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関連審決 不服2014-4145
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事件 平成 27年 (行ケ) 10019号 審決取消請求事件

原告 ブラックロックファンド アドバイザーズ
訴訟代理人弁護士 田中伸一郎 小林正和 弁理士 井滝裕敬 石戸孝
被告特許庁長官
指定代理人金子尚人 根岸克弘 田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/10/29
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告の求めた判決
特許庁が不服2014-4145号事件について平成26年9月16日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,商標登録出願に係る拒絶査定不服審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,商標法3条1項5号該当性の有無及び同3条2項該当性の有無である。
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成25年3月25日,第36類に属する役務を指定役務として,別紙のとおりの商標の登録出願をし(本願商標,商願2013-21337号),同年9月5日付け手続補正書をもって,その指定役務を第36類「銀行業務,ミューチュアルファンド投資に関する助言,投資に関する管理,上場投資信託の分野における信託財産の運用指図,金融及び投資の分野における情報の提供,電子的手段による金融及び投資の分野における情報の提供,双方向ウェブサイト及びオンラインによるコンピュータデータベースを利用した金融に関する情報の提供,金融に関する助言,上場投資信託に関する受益証券の募集/売出し及び保護預り・収益分配金及び償還金の支払・管理及び引受け並びにこれらに関する情報の提供及び助言,投資に関するコンサルティング,事前に設定した基準に従って売出された有価証券に関する投資,投資,キャピタルインベストメントファンドの管理,ミューチュアルファンドに関する取引の取次ぎ,上場投資信託に関する取引の取次ぎ,上場投資信託に関する投資,商品投資顧問契約に基づく投資,金融又は財務に関する情報の提供,財務管理,金融又は財務に関する助言」と補正したが,同年11月29日付けで拒絶査定を受けたので,平成26年3月4日,これに対する不服審判請求をした(不服2014-4145号)。
特許庁は,平成26年9月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審 決(本件審決)をし,その謄本は,同年10月1日に原告に送達された。
2 本件審決の理由の要点 本願商標は,その構成態様に照らせば,看者をして,容易に「i」の欧文字1字として理解されるものであり,また,その書体も,「Memphis」と称するもののうちの「Extra Bold」によるものに近似するものであり,さらに,該欧文字の彩色も,一般に広く用いられている緑色であることから,これらを総合勘案すれば,本願商標は,いまだ普通に用いられる方法の域を脱しない程度の方法をもって表してなるものとみるのが相当である。
そうとすると,本願商標は,「i」の欧文字1字を普通に用いられる方法をもって表してなるにすぎないものであるから,極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなる商標といわなければならない。
したがって,本願商標は,商標法3条1項5号に該当する。
原告主張の審決取消事由
1 商標法3条1項5号該当性についての判断の誤り(取消事由1) (1) 本願商標の「i」においては,@従来のセリフ書体にセリフのない書体を結合するという意外な手法を用いることで,多くの対象を結合している雰囲気を醸し出し,A左右非対称にすることで,親しみやすさと人間味を想起させつつも,デジタル記号とプログラミングという最新の概念も想起させるデザインにした。さらに,B従来の「i」の書体は,細く消えてしまいそうなものが多いが,太く頑丈に見える書体を採用することで信頼性や明確性を想起させ,C「i」の上部の点について,従来の書体は丸みを帯びているが,資産運用の情勢変化に合わせた新しい投資手法を反映させるべく,四角を採用した。その上で,D色は,とにかく明るい色にすることに専念し,PMS376の緑色を採択した。この緑色は,投資業界でよく見かける伝統的で保守的な青色と比較して,躍動感あふれる色である。通常使用される書体(例えば,明朝体・ゴシック体・Century・Times New Roman等)と比較すると,上記@ないしCの特徴を有する本願商標の形状は,非常に特異で独創的なものである。
(2) 本件審決は,本願商標が,「Memphis」と称するもののうちの「Extra Bold」による書体の「i」に「近似する」と認定しているが,誤っている。
(本願商標) (Memphis Extra Bold) (Memphis Bold) @本願商標においては,「i」の上部に位置する点(頭部分)が正方形であるのに対し,「Memphis」書体においては,「i」の上部に位置する点(頭部分)が,横長の長方形である点で,図形として決定的に異なっているのみならず,A本願商標においては,「i」の上部に位置する点(頭部分)と下部(胴体部分)との間の空白(首部分)が,上部に位置する点(頭部分)の3分の1程度と狭い(首が短い)のに対し, 「Memphis」書体においては,対応する空白(首部分)が,上部に位置する点(頭部分)の長さとほぼ同じであって空白(首部分)が広い(首が長い)という点でも,図形として決定的に異なっており,また,B本願商標は,上部の点(頭部分) ・下部(胴体部分)に比べて,セリフ部分(いわば手・足部分)の太さが半分程度しかなく,細いのに対して, 「Memphis」書体は,上部の点(頭部分) ・下部(胴体部分)と,セリフ部分(いわば手・足部分)の太さはほぼ同じか若干細い程度であり,図形として全く異なっており,さらに,C本願商標においては, 「i」の上部に位置する点(頭部分)の横幅が,セリフのある下部の上部分の長さの約半分の幅しかない,言い換えればセリフ書体の下部にセリフのない書体からなる頭部分を乗っけたものであるのに対し, 「Memphis」書体においては, 「i」の上部に位置する点(頭部分)の横幅は下部の上部分の長さとほぼ同じであり,正に通常 のセリフ書体である点において,図形として全く異なっており,その結果,これらの商標ないしフォントに触れた印象としても,D本願商標は,人物に例えるならば,全体として,細身である(スリムな)人物像,すなわち,セリフ部分(手・足部分)が,上部に位置する点(頭部分)と下部(胴体部分)と比べて細く,全体として縦長ですっきりとした人物像の印象を与え,あるいは,細長い灯台あるいは蝋燭の印象を与えるのに対し, 「Memphis」書体は,全体として,横長で「寸胴」ないし「頭でっかち」な人物像の印象を与える。
このように,両者の図形を具体的に対比すれば,図形自体が明らかに異なっており,その結果,これらが与える印象も全く異なったものとなっている。したがって,本願商標は,既存の「Memphis」書体とは全く異なる,独創的な図形からなる商標である。
(3) 1文字や2文字の欧文字に関する標章でも,商標登録されている例がある(甲2〜甲9)。当該商標が,特殊なロゴで一般的でない色彩からなり,自他商品役務識別力を有するのであれば,商標法3条1項5号には該当しない。
たとえ,欧文字の1字をベースとした商標であるとしても,慣用される既存の黒色のフォントを流用したものではなく,本願商標のように,@特有のコンセプトに基づき,A特徴ある色彩と相まって,B(既存のフォントとは明確に異なる)様々な特徴のある特有の図形として,C既存のフォント等とは印象が全く異なるものが創り出されたのであれば,「極めて簡単」や「ありふれた」の文言に該当し得ない。
さらに,近時,スマートフォン等の普及によって, 「アイコン」のように(いわゆる1文字をベースに表現されるものも多い。,比較的小さな正方形内においてサービ )スの出所を表現することが増えており,実際出所表示として機能している。このような現代社会にあって,欧文字1文字といえるものであっても,それに独創的な図形・色彩をもって表現されたものが,我が国の商標法においては,「極めて」「ありふれた」ものとして,3条1項5号により保護されない事態というのは,いかにも時代遅れである。
(4) 本願商標(緑色の色彩が付されていないものを含む。)は海外で登録されており,この事実は,多くの国において,本願商標が自他役務識別力を有することを示している。経済のボーダーレス化に伴う国境を越えた多様な経済活動が進展する現在においては,グローバルに事業展開を行う企業は世界的に同一の商標を使用して事業を進めていくことが多い。とりわけ本願商標出願の指定役務にかかる金融投資の世界においては,諸外国における登録状況等の事情を考慮する必要がある。
(5) 我が国の商標保護も,世界の潮流に従い,自他商品役務識別力を有する標識については従前登録が認められないものであっても,経済の秩序ある運営,発展のためには,商標登録を積極的に進めていく方向にある。そのような中,審査基準を形式的に適用し,欧文字1字の商標について実質的な検討をせずに,登録を認めないというのは,正に現在の商標法が志向する商標保護法制に反する。本願商標は色彩を有するものであるところ,今回の商標法改正は,色彩の識別力の可能性を認め,単色でも商標登録を認めるとするものであり,特別な態様の「i」に色彩が付されていることについて,一般的に広く認められている緑色であるから考慮に値しないなどというのは,理由がない。
たとえ諸外国と我が国の商標保護法制が個別具体的に相違するところがあるとしても,自他役務識別力の有無は,商標保護制度の前提として世界共通のものである。
しかるところ,現に,米国,ヨーロッパを含む世界各国において,本願商標は, (国によっては,色彩を考慮しなくとも,)登録が認められ,自他役務識別力が確認されているのである。さらに,米国,ヨーロッパ諸国等は,欧文字を主に使用する国であり,欧文字が主要文字ではない我が国と比べると,欧文字は,一般的に識別力が認められにくいはずであるにもかかわらず,本願商標は,図形としての特徴,当該図形自体,図形及び色彩との組合せにより,自他役務識別力が現に認められ,米国,ヨーロッパ等においても登録に至っている。そうであるならば,欧文字が主要文字でない我が国においては,自他役務識別力の観点からして,なお一層,本願商標の登録が認められてしかるべきである。
近時,インターネットが普及し,役務の提供もインターネットを通じてなされてきており,本願商標の指定役務についても,その性質上,サービスの提供が,世界各国の投資家らを対象として,主にインターネットを通じてクロスボーダー的になされている。しかるところ,出願人たる原告が,米国・ヨーロッパ等においてインターネットを通じて提供するサービスについては,原告の本願商標が(米国・ヨーロッパにおいて登録された結果)保護される一方,我が国からインターネットを通じて提供されるサービスについては,原告の本願商標が(日本国で登録されないために)保護されないという事態は,クロスボーダー取引がなされている現代のグローバルな視点で見た際に,合理的な説明ができない。
(6) 商品の場合と比較して,一般に役務の品番 型番というものは想定し難く, ・本願で指定する金融サービスについても,ローマ字1字が役務の品番・型番として取引上使用されている事実はない。乙20ないし乙24の使用例は,品番・型番において番号(数字)を付与するのと全く同様,A,B,Cを,番号(数字)として使用している例にすぎない。逆に,規則性のない欧文字1字のみが役務の等級等を表すための記号,符号として使用されている例は一切ない。したがって,乙20ないし乙24は,欧文字1字が本願商標の指定役務に関する分野で役務の等級等を表すための記号,符号などとして一般に広く用いられていることを裏付けるものではない。
(7) 被告は,乙6ないし乙19を根拠に,企業が,自己の業務に係る商品又は役務であることを表彰する際に,イメージカラーなどとして色彩を使用することは,本願の指定役務を提供する業界を含め,一般に広く行われているところ,本願商標と同様に,緑色を基調とする色彩は,本願の指定役務を提供する業界においても,広く用いられている,と主張する。
しかし,原告が主張したのは,出願人が自らの意図するビジネスを表すため,本願商標は,独創的な外観を採用し,色彩についても,その意図するところからとにかく明るい色にすることに専念してPMS376という特定の緑色を選択し,この 特定の緑色が独創的な図形に付されることにより,本願商標の本来的な識別力はより明らかになったということである。乙6ないし乙19における緑色の使用は,単なる企業のイメージカラー(乙6等),あるいは,ウェブページにおける「自然」の印象(乙11等)を狙ったものにすぎず,特定の図形ないし文字に色彩を結び付け,特別の意味付けをしたものではないのであり,商標に色彩を付すことにより識別力が増すか否かとは関係ない。
したがって,被告の上記主張は失当である。
(8) よって,本件商標が商標法3条1項5号に該当すると誤って判断し,その結果登録できないとした本件審決は違法であり,取り消されなければならない。
2 取消事由2(商標法3条2項該当性についての判断の誤り) (1) 原告は,2015年3月31日現在,顧客のニーズに応じて,市場や資産クラスを跨いだ投資一任口座,ミューチュアル・ファンド,iSharesETF(上場投資信託)等,多様なスキームで運営される様々な運用サービス及び商品を提供しており,その運用資産残高は,グループ全体で,我が国のGDPを大きく上回る総額4.77兆米ドル(約573兆円)に上っていることから,原告とその資金運用の状況は,我が国はもちろん,全世界において注目されてきており,常に報道されてきた。
iシェアーズは,2000年以降,世界の上場信託(ETF)市場のトップ・ブランドで,世界のETF市場において,運用残高で約4割の市場シェアを有しており(純資産残高:約9,374億ドル),ラインアップは,株式や債券だけでなく,コモディティやREIT等,幅広い資産クラスにわたり,銘柄数は701本(業界首位)に及ぶものである。日本国内においては,ブラックロック・ジャパン株式会社が「iシェアーズ」ブランドの海外ETFと国内ETFの現在97銘柄(国内上場銘柄は,iシェアーズ日経225等の8銘柄)が金融庁へ届け出られ,大和証券や野村證券,松井証券,楽天証券など多数の証券会社経由で,機関投資家及び個人投資家を対象に提供されていることから,「iShares(iシェアーズ)」につ いても,常に報道がなされてきた。
これらの結果,本願の指定役務に係る金融の世界,更には資産運用の世界において,原告を知らないものはおらず,このような原告及びその商品であるiシェアーズの著名性,金融市場への影響の莫大さから,本願商標は,その使用により,金融市場の関係者,顧客に浸透し,自他役務の識別力を有していることは明白である。
(2) 商標の使用回数が必ずしも多いとはいえない場合であっても,商標の態様,使用者,使用の態様等から当該商標が取引者,需要者に広く知られることは十分にあり得る。
そこで,本願商標についてみると,@従来のセリフ書体(下部の棒部分)にセリフのない書体(上部の点)が結合され,A左右非対称で,B従来の「i」の書体には多くない太く頑丈に見える書体を採用し,C「i」の上部の点について,従来の書体の多くが採用する丸みを帯びたものではなく,四角を採用しD明るい PMS376 の緑色を選択しており,コンセプトを感じさせるものであるところ,その使用者である原告が世界最大級の資産運用会社であること,及び使用の対象である原告の i シェアーズのサービスが2000年以降世界の上場投資信託(ETF)市場のトップブランドで,世界の ETF 市場における運用残高で約4割の市場シェアを有していることから,機関投資家のみならずほとんどの個人投資家は,常に原告,そして,上場投資信託i シェアーズの動向に注目しているといっても過言ではない。
(3) 上場投資信託 i シェアーズは,日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)に連動するだけでなく,米国,ヨーロッパ,アジア等の各市場にも連動しているので,日本の上場投資信託の投資家は,我が国だけでなく外国の市場動向その他金融関係の動向に注目し,また,外国の投資家は,日本の市場に注目している。インターネットが普及し,日本の投資家を含む世界中の投資家が世界中の投資情報にクロスボーダー的にアクセスし,主にインターネットを通じて日本市場を含む世界中の市場に対して投資活動をしているのであり,日本国内の情報だけでなく,外国から発信される情報も含めて,我が国における使用と同様に考慮・評価されなければならな い。
したがって,本件においては,外国における本願商標の使用状況も考慮されなければならない。
(4) 商標法3条2項の判断基準時が審決時であるという点に関しては,当該基準時以降の証拠についても考慮されるべきであるし,少なくとも,審決時以前の段階において既に特別顕著性を獲得していたことの間接証拠として,十分に考慮されるべきものである。
すなわち,審決取消訴訟は,審決の違法性を判断するものであるから,その基準時が審決時であるのが原則であるとしても,@類型的に顕著性がない等として商標登録を受けることができない商標法3条1項各号に対して,事後的に「使用された結果」の特別顕著性の獲得をもって,商標登録を認める(1条各号の例外としての)商標法3条2項の特殊性,及び,A事実(使用等)とその評価(特別顕著性)に対する,法の適用(3条2項該当性)の妥当性を判断するのは,最終的には(行政庁ではなく)裁判所であるという行政訴訟制度の存在意義からしても,商標法3条2項の適用に関しては,口頭弁論終結時まで,当事者の主張・立証を許し,本願商標が特別顕著性を獲得したかを判断すべきである。
(5) 甲15ないし甲19,甲685,甲687,甲688,甲690及び甲696は,投資信託の広告物であり,その広告物中で本願商標は,男性が屋内において緑色の「i」文字様の置物の脇に立ち,該置物の点に相当する部分を手で持つという極めて目立つ態様で表されているのであり,これを役務の出所識別標識として使用していないなどということはできない。さらに,緑色の「i」文字様の置物は,男性を含めたごく日常的な背景の中にあって,当該背景には必ずしも存在し得ない,特有の形状・色・大きさと共に,不自然なほどの独特の存在感をもって広告物の中に存在しており,原告の上場投資信託についての著名商標である「i シェアーズ(iShares)」の語頭には「i」の文字が存在すること及び「iShares」の左横に配置されている図形は「i」をモチーフとしていることから,本願商標に接す る需要者・取引者は,本願商標を直ちに原告ないしその関連会社が提供する上場投資信託に係る役務の出所識別標識として明確に認識する。
(6) 商標法3条2項は,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては商標登録を受けることができると規定しているのみであり,指定役務と使用役務の同一性を要求していない。
現実の取引の場面においては,商標の著名性が,使用商品・役務そのもののみならず,一定程度の巾をもって認められる。上場投資信託は銀行においても取り扱われていることから(甲718),上場投資信託と銀行業務の需要者は共通している。
被告の反論
1 取消事由1について (1) 本願商標は,これをその指定役務について使用した場合,需要者をして,単に「i」の欧文字1字を緑色で彩色してなるものと認識されるにとどまるものであって,その構成全体をもって,極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなる商標というべきであり,自他役務の識別力を有するものではないから,商標法3条1項5号に該当し,その商標登録は認められるべきではない。
(2) セリフを持つ書体(セリフ書体)で欧文字を表すことは一般的に行われており(甲1),欧文字「i」をセリフ書体で表す場合に,縦線部に対して一定の太さを持つセリフにより表すことも通常行われている(乙1〜乙3) また, 。 欧文字「i」の上部に位置する点を四角形とすることについても,欧文字「i」を表す際にしばしば見受けられる手法といえる(乙3)ことに加え,例えば, 「Memphis」と称する書体のように,一定の太さのセリフと四角形の点とを兼ね備えたものも存する(乙3〜乙5)ことからすれば,本願商標は,これに接する需要者をして,その構成全体をもって容易に「i」の欧文字1字として認識されるといえるものである。
(3) 欧文字1字は,商品の品番や役務の等級等を表すための記号,符号などとして一般に広く用いられているものであって,本願の指定役務に関する分野でも同 様に使用されている(乙20〜乙24)。
(4) 企業が,自己の業務に係る商品又は役務であることを表彰する際に,イメージカラーなどとして色彩を使用することは,本願の指定役務を提供する業界を含め,一般に広く行われているところ,本願商標と同様に,緑色を基調とする色彩は,本願の指定役務を提供する業界においても,広く用いられている(乙6〜乙19)。
(5) 本願商標について,原告が上記第3,1(1)主張の意図に基づき採択したものであるとしても,これに接する需要者は,その採択の意図を理解するものではない。
(6) 原告が第3,1(1)において本願商標の特徴として挙げる@ないしCに係る形状については,上記(2)で述べたように,いずれも欧文字「i」を表す際に一般に用いられている手法といえるものであるから,これらを組み合わせたとしても,本願商標が,需要者をして,単に「i」の欧文字1字として認識されるものとすることが妨げられることはないというべきであり,また,原告が本願商標の特徴として挙げるDについても,緑色を基調とする色彩が,本願の指定役務を提供する業界を含め,一般に広く用いられていることからすれば,本願商標は,色彩を含む構成全体をもって,極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなる商標に該当し,自他役務識別機能を発揮し得ないというべきものである。
(7) 登録出願に係る商標が商標法3条1項5号に該当するか否かは,その商標の構成態様等に基づき,個別具体的に判断すべきであるところ,本願商標と商標の構成態様等を異にする原告の挙げた登録例の存在は,事案を異にするものである。
(8) 原告が挙げた登録例に係る諸外国において,各国がどのような証拠資料に基づき,本願商標について自他役務の識別力を肯定するに至ったかは不明であるのみならず,同一の標章が,国ごとに,自他役務の識別力を有するか否かが異なり,これに応じて商標登録がまちまちになるという事態は,工業所有権の保護に関するパリ条約等,国際的な制度上においても予定されている事柄であるから,外国において商標登録されたからといって,我が国における商標登録が当然に認められるべ きであるとはいえない。
2 取消事由2について (1) 本願商標が商標法3条2項の要件を具備するか否かの判断時は,審決時(平成26年9月16日)であるところ,原告が提出した同条項の主張に係る証拠のうち,審決前のものであって,かつ,本願商標と同様の構成態様(色彩を含む。)からなる標章が見い出せるのは,2013年(平成25年)7月23日に紙出力された原告のウェブサイトの写し(甲18,甲19)のほか,「雑誌,新聞広告等」として, 「日経マネー9月号(平成25年7月21日発行)(甲15,甲685)「日 」 ,経ビジネス8月5日号(平成25年8月5日発行) (甲16,甲687)「ダイヤ 」 ,モンド・ザイ10月号(平成25年10月1日発行) (甲17,甲688)「日経 」 ,MOOK NISA(少額投資非課税制度)120%活用術!(平成25年9月11日発行)(甲690) 」 及び「日経マネー4月号(平成26年2月21日発行)(甲 」696)の5回の掲載があるにすぎない(なお,2013年(平成25年)7月17日付け「日本経済新聞」(甲14,甲684)には,上記標章(ただし,白黒によるもの。)が掲載されている。) 上記広告における該標章は,男性が,屋内において,緑色の「i」文字様の置物の脇に立ち,該置物の点に相当する部分を手で持っている様子を写した写真中に現れているにすぎないものであるから,その広告の体裁及び内容に照らせば,これに接する需要者は,該置物部分を原告ないしその関連会社が提供する上記投資信託に係る役務の出所識別標識として使用しているものと直ちに認識するとはいい難く,むしろ,広告において顕著に表されている「i シェアーズ」の文字や図形と「iShares」の文字との組合せに「by BLACKROCK」の文字を併記してなるものを,その役務の出所識別標識として認識するというべきである。
(2) 本願商標は,原告の主張によれば,証券会社を経由して提供される上場投資信託「i シェアーズ」との関係においてのみ使用されているものであるから,その指定役務のすべてについて使用されているわけではない。
特に,本願の指定役務には,上場投資信託とは需要者等が異なる分野である「銀行業務」が含まれているところ,原告は,我が国において,「銀行業務」を提供するに当たり,本願商標を使用し,その使用の結果,本件審決時において,需要者が,原告ないしその関連会社の業務に係る役務であることを認識するに至っていたということについて,何ら明らかにしていない。本願商標は,その使用の結果,本件審決時において,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識するに至っていたということはできないものであるから,商標法3条2項の要件を具備しないと判断すべきである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法3条1項5号該当性についての判断の誤り)について (1) 商標法3条1項5号は,「極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなる商標」について,このような商標は,自他商品又は役務についての識別力を欠いており,商標としての出所表示機能を果たし得ないものである以上,通常,特定人による独占的使用を認めるのに適しないことから,商標登録を受けることができない旨規定している。
(2) 本願商標は,アルファベットの「i」一文字をデザイン化して,特定の緑色の単色で着色したものである。その形状は,直線のみで構成されていて,上部に位置する点の部分が正方形であって,下部の縦線部の幅が上部の点の幅とほぼ同じであり,下部の上端左側と下端左右にセリフ部分がついている。
セリフを持つ書体で欧文字を表すことは一般的に行われており (甲1)欧文字 , 「i」をセリフ書体で表す場合に,縦線部に対して一定の太さを持つセリフにより表すことも通常行われている(乙1〜乙3)。また,「i」の上部の点を四角形とすることについても,しばしば行われているといえる(乙3)。さらに,四角形の点と一定の太さのセリフを兼ね備えた書体(例えば, 「Memphis」書体。乙3〜乙5)も存在する。そして,色彩も,看者をして通常の黄緑色の範囲内であると認識させる ものを,単色で用いているにすぎず,本願の指定役務を提供する業界においても,緑色を基調とする色彩は広く用いられている(乙6〜乙19)。
したがって,本願商標は,極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなるものと認められ,その指定商品及び指定役務との関係でみても,格別自他商品識別力を有するとはいえず,特定人による独占的使用を認めるのに適しているともいえない。
(3) 原告の主張について ア 原告は,本願商標の「i」においては,@従来のセリフ書体にセリフのない書体を結合するという意外な手法を用い,A左右非対称にし,B従来の「i」とは異なり,太く頑丈に見える書体を採用し,C「i」の上部の点に,四角を採用し,D色は,投資業界でよく見かける伝統的で保守的な青色とは異なり,PMS376の緑色を選択したから,本願商標は独創的なものであると主張する。
しかしながら,@については,原告の主張の意味するところは「i」の上部の点の幅が下部の縦線部の幅と同じであるというにとどまり,上部の点の幅を下部の縦線部の幅と同じとするかやや広くするかで,看者に明確に異なる印象を与えるとはいえない。Aについては, 「i」の下部の上端のセリフを左側のみに付するのは,セリフ書体において通常である(乙3〜乙5)。Bについては,従来の書体にも,「Memphis」の「Bold」や「Extra Bold」など,太く頑丈に見えるものは存在する(乙3〜乙5)。Cについては,上記認定のとおり,「i」の上部に位置する点を四角形とすることもしばしば見受けられる(乙3)。Dについても,上記認定のとおり,黄緑色と認識される色彩を単色で用いることはありふれている。
したがって,原告の主張には,理由がない。
イ また,原告は,@本願商標は上部の点が正方形であるが, 「Memphis」書体では横長の長方形であること,A本願商標は,上部の点と下部との間の空白が上部の点の3分の1程度であるが, 「Memphis」書体では上部の点と下部との間の空白が上部の点の長さとほぼ同じであること,B本願商標は,上部の点と 下部の本体部分に比べてセリフ部分の太さが半分程度であるのに,Memphis」 「書体では,上部の点と下部の本体部分の太さとセリフ部分の太さがほぼ同じであること,C本願商標は,上部の点の横幅がセリフのある下部の上端の幅の約半分であるが, 「Memphis」書体では,上部の点の横幅がセリフのある下部の上端の幅とほぼ同じであること,D@ないしCの特徴からして本願商標と「Memphis」書体とは図形として異なっているから,本願商標は細身の人物像,Memphis」 「書体は横長で寸胴な人物像の印象を与える,と主張する。
しかしながら,本願商標と「Memphis」書体との間には,上記@ないしCのような相違があることは認められるものの,いずれも子細に観察しないと判明しないわずかな相違にすぎないのであって,離隔して観察した場合に,その相違点が認識できるほど顕著な相違とは認められない。また,そこから,本願商標と, 「Memphis」書体とで,看者に異なる印象を与えるとも認められない。したがって,かかる相違点をもって,本願商標の形状に自他商品役務識別力があるとは認められない。
原告の主張には,理由がない。
ウ 原告は,1文字や2文字の欧文字に関する標章でも,登録された例があることを理由として,本願商標も自他商品役務識別力を有すると主張する。
しかし,原告が挙げた従来の登録例(甲2〜甲9)は,事案を異にするものである上,その書体において独創性を有すると認められる事例があるから,本願商標が商標法3条1項5号に該当しないという根拠にはならない。原告の主張には,理由がない。
エ 原告は,本願商標は外国で多数登録されているから,自他役務識別力を有し,本願商標の指定役務にかかる金融投資の世界においては,諸外国における登録状況を考慮する必要がある,と主張する。
しかしながら,「極めて」「ありふれた」といえるか否かを判断する前提となる看者の認識や取引の実情は,各国により異なり得るのであるから,外国の登録例が必 ずしも参考となるものではない。また,外国での登録例は,登録された標章が識別性を獲得したことを理由とする場合もあると思われるから,標章自体の自他商品役務識別力を肯定する根拠とは必ずしもならない。したがって,外国における本願商標の登録例が,直ちに我が国における自他商品役務識別力の判断に影響を及ぼすものではない。
原告の主張には,理由がない。
オ 原告は,本願商標の指定役務である金融サービスにおいて,欧文字1字が役務の品番,型番として取引上使用されている事実はないから,本願商標は,役務の品番や等級等を表すための記号などと認識されることはない,と主張する。
しかし,同様の商品や役務が複数ある場合に,商品等の区分や申込みの便宜などを図るために欧文字や数字を使用した符号を付する例は多数想定される上,金融サービスにおいてもその種類や特性を欧文字の符号で示した例もある(乙20ないし乙24)。よって,原告の主張には理由がない。
2 取消事由2(商標法3条2項該当性についての判断の誤り)について (1) 商標法3条 1 項3号から5号に該当する商標について,同法3条2項所定の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」に至ったか否かを判断するに当たっては,当該商標と外観において同一と見られる標章が指定商品又は指定役務とされる商品又は役務に使用されたことを前提として,その使用開始時期,使用期間,使用地域,使用態様,当該商品又は役務の販売数量又は売上高等及び当該商品又は役務やこれに類似した商品又は役務における当該商標又は標章に類似した他の標章の存否などの事情を総合的に考慮すべきものといえる。
(2) 以下に掲記する証拠及び弁論の全趣旨から,次の事実を認定することができる。
ア 原告は,1988年に設立され,ニューヨークを本拠として北米,南米,欧州,アジア,オーストラリア,中東,アフリカ等,世界30カ国以上の拠点と従 業員約12,300名で事業を展開している,グローバルに資産運用,リスク・マネジメント,アドバイザリー・サービスを提供する世界有数の資産運用会社である。
我が国においては,1988年設立のバークレイズ・グローバル・インベスターズ株式会社と1985年に設立されたメリルリンチ投資顧問株式会社に起源を有するブラックロック・ジャパン株式会社が経営統合することで設立されたブラックロック・ジャパン株式会社を有している。原告は,2015年3月31日現在,市場や資産クラスの枠を超えた投資一任口座,ミューチュアル・ファンド,上場投資信託(ETF) 多様なスキームで運営される金融サービス及び商品を提供しており, 等,その運用資産残高はグループ全体で,総額4.77兆米ドル(約573兆円)とされている(甲682)。
イ 本願商標は,原告が提供する上場投資信託(ETF)の「iShares(iシェアーズ)」を示す標章として創作され,使用されてきた。
iShares(iシェアーズ)は,世界最大のシェアを持つ上場投資信託,すなわち金融商品取引所で取引される投資信託であり,2000年以降世界の上場投資信託市場のトップ・ブランドとして,運用残高で約4割の市場シェアを有しており(純資産残高: 約9,374億米ドル),ラインアップは株式や債券だけでなく,コモディティやREITなど幅広い資産クラスにわたり,銘柄数は701本(業界首位)に及ぶとされる。
我が国においては,ブラックロック・ジャパン株式会社が「i シェアーズ」ブランドの海外ETFと国内ETFの97銘柄(国内上場銘柄は,i シェアーズ日経225等の8銘柄)を金融庁へ届出ており,多数の証券会社経由で,機関投資家及び個人投資家を対象に提供されている(甲683)。
ウ 原告は,以下のとおり,本願商標を使用した。
@ 原告ウェブサイト(遅くとも2013年7月30日以降)に,本願商標が表示され,その左側には,「iShares」「byBLACKROCK」と表示されている(甲13)。また,原告の日本ウェブサイト(遅くとも2013年7月23日 以降)に,本願商標の立体的置物が設置されて,その右脇にいる人物が「i」の上の点の箱を手で支えている写真が掲載されており,その頁の左上には, 「iShares」「byBLACKROCK」と表示されている(甲18,甲19)。原告のウェブサイト(遅くとも2013年7月23日以降)に,同じく,本願商標の小型の立体的置物が設置され,その右脇又は左脇にいる人物が「i」の上の点の箱を手で支えている写真が掲載されている(甲20,甲21)。
A 原告は,2013年7月13日発行の日本経済新聞に,広告を掲載した。その左半分程度の写真には,本願商標(ただし,着色なし。 の立体的置物が設置され, )その右脇にいる人物が「i」の上の点の箱を手で支えており,広告の右端には, 「iShares」「byBLACKROCK」と表示されている(甲14)。
B 原告は,2013年7月17日発行の日本経済新聞に,広告を掲載した。その左半分程度の写真には,本願商標(ただし,着色なし。 の立体的置物が設置され, )その右脇にいる人物が「i」の上の点の箱を手で支えており,広告の右端には, 「iShares」「byBLACKROCK」と表示されている(甲684)。
C 原告は,2013年7月21日発行の「日経マネー」に,全面広告を出した。
その上半分程度の写真には,本願商標の立体的置物が設置され,その右脇にいる人物が「i」の上の点の箱を手で支えており,広告の右下端には,「iShares」「byBLACKROCK」と表示されている(甲15,甲685)。
D 原告は,2013年8月5日発行の「日経ビジネス」に,全面広告を出した。
その上半分程度の写真には,本願商標の立体的置物が設置され,その右脇にいる人物が「i」の上の点の箱を手で支えており,広告の右下端には,「iShares」「byBLACKROCK」と表示されている(甲16,甲687)。
E 原告は,2013年9月11日発行の「日経Mook NISA活用術」に,全面広告を出した。その上半分程度の写真には,本願商標の立体的置物が設置され,その右脇にいる人物が「i」の上の点の箱を手で支えており,広告の右下端には,「iShares」「byBLACKROCK」と表示されている(甲690)。
F 原告は,2013年10月1日発行の「ダイヤモンド・ザイ」に,全面広告を出した。その上半分程度の写真には,本願商標の立体的置物が設置され,その右脇にいる人物が「i」の上の点の箱を手で支えており,広告の右下端には, 「iShares」「byBLACKROCK」と表示されている(甲17,甲688)。
G 原告は,2014年2月21日発行の「日経マネー」に,全面広告を出した。
その上半分程度の写真には,本願商標の立体的置物が設置され,その右脇にいる人物が「i」の上の点の箱を手で支えており,広告の右下端には,「iShares」「byBLACKROCK」と表示されている(甲696)。
H 原告は,2015年3月20日発売の「ダイヤモンド・ザイ」に,全面広告を出した。その左下には本願商標が表示されており,その下に本願商標より小さい文字で,「iShares」「byBLACKROCK」と表示されている(甲712)。
I 原告は,2015年3月20日, 「ザイ・オンライン」に広告を出した。その右上には本願商標が表示されており,その上に本願商標より小さい文字で, 「iShares」「byBLACKROCK」と表示されている(甲713)。
J 原告は,2014年ないし2015年に,トレードショーなどに出展し,少なくとも5回にわたって,本願商標の立体的置物を使用した(甲654)。また,これらトレードショーなどで,本願商標を表示し,その下に本願商標より小さい文字で,「iShares」「byBLACKROCK」と表示されたエコバッグ,本願商標を表示し,その下に本願商標より小さい文字で,「iShares」「byBLACKROCK」と表示された箱に入ったモップ及び本願商標を表示した箱に入り,本願商標を表示した粘着テープクリーナーが配布された (甲715ないし甲717)。
(3) 上記認定事実からすれば,本件審決時である平成26年9月16日において,原告が提供する役務である上場投資信託「iShares」は,その売上高が極めて大きいことからして,金融商品の需要者・取引者によく知られているものと認められるが,一方,本願商標は,その使用期間が1年2か月程度と短く,新聞や 雑誌に本願商標を用いた広告(その立体的置物を含む。以下同じ。)を掲載したのは7回にすぎず,トレードショーなどで本願商標を用いたと認められる事例は本件審決後を含めても5回に限られ,しかも,本願商標は,原告の役務名である「iShares」や,原告の名称を表す「byBLACKROCK」と共に使用されるのが通例であり,本願商標単独で使用されるものとは認められない。
そうすると,本願商標が指定役務とされる役務に使用されたか否かの判断はひとまず措くとしても,本願商標は,その使用の結果,需要者が原告の業務に係る役務であることを認識することができるに至ったとは認めるに足りない。
(4) 原告の主張について ア 原告は,本願商標の使用回数が多いとはいえなくとも,本願商標がコンセプトを感じさせるものであること,その使用者である原告が世界最大級の資産運用会社であること,原告のiシェアーズのサービスが上場投資信託市場のトップブランドであることから,本願商標は取引者,需要者に広く知られている,と主張する。
しかし,原告及び原告の提供する役務であるiシェアーズが広く知られているとしても,本願商標自体が使用されている頻度が低いのであるから,本願商標が取引者,需要者に広く知られているとは認めることはできない。原告の主張には,理由がない。
イ 原告は,商標法3条2項該当性の判断基準時が審決時であるとしても,それ以降の証拠も考慮すべきであると主張する。
しかし,本件訴訟は審決の違法性の有無を判断するものであるから,商標法3条2項該当性の判断基準時は審決時であるとすべきである(なお,本件においては,提出された審決時以降の証拠を考慮してもなお,本願商標が取引者,需要者に広く知られているとは認めるに足りない。。
) 原告の主張には,理由がない。
ウ 原告は,広告中の写真(甲15ないし甲19,甲685,甲687,甲 688,甲690及び甲696)にある本願商標の立体的置物は,目立つ態様で表されているのであって,役務の出所識別標識として使用されている,と主張する。
しかし,本願商標の立体的置物が,役務の出所識別標識として使用されていると認められるとしても,原告の役務の名称である役務名である「iShares」や,原告の名称を表す「byBLACKROCK」は,原告の出所を表示するものとしてより識別性が高いのであるから,これらと共に用いられることによって,本願商標の役務の出所識別標識としての役割は,相対的に低くなっているものといわざるを得ない。
3 よって,原告の取消事由にはいずれも理由がない。
結論
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節
裁判官 片岡早苗
裁判官 新谷貴昭