関連審決 | 無効2013-890052 |
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事件 |
平成
26年
(行ケ)
10089号
審決取消請求事件
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原告シャープ株式会社 訴訟代理人弁護士三山峻司 同 松田誠司 同 清原直己 被告 独立行政法人科学技術振興機構 訴訟代理人弁理士石崎剛 同 小泉妙子 同 小林恵美子 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2015/02/25 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2013-890052号事件について平成26年3月5日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
1 本件は,原告が商標権者である下記商標(ただし,後記の商標権分割前のもの。以下「本件商標」といい,本件商標に係る権利を「本件商標権」という。)の指 1定商品の一部の登録について,被告が商標登録無効審判請求をしたところ,特許庁が同指定商品の一部の登録を無効とする審決をしたことから,原告がその取消しを求める事案である。 記 商標 IGZO(標準文字) 登録番号 商標第5451821号 指定商品(ただし,後記の商標権分割前のもの。そのうち,下線部分が本件無効審判請求の対象となった指定商品である。) 第9類「電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,電池,電線及びケーブル,配電用又は制御用の機械器具」 2 特許庁における手続の経緯等(争いがない。) (1) 原告は,平成23年6月24日,本件商標につき登録出願をし,同年10月25日に登録査定,同年11月18日に設定登録を受けた。 (2) 被告は,平成25年7月31日,特許庁に対し,本件商標の指定商品中,第9類「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,電池,配電用又は制御用の機械器具」についての登録は,商標法3条1項3号,同法4条1項16号又は同項7号に違反するとして,本件商標の指定商品中,これらの指定商品についての登録を無効とすることを求めて審判の請求をした。 特許庁は,上記請求を無効2013-890052号事件として審理をした上,平成26年3月5日, 「本件商標の指定商品中,第9類「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,電池,配電用又は制御用の機械器具」についての登録を無効とする。」との審決をし,その謄本を,同月13日,原告に送達した。 (3) 原告は,平成26年5月27日,同年6月19日,同年7月8日,同月28日に,特許庁に対し,本件商標権の分割を順次請求し,本件商標権は,最終的に,別表のとおり9件に分割されて,登録された。同各分割後の各商標について登録された指定商品は,それぞれ,別表の「指定商品の記載」欄中の左欄記載のとおりで 2あり, 「但し・・除く」とされている部分を整理して書き換えた実質的な指定商品は,それぞれ以下のとおりである(同表「指定商品の記載」欄中の右欄参照。甲131ないし139)。 @「携帯電話機,スマートフォン,タブレット型携帯情報端末,液晶テレビジョン受信機を除く電気通信機械器具及びタブレット型携帯情報端末,コンピュータ,ノートブック型コンピュータを除く電子応用機械器具」(商標登録5451821-1-1-1。以下「本件商標1」という。) A「電子応用機械器具の部品,電池,配電用又は制御用の機械器具」(商標登録5451821-1-1-2-1。以下「本件商標2」という。) B「電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電線及びケーブル」(商標登録5451821-1-1-2-2。以下「本件商標3」という。) C「液晶テレビジョン受信機」(商標登録5451821-1-2-1。以下「本件商標4」という。) D「ノートブック型コンピュータ(商標登録5451821-1-2-2。以下「本件商標5」という。) E「ノートブック型コンピュータ,タブレット型携帯情報端末を除くコンピュータ」(商標登録5451821-2-1-1。以下「本件商標6」という。) F「タブレット型携帯情報端末」(商標登録5451821-2-1-2。以下「本件商標7」という。) G「スマートフォン」(商標登録5451821-2-2-1。以下「本件商標8」という。) H「携帯電話機」(商標登録5451821-2-2-2。以下「本件商標9」という。また,本件商標1,2,4ないし9を併せて「本件各商標」という。) 3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書写しに記載のとおりである。その要旨は, (1) 「IGZO」の文字は,本件商標の登録査定時前において,研究者など一部 3の限定された者にとどまらず,液晶ディスプレイや半導体の分野のエレクトロニクス業界において, 「In(インジウム),Ga(ガリウム),Zn(亜鉛)及びO(酸素)の複合物からなる酸化物」を表すものとして,広く知られていたといえる, (2) 本件商標の指定商品において,「電子応用機械器具及びその部品」には,半導体素子や電源回路の半導体等が含まれ,また, 「電気通信機械器具」には,前記液晶ディスプレイ・パネル等が含まれる,さらに「電池」や「配電用又は制御用の機械器具」には,蓄電池や蓄電器等が含まれるものであって,これらの関連商品として,蓄電状況を表示するモニターや停電時に視認しやすい液晶パネルを有した商品がある,そして上記商品は,事業者間での取引に供される機械器具の部品,あるいは関連商品といえ,最終消費者ではない事業者が需要者(取引者を含む。)となる商品が多々含まれるものである, (3) 以上を総合すると,本件商標の登録査定時において,本件商標を構成する「IGZO」は,上記商品を構成する原材料の一つを示すものとして使用され,少なくとも上記(2)の商品に係る事業者(取引者・需要者)の間において認識されていたといい得るものである。そうすると,本件商標は,請求に係る指定商品に使用した場合,その商品の原材料を表したものとして認識されるものであるから,自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものであるというのが相当であり,本件商標は,請求に係る指定商品について,商標法3条1項3号に該当し,その余の点について判断するまでもなく同法46条1項1号に基づき,登録を無効とすべきものである,というものである。 4 本件の争点は,本件商標ないし本件各商標がその商品の原材料を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるかどうか(商標法3条1項3号該当性。以下, 「商標法」を単に「法」といい,同号を単に「3条1項3号」又は「3号」ということがある。)である。なお,本件では,原告から,法3条2項該当性(いわゆる使用による特別顕著性)の主張はされていない。 |
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原告主張の取消事由(法3条1項3号該当性)
4 審決は,以下のとおり,3号該当性を判断する前提となる事実の認定及びその評価を誤り,その結果,同号該当性についての判断を誤ったから,取り消されるべきである。 1 3号の趣旨について (1) 3号を含む3条1項各号が無効事由となるのは,列記された標章がいずれも「出所識別力欠如」を理由とするからである。そして,同項6号が1ないし5号の列挙以外の統括的・概括的規定になっており,同条2項は,出所識別力を特別に獲得した際に登録可能となることを定めている(独占適応性が趣旨であれば,使用により周知となっても登録を許すべきでないから,2項の存在は1項各号が識別力の欠如を列記していることを示している)。 3条1項各号が「出所識別力欠如」を理由とするものであるとすると,3号においても「出所識別力」は,需要者層の認識が関係し,標章の使用の有様によって出願時,査定時,侵害判断時において変化する可能性があるから,本件においても,商標登録査定時における需要者層の認識は,3号該当性の審査において重要である。 (2) いわゆるワイキキ事件最高裁判決(最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決)は,3号の趣旨について, 「このような商標は,商品の産地,販売地その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである」と判示している。この判決は,3号について, 「特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としない」理由として, 「このような商標は,商品の産地,販売地その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものである」ので,複数の者が自由に表示することを認めるべき標章であると読む見解がある。しかし,仮に「多くの場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないもの」であっても,なおかつ自他 5商品等識別力があるものについても,特定人によるその独占使用を認めるのを公益 「上適当としないもの」については登録が拒絶されるべきと考えるのは,文理を離れた解釈の域を超える。上記判決は,3条1項各号に列挙された商標は類型的に識別力を欠くものであり,識別力を欠くことを前提として,当該各商標は,競業者において自己の商品又は役務を流通に置くに当たり,一般に使用を欲することが多いという意味において独占適応性を欠くとの趣旨と解すべきである。 「独占適応性」は,それ自体が分明ではなく,条文に根拠付けられたものではない。特に「最終製品」との関係は,独占適応性を理由に3号が適用される領域に基準がなく,どこまでも広がるおそれがある。将来的に事業者がその自由な使用を欲する標章についての使用の不安や危惧の恐れは,法26条によって規制されている。 3号の主たる立法趣旨は,あくまで自他識別力の有無にあると解すべきである。 2 審決は,3号を「出所識別力欠如」事由とみているので,前記最高裁判決に準拠しているが,以下の(1)ないし(4)の各理由により,3号の適用を誤っているから,取り消されるべきである。 (1) 指定商品との関係における本件商標の一般的な使用態様について ア 審決は,「標準文字で表された本件商標『IGZO』」は,本件の「指定商品に使用した場合,その商品の原材料を表したものと認識されるというのが相当であるから,自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない」と認定した。 イ しかし,まず「指定商品に使用した場合」に関しては,商標は,指定商品に付され取引市場で流通することが予定され,取引過程を通じてその機能を発揮するのであるから,商標を指定商品に使用した場合の一般的な使用の態様を想定した認定が前提とされるべきであり,指定商品に単に使用した場合を一律に認定するのは妥当ではない。本件においても「電子応用機械器具・電気通信機械器具・電池・配電用又は制御用の機械器具」への一般的に予定される使用の態様を踏まえることが前提となるべきであるのに,審決は,この点を踏まえた認定とはいえない。 ウ また,審決は, 「普通に用いられる方法」の要件の該当性について特段の検討 6を行うことなく,3号該当性を肯定している。 (ア) 「普通に用いられる方法」が要件とされている趣旨は,類型的に識別力を有しない原材料等表示の標章が,記述的に用いられる場合には,自他識別力がないという点にある。すなわち,原材料等表示を「普通に用いられる方法で表示」する以外の方法で表示したときには自他識別機能が生じることを認める。商標の識別機能は,基本的には商標の外観・称呼・観念の三者から生ずるものであるから,商標の外観が標準文字で表わされていても,需要者の認識等も勘案して,取引の経験則からみて商標の外観・称呼・観念が,当該商標を商標とみられるような方法で表している場合は,普通に用いられる方法とはいえない。 (イ) 本件商標「IGZO」が「標準文字」で表されているということ自体で,直ちに「普通に用いられる方法で表示」であるという要件に該当するわけではない。 酸化物の名称は,一般に, 「酸化インジウム・ガリウム・亜鉛」であるのに対し,本件商標は欧文字四字の「IGZO」である。そして, 「酸化インジウム・ガリウム・亜鉛」を指称するために, 「IGZO」との表記が用いられることもあるが,あくまで「略称」にすぎず, 「酸化インジウム・ガリウム・亜鉛」を表す場合に,研究者等においても,略称の表記に限っても ,「GIZO」「In-Ga-Zn-O」 「InGaZnO」 , ,「InGaZnOx」「InGaO3(ZnO), , 」「IZGO」「In-GaZnO」というように語順が異な ,るだけでなく,多種多様な表記がなされており(乙15,25頁) 略称としても , 「IGZO」との表記が一般的とはいえない。また,称呼についてみると,酸化物の略称は「アイ・ジー・ゼット・オー」なのに対し,本件商標は「イグゾー」である。 被告は,特許公報中に「IGZO」の語が使用されている検索結果(甲7,8)を証拠として提出するが,特許公報は研究者等の当業者の認識を示すものにすぎないし,これらの検索結果では特許公報中にいかなる文脈で,いかなる表現により「IGZO」の文字列が出現したのかは明らかではない。被告が挙げた特許公報のリスト(甲4)のうち100件をサンプルとして原告が調査したところによれば,単独で「IGZO」の語のみが使用された例は,わずか6件にすぎず,そのほとんどは, 7「In-Ga-Zn-O」「InGaZnO」「InGaZnOx」との表記や,具体的な組成と併記して「I , ,GZO」と記載している。このことからすれば,研究者等の当業者においてすら「IGZO」は略称の一種にすぎず,その文字列のみで直ちに「酸化インジウム・ガリウム・亜鉛」を意味するとは認識されていなかったといわざるを得ない。 そして,本件においては,後記のとおり,指定商品の主たる需要者である一般消費者の認識を基準とすべきところ,本件商標の登録査定当時,一般消費者においては, 「酸化インジウム・ガリウム・亜鉛」という酸化物が知られていなかったのみならず,その略称の一種である「IGZO」も認知されていなかった。 「IGZO」という語は,本件商標の登録査定後において,原告の商品ないし技術が,我が国の著名な一般紙,指定商品の需要者を主たる対象読者層とする各雑誌等の報道や記事(甲59ないし115)によって紹介され,また,原告の広告宣伝がされたことによって,一般消費者に,原告商品の商標であり,原告の製品に付されるものであると認識されているものである。 (ウ) 以上のとおり,本件商標は,「普通に用いられる方法」に当たらないから,この点を看過した審決は不当である。 (2) 3号に規定する「原材料」の意義について 審決は,本件商標「IGZO」を, 「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,電池,配電用又は制御用の機械器具」の指定商品の「原材料」を表した表示とするが, 「IGZO」は,3号に規定する「原材料」ではない。審決は,同号の「原材料」の解釈及び適用を誤っている。 ア 前提として3号に定める「原材料」の意義を明らかにすると,広辞苑(第6版)によれば,「原材料」とは,「生産の資材になるもの。もととなる材料」,また,「製品のもとになる材料。原料と材料」の意と説明されている。そして,原料とは,「製造・加工のもとになる材料。製品になった時,もとの形が残っていないものをいうことが多い」の意味,材料とは, 「加工して製品にする,もとの物。原料」の意味と説明されている。 「もとの物」とあるように,製品の主要あるいは相当部分の基 8本的な材料となっている場合を指称する。 また,法務省が提供する日本法令外国語訳データベースシステムによる訳出によれば,「原材料」とは,「raw materials」であり,その意味は,OXFORD 現代英英辞典(第8版)によれば,「a basic material that is used to make a product」であり,商品の基本的なあるいは主要・重要な材料であることは,語義上からも明らかである(「raw materials」には, 「土台,中心,根幹」の意味もあることも示されている)。 イ ところで, 「酸化インジウム・ガリウム・亜鉛」は,指定商品に使用される多数の部品や部材のうちの一つの,ごく一部の部位に利用される酸化物であるにすぎない。特許公報等の「明細書」又は「特許請求の範囲」にどのような態様で「IGZO」が使用されているかも様々である。 審決において, 「原材料」として認定されているものが,酸化物か,酸化物半導体か,又はそれらのいずれのものでもあるのかが明らかでない。仮に,審決が,酸化物を原材料と捉えているとすると,順次,酸化物,酸化物半導体,液晶パネル,液晶モジュール,各部品と組立て,最終製品と進む工程の中で, 「原材料」に当たると判断していることになり,酸化物半導体を原材料と捉えているとすると,順次,酸化物半導体,液晶パネル,液晶モジュール,各部品と組立て,最終製品と進む工程の中で,「原材料」に当たると判断していることになる。 ウ そもそも,3号の趣旨及び文理並びに前記ワイキキ事件最高裁判決の趣旨からすれば,3条1項3号及び同項各号に規定された表示は,これに接した需要者が....直接的に指定商品を想起し,自他商品を識別することができないのが通常であるからこそ,登録できないとされている。指定商品との関係で,品質等の間接的・暗示的な表示であれば登録可能性があるとの実務運用(特許庁・商標審査基準第1,五,4参照)もそのことによって支持される。 したがって, 「原材料」とは,当該指定商品の原材料として使用されている要素というだけでなく,当該表示に接した需要者において,直接的に指定商品を想起でき 9ることを要するというべきである。仮に,指定商品を構成する最小の要素をもって「原材料」とみてよいのだとすれば,指定商品「菓子」について,ナトリウムを表す化学記号である「Na」を商標とすることも許されないことになるが,このような結論が正当でないのは明らかである。 化学的な意味で指定商品の原材料の素材を構成したり組成するものであるとしても,指定商品の需要者(後記のとおり,本件においては一般消費者)において,当該表示から直接的に当該指定商品を想起できないような場合には, 「原材料」に当たらないと解すべきである。 (3) 最終製品との関係における識別機能について ア 審決は, 「原材料」と「品質」の関係について具体的な言及をしないままに最終製品と部品との関係について恣意的な判断を行っている。 (ア) 本件商標の指定商品のうち,「携帯電話機」の製造工程を例にとって述べると,携帯電話機を製造するためには,これを構成する多数の各部品を工程に従って製造し,適宜の手順・方法により組み立てる必要がある。その部品の一部である液晶ディスプレイの製造工程には,@ガラス投入,Aゲート電極形成,B半導体膜形成,Cソース電極形成,D透明電極形成,E保護膜形成,FTFT完成という製造工程があり,そのうちBの工程において,微量の酸化インジウム・ガリウム・亜鉛が使用されるが,液晶ディスプレイの電極部分の限られた領域にごくわずかに使用されるにすぎない。5型の高精細の液晶ディスプレイを組み込んだスマートフォンにおいては,液晶パネル全体に占める「酸化物半導体」の面積比率は4.7%,体積比率はわずか0.0011%であり,また,8.8型の中精細の液晶ディスプレイを組み込んだタブレット端末においては,液晶パネル全体に占める「酸化物半導体」の面積比率は5.2%であり,体積比率はわずか0.0009%にすぎない。 本件商標の指定商品(分割前)は, 「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,電池,配電用又は制御用の機械器具」であって,指定商品は,いずれも液晶ディスプレイそのものではなく,液晶ディスプレイを部材の一部とする(可能性 10のある)製品である。上記のように多数の部品のうちの一部の部品の製造工程のうち,さらに限られた工程中での最小単位となる酸化物又は酸化物半導体の略称の表示は,3号の「原材料」表示には当たらないというべきである。 (イ) また,審決は,「電池や配電用又は制御用の機械器具には,蓄電池や蓄電器等が含まれるものであって,これらの関連商品として,蓄電状況を表示するモニターや停電時に視認しやすい液晶パネルを有した商品がある。 として, 」 指定商品とモニター・液晶パネル等との関係を結びつける。 しかし, 「モニターや停電時に視認しやすい液晶パネル」を附属させた製品・機械は,本体機器の用途を問わず際限がない。これでは,条件的なつながりさえあれば3号該当性を認定するに等しく,3号該当性判断の基準は無きに等しい。 蓄電池全体の製造工程をみると,一般的に,順次,塗工,スリット,カット,捲回,積層,タブ溶接,エレメント挿入,缶溶接,注液,化成充電,脱泡最終シール,充放電,外装という手順が取られる。上記工程において液晶ディスプレイが製品に組み込まれるのは,外装工程である。したがって,蓄電池の製造においても, 「酸化インジウム・ガリウム・亜鉛(酸化物半導体)」は最終製品からみれば,ごく一部の部品における最小の構成要素にすぎない。 イ 審決は,上記のとおり,指定商品の最小単位で使用される組成物や素材をもって, 「原材料」に当たるとし,間接のそのまた間接的な原材料を使用しているかもしれない指定商品にまで,3号該当性を理由に当該指定商品の識別機能は果たし得ないと認定したもので,不当である。 仮に,審決が,指定商品において生産に使用され得る物質は,およそ「原材料」に当たると考え,当該「原材料」の需要者層を限定した上で,その認識を認定するのであれば,いかなる指定商品においても元素名・記号等を登録商標とすることは許されないことになる。しかし,このような結論は,実際に多数の登録例(甲32ないし58)があることから,不当なことは明らかである。例えば,商標「INDIUM」は,指定商品第9類「コンピュータハードウエア並びに保存システムに接続したネ 11ットワーク用・ウェブサーバー用及びコンピュータ産業で使用する組み込まれた環境用のコンピュータソフトウエア用アプリケーション」との関係では,コンピューターハードウェア,液晶又は半導体に「インジウム」が使用されても,指定商品との関係でみれば,それは製品の部品の原材料にすぎないから各指定商品の直接的な原材料とはいい得ない旨の出願人の意見を容れて,上記出願は登録査定を受けるに至っている。商標「ZIRKON」についても,指定商品第1類「半導体デバイス製造に用いる化学品,電子部品製造に用いる化学品,その他の化学品」との関係では識別力が認められている。さらに,商標「OXYGEN」,指定商品を第9類「電子応用機械器具及びその部品」とする出願についても, 「電子応用機械器具及びその部品」に含まれる製品において,最小の構成要素として酸素が含まれないことはないが,登録査定を受けている。 (4) 指定商品の最終消費者の認識について ア 審決は,3号を出所識別機能を有さない表示に関する登録要件と考え,本件登録商標は, 「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,電池,配電用又は制御用の機械器具」との関係で出所の識別機能を有さないから同号の無効原因を有するとして,無効と審決した。 しかし,3号を出所識別力を有するか否かを基準に考えると,指定商品の商品の種類にもよるが,指定商品の一般消費者の認識を全く無視して登録要件を判断することはできない。本件商標が識別機能を有するか否かの認定につき,審決では指定商品の最終消費者(一般消費者)を全く考慮しておらず,不当である。 イ 審決は,本件商標の登録査定時において,本件商標を構成する「IGZO」は,上記商品を構成する原材料の一つを示すものとして使用され,少なくとも上記商品に係る事業者(取引者・需要者)の間において認識されていたといい得るものである,と判断した。 しかし,上記記載は, 「事業者」を「需要者・取引者」と見ているが,研究者及びエレクトロニクス業界に属する者と, 「事業者」の各認識層をどのように把握してい 12るか不明である。また, 「事業者」につき何ら理由を付すことなく判断しており不当である。さらに, 「上記商品」とはどこまでを指すのかは必ずしも明らかでない。そして, 「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,電池,配電用又は制御用の機械器具」の需要者を事業者のみと認定し,一般消費者を含めず, 「エレクトロニクス業界」に属する者の認識を問題とすること自体が不当である。 ウ 一般消費者が主たる需要者である場合について,いわゆる「LOOPWHEEL」事件(知財高裁平成25年12月26日判決・同年(行ケ)第10162号)は,「そうすると,上記繊維関連の専門書,辞書及び辞典類の記載から,『ループ・ホイール』『loop wheel』の語は,巻き上げ機であるループ・ホイール編 ,み機の部品を意味するものと認識され,ひいては,巻き上げ機そのものを想起させるものといえる。しかしながら,上記繊維関連の専門書,辞書及び辞典類は,本件商標の指定商品の『織物(『畳べり地』を除く。』又は『メリヤス生地』の需要者で )ある一般消費者が普段接することのない専門的な文献であり,上記記載を根拠として,一般消費者に『ループ・ホイール』『loop wheel』の語から巻き上げ ,機を想起させるものとまで認めることはできない。と判示している。 」 このことから,@指定商品の性質に従い,需要者たる一般消費者の認識を基準とすべきであること,及びA需要者たる一般消費者が普段接することのない専門的な文献は,一般的に当該用語が認識されていることの根拠になり得ないといえる。このような一般消費者の認識からすれば,本件商標は,その指定商品に使用した場合,需要者に特定の意味合いを理解させない文字列を表記したと認識される商標であって,自他商品の識別標識としての機能を発揮し得る。 エ 本件商標の指定商品「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,電池,配電用又は制御用の機械器具」に含まれる最終製品の大半が,一般消費者が需要者となるもの又は一般消費者が主たる需要者となるものであり(ただし, 「配電用又は制御用の機械器具」に含まれる最終製品は業務用商品であり,需要者としては,「配電用又は制御用の機械器具」を取り付ける事業関係者などが考えられる。 , ) 13一般消費者(最終商品の一般的なユーザー)の認識を基準とすれば, 「IGZO」は一定の商品を指称する商標と認識される。 なお, 「酸化インジウム・ガリウム・亜鉛」は,本件商標の査定時点で,最終製品には誰も使用していない。原告が世界で初めて量産化に成功した高精細・省電力化の技術(甲18)であり,本件商標としての「IGZO」は,原告との結びつきも明確である。本件商標としての「IGZO」は, 「イグゾー」との称呼を有し,当該称呼と相俟って,原告のブランドと認識され,「IGZO(イグゾー)」から生ずる観念についてみても,「原告の製造する,又は原告の技術を用いた原告の家電製品」との観念が生ずるものである。 3 本件商標権の分割について (1) 商標権の分割は,登録によりその効力を生じる。本件商標権の分割の登録は終了したから,審決が無効の対象とした指定商品については,現時点では,分割された指定商品に対する無効審決がなされていると同義と考えられる。 無効審決取消訴訟係属中に商標権の分割がされた場合,分割前の商標権(原商標権)は分割後,各商標権に置き換わる。無効審決の対象となったのは,あくまでも原商標権であるところ,仮に同審決を維持する旨の請求棄却判決が下され,同判決が確定した場合,特許庁長官は確定した審決に基づき,職権で登録を行うこととなる(商標登録令7条5号)。この場合,特許庁長官は,上記登録に際し裁量的判断を行うことなく登録すべきであるが,当該登録時点ではそもそも原商標権が存在しない。したがって,上記請求棄却判決は,法令上,特許庁長官が執行し得ない処分を強いることになる。商標法及び関係法令がそのような事態を想定していないことは明らかである。 無効審決は,特許庁が行った行政処分に当たる。そして,審決取消訴訟は当該処分が処分時に違法か否かを審理の対象とする。しかし,処分時以後の事態の変動が一切考慮されないわけではなく,その変動が当該処分時の処分の違法性の判断に合理的な根拠をもって影響を与える場合は,その変動事実を踏まえて,処分の違法性 14の判断をすべきである。 したがって,無効審決取消訴訟係属中に原商標権が分割された場合,裁判所は,分割後の各商標権についての審判を行わせるべく,当然に特許庁に対し差し戻す旨の判決をすべきであり,又は,分割後の指定商品ごとに無効理由の有無を判断し,処分の違法性の判断をすべきである。 (2) 上記分割された指定商品と原材料との関係を具体的にみると,携帯電話機」 「(本件商標9の指定商品)については,前記2(3)ア(ア)のとおりである。 「スマートフォン」 (本件商標8の指定商品)は,約1000個近くの部品で構成され,そのうち, 「酸化インジウム・ガリウム・亜鉛」を用いる部品は,液晶パネルのみであり,携帯電話と同様,液晶ディスプレイの製造工程のうち,半導体膜形成の工程において,ごく微量の「酸化インジウム・ガリウム・亜鉛」が使用されるにすぎない。 「タブレット型携帯情報端末」 (本件商標7の指定商品)の構造は,おおむねスマートフォンと同様であり,最終製品と各部品及び「酸化インジウム・ガリウム・亜鉛」との関係も概ね同様である。 「コンピュータ(但し,ノートブック型コンピュータ,タブレット型携帯情報端末を除く)(本件商標6の指定商品)「ノートブック型コンピュータ」 」 , (本件商標5の指定商品)においては,液晶ディスプレイを有する点において,携帯電話機及びスマートフォン等と同様である。もっとも,前者は,商品を構成する大きなユニットとして,少なくともディスプレイ,キーボード及び筐体であるタワーを有し,後者は,前者と異なり各ユニットが一体化していることが通常であるが,少なくともディスプレイ,キーボードを有し,これらに含まれる部品の総数は,携帯電話機及びスマートフォンの比ではない。 「液晶テレビジョン受信機」 (本件商標4の指定商品)においては,液晶ディスプレイを有する点において,携帯電話機及びスマートフォン等と同様である。もっとも,商品の構造として,少なくともディスプレイ,電源ユニット,電波受信ユニッ 15ト,リモートコントロール対応ユニット,スピーカー等を有し,これらに含まれる部品の総数は,携帯電話機及びスマートフォンの比ではない。 「電子応用機械器具の部品,電池,配電用又は制御用の機械器具」 (本件商標2の指定商品)のうち,特に,「電池」については,「IGZO」が「電池」の原材料を表示する標章に何故に該当するか理由が不明である。法的な意味における「原材料」の解釈と日常用語例とは必ずしも一致しないのであるから,使用さえすれば直ちに「原材料」に該当するということはできず, 「原材料」というためには,各指定商品との関係で,当該表示に接した需要者において,直接的に指定商品を想起できることを要するから,最終商品からみて当該使用される要素が「ごく微量」にすぎないか, 「間接のそのまた間接」か否かは重要な事実である。したがって,当該表示に接した需要者において,最終商品からみて当該使用される要素が「ごく微量」にすぎないか, 「間接のそのまた間接」か否かの観点から,当該表示に接した需要者が, 「原材料」と認識するかどうかで判断されるべきである。上記指定商品との関係では,審決は理由をまったく記載していないか,記載されているとしても,3号との関係で,どの点が原材料表示として登録可能性がないかについて具体的な記載がない。 上記は, 「電子応用機械器具の部品」「配電用又は制御用の機械器具」についても同 ,様である。 「電気通信機械器具(但し,携帯電話機,スマートフォン,タブレット型携帯情報端末,液晶テレビジョン受信機を除く),電子応用機械器具(但し,タブレット型携帯情報端末,コンピュータ,ノートブック型コンピュータを除く)(本件商標1 」の指定商品)についても,上記「電子応用機械器具の部品,電池,配電用又は制御用の機械器具」で述べたと同様に,構成部位の一部に「液晶ディスプレイ」の表示部分を有するものがあるとして,それが原材料表示というのであれば,3号該当性の判断としては飛躍している。 4 法4条1項16号及び同項7号該当性について 審決は,本件商標の法4条1項16号及び同項7号の該当・非該当の判断はして 16いないから,同各号該当性は本件訴訟の審理対象にはならず,この点に関する被告の主張は失当である。 |
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被告の反論等
1 3号の趣旨について 原告は,法3条1項3号の趣旨が,「独占適応性」ではなく,「出所識別力欠如」である旨主張する。しかし,ワイキキ事件最高裁判決においても,特許庁の審査実務においても,法3条1項3号の趣旨は出所識別力欠如及び独占適応性のいずれにもあると判断されているのであり,原告の主張は誤りである。 2 原告は,審決が3号の具体的な適用を誤った理由として4つの理由を挙げるが,以下のとおり,原告の主張は理由がない。 (1) 指定商品との関係における本件商標の一般的な使用態様について ア 原告は,(商標を)指定商品に単に使用した場合を一律に認定するのは妥当 「ではない」と主張する。しかしながら,原告の主張は,3号該当性の判断において,そのように判断してよいという根拠が何ら示されておらず,原告の独自の主張にすぎない。 イ(ア) 原告は,審決が「普通に用いられる方法」の該当性について特段の検討を行うことなく,3号該当性を肯定している旨主張する。しかし,本件商標は, 「標準文字」商標であり,特許庁長官の指定する明朝体で書された文字であるから,3号における「普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当することは明白である。 (イ) 原告は,「IGZO」は「酸化インジウム・ガリウム・亜鉛」の略称にすぎず,略称の場合は「アイ・ジー・ゼット・オー」の称呼であるのに対し,本件商標は「イグゾー」の称呼であり,需要者である一般消費者において, 「IGZO」は原告の商標である旨認識されていると主張する。 しかし,「本文全文中にIGZOの文字があり,公開日・公表日が 1996 年1月 1日以降である特許 1401 件のリスト」(甲4)からもわかるように,本件商標の指定 17商品分野における我が国を代表する企業が多数,出願人として名を連ねている。 「IGZO」がこれだけ多くの我が国を代表する企業において特許明細書に記載されているという事実は,たとえ特許公報中において「In-Ga-Zn-O」 InGaZnO」 InGaZnOx」 「 , , 「の他の表記と併記されていた例があったとしても, 「IGZO」という表示は,それらの表記の頭文字をとった簡潔な表示であり,少なくともこれらの多くの企業において原材料名として認識されていたことがわかる。よって, 「IGZO」が略称であることを理由に,無効理由に該当しない旨の原告の主張は誤りである。また,原告が,「IGZO」に後から新たな称呼を付けたとしても,「IGZO」が「酸化インジウム・ガリウム・亜鉛」を認識させることに何ら変わりはないし,原告の商品ないし技術等が報道されたという証拠(甲59ないし118)は,本件商標の登録査定日後のものであるから,本件商標に無効理由がないことの証拠にはならない。よって,原告の主張は誤りである。 (2) 3号に規定する「原材料」の意義について ア 原告は, 「原材料」が「生産の資材になるもの。もととなる材料」と広辞苑等の辞書に掲載されているにもかかわらず, 「原材料」の語を「原料」と「材料」に分解して, 「製品の主要あるいは相当部分の基本的な材料」である旨主張する。しかしながら,そのように判断してよいとする根拠が何ら示されておらず,原告が独自に主張しているにすぎない。また,日本法の条文の意味,内容を解釈するに当たり,これを英語で解釈すべき合理的理由は見当たらない。 3号の「原材料」とは,上記のとおり, 「生産の資材になるもの。もととなる材料」である。そして,原告自身, 「IGZO」が「製品の部品や部材の中のごく一部の部位に利用される酸化物」であることを明確に認めているように, 「IGZO」は,本件商標の指定商品の「原材料」であるから,本件商標は3号に該当する。 イ 原告は,審決が「原材料」として認定したものが,酸化物か,酸化物半導体か明らかでないと主張するが,酸化物を半導体に使えば酸化物半導体になるだけのことであり,酸化物が原材料として含まれることに違いはない。 18 ウ 原告は,3条1項3号及び同項各号に規定された表示は,これに接した需要者が直接的に指定商品を想起し,自他商品を識別することができないのが通常であるからこそ,登録できないものであり,このことは,特許庁の商標審査基準によっても支持される旨主張する。しかし,法3条1項3号の趣旨及びワイキキ事件最高裁判決の趣旨については前記1のとおりであるし,審査基準には, 「指定商品の『品質』『効能』『用途』等又は指定役務の『質』『効能』『用途』等を間接的に表示 , , , ,する商標は,本号の規定に該当しないものとする。」と規定されており,この「間接的に表示する商標」とは,その商品の品質等をそれとなく暗示させるものであって, 「直接的かつ具体的に商品の品質を認識できないもの」をいうのが,商標審査基準の解釈であり,商標の実務運用である。本件商標のように,その商品の原材料表示の場合は,直接的かつ具体的に商品の品質を認識できることは当然であるから, 「間接的に表示する商標」の該当性の判断基準である「直接的かつ具体的にその指定商品の品質を認識できるか否か」の点について検討するまでもなく,3号に該当する。 よって,原告の主張は誤りである。 (3) 最終製品との関係における識別機能について ア 原告は,携帯電話機を例にとって,その一部に,酸化インジウム・ガリウム・亜鉛が使用されることを認めた上で,本件商標の指定商品が「液晶ディスプレイ」ではない旨主張する。しかし,原告自ら主張するように, 「電気通信機械器具」には,下位概念の指定商品として,商標法施行規則別表に記載のとおり, 「1 電話機械器具・・・ (中略) ・・・10 電気通信機械器具の部品及び附属品」がある。さらに,「1 電話機械器具」の下位概念として「インターホン,携帯電話機,・・・(略)」がある。したがって, 「携帯電話機」の部品である「液晶ディスプレイ」は,本件商標の指定商品に含まれる。よって,原告の主張は矛盾しており,失当である。 また,原告は, 「モニターや停電時に視認しやすい液晶パネル」を附属させた製品・機械は,本体機器の用途を問わず際限がなく,条件的なつながりさえあれば3号該当と判断されるから,3号該当性判断の基準は無きに等しい旨主張する。しかし, 19商標法では,指定商品・役務を45区分に分類しており(商標法施行令別表),出願人は,区分,指定商品・役務を特定して出願し,商標登録する。本件商標は,第9類の一部の指定商品について,その原材料に該当すると判断されたにすぎず, 「IGZO」 「その商品の原材料」 を として使用する商品が無限に存在するわけではない。 イ 原告は,「体積比率」や,「その商品の部品に使用されているか否か」を原材料に当たるのかの判断要素とするが,そのように判断してよいとする根拠が示されておらず,原告が独自に主張するものにすぎない。そもそも商品に使用される原材料であれば,3号の「その商品の原材料」に該当するのであるから, 「ごく微量」であるか否かを検討する必要はない。 「IGZO」が大事な原材料であるから,多数の出願人により数多くの特許明細書及び特許請求の範囲に記載されているのである。 よって,原告の主張は理由がない。 ウ 原告は,指定商品の最少単位で使用される組成物や素材をもって,「原材料」に当たるとし,間接のそのまた間接的な原材料を使用しているかもしれない指定商品にまで,3号該当性を認定することは不当である旨主張する。しかし,そもそも商品に使用される原材料であれば,3号の「その商品の原材料」に該当するのであり,「指定商品の最少単位」という原告の主張には根拠がない。 また,原告は,元素名・記号等の商標登録例(甲32ないし甲58)が存在することを理由に,本件商標が3号に該当すると判断することは許されない旨主張する。 しかし,原告が挙げる登録例は,行政庁である特許庁が商標登録したか否かの例であり,過誤による商標登録に対する無効審判によって争われた例は一つもない。ある商標が商標登録され,その登録商標に対して無効審判を請求する者がいなかったからといって,本件商標が無効理由に該当しないとする根拠にならない。 したがって,原告の主張には理由がない。 (4) 指定商品の最終消費者の認識について 原告は,本件商標が識別機能を有するか否かの認定につき,審決は,指定商品の最終消費者を全く考慮しておらず,不当であると主張する。 20 しかし,最終製品の一般消費者において広く知られていなかったとしても,ある商標が商品の品質を示すものであることにつき,当該商品のわが国における取引業者にその認識があるとすれば,一般消費者の認識を問題とすることなく,その商標の使用を特定の者に独占させる結果になるような商標権の設定を許すべきではない(同旨,昭和56年5月28日東京高裁判決〔Earl Grey事件〕。 ) さらに,現実に使用されておらず,あるいは,一般には知られていない場合であっても,将来原材料名として使用されて,取引者,需要者の間において商品の原材料名であると認識される可能性がある場合には,3号に該当するというべきである(同旨,平成13年12月26日東京高裁判決〔フラワーセラピー事件〕 平成12年6月13 ,日東京高裁判決〔TOURMALINE SOAP事件〕。したがって,一般消費 )者の認識は,3号該当性の有無の判断に影響を及ぼすものではない。 また,審決は,単に「少なくとも事業者(取引者・需要者)の間」と認定したにすぎず, 「事業者のみを需要者」とは認定していない。審決が認定したとおり,本件指定商品には,事業者間での取引に供される機械器具の部品,あるいは関連商品とはいえ,最終消費者ではない事業者が需要者・取引者となる商品が多々含まれる。 よって,原告の上記主張は誤りである。 3 本件商標権の分割について (1) 原告は,無効審決取消訴訟係属中に原商標権が分割された場合,受訴裁判所は,分割後の各商標権についての審判を行わせるべく,当然に特許庁に対し差し戻す旨の判決をすべきであり,又は,分割後の指定商品毎に処分の違法性の判断をすべきである旨主張する。 しかし,原告の上記主張のように,商標権の分割による審理のやり直しを認めれば,無効審判で負けた商標権者は,当該商標権を分割さえすれば,実質的に特許庁における無効審判を二度,三度と行えることになり,また,分割の回数を増やせば紛争解決を引き延ばすことになるから,原告の主張は不当である。 また,法69条に法46条の2が規定されており,商標登録の無効審判事件にお 21いて,それぞれの指定商品・指定役務ごとに無効審判の効果が発生するとされているため,商標登録を無効にすべき旨の審決が確定したときには,指定商品ごとに商標登録がされているとみなされる。したがって,請求棄却判決が,法令上,特許庁長官が執行し得ない処分を強いるものではないことは明白である。さらに,原告の主張する「変動事実」とは,単に商標権を分けただけのことであって,実質的な中味の変更は伴わない。 (2) 分割後の本件各商標の指定商品について具体的に検討しても,本件商標1,4ないし9のいずれの指定商品についても,原告自身,酸化インジウム, 「 ガリウム,亜鉛」が指定商品に使用されることを認めているのであるから,「酸化インジウム,ガリウム,亜鉛」は, 「その商品の原材料」に該当し,本件商標が法3条1項3号に該当するとの審決の判断に誤りはない。 また,原告は,本件商標2の指定商品については, 「電池」を例に挙げて,審決が理由を記載していない,又はどの点が原材料表示として登録可能性がないかについての具体的な記載がないと主張し, 「電子応用機械器具の部品,配電用又は制御用の機械器具」についても同様である旨主張する。 しかし,そもそも商品に使用される原材料であれば,3号の『その商品の原材料』に該当するのであるから,原告が独自に主張するにすぎない『ごく微量』か否かを検討する必要はない。また,IGZOが重要な原材料であるからこそ,多くの企業の特許明細書の特許請求の範囲に記載されているのである。 審決は, 「モニターや液晶パネルを有した商品がある」, 「事業者間での取引に供される機械器具の部品,或いは関連商品といえ,最終消費者ではない事業者が需要者(取引者を含む。)となる商品が多々含まれるものである」旨の理由を付して,3号の「その商品の原材料」に該当すると判断しており,原告の上記主張は失当である。 4 法4条1項16号及び同項7号該当性について 本件商標は,審決で認定されたとおり,指定商品の原材料を表したものと認識される。したがって,本件商標を,IGZOを原材料とする商品以外の本件商標の指 22定商品に使用すると,その商品の品質を誤認するおそれがある。したがって,本件商標は,法4条1項16号にも違反して登録されたものである。 また,原告は被告の管理する「IGZO」に関する特許権の一ライセンシーにすぎず,自ら「IGZO」を原材料名として使用しており,さらに,本件商標の登録査定時前において,国内外の多くのメーカーにより, 「IGZO」を各種商品に使用し実用化するための研究開発が進められていたことを認めている。それにもかかわらず,商標権として,原告のみが独占排他的にこれを使用するということは,社会の一般的道徳観念に反し,社会公共の利益に反するものである。したがって,本件商標は,法4条1項7号にも違反して登録されたものである。 |
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当裁判所の判断
1 商標権の分割について 前記第2の2(3)のとおり,本件商標権は,本件の審決後に分割されている。この点,原告は,無効審決の審決取消訴訟係属中に商標権が分割された場合,@請求棄却判決は,法令上,特許庁長官が執行し得ない処分を強いること,A審決取消訴訟は特許庁の処分(無効審決)が処分時に違法か否かを審理の対象とするが,処分時以後の事実の変動が当該処分時の処分の違法性の判断に合理的な根拠をもって影響を与える場合は,その変動事実を踏まえて違法性の判断をすべきことを理由として,裁判所は,分割後の各商標権についての審判を行わせるべく,当然に特許庁に対して差し戻す旨の判決をすべきである,又は,この点を踏まえて分割後の個々の商標ごとに無効理由を審理すべきであると主張している(前記第3の3(1))。そこで,まず,この点について判断する。 (1) 商標登録出願は,商標の使用をする一又は二以上の商品又は役務を指定して,商標ごとにしなければならず(法6条1項) 同項の規定により指定した商品又は役 ,務を, 「指定商品」又は「指定役務」という(法4条1項11号かっこ書)。そして,商標登録に係る指定商品又は指定役務が二以上のものについては,指定商品又は指定役務ごとに商標登録の無効審判を請求することができ(法46条1項) 指定商品 , 23又は指定役務ごとに請求された無効審判の審決は,指定商品又は指定役務ごとに確定する(法55条の3ただし書)。また,商標登録を無効にすべき旨の審決が確定したときは,商標権は初めから存在しなかったものとみなされるが(法46条の2第1項本文) 同項の適用については, , 指定商品又は指定役務が二以上の商標登録については,指定商品又は指定役務ごとに商標登録がされ,又は商標権があるものとみなされる(法69条)。なお,商標権の分割は,その指定商品又は指定役務が二以上あるときは,指定商品又は指定役務ごとにすることができ(法24条1項),その時期は,無効審判請求又はその取消訴訟の係属中であっても可能である(同条2項参照)。 これらの規定からすれば,一件の無効審決の対象となっている商標登録に係る指定商品又は指定役務が複数の場合であっても,当該無効審決は,もともと個々の指定商品又は指定役務ごとに効力を有するものと解すべきものであるから,無効審決後,商標権が分割され,個々の指定商品又は指定役務ごとに異なる商標権の登録がされたとしても,当該無効審決の効力は当然に分割後の各商標権に及び,分割が無効審決の効力を左右するものではないと解するのが相当である。なお,審決取消訴訟提起後に商標権が分割され,請求棄却判決により商標登録を無効にすべき旨の審決が確定したとしても,特許庁長官は,分割後の各商標権について審決確定の登録をすれば足りるのであるから(分割後の本件各商標の登録事項にも,それぞれ分割前の本件商標についての無効審判の予告登録が記載されている。甲131ないし139) 分割後に無効審決の審決取消請求訴訟において請求棄却判決をすると, , 特許庁長官に執行し得ない処分を強いることになるとの上記原告の主張@は失当である。 (2) ところで,商標権の分割は,登録によりその効力が生じる(法35条,特許法98条1項1号) したがって, 。 本件訴訟の口頭弁論終結時には分割の登録がされていることにより,すでに本件商標権と同一の権利は存在しないことになる。しかし,前記(1)のとおり,分割は審判対象の実質的な変更をもたらすものではないから,本件訴訟においては,本件商標の登録を無効にすべき旨の審決は,分割後の本件各 24商標に係る登録についてされたものと同視した上で,当該審決を取り消すべき理由があるか否かを判断すべきであり,審決後の分割の事実のみをもって当然に審決を取り消すべき事由に当たるとはいえない。したがって,上記原告の主張Aも,当然に特許庁に対して本件を差し戻すべき理由には当たらず,失当である。 なお,上記原告の主張Aのうち,3号該当性の判断は,分割したそれぞれの指定商品ごとに判断されるべきであるという部分については,そのとおりであるけれども,審決を取り消すべき理由があるかどうかは,以下,3条1項3号該当性についての判断の中で検討する。 2 認定事実 証拠(文中又は段落末尾に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) インジウム・ガリウム・亜鉛酸化物について ア 東京工業大学の細野秀雄教授(以下「細野教授」という。)は,平成7年(1995年) 第16回アモルファス半導体に関する国際会議において, , 透明アモルファス酸化物半導体(TAOS)という新たな物質の設計指針を提唱した(甲2の1,甲9,乙15,弁論の全趣旨)。なお,「半導体」とは,導体と絶縁体との中間の電気伝導率をもつ物質であり(「広辞苑(第6版)) 」,トランジスタや集積回路などに広く利用されている(なお, 「半導体」との語は,一般的には,半導体素子としての機能を発生させるべく一連の製造プロセスを経た半導体のウエハから切り出された半導体チップ自体を指す語として使用されることもある。。 ) また,アモルファス 「 (非晶質)半導体」とは,結晶材料で見られるような構造の周期性がない非晶質材料のうち,半導体的性質を示すものをいう(日刊工業新聞社「半導体用語大辞典(第1版)) 」。 イ 細野教授らは,平成16年(2004年),透明アモルファス酸化物半導体の一種のうち,インジウム(In),ガリウム(Ga),亜鉛(Zn)を構成元素とする酸化物(「酸化インジウム・ガリウム・亜鉛」とも称する。以下「本件酸化物」と 25いう。なお,本件酸化物は,半導体である。 を成膜したTFT ) (Thin Film Transistor/薄膜トランジスタ)を室温で作製することに成功し,同年11月に,これに関する論文を英国科学雑誌「Nature」で発表した。なお, 「トランジスタ」は,電子回路内での電気信号の増幅やスイッチ動作をする半導体素子で,現代の電子デバイスでは必要不可欠なものであり, 「TFT」は,基板上に構成される薄型のトランジスタである。(甲2の1,乙15) 従来,半導体の材料としてはアモルファスシリコン(シリコンからなるアモルファス半導体)が使用されていたが,本件酸化物を用いたTFTは,アモルファスシリコンを用いたTFTに比して,電子移動度が10倍から20倍程度高く,また,低温プロセスでの蒸着が可能であり,可視光に透明であるなどの特性があった(甲2の1,甲19の1・2,乙15)。 TFTは,現代の幅広い電子デバイスにおいて使用されるが,これをディスプレイに使用した場合,TFTの性能はディスプレイの性能を大きく支配する(乙15)。 そして,本件酸化物を使用したTFTは,上記のとおり,従来のTFTに比して電子移動度が高いため,従来よりも大幅な高解像度化が可能であり,さらに低温プロセスでの蒸着が可能であるため,ガラスではなく,プラスチックフィルム上でも容易に作製でき,液晶パネルや有機ELパネルを使用したテレビを大画面にしたり,3D対応にすることが可能となることなどが期待されていた(甲2の2,甲19の1・2,乙15)。 ウ 細野教授の上記イの論文が契機となって,国内外のディスプレイメーカーなどが本件酸化物を用いたTFTの実用化に向けて応用研究を開始し,ディスプレイ分野や半導体分野のエレクトロニクス業界の企業等で活発な開発が行われるようになった(甲2の1・2,甲9ないし19〔枝番含む〕,21の1ないし7,乙15)。 平成22年1月に東京工業大学で開催された「透明アモルファス酸化物半導体国際ワークショップ」には,企業関係者が大半を占める約400名の参加者が出席し,原告のほか,NEC,日立製作所,キヤノン,凸版印刷,大日本印刷,日鉱金属, 26三井金属,豊島製作所等の国内外の企業が,本件酸化物に関する研究内容を紹介した(甲2の2,甲9,乙15)。 また,本件酸化物は,従来の半導体材料にはない多くの特徴を持つ期待の新材料として,ディスプレイ以外にも,太陽電池,電源を切っても情報が消えない不揮発性メモリー,紫外線センサーなど幅広い分野での利用が期待されていた。甲2の2, (甲19の1・2)。 (2) 「IGZO」の語の使用について 細野教授は,平成7年の国際会議において,本件酸化物を指す語として,本件酸化物の構成元素の頭文字(アルファベット)をあいうえお順に並べた略称である,「IGZO」の語を紹介した(甲2の2,甲9,乙15,弁論の全趣旨)。なお,半導体の分野では,他にも,酸化インジウムスズ(スズドープ酸化インジウムとも称する。indium tin oxide)を指す略語として「ITO」を使用するなど,物質を,その構成元素等の頭文字を並べて作られた語により表記する例がある(甲8の1ないし5,7,8,14,17,18,21,25,26,甲21の2ないし4,乙14)。 その後,本件商標の登録査定日である平成23年10月25日までの間の特許公報,新聞,雑誌及び企業の広報等における「IGZO」の語の使用状況は,以下のアないしエのとおりである。 ア 特許公報 (ア) 特許庁に出願された特許(ただし,平成25年6月25日までに特許公報が公開・公表されたもの)に係る特許請求の範囲又は明細書の記載中において, 「IGZO」の語が使用されたのは,平成16年以前の出願については2件だけであったが,平成17年以降の出願については,本件商標の登録査定日である平成23年10月25日までの約7年間で1025件あり,出願人の多くは国内外のエレクトロニクス業界に属する大手企業等であった(甲4)。 上記各特許公報のうち,出願が古い順から100件の特許公報を調査した結果に 27よれば,「IGZO」の語は,ほとんどが「In-Ga-Zn-O」「InGaZnO」「InGaZnOx」 , ,との表記や具体的な元素の組成と併記して記載がされていたが,単独で「IGZO」の語のみが記載されている例も6件あった(甲146,弁論の全趣旨)。 (イ) また,平成8年以降,本件商標の登録査定日までの間に公開・公表された特許公報の本文全文の記載中において, 「IGZO」の語が使用されていたものは446件であり,出願人は,富士フィルム株式会社(109件),株式会社半導体エネルギー研究所(78件),キヤノン株式会社(33件),ソニー株式会社(24件),エルジーイノテックカンパニーリミテッド(20件),出光興産株式会社(18件),コニカミノルタ株式会社(15件),三菱電機株式会社(14件),パナソニック株式会社(12件),セイコーエプソン株式会社(10件),凸版印刷株式会社(9件)など計53社の企業等であった(甲7の1・2)。 上記各特許公報には,「IGZO」の語は,「IGZO薄膜」「インジウムガリウ ,ム亜鉛酸化物(IGZO), 」「インジウム-ガリウム-亜鉛酸化物(IGZO), 」「IGZO(インジウム,ガリウム,Zn,酸素), 」「IGZO(In-Ga-Zn-O系複合酸化物), 」「In,Ga,及びZnの酸化物(IGZO), 」「IGZO(InGaZnO), 」「IGZO(InGa-ZnO), 」「In-Ga-Zn-O(IGZO), 」「IGZO(indium gallium zinc oxide), 」「酸化物半導体(ZuO,IGZO,IZO,ZTOなど)が挙げられる。, 」「IGZOはよく知られているようにアモルファス酸化物半導体であり,In(インジウム)-Ga(ガリウム)-Zn(亜鉛)-O(酸素)の組成で構成された半導体である。」等と記載されていた。 なお,原告が,本件商標の登録査定日よりも前に出願した特許に係る特許請求の範囲又は明細書中においても,本件酸化物を指す語として「IGZO」が使用されており(乙20ないし26,29),その一部では, 「IGZO」の語のみが単独で,「前記酸化物半導体は,IGZOである」 (乙24)「前記酸化物半導体層は,IG ,ZOから形成されている」(乙26)「上記酸化物半導体膜がIGZO膜からなる」 , 28(乙29)と記載されていた。 イ 新聞 平成22年2月から本件商標の登録査定日前までの約1年6か月の間に,以下のとおり,日本経済新聞,日経産業新聞及び朝日新聞の合計10件の記事中において,「IGZO」の語が使用された。 (ア) 平成22年(2010年)2月3日付けの日経産業新聞(甲2の2)には,「日本発の新型酸化物半導体」との見出しの下,平成22年1月に東京工業大学で開催された「透明アモルファス酸化物半導体国際ワークショップ(TAOS2010)」について,「発表内容の中心となったのが細野教授が1995年に国際会議で初めて紹介した『酸化インジウム・ガリウム・亜鉛(IGZO)』と呼ぶ新型酸化物半導体」との記載, 「TFTの高速化」との見出しの下「サムソン電子の研究者がフルハイビジョン(1920×1080画素)以上の高精細画面でIGZOが必要な理由を説明した。」との記載, 「太陽電池にも」の見出しの下, 「サムソン電子LCD事業部の前副社長・・・は講演で『IGZOはディスプレー以外に太陽電池や電源を切っても情報が消えない不揮発性メモリー,紫外線センサーなど幅広い分野で使える』と話した。」との記載がある。 (イ) 平成22年(2010年)3月27日付けの日本経済新聞(甲10)には,「日本発,液晶パネルの新材料-富士フイルム,研究で先行(技術ウオッチ)終」の見出しの下, 「薄型テレビなどに使う液晶パネルの新材料,酸化インジウム・ガリウム・亜鉛(IGZO)の研究開発が熱を帯びてきた。」との記載,「先頭を走るのは富士フィルムだ。今月,東海大学(神奈川県平塚市)で開いた酸化物半導体関連の学会の発表会では,11件中5件が同社の成果。IGZOにかける意気込みを示した」との記載,「日鉱金属はIGZO薄膜の製法改善に力を入れている。・・・大画面液晶テレビの製造に対応できる長さ2・65メートルの板状の巨大材料も作った。三井金属も同様のIGZO材料の開発を急ぐ。」との記載,『IGZO薄膜はシ 「リコン薄膜より低温・低真空で作れ,製造コストも下げられる可能性がある』と日 29鉱金属の熊原主任技師は期待する。IGZOはもともと東工大の研究者が生み出した。家電やゲーム機のメーカーが相次ぎ3D対応の製品拡充に動くなか,日本発の技術を次世代ディスプレーの国際標準にしようと材料メーカーの挑戦が続く。との 」記載がある。 (ウ) 平成22年(2010年)5月28日付けの日本経済新聞電子版セクション(甲9)には, 「日本発の最先端材料,先に韓国企業が使うジレンマ」との見出しの下,発表内容の中心は東工大の細野秀雄教授が1995年に国際会議で紹介した 「世界初のTAOSである酸化インジウム・ガリウム・亜鉛(IGZO)だった。IGZOは現在の液晶用TFTに使うアモルファスシリコンに比べて電子の動きの指標である電子移動度が1ケタ大きい。液晶テレビをさらに大画面にしたり臨場感を高めたり,本格的な3Dテレビを実現できる。 ・・・サムスン電子は07年のSIDではIGZO-TFTを使った大型ディスプレーを紹介した。」との記載がある。 (エ) 平成22年(2010年)10月19日付けの日経産業新聞(甲14)には,「半導体・液晶材料に注力」との見出しの下, 「半導体製造装置大手のアルバックが電子部品や液晶パネルに使うマテリアル事業の拡大に乗り出している。 ・・・超材料研究所が担うのは新材料の開発だ。取り扱うのは透明電極に使用する酸化インジウムすず(ITO)や酸化インジウム・ガリウム・亜鉛(IGZO)などの液晶パネル向けのターゲット材から,アルミやモリブデン,タンタルなどの金属材料まで幅広い。」との記載がある。 (オ) 平成22年(2010年)11月9日付けの日本経済新聞電子版セクション(甲11)には, 「サムスンが酸化物半導体TFTの70型液晶,240Hzで4K×2K対応」との見出しの下, 「酸化物半導体TFTは,超高精細の液晶パネルや大型有機ELパネルなどに向け開発が進む駆動素子の一つ。最も有望視されているアモルファス酸化物半導体材料は,IGZO(In―Ga―Zn―O)である。」との記載がある。 (カ) 平成23年(2010年)12月6日付けの日経産業新聞(甲15)には, 30「様々な基板に電源回路形成/富士通研が新技術」との見出しの下, 「富士通研究所は様々な基板に電源回路に使うパワー半導体を作製できる技術を開発した。酸化インジウム・ガリウム・亜鉛(IGZO)を使い特殊な膜でコーティングすることで高電圧に耐えられるようにした。 ・・・IGZOで作製した回路の上にポリマーで膜を作ることで耐圧性能を向上した。」との記載がある。 (キ) 平成23年(2011年)3月1日付けの日本経済新聞電子版MOLニュース(甲12)には, 「新製品・技術◇日立,ICタグ生産コスト10分の1 携帯端末の電池不要に」との見出しの下, 「日立製作所は電子荷札(ICタグ)などに使うRFID(無線自動識別)チップを安価に作製する技術を開発した。チップに利用する半導体に作製の温度を大幅に下げられる酸化物半導体の薄膜トランジスタ(TFT)を使い,生産コストを従来の10分の1以下にできる。電池を使わない小型の電子ペーパーなど携帯端末に利用を見込む。開発したチップは,東京工業大学の細野秀雄教授らが発見した透明な半導体の酸化インジウム・ガリウム・亜鉛(IGZO)を使う。チップは受信した電波を直流電圧に変換する電源回路と信号処理する論理回路,処理したデータを外部に送る送信回路で構成する。」との記載,「IGZOは液晶テレビ向けTFTにも使え,すでに韓国のサムスン電子などが開発し製品の発売も近いとされる。日立はRFIDチップに利用して液晶などと組み合わせれば,無線で電力を供給する電子ペーパーなどに実現できると期待する。 との記載 」がある。 また,平成23年(2011年)3月2日付けの日経産業新聞(甲16)にも,同様の記載がある。 (ク) 平成23年(2011年)4月22日付けの朝日新聞(甲17)には, 「中小型パネルに生産移行 シャープ,スマホ需要に照準【大阪】 との見出しの下, 」 「シャープは21日,スマートフォンなどに使う中小型液晶パネルの材料として酸化物半導体(IGZO)を世界で初めて実用化すると発表した。 ・・・IGZOは,一般的な材料のアモルファスシリコンに比べ,画素を細かくしたり電力消費を抑えたり 31することができる。」との記載がある。 (ケ) 平成23年(2011年)5月20日付けの日本経済新聞電子版セクション(甲13)には,「ムラを抑えて高画質化,ソニーが新方式の有機ELパネル開発」との見出しの下,ソニーは輝度ムラを低減して高画質化した有機ELパネルを開発, 「ディスプレイ関連で世界最大の学会『49th SID International Symposium,Seminar&Exhibition(Display Week 2011)(SID 』 2011)で発表した。」との記載,「ソニーは・・新たな製造プロセス技術を開発した。大きく次の4つの工程から成る。 (1)ガラス基板上に酸化物半導体IGZO,ゲート絶縁膜,ゲート電極を成膜後ドライ・エッチング法でパターン加工する。」との記載がある。 ウ 雑誌 (ア) 平成20年(2008年)5月5日発行の雑誌「NIKKEI ELECTRONICS」(甲19の1)には,「酸化物TFTでディスプレイ開発/有機ELテレビの有力候補に」と題する韓国サムソングループのJang Yeon Kwon氏の論文が掲載され, 「主成分がインジウム(In) ガリウム , (Ga) 亜鉛 , (Zn),酸素(O)から成るアモルファス酸化物半導体(IGZO)を用いて作製したTFT(IGZO TFT)をアクティブ・マトリクス型のディスプレイに適用し,各種の特性を調べた。 ・・・我々が開発中の,IGZO TFTを用いた有機ELパネルについても紹介する。」との記載,「新しいTFT技術であるIGZO TFTは特性バラつきが小さく電流の経時変化も小さい。大面積に適用可能であることから,有機ELパネル向けTFT技術の有力候補になり得る」との記載がある。 (イ) 雑誌「NIKKEI MICRODEVICES」の平成21年(2009年)4月号(甲19の2)には, 「酸化物半導体TFTを見極める/基礎技術は確立,応用開拓が実用化のカギ」と題する討論に関する記事において,『高移動度』『高 「 ,信頼性』『透明性』『低温成膜』-。FPDを駆動するTFTの材料として,現在 , ,のアモルファスSiにはない多くの特徴を持つ材料がInGaZnO(IGZO) 32など酸化物半導体だ。誰もが高い潜在能力を認める,期待の新材料である。」との記載,凸版印刷が現在酸化物半導体を応用して,さまざまな特徴を備えた電子ペーパーを開発していることを紹介する内容として,凸版印刷が開発したアモルファスI 「GZOの透明性を利用した電子ペーパー」と題する図が掲載されている。 エ 企業の広報等 (ア) JX日鉱日石金属株式会社の「サステナビリティリポート2010」(甲21の1)には,日鉱金属株式会社の平成21年(2009年)度の活動内容として「『FPD international 2009』に,・・・IGZOターゲットを展示(10月)」との記載があり,また,「同リポート2011」(甲21の2)には,用語集に「IGZO」が挙げられ,その説明として, 「インジウム・ガリウム・亜鉛・酸化物(Indium Gallium Zinc Oxide)。FPDなどに使われる透明導電材料の一種」との記載がある。なお, 「ターゲット」とは,半導体の薄膜をウエハ上に成膜させるために使用する,付着させようとする半導体材料(本件酸化物)の金属塊である。 (イ) JX日鉱日石金属株式会社のウェブサイト(甲21の4)には,「CSR活動トピックス」として,『FPD 「 international 2011』に出展【JX日鉱日石金属】(2011/10/26〜28)との見出しの下, 」 「本展示会には,次世代のスーパーハイビジョン液晶テレビやプラズマディスプレイパネル,タッチパネル,有機ELパネルなど各種パネルディスプレイをはじめとして,検査装置,部材,設計支援,応用製品などのディスプレイ関連業界の各社274社が参加しました。今回当社は, ・・・酸化物半導体としての使用がパネル各社で検討されている『IGZOターゲット』 ・・・なども併せて紹介し,高い技術力をアピールしました。」との記載がある。 (ウ) 株式会社アルバックの平成23年(2011年)8月15日付けの「決算説明会(2011年6月期)」と題する資料(乙14)には,「重点施策の進捗状況(2011/6期) (1)」との見出しの下,マテリアル事業の状況として, 「IGZ 33Oターゲット製造設備設置」との記載, 「不採算事業の再構築」との見出しの下,マテリアル事業の今後の事業展開として,IGZO等酸化物ターゲットの一体型大型 「ターゲットで差別化を図る」との記載, 「真空応用事業(その他の事業)の推移・予想」との見出しの下, 「足元の受注環境 FPD業界向けでIGZO(透明酸化物半導体)ターゲットなど新規材料ビジネスの引き合い強まる。」との記載がある。 (3) 原告は,本件商標登録後の平成24年(2012年)11月頃から「IGZOディスプレイ」を搭載した,と表記したスマートフォン及びタブレット製品の宣伝広告を行うようになり(甲116の1ないし117),これらの商品は,同月頃から「GetNavi」, 「デジモノステーション」, 「DIME」, 「モバイルアスキー」,「週刊アスキー」といった雑誌やインターネットで紹介され(甲102ないし115)「次世代ディスプレイ『IGZO』を搭載」 「省電力技術が用いられたIGZ , ,Oディスプレイを搭載」などと記載された。 なお,原告は,本件商標の登録査定日後の平成24年(2012年)5月29日付けニュースリリース(甲6)においても, 「シャープは,科学技術振興機構(・・以下JST)と,酸化物半導体(IGZO)を用いた薄膜トランジスタに関する特許のライセンス契約を,本年1月20日に締結しました。当社がIGZOを採用した液晶パネルの本格的な生産に移行したことから,このたびJSTとの合意に基づき,本件についてお知らせいたします。 と公表し, 」 同ニュースリリース中において,「IGZO」についての注書きとして, 「In(インジウム),Ga(ガリウム),Zn(亜鉛)から構成される酸化物」と記載し,本件酸化物を表す語として「IGZO」を使用していた。 3 商標法3条1項3号該当性について (1) 商標法3条1項3号は,自己の業務に係る商品について使用をする商標について, 「その商品の産地,販売地,品質,原材料・・を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は,商標登録を受けることができないと定めている。 同号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは,このような商標は, 34@商品の産地,販売地その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,A一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである(最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁〔ワイキキ事件〕参照)。 また,上記3号の趣旨からすれば,商標登録出願に係る商標が3条1項3号にいう「商品の原材料を普通に用いられる方法で表示する商標」に該当するというためには,必ずしも当該指定商品が当該商標の表示する材料を現実に原材料としていることを要せず,需要者又は取引者によって,当該指定商品が当該商標の表示する材料を原材料としているであろうと一般に認識され得ることをもって足りるというべきである(3号にいう「商品の産地又は販売地を普通に用いられる方法で表示する商標」につき同旨,最高裁昭和61年1月23日第一小法廷判決・裁判集民事147号7頁〔ジョージア事件〕参照)。 (2) そこで,本件各商標の3条1項3号該当性について検討する。 ア 本件商標は, 「IGZO」を標準文字で表してなるものである。そして,上記2の認定事実によれば,@「IGZO」の語は,平成7年に,新規な物質として公表された「In(インジウム),Ga(ガリウム),Zn(亜鉛)及びO(酸素)からなる酸化物」(本件酸化物)を指す語として紹介され,使用されるようになったこと,A平成16年頃からは,本件酸化物についての研究,開発がディスプレイ分野や半導体分野のエレクトロニクス業界の企業等で活発に行われるようになり,平成22年1月に東京工業大学で開催された国際ワークショップには,国内の多数の企業関係者が出席し,本件酸化物(半導体)に関する研究内容を紹介したこと,B本件商標の登録査定時には,既に,多数の大手企業が,本件酸化物に関する研究開発を実施し,1000件以上の本件酸化物に関する特許出願をしていたのみならず,本件酸化物(材料)自体の製造や,本件酸化物を用いた半導体素子を製造する設備 35の展示会等での展示や受注,本件酸化物を使用した技術の開発,実用化に向けた試作等を行っていたものであり,ディスプレイ分野や半導体分野のエレクトロニクス業界に属する企業等において,半導体材料としての本件酸化物への関心が高まっていたこと,C具体的には,本件酸化物を使用したTFTは,当時,液晶テレビ,スマートフォン等の製造に使用される液晶パネルや有機ELパネルの機能を大幅に向上させることが可能なものとして注目されるとともに,多くの新しい特徴を持つ期待の新材料として,ディスプレイの分野だけではなく,太陽電池,不揮発性メモリー,紫外線センサーの分野での利用も見込まれていたほか,電子荷札(ICタグ)に使用するRFID(無線自動識別)チップ,パワー半導体,小型の電子ペーパーなどの携帯端末における利用の技術開発も進んでおり,本件酸化物を用いた半導体素子の応用開発,研究がされ,今後幅広い範囲の電子デバイスの性能を向上させ得るものとして期待されていたこと,Dこのような本件酸化物の研究開発の進展,広がりに伴って,本件酸化物を指す語としての「IGZO」の語も,本件商標の登録査定時には,既に上記のとおり幅広い企業の特許出願書類中において使用されるようになっていたのみならず,上記企業による製品の開発状況等を報道する新聞,雑誌や企業広報等においても,本件酸化物を指す語として「IGZO」の語が使用されるようになっていたことが認められる。 以上によれば「IGZO」の語は,本件商標の登録査定時には,技術者だけではなく,ディスプレイや半導体を用いる分野のエレクトロニクス業界に属する企業等の事業者において,新規な半導体材料である「インジウム・ガリウム・亜鉛酸化物(本件酸化物)」を意味する語として,広く認識されていたものといえる。 イ そして,本件商標(IGZO)が,その指定商品である「液晶テレビジョン受信機」(本件商標4),「ノートブック型コンピュータ」 (本件商標5)「ノート ,ブック型コンピュータ,タブレット型携帯情報端末を除くコンピュータ」 (本件商標6)「タブレット型携帯情報端末」(本件商標7),「スマートフォン」 , (本件商標8) 「携帯電話機」 , (本件商標9)について用いられた場合,これらの指定商品は, 36いずれもその構成部品の一つとしてディスプレイパネルを含むのが通常であり,また,ディスプレイパネルの性能が商品の品質に重要な影響を及ぼすものであるから,これらの指定商品に係る商品を製造,販売する企業等,すなわち,これらの指定商品の取引者であり,また,需要者の一部にも含まれる者である事業者は,本件商標の表示する本件酸化物が,各指定商品のディスプレイパネルに使用されているものと一般に認識するものといえる。したがって,本件商標4ないし9は,取引者及び需要者が,本件商標4ないし9の指定商品が,商標の表示するもの(本件酸化物)を原材料の一つとしているであろうと一般に認識するものであるから,指定商品との関係で自他商品識別力を有するということができない。 また,本件商標1の指定商品は, 「@携帯電話機,スマートフォン,タブレット型携帯情報端末,液晶テレビジョン受信機を除く電気通信機械器具及びAタブレット型携帯情報端末,コンピュータ,ノートブック型コンピュータを除く電子応用機械器具」,本件商標2の指定商品は, 「@電子応用機械器具の部品,A電池,B配電用又は制御用の機械器具」であるところ,これらの指定商品に係る商品には広範囲の機械器具やその部品が含まれ得る。例えば,本件商標1の指定商品のうち,上記@の電気通信機械器具に係る商品には,電気通信機械器具の部品であるディスプレイパネル自体が含まれるほか,ディスプレイパネルがその構成部品の一つとして通常含まれるデジタルカメラやビデオカメラ,半導体素子がその構成部品の一つとして通常含まれる無線通信機械器具等も含まれ,上記Aの「電子応用機械器具」に係る商品には,電子計算機用ディスプレイ装置が含まれるほか,半導体素子がその構成部品の一つとして通常含まれる電子式卓上計算機,電子辞書等も含まれる。また,本件商標2の指定商品のうち,上記@の「電子応用機械器具の部品」に係る商品には,トランジスタを含む半導体素子や電子回路自体が含まれ,上記Aの「電池」に係る商品には,ディスプレイパネルを構成部品の一部とすることがある蓄電池が含まれ,上記Bの「配電用又は制御用の機械器具」には,ディスプレイパネルや制御のための半導体素子がその構成部品の一部として通常含まれる配電盤が含まれる。 37さらに,前記認定事実のとおり,本件商標の登録査定時において,本件酸化物が,現代の多くの電子デバイスにおいては必要不可欠な構成部品である半導体素子の新規な材料で,かつ,その性能が従来の材料にはないものとして,ディスプレイに限らず,今後幅広い範囲の電子デバイスの性能を向上させ得るものとして期待され,注目されていたこと,本件酸化物を用いた半導体素子はその用途が研究開発中の新規なものであり,エレクトロニクス業界に属する事業者にとっても具体的な電子デバイスへの適用の仕方は特定されていなかったことからすれば,本件商標を,本件商標1及び2の指定商品の器具等について使用すれば,これらの指定商品に係る商品を製造,販売する企業等,すなわち,これらの指定商品の取引者であり,需要者の一部にも含まれる者(なお,本件商標2の指定商品のうち, 「配電用又は制御用の機械器具」の主たる需要者は,一般消費者ではなく,事業者であることは原告も自認しており,その余の同商標の指定商品及び本件商標1の指定商品に係る商品にも,事業者が主たる需要者となることが明らかな商品が多数含まれている。である事業 )者によって,当該商品が本件商標の表示する材料(本件酸化物)をその原材料として含んでいるのであろうと一般に認識され得るものといえる。そうすると,本件商標1及び2も,それらの指定商品との関係で自他商品識別力を有するということはできない。 ウ さらに,前記のとおり,本件酸化物が,現代の電子デバイスにおいては必要不可欠な構成部品である半導体素子の新規な材料であり,かつ,その性能が,ディスプレイパネルを代表とする幅広い範囲の電子デバイスの性能を向上させ得るものとして期待,注目されており,ディスプレイ分野や半導体分野に関連するエレクトロニクス業界の幅広い企業等において実用化に向けた研究開発がされていたことからすれば,本件商標は,ディスプレイパネルや半導体素子が原材料として認識され得る本件各商標の指定商品に係る商品の取引に際して,必要適切な表示として,何人もその使用を欲するものであるといえるから,特定人によるその独占使用を認めることが公益上適当であるともいえない。 38 エ したがって,本件各商標は,法3条1項3号が規定する「商品の原材料を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するから,審決の判断は相当であり,原告の主張する取消事由には理由がない。 (3) 原告の主張について ア 原告の主張2(1)(指定商品との関係における本件商標の一般的な使用態様)について (ア) 原告は,3号の「普通に用いられる方法」の要件について,商標の外観が標準文字で表わされていても,需要者の認識等も勘案して,取引の経験則からみて商標の外観・称呼・観念が,当該商標を商標とみられるような方法で表している場合は, 「普通に用いられる方法」とはいえないというべきであると主張し,本件商標が「普通に用いられる方法」での表示に当たらない理由として,@「IGZO」は,本件酸化物の略称にすぎず,研究者等によっても本件酸化物の略称としては他にも多種多様な表記がなされており, 「IGZO」は略称としても一般的とはいえないこと,A本件酸化物の略称としての「IGZO」の称呼は「アイ・ジー・ゼット・オー」なのに対し,本件商標は「イグゾー」であること,B特許公報中に「IGZO」の語が使用されているとしても(甲7,8),研究者等の当業者の認識を示すものにすぎないし,いかなる文脈で,いかなる表現により「IGZO」の文字列が出現したのかは明らかではなく,原告がそのうち100件をサンプル調査した結果,そのほとんどは,他の表記や具体的な組成と併記して「IGZO」と記載しているから,当業者においてすら「IGZO」のみで直ちに本件酸化物を意味するとは認識されていなかったこと,C本件商標の指定商品の主たる需要者は一般消費者であり,一般消費者においては,本件商標の登録査定当時,本件酸化物も,その略称の一種である「IGZO」も,認知されておらず,登録査定後には原告のブランドを示すものとして認識されていること,を主張する。 しかし,上記原告の主張@については,確かに「IGZO」の語は,本件酸化物の正式な元素記号や元素表記ではなく,その略称であるものの,これが本件酸化物 39を指す語としてディスプレイ分野や半導体分野のエレクトロニクス業界では一般的に認識され,使用されていたことは前記(2)アの認定のとおりであるから,「IGZO」が一般的な略称ではないとの原告の主張は採用できず,また,略称であることのみをもって「普通に用いられる方法」に当たらないということもできない。上記原告の主張Aについては,仮に本件酸化物を指す語が「アイ・ジー・ゼット・オー」としか称呼されていなかったとしても,本件商標は本件酸化物を指す語と同一の表示のみからなる「IGZO」であり,その称呼を特定する表記も併記されていないのであるから,本件商標からは「イグゾー」だけではなく, 「アイ・ジー・ゼット・オー」との称呼も生じるものであり(なお,原告による具体的な製品への「IGZO」の語の使用は前記認定事実2(3)のとおりであり,本件商標登録査定の時点で,指定商品に係る商品に実際に「IGZO」の表示が使用され,イグゾーと称呼されていたという取引の実情も認められない。,原告の主張はその前提を欠き,採用す )ることができない。 また,上記原告の主張Bについては,原告がサンプル調査をした結果によっても,特許公報中において「IGZO」が本件酸化物を指す語以外の用途で使用されていたとは認められないのであるから(甲146),前記2(2)アの認定にかかる特許公報中に記載された「IGZO」の語は,少なくともその大部分が本件酸化物を指す語として使用されていたと推認するのが合理的であり,これに反する証拠はない。 特許公報中においては, IGZO」が,その正式な元素の名称の列挙や, 「「In-Ga-Zn-O」「InGaZnO」「InGaZnOx」等の他の表記と併記されている例が多数み , ,られるが,これら他の表記も,表記の方法が多少異なるだけで,いずれも同じ物質を指すことは明らかであるし,同一の物質の正式な元素名称や元素記号と併記されているからといって,このことは, 「IGZO」が本件酸化物を指す一般的な略語として,これらの出願人を含むエレクトロニクス業界の企業に認識されていたという上記認定事実を左右するものとはいえない。 さらに,上記原告の主張Cについては,確かに,本件商標の指定商品の需要者に 40は一般消費者が含まれ,特に分割後の本件商標4ないし9の各指定商品の主たる需要者は一般消費者であると考えられる。そして,本件商標の登録査定時に,一般消費者に,本件酸化物自体や,それを指す語としての「IGZO」の語が,広く認識されていたとは認められない。しかし,商標とは,取引に際して使用されるものであって,前記のとおり3条1項3号の趣旨が,取引における独占適応性及び自他商品識別力の欠如を理由とすることからすれば,商標が自他商品識別力を有するというためには,需要者だけではなく,取引者間においても自他商品識別力を有することが必要であると解すべきであり,また,競業者を含む取引業者一般に,当該商品の原材料を表示しているものと認識され得る商標を,特定の取引業者に独占させることが公益上相当であるとはいえない。したがって,本件商標の登録査定時における本件各商標の指定商品の分野における取引者(製造,販売業者)の認識が前記(2)ア認定のとおりのものであり,本件商標は,これらの取引者の間では本件酸化物を指す一般的な語として認識されている語である「IGZO」を標準文字で表すものである以上,主たる需要者の認識を根拠として,本件商標が「普通に用いられる方法」の表示に当たらない,ということはできない。 したがって,本件商標が「普通に用いられる方法」での表示に当たらないとの原告の主張は,採用することができない。 (イ) なお,原告は,審決は,本件商標の指定商品への一般的に予定される使用の態様を踏まえた認定をしていないと主張する。しかし,原告の主張する一般的な使用の態様がどのようなものを意味するのか明らかでなく,これを踏まえていないことによって具体的にどのように認定を誤ったというのかも明らかではないから,原告の主張は理由がなく,審決の認定が誤っているとは認められない。 (ウ) したがって,原告の主張2(1)は,いずれも理由がなく,採用することができない。 イ 原告の主張2(2)(3号に規定する「原材料」の意義)について 原告は,@3号の「原材料」とは,製品の主要又は相当部分の基本的な材料とな 41っている場合を指称するものと解すべきであるが,本件酸化物は,指定商品の一部の使用部材のうちのごく一部の部位に利用されるものにすぎない,また,A3号の趣旨及び文理並びにワイキキ事件最高裁判決の趣旨や,特許庁の審査基準でも品質等の間接的,暗示的な表示であれば登録可能性があるとされていることからすれば,3号の「原材料」とは,当該指定商品の原材料として使用されている要素というだけではなく,当該表示に接した需要者において,直接的に指定商品を想起できることを要するというべきであると主張する。 (ア) 確かに,3号の趣旨が,前記のとおり独占適応性及び自他商品識別力を欠く商標の登録を禁止することにあることからすれば,客観的に当該指定商品の原材料に含まれ得るというだけで,ごく僅かの量又はごく例外的に使用される場合であっても,取引者又は需要者の認識に関わらず,すべて常に3号の「原材料」に含まれると解することは相当ではない。しかし,上記の趣旨からすれば,ある材料が,商品の原材料全体のうちごく僅かの量しか含まれていない場合や,複数の部品から構成される商品の一部の部品の原材料としてのみ使用される場合であっても,当該材料が,当該指定商品の品質,性能等の特性に相当程度の影響を与えるものである場合など,原材料として表示することが取引者又は需要者にとって商品の取引上の意義がある場合には,商標に接した取引者又は需要者によって当該指定商品が当該商標の表示する材料を原材料としているであろうと一般に認識されると考えるのが合理的であるから,そのようなものについては,3条1項3号にいう「原材料」に該当すると解するのが相当である。 したがって,3号の「原材料」とは,製品の主要又は相当部分の基本的な材料となっている場合を指称するものと解すべきである,との原告の上記主張@は理由がなく,採用することができない。 また,3号の「原材料」該当性の判断においては,指定商品に係る商品について使用された商標を見た取引者又は需要者が,当該商標を,当該商品の原材料を表示するものと認識するかどうかが問題となるべきであって,当該商標のみから,直接 42的に指定商品自体を想起できることを要するとは解されないから,3号の趣旨及び前記最高裁判決についての異なる理解を下に,これに反する内容を主張する上記原告の主張Aも理由がなく,採用することができない。 (イ) そして,前記認定のとおり,本件商標「IGZO」は,ディスプレイ分野や半導体分野のエレクトロニクス業界における利用が期待されていた新規な物質であり,幅広い範囲の電子デバイスの性能を向上させ得る本件酸化物を指す語として,本件各商標の指定商品の取引者であり,需要者の一部にも含まれる事業者に認識されていたのであるから,本件酸化物が指定商品に係る商品に使用され得る量にかかわらず,これらの取引者及び需要者は,本件商標は,当該商品に係る重要な原材料を表示しているものと一般に認識するものと認めるのが相当である。 (ウ) したがって,原告の主張2(2)は,採用することができない。 ウ 原告の主張2(3)(最終製品との関係における識別機能)について 原告は,@本件商標の分割前の指定商品は,液晶ディスプレイそのものではなく,液晶ディスプレイを部材の一部とする(可能性のある)製品であり,ごく一部の部品における限られた工程中での最小単位となる酸化物又は酸化物半導体の略称の表示は,3号の「原材料」表示には当たらない,A指定商品において生産に使用され得る物質は,およそ「原材料」に当たると考え,当該「原材料」の需要者層を限定した上で,その認識を認定するのであれば,いかなる指定商品においても元素名・記号等を登録商標とすることは許されないことになるが,このような結論は,多数の他の登録例に反すると主張する。 しかし,上記@の主張が採用できないことは前記イ(ア)のとおりである。また,他の登録例があることは本件における判断を拘束するものではないし,本件については,前記イ(ア)のとおり,指定商品において生産に使用され得る物質であれば,すべて3号に該当するとの解釈をとるものではないから,上記Aの主張も前記判断を左右するものではない。 したがって,原告の主張2(3)も採用することができない。 43 エ 原告の主張2(4)(指定商品の最終消費者の認識)について (ア) 原告は,@審決が,本件商標が識別機能を有するか否かの認定につき,指定商品の最終消費者である一般消費者の認識を全く考慮していない点で不当である,A他の知財高裁の裁判例によれば,指定商品の性質に従い,需要者たる一般消費者の認識を基準とすべきであり,需要者たる一般消費者が普段接することのない専門的な文献は,一般的に当該用語が認識されていることの根拠になり得ない,B本件商標の各指定商品の主たる需要者は一般消費者であり,その認識を基準とすれば本件商標は一定の商品を指称する商標と認識されるし,実際に,本件商標は原告のブランドと認識されるものであるなどと主張する。 しかし,前記ア(ア)判示のとおり,本件各商標が自他商品識別力を有するというためには,需要者だけではなく,取引者間においても自他商品識別力を有するということが必要であると解すべきであるし,また,競業者を含む取引業者に,当該商品の原材料を表示しているものと一般に認識される商標を,特定の取引業者に独占させることは公益上相当であるとはいえない。したがって,審決が,指定商品の最終消費者である一般消費者の認識にかかわらず,本件商標の識別機能を否定したことが不当とはいえず,上記主張@は理由がない。 また,原告が上記Aの主張において挙げる裁判例は,本件とは事案を異にするというべきであり,上記判断を左右しない。 そして,上記のとおりの判断を前提とする以上,本件各商標の指定商品の主たる需要者が一般消費者であり,その認識を基準とすれば本件各商標は自他商品識別力を有するということも,前記判断を左右しないから,上記主張Bも理由がない。 なお,上記のほか,原告は,審決が, 「事業者」につき何ら理由を付すことなく判断しており不当であるなどと主張する。しかし,審決は「液晶ディスプレイや半導体の分野のエレクトロニクス業界」における「IGZO」の認識について判断しており,指定商品のうち審決が挙げた商品の取引を行う「事業者」が,当該エレクトロニクス業界に属することを前提とした判断をしていることは明らかであるから, 44原告の主張は理由がない。その余の原告の主張も,審決を取り消すべき理由に当たらない。 (イ) 以上によれば,原告の主張2(4)を採用することもできない。 オ 原告の主張3(本件商標権の分割について) 原告は,商標登録を無効にする審決後に商標権が分割された場合には,分割後の指定商品ごとに無効理由を判断し,処分の違法性を判断すべきであり,分割後の本件各商標の指定商品ごとに原材料との関係をみると,本件酸化物は本件商標4ないし8の指定商品にはごく微量に使用されているにすぎず,本件商標2の指定商品については,本件商標が原材料を表示する標章に該当する理由が不明であり,本件商標1の指定商品についても構成部位の一部に液晶ディスプレイの表示部分があることをもって原材料表示というのは3号該当性の判断としては飛躍していると主張する。 しかし,分割後の本件各商標の指定商品ごとに無効理由を判断したとしても,本件各商標が3号に該当すると認められることは前記(2)イのとおりであるから,原告の上記主張は採用することができない。その余の原告の主張も,審決を取り消すべき理由には当たらない。 4 結論 以上のとおり,原告の主張する取消事由には理由がなく,審決にはこれを取り消すべき違法はない。よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
45裁判官大寄麻代裁判官平田晃史46(別表)登録番号指定商品の記載電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気通信機械器具,電子応のの1の1用機械器具及びその部品,電1携帯電話機,スマートフォ池,電線及びケーブル,配電用ン,タブレット型携帯情報端又は制御用の機械器具末,液晶テレビジョン受信但し,携帯電話機,スマートフォ機を除く電気通信機械器ン,タブレット型携帯情報端末,具コンピュータを除く但し,ノートブック型コンピュータブレット型携帯情報端タ,液晶テレビジョン受信機を除末,コンピュータ,ノートブッくク型コンピュータを除く電子但し,電気アイロン,電気式ヘア応用機械器具カーラー,電子応用機械器具の部品,電池,電線及びケーブル,配電用又は制御用の機械商標登録器具を除く第5451821電気アイロン,電気式ヘアカーラ号のー,電子応用機械器具の部品,の1電子応用機械器具の部2電池,電線及びケーブル,配電第9類電品,電池,配電用又は制御用又は制御用の機械器具気アイロン,用の機械器具但し,電気アイロン,電気式ヘア電気式ヘアカーラー,電線及びケーブルをカーラー,除く電気通信機電気アイロン,電気式ヘア械器具,電電気アイロン,電気式ヘアカーラカーラー,電線及びケーブ子応用機械の2ー,電線及びケーブルル器具及びその部品,電のノートブック型コンピュータ,液晶池,電線及の21テレビジョン受信機液晶テレビジョン受信機びケーブ但し,ノートブック型コンピュータル,配電用を除く又は制御用のノートブック型コンピュータの機械器具ノートブック型コンピュータ2携帯電話機,スマートフォン,タのの2の1ブレット型携帯情報端末,コンピ1ノートブック型コンピューュータタ,タブレット型携帯情報端但し,携帯電話機,スマートフォ末を除くコンピュータンを除く但し,タブレット型携帯情報端末を除くのタブレット型携帯情報端末タブレット型携帯情報端末2のの2携帯電話機,スマートフォンスマートフォン1但し,携帯電話機を除くの携帯電話機携帯電話機247 |
裁判長裁判官 | 設樂一 |
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