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関連審決 取消2014-300237
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事件 平成 27年 (行ケ) 10157号 審決取消請求事件

原告 株式会社マリキータ
訴訟代理人弁護士中尾俊介
被告Y
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2015/11/11
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が取消2014−300237号事件について平成27年6月29日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨
前提となる事実(争いがない又は弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
1 本件商標 登録番号第5037336号の商標(以下「本件商標」という。)は,「Mariquita」の欧文字と「マリキータ」の片仮名文字とを上下2段に横書きしてなり,平成18年10月11日に出願され,第3類「化粧品,香料類,植物性天然香料,エッセンシャルオイル,精油,ジャスミン油,ちょうじ油,はっか油,バニラ,ばら油,ベルガモット油,ラベンダー油,吸香,薫香,線香,におい袋,せっけん類,歯磨き,つけづめ,つけまつ毛,かつら装着用接着剤,つけまつ毛用接着剤,家庭用帯電防止剤,家庭用脱脂剤,さび除去剤,染み抜きベンジン,洗濯用柔 軟剤,洗濯用漂白剤,洗濯用でん粉のり,洗濯用ふのり,塗料用剥離剤,靴クリーム,靴墨,つや出し剤,研磨紙,研磨布,研磨用砂,人造軽石,つや出し紙,自動車用洗剤,自動車用つや出し剤,つや出し布」を指定商品として,平成19年3月30日に設定登録されたものであり,原告は,その商標権者である。
2 特許庁における手続の経緯等 被告は,平成26年3月28日,商標法50条1項に基づき,本件商標の指定商品中第3類「化粧品,香料類,植物性天然香料,エッセンシャルオイル,精油,ジャスミン油,ちょうじ油,はっか油,バニラ,ばら油,ベルガモット油,ラベンダー油,吸香,薫香,線香,におい袋,せっけん類,自動車用洗剤」について,商標登録の取消しを求める審判の請求をし,同年4月17日,審判請求の登録がされた。
特許庁は,上記請求を取消2014-300237号事件として審理をした上,平成27年6月29日,「登録第5037336号商標の指定商品中,第3類『化粧品,香料類,植物性天然香料,エッセンシャルオイル,精油,ジャスミン油,ちょうじ油,はっか油,バニラ,ばら油,ベルガモット油,ラベンダー油,吸香,薫香,線香,におい袋,せっけん類,自動車用洗剤』については,その登録は取り消す。」との審決をし,その謄本を,同年7月9日,原告に送達した。
3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書写しに記載のとおりである。その要旨は,@ 原告は,Mariquitaブランドのエッセンシャルオイル(以下「使用商品」という。)の販売は,アロマサロン「マリキータ」店内での顧客への販売であった旨主張しているが,同アロマサロンは平成20年2月には閉店しているから,仮にアロマサロンで使用商品が販売されていたとしても,その時期は要証期間前である,A 原告は,平成26年2月28日付け「納品書」に本件商標を表記するとともに,マリキータの文字の表記のある押印を行っている旨主張しているが,原告が,「同納品書を交付した事実はなく,実際には販売したのではなく試供品として提供したにも かかわらず,漫然と作成した」旨述べていることからすると,同時期に使用商品が譲渡されたものということはできない,B 原告は,平成25年11月5日に,大和自動車の社内セミナーで使用するエッセンシャルオイルを提供した旨主張しているが,セミナーにおいて使用された商品に「Mariquita」の文字(以下「使用商標」という。)が付されていたものということはできない,C 上記@ないしBによれば,商標権者が使用商品を要証期間内において譲渡等したことは何ら証明されていないから,本件商標(社会通念上同一の商標を含む。)を要証期間内に使用していた事実は証明されておらず,商標法50条2項に係る所定の要証事項を証明したものということはできない,したがって,本件商標の登録は,商標法50条により取り消すべきである,というものである。
原告の主張する取消事由
1 取消事由1(審決の法定記載事項欠如の違法) (1) 審決には,結論を導く「理由」を記載しなければならず(商標法56条,特許法157条2項),「理由」には,@法規の要件に該当する具体的な事実主張(立証命題)が何であるか,A具体的な事実主張(立証命題)が,証拠によって裏付けられるか否かの判断が,論理的に過不足なく記載されることが必要となる(知財高判平成21年1月28日・平成20年(行ケ)第10317号)。
(2) 原告は,審判において,商標使用に関する具体的な事実主張として,@平成23年8月3日,原告が株式会社ティー・ディー・エス(以下「TDS社」という。)の代表取締役であるA(以下「A」という。)に対し,サンプルとして,使用商標が付されたラベルを貼り付けた小口の遮光ボトル(以下「Mariquitaボトル」という。)入りのエッセンシャルオイル数種類及び価格表を交付したこと(以下「使用行為1」という。),A平成25年10月19日,原告が株式会社映像デザイン(以下「映像デザイン」という。)の代表取締役であるB(以下「B」という。)に対し,サンプルとして,Mariquitaボトル入りのエッセンシャルオイル数種類及び価格表を交付したこと(以下「使用行為2」という。),B 平成26年2月,ショットバー「龍IMPROVE」の経営者であるC(以下「C」という。)に対し,Mariquitaボトル入りのエッセンシャルオイル3本を交付したこと(以下「使用行為3」といい,使用行為1及び2と併せて「本件各使用行為」という。)を主張した。しかし,特許庁は,審決において,本件各使用行為のいずれについても判断を一切行っておらず,結論を導く「理由」を記載したものとはいえない。
したがって,審決は,法定の記載事項を記載していない違法なものであるから,取り消されるべきである。
2 取消事由2ないし6 (本件各使用行為による使用の事実)(1) 使用行為1前記1(2)@のとおり,原告の代表取締役であるD(以下「D」という。)は,平成23年8月3日,東京都渋谷区所在の飲食店内において,Aに対し,Mariquitaボトル入りのエッセンシャルオイルを卸売してTDS社でネット通信販売してもらうことはできないかと提案し,サンプルとしてMariquitaボトル入りのエッセンシャルオイル数種類を無償で譲渡して交付した。また,Dは,その際,Aに対し,使用商標が付されたエッセンシャルオイルの価格表も併せて交付した。
(2) 使用行為2前記1(2)Aのとおり,Dは,平成25年10月,映像デザインから,タクシー会社である大和自動車交通株式会社が主催する社内向けセミナーで,原告の取り扱っているエッセンシャルオイルを使用したいと相談を受け,匂いの種類や量等の選定を行うために,平成25年10月19日,神戸市内のイベント会場にて,Mariquitaボトル入りのエッセンシャルオイル数種類をBに無償で譲渡して交付した。また,Dは,その際,Bに対し,使用商標が付されたエッセンシャルオイルの価格表も併せて交付した。
(3) 使用行為3 前記1(2)Bのとおり,原告は,平成18年頃から,Cに,Mariquitaボトル入りのエッセンシャルオイルを試供品として年3回程度の頻度で継続的に提供しており,平成26年2月にも,龍IMPROVEにおいて,Mariquitaボトル入りのエッセンシャルオイル3本を無償で譲渡した。
(4) 使用行為1及び2のうち,Mariquitaボトル入りのエッセンシャルオイルの交付行為及び使用行為3は,商標法2条3項2号の使用行為に該当する。
また,使用行為1及び2のうち,価格表の交付行為は,同条3項8号の使用行為に該当する。したがって,原告が要証期間内に本件商標と同一の商標を使用していた事実は証明されていないとの審決の判断は誤っており,取り消されるべきである。
被告の反論
1 取消事由1(審決の法定記載事項欠如の違法)について無償交付物は「商品」ではないから,無償交付物に商標を付しても「商標の使用」に該当しないのであり,かつ,商品に商標が用いられていても,「商品の出所表示標識」として用いられているのでなければ,「商標の使用」には該当しない。
本件各使用行為は,いずれも明白に商標の「使用」に該当しないから,証拠によって裏付けられるか否かの判断を行なう対象ではない事項であるとして,審判体は,かかる判断を記載することは全く不要と考えたものである。
したがって,審決には取り消されなければならない程の理由不備の瑕疵が存在するとはいえない。仮に審決が取り消されたとしても,差戻し後の審判においては,本件各使用行為はいずれも商標の「使用」に該当しないとの判断がされるだけであるから,審決の結論が変わるものではない。
2 取消事由2から6まで(本件各使用行為による使用の事実)について前記1のとおり,Mariquitaボトル入りのエッセンシャルオイルの無償交付の事実があったと仮定しても,無償交付物は商品ではないから,無償交付物に商標を付しても商標の使用には該当しない。また,A,B及びCは,いずれも「Mariquita」マークを待たずして,エッセンシャルオイルの出所がDの会社 であると知っているのであるから,Mariquitaボトル及び価格表における使用商標は商品の出所表示標識として用いられているのではなく,本件各使用行為は商標の「使用」には該当しない。
また,そもそも,本件各使用行為を証する証拠として提出されたA,B及びCの各陳述書には信憑性がなく,本件各使用行為に該当する事実は存在しない。
当裁判所の判断
当裁判所は,原告の主張する取消事由1には理由があり,審決は取り消されるべきであると判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 商標法は,審決は,「審決の結論及び理由」を記載した文書をもって行わなければならない旨を定めている(商標法56条1項,特許法157条2項4号)。
商標法が,民事訴訟手続に準じた審判手続を設け,商標登録の取消事由があるかどうかについては審判手続において法律上及び事実上の争点について十分な審理判断をすべきものとし,また,当事者の関与の下でそのような十分な審理判断がされていることを前提として,事実審を省略し,審決に対する訴えを東京高等裁判所の専属管轄としていること(商標法63条1項)に鑑みると,上記審決の記載事項を義務付けた規定の趣旨は,審判官の判断の慎重,合理性を担保しその恣意を抑制して審決の公正を保障すること,当事者が審決に対する取消訴訟を提起するかどうかを考慮するのに便宜を与えること及び審決の適否に関する裁判所の審査の対象を明確にすることにあるというべきであり,したがって,審決書に記載すべき理由としては,特段の事由がない限り,審判における最終的な判断として,その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示することを要するものと解するのが相当である(最高裁判所第三小法廷昭和59年3月13日判決・裁民141号339頁参照)。
そして,商標登録の不使用取消審判においては,審判請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者等がその請求に係る指定商品・役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを証明しない限り,商標権者はその指定商品・役務 に係る商標登録の取消しを免れないとされ(商標法50条2項),使用についての立証責任は被請求人が負うものとされている。したがって,商標登録の不使用取消審判での審理の中心となるのは,被請求人が主張する具体的な登録商標の使用の事実の存否であり,審判体が,商標登録の取消しという「結論」を導き出すための「理由」としては,被請求人が主張する具体的な登録商標の使用の事実を特定した上で,同主張に係る使用の事実が認められるか否かについての判断(同主張に係る使用が商標法50条2項の「使用」に該当するかについての法的判断を含む。)及びその根拠を,証拠に基づいて具体的に明示することを要するものと解するのが相当である。
なお,商標登録の不使用取消審判の審決に対する取消訴訟においては,特許無効審判の審決に対する取消訴訟における無効事由の主張と異なり,審判において主張されていなかった新たな登録商標の使用の事実の立証も許されるが(最高裁判所第三小法廷平成3年4月23日判決・民集45巻4号538頁参照),このことをもって,審判において既に主張されている登録商標の使用の事実についての判断をしないことが許されるものではない。
2 証拠(文中掲記)によれば,原告は,審判手続において,平成27年2月13日付けで,口頭審理陳述要領書(乙6)を提出し,同書面においては,「本件審判請求の登録前3年以内の商標の使用」との見出しの下,「使用行為@」ないし「使用行為B」として,本件各使用行為を詳細に主張するとともに,これらの本件各使用行為が商標法2条3項の「使用」に該当する旨を主張し,これらの本件各使用行為を裏付ける書証として,A,B及びCの各陳述書を含む審判乙4号証ないし同乙15号証(甲4ないし甲15)を提出したこと,これに対する反論として,被告は,平成27年2月27日付けで口頭審理陳述要領書(乙7)を提出したことが認められる。
しかし,審決の理由においては,「被請求人の主張」として,本件各使用行為の主張が摘示されているにもかかわらず,「当審の判断」においては,前記第2の3 のとおりの判断が記載されているのみである。同記載のうち,前記第2の3のAの記載部分は,平成26年2月28日付け納品書が実態を反映したものではない旨を原告が自認していることを根拠として,無償譲渡も含めて,「同時期に使用商品が同納品書の名宛人である龍IMPROVEに譲渡されたものということはできない」との判断をしたものと一応理解することもできるから,そのような根拠が無償譲渡の事実をも否定する理由として合理的なものといえるかどうかは別として,使用行為3についての判断を記載したものと理解する余地もないではない。しかし,それ以外には,審決には,使用行為1及び2の事実が認められるかどうかについての判断は一切記載されておらず(なお,前記第2の3のBは,平成25年11月5日にエッセンシャルオイルを提供したという使用事実について判断したものであり,同年10月19日にBにMariquitaボトル入りのエッセンシャルオイル数種類及び価格表を交付したという使用行為2についての判断を示したものではない。),判断を示さないことについての特段の事由も認められない。
そうすると,審決が,法が要求する「理由」を記載したものと解することはできないから,審決は違法であり,取り消すのが相当である。
3 以上に対し,被告は,本件各使用行為は,いずれも商標の使用には該当しないから,審決には取り消されなければならない程の瑕疵が存在するとはいえず,仮に取り消されたとしても,差戻し後の審判における審決の結論が変わるものではない旨主張する。
(1) しかし,仮に本件各使用行為が,解釈上,商標法50条2項の「使用」に該当しないと審判体が判断したものであるとしても,そのことは,審判体が同判断に係る理由を記載しないことについての特段の事由とはいえない。
(2) この点を措くとしても,原告は,エッセンシャルオイルの販売事業を行っている者であり,使用行為1及び2につき,有償販売の対象物であるMariquitaボトル入りのエッセンシャルオイルと同じ物を,取引の見込み客に対する営業活動の一環として,サンプルとして交付した旨主張しているのであり,使用行為 1及び2における同エッセンシャルオイルの譲渡が無償であったとしても,そのことのみをもってMariquitaボトル入りのエッセンシャルオイルが独立して商取引の対象となることを目的とした「商品」でないとはいえない。また,原告は,Aに対しては,不特定多数にネット通信販売をしてもらうこと,Bに対してはその取引先である大和自動車交通株式会社に見せて,そのセミナーにおける使用を決定してもらうことを前提として,使用商標を付した商品及び価格表を交付した旨主張しているのであるから,その使用商標が商品であるエッセンシャルオイルの出所を表示するための標識として付されていることも明らかである。したがって,原告の主張する事実を前提としてもエッセンシャルオイルが「商品」に当たらない,又は使用商標が出所表示機能を有しないとの被告の主張は理由がない。
(3) そして,原告は,使用行為1及び2を裏付ける書証として,A及びBの各陳述書その他の書証を提出するのみならず,これらの者の証人尋問の申出もしているのであって,これらの証拠の審理の結果によっても審決の結論が左右されることがないとは直ちにいえないから,仮に取り消されたとしても,審決の結論が変わるものではないとの被告の主張も理由がない。
結論
よって,原告の本訴請求は理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 設樂一
裁判官 大寄麻代
裁判官 岡田慎吾
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