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事件 |
平成
27年
(行ケ)
10207号
審決取消請求事件
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原告 有限会社シービーワン 訴訟代理人弁護士柴田肇 中川英俊 中川彩子 由田恭子 岩大輔 島幹彦 杉下龍輔 三和田健介 西田京平 弁理士井川浩文 被告Y 訴訟代理人弁護士田中雅敏 山大地 鶴利絵 宇加治恭子 柏田剛介 新里浩樹 小蜚佳 池辺健太 西森正貴 堀田明希 大坪めぐみ 中田佳孝 安田裕明 弁理士有吉修一朗 森田靖之 補佐人弁理士梶原圭太 筒井宣圭 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2016/03/23 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
特許庁が無効2015-890018号事件について平成27年8月24日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,商標登録無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,商標法3条1項柱書該当性,4条1項10号該当性である。 1 本件商標及び特許庁における手続の経緯等 被告は,下記のとおり,手書き風の「RAIGA」の欧文字を横書きした商標(本件商標。第28類「釣り具」(本件指定商品))を,平成26年4月3日に登録出願し,同年8月5日に登録査定を受け,同月22日に設定登録された(登録5695905号)。 (本件商標) 原告は,平成27年2月27日,本件商標につき,無効審判請求をしたところ(無効2015-890018号。本件無効審判事件) 特許庁は, , 同年8月24日, 「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同審決謄本は,同年9月3日に原告に送達された。 2 審決の要旨 審決は,@本件商標は,登録査定時には,商標権者である被告が代表取締役を務め,被告と実質的に同一視できる有限会社RAIGA(RAIGA社)により,釣り具と極めて関連性の高い商品に使用されていたということができ,また,RAIGA社ないし被告により,近い将来において,本件指定商品「釣り具」について使用される予定のある商標ということができるから,商標法3条1項柱書の要件を充足しない商標ということはできない,A原告が使用する引用商標は,原告の業務に係る商品「ルアー」 (原告商品)を表示するものとして,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,需要者の間に広く認識されていたものとはいえないから,本件商標は,商標法4条1項10号に該当しないと判断した。 理由の要旨は,以下のとおりである。 (1) 原告の主張 ア 商標法3条1項柱書違反 被告は,自己が使用する意思がないにもかかわらず,下記引用商標を原告商品において使用していた原告に対して,使用の中止を求める警告の根拠を取得する目的で,又は,被告に譲受を迫る目的で,本件商標を登録出願して登録を受けた。このような目的で商標登録を受けることは, 「登録主義」を前提としつつも,商標の使用を通じて化体する業務上の信用を保護しようとする商標法の趣旨にもとる行為であり,本件商標は,商標法3条1項柱書の「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」という要件を満たしていない。 (引用商標) 被告は,登録査定時はおろか現在に至るもルアーを製造販売することなく,自己で商標を使用する意思をも有していない。RAIGA社は, 「ルアーキャスト」として,シリコン樹脂などの原料プラスチック等に前記商標を付して販売しているようだが,これらの使用は,本件指定商品とは異なる非類似の商品であるのみならず,使用主体が権利者とは実質的に異なるものであり, 「ルアー」について商標権者が使用しているとはいい難い。 イ 商標法4条1項10号違反 本件商標は,原告商品に付されている引用商標と, 「ライガ」という称呼が共通する類似商標であり,原告商品は「ルアー」で本件指定商品に含まれるところ,本件商標の登録出願時及び登録査定時のいずれの時点においても,引用商標は周知であったから,本件商標は,商標法4条1項10号に該当する。 (2) 審決の判断 ア 商標法3条1項柱書 (ア) RAIGA社は, 「釣具の輸出入及び販売」等を目的として,平成16年6月23日に設立された有限会社ディスプレイオフィス(ディスプレイオフィス社)から,平成17年7月27日に商号変更した会社であって,代表取締役は被告であるところ,ディスプレイオフィス社当時の平成12年8月ころから,その業務に係る商品「ルアー製作キット・ルアーキャスト」の製造販売を行い,遅くとも,本件商標の登録出願日より前の平成26年3月12日には,ルアーキャスト 「 スタータキット」 (RAIGA社製品。RAIGA社の商品だけでなく,RAIGA社の前身であるディスプレイオフィス社,法人化する以前のディスプレイオフィス来画の商品も含めて,「RAIGA社製品」と表記する。)の商標として,本件商標と同一の構成よりなる商標(RAIGA社使用商標)を使用していたと推認することができる。 登録商標を有する商標権者が,自己の営業に係る会社に当該登録商標の使用を黙示的に許諾する場合が多いことは,商取引の実情に照らして明らかといえるから,商標法3条1項柱書にいう「自己の業務に係る商品について使用をする」において,RAIGA社のような立場にある者を,商標権者と同一視して, 「自己の業務」の要件を満たすとみて差し支えない。 したがって,本件商標は,その登録査定時である平成26年8月5日には,商標権者と実質的に同一視できるRAIGA社により,釣り具と極めて関連性の高い商品であるRAIGA社製品に使用されていたということができ,また,RAIGA社ないし商標権者により近い将来において,その指定商品「釣り具」について使用される予定のある商標ということができる。 (イ) RAIGA社は,平成26年3月ころ,原告商品に付されている引用商標の使用について,被告が,平成16年2月9日に登録出願をし,同年10月15日に設定登録した,本件商標と同一の構成からなる商標(別件商標。商標登録4810612号,指定商品:第1類「非鉄金属,原料プラスチック」及び第2類「塗料,染料,顔料」)に係る商標権を侵害する旨の警告をしたが,被告は,指定商品が異なるので,別件商標の商標権の効力範囲に属さないと回答した。また,被告は,平成26年4月3日に本件商標を登録出願したほか,同年4月17日に, 「DRIFTER」「OZMA」「RODEO」「ZORO」「シービーワン」の文字を標準 , , , ,文字で表してなる商標を,第28類「釣り具」を指定商品として,登録出願した。 その後,原告と被告及びRAIGA社は,商標の使用に関して交渉し,その中で,RAIGA社が, 「DRIFTER」及び「OZMA」の両商標を原告に実費で譲り渡すことを原告に通知するなどしたが,示談契約の締結に至らなかった。被告は,代理人を通して,平成27年1月20日付け警告書をもって,原告に対し, 「RAIGA」「DRIFTER」「OZMA」の各商標を付した釣り具を販売する行為の , ,中止を要求する旨通知した。 被告の登録出願した商標は,原告がその業務に係るルアーについて使用する標章や原告の略称を表すものであると認められ,特に, 「DRIFTER」及び「OZMA」の両商標について,RAIGA社が,原告に対する実費での譲渡を通知したことからすれば,被告が,インターネット上で,原告がルアーに使用している標章を調査し,あえて,これらを商標登録出願したと考える余地はある。 しかしながら,被告による本件商標やその他の商標の登録出願は,原告とRAIGA社との間で行われた警告書等の書面のやり取りの期間中にされたものであり,特に,原告がRAIGA社に宛てた平成26年3月31日付けの書面は,別件商標の商標権の効力範囲に触れていたことから,被告は,RAIGA社製品に使用するRAIGA社使用商標を防護する意図,及び,原告による引用商標の使用の排除をする意図をもって,急きょ,本件商標の登録出願を行ったものと推測することができる。加えて,RAIGA社が原告に宛てた書面には,原告が引用商標を使用しないという確約をすれば, 「DRIFTER」及び「OZMA」の両商標について,実費で原告に譲渡してもよい旨の記載があり,これらの事情を併せ考慮すると,被告による本件商標の登録出願が,当初より,原告から高額の許諾料や譲渡対価の取得のみを目的とする,いわゆる商標ブローカーなどによる濫用的な商標登録と同等なものとみるべき事情は見いだせず,その他,被告が図利目的及び原告に対する加害目的をもって,上記商標の登録を受け又は登録出願を行ったと認めるに足りる的確な証拠はない。 してみると,RAIGA社がその業務に係る商品に使用する本件商標に類似する引用商標を排除するために取った被告の一連の行為は,直ちに商標法の趣旨に反するとまでいうことはできない。 イ 商標法4条1項10号 (ア) 引用商標の周知性について 原告商品は,平成18年11月17日に発売が開始され,約7年3か月の間に,3万8052個が販売された。そのうちの約3万個が我が国において販売された。 しかしながら,原告商品の販売数量が,ルアーの需要者において引用商標が原告の業務に係る商品を表示するものとして認識され得るに十分な販売数量といえるかどうかは,必ずしも明らかではない。この点について,財団法人日本釣振興会が平成17年1月7日に作成した「質問事項の回答」によれば,平成14年の釣り人口が1670万人,ルアーフィッシングの構成比は28.9%であり,ルアーフィッシング人口は482万6300人と記載されているところ,原告商品が最も売れた平成20年3月1日から平成21年2月28日までの1万2229個につき,1人が1個購入したとして単純計算しても,ルアーフィッシング人口における1%にも満たない者(1万2229人÷482万6300人≒0.0025)が購入したことになるにすぎない。 したがって,引用商標の周知性を基礎付けるほどの販売数量があったものと認めるには足りない。 「SALT WORLD」 (株式会社えい出版社,平成19年2月1日発行) 「ハ のイプレッシャー下のボートシーバス」(文:鈴木斉)には,「メインで使用したのはシービーワンのガル・ライトシリーズの『雷牙』,このルアーはテンションを軽く掛けて落とすと細かなフラッシングフォールをするので,活性の低い魚にとにかくよく効く。もちろん,リトリーブやシャクリを入れてもスイミングバランスが良く,とにかくヒット率が高く,私が最も信頼しているルアーのひとつだ。」と記載され,「CB-ONE 雷牙80g」の表示と共にその写真が掲載されている。上記記載から,上記文章の著者が,原告商品を,信頼しているルアーの一つであると考えていることは認められるが,ルアーは,釣りの対象魚,釣り場所,天候,潮の流れ,水の透明度等の相違により適性が異なり,釣り人は,1回の釣りにおいてさえも,必ずしも常に決まったルアーを使用するものとは限らず,かなり頻繁に種々のメーカーのルアーを使用する場合が多いと考えられる。その上,上記雑誌における記載は,原告が原告商品について広告をしたものとはいえない。そして,他に,原告が原告商品の広告をしたと認めるに足りる証拠はない。 したがって,上記雑誌の記載をもって,引用商標の周知性を基礎付けることは困難であるといわざるを得ない。 原告が引用商標の周知性を示すために提出した,釣り関係者の証明書には,各証明者の釣りに関する活動経歴が記載された後に, 「貴社(注:原告)が『雷牙』および『RAIGA』の名称を使用し,後記表示の商標(注:引用商標)を付したルアーは,7〜8年前には既に,海釣りを好むルアー愛好家の間で有名であり,海のルアー釣りの業界内においても認知されています。従って, 『雷牙』および『RAIGA』の名称および後記表示の商標は,貴社がルアーについて使用しているものであるとして,釣り具を販売する業界において有名であり,これらが表示されたルアーは,平成26年3月までには貴社の製造・販売に係るものとして広く知られていると認識しております。」などとほぼ同一の文面が記載されているが,上記証明書は,あらかじめ記載された定型的な文書に,原告の取引先等関連業者などが記名押印等をしたものと優に推測させるものであって,各証明者の独自の知見から引用商標の周知性を証明したものとはいい難い上,その内容の裏付けとなる客観的な資料が提出されていないことからすれば,これらの証明書をもって,引用商標の周知性を基礎付ける根拠とすることはできない。 (イ) したがって,引用商標は,原告の業務に係る商品「ルアー」 (原告商品)を表示するものとして,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできず,本件商標は,商標法4条1項10号の「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標」には該当しないものというべきである。 |
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原告の主張
1 取消事由1-商標法3条1項柱書の該当性判断の誤り (1) 被告は本件商標の使用意思を有していないこと ア 出願の動機 被告は,本件無効審判事件の答弁書において,本件商標の出願目的は, 「RAIGA」という標章について,商標として周知であることの客観的な判断を求める一つの手段とするため,また,原告に引用商標の使用中止を求めるためである旨主張した。これは,被告には本件商標を使用する意思はなく,原告の商標使用を強制的に中止させる目的により出願したことを,被告自ら認めるものである。 イ 出願後の行為 被告は,本件商標と同じ時期に出願した「DRIFTER」及び「OZMA」の両商標(別紙被告商標出願一覧表3及び4)について,設定登録を受けて間もない時期に原告に対する譲渡を打診した。被告の一連の行為は,商標登録制度を利用して,原告との交渉を有利に導く目的であって,ほかの理由は考えられない。 ウ 被告の悪意 被告は,本件商標の登録出願の前に,別件商標に基づき,引用商標の使用の中止を求める警告文書を原告に送付しており,この時点で,原告がルアーについて「雷牙」という標章を使用していること知っていた。原告が,別件商標の指定商品はルアーとは異なると回答したことから,被告は,本件商標について登録出願を行ったのであり,原告の引用商標の使用について,悪意であった。 エ 使用意思の認定 審決は,RAIGA社の履歴事項全部証明書の記載から,RAIGA社が「釣具の輸出入及び販売」を目的の一つとして設立されたものであることを前提とし,さらに,本件商標の出願前から,RAIGA社製品について,本件商標と同一の構成よりなる商標を使用していたことを根拠に,被告の本件商標に関する使用意思を認めた。 しかしながら,RAIGA社の履歴事項全部証明書に記載された目的は,商標の使用意図を示すものではない。そもそも,商業登記は,取引の安全と円滑に資するためのものであって,商業登記簿上の目的事項は,会社が行うべき事業を意味するが,会社の目的として記載するために,会社に記載事業の実施の意思までは要求されないから,商業登記簿上の目的の記載は,当該事業の実施の意思や商標法の使用意思とは無関係である。 また,RAIGA社は,設立された平成16年から現在まで,釣り具の輸出入や販売をしておらず,設立後約10年を経過した平成26年4月3日の本件商標出願時においてもその実績がない。それから約1年経過した本件無効審判事件における答弁書提出時においても,ルアー作製キットであるRAIGA社製品の販売に留まり,釣り具を販売していない。しかも,RAIGA社製品には,金属ワイヤや錘となるガン玉,針が付属されておらず,それだけではルアーを完成させることはできないし,金属ワイヤの折り曲げ等はユーザーが自ら行う必要がある。また,各パーツがばら売りされており,他のプラスチック成型品又は金属成型品を作製することも可能である。同じ内容の製品を「シルバーアクセサリー作製用材料キット」としても販売している。「ルアー作製キット」は,「材料セット」にすぎず,モールドに流し込む材料は第1類「非鉄金属及びその合金」に,離型剤は素材に応じて第1類「化学品」又は第4類「工業用油」に,着色料は第2類「塗料」に,型取り用ゴムは第17類「ゴム」に,型取り用の油粘土は第16類「文房具類」に,締付具は,第19類「木材」及び第6類「金属製金具」に,枠組み用プラスチックは,第17類「プラスチック基礎製品」にそれぞれ属し,いずれにせよ, 「釣り具」に属する商品ではないから,本件商標の出願当時に被告が使用意思を有していたとの認定は明らかに誤りである。 オ 使用意思と指定商品・役務との関係 仮に,RAIGA社が,法人の目的事項である「釣具の輸入及び販売」という事業を行う蓋然性が高いとしても,それは,RAIGA社又は被告が「釣り具」について本件商標を使用することとは異なる行為である。 すなわち,釣り具の「輸入及び販売」とは,第三者(メーカー)が製造する商品を輸入し,又は販売することである。当該業務において,本件商標を使用するとしても,それは,釣り具の小売り等の業務において行われる「顧客に対する便益の提供」に係る使用であって,商品区分の上では第35類に該当する。 したがって,釣り具を製造するなどのメーカーとしての意思を有していなければ,「釣り具」を指定商品とする本件商標の使用を意図していることにはならない。 (2) 本件商標等の出願の意図 被告は,別紙被告商標出願一覧表のとおり,全10件の商標登録出願(防護標章を除く)をし,そのうち5件について設定登録を受け,2件が審査中,3件が拒絶査定となっている。 これらの10件の出願のうち, 「釣り具」以外の「原材料品」を指定商品とした出願は,わずか2件であり,そのうち1件の商標は,本件商標と同じ形態の「RAIGA」であり,もう1件の商標は,標準文字による「ルアーキャスト」である。他方,残る8件の指定商品は,全て「釣り具」である。しかしながら,RAIGA社は,現在も,RAIGA社製品の販売を行うのみであり, 「釣り具」を販売しておらず,これらの商標が使用されていない。特に,本件商標が出願された平成26年4月には, 「釣り具」を指定商品とする出願が本件商標を含めて6件されたが,RAIGA社によるこれらの出願は,明らかに,原告に対する警告のための出願である。 被告自身が,原告による引用商標の使用を中止させる目的であったことを明言している。 また,10件の出願のうち,現に被告が販売する商品に係る商標はわずかに2件であり,残る8件の商標は,原告と何らかの関係を有するものである。原告が現に使用している複数の商標の使用が,強制的に中止させられれば,原告はこれらの全ての商標を変更せざるを得ず,多数の商標を一度に変更することによる信用失墜は,容易に想像できる。したがって,被告による一連の出願が,原告の営業を妨害するため,あるいは,原告に対して損害賠償を請求するために,原告を狙い撃ちしたものであることは明白である。 しかも,RAIGA社は,原告に対する引用商標の使用中止の要請に当たり,流通在庫として残存する300個のルアーの回収に際し,回収未了を発見した場合に1個当たり1万円の違約金を要求した。これらの流通在庫は,本件商標が設定登録される約1年前の平成25年9月,すなわち,本件商標が出願された平成26年4月よりも前に,既に原告が納品を終了したものであるから,本来的に本件商標に係る商標権侵害行為に当たらない。それにもかかわらず,RAIGA社が原告に納品が終了した流通在庫の回収を強硬に要求したのは,積極的意図があるか否かは不明であるとしても,原告を心理的に揺さぶり,原告の営業に相当程度の損害を与えることを意図した行為であることに,疑いを差し挟む余地はない。 (3) 信義則違反 被告又はRAIGA社の原告に対する各要求は,本件商標の商標権等に基づくものであるが,これらは,いずれも原告が被告に対し,当初の警告について,別件商標の指定商品が,原告商品とは異なる旨を示した後に出願されたものである。商標登録は,最先の出願が優先されるが,そうであるとしても,交渉期間中に抜け駆け的な出願を行い,設定登録を受けた後に当該商標権をもって強硬に使用中止を請求することは許されない。被告は,本件商標の出願前に,原告が「雷牙」及び「RAIGA」という商標をルアーについて使用していることを知りながら,あえて出願したものであって,かかる出願は,商標法4条1項7号に違反するが,その判断を待つまでもなく,同法3条1項柱書の要件を欠く。 2 取消理由2-商標法4条1項10号の該当性判断の誤り (1) 釣り人口との関係について ア 証拠採用について 審決は,財団法人日本釣振興会の公表文書(甲23)に基づいて,平成14年の釣り人口及びルアーフィッシング構成比からルアーフィッシング人口を482万6300人と認定し,販売数量を当該人口で割り当てると1%にも満たないと評価した。 しかしながら,本件無効審判事件において,前記文書に添付されているはずの別資料1,2が提出されておらず,前記文書は内容が極めて不自然といえる上に,前記文書は,詳細なルアーフィッシング人口の動向を示すものではない。さらに,ルアーフィッシング人口は,現実の調査によって算出された数字ではなく, 「釣り用品の小売市場規模」等から概算を算出したもので,正確な釣り人口を示すものでもなく,引用商標の周知性を判断するための試算として,極めて不十分といわざるを得ない。 また,前記文書は,その出所そのものが不明であり,ルアーフィッシングに関する情報としても不十分かつ不正確といわざるを得ない。ルアーフィッシングは,淡水魚を対象とする釣りと,海水魚を対象とする釣りとに区分され,さらに,海釣りは,陸釣りと,沖釣りとに区分され,使用するルアーの種類は,ジグ系,プラグ系,ワーム系に分類され,ジグ系を使用する釣りをジギングと称して,他のルアーを使用するものと区別している。しかも,ジギングは,大型魚を釣るためのものと,比較的小型の魚を釣るライトジギングに区分される。前記文書は,このような区別に基づくものではなく,全てを含めたルアーフィッシング人口として推計されたものであって,原告商品の普及の程度を算出する根拠となり得ない。 イ 原告商品の普及率について 仮に前記文書に従うとしても,その普及率は大きく異なる。すなわち,原告の商標が使用されるルアーは,海釣りに使用されるメタルジグであり,その中でもライトジギングに使用されるものであるから,利用者の総数は大きく減少し,その普及率は大きいものとなる。そこで,前記報告書の数字に基づいて試算すれば,次のとおりとなる。すなわち,海釣りの人口は, 「ルアーフィッシング人口」とされる482万6300人から, 「バス釣り人口」とされる337万8410人を除く144万7890人のうちの,更に一部である(バス釣り以外にも鮎釣りなどの川魚等にルアーが使用される。。オフショアフィッシングは,乗船料等が掛かる上,乗船の予 )約なども必要となるため,陸釣りのように手軽でなく,海釣り人口中のオフショアフィッシング人口は,概略1/3と考えられ,そのうちジギングを楽しむ割合が80%程度,さらに,ライトジギングを楽しむ人口は,そのうちの50%程度である。 そうすると,ライトジギング愛好者の人口は,15万3052人となる(計算式:114万7890人×1/3×0.8×0.5=15万3052人)。 このようにして得られた釣り人口を根拠に審決と同様の計算を行えば,原告の引用商標が付されたメタルジグの1年間における普及割合は,最も多い年では約8%(計算式:1万2229人÷15万3052人≒0.0799)のライトジギング愛好者に購入されていることとなり,数年間の継続販売により,その割合は増加することとなる。 しかも,ルアーフィッシング愛好者は,釣りの時期や気象環境に応じて複数のルアーから選択するため,数種類のルアーを準備しており,効果が不明確なルアーを新規に購入する際は,同時に複数のルアーを購入することは稀であって,使用後に気に入れば再度購入するのが,一般的である。また,同一のルアーが消耗品のように頻繁に購入されない。これらを考慮すれば,同一人が同一のルアーを所持するケースは限定的となる。そこで,販売された総数によって普及の程度を算定すべきであり,販売開始から平成26年2月末までの販売総数(外国及びサンプルを除く。)は,3万0201個であることから,上記と同様の計算式を使用し,さらに,繰り返し購入する割合を1/5とすれば,普及率は約15.8%(計算式:3万0201個÷15万3052人×4/5≒0.158)となり,約10人に1.5人の割合で普及したこととなる。 なお,上記の普及率は,現実に原告商品を所持する者の数であるが,釣り仲間との間で情報交換が行われる(特にオフショアフィッシングの場合は,同じ釣り船に乗り合わせるため,同乗者間で頻繁に情報交換される。)ことを考慮すれば,その知名度が各段に増加することは容易に想像し得る。 したがって,ルアーフィッシング人口から普及率を単純計算するとしても,相当程度のライトジギング愛好者に対して普及しているはずであり,審決の判断には誤りがある。 (2) 周知性の範囲について 商標の周知性は,一般のユーザー(ルアーフィッシング愛好家全体)に周知である必要はなく,特定のユーザー(ライトジギング愛好家)の間で周知であってもよい。また,ユーザーではなく,特定の業種の者における周知であってもよいと解される。 そうであるならば,本件においては,証明書において証明した者は,一般ユーザーというよりも,釣りに関係する業界内の者であり,当該業界内で周知であれば,商標の周知性の要件は満たされるというべきである。証明書の証明力は,定型的な文章であることによって失われるものではない。 (3) 宣伝広告について 審決は,「SALT WORLD」の記事の掲載効果を否定した。 しかしながら,原告が上記記事を引用して主張した内容は,引用商標を広告した事実ではなく,販売量増加の端緒が記事の掲載であるとするものであって,審決は,原告の主張内容を誤解している。 また,原告は,営業として,販売店回りや釣行リサーチと称される釣りの実演のような活動を行っている。これは,雑誌の掲載により,知識や経験が不足した釣り愛好家が安易に購入した場合を仮定し,商品を十分に理解せずに使用した結果,良い釣果を得られなかった場合の損失を考慮して,釣り具店等において,ユーザーに対して原告商品の十分な説明を行ってもらうことを重視したものである。原告は,各販売店を訪問し,時間を掛けて,原告商品の特徴や使用方法などを説明し,さらに,販売店の店員に原告商品に対する理解を深めてもらうことによって,最大の宣伝効果を得ているのである。原告は,これらの営業活動の費用として,直近の1年間でも538万7066円を支出した。 (4) 証明書の効力について 審決は,釣り関係者の証明書について,あらかじめ記載した定型的な文書に,原告の取引先等関連業者などが記名押印等したものであるから,引用商標の周知性を証明したものとはいい難いと認定,判断した。 しかしながら,証明書に記名押印した証明者は,引用商標が,原告の取引先に限らず,多方面において周知であることを,評価したものである。 また,これらの証明者には,一般のユーザーが含まれておらず,証明者は,引用商標が,取引業者に周知であることを証明したものである。特に,A(甲19の1)は,釣りの愛好会として「グルーパーボーイズ」を設立し,現在も会長を務める傍ら,スポーツフィッシング推進委員会(S.F.P.C)の代表者を務め,各種イベントなどを開催するなど,海釣りに関する専門家というべき人物である。しかも,グルーパーボーイズは,会員数200を超えるオフショアフィッシング関連において最大規模の会であり,S.F.P.Cは,単に釣りの振興に留まらず,環境保全や乱獲抑制など社会的活動を行う団体である。そのような専門家までもが証明書を発行しているにもかかわらず,一部が定型的であることを理由に証明力が認められないとすることは,余りにも不合理である。 3 取消理由3(審理不尽) 審決は,本件商標の使用に関する事実を,職権で調査したが,その職権調査の範囲が示されておらず,原告に反論の機会を与えていない。 また,審決は,ルアー作製キットであるRAIGA社製品が「釣り具」と極めて関連性が高いとして, 「釣り具」について使用する蓋然性を認めているが,ルアー作製キットとルアーそのものは, 「ルアー」という語で共通するとしても,その流通の実態は異なる。商品が流通する際の自他商品識別機能及び出所表示機能を有する商標にあっては,その流通の実態を検討することなく,関連性を認定し,その関連性のみによって使用意思を判断することは,審理不尽といわざるを得ない。 |
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被告の反論
1 取消事由1に対し (1) 本件商標の使用意思 ア 出願の動機 通常,商標出願の目的,動機は,使用により商標に化体した信用を保護すること,及び,他人の使用を防御することにある。被告は,本件無効審判事件の答弁書において,出願の目的につき,長年,本件商標を商品「釣り具」について使用し続けた結果,顧客からの信用を獲得しており,当該信用を保護するため,また,原告の行為により,被告が築き上げてきた本件商標に対する信用の失墜を防止するためと主張したが,このような目的は,商標法の趣旨に沿ったものである。 イ 出願後の行為 先願主義の原則が採用されている我が国の商標法制度の下で,被告が本件商標に類似する引用商標を排除するために取った,本件商標出願後における「DRIFTER」及び「OZMA」の商標登録出願は,商標法の趣旨に反するものではない。 ウ 被告の意図 被告が別件商標に基づく警告文書を原告に送付した事実,この時点で,被告が,原告がルアーにつき「雷牙」の標章を使用していると知っていた事実は認めるが,出願の動機は,上記アのとおりである。 エ 使用意思 RAIGA社が「釣具の輸出入及び販売」を事業の一つとしており, 「指定商品に関する事業」を行っていることを根拠に,RAIGA社の代表取締役である被告に使用意思があるとの主張を行ったことは,認める。かかる使用意思の認定が正しいことは,審決が説示するとおりである。 RAIGA社の製造,販売するルアー作製キットであるRAIGA社製品は, 「釣り具」に属するから,RAIGA社は,長年にわたり, 「釣り具」の販売を行っている。 「釣り具」とは,釣りに用いる道具を意味するところ,RAIGA社製品を使って作成したルアー及びメタルジグは,釣りに用いる道具となる。また,RAIGA社製品は,シリコン,ルアーキャスト,プラスチックブロック,締金具,型取り用油粘土,型取り練習用マスターブランク,説明書等からなるルアー作製キットであり,原材料の他にルアー及びメタルジグの作成に必要な道具等もセットになっており,簡単にルアー及びメタルジグの作成が可能であり,ルアー及びメタルジグの作成以外の用途に用いることは考えられない。 「キット」商品とは,複数の部品を組み立てることによって特定の製品が完成する類の商品に限定されているわけではなく,一定の目的を達成するために必要な部品,工具,用具等の一式をいう。RAIGA社製品の全てを使用してもルアーが完成せず,ユーザーが一部の部品を自ら調達しなければならないことは,原告の指摘のとおりであるが,RAIGA社製品では,ルアー作製用に適した性質を持つ材料等が選択されて商品化されている。ユーザーが調達可能な汎用品や嗜好性が分かれるアフターパーツ品を含めず,価格を抑える販売形態は,通常のものであり,消耗品をばら売りするのも当然のことであって,これにより,RAIGA社製品の「釣り具」該当性が否定されるわけではない。商品及び役務に関する区分として第1類「非鉄金属,原料プラスチック」ないし第2類「塗料,染料,顔料」に属する商品と,RAIGA社製品とは,販売部門,用途,需要者の範囲が異なり,RAIGA社製品を第1類又は第2類に属する商品と考えることはできない。 「雑貨メイキングスタータキット」とRAIGA社製品とは,明確に区別されるべきものである。 なお,仮に,RAIGA社製品が「釣り具」に該当しないとしても,少なくとも,本件商標が「将来において使用される予定のある商標」であることに疑いはない。 オ 使用意思と指定商品・役務との関係 釣り具の「輸入及び販売」には,輸入した部品を自社で組み立て,組み立てた完成品を販売することも当然に含まれ,原告の指摘するような第三者の製品を輸入又は販売する業態に限定されるわけではない。 小売役務制度が導入される以前において,小売業者は,全ての商品につき商品商標で保護していたという事情を考慮すると,第28類の商品商標で保護するか,第35類の小売役務で保護するかは,出願人が自由に決めることができるものである。 RAIGA社は,製造した商品であるRAIGA社製品そのものに本件商標を付して販売しており,本件商標を「釣り具」について使用していることを疑う余地はない。 (2) 本件商標等の出願の意図 被告が,別紙被告商標出願一覧表記載の10件の商標登録出願(防護標章を除く。)をしたのは,将来使用する意思があったことに加え,本件商標を防護するためである。 (3) 信義則違反 被告又はRAIGA社が,原告に対し,別紙被告商標出願一覧表記載の商標1-1及び2に関する商標権に基づいて,同商標権と同一の標章を付して商品の販売を行うことの差止め等を求めたこと,同別紙記載の商標2ないし10が,原告から被告又はRAIGA社に対して指定商品違いを理由に使用差止めを拒絶する通知が送付された後に,原告が「雷牙」及び「RAIGA」という商標をルアーについて使用していることを知りながら,被告が各商標を出願したこと,その出願が商標使用に係る原告と被告又はRAIGA社の間の交渉期間中であったことは認める。 しかしながら,被告が,少なくとも,自身が使用する本件商標に化体した信用の保護と,原告による引用商標の不正使用を止めさせるために,本件商標を出願したことに疑いはなく,商標法の目的に沿った出願であり,不正目的は存在しないから,商標法3条1項柱書の要件を満たすことは当然である。 原告と被告又はRAIGA社の交渉経過は次のとおりである。 すなわち,被告又はRAIGA社は,本件商標に基づき,原告に対して再三警告したにもかかわらず,原告は,被告又はRAIGA社に対して,小売店が保有し,顧客に販売されていない在庫分については,原告の商品名として「RAIGA」,及び「雷牙」を使用継続する意思があることが伝え,また,小売店が保有するわずか300個の在庫分についても,メーカー責任としての商品回収について何ら対応しなかった。被告又はRAIGA社は,原告のコンプライアンスに対する考え方に大きな疑問を抱きつつも,商品の回収に当たっての原告の負担を考慮して,本来であれば本件商標を侵害し,かつ,不正競争行為を行った原告が全て負担の上で対応すべき商品の回収に,協力する意思を原告に伝え,今後,原告が本件商標を使用しないための確約を得る目的で,商標権示談契約書を原告に送り,問題の解決に積極的に取り組んでいた。このように,被告又はRAIGA社が,原告に対して,商品の回収を強硬に要求したような事実はなく,また,原告を心理的に揺さぶり,原告の営業に相当程度の損害を与えることを意図した事実もない。 2 取消事由2に対し (1) 釣り人口との関係について 財団法人日本釣振興会の公表文書(甲23)に,別資料1〜2は存在する(乙35の1及び2)。同資料は,平成16年1月7日に,経済産業省別館9階944会議室で行われた「第3回 特定外来生物等分類群専門家グループ会合(魚類)オオクチバス小グループ会合議事次第」の会合において,日本釣振興会資料として提出されたものであり,本会合の会合内容,及び本会合で配布された資料は,環境省のホームページから閲覧可能である。 (2) 周知性の範囲について 原告の主張は,周知性を基礎付ける需要者の範囲についての理解を誤ったものである。本件において引用標章の周知性が認められるためには,ライトジギング愛好者の間での周知性では足りず,少なくとも一般ユーザーにおいての周知性を有することが必要である。需要者の範囲を限定しようとしている原告の態度は,自己の商品,及び,原告商品に使用する引用商標が,特定ユーザー間でのみしか知られていないことを自認するものである。 特許庁の審決例(無効2013-890072)及び東京高裁平成4年2月26日判決(行政裁判例集24巻1号182頁)は,周知性について, 「商品が流通する際広く一般に流通していく商品であるのか,特定の専門家の間のみを流通していく商品であるのか」をまず検討し,流通する範囲に属する者を需要者であると定め,その需要者の間で周知であるか否かを検討するとの判断基準を示している。そして,商品が狭い範囲に流通する物であるか否かは,その商品を取り扱う者が,医療従事者やコンピューター技術者などの,いわゆる専門家であるか否かを重視している。 このような専門家の間で流通する商品は,特定の業者によってのみ取り扱われるのが通常であり,一般に市販されることはないためである。また,知財高裁平成26年10月29日判決(判時2242号124頁) 需要者の範囲の判断において, は,主に想定される商品又は役務の利用者に限定せず,対象とされる商品又は役務の利用が想定される者については,広く需要者に含めている。これを本件に当てはめると,原告商品であるルアーは,専門家の間で流通するものではなく,ごく一般に釣り具店等で販売されるものであり,また,通信販売でも購入でき,特定の流通経路を流れる商品ではなく,広く一般市場に流通する商品である。原告商品は,ジギングにしか用いることができないものではないし,また,そもそも海釣りにしか使用できないというものでもない。原告の主張する「需要者」とは,原告商品が特にターゲットとしている顧客層を指しているにすぎない。 (3) 宣伝広告について 発行部数も決して多いとはいえない「SALT WORLD」という雑誌における,わずかな掲載記事をもって,原告商品の販売数量が増加した端緒とはなり得ない。また,原告の販売数量と雑誌への掲載の因果関係について,何ら証拠の提出もない。 販売店回りによる自社製品の普及活動は,メーカーであれば通常行う営業活動の一つである。また,実演販売等を行うのであれば,チラシや雑誌広告等への事前アナウンスをした上で実施するものであるが,そのような証拠についても何ら示されていない。更には,直近1年間の地道な営業活動に支出した広告宣伝費の金額の根拠となる資料や内訳も,全く示されていない。 (4) 証明書の効力について 原告が証拠として提出した証明書は,単なる定型的な文書にすぎない。また,原告商品は,最終消費者である一般ユーザーを含めて広く流通するものであるにもかかわらず,証明書には,一般ユーザーは含まれていない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1について (1) 認定事実 本件各証拠によれば,以下の事実が認められる。 ア RAIGA社製品の内容,販売・宣伝状況等 (ア) RAIGA社製品の販売状況 被告が経営し,ディスプレイオフィス社の前身に当たるディスプレイオフィス来画は,遅くとも平成12年8月ころには, 「ルアーキャスト」を販売し,平成14年6月には,「スターターキット」を販売した(甲27の3,27の10,29の1,29の2)。 ディスプレイオフィス来画は,平成16年6月23日に法人化し,平成17年7月27日に, 「有限会社ディスプレイオフィス」 (ディスプレイオフィス社)から「有限会社RAIGA」(RAIGA社)に商号変更した(甲41)。 RAIGA社製品は,釣り具店を通じて,又は,インターネットを介して,販売される(甲25,27の4,27の10)。 (イ) RAIGA社製品の内容 現在の「ルアーキャスト スターターキット」は,型取り用液状シリコンゴムの缶,発泡ウレタン樹脂等のルアーキャスト,型同士が接着しないようにする離型剤,型取り用油粘土,枠組み用プラスチックブロック,型を挟んで抑えるための板とネジ,型取り用ルアー,取扱説明DVD,取扱説明書からなり,商品包装箱には, 「ハンドメイドルアーコピー製作用スターターキット」「15分で完成。新型発泡ウレ ,タンを使った手軽なオリジナルルアーキット」などの記載がある。シリコンゴムの缶,ルアーキャスト,離型剤,プラスチックブロック,取扱説明書,商品包装箱には,本件商標が付されている。シリコンゴムの缶には,ルアー,ウキ,ワーム等に使用できる旨の記載がある。取扱説明書では,記載用途,すなわち,ルアー等作製以外の目的での使用を禁止している。(甲24,45,58の1) 使用されているシリコンゴムや発泡ウレタン樹脂は,比重や粘度,離型性,速硬化性等の点でルアー作製に適した材質であり,これらの材料の組合せは,被告が,平成12年9月以前に開発したものである(甲27の4,27の8,27の10,45)。 RAIGA社製品の基本的構成は,平成12年9月以前から,シリコン,離型剤,締金具,型取り用ルアー,プラスチックブロックであり,シリコンゴムの缶等には,本件商標が付されていた(甲27の1,27の3,27の6〜27の9,29の1,29の2)。 RAIGA社製品を用いてルアーを作製するためには,はかり,ステンレスワイヤ,計量カップ,撹拌棒,計量スプーン,ラジオペンチ,鉛玉,彫刻刀,筆,サンドペーパー,やすり等が必要となる(甲27の1,27の7〜27の9)。また,ユーザーは,自らワイヤを折り曲げ,ラインとフックを取り付けるための円環部(アイ)を作る必要がある(甲27の1,27の5,27の6,27の9)。 なお,バルサとひのきが選択できるルアーキャストセット,シリコン,離型剤等のばら売りもされている(甲25,26,27の8,43,58の1)。 (ウ) RAIGA社製品の宣伝状況等 RAIGA社製品は,「週刊日本の魚釣り」(平成25年5月22日号)「HJ・ ,FRONT・LINE」 (刊行日不明), 「SPORTS&FISHING NEWS」(平成12年10月20日号)「発明ライフ」 , (平成12年9月1日号)「TRIG ,GER」 (平成12年8月号)「TACKCLE , BOX」 (平成12年9月1日号)等の雑誌や新聞等において,メタルジグなどのルアー作製に使用する道具として紹介され,写真が掲載された(甲27,28〔各枝番含む。) 〕。 RAIGA社製品は,「東京・千葉・神奈川 沖釣り船宿ガイド」(平成15年8月10日発行), 「ソルトウォータータックルカタログ 2002」 (平成14年6月10日発行)等の雑誌において,簡単にメタルジグなどのルアーを生産,量産できる道具として,広告宣伝され,写真が掲載された(甲29〔各枝番含む。) 〕。 RAIGA社製品は,ウェブサイト上,トップウォータープラグ,クランクベイト等のプラグルアー全般,ウキ,ムシパターン対応のフローティングヘッド等のパーツ等に利用できる旨の記載がなされ,写真が掲載されている(甲42)。RAIGA社のウェブサイト上でも,ハンドメイドルアー製作キットとして紹介され,製作方法についても紹介されているほか,本件商標が会社名の表記にも使用されている(甲43,44)。 イ 本件商標の出願に至る経緯 被告は,平成16年2月9日,本件商標と同一の構成の別件商標について,指定商品を第1類「非鉄金属,原料プラスチック」及び第2類「塗料,染料,顔料」とし出願し,同年10月15日に設定登録を受け(登録第4810612号),その後更新されている(甲2)。 RAIGA社は,平成26年3月ころ,原告に対し,原告商品に付されている引用商標は,別件商標と類似する旨を告げ,事態の改善を要求したところ,原告は,引用商標を使用している対象はルアーであり,別件商標権の効力範囲に属さない旨を回答した(甲10の1,11)。 被告は,平成26年4月3日,本件商標を登録出願した(甲1)。 (2) 検討 ア 商標法3条1項柱書における「自己の業務に係る商品・・・について使用をする商標」において, 「自己の業務」であることを要求する趣旨は,使用意思のない商標について独占権を付与するのが相当ではないという考慮に基づくものであると解されるから, 「自己」と一定の関係があって「自己」と同一視できる「他人」の生産,販売行為等が排除されるものと解するのは相当ではない。また,商標法は,商標の使用を通じて化体された商標に対する業務上の信用を確保することを目的とするものであるところ,一般的に,業務の開始には準備期間を要するし,新たな業務の開始時又は業務内容の変更時に,登録商標が確実に使用できるように確保させておく必要があることから,ここでいう「使用をする」には,当該商標を現在使用している場合だけではなく,将来使用する真摯な意思はあるが現在は使用していない場合も含まれると解すべきである。 イ 上記認定事実のとおり,被告は,ディスプレイオフィス来画を経営し,ディスプレイオフィス社及びRAIGA社の代表取締役であるから,被告自身の業務とディスプレイオフィス来画,ディスプレイオフィス社及びRAIGA社の業務は,実質的に同視することができ,「自己の業務」の要件に欠けることはない。 また,上記認定事実のとおりの被告商品の構成,取扱説明書に記載された使用方法,新聞雑誌記事の紹介内容,広告宣伝の内容等に鑑みると,RAIGA社製品は,基本的にはルアー作製のために使用されるものであって,ウキ等への利用が可能である旨商品上明示されているものの, 「釣り具」であることに変わりない。また,RAIGA社製品は, 「釣り具」作製以外の用途での使用が当然に予定されるものとはいえないし,他の用途での使用が可能であるとも認められない。実際,RAIGA社製品が釣り具店以外に販売され,釣り愛好家以外が他のプラスチック成型品や金属成型品を作製していることをうかがわせる証拠もない。確かに,RAIGA社製品を購入した消費者は,そのままの状態では「釣り具」として使用することはできないが,購入後に個々の道具を使用して,ルアーという「釣り具」を製作するのであるから,指定商品の区分としては, 「釣り具」に該当するものと認めるのが相当である。 この点,原告は,RAIGA社製品には,金属ワイヤ,ガン玉や針が付属しておらず,ルアーが完成しないこと,ばら売りもしていること,プラスチック成型品等の作製も可能であること,同じ内容がアクセサリー作製用材料としても販売されていることを述べ,「釣り具」該当性を否定する。 しかしながら,竿や糸,針などもそれぞれ別々に販売され,単独では「釣り具」として十分に機能しないが,組み合わせて使用する通常の使用方法では「釣り」に使用されるから, 「釣り具」に該当するものであり,これらの製品とRAIGA社製品との間に,本質的な違いはない。単独では「釣り」ができず, 「釣り」を行うために他の商品による補完が必要であることと, 「釣り具」であることは矛盾しないというべきである。また,セット販売されている商品の属性は,ばら売りされている場合があることにより左右されるものではないし,特に使用頻度の高い消耗品だけを,別途,ばら売りすることが,セット商品の性質を本質的に変更させるものではない。 さらに,通常の商品は,使用者の意思次第では本来の使用方法とは異なる用途で利用できるのであって,本来予定されていない使用方法で使用することがあるからといって,当該商品の本来の用途や機能に従った属性の決定に影響を与えるものでもない。原告の主張は,いずれも採用できない。 そうすると,被告は,遅くとも平成12年9月1日当時には,自己が経営するディスプレイオフィス来画の業務として, 「釣り具」であるRAIGA社製品にRAIGA社使用商標を付して製造,販売するなどし,その後も,自己が代表取締役を務めるディスプレイオフィス社及びRAIGA社の業務として,現在に至るまで,同様の形態で本件商標を使用していたと認めることができる。 (3) 原告の主張について ア 原告は,被告が,本件商標の使用意思を有していなかった根拠として,本件商標の出願動機が,原告に引用商標の使用中止を求めるためのものであること,本件商標の出願後に,原告に関連する「DRIFTER」及び「OZMA」等の商標を出願ないし登録した上で原告に譲渡を打診したこと,RAIGA社の履歴事項全部証明書の記載が,本件商標の使用意思の根拠とならないこと等を挙げる。 しかしながら,被告が, 「釣り具」について本件商標を使用していたことは,上記(2)のとおりであるから,使用の意思があることは明らかである。被告が,別件商標の指定商品が「釣り具」でなかったことから,原告により行われていた引用商標の使用を中止することを目的として,別件商標とは異なる指定商品について,本件商標を出願したとしても,商標法は,原則として,先願主義を採用し(8条),また,登録された商標権として,化体された信用を守るために差止め等の排他権を認めているから(36条),被告が,従前からRAIGA社製品において使用してきたことによって築き上げた,本件商標に関する信用を守るために,本件商標を出願したことは,上記使用の意思と矛盾するものではない。また,被告が,本件商標と同時期に, 「DRIFTER」及び「OZMA」等の原告が取り扱う商品名と関連する商標の登録を出願したとしても(甲3,4),商標の使用意思は商標ごとに判断すべきであるから,上記事情は,本件商標の使用の意思とは無関係な事実であり,上記認定を左右するものではない。 イ 原告は,RAIGA社が「釣り具」の「輸入及び販売」をしたとしても,それは,釣り具の小売り等の業務において行われる「顧客に対する便益の提供」に係る使用であるから, 「釣り具」を指定商品とする本件商標の使用の意図ではないと主張する。 しかしながら,商品の生産や譲渡をする者が,商品又は商品の包装に標章を付せば, 「商品」に関する「商標の使用」に該当するから(商標法2条1項1号,3項2号) RAIGA社が, , シリコンやウレタン樹脂等の各材料を個々に販売するのではなく,ルアー作製に適した材料を組み合せた作製用のキットとして,一つの商品として生産して販売し,その際,本件商標を使用している以上,RAIGA社の行為が,「釣り具」に関する商品についての商標の使用であることは明らかである。 原告の主張が, 「商品」としての「商標の使用」が,商品を販売するだけでは足りないという趣旨であれば,商標法2条1項1号の規定に明らかに反するし,本件では,RAIGA社がルアー作製キットを生産していることを看過した主張といわざるを得ない。原告の主張は,いずれにせよ,採用できない。 ウ なお,原告は,信義則違反として,被告は,本件商標の出願前に,原告が「雷牙」及び「RAIGA」という商標をルアーについて使用していることを知りながら,あえて出願したものであって,商標法4条1項7号に違反し,このような出願は,同号該当性についての判断を待つまでもなく,使用意思を欠くとも主張する。 しかしながら,原告の主張が,商標法4条1項7号違反になる剽窃的な出願は,商標法3条1項柱書の使用意思を欠くという趣旨であれば,商標法3条1項柱書における使用意思の認定は,出願の剽窃性の有無とは独立した判断事項というべきであり,原告の主張は前提において誤りがある。また,原告の主張が,本件の具体的な事実関係の下では,商標法3条1項柱書の使用意思が認められないという趣旨であるとしても,使用意思があることは,既に上記(2)で述べたとおりである。したがって,いずれにせよ,原告の主張は採用の限りではない。 (4) 小括 よって,本件商標は,商標法3条1項柱書の要件を満たすものといえるから,取消事由1は理由がない。 2 取消事由2について (1) 認定事実 本件各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア 原告商品の販売状況 原告商品は,平成18年11月17日に発売開始され,平成19年2月28日までの間に6597個,同年3月1日から平成20年2月29日までの間に4626個,同年3月1日から平成21年2月28日までの間に1万2229個,同年3月1日から平成22年2月28日までの間に6542個,同年3月1日から平成23年2月28日までの間に3833個,同年3月1日から平成24年2月29日までの間に1229個,同年3月1日から平成25年2月28日までの間に2191個,同年3月1日から平成26年2月28日までの間に805個が販売された。合計3万8052個のうち,7630個が海外で販売されたため,国内では,約3万個が販売された。 なお,平成14年の釣り人口は,経済産業省によるレジャー白書によれば,約1670万人と推計され,財団法人日本釣振興会によれば,そのうち,ルアーフィッシングの構成比は28.9%であり,482万6300人であると推認される(甲23,55,57)。 イ 原告商品に関する雑誌等での紹介 原告商品は,「SALT WORLD」(平成19年2月1日発行)という雑誌の記事「ハイプレッシャー下のボートシーバス」において, 「メインで使用したのはシービーワンのガル・ライトシリーズの『雷牙』,このルアーはテンションを軽く掛けて落とすと細かなフラッシングフォールをするので,活性の低い魚にとにかくよく効く。もちろん,リトリーブやシャクリを入れてもスイミングバランスが良く,とにかくヒット率が高く,私が最も信頼しているルアーのひとつだ。 と紹介され, 」 「CB-ONE 雷牙80g」の表示と共にその写真が掲載された(甲18) なお, 。 「SALT WORLD」の発行部数は8万部であり(甲49),30万部発行されているルアーフィッシング専門誌「Rood & Reel」 25万部発行されている ,バスフィッシング専門誌「Basser」,アユ・渓流釣り情報誌「つり人」,25万部発行されている沖釣り専門誌「つり丸」 18万7000部発行されている中部 ,日本の釣り情報誌「東海釣りガイド」15万部発行されている九州の釣り情報誌 , 「釣春秋」 11万部発行されているシーバスフィッシングの釣り情報誌 , 「Sea BASS Magazine」よりも,発行部数は少ない(甲48の1ないし48の7)。 これらの雑誌以外にも,多数の釣り情報誌がある(甲47)。 ウ 原告商品に対する関係者の意見書 プロ釣り師,雑誌編集者,釣り具メーカー,遊漁船船長等の原告と関係がある釣りの専門家の一部の者が提出した意見書によれば,原告商品に対する評価は,比較的高く,海釣りのルアー愛好家の間で引用商標はよく知られているとされる(甲19〔各枝番含む。) 〕。 (2) 検討 釣り愛好家の中では,特定の嗜好を持ち,特定の釣りの形態のみを行う者が一定の割合存在すると考えられる一方,多様な釣りを行う者も多数存在するし,好みの釣りの形態が常に固定されるわけではなく,例えば,エサ釣りをする者が全くルアーフィッシングをしないというわけではない。しかも,ルアーフィッシングにおいて,特定のルアーを一つだけ用いることは,通常想定し難く,対象魚はもちろんのこと,場所(川と海(防波堤,砂浜,磯,船),地形や水深,透明度,障害物の有 )無,水温,季節,時間帯(昼夜や潮の満ち引き等),天候等に応じて,プラグ,スピナー,ジグ,ワームといった多種多様なルアーを使い分けることが多いと考えられる。そして,ルアーが販売されるのは,主に,釣り具店や通信販売であるが,一つの店舗で特定の種類のルアーしか販売されないことをうかがわせる証拠はないから,これらの店舗では,各種ルアーが一緒に展示されて販売されることが多く,その購買対象者は釣り愛好家全体といわざるを得ない。そうすると,ルアーフィッシングの一部の者が,特に海釣りでメタルジグを利用することがあるとしても,これらの者だけを原告商品であるルアーの需要者と捉えることは相当でないし,これらの者はルアーを複数個所有しているのが実際と考えられるから,前記認定の原告の販売個数とルアーフィッシングの人口比を考えると,原告商品が,本件商標の登録出願時及び登録査定時のいずれの時点においても,周知性を獲得したとは認められない。 また,前記認定のとおり,原告商品の雑誌への掲載回数や頻度が多いとは認められないし,その紹介の仕方も,信頼できるルアーの一つにすぎず,それ以外は信頼できないというものではないから,その影響も限定的なものと思われる。さらに,原告の提出した前記意見書は,原告と一定の関係を有する専門家の作成によるものであるから,引用商標がよく知られているとする意見は,直ちに信用することはできず,しかも,原告商品の需要者は,原告との取引関係者に限らず,少なくとも,アマチュアのルアーフィッシング愛好家は含まれるから,原告の関係者やプロのルアーフィッシング愛好家の間で原告商品の評判が良く,引用商標がある程度知られているからといって,その周知性を肯定することはできない。このような判断は,関係者の中に,海釣りに関する著名な専門家が含まれ,一般ユーザーに対してある程度影響力を及ぼしていると推測されることを踏まえても,左右されない。したがって,上記雑誌への掲載等を考慮しても,原告商品が,本件商標の登録出願時及び登録査定時のいずれの時点においても,周知性を獲得したとは認められない。 (3) 原告の主張について ア 原告は,原告商品の需要者は,海釣りに使用されるメタルジグであり,その中でもライトジギングに使用されるものであるから,周知性の判断対象となる需要者はかなり限定されることを前提に,普及率は約15.8%あり,十分な周知性が認められる旨主張する。 しかしながら,原告の主張は,釣りの愛好家は,釣りの場所やルアーの使用の有無や使用するルアーの種類について,特定の趣向しかないことを前提としたものであるが,そのような前提を採用することはできない。また,ルアーは,場所や水温,季節,時間帯等に応じて,適宜使い分けるのが通常であることは上述のとおりであって,メタルジグを購入する者は他のルアーを使用しないとの前提もまた採用することができない。 イ また,原告は,十分な広告費をかけて,販売店回りや実演を通じて,宣伝広告を行っているから,周知性を獲得しているとも主張する。 しかしながら,原告の行っている販売店回り等の活動は,通常の営業活動と認められ,引用商標を付した原告商品が特に周知性を獲得できたとは認められないし,原告が主張するような,1年間で538万7066円の広告費が,多数存在する釣り愛好家に原告商品が周知される上で,十分な金額であるとは認められない。 (4) 小括 よって,本件商標は,商標法4条1項10号の周知性の要件を満たさないから,その余の点を検討するまでもなく,取消事由2は理由がない。 3 取消事由3について 原告は,本件無効審判手続において,本件商標の使用に関する事実の職権調査の範囲が示されなかったこと,審決が,RAIGA社製品の流通の実態を検討することなく,ルアーとの関連性を認定し,使用意思を認定したことをもって,審決には審理不尽の手続違法があると主張する。 しかしながら,原告は,本件無効審判手続において,被告に本件商標の使用意思がない根拠として,本件商標を含めた別紙被告商標出願一覧表記載の商標に関する出願経緯や,別件商標が登録された時期にRAIGA社が販売していたRAIGA社製品が「釣り具」に該当しないことを主張し(甲22),それに関連した証拠(甲1〜17〔枝番のあるものは枝番を含む。)を多数提出していたと認められる。ま 〕た,被告が,本件無効審判手続において,RAIGA社製品の構成や販売方法等の販売状況に関する多数の証拠(甲23〜57〔枝番のあるものは枝番を含む。)を 〕提出したのに対し,原告に反論や反証の機会が制限されていたとは認められない。 本件訴訟で提出され,本件無効審判手続でも提出された全証拠を見れば,本件無効審判において,当事者双方が,被告の本件商標の使用意思の有無を判断するのに十分な主張,立証活動を行ったことがうかがい知れるのであって,原告に対する手続保障に欠けるところはない。 したがって,原告の主張は採用することができない。 |
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結語
以上のとおり,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は理由がない。 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
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被告商標出願一覧表(別紙)番号出願商標指定商品(区分)出願日審査結果登録日登録番号原告商品との関係被告の要求1-1非鉄金属、原料プラスチック平成16年2月9日登録平成16年10月15日4810612無(第1類)塗料、染料、顔料(第2類)1-2上記防護標章釣り具(第28類)平成26年4月7日拒絶査定有2釣り具(第28類)平成26年4月3日登録平成26年8月22日5695905有原告が「雷牙」と使用差止「RAIGA」を使用損害賠償3DRIFTER釣り具(第28類)平成26年4月17日登録平成26年9月5日5699368有原告が「Drifter」買い取り要請(標準文字)を使用4OZMA釣り具(第28類)平成26年4月17日登録平成26年9月5日5699369有原告が「Ozma」を使用買い取り要請(標準文字)5シービーワン釣り具(第28類)平成26年4月17日拒絶査定有原告の社名の略称(標準文字)6RODEO釣り具(第28類)平成26年4月17日拒絶査定有原告が「RODEO」(標準文字)を使用7ZORO釣り具(第28類)平成26年4月17日拒絶査定有原告が「Zorro」(標準文字)を使用8ルアーキャストウレタン樹脂、原料プラス平成26年10月17日登録平成27年3月6日5746062無(標準文字)チック(第1類)9雷牙釣り具(第28類)平成27年3月20日有原告が「雷牙」と(標準文字)10来画釣り具(第28類)平成27年3月20日有原告が「RAIGA」(標準文字)を使用 |
裁判長裁判官 | 清水節 |
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裁判官 | 片岡早苗 |
裁判官 | 新谷貴昭 |