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関連審決 不服2013-20053
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事件 平成 26年 (行ケ) 10185号 審決取消請求事件

原告株式会社しあわせ牛
訴訟代理人弁護士湊弘美 弁理士本宮照久
被告特許庁長官
指定代理人大井出正雄 今田三男 堀内仁子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/01/29
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が不服2013-20053号事件について平成26年6月10日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,商標出願に対する拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟 である。争点は,商標法4条1項11号該当性である。
1 特許庁における手続の経緯等 原告は,平成24年11月16日, 「しあわせ牛」の文字を標準文字により表してなる商標(本願商標)について,第29類「牛肉,牛肉製品」を指定商品(本願指定商品)として,登録出願をしたが,平成25年7月3日付け拒絶査定を受けたので,同年10月15日,審判請求をした(不服2013-20053号)。
特許庁は,平成26年6月10日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同審決謄本は,同月30日に原告に送達された。
2 審決の要旨 審決は,本願商標と登録第4725349号商標(引用商標)は,相紛れるおそれのある類似商標というべきであり,本願指定商品と引用商標の指定商品は類似する商品であるから,商標法4条1項11号に該当すると判断した。
理由の要点は,以下のとおりである。
(1) 引用商標 引用商標は,下記のとおり, 「千葉しあわせ牛」の文字を横書きしてなり,第29類「牛肉」を指定商品として,平成14年10月4日に登録出願され,平成15年11月14日に設定登録されたものであり,その後,平成25年11月19日に商標権の存続期間更新登録がなされた。
(2) 類否判断 「牛肉」を取り扱う業界においては,近年,県単位又は地域単位でのブランド産品としての牛肉の生産,販売が積極的に行われているが,そのような牛肉の名称として,(県名又は地域名)○○牛」の表示を用いることが少なからずあり,その場 「合,該表示中の県名又は地域名の部分を省略することがあるというのが実情である。
また,引用商標の使用に係る商品「牛肉」は,平成12年頃から生産,販売が始まり,その後,主に千葉県の産品に係るイベント等への出展,飲食店への食材や食肉加工品の原材料としての提供等の取引がなされ,千葉県が行う千葉県産牛肉の販促活動において紹介されるなどしており,その際, 「千葉しあわせ牛」の表示が用いられるのみならず,千葉県産の「しあわせ牛」である旨の表示が用いられている事実も見受けられる。
そうすると,引用商標をその指定商品に使用した場合,これに接する取引者,需要者は,引用商標の構成中の「千葉」の文字部分が商品の産地であることを表したものとして看取,理解することも決して少なくないとみるのが相当である。
したがって,引用商標は,その構成中の「しあわせ牛」の文字部分が,自他商品識別の際の要部となり,取引者,需要者に強く支配的な印象を与えるといえるから,該文字部分に相応して,本願商標における場合と同様, 「シアワセギュウ」又は「シアワセウシ」の称呼を生じ, 「幸せ(幸福)な牛」ほどの意味合いを想起させるものといえる。
本願商標と引用商標との類否について検討すると,両者は,その構成全体の比較においては, 「千葉」の文字の有無という差異を有するが,自他商品識別の際の要部たる「しあわせ牛」の文字部分について,その構成文字を共通にし, 「シアワセギュウ」又は「シアワセウシ」の称呼及び「幸せ(幸福)な牛」ほどの意味合いを生ずる点においても共通するものであるから,これらを総合勘案すれば,相紛れるおそれのある類似の商標というべきである。また,本願指定商品は,引用商標の指定商品と類似する商品である。
よって,本願商標は,商標法4条1項11号に該当する。
原告主張の審決取消事由
審決は,下記の点について誤りを犯した結果,引用商標の要部の認定を誤った。
1 引用商標の使用に係る商品の取引実態について 審決は,引用商標の要部を認定するに当たって,引用商標の使用に係る商品の取引実態を認定した。
しかしながら,先願の後願排除効は,登録商標及び指定商品又は指定役務の範囲につき,願書の記載に基づくことを要求した商標法27条1項及び2項に基づいて判断されるべきものであり,上記引用商標の使用の事実は,我が国が採用する登録主義の下において「考慮されるべき取引の実情」に当たるものでない。
また,上記引用商標の使用の事実は,引用商標についての「浮動的・一時的・局所的」な実情にすぎず,最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決(民集22巻2号399頁) 最高裁昭和49年4月25日第一小法廷判決 , (審決取消訴訟判決集昭和49年443頁)に照らして,「考慮されるべき取引の実情」に当たらない。
このように,審決は,商標の類否判断の手法を誤った。
2 ブランド産品としての牛肉について 近年,県単位又は地域単位でのいわゆるブランド産品としての牛肉の生産,販売において,県名又は地域名の表示と「○○牛」「○○」の部分は,任意の文字等) (の表示とを組み合わせてなる「(県名又は地域名)○○牛」の表示を用いることが少なからずあり,その場合,該表示中の県名又は地域名の部分を省略することもあるという事実は,「牛肉」を取り扱う業界の今日的な実情を示すものであり,「考慮されるべき取引の実情」に当たる。
しかしながら,審決が挙げた個々のブランド牛肉の列挙は,ブランド産品の牛肉の名称として,(県名又は地域名)○○牛」の表示を用いることの根拠なのか,県 「名又は地域名の部分を省略する場合もあるという実情があることの根拠なのか不明である。
仮に,県名又は地域名の部分を省略して取引されるという趣旨で挙げているのであれば,審決は,県単位又は地域単位でのブランド産品としての機能を抹殺する判断をしようとしていることになる。このような判断は,県単位あるいは地域単位でのいわゆるブランド産品としての牛肉の生産,販売が積極的に行われているという 「取引の実情」を十分考慮しておらず,不当である。
3 ブランド産品として地域名をその一部に含む商標について 産業構造審議会商標制度小委員会において,委員長が, 「単位を地域に限れば,それは識別力はあるのではないですか。そういうことはありませんか。そういう話ではありませんか。 と発言したように, 」 県単位又は地域単位でのいわゆるブランド産品に係る商標において,地域の名称を示す文字は,商品の出所識別に際して重要な役割を果たしており,出所識別標識として強く支配的な印象を与える。
したがって,引用商標から「千葉」の文字を捨象して取引に資されるとする審決の判断は,地域名をその一部に含む商標の,今日における「取引の実情」に逆行する判断である。
4 登録された商標や他の審決での要部認定との整合性の欠如について 原告代表者が登録出願した,「絆牛」という商標(商願2012-93290号)に関する拒絶査定不服審判請求における審決(別件審決)では,牛肉の分野において, 「○○牛」との構成を持つ標章が多数採択,使用されている実情があるから,このような構成を持つ標章に接する需要者は, 「牛」の文字部分のみをもっては商品を区別することができず,○○」 「 の文字部分をもって商品を区別すると判断している。
この判断が正しいのであれば,引用商標の要部の認定において, 「牛」の文字を含む「しあわせ牛」の文字が要部となるはずがない。
「さわやか」という登録商標が存在している中で「奥三河さわやか牛」が, 「すずらん」という登録商標が存在している中で「音更町すずらん和牛」が,それぞれ商標登録されているのも,被告が「県名又は地域名」と「○○牛」を組み合わせた表示からなる商標の審査において, 「○○」の部分を要部として抽出する判断手法を採っていないことの証左である。
5 引用商標の出願経過から見た引用商標の出願人の認識について 審決の引用商標の要部認定は,引用商標の出願経過からうかがわれる引用商標の出願人の認識とも一致しない。引用商標に係る商標権者は,その指定商品を「千葉 しあわせ牛の牛肉」として出願したが,これは,引用商標に係る商標権者が, 「千葉しあわせ牛の牛肉」に「千葉しあわせ牛」という商標を使用するという意思を有していたことを表示したものである。このように,引用商標に係る商標権者は, 「千葉しあわせ牛」という「個体としての牛」が存在し,その牛の食肉に「千葉しあわせ牛」という商標を使用しようとしていたにもかかわらず,審決は, 「千葉しあわせ牛」を一体のものとして観察せず,分離観察しており,判断手法を誤ったものである。
被告の主張
審決の認定,判断は正当であって,審決に原告主張の違法はない。
1 本願商標 本願商標の構成は,「幸福。好運。」の意味を有する「幸せ」の文字を平仮名で表した「しあわせ」の文字と,「ウシ目(偶蹄類)ウシ科の一群の哺乳類の総称。」の意味を有する「牛」の文字からなるものと看取される。両文字は,全体として,まとまりがあるもの,ないし,広く親しまれた意味合いを表すものとして認識されるとはいえないが,両語が有する語意により,本願商標は,構成全体から「幸せな牛」程度の意味合いを理解させるものであり,その構成文字に相応して「シアワセギュウ」又は「シアワセウシ」の称呼を生じる。
2 引用商標 引用商標の構成は,「千葉」の漢字,「しあわせ」の平仮名及び「牛」の漢字からなるものと容易に認識し得る。構成中の「千葉」の文字は,「関東地方南東部の県,千葉県西部の市。県庁所在地」及び「姓氏の一つ。」の意味を有する語であるが,引用商標の指定商品が含まれる食品の分野においては,商品の特徴として,その産地を表示することが一般に行われており, 「千葉」の文字も,商品の産地(千葉県)を表すものとして広く使用されている。加えて,引用商標の指定商品中「牛肉」の分野において,県名又は地域名といった地名を冠した「○○牛」の表示が広く使用されているところ,当該地名の表示は,商品の産地を認識させるものであるし,一連 に表された「地名○○牛」の表示は,地名の文字部分が省略表示されて使用される場合も少なくない。これらの実情を踏まえると,引用商標の構成中, 「千葉」の文字は,その指定商品「牛肉」との関係において,地名として認識され,商品の産地である千葉県を表す表示と理解されるとみるのが自然である。
3 引用商標の分離観察の可否 引用商標は, 「千葉しあわせ牛」の文字を一般に使用される書体で一連に表されているものであるが,その構成中, 「千葉」の文字部分は,外観上の異なる文字種の配置により,視覚上分離して看取し得ること, 「千葉しあわせ牛」が全体として,特定の意味合いを想起させるものでないこと,千葉」 「 の文字が商品の産地を認識させて,自他商品の識別標識としての機能を果たさないことから,引用商標は,その構成中の「千葉」の文字部分と,それ以外の文字部分(「しあわせ牛」の文字)とを,分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえない。
そうすると,引用商標は,構成中の「しあわせ牛」の文字部分が,注意をひく部分となり,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるから,構成中の「しあわせ牛」の文字部分を,その要部として抽出し,他人の商標と比較して商標の類否を判断することは許される。
したがって,引用商標は,該文字部分の構成全体から「幸せな牛」の観念を生じるものであり,その構成文字に相応して「シアワセギュウ」又は「シアワセウシ」の称呼を生じる。
4 本願商標と引用商標の類否 本願商標と引用商標を比較すると,両者は,その構成全体の外観において,異なるものであるが, 「しあわせ牛」の文字部分において,構成文字が同一であって,外観において共通する部分がある。
そして,本願商標と引用商標は,いずれも「幸せな牛」の観念及び「シアワセギュウ」又は「シアワセウシ」の称呼を生じる。
したがって,本願商標と引用商標は,その全体の外観構成において相違するとしても, 「しあわせ牛」の構成文字において同一であって,外観において共通する部分があり, 「幸せな牛」の観念及び「シアワギュウ」又は「シアワセウシ」の称呼を同一にするものであるから,これを同一又は類似する商品に使用したときは,その出所について紛れるおそれのある類似の商標というべきである。
そして,本願商標の指定商品中「牛肉」は,引用商標の指定商品と同一であるから,本願商標は,商標法4条1項11号に該当する。
5 原告の主張に対する反論 (1) ブランド産品として地域名をその一部に含む商標について 県単位等でのブランド産品があるとしても,それらは商品の一部にすぎないから,その実情が,地名を含む商標のすべてについて,直ちに当てはまるものではない。
引用商標の取引の実情を考慮して判断するならば,構成中の「千葉」の文字は,一般的な取引の実情からも, 「牛肉」に限定した取引の実情からも,産地を表示する地名として認識されるものといえ,取引者,需要者により強く印象,記憶される「しあわせ牛」の文字が,その要部といえる。
(2) 他の審決での要部認定との整合性の欠如について 他の審決における要部認定は,本件における要部認定に何ら影響しない。引用商標の構成中の「千葉」の文字部分は,自他商品の識別標識としての機能を果たさないから,引用商標は,構成中の「しあわせ牛」の文字部分を要部として抽出できる。
仮に,原告主張のとおり,「牛」の文字に識別力がなく,引用商標の構成中,「しあわせ」の文字部分が要部であるとしても,それは,本願商標「しあわせ牛」についても当てはまり,本願商標と引用商標は同一又は類似する商標であることに変わりない。
(3) 引用商標の出願経過から見た引用商標の出願人の認識について 商標法4条1項11号における商標の類否判断に当たっては,取引者,需要者が,その商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきで あって,出願の経緯や商標の採択の意図等によって,その判断が左右されるべきものではない。
簡易,迅速を尊ぶ取引の実際においては,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は,必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されず,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,一個の商標から二個以上の称呼,観念の生ずることがある(最高裁昭和36年6月23日第2小法廷判決・民集15巻6号1689頁参照)。
これを本件についてみると,引用商標において,構成中の「千葉」の文字部分は商品識別機能を果たさず, 「しあわせ牛」の文字部分が,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるから,当該文字部分によって生じる称呼,観念をもって取引に当たる場合も少なくないものというべきである。
当裁判所の判断
1 本願商標について (1) 本願商標は,「しあわせ牛」の文字を標準文字により表してなる。
(2) 本願商標の指定商品は,第29類「牛肉,牛肉製品」である。
(3) 本願商標は,平仮名の「し」 「あ」 「わ」 「せ」4字と漢字の「牛」1字からなり,全体で5字である。このうち,平仮名の「しあわせ」部分は,日本語として幸福,好運という意味合いを持つひとまとまりの言葉であり(乙1),漢字の「牛」部分は,ウシ目ウシ科の一群のほ乳類の総称であり,丈夫な体,角,細い尾を持ち,草食で反すうする動物を意味合いとして持つ言葉である(乙2)。本願商標は,かかる「しあわせ」と「牛」という2つの意味合いを持つ語を組み合わせた構成であるが,全体として一体的に観察されるべきであり, 「シアワセギュウ」又は「シアワセウシ」の称呼が生じ, 「幸せな牛」といった意味合いを想起させるものである(当事者間に争いがない。。このことは,本願商標の全体の文字数が少なく,一連で称呼 ) しやすいことによるものであるが,これに加え,取引の実情とも合致しているためと解される。すなわち, 「牛肉」業界において,ブランド産品が生産,販売された場合には,「○○牛」という表示を用いることが少なからずあり,その場合,「○○」部分が一連に称呼できるときや,1語としての意味合いを有するときには,原則として,一部を省略せずに全体で呼称するのが,取引の実情と解される。
2 引用商標について (1) 引用商標の構成は,上記第2の2(1)のとおりであり,「千葉しあわせ牛」の文字を横書きしてなる。
(2) 引用商標の指定商品は,第29類「牛肉」である。
(3) 引用商標は,漢字の「千」「葉」2字,平仮名の「し」「あ」「わ」「せ」4字と漢字の「牛」1字からなり,全体で7字である。このうち,漢字の「千葉」部分は,日本語として関東地方南東部の県を表す地名又は姓氏の1つを意味合いとして持つひとまとまりの言葉であり(乙3),残りの平仮名の「しあわせ」部分及び漢字の「牛」部分は,上記のとおり,それぞれ意味合いを持つ言葉である(乙1, 。
2)各文字間の間隔や各文字の大きさ,字体に違いはなく,外観上,特に看者の注意を強く引く部分はなく,漢字と平仮名の違いも,まとまりのある言葉の表記が異なっているだけで,漢字と平仮名の境目に格別の意味合いは看取できず,特に看者の注意を引くものではない。
「牛肉」業界において,県単位や地域単位でのブランド産品が生産,販売された場合には,1つのまとまり又は意味合いを持つ「○○」と「牛」の前に,県名又は地域名を配置し,3つの表示を組み合わせた「(県名又は地域名の表示)○○牛」という表示を用いることが少なからずある。その場合, 「○○」部分が,他の構成部分と比較して相対的に特徴的であったり,特定の言語上の意味合いを持つこと等によりひとまとまりの語と看取できるのであれば,当該部分の文字数や音数が長すぎない限り,「○○牛」と表記するだけで「(県名又は地域名の表示)○○牛」を指すことが明らかとなり,県名又は地域名部分は単に牛肉の生産地又は牛の成育地を意味 するにすぎないことになるから,当該部分を省略して称呼されることがあるのが,取引の実情といえる。他方, 「牛」部分まで省略した場合には,牛肉であることが専門の取扱業者ではない一般の取引者,需要者に認識されないため,原則として, 「牛」部分を省略しないのが,取引の実情と解される。(以上,乙14〜17) 上記のような,引用商標の構成文字やその文字数,構成する語句の数,それぞれの長さや意味合い,上記牛肉取引の実情に鑑みると,引用商標は,外観上,常に一体不可分のものとして認識されるものとはいえず,引用商標の構成中の「しあわせ牛」部分が,要部として,取引者,需要者に対し出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。
したがって,引用商標の要部からは,本願商標と同様に,当該文字部分に相応して,「シアワセギュウ」又は「シアワセウシ」の称呼が生じ,これらの文字は,「幸せな牛」との意味合いを想起させる。
3 商標法4条1項11号該当性について (1) 本願商標と引用商標の外観は, 「千葉」という文字の有無について差異があるが,引用商標の要部である「しあわせ牛」の部分の構成文字は同一である。そして,本願商標と引用商標の要部からは, 「シアワセギュウ」又は「シアワセウシ」の称呼が生じ,これらの文字は, 「幸せな牛」との意味合いを想起させる点でも同一である。
他方,本願商標の指定商品である「牛肉,牛肉製品」は,引用商標の指定商品である「牛肉」と対比すると,「牛肉」部分で同一であり,「牛肉製品」の部分で類似する。
(2) したがって,本願商標は,商標法4条1項11号に該当する。
4 原告の主張について (1) 原告は,審決が,引用商標の使用に係る取引実態として,本来考慮されるべきではない,浮動的・一時的・局所的な実情を考慮したために,引用商標の要部の認定を誤ったと主張する。
しかしながら,引用商標の具体的な取引実態を考慮しなくとも,一般的な牛肉に関する取引実態から,引用商標の要部が「しあわせ牛」といえるのは,上記2(3)のとおりであって,原告の主張は理由がない。審決が,引用商標の具体的な取引実態に言及したのは,引用商標の具体的な取引形態が,(県名又は地域名) 「 」を省略する場合があるという一般的な牛肉に関する取引実態と合致することを指摘する趣旨と解される。審決は,引用商標における浮動的・一時的・局所的な実情を重視して,誤った引用商標の要部認定をしたわけではなく,原告の主張は,審決を正しく理解しないものであり,採用できない。
(2) 原告は,審決が,引用商標につき,ブランド牛肉が県名又は地域名部分を省略して取引されることがあるという誤った認識の下,県単位又は地域単位でのブランド産品としての機能を抹殺する判断をしたと主張する。
しかしながら,出所識別機能の強さは,あくまでも,(県名又は地域名)○○(商 「品名)」といった標章全体において,「○○」部分の構成の長さや個性の有無,県名又は地域名,商品名との一体感,構成文字の大きさや字体等の全体の構成上の特徴等の諸要素全体で,判断されるべきものである。(県名又は地域名) 「 」が文字どおり一定の地域を示すものにすぎず,それと「○○」部分の結び付きが強固なものではなく,「○○」又は「○○(商品名)」部分が相対的に特徴があると認められる場合には,県名又は地域名部分が省略されて使用されても,十分な出所識別機能を果たすから,県名又は地域名を省略した表示は,通常かなりの頻度で用いられることである。例えば, 「くまもと味彩牛」というブランド和牛の肉を販売するくまもと加茂川の公式サイト(乙17)において,商品別に選択する場合の項目が, 「くまもと味彩牛」ではなく「味彩牛」とされ,「味彩牛」の商品購入ページ上も,「味彩牛」と大きく見出しが付され,個別の商品項目も,県名が省略された「味彩牛薄切り」, 「味彩牛焼肉」とされており,相対的に小さく表記された目立たない商品説明中に「くまもと味彩牛」という記載があるにすぎない。このように,県名を冠したブランド牛を自ら販売する業者ですら,県名を省略して表示する扱いをしていることからす ると,(県名又は地域名) 「 」部分は必ずしも「○○」部分と強固な結び付きがあるとは考えられておらず,(県名又は地域名) 「 」部分が省略される場合があることが,推察される。
そうすると,原告の主張は,ブランド産品において,県名又は地域名が必ず最も強い出所識別機能を有し,省略されることはないという前提において誤っており,採用できない。
(3) 原告は,審決が,県単位又は地域単位でのいわゆるブランド産品に係る商標において,地域の名称を示す文字は,商品の出所識別に際して重要な役割を果たしており,出所識別標識として強く支配的な印象を与える点を看過し,引用商標から「千葉」の文字を捨象して取引に資されるという誤った判断をしたと主張する。
しかしながら,上記(2)で述べたとおり,ブランド産品として「○○」又は「○○(商品名) 部分が特徴的であって強い出所識別機能を有する場合には, 」 必ずしも県名又は地域名部分が出所識別機能を果たすとは限らないから,県名又は地域名部分が省略されて使用されることはあり得るのであって,原告の主張は,ブランド産品において,県名又は地域名が最も強い出所識別機能を有し,省略されることはないという前提において誤っており,採用できない。
原告の主張する県名の持つ識別力とは,通常,産地を示すことによって消費者に与える安心・安全感といった印象を指すにすぎないのであって,産地の表示が消費者の購入意欲を促進する機能があるとしても,これは,商標における商品の出所識別機能とは必ずしも同一のものではないというほかない。また,トレーサビリティの観点から,原産地表示として地名を冠した銘柄名を書くことが容認されているとしても(甲27),それは,銘柄名のうちの地名部分が原産地を示す機能を果たすからであって,銘柄名全体が常に一体として認識されることを意味しない。
(4) 原告は, 「絆牛」という商標登録出願における別件審決や他の登録商標における要部認定と矛盾があり,引用商標のうち「牛」の部分は要部とならないはずである旨主張する。
しかしながら,ある文字が標章の要部に当たるかどうかは,当該標章を構成する文字や図柄,各構成部分の配置や大きさの比率等に応じて異なり得るのであって,当該文字が標章において一般的に要部になるかどうかを論じることは無意味である。
また,構成文字や形態が異なる標章に関する他の審決における判断が,本件における審決の判断と違っても,標章を構成する文字や図形等が異なる以上,当然のことであるし,対照となる商標との比較上,要部として注目すべき部分も異なり得るから,他の審決での要部認定との相違が,本件における審決の誤りを意味するものではない。
すなわち,別件審決が「絆」部分に商品識別能力があるとしたのは, 「絆牛」という標章のうち, 「牛」という部分単独では商品識別能力がないことを表現するためにすぎないと解することも可能であって,産地名の出所識別能力を問題とする本件とは明らかに争点が異なり,参考とならない。また,他の登録商標において,特許庁がどのように要部を認定したのかは,登録された事実から必ずしも推認できないから,直ちに本件の参考となるものではない。
なお,仮に原告の主張するとおり, 「牛」部分に商品識別能力がない前提に立つとしても,本願商標の要部が「しあわせ」,引用商標の要部も同じく「しあわせ」となるから,両商標が類似しているという判断に変わりはない。
したがって,原告の主張は採用できない。
(5) 原告は,審決の引用商標の要部認定は,引用商標の出願人の出願に際しての認識とも一致しないと主張する。
しかしながら,商標法4条1項11号における商標の類否判断において基準とすべきは,当該商標に接する取引者,需要者の認識であって,出願人の出願に際しての主観的な認識ではない。原告の主張は,引用商標の出願人の主観的認識を斟酌すべきとする点において誤っており,採用できない。
結論
以上より,原告の請求は理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節
裁判官 新谷貴昭
裁判官 鈴木わかな
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