審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成26ワ766 商標権侵害差止請求事件 | 判例 | 商標 |
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事件 |
平成
26年
(ワ)
770号
商標権侵害差止請求事件
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2014/08/28 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成26年8月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成26年(ワ)第770号 商標権侵害差止請求事件 口頭弁論の終結の日 平成26年7月16日 判 決 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり 主 文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事 実 及 び 理 由 第1 請求 1 被告は,別紙被告標章目録1ないし3記載の各標章を付した薬剤を販売して はならない。 2 被告は,前項記載の薬剤を廃棄せよ。 第2 事案の概要 本件は,薬剤を指定商品とする商標権を有する原告が,被告が薬剤に付した 別紙被告標章目録1ないし3の標章(以下,それぞれを目録の番号に従い「被 告標章1」,「被告標章2」,「被告標章3」のようにいい,併せて「被告標 章」という。)が原告の商標権の登録商標に類似すると主張して,被告に対し, 商標法36条に基づき,被告標章の使用の差止め及び被告標章を付した薬剤の 廃棄を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがない。) (1) 原告は,以下の商標権(以下,「本件商標権」といい,本件商標権に係 る登録商標を「本件登録商標」という。)を有している。 出願年月日 平成17年8月30日 登録年月日 平成18年4月7日 登 録 番 号 第4942833号 1 指 定 商 品 第5類 薬剤 登 録 商 標 PITAVA(標準文字) (2) 被告は,業として,別紙被告商品目録記載のとおり,「ピタバスタチン Ca錠1mg「明治」」という薬剤(以下「被告商品1」という。)に被告 標章1を,「ピタバスタチンCa錠2mg「明治」」という薬剤(以下「被 告商品2」という。)に被告標章2を,「ピタバスタチンCa錠4mg「明 治」」という薬剤(以下「被告商品3」といい,被告商品1及び2と併せて 「被告商品」という。)に被告標章3をそれぞれ付し,これらを販売してい る。 (3) 被告商品は,本件商標権の指定商品である薬剤に含まれる。 (4) 本件登録商標と被告標章とは,称呼において類似する。 2 争点 (1) 被告標章の使用が商標的使用に当たるか(争点1) (2) 被告標章は普通名称などを普通に用いられる方法で表示する商標に当た るか(争点2) (3) 本件登録商標の商標登録が商標登録の無効の審判により無効にされるべ きものと認められるか(争点3) (4) 原告の本訴請求が権利の濫用に当たるか(争点4) 3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点1(被告標章の使用が商標的使用に当たるか)について (原告) ピタバは,取引者,需要者,とりわけ医薬品を服用する患者において,ピ タバスタチンあるいはピタバスタチンカルシウムと認識されているとはいえ ず,服用者たる患者は,被告標章を視認して他の薬剤と出所を識別するので あるから,被告標章は自他商品識別機能を奏する。 被告は,ピタバがピタバスタチンの略称であることの根拠として研究報告 2 や公開特許公報等を挙げるが,これらはピタバスタチンをロスバスタチン等 と比較する等限られた使用例に過ぎない上,取引者,需要者,とりわけ患者 の認識を示すものではないから,被告の主張には理由がない。患者は,自ら の意思と支出において医薬品を購入するのであり,少なくとも医薬品が処方 される過程に影響を与えるから,取引者,需要者に当たる。 被告商品のパッケージであるPTPシートに「明治」と表示されていると しても,それによって錠剤の「ピタバ」の表示が自他商品識別機能を失うわ けではないし,とりわけ一包化調剤として被告商品を交付された患者は,パ ッケージであるPTPシート等の表示を認識せず,錠剤の表示に基づいて薬 剤の出所を識別するから,被告標章が自他商品識別機能を奏することに変わ りはない。 (被告) ピタバは,ピタバスタチンカルシウムの略称であり,錠剤に被告標章の印 字あるいは刻印をしているのは,服用者が服用する際に他の薬剤と間違えな いよう誤飲防止のためであるから,被告標章は,商標的機能,すなわち自他 商品識別機能を有しない。 ピタバスタチンの「statin」(スタチン)は,コレステロール値を下げる 薬の総称の1つであり,これを除外したピタバは,ピタバスタチンカルシウ ムを想起させる略称として,需要者,取引者たる調剤薬局の現場において一 般的に使用されている。このことは,特許庁審査官が原告の「ピタバ」の商 標登録出願を拒絶したことや,ピタバスタチンを「ピタバ」ないし 「PITAVA」と略称した研究報告,公開特許公報等があることから明らかであ る。被告商品は処方箋医薬品に該当するから,患者は,被告標章を出所表示 として認識した上で任意に被告商品を選択して購入することはなく,取引者, 需要者に該当しない。 被告商品のパッケージであるPTPシートには,いずれも「明治」と表示 3 されており,商標としての自他商品識別機能は,「明治」の部分にある。被 告商品を購入する取引者,需要者に対しては,錠剤のパッケージ等の表示が 商標的機能,すなわち,自他商品識別機能を奏しており,患者がこれをパッ ケージから取り出して服用しようとする際に取り出された錠剤に印字あるい は刻印された被告標章を見て自他商品を識別することはないから,被告標章 の使用は商標的使用に当たらない。なお,原告が主張する一包化調剤の場合 においても,患者は袋を開封してそのまま全ての薬剤を服用するから,被告 標章により他の薬剤から選択して服用するようなことはしない。 (2) 争点2(被告標章は普通名称などを普通に用いられる方法で表示する商 標に当たるか)について (被告) ピタバは,ピタバスタチンカルシウムという普通名称の略称として一般的 に使用されているものである。また,錠剤に名称や略称を印刷もしくは刻印 することは,製薬業界において一般的に行われているから,被告標章は,普 通名称などを普通に用いられる方法で表示する商標に当たり,商標法26条 1項2号により,本件商標権の効力は及ばない。 (原告) ピタバは,取引者,需要者,とりわけ患者において,ピタバスタチンある いはピタバスタチンカルシウムと認識されているとはいえないから,被告の 主張は前提において誤りがある。 (3) 争点3(本件登録商標の商標登録が商標登録の無効の審判により無効に されるべきものと認められるか)について ア 本件登録商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標に当 たるか (被告) 「PITAVA」は,これに接する取引者,需要者に医薬品の一般名で 4 ある「pitavastatin」の略称であると容易に理解されるものであり,医薬 品の有効成分の一般名称と同一視しうる略称に独占権を与えることは,国 際的及び国内的な社会秩序に反するものであるから,本件登録商標は,公 の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標(商標法4条1項7号) に当たる。 (原告) 「PITAVA」は,取引者,需要者,とりわけ患者において,ピタバ スタチンあるいはピタバスタチンカルシウムと認識されているとはいえな いから,被告の主張は前提において誤りがある。 イ 本件登録商標が商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標に当たるか (被告) 「PITAVA」は,普通名称であるピタバスタチンあるいはピタバス タチンカルシウムの略称であり,「PITAVA」をピタバスタチンある いはピタバスタチンカルシウム以外を有効成分とする薬剤やそれ以外の医 薬品に使用すれば,取引者,需要者においてピタバスタチン,ピタバスタ チンカルシウムを有効成分とする薬剤であると認識し,品質の誤認を生ず るおそれがあることは明白であるから,本件登録商標は,商品の品質の誤 認を生ずるおそれがある商標(同項16号)に当たる。 (原告) 「PITAVA」は,取引者,需要者,とりわけ患者において,ピタバ スタチンあるいはピタバスタチンカルシウムと認識されているとはいえな いから,被告の主張は前提において誤りがある。 (4) 争点4(原告の本訴請求が権利の濫用に当たるか)について (被告) 原告は,平成15年の発売開始以来現在までピタバスタチンカルシウムを 有効成分とする医薬品を「リバロ」という商品名で販売し,「PITAV 5 A」もしくは「ピタバ」という商品名での販売をしていないから,本件登録 商標は,原告が自己の業務に係る商品について使用をする商標(商標法3条 1項柱書)ではなく,また,医療用後発医薬品の販売名には自由な商標を付 すること自体が許されず,ピタバスタチンカルシウムを有効成分とする医薬 品には一般的名称である「ピタバスタチンカルシウム」を販売名に付さなけ ればならないところ,「PITAVA」は,ピタバスタチンカルシウムの略 称であるから,本件登録商標は,商品の品質を普通に用いられる方法で表示 する標章のみからなる商標(同項3号)である。本件商標権には,前記(3) で主張した無効理由に加えて,このような無効理由があるから,本件商標権 に基づく請求は,権利の濫用に当たり許されない。 (原告) 製薬会社である原告は,自ら本件登録商標を使用する意思をもって,本件 商標権の登録を受け,キョーリンリメディオ株式会社に対して,平成25年 12月19日付け商標使用許諾契約により通常使用権を設定しているもので あり,また,「PITAVA」は,取引者,需要者,とりわけ患者において, ピタバスタチンあるいはピタバスタチンカルシウムと認識されているとはい えない。 そして,本件は,商標法47条の除斥期間の経過により無効審判請求をす ることができない場合であり,このような場合は権利の濫用に当たらない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(被告標章の使用が商標的使用に当たるか)について (1) 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア 被告標章は,別紙被告商品目録記載のとおり,「ピタバ」の片仮名を被 告商品(錠剤)の上半分に外縁に沿って等間隔に配置した標章である。被 告標章は,被告商品1については,「明治」の漢字及び「1」という含量 を示す数字と併せて錠剤の片面に表示されており,被告商品2及び3につ 6 いては,「2」ないし「4」という含量を示す数字と併せて錠剤の片面に 表示され,裏面には「MS」の英文文字及び3桁の数字が表示されている。 イ 被告商品の販売名は,前記第2の1前提事実(2)記載のとおりであり, 被告商品のパッケージであるPTPシートには,いずれも販売名が「明 治」の漢字も含めて表示されている。 ウ ピタバスタチンカルシウムを有効成分とする医療用後発医薬品の販売名 には,医薬品の販売名等の類似性に起因した医療事故を防止するために, 一般的名称である「ピタバスタチンカルシウム」及び剤型,含量,会社名 (屋号等)を付さなければならないこととされている。 また,錠剤に販売名等を印刷もしくは刻印する方法は,製薬業界におい て一般的に行われている。 (乙3,5) エ 被告商品は,処方箋医薬品に該当する高コレステロール症治療剤であり, 患者は,長期間にわたって反復継続して購入,服用するものである。コレ ステロール値を下げる薬の総称の1つである「statin」の付された有効成 分には,ピタバスタチンのほかに,アトルバスタチン,ロスバスタチンな どがある。 (乙6,22) オ 原告は,平成25年10月17日付けで,「ピタバ(標準文字)」を登 録商標とする商標登録出願をしたが,特許庁審査官は,平成26年3月4 日付けで,「ピタバ」の文字は,指定商品を取り扱う業界において,「ピ タバスタチンカルシウム」又は「ピタバスタチン」の略称として使用され ているから,単に商品の原材料,品質を普通に用いられる方法で表示する 標章のみからなる商標であるなどとして拒絶理由を通知し,同年6月12 日に拒絶査定をした。 (乙24,26) 7 カ 原告は,キョーリンリメディオ株式会社に対し,平成25年12月19 日付け商標使用許諾契約により通常使用権を設定しているところ,キョー リンリメディオ株式会社の発売するピタバスタチンカルシウムを有効成分 とする錠剤には,「ピタバ」及び「杏林」並びに「1」ないし「2」とい う表示があり,パンフレットには,「一錠毎に成分名と含量を表示」とい う記載がある。 (甲8,乙25) (2) 以上によれば,被告標章は,被告商品の有効成分であるピタバスタチン カルシウムの略称として被告商品(錠剤)に表示されているものであって, その具体的表示態様は,本件商標権の使用許諾を受けているキョーリンリメ ディオ株式会社のそれと何ら異なるものではない。そうすると,被告商品の 主たる取引者,需要者である医師や薬剤師等の医療関係者は,被告商品に接 する際,その販売名に付された会社名(屋号等)「明治」に加えて,被告商 品のパッケージであるPTPシートに付された「明治」との表示や被告商品 に併せて表示されている「明治」や「MS」の表示によってその出所を識別 し,錠剤に表示された被告標章は,被告商品の出所を表示するものではなく, 有効成分の説明的表示であると認識すると考えられる。 (3) 原告は,ピタバは,取引者,需要者,とりわけ患者において,ピタバス タチンあるいはピタバスタチンカルシウムと認識されているとはいえないと ころ,とりわけ一包化調剤として被告商品を交付された患者は,パッケージ であるPTPシート等の表示を認識せず,錠剤の表示に基づいて薬剤の出所 を識別する旨主張し,インターネット質問サイトの事例(甲15の1ないし 4)からも錠剤の表示が出所識別機能を有することは明らかだとする。しか しながら,原告の主張のとおり解するとしても,そもそも患者が錠剤の表示 に基づいてその出所を識別し当該薬剤の処方を受ける事例は極めて限られて いると考えられるし,患者は,医師,薬剤師から被告商品を処方される際に 8 受ける説明等を踏まえて被告標章に接するところ,被告商品には被告標章の 他に「明治」や「MS」の表示があること,被告商品は,長期間にわたり反 復継続的に購入,服用される薬剤であることも考え合わせれば,患者におい ても被告標章をもって被告商品の出所の表示であると認識しているとは認め 難く,むしろ有効成分の説明的表示であると認識するのが一般的であると考 えられる。原告の主張は,採用することができない。 2 以上のとおりであって,被告標章の使用は,商標的使用に当たらず,本件商 標権を侵害するものではないから,原告の請求は,その余の点につき検討する までもなく,理由がない。 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 高 野 輝 久 裁判官 藤 田 壮 裁判官 宇 野 遥 子 添付の特許公報は省略する。 9 (別紙) 当 事 者 目 録 名古屋市<以下略> 原 告 興 和 株 式 会 社 同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 北 原 潤 一 江 幡 奈 歩 梶 並 彰 一 郎 東京都中央区<以下略> 被 告 Meiji Seika ファルマ株式会社 同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 飯 田 秀 郷 栗 宇 一 樹 大 友 良 浩 隈 部 泰 正 和 氣 満 美 子 森 山 航 洋 奥 津 啓 太 清 水 紘 武 同 補 佐 人 弁 理 士 水 野 勝 文 岸 田 正 行 和 田 光 子 保 崎 明 弘 以上 10 (別紙) 被 告 標 章 目 録 1 2 3 以上 11 (別紙) 被 告 商 品 目 録 被告商品1 被告商品2 被告商品3 以上 12 |