関連審決 | 取消2013-300712 |
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事件 |
平成
27年
(行ケ)
10179号
審決取消請求事件
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原告 シンクソートインコーポレーテッド 訴訟代理人弁理士高梨範夫 同 勝又文彦 同 村上健次 同 安島清 同 加藤智子 被告三浦工業株式会社 訴訟代理人弁理士正林真之 同 片川健一 同 小菅一弘 同 林浩 同 東谷幸浩 同 岩池満 同 加藤竜太 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2016/04/26 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 1事 実 及 び 理 由第1 請求特許庁が取消2013−300712号事件について平成27年4月30日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要1 特許庁における手続の経緯等(1) 被告は,以下の商標(登録第2579058号。以下「本件商標」という。)の商標権者である(甲1,2)。 (本件商標)出願日 平成2年11月15日設定登録日 平成5年9月30日存続期間の更新登録日平成15年9月16日,平成25年7月30日指定商品の書換登録日平成16年12月22日指定商品 第9類「配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,電気アイロン,電気式ヘアーカーラー,電気ブザー,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,磁心,抵抗線,電極」なお,書換登録前(設定登録時)の指定商品は,第11類「電気通信機械器具,その他本類に属する商品」であった。 (2) 原告は,平成25年8月26日,特許庁に対し,本件商標の指定商品中「電子応用機械器具(「ガイガー計数器・高周波ミシン・サイクロトロン・2産業用X線機械器具・産業用ベータートロン・磁気探鉱機・磁気探知機・地震探鉱機械器具・水中聴音機械器具・超音波応用測深器・超音波応用探傷器・超音波応用探知機・電子応用扉自動開閉装置・電子顕微鏡」を除く。),電子管,半導体素子,電子回路(「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路」を除く。),電子計算機用プログラム」について,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないとして,商標法50条1項の規定により,これらの指定商品についての商標登録取消審判を請求し(以下,この請求を「本件審判請求」という。),同年9月10日,本件審判請求の登録がされた(甲5の1)。 特許庁は,上記請求を取消2013−300712号事件として審理した上,平成27年4月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(出訴期間として90日を付加。以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年5月12日,原告に送達された。 (3) 原告は,平成27年9月8日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであるが,その要旨は,次のとおりである。 (1) 使用商標は,「MFX−W」,「MFX−EVシリーズ」及び「MFX−EV」の文字からなるものであり(これらを総称して,以下「被告各使用商標」という。),それらの要部は「MFX」の文字部分にあるから,被告各使用商標は,本件商標と社会通念上同一の商標というのが相当である。 (2) 被告の業務に係る商品「ボイラの集中管理装置」(以下「本件集中管理装置」という。)は,ディスプレイ,キーボード,マウス,パーソナルコンピュータ本体などからなり,市販のパーソナルコンピュータにボイラなどの3集中管理を行うためのコンピュータソフトウェア(以下「本件ソフトウェア」という。)をインストールすることで,本件集中管理装置として成立するものである。 また,CD−ROMに格納された本件ソフトウェアのみの購入によっても,当該ソフトウェア購入者は,市販のパーソナルコンピュータを利用して,所有しているボイラの集中管理が実現できるものであり,当該ソフトウェアがバージョンアップされたときも同様である。 そうすると,需要者が被告から本件ソフトウェアを含む本件集中管理装置一式を購入した場合には,取扱説明書や取引書類等に表示された被告各使用商標は,本件集中管理装置に使用する商標であるといえるものであり,また,CD−ROMに格納された本件ソフトウェアのみを購入した場合には,CD−ROMに表示された「MFX−EV」は,本件ソフトウェアに使用する商標であるといえる。 そして,本件集中管理装置一式を購入する場合であっても,本件ソフトウェアや取扱説明書のデータが格納されたCD−ROMも引き渡されていることが推認できるから,取引書類やCD−ROMに表示された「MFX−EV」の文字は,本件ソフトウェアの商標を表示したものといえる。 また,商品「コンピュータソフトウェア」は,本件商標の指定商品中の「電子応用機械器具及びその部品」に含まれる商品であって,かつ,本件審判請求に係る指定商品中の「電子計算機用プログラム」に含まれる商品であり,使用商標の使用商品は「コンピュータソフトウェア」である。 (3) 商品に標章(商標)を付したものを譲渡又は引き渡しする行為は,本件審判請求の登録前3年以内(以下「要証期間内」という。)の平成25年3月22日に行われていることが推認できる。 (4) 以上を総合すれば,被告は,本件商標と社会通念上同一の商標を要証期間内に本件審判請求に係る指定商品中の「電子計算機用プログラム」に含ま4れる「コンピュータソフトウェア」について使用したものというのが相当であり,被告は,要証期間内に上記指定商品について,本件商標(社会通念上同一の商標を含む。)の使用をしていたことを証明したというべきであるから,本件商標の登録は,商標法50条の規定に基づき,請求に係る指定商品についての登録を取り消すべきではない。 第3 当事者の主張1 原告の主張本件ソフトウェアに表示された「MFX−EVシリーズ」の文字は,本件商標と同一性のある商標とはいえない。 そして,本件ソフトウェアは,商標法施行規則別表第9類「十三 電気通信機械器具」中の「遠隔測定制御機械器具」の範疇に属する本件集中管理装置の付属品にすぎず,同「十六 電子応用機械器具及びその部品」中の「電子計算機用プログラム」には当たらない。 すなわち,被告は,本件集中管理装置を導入していた顧客に対し,その更新のために,新たな集中管理装置及びその付属品である本件ソフトウェアを販売したにすぎず,これらの商品は,本件審判請求において商標登録の取消しが請求された指定商品には該当しない。 したがって,要証期間内において,本件商標を商標登録の取消しが請求された商品について使用したことが証明されたとはいえず,これと異なる本件審決の認定判断は誤りである。その理由は,以下のとおりである。 (1) 使用商標が本件商標と同一性ある商標ということはできないこと本件ソフトウェアが組み込まれたCD−ROMに表示された「MFX−EVシリーズ」の商標は,前後の文字を結合する役割を果たすハイフンを介して,同じ書体にて全体をまとまりよく一体不可分に表示されている。このため,「EVシリーズ」部分を直ちに記号と認識することはなく,「MFX−EVシリーズ」の全体をもって一つの商標と認識する需要者も少なからず存5在するから,同商標は,本件商標との同一性を欠く。 (2) 本件集中管理装置が「遠隔測定制御機械器具」に当たることア 本件集中管理装置は,ボイラやこれを操作するボイラオペレーションパネルが設置されるボイラ室とは離れた管理室に設置される。そして,本件集中管理装置とボイラオペレーションパネルを電気回線を通じて接続することによって,本件集中管理装置からボイラオペレーションパネルを介してボイラに指揮命令し,ボイラから離れた場所において,ボイラの稼働状態に関する各種のデータを測定したり,ボイラの運転状態を制御したりする。また,本件集中管理装置は,ボイラばかりでなく,ボイラに給水される前に水が通過する軟水装置や脱酸素装置についても,離れた場所から,これを測定・制御することができる。 イ 本件集中管理装置は,「モニタリング機能」により,本件集中管理装置に接続したボイラシステム(複数台のボイラ,軟水装置,脱酸素装置等から構成される。)から各種データを測定・入手し,ボイラシステムを構成するすべての機器を一括してモニタリングできるほか,軟水装置,脱酸素装置及び個々のボイラの一つ一つの機器を個別的にモニタリングすることもできる。そして,「報告書自動作成機能」により,ボイラのエネルギー管理に必要な蒸発量・燃料使用量・ブロー量・運転効率等を自動集計し,グラフ表示で示すほか,日報や月報として記録できる。また,個々のボイラの詳細データを収集してその特性・傾向を管理することもできる。そして,モニターに表示された画像・集計表・グラフ・日報や月報等は,本件集中管理装置のプリンタによって紙印刷することができる。 また,本件集中管理装置は,軟水装置,脱酸素装置及びボイラに異常が生ずれば「機器異常管理機能」により警告を発し,また,正常な状態に修正することができる。 さらに,本件集中管理装置は,「制御パラメータ設定機能」により,ボ6イラによって熱せられた蒸気工場の生産ラインに対して供給する際に,蒸気圧力を安定的に維持するために必要なボイラの数を特定し,実際に稼働するボイラの台数を制御することができる。また,蒸気の圧力を安定的に維持するために稼働するボイラの台数を割り出し,この目的のために,どのボイラを稼働させるかの優先順位を自動的に切り替え・制御することができる。 加えて,本件集中管理装置は,「スケジュール設定機能」により,稼働するボイラやその台数を一週間単位で切り替えることができるし,更に,工場の操業日・休業日に応じてボイラの運転・休止を指示することができる。 ウ 本件集中管理装置は,IPC機能を担う電子計算機本体,液晶ディスプレイ,キーボード,スピーカ,マウス,通信アダプタ,プリンタ,無停電電源装置,スライド式プリンタテーブルを備えたラック,及び,コンピュータソフトから構成される。そして,本件集中管理装置は,上記の「モニタリング機能」,「報告書自動作成機能」,「機器異常管理機能」,「制御パラメータ設定機能」及び「スケジュール設定機能」を適正に果たすために,これらの器具をひとまとめにアッセンブルし一体的にシステム化することによって生まれた一つの商品であり,被告は,これを構成する個々の部品を製造・販売しているのではなく,これらの機器を一体的にシステム化した別個の商品を製造・販売しているのである。 エ 以上によれば,本件集中管理装置は,工場に設置されるボイラ等について,これと離れた場所において,ボイラに関する各種のデータを測定し,これを記録し処理するものであり,また,ボイラ等を運転・制御する機能を有する商品であるから,「遠隔測定制御機械器具」に該当する。 (3) 本件ソフトウェアが「電子計算機用プログラム」に当たらないことア 本件集中管理装置は,IPC機能を担う電子計算機本体,液晶ディスプ7レイ,キーボード,スピーカ,マウス,通信アダプタ,プリンタ,無停電電源装置,スライド式プリンタテーブルを備えたラック,及び,本件集中管理装置専用のコンピュータソフトである本件ソフトウェアから構成され,複数の機械器具等が複合化し一体となって所定の機能を発揮するシステム商品として販売される。本件ソフトウェアは,これのみが機能し,独立して取引され,顧客が既に保有する他社製のコンピュータにおいて利用されるわけではない。被告は,常に,一体的にシステム化された本件集中管理装置を販売し,その際に,本件ソフトウェアが本件集中管理装置の構成部品としてIPC機能を担う電子計算機に既にインストールされているか,あるいは,本件ソフトウェアがCD−ROM等の記憶媒体に組み込まれて提供されるのである。 そうすると,同記憶媒体は本件集中管理装置と一体になって取引に供されるものであり,本件集中管理装置の付属品というべきである。 イ そして,被告は,顧客に本件集中管理装置を納品する際に,本件集中管理装置とボイラ・軟水装置・脱酸素装置の接続作業を行い,また,本件ソフトウェアのインストール作業を行ってから,本件集中管理装置がボイラシステムを適切に測定・制御することを確認することによって,本件集中管理装置の販売を完成させる。 したがって,同記憶媒体は,独立して商取引の対象となる「電子応用機械器具及びその部品,電子計算機用プログラム」ではなく,集中管理装置の付属品である。 (4) 被告は,新たな集中管理装置及びその付属品である本件ソフトウェアを販売したにすぎないことア 被告の顧客であるワタキューセイモア株式会社(以下「ワタキューセイモア」という。)作成の陳述書(甲21の1)には,同社が,「2013年3月22日に,Ver.6.5.1のMFX−EV(CD−ROM化さ8れたソフトウェア)を確かに購入しています。」と記載されている。 イ しかるに,これに係る見積書(甲11の1),注文書(甲11の2)及び上記陳述書の記載に照らせば,ワタキューセイモアは,2004年3月に導入済みの本件集中管理装置について,集中管理装置を構成する各種部品の陳腐化あるいは老朽化その他の理由により,2013年3月に,これに代えて,新たな集中管理装置一式及びその付属品である本件ソフトウェアを購入したにすぎない。現に,上記見積書には本件集中管理装置の基本的な構成部品が記載され,実際には集中管理装置一式が購入されたものであり,また,上記注文書には本件集中管理装置について被告が使用する商品名称「MFX−EV」が表示され,「MFX−EV 一式」と記載されているとおり,被告は,コンピュータやコンピュータソフトといった個別ばらばらの商品について見積書を作成し,注文書を受理したのではない。 ウ また,被告は,ワタキューセイモアとの取引以外の取引書類として,注文書(甲12)及び売上伝票(甲13)を提出したが,これらの書証から確認できるのは,本件集中管理装置一式が取引の対象とされたことである。 現に,注文書(甲12)には,集中管理装置を構成する機器が表示され,取引の対象商品が実質上集中管理装置であることが明らかであり,また,売上伝票(甲13)には「キキイッシキ.バージョンUP MFX−EV・・・」「OPソフトイッシキ.バージョンUP MFX−E・・・」と記載されており,これが本件集中管理装置及びその付属品であるCD−ROMに記憶された専用ソフトであることが明らかである。 エ さらに,被告が,本件訴訟において,本件ソフトウェアそのものを販売しているとの主張に沿う証拠として提出した見積書(乙3)も,これを受け取る顧客は本件集中管理装置を既に導入済みであることがうかがわれ,本件ソフトウェアのみが販売されたとしても,本件集中管理装置の付属品にすぎないから,これをもって,被告が本件ソフトウェアそのものを独立9した商品として販売しているとはいえない。 オ 以上のとおり,被告が提出した取引書類から認定されるのは,既に設置されていた集中管理装置の更新のために,集中管理装置及びその付属品を新たに販売したことであり,これらの商品は本件審判請求において商標登録の取消しが請求された商品には該当しない。 2 被告の主張以下に述べるとおり,被告各使用商標の「MFX−W」,「MFX−EVシリーズ」及び「MFX−EV」は,本件商標「MFX」と社会通念上の同一商標であり,また,被告各使用商標を使用した本件ソフトウェアは,本件集中管理装置の付属品ではなく,「電子計算機用プログラム」に含まれる商品である。 そして,被告は,要証期間内に,被告各使用商標を付した本件ソフトウェアの譲渡又は引渡しをする行為を行った。 よって,被告は,要証期間内に,本件商標と社会通念上同一の商標を,本件審判請求において取消しが請求された指定商品中の「電子計算機用プログラム」に含まれる「コンピュータソフトウェア」について使用したものであるから,本件審決に,原告主張の取消理由はない。 (1) 被告各使用商標が本件商標と社会通念上同一の商標であること「MFX−EVシリーズ」の商標における「−EVシリーズ」の部分は,「シリーズ」の言葉から,商品の種類,商品の製品群の表示であることは明らかである。また,被告は,「−EVシリーズ」に加え,単に「−EV」や,本件ソフトウェアの種類の相違から「−W」を付した表示,すなわち「MFX−EV」や「MFX−W」も使用しており,要証期間内に作成,発行している本件集中管理装置の取扱説明書には,複数の型番をまとめて「MFX−W,EV」と表記してもいる。 そうすると,「−W」,「−EV」,「−EVシリーズ」は,本件ソフトウェアの取引者・需要者にとって,本件コンピュータソフトウェアの型番を10表示する付記的表示であり,「MFX」がその商標の要部であると容易に認識できる。 なお,コンピュータソフトウェアの製造者,販売者にとって,当該商品の出所を示す「商標」の後に,−(ハイフン)を介して,数字,ローマ字等を記載して,当該コンピュータソフトウェアの種類(機能の相違や,対応するOSの相違など)を表示することは,普通に行われている事実もある。よって,コンピュータソフトウェアの需要者にとっても,被告各使用商標における「−EVシリーズ」,「−EV」,「−W」の表示は,同様に,本件ソフトウェアの種類を表示した付記的部分と容易に認識できる。 (2) 本件集中管理装置は「遠隔測定制御機械器具」に当たらないこと本件集中管理装置は,汎用性のあるコンピュータ,液晶ディスプレイ,キーボード,スピーカ,マウス,通信アダプタ,プリンタ,無停電電源装置,プリンタテーブル,本件ソフトウェア等の集合物からなり,本件ソフトウェアをインストールし,作動させることによって,ボイラの運転状態を確認,記録等管理する装置として機能する。 すなわち,本件集中管理装置は,あくまでも,「ボイラ」等の運転状態を確認する機能(モニタ表示機能),「ボイラ」等の運転情報を自動で収集し,日報・月報データとして保存できる機能(報告書自動作成機能),「ボイラ」等で異常が発生した場合,コンピュータ画面に異常を知らせる機能(メンテナンス表示機能)等を有するに止まるものであり,「ボイラ」等を制御する機能はない。 ここで,「ボイラ」の制御とは,給水量,燃焼速度,蒸気温度のような変動量を制御して,「ボイラ」の運転状態を一定に維持することをいい,ボイラの安全性を確保するため,「ボイラ」には,常用圧力を維持する機能を有する自動圧力制御装置,常用水位を維持する機能を有する自動水位制御装置などの制御装置を設けることが義務づけられている。 11しかしながら,本件集中管理装置(いわゆるボイラ等の運転監視装置)には,このような制御機能はなく,また,このような制御機能を有しなければならないというような法的義務も存在しない。 本件集中管理装置は,これらの制御装置とはその機能が異なり,よって,原告が主張する「遠隔測定制御機械器具」に該当しない。 (3) 本件ソフトウェアは本件集中管理装置の付属品ではなく「電子計算機用プログラム」に含まれること本件集中管理装置の中心部分は,汎用のコンピュータと本件ソフトウェアからなり,本件集中管理装置のボイラ等の運転監視装置としての機能を果たす本質は,本件ソフトウェアにある。 そして,被告は,本件ソフトウェアそのものを,独立した一つの商品として,価格設定して販売している。また,被告は,本件ソフトウェアのバージョンアップも適宜行っており,バージョンアップされた同ソフトウェアも,別途,それ自体,独立した商品として価格をつけ,販売している。本件ソフトウェアは,何らかの装置に付属してその部品として取り扱われる,定価のない物などではない。 そして,「電子計算機用プログラム」には,コンピュータ自体の動作を制御するオペレーティングシステムなどのシステムソフトウェアや,本件ソフトウェアのような,使用者が目的とする作業そのものを行うアプリケーションソフトウェアを含む全てのコンピュータソフトウェアが含まれるから,本件ソフトウェアは,「電子計算機用プログラム」に該当する。 (4) 被告は,被告各使用商標を要証期間内に使用したことア 要証期間内の平成25年3月22日に,被告各使用商標を付した本件ソフトウェアの譲渡又は引き渡しする行為が行われていることが推認できるとの本件審決の認定は正当である。 これに関する見積書(甲11の1)では,「1 更新部品一式」の下に12記載された,「・シーメンス製 産業用コンピューター一式(Windows7)」の品名に対応して,数量「1」の記載とともに定価が記載されている。また,「2 ソフトウェアバージョンアップ」の下に記載された「・バージョンアップ」,「※MFX―EV Windows7対応」,「※M−NETU対応」の品名に対応して,数量「1」の記載とともに定価が記載されている。 これらの記載からもわかるとおり,同見積書に現れているのは,被告の顧客が,本件集中管理装置を構成するシーメンス製産業用コンピュータと,バージョンアップされた本件ソフトウェア(MFX―EV Windows7対応)を一緒に注文した事例である。 被告は,上記産業用コンピュータ及び本件ソフトウェアを,それぞれ別個の商品として取り扱っており,それゆえ,当該見積書には,産業用コンピュータ及び本件ソフトウェアのそれぞれについて,品名を分けて記載して,各々,数量,単価,定価を記載している。 このような記載からも,集中管理装置というハードウェアとソフトウェアが一体構成となった一つの装置が存在するものではなく,かつ,被告は,そのような装置を一個の商品として取り扱い,一つの価格を設定しているものではないことは明らかであり,また,本件ソフトウェアが付属品などではないことも明らかである。 他方,上記見積書に対応する注文書(甲11の2)に,「MFX―EV」「一式」という記載があることについては,注文書は,注文者が任意にそれぞれの書式で作成するものであり,コンピュータと本件ソフトウェアをまとめて購入した注文者が当該注文書に「パソコン更新 MFX―EV1式」とまとめて記載しているからといって,販売者である被告が,コンピュータと本件ソフトウェアをそれぞれ別個の商品として価格をつけ,販売しているという事実を何ら否定することにはならない。 13なお,別の注文書(甲12)においては,その「品名」の欄には,「1.産業用コンピュータ一式」,数量「1」,金額の記載とは別に,「5.ソフトウェアバージョンアップ」,数量「1」,金額の記載があるとおり,本件集中管理装置を構成するコンピュータと本件ソフトウェアとは,それぞれ,別個の商品として価格が付けられ,取引されている。 イ さらに,平成24年11月13日付けの見積書(乙3)によれば,被告は,要証期間内に,本件ソフトウェアそのものを,単独で販売したことが認められる。 すなわち,上記見積書には,品名,規格,数量として,「1 ソフトウェアバージョンアップ 1式」「・バージョンアップ」,「※MFX−EV Windows7 対応」と記載され,また,「2 更新部品一式」の項目が設けられ,「・PC は,お客様支給品を使用致します。」と書かれ,さらに,「・セットアップ,インストール 1」として,「御仕切」,「定価」がそれぞれ記載されている。さらに,同見積書の下欄には,「C PC は,弊社にて動作検証を行った,お客様支給 PC を用いた場合の見積になります。」と記載されている。 これらの記載から分かるとおり,同見積書は,「MFX−EVWindows7 対応」のバージョンアップされた本件ソフトウェアのみを発注した被告の顧客に対して発行されたものであり,被告が,本件ソフトウェアそのものも販売していることを示すものである。 第4 当裁判所の判断1 認定事実後掲各証拠によれば,次の事実が認められる。 (1) 本件集中管理装置の構成ア 本件集中管理装置の取扱説明書には,本件集中管理装置の「装置全体」の説明として,パソコン本体,液晶ディスプレイ,キーボード,外部スピ14ーカー,マウス,通信アダプタ,カラープリンタ,無停電電源装置,スライド式プリンタテーブル等から構成されている旨の記載がある(甲8及び25の各本文6頁,甲19の1及び2,甲20の1及び2にそれぞれ添付された取扱説明書の本文6頁)。そして,上記パソコン本体に,後記イのとおりの機能を果たすための専用のアプリケーションソフトウェアである本件ソフトウェアがインストールされることにより,本件集中管理装置として機能することとなる。 本件集中管理装置は,蒸気ボイラ,ボイラ室オペレーションパネル,脱酸素装置,システム軟水装置などの機器とオンラインで接続されたネットワークを構成し,このネットワークを介して,これらの機器の運転情報やボイラ台数制御情報等の伝送が行われる(甲9,甲26の1)。 被告従業員作成の陳述書(甲18)には,本件集中管理装置の販売形態に関して,@CD−ROMに格納された本件ソフトウェアのみを販売するケースと,Aパソコンに予め本件ソフトウェアをインストールして,そのパソコンとセットで販売するケースがあり,@の場合は,CD−ROMに格納された本件ソフトウェアのみを販売し,顧客の既存のパソコンにインストールしてもらうのに対し,Aの場合は,例えばシーメンス製のパソコンに予め本件ソフトウェアをインストールして,そのパソコンとセットで販売するが,パソコンは他のメーカーのものも対応している,との記載がある。 イ 本件集中管理装置の取扱説明書には,その冒頭付近に,「本管理装置は,Microsoft?社のWindows?上で稼働するシステムです。」との記載があり(甲8,25の各C),装置の機能について,次の記載がある(甲8,25の各本文5頁)。なお,本件集中管理装置には,これらに加えて,ネットワークを通じて,同装置の監視モニタや報告書を別のパソコンから閲覧できる「Web監視オプション」などのオプション機能が15ある(甲6)。 (ア) モニタ表示機能全体モニタ画面より,本件集中管理装置が管理している各種機器(ボイラ,水処理機器,圧力変換器等)の機器全体の状況を1画面で監視できる。また,個別モニタ画面より,機器1台毎の個別詳細状況や当日の主な熱管理データを確認することができる。これらのモニタはカラーグラフィックにより機器イメージそのままに表示される。 (イ) メンテナンス表示機能本件集中管理装置が管理している機器で「警報」や「お知らせ」等が発生した場合,どのような画面を表示している状態においても,アラーム発生ウィンドウを自動起動し,そのアラーム内容とオペレータへの操作指示ガイダンス等を表示する。特に緊急性が高い場合には,アラーム発生ウィンドウの起動と同時に警報音を鳴らす。 (ウ) 報告書自動作成機能本件集中管理装置が管理している各ボイラから自動収集された運転情報を,日報・月報データとしてパソコン本体のハードディスクへ記録する。記録した日報・月報データは必要に応じてディスプレイへ表示したり,プリンタで印刷したりすることができる。 (エ) ヒストリカルトレンド機能(オプション)本件集中管理装置が管理しているボイラシステム内のヘッダ圧力,蒸発量のリアルタイムデータを10秒毎にパソコン本体のハードディスクへ記録する。蓄積されたヒストリカルトレンドデータ(履歴データ)を,監視モニタ上に表示することにより,ヒストリカルトレンドグラフの機能を使用しての蒸気負荷分析が行える。 (オ) アラームサマリ機能(オプション)本件集中管理装置が管理している機器で発生したアラーム情報を,ア16ラーム履歴としてパソコン本体のハードディスクへ記録する。記録したアラーム履歴は必要に応じてディスプレイに表示したり,プリンタで印刷したりすることができる。 (カ) データバックアップ機能本件集中管理装置に登録している内容及び報告書データ等のバックアップを行うことができる。定期的なバックアップ作業を実施することにより,過去データの保護が行える。 ウ 本件集中管理装置の個別モニタ画面には,ボイラやシステム軟水装置,脱酸素装置等の周辺機器毎の個別モニタ画面のほか,台数制御装置の個別モニタ画面がある。 本件集中管理装置の取扱説明書には,台数制御装置(「BP−101」の製品番号が付されている。)の個別モニタについて,「台数制御装置BP−101の設定内容の確認及び,その変更を行うことができます。台数制御設定,週間プログラム設定,ローテーション設定,自動手動設定を行う専用のダイアログを表示させ,その設定内容を台数制御装置に書き込むことができます。」との記載があり,個別モニタ画面に台数制御装置による制御内容が表示されるほか,台数制御装置で設定できる台数制御,週間プログラム,ローテーション,自動/手動に関する設定を個別モニタ画面上で行い,台数制御装置に設定内容を書き込むことができるとの記載がある(甲8,25の各本文104ないし123頁)。 エ 被告が販売するボイラ室オペレーションパネル「BP−101」のパンフレット(乙7)によれば,同オペレーションパネルは,ボイラ室全体の集中監視機能のほか,台数制御機能及びデータ通信機能を備えるとされる。 オ 本件ソフトウェアのバージョンアップについて本件集中管理装置は,最新機器に対応するため,定期的な機能追加を行っており,新たな機器を購入した顧客に対しては,本件集中管理装置を有17償で最新版へバージョンアップすることによって,最新機器を監視,管理することが可能になる。この場合,被告は,CD−ROMに格納されたバージョンアップ版の本件ソフトウェアを,顧客に販売する(甲18)。 (2) 本件集中管理装置の表示本件集中管理装置の表示に関して,被告のウェブサイト(甲3。平成26年2月26日印刷のもの)には「Miura Intelligence Flexibility SystemER」との表示が,本件集中管理装置のパンフレット(甲9。平成20年11月印刷のもの)には「マイフレックスシステム」,「MFX−EVシリーズ」,「MFX−EV/EVFシリーズ」との表示が,取扱説明書(甲7(平成22年1月発行のもの),甲8(平成25年4月発行のもの),甲25(平成23年3月発行のもの)),仕様書(甲6。作成年月日不明)には,「MFX−Wシリーズ」,「MFX−W」,「MFX−EVシリーズ」,「 M F X − E V 」 , 「 M F X − W , E V 」 , 「 Miura IntelligenceFlexibility System」などの表示が,それぞれされている。 (3) ワタキューセイモアに対する本件集中管理装置の販売ア ワタキューセイモアは,平成16年3月に本件集中管理装置を購入し,同社の小樽工場に設置されたボイラの運転管理システムとして使用してきたが,平成25年3月5日ころ,被告に対し,パソコン及びその周辺機器一式の更新,システムのセットアップ及びインストール,本件ソフトウェアのバージョンアップ,従前の管理装置からのデータ移行作業を含む本件集中管理装置の更新を発注し,同月22日,被告から,パソコン及びその周辺機器一式とともに,本件ソフトウェアのバージョンアップ版の格納されたCD−ROMの引渡しを受けた(甲11の1及び2,甲21の1及び2,弁論の全趣旨)。 上記CD−ROMの表面には,「集中管理装置 Miura IntelligenceFlexibility System Ver.6.5.1 日本語」との表示のほか,下18記のとおりの「MFX−EVシリーズ」の文字からなる標章(以下「本件使用商標」という。)が表示されていた(甲21の1及び2)。 (本件使用商標)イ 前記アの本件集中管理装置の更新に関するものと推測される被告従業員作成の平成25年2月18日付け見積書(甲11の1)には,「パソコン更新の御見積」として,次の記載があり,下記の「1」及び「2」について,それぞれ単価の記載がされている。 「1 更新部品一式・ シーメンス製 産業用コンピューター一式(Windows7)…−キーボード及びマウス含む−スピーカ含む…・ セットアップ,インストール・ 既設プリンタ用ケーブル※M−NETU対応」「2 ソフトウェアバージョンアップ・ バージョンアップ※MFX−EV Windows7 対応※M−NETU対応」ウ 前記アの本件集中管理装置の更新に関するものと推測される平成25年3月5日付け注文書(甲11の2。作成者は,弁論の全趣旨に照らし,ワタキューセイモア従業員であると推測される。)には,「下記の通り注文致します。」として,品名欄に「パソコン更新」,規格欄に「MFX−E19V」,数量欄に「一式」の各記載があるほか,これに続く品名欄に「シーメンス製産業用コンピュータ(Windows7)」,「データコンバート・試運転含む」などの記載がある。 2 本件使用商標が本件商標と社会通念上同一の商標といえるか前記1に認定した事実によれば,被告は,要証期間内である平成25年3月22日ころ,ワタキューセイモアに対し,本件集中管理装置の更新に関して,「MFX−EVシリーズ」の文字からなる本件使用商標が表示された本件ソフトウェアのバージョンアップ版が格納されたCD−ROMを引き渡した事実が認められる。 そこで,本件使用商標が,本件商標と社会通念上同一の商標ということができるかどうか,以下検討する。 (1) 「MFX」の文字部分が本件使用商標の要部に当たるかア 本件使用商標は,前記1(3)アのとおりの外観を有し,「MFX」の欧文字,「−」の記号,「EV」の欧文字,「シリーズ」の片仮名文字が,順次,横書き一段に記載されてなるものである。 そして,「MFX」の文字部分と「EVシリーズ」の文字部分は,「−」(ハイフン)によって接続されているのに対し,本件使用商標を構成する文字の大きさには特段の差異はなく,また,上記ハイフン部分を除く各文字の間隔にも特段の差異はないから,上記ハイフンの前にある「MFX」の文字部分は,上記ハイフンの後の文字部分と対比して,外観上まとまったものとして看取されるというべきである。 これに対し,上記ハイフンの後の「EVシリーズ」の文字部分は,「EV」の文字部分それ自体には,出所識別標識としての特段の称呼や観念を生ずるものではなく,むしろ,「連続性を持つ一連のもの」との意味を有する日本語であることを容易に理解することができる「シリーズ」の文字部分がその後ろに付されていることや,電子応用機械器具の取引分野にお20いては,それ自体としては必ずしも固有の意味を生じるものとはいえない欧文字等の組合せを,商品の種別や型番を表す記号として用いることがあることからすると,取引者,需要者において,「MFX」の語によって表象される一連の製品における個々の製品の種別や型番を表す語と理解することができるというべきである。 イ 以上を総合すると,本件使用商標の「MFX」の文字部分は,本件使用商標のその余の文字部分から分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものではなく,むしろ,電子応用機械器具の取引者,需要者において,被告が製造販売する製品を表すひとまとまりの表示として認識するものと認められ,また,本件使用商標のその余の文字部分からは,出所識別標識としての称呼や観念は生じないから,「MFX」の文字部分が独立して自他商品の識別標識として機能し得るものであると認められる。 したがって,「MFX」の文字部分は,本件使用商標の要部であると認められ,本件商標は,これと同一の文字からなるものであるから,本件使用商標は,本件商標と社会通念上同一の商標であると認められる。 ? 原告の主張について原告は,本件使用商標は,前後の文字を結合する役割を果たすハイフンを介して,同じ書体にて全体をまとまりよく一体不可分に表示されており,その全体をもって一つの商標と認識する需要者も少なからず存在するから,同商標は,本件商標との同一性を欠くと主張する。 しかしながら,本件使用商標における「MFX」の文字部分は,ハイフンの後の文字部分と対比して,外観上まとまったものとして看取され,電子応用機械器具の取引者,需要者において,被告が製造販売する一連の製品を表すひとまとまりの表示として認識するものと認められるから,「MFX」の文字部分が独立して自他商品の識別標識として機能し得る要部であるという21ことができるのは,前記?のとおりであり,原告の上記主張は,採用することができない。 3 被告が本件使用商標を本件審判請求の対象となった指定商品について使用したか前記1(3)によれば,被告は,要証期間内に,ワタキューセイモアに対し,本件使用商標が表示された本件ソフトウェアのバージョンアップ版が格納されたCD−ROMを引き渡したことが認められる。 かかる行為をもって,本件商標と社会通念上同一の商標を,本件審判請求の対象となった指定商品に含まれる「電子計算機用プログラム」について使用したということができるかどうかについて,以下検討する。 (1) 本件集中管理装置と本件ソフトウェアの関係についてア 前記1(1)アのとおり,本件集中管理装置の取扱説明書には,「装置全体」の説明として,パソコン本体及びその周辺機器から構成されるとの記載があり,被告のウェブサイト(甲3,甲26の1及び2)や本件集中管理装置のパンフレット(甲9),取扱説明書(甲8,25)には,パソコン本体及びその周辺機器が納められたテーブルの写真や,その見取図が,本件集中管理装置として掲載されている。 一方,本件集中管理装置の取扱説明書には,その冒頭付近で,「本管理装置は,Microsoft?社のWindows?上で稼働するシステムです。」として,本件集中管理装置の本質が,むしろソフトウェア(本件ソフトウェア)にあると受け取れるような説明がされている(1?イ)ほか,その記述内容も,ソフトウェアの操作方法を説明したものと受け取ることが十分に可能なものになっている(甲8,25)。そして,被告が,パソコン本体及びその周辺機器自体を製造しているとは認められず,これらの機器は,専ら,被告が,他のメーカーから既製品を調達して組み合わせたものと認められる。さらに,これらの機器自体は,パソコン本体,キ22ーボード,ディスプレイ,マウス,通信アダプタ,プリンタ,無停電電源装置といった,パソコンでソフトウェアを操作するために使われるありふれたものばかりである上,汎用のものであれば足りるのであって,本件集中管理装置を構成する機器としての特有のハード面での仕様や性能が,被告によって付加されているとは認められない。そして,これらの機器が集中管理装置としての前記1(1)イのとおりの機能を果たすためには,アプリケーションソフトウェアである本件ソフトウェアが,パソコン本体にインストールされることが必要となる。 また,前記1(1)オによれば,本件集中管理装置は,最新機器に対応するための機能追加を,本件ソフトウェアのバージョンアップ版を格納したCD−ROMを用いた本件ソフトウェアのバージョンアップという形態で行っているものと認められるが,上記のような形態による本件集中管理装置の機能追加に当たって,パソコン本体及びその周辺機器自体の更新が必須のものであると認めるに足りる証拠はない。 イ そうすると,本件集中管理装置の機能,性能は,専ら本件ソフトウェアの機能,性能に依存しているものであって,むしろ,その本質はソフトウェアである本件ソフトウェアにあるということも可能である。そして,本件集中管理装置を最新機器に対応させるためには,少なくとも本件ソフトウェアのバージョンアップが必要であり,この場合には,本件集中管理装置が所要の機能を果たすための必須の構成要素である本件ソフトウェアのバージョンアップ版が格納されたCD−ROMが顧客に販売されるから,かかるバージョンアップ版を対象とする独立の取引を観念することができる。 以上によれば,本件ソフトウェアのバージョンアップ版は,本件集中管理装置の単なる付属品ではなく,それ自体を独立した商品として観念することができるというべきである。 23ウ 前記1(3)に認定したとおり,被告は,平成25年3月5日ころ,ワタキューセイモアに対し,本件使用商標が表示された本件ソフトウェアのバージョンアップ版が格納されたCD−ROMを引き渡しているが,前記イにおいて説示したところによれば,この行為は,独立した取引として観念することができるものというべきである。 なお,上記CD−ROM引き渡しの際,パソコン本体及びその周辺機器も更新されているが(1?),前記イに説示したとおり,本件ソフトウェアは,パソコン本体及びその周辺機器の付属品ではなく,むしろ本件集中管理装置の本質をなすとも言い得るものであって,独立の商品として観念することができるものである。また,前記1(3)イのとおり,パソコン本体及びその周辺機器の更新については「更新部品一式」として,本件ソフトウェアのバージョンアップについては「ソフトウェアバージョンアップ」として,見積書(甲11の1)の品目に挙げられ,それぞれ単価が設定されていたのであって,この点からしても,本件ソフトウェアのバージョンアップ版が,独立の商品として取引の対象とされたと認定することには何ら妨げがないものというべきである。 そして,本件ソフトウェアのバージョンアップ版が,本件集中管理装置に所要の機能を付与するための専用のアプリケーションソフトウェアをバージョンアップさせるためのものであり,商標法施行規則別表第9類の「十六 電子応用機械器具及びその部品」中の「電子計算機用プログラム」に当たることは明らかである。 以上を踏まえると,被告は,本件ソフトウェアのバージョンアップ版という商品が格納されたCD−ROMという「包装」に本件使用商標を付したものを,譲渡ないし引き渡したものと認められるから,要証期間内に,本件商標の指定商品に含まれる「電子計算機用プログラム」について,本件商標と社会通念上同一と認められる本件使用商標を使用したと認めるこ24とができる。 したがって,本件商標の商標権者である被告において,商標法50条2項本文所定の証明をしたものというべきであるから,これと同旨の本件審決の認定判断に,誤りはない。 (2) 原告の主張についてア 原告は,本件ソフトウェアは,商標法施行規則別表第9類「十三 電気通信機械器具」中の「遠隔測定制御機械器具」に属する本件集中管理装置の付属品にすぎず,同「十六 電子応用機械器具及びその部品」中の「電子計算機用プログラム」には当たらないと主張する。 しかしながら,前記1(1)イによれば,本件集中管理装置は,各種機器の運転状況の監視や運転データの確認・記録・保存,報告書の自動作成等の機能を有するにすぎず,ボイラその他の機器を制御する機能を有するとは認められない。 なお,前記1(1)ウによれば,本件集中管理装置は,台数制御装置において設定できる台数制御,週間プログラム,ローテーション,自動/手動に関する設定を,個別モニタ画面上で行い,台数制御装置に設定内容を書き込むことができる機能を有することが認められる。 しかしながら,かかる機能は,台数制御装置が行う制御の内容に関して,本件集中管理装置の個別モニタ画面上で各種設定ができるというものにすぎず,機器の制御自体はあくまでも台数制御装置が行い,本件集中管理装置自体が行うものではないから,本件集中管理装置が上記のような機能を有することを理由に,同装置が商標法施行規則別表第9類の「十三 電気通信機械器具」中の「遠隔測定制御機械器具」に当たるものと認めることはできない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 イ 原告は,本件ソフトウェアは本件集中管理装置の付属品にすぎず,「電25子計算機用プログラム」には当たらないと主張する。 しかしながら,本件ソフトウェアのバージョンアップ版について,独立の商品として観念することができることは,前記(1)イのとおりである。 また,ワタキューセイモアに対する本件ソフトウェアのバージョンアップ版の引渡しが,パソコン本体及びその周辺機器の更新と同時に行われたことが,本件ソフトウェアのバージョンアップ版の商品としての独立性を失わせるものではないことは,前記(1)ウのとおりである。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 4 結論以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部裁判長裁判官 鶴 岡 稔 彦裁判官田中正哉及び裁判官神谷厚毅はいずれも転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 鶴 岡 稔 彦26 |
事実及び理由 | |
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全容
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