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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成24ワ12351 損害賠償等請求事件 判例 特許
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事件 平成 24年 (ワ) 24822号 損害賠償等請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2014/03/20
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成26年3月20日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成24年(ワ)第24822号 損害賠償等請求事件

口頭弁論終結日 平成25年11月21日

判 決

静岡県藤枝市<以下略>

原 告 ペ パ ー レ ッ ト 株 式 会 社

愛媛県四国中央市<以下略>

原 告 ユニ・チャーム株式会社

上記両名訴訟代理人弁護士 上 谷 清

仁 田 陸 郎

萩 尾 保 繁

山 口 健 司

薄 葉 健 司

石 神 恒 太 郎

関 口 尚 久

同訴訟代理人弁理士 古 賀 哲 次

同補佐人弁理士 蛯 谷 厚 志

小 野 田 浩 之

鈴 木 啓 晴

胡 田 尚 則

中 畑 孝

三 田 大 智

東京都港区<以下略>

被 告 株 式 会 社 大 貴

同訴訟代理人弁護士 牧 野 利 秋

末 吉 剛
1
松 田 純 一

伊 藤 卓

西 村 公 芳

大 坂 憲 正

主 文

1 被告は,原告ペパーレット株式会社に対し,782万3051

円及びこれに対する平成24年9月8日から支払済みまで年5分

の割合による金員を支払え。

2 被告は,原告ユニ・チャーム株式会社に対し,782万305

1円及びこれに対する平成24年9月8日から支払済みまで年5

分の割合による金員を支払え。

3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

4 訴訟費用はこれを4分し,その1を被告の,その余を原告らの

各負担とする。

5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することがで

きる。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 被告は,原告ペパーレット株式会社(以下「原告ペパーレット」とい

う。)に対し,3157万4623円及びこれに対する平成24年9月8日

から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 被告は,原告ユニ・チャーム株式会社(以下「原告ユニ・チャーム」とい

う。)に対し,3157万4623円及びこれに対する平成24年9月8日

から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,原告らが,被告に対し,被告による別紙1被告製品目録記載1,
2
2,5及び6の各動物用排尿処理材(以下,それぞれを「被告製品1」など

といい,これらを併せて「被告各製品」という。)の製造販売が発明の名称

を「動物用排尿処理材」とする原告ペパーレットの特許権の侵害に当たり,

原告ペパーレットはこれにつき不当利得返還請求権(平成19年9月1日か

ら平成21年8月29日までの製造等に係る不当利得金1456万0897

円)及び不法行為による損害賠償請求権(同年8月30日から9月30日ま

での製造等に係る損害賠償金633万0671円)を有していたところ,同

原告はこれら債権の2分の1を原告ユニ・チャームに譲渡した旨主張して,

原告らそれぞれにつき不当利得金728万0448円及び損害賠償金316

万5335円並びにこれらに対する平成24年9月8日(不法行為の後であ

る訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅

延損害金の支払を求めた事案である(ただし,請求の趣旨の減縮はされてい

ない。)。

1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨

により容易に認められる事実)

(1) 当事者

ア 原告ペパーレットは,ペット用品の製造及び販売,排泄物処理用器材

の製造及び販売等を目的とする株式会社である。

原告ユニ・チャームは,ベビーケア関連製品,フェミニンケア関連製

品,ペットケア用品等の製造及び販売を主な目的とする株式会社であり,

原告ペパーレットの親会社である。

イ 被告は,包装材料の販売,廃棄物からの再生商品(動物用排泄物処理

材,紙おむつ,ペットシーツ,植木鉢,介護用マット及び衛生紙等)の

開発及びその製造,販売等を目的とする株式会社である。

(2) 原告ペパーレットの特許権

ア 原告ペパーレットは,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その
3
特許出願の願書に添付された明細書及び図面(ただし,平成21年12

月15日確定の審決による訂正後のもの)を「本件明細書」という。)

の特許権者である。

特許番号 特許第2534031号

発明の名称 動物用排尿処理材

出願年月日 平成6年12月29日

出願番号 特願平6−339975号

登録年月日 平成8年6月27日

イ 本件特許権の特許請求の範囲の請求項1の記載(ただし,上記アの訂

正後のもの)は,次のとおりである(以下,この発明を「本件発明」と

いい,その特許を「本件特許」という。)

「吸水性を有する動物用排尿処理材であって,上記処理材が排尿を吸収

すると核部分の色を露見せしめる表層にて被覆した複合層構造を有し,

該排尿を吸収した表層を通し該露見が得られ,上記複合層構造にして排

尿の有無を判別する構成を有することを特徴とする動物用排尿処理

材。」

ウ 本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各構成

要件を「構成要件A」などという。)。

A 吸水性を有する動物用排尿処理材であって,

B 上記処理材が排尿を吸収すると核部分の色を露見せしめる表層にて

被覆した複合層構造を有し,

C 該排尿を吸収した表層を通し該露見が得られ,

D 上記複合層構造にして排尿の有無を判別する構成を有する

E ことを特徴とする動物用排尿処理材。

(3) 被告の行為

ア 被告は,平成19年9月1日から平成21年9月30日までの間,被
4
告製品を製造し,それぞれ別紙1被告製品目録の被告各製品の項に記載

の販売会社に販売した(なお,原告らは同目録記載3及び4の各製品を

損害賠償請求及び不当利得返還請求の対象から除外した。)。

イ 原告らが不当利得の返還を求める期間(平成19年9月1日〜平成2

1年8月29日。以下「不当利得対象期間」という。)及び不法行為に

よる損害賠償 を求める 期間(同 年8月3 0日〜同年9 月30日 。以下

「損害賠償対象期間」という。)における被告各製品の売上額は,次の

とおりである(なお,原告らは,同年8月29日までの損害賠償請求権

については消滅時効が成立するとの被告の主張を認め,不当利得返還及

び損害賠償の対象期間を上記のとおり限定した。)。

不当利得対象期間 損害賠償対象期間

被告製品1 1億6814万3705円 908万9184円

被告製品2 1億3309万2000円 892万2000円

被告製品5 7381万6032円 412万0560円

被告製品6 4097万3892円 114万2784円

合 計 4億1602万5629円 2327万4528円

ウ 損害賠償対象期間中の被告各製品の製造販売による被告の利益率(い

わゆる限界利益率)は売上額の27.2%であり,したがって,被告の

利益の額は633万0671円となる。

エ 被告各製品は,一般に猫砂と称されるもので,トレー状の猫用トイレ

に敷き詰めるなどして猫の尿を吸収するために使用される。被告各製品

は,紙粉,紙おむつ粉砕物及び吸水ポリマーを含有する核部分が,紙粉,

吸水ポリマー及びデンプンを含有する表層により被覆された粒状の動物

用排尿処理材であり,本件発明の構成要件A及びE(吸水性を有する動

物用排尿処理材であること)並びに構成要件Bの一部(表層にて被覆し

た複合層構造を有すること)を充足する。
5
(4) 原告ペパーレットと被告の間の訴訟等

ア 特許権侵害訴訟(甲10)

(ア) 原告ペパーレットは,平成20年1月頃,被告に対し,被告によ

る動物用排尿処理材(被告各製品と商品名は異なるが,実質的に同

一の構成を有するもの。以下「前訴対象製品」という。)の製造販

売が本件特許権の侵害に当たると主張して,差止め及び損害賠償を

求める訴えを提起した(東京地方裁判所平成20年(ワ)第831

号。以下「前訴」という。)。前訴については,平成23年8月2

6日,前訴対象製品が本件発明の技術的範囲に属するとして,原告

ペパーレットの損害賠償請求を一部認容する旨の判決がされ,同判

決は同年9月13日に確定した。

(イ) 前訴においては,前訴対象製品が本件発明の構成要件B〜Dを充

足するかなどが争点とされ,原告ペパーレット及び被告は,前訴対

象製品に液体を吸収させた際の色の変化等を示す実験結果を証拠と

して提出した(原告ペパーレットによるものが本件の乙4,被告に

よるものが同甲17,18。なお,書証の枝番の記載は省略する。

以下同じ。)。前訴の受訴裁判所は,原告ペパーレットによる実験

(以下「前訴原告実験」という。)の結果等に基づいて,前訴対象

製品が本件発明の技術的範囲に属すると判断した。

無効審判請求(甲1,乙1)

(ア) 被告は,平成19年8月17日,本件特許につき,本件発明は特

開平6−237660号公報(本件の乙10。以下「乙10文献」

といい,これに記載された発明を「乙10発明」という。)及び周

知の技術的事項に基づいて容易に発明をすることができるので進歩

性を欠く旨主張して,無効審判を請求した(2007−80016

6号)。これに対し,原告ペパーレットは,上記(2)の訂正請求を
6
した。特許庁は,平成20年6月24日,訂正を認める,無効審判

請求は成り立たない旨の審決をした。

(イ) 被告は,上記審決を不服として審決取消訴訟を提起したが(知的

財産高等裁判所平成20年(行ケ)第10288号),平成21年

7月16日に請求を棄却する旨の判決(以下「審決取消訴訟判決」

という。)がされた。同判決及び上記審決は,同年12月15日に

確定した。

(5) 原告ペパーレットから原告ユニ・チャームへの債権譲渡

原告ペパーレットは,平成24年8月27日,原告ユニ・チャームに対

し,本件特許権の侵害に係る被告に対する不当利得返還請求権及び損害賠償

請求権の半額に相当する債権を譲渡し,同月31日,その旨が被告に通知さ

れた。

2 争点

(1) 被告各製品が構成要件Bのうち「上記処理材が排尿を吸収すると核部

分の色を露見せしめる」との構成並びに構成要件C(該排尿を吸収した表

層を通し該露見が得られ)及び構成要件D(上記複合層構造にして排尿の

有無を判別する構成を有する)の各構成(以下,これらの構成を「露見等

の構成」と総称する。)を備えているか。

(2) 本件発明が,特開平6−22659号公報(乙9。以下「乙9文献」

といい,これに記載された発明を「乙9発明」という。)及び周知の技術

的事項に基づいて容易に発明をすることができるものであり,本件特許が

特許無効審判により無効にされるべきものであるとして,原告らによる本

件特許権の行使が制限されるか。

(3) 本件特許権の侵害に係る原告らの損失の額(不当利得対象期間の被告

各製品の売上額に乗ずべき実施料率)及び損害の額(損害賠償対象期間の

被告の利益額に乗ずべき寄与度の割合)はいくらであるか。
7
3 争点に関する当事者の主張

(1) 争点(1)(露見等の構成の具備)について

(原告らの主張)

ア 被告各製品の構成は別紙2被告各製品説明書に記載のとおりであり,

排尿を吸収すると,複合層構造を維持した状態で,核部分1の色が表層

2を透過し,又は表層2に滲潤して見えるようになり,これにより排尿

を吸収した部分と吸収していない部分を判別することができるものであ

る。したがって,被告各製品は,露見等の構成を備えており,本件発明

の技術的範囲に属する。

イ これに対し,被告は,後記のとおり,本件訴訟の提起後に被告が行っ

た実験(乙3。以下「本訴被告実験」という。)の結果に基づき,被告

各製品は露見等の構成を備えていない旨主張する。

しかし,被告各製品は前訴対象製品と実質的に同一の構成を有するも

のであるが,被告は,前訴において,前訴原告実験につき特段の問題点

を指摘せず,被告自身もこれと同様の方法による実験結果を証拠として

提出する一方,本訴被告実験のような実験をすることができたにもかか

わらず,これをしなかった。 そうすると,被告の主張は,前訴

における審理を不当に蒸し返すものとして信義則上許されず,失当とい

うべきである。

この点をおくとしても,本訴被告実験は,通常より製品が膨潤する条

件でされた可能性が高いなど,不当ないし不正な条件で行われている。

さらに,本訴被告実験が通常の使用態様に沿った条件によるものであっ

たとしても,比較的大きな表層のはがれが認められるものはごく一部で

あり,排尿を吸収した部分の全体を見れば,表層の一部に亀裂が入って

いるものの,表層そのものは流出することなく,ほとんど残存した状態

にある。したがって,排尿を吸収した部分全体の色が変わることにより,
8
排尿された部分と排尿されていない部分とを判別することができる。

以上のほか,前訴原告実験の結果,本件訴訟において原告らが被告各

製品について行った同様の実験の結果及び被告製品2等の包装に掲載さ

れた排尿を吸収した状態の写真からすれば,被告各製品は露見等の構成

を備えているというべきである。

(被告の主張)

ア 構成要件B〜Dの露見等の構成は,排尿を吸収した処理材において,

核部分と表層から成る複合層構造を維持した状態で,核部分の色が表層

を透過し,又は表層に滲潤して見えることによって排尿の有無を判別す

ることを可能とする構成を意味するのであり,一部が崩壊されつつも一

部残された表層を通して核部分の色が露見するような態様は包含しない。

このことは,審決取消訴訟判決が判示するとおりである。また,猫の飼

い主は猫が排尿してから一定時間経過した時点で排尿の有無を確認する

から,本件発明が露見等の構成を具備するか否かについては,上記時点

を基準に検討すべきである。

イ このような観点からみると,前訴原告実験は,生理食塩水を注射器の

容器から滴下するという条件で行われたものであり,水量及び水勢の点

で通常の使用態様に沿ったものではない。

一方,被告が前訴対象製品を用いて実際に猫に排尿させた実験(本訴

被告実験)によれば,前訴対象製品は,排尿を吸収すると,@ 表層の

一部が崩壊し,表層を通さず直接に核部分の色が見えるようになる,A

表層が膨潤,剥落等することにより,その形状が排尿吸収前とは一見し

て異なるものになる,B 剥落せずに残された表層が尿色に染まるとい

う変化が起こり,これにより排尿の有無の判別が行われる。そして,被

告各製品は,試験の対象となった前訴対象製品と実質的に同一の構成を

有するから,被告各製品も,上記@〜Bにより排尿の有無を判別するも
9
のである。

したがって,被告各製品は,複合層構造を維持した状態で核部分の色

が表層を透過し,又は表層に滲潤して見えるというものではなく,露見

等の構成を備えていないから,本件発明の技術的範囲に属しない。

ウ 以上に対し,原告らは,被告の上記主張は前訴における審理を不当に

蒸し返すものであって信義則上許されない旨主張する。しかし,前訴と

本件訴訟は訴訟物が異なり,前訴の判決の既判力は本件に及ばない。ま

た,被告の主張を認めることが正義に反する結果を招来するとはいえな

いから,被告の主張が信義則に反するものでないことは明らかである。

(2) 争点(2)(無効理由の有無)について

(被告の主張)

本件発明は,以下のとおり,乙9発明に,乙10文献又は平成6年3月

2日付け日経産業新聞に掲載された「コーヒーかすから猫の砂」と題する

記事(乙11。以下「乙11文献」という。)に記載された構成を組み合

わせることにより容易に発明をすることができたものであり,進歩性を欠

く(特許法29条2項)。したがって,本件特許は特許無効審判により無

効にされるべきものであるから,原告らは本件特許権に基づく権利を行使

することができない(同法123条1項2号104条の3第1項)。

ア 本件発明と乙9発明の一致点及び相違点

(ア) 本件発明と乙9発明は,「吸水性を有する動物用排尿処理材であ

って,上記処理材が排尿を吸収すると核部分の色を露見せしめる表層

にて被覆した複合層構造を有し,該排尿を吸収した表層を通し該露見

が得られる動物用排尿処理材。」という点で一致する。これに対し,

乙9発明においては核部分と表層の色が似ていることも考えられるか

ら,排尿吸収時に核部分の色が露出しても,それが排尿の有無の判別

に資するかどうかは必ずしも明らかでない。したがって,本件発明と
10
乙9発明は,本件発明が複合層構造にして排尿の有無を判別する構成

(構成要件D)を有する点で相違すると評価し得る。

(イ) 以上に対し,原告らは,乙9発明には核部分の色が表層を透過し,

又は滲潤して見えるという構成が開示されていない旨主張するが,

乙9発明のスキン層のような猫砂の表層部の層厚は1oにも満たな

いところ,スキン層を構成する高吸水性樹脂やフィラ材は排尿吸収

時に透明化又は半透明化するものであるから,原告らの主張する構

成は乙9発明の構成に含まれるものである。

イ 相違点の容易想到性

(ア) 乙10文献には,排尿の有無を判別するために核部分にメチレン

ブルー粉末を混練させればよいことと,その結果,排尿吸収時に核

部分の青色が露見してその判別が可能となることが記載されている。

そして,乙9文献には動物用排尿処理材が尿を吸収したかどうかを

判別する必要性が記載されているから,判別のための具体的な手段

として乙10文献に記載されたメチレンブルー粉末の混練という構

成を採用することの動機付けがある。したがって,乙9文献及び乙

10文献に接した当業者は,本件発明を容易に想到することができ

る。

(イ) 乙11文献には,吸水性を有する猫のトイレ用の砂について,コ

ーヒーかす75%,古紙20%及び吸水性樹脂5%の配合比から成

る粒状固体の表面を,古紙を粉砕した微小片にて被覆した複合層構

造を有する構成が開示されている。そして,乙11文献に接した当

業者が乙9発明の核部分をコーヒー抽出残渣で組成すれば,複合層

構造にして排尿の有無を判別することができるようになる。当業者

が核部分をコーヒー抽出残渣で組成することについて阻害事由は存

在しないし,核部分をそのように組成しても本件発明の効果が奏さ
11
れるのは当然である。したがって,乙9文献及び乙11文献に接し

た当業者は,本件発明を容易に想到することができる。

(原告らの主張)

本件発明の「露見」とは,表層の色とは異なる核部分の色として認識さ

れる色が表層を透過し,又は表層に滲潤して見えることを意味する。これ

に対し,乙9発明におけるコア層とスキン層から構成される層構造は上記

の露見が得られる複合層構造を有しておらず,乙9文献には本件発明の露

見等の構成に相当する構成の開示又は示唆はない。したがって,本件発明

と乙9発明は,被告の主張する構成要件Dのほか,構成要件Bの「露見」

に関する点及び構成要件Cにおいても相違する。

そして,乙10文献及び乙11文献は,上記の露見が得られる複合層構

造にして排尿の有無を判別するという本件発明の露見等の構成を開示又は

示唆していないから,乙9発明にこれらを組み合わせたとしても本件発明

の構成を想到することはできない。

(3) 争点(3)(原告らの損失及び損害の額)について

(原告らの主張)

ア 本件特許権の侵害に係る原告らの損失の額は,不当利得対象期間の被

告各製品の売上額4億1602万5629円(前記前提事実(3)イ)に

相当実施料率を乗じて算定すべきである。そして,いわゆる猫砂におい

ては,尿を吸収すると変色し,それによって使用部分と未使用部分を視

覚的に容易に判別することができるという点が重要なセールスポイント

になっているから,本件特許権の価値は極めて大きく,相当実施料率が

3.5%を下回ることはない。したがって,不当利得の額は1456万

0897円(原告らそれぞれにつき728万0448円)となる。

イ 損害賠償対象期間に被告が被告各製品の製造販売により得た利益の額

は633万0671円であり(前記前提事実(3)ウ),これが本件特許
12
権侵害により原告らが被った損害の額(原告らそれぞれにつき316万

5335円)であると推定される(特許法102条2項)。そして,被

告各製品の主たる価値は本件発明からもたらされるから,寄与率は10

0%であるというべきである。

(被告の主張)

ア 動物用排尿処理材には様々な性質が求められ,種々の技術が使用され

ているところ,尿を吸収すると変色することは,猫砂の機能の一つであ

るにすぎず,しかも,消費者に対するアンケート結果等によれば,吸尿

性,固まり性,消臭性及び廃棄の利便性に比べ,購入に当たって重視さ

れる要素とはなっていない。むしろ,尿色により猫の健康状態をチェッ

クする飼い主にとっては,一定の色に変わることは忌避すべき機能に当

たる。

さらに,排尿前後の色の違いを視認できるようにすることは本件特許

の出願当時の技術常識であったから,本件発明の本質的部分は複合層構

造にして排尿後の色を表層を通じて露見させた点に尽きる。このような

本件発明と従来技術の差異は,技術的にも商業的にもささいなものにす

ぎない。被告各製品の包装にも,色が変わる旨の文言は記載されている

ものの,本件発明の本質的部分の記載はない。

イ なお,原告ペパーレットはかつて被告に対し本件特許権の通常実施権

を許諾していたが,その際の実施料率は月額20万円であり,これは不

当利得対象期間の平均月次売上額の1.15%に相当する。

ウ 以上によれば,本件発明の価値は極めて低く,被告各製品の売上げに

貢献していないから,相当実施料率は0.5%にとどまり,また,その

寄与率が10%を上回ることはない。

第3 当裁判所の判断

1 争点(1)(露見等の構成の具備)について
13
(1) 被告が本訴被告実験の結果に基づいて被告各製品は露見等の構成を具

備しない旨主張するのに対し,原告らは,被告の主張は前訴の蒸し返しで

あって信義則に反する旨主張するが,この点はさておき,被告各製品が露

見等の構成を備えているかどうかにつき検討する。

(2) 露見等の構成に係る特許請求の範囲の記載は「上記処理材が排尿を吸

収すると核部分の色を露見せしめる表層にて被覆した複合層構造を有し,

該排尿を吸収した表層を通し該露見が得られ,上記複合層構造にして排尿

の有無を判別する構成を有する」というものであり(構成要件B〜D),

「露見」とは「 隠していた事 が現れるこ と」を意味する (広辞苑〔第 6

版〕3009頁参照)。そうすると,露見等の構成を備えるというために

は,処理剤が排尿を吸収する前は,核部分の色はこれを被覆する表層によ

り隠されて外部から視認することができないが,排尿を吸収した後は,表

層自体は残存して複合層構造を維持しつつ,表層が透明化又は半透明化す

ること,核部の染料が表層にしみ出すことなどにより,核部分の色が表層

を通して外部から視認可能となることを要すると解するのが相当である。

露見等の構成についての上記解釈は,(ア) 本件明細書(甲2)の【発

明の詳細な説明】欄に,【問題点を解決するための手段】として,排尿を

吸収すると核部分の色を露見することができるようにした表層で覆った複

合層構造を採用したので,従来技術のように尿により変色する薬剤を使用

せずに,排尿の有無を判別することができる旨(段落【0004】),及

び,核部分を着色し,若しくは素材の色を利用して核部分を暗色系とする

ことにより,又は水溶性の顔料等で核部分を着色し,排尿を吸収すると顔

料等が表層に滲出することにより,核部分の色が露見できるようになる旨

(段落【0005】,【0006】),【作用】として,排泄物処理材を

複合層構造にして,排尿の含水により表層を通して核部分の色を露見でき

るので,薬剤を用いずに使用の前後を的確に判別でき,使用部位のみを交
14
換する利点も享受できる旨(段落【0008】),【発明の効果】として,

核部分と表層の明度に差を持たせ,又は核部分に暗色系の着色を施した複

合層構造にするという着想により,排尿吸収時に表層を通して核部分の色

が露見し,使用前と使用後の判別が的確に行える処理材の形成が可能であ

る旨(段落【0024】)の記載があること,(イ) 原告ペパーレットが,

無効審判事件における訂正請求書(乙2)により,本件発明は,処理材が

排尿を吸収すると,核部分を表層で被覆した複合層構造を保ちつつ,核部

分の色が表層を通して露見(透過露見,滲潤露見)し,排尿の有無の判別

が行える構造にしたことを特徴にしたものであるとの認識を示しているこ

とからも裏付けられる。

さらに,審決取消訴訟判決(前記前提事実(4)イ(イ)。乙1)は,@ 乙

10発明の動物用排尿処理材は,水分を受けると表面皮膜層が崩壊状とな

って流出し,水分により発色するメチレンブルーが内部から発色して,排

尿の有無を判別することができるものであるのに対し,A 本件発明は,

核部分の色が表層を通して露見する構成のみを対象とするものであり,一

部が崩壊されつつも一部残された表層を通して核部分の色が露見するよう

な態様を包含しないものであり,B 両者は本質的な技術思想を異にする

旨判示して,乙10発明に基づく進歩性欠如をいう被告の主張を排斥して

いる。本件発明の構成に関する上記Aの判示は,露見等の構成についての

前記解釈に沿うものと考えられる。

(3) もっとも,本件発明の動物用排尿処理材はセルロース繊維等の有機繊

維又は有機粉等を主成分とするものであり,表層はバージンパルプ,パル

プスラッジ等で形成するとされている(本件明細書の段落【0001】,

【0009】,【0014】参照)。また,この処理材は粒状物等に成形

され,その集合 物をもって排 尿処理に供 されるものであ る(同【00 1

0】参照)。そうすると,これが排尿の水圧(乙7,8参照)や粒状物相
15
互の押圧を受けた場合には,表層に亀裂又は剥離が生じることが当然に想

定されるということができるから,排尿を吸収した処理材の表層に亀裂等

が生じており,その部分から直接核部分の色が視認される場合であっても,

亀裂等が審決取消訴訟判決にいう「崩壊状となって流出」する状態に至っ

ていないときは,露見等の構成を具備すると認めることは妨げられないと

解すべきである。

(4) そこで,被告各製品が露見等の構成を具備するか否かについてみるに,

まず,被告各製品と実質的に同一の構成を有する前訴対象製品について行

われた前訴原告実験(乙4)及び被告各製品を対象として原告らが行った

実験(甲22)によれば,前訴対象製品又は被告各製品は表層を白色,核

部分を青,オレンジ等の白より濃い色とするものであること,使用前の状

態では,核部分の色は外部からほとんど視認することができないこと,前

訴対象製品又は被告各製品に生理食塩水又は人工尿20ccを注射器から1

0秒間滴下すると,滴下直後から,表層のうち水に濡れた部分が白色から

核部分の色に変化して視認されるようになること,表層の一部に亀裂又は

剥離が生じ,この部分からは核部分の色を直接観察することができるが,

表層が崩壊状となって流出することはないことが認められる。

さらに,被告が被告各製品の実際の使用状態に合致するものとして行っ

た本訴被告実験,すなわち,トイレ内に敷き詰めた前訴対象製品に,実際

に猫に排尿させた実験(乙3)においては,排尿前は表層の色である白色

に見えていたものが,排尿を受けて濡れることにより,表層が尿の色(薄

い黄色)に変化するとともに,その部分から核部分の色(青色)が透けて

見える状態となること,排尿がかかった粒状物の一部(トイレの外部から

見える部分では半分程度)の表層に亀裂又は剥離が生じており,時間の経

過とともに亀裂等が徐々に広がっていることが認められるものの,表層が

崩壊状となって流出している箇所は見当たらない。
16
以上の事実関係によれば,被告各製品は,排尿を吸収した場合,表層と

核部分の複合層構造を維持したまま(表層に上記の亀裂等が生じることは

このように解することの妨げになるものではない。),表層を通して核部

分の色が視認できるようになることによって,排尿の有無を判別するもの

であって,本件発明における露見等の構成を備えていると認めることが相

当である。

(5) これに対し,被告は,審決取消訴訟判決によれば,本件発明の露見等

の構成には,表層の一部が崩壊されつつも一部残された表層を通して核部

分の色が露見するような態様は本件発明の技術的範囲に属しないと解すべ

きところ,被告各製品は,本訴被告実験の結果によれば,排尿を吸収する

と表層の一部が崩壊するなどの変化を生じ,これにより排尿の有無の判別

が行われるものであるから,本件発明の技術的範囲に属しない旨主張する。

そこで判断するに,審決取消訴訟判決の判示については上記(2)及び(3)

のとおり解すべきものであり,表層の一部に亀裂,剥離等が生じても,こ

れが崩壊して流出するような状態にならなければ,本件発明における露見

等の構成を備えるものとみることができる。そして,本訴被告実験によっ

ても被告各製品と実質的に同一の構成を有する前訴対象製品が露見等の構

成を備えていると認められることは上記(4)のとおりである。

したがって,被告の上記主張を採用することはできない。

(6) 以上によれば,被告各製品は本件発明の構成要件A〜Eをいずれも充

足し,その技術的範囲に属するものと認められる。

2 争点(2)(無効理由の有無)について

(1) 被告は,本件発明は乙9発明に乙10文献又は乙11文献に記載され

た周知技術を適用することにより容易に想到することができるから,本件

特許には進歩性欠如の無効理由がある旨主張する。

(2) そこで判断するに,証拠(乙9)及び弁論の全趣旨によれば,乙9文
17
献は発明の名称を「排泄物処理用粒状材」とする公開特許公報であるとこ

ろ,これに記載された乙9発明は,愛玩動物等の液状排泄物を効率よく吸

収する排泄物処理用粒状材において,従来技術の粒状材には,静電気が生

じて動物に接着したり,動物が撒き散らかしたりする問題点があったこと

から,これらの課題の解決を目的として,コア層とそれを被覆するスキン

層を設け,その素材となる高吸水樹脂及びパルプ,紙粉等のフィラ材の割

合及び含水率をコア層とスキン層で異なるものとする構成を採用すること

により,十分な吸水能及び比重を保持し,かつ,焼却や水洗トイレ等に流

すといった処理を容易にしたものであることが認められる。一方,乙9文

献には,スキン層及びコア層の色及びその変化や,排尿の有無の判別方法

についての記載はない。そうすると,乙9発明は,コア層とスキン層から

成る複合層構造を有する排尿処理材である点では本件発明と一致するもの

の,露見等の構成を備えていない点で本件発明と相違するというべきであ

る。

これに対し,被告は,猫砂の表層部の厚さは1oにも満たず,スキン層

を構成する高吸水性樹脂やフィラ材は排尿吸収時に透明化又は半透明化す

るから,本件発明と乙9発明との間に構成要件B及びCについての相違点

は存在しない旨主張する。しかし,乙9文献にはスキン層の厚さ並びにス

キン層及びコア層の色は何ら記載されていないから,被告の主張を採用す

ることはできない。

(3) 次に,上記相違点の容易想到性について検討する。

ア 乙10文献に記載された乙10発明は,審決取消訴訟判決が判示する

とおり(前記1(2)参照),排尿を受けると表面皮膜層が崩壊状となっ

て流出し,メチレンブルーが内部から発色することにより排尿の有無を

判別するものである。これに対し,乙9発明は,コア層とスキン層から

成る排泄物処理用粒状材に関するものであるが,その特許請求の範囲の
18
記載によれば,スキン層は,高吸水速度を有し,吸水後は粘性を有する

高吸水性樹脂と,パルプ,紙粉等のフィラ材を所定の割合で混合して成

るものであり(乙9),その組成及び上記(2)の発明の目的に照らすと,

吸水後もスキン層としての構成を維持しており,崩壊状となって流出す

ることはないと認められる。そうすると,乙9発明と乙10発明は,吸

水後に表層が維持されるか崩壊するかとの点で技術思想を異にするから,

乙9発明に乙10文献の構成を適用することについては阻害要因がある

というべきである。

イ 証拠(乙11)及び弁論の全趣旨によれば,乙11文献は「コーヒー

かすから猫の砂」と題する新聞記事であり,コーヒーかすの有する消臭

作用に着目し,コーヒーかすの有効利用の観点から,コーヒーかす,粉

砕した古紙及び樹脂(ポリマー)を粒状に固め,その表面を微小片の古

紙で覆った構成を採用した動物用排尿用処理材が開示されていると認め

られるが,吸水による色の変化により排尿の有無を識別することについ

ては何ら記載がない。これに対し,乙9発明は,上記(2)の目的を達成

するため,スキン層を上記アのとおりに構成し,コア層を,高吸水能を

有し,吸水後は高ゲル強度を有する高吸水性樹脂と,パルプ,紙粉等の

フィラ材を所 定の割合 で混合し て成るも のと構成した ものであ る(乙

9)。そうすると,乙9発明の本質的部分はスキン層及びコア層を以上

のように構成したところにあると考えられるから,乙9発明に,乙11

文献に記載されたコーヒーかすを主成分とする構成を組み合わせる動機

があるとはいえない。

ウ 以上によれば,本件発明と乙9発明の相違点につき,乙10文献又は

乙11文献により容易想到性を認めることはできない。

(4) したがって,本件特許に進歩性欠如の無効理由があるとの被告の主張

は失当というべきである。
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3 争点(3)(原告らの損失及び損害の額)について

原告らは,特許権侵害に係る不当利得の額は不当利得対象期間の被告各製

品の売上額4億1602万5629円に実施料率3.5%を乗じた額であり,

損害の額は損害賠償対象期間の被告の利益額633万0671円に等しいと

主張する。上記売上額及び利益額に争いはなく,被告は,不当利得について

の実施料率は0.5%であり,損害賠償についての寄与率は10%にとどま

る旨主張するので,以下,検討する。

(1) 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア 被告各製品は紙製の(紙を主な素材とする)猫用の排泄物処理材(い

わゆる猫砂)であり,原告らも同種の製品の製造販売をしている。平成

9年(本件特許権の設定登録の翌年)から平成23年までの紙製の猫砂

の販売状況の推移をみると,販売金額はこの間に約2倍に拡大しており,

そのうちカラーチェンジ機能(本件発明と同様の構成により排尿を吸収

した部分が変色して排尿の有無を判定する機能)を有する製品の割合が,

平成9年には0%であったのが,徐々に増加して平成20年以降は5割

程度に達している。(甲36,65〜70)

イ 紙製の猫砂の機能には,色の変化のほか,吸尿性(排尿を吸収しやす

いこと),固まり性(吸尿すると固まること),消臭性(尿の臭いを消

すこと),廃棄の利便性(水洗トイレに流し,又は燃えるゴミとして捨

てられること)等がある。平成21年〜平成24年頃に被告の取引先が

行ったアンケートによれば,消費者は,猫砂の購入に当たり,色が変わ

ることをある程度は重視するが,それよりも固まり性,消臭性,廃棄の

利便性等を重視するとされており,これと同趣旨の記載がある他の機関

による市場分析やペット愛好家のホームページの記事が存在する。(乙

32〜41)

ウ 上記各機能のうち固まる機能や消臭機能を有する猫砂は,遅くとも
20
平成11年頃に商品化されていた。(甲49〜54)

エ 前訴対象商品が商品名に「ブルー」等の色彩を表す文字を含み,その

包装にはカラーチェンジ機能を有することが顕著に表示されていたのに

対し,被告各製品は,被告製品6を除き商品名に色彩を表す文字を含む

ものではないが,以下のとおり,その包装にはカラーチェンジ機能を有

することが記載されている。(甲4,5,8,9,50〜54)

(ア) 被告製品1「ペットキレイ お茶でニオイをとる砂」

表面には,商品名が下部に大きく表示され,鼻をつまんだネコの絵

と相まって消臭機能が強調されているが,商品名の上に白抜き文字で

「ぬれた部分が緑色にチェンジ」と記載されている。裏面には,消臭

性,固まり性など商品の特長が5点列挙されており,「カラーチェン

ジで取り除きラクラク!」が特長3として挙げられている。

(イ) 被告製品2「お花畑 エコトワレ」

表面には,上部に「しっかり抗菌」及び「しっかり消臭」と,商品

名の下に「トイレに流せる」とそれぞれ大きく記載されており,左下

部に,水分を吸収して変色した商品の写真と共に「ぬれると色が変わ

って固ま る!」と の表示 がある 。裏面 に は,着色 した文字 で「固 ま

る」,「色が変わる」,「流せる」,「抗菌・消臭」と記載されてい

る。

(ウ) 被告製品5「TOPVALU トイレに流せる紙製のネコ砂」

表面 には, 上部に 消臭・抗 菌 機能があ る旨及び トイレ に流せ る旨

(商品名)が記載され,右下部に変色して固まった商品の写真が掲載

され,下部の小さな枠内に「しっかり固まり色が変わる」と表示され

ている。裏面には,上部の枠内に,「消臭・抗菌」,「固まった部分

の色が変わる」及び「水洗トイレに流せる」との商品の特長が列記さ

れている。
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(エ) 被告製品6「なかよしくらぶ 色が変わる紙製のネコ砂」

表面 には, 上部に 商品名が 大 きく表示 され,そ のうち 「色が 変わ

る」の部分が色調に変化を施した文字で表記されている。その上には,

「固まる・流せる・燃やせる」とそれぞれ黄・青・赤色で記載されて

いる。右下部には,「固まった部分の色が変わる」との記載と共に吸

水して変色した商品の写真が掲載されている。裏面には,脱臭力と吸

収力等の機能が列挙され,その最後に「固まった部分の色が変わ

る!」との記載がある。

(2) 上記事実関係に基づき,まず,不当利得の額について検討する。

ア 被告は,不当利得対象期間中,本件発明の実施許諾を得ないまま,そ

の技術的範囲に属する被告各製品の製造販売をしたのであるから,少な

くとも実施料相当額につき法律上の原因なくして利益を得,原告ペパー

レットはこれと同額の損失を被ったということができる。

イ そこで,本件発明の実施料率についてみるに,上記事実関係によれば,

カラーチェンジ機能は猫砂に求められる複数の機能のうちの一つにとど

まり,顧客がこれを他の機能より重視しているとはいえないものの,紙

製の猫砂全体に占めるカラーチェンジ機能を有する製品の割合が,固ま

り性や消臭性を備えた猫砂の商品化後も徐々に拡大し,5割程度に達し

ていることからすれば,カラーチェンジ機能は,同種製品の販売上,不

可欠ではないとしても有益な機能とみるべきものである。そして,被告

各製品の包装をみても,製品ごとに強調の程度は異なるものの,カラー

チェンジ機能をセールスポイントとして扱っている。また,実施料率に

ついて調査した文献によれば,本件発明の実施品が属するパルプ,紙加

工品等の分野における実施料率は3%程度の契約例が多いとされている

(甲14)。これらの事情を総合すれば,本件における実施料率は,売

上額の3%と認めるのが相当である。
22
したがって,原告らが返還を請求し得る不当利得の額は,合計124

8万0768円(4億1602万5629円×3%)となる。

ウ これに対し,被告は,前記のとおり,本件発明の価値は低く,その本

質的部分は被告各製品の売上げに貢献していないこと,被告と原告ペパ

ーレットの間の実施許諾契約において実施料が月額20万円と定められ

ていたことなどを根拠に,実施料率は0.5%にとどまる旨主張する。

そこで判断するに,被告各製品において上記のカラーチェンジ機能は

本件発明の作用として奏されるのであり,この機能がセールスポイント

とされていることは上記認定のとおりであり,したがって,本件発明が

被告各製品の売上げに貢献していないとは考え難い。

また,実施許諾契約については,証拠(甲12,40)及び弁論の全

趣旨によれば,原告ペパーレットと被告が本件特許につき実施許諾契約

を締結したのは平成11年であり,これと同時に原告ペパーレットが被

告の有する2件の特許権につき実施許諾を受けていたことが認められる。

そうすると,上記契約による実施料は当時の両社の関係及び猫砂の販売

状況を踏まえて約定されたものと解されるから, 平成

19年以降の不当利得対象期間に被告が無許諾で本件発明を実施したこ

とについての上記実施料率の判断を左右するものではないというべきで

ある。

したがって,被告の上記主張はいずれも採用することができない。

(3) 次に,損害の額について検討する。

ア 被告は損害賠償対象期間中に被告各製品の製造販売により633万0

671円の利益を得たのであるから,原告ペパーレットは被告の侵害行

為によりこれと同額の損害を受けたものと推定される(特許法102条

2項)。被告は,被告の利益に本件発明が寄与した割合は10%にとど

まるとして,上記推定が一部覆る旨主張するものである。
23
イ そこで判断するに,上記事実関係によれば,本件発明の効果であるカ

ラーチェンジ機能が被告各製品の販売に貢献していることは明らかとい

えるが,他方,被告各製品は,消臭性,固まり性といった機能も併せ有

するのであり,これらに着目して,本件発明の実施品である原告らの動

物用排尿処理材や,商品名等により専らカラーチェンジ機能が強調され

ていた前訴対象製品ではなく,被告各製品を選択する消費者も少なから

ず存在したものと推認することができる。これらの事情を総合すると,

被告の利益のうち5割は本件発明以外の要因が寄与して生じたものであ

り,この限度で上記推定が覆ると考えられる。

したがって,寄与率を10%とする被告の主張を採用することはでき

ず,原告らが請求し得る損害賠償の額は合計316万5335円(63

3万0671円×50%)であると解するのが相当である。

(4) 以上によれば,原告らの請求は,各原告につき782万3051円

(不当利得金624万0384円,損害賠償金158万2667円)及び

これに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があると認められる。

第4 結論

よって,原告らの請求を以上の限度で認容し,その余はいずれも棄却する

こととして,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部



裁判長裁判官 長 谷 川 浩 二




裁判官 高 橋 彩




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裁判官 植 田 裕 紀 久




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(別紙1) 被告製品目録



下記の各動物用排尿処理材。



1 商品名 「ペットキレイ お茶でニオイをとる砂」

販売会社 ライオン商事株式会社(東京都墨田区<以下略>所在)



2 商品名 「お花畑 エコトワレ」

販売会社 ペットライン株式会社(岐阜県多治見市<以下略>所在)



3 商品名 「ナイスバリュ 固まる・トイレに流せる紙製の猫砂」

販売会社 株式会社タカマツヤ(東京都足立区<以下略>所在)



4 商品名 「ブルーDEサンド」

販売会社 株式会社刀川平和農園(栃木県鹿沼市<以下略>所在)



5 商品名 「TOPVALU トイレに流せる紙製のネコ砂」

販売会社 イオン株式会社(千葉市美浜区<以下略>所在)



6 商品名 「なかよしくらぶ 色が変わる紙製のネコ砂」

販売会社 株式会社ケーヨー(千葉市若葉区<以下略>所在)




26
(別紙2) 被告各製品説明書



1 製品の説明

別紙1被告製品目録1ないし6記載の製品(被告製品1ないし6)は、次

の図面及び構成の説明に示す動物用排尿処理材である。



2 図面の説明

下記4被告各製品概略図は、動物用排尿処理材の断面図である。



3 構成の説明

a 表層2に、紙粉、吸水性ポリマー、澱粉を含有し、核部分1に、紙粉、

紙おむつ粉砕物、吸水性ポリマーを含有することにより、吸水性を有す

る、動物用排尿処理材であって、

b 前記排尿処理材は、造粒して成る前記核部分1と、該核部分1の表面

に付着して覆う前記表層2とから成る複合層構造であって、前記核部分

1は着色料により着色され、吸尿前には該核部分1の着色は顕出されて

いないが、排尿を吸収すると、下記構成cのとおりに前記表層2を通し

て該核部分1の着色が顕出する、複合層構造を有し、

c 排尿を吸収すると、前記複合層構造を維持した状態で、排尿を吸収し

た部分の核部分1の色が表層2を透過し、又は表層2に滲潤して見える

ようになり、

d これにより排尿を吸収した部分と排尿を吸収していない部分とを判別

することができる、

e 動物用排尿処理材。




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4 被告各製品概略図




紙 粉
2. 表 層 吸水 性ポ リマ ー
デン プン




紙 粉
紙オ ムツ 破砕 品
1 . 核 部分
吸水 性ポ リマ ー
着色料



以 上




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