• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2014890035 審決 商標
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 26年 (行ケ) 10170号 審決取消請求事件
平成 26年 (行ケ) 10171号 審決取消請求事件
平成 26年 (行ケ) 10172号 審決取消請求事件
平成 26年 (行ケ) 10173号 審決取消請求事件
平成 26年 (行ケ) 10174号 審決取消請求事件

原告 双日ジーエムシー株式会社
訴訟代理人弁護士宮嶋学
同 田泰彦
同 柏延之
訴訟復代理人弁護 士砂山麗
訴訟代理人弁理士勝沼宏仁
同 塩谷信
同 宇梶暁貴
同 谷口登
訴訟復代理人弁理 士恩田俊郎
被告株式会社IBEX
訴訟代理人弁護士豊島真
同 石田治
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/05/13
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が取消2013−300427号事件,取消2013−300429号事件,取消2013−300430号事件,取消2013−300432号事件,取消2013−300433号事件について平成26年61月11日にした各審決を,いずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨
事案の概要
1 本件は,被告が商標権者である5件の商標について,原告が,商標法(以下単に「法」ということがある。)53条1項に基づき,各商標登録の取消審判請求をしたところ,特許庁がいずれについても審判請求は成り立たないとの審決をしたことから,原告が各審決の取消しを求める事案である。
2 特許庁における手続の経緯等(争いがない事実又は文中に掲記した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 被告は,以下のアないしオの商標に係る商標権(以下,これらの商標を順次「本件商標1」ないし「本件商標5」といい,併せて「本件商標」という。また,これらの商標に係る権利を順次「本件商標権1」ないし「本件商標権5」といい,併せて「本件商標権」という。)を有している(甲1の1ないし5)。
ア 登録第1995432の1の1(本件商標1)商標の構成 登録出願日 昭和56年4月22日 設定登録日 昭和62年10月27日 指定商品 第6類,第14類,第21類,第22類及び第26類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品並びに第25類「履物但し,履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)を除く」 2 イ 登録番号 商標第4048658の1の1(本件商標2)商標の構成登録出願日 平成5年10月14日設定登録日 平成9年8月29日指定商品 第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴但し,被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,運動用特殊衣服,運動用特殊靴を除く但し,履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)を除く」 ウ 登録番号 商標第4125472の1の1(本件商標3) 商標の構成 登録出願日 平成8年10月14日 設定登録日 平成10年3月20日 指定商品 第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボン吊り,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴但し,被服,ガーター,靴下止め,ズボン吊り,バンド,ベルト,運動用特殊衣服,運動用特殊靴を除く但し,履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)を除く」 エ 登録番号 商標第4836907の1の1の1(本件商標4)商標の構成 3 登録出願日 平成11年7月14日(1999年〔平成11年〕2月17日にスイス連邦においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権主張) 設定登録日 平成17年2月4日 指定商品 第3類,第9類,第14類,第16類及び第28類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品並びに第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴但し,被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,運動用特殊衣服,運動用特殊靴を除く但し,履物(サンダル靴,サンダルげた,スリッパを除く)を除く」 オ 登録番号 商標第4837860の1の1の1(本件商標5) 商標の構成 ADMIRAL(標準文字) 登録出願日 平成11年7月14日(1999年〔平成11年〕2月17日にスイス連邦においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権主張) 設定登録日 平成17年2月10日 指定商品 第3類,第9類,第14類,第16類及び第28類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品並びに第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴但し,被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,運動用特殊衣服,運動用特殊靴を除く但し,履物(サンダル靴,サンダルげた,スリッパを除く)を除く」 (2) 被告は,平成24年6月1日から,株式会社チヨダ(以下「チヨダ」という。)に対し,指定商品であるサンダルについて本件商標の独占的通常使用許諾をした(甲228)。
チヨダは,靴及びゴム履物等の製造及び販売等を業とする会社であり,平成25年3月頃から, 「クロッグサンダル」というタイプのサンダル(つま先側の部分は通 4 常の運動靴と同様に覆われているが,踵側の立ち上がり部分が靴と異なって低くえぐれており,簡単につっかけて履くことができるような形状のもの。 の1種類とし )て,商品の4箇所に,それぞれ以下のとおりの構成の標章を表示するサンダル(別紙1の写真の右側の商品。以下「使用権者商品」という。)を販売した(甲199)。
ア シュータン(靴ベロ)の表面部分に,上段に「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示と,下段にイギリス国旗の中央に「ENGLAND」の文字を記載した図形とを併記した構成からなる標章(別紙2の使用商標の対比の使用権者商品の欄の1のとおり。以下「使用権者商標A」という。) イ サンダル側面に,本件商標4と同一の構成からなる標章(別紙2の使用商標の対比の使用権者商品の欄の2のとおり。以下「使用権者商標B」という。) ウ サンダルの中敷部分に, 「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示からなる標章(別紙2の使用商標の対比の使用権者商品の欄の3のとおり。
以下「使用権者商標C」という。) エ 靴の踵の下部に, 「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示からなる標章(別紙2の使用商標の対比の使用権者商品の欄の4のとおり。以下「使用権者商標D」といい,使用権者商標AないしCと併せて「使用権者商標」という。) (3) 原告は,以下のアないしオの商標に係る商標権(以下,これらの商標を順次「引用商標1」ないし「引用商標5」といい,併せて「引用商標」という。また,これらの商標に係る商標権を順次「引用商標権1」ないし「引用商標権5」といい,併せて「引用商標権」という。)を有している(甲8の1ないし5)。なお,引用商標権1ないし引用商標権5は,それぞれ,本件商標権1ないし5から分割された商標である。
ア 登録第1995432号の1の2(引用商標1) 商標の構成 本件商標1と同じ 登録出願日及び設定登録日 本件商標1と同じ 5 指定商品 第25類「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)」 イ 登録第4048658号の1の2(引用商標2) 商標の構成 本件商標2と同じ 登録出願日及び設定登録日 本件商標2と同じ 指定商品 第25類「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)」 ウ 登録第4125472号の1の2(引用商標3) 商標の構成 本件商標3と同じ 登録出願日及び設定登録日 本件商標3と同じ 指定商品 第25類「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)」 エ 登録第4836907号の1の2(引用商標4) 商標の構成 本件商標4と同じ 登録出願日及び設定登録日 本件商標4と同じ 指定商品 第25類「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」 を除く)」 オ 登録第4837860号の1の2(引用商標5) 商標の構成 本件商標5と同じ 登録出願日及び設定登録日 本件商標5と同じ 指定商品 第25類「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)」 (4) 原告は,引用商標を付した靴を製造,販売しているところ,そのうちの1種類として,商品の3箇所に,それぞれ以下のとおりの構成の標章を表示する「Watford(ワトフォード)」と称するモデルのスニーカー(以下「ワトフォード」という。同モデルにはカラーバリエーション〔色違いの商品〕が多数あるが,そのうち「Tricolor」という紺,白,赤の三色の色合いのものが,別紙1の写真の左側の商品である〔甲248〕。以下,同商品を「原告商品」という。)を販売している。
ア シュータン(靴ベロ)の表面部分に,上段に黒字で「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示と,下段にイギリス国旗の中央に「ENGLAND」の文字を記載した図形とを併記した構成からなる標章(別紙2の使用商標 6 の対比の原告商品の欄の1のとおり。以下「原告使用商標A」という) イ サンダル側面に,引用商標1と同一の構成からなる標章(別紙2の使用商標の対比の原告商品の欄の2のとおり。以下「原告使用商標B」という) ウ サンダルの中敷部分に, 「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示からなる標章(別紙2の使用商標の対比の原告商品の欄の3のとおり。以下「原告使用商標C」といい,原告使用商標A及びBと併せて「原告使用商標」という。) (5) 原告は,平成25年5月27日,本件商標の使用権者であるチヨダが原告の業務に係る商品と混同を生ずる登録商標又はこれに類似する商標の使用をしたと主張して,特許庁に対し,本件商標の登録の取消しを求める審判の請求をした。特許庁は,上記各請求を取消2013-300427号事件,取消2013-300429号事件,取消2013-300430号事件,取消2013-300432号事件,取消2013-300433号事件として審理した結果,平成26年6月11日,いずれについても「本件審判の請求は,成り立たない」との審決をし,その謄本を,同月19日,原告に送達した。
3 審決の理由 審決の理由は,別紙各審決書1ないし5の写しに記載のとおりである。その要旨は,@ チヨダは,本件商標と類似する使用権者商標AないしDを本件商標の指定商品に使用しており(当事者間に争いがない。 ,使用権者商標AないしCは,原告 )使用商標AないしCと同一又は類似のものといえる,A しかし,本件商標及び引用商標は,いずれも元々1914年にイギリス海軍の軍服のブランドとして発足し,その後日本でも知られる国際的ブランドとなった「Admiral(アドミラル)」というブランド(以下「本件ブランド」という。)に係る商標であり,同ブランドに係る現在の商標権者,商標の使用権者等について具体的に説明したものがほとんど見当たらないことからすると,同ブランド(本件商標及び引用商標を含む。)に接する取引者,需要者は,イギリス海軍の軍服に由来する1914年英国発祥の老舗ブ 7 ランドであることを認識することはあっても,それ以上に,同ブランドの具体的な商標権者や使用権者が誰であるとか,商品毎に権利者が異なるとまでは認識し得ない,B また,原告の提出に係る証拠によっても,引用商標が,原告の業務に係る商標として取引者,需要者の間に認識されているものとは認められず,むしろイギリス海軍の軍服に由来する1914年英国発祥のブランドとして広く認識されているものであって,原告独自の商標として周知著名になったものとはいえない,C したがって,サンダル靴,運動靴等の選択,購入等に際しては,取引者,需要者は,引用商標と本件商標とを区別することなく,「Admiral(アドミラル)」という本件ブランドに係る商標をもって,両者以外の他人の商品とを識別するものと見るのが自然である,D そのような事情の下で,商品「サンダル靴」について使用されている使用権者商標AないしDに接する取引者,需要者は,当該商品が1914年英国発祥の上記ブランドに係るものであることを認識することはあっても,それを超えて,原告又は被告の業務に係る商品であると認識することはないというべきであり,当該商品が原告又は原告と経済的,組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,その出所について誤認混同するおそれはないから,本件商標の取消しについては,法53条1項の要件を充足しない,というものである。
4 本件の争点は,@本件商標の使用権者であるチヨダが,他人(原告)の業務に係る商品と混同を生ずる商標の使用をしたといえるかどうか(法53条1項本文),A本件商標の商標権者である被告が,その事実を知らなかった場合において,相当の注意をしていたといえるかどうか(同項ただし書)である。
原告主張の取消事由
審決の判断は,以下のとおり,法53条1項の解釈を誤った結果,同項の「混同」が生じないとの判断についての論理付けが誤っており,したがって,審決の認定した事実は,同項が規定する他人の業務に係る商品との混同のおそれがないことの根拠とはなり得ないから,審決は取り消されるべきである。
8 1 法53条1項の解釈について (1) 「混同」の保護主体について ............ 法1条が, 「この法律は,商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務..........上の信用の維持を図り,もつて産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」と規定していることからも明らかなとおり,商標法において保護されているのは商標(ないし当該商標に係るブランド)それ自体ではなく,当該商標を使用する者の業務上の信用であり,商標制度における最も重要な機能は「出所識別機能」(及び「品質保証機能」)である。それゆえ,法53条の「混同」の要件についても,当該商標によって保護されなければならない業務上の信用の主体は誰なのか,使用権者による当該登録商標に係る商標(ないしはそれに類似する商標)の使用により出所の混同が生じていないかといった観点からその要件の充足性について議論されなければならない。
そして,本件同様,海外ブランドに由来する商標を譲り受けたケースにおいて並行輸入の成否が問題となった知財高判平成22年4月27日(平成21年(ネ)10058号・平成21年(ネ)10072号)においては,商標に係るブランドが元々は外国のものであったか否かにかかわらず,当該商標権によって保護されるのは,現時点で当該商標権を有している商標権者自身の出所であることが判示されている。また,同じく海外ブランドに由来する商標を譲り受けたケースにおいて並行輸入の成否が問題となった大阪地判平成8年5月30日においては,元は海外ブランドに由来する商標であっても,国内の商標権者が登録商標の宣伝広告等によって当該商標について独自のグッドウイル(信頼)を形成した場合には,当該登録商標によって保護されるのは,その国内の商標権者が当該商標を付して販売している商品の「出所表示機能」及び「品質保証機能」であることが判示されており,この判断は,最高裁平成15年2月27日第一小法廷判決・民集57巻2号125頁の判断と整合する。
以上によれば,登録商標のブランドの由来にかかわらず,登録商標によって保護 9 されるのは,日本国において現に当該商標権を保有しその使用を行っている当該他人の業務上の信用であり,法53条の「混同」を判断する上でも,この日本国の商標権者が当該商標を付して販売している商品の「出所表示機能」及び「品質保証機能」が害されているか否かがその基準となるべきである。
(2) 法53条1項に規定する「他人の業務」について 法53条51条並びに4条1項10号,15号,19号などのように他人の業務との混同を生じさせるような商標登録を制限する規定における「他人の業務」の意味については,何某とまで分からなくとも特定の者の業務に係るものと分かる程 「度で足りる」というのが大審院の判例から確立されている解釈であり,これに反対する学説や裁判例は見当たらない。すなわち, 「他人の業務」の主体が何某とまで分からなくとも,特定の者の業務に係るものと分かる程度に認識され,当該商品に対して業務上の信頼が化体している以上,その業務上の信用にただ乗りする行為は,競業秩序を乱すばかりか消費者の信頼をも害することになるのであるから,商標法の趣旨に反し許されないというべきである。
2 審決の論理の誤りについて (1) 本件ブランドに関する認定(審決第5の5)について 審決は,前記第2の3Aのとおり,本件ブランドが日本でも知られる国際的ブランドとなり,現在に至っていると認定した上で, 「本件ブランドに接する取引者,需要者は, ・・・本件ブランドの具体的な商標権者や使用権者が誰であるとか,商品毎に権利者が異なるとかまでは認識し得ないというべきである。」と判断した。
ア しかし,本件ブランドが日本で人気を博したのはかなり前の話であり, 「ナイキ」や「アディダス」のような高い知名度を誇っていたものではない。原告が本件ブランドに係る商品の販売を開始するまでの間,本件ブランドの商品が日本で販売されていた実績は久しくなかったものであり,日本においては,審決の認定ほど認知度が高いブランドではなかった。本件ブランドの認知度は,原告の営業努力により高まったものであり,ほとんどの需要者は本件ブランドの履物としては原告の商 10 品を思い浮かべるものである。
イ また,本件ブランドの具体的な商標権者や使用権者が誰であるとか,商品毎に権利者が異なるとかまでは認識し得ないという点が,法53条1項の「混同」の判断とどのように結びつくのか全く不明である。
前記1(2)のとおり,法53条1項における他人の業務と混同を生ずる,といえるための要件としては,何某とまで分からなくとも特定の者の業務に係るものと分か 「る程度で足りる」のであるから,本件においても,使用権者商品が原告の出所に係るものと確定的に認識されることまでは求められておらず,出所が異なる両商品が同一の出所に係るものと誤認混同すれば同項の要件としては足りる。むしろ,一般の需要者は,特段の事情がない限り同種商品について同一のブランドに係る商標が付されていれば同一の出所と考えるのが通常であるから,ただでさえ混同が生じやすい状況にあると言える。
したがって,審決の認定は,法53条1項に規定する混同のおそれがないという結論の根拠となり得ない。
(2) 審決の商品の混同のおそれに関する認定(審決第5の6(1))について 審決は,前記第2の3Bのとおり,引用商標が,原告の業務に係る商標として取引者,需要者の間に認識されているものとは認められず,本件ブランドは,イギリス海軍の軍服に由来する1914年英国発祥のブランドとして取引者,需要者の間に広く認識されていると判断した。
ア しかし,前記(1)イのとおり, 「他人の業務」については, 「何某とまで分からなくとも特定の者の業務に係るものと分かる程度で足りる」のであるから,引用商標が,原告の業務に係る商標として取引者,需要者の間に認識されていることは混同の要件を裏付ける一要素とはなり得ても,そうでないからといって,混同の要件の充足性が否定されるものではない。なお,周知著名性は,法53条の必須の要件ではない。
イ また,審決の上記判断は,ブランドイメージに関する議論と出所の混同の議 11 論を「一緒くた」にしたものであり,失当である。
すなわち,前記1(1)のとおり,元々は海外のブランドとして発生し有名になったものであるか否かにかかわらず,当該ブランドに係る商標が日本において他人に譲渡され,その者によって使用されている以上,当該商標によって保護されるのは,当該ブランドのブランドイメージではなく,日本国において現に当該商標権を保有しその使用を行っている当該他人の業務上の信用であり,法53条1項の混同の要件についてもその観点から検討されなければならない。
原告が本件ブランドを付した靴の製造・販売を開始した当時,日本において本件ブランドを付した靴が他社から販売された実績はなく,それ以前を遡っても日本国内において本件ブランドを付した履物が販売された実績は久しくなかったこと,原告は,本件ブランドを付した靴の企画,デザイン,製造,販売までを一貫して行っているブランドとして原告商品の販売を開始し,本件ブランドを付した靴を日本国において5年以上に亘り独占的に販売し続け,使用権者商品の販売が開始される時点で既に140万足もの販売実績を上げていることなどの諸事情に鑑みれば,本件ブランドの商標に原告の業務の信用が化体していることは明白であり,原告が使用する引用商標によって保護される業務上の信用の主体は,原告である。
なお,原告があえて国内事業者である原告の名称を示さず,あたかも英国のブランドメーカーが我が国におけるその継続的な事業活動の一環として新たにシューズブランドを展開するかのように需要者に対して示したという被告の主張は,事実に反する(甲9の1ないし11,甲199,202)。
ウ したがって, 審決が認定した事情は,本件において混同が生じないという判断を裏付けるものとはなり得ない。
(3) 審決の商品の混同のおそれに関する判断(審決第5の6(2)ないし(4))について 審決は,前記第2の3Cのとおり, 「サンダル靴,運動靴等の選択,購入等に際しては,取引者,需要者は,引用商標と本件商標とを区別することなく,Admir 12 al(アドミラル)という本件ブランドに係る商標を以て,両者以外の他人の商品とを識別するものとみるのが自然である」と認定した。
しかし,同認定が,なぜ本件において混同が生じないという結論に結びつくのか不明である。かえって,このような認定は,取引者,需要者が原告商品と使用権者商品との出所の識別ができていないことを意味するのであり,出所の混同が生じていることを意味するものに他ならない。
なお,被告は,法53条の制度趣旨は, 「需要者の利益の保護」であるなどと主張する。しかし,商標法は,一般公衆(需要者)の利益だけではなく,競争秩序の維持(第三者の業務上の信用の保護)をも目的とするものであり,使用権者商品に原告の品質管理が及ばない以上,使用権者商品の品質が高いかどうかにかかわらず,原告商標の出所表示機能,品質保証機能が害されていることは明らかであり,被告の主張は商標法の考えと相容れないものである。
(4) 審決の原告の主張に対する判断部分(審決第5の7)について ア 審決は,原告使用商標AないしCにおける商標の使用態様は特徴的なものであって,原告を示すものとして周知になっていたものであり,使用権者商標AないしDの使用態様は,原告使用商標AないしCの使用態様と実質的に同一である,との原告の主張に対し,「運動靴(スニーカー)や運動靴型のサンダル靴については,商標を付する位置はある程度限定され同様の場所になり易いこと,原告商標も被告商標も元々同一のものであり,そのロゴや図形は両当事者が商標権の使用許諾や分割譲渡を受ける前から使用され周知になっていたこと,そのデザイン化も元の権利者から入手した資料に基づいていると推認されること,原告商標及び原告使用商標AないしCが原告の業務に係る商品を示すものとして周知になっているものとは認められないこと,などからすると,使用権者商標AないしDの使用態様が原告使用商標AないしCの使用態様と実質的に同一であるとしても,使用権者が故意に原告使用商標AないしCに似せたものとまでは断定することができない。旨の判断をし 」た。
13 しかし,原告商品に関しては,原告が独占的に自社で商品の企画,デザイン,生産,販売までを一貫して行っていたものである。原告商品と使用権者商品のデザインや商標の使用態様の酷似性は,同じブランドコンセプトによるものだから似てしまったというレベルを遥かに超越しており,客観的に見て恣意的に似せたと考える他ないものであるし,法53条は「故意」を要件とするものではないから,その意味でも審決の判断は失当である。
イ また,審決は,商品の出所の混同を生ずる理由の一つとして,使用権者商品と原告商品とがチヨダの同一店舗における同一の棚で販売されていることを挙げた原告の主張について,同一の商標が付された商品をどのように販売するかは店舗毎 「に異なるし,使用権者商品と原告商品とは,類似する商品であって,かつ,同一の商標が付されていることにより,同一店舗において同一の場所で販売することもあり得ること,もとより,需要者はAdmiral(アドミラル)という本件ブランドを以て商品の識別をするものといえることなどからすれば」,上記原告の主張は,採用することができない,と判断した。
しかし,類似する商品であって,かつ,同一の商標が付されていることにより,同一店舗において同一の場所で販売されていながら,出所が異なるなどということは通常全く想定されていないのであるから,上記の販売態様は両商品に関して出所混同のおそれをより一層高める事情に該当する。したがって,上記判断は,混同のおそれがないという結論に結びつくものではない。
3 法53条1項の出所混同のおそれが認められることについて (1) 混同の要件については,当該商標と他人の表示の類似性の程度,他人の表示の周知著名性の程度や,当該商標に係る商品と他人の業務に係る商品との間の性質,用途等における関連性の程度並びに商品の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情等を考慮した上で総合的に判断されるべきものであり,当該商標に係る商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準に判断されることになる。
そして,本件では,原告使用商標AないしCと使用権者商標AないしCは,実質 14 的に同一であるのみならず,その付されている位置についても,ことごとく共通しているのであるから,このことのみで法53条1項の「混同」の要件を充足していることは明らかである。
(2) また,周知著名性が必須の要件ではないことは前記のとおりであるが,仮に周知著名性の要件を検討するとしても,前記2(2)イのとおり,原告は平成18年9月以降本件ブランドを付した商品(通常タイプの靴)を独占的に販売し続けており,年20万足を超える販売を誇るヒット商品となり,平成25年途中までの累積販売足数は140万足余りとなっていること,その間,発行部数の多いファッション雑誌に頻繁に掲載されており,原告商品は,第三者から「名作ワトフォード」と称されるほどの人気商品になっていることなどの諸事情に鑑みれば,履物の分野において引用商標が周知著名であることは明白である。
(3) また,原告商品と使用権者商品との親近性の程度についてみても,両商品は商品形態(デザイン)においてもそっくりな外観を呈しており,需要者において使用権者商品が原告の出所に係るシリーズ商品であると誤認させる。
さらに,両商品は用途における関連性並びに取引者及び需要者の共通性もあるし,同一のブランドに係る履物はその形態にかかわらず同一の出所に係るのが通常であり,かつ同じ店舗で販売されるものであるから,取引の実情に照らしても両商品につき誤認混同の危険性が大きいことは明らかであるところ,使用権者の店舗においては,原告商品と使用権者商品の出所の区別ができるような工夫を全く施さずに,これらを渾然一体として配置しているのであるから,誤認混同のおそれがあることは明らかであるし,現実に出所混同が生じている。
(4) 以上によれば,本件では,前記(1)の判断基準に照らして,誤認混同のおそれがあることは明らかである。
4 法53条1項ただし書の抗弁について (1) 法53条1項ただし書の抗弁は,商標権者が不正使用の事実を知っていたのであれば,相当な注意を果たしていたか否かを検討するまでもなく成立しない。
15 被告は,使用権者商品を販売すること(不正使用行為)について遅くとも平成24年12月17日の時点で報告を受けているのであるから,上記抗弁は成立しない。
なお,被告は,東京高判平成11年12月21日の判示に基づいて,商標権者が,商標が使用された事実を知っていたとしても,それにより「混同を生ずる」との認識がなかった場合には,法53条1項ただし書の「当該商標権者がその事実を知らなかった場合」に当たると主張する。しかし,そのような条文解釈は,商標権者の身勝手な解釈に基づいて簡単に免責が認められることになり,不当である。同判決に基づく商標登録取消審決に対する取消請求訴訟(第2次訴訟)の判決である東京高判平成15年12月16日においては,法53条1項ただし書の「知らなかった場合」かどうかは,当該商標権者が有していた事実認識を前提にして,裁判所によりその判断時点における解釈適用がされるべきものであると判示しており,そのような解釈が合理的である。仮に被告の主張する解釈によったとしても,被告の上記販売の認識及び原告商品と使用権者商品との類似性によれば,被告自身において「混同を生ずる認識」があったと考えるのが合理的である。
(2) 被告は,弁理士にアドバイスを求めるなどして,相当の注意をしていたと主張する。しかし,仮に被告の主張する事実を前提としても,同アドバイスは,使用権者が販売しようとする商品が本件商標の指定商品の範囲に含まれるか否かについての議論にすぎず,原告商品との誤認混同のチェックはまったく行われておらず,むしろ,誤認混同することが明らかな使用権者商品の製造,販売について積極的に承諾を与えているのであるから,相当な注意をしていたとは到底いえない。その他の被告が使用権者にしたという指示も,これをもって誤認混同のおそれがなくなるなどとは認められない。
(3) なお,本件審判請求及び審決取消訴訟について信義則違反ないし権利濫用といえるような事情は一切存在せず,権利濫用の抗弁は認められない。
被告の反論
以下のとおり,審決の認定した事実に誤りはなく,審決は,最高裁平成12年7 16 月11日判決(以下「最高裁平成12年判例」という。)が「混同を生ずるおそれ」の判断基準として挙げる考慮要素を総合的に判断し,引用商標には, 「原告独自の商標として周知著名性が認められない」と認定した上で,法53条1項混同を生ずるおそれがあることを否定したものであるから,審決の論理に誤りはない。
1 法53条1項の解釈について (1) 「混同」の保護主体について 法53条の取消審判の制度は,需要者を保護しようとするものであるから, 「保護主体」というものを観念するのであれば,当然, 「需要者」ということになる。競合する事業者を市場から排除したい商標権者が,保護主体になるものではない。
なお,原告が引用する裁判例及び判例は,本件とは訴訟物が全く異なる事件であり,原告適格を有するものの範囲や要件事実も異なるため,いずれも不適切である。
(2) 法53条1項に規定する「他人の業務」について 大審院の判例が「他人の業務」につき, 「何某とまで分からなくとも特定の者の業務に係るものと分かる程度で足りる」と判示した趣旨は,商標についてその権利者の固有名詞の認識が需要者にない場合でも,特定の者の業務に係る商品であると需要者が認識できる程度には,自他識別機能を有していることで足りるという趣旨である。これを前提としても,本件のような場合には,引用商標に,原告の商標の指定商品と使用権者の商標の指定商品との間での自他識別機能が存在すること,すなわち,少なくとも,商品ごとに権利者が異なることについて需要者が認識し得る状況になっていることが,法53条1項が規定する他人の業務に係る商品との混同が生ずるというために最低限必要というべきである。
2 審決の論理の誤りについて (1) 本件ブランドに関する認定(審決第5の5)について ア 本件ブランドは,1980年代には,我が国においても英国発祥のインターナショナルなスポーツブランドとしての確固たる地位を確立し,その確立した地位はそのまま継続していたものであり,原告が主張する原告の主要購買層においても 17 本件ブランドは認知されていたものであるから,日本では,審決がいうほど認知度が高いブランドではなかったとの原告の主張は事実に反する。
イ 原告は,審決の判断内容が不明であると主張する。しかし,審決は, 「他人の業務」の意味について,大審院判例の「何某とまで分からなくとも特定の者の業務にかかるものと分かる程度で足りる」との解釈と矛盾するような判断をしているわけではなく,原告の主張は失当である。
すなわち,前記1(2)のとおり,本件では,「混同を生ずるおそれ」が認められるためには,原告の商標に,原告の商標の指定商品と使用権者の商標の指定商品との間で自他識別機能が存在すること(少なくとも,商品ごとに権利者が異なることについて需要者が認識し得る状況になっていること)を原告が主張・立証しなければならないが(この意味での自他識別機能がもともとない場合には,混同を論ずる前提を欠き,需要者において「混同を生ずるおそれ」が無いこととなる),原告は,この点を主張・立証できなかったのであるから,審決の判断に誤りはない。
審決は,本件で需要者がどのような認識を持っているかを認定した上,原告独自の商標の周知著名性がないことから,本件における需要者の認識,すなわち,需要者は,原告の商標の指定商品と,使用権者の商標の指定商品との間での区別をしているわけではないことからすれば,本件における事実関係の下では「混同を生ずるおそれ」はない,と判断しているのであり,審決の判断は不明なものではない。
(2) 審決の商品の混同のおそれに関する認定(審決第5の6(1))について ア 「他人の表示の周知著名性」は,最高裁平成12年判例が「混同を生ずるおそれ」の有無を総合的に判断する際の重要な考慮要素の一つとして挙げており,そもそも「他人の表示」に「周知著名性」がない(程度の問題ではなく,存在しない。)のであれば,需要者が誤認混同する対象がないのであるから,混同を生ずるおそれ」 「はないと判断されるものである。したがって,審決の判断に誤りはない。
イ 原告は,審決は,ブランドイメージに関する議論と出所の混同の議論を「一緒くた」にしたものであり,失当であるなどと主張する。
18 しかし,本件で,審決が,引用商標につき,原告独自の商標としての周知著名性を否定し,イギリス海軍の軍服に由来する1914年英国発祥のブランドとして取引者,需要者の間に広く認識されているものと認定したのは,原告自身の原告商標の使用態様や宣伝広告・販売活動の態様に原因がある。原告は,1980年代には,既に我が国で周知かつ著名となっていた英国発祥のブランドである本件ブランドを,その後もその周知著名性が失われたといった事情もない中で,当初は商標の使用権者として,引用商標権の分割譲渡後は商標権者として,英国国旗や国旗に用いられている色を使用し,さらにはその商品のシリーズ名に英国の地名を付した商品を製造・販売し,あたかも英国の伝統あるブランドメーカーが我が国におけるその継続的な事業活動の一環として新たにシューズブランドを展開するかのように需要者に対して示して,伝統ある英国ブランドと原告の商品をまさに「一緒くた」にして宣伝し,需要者の認識においても伝統ある英国ブランドである本件ブランドと原告が「一緒くた」になるように,あえて国内事業者である原告の名称を示さず,需要者(消費者)に,原告が販売する商品が英国ブランド商品(英国の靴)であると認識させて販売してきたものである(甲52,乙10)。
現在も大手通販サイトで本件ブランドの靴,バッグ,衣服などが販売されているが(乙9の1),そこでも本件ブランドの商品については,「アドミラル創立 100 周年記念モデル」 (乙9の2)「ブランド設立当初,英国海軍に制服を提供していたア ,ドミラルからミリタリーアイテムのご提案です」 (乙9の3)などという文言で宣伝され,いずれも国内事業者が企画・製造・販売をしている商品であるにもかかわらず,事業者名を表示した販売がされていない。
このように,原告自身が,需要者に,原告が製造する商品が実は国内事業者である原告が企画・製造する商品(日本の靴)であることを認識させず,英国ブランドであるとのブランドイメージを持たせるような広告宣伝・販売活動における行動をとっておきながら,審決の認定を非難する原告の主張は失当である。
(3) 審決の商品の混同のおそれに関する判断(審決第5の6(2)ないし(4))につ 19 いて 原告は,審決の判断内容が不明であるなどと主張する。しかし,前記(1)イのとおり,引用商標には,原告独自の商標としての周知著名性が認められないことから,原告独自の商標としての出所表示機能が害されていないのであり,原告の主張は失当である。
また,法53条の制度趣旨は, 「需要者の利益の保護」であるから,需要者の認識がどのようなものであるかが重要であり,客観的な証拠から認定された需要者の認識からして, 「混同を生ずるおそれ」があるかが判断されなければならない。したがって,原告独自の商標としての周知著名性が認められず,需要者が「イギリス海軍の軍服に由来する1914年英国発祥のブランド」という程度の認識をしているという事実関係の下で,需要者がいわゆる「正規品」である原告の商品や使用権者の商品を購入しており,かつ,上場企業であり,靴やサンダルの販売業としてのリーディングカンパニーでもある使用権者自身が高品質の使用権者商品を企画,販売している本件では,使用権者による商標の使用によって我が国の需要者(消費者)に何らかの不利益が生じているという事情はないのであるから,「需要者の利益を保護」するような制裁措置(商標の取消し)の必要はなく,審決の判断に誤りはない。
(4) 審決の原告の主張に対する判断部分(審決第5の7)について ア 原告商品と使用権者商品は,正面という一方向から見たときに類似していると一雑誌記者に評価されているだけで,需要者が商品を購入する際には,正面を様々な角度から見ることになるところ,上方向や後方からみると,両商品は似ていない。
また,運動靴(スニーカー)や運動靴型のサンダル靴についての他の同種の商品(甲204ないし206,226,乙1の1・2,乙2ないし7,乙8の1ないし3,乙11の1ないし乙19の2)をみれば,いずれも商標が付された位置(タン,側面,中敷きのかかとが接する部分)が似通った場所になっていることが分かる。審決のその他の認定事実にも誤りはない。
原告商品と使用権者商品以外の多数の原告の商品と使用権者の商品は,相互にま 20 ったく異なるデザインであるから(甲222),使用権者であるチヨダが,原告が主張するようなデザインの盗用などしていないことが推認される。
したがって,使用権者が故意に原告使用商標AないしCに似せたものとまでは断 「定することができない。」との審決の判断に誤りはない。
イ 原告は,使用権者商品と原告商品との販売方法について縷々主張するが, 「通常全く想定されていない」販売のされ方であると主張するのであれば,本件と同様に,商標権が類似の指定商品間で分割譲渡されているブランドにおいてそのような販売がされていないことを主張立証すべきである。
3 法53条1項の出所混同のおそれが認められないことについて (1) 混同が生ずるおそれの有無が,最高裁平成12年判例が挙げる諸要素を考慮して総合的な判断をするべきであることは原告の主張するとおりである。
しかし,本件においては,本件商標権及び引用商標権は,そもそも同一の商標権であったのであるから,原告使用商標及び使用権者商標が類似又は同一となるのは当然である。また,商標を付する位置については,タン,側面及び中敷きのかかとが接する部分の3か所に付すことが一般的なことは,前記2(4)アのとおりである。
タンの部分においては,商標に加え,イギリス国旗のデザインロゴが付されているが,イギリス国旗のデザインを付すことは本件ブランドにおいて伝統的に行われてきたものであり,原告に固有のデザインではない(甲212,214,216,217の1・2)。
(2) 原告の主張に従うと,およそ類似の指定商品間で,商標が分割譲渡されると「混同」の要件を充足してしまうこととなってしまい,不当である。本件は,同じ商標が, 「サンダル等以外の履物」と「サンダル等」という,互いに極めて類似した商品毎に分けて分割譲渡された特殊な事案であり,法53条1項の「混同」の有無を判断するに当たり,通常の事案とは異なった配慮が必要となる。
具体的には,最高裁平成12年判例の基準における「他人の表示の周知著名性」が重要な要素である。すなわち, 「他人の表示」が取引者及び需要者に広く知られて 21 いなければ,当該他人の業務に係る商品との混同は生じ難いから,一般的には,当該他人の商標が広く知られているものでなければならないし,少なくとも一定の周知著名性は必要である。そして,本件のような場合においては, 「サンダルではない」靴についての商標としての周知著名性が必要であると考えるべきであり,そのためには,需要者において,靴とサンダルとでは権利者が異なるという認識が必要である。そのような要件を課さずに通常の事案と同じ基準で「混同」を考えた場合,使用権者が商標をそのままサンダルに使用しただけで, 「混同を生ずるもの」の要件が満たされるとされかねないし,法53条1項ただし書の適用の余地がなくなり,使用権者が正当に商標をそのままサンダルに使用しただけで,被告の商標権が取り消されることになってしまうので不当である。
しかし,本件では,原告独自の商標としての周知著名性が認められず, 「イギリス海軍の軍服に由来する1914年英国発祥のブランド」という程度でしか,需要者が認識していない。本件ブランド(原告商標)を使用した原告商品が掲載されたファッション雑誌を見ても,これらの商品が原告の出所に係る商品であることを示す記載はほとんど見当たらず,むしろ,専ら「Admiral」「アドミラル」として191 ,4年英国発祥の老舗ブランドに係る商品であることを示すにとどまるものが多い。
前記2(2)イのとおり,原告の商品については,あえて積極的に原告の名称を出さない態様で宣伝広告・販売活動が行われているから,需要者が,上記認識以上の認識を持たないものとなっているのであり,商品毎に権利者が異なるとかまでは認識し 「得ないという状況」という審決の判断は正しく,取引者及び需要者に「混同を生ずるおそれ」が認められることはないとの審決の認定,判断に誤りはない。
(3) 上記のとおり,本件では,原告独自の商標としての周知著名性が存在せず,混同を生ずるおそれが認められないので,商品間の関連性を比較すること自体無意味である。
仮に考慮するとしても,本件のように原告と使用権者によって多数の商品が製造・販売されている場合には,恣意的な判断とならないように,使用権者の指定商 22 品(本件では「サンダル」)全体と,原告の商品の全体との間の性質,用途,又は目的における関連性の有無や程度を考慮すべきである。
そして,前記2(4)アのとおり,原告商品と使用権者商品は,そもそも両商品を正面以外の方向から見れば似ていない。また,原告商品のデザインは,独創性のあるものではなく,他のブランドにおいても,同様のデザインのスニーカーやクロッグサンダルは多数販売されている(甲204,205,213の23頁,214の1頁,226,乙1の1・2,乙2ないし7,20,23)。そもそも商品のデザインについては意匠法等で保護されるべきであり,商品のデザインの類似を理由に商標の取消しが認められることとなれば,意匠登録をすることなく事実上当該デザインを独占することとなり,不当である。
なお,原告は,複数の商品についての商標権が同一人に帰属する他社ブランドのウエブサイト(甲204ないし206)を引用して,同一のブランドに係る履物はその形態にかかわらず同一の出所に係るのが通常であるなどと主張する。しかし,本件では,商標権が類似の指定商品間で分割譲渡されているのであるから,これらのブランドは,比較する事例として不適切である。むしろ本件ブランドについては,他の指定商品については豊田通商等にも商標の譲渡やライセンスがなされており,その結果,同じウエブサイト内で,様々な出所の商品が販売される状態となっている(甲221,乙9の1ないし4)。そして,各権利者が,本件ブランドについて,英国の老舗ブランドの商品として広告宣伝・販売活動を行ってきたことにより,本件ブランドの商標については,各権利者の独自の商標としての周知著名性が認められないものとなっている。したがって,需要者は,各製造者の独自の商標として区別 識別してから商品を購入するわけではないので,混同を生ずるおそれ」 ・ 「 はない。
(4) 以上のとおり,最高裁平成12年判例の基準に照らしても,原告独自の商標としての周知著名性が認められないから,「混同を生ずるおそれ」は存在しない。
4 法53条1項ただし書の抗弁について (1) 法53条 1 項ただし書の「当該商標権者がその事実を知らなかった場合にお 23 いて,相当の注意をしていたとき」については,東京高判平成11年12月21日が判示するとおり, 「商標権者が,専用使用権者ないし通常使用権者の登録商標に類似する商標の使用が「混同を生ずるもの」ではないと判断しており,かつ,相当の注意を払っても,それが「混同を生ずるもの」であると判断することができなかった場合を含むもの」と解すべきである。したがって,問題となる商標が使用された事実を知っていたとしても,それにより「混同を生ずる」との認識がなかった場合にはなお, 「当該商標権者がその事実を知らなかった場合」に当たるというべきである。
そして,本件では,被告は,使用権者商標が使用された事実を知っていたとしても,それにより「混同を生ずる」との認識がなかった。
まず,被告は,原告商品が販売されていたこと自体,そもそも認識していなかった。また,原告使用商標の態様(イギリス国旗と併せて表示すること)や,白地に赤と青の線といった原告商品のデザインが,アドミラルブランドの商品に伝統的に使用されており,独創性がないものであることなどに鑑みれば,被告としては,使用権者商品のデザインについてはパブリックドメインに属するものであると考えるのが自然であった。したがって,原告商品と使用権者商品が似ていたことは,被告に,混同が生ずるという認識があったと考えることの根拠にならない。
(2) また,被告は,以下のとおり,「相当の注意」をしていた。
ア 本件の使用権者チヨダは,靴の製造販売業者として国内最大手の東証一部上場企業かつ会社法上の大会社で,厳しい法令順守義務を負っているものであり,商標についての不正使用の前歴の風評もない会社であるから,被告は,使用権者の選定において,相当高度の注意を払っていた。
イ 被告は,本件ブランドに係る各商標権が,靴については原告に,サンダルについては被告に分割譲渡されたことから,両者の間で問題が生じないように,特に注意を払い,使用権者の使用状況に関しては,新製品のデザインにつき全て事前承認を必要とし,他人の商標権の侵害とならないかについては専門家である弁理士の 24 アドバイスのもと判断し,使用を許可していた。
ウ また,被告は,将来紛争とならないように弁理士にアドバイスを求め, 「靴とサンダルの区別がつくように,サンダルの箱,取扱説明書及び下げ札に, 『サンダル』と記載するように」との具体的な指示を受けたため,チヨダにその旨指示し,下げ札には「販売元 (株)チヨダ」との記載を,下げ札,取扱説明書,サンダルの箱には「Admiral SANDALS」の記載を付させていた。さらに,チヨダの商品であることが明らかとなるよう,取扱説明書には「www.chiyodagrp.co.jp」と記載させるなどしていた。
エ 原告商品のデザインについては,前記(1)のとおり,何ら独創性のないパブリックドメインに属するデザインであるから,被告は,原告がこのようなデザインの商品を扱っていないかを調査すべき注意義務を負うものではなく,チヨダが使用権者商品に係るデザインを使用したことは,被告の注意義務違反を根拠づける事実足りえない。
(3) なお,靴とサンダルとの分割譲渡に同意しておきながら,靴とサンダルとの権利者が異なることについて需要者に周知させるための活動も行わず,需要者において「混同を生ずるおそれ」があるとしてサンダルに関しての商標権の取消しを求めるなどという原告の行為は,信義則違反又は権利濫用と評価されるべきである。
当裁判所の判断
当裁判所は,本件商標の使用権者であるチヨダによる使用権者商品における使用権者商標の使用は,原告の業務に係る商品(原告商品)と「混同を生ずるものをした」に該当するといえ,かつ,商標権者である被告が相当の注意をしていたとは認められないものと判断する。その理由は,次のとおりである。
1 認定事実 前記第2の2の事実,証拠(文中又は段落末尾に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 商標権の分割の経緯 25 引用商標権1ないし5が本件商標権1ないし5から分割される前の各商標権は,その最初の商標権者であるスイス連邦の法人「アドミラル スポーツウエア ライセンス アーゲー」から,本件ブランドのライセンス会社であったスイス連邦の法人「インターナショナル ブランド ライセンシング アーゲー」(以下「IBL」という。)へと移転され,次いで,平成20年10月29日付けで,IBLから日本国の株式会社アイ・ピー・ジー・アイ(以下「IPGI社」という。)に移転登録された(甲1の1ないし5)。
原告は,平成20年9月18日付けで,IPGI社との間で,上記各商標権のうち指定商品を「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く)」とする商標権を分割して譲渡を受ける旨の契約を締結し(甲232の2)同契約に基づいて, ,同年10月29日付けで,同指定商品に係る引用商標権1ないし5の移転登録を受けた(甲8の1ないし5)。
被告は,平成23年11月11日に設立された。被告は,平成24年4月20日付けで,IPGI社から,引用商標権1ないし5を分割した後の本件商標権1ないし5の移転登録を受けた(甲1の1ないし5)。
上記分割移転により,同一商標に係る商標権の指定商品中,第25類「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパ」を除く。」については原告が,第25類「サ )ンダル靴,サンダルげた,スリッパ」については被告が,商標権者となることとなった。
(2) 「Admiral(アドミラル)」ブランドについて 「Admiral(アドミラル)」は,英語で「海軍将官,提督」等を意味する語である。
「Admiral(アドミラル)」とは,1914年,英国で発祥したブランドであり,第1次世界大戦時に英国海軍の軍服を製造していたメーカーが,戦後スポーツウェアメーカーとなって発展させてきたブランド(本件ブランド)である。本件ブランドは,1970年代から1980年代にかけて,サッカーのイングランド代 26 表や,人気クラブであるマンチェスター・ユナイテッドを含むメジャープロサッカークラブの公式ユニフォームに用いられたことにより,欧州を中心として,主としてサッカーのアパレルメーカーとして世界各地で認知度が高まり,1980年代以降は,サッカー以外に英国クリケット代表チームのスポンサーとなるなどして,クリケット及びラグビーといったトータルスポーツファッションブランドとして広く認知されるようになった。日本においても,サッカー雑誌等で宣伝広告がされることにより,1970年代から1980年代に英国発祥のスポーツブランドとしての認知度が高まり,主にサッカーブランドとしての地位を確立した。本件ブランドは,現在,世界40カ国で展開されており,上記1970年代から1980年代に確立したイメージに基づき,主にサッカーを中心とした歴史のあるスポーツファッションブランドとして世界各国で知られている。
(甲5,201,211,212,214,217の2・3,218,219,235の1ないし15)。
日本国内においては,現在,豊田通商株式会社が被服等を指定商品とする本件ブランドの商標権を保有し,ライセンサーとして,ゴルフグッズ,サッカー用ゲームウェア,水着,バッグ,靴下・下着,ネクタイ・マフラーについて,それぞれ別々の会社にライセンスをしているが(平成25年7月24日当時。甲217の1),原告及びチヨダの商品以外には,本件ブランドの商標を付した履物は販売されていない。
(3) 原告による引用商標の使用について ア 原告は,平成17年8月,当時IBLの許諾により日本国内で本件ブランドの商標の独占的通常使用権を有していたIPGI社から,日本国内で同商標を付して「カジュアルシューズ」を製造販売する通常使用権を,原告以外の第三者には使用許諾しない約定でサブライセンスを受け(甲232の1)平成18年9月頃から, ,原告商品を含む「Admiral」の商標を付したカジュアルシューズを継続的に製造・販売するようになった(甲5,202,248)。
27 イ 本件ブランドは,前記(2)のとおり,スポーツウエアやスポーツ用品のメーカーとしての認知度は高かったが,原告は,スポーツシューズとしてではなく,日本人に合った,ファッションに特化したタウンユースとしての靴を新たに開発,販売をすることとし,細身で,底が薄く,スタイリッシュなデザインのスニーカーを独自にデザインし,その3箇所に原告使用商標を付した「ワトフォード」モデルなど,引用商標を使用した多数のスニーカー等のモデルを製造,販売した(甲9の1ないし11,甲201,205)。
原告の販売する靴のモデルは多数あるが,平成18年9月頃の販売開始時から,使用権者商品の販売開始時である平成25年3月頃までの約6.5年の間の原告の靴の累積販売総数は約150万足であり,そのうち「ワトフォード」モデルの累積販売数は約40万足,原告商品(Tricolor)の累積販売数は平成26年11月時点までで約12.9万足である。なお, 「ワトフォード」モデル以外に,原告が「ワトフォード」と同時期から販売している「イノマー」「イノマーハイ」と称するモデ ,ルのスニーカーにおいても,原告使用商標AないしCと同じ商標が,スニーカーの同じ位置に付されており(甲9の1ないし11),これらの累積販売数は,平成26年11月時点までで約55万足である。(甲5,248,弁論の全趣旨) ウ 原告の販売するスニーカーは,「Admiral(アドミラル)」のブランド名で,平成21年から平成25年初めにかけて,ファッション雑誌に100回以上取り上げられ,そのうち「smart」, 「Samurai ELO」, 「FINE BOYS」「Street , Jack」「Men’s , Joker」「MEN’S , NON-NO」「Mono , Max」「Begin」「Lightning」という , ,人気ランキングのトップテンに入るような人気の高い若者向け男性ファッション雑誌に頻繁に取り上げられた(甲11ないし195)。また,上記掲載された雑誌のうち, 「MEN’S NON-NO」「Men’s , Joker」「FINE , BOYS」「POPEYE」「Street , , Jack」「CHOkiCHOki」は発 ,行部数が10万部を超える若者向け男性ファッション雑誌である(甲196)。
28 また,平成23年5月20日付け日経産業新聞の記事では,原告について, 「ナイキやアディダスなどの欧米の巨人が立ちはだかる靴業界で,ファッションに特化して成功した異端児といえるブランドがある。双日ジーエムシー(東京・港)の英ブランド「アドミラル」だ。細身でスタイリッシュな形状が若者の心をひきつけた。」などと紹介された(甲250)。
さらに,平成25年7月12日付け日経流通新聞の記事では, 「アドミラル(双日GMC)」との表題の下,「英国発祥の靴ブランド「アドミラル」が男女を問わず,20歳前後の若者の支持を集めている。英国ロンドンの街角を想起させる都会的なデザインが特徴・・・日本の消費者の嗜好に合わせながら,英国らしさにこだわったデザインや素材選びで競合ブランドとの差異化につなげている。」と紹介された(甲201)。
(4) 原告商品と使用権者商品の外観について ア 原告商品(別紙1の写真左側)は,全体として平べったく,細身の形状の白地のスニーカーである。原告商品のアッパー(甲の部分)の中央には銀色のシューレースホールが2列に並び,白い靴紐が通されており,シューレースホールに沿って設けられた縫い目部分から靴底にかけて,紺と赤の斜めの細い2本線が靴の外側に1組だけ付されており,また,アッパーとソール(靴底部分)との境目部分に,紺色の線が靴の周りを一周する態様で,ソールの厚みの半分くらいの高さ部分に,赤い線が靴の周り後方を約半周する態様で,それぞれ付されている。靴の踵の履き口部分には,踵の立ち上がりの約半分くらいの高さの逆三角形の紺色の布が縫い付けられている。
そして,前記第2の2(4)のとおり,シュータン(靴ベロ)の表面部分に,上段に黒字で「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示と,下段に青と赤のイギリス国旗の中央に白字で「ENGLAND」の文字を記載した図形とを併記した構成からなる原告使用標章Aが付されている。靴の中敷部分は白地で,その踵に近い部分の上に赤字で「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲 29 んだ表示からなる原告使用標章Cが付されており,外側側面後方の踵に近い部分に,原告使用商標Bの図形標章が,それぞれ表示されている。原告商品の踵には,商標は付されていない。
イ 使用権者商品(別紙1の写真右側)は,前記第2の2(2)のとおり,「クロッグサンダル」というタイプの白地のサンダルであり,前面から見たときの外観は,原告商品の外観とほぼ同じ形状及びデザインである。すなわち,使用権者商品のつま先側はスニーカーのように覆われ,シュータン(靴ベロ)があり,アッパー(甲)の中央部分には,銀色のシューレースホールが2列に並び,白い靴紐が通されており,シューレースホールに沿って設けられた縫い目部分から靴底にかけて,青と赤の斜めの細い2本線が靴の外側に1組だけ付されており,また,アッパーとソール(靴底部分)との境目部分に,黒い線が靴の周りを一周する態様で,ソールの厚みの半分くらいの高さ部分に,赤い線が靴の周り後方を約半周する態様で,それぞれ付されている。一方,使用権者商品は,原告商品と異なり,靴の側面は,シュータンの位置付近から踵にかけて徐々に立ち上がりの高さが低くなるようにえぐれており,踵部分の立ち上がりは約2センチ程度の低さとなっている。靴の踵の履き口部分には,立ち上がりと同じ高さの台形の青いビニール様の素材が縫い付けられている。
そして,前記第2の2(2)のとおり,シューレースホールの上方中央に位置するシュータン(靴ベロ)の表面部分に,上段に黒字で「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示と,下段に青と赤のイギリス国旗の中央に白字で「ENGLAND」の文字を記載した図形とを併記した構成からなる使用権者標章Aが付されている。靴の中敷部分は青のチェック模様地で,その踵に近い部分の上に,白抜きで「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示からなる使用権者標章Cが付され,外側側面のえぐれていない部分のうち踵に近い後方部分に使用権者商標Bの図形標章が,踵のソール部分(靴底)に青地で「Admiral」の文字及び小さく「R」を丸で囲んだ表示からなる使用権者標章Dが,それぞれ表 30 示されている。
ウ 使用権者商品については,雑誌「MonoMax」平成25年6月号において, 「名作ワトフォード譲りのヨーロピアンな顔立ちは上品」, 「顔立ちはそのままワトフォード! スニーカーに採用されるネームタグがベロに鎮座。正面から見れば,名作ワトフォードと見間違うこと請け合い」と紹介された(甲200)。
(5) 使用権者商品の販売の実情について 平成25年3月ないし5月当時,チヨダの大型販売店舗においては,原告の「ワトフォード」モデルの商品と使用権者商品とは,同じ棚で,原告の商品が上下の段に,使用権者商品がその中段に陳列されるなどの態様で,販売されており,同棚に,原告商品と使用権者商品が出所の区別ができるような表示はされていなかった(甲199)。
2 使用権者商標の使用は,法53条1項本文の「他人の業務に係る商品・・・と混同を生ずるものをしたとき」に当たるか。
前記1の認定事実を前提として,使用権者商標の使用が,法53条1項本文の「他人の業務に係る商品・ ・と混同を生ずるものをしたとき」 ・ に当たるかを検討する。
(1) 法53条1項は,商標権者から専用使用権又は通常使用権の設定を受けた者が,登録商標又はこれに類似する商標を,指定商品・役務又は類似商品・役務について使用した場合であって,その使用が, 「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」であるときには,当該商標権者が,その事実を知らず,かつ,相当な注意をしていたときを除いて,当該商標登録を取り消すことができると規定している。同規定の趣旨は,専用使用権者又は通常使用権者といえども,登録商標の正当使用義務に違反して登録商標を使用した結果,他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるものをしたときは,そのような行為は,当該他人の権利を侵害し,一般公衆の利益を害するばかりでなく,商標権者の監督義務に違反するものであるから,何人もその商標登録を審判により取り消し得ることとしたものである。
ところで,現行の商標法は,指定商品又は指定役務ごとに商標権の分割及び移転 31 を認めており(法24条1項,24条の2第1項),分割に係る商標権の指定商品又は指定役務が,当該指定商品又は指定役務以外の他の指定商品又は指定役務と類似している場合であっても,商標権の分割・移転を制限していない(平成8年法律第68号による改正前の法24条1項ただし書は,同一商標について,類似関係にある商品・役務に係る商標権の分割移転を禁止していた。。したがって,同一の商標 )について,類似する商品・役務を指定商品・役務とする商標権に分割され,それぞれが異なる商標権者に帰属することもあり得る。法52条の2は,このような商標権の分割・移転の場合において,商標権者について, 「不正競争の目的で」他の商標権者,使用権者等の商品又は役務と混同を生ずるものをしたときは,何人もこのような商標登録の取消しの審判を請求することができる旨を定めたものである。そして,このような商標権の分割 移転の場合における使用権者による使用については, ・従来から存在している法53条1項の規定の適用に委ねられている。したがって,法53条1項は,このような商標権の分割・移転に係る商標の使用についても適用され得るが,このような場合には,各商標がもともと同一であるため,商標の同一性又は類似性及び商品・役務の類似性のみに起因して,一方の登録商標の使用によって,他方の商標権者と業務上の混同が生じる場合も予想される。
しかし,商標法がこのような同一商標の類似商品・役務間での商標権の分割及び別々の商標権者への移転を許容するものである以上,使用された商標と他人の商標の同一性又は類似性及び商標に係る商品・役務の類似性のみをもって,法53条1項の「混同を生ずるものをした」に該当すると解することは相当ではない。また,このように解すると,類似関係にある商品・役務について分割された商標権の譲渡を別々に受け,それぞれの登録商標又はその類似商標を別々の使用権者に使用させた各商標権者は,法53条1項に基づき当然に相互に相手方の有する商標登録の取消しを請求することができることとなり,不当である(立法としては,上記のような商標権の分割・移転に関する法52条の2を法53条の特則としても位置づけ,商標権者だけでなく,使用権者にも, 「不正競争の目的」を要求した方がより明確で 32 あったと解されるが,現行法の解釈としても,できる限り,これと同様の結果となるように解釈すべきである。。
) 以上によれば,分割された同一の商標に係る二以上の商標権が別々の商標権者に帰属する場合に,一方の専用使用権者又は通常使用権者が,法53条1項における,「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるものをしたとき」に該当するというためには,法52条の2の規定の趣旨を類推し,使用商標と他人の商標の同一性又は類似性及び使用商品・役務と他人の業務に係る商品・役務の類似性をいうだけでは足りず,専用使用権者又は通常使用権者が,登録商標又はその類似商標の具体的な使用態様において,他人の商標との商標自体の同一性又は類似性及び指定商品・役務自体の類似性により通常生じ得る混同の範囲を超えて,社会通念上,登録商標の正当使用義務に反する行為と評価されるような態様,すなわち,不正競争の目的で他の商標権者等の業務に係る商品ないし役務と混同を生じさせる行為と評価されるような態様により,客観的に,他人の業務に係る商品・役務と具体的な混同のおそれを生じさせるものをしたことを要するというべきである。
(2) そこで,チヨダによる使用権者商標の具体的な使用態様が,引用商標と本件商標自体の同一性や,「サンダル等を除く履物」(具体的には,スニーカー)と,「サンダル」という原告商品と使用権者商品の種類自体の類似性により通常生じ得る混同の範囲を超えて,社会通念上,本件商標の正当使用義務に反する行為と評価されるような態様,すなわち,不正競争の目的で他の商標権者等の業務に係る商品ないし役務と混同を生じさせる行為と評価されるような態様により,客観的に,原告の業務に係る商品等と具体的な混同のおそれを生じさせるものといえるかどうかについて,検討する。
ア 上記1(3)イ及びウで認定した原告の商品の販売状況及び雑誌等への掲載状況によれば, 「Admiral」の商標は,使用権者商品の販売が開始された平成25年3月の時点で,日本国内のカジュアル・シューズの分野では,原告の販売する商品であるタウン・シューズ(スニーカー)の商標として,20歳前後の若年層か 33 らなる需要者及び取引者の間において,相当程度認識されていたものと認めることができる。また,原告の販売する商品の中でも,原告商品を含むスニーカー「ワトフォード」モデルは,販売数が多く,人気の高い商品であり,シュータン,外側の側面後方及び中敷の踵に近い部分の3箇所に付されている原告使用商標AないしCも,原告の販売するスニーカーの商標として,上記需要者及び取引者の間において,同月時点で,相当程度認識されていたものと認められる。
イ 一方,平成25年3月頃から販売された使用権者商品は,サンダルではあるが,その全体的な外観は,側面の後方及び踵部分の立ち上がりがスニーカーと比べてえぐれて低くなっている以外には,スニーカーの外観とほぼ同じ形状である。また,そのデザインも,原告の「ワトフォード」モデルのスニーカーと同様に,甲の中央部分に銀色のシューレースホールが2列に並び,白い靴紐が通され,シューレースホールに沿って設けられた縫い目部分から靴底にかけて,青系の線と赤線とを組み合わせた斜めの細い2本線が靴の外側に1組だけ付されており,また,アッパーとソールとの境目部分に,黒い線が靴の周りを一周する態様で,ソールの厚みの半分くらいの高さ部分に,赤い線が靴の周り後方を約半周する態様で,それぞれ付されている。そして,使用権者商標は,このような原告商品に酷似する形状・デザインの使用権者商品において,シュータン,外側側面のえぐれていない部分のうち踵に近い後方部分及び中敷の踵に近い部分という原告商品とほぼ同一の場所に付されていたものであり,個々の商標の構成をみても,使用権者商標A及びCは,それぞれ原告使用商標A及びCと同一の構成からなり,使用権者商標B(本件商標4と同じ。 は, ) 原告使用商標B(引用商標1と同じ)と類似する構成からなっている(引用商標1と本件商標4は,互いに白黒部分を反転させたような構成であり,両商標が類似することについては,当事者も争っていない。。
) ウ 上記イのとおり,使用権者商品は,原告商品と,商品の3箇所に商標を付しているという点で共通するのみならず,複数存在する本件ブランドに係る商標のうち,各箇所に使用された商標の種類も,商標を付す位置もほぼ同一の商標を,原告 34 商品と酷似する形状・デザインの類似の種類の商品に付しているものである。このような使用権者商標の具体的な使用態様に加えて,使用権者商品(サンダル)の性質や使用権者商品が紹介されていた雑誌が原告の商品が紹介されていた雑誌と共通すること(前記1(3)ウ及び(4)ウ)からすれば,使用権者商品の需要者も原告商品と同じ20歳前後の若年層を含むと認められ,両商品は需要者及び取引者を共通にしていること,両商品は,大手靴量販店であるチヨダの店舗で同じ棚に並べられて販売されていたという取引の実情をも考慮すれば,チヨダによる使用権者商標の使用態様は,単に原告使用商標と同一又は類似する, 「履物 及び (サンダル等を除く。」 )と「サンダル等」という商品の種類が類似すること自体により通常混同が生じうるという範囲を超えて,当時,需要者及び取引者の間において原告の販売する商品の表示として認識されていた原告使用商標の具体的な使用態様と酷似していたものというべきであり,そのような使用権者商標の使用により,取引者及び需要者に,使用権者商品も, 「Admiral」商標に係るスニーカーを販売する者(原告)と同一の出所に係るものであるとの認識を生じさせる具体的な混同のおそれを生じさせたものといえる。
以上によれば,チヨダによる使用権者商標の使用は,社会通念上,本件商標の正当使用義務に反する行為と評価されるような態様,すなわち,不正競争の目的で他の商標権者等の業務に係る商品ないし役務と混同を生じさせる行為と評価されるような態様により,客観的に,原告の業務に係る商品等と具体的な混同のおそれを生じさせたものということができ,法53条1項本文の「他人の業務に係る商品・・と混同を生ずるものをしたとき」に該当するというべきである。
(3) 審決の論理について 審決は,前記第2の3@ないしDのとおり,引用商標及び本件商標は,いずれも「Admiral(アドミラル)」という国際的ブランドに係る商標であり,引用商標が,原告の業務に係る商標として取引者及び需要者に認識されているものとは認められず,使用権者商標に接する取引者及び需要者は,1914年英国発祥のブラ 35 ンドに係るものとして認識することはあっても,それを超えて,原告又は被告の業務に係る商品であると認識することはないから,出所混同のおそれはない,と判断したものである。
ア しかし,世界各国で本件ブランドが広く知られている結果,引用商標及び本件商標が, 「イギリス海軍に由来する伝統的な英国発祥のブランドに係るもの」として取引者及び需要者に認識されているとしても,そのことは,これらの商標が有するブランドイメージについての認識を意味するにすぎないというべきであり,そのようなブランドイメージの認識をもって,当該商標が付された商品について商標法上保護されるべき「出所」についての取引者及び需要者の認識と同視することはできないし,そのようなブランドイメージを有するからといって,日本国内の商標権者を当該商標が付された商品の出所として観念できないということもできない。
むしろ,法53条1項が適用されるためには,取引者及び需要者は, 「他人の業務」に係る商標が特定の権利者に帰属していることまで認識している必要はないところ,上記のようなブランドイメージを有する取引者及び需要者の,我が国において販売されるブランドに係る商品の出所についての一般的な認識も,特段の事情がない限り, 「同商品の当該ブランドに係る商標について,我が国において適法に権利を有する者」の業務に係る商品であると認識するものと理解するのが合理的である。そして,商標法は,商標権の効力を登録商標権者に対して認めているのであるから,同法上,登録商標について保護されるべき出所は,我が国における当該登録商標についての登録商標権者であり,国際的に周知著名な商標であっても,同商標について我が国において保護されるべき出所は,同商標に係る商標権を適法に日本で有する者である。したがって,国際的に周知著名な商標についての登録商標権を我が国の商標権者が適法に取得したような事案における法53条1項の適用については,他 「人の業務に係る商品」との「混同」が生じうるかが問題となるべき主体(他人)は,当該商標についての登録商標権者であるというべきである。
そうすると,日本国内においては,履物(サンダル等を除く。)については,原告 36 が,本件ブランドを発展させ,国際的なブランドイメージを形成した会社等から引用商標に係る商標権の譲渡を受け,現に登録商標権者となっているのであるから,法53条1項の適用について,「混同」が生じうるかを問題とすべき「他人」とは,登録商標権者である原告であるというべきであり,このことは,需要者及び消費者が,日本国における具体的な商標権者が誰であるかを認識していないことや,日本国では商標権が分割されて商品毎に権利者が異なるということを認識していないことによって,左右されるものではない。
イ また,具体的な事実関係をみても,本件においては,前記(2)アのとおり,原告使用商標は,タウン・シューズの分野において,原告の販売する商品を表す商標として,取引者及び需要者の間において,相当程度認識されていたものである。そして,これらの取引者及び需要者は,使用権者商品(サンダル)に前記(2)イ認定のとおりの使用態様で付された使用権者商標に接することにより,使用権者商品も,上記履物(スニーカー)と同じ特定の者(他人)の業務に係る商品であると誤認して,混同するおそれがあるのであるから,本件では,法53条1項の混同のおそれがあるものと認められる。
ウ 審決の判断は,法53条1項の混同が生じる出所についての理解及び前提となる取引者及び需要者の認識についての認定を誤ったものであり,原告の主張する取消事由には理由がある。
(4) 被告の主張について ア 被告は,本件のような事案で法53条1項混同を生ずるおそれが認められるためには,少なくとも,商品毎に権利者が異なることについて需要者が認識し得る状況になっていることが必要であると主張する(第4の1(2),2(1)イ,3(2))。
しかし,前記(3)アのとおり,本件のような場合における法53条1項の適用については,登録商標権者となっている者(他人)の業務に係る商品との混同を問題とすべきものであり,商品毎に権利者が異なるということについての需要者の認識がなければ,混同を生ずるおそれがないということはできない。
37 すなわち,需要者及び取引者が,履物(サンダル等を除く)とサンダルとの間で登録商標権者が異なることについて認識していないとしても,客観的には,商標登録権利者が異なるのであるから,使用権者による具体的な使用権者商標の使用態様によって,原告が関わっていない商品について,原告の販売する商品と同じ出所の商品であると認識させるおそれがあるのであれば,法53条1項の他人の業務に係る商品の混同があるといえる。
したがって,被告の主張は採用できない。
イ 被告は,原告は,原告の商品を,あたかも英国の伝統あるブランドメーカーが我が国における継続的な事業活動の一環として新たにシューズブランドを展開するかのように需要者に対して示し,あえて国内事業者である原告の名称を示さず,需要者に,原告が販売する商品が英国ブランド商品(英国の靴)であると認識させて販売してきたものであるから,引用商標には原告独自の商標としての周知著名性がない旨主張する(第4の2(2),3(2))。
確かに,原告の商品の掲載されたファッション雑誌(前記1(3)ウ)やインターネットの通信販売サイト(乙9の4,乙10)においては, 「Admiral(アドミラル)というブランド名や本件ブランドが英国発祥のものである旨などが表示され 」ているだけで,これらの商品が原告の出所に係る商品であることを示す記載はほとんど見当たらず,需要者に対し,積極的に原告名の宣伝広告がされたとは認められない。しかし,原告は,本件ブランドを発展させた会社等から商標権の譲渡を受けた者であり,日本国内においては, (サンダル等を除く。 については, 履物 ) 原告が,同ブランドに係る商標の適法な登録商標権者となっているのであるから,原告が原告の商品の販売,宣伝の際に,同ブランド名やその由来のみを表示し,原告自身の名称を示していないからといって,そのことをもって,原告が引用商標に係る商品の出所について需要者に対して誤った認識を与えているということはできないし,原告が販売する商品について被告の主張するようなブランドイメージを需要者に与えていたことをもって,法53条1項出所の混同が生じ得ないということもでき 38 ない。前記(3)アのとおり,法53条1項の「他人の業務」との混同が生じるためには,商標から特定の権利者を観念し得る必要はなく,商標が一定の出所を表す商標として,取引者及び需要者の間において認識されていれば足りるというべきであって,また,引用商標(原告使用商標)が,タウン・シューズの分野において,原告の販売する商品を表す商標として取引者及び需要者の間において相当程度認識されていたものであることは,前記(2)アのとおりである。
したがって,被告の主張は採用できない。
ウ 被告は,法53条の制度趣旨は, 「需要者の利益の保護」であるから,需要者の認識がどのようなものであるかが重要であり,したがって,引用商標に,原告独自の商標としての周知著名性が認められず,需要者が,イギリス海軍に由来する伝統的な英国ブランドという程度の認識をしているという事実関係の下で,いわゆる「正規品」である高品質の使用権者商品を購入している本件では,需要者に何らかの不利益が生じているような事情はないから,同条を適用して商標登録を取り消す必要はない旨主張する(前記第4の1(1),2(3))。
しかし,前記(1)のとおり,法53条1項の制度趣旨は,使用権者が正当使用義務に違反して登録商標を使用した結果,他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるものをしたときは,一般公衆の利益を害するばかりでなく,当該他人の権利を侵害するからであり, 「需要者の利益の保護」のみが制度趣旨ではない。そして,使用権者商品が,サンダル等についての本件商標の登録商標権者である被告から商標の使用の許諾を受けたいわゆる「正規品」であり,かつ,その品質に何ら問題がないような場合であっても,使用権者商品が,他人の業務に係る商品と混同されることとなれば,当該他人の権利が侵害されることになるのであるから,被告の主張は採用することができない。
エ 被告は,本件商標権及び引用商標権はもともと同一の商標権であったのであるから,原告使用商標及び使用権者商標が類似又は同一となるのは当然であり,@原告商品と使用権者商品は,上方向や後方から見ると似ていない,A原告商品のデ 39 ザインは,独創性のあるものではなく,他のブランドにおいても,同様のデザインのスニーカーやクロッグサンダルは多数販売されている,B運動靴や運動靴型のサンダル靴については,商標を付す位置はある程度限定され同様のものになりやすく,シュータン,側面,中敷の踵に近い部分の3箇所に商標を付すのは一般的である,Cシュータンのデザインロゴ(原告使用商標A,使用権者商標A)も本件ブランドにおいて伝統的なデザインであり,原告固有のものではない,D原告商品以外の多数の原告の商品と,使用権者商品以外の多数の使用権者の商品は,まったく異なるデザインであるから,チヨダがデザインの盗用をしていないことが推認される,などと主張し,「混同」を生ずるおそれが認められないと主張する(第4の2(4),3(1),(3))。
しかし,@については,上方向から見ても,使用権者商品は,中敷の模様及び使用権者商標Bの色が原告商品と異なるだけで,原告商品の多数のカラーバリエーションの一つと理解される範囲内の違いであるし,後方から見たときには,踵の立ち上がりの高さ,踵に縫い付けられた布ないしビニール様の素材の青色の発色や形状,使用権者商標Dの有無が異なるものの,立ち上がりの高さは,スニーカーとクロッグサンダルという商品の種類自体の違いに起因するものであるし,その他の部分も,その位置及び商品全体の印象に占める割合からみて,その他の共通点が需要者に与える印象を超える印象を与えるものではないから,上方及び後方から見たときの違いをもって,原告商品と使用権者商品が似ておらず,混同を生じるおそれがないとはいえない。
Aのデザインの独創性については,確かに,白色のスニーカーやクロッグサンダルの側面に,青と赤の斜線を付したデザインの他社ブランドの商品が存在すること(甲204,205,226,乙1ないし7,乙20)や,本件ブランドにおいては,被服に赤と青の2本の斜線を入れたデザインが使用されたことがあること(甲213の23頁目,甲214の1頁目,乙23)が認められる。しかし,上記他社ブランドの商品の中にも,使用権者商品の販売当時に販売されていたもので,原告 40 商品と同じ,青系の線と赤線の細い2本の1組の斜線のみが隣接してスニーカーの外側側面に付されたデザインのものがあったとは認められないし,本件ブランドにおいても,過去に,靴の側面に青と赤の細い2本の1組の斜線を付したデザインが採用されたことを証する証拠はないことからすれば,靴における同デザインは,原告が独自に行ったものと認められる。そうすると,原告商品のデザインが独創性のないありふれたものであるとは認められず,使用権者商品のデザインが独創性のない部分でのみ類似するとは認められない。
Bの商標の付される位置についても,運動靴やクロッグサンダルについては商標を付す位置がある程度限定されており,スニーカー及びシュータンがあるスニーカー型のクロッグサンダルにおいては,シュータン,側面,中敷きの3箇所に文字又は図形の商標を付す例があることはそのとおりであるとしても(甲204ないし206,乙8の1ないし3,乙11ないし19〔枝番含む〕 ,3箇所すべてに商標を )付すのが一般的であるとまでは認められないし,使用権者商品は,商標を付す位置のみならず,各位置に付す商標の構成も,原告商品と同一又は類似しているものであるから,両商標の使用態様が,一般的なスニーカー等にみられる,ありふれた部分でのみ類似するものとは認められない。
Cのデザインロゴについては,確かに,英国の本件ブランドの冊子(甲214の2頁目及び3頁目),資料集(甲216の1頁目),ウエブサイト(甲212,217の1),本件ブランドの商品(乙21)においては,英国国旗の中央に白字で「ENGLAND」の文字を記載した図形標章(デザインロゴ)が使用されており,同図形標章は原告固有のものではないと認められる。しかし,このような図形の上段に「Admiral」の文字を組み合わせた標章を,靴のシュータン部分に付すという商標の使用が,原告の商品以外に本件ブランドの履物において過去にされたことを証する証拠はなく,そのような原告使用商標の使用態様は原告が独自に行ったものと認められる。そうすると,使用権者商標と原告使用商標の使用態様が,本件ブランドの過去のデザインに基づいたために必然的に類似したものとは認められな 41 い。
Dについては,原告商品と使用権者商品以外の多数の原告の商品と使用権者の商品が似ていないとしても,そのことは,原告商品と使用権者商品が必然的に似通ったものとなったということを証する事実であるとはいえない。
以上によれば,被告の主張する内容は,いずれも前記(2)の認定,判断を左右するものとはいえない。
なお,被告は,商品のデザインについては商標法とは関係がないから,デザインの類似を理由に商標の取消しが認められることとなれば,不当であるとも主張する(第4の3(3))。しかし,本件においては,使用権者商標の具体的な使用態様を理由として法53条1項の該当性が認められるのであって,被告の主張は理由がない。
オ 被告は,本件ブランドについては,原告及び被告以外に,他の指定商品の商標について他の権利者に譲渡やライセンスがされており,その結果,同じウエブサイト内で様々な出所の商品が販売される状態となっており,いずれもが本件ブランドについて英国の老舗ブランドと広告宣伝等を行ってきたことにより,それぞれの権利者の独自の商標としての周知著名性が認められないものとなっているから,混 「同を生ずるおそれ」はないと主張する(第4の3(3))。
しかし,法53条1項混同を生ずるおそれが認められるために,商品毎に権利者が異なることについて需要者が認識し得る状況になっていることが必要であるとはいえないことは,前記アのとおりであり(なお,同種の商品に同一の商標が付されているというだけで,法53条1項の混同が生じるおそれがあるということはできないことは前記(1)のとおりであり,上記ウエブサイト内の様々な商品について,当然に原告の業務に係る商品と混同が生じるおそれがあることにはならない。 ,被 )告の主張は採用できない。
カ 被告は,その他るる主張するが,いずれも,上記で判断した主張を繰り返すものであるか,前記(2)の認定,判断を左右するものではなく,採用することができない。
42 3 被告は,法53条1項ただし書の「当該商標権者がその事実を知らなかった場合において,相当な注意をしていた」といえるか。
(1) 証拠(甲229)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,チヨダが本件商標を付して販売する商品については,販売前にチヨダから写真とともに報告を受け,これを被告が確認した上で,販売を承諾することとしており,使用権者商品についても,事前に報告を受け,その全体の形状,デザイン,商標を付す位置や構成も知っていたことが認められる。
もっとも,被告は,当時,原告商品が販売されていたこと自体をそもそも認識していなかったから,不正使用の事実を知らなかった場合に当たると主張する。しかし,仮に同主張を前提としても,被告は,本件商標権から引用商標権が分割され,「履物(サンダル等を除く)」と,「サンダル等」という類似する指定商品について同一の商標に係る商標権が異なる権利者に移転され,サンダル等以外の履物についての商標権者である原告が,引用商標と同一又は類似する商標を付したタウン・シューズを当時既に販売していたことは認識していたのであり(弁論の全趣旨) そう ,である以上,被告は,使用権者に新たに本件商標を使用させるに当たっては,原告の商品の周知の程度や原告の商品における引用商標の具体的な使用態様を確認し,使用権者商標の具体的な使用態様が,原告の業務に係る商品との具体的な混同を生ずるおそれがないかどうかについて注意をする義務を負っていたというべきである。
そうすると,仮に被告が当時,具体的に原告商品自体を認識していなかったため,使用権者商標の具体的な使用態様が,原告の業務に係る商品における原告使用商標の使用態様と酷似し,同商品との混同を生ずるおそれがあることを知らなかったとしても,被告は,そのような混同が生じるおそれがあることを知るための相当の注意を欠いていたというべきである。
(2) これに対し,被告は,@原告使用商標の態様や,原告商品のデザインは,本件ブランドの商品に伝統的に使用されており,独創性がないものであることなどに鑑みれば,使用権者商品のデザインについてはパブリックドメインに属するもので 43 あると考えるのが自然であり,原告がこのようなデザインの商品を扱っていないかを調査すべき注意義務は負っていなかった,A被告は使用権者の選定において相当高度の注意を払っていた,B使用権者の使用状況については弁理士のアドバイスに従って事前承認をしていた,C弁理士のアドバイスによって,靴とサンダルの区別がつくように,チヨダの商品に下げ札には「販売元 (株)チヨダ」との記載を,下げ札,取扱説明書,箱には「Admiral SANDALS」との記載を,取扱説明書には「www.chiyodagrp.co.jp」との記載をさせていたから,相応の注意をしていたなどと主張する。
しかし,@については,前記2(4)エのとおり,原告使用商標の使用態様や原告商品のデザインが,本件ブランドの履物に伝統的に使用されているものであるとは認められず,独創性がないものであるとも認められないから,被告の主張はその前提を欠き,被告が,原告の商品における引用商標の使用態様を調査すべき注意義務を負っていなかったとはいえない(そもそも被告は,商標権が,靴については原告に,サンダルについては被告に分割譲渡されたので,両者の間で問題が生じないようにする必要があるとの認識を有していたので,チヨダの商品の事前承認をしていたと主張しながら,原告の代表的な人気商品である原告商品の存在すら認識していなかったというのであり,何ら原告の業務に係る商品についての調査を行っていなかったことが明らかである。。Aについては,商標権者は,使用権者の選定だけではな )く,その監督義務をも負うものであるから,選定のみで十分な注意義務を果たしたものとはいえない。Bについては,弁理士のアドバイスの下に事前承認をしていたといっても,その内容は,個別具体的な事例について,チヨダのデザインが「サンダル靴に当たるか否か」についてのアドバイスであったというのであり(甲230,231) 原告の業務に係る商品との混同のおそれについてのアドバイスを受け, , これについて相当の注意をしていたものとは認められない。Cについても,取引者及び需要者が通常有する認識及び注意力を前提とすれば,被告の主張する措置をもって,使用権者商品についての出所が,原告使用商標によって表示される原告の販売 44 する商品とは異なる出所に係る商品であることを,需要者に対して明示するものとしては足りないというべきであり,相当の注意をしていたものとは認められない。
(3) したがって,被告について,法53条1項ただし書の抗弁が成立するものとは認められない。
(4) なお,被告は,原告が,靴とサンダルとの分割譲渡に同意しておきながら,靴とサンダルとで権利者が異なることについて需要者に周知させるための活動も行っていないにもかかわらず,本件商標の登録の取消しを求める行為は,信義則違反又は権利濫用と評価されるべきであるとも主張する(第4の4(3))。しかし,原告使用商標は,使用権者商品の販売開始時点において,カジュアル・シューズの分野では,原告の販売する商品を表す商標として需要者及び取引者に相当程度認識されていたものであり,そのような取引の実情の下,チヨダが原告の商品と具体的な混同を生ずるおそれがある態様で使用権者商標の使用を開始したにもかかわらず,原告の方が被告の主張するような周知活動を行わなければ,本件商標の登録の取消請求をすることが信義則違反又は権利濫用に当たると解すべきような事情があるとは,本件全証拠によっても認められないから,被告の主張は採用できない。
4 結論 以上のとおり,原告の主張する取消事由には理由があり,同取消事由が各審決の結論を左右することは明らかであるから,各審決にはこれを取り消すべき違法がある。よって,原告の本件各請求はいずれも理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。
追加
45 裁判官大寄麻代裁判官平田晃史は,転補のため署名押印できない。
裁判長裁判官設樂一46 別紙1商品の対比(写真左側)原告商品(写真右側)使用権者商品47 別紙2使用商標の対比使用権者商品原告商品1シュータン(靴ベロ)の表面部分使用権者商標A原告使用商標A(各商標部分を拡大したもの)48 2側面使用権者商標B原告使用商標B3中敷部分使用権者商標C原告使用商標C4踵の下部使用権者商標D49
裁判長裁判官 設樂一
  • この表をプリントする