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事件 |
平成
25年
(行ケ)
10341号
商標登録取消決定取消請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2014/05/14 |
権利種別 | 商標権 |
判例全文 | |
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判例全文
平成26年5月14日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成25年(行ケ)第10341号 商標登録取消決定取消請求事件 口頭弁論終結日 平成26年4月16日 判 決 原 告 ナ ゲ ッ ト 株 式 会 社 訴訟代理人弁護士 岡 林 俊 夫 同 田 村 裕 樹 訴訟代理人弁理士 堤 裕 一 朗 被 告 特 許 庁 長 官 指 定 代 理 人 林 栄 二 同 田 中 敬 規 同 山 田 和 彦 主 文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 特許庁が異議2013−900069号事件について平成25年11月22 日にした決定を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 A 原告は,「オタク婚活」の文字を標準文字により書してなり,指定役務を 下記のとおりとする商標登録第5544516号商標(平成24年1月24 日出願,同年12月6日登録査定,同月21日設定登録。以下「本件商標」と いう。)の商標権者である。 記 (指定役務) 第45類「結婚又は交際を希望する者への異性の紹介,インターネット上 でのウェブサイトを利用した異性の紹介及びこれに関する情報の提供,イン ターネットを利用した結婚に必要な情報の提供」 B Aは,平成25年3月14日,本件商標の商標登録が商標法3条1項3号 及び4条1項7号に違反してされたことを理由に,本件商標の商標登録に対 して登録異議の申立てをした。 特許庁は,上記申立てについて,異議2013−900069号事件とし て審理を行い,平成25年11月22日,「登録第5544516号商標の 商標登録を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,同月 30日,その謄本が原告に送達された。 C 原告は,平成25年12月24日,本件決定の取消しを求める本件訴訟を 提起した。 2 本件決定の理由の要旨 本件決定の理由は,別紙決定書(写し)記載のとおりである。要するに,本 件商標は,「オタクの婚活(オタクの結婚するための活動)」の意味合いをも って取引者,需要者に認識されるものであって,その指定役務について役務の 質(内容)・用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標と いうべきであるから,商標法3条1項3号に該当し,また,本件商標が使用を された結果,その登録査定時において,需要者が本件商標を原告の業務に係る 役務を表示するものとして認識するに至っていたものとは認められず,本件商 標が同条2項に該当するものと認めることができないから,本件商標の商標登 録は同条1項3号に違反してされたものであるというものである。 第3 当事者の主張 1 原告の主張 A 取消事由1(本件商標の商標法3条1項3号該当性の判断の誤り) ア 本件商標の登録査定時において,実際に「オタク」と称される人たち向 けの「結婚するための活動(婚活)」の機会や場を提供する事業等が一般 に行われていたことは認められるものの,「オタク婚活」の語が「オタク 向けの結婚活動」を示す語として一般的に用いられていた実情があったも のとはいえない。 本件決定が示すようにインターネット上で「オタク婚活」の語が掲載さ れている情報はいくつか存在するものの,これらの情報は,原告が事業に 使用していた本件商標を示したものと推測されるものや,本件商標を使用 した原告の事業が大盛況であることにただ乗りすることを目的に他社が使 用したものと推測されるものであり,「オタク婚活」の語が「オタク向け の結婚活動」を示す語として一般的に用いられていた実情があったことの 根拠となるものではない。 イ 「オタク婚活」の語は,新聞記事情報,広辞苑,大辞林及び現代用語の 基礎知識等に掲載されておらず,また,「婚活」の語の前にその対象者を 表す語を結合すると「〜向けの結婚活動」を意味する語となるという慣行 があるとはいえないから,たとえ本件商標が「オタク」と「婚活」の各文 字を一連に表したものであるとしても,一般需要者は,本件商標を「オタ ク向けの結婚活動」を示す語として認識するのではなく,造語として認識 し,本件商標から原告の事業を想起するものとみるのが相当である。 ウ したがって,本件商標が商標法3条1項3号に該当するとした本件決定 の判断は誤りであるから,本件決定は,取り消されるべきである。 B 取消事由2(本件商標の商標法3条2項該当性の判断の誤り) ア 本件決定が商標法3条2項該当性の判断の基準時を本件商標の登録査定 時としたのは誤りである。 すなわち,商標法は,商標を保護することにより,商標の使用をする者 の業務上の信用の維持を図り,もって産業の発達に寄与し,あわせて需要 者の利益を保護することを目的とする法律である(同法1条)。また,全 国的に著名となった商標は,競業他社に模倣されたり,ただ乗りされたり することが多いため,商標法による保護が必要不可欠であることから,商 標法3条2項は,使用により著名となった商標を保護している。 ところで,商標の登録査定後,登録異議の申立てについての決定前に当 該商標を使用した結果,当該商標が全国的に著名となったにもかかわら ず,その後,登録査定時には著名でなかったことを理由に決定で登録が取 り消されることになると,再度商標登録出願をして審査及び登録を受けな ければならないが,そのための費用が余計にかかるだけでなく,再度審査 するための審査官の時間も余計にかかり,審査官の時間を無駄に浪費する ことにもなって,妥当でない。 したがって,本件商標の商標法3条2項該当性の判断の基準時は,登録 異議の申立てについての決定時と解するのが,商標法の目的及び同法3条 2項の趣旨に適い,妥当であるから,これを登録査定時とした本件決定の 判断は誤りである。 イ 原告の事業内容は,以下のとおり,多数のメディアで取り上げられ,紹 介されており(甲1ないし11),これらには,原告が「オタクの婚活 (オタクのための結婚するための活動)」のためのパーティーを開催し ていること及びその開催に係る「アエルラ」と称するウェブサイトを運 営していることの紹介にとどまらず,本件商標を使用した原告の事業が 大成功を収めていることを示すものもある。 具体的には,平成24年5月31日に放送されたフジテレビの番組「 とくダネ!」(甲1)では,「オタク婚活」の文字がはっきりと提示さ れ,その番組内では原告の「アエルラ」に係る事業のみが取り上げられ ている。 「日経消費ウオッチャー2012年5月号」(甲4)では,「オタク 婚活」の文字の前後に“ ”をつけ,本件商標を強調表示して原告の事 業を紹介している。 「TVBros.2012年5月26日号」(甲6)では,「オタク 婚活のアエルラ」と紹介され,「奇刊クリルタイ7. (甲7) 0」 では,「 オタク婚活サービス」として「アエルラ」が紹介されている。「『ゆる オタ君』と結婚しよう!」(甲8)では,「オタク婚活&恋活パーティ ー」として原告の事業が紹介されている。 また,インターネット上でも原告が本件商標を使用していることを示 す記事が多数掲載されている。 これらの紹介記事の大多数(甲1ないし8,11)は,本件商標に係 る原告の事業が人気があり,大盛況であることを示すものである。 ~ 原告の事業である「オタク婚活パーティー」の開催実績一覧(甲13)に よれば,原告は,平成23年6月から平成26年1月までの間,日本橋,新 宿,池袋及び秋葉原という東京の主要都市だけでなく,京都や大阪でも 「オタク婚活パーティー」を開催しており,開催数は722回を数え,参 加者は延べ2万人以上である。「オタク婚活パーティー」は大変人気が あり,申込みが殺到し,毎回のように定員を上回る申込みがある。また,全 国的に開催して欲しいとの需要者の強い要望から,仙台,新潟,名古屋,福 岡でも開催が予定されている。 さらに,原告は,本件商標を用いてインターネットを利用したサービ ス(http://aellura.com参照)も展開している。このサービスは,イン ターネット環境があれば日本全国どこでも利用することができ,登録者 数は,平成25年9月現在で1500人を超え,さらに平成26年3月 現在で約4000人となり,増加傾向にある。 原告は,平成23年12月5日及び同月9日に印刷業者に広告チラシ (甲14,15)を発注し,これを本件商標の登録査定時前から配布し ていた。これらの広告チラシには,本件商標が使用され,使用されてい る「オタク婚活」の文字は看者の注意を十分に惹くものである。 また,原告の事業に関するホームページ(甲17)には,左上部分に 本件商標が使用されており,使用されている「オタク婚活」の文字は看 者の注意を十分に惹くものである。このホームページには,平成23年 6月から平成26年3月までに延べ150万人以上が訪問しており(甲 18),訪問数は増加する傾向にある。「オタク婚活」の検索キーワー ドでグーグルなどの検索エンジンで検索すると,このホームページにた どり着くように,ホームページ開設当初からSEO対策がとられてお り,「オタク婚活」という文字が原告の商標であることを需要者は強く 認識するものといえる。 。 以上によれば,本件商標を使用している原告の事業は全国的に知られ ており,本件商標は,全国的に著名であるといえるから,商標法3条2 項に該当する。 ウ したがって,本件商標が商標法3条2項に該当することを否定した本件 決定の判断は誤りであるから,本件決定は,取り消されるべきである。 2 被告の主張 A 取消事由1に対し ア 「オタク」とは,「俗に,特定の分野・物事を好み,関連品または関連 情報の収集を積極的に行う人。狭義には,アニメーション・テレビ−ゲー ム・アイドルなどのような,やや虚構性の高い世界観を好む人をさす。… 一九八〇年代中ごろから使われる語」(乙1) 「個人の趣味に没頭し, や, 異 常な執着を見せる人物やふるまいを指す。1980年代前半に生まれた言 葉で,元はマンガやアニメなど特定の趣味について使われたが,普及の過 程で意味が拡大・変容し,現在では『マニア』とほぼ同じ…」(乙2)の 意味を有する語として,また,「婚活」とは,「結婚するための活動」の 意味を有する語(乙3)として,いずれも,一般に知られ,用いられてい る。 そして,本件商標は,「オタク」及び「婚活」の両語を結合して一連に 表したとみるのが自然であるところ,インターネット情報(乙4ないし1 3,23)及び新聞記事情報(乙14,15)によれば,本件商標の登録 査定日(平成24年12月6日)当時,既に,いわゆるオタクと称される 人たち向けの「結婚するための活動(婚活)」の機会や場を提供する事業 等が一般に行われていたことがうかがわれ,そのオタク向けの結婚するた めの活動(オタクの婚活)を示す語として,「オタク婚活」の語が用いら れていた実情がある。 これらの実情に鑑みれば,本件商標を構成する「オタク婚活」の文字は,「 オタクの婚活(オタクの結婚するための活動)」の意味合いをもって取引 者,需要者に認識されるにとどまるものといえるから,結婚するための活 動(婚活)を支援するために提供されるものといえる本件商標の指定役務 との関係においてみれば,本件商標は,いわゆるオタクと称される人たち 向けの婚活の支援(情報の提供等)の意味合いをもって,当該役務の質,用 途を表したものと認識されるにすぎないというべきである。 したがって,本件商標は,商標法3条1項3号に該当するものである。 イ 原告は,これに対し,「オタク婚活」の語が「オタク向けの結婚活動」を 示す語として一般的に用いられていた実情があったものとはいえない,「 婚活」の語の前にその対象者を表す語を結合すると「〜向けの結婚活動」を 意味する語となるという慣行があるとはいえないなどとして,本件商標 は,商標法3条1項3号に該当しない旨主張する。 しかしながら,商標法3条1項3号により商標登録できないとされる商 品の品質等を表示する標章とは,我が国で品質等を表示する標章として認 識されたものであれば足り,その標章が我が国において現に使用されてい ることを必要としないというべきである。 また,例えば,主に30歳前後の人たちのための結婚活動を「アラサー 婚活」と,主に中高年層の人たちのための結婚活動を「シニア婚活」と,主 に熟年と呼ばれる中高年層の人たちのための結婚活動を「熟年婚活」,主 に離婚経験のある人たちのための結婚活動を「バツイチ婚活」などと称し ている実情があり(乙16ないし22(枝番を含む。)),これらの例か ら,「○○婚活」が「○○向けの結婚活動」と理解される実情がうかがえ る。 したがって,原告の主張は,理由がない。 ウ 以上によれば,本件商標が商標法3条1項3号に該当するとした本件決 定の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由1は理由がない。 B 取消事由2に対し ア 商標法3条1項3号及び同条2項のような商標の登録要件の存否の判断 は,行政処分の本来的性格に鑑み,一般の行政処分の場合と同じく,特別 の規定が存しない限り,行政処分時,すなわち,査定時又は拒絶査定に対 する審判の請求があった場合は審決時を基準とすべきものであり,このこ とは,登録異議の申立ての事案においても同様である(東京高裁平成14 年1月31日判決(平成13年(行ケ)第181号)参照)。 したがって,本件商標の登録査定時を基準時として商標法3条2項の要 件を判断した本件決定に誤りはない。 イ 原告が本件商標が商標法3条2項に該当することの根拠として挙げる甲 1ないし11,13は,同法2条3項に規定する「使用」に合致する実際 の使用商標を明らかにするものではなく,また,本件商標を構成する「オ タク婚活」の文字を原告の事業とともに強調するものでもない。むしろ,本 件決定において示した「オタクのための婚活(オタクの結婚するための活 動)」の意味合いを表わすものと理解しても何ら違和感がなく,出所を表 示するものとして看者の注意が惹かれるのは,「アエルラ」等のほかの文 字といえるから,看者の注意が本件商標に集まるとは考え難い。 しかも,原告の事業であるオタク向けの婚活パーティーも,本件商標の 登録査定時には,ごく限られた地域及び期間に開催されてきたにとどまる ものである。 一方で,乙4ないし23に係るインターネット情報及び新聞記事情報の とおり,本件商標の登録査定時には,既に,オタク向けの婚活の機会や場 を提供する事業等が一般に行われ,オタクの婚活を表すものとして「オタ ク婚活」の語が普通に使用されていた実情もある。 そうすると,甲1ないし11,13から,本件商標が使用をされた結果,需 要者が何人かの業務に係る役務であることを認識できるに至っていると認 めることはできない。 したがって,本件商標は,商標法3条2項該当性の判断の基準時である 登録査定時において,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識 することができるに至っているということができない。 ウ 以上によれば,本件商標が商標法3条2項の要件を具備しないとした本 件決定の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由2は理由がない。 第4 当裁判所の判断 1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について A 商標法3条1項3号該当性について ア 商標法3条1項3号が,その役務の提供の場所,質,提供の用に供する 物,効能,用途,数量,態様,価格又は提供の方法若しくは時期を普通に 用いられる方法で表示する標章のみからなる商標について商標登録の要件 を欠くと規定しているのは,このような商標は,指定役務との関係で,そ の役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途その他の特性 を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もそ の使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのは 公益上適当でないとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場 合自他役務識別力を欠くものであることによるものと解される。 そうすると,本件商標が商標法3条1項3号に該当するというために は,本件商標の登録査定日である平成24年12月6日の時点において,本 件商標がその指定役務との関係で役務の提供の場所,質,提供の用に供す る物,効能,用途その他の特性を表示記述するものとして取引に際し必要 適切な表示であり,本件商標の指定役務の取引者,需要者によって本件商 標がその指定役務に使用された場合に,将来を含め,役務の上記特性を表 示したものと一般に認識されるものであれば足りると解される。 イ 本件商標は,「オタク婚活」の文字を標準文字により書してなる商標で あり,「オタク」のカタカナ3字と「婚活」の漢字2字とを結合して一連 表記した結合商標である。本件商標からは「オタクコンカツ」の称呼が自 然に生じる。 本件商標を構成する「オタク」の語については,乙1(大辞林第三版,2 006年(平成18年)10月27日発行)に「俗に,特定の分野・物事 を好み,関連品または関連情報の収集を積極的に行う人。狭義には,アニ メーション・テレビ−ゲーム・アイドルなどのような,やや虚構性の高い 世界観を好む人をさす。…一九八〇年代中ごろから使われる語」,乙2( 現代用語の基礎知識,2011年(平成23年)1月1日発行)に「個人 の趣味に没頭し,異常な執着を見せる人物やふるまいを指す。1980年 代前半に生まれた言葉で,元はマンガやアニメなど特定の趣味について使 われたが,普及の過程で意味が拡大・変容し,現在では『マニア』とほぼ 同じく,さまざまな趣味について『○○オタク』と使われることも。」と の記載がある。上記記載及び弁論の全趣旨によれば,本件商標の登録査定 日当時,「オタク」の語は,アニメーション,テレビゲーム,アイドルな どのような特定の趣味の愛好家を示す用語として,一般に認識され,普通 に用いられていたことが認められる。 また,本件商標を構成する「婚活」の語は,本件商標の登録査定日当時, 「 結婚するための活動」を意味する語として,一般に認識され,普通に用い られていたことは,当裁判所に顕著である。 そして,本件商標の登録査定日前の新聞記事情報には,主に30歳前後 の人向けの結婚するための活動を「アラサー婚活」(2010年(平成2 2年)11月22日付け毎日新聞(乙16の1),2012年(平成24 年)1月30日付け静岡新聞(乙16の2)),主に中高年層向けの結婚 するための活動を「シニア婚活」(2011年(平成23年)2月4日付 け,同年6月26日付け及び同月27日付け朝日新聞(乙17の1ないし 3)),主に熟年と呼ばれる中高年層向けの結婚するための活動を「熟年 婚活」(2009年(平成21年)7月10日付け読売新聞(乙18の1)2 , 010年(平成22年)11月22日付け北海道新聞(乙18の2),2 012年(平成24年)10月16日付け南日本新聞)などと称される例 があることからすると,「婚活」の語の前に対象者の属性を表す語を結合 した語は,当該対象者向けの結婚するための活動を意味する語として,本 件商標の登録査定日当時,一般に理解されていたことが認められる。 そうすると,本件商標を構成する「オタク婚活」の語は,本件商標の登 録査定日当時,「オタク」と称される人向けの結婚するための活動を意味 する語として,本件商標の指定役務である「結婚又は交際を希望する者へ の異性の紹介,インターネット上でのウェブサイトを利用した異性の紹介 及びこれに関する情報の提供,インターネットを利用した結婚に必要な情 報の提供」に係る事業の取引者,需要者によって一般に認識されるもので あったことが認められる。 以上によれば,本件商標の登録査定日当時,本件商標は,その指定役務 に使用されたときは,「オタク」と称される人向けの結婚するための活動 を支援する異性の紹介,情報の提供などといった役務の質(内容)を表示 するものとして,取引者,需要者によって一般に認識されるものであっ て,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであっ たものと認められるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上 適当でないとともに,自他役務識別力を欠くものというべきである。 加えて,本件商標は,標準文字で構成されているから,「オタク婚活」の 文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるとい うべきである。 したがって,本件商標は,商標法3条1項3号に該当するものと認めら れる。 B 原告の主張について 原告は,本件商標の登録査定時において,実際に「オタク」と称される人 たち向けの「結婚するための活動(婚活)」の機会や場を提供する事業等が 一般に行われていたことは認められるものの,「オタク婚活」の語が「オタ ク向けの結婚活動」を示す語として一般的に用いられていた実情があったも のとはいえない,「オタク婚活」の語は,新聞記事情報,広辞苑,大辞林及 び現代用語の基礎知識等に掲載されておらず,また,「婚活」の語の前にそ の対象者を表す語を結合すると「〜向けの結婚活動」を意味する語となると いう慣行があるとはいえないから,たとえ本件商標が「オタク」と「婚活」の 各文字を一連に表したものであるとしても,一般需要者は,本件商標を「オ タク向けの結婚活動」を示す語として認識するのではなく,造語として認識 し,本件商標から原告の事業を想起するものとみるのが相当であるから,本 件商標は,商標法3条1項3号に該当するものではない旨主張する。 しかしながら,前記Aアで説示したように,本件商標が商標法3条1項3 号に該当するというためには,本件商標の登録査定日の時点において,本件 商標がその指定役務との関係で役務の提供の場所,質,提供の用に供する 物,効能,用途その他の特性を表示記述ものとして取引に際し必要適切な表 示であり,その指定役務に使用された場合に,将来を含め,役務の上記特性 を表示したものと一般に認識されるものであれば足り,それが一般に用いら れていた実情があったことまで必要とするものではないというべきである。 また,前記Aイ認定のとおり,本件商標の登録査定日当時,「オタク」の 語は,アニメーション,テレビゲーム,アイドルなどのような特定の趣味の 愛好家を示す用語として,一般に認識され,普通に用いられていたものであ って,「婚活」の語の前に対象者の属性を表す語を結合した語は,当該対象 者向けの結婚するための活動を意味する語として一般に理解されていたこと が認められるから,本件商標を構成する「オタク婚活」の語は,本件商標の 登録査定日当時,「オタク」と称される人向けの結婚するための活動を意味 する語として,本件商標の指定役務に係る事業の取引者,需要者によって一 般に認識されるものであったことが認められる。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 C 小括 以上のとおり,本件商標がその登録査定時において商標法3条1項3号に 該当する商標であったものと認められるから,これと同旨の本件決定の判断 に誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(本件商標の商標法3条2項該当性の判断の誤り)について A 商標法3条2項該当性の判断の基準時について 原告は,商標の登録査定後,登録異議の申立てについての決定前に当該商 標を使用した結果,当該商標が全国的に著名となったにもかかわらず,その 後,登録査定時には著名でなかったことを理由に決定で登録が取り消される ことになると,再度商標登録出願をして審査及び登録を受けなければならな いが,そのための費用が余計にかかるだけでなく,再度審査するための審査 官の時間も余計にかかり,審査官の時間を無駄に浪費することにもなって妥 当でないなどとして,本件商標の商標法3条2項該当性の判断の基準時は,登 録異議の申立てについての決定時と解するのが,商標法の目的及び同法3条 2項の趣旨に適い,妥当であるから,これを登録査定時とした本件決定の判 断は誤りである旨主張する。 そこで検討するに,商標法は,商標登録の要件について,3条1項で,同 項各号に掲げる商標を除き,商標登録を受けることができる旨定め,同条2 項で,前項3号から5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果 需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができ るものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができ る旨定めている。 これらの規定によれば,審査官は,商標登録出願のあった商標が商標法3 条1項各号に該当するかどうかを判断し,その上で,当該商標が同項3号か ら5号までに該当すると判断した場合であっても,同条2項に該当すると判 断したときは,登録査定(同法16条)を行うこととなるのであるから,商 標登録が同法3条に違反してされたことを理由に登録異議の申立て(同法4 3条の2第1号)がされた場合における同法3条1項各号該当性及び同条2 項該当性の判断の基準時は,いずれも,その登録査定の行政処分がされた登 録査定時(同法55条の2第2項により商標登録をすべき旨の審決がされた ときは,その審決時。以下同じ。)と解するのが相当である。 また,商標法3条1項と2項の規定の構造に照らし,同条2項該当性の判 断の基準時のみを登録異議の申立てについての決定時と解することは妥当で ないというべきである。 したがって,本件商標の商標法3条2項該当性の判断の基準時をその登録 査定時とした本件決定に誤りはないから,原告の上記主張は,理由がない。 B 商標法3条2項該当性について 原告は,原告の事業内容は,多数のメディアで取り上げられ,紹介されて おり(甲1ないし11),これらの紹介記事の大多数(甲1ないし8,1 1)は,本件商標に係る原告の事業が人気で大盛況であることを示すもので あること,原告の事業である「オタク婚活パーティー」の開催実績(甲13)原 , 告が本件商標を用いてインターネットを利用したサービス(http://aellura .com参照)を展開していること(甲17),原告が本件商標の登録査定時前か ら配布していた広告チラシ(甲14,15)及び原告の事業に関するホーム ページ(甲17)には,本件商標が使用され,使用されている「オタク婚活」の 文字は看者の注意を十分に惹くものであることなどからすると,本件商標を 使用している原告の事業は全国的に知られており,本件商標は商標法3条2 項に該当するから,本件商標が同項に該当することを否定した本件決定の判 断は誤りである旨主張するので,以下において判断する。 ア 原告が挙げるメディアにおける紹介記事等(甲1ないし11)は,次の とおりである。 平成24年5月31日に放送されたフジテレビの番組「とくダネ!」( 甲1)では,「大人気! オタク婚活に密着 学歴よりも好きなアニ メ」などの画面表示の下に,「オタク婚活」を話題として取り上げ,原 告が開催した「オタク婚活パーティー」などの様子を紹介するコーナー があり,その中には,「オタク婚活パーティー『アエルラ』 参加費 男 性 6000円〜8000円 女性2000円〜3000円 (日程に よって違います)」とのテロップが表示されるシーンがある。 しかしながら,上記番組は,オタクと称される人たちの中で「オタク 婚活」あるいは「オタク婚活パーティー」そのものに人気があることを 話題として取り上げたものであり,原告が「アエルラ」の名称で「オタ ク婚活パーティー」を独占的に行っていることや,「オタク婚活」の語 が原告の事業の出所を示すものとして広く知られていることをうかがわ せるものではない。 ~ 甲2(平成24年6月4日付け日経MJ),甲3(週刊朝日2012 年(平成24年)6月15日号)には,原告がオタク男女を対象とした 婚活パーティーを運営している旨の記載があるが,「オタク婚活」の文 字の記載はない。 甲4(日経消費ウオッチャー2012年(平成24年)5月号)には,「 『オタク婚活&恋活パーティー』というイベントサイト。サイト制作会 社のナゲット(東京・江戸川)が昨年6月から月12回以上のペースで 開催している。“オタク婚活”サイト『アエルラ』も運営する同社のX 社長は『人気のオタク婚活パーティーには,男女それぞれ10人ほどの 募集枠に2倍以上の申し込みがある』と言う。毎回,平均で4〜5組の カップルが誕生しているそうだ。」などの記載がある。 甲5ないし10(いずれも作成時期不明)には,「同じ趣味を持つ『 オタク同士』で婚活してもらう,オタクのための婚活サイト『アエルラ 』が開催する婚活パーティーの真っ最中で…」(甲5),「『アニメ』 『ゲーム』『ボーイズラブ』など,毎回用意されたテーマを元に行われ る『オタク婚活』」(甲6),原告の代表取締役社長のXのインタビュ ー記事(甲6ないし8),「実はこれが,オタク婚活&恋活パーティー と呼ばれるイベント。主催するアエルラ(運営:ナゲット)が’11年 6月から,月12回以上のペースで開催している。」(甲8)などの記 載がある。 しかしながら,甲4ないし11は,原告が「アエルラ」の名称で「オ タク婚活パーティー」を事業として行っていることを示すものにとどま るものであって,「オタク婚活」の語が原告の事業の出所を示すものと して広く知られていることをうかがわせるものではない。 イ 原告作成の「オタク婚活パーティー」の開催実績一覧(甲13)によれ ば,原告は,2011年(平成23年)6月26日から本件商標の登録査 定日(平成24年12月6日)前の同月2日までの間に合計270回にわ たり,「オタク婚活パーティー」を名称に含む婚活パーティー等,オタク と称される人たち向けの婚活パーティーを開催したことがうかがわれる。 しかしながら,上記婚活パーティーの1回当たりの参加者枠は,男女合 計で20名ないし60名であり,開催地域は,東京yの秋葉原,池袋,日 本橋,東新宿及び京都に限定されていることからすると,上記開催実績を もって「オタク婚活」の語が原告の事業の出所を示すものとして広く知ら れていることの根拠となるものではない。 また,原告が本件商標の登録査定日前から発注・配布していたと主張す る広告チラシ(甲14,15)の印刷部数は合計1100部(平成23年 12月5日に100部,同月9日に500部,平成24年11月7日に5 00部)にとどまり(甲16,22),その具体的な配布先は証拠上明ら かではない。 さらに,甲18(「Google Analytics」のユーザーサ マリー)には,原告の運営するウェブサイト(http://aellura.com。甲1 7)の2011年(平成23年)6月1日から2014年(平成26年)3 月20日までの間の訪問数,ユーザー数,ページビュー数などの数値の記 載があるが,これらの数値は本件商標の登録査定日当時の数値を示したも のではない。 ウ 一方で,次のようなインターネット情報及び新聞記事情報が掲載されて いたことが認められ,これらによれば,本件商標の登録査定日(平成24 年12月6日)当時,オタクと称される人たち向けの結婚するための活動 の機会や場を提供する事業等が一般に行われていたことがうかがわれる。 インターネット情報 a 「YAHOO!JAPAN知恵袋」(乙4) 「自分は同人作家(女)です。結婚を考えてオタク婚活を何度かし たのですが,…。」,「質問日時:2011/11/1…」 b 「YAHOO!JAPAN知恵袋」(乙5) 「オタク婚活が気になります。わたしは20歳のアニメ・漫画がす きな女です。…オタク婚活はハードルが高いでしょうか?…」,「質 問日時:2012/3/12…」,その回答として,「…『オタク婚 活で気の合う人を見つけるぞ!』くらいの感じで楽しむ感じで行くべ きです。」,「詳しいことは私も知りませんが,この間,夕方の地方 ニュース番組の特集で,『オタクの婚活』の話をやっていました。 , 」「 回答日時:2012/3/13…」 c 「テレビのブログ」(乙6) 「オタク婚活パーティーに31歳の女性が参加|スーパーJチャン ネル」のタイトルの下,「田中さんが参加したのは『I’m Sin gle オタク婚活パーティEX』です。…」,「2012−02− 28…」 d 「にほんブログ村」(乙7) 「オタクはオタク同士で結婚したほうがいいのか?」のタイトルの 下,「最近,『オタク婚活』なる婚活サイトやお見パが流行っている ようですね。…」,「2012/07/16…」 e 「せつな日記」(乙8) 「2012年9月4日(火) 付けで, 」 「オタク婚活に行ってみた」の タイトルの下,「とりあえず,先日,オタク婚活に行ってみました。以 前,あるオタク婚活サイトで申し込んでみたんですけど,…」 f 「JCASTニュース」(乙10) 「『オタク婚活』サイトが急増 オタク同士なら理解し合える」の タイトルの下,「2011/6/19…」,「オタクな男女を結びつ ける『婚活サイト』が増えている。…」 g 「働くモノニュース:人生VIP職人ブログwww」(乙11) 「鷲宮のオタク婚活,7組のカップル誕生 成立率は35%」のタ イトルの下,「2010/11/29(月)…」,「アニメ『らき☆ すた』の“聖地”埼玉県久喜市鷲宮地区で開かれたオタク男女の出会 いの場を提供するイベント」 h 「オタク婚活ガイド」(乙12) 「オタクの婚活パーティーがキテる」のタイトルの下,「2011 年頃からオタク向けの婚活パーティーやイベントが,盛んに行われる ようになりました。」,「…いまオタク婚活パーティーは大盛況。予 約抽選待ちというケースだってあります。」 i 「Searchina(サーチナ)」(乙13) 「『らき☆すた』の聖地でオタク婚活パーティー!!」のタイトル の下,「【社会ニュース】2010/11/01(月)…」,「…埼 玉県久喜市鷲宮地区で参加者をオタクに限定した…婚活イベント…が 実施されます!!」 ~ 新聞記事情報 a 2010年(平成22年)11月23日付け東京新聞朝刊(乙14) 「オタクの恋求め殺到 28日“聖地”久喜で婚活イベント」の見 出しの下,「…町おこしに取り組む埼玉県久喜市鷲宮地区の商工会 が,…“オタク限定”の婚活イベントを企画したところ,定員40人 を大幅に上回る501人から参加申し込みがあった。…」 b 2010年(平成22年)月11月18日付け静岡新聞夕刊(乙1 5) 「オタク限定の婚活に応募殺到−埼玉・旧鷲宮町」の見出しの下,「 …埼玉県の旧鷲宮町(現久喜市)でオタク限定の“婚活”パーティー が企画され,男女各20人の定員に約500人の応募が殺到し,…」 エ 以上によれば,本件商標の登録査定日(平成24年12月6日)の時点 において,オタクと称される人たち向けの結婚するための活動として「オ タク婚活」と称する婚姻パーティーが盛んに行われていたが,原告の事業 が全国的に知られていたものということはできず,原告が本件商標を使用 していても,それは,原告が上記オタクと称される人たち向けの婚姻パー ティーを開催していると認識されていたにすぎず,需要者が本件商標を原 告の業務に係る役務を表示するものとして認識するに至っていたものと認 めることはできない。 したがって,本件商標がその登録査定時において商標法3条2項に該当 する商標であったものと認められない。 C 小括 以上のとおり,本件商標がその登録査定時において商標法3条2項に該当 する商標であったものと認められないから,これと同旨の本件決定の判断に 誤りはなく,原告主張の取消事由2は理由がない。 3 結論 以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件決 定にこれを取り消すべき違法は認められない。 したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 富 田 善 範 裁判官 大 鷹 一 郎 裁判官 平 田 晃 史 |