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関連審決 異議2012-900364
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成29ワ12058 商標権侵害行為差止等請求事件 判例 商標
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平成26ネ10005商標権侵害行為差止等請求控訴事件 判例 商標
平成27行ケ10132 審決取消請求事件 判例 商標
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事件 平成 26年 (行ケ) 10144号 商標登録取消決定取消請求事件

原告株式会社キムラメド
訴訟代理人弁護士田端聡朗
被告特許庁長官
指定代理人酒井福造 堀内仁子
被告補助参加人 クロス・メディカルサービス株式会社
訴訟代理人弁護士風祭靖之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/01/29
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が異議2012-900364号事件について平成26年5月13日にした異議の決定を取り消す。
事案の概要
本件は,登録異議の申立てに基づいて商標登録を取り消した異議の決定の取消訴訟である。争点は,@商標法4条1項10号該当性の有無,A商標法4条1項7号該当性の有無である。
1 特許庁における手続の経緯 原告は,下記商標(以下「本件商標」という。)について,指定商品及び指定役務を,第10類「医療用機械器具」及び第37類「医療用機械器具の修理又は保守」として商標登録(出願日:平成23年12月19日,登録査定日:平成24年8月2日,登録日:同年9月28日。登録第5524118号。以下「本件商標登録」という。甲1,56の1・2)を受けた商標権者である。
(本件商標) 被告補助参加人は,平成24年12月20日,本件商標登録は,公序良俗に反し,また,木村医科器械株式会社(以下「木村医科器械」という。)が使用していた下記二種類の商標(以下「木村商標1」及び「木村商標2」という。)との出所混同を生ずる等として,本件商標登録につき登録異議(異議2012-900364号)を申し立て(甲49),特許庁は,平成26年5月13日,本件商標登録を取り消すとの異議の決定(以下,単に「決定」という。)をし,その決定謄本は,同月21日,原告に送達された。
(木村商標1) (木村商標2) 2 決定の理由の要点 決定は,次のとおり,本件商標は,商標法4条1項10号及び同条1項7号に該当するとして,本件商標登録を取り消した。
(1) 商標法4条1項10号について ア 木村商標1及び2の周知性 木村医科器械(昭和41年5月21日に設立。平成23年4月25日に破産手続開始。平成24年3月12日に破産手続廃止決定。)は,遅くとも平成10年2月には,その業務に係る商品「医療用機械器具」について,木村商標1又は2を表示しており,また,該商標の下でその業務に係る役務「医療用機械器具の修理及び保守」の提供も行っていたといえるものであって,平成22年9月29日に,事実上,被告補助参加人(申立人)にその事業を承継するまでの間,継続して,その業務に係る商品に木村商標1又は2を表示し,該商標の下で役務の提供をして,全国の主要都市に設けた営業所を拠点に営業活動を行ってきたことが認められる。
したがって,木村商標1及び2は,本件商標が登録出願された平成23年12月19日において,木村医科器械の業務に係る商品「医療用機械器具」及び役務「医療用機械器具の修理及び保守」を表示するものとして,少なくとも,医療用機械器具の取引者や主な納入先である大学の医学部附属病院等の需要者の間には広く認識されていたものと認めることができ,営業活動が長期に及ぶことなどから,その周知性は,本件商標の登録査定日(平成24年8月2日)においても継続していたものと推認することができる。
木村商標1及び2の周知性は,木村医科器械の事業の停止により直ちに消滅するとはいえないものであって,木村医科器械の事業の停止が広報されていることや,該商標を使用する商品又は役務に係る事業に許認可が必要であること等の特殊性は,本件商標の商標法4条1項10号該当性の要件に直接関係するものではない。
イ 本件商標と引用商標との類似性及び指定商品・役務との類似性 本件商標と木村商標1及び2とは,同一又は類似の商標であると認められ,本件商標の指定商品及び指定役務と木村商標1又は2の使用に係る商品及び役務は,ともに「医療用機械器具」「医療用機械器具の修理及び保守」であり,同一の商品又 ,は役務である。
ウ 以上によれば,本件商標は,他人(木村医科器械)の業務に係る商品「医療用機械器具」及び役務「医療用機械器具の修理及び保守」を表示するものとして,取引者,需要者の間に広く認識されていた商標と同一又は類似する商標であって,その商品又は役務と同一の商品又は役務について使用する商標というべきであるから,商標法4条1項10号に該当する。
(2) 商標法4条1項7号について 商標法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には,該商標を指定商品あるいは指定役務について使用することが「社会の一般道徳観念に反するような」場合が含まれると解されるところ,これには,ある商標をその指定商品又は指定役務について登録し,これを排他的に使用することが,該商標をなす用語等につき該商標出願人よりもより密接な関係を有する者等の利益を害し,剽窃的行為であると評することのできる場合も含まれる。
本件商標と木村商標1及び2は,実質的に同一といい得るほど酷似している商標である。そして,木村商標1は,遅くとも平成10年2月以降,木村医科器械の主たる商標として継続的に使用されてきたものであり,木村医科器械について,平成23年4月25日に東京地方裁判所により破産手続が開始され,平成24年3月12日に費用不足による破産手続廃止の決定が確定したとしても,そのことにより一 定の信用が蓄積された財産としての木村商標1が消滅するものではなく,被告補助参加人と木村医科器械の破産管財人との間の木村医科器械の在庫品に関する平成23年6月9日付け動産売買契約の締結及び木村商標1等に関する平成24年3月12日付け商標譲渡契約の締結により,被告補助参加人に譲渡されたとみるのが相当である。
他方,原告は,木村医科器械を平成22年7月15日に退職したA(現原告代表者)が平成23年1月21日に,医療機器・健康機器の製造販売及び修理等を業とする会社として設立したものであり,その代表取締役であるAは,木村医科器械及び同社が使用していた木村商標1の存在について熟知していたといえる。
してみると,原告は,本件商標の登録出願前から,木村医科器械の破産手続開始決定やその後の経緯について知り得ることができたものであって,木村医科器械の在庫売買等に当たって木村商標1が使用されることを十分に知っていながら,木村商標1が商標登録されていないことを奇貨として,これと実質的に同一といい得るほど酷似している本件商標を木村医科器械の破産管財人の承諾を得ずに先取り的に商標登録出願し,登録を得たものであって,原告が医療機器・健康機器の製造販売及び修理等を業とする会社である事実に照らせば,原告の行為は,木村医科器械及びその事業の譲受人の事業の遂行を阻止し,木村商標1による利益の独占を図る意図でしたものであって,剽窃的なものといわなければならない。
したがって,本件商標登録出願の経緯には,著しく社会的妥当性を欠くものがあり,その商標登録を認めることは,公正な競業秩序を害し,公序良俗に反するものであるから,商標法4条1項7号に該当する。
原告主張の決定取消事由
1 取消事由1(商標法4条1項10号該当性判断の誤り) (1) 木村商標1及び2の周知性について 周知商標とは,特定人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして,商標登録出願時に我が国内の取引者,需要者の間に広く認識されている商標である。そして,本条の趣旨は,出所混同の防止であることから,出所の混同可能性がないような商標については,周知性がなく,たとえ過去において周知性があったとしても,当該周知性が消滅しているというべきである。
ア 登録出願時 木村医科器械は,平成22年9月29日に事業を停止し,その旨を広く周知していることから,本件商標をもって,木村医科器械の商品又は役務と誤認混同を与えることはない。特に,木村医科器械の行っていた事業は,通常の事業と異なり,薬事法に基づく許認可等が必要となる事業であることから,倒産した会社が,当該商品又は役務を提供することができないこと(薬事法19条,40条,10条)については,取引者,需要者も当然知っているという特殊性がある。
また,本件のように,薬事法による許認可が必要となり,特定の市場で流通する商品や限定された市場においてのみ提供される役務については,取引の実情を十分考慮に入れる必要がある。すなわち,医療機器は高額であり,リスクの高い商品であることから,販売業者だけで対応することができず,専門的な知識と技術を要する製造販売業者による機器の内容や操作方法の説明が必要となるのであり,このような医療機器の取引の実情からすると,取引者,需要者は,本件商標を見ただけで商品を購入,又は役務の提供を受けるものではなく,当該医療機器の製造販売業者や修理業者(いずれも許可をもっているもの)が誰であるかを確認し,その者から具体的な医療機器等の説明を受け,その上で納品等も受けるのである。そうすると,本件商標が使用されていたとしても,その出所を混同することはあり得ない。特に,人工呼吸器や全身麻酔器は,定期的なメンテナンスが法令により義務付けられており,メンテナンスは修理業の許可を得た業者のみが行うことができることから,メンテナンスを行うことができることは商品購入における関心事であるので,その点からも,本件商標をもって出所混同を生じることはない。
さらに,医療機器の包装表示方法については薬事法によって具体的かつ厳密にルールが義務付けられており,製造販売業者の名称や住所,製造業者の氏名や住所などを商品や添付文書に明示しなくてはならない(薬事法63条,同法63条の2,同法施行規則222条)。したがって,原告が本件商標を使用していたとしても,商品には製造販売業者として木村医科器械の名前ではなく,原告である「キムラメド」の名前が表示されることから,取引者・需要者が出所を混同することはない。
イ 登録査定時 前記アの事情に加え,木村医科器械は,平成24年3月12日に破産手続が異時廃止により終了しており,法人としても存在していないことから,登録査定時である平成24年8月2日において,本件商標をもって木村医科器械の商品又は役務であると出所を混同することはない。また,登録査定時には,原告による木村医科器械製品を対象とする修理業が開始しており,原告が全国の病院機関,取扱業者,仕入業者にその旨を通知したことによっても,木村医科器械の破産手続の異時廃止の事実は周知された。
そして,本件商標の顧客吸引力は強くなく,被告補助参加人は木村医科器械が再建されたものであるとの取引者,需要者の認識もなく,取引の継続性もないことから,本件では,破産会社の商標権の効力が続かないことは明らかである。
したがって,本件商標をもって,木村医科器械が販売しているなどの出所混同が生じることはあり得ず,周知性は消滅している。
ウ 木村商標2の周知性 木村商標2は,平成20年に当時の木村医科器械の管理部責任者であったAが制作したものであり,木村商標2が実際に使用されたのは,平成20年以降平成22年9月までの短い期間である上,この期間においても木村商標1と木村商標2は併用して使用されているため,木村商標2に周知性があったとは到底いえない。
(2) 本件商標と木村商標1及び2の類似性について 本件商標と木村商標1は「KIMURA」部分の文字形状が異なっており,また 本件商標は専ら青色を使用するのに対して,木村商標1は黒色か赤色を使用している。また,木村商標1は「K KIMURA」の文字を縁取る四角が特徴的であるのに対し,本件商標にはその四角がない。
よって,これら2つの商標から受け取れる印象は,一見して異なる。
また,木村商標2には「MEDICAL INSTRUMENT」の文字が下部にあるため,本件商標と同一でないことは一見して分かる。
2 取消事由2(商標法4条1項7号該当性判断の誤り) (1) 適用関係の誤り 商標法は,出願人からされた商標登録出願について,同法4条1項各号において商標登録を受けることができない要件を個別具体的に定めているところ,商標法のこのような構造を前提とするならば,少なくとも,これらの条項(商標法4条1項8号,10号,15号,19号)の該当性の有無と密接不可分とされる事情については,専ら,当該条項の該当性の有無によって判断すべきである。また,当該出願人が本来商標登録を受けるべき者であるか否かを判断するに際して,先願主義を採用している我が国の商標法の制度趣旨や,国際調和や不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた商標法4条1項19号の趣旨に照らすならば,それらの趣旨から離れて,同条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは,商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので,特段の事情のある例外的な場合を除くほか,許されないというべきである。
これを本件についてみると,本件は,本件商標の登録について,被告補助参加人が自己に属することを主張している事案であるから,まさに当事者同士の私的な問題である。そして,本件は,現に,被告が,商標法4条第1項10号該当性を争点としているものであることから,同条1項7号の「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」を適用すべき事例でないことは明らかである。
したがって,商標法4条1項7号該当性を認めた決定は,誤りである。
(2) 「剽窃的な行為」に該当するとする事実認定の誤り 原告の本件商標登録は,以下のとおり,具体的な事実関係においても「剽窃的な行為」に当たるとはいえない。
ア 「秘密保持に関する誓約書」については,木村医科器械がAの退職手続をしなかったことから,退職手続をしてもらうことと引き換えに,強制的に提出をさせられたものである。当該誓約書は,木村医科器械の経営上の必要性から要請されたものではなく,個人的な感情をもって,Aを強要して作成させたものであるから無効である。
また,上記秘密保持の合意は,従業員の退職後の職業選択の自由を侵害し得るものであり,合理性がなく無効である。さらに,木村医科器械は,原告が事業を開始する以前に事業停止しており,破産管財人も事業を継続してないので,そもそも競合避止義務を負う相手方も存在しない。
したがって,Aが原告を設立したことは,剽窃的行為とはいえないことは明らかである。
イ 被告補助参加人は,木村医科器械の事業を承継していないことから,原告が本件商標を取得することで,被告補助参加人の事業を妨害し,独占的利益を得るような関係にはない。木村医科器械が被告補助参加人に売却したものは,在庫品,及び品目の承認にすぎず,被告補助参加人は,事務所,工場,従業員,取引先等との契約上の地位などの営業目的のために組織化され,有機的一体として機能する財産の全部又は重要な一部,あるいは,営業的活動の全部又は重要な一部を,一切引き継いでいない。また,被告補助参加人は,木村医科器械の事業の重要部分に当たる「製造業」許可, 「製造販売業許可」「販売業」許可,及び「修理業」許可を引き ,継いでおらず,そもそも,引き継ぐことができないものである。
ウ 被告は,未登録商標である木村商標が被告補助参加人に譲渡されたと主張するが,これは,被告補助参加人が,資産として全く認識していなかったものを 破産管財業務の終了間際になって,原告の業務を妨害するために購入に至ったものである。
登録前の出願商標には登録商標の使用を専有する権利(商標法25条)や第三者による登録商標の使用禁止権(同法37条)といった排他的請求権はないから,未登録商標を譲渡したとしても,登録商標としての譲渡の効力があるのではなく,ただ単に,先使用権(同法32条)を有し得るにすぎない。そして,先使用権は,その性質上,業務を承継した者のみが承継することができ(同法32条第1項後段),法的構成としては,先使用権の承継の形式ではなく,業務継承者に事実状態の継承の結果として先使用権を認めており,先使用権の要件は承継者・被承継者のいずれにも備わっていることを要する。
そうすると,未登録商標の承継は法的に存在せず,単に業務を承継した場合には,業務承継者の事実状態として新たに先使用権が認められれば,先使用権を主張することができるにとどまる。
これを本件について見ると,被告補助参加人が,本件商標登録の出願をする以前から,本件商標を使用した事実はなく,また,自己の業務として周知性を獲得していたという事実も存在していないことから,被告補助参加人は先使用権を主張することもできない。
したがって,破産管財人から譲り受けた未登録商標は,第三者に対抗し得る登録商標権としての効力はなく,また,被告補助参加人の先使用権さえ認められないことからすると,何らかの商標権としての第三者対抗力はない。そして,当該未登録商標権の譲渡をもって,事業の譲渡があったと考えることもできない。
エ 以上によれば,原告の行為が剽窃的な行為に該当するということはできず,決定のした事実認定は誤りである。
被告及び被告補助参加人の反論
1 取消事由1に対し (1) 原告の主張1(1)(木村商標1及び2の周知性)に対し 木村医科器械は,医療用具の製造販売並びに輸出入, 「 医療用具の修理並びに賃貸」等を目的として昭和41年5月21日に設立されて以来,そのエンドユーザーの信頼性も高い企業として,事業を継続していたものであるところ,木村医科器械は,その業務に係る商品「医療用機械器具」及び役務「医療用機械器具の修理及び保守」について,遅くとも平成10年2月には木村商標1を,遅くとも平成20年頃には木村商標2を表示していたものであり,平成22年9月29日にその事業を事実上停止するまでの間,業界紙における広告,カタログ,取引伝票等に,木村商標1又は2を表示して,主要都市に設けた営業所を拠点に,全国にわたる各大学の医学部附属病院やその他国公立病院,民間の病院等に,商品及び役務を提供していた。
そして,何人かに使用されていた商標は,たとえ,その使用をやめても一定期間,その商標に化体した信用が残存するものであり,他人がその商標の使用をすれば商品又は役務の出所の混同を招くおそれがあることは必定であって,該商標が周知であったものであれば,その期間は長期に及ぶものである。
本件についていえば,周知商標である木村商標1及び2に化体した信用は,破産により直ちに消滅するものではなく,本件商標登録出願時又は登録査定時が木村医科器械の事実上の事業停止時からさほど経過しておらず,しかも,破産管財人の管理下による「動産売買契約書」 (甲14)等により,木村医科器械の業務に係る商品が被告補助参加人に引き継がれていることから,これらの商品は,その後,当然に取引され得るものである。そうすると,木村商標1及び2は,需要者等に木村医科器械の業務に係るものとして認識されるものであり,その周知性は,当面の間,否定されるものではない。そして,木村医科器械は,本件商標の登録出願日(平成23年12月19日)前に破産手続が開始されたものの,平成24年3月12日まで存続していたものである。
以上からすれば,木村商標1及び2は,木村医科器械の事業の停止である平成22年9月29日からさほど経過していない本件商標登録出願時である平成23年1 2月19日及び登録査定時である平成24年8月2日においても,その周知性は維持されていたということができる。
してみれば,木村商標1及び2は,木村医科器械の業務に係る商品「医療用機械器具」及び役務「医療用機械器具の修理及び保守」を表示するものとして,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,少なくとも医療用機械器具の取引者や主な納入先である大学の医学部附属病院等の間には広く認識されていたものである。
(2) 原告の主張1(2)(本件商標と木村商標1及び2との類似性)に対し 本件商標は,前記第2,1(本件商標)のとおり,青色で表したローマ字「K」と,その右に,青色で塗られた横長長方形内に, 「KIMURA」のローマ字を白抜きで表した構成よりなるものである。
これに対し,木村商標1は,前記第2,1(木村商標1)のとおり,黒色で表したローマ字「K」と,その右にある,黒色で塗られた横長長方形内に, 「KIMURA」のローマ字を白抜きで表し,全体を横長長方形の細い輪郭で囲んだ構成よりなるものである。
してみると,本件商標と木村商標1とは,色彩が青色であるか黒色であるかの差異,横長長方形の細い輪郭の有無の差異,ローマ字「K」の上下の横線の太さの差異を有するが,商標の主要部といえるローマ字「K」と,その右の横長長方形内に白抜きで表された「KIMURA」のローマ字において同じくするものであるから,これらを時と所を異にして離隔的に観察した場合は,外観上相紛れるおそれがあるばかりでなく, 「KIMURA」の文字より生ずる「キムラ」の称呼が生ずる点において共通し,また,そのことから氏である「木村」を想起させる点においても共通するものである。
したがって,本件商標と木村商標1とは,外観,称呼及び観念のいずれの点についても互いに紛れるおそれのある類似の商標であるといえる。
また,木村商標2は,前記第2,1(木村商標2)のとおり,本件商標と同一の構成よりなる部分に,横書きにした「MEDICAL INSTRUMENT」の 文字を下部に付加した構成よりなるものであるところ,その構成中の「MEDICAL INSTRUMENT」の文字部分は, 「医療器具」の意味を有するものであり,木村商標2が使用される医療用機械器具及びその修理又は保守との関係からみると,自他商品・自他役務の識別機能を有しない部分といえるから,その要部は,ローマ字「K」と,その右の横長長方形内に白抜きで表された「KIMURA」のローマ字の部分である。
してみると,本件商標と木村商標2とは,実質的に同一の商標といえる。
以上より,本件商標と木村商標1及び同2とは,同一又は類似の商標であり,その旨判断した決定に誤りはない。
2 取消事由2に対し 本件商標に係る商標権者(原告)は,木村医科器械を平成22年夏頃に退職したAが医療機器・健康機器の製造販売及び修理等を業とする会社として平成23年1月21日に設立したものであり,その代表取締役は,設立時からAである。そして,原告は,平成23年8月頃の「木村医科器械(株)の事業停止に伴う同社製品の保守点検業務の開始につきまして」と題する書面(甲44)及び平成23年11月11日付け「通知書」 (甲39)の内容からすると,本件商標の登録出願前から,木村医科器械の破産手続中に,木村商標1の売却,又は,被告補助参加人に譲渡された木村医科器械の在庫売買等に当たって,木村商標1又は2が使用されることを知り得たものであり,製造販売承認の権利の承継等が行われることも知っていながら,木村医科器械が永年使用してきた木村商標1が商標登録されていないことを奇貨として,これと実質的に同一といい得るほど酷似している本件商標を,木村医科器械の破産管財人の承諾を得ずに先取り的に商標登録出願し,登録を得たものである。
しかも,原告により本件商標の登録出願がなされたのは,木村医科器械の破産手続廃止の決定が確定する前である。
原告が医療機器・健康機器の製造販売及び修理等を業とする会社である事実に照らせば,原告の行為は,破産管財人の管理下にある経済的価値のある商標を私物化し,木村医科器械及びその事業の譲受人の事業の遂行を阻止し,木村商標1による利益の独占を図る意図でしたものであって剽窃的である。すなわち,本件商標の登録出願の経緯は,著しく社会的妥当性を欠くものであるから,その商標登録を認めることは,商取引の秩序を乱すものであって,到底容認し得ない。
よって,本件は,原告が主張するような単なる私益的事情による紛争ということはできないものであり,本件商標登録は,商標法4条1項7号に違反してなされたものであり,その該当性を認めた決定に誤りはない。
3 被告補助参加人の反論(追加) 木村医科器械が木村商標1又は2を表示していた商品は,木村医科器械が事業停止した平成22年9月29日以降においても,全国にわたる各大学の医学部付属病院やその他国公立病院,民間の病院等で相当数使用され,又は保管されていた。例えば,木村医科器械が木村商標1及び2を表示していた商品のうち,人工呼吸器(耐用年数7年)は,平成15年から木村医科器械が事業停止した平成22年までの間に計2173台出荷しており,麻酔器等(耐用年数8年)に至っては,平成14年から平成22年までの間に3709台出荷していたのであり,合計で5882台出荷していたことになる。この出荷台数に残存数を50%として見積もっても,現在でも計2941台が医療用機械器具の取引者や主な納入先である大学の医学部付属病院等において使用され,又は保管されていることが推定される。
そうすると,木村商標1及び2は,少なくとも本件商標の登録出願時である平成23年12月19日及び登録査定時である平成24年8月2日においても依然としてその周知性を維持していたものであって,木村医科器械の業務に係る商品を表示するものとして,医療用機械器具の取引者や大学の医学部付属病院等の間に広く認識されていたものといえる。
当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法4条1項10号該当性判断の誤り)について (1) 認定事実 当事者間に争いのない事実,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 当事者等 木村医科器械は,医療用具の製造販売並びに輸出入, 「 医療用具の修理並びに賃貸」等を目的として昭和41年5月21日に設立された株式会社であるが,平成23年4月25日に東京地方裁判所により破産手続が開始され,平成24年3月12日に費用不足により破産手続廃止の決定に至り,確定している(甲5)。
原告は,平成23年1月21日に,「医療機器・健康機器の製造販売及び修理等」を目的として設立された株式会社であり,木村医科器械の元役員であったAが設立当初から代表取締役を務めている(甲7)。
被告補助参加人は,平成20年12月19日,医療用具の製造販売並びに輸出入, 「医療用具の修理並びに賃貸等」を目的として設立された株式会社である(甲11)。
イ 木村医科器械の営業について 木村医科器械は,主に,麻酔器及び人工呼吸器並びにこれらの関連機器の製造販売,保守管理,修理,賃貸等を業とし,東京に本社を置き,平成15年ころまでは,大阪,名古屋,福岡に営業所,鹿児島に事務所を設け,西日本地区を重点に営業活動を行っていたが,東日本地区での営業が拡大するに至ったことから,同年3月に札幌に,その後,仙台にも営業所を設けていた。
木村医科器械の主要な納入先は,東京大学医学部附属病院,東京医科歯科大学病院,帝京大学医学部附属病院,日本大学医学部附属病院,群馬大学医学部附属病院のほか,北海道から沖縄に至る全国各地の大学の医学部附属病院やその他国公立病院,民間の病院,動物病院等であり,直接の販売先として,医療機器業者や,リー ス会社等があった。(以上,甲15〜18,21〜23,25〜28,60,61。
枝番号の書証を含む。以下同じ。) 木村医科器械が木村商標1又は2を表示していた商品のうち,人工呼吸器(耐用年数7年)は,平成15年から木村医科器械が事業停止した平成22年までの間に計2173台,麻酔器等(耐用年数8年)は,平成14年から平成22年までの間に3709台出荷された(丙1〜4)。
ウ 木村医科器械及び製品に関する新聞の記載 (ア) 2002年(平成14年)9月1日付け医理産業新聞には, 「木村医科器械 ISO9001/13485 東京本社・全営業所で認証を取得」の見出しの下, 「木村医科器械・・・は,製造技術部・営業部門(本社及び全営業所)において高圧ガス保安協会ISO審査センターを通じ,『ISO9001』『ISO13485』の認証を取得した・・・。認証範囲は,麻酔器,人工呼吸器及び麻酔ガス気化器の設計・開発・製造・据え付け及び付帯サービスとなっている。同社は,昭和40年創業以来,麻酔科領域を中心に研究開発に取り組んでき,学際的にも数多くの医学・理学・工学等の研究者,専門医の指導や支援を受け,高品質で独創的な製品を供給し続けている。優秀性と安全性も高く評価され,エンドユーザーの信頼を得ている。・・・」との記載がある(甲26の1)。
同日付けの日本医科器械新聞には, 「木村医科器械の本社・全営業所で ISO9001/13485認証取得 総力あげて医療の未来へチャレンジ」との見出しの下, 「麻酔機・人工呼吸器並びに関連機器メーカーの木村医科器械・・・は昨年来より1年余をかけて国際品質保証のISO取得へ向けて全社的に取り組み挑戦してきた結果,同社が設計・生産している麻酔器・人工呼吸器,麻酔ガス気化器及び関連付属品を対象製品として,製造技術部・営業部門(本社及び全営業所)における設計・開発・製造・据え付け・付帯サービスを範囲とするISO9001/ISO13485の認証を取得することができ・・・た。同社は,昭和40年に創業,以来著しく進歩する医学,医療に着目し,特に麻酔科領域の麻酔器,人工呼吸器,蘇生 器及びペインクリニック関係医療機器の研究開発にいち早く鋭意取り組み,近代医療の多様化に応えてきた。又,学際的には,数多くの医学・理学工学等の学者,研究者,専門医の指導や支援を受けつつ,常に明日の医療を見据え,人から動物に至るまでの高品質医療を目指して独創的製品づくりに努力してきている。今日では,品質の優秀性と安全性が高く評価され,エンドユーザーにより絶大なる信頼を得るに至っている。
・・・」との記載があり,保険産業事報においても,同旨の記事が掲載されている(甲26の2,3)。
また,同社の「ISO取得祝賀会」が開催されたことが,同月10日付けの保険産業事報(甲26の4),同月11日付けの日本医科器械新聞(甲26の5)においても紹介された。
(イ) 2003年(平成15年)3月21日付け日本医科器械新聞において,「木村医科器械が札幌営業所開設」の見出しの下, 「麻酔器・人工呼吸器並びに関連機器メーカーの木村医科器械・・・は,このたび北海道内での業務が拡大したことに伴い,サービス体制強化を図るため四月一日より札幌営業所・ ・を開設する。・ ・ ・・同社は,これまで大阪,名古屋,福岡に営業所と鹿児島に事務所を設け西日本地区を重点に営業活動を行ってきたが,近年東日本営業エリア,特に北海道地区における業務が拡大するに従い,顧客からの機器納入,保守体制の機動性を求める声が強くなり,同社ではこれらの要望に応えるべく札幌への拠点づくりに力を注いできた。 と記載され 」 (甲27の1) 保健産業事報にも同旨の記事が掲載されている , (甲27の2)。
(ウ) 2004年(平成16年)3月21日付け日本医科器械新聞において,「新時代の電気治療器を輸入 独製 水平治療・WaDit-12 木村医科器械から新発売」の見出しの下, 「麻酔器,呼吸関連機器を提供する木村医科器械・・・は疼痛緩和が得られるドイツ生まれの電気治療器『WaDiT-12』 (ワディット-12)の薬事承認が取れたことから全国一斉に発売を開始した。 と記載されてい 」る(甲28の1)。
これに関連して,同年10月21日付け同新聞において,「水平治療器ワディット・12の説明会」との見出しの下,「首都圏のディーラーら50余名出席して」,「木村医科器械がホテル機山館で催す」と副見出しが付けられ, 「従来の電気治療器の概念を根底から覆した全く新しいドイツ生まれの“WaDiT-12”を本年四月より発売以来,麻酔科,整形外科,内科をはじめ理学療法,リハビリ関連の医師(士)から大きな反響を得ている木村医科器械・・・では,商品の理解と拡販を目的に十月二日午後より文京区本郷のホテル機山館において,ワディット水平治療と近未来の展望をテーマに『WaDiTセミナー』を首都圏のディーラーを対象に開催,経営者はじめ中堅営業マンら五○余名が出席した。・・・」の記事が掲載され,さらに,顔写真付きで,同社の新社長にBが就任した旨の記事が掲載され,保健産業事報にも同旨の記事が掲載された(甲28の1〜3)。
エ 木村医科器械による木村商標1及び2の使用 (ア) 製品及び製品カタログにおける使用 木村医科器械は,昭和60年ころから,全身麻酔器,人工呼吸器,気化器等の多くの製品に,製品名,品番等の表示とともに,木村商標1又は2をラベル表示するなどして使用し,また,製品名にも冠として, 「キムラ・全身麻酔器」「キムラ長期 ,人工呼吸器」「キムラ喚起モニター」などと, , 「キムラ」を付していた。(甲17,18) また,木村医科器械は,昭和60年,平成3年の製品総合カタログの表紙に木村商標1を用いたほか,木村商標1又は2を製品カタログの表紙に用い(甲17,18,21),さらに,平成21年ころ,会社案内の表紙に木村商標2を使用した(甲16)。
(イ) 新聞広告 木村医科器械は,月2回刊行される医理産業新聞において,平成14年9月1日号(甲25の1枚目),平成15年4月1日(甲25の6枚目),同年5月15日(甲25の7枚目),同年7月15日号(甲25の8枚目),平成16年1月1日号(甲 25の9枚目),同年5月15日号(甲25の11枚目),6月1日号(甲25の12枚目),同年7月1日号(甲25の13枚目),同年8月1日号(甲25の14枚目) 同年9月1日号 , (甲25の15枚目) 同年10月1日号 , (甲25の16枚目),同月15日号(甲25の17枚目),同年11月1日号(甲25の18枚目),同年12月1日号(甲25の19枚目),平成17年1月1日号(甲25の5枚目),同年2月1日(甲25の4枚目),同年3月1日号(甲25の3枚目),同年4月1日号(甲25の2枚目)に,同社の製品についての宣伝広告を載せ,その際に,木村商標1を使用した。
(ウ) 商品展示コーナーでの使用 木村医科器械は,昭和56年5月28日から同月30日まで開催された医科器械学会において,製品展示のためのブースの入り口に, 「木村医科器械」との会社名とともに,その横に,より大きな文字で「KIMURA」と欧文字横書きした標章を掲示した(甲6の1)。
また,木村医科器械は,平成18年11月18日に開催された大阪動物学会における商品展示コーナーにおいて,会社名を示すとともに,ボードに大きく木村商標1を掲示した。また,平成19年11月17日に開催された大阪動物学会における商品展示コーナーにおいて,会社名の表示に代えて,木村商標1を大きく掲示した(甲24)。
(エ) 包装箱等における使用 木村医科器械は,木村商標1又は2を,従業員の名刺(甲19) 封筒, , 包装箱(甲20),納品書,物件受領証,保証書,お客様アンケート(甲22)において使用した。
オ 木村医科器械破産前後の経緯 (ア) 木村医科器械は,平成22年9月30日付けで,弁護士を通じ,自己破産申立てをする旨の受任通知を取引先に対し送付した(甲43)。また,同月29日,木村医科器械と被告補助参加人は,医療機器及び動物用医療機器の製造販売品 目の承認を被告補助参加人に平成23年1月5日付けで承継させる旨の契約を締結し,さらに,平成22年11月1日,代替機及び備品44品を被告補助参加人が譲り受ける旨の商品売買契約を締結した(甲9,12,13)。
(イ) 被告補助参加人は,平成22年11月15日,同日付けで医療機器修理業の許可を取得し,取引先に対し,木村医科器械製の人工呼吸器,麻酔器,気化器の製品名,型番等を摘記し,今後,保守点検,メンテナンス,修理等の作業を受けることができる旨の挨拶状を送付した(甲47の2)。
(ウ) 木村医科器械は,東京地方裁判所に破産手続開始申立てをし,平成23年4月25日,破産手続が開始され,破産管財人としてC弁護士が選任された。
(エ) 破産管財人は,平成23年6月9日,各営業所に所在する人工呼吸器等の在庫と動産類を被告補助参加人に売却し(甲14,38),さらに,平成24年3月12日,木村商標1及び「木村医科器械株式会社」の商号等を譲渡する旨の商標譲渡契約を締結した(甲2)。これを受け,被告補助参加人は,平成24年8月31日,木村商標1を,第10類「医療用機械器具」及び第37類「医療用機械器具の修理又は保守」を指定商品及び指定役務として登録出願をした(甲3)。
破産管財人は,平成23年10月ないし12月ころに,原告にも,木村商標1又は2の付された数台の人工呼吸器,全身麻酔器等の在庫品を売却した(甲80)。
(オ) 平成24年3月12日,木村医科器械の破産手続は,配当に当てるべき資産がないとして,異時廃止の決定がなされ,確定した(甲5,69)。
カ 原告について (ア) Aは,平成15年3月24日ないし平成16年12月8日及び平成21年7月3日ないし同年8月19日において,木村医科器械の取締役であったところ,木村医科器械を同年8月ころに退職した後,平成23年1月21日, 「医療機器・健康機器の製造販売及び修理,医療機器・健康機器の輸出入,医療機器・健康機器の賃貸」等を目的とする「株式会社キムラメド」 (原告)を設立し,代表取締役に就 任した(甲7)。
(イ) 原告は,平成23年7月には,医療機器の保守点検業務に必要な許認可等の環境整備を終え,「ご挨拶」と題する書面を作成した。同書面には,「木村医科器械株式会社は2010年秋に45年の歴史に幕を降ろしました。同社製品の多くは特定保守管理医療機器に指定されていることもあり,事業停止は医療現場に大きな混乱をもたらしました。キムラメドは,この混乱を一日もはやく解消し医療現場に安心をお届けしたいとの思いから木村医科器械の元従業員有志らによって設立された会社です。
・・・過疎地の病院で20年以上前の木村医科器械の呼吸器がいまも人の命を繋いでいます。訪れたかの国の奥地では30年以上前の全身麻酔器がいまも現役で稼働しています。我々は木村医科器械の半世紀近い歴史に改めて想いを馳せ,先人たちの足跡に敬意を表します。そして創業者の志を我々が受け継ごうと決意しました。」と記載されている(甲46)。
(ウ) 原告は,平成23年8月,木村医科器械の取引先に対し,原告代表取締役名で, 「木村医科器械(株)の事業停止に伴う同社製品の保守点検業務の開始につきまして」と題する書面を発送した(甲44)。同書面には,「・・・この度の木村医科器械(株)の事業停止に伴い,今後,弊社におきまして下記の製品を対象とする保守点検業務を開始することに致しました。」とし,「対象製品(木村医科器械製)」として,人工呼吸器,全身麻酔器,気化器,コンプレッサの品番が摘示されている(甲44)。次いで,同年10月,原告代表者名義の「(木村医科器械製品の)保守点検業務の開始につきまして」と題する書面により,木村医科器械の取引先に対し,木村医科器械が営業停止したこと,原告が木村医科器械の元技術スタッフと営業スタッフが中心となって設立された会社であり,木村医科製品のメンテナンスサービスを提供できる体制が整ったことを通知し,上記と同様の木村医科器械製の医科器械の品番を摘示した(甲45)。
(エ) 原告は,平成24年2月下旬ころ,原告のインターネットサイトのトップページにおいて,原告を表示するロゴマークとして本件商標を用い,また, 「保 守点検」のページに,木村医科器械製品の保守点検を受注することを広告し,対象製品を示すものとして,木村医科器械の製品カタログを数点掲載した(甲36,37)。
そこで,破産管財人は,平成24年2月24日,原告に対し,原告の行為は,木村医科器械の木村商標1又は2をそのまま使用しているので誤認混同を起こすことになり,不正競争防止法2条1項1号にも該当する等として,使用をやめるか,商標権を買い取るかのどちらかを求める旨の意向を示したところ,同年3月,原告は,商標権を買い取るつもりはないとし,同サイトにおける原告を表示するロゴマークとしての本件商標の使用を,同月12日までに中止した(甲29,50) ところが, 。
該サイトにおける木村医科器械の製品カタログの掲載については,本件登録異議の審理中においても継続した。当該サイトには, 「木村医科器械製品の保守点検キムラメド」との大きな見出しの下に,「木村医科器械製品の保守点検業務を承ります。」とし, 「〜保守サービス対象製品〜 木村医科器械製」として,人工呼吸器,全身麻酔器,気化器,コンプレッサの製品名・型番等を掲載し,さらに, 「キムラメドは木村医科の技術スタッフが中心となって活動する会社である。木村医科の製品のことなら熟知しており愛情をもって扱います。 と記載されており, 」 同サイトに掲載されていた製品カタログは,木村医科器械の製品カタログの表紙であり,そこには,左上部に,木村商標1又は2が大きく掲示され,その下にも同様に製品写真が掲載され,製品自体にも木村商標1又は2が貼り付けられていることが見て取れるものであった(甲21,36,37)。
(オ) 原告は,平成23年10月ないし12月ころ,木村医科器械から在庫商品を譲り受け,販売した(甲80,弁論の全趣旨)。
(カ) 原告は,平成23年12月19日,本件商標の登録出願をした。(甲1,56の1)。
(2) 本件商標と木村商標1及び2の類似性について ア 本件商標は,前記第2,1(本件商標)のとおり,青色で表した欧文字 「K」と,その右に,青色で塗られた,上記「K」の縦幅と同じ長さを短辺とする横長長方形内に, 「KIMURA」の欧文字を白抜きで表した構成よりなるものである。
これに対し,木村商標1は,前記第2,1(木村商標1)のとおり,黒色で表した欧文字「K」と,その右に,黒色で塗られた,上記「K」の縦幅と同じ長さを短辺とする横長長方形内に, 「KIMURA」の欧文字を白抜きで表し,全体を横長長方形の細い黒色の輪郭で囲んだ構成よりなるものである。
また,木村商標2は,前記第2,1(木村商標2)のとおり,青色で表した欧文字「K」と,その右に,青色で塗られた,上記「K」の縦幅と同じ長さを短辺とする横長長方形内に, 「KIMURA」の欧文字を白抜きで表し,その下部に「KIMURA」文字よりも相当に小さな文字で「MEDICAL INSTRUMENT」の欧文字を配してなるものである。その構成中の「MEDICAL INSTRUMENT」の文字部分は, 「医療器具」の意味を有するものであり,木村商標2が使用される医療用機械器具との関係からみると,自他商品の識別機能が極めて乏しい部分である上, 「K」 「KIMURA」に比して小さく(縦横約2分の1)表示され,付加的に記載されたものにすぎないと認められるから,その要部は,欧文字「K」と,その右の横長長方形内に白抜きで表された「KIMURA」の欧文字の部分であるといえる。
以上の本件商標と木村商標2とは,上記の要部である「K」及び「KIMURA」の文字部分において,ほぼ同一で見分けがつかないものである。そして,本件商標と木村商標1とは,色彩が青色であるか黒色であるかの差異,横長長方形の細い黒色の輪郭の有無の差異を有するのみで,同じ字体で示された欧文字「K」と,その右の横長長方形内に白抜きで表された「KIMURA」の欧文字は酷似するものであり,これらを時と所を異にして離隔的に観察した場合は,外観上相紛れるおそれがある。
また,本件商標と木村商標1及び2の要部とは, 「KIMURA」の文字より生ず る「キムラ」の称呼が生ずる点において共通し,また,そのことから,我が国で多く見られる姓である「木村」を想起させる点においても共通するものである。したがって,本件商標と木村商標1及び2とは,外観,称呼及び観念のいずれの点についても互いに紛れるおそれのある類似の商標というべきである。
イ 原告は,本件商標と木村商標1は, 「KIMURA」部分の文字形状が異なっていること,本件商標は専ら青色を使用するのに対して,木村商標1は黒色か赤色を使用していること,木村商標1は「K KIMURA」の文字を縁取る四角が特徴的であるのに対し,本件商標にはその四角がないことから,これら2つの商標から受け取れる印象は一見して異なると主張する。
しかし,本件商標と木村商標1との文字は,両標章を並べてみても,相違点を認識し難いほどにその文字形状が酷似している上,本件商標と木村商標が,「K」「KIMURA」の配置や大きさ,形状においても酷似していることに照らすと,文字を縁取る四角の黒色の輪郭や色の違いが外観に影響を与えるとは考えられず,称呼及び観念の共通性を左右するものではないから,原告の上記主張は採用できない。
また,原告は,木村商標2には「MEDICAL INSTRUMENT」の文字が下部にあるため,本件商標と同一でないことは一見して分かる旨主張する。
しかし,前記のとおり, 「MEDICAL INSTRUMENT」は,単に医療機器であることを示すもので,これを医療機器に使用した場合,当該部分はほとんど識別性を有しない上, 「K」の縦の幅と,横長長方形内に白抜きで表された「KIMURA」の縦の幅は一致して,並べて配置され,その下部に約2分の1の大きさで「MEDICAL INSTRUMENT」が配置されており,文字の大きさ,太さが顕著に異なっていることから,一見して,まとまりのある一体のものではなく,付加的なものと認められるから,「K」「KIMURA」部分を要部として分離観察した決定の判断に誤りはなく,上記主張も採用できない。
(3) 木村商標1及び2の周知性について ア 上記(1)の認定事実によれば,木村商標1及び2は,木村医科器械の事業 停止前において木村医科器械の製品あるいは役務を表示するものとして,木村医科器械によって使用され,需要者の間に広く認識されていたものと認められる(この事実自体は,原告も本件訴訟において積極的に争うものではない。。
) ところが,原告は,木村医科器械は,本件商標の登録出願前に,事業停止に至り,登録査定時においては既に破産手続廃止決定に至っていることから,登録出願時及び登録査定時のいずれにおいても,木村商標1及び2の周知性は消滅していると主張するので,検討する。
商標法4条 1 項10号が,他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものと 「して需要者の間に広く認識されている商標又はこれと類似する商標であって,その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」について,その商標登録を受けることができないとした趣旨は,同号の規定する需要者の間に広く認識されている商標(周知商標)との関係で,商品又は役務の出所の混同の防止を図ろうとするものであると解される。
そうすると,周知商標の権利者の事業停止や消滅によって,直ちに商品又は役務の出所の混同のおそれが失われるものではなく,当該権利者の出所を表示するものとして需要者に広く知られ,いまだ周知性が残存している限り,出所混同のおそれは否定できないものであり,同号が規定する周知商標について「使用」を要件としていないことも併せ考慮すると,当該権利者の事業停止や消滅の有無にかかわらず,商標が当該権利者の出所を表示するものとして需要者に広く知られている,すなわち,周知性を有する場合には,これと同一又は類似する商標は,同号によって登録を受けることができないものと解するべきである。
また,周知商標の権利者の事業停止や破産等の法的清算手続の開始によって直ちに周知性が失われるものではないことは,上記清算等の手続が開始された場合であっても,周知商標を含めた営業譲渡等によって,その後も譲受人により当該商標が使用され,周知性が引き継がれる場合があり得ることからも,明らかである。一方,当該権利者の死亡後に承継人が不存在の場合,又は,清算手続終了後に,営業譲渡 や商標権の承継がない場合であっても,中古市場において長期間流通する商品や,耐久年数が長く,頻繁にメンテナンスがなされるような商品など,当該権利者の有した周知性が,比較的長く市場に残存する場合があるというべきである。
そうすると,商標の権利者が事業停止あるいは破産等の清算手続に至った場合であっても,当該商標が,商標の権利者を出所とするものであると需要者の間に広く認識されているか否かを個別に検討すれば足りるというべきである。そして,その判断に当たっては,当該商標の権利者の事業停止あるいは破産等の清算手続から,登録出願,登録査定までの時間的経過のみならず,商標の周知性の程度,指定商品・役務の種類,その後の商品流通機会の有無や当該商標が取引者,需要者の目に広く触れるか否か等を,総合的に考慮すべきものである。
イ そこで,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,木村商標1及び2の周知性が失われていたか否かについて検討する。
上記の認定事実によれば,木村医科器械は,昭和56年ころには,自社あるいは自社製品を表示するものとして,欧文字で横書きした「KIMURA」を用い,さらに,昭和60年ころから,全身麻酔器,人工呼吸器,気化器等の多くの製品について,製品名の冠に付した「キムラ」や品番等の表示とともに,木村商標1又は2をラベル表示し,製品カタログ,会社案内においても木村商標1又は2を使用していたのであり,木村医科器械が事業停止するまでの間,少なくとも約25年にわたって,木村商標1又は2を,人工呼吸器及び全身麻酔器等の製品について,又はこれらの修理・メンテナンス等のサービス分野において,使用を継続してきたものである。この木村商標1又は2は,前記(1)エのとおり,新聞広告や商品展示コーナー,封筒,包装箱,納品書,物件受領証等においても使用され,その使用は,全国各所の営業所の納品先にも及んでいた。そして,木村医科器械は,前記(1)ウの新聞記事に見られるように,その新製品あるいは新規輸入品に関する報道だけではなく,営業所の新設や会社の人事についても大きく報道されるなど,医療機器業界や病院,動物病院の医療従事者の業界において,広く知られた会社であり,人工呼吸器につ いては,平成15年から平成22年までの間に計2173台,麻酔器等は,平成14年から平成22年までの間に3709台を出荷するなど,多数の製品を出荷していた。したがって,木村商標1及び2は,木村医科器械の製品及びサービスを表示するものとして,広く需要者に知られていたものと認められる。
そして,これらの医療器械製品は,人工呼吸器が7年,麻酔器が8年と耐用年数が長く,メンテナンスや修理を経ながら長期間使用可能なものであり,このことは,原告代表者名義の平成23年7月の「ご挨拶」において, 「過疎地の病院で20年以上前の木村医科器械の呼吸器がいまも人の命を繋いでいます。訪れたかの国の奥地では30年以上前の全身麻酔器がいまも現役で稼働しています。と自ら述べている 」ことからも明らかである。このように,木村医科器械が製品を販売した後においても,木村商標1又は2を付した人工呼吸器,全身麻酔器,気化器等の医療機器は,相当期間にわたって使用され続け,前記(1)で認定したように,原告や被告補助参加人等において,木村医科器械の製品としてメンテナンスが実施され続けるものである。
さらに,本件においては,前記(1)カのとおり,原告自身が,木村医科器械の製品カタログを原告のインターネットサイトにおいて掲げ,木村医科器械製の人工呼吸器等に対して修理を行う旨を表示しているところ,この製品カタログの掲示は,原告自身の製品を表示するものではなく,修理メンテナンスの対象製品を表示するために, 「木村医科器械」製の製品外観,製品名,型番等を同サイトに掲げたものであり,木村医科器械の事業停止後においても,同サイト上で「木村医科機械」製の製品が,木村商標1及び2とともに表示され続けていたものである。
加えて,原告は,本件破産手続中の平成23年10月ないし12月ころに,破産会社である木村医科器械の在庫品を破産管財人から譲り受け,それ以降, 「木村医科器械」製の商品として販売しているところ,これらの商品には製品ラベルとして木村商標1又は2が付されていたものがあったことからすると(甲23,80),木村商標1又は2が木村医科器械の製品を示すものとして流通過程において使用された ことが認められ,事業停止後,破産手続の廃止までの間においても,権利者である木村医科器械による商標の「使用」の事実があったと認めることができる。
そうすると,木村医科機械の事業停止から起算した場合には,本件商標の登録出願までは約1年2月,登録査定までは約1年11月の経過にすぎないものである上,事業停止後においても,破産手続廃止までの間に破産管財人によって木村商標1又は2の付された商品が流通に置かれて同商標が使用されており,その時点と登録出願時とは,近接していること,原告のインターネットサイトにおいて,本件登録出願時及び登録査定時に,木村医科器械製の商品とともに木村商標1及び2が掲示され続けていたこと,上記に認定した周知性に関する各事情があることを総合勘案すれば,本件商標の登録出願時である平成23年12月19日及び登録査定時である平成24年8月2日において,木村商標1及び2は,木村医科器械の製品又は役務を表示するものとして,需要者の間に広く認識されていたというべきであって,これら商標の周知性が消滅していたものと認めることはできない。
ウ 原告の主張について (ア) 原告は,商標の使用者が営業を行うなど現状においても事業を行っている実体があり,単に当該商標の使用をやめただけであれば,被告が主張するように「一定期間その商品に化体した信用が残存する」 (周知性がある)ということもあり得ると考えられるが,本件のように,事業が停止され,破産に至って,木村医科器械が医療機器の製造販売及び修理等を行い得ないことを取引者,需要者が認識しているような場合には, 「他人がその商標を使用」しても「商品又は役務の出所の混同を招くおそれ」はなく,当該商標に化体した信用が残存することはないと主張する。また,原告は,破産手続廃止決定の確定により,木村医科器械の法人格が失われることから,登録査定時において出所混同のおそれはあり得ないと主張する。
しかし,そもそも,本件の指定商品及び指定役務に係る一般の取引者・需要者が,木村医科器械の営業の廃止を確定的に認識したと認めるに足りる的確な証拠はない。
また,会社について破産手続廃止決定がなされ,確定したとしても,直ちに法人格 が消滅するものとは解されず,上記主張はその前提においても誤りである。
また,前記アに述べたように,他人の商標権が消滅したり,その他人自体が消滅したりした場合であっても,その消滅以前における使用により信用が市場に残存しているときがあり,このようなときには,他人の商標と同一又は類似の商標とは出所混同を生ずる場合があるところ,本件では,前記イで述べたように,木村医科器械の破産手続廃止決定後においても,その信用が残存していたと認められるのであり,出所混同のおそれがある。
しかも,前記(1)カの各事実によれば,原告は,木村医科器械との出所混同,あるいは,信用の引継ぎを企図し,従前の木村医科器械の営業上の信用を利用しようとしたものと推認することができる。そうすると,原告が,木村医科器械の出所を示す木村商標1及び2と極めて類似する本件商標を使用して,出所混同を企図する行為に出ていること自体が,木村医科機械の木村商標1及び2の周知性の存在を裏付けるものといえる。
したがって,いずれにしても,原告の上記主張は採用できない。
(イ) 原告は,本件の指定商品・役務の一般的な取引の実情という観点から考えても,その取引者,需要者は慎重に検討の上で当該商品を購入し,又は役務の提供を受けるものであるから,出所の混同を生じる可能性は著しく低いと主張する。
しかし,商標の出所混同のおそれの判断に当たり考慮することのできる取引実情とは,通常,その指定商品・役務全般についての一般的,恒常的なそれを指すものであって,単に該商標が現在使用されている商品・役務についてのみの限定的,一時的なそれを指すものではないところ,原告は,数百万円もの価格帯の高度管理医療機器を前提とする取引実情について述べるものにすぎないから,相当とはいえない。例えば,本件の指定商品である商標法施行規則6条別表の第10類の「医療用機械器具」には,(一)診断用機械器具」として「体温計」が,(三)治療用機械 「 「器具」として「注射筒」 「注射針」が,(七)医療用の補助器具及び矯正器具」とし 「て「副木」「健康帯」「弾性靴下」「腹帯」が含まれており,これらは,必ずしも , , , そのすべてが取引者,需要者において慎重に検討の上で購入するものであるということもできない。
したがって,原告の主張は採用できない。
(ウ) 原告は,破産管財人が,商標等が付加された動産を処分することはまさに破産手続において財産を換価し,破産財団を形成させる破産管財人の職務として行われるものにすぎず,商標法第4条1項10号の「他人の業務に係る」に当たらないと主張する。
しかし,商標法4条1項10号の趣旨に照らすと,同号の「他人の業務」であるか否かは,当該商標の使用された商品に接した取引者,需要者が,特定の者のどのような業務に係る商品・役務を表示するものとして当該商標を認識するかによって定まるものである。破産管財人がその職務としての換価処分により当該商標が付された動産を処分した場合に,通常,当該商標が破産管財業務の出所を表示するものとして認識されるとは考えられず,本件の取引者,需要者は,木村医科器械製の商品に係るものであると認識するのが一般的であるから,同号の「他人の業務に係る」に当たることは明らかである。
よって,原告の主張は採用できない。
(エ) 原告は,木村商標2について,平成20年以降に使用が開始されたもので短期間であるから,周知性はないと主張する。
しかし,木村商標2の要部は,前記(2)のとおり,「K」及び「KIMURA」との欧文字部分であり,この部分は,木村商標1の四角の黒色の輪郭を省略したものとほぼ同一であることから,木村商標1の周知性が承継され,木村商標2としても,同様に周知性を獲得しているものと認められる。原告の上記主張は採用できない。
2 取消事由2(商標法4条1項7号該当性判断の誤り)について 前記のとおり,本願商標が商標法4条1項10号に該当する以上,同条1項7号の適用についての判断をするまでもなく,本件商標登録は取り消されるべきもので ある。
結論
以上によれば,決定のした商標法4条1項10号の判断に誤りがないから,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節
裁判官 中村恭
裁判官 中武由紀