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関連審決 取消2014-300041
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成22ネ10084販売差止等請求控訴事件 判例 商標
平成27ネ10073 商標権侵害差止請求控訴事件 判例 商標
平成18ワ20985商標使用権抹消登録請求事件 平成19ワ27767請求事件 判例 商標
平成23行ケ10282審決取消請求事件 判例 商標
平成26ネ10137 商標権侵害差止請求控訴事件 判例 商標
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事件 平成 26年 (ネ) 10129号 商標権侵害差止請求控訴事件

控訴人興和株式会社
訴訟代理人弁護士北原潤一
同 江幡奈歩
同 梶並彰一郎
訴訟代理人弁理士高野登志雄
被控訴人沢井製薬株式会社
訴訟代理人弁護士小松陽一郎
同 川端さとみ
同 森本純
同 山崎道雄
同 辻淳子
同 藤野睦子
同 大住洋
同 中原明子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/08/27
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 控訴人の当審における交換的変更に係る請求をいずれも棄却する。
2 当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
- 1 -事実及び理由第1 控訴の趣旨1 被控訴人は,別紙標章目録1ないし3記載の各標章を付した薬剤を販売してはならない。
2 被控訴人は,前項記載の薬剤を廃棄せよ。
第2 事案の概要本件は,「PITAVA」の標準文字からなる商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である控訴人が,別紙標章目録1ないし3記載の各標章(以下「被控訴人各標章」と総称し,それぞれを同目録の番号に従い「被控訴人標章1」などという。)を付した薬剤を販売する被控訴人の行為が控訴人の有する商標権の侵害(商標法37条2号)に該当する旨主張して,被控訴人に対し,同法36条1項及び2項に基づき,上記薬剤の販売の差止め及び廃棄を求めた事案である。
控訴人は,原審において,指定商品を第5類「薬剤」とする別紙商標権目録1記載の商標権(以下「本件商標権」という。)の侵害を請求原因として主張し,被控訴人各標章を付した薬剤の販売の差止め及び廃棄を求めた。
原判決は,被控訴人各標章は本件商標に類似する商標に該当すると認定した上で,@本件商標の指定商品のうち,「ピタバスタチンカルシウム」を含有しない薬剤に本件商標を使用した場合には,需要者等が当該薬剤に「ピタバスタチンカルシウム」が含まれると誤認するおそれがあるので,本件商標は「商品の品質」の誤認を生ずるおそれがある商標」(商標法4条1項16号)に該当し,本件商標の商標登録は無効審判により無効にされるべきものであるから,控訴人は,本件商標権を行使することができない(同法39条,特許法104条の3第1項),A本件商標の商標登録には商標法50条1項所定の取消事由があり,不使用取消審判により取り消されるべきことが明らかであるから,控訴人による本件商標権の行使は,権利の濫用に当たり,許されないとして,控- 2 -訴人の請求をいずれも棄却した。控訴人は,原判決を不服として,本件控訴を提起した。
控訴人は,本件控訴の提起後,本件商標権の分割の申請をし,本件商標権は,指定商品を第5類「薬剤但し,ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤を除く」とする別紙商標権目録2記載の商標権と指定商品を第5類「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」とする同目録3記載の商標権(以下「本件分割商標権」という。)に分割された(甲24,25の1,2)。
その後,控訴人は,当審において,請求原因を本件商標権の侵害から本件分割商標権の侵害に変更する旨の訴えの交換的変更をした。
1 前提事実(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)(1) 当事者控訴人と被控訴人は,いずれも医薬品等の製造,販売等を業とする株式会社である。
(2) 控訴人の商標権控訴人は,本件商標について本件分割商標権(別紙商標権目録3参照)を有している。
(3) 被控訴人の行為等ア 被控訴人は,平成25年12月から,販売名を「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」とする薬剤(以下「被控訴人商品1」という。),販売名を「ピタバスタチンCa錠2mg「サワイ」」とする薬剤(以下「被控訴人商品2」という。)及び販売名を「ピタバスタチンCa錠4mg「サワイ」」とする薬剤(以下「被控訴人商品3」といい,また,被控訴人商品1ないし3を総称して「被控訴人各商品」という場合がある。)を販売している(乙5)。
被控訴人各商品は,錠剤であり,その錠剤の外観は,それぞれ別紙全体- 3 -標章目録1ないし3記載のとおりである(以下,これらの外観を総称して「被控訴人各全体標章」という場合がある。)。
被控訴人商品1の錠剤の中央には被控訴人標章1が,被控訴人商品2の錠剤の中央には被控訴人標章2が,被控訴人商品3の錠剤の中央には被控訴人標章3が,それぞれ付されている。
被控訴人各商品は,一般的名称(JAN)を「ピタバスタチンカルシウム」(国際一般名(INN)は「pitavstatin」)とする化学物質(以下「本件物質」という場合がある。)を有効成分とするHMG−CoA還元酵素阻害剤である(乙1の2,2の1,2,5)。
また,被控訴人各商品は,医師等の処方箋により使用する「処方箋医薬品」である(乙5)。
イ 一方,控訴人は,平成15年9月当時から,ピタバスタチンカルシウムを有効成分とするHMG−CoA還元酵素阻害剤として,販売名を「リバロ錠1mg」,「リバロ錠2mg」又は「リバロ錠4mg」とする各薬剤(以下「控訴人各商品」と総称する。)を販売している(乙3,4の1,2)。
控訴人各商品と被控訴人各商品とは,控訴人各商品が先発医薬品(新薬),被控訴人各商品がその後発医薬品(ジェネリック医薬品)の関係にある。
2 争点(1) 被控訴人各標章ないし被控訴人各全体標章と本件商標の類否(争点1)(2) 被控訴人各全体標章ないし被控訴人各標章の商標法26条1項6号該当性(争点2)(3) 被控訴人各標章の商標法26条1項2号該当性(争点3)(4) 商標登録の無効理由による権利行使制限の成否(争点4)(5) 権利の濫用の成否(争点5)第3 争点に関する当事者の主張- 4 -1 争点1(被控訴人各標章ないし被控訴人各全体標章と本件商標の類否)について争点1に関する当事者の主張は,「被告各標章」を「被控訴人各標章」と,「被告全体標章」を「被控訴人各全体標章」と,「被告各商品」を「被控訴人各商品」とそれぞれ改めるほか,原判決3頁18行目から5頁12行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
2 争点2(被控訴人各全体標章ないし被控訴人各標章の商標法26条1項6号該当性)について(1) 被控訴人の主張商標法26条1項6号は,商標は本来的には自他商品等の識別のために使用すべきものであるから,本来保護すべき範囲以上の権利を商標権者に与えるような事態や,当該商標権者以外による商標の使用が必要以上に自粛されるような事態等の発生をあらかじめ防ぐため,いわゆる商標的使用がされていない商標,すなわち,需要者が,取引の時点において,同一の商標が使用されている商品又は役務の出所が同一であると認識できる態様(自他商品識別機能出所表示機能を果たす態様)で使用されていない商標には,商標権の効力が及ばないことを明らかにしたものと解される。
以下のとおり,被控訴人各商品における被控訴人各全体標章ないし被控訴人各標章の使用は,自他商品識別機能出所表示機能を発揮しない態様による使用であり,いわゆる商標的使用に当たらないから,同号の商標に該当する。
ア 「需要者」について医療用医薬品は,医師によって使用され,又はこれらの者の処方箋若しくは指示によって使用されることを目的として供給されるものであり,このような医療用医薬品の供給形態に鑑みると,医療用医薬品において購買決定に関わるのは,医師が使用を決定する場面及び医療機関や薬局が医療- 5 -用医薬品を購入する場面のみであるから,医療用医薬品の主たる取引者,需要者は,医師,薬剤師等の「医療関係者」である。
一方,患者は,他の医薬品と自ら対比等をすることなく,医師による指示に基づいてのみ医療用医薬品を購入するから,処方箋医薬品の取引者,需要者には含まれない。特に医療用後発医薬品(ジェネリック医薬品)は,先発医薬品(新薬)の特許期間満了後,有効成分や製法等が国民共有の財産となった後に販売される医薬品であり,同じ成分の他社製品が数多く出回ることとなるため,医療機関や薬局の多くは,一つの有効成分に対して後発医薬品を1種類に絞って在庫を準備しているのが現状であり(乙71),患者は先発医薬品か後発医薬品のいずれかの購入を希望するかどうかを決定する機会を与えられることはあっても,後発医薬品の中の銘柄を指定又は希望することはできない。
したがって,被控訴人各商品のような後発医薬品については,その取引者,需要者に患者は含まれず,医師,薬剤師等の「医療関係者」のみが,取引者,需要者である。また,仮に患者が錠剤の表示に基づいてその出所を識別し当該薬剤を選択するようなことがあるとしても,それは極めて限られた状況下のことであり,主たる取引者,需要者に患者が含まれないことに変わりはない。
イ 「取引の時点」及び「使用態様」について(ア) 前記アのとおり,医療用医薬品において購買決定に関わるのは,医師が使用を決定する場面及び医療機関や薬局が医療用医薬品を購入する場面のみであるから,医療用医薬品における「取引の時点」は,医師が使用を決定する時点又は医療機関や薬局が購入する時点である。
被控訴人各商品は,包装箱,ピロー包装,さらにPTPシートに順次梱包された状態にあり(乙29),医師,薬剤師,医療機関が,上記取引の時点において,被控訴人各商品の錠剤に付された被控訴人各全体標- 6 -章ないし被控訴人各標章を視認することはない。
すなわち,被控訴人商品の包装箱には,その六面体のいずれにも「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」,「ピタバスタチンCa錠2mg「サワイ」」又は「ピタバスタチンCa錠4mg「サワイ」」の表示のみが印字されており,被控訴人各全体標章ないし被控訴人各標章は印字されていない。また,この包装箱を開封すると不透明のピロー包装がされており,このピロー包装の表面にも,繰り返し「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」,「ピタバスタチンCa錠2mg「サワイ」」又は「ピタバスタチンCa錠4mg「サワイ」」の表示のみが印字されており,被控訴人各全体標章ないし被控訴人各標章は印字されていない。
さらに,ピロー包装を開封すると,10錠ずつ包装されたPTPシートを10枚取り出せるが,医療機関や医師,薬剤師がPTPシートのみを何枚か購入するというようなことはあり得ない。各PTPシートには一錠単位でその両面に「ピタバスタチンCa」が繰り返し印字されており,また,シート上部にも「ピタバスタチンCa」の表示がある。この状態で,PTPシートの黄色透明のプラスチックを通して錠剤を確認できないことはないが,錠剤に付された被控訴人各全体標章ないし被控訴人各標章の印字は判読し難い。
したがって,商標の出所表示機能が発揮される取引の時点において,「医療関係者」が,被控訴人各商品の錠剤に付された被控訴人各全体標章ないし被控訴人各標章を視認することはなく,販売名である「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」,「ピタバスタチンCa錠2mg「サワイ」」又は「ピタバスタチンCa錠4mg「サワイ」」のみが識別される。
(イ) 一部の病院薬剤部では,複数種の薬剤(錠剤又はカプセル)をPTPシートから取り出して1回の服用分ごとにまとめて小袋に封入され- 7 -(一包化調剤),薬袋に入れられて患者に渡される場合がある。この場合において,薬剤師又は患者が透明な袋に一包化された複数の薬剤の各々を認識するのは,調剤時又は服用時であって,医薬品が納入された後の取引終了後であるから,取引の時点で,薬剤師又は患者が錠剤に付された被控訴人各全体標章ないし被控訴人各標章を視認することがない点に変わりはない(ウ) 以上のとおり,被控訴人各商品の錠剤に付された被控訴人各全体標章ないし被控訴人各標章は,商標の出所表示機能が発揮される取引の時点で,需要者に認識されることはない。
ウ 錠剤にピタバを印字する目的について平成17年9月22日以降に承認される医療用後発医薬品については,医療事故を防止するために,原則として含有する有効成分に係る一般的名称を基本として販売名としなければならないとの医薬行政上の規制(乙9)がある。
そこで,被控訴人は,このような規制の下で,被控訴人商品について,一般的名称である「ピタバスタチンカルシウム」(JAN)ないしそれに類似する国際一般名である「PITAVASTATIN」(INN)をその販売名に採用したものである。
被控訴人各標章は,ピタバスタチンカルシウムの略称であり,調剤ミスや誤飲等を避ける目的で,調剤時や服用時にPTPシートから取り出された錠剤が何であるかを示すために,小さな錠剤の表面に表示されたものであって,単に商品が何かを説明する記述的なものであり,顧客吸引力とは無関係である。
そして,有効成分そのものではなく,略称を印字するのは,錠剤の大きさは小さい方が飲みやすいが,表面面積が狭くなるため,文字が小さすぎて判読できなければ錠剤間の識別は困難である上,多くの情報が印刷され- 8 -ると文字が細かくなって読みにくく煩雑であるとの弊害があり,これらの相矛盾する要請の中で,「使いやすい,分かりやすい,また間違えにくい」表記が求められているためである(乙31ないし36)。
エ 調剤時又は服用時における医療従事者,患者の認識について(ア) 被控訴人各商品の錠剤に付された被控訴人各全体標章ないし被控訴人各標章が,商標の出所表示機能が発揮される取引の時点で,医療関係者及び患者に視認されることはないことは,前記イのとおりである。
そして,医療従事者又は患者は,調剤時又は服用時に被控訴人各全体標章ないし被控訴人各標章を目に触れることはあるが,その場合であっても,「ピタバ」の表示は被控訴人各商品の販売名又は有効成分の略称と認識するにすぎない。
「ピタバ」は,有効成分に係る一般的名称である「ピタバスタチン」の略称として医薬品業界においては一般的に用いられており,「ピタバスタチン」を販売名とする後発医薬品は,被控訴人商品以外にも多数存在し,錠剤に「ピタバ」との表記を用いていることも少なくないこと(乙79の1の1,2,79の2ないし4)から,「ピタバ」は,有効成分「ピタバスタチン」の略称として認識される。
また,前記イ(ア)のとおり,被控訴人各商品の包装箱,ピロー袋,PTPシートにおける「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」,「ピタバスタチンCa錠2mg「サワイ」」又は「ピタバスタチンCa錠4mg「サワイ」」との販売名の記載やその販売名の一部である「ピタバスタチンCa」,「ピタバスタチン」の記載,さらには,薬袋,薬の説明書等の記載からも,医療従事者や患者は,錠剤に付された被控訴人各全体標章に接する前の段階で,繰り返し上記販売名からなる標章に接している。
したがって,医療従事者又は患者は,調剤時又は服用時に被控訴人各- 9 -全体標章を目にすることがあっても,あらかじめ認識している被控訴人各商品の販売名に照らし,被控訴人各全体標章を上記販売名や有効成分の略称として認識するから,被控訴人各全体標章ないし被控訴人各標章に出所表示機能はない。
(イ) 控訴人は,これに対し,錠剤に付された「ピタバ」の表示に関するアンケート調査の結果(甲23)によれば,患者が「ピタバ」の表示を有効成分の説明的表示であると認識することはなく,むしろ,「商品名」と認識しており,「商品名」とは出所識別機能を果たす表示にほかならないから,錠剤に付された「ピタバ」の表示は,出所表示機能を発揮する表示である旨主張する。
しかしながら,上記アンケートの手法は,実際の服用場面とは異なり,回答者に前提となる情報を与えず,「有効成分」の意味を整理・説明することもなく,漠然と回答を求めたものである点において適切ではなく,これにより正確な調査結果が得られないことは明らかである。
すなわち,患者は,甲23のアンケートのように,いきなり被控訴人各全体標章が付された錠剤(写真@)やPTPシート(写真A)に接するわけではなく,医師による診察を受けた上で,医師の処方時あるいは薬を購入する際の薬剤師からの説明時に,先発医薬品か後発医薬品かの選択をし,被控訴人商品が先発医薬品の存在する後発医薬品であることを認識した上で,被控訴人各全体標章に接するものであるが,甲23のアンケートでは,このような前提情報が回答者に与えられていないし,「有効成分」の意味についての説明もされていない。
また,実際に患者が服用時にまず手にとるのは,被控訴人各商品の販売名全体が表示されたPTPシートであるが,甲23では,PTPシートから取り出した錠剤を拡大して表示する一方(写真@),PTPシートについては縮小して表示しているため(写真A),実際に患者が受け- 10 -る印象とは大きく異なる。
このような写真の掲載方法によれば,回答者の認識と患者が実際に手に取った時の認識とは,大きくかけ離れざるを得ない。
したがって,控訴人の上記主張は失当である。
オ 小括以上のとおり,被控訴人各商品における被控訴人各全体標章ないし被控訴人各標章の使用は,出所表示機能を発揮しない態様による使用であって,商標的使用に当たらないから,被控訴人各全体標章ないし被控訴人各標章は商標法26条1項6号の商標に該当する。
したがって,本件分割商標権の効力は,被控訴人各全体標章ないし被控訴人各標章に及ばない。
(2) 控訴人の主張ア 商標法26条1項6号の商標に該当しないこと以下のとおり,被控訴人各商品の取引者,需要者である患者において,被控訴人各商品の錠剤に付された被控訴人各標章が出所識別機能を発揮する表示であると認識されないということはできないから,被控訴人各標章は,商標法26条1項6号の商標に該当しない。
(ア) 患者は,薬剤である被控訴人各商品の最終購入者であること,高コレステロール症治療剤である被控訴人各商品のような長期間反復継続して購入・服用される薬剤の場合,患者は,購入する薬剤について実質的な選択権があるといえるし,少なくとも購入する薬剤の決定過程に影響を与える立場にあることからすると,患者が被控訴人各商品の取引者,需要者であることは明らかである。
しかも,被控訴人各標章を含む,被控訴人各商品の錠剤の表示は,医療関係者よりも,患者において,他の薬剤と区別できるように印字又は刻印されたものであって,患者に認識されることを目的としたものであ- 11 -ることに照らせば,被控訴人各標章の使用が商標的使用でないかを論じる上で,患者の認識は重視されるべきである。
しかるところ,被控訴人各標章が,需要者である患者において,「何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に該当することを示す証拠は存在しない。むしろ,被控訴人各標章の「ピタバ」の表示は,別紙全体標章目録のとおり,被控訴人各商品の錠剤の表面に付されており,これに触れた患者は,被控訴人標章が付された被控訴人各商品が「何人かの業務に係る商品である」と認識することができるといえる。
したがって,被控訴人各標章は,患者において,「何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されて」いるものといえる。
(イ) 患者は,自らの症状を治すために薬剤を服用するのであって,薬剤の効果や副作用について興味を持つことはあるとしても,よほど特殊な事情がない限り,当該薬剤の化学物質である有効成分の名称が何であるかについて興味や知識を持っていないのが通常である。また,医師,薬剤師も,患者に対して薬剤を処方するに際し,薬剤の効果や副作用を説明することがあるとしても,通常,当該薬剤の有効成分の名称が何であるかを説明することはない。
しかるところ,被控訴人各商品の有効成分の名称が何であるかについて興味も知識もなく,説明も受けていない患者が,被控訴人各商品の錠剤に表示された「ピタバ」の表示に触れたときに,それが「有効成分」を示すものであると認識するとはいえない。たとえ,患者が被控訴人各商品のPTPシートに付された「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」等の表示に触れた上で,被控訴人各商品の錠剤に表示された「ピタバ」に触れたときに,「ピタバ」が販売名たる「ピタバスタチンCa錠1m- 12 -g「サワイ」」等のうち「ピタバスタチンCa」の一部の表示あるいはそれに由来する表示であると認識することがあったとしても,「ピタバ」を「有効成分」としての「ピタバスタチンCa」を意味するものと認識することはない。
さらに,薬剤の錠剤に付された「ピタバ」の表示に関するアンケート調査の結果(甲23)に照らしても,患者が被控訴人各標章を有効成分の説明的表示であると認識するといえないことは明らかである。
すなわち,上記アンケート調査は,医師から処方された高脂血症治療薬を3か月以上服用している患者700名を対象に,4つの質問を提示し,薬剤の錠剤に付された「ピタバ」の表示をどのように認識・推測するかなどを調査したものである。上記アンケート調査の結果によれば,薬剤の錠剤に付された「ピタバ」の表示について,「この薬の有効成分(薬の効果をもたらす成分)の名前(またはその一部)」と回答したのは全体の15%にすぎず,残りの85%は「有効成分の名称(またはその一部)」であるとは認識しなかったものであり,この結果に照らせば,通常,患者が,「ピタバ」を有効成分の説明的表示であると認識するといえないことは明らかである。
むしろ,全体の43%が薬剤の錠剤に付された「ピタバ」の表示を「この薬の商品名」と認識しており,「商品名」とは出所識別機能を果たす表示にほかならないから,錠剤に付された「ピタバ」の表示は出所識別機能を発揮する表示であるといえる。
被控訴人は,上記アンケートに関し,アンケート手法は,実際の服用場面とは異なり,回答者に前提となる情報を与えていない点において不適切である旨主張する。
しかしながら,上記アンケート調査結果によれば,処方される薬について,医師や薬剤師から「薬の有効成分の名前」について,説明を受け- 13 -たことがあると回答したのは,25%にすぎないことからすると,患者が医師や薬剤師から「薬の有効成分の名前」の説明を受けることが一般的でないことは明らかであるから,回答者に前提となる情報を与えていないことは不適切なものではなく,被控訴人の上記主張は失当である。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,被控訴人各商品の取引者,需要者である患者において,被控訴人各標章が出所識別機能を発揮する表示であると認識されないということはできないから,被控訴人各標章は,商標法26条1項6号の商標に該当しない。
(エ) 被控訴人は,これに対し,商標法26条1項6号は,需要者が,取引の時点において,同一の商標が使用されている商品又は役務の出所が同一であると認識できる態様(自他商品識別機能出所表示機能を果たす態様)で使用されていない商標には,商標権の効力が及ばないことを明らかにした規定であることを理由に,同号が問題となる場面を「取引の時点」に限定して解釈するとともに,患者が「需要者」に含まれないという前提に立ち,被控訴人各標章は同号の商標に該当する旨主張する。
しかしながら,まず,商標法26条1項6号は,「前各号に掲げるもののほか,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」と規定しており,その文言から,同号が問題となる場面が「取引の時点」に限定されると解する余地はない。たとえ需要者が商品を購入する時点において,当該表示が包装等により需要者の目に触れないとしても,需要者が,当該商品を使用する過程で目に触れる表示であれば,需要者は,当該商品を使用する過程において,当該商品に付された表示を繰り返し目にすることにより,当該商品の出所や品質と当該表示との関連性を認識・評価し,当該表示についてのイメージを形成するから,当該表示は商標として使用されているといえる。
- 14 -次に,被控訴人は,患者が「需要者」に含まれないことの根拠として,医療機関や薬局の多くは,一つの有効成分に対して後発医薬品を1種類に絞って在庫を準備しているのが現状であり,患者は先発医薬品か後発医薬品のいずれかの購入を希望するかどうかを決定する機会を与えられることはあっても,後発医薬品の中の銘柄を指定又は希望することはできない点を挙げるが,医療機関や薬局は,複数の種類の後発医薬品を在庫として保管することが禁じられているわけではなく,必ずしも「後発医薬品を1種類に絞ってその後発医薬品の在庫のみを備えることが通常」であるということはできない。また,仮に医療機関や薬局において後発医薬品を1種類しか取り扱っていないとしても,後発医薬品に係る処方箋を取得した患者は,所望の銘柄を取り扱う薬局を選択することにより,希望する銘柄の後発医薬品を購入することもできる。
さらに,被控訴人は,誤飲防止のための表示であれば,出所識別機能を発揮するものではないことや,錠剤の表示面積等から,「ピタバスタチン」ではなく,「ピタバ」と表示する必要があったことを被控訴人各標章が出所表示機能を有しないことの根拠として挙げている。
しかしながら,誤飲防止のための表示とは,まさに被控訴人各商品を他の商品と識別する機能を発揮する態様の表示であり,出所識別機能を発揮する態様の表示である。また,ピタバスタチンカルシウムを主成分とする薬剤を販売している後発医薬品メーカーのうち,錠剤に「ピタバ」の語を印字して,使用しているのは被控訴人ら6社のみであって,その他18社はいずれも「ピタバ」の語を使用していないし,「ピタバスタチン」との表示の付された錠剤もあり(甲36),被控訴人のように,「ピタバ」の表示を用いなければならない必要性は全く存在しない。
したがって,被控訴人各全体標章ないし被控訴人各標章は商標法26条1項6号の商標に該当するとの被控訴人の主張は理由がない。
- 15 -イ 小括以上によれば,被控訴人各全体標章ないし被控訴人各標章は,商標法26条1項6号の商標に該当するものとはいえないから,本件分割商標権の効力が被控訴人各標章に及ばないとの被控訴人の主張は,理由がない。
3 争点3(被控訴人各標章の商標法26条1項2号該当性)について(1) 被控訴人の主張ア 商標法26条1項2号の商標に該当すること被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,本件分割商標権の指定商品である「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」の「普通名称」又は「原材料」を普通に用いられる方法で表示する商標であるといえるから,被控訴人各標章は,商標法26条1項2号の商標に該当する。
(ア) 商標法3条1項1号は,指定商品普通名称のみからなる商標の登録を不許としているところ,その趣旨は,普通名称がその使用を一般に認めるべき言語であり,特定人に独占させるべきでないので登録が許されないという点(独占適応性欠如)にあり,同項3号の趣旨も,これと同様である。
また,審査実務においては,同項1号における商品又は役務の「普通名称」には,アルミ(アルミニウム),パソコン(パーソナルコンピュータ)など,原則として,その商品又は役務の略称も含むものとした運用がされている(商標審査基準(改訂第11版)。
そして,同法26条1項2号は,同号に規定する商標が同法3条1項1号ないし4号に規定する商標に該当し,本来,いずれも商標登録を受けることができないはずであるため,当該商標権の行使を受けた第三者において商標登録の無効審判の請求をするまでもなく,その救済を与えることを制度趣旨の一つとしているから,対象となる商標が同法26条- 16 -1項2号の「普通名称」又は「原材料」に該当するかどうかを判断するに当たっても,同法3条1項1号又は3号と同様,独占適応性欠如のものを除外するという観点から判断すべきである。
(イ) 「ピタバスタチンカルシウム」とは,「ピタバ」と,HMG−CoA還元酵素阻害薬の総称として周知の普通名称である「スタチン」(乙17ないし20)と,カルシウム塩であることを示す「カルシウム」とからなる造語であり,スタチン系薬の一つであるピタバスタチンのカルシウム塩を意味することは医薬品業界の取引者に広く認識されている。
そのため,医薬品業界においては,「ピタバ」が「ピタバスタチンカルシウム」の略称として一般的に用いられている。なお,スタチン系医薬品(アトルバスタチン,フルバスタチン,ロスバスタチン,プラバスタチン,シンバスタチン,ピタバスタチン)については,同様に,「スタチン」以下が省略されて,例えば,アトルバスタチンについて「アトルバ」,ロスバスタチンについて「ロスバ」等の略称が一般に用いられている(乙17,20,25,26,79の1の1,2,79の2ないし4等)。
同様に,「PITAVA」が「PITAVASTATIN」の略称であることは,米国食品医薬品局(FDA)の安全性通信(FDA Drug SafetyCommunication。乙21)において,「Pitava=Pitavastatin」と表記し,「Pitava」の略称として用いていることからも明らかである。また,「ピタバスタチン」の略称として「PITAVA」が用いられることも珍しくはなく(乙17,19,22ないし24),控訴人も自ら,「図中…PITAVAはピタバスタチンを意味する」(乙22の段落【0010】,【図1】,乙23の段落【0012】,【図1】)として,「ピタバスタチン」の略称として「PITAVA」を使用している。
以上のとおり,「ピタバ」は,一般的名称である「ピタバスタチンカ- 17 -ルシウム」の略称であることは,医薬品業界の取引者に広く認識されている。
したがって,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章) 「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」の「普は,通名称」又は「原材料」を表示するものであり,特定人に独占させるべきものではなく,独占適応性が欠如しているから,商標法26条1項2号に該当する。
イ 小括以上によれば,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,本件分割商標権の指定商品である「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」の「普通名称」又は「原材料」を普通に用いられる方法で表示する商標であるといえるから,被控訴人各標章は,商標法26条1項2号の商標に該当し,本件分割商標権の効力は,被控訴人各標章に及ばない。
(2) 控訴人の主張ア 商標法26条1項2号の商標に該当しないこと(ア) 被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)が,「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」の「普通名称」又は「原材料」を普通に用いられる方法で表示する商標(商標法26条1項2号)に該当するというためには,需要者である患者において,被控訴人各標章が「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」の「普通名称」(当該薬剤を指すものとして一般に認識されている名称)又は「原材料」を示すものであると認識されており,かつ,その表示方法が普通に用いられる方法での表示であるといえなければならない。
(イ) しかるところ,一般に「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」を「ピタバ」と呼称することはなく,需要者である患者において,「ピ- 18 -タバ」は,「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」を指すものとして一般に認識されている名称であるとはいえないから,「普通名称」に該当しない。
また,仮に商標法26条1項2号の「普通名称」には,その「略称」が含まれるとの解釈に立ったとしても,当該略称が同号に該当するというためには,需要者において,当該略称が指定商品の「普通名称」の略称として一般に認識されていること,あるいは,当該略称自体が指定商品を指すものとして一般に認識されていることが必要であるが,「ピタバ」が「ピタバスタチンカルシウム」の略称として一般に認識されているという証拠はないし,「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」という指定商品を指すものとして一般に認識されているという証拠もない。
(ウ) 次に,被控訴人の主張が「ピタバスタチンカルシウム」を「原材料」の表示と捉えて,「ピタバ」は,原材料の表示たる「ピタバスタチンカルシウム」の略称であるから,商標法26条1項2号に該当するという主張であるとしても,かかる主張が成り立つためには,単に「ピタバ」が原材料の表示たる「ピタバスタチンカルシウム」の略称として用いられたことがあるというだけでは十分ではなく,需要者において,「ピタバ」が,実質的に「原材料の表示」と認識されているといえる程度に,「ピタバスタチンカルシウム」の略称として一般に認識されていることが必要である。
しかるところ,需要者である患者において,実質的に「原材料の表示」と認識されているといえる程度に,「ピタバスタチンカルシウム」の略称として一般に認識されていることを示す証拠はない。
さらに,同号の「普通に用いられる方法で表示」の要件は,例えば,「原材料の表示」として一般に認識されている「A」という表示を,フ- 19 -ォントなどを変えて「A’」と表示したときにその表示態様が「普通に用いられる方法で表示」するものといえるかという点に関するものであり,「原材料の表示」として一般に認識されている「A」とは全く異なる「B」という表示を用いた場合には,「普通に用いられる方法で表示」の要件を充足しない。
しかるところ,「ピタバスタチンカルシウム」を「原材料の表示」と捉えた場合に,「ピタバスタチンカルシウム」(「A」)とは全く異なる「ピタバ」(「B」)という表示は,「ピタバスタチンカルシウム」を「普通に用いられる方法で表示」したものには当たらない。
(エ) 被控訴人が指摘する各文献は,「ピタバ」又は「PITAVA」が「ピタバスタチンカルシウム」の略称として一般的に認識されていたことの根拠となるものではない。
すなわち,被控訴人が指摘する乙21ないし24,79の1の1ないし79の3は,いずれも,「pitavastatin」あるいは「ピタバスタチン」を「pitava」と略記することを明記した上で,図においてスペースの都合上「pitava」との略記を用いているにすぎない。
また,被控訴人は,ピタバスタチンカルシウム以外のスタチン系の省略形の資料として,乙20等を挙げるが,これらの資料はピタバスタチンカルシウムと直接関係のある資料ではないし,その内容を見ても「atorvastatin (Atorva)」などといずれも略記することを明記した上で,図においてスペースの都合上,略記を用いているにすぎない。
したがって,被控訴人が指摘する文献から,本件商標の登録査定時はもとより,被控訴人各商品の販売が開始された平成25年12月以降の現時点においても,「ピタバ」又は「PITAVA」が「ピタバスタチンカルシウム」の略称として一般的に認識されているということはできない。
- 20 -このことは,標題に「Pitava」又は「ピタバ」の語を含む104件の文献のうち,「Pitava」等の略記を用いた文献はわずか2件のみで,その他の102件は,略記を用いず,「Pitavastatin」等と表記していること(甲26)からも明らかである。
また,甲36によれば,ピタバスタチンカルシウムを主成分とする薬剤を販売している後発医薬品メーカーのうち,錠剤に「ピタバ」の語を印字して使用しているのは被控訴人ら6社のみであって,その他の18社はいずれも「ピタバ」の語を使用しておらず,このことは,「ピタバ」が「ピタバスタチンカルシウム」の略称であると認識されていないことを示すものである。
さらに,被控訴人は,控訴人が本件分割商標権の侵害を主張している商品(被控訴人各商品を含む)において,「ピタバ」の表記がされていることを指摘しているが,商標権を侵害する商品の表記を根拠にして,当該商標権侵害が否定されるというのは背理であるから,当該商品の表記に基づいて,「ピタバ」が「ピタバスタチンカルシウム」の略称として一般に認識されるに至ったという主張は成り立ち得ない。
イ 小括以上によれば,被控訴人各標章は商標法26条1項2号の商標に該当するものとはいえないから,本件分割商標権の効力が被控訴人各標章に及ばないとの被控訴人の主張は,理由がない。
4 争点4(商標登録の無効理由による権利行使制限の成否)について争点4に関する当事者の主張は,次のとおり訂正するほか,原判決6頁末行から9頁1行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決7頁2行目の「本件商標権」を「本件分割商標権」と改める。
(2) 原判決8頁6行目の「後記(4)(被告の主張)イ記載のとおり」を「後記5のとおり」と改め,同頁21行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
- 21 -「 また,本件分割商標権の指定商品は,「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」であって,ピタバスタチンカルシウムを含有しない薬剤は指定商品ではないから,本件分割商標権に基づく請求について,本件商標の商標法4条1項16号該当性が問題となる余地はない。」5 争点5(権利の濫用の成否)について争点5に関する当事者の主張は,次のとおり訂正するほか,原判決9頁3行目から12頁1行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決9頁5行目の「前記(3)(被告の主張)ウ記載のとおり」を「前記4で述べたとおり」と,同頁18行目の「同条1項」を「商標法50条1項」と,同頁20行目の「前記(2)(被告の主張)のとおり」を「前記2(1)のとおり」と,同頁22行目から23行目にかけての「本件取消審判請求」を「本件商標について不使用取消審判請求(取消2014−300041号。乙50)」とそれぞれ改める。
(2) 原判決10頁5行目,14行目及び16行目の各「被告各標章」を「被控訴人各標章」と,同頁6行目及び19行目の各「被告各商品」を「被控訴人各商品」とそれぞれ改める。
(3) 原判決11頁2行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
「 さらに,控訴人は,本件控訴の提起後に,本件商標権を分割し,本件分割商標権に基づく権利行使をするに至ったが,このような権利行使は,権利の濫用の典型といえる。
すなわち,本件商標の登録前に,スタチン系の医療用医薬品について「Pitava」,「Simva」,「Atorva」等の略称が医療分野において使用されていた事実があり,その登録後に,文献や現実の後発医薬品にこれらの略称が使用されている事実が多数存在し(乙79の1の1,2,79の2ないし4),現時点では,「PITAVA」の表示がピタバスタチンカルシウム(本件物質)を想起させる略称として普通名称化して- 22 -いるのに,あえて何らの審査も経ない手続で本件商標権を分割して,本件分割商標権に基づく権利行使をすることは,権利の濫用の典型といえる。」(4) 原判決11頁3行目の「本件商標権」を「本件分割商標権」と改める。
(5) 原判決11頁20行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
「 原判決は,これに対し,本件契約(甲3)は本件商標の積極的な使用を許諾する契約ではなく,キョーリンリメディオが本件商標と類似する「ピタバ」の表示の使用を速やかに中止することを前提に,既に製造し在庫を保有している製品の限度内でその販売等に対する本件商標権侵害に基づく差止め等を行わないという,禁止権行使の猶予を合意したものであると解される旨判断した。
しかしながら,本件契約において,キョーリンリメディオは,契約締結時の在庫の販売が完了するまでの間,「ピタバ」を付した製品を新たに製造して販売することができるのであるから,まさに本件契約は,「商標の積極的な使用を継続的に許諾する契約」にほかならない。また,仮に,本件商標と類似する「ピタバ」について「禁止権行使の猶予」を受けたにすぎない者は商標法50条1項の「通常使用権者」に該当しないという原判決の立場に立ったとしても,本件契約は,前文及び1条に規定されているとおり,本件商標(「PITAVA」)について通常使用権を許諾するものであり,キョーリンリメディオは「通常使用権者」に該当する。
したがって,原判決の上記判断は誤りである。」(6) 原判決11頁25行目の「被告各商品」を「被控訴人各商品」と改める。
第4 当裁判所の判断当裁判所は,被控訴人各商品の錠剤に付された被控訴人各標章は,「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に該当し,また,商品の「原材料」又は「品質」を「普通に用いられる方法で表示する商標」(同項2号)に該- 23 -当するものと認められ,控訴人が有する本件分割商標権の効力は被控訴人各標章に及ばないものと認められるから,控訴人の当審における交換的変更に係る請求は,いずれも理由がないものと判断する。
その理由は,以下のとおりである。
1 判断の基礎となる認定事実(1) 被控訴人各標章の構成,その使用態様等についてア 被控訴人各標章の構成について被控訴人各標章は,別紙標章目録1ないし3記載のとおり,「ピタバ」の片仮名3字を同一書体,同じ大きさで,横書きに書してなる標章である。
被控訴人各標章からそれぞれ「ピタバ」の称呼が生じる。
イ 被控訴人各商品について(ア) 被控訴人商品1は,販売名を「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」とする円形の錠剤,被控訴人商品2は,販売名を「ピタバスタチンCa錠2mg「サワイ」」とする円形の錠剤,被控訴人商品3は,販売名を「ピタバスタチンCa錠4mg「サワイ」」とする円形の錠剤であり,いずれも一般的名称(JAN) 「ピタバスタチンカルシウム」を (国際一般名(INN)は「pitavstatin」)とする化学物質を有効成分とする「HMG−CoA還元酵素阻害剤」であり,高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症の治療に用いられる(乙5)。
(イ) 被控訴人商品1は直径6.1mm,厚さ2.8mmの白色の錠剤(乙27),被控訴人商品2は直径7.1mm,厚さ2.9mmのごくうすい赤色の割線入り錠剤,被控訴人商品3は直径8.6mm,厚さ4.2mmの淡黄色の割線入り錠剤であり(乙5),それぞれの外観は,別紙全体標章目録1ないし3のとおりである。
被控訴人各商品の包装態様は,錠剤が10錠ずつPTPシートにパッケージされ,その複数のPTPシートを内袋に入れる「ピロー包装」が- 24 -され,さらに,その内袋が外箱に入れられたものである(乙29,30)。
被控訴人商品1の外箱には,「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」と横書きで大きく表示され,その上部には「HMG−CoA還元酵素阻害剤」,その下部には「PTP100錠 ピタバスタチンカルシウム錠」との表示があり,また,内袋には,「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」との表示があり,さらに,PTPシートの表面には,上部に「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」 ,」 一錠ごとに「ピタバスタチン」,「Ca 1」との表示があり,その裏面には,「ピタバスタチン」,「Ca 1mg「サワイ」」との表示がある。
被控訴人商品2の外箱には,「ピタバスタチンCa錠2mg「サワイ」」と横書きで大きく表示され,その上部には「HMG−CoA還元酵素阻害剤」,その下部には「PTP100錠 ピタバスタチンカルシウム錠」との表示があり,また,内袋には,「ピタバスタチンCa錠2mg「サワイ」」との表示があり,さらに,PTPシートの表面には,上部に「ピタバスタチンCa錠2mg「サワイ」 ,」 一錠ごとに「ピタバスタチン」,「Ca 2」との表示があり,その裏面には,「ピタバスタチン」,「Ca 2mg「サワイ」」との表示がある。
被控訴人商品3の外箱には,「ピタバスタチンCa錠4mg「サワイ」」と横書きで大きく表示され,その上部には「HMG−CoA還元酵素阻害剤」,その下部には「PTP100錠 ピタバスタチンカルシウム錠」との表示があり,また,内袋には,「ピタバスタチンCa錠4mg「サワイ」」との表示があり,さらに,PTPシートの表面には,上部に「ピタバスタチンCa錠4mg「サワイ」 ,」 一錠ごとに「ピタバスタチン」,「Ca 4」との表示があり,その裏面には,「ピタバスタチン」,「Ca 4mg「サワイ」」との表示がある。
ウ 被控訴人各標章の使用態様について- 25 -被控訴人商品1には,別紙全体標章目録1のとおり,錠剤の一方の面の1段目に「SW」の欧文字2字,2段目に「ピタバ」の片仮名3字(被控訴人標章1),3段目に数字の「1」が表示されている。なお,錠剤の他方の面には特に表示はない。
被控訴人商品2には,別紙全体標章目録2のとおり,錠剤の一方の面の1段目に「SW」の欧文字2字,2段目に「ピタバ」の片仮名3字(被控訴人標章2),3段目に数字の「2」が表示され,また,錠剤の他方の面もこれと同様の表示がされるとともに,その1段目から3段目にかけての中央部に割線が表示されている。
被控訴人商品3には,別紙全体標章目録3のとおり,錠剤の一方の面の1段目に「SW」の欧文字2字,2段目に「ピタバ」の片仮名3字(被控訴人標章3),3段目に数字の「4」が表示され,また,錠剤の他方の面もこれと同様の表示がされるとともに,その1段目及び3段目の間に割線が表示されている。
(2) 後発医薬品の販売名の命名に関する規制等についてア 平成17年9月22日付け薬食審査発第0922001号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知「医療用後発医薬品の承認申請にあたっての販売名の命名に関する留意事項について」(以下「本件厚労省課長通知」という。)には,次のような記載がある(乙9)。
「医薬品の販売名については,承認申請書の名称欄の記載に関し,…「保健衛生上の危害の発生するおそれのないものであり,かつ,医薬品としての品位を保つものであること。また,医療用医薬品の販売名には,原則として剤形及び有効成分の含量(又は濃度等)に関する情報を付すこと。」とされているところです。
また,医薬品の販売名等の類似性に起因した医療事故等を防止するための対策の一環として,平成12年9月19日付医薬発第935号厚生省医- 26 -薬安全局長通知「医療事故を防止するための医薬品の表示事項及び販売名の取扱いについて」(…)により,医療事故を防止するための販売名の取扱いに関する一般原則を示してきました。
しかしながら,現状に加え,医療用医薬品が今後引き続き新たに承認される状況にあって,既存のものとの類似性が低い販売名を命名することがますます困難な状況になることが予想されます。
ついては,今後新たに承認申請される医薬用後発医薬品の販売名について,下記の点に留意するよう,貴管下関係業者に対して周知方をお願いいたします。
記1.一般的名称を基本とした販売名を命名する際の取扱い製造販売承認のための承認申請書の名称欄の記載に関し,以下に留意の上,製造販売会社名が明確に判別できるようにした上で,原則として,含有する有効成分に係る一般的名称を基本とした記載とすること。なお,本取扱いは,原則として,単一の有効成分からなる品目に適用されるものであること。
(1) 全般的事項ア 販売名の記載にあたっては,含有する有効成分に係る一般的名称に剤型,含量及び会社名(屋号等)を付すこと。なお,一般的名称を基本とした記載を行わない場合は,その理由を明らかにする文書を承認申請書に添付して提出すること。…(2) 語幹に関する事項ア 有効成分の一般的名称については,その一般的名称の全てを記載することを原則とするが,当該有効成分が塩,エステル及び水和物等の場合にあっては,これらに関する記載を元素記号等を用いた略号等で記載して差し支えないこと。また,他の製剤との混同を招か- 27 -ないと判断される場合にあっては,塩,エステル及び水和物等に関する記載を省略することが可能であること。」イ 前記アの事実に加えて,証拠(乙29,30)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人商品1の販売名「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」は,本件厚労省課長通知に従って命名されたものであり,「含有する有効成分に係る一般的名称」である「ピタバスタチンCa」,「剤形及び含量」である「錠1mg」,「会社名(屋号等)」である「サワイ」から構成されていること,被控訴人商品2及び3についても,これと同様に,本件厚労省課長通知に従って命名されたことが認められる。
(3) スタチン系医薬品及びその表記についてア 証拠(乙17ないし26,47,49,73,74,79(枝番のあるものは枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば,@HMG−CoA還元酵素阻害薬は,医師,薬剤師等の医療従事者の間において,「スタチン系薬」,「スタチン系化合物」などと一般に呼ばれ,「スタチン系薬」又は「スタチン系化合物」には,「ピタバスタチン」のほかに,「アトルバスタチン」 「ロスバスタチン」 「シンバスタチン」 「プラバスタチン」, , , ,「フルバスタチン」,「ローバスタチン」などがあること,A平成22年3月5日開催の日本循環器学会において,「スタチン」の中でも強力なストロングスタチン薬剤である「ピタバスタチン」 「アトルバスタチン」 「ロ, 及びスバスタチン」の3種類の薬剤の安全性及び有効性について同時に比較試験を行った研究成果が発表され,その発表において,それぞれが「ピタバ」,「アトルバ」及び「ロスバ」と表記され,「スタチン」の部分を省略した名称で特定されていたこと(乙17)Bそのほか,平成20年から平成26年にかけて公開された公開特許公報,研究報告等の文献において,「スタチン系化合物」の名称について,「statin」又は「スタチン」を除外した略称が使用されたり,「ピタバスタチン」を「ピタバ」と略して使用された例があ- 28 -ることが認められる。
他方で,甲26(控訴人従業員作成の2014年12月16日付け報告書)によれば,2001年(平成13年)から2007年(平成19年)までの間に発行された「臨床医薬」等の文献104件を調査した結果,標題に「Pitava」又は「ピタバ」の語を含む104件の文献のうち,「ピタバスタチン」(「Pitavastatin」)の説明をする際に,略記を用いずに,「ピタバスタチン」(「Pitavastatin」)と表記している文献が102件,「ピタバスタチン」(「Pitavastatin」)の説明をする際に,「ピタバ」又は「Pitava」の略記を用いた文献は2件であったことが示されている。
イ 前記アの認定事実を総合すると,「スタチン系薬」又は「スタチン系化合物」は,医師,薬剤師等の医療従事者の間において,HMG−CoA還元酵素阻害薬の総称として一般に知られていたこと,「スタチン系薬」又は「スタチン系化合物」に属する具体的な物質を表記する場合,「スタチン」の用語を除外した部分を略称として使用することが一般的であるとまではいえないが,「スタチン系薬」又は「スタチン系化合物」を説明する際に,「ピタバスタチン」,「アトルバスタチン」,「ロスバスタチン」等について「ピタバ」,「アトルバ」,「ロスバ」等の略称で表記する場合もあり,医師,薬剤師等の医療従事者であれば,「スタチン系薬」又は「スタチン系化合物」を説明する文献又は文脈の中で,上記表記がされた場合,それらが「ピタバスタチン」,「アトルバスタチン」,「ロスバスタチン」等を意味することを理解するものと認められる。
(4) 本件の経過等について前記前提事実と証拠(甲1ないし3,24,25,36,乙3,4,50ないし52,69,70,77(枝番のあるものは枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 控訴人は,平成15年9月当時から,ピタバスタチンカルシウムを有効- 29 -成分とするHMG−CoA還元酵素阻害剤として,販売名を「リバロ錠1mg」,「リバロ錠2mg」又は「リバロ錠4mg」とする各薬剤(控訴人各商品)を販売していた。
イ 控訴人は,平成17年8月30日,指定商品を第5類「薬剤」として,「PITAVA」の標準文字からなる本件商標について商標登録出願をし,平成18年4月7日,本件商標権の設定登録を受けた。
ウ 平成25年8月,被控訴人を含む後発医薬品メーカー二十数社が承認申請していたピタバスタチンカルシウムを有効成分とする後発医薬品(ジェネリック医薬品)の製造販売が承認された。
エ 控訴人は,平成25年10月17日,指定商品を第5類「薬剤」として,「ピタバ」の標準文字からなる商標について商標登録出願(商願2013−080944号)をした。
その後,特許庁は,平成26年3月4日付けで拒絶理由通知(乙77の1)をした。その拒絶理由は,指定商品を取り扱う業界において,「ピタバ」の文字は,「ピタバスタチンカルシウム」又は「ピタバスタチン」の略称として使用されているので,指定商品中,「ピタバスタチンカルシウムを有効成分とする薬剤」に使用したときは,「ピタバスタチンカルシウムを有効成分とする商品」等の意味合いを理解させるにとどまり,単に商品の原材料,品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標と認められるから商標法3条1項3号に該当し,また,上記以外の商品に使用するときは商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるから,同法4条1項16号に該当するというものであった。
その後,特許庁は,同年6月12日付けで,上記拒絶理由が解消されていないとして,上記商標登録出願について拒絶査定(乙77の3)をした。
これに対し控訴人は,拒絶査定不服審判を請求した。
オ 被控訴人は,平成25年12月から,ピタバスタチンカルシウムを有効- 30 -成分とする被控訴人各商品の製造販売を開始した。被控訴人以外の後発医薬品メーカー二十数社も,同月から,ピタバスタチンカルシウムを有効成分とする後発医薬品の製造販売を開始した。被控訴人以外の後発医薬品メーカーの薬剤の販売名は,本件厚労省課長通知に従って,「ピタバスタチンCa錠1mg「明治」」(Meiji Seika ファルマ株式会社が販売する薬剤)などと命名され,PTPシート及び外箱には,上記販売名と同様の表示がされている。
被控訴人を含む後発医薬品メーカー上記各社のうち,被控訴人,Meiji Seika ファルマ株式会社,共和薬品工業株式会社,小林化工株式会社,テバ製薬株式会社及びキョーリンリメディオの6社は,錠剤に「ピタバ」の表示をした。
その後,控訴人は,キョーリンリメディオとの間で,本件商標権について,平成25年12月19日付け商標使用許諾契約(甲3)を締結した。
カ 控訴人は,平成26年1月15日,被控訴人に対し,本件商標権に基づいて被控訴人各標章を付した薬剤の販売の差止め及び廃棄を求める本件訴訟を提起した後,同年10月30日,控訴人の請求をいずれも棄却する旨の原判決が言い渡された。
その間の同年1月21日,被控訴人は,本件商標の商標登録の取消しを求めて不使用取消審判(取消2014−300041号)を請求した(乙50ないし52)。
キ 控訴人は,平成26年11月12日,本件控訴を提起した後,本件商標権の分割の申請(受付日平成26年11月18日)をし,本件商標権は,指定商品を第5類「薬剤但し,ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤を除く」とする別紙商標権目録2記載の商標権と指定商品を第5類「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」とする同目録3記載の商標権(本件分割商標権)に分割された。
- 31 -その後,控訴人は,当審において,請求原因を本件商標権の侵害から本件分割商標権の侵害に変更する旨の訴えの交換的変更をした。
2 被控訴人各標章の商標法26条1項6号該当性(争点2)について(1) 被控訴人は,被控訴人が被控訴人各商品の錠剤に被控訴人各標章を表示しているのは,調剤ミスや誤飲等を避けるためであって,自他商品識別機能を奏するために表示しているものではなく,被控訴人各商品における被控訴人各標章の使用は,いわゆる商標的使用に当たらないから,被控訴人各標章は,「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に該当する旨主張する。
ア そこで検討するに,前記1の認定事実によれば,@被控訴人各商品は,一般的名称(JAN)を「ピタバスタチンカルシウム」とする化学物質を有効成分とする「HMG−CoA還元酵素阻害剤」であり,医療用後発医薬品(ジェネリック医薬品)であること,A医薬品の販売名等の類似性に起因した医療事故等を防止するための対策の一環として平成17年9月22日付で発出された本件厚労省課長通知は,医療用後発医薬品の承認申請に当たっての販売名の命名に関し,「販売名の記載にあたっては,含有する有効成分に係る一般的名称に剤型,含量及び会社名(屋号等)を付すこと」を定めており,被控訴人各商品の販売名である「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」,「ピタバスタチンCa錠2mg「サワイ」」及び「ピタバスタチンCa錠4mg「サワイ」」は,本件厚労省課長通知に従って命名されたこと,B被控訴人を含む後発医薬品メーカー二十数社は,平成25年12月から,ピタバスタチンカルシウムを有効成分とする後発医薬品(「HMG−CoA還元酵素阻害剤」)の製造,販売を開始し,被控訴人以外の各社も,本件厚労省課長通知に従って,上記後発医薬品の販売名を命名し(例えば,「ピタバスタチンCa錠1mg「明治」),剤型- 32 -及び含量が同じであれば,被控訴人各商品との販売名の違いは「会社名(屋号等)」だけであること,C「スタチン系薬」又は「スタチン系化合物」は,医師,薬剤師等の医療従事者の間において,HMG−CoA還元酵素阻害薬の総称として一般に知られていたこと, 「スタチン系薬」D 又は「スタチン系化合物」に属する具体的な物質を表記する場合,「スタチン」の用語を除外した部分を略称として使用することが一般的であるとまではいえないが,「スタチン系薬」又は「スタチン系化合物」を説明する際に,「ピタバスタチン」,「アトルバスタチン」,「ロスバスタチン」等について「ピタバ」,「アトルバ」,「ロスバ」等の略称で表記する場合もあり,医師,薬剤師等の医療従事者であれば,「スタチン系薬」又は「スタチン系化合物」を説明する文献又は文脈の中で,上記表記がされた場合,それらが「ピタバスタチン」,「アトルバスタチン」,「ロスバスタチン」等を意味することを理解すること,E本件厚労省課長通知には,「有効成分の一般的名称については,その一般的名称の全てを記載することを原則とするが,当該有効成分が塩,エステル及び水和物等の場合にあっては,これらに関する記載を元素記号等を用いた略号等で記載して差し支えないこと。また,他の製剤との混同を招かないと判断される場合にあっては,塩,エステル及び水和物等に関する記載を省略することが可能であること。」との記載があることが認められる。
上記認定事実によれば,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」について,その塩に関する部分(「カルシウム」)の記載及び「スタチン」の記載を省略した「略称」であることが認められる。
イ 次に,被控訴人各商品の包装態様は,錠剤が10錠ずつPTPシートにパッケージされ,その複数のPTPシートを内袋に入れる「ピロー包装」がされ,さらに,内袋が外箱に入れられたものであり(前記1(1)イ(イ)),- 33 -被控訴人各商品の錠剤は,通常は,PTPシートから取り出して服用することが想定されているといえる。
また,被控訴人商品1の外箱には,「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」と横書きで大きく表示され,その上部には「HMG−CoA還元酵素阻害剤」,その下部には「PTP100錠 ピタバスタチンカルシウム錠」との表示があり,内袋には,「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」との表示があり,さらに,PTPシートの表面には,上部に「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」,一錠ごとに「ピタバスタチン」,「Ca 1」との表示があり,その裏面には,「ピタバスタチン」,「Ca 1mg「サワイ」」との表示があり,被控訴人商品2及び3の外箱及びPTPシートについても,含量及び「Ca」に続く数字の表記が「2」又は「4」である点で異なるほかは,被控訴人商品1と同様の表示があることは,前記1(1)イ(イ)のとおりである。
さらに,被控訴人各商品の外箱,内袋又はPTPシートに記載された「ピタバスタチンCa」,「ピタバスタチン」等の表示と被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)を同じ機会に目にした場合,「ピタバスタチンCa」又は「ピタバスタチン」と「ピタバ」の言語構成から,「ピタバ」が「ピタバスタチンCa」又は「ピタバスタチン」の頭部分の3字を略記したものであることを自然に理解するものと認められる。
そして,医師,薬剤師等の医療従事者の間においては,後発医薬品の販売名は含有する有効成分に係る一般的名称に剤型,含量及び会社名(屋号等)から構成されていることは一般的に知られているものと認められるから,医療従事者が,被控訴人各商品に接した場合,被控訴人各商品が「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」等を販売名とする後発医薬品であることを認識し,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人- 34 -各標章)は,有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」の略称であることを認識するものと認められる。
一方で,患者においては,PTPシートに入れられた状態で被控訴人各商品の交付を受けた場合,PTPシートから被控訴人各商品を取り出して服用する際に,PTPシートに記載された「ピタバスタチンカルシウム」等の表示が自然に目に触れ,被控訴人各商品は「ピタバスタチンカルシウム」が含有された錠剤であること認識するものと認められるから,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,被控訴人各商品の含有成分を略記したものであることを理解するものと認められる。
また,被控訴人各商品は,医師等の処方箋により使用する「処方箋医薬品」であり(前記1(1)イ(ア)),被控訴人各商品と他の薬剤とが一つの袋にまとめて包装される「1包化調剤」により処方される場合があるが,この場合,患者は,1包化した袋を開封し,その袋内に薬剤が入ったままの状態で服用するので,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示を認識することはないのが通常である。もっとも,患者は,1包化した袋からいったん薬剤を取り出して服用する場合もあるが,その際には,取り出した薬剤を一緒に服用すべきひとまとまりの薬剤として認識し,個々の薬剤の表示が目に触れたとしても,その表示が薬剤の出所を示すものと理解することはないものと認められる。
以上によれば,被控訴人各商品の需要者である医師,薬剤師等の医療従事者及び患者のいずれにおいても,被控訴人各商品に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)から商品の出所を識別したり,想起することはないものと認められるから,被控訴人各商品における被控訴人各標章の使用は,商標的使用に当たらないというべきである。
ウ したがって,被控訴人各標章は,「需要者が何人かの業務に係る商品で- 35 -あることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に該当するものと認められる。
(2) 控訴人は,これに対し,@患者は,通常,被控訴人各商品の有効成分の名称が何であるかについて興味も知識もなく,医師,薬剤師等から説明も受けていないから,被控訴人各商品の錠剤に表示された「ピタバ」に触れたときに,それが「有効成分」を示すものであると認識するものとはいえないし,たとえ,患者が被控訴人各商品のPTPシートに付された「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」等の表示に触れた上で,被控訴人各商品の錠剤に表示された「ピタバ」に触れたときに,「ピタバ」の表示が販売名たる「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」等のうちの「ピタバスタチンCa」の一部の表示あるいはそれに由来する表示であると認識することがあったとしても,「ピタバ」を「有効成分」としての「ピタバスタチンCa」を意味するものと認識することはないから,被控訴人各商品の取引者,需要者である患者において,被控訴人各標章が出所識別機能を発揮する表示であると認識されないということはできない,A薬剤の錠剤に付された「ピタバ」の表示に関するアンケート調査結果(甲23)によれば,「ピタバ」の表示が「この薬の有効成分(薬の効果をもたらす成分)の名前(またはその一部)」と回答したのは全体の15%にすぎず,残りの85%は有効成分の名称(またはその一部)であるとは認識しなかったこと,全体の43%が薬剤の錠剤に付された「ピタバ」の表示を「この薬の商品名」と認識していたことからすると,患者が被控訴人各標章を有効成分の説明的表示であると認識するとはいえないとして,被控訴人各標章は,商標法26条1項6号に該当しない旨主張する。
ア しかしながら,前記(1)イ認定のとおり,患者は,PTPシートに入れられた状態で被控訴人各商品の交付を受けた場合には,PTPシートから被控訴人各商品を取り出して服用する際に,PTPシートに記載された「ピ- 36 -タバスタチンカルシウム」等の表示が自然に目に触れ,被控訴人各商品は「ピタバスタチンカルシウム」が含有された錠剤であること認識するものと認められるから,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,被控訴人各商品の含有成分を略記したものであることを理解するものと認められる。
次に,被控訴人各商品が「1包化調剤」により処方された場合には,前記(1)イ認定のとおり,患者は,1包化した袋を開封し,その袋内に薬剤が入ったままの状態で服用するので,個々の薬剤の表示には被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示を認識することがないのが通常であり,また,患者が1包化した袋からいったん薬剤を取り出して服用する場合もあるが,その際には,患者は,取り出した薬剤を一緒に服用すべきひとまとまりの薬剤として認識し,個々の薬剤の表示が目に触れたとしても,その表示が薬剤の出所を示すものと理解することはないものといえるから,患者において,被控訴人各商品に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)から商品の出所を識別したり,想起することはないものと認められる。
イ また,控訴人の挙げる「ピタバ」の表示に関するアンケート調査(甲23)は,「ピタバ」の表示が付された「錠剤」の写真と「PTPシート」の写真とを対比して質問に対する回答を求めたものであり,患者が被控訴人各商品を処方され,これを服用する際の実情を踏まえたものといえないから,上記アンケート調査の結果は,患者において被控訴人各商品に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)から商品の出所を識別したり,想起することはないとの上記アの認定を左右するものではない。
ウ したがって,被控訴人各商品における被控訴人各標章の使用は,商標的使用に当たらないから,控訴人の上記主張は,採用することができない。
(3) 以上によれば,被控訴人各商品の錠剤に付された被控訴人各標章は,商標法26条1項6号に該当するから,控訴人が有する本件分割商標権の効力は,- 37 -被控訴人各標章に及ばないというべきである。
3 被控訴人各標章の商標法26条1項2号該当性(争点3)について(1) 被控訴人は,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,「ピタバスタチン」又は「ピタバスタチンカルシウム」を想起させる略称であり,本件分割商標権の指定商品である「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」との関係においては,「ピタバスタチンカルシウム」を原材料とする医薬品であることの表示であり,かつ,錠剤に有効成分又はその略称を印刷又は刻印することは一般的に行われており,「ピタバ」を錠剤に印刷又は刻印することは「普通に用いられる方法で表示するもの」といえるから,被控訴人各標章は,商標法26条1項2号の商標に該当する旨主張する。
ア そこで検討するに,前記2(1)ア認定のとおり,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」について,その塩に関する部分(「カルシウム」)の記載及び「スタチン」の記載を省略した「略称」であることが認められる。
そして,前記2(1)イ認定のとおり,医師,薬剤師等の医療従事者の間においては,後発医薬品の販売名は含有する有効成分に係る一般的名称に剤型,含量及び会社名(屋号等)から構成されていることは一般的に知られているものと認められるから,医療従事者が,被控訴人各商品に接した場合,被控訴人各商品が「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」等を販売名とする後発医薬品であることを認識し,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」の略称であることを認識するものと認められる。
そうすると,被控訴人各商品の需要者である医療従事者においては,被控訴人各商品に付された被控訴人各標章は,被控訴人各商品の「有効成分」- 38 -を表示したものであるとともに,被控訴人各商品には原材料として「ピタバスタチンカルシウム」を含有することを表示したものと理解するものと認められる。
イ 次に,前記2(1)イ認定のとおり,患者においては,PTPシートに入れられた状態で被控訴人各商品の交付を受けた場合,PTPシートから被控訴人各商品を取り出して服用する際に,PTPシートに記載された「ピタバスタチンカルシウム」等の表示が自然に目に触れ,被控訴人各商品は「ピタバスタチンカルシウム」が含有された錠剤であること認識するものと認められるから,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,被控訴人各商品の含有成分を略記したものであることを理解するものと認められる。
そうすると,被控訴人各商品の需要者である患者においては,被控訴人各商品に付された被控訴人各標章は,「商品の原材料」である「含有成分」を表示する商標であると理解するものと認められる。
ウ 証拠(乙32ないし35)及び弁論の全趣旨によれば,調剤過誤等の防止の観点から,医薬品の名称又はその略称を錠剤に表示することは,普通に行われていることが認められる。
エ 前記アないしウを総合すると,被控訴人各商品の錠剤に付された被控訴人各標章は,「商品の原材料」である「含有成分」を「普通に用いられる方法で表示する商標」(商標法26条1項2号)に該当するものと認められる。
(2) 控訴人は,これに対し,単に「ピタバ」が原材料の表示たる「ピタバスタチンカルシウム」の略称として用いられたことがあるというだけでは十分ではなく,需要者である患者において,「ピタバ」が,実質的に「原材料の表示」と認識されているといえる程度に,「ピタバスタチンカルシウム」の略称として一般に認識されていることが必要であるが,そのことを示す証拠は- 39 -なく,また,「普通に用いられる方法で表示」したものではないから,被控訴人各標章は商標法26条1項2号の商標に該当しない旨主張する。
しかしながら,前記(1)イ認定のとおり,患者は,被控訴人各商品に付された被控訴人各標章は,「商品の原材料」である「含有成分」を表示する商標であることを理解するものと認められる。
したがって,被控訴人各標章は商標法26条1項2号の商標に該当しないとの控訴人の上記主張は,採用することができない。
(3) 以上によれば,被控訴人各商品の錠剤に付された被控訴人各標章は,商標法26条1項2号に該当するから,控訴人が有する本件分割商標権の効力は,被控訴人各標章に及ばないというべきである。
4 結論以上の次第であるから,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の当審における交換的変更に係る請求は,いずれも理由がない。
したがって,控訴人の上記請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部裁判長裁判官 富 田 善 範裁判官 大 鷹 一 郎裁判官 鈴 木 わ か な- 40 -(別紙) 商標権目録1 登録番号 第4942833号出願日 平成17年8月30日登録日 平成18年4月7日指定商品 第5類「薬剤」登録商標 PITAVA(標準文字)2 登録番号 第4942833号の1出願日 平成17年8月30日登録日 平成18年4月7日指定商品 第5類「薬剤但し,ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤を除く」登録商標 PITAVA(標準文字)3 登録番号 第4942833号の2出願日 平成17年8月30日登録日 平成18年4月7日(商標登録原簿の甲区欄記載の登録日平成26年12月2日)指定商品 第5類「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」登録商標 PITAVA(標準文字)- 41 -(別紙) 標章目録123- 42 -(別紙) 全体標章目録12−1 2−2(表) (裏,ただし,文字に対する割線の角度はランダム)3−1 3−2(表) (裏,ただし,文字に対する割線の角度はランダム)- 43 -
事実及び理由
全容
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