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事件 平成 25年 (ワ) 89号 専用使用権設定登録手続等請求事件
東京都江戸川区<以下略>
原告A 福島県糸島市<以下略>
原告B
上記2名訴訟代理人弁護 士岩出誠
同 中村博
同 村林俊行
同 石居茜
同 木原康雄
同 村木高志
同 岩野高明
同 難波知子
同 竹花元
同 鈴木みなみ 大阪市<以下略>
被告MODECOM株式会社
同訴訟代理人弁護士 齋藤大
同 久吉一生
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2015/08/31
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,原告A(以下「原告A」という。)に対し,別紙商標権目録記載の商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件商標」という。 )について,別紙専用使用権目録記載の専用使用権の設定登録手続をせよ。
2 被告は,原告B恭司(以下「原告B」という。)に対し,2000万円及びこれに対する平成25年1月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 本件は,@原告Aが,被告に対し,本件商標権の専用使用権設定契約に基づき,専用使用権の設定登録手続を求め(前記第1の1。以下「本件請求@」という。),A原告Bが,被告に対し,原告Aが被告に有していた不法行為(債権侵害)に基づく損害賠償請求権を譲り受けたと主張して,損害賠償金2000万円及びこれに対する不法行為後の日である平成25年1月29日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(前記第1の2。以下「本件請求A」という。)事案である。
2 本件の前提となる事実関係(当事者間に争いがないか,掲記の証拠等により容易に認められる事実関係) (1) 当事者 ア 原告Aは,服飾デザインを創作するデザイナーである。
イ 被告は,ファッション情報の提供サービス,商標権・意匠権等工業所有権の取得,管理,使用許諾等を目的とする株式会社である。
ウ 原告Bは,原告Aから,原告Aが被告に対して有していた不法行為(債権侵害)に基づく損害賠償請求権の譲渡を受けたと主張する者である。
(2) 本件商標権 本件商標権(別紙商標権目録記載の商標権)の商標権者は,平成12年12月15日当時,原告Aであったが,その後,被告となって,現在に至っている(甲10, 2 11)。
(3) 本件ライセンス基本契約 ア 「LA:CURA CO.LTD」(以下「LA:CURA」という。 )と青山眼鏡株式会社(以下「青山眼鏡」という。 )との間で,次の内容を含む平成11年7月23日付け「ライセンス基本契約書」(以下,この契約書に基づく契約を「本件ライセンス基本契約」という。)が取り交わされた(甲2)。
利用許諾 LA:CURAは,青山眼鏡が眼鏡及び眼鏡付属品(以下,単 に「眼鏡製品」という。)につき本件商標を使用することを許 諾する。
契約期間 平成11年7月23日から平成15年1月20日まで。なお, 終了日の6か月前までに書面による通知がない場合には,契約 期間を自動的に1年間延長する。
契約金額 ミニマムロイヤリティを年額300万円とし,青山眼鏡による 年間販売額が6000万円を超えた場合には,当該超過した額 の5パーセント相当額をオーバーロイヤリティとして支払う。
イ 有限会社ラ・キュアー(以下「ラ・キュアー」という。 )は,かつて原告Aが代表者を務めていた特例有限会社(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律〔平成17年法律第87号。以下「整備法」という。〕1条3号の規定による廃止前の有限会社法〔昭和13年法律第74号〕の規定による有限会社であって,整備法2条1項の規定により,会社法〔平成17年法律第86号〕の規定による株式会社として存続するものとされた会社)であるが,平成15年6月24日に設立された後,本件ライセンス基本契約におけるLA:CURAの契約上の地位の移転を受け,同契約の当事者となった(甲7,58,弁論の全趣旨。なお,本件ライセンス基本契約の当事者がラ・キュアーと青山眼鏡であることは,本件当事者間に 争 い が な い。 そ こ で , 以 下 , 書 証 の 記 載 を そ の ま ま 引 用 す る 部 分 を 除 き , LA:CURAとラ・キュアーとを区別せず,単に「ラ・キュアー」という。)。
3 (4) 本件商標権譲渡契約及び本件専用使用権設定契約 ア 原告Aは,株式会社真野商品研究所(以下「真野商品研究所」という。 )との間で,本件商標権を含む9件の商標権(商標登録第2088729号,同第2133525号,同第2151801号,同第2170296号,同第2180475号,同第1688813号,同第4255166号,同第1945418号,同第2133524号に係る各商標権。以下,これらを併せて「本件各商標権」という。)を真野商品研究所に譲渡することを内容とする平成12年12月14日付け商標権譲渡契約書(以下,この契約書に基づく契約を「本件商標権譲渡契約」という。)を取り交わした(乙1)。
イ 真野商品研究所は,原告Aとの間で,本件商標権につき,指定商品を眼鏡製品とし,原告Aを専用使用権者とすることを内容とする同月15日付け商標使用許諾基本契約書(以下,この契約書に基づく契約を「本件専用使用権設定契約」という。)を取り交わした(甲1)。
ウ 被告は,昭和63年5月27日に設立された株式会社であり,遅くとも平成16年6月2日(真野商品研究所の被告に対する本件商標権譲渡の効力が発生した日)までに,本件商標権譲渡契約及び本件専用使用権設定契約(これらに付帯する特約その他の契約を含む。)における真野商品研究所の契約上の地位の移転を受け,これらの契約の当事者となった(被告は,商号を,平成15年5月20日,「株式会社真野商品研究所」に変更し,平成22年6月1日,である「MODECOM株式会社」(現在の商号)に変更したほか〔弁論の全趣旨(資格証明書として提出された被告の現在事項全部証明書参照)〕,平成16年6月2日の登録をもって本件商標権を被告に特定承継させているが〔甲10〕,本件商標権譲渡契約及び本件専用使用権設定契約の当事者が原告Aと被告であることは,当事者間に争いがない。そこで,以下,真野商品研究所と被告とを区別せず,単に「被告」という。)。
(5) 大阪地裁訴訟(1)及び(2) ア 原告Aは,平成20年10月15日,本件商標権譲渡契約に付されていた買 4 戻特約に基づく買戻請求権を行使したとして,被告に対し,@本件各商標権が原告Aに帰属することの確認,A本件各商標権につき原告Aに対する移転登録手続及びB被告による本件各商標権に係る商標の使用の差止めを求める訴訟を大阪地方裁判所に提起したが(同庁平成20年(ワ)第13503号。以下「大阪地裁訴訟(1)」という。),同裁判所は,平成21年9月3日,確認の利益がないとして,本件各商標権が原告Aに帰属することの確認を求める訴えを却下するとともに,買戻請求権は商事消滅時効の完成により消滅したとして,原告Aのその余の請求を棄却する旨の判決(以下「大阪地裁判決(1)」という。)を言い渡した(甲19,乙3)。
原告Aは,同判決を不服として,大阪高等裁判所に控訴し(同庁平成21年(ネ)第2470号),主位的に本件商標権譲渡契約が虚偽表示により無効である旨新たに主張するとともに,予備的に本件各商標権の買戻請求権を行使した旨主張したが,同裁判所は,平成22年6月25日,原告Aの虚偽表示の主張を排斥するとともに,第1審と同様に,買戻請求権は商事消滅時効の完成により消滅したとして,原告Aの控訴を棄却する旨の判決(ただし,大阪地裁判決(1)中,本件各商標権が原告Aに帰属することの確認を求める訴えを却下した部分は誤りであるとした上,同部分を取り消して,当該訴えに係る原告Aの請求を棄却することは不利益変更に当たるとした。)を言い渡した(乙4)。
原告Aは,同判決を不服として,最高裁判所に上告受理の申立てをしたが(同庁平成22年(受)第1942号),同裁判所は,平成22年11月5日,この件を上告審として受理しない旨の決定 (以下「大阪地裁訴訟(1)の上告審決定」という。)をした(乙5)。
イ 原告A及びラ・キュアーは,大阪地裁訴訟(1)を提起した平成20年10月15日,被告が蝶理株式会社(以下「蝶理」という。 )の生産する紳士重衣料製品の総生産高を過少に報告していたと主張して,原告Aと被告との間で取り交わされた平成13年6月1日付け「商標およびデザイン使用許諾基本契約書」(乙14の1)及び同日付け「覚書」(乙14の2)に基づく契約(以下「本件許諾契約」 5 という。なお,原告Aと被告,ラ・キュアーは,平成16年12月7日,本件許諾契約について,原告Aと被告との契約から,ラ・キュアー及び原告Aと被告との契約に変更する旨合意したとされる。)の債務不履行又は不法行為による損害賠償を求める訴訟を大阪地方裁判所に提起し,被告は,本件許諾契約が虚偽表示により無効であるとか,同契約を債務不履行により解除したなどと主張して,不当利得の返還を求める反訴を提起した(同庁平成20年(ワ)第13504号・平成21年(ワ)第629号。以下「大阪地裁訴訟(2)」という。)。大阪地方裁判所は,平成23年4月14日,原告Aは,本件許諾契約に基づく「原告Aのデザインに基づいた,商品化が可能な程度のデザイン提案資料を提供する義務」を履行しておらず,原告A及びラ・キュアーには同契約に基づく対価請求権が発生していない旨認定判断して,原告A及びラ・キュアーの請求をいずれも棄却するとともに,被告の反訴請求についても,被告の主張を排斥して,これを棄却する旨の判決(以下「大阪地裁判決(2)」という。)を言い渡した(甲21,乙6)。
原告A及びラ・キュアーは,同判決の敗訴部分を不服として,大阪高等裁判所に控訴を提起したが,その後,原告Bが,原告A及びラ・キュアーから,両名が同訴訟において被告に対して有すると主張する債権すべての譲渡を受けたとして,承継参加し,原告A及びラ・キュアーは同訴訟から脱退した(同庁平成23年(ネ)第1666号・同年(ネ)第2331号)。大阪高等裁判所は,平成23年11月8日,大阪地裁判決(2)とほぼ同旨の認定判断をして,原告Bの請求を棄却する旨の判決を言い渡した(乙7)。
原告Bは,同判決を不服として,最高裁判所に上告受理申立てをしたが(同庁平成24年(受)第259号),同裁判所は,平成24年7月20日,この件を上告審として受理しない旨の決定をした(乙8)。
(6) 本件解除の意思表示 被告は,平成20年12月16日付け通知書により,原告Aに対し,原告Aが被告に対して大阪地裁訴訟(1)を提起したことが本件専用使用権設定契約の解除原因 6 にあたるとして,同契約を解除する旨の意思表示( 以下「本件解除の意思表示」という。)をした(甲4)。
(7) 本件告知行為 被告は,青山眼鏡に対し,本件解除の意思表示に係る通知書及び 大阪地裁判決(1)の判決書写しを同封し,次の内容を含む平成21年11月26日付け書簡を送付(以下,同送付行為を「本件告知行為」という。)した(甲5)。
「当社(判決注:被告を指す。)は平成20年12月16日付けにて眼鏡の専用使用権の許諾契約の解除をA氏に通告いたしております。今般,平成21年9月3日の一審判決により,弊社は商標権者として,法的にも認められました。弊社とA氏との間には,いかなるデザイン契約も専用使用権の許諾契約も存在しておらず,貴社とA氏との契約は現在,何ら効力を持つ物ではありません。弊社といたしましては,長年に渡ってお付き合いを頂いている,貴社が当該ライセンス契約にて損失を被ること無きよう最大限,配慮したい所存でございます。つきましては,今後について,ご相談を頂きたいと所望しております。」 (8) 本件ライセンス基本契約の解除 青山眼鏡は,平成22年12月24日付け書簡により,「LA-CURA INC/A様」に対し,本件ライセンス基本契約を大阪地裁訴訟(1)の上告審決定がされた同年11月5日をもって終了したい旨通知した(甲6)。
また,青山眼鏡は,平成23年1月27日付け通知書により,ラ・キュアーに対し,原告A及びラ・キュアーが本件商標に関する使用権限を失ったことを原因として,本件ライセンス基本契約を解除する旨の意思表示をした(甲7)。
(9) 本件訴訟及び別件東京地裁訴訟 ア 原告らは,平成25年1月7日,当庁に本件訴訟を提起した。
イ 原告Bは,本件訴訟を提起した平成25年1月7日,被告,蝶理及び青山商事株式会社(以下「青山商事」という。 )に対し,「KATSUSHIGE MURAOKA」と標準文字で書してなる商標 (以下「KATSUSHIGE M 7 URAOKA商標」という。)につき原告A及びラ・キュアーの有する商標権(商標登録第4373618号に係る商標権)を被告,蝶理及び青山商事が侵害したことを原因とする損害賠償請求権の譲渡を受けたと主張して,損害賠償金各1000万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める訴訟を当庁に提起した(当庁平成25年(ワ)第92号。以下「別件東京地裁訴訟」という。)。当庁(民事第40部)は,平成27年2月18日,被告が「KATSUSHIGE MURAOKA」との表示を使用することにつき原告A及びラ・キュアーから許諾を受けていた,原告A及びラ・キュアーが蝶理及び青山商事に対する請求権を放棄したなどと認定判断し,原告Bの請求をいずれも棄却する旨の判決(以下「別件東京地裁判決」という。)を言い渡し(乙26),その後,同判決は,確定した(当裁判所に顕著な事実)。
争点
1 本件請求@に関する争点(争点1) (1) 本件解除の意思表示による本件専用使用権設定契約の解除につき,解除原因があるか(争点1-1) (2) 被告が本件専用使用権設定契約を解除することは,権利の濫用にあたるか(争点1-2) 2 本件請求Aに関する争点(争点2) (1) 被告による本件告知行為は,原告Aに対する不法行為を構成するか(争点2-1) (2) 原告Aの被った損害の額(争点2-2) (3) 原告Bが,原告Aから,本件告知行為を原因とする被告に対する損害賠償請求権の譲渡を受けることは,弁護士法72条及び73条に反し,又は信託法10条に反し無効となるか(争点2-3)
争点に対する当事者の主張
1 争点1(本件請求@に関する争点)について 8 (1) 争点1-1(本件解除の意思表示による本件専用使用権設定契約の解除につき,解除原因があるか)について〔被告の主張〕 ア 本件専用使用権設定契約に至る経緯 被告は,過去の埋もれた商標を再生するブランド再生ビジネスを実施していたところ,原告Aが過去に開発した「Yin&Yang(インアンドヤン)」ブランドを覚知し,原告Aとの間で,本件商標権を含む複数の商標権について,平成9年9月13日付け及び平成12年2月29日付けの各 商標使用許諾基本契約書(以下,こ れ ら の 契 約 書 に 基 づ く 契 約 を 「 本 件 旧 許 諾 契 約 」 と い う 。 ) を 取 り交 わ し ,「 Y i n & Y a n g 」 ブ ラ ン ド に 係 る 商 標 (以 下 「 イ ン ア ン ド ヤ ン 商 標 」 と いう。)に関する事業を実施してきた(乙13の1・2)。
ところが,平成12年11月頃,原告Aの保有に係る本件商標権を含む複数の商標権が原告Aの債権者から差し押さえられる事態が発生し,原告Aに支払能力がないことが判明した。そこで,被告は,インアンドヤン商標を用いた事業に支障が生ずることをおそれ,平成12年12月14日,本件商標権譲渡契約により,原告Aから代金450万円で本件各商標権の譲渡を受ける(乙1)とともに,原告Aに1000万円を貸し付けるなどした。この際,特に本件商標権については,既にラ・キュアーと青山眼鏡との間で本件ライセンス基本契約が締結されていたことから,被告は,ラ・キュアー,ひいては原告Aが従来どおりのライセンス料の支払を受けられるよう,同月15日,本件専用使用権設定契約により,原告Aに専用使用権を設定することとした(甲1)。
このような経緯により,被告が本件各商標権の譲渡を受けて商標権者となった以上,本件各商標権に係る商標の使用につき本件旧許諾契約の場合と同様の支払を原告Aにすべき法的理由は消滅したのであるが,被告は,原告Aの生活に支障が出てしまう等の理由から,原告Aとの間で,平成13年6月1日付け「商標およびデザイン使用許諾基本契約書」及び同日付け「覚書」を取り交わして(乙14の1・ 9 2),本件許諾契約を締結し,原告Aに対する金員の支払を継続してきた。
以上のとおり,本件専用使用権設定契約は,本件商標権が被告に移転したことを当然の前提とするものであった。
イ 原告Aによる信頼破壊行為(解除原因) ところが,平成20年5月頃になると,原告Aの知人と称する原告Bが,被告やその取引先,本件商標の使用先等を調査するようになり,同年9月には,被告事務所を訪れ,被告代表者に対し,強圧的な態度で翌日までに現金5000万円を用意するよう求めた。このように原告Aが被告との信頼関係を破壊する行動に出たことから,被告は,同月22日付け通知書により,原告Aに対し,本件許諾契約を解除する旨の意思表示をするとともに,本件商標権譲渡契約に付されていた買戻特約による買戻請求権については既に商事消滅時効が成立しており,買戻請求がされてもこれに応じる意思がない旨通知した(乙15)。
しかるところ,原告Aは,同年10月15日,被告に対し,上記買戻請求権を行使したとして,本件各商標権の移転登録手続及びインアンドヤン商標の使用の差止め等を求める大阪地裁訴訟(1)を提起したほか,本件許諾契約の債務不履行又は不法行為による損害賠償を求める訴訟を大阪地方裁判所に提起した(大阪地裁訴訟(2)。なお,大阪地裁判決(2)では,原告Aは,本件許諾契約に基づき,「原告Aのデザインに基づいた,商品化が可能な程度のデザイン提案資料を提供する義務」があったにもかかわらず,当該義務を履行したとは認められないから,被告に対して使用料を請求することができない旨の認定判断がされ〔乙6〕,この認定判断は,控訴審及び上告審でも維持された〔乙7,8〕。)。これらの訴訟での原告Aの主張は,要するに,被告ではなく,原告Aこそが本件各商標権の商標権者であるというものであった。
そこで,被告は,このような原告Aの主張に鑑みると,本件商標権の商標権者が被告であることを前提とする本件専用使用権設定契約を維持することは困難であると判断し,同年12月16日付け通知書により,本件解除の意思表示(本件専用使 10 用権設定契約を解除する旨の意思表示)をした。
以上のとおり,原告Aは,自ら本件専用使用権設定契約の前提となる事実関係(被告が本件商標権の商標権者であること)を否定し,被告による本件各商標権に係る商標の使用の差止めを求めるという行動に出て,当事者間の信頼関係を破壊したものであるから,同契約には解除原因があったといえ,本件解除の意思表示により,同契約は有効に解除されたというべきである。
〔原告Aの主張〕 商標権についての専用使用権は,通常使用権と異なる排他的・物権的な権利であり,これを付与する専用使用権設定契約を解除するには,当事者間の信頼関係が高度に破壊されたことを要するというべきであるところ,そもそも,原告Aが買戻請求権が時効により消滅したか否かについて裁判所の判断を仰ぐことは,法律上当然に認められた権利である。
また,被告は,本件許諾契約に基づき,原告Aに対し,インアンドヤン商標を用いた重衣料の生産量に応じた使用料を支払う義務を負っていたが,原告Aに対して同生産量を過小に申告し,また,原告Aが有する他の商標(KATSUSHIGEMURAOKA商標)を無断使用していることが判明した。原告Aは,その代理人である原告Bとともに,この問題を円満に解決するために話し合いを申し入れたが,被告がこれに応じなかったことから,やむなく本件各商標権の買戻し等を主張するとともに,約定どおりの使用料の支払を求めて,大阪地裁訴訟(1)及び(2)を提起したものである。原告Aの上記行為は,いずれも正当な権利の行使であって,本件専用使用権設定契約の当事者間の信頼関係を破壊するようなものではない。
したがって,被告が本件解除の意思表示をした時点では,本件専用使用権設定契約には解除の原因がなかったというべきであり,同契約が有効に解除されたとはいえない。
(2) 争点1-2(被告が本件専用使用権設定契約を解除することは,権利の濫用にあたるか)について 11 〔原告Aの主張〕 仮に,被告が本件解除の意思表示をした時点において,原告Aと被告との信頼関係が破壊されており,本件専用使用権設定契約の解除原因があると評価されたとしても,争点1-1において主張したとおり,被告は,インアンドヤン商標を用いた重衣料の生産量を過少に申告して,本件許諾契約に基づく原告Aに対する使用料の支払を免れていたほか,原告Aが権利を有する他の商標(KATSUSHIGEMURAOKA商標)を無断で用いていたのであるから,専ら被告が作出した原因により当事者間の信頼関係が破綻に至ったものである。したがって,信頼関係破綻の原因を作出した被告による解除の主張は,権利の濫用にあたり許されないというべきである。
〔被告の主張〕 被告が本件専用使用権設定契約を解除することは,何ら権利の濫用にあたるものではない。
原告らは,被告がインアンドヤン商標を用いた重衣料の生産量を過少に申告して,本件許諾契約に基づく原告Aに対する使用料の支払を免れていたと主張するが,争点1-1において主張したように,大阪地裁判決(2)では,原告Aは,本件許諾契約に基づく「原告Aのデザインに基づいた,商品化が可能な程度のデザイン提案資料を提供する義務」を履行しておらず,このことから,被告に対して使用料を請求することができない旨の認定判断がされており(乙6),同認定判断は,控訴審及び上告審でも維持された(乙7,8)。また,KATSUSHIGE MURAOKA商標の無断使用がなかったことも,別件東京地裁判決において認定判断されたところである(乙26)。
2 本件請求Aに関する争点(争点2) (1) 争点2-1(被告による本件告知行為は,原告Aに対する不法行為を構成するか)について〔原告Bの主張〕 12 被告と原告Aとの間で本件専用使用権設定契約が締結され,原告Aとラ・キュアーとの間で本件商標権の通常使用権設定契約が締結され,ラ・キュアーと青山眼鏡との間で本件ライセンス基本契約が締結されたところ,原告Aとラ・キュアーとの間で,青山眼鏡からラ・キュアーに支払われるライセンス料年額200万円を,ラ・キュアーが原告Aに対し,上記通常使用権の対価として支払うことを合意していた。
そして,争点1における原告Aの主張のとおり,本件専用使用権設定契約には解除原因がなく,又は被告が同契約の解除を主張することは権利の濫用にあたり許されないところ,被告は,平成21年11月26日付けで,青山眼鏡に対し,本件専用使用権設定契約を解除したことや,大阪地裁判決(1)の判決書を送付するなどして,原告が本件商標権について権利を有しない旨を告知した(本件告知行為)。
被告は,もともと本件専用使用権設定契約に基づき原告Aに対し本件商標権につき専用使用権の設定登録をする義務を有していたのに,これを故意に履行していなかったところ,同契約を解除した旨を青山眼鏡に告知すれば,青山眼鏡がラ・キュアーとの間の本件ライセンス基本契約を解消するであろうことを認識しながら,原告Aに対する害意を持って,本件告知行為に及んだものである。
したがって,本件告知行為は,ラ・キュアーの青山眼鏡に対するライセンス料債権を侵害するものであって,もって,ラ・キュアーからライセンス料を受領していた原告Aに対する不法行為を構成するというべきである。
〔被告の主張〕 争点1において主張したとおり,本件専用使用権設定契約には解除原因があり,かつ,被告による解除の主張は権利の濫用にはあたらないから,本件解除の意思表示により,本件専用使用権設定契約は有効に解除されたというべきところ,同解除の効果により,原告Aは本件商標権について何らの権利を有しないことになるのであるから,被告が青山眼鏡に対し,同解除の事実のほか,大阪地裁判決(1)により被告の主張が認められ,原告Aではなく被告が本件商標権の商標権者であると認定 13 されたことを告知することは,正当な行為であって,ラ・キュアーとの関係でも,原告Aとの関係でも,何ら不法行為を構成するものではない。
また,青山眼鏡は,本件告知行為の約1年後に,同社の経営判断として,ラ・キュアーとの間の本件ライセンス基本契約を解除したのであるから,本件告知行為と青山眼鏡による解除との間には相当因果関係は認められないというべきである。
(2) 争点2-2(原告Aの被った損害の額)について〔原告Bの主張〕 ラ・キュアーは,平成11年以降,本件ライセンス基本契約に基づき,青山眼鏡からライセンス料として年額200万円(ミニマムロイヤリティを年額300万円としていたが,その後,合意により減額した。)を受領していたが,被告による違法な本件告知行為により,本件ライセンス基本契約の解消を余儀なくされた。
そして,原告Aは,ラ・キュアーから,上記ライセンス料の全額を受領していたところ(甲59),本件ライセンス基本契約が10年以上継続されていたこと,商標権の存続期間は10年ごとに更新できることなどからすれば,被告による違法な本件告知行為がなければ,原告Aは,今後少なくとも10年間にわたり,上記ライセンス料相当額を受領できる蓋然性があったといえる。
したがって,原告Aは,本件告知行為により,少なくとも2000万円の損害を受けたものと評価できる。
〔被告の主張〕 争う。
(3) 争点2-3(原告Bが,原告Aから,本件告知行為を原因とする被告に対する損害賠償請求権の譲渡を受けることは,弁護士法72条及び73条に反し,又は信託法10条に反し無効となるか)について〔被告の主張〕 次の各事情からすれば,原告Bが原告Aから被告に対する損害賠償請求権の譲渡を受けることは,報酬を得る目的で法律事件の代理をすることを禁じた弁護士法7 14 2条,業として他人の権利を譲り受けて訴訟等により同権利を実行することを禁じた同法73条,又は訴訟行為をさせることを主たる目的とする信託を禁じた信託法10条に違反し,無効な法律行為であるから,原告Bの請求は棄却されるべきである。
ア 原告Bは,原告Aを代理して,被告との法的紛争を解決するための和解交渉をし,平成20年8月頃,被告代表者に対して,解決金5000万円の支払を提示しているが,このとき,法的紛争の交渉を代理し,報酬を得ることが弁護士法に違反することを認識していた(乙25)。
イ 原告Aは,原告Bに対して,債権の具体的内容を特定することなく,包括的に,被告に対して主張し得ると考えられるすべての債権を譲渡しており,原告A自身,譲渡の対象となった債権の内容を全く理解していなかった(甲55,乙24)。
ウ 原告Bは,債権譲渡の対価として現金を支払っているわけではなく,原告Aに対する債権と相殺勘定しているところ,原告Bの原告Aに対する債権は,原告Bに対する報酬(月額30万円),必要経費・雑費(月額10万円),日当(月額40万円),顧問料(月額5万円)など,債権回収のために名目として掲げられたと考えられるものが大半を占めている(甲50,乙24,25)。
〔原告Bの主張〕 争う。
原告Bは,原告Aとは30年来の友人関係にあり,原告Aからラ・キュアーの顧問に迎え入れられた者であって,業として貸付け等を行う者ではない。
原告Bは,被告及び被告の取引先が,KATSUSHIGE MURAOKA商標を無断で使用していることや,被告がインアンドヤン商標に係る重衣料の生産量を過少申告していることを突き止めたが,原告Aが窮状にあったことから,それらに要した調査費用等をすべて立て替えた(甲50,51)。また,原告Aやラ・キュアーに対して合計2600万円を貸し付けている(甲52ないし54)。
原告Aは,原告Bに全幅の信頼を寄せ,また,上記調査の過程において被告代表 15 者が原告Bの信用を毀損する言動に出たため,原告Bを紛争に巻き込んでしまった責任も感じていた。これらのことから,原告Aは,原告Bに対する上記立替金債務及び貸金返還債務の返済に代えて,被告に対する損害賠償請求権を譲渡することを提案し,原告Bがこれに応じたものである。
したがって,原告Bが,原告Aから,本件告知行為を原因とする被告に対する損害賠償請求権の譲渡を受けることは,弁護士法72条,73条,又は信託法10条に反するものではない。
当裁判所の判断
1 前記第2の2(本件の前提となる事実関係)に加え,掲記の各証拠及び弁論 の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) インアンドヤン商標の成り立ち 原告Aは,服飾デザイナーとして,昭和57年頃,株式会社イン・アンド・ヤンを設立し,「Yin&Yang」ブランドを開発して,その後,同ブランドに係る複数の商標権(本件商標権を含む。)の登録を受けた。同ブランドは,その後知名度を上げていったが,株式会社イン・アンド・ヤンは,平成7年頃,資金繰りに窮して事実上倒産し,原告Aは,平成8年頃,家族とともにアメリカ合衆国に移住した(甲10,11,22,乙1,19)。
(2) 本件旧許諾契約及び本件ライセンス基本契約の各締結 ア 被告は,平成8年頃から,ブランド再生ビジネス(過去に市場展開されていたブランドを探し出し再生する事業)を計画していたところ,「Yin&Yang」ブランドを覚知し,これを対象候補として,インアンドヤン商標の商標権者であった原告Aと交渉を始め,平成9年9月13日,原告Aとの間で,原告Aが被告に対してインアンドヤン商標及び商品化に必要な資料の使用を許諾する ことを内容とする本件旧許諾契約を締結し,平成12年2月29日,対象商品を追加した上で同契約を更新した。被告は,本件旧許諾契約により,事前に原告Aと合意の上,第三者との間でインアンドヤン商標及びデザインの使用について再許 16 諾契約を締結することができるとされており,平成10年から平成12年にかけて,原告Aとの合意を経た上で,第三者(蝶理〔対象商品は,ビジネススーツ,ビジネスコート,ジャケット,パンツ及びコーディネイト付帯製品である。〕を含む11社)との間で,インアンドヤン商標の使用に関する再許諾契約を締結した。なお,本件旧許諾契約における原告Aの義務は,上記のとおり,本件各商標権に係る商標及び商品化に必要な資料(素材,カラー,デザイン,サンプル等の提案資料をいう。)の使用を許諾することであり,被告の支払うべき対価(使用料)の額は,第三者との再許諾契約締結に際して原告Aと取り交わした各覚書において,問屋への販売価格(卸売価格)の3パーセントないし5パーセントと,個別に定められた(甲28の1ないし38の3,乙6,7,13の1・2)。
イ 他方,ラ・キュアーは,平成11年7月23日,青山眼鏡との間で,本件商標権につき,本件ライセンス基本契約を締結した。本件ライセンス基本契約は,ラ・キュアーが,青山眼鏡に対し,同社が眼鏡製品に本件商標を使用することを認め,その対価として,同社が,その売上高に応じて,ラ・キュアーに対して年額300万円以上を支払うことを内容とするものである(甲2)。
(3) 本件商標権譲渡契約及び本件専用使用権設定契約の各締結 ア パピヤン株式会社(以下「パピヤン」という。 )は,原告Aに対して元本1676万3205円の債務名義を有していたところ,同債務名義に基づき,平成12年7月から同年8月にかけて,本件商標権を含むインアンドヤン商標に係る複数の商標権の差押命令を得たほか,同年11月には,原告Aの株式会社オンワード樫山に対するデザインブランド使用料債権の債権差押命令を得た。インアンドヤン商標に係る商標権の差押えを覚知した被告は,原告Aに対し,原告Aが保有していた別の商標(「incense」と書してなる商標)に係る商標権が差し押さえられることを回避するため,同商標権の名義を被告に移転するよう求めた。また,原告Aは,パピヤンと交渉して,パピヤンに対する債務の弁済と引き替えに,上記差押命令の申立てを取り下げてもらうことにつき了承を得たが,原告Aが用意できる現金は3 17 00万円程度であった(甲10,22,39,乙6,12,19)。
イ 原告Aは,平成12年12月14日,被告との間で,本件各商標権を代金450万円で譲渡する旨の本件商標権譲渡契約を締結したほか,被告から1000万円を借り入れた。また,原告Aと被告は,同日付け覚書(以下「本件覚書」という。)を取り交わし,本件旧許諾契約について必要な変更契約を締結すること(第2条2項),本件各商標権のうち本件商標権については被告が原告Aに専用使用権を設定すること(第4条1項),原告Aが被告に対して本件各商標権の全部又は一部について譲渡の請求をした場合は,譲渡契約(ただし,譲渡代金は,本件商標権譲渡契約の履行により被告が支出した代金,移転登録費用及び税務の負担を補填する額とし,原告Aと被告が協議の上定めるものとする。)が成立するものとすること(第5条1項)などについて合意した。原告Aと被告は,同月15日,本件覚書に従い,本件商標権につき被告が原告Aに対し専用使用権を設定する旨の本件専用使用権設定契約を締結した(甲1,9,22,乙2,6,12)。
ウ 原告Aは,被告から受領した現金1450万円に手持ち資金を加え,平成12年12月15日,パピヤンに対する債務を弁済し,パピヤンは,その後,上記アに係る差押命令申立てをいずれも取り下げた。本件各商標権については,平成13年1月から同年6月にかけて,被告に対する移転登録手続がされた(甲10,22,乙12)。
(4) 本件許諾契約の締結 ア 原告Aと被告は,平成13年6月1日,本件許諾契約を締結した。本件許諾契約は,本件覚書に基づき,本件旧許諾契約の内容を変更するものであり,インアンドヤン商標について,被告が商標権者であり,原告が「専用デザイン権」を有することを保証し,原告Aが被告に対して商品化に必要な資料(基本コンセプト,テーマ,シルエットデザイン,シーズンテーマ,素材,カラー,デザイン,サンプル等の提案資料)の使用権を許諾し,被告は,事前に原告Aと合意の上,第三者との間でインアンドヤン商標及びデザインの使用について許諾契約を締結できるものと 18 するとともに,被告が,原告Aに対し,デザイン使用許諾料として,平成13年秋冬物より,眼鏡製品を除く全製品につき,一律に卸売価格の2パーセントを支払うこととするものであった。もっとも,被告は,本件許諾契約に基づき,原告Aとの間で,平成14年4月29日,インアンドヤン商標を付した紳士重衣料製品について蝶理との間で許諾契約を締結することに関し,被告が,原告Aに対し,「本実施権の対価」として,年額200万円を最低保証額として支払い,蝶理による紳士重衣料製品の販売金額が2億2000万円を超過した場合に限り,6か月ごとに精算する追加許諾使用料を支払う旨を合意した。この合意の有効期間は3年間であったところ,平成17年4月1日付け及び平成20年4月21日付けで,ほぼ同旨の覚書(ただし,これら2通の覚書は,いずれも被告とラ・キュアーとの間で取り交わされ,「本実施権の対価」も,ラ・キュアーに対して支払うべきものとされた。)が取り交わされた(甲20の1ないし3,乙6,7,14の1・2)。
イ 被告は,本件許諾契約に基づき,原告A又はラ・キュアーに対し,平成14年度分(当年5月1日から翌年4月30日まで。以下同じ。)から平成19年度分まで,合計1750万3341円を支払った。しかしながら,上記支払は,本件許諾契約に基づいて計算した形がとられているものの,平成16年度分以降は,蝶理の現実の生産高に基づいて計算されたものではなかった(甲15,乙6)。
(5) 原告Bによる調査等と本件許諾契約の解除の意思表示 ア 原告Bは,平成20年頃,調査会社を用いたり,自ら小売店舗を訪問するなどして,インアンドヤン商標が付された紳士用スーツの取扱状況を調査し,被告が,原告A及びラ・キュアーに対し,蝶理による紳士重衣料製品の販売金額を過少に申告し,数億円に上る対価支払義務を免れていると推認される旨報告した(甲47)。
イ 原告Aは,平成20年9月16日,被告代表者と面談する約束を取り付けていたが,同日,被告の事務所を訪れたのは,原告Aではなく,ラ・キュアーの顧問であると称する原告Bであった。原告Bは,被告代表者に対し,5000万円の支払を求めたほか,被告の帳簿類を閲覧させるよう求めた。被告代表者は,原告Aと 19 直接話がしたいとしてこれらの求めを拒絶したが,同日,原告Bの求めに応じて,次の記載のある原告A宛ての手書きの誓約書を原告Bに交付した(甲15,乙6,7,25)。
「A様 過去数年間(5年間ほど)において,Yin&Yanの報告に対して差異があったことを認めます。但し条件開示はいたします。(蝶理に関する件)。青山にての販売の件。
C 08.9.16」 ウ 被告代表者は,平成20年9月22日,原告A及びラ・キュアーの代表者に対し,次の内容を含む電子メールを送信した(乙16)。
「A様には先般9月16日にご来阪,ご挨拶いただけるということで,お会いできることを大変楽しみにしておりました。しかしながら,初めてお会いする方が突然来訪され,『会社の顧問です。Aは近くまで来ていますが昼食後体調悪く病院にいますがすぐ来ます。』と言われ,失礼にならぬよう対応をしていたのですが,A様がなかなかお見えにならないので,…しばらくお話をうかがっておりました。
すると突然強圧的な言動を取り始め,当社とA様との契約云々の話や,『お宅はよく儲けている。』とかの話をしはじめ,挙句の果てには商標や契約内容について『お宅の契約先に圧力をかけるぞ。』という言葉と共に5000万円もの高額の金員を明日までに用意しろと迫ってきました。」 「双方の信頼関係のもと,約10年間に渡り友好的にお付き合いができたことは今でも誇りに思います。しかし9月16日LACURA社顧問のB氏の訪問以来わずか数時間でその信頼関係は崩れてしまいました。5000万円の法外な現金要求,その後の二人での会談の申し込み破談,蝶理社への直接訪問,このような貴社の行為は,友好な契約を持続させてきた当事者間では到底考えられない行為であり,未だに何か夢のようと言わざるを得ません。」 エ 被告は,代理人弁護士を通じ,平成20年9月22日付け内容証明郵便によ 20 り,原告A及びラ・キュアーに対し,ラ・キュアーの顧問と称する原告Bが不当に高額な追加使用許諾料名目で金銭を請求し,被告の帳簿の閲覧を求めたことや,原告らが蝶理を訪問したことなどが契約当事者間の信頼関係を著しく損なうものであるとして,本件許諾契約を解除する旨の意思表示をした。被告は,同内容証明郵便において,本件覚書第5条1項に記載のある買戻し特約については,既に締結日から5年が経過しているため商事消滅時効が完成しているので,買戻しには応じられない旨を付記した(乙15)。
(6) 本件解除の意思表示 ア 原告Aは,平成20年10月15日,大阪地裁訴訟(1)を提起し,本件各商標権について買戻請求権を行使したとして,被告に対し,@本件各商標権が原告Aに帰属することの確認,A本件各商標権につき原告Aに対する移転登録手続及びB被告による本件各商標権に係る商標の使用の差止めを求めた (甲19,乙6)。
イ 被告は,平成20年12月16日付け通知書により,原告A及びラ・キュアーに対し,原告Aが被告に対して本件商標権に関する訴訟(大阪地裁訴訟(1))を提起して,その中で,本件商標権が自己(原告A)に帰属する旨主張していることは,本件専用使用権設定契約における原告Aの立場とは相矛盾するなどと指摘して,本件専用使用権設定契約を解除する旨の意思表示(本件解除の意思表示)をした(甲4)。
(7) 本件告知行為 被告は,平成21年11月26日付けで,青山眼鏡に対し,本件解除の意思表示に係る平成20年12月16日付け通知書及び大阪地裁判決(1)の判決書写しを同封して,次の内容を含む書簡を送付した(本件告知行為)(甲5)。
「当社(判決注:被告を指す。)は平成20年12月16日付けにて眼鏡の専用使用権の許諾契約の解除をA氏に通告いたしております。今般,平成21年9月3日の一審判決により,弊社は商標権者として,法的にも認められました。弊社とA 21 氏との間には,いかなるデザイン契約も専用使用権の許諾契約も存在しておらず,貴社とA氏との契約は現在,何ら効力を持つ物ではありません。弊社といたしましては,長年に渡ってお付き合いを頂いている,貴社が当該ライセンス契約にて損失を被ること無きよう最大限,配慮したい所存でございます。つきましては,今後について,ご相談を頂きたいと所望しております。」 (8) 本件ライセンス基本契約の解消 青山眼鏡は,被告から大阪地裁判決(1)が確定したことを知らされ,平成22年12月24日付けの書簡により,ラ・キュアー及び原告Aに対し,本件ライセンス基本契約を解消したい旨通知し,また,平成23年1月27日付け通知書により,ラ・キュアーに対し,原告A及びラ・キュアーが本件商標に関する使用権限を失ったことを原因として,本件ライセンス基本契約を解除する旨の意思表示をした(甲6,7)。
2 争点1-1(本件解除の意思表示による本件専用使用権設定契約の解除につき,解除原因があるか)及び争点1-2(被告が本件専用使用権設定契約を解除することは,権利の濫用にあたるか)について (1) 被告は,原告Aが,大阪地裁訴訟(1)を提起するなど,自ら本件専用使用権設定契約の前提となる事実(被告が本件商標権の商標権者であること)を否定し,被告による本件各商標権に係る商標の使用の差止めを求めるという行動に出て,当事者間の信頼関係を破壊したものであるから,本件解除の意思表示をした時点で同契約には解除原因があった旨主張するのに対し,原告Aは,原告Aの行為は正当な権利の行使であって,信頼関係を破壊するものではないと主張するほか,仮に信頼関係が破壊されていたと認められたとしても,その原因を作出したのは被告であるから,被告による解除の主張は権利の濫用にあたり許されない旨主張する。
そこで,前記本件の前提となる事実関係及び前記1で認定した事実関係に基づき,検討する。
(2) 本件商標を含むインアンドヤン商標については,平成12年の時点において, 22 原告Aと被告との間で締結された本件旧許諾契約に基づき,被告が第三者にこれを再許諾するなどの利用関係が築かれていたところ,同年7月以降,原告Aの債権者であったパピヤンが本件商標権を含む複数の商標権及び原告Aが有する債権の差押命令を得るという事態が生じたことから,被告は,これを契機に,本件譲渡契約により原告Aが保有する本件各商標権の譲渡を受けて,原告Aにパピヤンへの弁済資金を提供するとともに,原告Aとの間で本件覚書を取り交わし,その後,本件許諾契約を締結したものである。そして,本件許諾契約では,原告Aがインアンドヤン商標を付すべき製品のデザインを提供する権利を持つこと,換言すると,原告Aが,被告に対し,原告Aのデザインに基づいた,商品化が可能な程度のデザイン提案資料を提供する義務を負うことにより,商標権者である被告をある程度拘束することとし,被告が,原告Aに対し,本件旧許諾契約において定められていた金員よりも低額の金員を支払うこと等が取り決められたものであって,本件譲渡契約により本件各商標権が被告に移転済みであり,被告が,商標権者として,本来,本件各商標権に係る商標を自由に使用することができる立場にあることが前提とされていたものと解される。
ところで,本件商標権のうち,眼鏡製品を指定商品とする部分については,被告ではなくラ・キュアーが,青山眼鏡との間で本件ライセンス基本契約を既に締結していたことから,ラ・キュアーと青山眼鏡との関係を維持するためには,被告が本件商標権の商標権者であることと,ラ・キュアーが本件ライセンス基本契約の当事者であることを両立させる必要があり,このため,本件商標権の商標権者である被告が原告Aに専用使用権を設定する(その上で,原告Aがラ・キュアーに再使用許諾の権限のある通常使用権を設定する。)という法形式を採用し,本件専用使用権設定契約が締結されるに至ったものと解される。
上記事実関係によれば,本件商標権譲渡契約,本件専用使用権設定契約及び本件許諾契約は,原告Aがパピヤンへの弁済資金を確保するために本件各商標権を被告に譲渡するに当たり,平成9年の本件旧許諾契約の締結以降,主として被告が構築 23 してきたインアンドヤン商標の円滑な利用関係を継続するとともに,ラ・キュアーと青山眼鏡との関係を維持し,更に原告Aが,本件各商標権を被告に譲渡し,被告が商標権者となったにもかかわらず,被告から金員の支払を受けることができる法的枠組みを形成するために締結された一連の契約であると解すべきところ,原告Aは,大阪地裁訴訟(1)において,単に,買戻請求権を行使したと主張して,本件各商標権の移転登録を求めたにとどまらず,被告による本件各商標権に係る商標,すなわちインアンドヤン商標の使用の差止めまで求めたのであるから,被告が構築してきたインアンドヤン商標の円滑な利用関係を根本的に否定しようとしたものと言わざるを得ない。
以上によれば,原告Aが大阪地裁訴訟(1)を提起したことは,本件専用使用権設定契約の前提となった当事者間の信頼関係を根底から破壊するものであったというべきであるから,本件専用使用権設定契約には解除の原因があったものと評価するのが相当である。
(3) この点について,原告Aは,買戻請求権が時効により消滅したか否かについて原告Aが裁判所の判断を仰ぐことは法律上当然に認められた権利である旨主張する。
しかし,上記(2)で説示したところに加え,原告Aが本件覚書に基づく買戻しの対価の支払や提供をした事実がないこと(乙17)をも併せ考えれば,原告Aが大阪地裁訴訟(1)を提起して,単に買戻請求権の行使を主張するにとどまらず,被告による本件各商標の使用の差止めまで求めたことが被告との間の信頼関係を破壊するに至らない程度にとどまるものであったと評価することは,困難であるというほかはない。
(4) 原告らは,原告Aが大阪地裁訴訟(1)を提起し,同時に大阪地裁訴訟(2)を提起せざるを得なかったのは,被告が,本件許諾契約に基づき,原告Aに対し,インアンドヤン商標を用いた重衣料の生産量に応じた使用料を支払う義務を負っていたところ,これを過少に申告し,また,他の商標(KATSUSHIGE MURA 24 OKA商標)を無断使用していたことから,原告らにおいてこの問題を円満に解決するため,被告に話し合いを申し入れたが,被告がこれに応じなかったためであるとして,本件専用使用権設定契約には解除原因がなく,また,被告による解除の主張は権利濫用にあたる旨の主張もする。
確かに,被告は,本件許諾契約に基づき,原告A又はラ・キュアーに対し,平成14年度分から平成19年度分まで,合計1750万3341円を支払っていたが,この支払は,本件許諾契約に基づいて計算した形がとられていたものの,平成16年度分以降は,蝶理の現実の生産高に基づいて計算されたものではなく,被告は,原告A又はラ・キュアーに対し,結果的に,本件許諾契約に基づいて算出されるべき金額を下回る支払をしていたことが認められる。また,被告は,原告Aが大阪地裁訴訟(1)及び(2)を提起する前に,本件許諾契約を解除する旨を通知しているから,原告Aのみが一連の契約関係を一方的に解消しようとしたものとはいえない。
しかしながら,原告Aは,前記のとおり,本件許諾契約において,被告に対し,原告Aのデザインに基づいた商品化が可能な程度のデザイン提案資料を提供する義務を負っていたというべきところ,原告Aにおいて同債務の本旨に従った履行をしたと認めるに足りる証拠はないし,被告は,本来,本件各商標権の商標権者として,インアンドヤン商標を付する商品を自由に決め得る立場にあったのであるから,蝶理において原告Aのデザインに基づいた商品化をしたと認めるに足りる証拠がない以上,被告が,原告A又はラ・キュアーに対して,蝶理の現実の生産高に基づいて計算された額を支払っていなかったとしても,原告A又はラ・キュアーにおいて,本件許諾契約に基づく利用料等の追加請求権が発生していたものとは認められない。
そして,原告Aにおいても,同契約の現実の履行状況,ひいては被告に対する請求権の有無を十分に把握しうる立場にあったというべきであるところ,ラ・キュアーの顧問と称する原告Bが,原告Aとの面会を予定していた被告代表者を突如として訪れ,5000万円の支払を求めたほか,被告の帳簿類の閲覧を求めるなどしたのであるから,被告において,原告A又はラ・キュアーが,被告との本件許諾契約を 25 中心とするインアンドヤン商標の利用関係を継続する意思を有しない旨の疑問を抱いたとしても,無理からぬところである。
なお,被告が「KATSUSHIGE MURAOKA」との表示を原告Aに無断で使用していたと認めるに足りる証拠はないし,少なくとも,本件解除の意思表示がされた時点において,被告が「KATSUSHIGE MURAOKA」との表示を原告Aに無断で使用したか否かは,必ずしも原告Aと被告との間で明示的な問題として認識されていたものとは認められないから(原告Bが大阪地裁訴訟(1)及び(2)に先立ち作成した報告書〔甲47〕においても,「カツシゲムラオカプロデュースと明記されている」との記載が認められるにとどまり,「KATSUSHIGE MURAOKA」との表示の使用が商標権侵害を構成し得るとの点に着目した記載は認められず,原告らの提出する証拠〔甲68,69〕によっても,原告Aが「KATSUSHIGE MURAOKA」との表示を問題にしたのは平成22年3月頃に至ってからと認められる。),本件解除の意思表示の効果を左右するものとは認め難い。
したがって,被告による解除の主張が権利濫用にあたるとは認められない。
(5) 以上によれば,本件専用使用権設定契約の当事者であった原告Aと被告との信頼関係は,原告Aによる大阪地裁訴訟(1)の提起及びこれに先立つ原告A及び原告Bの行動(なお,原告Bは,原告Aの委任に基づき,原告Aの代理人として行動したものである〔甲22〕。)が契機となって,被告が本件解除の意思表示をした平成20年12月16日頃の時点までに根本的に破壊されていたものと認められるから,同意思表示により,同契約は有効に解除されたというべきであり,また,同信頼関係の破壊について,専ら被告のみが原因を作出したと評価することは困難であるから,被告が,本件訴訟において,同契約が解除された旨主張して原告Aの請求を拒むことは,権利の濫用にはあたらないというべきである。
したがって,本件請求@(本件専用使用権設定契約に基づく原告Aの請求)は,理由がない。
26 3 争点2-1(被告による本件告知行為は,原告Aに対する不法行為を構成す るか)について (1) 原告Bは,被告が,青山眼鏡に対し,大阪地裁判決(1)の判決書を同封して,本件専用使用権設定契約を解除した旨を告知したこと(本件告知行為)が,ラ・キュアーの青山眼鏡に対するライセンス料債権を侵害するものであって,もって,ラ・キュアーからライセンス料を受領していた原告Aに対する不法行為を構成する旨主張する。
しかしながら,本件専用使用権設定契約は,前記2において説示したとおり,被告による本件解除の意思表示により有効に解除されたと認められるばかりか,被告は,前記本件の前提となる事実関係及び前記1の認定に係る事実関係のとおり,本件解除の意思表示後直ちに本件告知行為に及んだものではなく,原告Aによる本件商標権に係る買戻請求権行使の主張を排斥した大阪地裁判決(1)の言渡し後に本件告知行為に及んでいることや,本件告知行為を受けた青山眼鏡においても,大阪地裁訴訟(1)の上告審決定により大阪地裁判決(1)が確定するまで,本件ライセンス基本契約を解消しなかったことが認められることからすれば,被告が本件告知行為によりラ・キュアーの青山眼鏡に対するライセンス料債権を違法に侵害したと評価することはできない。
(2) 原告Bは,ラ・キュアーが青山眼鏡に本件商標の使用許諾をし,その対価として年額200万円のライセンス料の支払を受けることになっていた旨,及び,原告Aがラ・キュアーに本件商標の使用許諾をし,その対価として上記と同額のライセンス料の支払を受けることとなっていた旨の主張をする。
しかしながら,原告Aとラ・キュアーとの間の契約とラ・キュアーと青山眼鏡との間の契約とは別個のものであり,原告Aとラ・キュアーとは別個の法人格を有するものというべきであるから,青山眼鏡からラ・キュアーに対するライセンス料の支払がなかったとしても,そのことによって直ちに原告Aがラ・キュアーに対するライセンス料債権を喪失するものではない。
27 原告Bは,原告Aとラ・キュアーとの間の契約において,青山眼鏡からラ・キュアーに対する支払がないときは,当然にラ・キュアーが原告Aに対するライセンス料の支払を免れる約定になっていたなど,ラ・キュアーが青山眼鏡からライセンス料の支払を受けないことにより,直ちに原告Aに損害が発生することを基礎付ける事実関係を主張していないし,そのような事実関係を被告が認識していたことも主張していない(なお,原告Bは,受命裁判官の釈明に対し,平成26年12月5日の第12回弁論準備手続期日において,「原告Bの請求の根拠は,原告Aの被告に対する損害賠償請求権を譲り受けたものである。ラ・キュアーの被告に対する損害賠償請求権は本件の請求原因にはしない。」旨の陳述をした。)。
そうすると,本件告知行為が原告Aに対する不法行為(債権侵害)を構成するという原告Bの主張は,そもそも,主張自体失当というべきである。
(3) したがって,本件請求A(原告Aの被告に対する不法行為(債権侵害)による損害賠償請求権を譲り受けたことを理由とする原告Bの請求)は,その余の争点につき検討するまでもなく,理由がない。
4 結語 以上によれば,原告らの請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 嶋末和秀
裁判官 鈴木千帆
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