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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成28ネ10106 商標権侵害行為差止等請求控訴事件 判例 商標
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事件 平成 27年 (ネ) 10037号 商標権侵害行為差止等請求控訴事件

控訴人函南町
同訴訟代理人弁護士 小川良昭
同 重光純
同 安本晋
同 田上悠
被控訴人株式会社湯ーとぴあ
同訴訟代理人弁護士 土橋順
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/11/05
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 上記の部分につき,被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
主文同旨
事案の概要(略称は,原判決に従う。)
1 本件は,「入浴施設の提供」を指定役務とする商標権(原告商標権)を有す 1 る被控訴人が,控訴人の運営する入浴施設(被告施設)において使用される標章(被告標章)が原告商標権に係る登録商標(原告商標)に類似し,その使用が原告商標権を侵害すると主張して,控訴人に対して,@商標法36条1項に基づき,被告施設の外壁・掲示物,送迎用車両,ウェブサイト及び広告物等への被告標章の使用の差止め,A同条2項に基づき,外壁・掲示物等からの被告標章の抹消並びに被告標章を付した広告物の廃棄を求めるとともに,B商標権侵害の不法行為による損害賠償請求権(同法38条3項)に基づき,平成14年10月20日から平成26年10月31日までの間の原告商標の使用料相当損害金1億1149万0696円のうち,一部請求として,8000万円(平成14年10月20日から平成24年12月31日までの分として7200万円,平成25年1月1日から平成26年10月31日までの分として800万円)及び弁護士費用400万円並びにうち7600万円に対する訴状送達日の翌日である平成25年5月25日から,うち800万円に対する損害算定期間の最終日の翌日である平成26年11月1日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原判決は,被告標章は,原告商標に類似するから,控訴人が被告施設について被告標章を使用する行為は,原告商標権を侵害するものとみなされる(商標法37条1号)などとして,被控訴人の請求を,上記@の差止め,上記Aの抹消及び廃棄並びに上記Bの損害賠償のうち,1234万9069円及び内金1088万1892円に対する平成25年5月25日から,内金146万7177円に対する平成26年11月1日から,各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却したことから,控訴人が,原判決中,控訴人敗訴部分を不服として控訴したものである。
2 前提事実 原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。
3 争点 2 争点は,以下のとおりである。なお,争点(4)は当審で追加されたものである。
(1) 原告商標と被告標章の類否 (2) 被控訴人の損害の有無及びその額 (3) 消滅時効の成否 (4) 原告商標の商標法4条1項16号該当性
争点に関する当事者の主張
争点に関する当事者双方の主張は,以下のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第3記載のとおりであるから,これを引用する。
1 争点(1)(原告商標と被告標章の類否)について〔控訴人の主張〕 (1) 原告商標について ア 原判決は,原告商標は,その外観上,上段の「ラドン健康パレス」の部分と下段の「湯〜とぴあ」の部分とから成る結合商標と認められるところ,これらの二つの部分は,分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分に結合しているものということはできず,原告商標の中で,「湯〜とぴあ」の部分は,強く支配的な印象を与える部分ということができるから,原告商標においては,その全体での称呼及び観念とは別に,その下段の「湯〜とぴあ」の部分のみから,「ユートピア」の称呼が生じ,「理想的で快適な入浴施設」という程度の観念が生じるということができると認定した。
イ しかし,「ユートピア」という外来語は,「理想的に快適な」などの意味で一般的に用いられている語であって識別力を有するものではなく,また,「ユ」と称呼する文字は,「ゆ」又は「湯」であるかを問わず,その文字自体が温泉や浴場を意味するものであるため,「ユートピア」と称呼される語の「ユ」の文字を,「ゆ」とするか「ユ」とするか「湯」とするかは,適宜選択的に使用される程度のもので 3 あるから,「湯〜とぴあ」や「湯〜トピア」などと「湯」の文字が選択されたとしても,「理想的に快適な入浴施設」という観念を生じるにすぎず,この部分が独立して識別力を有することにはならない。また,「湯」を含む「ユートピア」と称呼する文字列を含む入浴施設(宿泊施設を含む) 原告施設及び被告施設以外にも, は,日本全国に少なくとも16か所(1か所は閉店済み)存在し,同じく「ユートピア」と称呼する文字列を含むものの,「湯」の文字を含まない名称の入浴施設(宿泊施設を含む)については,日本全国に少なくとも18か所存在することから,「ユートピア」と称呼される語は,それに「湯」という文字を含むか否かにかかわらず,入浴施設の提供という役務において一般に広く使用されている。
以上によれば,原告商標のうち「湯〜とぴあ」の部分は,少なくとも,それが入浴施設の提供という役務において使用される場合には,自他識別機能を発揮するものではないから,原告商標において役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではない。そうすると,原告商標は,「ラドン健康パレス」と「湯〜とぴあ」とが結合することによって初めて出所識別機能を発揮するものであって, 「湯〜とぴあ」の部分だけが独立して識別力を有することはないから,当該部分のみを原告商標の要部と認定した原判決の認定は誤りである。
(2) 被告標章について ア 原判決は, 被告標章は, 「湯〜トピア」の「湯」の文字が「〜トピア」の 「文字よりも大きく強調されており,また,下段の花の図形は,上段の一文字と同程度かそれより小さく描かれ,下段の欧文字は,上段の文字に比して極めて小さいフォントで黒色で記されている。被告標章の中において,その外観上,「湯〜トピアかんなみ」の文字で構成される上段部分は,下段の図形及びごく小さな欧文字とは,明らかに区別されて,独立して認識されるものと認められるところ,その上段部分からは「ユートピアカンナミ」の称呼が生じ,また,「函南町にある,理想的で快適な入浴施設」という程度の観念が生じる。」と認定した。
4 イ 外観について しかし,被告標章中,「湯〜トピアかんなみ」の文字列は,いずれも淡い色合いで滲みや擦れを表現した細い毛筆様の書体で描かれており,各文字はその一部が上下又は左右にはみ出しつつ,躍動感をもって横方向に流れるデザインとなっており,「湯」から「み」までの文字が一連に連なっている印象を与え,また,「湯〜トピアかんなみ」の文字列の下部に「IZU KANNAMI SPA」という小さな文字列と,「IZU KANNAMI」と「SPA」の間に,函南町の花であるハコネザクラが淡い緑及び白で描かれており,「湯〜トピアかんなみ」部分と一体的に表現されている。そして,「湯〜トピアかんなみ」の文字列,「IZU KANNAMI SPA」の文字列及びハコネザクラの絵が,いずれも同じような淡い色合いで統一的・一体的に描かれている上,各文字列と花の絵がバランス良く横長矩形の領域内に配置されていることから,被告標章はその構成部分が不可分一体的に結びついている印象を与えている。
そうすると,原判決が,被告標章について,「湯〜トピアかんなみ」の部分が他の部分と区別されて,独立して認識されるとした判断は誤りであり,ハコネザクラの絵も「湯〜トピアかんなみ」の文字列と比較して無視できるほど小さく描かれているわけでもない。さらに,「湯〜トピアかんなみ」の「湯」の文字が「〜トピア」の文字より大きく強調されているわけではなく,上記のとおり標章全体を一体的に描写するためのデザインによるものであって, 「IZU KANNAMI SPA」の文字列及びハコネザクラの絵とのバランスを考慮した結果として「湯」の文字と「ん」の文字が多少大きくなっているにすぎない。
称呼について 被告標章は,「ユウトピアカンナミイズカンナミスパ」との称呼が生じ,「湯〜トピアかんなみ」の部分は,文字列及び語の長さからも違和感なく「ユウトピアカンナミ」と一連の称呼が生じ,あえて「ユートピア」と「カンナミ」に分けて称呼す 5 る合理的理由は存在しない。
観念について 被告標章は,「湯〜トピアかんなみ」の文字列に静岡県田方郡函南町を連想させる「かんなみ」の文字列を含んでいること,「IZU KANNAMI SPA」が日本語に翻訳すると伊豆函南温泉を意味すること,及び,函南町の花であるハコネザクラの絵と相まって,「静岡県田方郡函南町に所在する温泉入浴施設」という観念を生じる。
(3) 原告商標と被告標章は類似しないこと ア 原告商標の「湯〜とぴあ」の部分と被告標章の「湯〜トピア」の部分は,それぞれ要部として評価することができないのであるから,原告商標と被告標章の類否を判断するに当たっては,それぞれの全体を観察して比較対照することになる。
そうすると,原告商標と被告標章とは,互いに「ユートピア」と称呼される文字列を含むこと,及び,いずれも入浴施設の提供という役務に使用されていること以外には何ら共通するところがないから,原告商標と被告標章とは需要者においてその役務の出所を誤認混同するおそれは皆無であり,両者は類似しないというべきである。
そして,「湯」という文字を使用し「ユートピア」と称呼される語を使用した入浴施設が,原告施設及び被告施設以外にも日本全国に少なくとも16か所(1か所は閉店済み)存在するが,これらを需要者において役務の提供者を原告施設と誤認混同した事例があったとの事実は被控訴人から一切主張されていないし,被告施設も原告施設と誤認混同された事例は一切ないのであるから,現実的にも何ら不都合は生じていない。
イ 特許庁においては,称呼を「ユートピア」,類似群コードを「42D01」とする商標として,原告商標以外に,@「湯とぴあ宝」,A「HAKONE KOWAKI-EN Sunshine 湯〜とぴあ」,B「YOU,ゆ〜 SAUNA a 6 nd BATH UTOPIA」,C「ユートピア赤城」(イメージあり),D「ユートピア赤城」(イメージなし),E「湯とぴあ雁の里温泉」及びF「さくらんぼ湯ートピア」の7件が登録されており,このうち,@及びAについては原告商標の出願より早く出願されたものであり,Bは原告商標と同日に出願されているが,その余の商標は,いずれも原告商標の登録後に出願されたものである。
ところで,役務商標(サービスマーク)登録制度は,「商標法の一部を改正する法律」 (平成3年法律第65号)の施行日である平成4年4月1日より施行された。
しかるに,先願主義の建前を貫くと,施行日に出願が殺到することになるから,混乱を避けるため,上記施行日から同年9月30日までの6か月間を役務商標出願のための特別期間とし,この間に提出された役務商標の登録出願は,先後を問わずに,全て同日に出願されたものとみなされることとされた(上記改正法の改正附則4条3項)。そして,この間に同一又は類似の関係にある役務商標が複数の者によって出願された場合には,使用している者同士の場合には,原則として重複登録されることとされた。この役務商標のための特別期間内に出願がされたのが,上記@ないしBの登録商標であるが,原告商標の商標登録原簿によれば,原告商標と上記Aの登録商標については重複商標とされているのに対して,上記@及びBの各登録商標については重複しないものとされている。
仮に特許庁において,原告商標のうち「湯〜とぴあ」の部分がその要部であると判断しているとすれば,原告商標と字体及び色が共通している上記@の登録商標も原告商標との重複商標とされているはずであるし,上記CないしFの各登録商標についても商標登録が認められるはずがない。
このような商標登録状況に鑑みれば,特許庁は,各登録商標を全体的に観察して類否を認定しているのであって,「湯とぴあ」 「湯ートピア」及び「湯〜とぴあ」 ,などの文字部分を要部と認定することなく,かつ,上記文字部分には出所を特定する機能がないと判断し,かかる文字を含む商標を入浴施設の提供という役務につい 7 て使用したとしても,他の商標との誤認混同のおそれがないと扱っていることが明らかである。
このことは,控訴人が被告標章について商標登録を申請したところ,何ら問題なく,その登録が認められたことからも裏付けられる(商標登録第5692791号)。
〔被控訴人の主張〕 (1) 原告商標について 「ゆ」と「湯」の各文字は,見た者に与える印象が異なることは明らかであり,また,「ゆ」又は「湯」が単体使用された場合と,他の用語とともに,又は造語として使用された場合とは与える印象が異なることも明らかであり,控訴人主張のようにこれらを同様に扱うことはできない。したがって,控訴人が主張するように「ゆ」と「湯」を使用していれば,全体の中で直ちに強い識別力が否定されるというものではなく,個別の判断が重要であるところ,本件においては,「湯」は「湯〜とぴあ」,「湯〜トピア」の語中において一体として使用されており,「湯」の語の仕様によって強い識別力が否定されることはない。
また,インターネット検索により,「湯」の文字を含む「ユートピア」と称呼する文字列を含む入浴施設が,原告施設及び被告施設以外に日本全国に16か所存在し,また,「湯」の文字を含まない「ユートピア」と称呼する文字列を含む入浴施設が日本全国に18か所存在するとしても,その程度の数では,控訴人が評価するような「一般的に広く使用されている」ということはできない。むしろ,日本全国でその程度の数しか存在しないくらい,特殊であり顧客吸引力を有する名称であると評価されるべきである。
したがって,控訴人による原告商標の要部に関する主張は当を得ない。
(2) 被告標章について 被告標章において,上段の「湯〜トピアかんなみ」の文字列と,下段の「IZUKANNAMI SPA」の文字列及びハコネザクラの絵とは,明らかに大きさが 8 異なり,被告標章の中で与える印象の大きさに相当程度の差が存在するのであって,この点についての控訴人の主張は当を得ない。
また,被告標章において,「湯〜トピアかんなみ」の「湯」の文字が文字列の中で大きく描かれており,「湯」の部分が強調されて認識されることに疑いはない。
仮に控訴人主張のとおり,「湯」の文字と「ん」の文字が強調されていないとしても,被告標章において「湯〜トピア」の文字部分が強調されていることは否定できない。
そうすると,被告標章に関する控訴人の主張は,原判決の結論を覆すものではない。
(3) 原告商標と被告標章とは類似しないとの控訴人の主張は争う。
控訴人は,称呼を「ユートピア」として検索される前記〔控訴人の主張〕(3)イ記載の@ないしFの商標の登録状況等に鑑みると,特許庁において,「ユートピア」と称呼される文言を要部とは認定しておらず,かつ,同文言には出所を特定する機能がないとして,かかる文言を含む商標を入浴施設の提供という役務について使用したとしても,他の商標との誤認混同のおそれがないと判断している旨主張する。
しかし,上記@の登録商標については,「湯〜とぴあ宝」の全体が同一文字で構成されており,一連のものと判断され,上記Bの登録商標については,文字の配列や大きさから「UTOPIA」部分は要部ではないと判断されたものと考えられる。
これに対して,上記Aの登録商標については,「湯〜とぴあ」部分が強調されるような字体,彩色が採用されているため要部となり,「ユートピア」の称呼を生じ,原告商標と重複すると判断されたものと考えられる。したがって,原告商標と上記Aの登録商標を重複商標と評価し,上記@及びBの各登録商標とは重複しないと評価していることからすると,特許庁は,むしろ,原告商標の「湯〜とぴあ」部分がその要部に該当すると評価していることは明らかである。
また,上記Cの登録商標について,「ユートピア赤城」という部分は同一の文字 9 で構成されており,一連のものということができるし,上記DないしFの登録商標については,いずれも標準文字から構成されており,一連のものといえることから,特許庁において,原告商標に類似するものと判断しなかったものと理解できる。
したがって,特許庁が,原告商標の「湯〜とぴあ」部分がその要部に該当すると評価していることは明らかであり,当該部分に出所識別機能がないために誤認混同のおそれがないとする控訴人の主張は理由がない。
2 争点(2)(被控訴人の損害の有無及びその額)について〔控訴人の主張〕 原判決は,被告施設における被告標章の使用について,被控訴人が受けるべき使用料相当額を算定するに当たっては,被告施設の売上高に対する使用料の割合を,0.5%とするのが相当であると判断した。
しかし,少なくとも,日本国内には「ゆうとぴあ」と称呼される入浴施設が多数存在すること,原告施設は営利を目的とする施設であるのに対し,被告施設は町民の健康増進及び福祉の向上並びに地域の振興に寄与することを目的とする公共的な施設であって,その性格が異なること,被告施設では控訴人が付近住民に割引券を無料で配布するなどの積極的な営業活動を展開していること,被告施設に対する信頼は地方公共団体である控訴人が運用主体であることに基づいていること,原告施設は静岡県東部においては全く著名でないこと,被告施設の利用者のほぼ100%が静岡県東部の住民であることなどからすれば,そもそも原告商標の顧客誘引力自体が極めて限定的である上,被告施設の売上げに対して原告商標の顧客誘引力が寄与する余地などないのであるから,商標法38条3項によって算定されるべき使用料相当額は一切認められないか,仮に認められるとしても0.1%を超えることはないというべきである。
〔被控訴人の主張〕 原判決のとおり,複数の施設が同様の施設名を使用していることから「湯〜とぴ 10 あ」には顧客誘引力があると考えるべきであり,実際に被告施設においても原告商標に類似した被告標章を使用しているのであるから,使用料相当額の損害が認められないとする主張は妥当ではなく,0.5%とした使用料相当額も妥当な範囲内である。
3 争点(4)(原告商標の商標法4条1項16号該当性)について〔控訴人の主張〕(1) 原告商標は, 「ラドン健康パレス」と「湯〜とぴあ」の二段で構成され, 「ラドン健康パレス」のうち「ラドン」の語は,遅くとも原告商標の登録時(平成8年1月31日)までには,放射性の気体であるラドンを意味すること,及び,ラドンを含有する温泉の存在や効能が需要者に広く知られていたことが認められる。そして,「ラドン」の語が,入浴施設であることを示す下段の「湯」を含有する「湯〜とぴあ」の語とともに使用されれば,需要者は,「ラドン」を湯の性質としてのラドンの意味であると容易に理解した上,ラドンを含有する湯を用いた入浴施設を強く連想する。そして, 「健康パレス」は, 「健康になる場所」又は「健康に良い場所」という程度の意味であるから,「ラドン健康パレス」全体としてもラドンの温泉の効果によって健康になる場所といった意味を需要者に容易に想起させる。
このように,原告商標は,需要者に対してラドンを含有する湯を用いた入浴施設を強く連想させる。しかるに,もし,原告商標が,ラドンを含まないお湯を用いた入浴施設の提供に使用された場合には,役務の質について需要者に誤認を生じるおそれがある。
(2) ところが,被控訴人が管理する原告施設のホームページによれば,原告施設には16種類の入浴施設が存在するものの,そのうちラドン又はラジウムを含有する放射能泉はラジウムバス及び3種類のラドン温泉のみであって,残りの12種類の入浴施設はラドンとは無関係の単純泉にすぎない。被控訴人は,一見して明らかにラドン温泉を用いた入浴施設の提供という役務を想起させる原告商標を,ラドン 11 を含有しない湯を用いた入浴施設の提供に使用していることから,需要者において役務の質に重大な誤認を生ずるおそれがある。
このような状況においては,原告商標は,商標法4条1項16号の「役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」に当たるから,同法46条1項1号により無効にされるべき商標であることは明らかである。
(3) そうすると,原告商標は同法4条1項16号により無効であるから,かかる無効な商標の侵害を理由とする被控訴人による被告標章の使用差止め等の請求に理由がないことは明らかである。
〔被控訴人の主張〕 (1) 原告商標は,「湯〜とぴあ」部分と「ラドン健康パレス」部分とを二段に配置してなるところ,「湯〜とぴあ」部分は「ラドン健康パレス」部分と比較して大きな文字で描かれており,「ラドン健康パレス」部分が「ラドン」「健康」「パレス」という一般的用語の組合せにすぎないことからすると,原告商標が需要者に与える印象は「湯〜とぴあ」部分が中核をなしているということができる。
そして,原告商標に接した需要者は,「湯〜とぴあ」部分から,「理想郷」を意味する英語の「utopia」の日本語表記「ゆーとぴあ」の造語であると理解する。
また,「湯」の文字自体は,入浴施設以外にも,湯沸かし器等の湯を利用した器具等にも用いられ得るのであり,「入浴施設」を直ちに想起させるものではない。
「ラドン健康パレス」部分は,「ラドン」「健康」「パレス」という一般的用語の組み合わせであるところ,そもそも「ラドン」の語について,ラドンを含有する温泉の存在や効能が需要者に広く知られていたという事実は認められない。また,「ラドン」を利用した健康増進法は,ラドン温泉だけでなく,ラドンミスト装置やラジウムラバーシート等様々なものが含まれる。そのため,「ラドン健康パレス」部分からは,ラドンを利用した健康増進施設であることは理解できるとしても,ラドン温泉を提供する入浴施設とまでは理解できない。
12 そうすると,「ラドン」と「湯〜とぴあ」の文字がともに使用されたとしても,需要者は,ラドンを含有する湯を用いた入浴施設を強く連想するものではなく,ラドンを利用した「湯〜とぴあ」という健康増進施設程度にしか理解できない。
(2) 控訴人は,この点について,原告施設に存在する16種類の入浴施設のうち,12種類の入浴施設はラドンとは無関係の単純泉にすぎないから,需要者において役務の質に重大な誤認を生ずるおそれがある旨主張するが,控訴人の主張を前提にしても,原告施設にはラジウムバスと3種類のラドン温泉が存在するのであり,ラドン温泉を目的として来場した利用者の需要にかなっており,需要者において役務の質に重大な誤認を生ずるおそれは皆無であり,控訴人の上記主張には理由がない。
(3) 以上によれば,原告商標は,商標法4条1項16号には該当しないから,同法46条1項1号により無効にされるべき商標ではない。
当裁判所の判断
1 当裁判所は,被告標章は,原告商標に類似しないというべきであるから,控訴人が被告施設について被告標章を使用する行為は,原告商標権を侵害するものではなく,被控訴人の控訴人に対する本訴請求はいずれも理由がないものと判断する。
その理由は,以下のとおりである。
2 争点(1)(原告商標と被告標章の類否)について(1) 類否の判断について商標の類否は,対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に,その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかも,その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁,最高裁平成6年(オ)第11 13 02号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。
また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められる場合においては,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して類否を判断することは,原則として許されないが,他方で,商標の構成部分の一部が取引者又は需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じない場合などには,商標の構成部分の一部だけを取り出して,他人の商標と比較し,その類否を判断することが許されるものと解される(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
(2) 原告商標について ア 原告商標の外観は, 「ラドン健康パレス」の文字及び「湯〜とぴあ」の文字(なお,「湯〜」の部分は, 「湯」の旁である「昜」の中の「一」を,「〜」と波状に変形しつつ,その右端を伸ばすことによって, 「湯〜」を一体的に表現している。)を上下二段にそれぞれ横書きして成り,上段の「ラドン健康パレス」の文字は,細いゴシック調で色は青色であり,下段の「湯〜とぴあ」の文字は,丸みを帯びた太いフォントのポップ体で,やや立体感を持たせた黄色の文字を青地でふち取って表されており,上段の文字の約7,8倍大きく,また,「湯〜とぴあ」の「湯」の文字が「とぴあ」の文字よりも大きく強調されている。
原告商標は,上記の上下二段の文字から,全体として, 「ラドンケンコウパレス ユートピア」との称呼を生じる。
そして,上段の「ラドン健康パレス」の部分は,元素の一つである「ラドン」,身 14 体に悪いところがなくすこやかなことを意味する「健康」及び「宮殿,御殿。娯楽又は公益のための建築物」の意味を持つ「パレス」という一般的な単語(甲20)を繋げたものであり,その上,証拠(甲24,25)及び弁論の全趣旨によれば,ラドン温泉を提供する施設は日本全国に多数存在し,その中には,「ラドン健康センター」,「ラドン温泉健康センター」 「ラドン健康美容センター」 「ラドン温泉センター」 , , ,「ラドン保養センター」「ラドン保健センター」「ラドンセンター」「ラドンスパ」 , , , ,「ラドンサウナセンター」等の名称を用いる施設も多く,また,サウナや入浴施設の名称として,「センター」のほか「プラザ」「ランド」「パレス」の語が用いられる , ,ことも一般的であることが認められることからすると,「ラドン健康パレス」の語が温泉施設の名称の中で用いられた場合には,それらの単語が持つ個々の意味合いを併せた「ラドンを用いた健康によい温泉施設」という程度の一般名称的な観念が生じるものということができる。
また,原告商標の下段の「湯〜とぴあ」の部分は,「理想郷,理想社会」などを意味する英単語「utopia」 (ユートピア) (甲26)の「ユ」を「湯」に置き換えた造語であって,「理想的で快適な入浴施設」という程度の観念が生じるということができる。
そうすると,この上段部分と下段部分の意味上のつながりから,原告商標を全体として見ると,「ラドンを用いた健康によい温泉施設であって,理想的で快適な入浴施設」という程度の観念が生じるということができる。
イ 原告商標の上段部分と下段部分を分離観察することの可否 (ア) もっとも,原告商標は,その外観上,上段の「ラドン健康パレス」の部分と下段の「湯〜とぴあ」の部分とから成る結合商標と認められるところ,その文字の色及び大きさの違い,その配置態様によって,一見して明瞭に区分して認識されるものであるから,これらの二つの部分は,分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分に結合しているものということはできない。
15 (イ) そして,下段の「湯〜とぴあ」の部分は,前記アのとおり, 「ユートピア」の「ユ」を「湯」に置き換えた造語であり,しかも,その文字が上段の文字よりもはるかに大きく目立つ色彩,態様で示されている。
しかしながら,インターネットで, 「湯」の漢字を含み, 「ゆうとぴあ」と称呼する文字列を含む入浴施設(宿泊施設を含む)を検索した結果によれば,全国には,「湯ーとぴあ」又はこれに類する語を含む名称を有する入浴施設として,原告施設及び被告施設のほかに,@「なにわ健康ランド湯ートピア」 (大阪府東大阪市),A「湯〜とぴあ宝」 (名古屋市),B「湯〜とぴあ黄金泉」 (岡山県英田郡西粟倉村),C「湯〜トピアきりしま」 (滋賀県大津市),D「湯〜トピア小中野」 (青森県八戸市),E「湯とぴあ雁の里温泉」 (秋田県仙北郡美郷町),F「湯〜とぴあダイゴ」 (京都市),G「湯〜とぴあ熊の湯」(東京都板橋区),H「 別温泉湯とぴあ 別」(北海道せたな町),I「藤河内湯ーとぴあ」 (大分県佐伯市),J「湯都ピア浜脇」 (大分県別府市),K「湯ーとぴあ山中」 (石川県加賀市),L「スーパー銭湯 湯ーとぴあ」 (福井市),M「湯ーとぴあ苫部」(青森県むつ市),N「湯ーとぴあ神恵内」(北海道古宇郡神恵内村),O「箱根小涌園ユネッサン(HAKONE KOWAKI-EN Sunshine 湯〜とぴあ箱根小涌園ユネッサン)(神奈川県足柄下郡箱根町)の各施設があることが 」認められる(甲22,乙3,13,22,弁論の全趣旨)。
また,インターネットで, 「湯」の漢字を含まないが, 「ゆうとぴあ」と称呼する文字列を含む名称の入浴施設(宿泊施設を含む)を検索した結果によれば,全国には,@「ゆ〜とぴあみろく」(香川県さぬき市),A「野沢温泉ユートピア」(長野県下高井郡野沢温泉村),B「ユートピア浜坂」 (兵庫県美方郡新温泉町),C「ユートピア」(広島県呉市) D , 「敷島温泉 赤城の湯 ユートピア赤城」 (群馬県渋川市赤城町),E「ゆートピア21」(東京都葛飾区),F「ゆふトピア」(大分県由布市湯布院町),G「游の里ユートピア宇和」 (愛媛県西予市宇和町),H「ユートピア温泉東道後」 (愛媛県松山市),I「公共の宿 相馬ユートピア」(福島県相馬市),J「ユートピア芥 16 見店」(岐阜県岐阜市芥見),K「ゴールデンユートピアおおち」(島根県邑智郡美郷町),L「ユートピア和楽園 知内温泉旅館」(北海道上磯郡知内町),M「ユートピア白玉温泉」 (大阪市),N「ゆーとぴあ琴浦」 (兵庫県尼崎市琴浦町),O「ユートピアくびき」(新潟県上越市),P「大山ユートピア」(鳥取県西伯郡大山町)の各施設があることが認められる(甲22,乙23)。
さらに,称呼(参考情報)を「ユートピア」,指定役務に第42類「入浴施設の提供」を含む登録商標として,原告商標のほかに,@第3095368号(平成4年9月28日出願。
「湯〜とぴあ宝」の文字と図形から成る。,A第3101577号(平 )成4年9月4日出願。
「HAKONE KOWAKI-EN」「Sunshine」及 ,び「湯〜とぴあ」の各文字と図形から成る。,B第3222289号(平成4年9月 )30日出願。
「YOU,ゆ〜 」及び「SAUNA and BATH UTOPIA」の各文字と図形から成る。,C第4387677号(平成10年11月19日出願。
)「ユートピア赤城」の文字と図形から成る。,D第4436206号(平成10年1 )1月12日出願。
「ユートピア赤城」の標準文字),E第4506388号(平成12年3月14日出願。
「湯とぴあ雁の里温泉」の標準文字),F第4587033号(平成13年6月25日出願。「さくらんぼ湯ートピア」の標準文字)の7件が存在することが認められる(乙1)。
以上の認定事実によれば, 「ゆうとぴあ」「ユートピア」 ( )と称呼される語は, 「湯」の漢字を含む場合であると,「湯」の漢字を含まない場合であると,いずれの場合であっても,入浴施設の提供という役務においては,全国的に広く使用されているということができる。
したがって,原告商標のうち,下段の「湯〜とぴあ」の部分は,入浴施設の提供という指定役務との関係では,自他役務の識別力が弱いというべきであるから,取引者又は需要者をして役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるということはできず,この「湯〜とぴあ」の部分だけを抽出して,被告標章と比較して類否を判 17 断することは相当ではない。
(ウ) また,上段の「ラドン健康パレス」の部分は,前記アのとおり,「ラドン」,「健康」及び「パレス」といういずれも一般的な単語を繋げたものであり,温泉施設の名称の中で用いられた場合には,それらの単語が持つ個々の意味合いを併せた「ラドンを用いた健康によい温泉施設」という程度の一般名称的な意味を示すにすぎず,入浴施設の提供という指定役務との関係では,自他役務の識別力が弱いというべきである。
(エ) そうすると,原告商標の上段部分の「ラドン健康パレス」及び下段部分の「湯〜とぴあ」の各部分は,指定役務との関係では,いずれも出所識別力が弱いものであって,両者が結合することによってはじめて,「ラドンを用いた健康によい温泉施設であって,理想的で快適な入浴施設」であることが明確になるものであるから,原告商標における「ラドン健康パレス」と「湯〜とぴあ」は不可分一体として理解されるべきものである。したがって,原告商標については,上段部分の「ラドン健康パレス」と下段部分の「湯〜とぴあ」の部分を分離観察せずに,全体として一体的に観察して,被告標章との類否を判断するのが相当である。
(3) 被告標章について ア 被告標章の外観は,原判決別紙被告標章目録記載のとおり,上段に「湯〜トピアかんなみ」の文字を横書きし,下段に,3枚の葉を伴う1輪の花(控訴人の主張によれば,函南町の花である「ハコネザクラ」)の図形と,その図形の左右にそれぞれ 。
「IZU KANNAMI」と「SPA」の極めて小さな欧文字を横書きに配して成る。上段の文字は,いずれも毛筆様のもので書いたように濃淡や太さに変化を持たせたデザインの字体(なお,「湯」の字の中の「日」の部分は,その中央の「-」が赤い丸に置き換えられて表現されている。)となっているが,このうち「湯〜トピア」の部分は黒色(上記赤い丸を除く。以下同じ。)で, 「かんなみ」の部分は緑色でそれぞれ表されており,「湯〜トピア」の「湯」の文字が「〜トピア」の文字よりも大き 18 く強調されており,また,下段の花の図形は,上段の一文字と同程度かそれより小さく描かれ,下段の欧文字は,上段の文字に比して極めて小さいフォントで,黒色で記されている。
被告標章は,全体として,「ユートピアカンナミイズカンナミスパ」との称呼が生じ, 「函南町にある,理想的で快適な入浴施設」という観念が生じる。
イ もっとも,被告標章は,その外観上,「湯〜トピアかんなみ」の文字で構成される上段部分と,下段部分の図形及びごく小さな欧文字から成る結合商標と認められるところ,上段部分と下段部分とは,その文字の大きさ及び書体の違い,その配置態様等によって,一見して明瞭に区分して認識されるものであるから,これらの二つの部分は,分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分に結合しているものということはできない。
そして,上段部分の「湯〜トピアかんなみ」の文字は,下段部分の図形及びごく小さな欧文字と比較して,はるかに大きく目立つ態様で示されていることからすれば,被告標章の中で,取引者又は需要者をして強く支配的な印象を与える部分ということができる。この上段部分からは「ユートピアカンナミ」の称呼が生じ,また,「函南町にある,理想的で快適な入浴施設」という程度の観念が生じる。
ウ ところで,被告標章のうち上段部分の「湯〜トピアかんなみ」の文字は,いずれも同様の字体で,1行でまとまりよく記載されているものの,視覚上,黒色の「湯〜トピア」と緑色の「かんなみ」の二つの部分によって構成されていることが容易に認識されるものであるから,これらの二つの部分は,分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分に結合しているとまではいえない。
しかしながら,前方の「湯〜トピア」の部分は,「ユートピア」の「ユ」を「湯」に置き換えた造語であるものの,前記(2)イ(イ)と同様に,入浴施設の提供という役務との関係では,自他役務の識別力が弱いというべきであるから,取引者又は需要者をして役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるということはできず,この 19 「湯〜トピア」の部分だけを抽出して,原告商標と比較して類否を判断することは相当ではない。
また,後方の「かんなみ」の部分は,「函南」という地名又は町名を指していることが容易に理解できるものであって,入浴施設が所在し,その役務が提供される場所を表すものにすぎず,自他役務の識別力が弱いというべきであるから,取引者又は需要者をして役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるということはできず,この「かんなみ」の部分だけを抽出して,原告商標と比較して類否を判断することも相当ではない。
そうすると,被告標章の上段部分のうち,「湯〜トピア」及び「かんなみ」の各部分は,同様の字体で,1行でまとまりよく記載されている上に,いずれも出所識別力が弱いものであって,両者が結合することによってはじめて,「函南町にある,理想的で快適な入浴施設」であることが明確になるものであるから,被告標章における「湯〜トピア」と「かんなみ」は不可分一体として理解されるべきものである。したがって,被告標章の上段部分のうち,「湯〜トピア」の部分だけを抽出して,原告商標と比較して類否を判断することは相当ではなく,被告標章のうち,上段部分の,「湯〜トピア」と「かんなみ」の部分を分離観察せずに,一体的に観察して,原告商標との類否を判断するのが相当である。
このようにして,被告標章の上段部分からは,被告標章全体に対応した称呼及び観念とは別に,「湯〜トピアかんなみ」に対応した「ユートピアカンナミ」という称呼及び「函南町にある,理想的で快適な入浴施設」という程度の観念が生じるものというべきである。
(4) 取引の実情等 証拠(甲11,22,23,乙3,9,10の1,乙16)及び弁論の全趣旨によれば,被告施設は,控訴人がその町民の健康増進及び福祉の向上並びに地域の振興に寄与することを目的として設立・運営する公共の日帰り入浴施設であり,その利用者 20 の約半数が函南町の住民で,三島市,沼津市などの近隣市町村の住民を含めると利用者の大半を占めること,被告標章は,被告施設についてのみ使用されており,他の地域における入浴施設の提供のために使用されていないこと,他方,原告施設は,山梨県甲斐市に所在する入浴施設付きの宿泊施設であり,同施設のホームページ上では,館内にラドン温泉を含む複数の風呂があることが謳われ,宿泊予約サイトではラドン温泉関連施設として紹介されていること,被控訴人が原告商標を使用して運営する入浴施設は,原告施設のみであること,また,全国の入浴施設については,同一の経営主体が各地において同様の名称を用いて複数の施設を運営することがあること,前記(2)イ(イ)認定のとおり,インターネットで検索した結果によれば,全国には,原告施設及び被告施設以外に,「湯」の漢字を含むもの及び含まないもので,「ゆうとぴあ」と称呼する文字列を含む入浴施設が,それぞれ16件及び17件存在し,そのうち,「湯ーとぴあ」又はこれに類する名称を用いた入浴施設が全国に相当数存在することが認められる。
(5) 原告商標と被告標章との類否 前記(2)及び(3)のとおり,原告商標と,被告標章のうち強く支配的な印象を与える部分である「湯〜トピアかんなみ」とを対比すると,原告商標からは,「ラドンケンコウパレスユートピア」の称呼及び「ラドンを用いた健康によい温泉施設であって,理想的で快適な入浴施設」という程度の観念が生じ,被告標章の「湯〜トピアかんなみ」の部分からは,「ユートピアカンナミ」の称呼及び「函南町にある,理想的で快適な入浴施設」という程度の観念が生じることが認められるから,原告商標と,被告標章のうち強く支配的な印象を与える部分とは,称呼及び観念を異にするものであり,また,外観においても著しく異なるものであることが明らかである。その上,前記(4)のとおり,全国の入浴施設については,同一の経営主体が各地において同様の名称を用いて複数の施設を運営することがあり,原告商標及び被告標章にはいずれも「ユートピア」と称呼される「湯〜とぴあ」又は「湯〜トピア」の文字部分が含まれている 21 ことを考慮しても,原告商標と被告標章との外観上の相違点,原告施設及び被告施設以外で, 「湯ーとぴあ」又はこれに類する名称を用いた施設が全国に相当数存在すること,被告施設の所在地,施設の性格及び利用者の層などの事情をも考慮すれば,原告商標と被告標章とが,入浴施設の提供という同一の役務に使用されたとしても,取引者及び需要者において,その役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがあると認めることはできない。
したがって,被告標章は,原告商標に類似しないというべきであるから,控訴人が被告施設について被告標章を使用する行為は,商標法37条1号の規定に該当するものではない。
(6) 被控訴人の主張について 被控訴人は,原告商標のうち,上段部分の「ラドン健康パレス」と下段部分の「湯〜とぴあ」とは,一体性が低く,分離して看取されるべきものであるところ,「湯〜とぴあ」は,造語であって,独立して識別力を有する部分であるのに対して,「ラドン健康パレス」は,提供する入浴施設(温泉施設)の種類を意味する一般的・普遍的な文字で付加的な部分であるから,原告商標のうち「湯〜とぴあ」の部分が要部であること,被告標章のうち,上段部分の「湯〜トピア」と「かんなみ」は,一体性が低く,分離して看取されるべきものであるところ,「湯〜トピア」は,造語であって,独立して識別力を有する部分であるのに対して,「かんなみ」は,提供する入浴施設(温泉施設)の所在地を意味する一般的・普遍的な文字で付加的な部分であるから,被告標章のうち「湯〜トピア」の部分が要部であること,原告商標の要部及び被告標章の要部とを対比すると,いずれも同一の称呼及び観念を生じ,外観についても,平仮名・片仮名という相違点はあるものの,「湯-とぴあ」という基本的な語は同一であること,書体は異なるが,標準文字ではなく装飾された書体である点で共通し類似しているなどとして,被告標章と原告商標とが入浴施設の提供という同一の役務に使用された場合には,当該役務の出所の誤認混同を生じさせるおそれがあるといえるか 22 ら,被告標章は,全体として,原告商標と類似する旨主張する。
しかし,前記(2)イ(イ)認定のとおり, 「ゆうとぴあ」と称呼される語は, 「湯」の漢字を含む場合であると,「湯」の漢字を含まない場合であると,いずれの場合であっても,入浴施設の提供という役務において,全国的に広く使用されているものであって,原告商標のうち下段の「湯〜とぴあ」の部分及び被告標章のうち上段部分の「湯〜トピア」の部分は,入浴施設の提供という役務との関係では,自他役務の識別力が弱いというべきであるから,取引者又は需要者をして役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるということはできない。したがって,原告商標は,上段部分と下段部分とを分離して観察することはできず,全体として観察すべきであり,また,被告標章のうち上段部分についても,これを「湯〜トピア」と「かんなみ」の部分とを分離して観察することはできず,一体として観察すべきである。そして,このようにして,原告商標と被告標章とを対比すれば,両者が類似しないことは,前記(5)で説示したとおり,明らかである。
したがって,被控訴人の上記主張は,採用することができない。
(7) 小括 以上のとおりであって,被告標章は,原告商標に類似しないから,控訴人が被告施設について被告標章を使用する行為は,原告商標権を侵害するものではない。
3 結論 したがって,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人の控訴人に対する商標法36条1項に基づく差止請求及び同条2項に基づく廃棄請求並びに民法709条に基づく損害賠償請求は,いずれも理由がない。
そうすると,被控訴人の請求は全部棄却すべきところ,これを一部認容した原判決は失当であり,本件控訴は理由があるから,原判決中控訴人の敗訴部分を取り消した上,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
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