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関連審決 不服2015-7941
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事件 平成 27年 (行ケ) 10232号 審決取消請求事件

原告 有限会社いばらき食文化研究会
訴訟代理人弁理士中川邦雄
被告特許庁長官
指定代理人松浦裕紀子
同 土井敬子
同 金子尚人
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/04/14
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2015-7941号事件について平成27年9月24日にし た審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。) (1) 原告は,平成25年10月22日,下記のとおりの構成からなる商標 (以下「本願商標」という。)について,指定商品を「第32類 メロンを 用いたクリームソーダ」(以下「本願指定商品」という。)とする商標登録 1 出願(商願2013-82289号。以下「本願」という。)をした。
(本願商標) (2) 原告は,本願について,平成27年2月5日付けの拒絶査定を受けたの で,同年4月28日,拒絶査定不服審判を請求した。
特許庁は,上記請求を不服2015-7941号事件として審理を行い, 同年9月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下 「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年10月6日,原告に送達さ れた。
(3) 原告は,平成27年11月5日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を 提起した。
2 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,@ 本願商標の構成は全体として格別特殊な態様とはいえず,未だ普通に用いられ る方法の域を脱しない方法で表示する標章のみからなるものであり,A本願商 標に接する取引者,需要者は,本願商標全体から「メロンをまるごと使用した クリームソーダ」ほどの意味合いを容易に看取するというのが相当であり,こ れを本願指定商品に使用しても,商品の品質,原材料を表示したものと理解す るにとどまるから,本願商標は,商品の品質を普通に用いられる方法で表示す る標章のみからなるものであって,自他商品の識別標識としての機能を果たし 得ず,したがって,商標法3条1項3号に該当し,商標登録をすることができ ないというものである。
当事者の主張
2 1 原告の主張 本願商標は,次のとおり,称呼,外観及び観念のいずれにおいても,自他商 品識別力を有するから,これを否定した本件審決の判断は誤りである。
(1) 本願商標が外観等において特異であること 本願商標の称呼は,「メロンマルゴトクリームソーダ」の14音数からな る。
そして,本願商標の外観は,前部に片仮名文字で「メロン」,中央部に平 仮名文字で「まるごと」,後部に片仮名文字で「クリームソーダ」と配置さ れており,しかも,これらの文字はデザイン化され,文字間のスペースは極 めて少なく文字間が狭く密集していてゆとりのない文字の配置であるから, 本願商標の外観は,全体として特異な構成であり,「普通に用いられる方 法」で使用されたものではない。
(2) 本願商標から特定の観念は生じないこと 本件審決は,飲食料品業界において「○○まるごと」又は「まるごと○ ○」の語が,商品の原材料に○○をまるごと使用したことを表す際に普通に 用いられていると認定した上,本願商標に接する取引者,需要者は,本願商 標全体から,「メロンをまるごと使用したクリームソーダ」程の意味合いを 容易に看取することができると判断した。
しかしながら,本願商標は,副詞である「まるごと」の前後に名詞である 「メロン」と「クリームソーダ」が配置され,それぞれの文字間にスペース はなく,等間隔で密集しており,他の文字もないため,副詞である「まるご と」が前後どちらの名詞を修飾しているのか特定できない。
そして,仮に,「まるごと」が「メロン」を修飾しているとしても,切り 分けていない,その形のままのメロンがクリームソーダの容器になることは あり得ないし,他の素材の容器を用いた場合でも,切り分けていない丸ごと のメロンをクリームソーダに使用できないことは明らかであり,また,小粒 3 ではないメロンは,「まるごと」ではクリームソーダと共存し得ない。さら に,「メロンをまるごと使用したクリームソーダ」と,本願商標の構成にな い「まるごと使用した」ことを敢えて入れて観念を特定することは妥当では なく,無理があるし,「メロン1個まるごとクリームソーダ」では意味不明 である。
この点,本件審決が果実名と「まるごと」の語を組み合わせて用いられて いるとして挙げる例は,いずれも,本願商標とは,語順等の構成や,用いら れている果実の大きさ,食する部分,それに伴う提供形態等の指定商品の形 態が異なるから,これらと同列に判断することはできない。
そうすると,本願商標に接する取引者,需要者は,本願商標がどのような 商品を表すのかを想定することができないから,本願商標における「メロン まるごとクリームソーダ」が意味のない言葉すなわち造語であることは明ら かである。したがって,本願商標は,商品の品質や原材料を表示するもので はなく,自他商品の識別標識として十分に機能を果たし得るものである。
(3) 他の商標登録例と対比しても,本願商標が自他商品識別力を有すること 本願商標を構成する「まるごと」のみからなる登録商標や,本願商標と構 成態様が極めて似ている「そのまま大豆」,「そのまんまうこん」,「まる ごと長命草青汁」などの多数の登録商標が,自他商品識別力があると認定さ れ登録されていることに照らせば,本願商標に自他商品識別力がないとの本 件審決の判断は,「審査の統一性」の観点を逸脱した不当な判断である。
むしろ,「まるごと」のみでも自他商品識別力があるとして商標登録され ていることからすれば,本願商標は,「まるごと」の前に「メロン」,後ろ に「クリームソーダ」がそれぞれ付記され,自他商品識別力の程度が増幅さ れているというべきである。
(4) 本願商標につき,品質の表示としての使用の事実が存在しないこと 「普通に用いられる方法」とは,特定の商品の材料,品質等の表示方法と 4 して取引界において普通に使用されると認められるような方法を指すから, 本願商標が当たり前のごとくクリームソーダの原材料の表示,品質の表示と して通常頻繁に使用されていることを意味する。
しかるに,クリームソーダを取り扱う業界において,取引者,需要者がク リームソーダのことを「メロンまるごとクリームソーダ」と称している事実 は発見することはできず,また,「メロンまるごとクリームソーダ」の文字 がクリームソーダの品質を表示するものとして取引上一般に使用されている 事実も発見することはできない。さらに,本願指定商品の取引者,需要者が, 「メロンまるごとクリームソーダ」の文字を商品の品質,材料を表示したも のと認識するというべき実情も発見することはできない。
したがって,本願商標は,本願指定商品に使用しても,商品の品質を表示 するものとはいえず,自他商品の識別標識としての機能を果たし得るもので ある。
(5) 本件審決による観察手法に誤りがあること 本願商標が自他商品識別力を有するか否かは,本願商標の全体を観察して 判断すべきところ,本件審決は,本願商標を「メロン」と「まるごと」と 「クリームソーダ」に分離して観察し,それぞれの語の意味を踏まえて,本 願商標が自他商品識別力を有しないと判断した点で,観察の手法を誤ってい る。
2 被告の主張 本願商標は,本願指定商品との関係において,商品の品質を普通に用いられ る方法で表示する標章のみからなる商標であり,自他商品識別力を有さず,商 標法3条1項3号に該当するものであり,これと同旨の本件審決の判断に誤り はない。
(1) 本願商標の構成は特異なものではないこと 本願商標は,太文字で,各文字間の間隙がわずかな態様で表されているも 5 のの,片仮名の「メロン」の文字と「クリームソーダ」の文字との間に,平 仮名の「まるごと」の文字が配置されていることから,これに接する者をし て,容易に「メロン」,「まるごと」及び「クリームソーダ」の各語を組み 合わせて横書きしてなるものと看取され,全体として,視覚上,強く印象づ けられるなどといった特徴を有しない態様で表してなるものである。
これに対し,原告は,本願商標の外観は全体として特異な構成であり, 「普通に用いられる方法」で使用されていないと主張する。
しかしながら,本願商標は,既成の3語を組み合わせたものにすぎず,ま た,商標や宣伝広告に用いる各種文字について,視覚的効果のために装飾的 なデザインを施すのが一般的であるから,本願商標の構成態様は,視覚上, 看者に強い印象を与えるものではない。
(2) 本願商標から生じる観念について 本願商標を構成する語のうち「クリームソーダ」の語は,「ソーダ水にア イスクリームを浮かせた飲み物」を意味する「アイスクリームソーダ」の略 語として,一般に広く知られており,「メロン」の語は,一般になじみのあ る果実「メロン」を表すものである。
しかるところ,本願指定商品を含む飲食物を取り扱う分野においては,飲 食物の原材料として,果実の果肉や果汁等を全て用いることや,果実そのも のの形状を生かして容器として用いることが一般に広く行われており,その ような飲食物であることを表す際に,果実名と「その形のまま。全部そっく り。」の意味を有する「まるごと」の語とを組み合わせて用いることが少な からず行われている。
このような取引の実情を踏まえれば,本願商標は,これに接する取引者, 需要者に,その構成全体から容易に,メロンの果肉や果汁を全て用いたクリ ームソーダや,メロンそのものの形状を生かして容器として用いたクリーム ソーダといった,「メロンをまるごと使用したクリームソーダ」ほどの意味 6 合いを想起させるものである。
そうすると,本願商標を本願指定商品について使用した場合,これに接す る取引者,需要者は,メロンの果肉や果汁を全て用いた又はメロンそのもの の形状を生かして容器として用いたといった,「メロンをまるごと使用した クリームソーダ」であること,すなわち,商品の品質を表示するものとして 認識するにとどまるというべきである。
これに対し,原告は,本願商標は意味のない造語であり,特定の観念が生 じるものではなく,全体として特定の意味合いを認識,理解させるものでも ないし,本件審決が掲げる使用例は,本願商標と同一又は類似する商標では なく,本願商標とは全く異なるものであるから,これらがウェブサイトにあ るからといって,本願商標に識別力がないと認定すべきではないと主張する。
しかしながら,本願商標を構成する各語が有する意味に加え,飲食物に係 る取引の実情をも踏まえれば,本願商標の構成中の「まるごと」の文字部分 は,本願指定商品との関係では,その直前に位置する「メロン」の文字部分 を修飾するものであり,「メロン」と「まるごと」を組み合わせた「メロン まるごと」の文字部分から,メロンの果肉や果汁を全て用いた又はメロンそ のものの形状を生かして容器として用いたといった,自然な意味合いが生じ るものといえる。これに対し,原材料となるメロンが切り分けられていない との意味合いを前提に,本願商標から特定の意味は生じないということはで きない。
(3) 他の商標登録例が,本願商標の自他商品識別力の存否に影響しないこと 原告は,本願商標は,商標登録例のある「まるごと」の前に「メロン」が, 後に「クリームソーダ」がそれぞれ付記され,識別力の程度が増幅している, また,本願商標と構成態様が酷似する商標が多数登録されていることからも, 本願商標は,当然に登録されるべきであると主張する。
しかしながら,登録出願に係る商標が商標法3条1項3号に該当するもの 7 であるか否かは,該登録出願の査定時又は審決時において,その商標が使用 される商品の取引の実情等に基づいて,個別具体的に判断されるべきもので ある。そして,原告の挙げる登録商標例は,いずれも本願商標と構成態様が 異なるものであるから,本願商標の同号該当性の判断に影響するものではな い。
(4) 品質の表示としての現実の使用は要求されないこと 原告は,クリームソーダを取り扱う業界において,取引者,需要者が, 「クリームソーダ」のことを「メロンまるごとクリームソーダ」と称してい る事実及び「メロンまるごとクリームソーダ」の文字が「クリームソーダ」 の品質を表示するものとして,取引上一般に使用されている事実は発見する ことができず,また,本願指定商品の取引者,需要者が,該文字を商品の材 料,品質を表示したものと認識するというべき実情も発見できない旨主張す る。
しかしながら,商標法3条1項3号は,取引者,需要者に指定商品の品質 等を示すものとして認識され得る表示態様の商標につき,それゆえに登録を 受けることができないとしたものであって,該表示態様が,商品の品質等を 表すものとして必ず使用されるものであるとか,現実に使用されている等の 事実は,同号の適用において必ずしも要求されるものではない。
(5) 本件審決による観察手法に誤りはないこと 原告は,本願商標が識別力を有するか否かの判断において,全体観察では なく分離観察によって識別力がないと判断することは誤りである旨主張する。
しかしながら,本件審決は,本願商標が「メロン」,「まるごと」及び 「クリームソーダ」の各語の組合せからなるものであって,各語の意味及び 使用状況等に照らせば,本願指定商品との関係においては,その構成全体を もって商品の品質を表示したものと理解されるにとどまり,自他商品の識別 標識としての機能を果たし得ないと認定,判断したのであるから,本件審決 8 に原告主張の誤りはない。
当裁判所の判断
1 本願商標の商標法3条1項3号該当性について (1) 商標法3条1項3号が,「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効 能,用途,形状(…),生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴, 数量若しくは価格」を「普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる 商標」について,商標登録の要件を欠くと規定しているのは,このような商 標は,指定商品との関係で,その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能, 用途,形状その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切 な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独 占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,一般的に使用される標章で あって,多くの場合自他商品識別力を欠くものであることによるものと解さ れる。
そうすると,本願商標が,本願指定商品について商品の品質を普通に用い られる方法で表示する標章のみからなる商標であるというためには,本件審 決がされた平成27年9月24日の時点において,本願商標が本願指定商品 との関係で商品の品質を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示 であり,本願商標が本願指定商品に使用された場合に,将来を含め,取引者, 需要者によって商品の品質を表示したものと一般に認識されるものである必 要があるものと解される。
(2) 本願商標は,「メロンまるごとクリームソーダ」の文字を肉太でやや縦 長のポップ調の書体で表してなるものであり,「メロンマルゴトクリームソ ーダ」の称呼が生じる。
本願商標を構成する「メロン」の語が,ウリ科の植物,一般的には特にそ の果実を意味することは明らかであり,また,広辞苑第六版(平成20年1 月11日発行。乙1ないし3)によれば,本願商標を構成する「まるごと」 9 の語は,「(果物・魚などを)切り分けたりせず,その形のまま。全部そっ くり。まるぐち。」を意味し,「クリームソーダ」の語は,「アイスクリー ムソーダ」,すなわち「ソーダ水にアイスクリームを浮かせた飲み物。」の 略語を意味することが認められる。
(3) 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,「まるごと」の語の用法の実情 に関し,本件審決日以前にウェブサイト等に掲載された情報として,次のも のがあることが認められる。
ア 「YAHOO!BEAUTY JAPAN」のウェブサイト(平成27 年9月4日当時のもの)に,「まるごとりんごジュース DHC」の見出 しの下に,「100%ピュアで,りんごのフレッシュな香りがはじけるス トレート果汁のジュース。王林と紅玉,2種類の国産りんごを皮からまる ごと搾り,程よい甘みのあるバランスのよい味に仕上げました。1缶で, 国産りんご約1個分。」との記載があった(乙4)。
イ 「スイーツ,果物専門店 La Vitrine」のウェブサイト(平 成27年9月4日当時のもの)に,「青森県産 無添加 りんごジュース WONDER APPLE プレミアムブレンド」の見出しの下,「その りんごを,一番美味しい時期に収穫して,ギュッと丁寧にしぼったのが, WONDER APPLEシリーズの完熟りんごまるごとジュースです。
りんごの繊維まで,まさに‘まるごと’含まれる無濾過製法なので,青森 りんごそのものの味を存分にお楽しみいただけます。」との記載があった (乙5)。
ウ 「渥美半島だより」のウェブサイト内のブログ(平成26年7月14日 作成のもの)に,「メロンを食べるならこのお店へ!メロンスイーツロー ド!」の見出しの下,「喫茶ピア」の「まるごと生メロンシェイク」との 名称の商品について,「濃厚なメロンをつめたーいシェイクで味わえます。
数量限定で丸ごと生メロンを使ったシェイクも!」の記載とともに,メロ 10 ンの上部を切り取って蓋のように本体に立てかけ,本体にストローを2本 差し込んだ商品の写真が掲載され,また,「たべりん王国」の「生メロン ジュース」との名称の商品について,「生メロンをたっぷり使いまるごと メロンの味が楽しめます!」との記載があった(乙6)。
エ 「丸源飲料工業株式会社」のウェブサイト(平成27年4月23日当時 のもの)に,商品「ハーダース マイクロピューレ 〜和の果実〜 ゆ ず」について,「“超微細化処理”により,通常の裏ごしでは加工が難し いゆずの果実まるごとをなめらかなピューレ状に仕上げました。」との記 載があった(乙9)。
オ 「レーブ ドゥ シェフ」のウェブサイト(平成27年9月4日当時の もの)に,「まるごとメロンアイス」の見出しの下,「静岡県産のマスク メロンをまるごと2個使用した,贅沢な一品です。」,「『フルーツをま るごと使って今までにないデザートを作りたい。』そんな発想から生まれ たのがこの『まるごとメロンアイス』。」,「メロンの果汁と果肉とたっ ぷり閉じ込めたメロンアイスと濃厚バニラのリッチな味わいをお楽しみく ださい。」,「メロンの果汁&果肉たっぷり使用しました!」との記載が あり,内側の果肉部分をくり抜いたメロンの外皮部分を器に用い,その内 部にメロンの果肉と果汁を加えたアイスクリームを充填したアイスクリー ム商品の写真が掲載されていた(乙10)。
カ 「株式会社 清光堂」のウェブサイト(平成27年9月4日当時のも の)に,「一福百果 まるごとみかん大福」の見出しの下,「新鮮な愛媛 みかんをまるごと大福にしました!」との記載があり,外皮を取り除いた ミカンをそのまま白あんと大福生地で包んだ菓子の写真が掲載されていた (乙12)。
キ 「Maple House」のウェブサイト(平成27年9月4日当時 のもの)に,「まるごといちじくロール」の見出しの下,「旬の美味しい 11 いちじくだけをまるごと3つ包み込んだ贅沢なロールケーキ。」との記載 があり,いちじくの果実をそのままスポンジケーキ生地で包んだ菓子の写 真が掲載されていた(乙13)。
ク 「千曲製菓有限会社」のウェブサイト(平成27年9月4日当時のも の)に,「まるごとリンゴパイ」の見出しの下,「その名前の通り,『ふ じ』林檎をまるごと1ケ蜜漬けしたものの中心にカステラを入れ,香り豊 かなパイ生地で真心こめて1個1個手包みで包み込み,じっくりと時間を かけて焼き上げたリンゴパイです。」との記載があった(乙14)。
ケ 「伊豆天城湯ヶ島温泉 落合楼村上」のウェブサイト(平成27年8月 12日当時のもの)に,「特殊な果汁絞り器により出来る限り酸化を抑え た 超贅沢にまるごと 1 個 フレッシュ『完熟マスクメロン』ジュース (天使音メロン 1個使用)」の記載とともに,皮を一部くりぬき,その 穴にストローを差し込んだメロンの写真が掲載されていた(乙16)。
コ 「ぐるなび目利きシリーズ」のウェブサイト(平成27年6月5日当時 のもの)に,「超贅沢!メロンをそのまま器にしたかき氷を大阪梅田で発 見!」の見出しの下,「アンデスメロンをまるごと使用し,さらにくり抜 いたメロンをそのまま器にした超贅沢なかき氷」,「黄金比蜜のかき氷 まるごとメロン!」,「アンデスメロンを1/2個使用しています。メロ ンを半分にカットして中をくり抜いて,そのまま器にした何とも贅沢な仕 上がり」,「メロンシロップに加えてメロン果肉の甘味も堪能できて,本 当にまるごとメロンという商品名に偽りなしといった感じです。」との記 載があり,これに沿う形態のかき氷商品の写真が掲載されていた(乙1 7)。
サ 「exciteニュース」のウェブサイト(平成27年7月30日当時 のもの)に,「メロンをまるごと使ったかき氷『スペシャル生メロン』」 の見出しの下,「2015年新作メニューはメロンを使った『スペシャル 12 生メロン』。メロンの果肉をしぼったシロップがかかっている。また,器 の代わりにメロンを半玉まるまる使用しており,中には果肉も入ってい る。」との記載があった(乙18)。
シ 「福島民報」のウェブサイト(平成24年6月28日当時のもの)にお いて,「まるごとメロン そよか(福島市)」の見出しの下,「5月にオ ープンしたばかりの菓子店。・・・夏のお薦めは『まるごとメロン』。メ ロンを器に見立てぜいたくに使い,中に重ねたクリームとスポンジが入っ ている。」との記載があった(乙19)。
ス 「女子SPA!(J・SPA!)」のウェブサイト(平成25年7月2 6日当時のもの)に,「驚き!本物のパイナップルが丸ごとアイスに」の 見出しの下,「京都レマンの『まるごと果実シャーベット』。ミニパイン をくり抜き,中にパインシャーベットを詰めた商品です。」,「ジャジャ ジャーン。まるごと果実シャーベット登場!パイナップルの皮からシャー ベットが盛り上がり,その上にパインの葉の部分(蓋)が貼り付いていま す。」との記載があった(乙20)。
セ 「JOGIN」のウェブサイト(平成25年10月当時のもの)に, 「世界最高峰のパティシエ&ショコラティエ-スイーツウィークス-」の 見出しの下,「『フルーツ・J』 静岡県産クラウンメロンを1個まるご と!器にしてフルーツやゼリーをふんだんに。最後はカットして食べられ るのも贅沢です。」との記載があり,内側の果肉部分をくり抜いたメロン の外皮を器に用い,その内部に各種果物やゼリーを充填した「静岡県産ク ラウンメロンポット」の写真が掲載されていた(乙21)。
ソ 「自由が丘スイーツフォレスト」のウェブサイト内の「自由が丘スイー ツフォレストニュース May.2015」に,「『丸ごとメロンの杏仁 豆腐』」の見出しの下,「メロンを丸ごと半分使用したまさにメロンづく しのプレミアムな杏仁豆腐」及び「器のメロンの果肉もご一緒にお召し上 13 がり下さい。」との記載があり,半玉にしたメロンの内側をくり抜き,杏 仁豆腐やメロン果肉入り寒天ゼリーを充填した商品の写真が掲載されてい た(乙22)。
タ 「茨城朝日」のウェブサイト(平成26年6月18日掲載のもの)に, 「イチ押し!今,オススメはコレ」の見出しの下,「季節の果物を丸ごと 味わえる『まるごとフルーツケーキ』」,「果実の皮を器として使い,そ の内側にスポンジケーキを敷いてカスタードと生クリームをのせ,山盛り の果肉を飾り付けていく。」,「『まるごとマンゴー』は8月中旬頃まで 販売。同時期に『まるごとモモ』,7月からは『まるごとスイカ』も登場 する。」との記載があった(乙25)。
(4) 前記(3)に認定した事実によれば,本件審決日当時,果実を利用した飲料 や菓子等の取引分野において,「まるごと」の語の前又は後に果実を表す語 を結合した場合,あるいは「まるごと」の語を果実を形容する語として用い た場合には,「まるごと」の語は,当該果実の果肉や果汁が残さず用いられ ていることや,当該果実がその形状のまま用いられていること(当該果実が 切り分けられたりすることなく用いられる場合のほか,その外皮部分が容器 等として用いられる場合を含む。)を表す語として,一般に理解されていた ことが認められる。
そして,本願指定商品である「メロンを用いたクリームソーダ」の取引者, 需要者には,かかる飲食物の提供者である飲食店や,その提供を受ける一般 消費者等が含まれると考えられるところ,前記?のような本願商標を構成す る「メロン」,「まるごと」及び「クリームソーダ」の各語の意義に加え, 「まるごと」の語が果実を表す語と結合した場合や当該果実を形容する語と して用いられた場合の,上記のとおりの一般的な理解の内容に照らすと,本 願商標を構成する「メロンまるごとクリームソーダ」の語は,本件審決日当 時,かかる取引者,需要者によって,「メロンの果肉や果汁が残さず用いら 14 れたアイスクリームソーダ」や「メロンの外皮を容器としてそのまま用いた アイスクリームソーダ」を意味するものとして,一般に認識されるものであ ったと認められる。
そうすると,本願商標は,本件審決日当時,本願指定商品である「メロン を用いたクリームソーダ」に使用されたときは,当該「メロンを用いたクリ ームソーダ」が「メロンの果肉や果汁が残さず用いられたアイスクリームソ ーダ」や「メロンの外皮を容器としてそのまま用いたアイスクリームソー ダ」であるという,本願指定商品の品質を表示するものとして,取引者,需 要者によって一般に認識されるものであり,かつ,取引に際し必要適切な表 示として何人もその使用を欲するものであったと認められるものであるから, 特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,自他商 品識別力を欠くものというべきである。
加えて,本願商標は,「メロンまるごとクリームソーダ」の文字を肉太で やや縦長のポップ調の書体で表してなるものであるが,この書体自体は既存 のものであるし,文字の太さや縦長の形状であることについても,それ自体 はありふれたものの域を出るものではないから,「メロンまるごとクリーム ソーダ」の文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるもので あって,特別に自他商品識別力を有するような特殊な構成を有しているとも 認められない。
したがって,本願商標は,商標法3条1項3号に該当するものと認められ る。
2 原告の主張について 原告は,本願商標が自他商品識別力を有すると主張し,その理由として,@ 本願商標が外観等において特異であること,A本願商標から特段の観念は生じ ないこと,B他の商標登録例と対比しても,本願商標が自他商品識別力を有す ること,C本願商標につき,品質の表示としての使用の事実が存在しないこと, 15 D本件審決による観察手法に誤りがあること,を指摘する。
しかしながら,これらの原告の主張は,次のとおり,いずれも採用することができない。
(1) @について 原告は,本願商標の称呼が「メロンマルゴトクリームソーダ」であること, 本願商標の外観が,平仮名文字の前後に片仮名文字が配されており,これら の文字はデザイン化され,文字間のスペースが極めて少ないことなどから, 本願商標が外観等において特異であると主張する。
しかしながら,本願商標は,「メロン」,「まるごと」及び「クリームソ ーダ」という,それぞれとしては極めてありふれた単語を,本願指定商品で ある「メロンを用いたクリームソーダ」を表す語としてはごく自然な順序で 組み合わせたものであるから,その称呼が特異であるとは到底いえない。
また,本願商標の書体が既存のものであること,文字の太さや縦長の形状そ れ自体はありふれたものの域を出るものではなく,本願商標の外観が,これ を本願指定商品に用いた場合に自他商品の識別標識としての機能を発揮する に足りる程度に特異であるということはできないことは,前記1?において 説示したとおりである。
(2) Aについて ア 原告は,本願商標において,「まるごと」がその前後の「メロン」ある いは「クリームソーダ」のいずれを修飾しているのか特定できないと主張 する。
しかしながら,「まるごと」の語は,一般的には動詞や形容詞等を修飾 する副詞として,例えば「〜(名詞)を『まるごと』…する(動詞)」と の語順で用いられ,一見形容詞的に用いられる場合であっても,文脈に照 らして修飾されるべき動詞や形容詞等を適宜補って理解されるものという べきであり,実際にも,例えば「完熟りんごまるごとジュース」(前記1 16 (3)イ)といった用法(「完熟りんごをまるごと使用したジュース」との 意味合いと解される。)がごく一般的に用いられていることが認められる。
これによれば,本願商標は「メロンをまるごと使用したクリームソー ダ」を表すものとしてごく自然に理解されるというべきである。
これに対し,本願商標を構成する語を「メロン」の語と「まるごとクリ ームソーダ」の語とに分けて理解しようとすることは不自然であるし, 「まるごとクリームソーダ」ではその意味合いが明らかではないことから しても,本願商標においてこのような理解をすることは,取引者,需要者 の通常の理解とは異なるものというべきである。
イ 原告は,「メロンまるごとクリームソーダ」の語について,切り分けな いままのメロンがクリームソーダの容器になることはあり得ないし,切り 分けていない丸ごとのメロンをクリームソーダに使用できないことは明ら かであり,小粒ではない「まるごと」のメロンはクリームソーダと共存し 得ず,「メロンをまるごと使用したクリームソーダ」と,本願商標の構成 にない「まるごと使用した」ことを敢えて入れて観念を特定することは妥 当ではないなどとして,本願商標に接する取引者,需要者は,本願商標が どのような商品を表すのかを想定することができないなどと主張する。
しかしながら,本願商標を構成する語が「メロンの果肉や果汁が残さず 用いられたアイスクリームソーダ」や「メロンの外皮を容器としてそのま ま用いたアイスクリームソーダ」を意味するものとして,一般に認識され るものであったと認められるのは,前記1(4)のとおりであり,本願商標 に接する取引者,需要者にとっては,本願商標がそのような商品を表すこ とを極めて容易に想定することができるというべきである。
この点,「まるごと」の語に,原告が指摘する「切り分けないままの」 との意味があることは,前記1(2)のとおりである。しかしながら,「ま るごと」の語の前又は後に果実を表す語を結合した語,あるいは「まるご 17 と」の語を果実を形容する語として用いた場合には,「まるごと」の語は, 必ずしも文字どおりの「切り分けない」ことを指すとは限らないことは, 同(3)及び(4)のとおりである。そして,「まるごと」の語が,「メロン」 の語及び「クリームソーダ」の語と結合された場合には,一般的に想定さ れるメロンの大きさに照らし,これが切り分けられないままにクリームソ ーダ内に含まれているような形態の飲食物を想定することは困難であるこ とからしても,「まるごと」の語はそのような意味合いで理解されるもの ではなく,むしろ「メロンの果肉や果汁が残さず用いられている」,ある いは「メロンの外皮が容器としてそのまま用いられている」との意味合い で理解されるというべきである。
なお,本願商標の意味を理解するに当たり,副詞としての「まるごと」 の語の用法に照らして,「まるごと使用した」と補った上,「メロンをま るごと使用したクリームソーダ」と理解することがごく自然であることは, 前記アのとおりである。
ウ 原告は,本件審決が果実名と「まるごと」の語を組み合わせて用いられ ているとして挙げる例は,いずれも,本願商標とは,語順等の構成や,用 いられている果実の大きさ,食する部分,それに伴う提供形態等が異なる から,これらと同列に本願商標の自他商品識別力を判断することはできな いと主張する。
しかしながら,原告が上記のとおり指摘する果実名と「まるごと」の語 の組合せの順序や,かかる組合せに用いられる果実名の種類,その提供形 態等の事情を踏まえても,前記1(3)において認定した「まるごと」の語 の用法の実情に照らして,「まるごと」の語の前又は後に果実を表す語を 結合した語,あるいは「まるごと」の語を果実を形容する語として用いた 場合に,「まるごと」の語が,当該果実の果肉や果汁が残さず用いられて いることや,当該果実がその形状のまま用いられていることを表す語とし 18 て一般に理解されていることは,否定されないというべきである。
(3) Bについて 原告は,「まるごと」,「そのまま大豆」,「そのまんまうこん」,「ま るごと長命草青汁」などの登録商標の存在に照らせば,本件審決の判断は 「審査の統一性」の観点を逸脱した不当な判断であり,むしろ本願商標は, 単独でも自他商品識別力がある「まるごと」の語の前に「メロン」,後ろに 「クリームソーダ」がそれぞれ付記され,自他商品識別力の程度が増幅され ていると主張する。
しかしながら,商標の商標登録の可否は,商標の構成,指定商品又は指定 役務,取引の実情等を踏まえて,当該商標毎に個別に判断されるものであり, 原告が指摘するような商標登録例があるからといって,そのことから直ちに それらの商標とは構成や指定商品の異なる本願商標が,取引者,需要者によ って,「メロンの果肉や果汁が残さず用いられたアイスクリームソーダ」や 「メロンの外皮を容器としてそのまま用いたアイスクリームソーダ」を意味 する語として,一般に認識されるものであったことを否定することはできな い。
(4) Cについて 原告は,クリームソーダを取り扱う業界において,取引者,需要者がクリ ームソーダのことを「メロンまるごとクリームソーダ」と称している事実や, 「メロンまるごとクリームソーダ」の文字がクリームソーダの品質を表示す るものとして取引上一般に使用されている事実は発見できず,さらに,本願 指定商品の取引者,需要者が,「メロンまるごとクリームソーダ」の文字を 商品の品質,材料を表示したものと認識するというべき実情もないから,本 願商標は自他商品の識別標識としての機能を果たし得ると主張する。
しかしながら,前記1(4)で説示したとおり,本願商標は,本件審決日当 時,本願指定商品に使用されたときは,「メロンの果肉や果汁が残さず用い 19 られたアイスクリームソーダ」や「メロンの外皮を容器としてそのまま用い たアイスクリームソーダ」であるという本願指定商品の品質を表示するもの として,取引者,需要者によって一般に認識されるものであり,かつ,取引 に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであったものと認 められるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないと ともに,自他商品識別力を欠くものというべきであるのであって,本願商標 が現にクリームソーダあるいはその品質を表示するものとして取引上一般に 使用されているかどうかや,本願指定商品の取引者,需要者が,現実に本願 商標を商品の品質等を表示したものと認識している実情があるかどうかは, 上記認定判断を直ちに左右するものではない。
(5) Dについて 原告は,本願商標が自他商品識別力を有するか否かの判断に当たっては, 本願商標の全体を観察すべきところ,本件審決は,本願商標について,「メ ロン」と「まるごと」と「クリームソーダ」に分離して観察し,自他商品識 別力を有しないと判断した点で,観察の手法を誤っていると主張する。
しかしながら,前記1(4)のとおり,本願商標は,これを構成する「メロ ン」,「まるごと」及び「クリームソーダ」の各語の意味やその一般的な用 法の実情等に照らして,本願指定商品との関係においては,その構成全体を もって商品の品質を表示したものと理解されるのであり,これと同様の観察 手法に基づく本件審決の判断に,誤りはない。
3 結論 以上のとおりであり,本願商標は,本件審決日の当時において,本願指定商 品との関係で商標法3条1項3号に該当する商標であったと認められるから, これと同旨の本件審決の判断に誤りはなく,原告の主張する取消事由は理由が ない。
したがって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文の 20 とおり判決する。
裁判長裁判官 鶴岡稔彦
裁判官 田中正哉
裁判官 神谷厚毅