においてDJプライマーHが使用されたことを明らかにする

証拠はない。



C甲13−2文書に対して

原告の主張は争う。



D甲31文書に対して

[1]<商標の表示>に対して

1) 甲31文書の「デーロス・ジャパン」との記載は,契約当事者又は報告者が

デーロス・ジャパンであることを示すための商号としての表示であり,商標として

の表示ではない。

2) 工事写真帳(甲31の3)中の「デーロス・ジャパン」との記載は,請負業

者であるデーロス・ジャパンが発注者の指定した行程に従って工事を行ったことを発

注者に報告するための商号としての表示であり,商標としての表示ではない。

[3]<商標の使用>に対して 甲31文書が展示又は頒布されたことを明らかにす

る証拠はない。



E甲15看板に対して

[1] <役務の表示>に対して 甲15看板そのものから建設工事を連想すること

はできないから,甲15看板は建設工事に関する標章として機能してはいない。



F甲32文書に対して

[1]<商標の表示>に対して 甲32文書の自他役務の識別機能は,「Petap

eta工法」という部分が果たしていることから,甲32文書中の「DEROS J




APAN」「デーロス・ジャパン」との記載は,甲32文書がデーロス・ジャパンの

パンフレットであることを示すための商号としての表示であり,商標としての表示

ではない。

[3]<商標の使用>に対して

商標法2条3項8号に対して

1) 甲32文書が展示又は頒布されたことを明らかにする証拠はない。

2) 広告等を頒布したといえるには,広告等が一般公衆による閲覧可能な状態に

置かれる必要があるが,原告は更新を重ねて作成されたデータの存在を明らかにし

ただけであり,それを印刷したものが一般公衆による閲覧が可能な状態に置かれた

ことを明らかにする証拠はない。



G甲33文書に対して

[1]<商標の表示>に対して 甲33文書の自他役務の識別機能は,「マウスイン

ジェクタ工法」という部分が果たしており,甲33文書中の「DEROS JAP

AN」「デーロス・ジャパン」との記載は,甲33文書がデーロス・ジャパンのパン

フレットであることを示すための商号としての表示であり,商標としての表示では

ない。

[3]<商標の使用>に対して

商標法2条3項8号に対して

1) 甲33文書が展示又は頒布されたことを明らかにする証拠はない。

2) 広告等を頒布したといえるには,広告等が一般公衆による閲覧可能な状態に

置かれる必要があるが,原告は更新を重ねて作成されたデータの存在を明らかにし

ただけであり,それを印刷したものが一般公衆による閲覧が可能な状態に置かれた

ことを明らかにする証拠はない。



H甲34文書に対して




[1]<商標の表示>に対して 甲34文書の自他役務の識別機能は,「マウスイン

ジェクタA工法」という部分が果たしており,甲34文書中の「DEROS JA

PAN」「デーロス・ジャパン」との記載は,甲34文書がデーロス・ジャパンのパ

ンフレットであることを示すための商号としての表示であり,商標としての表示で

はない。

[3]<商標の使用>に対して

商標法2条3項8号に対して

1) 甲34文書が展示又は頒布されたことを明らかにする証拠はない。

2) 広告等を頒布したといえるには,広告等が一般公衆による閲覧可能な状態に

置かれる必要があるが,原告は更新を重ねて作成されたデータの存在を明らかにし

ただけであり,それを印刷したものが一般公衆による閲覧が可能な状態に置かれた

とことを明らかにする証拠はない。



I甲35文書に対して

[1]<商標の表示>に対して 甲35文書の自他役務の識別機能は,「アルマグジ

ョイント」という部分が果たしており,甲35文書中の「DEROS JAPAN」

「デーロス・ジャパン」との記載は,甲35文書がデーロス・ジャパンのパンフレッ

トであることを示すための商号としての表示であり,商標としての表示ではない。

[3]<商標の使用>に対して

商標法2条3項8号に対して

1) 甲35文書が展示又は頒布されたことを明らかにする証拠はない。

2) 広告等を頒布したといえるには,広告等が一般公衆による閲覧可能な状態に

置かれる必要があるが,原告は更新を重ねて作成されたデータの存在を明らかにし

ただけであり,それを印刷したものが一般公衆による閲覧が可能な状態に置かれた

とことを明らかにする証拠はない。





J甲24文書に対して

[1]<商標の表示>に対して 甲24文書中の「DEROS JAPAN」「デー

ロス・ジャパン」との記載は,甲24文書がデーロス・ジャパンの会社案内であるこ

とを示すための商号としての表示であり,商標としての表示ではない。

[2]<役務の表示>に対して 甲24文書は会社案内のパンフレットであり,上記

[1]の表示は建設工事の役務について使用されているものではない。

[3]<商標の使用>に対して

商標法2条3項8号に対して 広告等を頒布したといえるには,広告等が一般

公衆による閲覧可能な状態に置かれる必要があるが,原告は更新を重ねて作成され

たデータの存在を明らかにしただけであり,それを印刷したものが一般公衆による

閲覧が可能な状態に置かれたことを明らかにする証拠はない。



K 甲25ウェブページに対して

[1]<商標の表示>に対して 甲25ウェブページ中の
「DEROS JAPAN」

「デーロス・ジャパン」との表示は,甲25ウェブページがデーロス・ジャパンのホ

ームページであることを示すための商号としての表示であり,商標としての表示で

はない。



L 甲28文書に対して

[1]<商標の表示> 甲28文書の自他役務の識別機能は,「靱性モルタルTYP

E−1N」という部分が果たしており,甲28文書中の「デーロス・ジャパン」と

の記載は,甲28文書がデーロス・ジャパンのパンフレットであることを示すための

商号としての表示であり,商標としての表示ではない。

[3]<商標の使用>

1) 甲28文書が展示又は頒布されたことを明らかにする証拠はない。

2) 広告等を頒布したといえるには,広告等が一般公衆による閲覧可能な状態に




置かれる必要があるが,原告は更新を重ねてデータの存在を明らかにしただけであ

り,それを印刷したものが一般公衆による閲覧が可能な状態に置かれたことを明ら

かにする証拠はない。

3) 甲28文書が配布先に保存されていたとしても,保存者が甲28文書に掲載

された材料を使用したことのない者であれば別段,そうでない限り,甲28文書が

一般公衆による閲覧が可能な状態に置かれたとはいえないところ,甲28文書の保

存先は工事の発注者である。



2 取消事由2(権利濫用の有無)に対して

原告の主張は争う。



第5 当裁判所の判断

1 判断の基礎となる認定事実

下記掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(1) 当事者関係

@ 昭和36年11月2日,被告(当時の商号・田中建設株式会社)が設立され

た。(甲10)

A 平成7年5月15日,原告(ビルドランド)が設立された。(弁論の全趣旨)

B 平成7年6月14日,株式会社サンライト(サンライト)が設立された。
(甲

24)

C 平成16年6月1日,被告(田中建設株式会社)は,「株式会社デーロス」(

)を吸収合併して,商号を「デーロス株式会社」に変更

した。同日,Aは,被告(デーロス)の代表取締役に就任した。(甲2,10)

(2) 本件商標関係

@ 平成16年8月27日,Aは,本件商標(デーロス)の商標登録出願をした。

(甲1)




A 平成17年4月15日,本件商標の設定登録がされた。(甲1)

(3) 本件合意書関係

@ 平成19年12月24日,Aは,被告代表取締役及び取締役を辞任した。同

日,原告,A及び被告との間で協議が行なわれ,三者間で,Aが新会社を設立する

こと,被告が同新会社に対して営業の一部譲渡をすること等の内容の本件合意書が

作成された。本件合意書には,上記新会社の商号について次のとおりの条項がある。

(甲2,3,10)


「新会社の社名については『株式会社デーロス』は使用しない。但し『甲(判決注・被告)』

が社名変更をした場合にはこの限りではない。」



A 平成20年1月4日,Aは,サンライトの代表取締役及び取締役に就任した。

同7日,サンライトは,商号を「株式会社デーロス」に変更した。(甲14,24)



B 平成20年1月22日,原告,A及び被告との間で協議が行われ,次のとお

りの協議結果がまとまった。(甲4)


「新会社の社名に関して『甲(判決注・被告)が社名変更』するまでの期間とは概ね2年ぐ

らいとする。」



C 平成20年1月10日,本件商標権が,Aから原告に移転(無償譲渡)され,

同月25日付けで上記移転登録がされた。(甲20,21)

D 平成20年2月1日,Aが代表者を務めるデーロス株式会社が,その商号

「株式会社デーロス・ジャパン」に変更した。(甲14)

E 平成20年2月9日,原告,A及び被告との間で協議が行われ,次のとおり

の協議結果がまとまった。(甲5)




「1 ・・・・・

1)新会社の商号として,『甲(判決注・被告)』が社名変更するまでの期間の概ね2年

とは平成21年12月23日である。

・・・・・

3.特許,『甲(被告)』と『丙(原告)』は,既に譲渡手続きの完了した特許権について,

無償使用に関する約定は有効であることを確認する。

・・・・・」



(4) 差止請求等

原告は,平成24年3月19日ころ,被告に対し,同日付け警告書をもって,被

告が本件商標を使用することの中止と本件商標を付した物件を廃棄することを求め

た。(甲6)



2 取消事由1(登録商標使用の有無)について

(1) 被告(通常使用権者)による使用について

原告は,本件合意書をもって原告又はAが被告に対して本件商標権の通常使用権

を設定した旨を主張する。

しかしながら,本件合意書,1月協議録及び2月協議録の中には,上記1(3)に認

定のとおり,A又は原告が「デーロス」との商号を使用することを禁止する条項は

見られるものの,本件商標に関する条項は見当たらない。

原告は,A又は原告が「デーロス」との商号の使用を禁止されることは,反面か

らいえば,A又は原告が被告に対して「デーロス」である本件商標の使用を許諾し

たものである旨を主張する。

しかしながら,上記1(1)(2)に認定のとおり,被告は,本件商標が出願された平

成16年8月27日より前の平成16年6月1日から自己の名称として「デーロス」




商号を用いていたのであるから,被告が自己の商号をそのまま用いるのに原告か

らわざわざ商号使用の許諾を得又は得ようとすることは不自然であるし,その必要

もないことは明らかである。しかも,商号の使用を禁止されたことが,本件商標の

使用を許諾したことと論理的に結び付くものでもない。

その他,被告が本件商標権の通常使用権者であることを認めるに足りる証拠はな

い。

以上から,被告が通常使用権者として本件商標の使用をしたことが証明されたと

はいえない。

(2) デーロス・ジャパン(通常使用権者)による使用について

使用許諾の有無について

証拠(甲12の1,13の1,14,15の1・2,24,28の1〜3,29)

及び弁論の全趣旨によれば,デーロス・ジャパンが本件商標権の通常使用権者であ

ることが推認され,これを覆すに足りる証拠はない。

したがって,デーロス・ジャパンは,本件商標権の通常使用権者であると認める

のが相当である。

イ 登録商標と使用商標との社会通念上の同一性について

(ア) 検討

a 使用商標「デーロス・ジャパン」について

使用商標「デーロス・ジャパン」は,全体が普通に用いられる字体で表示されて

いるものであり,
「デーロス」と「ジャパン」とが「・」により明確に区切られてい

るところ,前半からは「デ ー ロ ス」の称呼が生じ(観念は不明である。,後半か


らは「ジ ャ パ ン」の称呼と「日本」との観念が生じる。後半部分は,我が国の国

名であるから,国際的観点からすれば,商品・役務の販売・提供範囲の地理的限定

又は法人の活動範囲の限定をするものと理解されるものの,結局,商標権の効力の

及ぶ我が国の全域を指し示しているものであって,特段の限定を付したものと解す

ることはできないから,
「デーロス」と「デーロス・ジャパン」とが取引者・需要者




に別異の観念を抱かせるものではないと認められる。

したがって,
「デーロス・ジャパン」と本件商標(デーロス)とは社会通念上の同

一性を有するものと認めるのが相当である。

b 使用商標「DEROS JAPAN」について

使用商標「DEROS JAPAN」は,全体が普通に用いられる字体で表示さ

れているものであり,
「DEROS」と「JAPAN」との大きさが異なる態様で使

用されているほか(甲12の1,13の1),両者の間に空白がある態様で使用され

ており(甲12の1,13の1,24,25,28の1〜3,29,32〜34,

35の1,36,37),また,「JAPAN」が我が国に広く了解されている英単

語であり,個別の語として容易に理解されることから,「DEROS JAPAN」

が,常に一連一体のものとして称呼観念されるものとはいえない。ところで,前

半の「DEROS」は,「デロウズ〔d?rouz〕 帰還予定日(和)」に対応する英単

語であるが,我が国において一般に馴染みのある単語ではなく,一方で,
「DERO

S」をローマ字読みした「デ ロ ス」は,我が国において一般に馴染みのあるギリ

シャ共和国のデロス島の和名(デロス島の正しい綴りは「DELOS」である。)と

音を共通にし,そのように読まれることが多いものと理解される。したがって,
「D

EROS」は,ローマ字表記に準じるものとして「デロス」との称呼が生じ(観念

は不明である。,後半からは「ジ ャ パ ン」の称呼と「日本」との観念が生じる。


しかるところ,商標において片仮名とローマ字とを相互に変更する場合は,社会

通念上の同一性を失わないものと解されるから(商標法50条1項かっこ書き) 本


件商標の使用の有無の検討に当たって比較対象すべき点は,デロス ジャパン」
「 (「D

EROS JAPAN」)と「デーロス」(本件商標)との社会通念上の同一性の有

無になるところ,上記aに説示したとおり,
「ジャパン」を付加することによって取

引者・需要者に別異の観念を抱かせるものでなく,また,長音化したもの(デーロ

ス)とそうでないもの(デロス)とは,外観上の差異がわずかである上,いずれも

が特定の観念を抱かせないものであるから,その称呼の差異によって別個の観念




生じないものと解される。

以上からすると,
「DEROS JAPAN」と本件商標(デーロス)とは,社会

通念上の同一性を有するものと認めるのが相当である。

(イ) 被告の主張に対して

被告は,デーロス・ジャパンと被告との間をめぐる取引の実情を加味して社会通

念上の同一性を判断すべき趣旨を主張する。そして,上記1(1)〜(3)の認定によれ

ば,原告又はAは,
「デーロス」と「デーロス・ジャパン」とに同一性がないと考え

たことにより,
「デーロス」の商号の使用禁止約定に応じて,Aが代表者を務める株

式会社デーロスの商号を「株式会社デーロス・ジャパン」に変更したものと推測さ

れる。

しかしながら,商標の使用の有無の判断に際しての,当該登録商標と使用商標と

の社会通念上の同一性の検討においては,両商標の有する客観的要素が重視される

べきであり(例えば,商標法50条1項かっこ書き所定の変更事由について,当事

者が同一性を欠くものと認識したとしても,その認識により判断が左右されるもの

ではない。,本件においても,被告が指摘する当事者間の極めて特殊な個別事情や


その主観的認識状況のみでは,上記(ア)の認定判断を左右するものとはいえず,被告

の上記主張は採用することができない。

指定商品(土木機械器具)についての使用について

原告は,土木機械器具の商品についての本件商標の使用として,甲36・37文

書をハイウェイテクノフェア及びメッセ名古屋の会場で展示又は頒布した旨を主張

する。

しかしながら,出展された土木機械器具(模型)は,中日本ハイウェイ・メンテ

ナンス北陸株式会社のブースに展示されており,同ブースを撮影した写真にも甲3

6・37文書は見当たらず(甲38の2,甲39の2),甲36・37文書が展示又

は頒布されたことを直接に明らかにし得るに足りる証拠はない。のみならず,出展

時(平成23年10月及び11月)からさほどの期日が経過していないにもかかわ




らず,甲36・37文書の作製に係る関係書類の証拠提出が全くなく,その展示又

は頒布を間接的に裏付け得る証拠もない。

したがって,土木機械器具の商品についてデーロス・ジャパンが本件商標の使用

をしたことは,証明されていないというべきである。

指定役務(建設工事)についての使用について

(ア) 検討(甲29文書について)

a 商標の表示

甲29文書は,表紙左端部分の上端から下端までが薄緑色で帯状に着色され,そ

の帯部分に白抜きで上下1cm 程度の比較的大きな字体で「DEROS JAPAN」

の横書きの欧文字が,右に90度回転されて縦書き配置されている。また,上記イ

(ア)bに認定判断のとおり,「DEROS JAPAN」と本件商標(デーロス)と

には,社会通念上の同一性がある。したがって,少なくとも,甲29文書には,本

件商標と社会通念上同一の商標が付されているといえる。

被告は,
「DEROS JAPAN」がパンフレットの作成者を特定するための表

示であって,役務の出所を特定するための表示ではないとの趣旨を主張する。しか

しながら,甲29文書には,表紙下端部分に「…(省略 ロゴマーク)株式会社デ

ーロス・ジャパン」と,裏表紙下側にも「【発売元】…(省略 ロゴマーク) 株式

会社デーロス・ジャパン」との記載があるから,パンフレット作成者を明らかにす

るためだけにこれらの2箇所の記載に重ねて「DEROS JAPAN」を白抜き

の比較的大きな文字で縦書き配置して表記する必要はないのであり,被告の主張に

は理由がないというべきである。また,同パンフレットにおいて建設工事の工法の

名称である「靱性モルタルライニング」と記載された部分が,仮に役務の出所識別

機能を有するとしても,そのことから必然的に他の記載部分が出所識別機能を有す

ることがないともいえない。

したがって,被告の上記主張は,採用することはできない。

b 役務の表示




甲29文書は,その記載によれば,ひび割れ抵抗性能等が優れた高靱性繊維補強

セメント複合材を材料として使用し,これを水路などの既設コンクリート表面へ被

覆する工法を紹介するものであるから,建設工事の役務に関するパンフレットとい

える。

c 商標の使用

証拠(甲48の1・14・15,49,53)及び弁論の全趣旨によれば,平成

21年12月22日ころ作成に係る甲29文書(06/2009.12版)が,平成

22年1月18日ころに,元請人である山ア建設株式会社を通じて,長野県松本地

方事務所農地整備課関連事業係に対し,平成21年度県営かんがい排水事業安曇野

地区矢原排水路第2工区工事に係る使用材料承認願に添付されて提出されたことが

認められる。

このことにかんがみると,甲29文書が,少なくとも同様な形で類似工事に係る

関係工事業者及び発注者に対して頒布されたことを推認することができるところ,

これを覆すに足りる証拠はない。

(イ) 被告の主張に対して

被告は,頒布されたといえるためには関係者を除く一般公衆による閲覧が可能な

状態にあることを必要とする趣旨を主張する。しかしながら,原告が特定の発注者

に係る業務にのみに従事しているとは認められないことにかんがみれば
(甲9の2,

12の2,13の2,30の1・2,31の1〜4,35の2,45,46,乙1),

甲29文書は,その記載内容に係る工法を要する工事に関するものであり,当該工

法に関連する業者等を主たる対象とするものであっても,不特定の者に対して配布

されたものと推認されるところであり,このことは,商標法2条3項8号所定の「頒

布」に該当するものといえる。

被告の上記主張は,採用することができない。

(ウ) 小括

以上のとおりであるから,原告は,本件審判の請求の登録(平成24年5月25




日)前3年以内に通常使用権者であるデーロス・ジャパンが建設工事の役務につい

て本件商標の使用をしたことを証明したものであるから,原告自身の本件商標の使

用の有無を判断するまでもなく,建設工事の役務を除くその余の指定商品・指定役

務も含めて本件商標登録を本件商標の不使用を理由に取り消すことはできないもの

である(商標法50条2項)。

以上のとおり,審決の認定判断には結果的に誤りがあることになり,取消事由1

には理由がある。



第6 結論

以上によれば,取消事由2について判断するまでもなく,審決は取り消すべきも

のであることが明らかである。

よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。




知的財産高等裁判所第2部




裁判長裁判官

清 水 節




裁判官

中 村 恭





裁判官
中 武 由 紀