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事件 平成 27年 (ネ) 10117号 商標権侵害行為差止等請求控訴事件

控訴人(一審被告) Takeda Works株式会社
訴訟代理人弁護士 高砂健太郎 佐藤啓介
被控訴人(一審原告) 武田エンジニアリング株式会社
訴訟代理人弁護士 石毛和夫 西脇怜史 宮島明紀 弁理士田修治
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/02/29
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
事案の概要
本件は,被控訴人が,控訴人において被控訴人の有する本件商標権に係る商標と類似する被告標章を付した被告商品を製造・販売するなどして本件商標権を侵害した旨主張して,控訴人に対し,商標法36条1項及び2項に基づき,被告商品の販売等及びインターネット上のウェブサイトにおける被告標章の表示の差止め,被告商品及び被告標章を付した金属製銘板の廃棄を求めるとともに,民法709条に基づき,損害賠償金1968万2191円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成26年11月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は,被告標章は本件商標と類似し,商標的に使用されたとして,控訴人による商標権侵害を認めて,被控訴人の請求について,被告商品の販売等の差止め,被告標章を付した控訴人の商品の販売等を目的とした被告標章のウェブサイトへの表示の差止め,並びに損害賠償金1115万2726円及び遅延損害金の支払を求める限度で認容した。
1 前提事実 原判決の「事実及び理由」欄の第2,1項記載のとおりである。
2 争点 (1) 本件商標と被告標章との類否 (2) 被告標章の商標的使用の有無 (3) 原告の損害額 (4) 被告標章の使用の差止め等の必要性の有無 3 当事者の主張 当事者の主張は,下記(1)に当審における控訴人の新たな主張を,同(2)に当審における被控訴人の反論をそれぞれ加えるほか,原判決の「事実及び理由」欄の第2,3項記載のとおりである。
(1) 当審における控訴人の新たな主張 ア 争点(1)について (ア) 武田製作所の倒産処理時の経緯 武田製作所の破産手続開始決定後,武田製作所が有していた本件商標権1,被告商標権,本件商標1や被告登録商標の記載のある図面,並びに,「TKD」の記載のある図面及び部品などの売却が行われることになった。その際,「TKD」の文字は,売却対象となったあらゆる図面,部品などに含まれていたため,かかる図面や部品を利用するに当たっては本件商標権1との関係が問題となり得ると考えられた。そこで,当時の破産管財人や売却の関係者の間で,「TKD」の使用に制限をつけないことを条件として売却が進められた。また,控訴人が武田製作所から被告商標権を購入する契約において,被告登録商標を株式会社昭和技研工業が図面を使用して業務を行う際,同社について被告登録商標の無償使用が定められた(乙10の第4条)。さらに,当時「TKD」の文字自体は,商標登録されていなかった。
上記の事情からすれば,本件商標1と「TKD」の文字が類似しているのであれば,「TKD」の使用は本件商標権1を侵害することになるから,「TKD」に関して乙10の第4条同様の取決めをしたはずである。しかし,そのような取決めがなかったのだから,当時の破産管財人や破産手続が係属していた裁判所(破産裁判所)は,本件商標1と「TKD」の文字が類似していないとの判断を前提としていたことになる。
(イ) 本件商標1は全体観察がなされるべきこと 結合商標類否判断においては, 複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解さ 「れるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し 商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別機能としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである」最2小平成20年9月8日判決 ( ・裁判集民事228号561頁(平成20年最判)参照。)とされ,あくまで全体観察が原則とされている。分離観察は,@その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合,Aそれ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合,に限定して認められている。
上記判例に従えば,本件商標1において, 「TKD」の文字部分が支配的な印象を与えるとはいえず,全体観察がなされるべき事案である。
(ウ) 取引の実情について @本件商標1と被告登録商標は,元は武田製作所が使用していたものであること,A控訴人代表者は武田製作所の取締役を務めていたこと,B控訴人の株主,控訴人を認証工場としている会社,武田製作所の顧客であった会社又は武田製作所の顧客で合併等により名称の変更があった会社が,武田製作所で取締役を務め,武田製作所の大阪営業所長や図面の設計をしていた控訴人代表者を信頼して控訴人に引き続き注文をしており,需要者の間で誤認混同が生じなかったこと,C被告商品は金属製管継ぎ手であり,需要者はメーカー等の技術担当者であり,商品の性能を吟味して購入を決定するため,誤認の可能性はないこと,D被告標章の使用状況からして,まず需要者に認識されるのは被告登録商標であり,被告標章ではないこと,という取引の実情を考慮すべきである。
(エ) まとめ 以上の事情を考慮すれば,本件において,控訴人と被控訴人の誤認混同のおそれはなく,本件商標と被告標章は類似していない。
イ 争点(3)について (ア) 被告標章の寄与度 原審で主張したとおり,@控訴人は平成23年の設立以来,順調に売上げを伸ばし,控訴人が被告標章を使用し始めた平成26年の売上げは,前年と比較して約2.6%の変化しかないこと,Aデータベースサイト「イプロス」においても,本件商標1や「TKD」に関するキーワードでの検索は,合計で0.81%であったことから,被告標章は,控訴人の売上げに全く寄与していない。
(イ) 除外されるべき取引 原判決が認定した控訴人の売上高の中には,被告標章の使用以前の取引,並びに,株主,控訴人と以前から関係のある取引先及び武田製作所の顧客との取引のように,明白に被告標章の使用と因果関係のない取引が含まれているので,これらは損害額の算定基礎から除外されなければならない。
(2) 当審における被控訴人の反論 ア 争点(1)について (ア) 「武田製作所の倒産処理時の経緯」についての反論 そもそも,「TKD」という文字が記載された図面や部品等を所持していても,図面を図面として使用し,部品等を部品等として使用している限りは,何ら商標権侵害行為とならない。また,武田製作所から「TKD」という文字が記載された部品や製品等を譲り受けた者が,それらの部品や製品等を転売等することは,商標権侵害行為とならない。したがって,控訴人主張の事情により,破産管財人や破産裁判所が,本件商標1と「TKD」の文字が類似していないとの判断を前提としていたとはいえない。
(イ) 「本件商標1は全体観察がなされるべきこと」についての反論 本件商標1の構成部分のうち図柄部分は,菱形及び長方形を組み合わせたような単純な図形でしかないから,出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められるし,取引者,需要者に対し出所識別標識として強く支配的な印象を与える部分は「TKD」の文字部分にほかならないと認められる。すなわち,本件商標1は,平成20年最判でいう分離観察が認められる場合に該当する。
(ウ) 「取引の実情について」についての反論 原判決は,控訴人主張の取引の実情について考慮した上で判断したものであって,誤りはない。
イ 争点(3)について (ア) 「被告標章の寄与度」についての反論 控訴人の売上げ推移や母数の小さいデータベースでの検索結果から,被告標章の寄与度を算定するというのは,論理に飛躍がありすぎる。
(イ) 「除外されるべき取引」についての反論 原判決は,被告標章の使用開始を平成26年1月からとして損害額を算定しているから,被告標章使用以前の取引を損害額の算定基礎としているとはいえない。また,株主,控訴人と以前から関係のある取引先及び武田製作所の顧客との取引による売上げを損害額の算定において除外すべきであるとの主張は,独自の見解によるものにすぎない。
当裁判所の判断
当裁判所も,被控訴人の請求を一部認容した原判決の結論は正当であると判断する。その理由は,以下のとおり当審における当事者の主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第3,1ないし4項記載のとおりである。
1 争点(1)について (1) 「武田製作所の倒産処理時の経緯」について 控訴人は,武田製作所の破産管財人及び破産裁判所が,本件商標1と「TKD」の文字が類似していないとの判断を前提としていたと主張する。
しかし,本件商標1や「TKD」の記載のある図面,部品等を買い受けた者が,当該図面及び部品等を使用することが,直ちに,本件商標権1を侵害するとはいえないからこそ,武田製作所の破産管財人や破産裁判所は,上記図面及び部品等の売却の際に「TKD」の文字を付した製品等と本件商標権1との関係を処理しなかっ たものとも考えられ,必ずしも,本件商標1と「TKD」の文字が非類似と判断したことが前提となるわけではない。控訴人の主張には,理由がない。
(2) 本件商標1は全体観察されるべきか否かについて 控訴人は,平成20年最判に従えば,本件商標1の「TKD」の文字部分が支配的な印象を与えるとはいえない,と主張する。
しかし,本件商標1においては,「TKD」の文字部分が,「ティーケーディー」などの称呼を生じさせるとともに,何らの観念も生じさせないか,あるいは,商標権者である被控訴人の名称の一部「武田」の略称であるといった観念を生じさせるのに対し,菱形及び長方形を組み合わせたような図柄部分は,自他識別力を有するような創作性の高い形状ではなく,特段の観念称呼も生じない。また,その構成上も,図柄部分が文字部分を囲っているにすぎないため,両者を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとも認められない。
したがって,本件商標1の出所表示機能の強い部分は, 「TKD」の文字部分である。控訴人の主張には,理由がない。
(3) 取引の実情について 控訴人が考慮すべきと主張する取引の実情のうち,@本件商標1と被告登録商標は,元は武田製作所が使用していたものであること,及び,A控訴人代表者は武田製作所の取締役を務めていたことという点は,控訴人が武田製作所への信頼を引き継いだのであるから,控訴人が被告標章を使用しても出所混同のおそれがないという趣旨だと一応解される。しかし,被控訴人も武田製作所のグループ会社であって,武田製作所破産手続開始決定後もロータリージョイント標準品の製造・販売を行っていたものと認められるから(甲16) 控訴人のみが武田製作所への信頼を引き継 ,いだとは認めるに足りず,控訴人による被告標章の使用が,被控訴人との間での出所混同のおそれを生じさせないとはいえない。
また,B控訴人の顧客は,控訴人の株主,控訴人を認証工場としている会社,武 田製作所の顧客であった会社等であって,控訴人代表者を信頼して引き続き控訴人に注文をしているという点については,控訴人が一般に向けて宣伝・広告活動を行っているから(甲5〜11,乙3)控訴人主張の上記のような顧客がいるとしても, ,他に顧客又は潜在的顧客が存在しないとはいえず,出所混同のおそれがないことの理由にはならない。
さらに,C需要者が商品の性能を吟味して被告商品の購入を決定するという点については,需要者が購入前に当該商品の性能を吟味するとしても,付された商標にも着目してその出所の信用をも勘案するであろうから,性能を吟味することのみをもって出所混同のおそれがないとはいえない。
D需要者にまず認識されるのは被告登録商標であって被告標章ではないという点については,仮に,被告標章と被告登録商標とが常時,共に用いられるとしても,需要者が常にまず被告登録商標に注目するとは限らない上,被告登録商標を付した製品の出所は,本件商標1と類似した被告標章の出所,つまり,被控訴人であるとの誤認を招く可能性もあるから,必ずしも出所混同のおそれを低減させる理由とはならない。
(4) 小括 したがって,本件商標1の要部は「TKD」の文字部分であり,本件商標と被告標章の要部は共に「TKD」の文字部分であるから,控訴人主張の取引の実情を上記のとおり評価して考慮しても,両者は類似するものといえる。よって,控訴人による被告標章の使用は,被控訴人の本件商標権を侵害するものである。
2 争点(3)について (1) 被告標章の寄与度について 控訴人は,被告標章の使用開始後に控訴人の売上げがそれほど伸びたとはいえないこと,及び,製造技術などに関するデータベースサイトでの検索結果を理由に,被告標章は控訴人の売上げに寄与していないと主張する。
しかし,売上げを左右する要素は,被告標章の使用以外にも多くあるのだから, 売上げの伸びが鈍いことを理由に被告標章の寄与度がないとまではいえない。また,控訴人は,控訴人主張にかかるデータベースサイトのみを介して販売促進活動をしているなどといった事情も見受けられないから,当該データベースサイトにおいて使用された検索キーワードにおける「TKD」等の割合が低いことが,被告標章の売上げに対する寄与がないことの理由にはならない。
(2) 「除外されるべき取引」について 控訴人は,原判決が認定した控訴人の売上高の中には,被告標章の使用以前の取引,並びに,株主,控訴人と以前から関係のある取引先及び武田製作所の顧客との取引のように,明白に被告標章の使用と因果関係のない取引が含まれているが,これらは損害額の算定基礎から除外されなければならない,と主張する。
しかし,原判決は,控訴人の被告標章使用開始時期を平成26年1月と認定した上で,平成26年1月以降の被告商品の売上高を基礎に損害額を算定しているのであるから,被告標章使用以前の取引によって損害があったと認定しているものではない。
また,控訴人の株主,被告標章使用以前から関係のある取引先及び武田製作所の顧客については,被告標章の使用がない場合であっても,控訴人と取引を継続したという可能性が高いと一応考えられるものの,必ずしも断定できず,また,現実に被告標章が使用されている以上,かかる侵害行為に基づく取引による利益を損害額算定の基礎から除くことは相当でなく,被告標章が使用された取引の一部にはかかる取引先との取引も含まれていることを寄与度の算定に当たって考慮すれば足りるものである。原判決は,控訴人が損害額算定から除外すべきであると主張する取引についての開始経緯等も考慮して寄与度を認定しており,相当である。
(3) 小括 したがって,当審における控訴人の主張を勘案してもなお,原判決認定のとおり,控訴人の侵害行為によって得た控訴人の利益額は,7435万1785円であり,控訴人がかかる利益を得るに当たっての被告標章の使用の寄与度は15%と認める のが相当である。よって,控訴人が被告標章を使用したことにより,被控訴人が被った損害額は,原判決認定のとおり,1115万2767円となる。
結論
よって,本件控訴には理由がないからこれを棄却し,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節
裁判官 片岡早苗
裁判官 新谷貴昭
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