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事件 平成 27年 (ワ) 20338号 商標権侵害差止等請求事件

原告A (以下「原告A」という。)
原告 有限会社マス大山エンタープライズ (以下「原告会社」という。)
原告ら訴訟代理人弁護士 柴谷晃
同 小林永治
同 古橋いぶき
同 鈴木俊行
原告ら訴訟復代理人弁護士 寺田伸子
同 早川俊明
被告 株式会社国際空手道連盟極真会館
同訴訟代理人弁護士 鳥飼重和
同 渡辺拓
同 神田芳明
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2016/06/30
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
1事 実 及 び 理 由第1 請求1 被告は,別紙被告ウェブサイト目録記載の各ウェブサイトに別紙被告標章目録記載の各標章(以下,順に「被告標章1−1」ないし「被告標章6」といい,これらを併せて「被告各標章」という。)を付してはならない。
2 被告は,空手の教授を受ける者の利用に供する道着に被告各標章を付してはならない。
3 被告は,被告各標章が付された空手道着,帯,帯留,Tシャツ,トレーナー,ベンチコート,トレーニングウェア等の販売をしてはならない。
4 被告は,原告Aに対し,2160万円及びこれに対する平成27年7月31日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告は,原告会社に対し,405万円及びこれに対する平成27年7月31日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要本件は,原告らが,被告において,原告らそれぞれの有する商標権に係る登録商標と類似した被告各標章をウェブサイトに付し,被告各標章を付した道着等の商品を販売し,当該道着をもって空手の教授を行うなどしており,これらの被告の行為が原告らそれぞれの商標権を侵害する旨主張して,@原告Aが,被告に対し,商標法36条1項に基づき,被告標章1−1ないし3−3の使用等の差止めを,A原告会社が,被告に対し,商標法36条1項に基づき,被告標章4ないし6の使用等の差止めを,B原告Aが,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害賠償金2160万円 及 び こ れ に 対 す る 平成27年7月31日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅 延 損 害 金 の 支 払 を , C 原 告 会 社 が , 被 告 に 対 し , 不 法 行 為2による損害賠償請求権に基づき,損害賠償金405万円及びこれに対する同日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払 をそれぞれ求める事案である。
1 前提事実(証拠を掲記したほかは,当事者間に争いがない。なお,以下,証拠の記載は枝番を省略する。)(1) 当事者等ア 原告Aは,国際空手道連盟極真会館(以下「極真会館」という。)を設立したC(以下「C」という。平成6年4月26日死亡。)の子であり,相続により同人の権利義務を単独で承継した(甲7,8,12,19)。
イ 原告会社は,スポーツ,芸能の興行及び出演,空手道場の経営等を目的とする特例有限会社であり,その代表取締役は原告Aである。
ウ 被告は,スポーツ,芸能の興行及び企画,スポーツ施設の経営,空手関連商品の企画,制作,販売等を目的とする株式会社であり,その代表取締役はB(以下「B」という。)である。
(2) 極真会館の設立及び分派後の経緯等ア Cは,フルコンタクトルール(直接打撃制ルール)を特徴とする空手として極真空手を創始し,昭和39年6月,東京に総本部を置く極真会館を設立し,その館長ないし総裁と称された(乙6)。
イ Bは,昭和51年,極真会館に入門し,平成4年5月,極真会館の直轄道場である浅草道場を開設して支部長に就任し,極真会館を示す被告各標章を使用していた(乙1)。
ウ 極真会館は,平成6年当時,日本国内に,総本部,関西本部,55か所の支部(3つの直轄道場を含む。)を設置していたが(乙15),同年4月26日のCの死後,極真空手を教授する多数の団体に分派した。
被告各標章は,遅くとも同日時点から現在まで,国内外において,空手及び格闘技に関心を有する者らの間で極真会館又はその活動を表す標章と3して広く認識されている。なお,Cは生前,被告各標章を含めて,極真会館を示す標章(以下「極真関連標章」という。)につき,商標登録出願をしていなかった。
エ Bは,平成6年5月,極真会館の館長に就任し,同年10月3日,被告を設立した(乙1)。
オ 被告は,平成22年時点において,日本国内においては,101か所の支部(直轄道場を含む。),900の道場,実働会員数5万人,累計会員数60万人の規模で,海外においては,170か所の支部,6500の道場,実働会員数80万人,累計会員数1250万人との規模で,極真空手の教授等を行っている(甲9)。
カ 原告らは,平成28年3月6日時点において,日本国内において,総本部のほか,7か所の国内道場(友好道場を除く。)を運営し,極真空手の教授等を行っている(甲23)。
(3) 原告らの有する商標権ア 原告Aの有する商標権原告Aは,次の商標権(以下,順に「本件商標権1」ないし「本件商標権3」といい,これらに係る商標を,順に「本件商標1」ないし「本件商標3」という。)を有している(甲1ないし3)。
(ア) 本件商標権1登録番号 第5207705号出 願 日 平成16年10月15日登 録 日 平成21年 2月27日登録商標 別紙原告ら商標目録記載1のとおり商品及び役務の区分・指定商品 第25類 被服,空手衣商品及び役務の区分・指定役務 第41類 空手の教授,空手の興行の企画・運営又は開催(イ) 本件商標権24登録番号 第5207706号出 願 日 平成16年10月15日登 録 日 平成21年 2月27日登録商標 別紙原告ら商標目録記載2のとおり商品及び役務の区分・指定商品 第25類 被服,空手衣商品及び役務の区分・指定役務 第41類 空手の教授,空手の興行の企画・運営又は開催(ウ) 本件商標権3登録番号 第5284760号出 願 日 平成16年10月15日登 録 日 平成21年12月 4日登録商標 別紙原告ら商標目録記載3のとおり商品及び役務の区分・指定商品 第25類 被服,空手衣商品及び役務の区分・指定役務 第41類 空手の教授,空手の興行の企画・運営又は開催イ 原告会社の有する商標権原告会社は,次の商標権(以下,順に「本件商標権4」ないし「本件商標権6」といい,これらに係る商標を,順に「本件商標4」ないし「本件商標6」という。また,本件商標権1ないし本件商標権6を併せて「本件各商標権」といい,これらに係る商標を併せて「本件各商標」という。)を有している(甲4ないし6)。
(ア) 本件商標権4登録番号 第5362507号出 願 日 平成15年 7月17日登 録 日 平成22年10月22日登録商標 別紙原告ら商標目録記載4のとおり商品及び役務の区分・指定役務 第41類 空手の教授,空手の興行の企画・運営又は開催(イ) 本件商標権55登録番号 第5490938号出 願 日 平成15年 7月17日登 録 日 平成24年 5月11日登録商標 別紙原告ら商標目録記載5のとおり商品及び役務の区分・指定商品 第25類 被服,空手衣(ウ) 本件商標権6登録番号 第5551479号出 願 日 平成24年 6月 6日登 録 日 平成25年 1月25日登録商標 別紙原告ら商標目録記載6のとおり商品及び役務の区分・指定商品 第25類 被服,空手衣商品及び役務の区分・指定役務 第41類 空手の教授,空手の興行の企画・運営又は開催(4) 被告の行為被告は,次のとおり,被告各標章を業として使用している。
ア 被告の管理するインターネット上のウェブサイトホームページ(http://以下省略)に,被告標章1−1ないし被告標章4及び被告標章6を付している。
イ 被告の管理するインターネット上のウェブサイト「一撃オフィシャルショップ」(http:// 以下省略)に,被告標章1−2及び被告標章3−2を付し,また,被告標章5及び被告標章6を付した道着,帯,帯留め,Tシャツ等の販売を行っている。
ウ 被告の運営する空手道場において,空手の教授を受ける者の利用に供する道着に被告標章5を付したものを用いて空手の教授を行った。
エ 平成27年4月19日及び同月20日,被告標章4及び被告標章5を付した道着を着用した選手を「2015国際親善空手道選手権大会」に参加させた。
6(5) 本件各商標と被告各標章の類否ア 被告標章1−1及び被告標章1−2は,本件商標1に類似する。
イ 被告標章2は,本件商標2に類似する。
ウ 被告標章3−1ないし3−3は,本件商標3に類似する。
エ 被告標章4は,本件商標4に類似する。
オ 被告標章5は,本件商標5に類似する。
カ 被告標章6は,本件商標6に類似する。
2 争点(1) 原告らの本件請求が権利濫用に当たるか否か(2) 損害の有無及び額3 争点に関する当事者の主張(1) 争点1(原告らの本件請求が権利濫用に当たるか否か)について(被告の主張)ア 商標は自らの役務と他人の役務を区別するために付けられる標章であるところ,複数の事業者から構成されるグループが特定の役務を表す主体として需要者の間で認識されている場合,その中の特定の者が当該表示の独占的な表示主体であるといえるためには,需要者に対する関係において,その表示の周知性・著名性の獲得がほとんどその特定の者に集中して帰属しており,グループ内の他の者は,その者から使用許諾を得て初めて当該表示を使用できるという関係にあることを要する。そして,そのような関係が認められない場合には,グループ内の者が商標権を取得したとしても,グループ内の他の者に対して当該表示の独占的な表示主体として商標権に基づく権利を行使することは権利濫用として許されない(大阪地裁平成15年9月30日判決・判例タイムズ1145号255頁。以下「別件判決」という。)。
極真会館は複数の会派から構成され,特定の役務である極真空手を教授7等する主体として需要者の間で広く認識されており,原告ら及び被告は,いずれも極真会館の一会派である。そして,Cの生前においては,長年にわたる極真空手の教授や空手大会の開催等により,極真会館及び極真空手を普及させたC,B並びに極真会館の総本部,関西本部,直轄道場及び支部に属する各構成員が被告各標章の周知性及び著名性の獲得に寄与している。また,Cの死後においては,被告が,国内では900の道場,実働会員数5万人,累計会員数60万人の規模で,国外では6500の道場,実働会員数80万人,累計会員数1250万人を超える規模で空手の教授や空手大会の開催等を行うほか,テレビ番組に被告の道場に所属する選手を出演させるなどして,原告らに比して,被告各標章の周知性,著名性の維持,獲得及び拡大に大きく寄与している。したがって,少なくとも需要者に対する関係において,被告各標章の周知性,著名性の獲得が原告らに集中して帰属しているとはいえない。
また,原告らは,Cの死後,被告各標章を被告が使用していることを認識していたにもかかわらず,Cの死亡から9年経過した平成15年以降になって本件各商標に係る商標登録出願をし,更にその一部について商標登録を受けた平成21年から6年以上経過してから本件訴訟を提起している。
このように,本件各商標に係る商標登録出願を長期間放置していた原告らが,被告各標章の周知性及び著名性の獲得に対する寄与がはるかに大きい被告に対して本件各商標権を行使することは,極めて不当であり,別件判決の判断枠組みに照らしても,本件請求は権利濫用として許されない。
イ なお,原告Aは極真会館の総裁ないし館長であったCの後継者ではなく,極真関連標章の主体たる地位を承継したことはない。すなわち,極真関連標章の主体たる地位は,相続の対象となる独立の財産権ではなく極真会館の事業を行う者のみに帰属する法的利益にすぎず,社団性を有する極真会館の総裁及び構成員全体に共有又は総有的に帰属するものであり,仮にそ8うでなくても,総裁たる地位に含まれるものである。そして,総裁たる地位は被相続人Cの一身専属権であり,極真会館において世襲制が採用されておらず,原告Aが総裁ないし館長であったCの後継者であると定められたことはないから,原告Aは総裁たる地位を承継しておらず,Cの死亡当時,極真会館の事業活動に一切関与していなかったから原告Aに極真関連標章の主体たる地位が帰属することはない。
また,Cの死後におけるBの行動をもって,被告各標章の周知性及び著名性に対するBないし被告の寄与が失われることはない。すなわち,Bは,後にCの真意に基づいて作成されたものと認めることはできないとされたCの平成6年4月19日付け危急時遺言(以下「本件遺言」という。)に基づいて自らを同人の後継者であると称していたが,第三者を誤解させたり,他の支部長らによる事業の拡大を妨害したことはない。加えて,Bは,自己名義で極真関連標章に係る商標登録を受けて商標権に基づく権利行使を行い,後に当該商標登録が無効とされたが,上記権利行使は,極真会館の団体の利益を守るという正当な目的によるものである。
さらに,被告は,空手道のオリンピック種目化を目指して強打が禁止されるセミコンタクトのポイント制ルールを採用する世界空手連盟の傘下にある公益財団法人全日本空手道連盟と友好関係を構築して互いに協力することを表明する記者会見を行ったが,極真空手に関する活動を従前どおり継続することを前提としており,フルコンタクトルールを放棄する旨を表明したことはない。
したがって,原告らの本件請求を正当化する事情はない。
(原告らの主張)ア 本件に別件判決の判断枠組みは当てはまらない。すなわち,本件は,一定の法的保護が図られた財産権である極真関連標章の主体たる地位を含めて,Cの一切の権利義務を相続により承継した原告A及び同人が代表取締9役を務める原告会社が,極真関連標章である本件各商標に係る商標権を行使する事案であるが,別件判決の事案は,Cの許諾を得て極真関連標章を使用していた極真会館の構成員が無断で商標登録を受けて商標権を行使した事案であり,前提事実が異なる。
イ 仮に,本件に上記判断枠組みが当てはまるとしても,原告らの本件請求は権利濫用に該当しない。すなわち,別件判決において商標権者による権利行使が権利濫用であると判断された理由は,当該商標権者が極真会館の後継者であるとの根拠がなかったことにあるが,原告Aは,Cの権利義務を単独で承継した相続人であり後継者である。また,Cの生前の極真会館は,法人格及び社団性を有しないCの個人事業であり,極真会館の総本部はC個人にほかならないから,総本部の指揮命令下にあった本部直轄道場の支部長のBはC個人の被用者にすぎなかった。したがって,Cの生前において極真関連標章の周知性及び著名性の維持等にBの寄与があったとしても,それはCに帰属するものである。さらに,Cの死後,極真関連標章の周知性及び著名性の維持等にBの寄与があったとしても,それは自らをCの正当な後継者であると称して第三者を誤解させ,無効な商標登録を受けて原告Aの親族や他の支部長らの事業拡大を妨害したBの不当な行為による結果であるから保護に値しない。
これらの事情に加えて,被告が極真空手の最大の特徴であるフルコンタクトルールを放棄することを表明していることなどを考慮すれば,原告らの本件請求は商標権の行使として正当であり,権利濫用に当たらない。
(2) 争点2(損害の有無及び額)について(原告らの主張)ア 原告Aの損害本件商標権1ないし本件商標権3の侵害行為によって被告が受けた利益は原告Aの利益であると推定される(商標法38条2項)ところ,平成2104年7月から平成27年6月までの間に本件商標権1ないし本件商標権3の侵害行為により被告が得た利益は,空手の教授によるものは2200万円を下らず,空手大会の開催によるものは諸経費を控除しても500万円を下らない。そして,上記各利益に対する本件商標1ないし本件商標3が寄与した割合は80パーセントを下らない。
よって,原告Aの損害は,少なくとも2160万円と推定される。
イ 原告会社の損害原告会社は,本件商標4ないし6の使用料相当額について損害賠償を請求できるところ(商標法38条3項),当該使用料相当額は,平成24年7月から平成27年6月までの間に空手の教授や空手大会の開催により被告の得た利益(上記アによれば合計2700万円を下らない。)の15パーセントに相当する。
よって,原告会社の損害は,少なくとも405万円である。
ウ なお,原告らと被告は,いずれも空手の道場を運営し,極真関連標章を使用して空手の教授や空手大会の開催を行っており,対象とする市場及び需要者は完全に一致している。また,被告の有する空手道場は,その数に照らして一定程度周知性があるところ,原告らの空手道場の近隣には,被告の空手道場が存在するが他に周知性を有する空手道場は存在しない。したがって,被告の行為がなければ,需要者が原告らの空手道場や空手大会を選択したといえるから,商標法38条2項による推定が覆される事情はないし,上記の使用料相当額も妥当である。
(被告の主張)否認ないし争う。
空手の教授は,指導者が直接対面で指導する役務の提供であり,道場の存否や教授方法等によって得られる利益が大きく異なるところ,被告は,本件各商標の商標出願前から,国内道場の数,開催する空手大会の頻度や規模に11おいて原告らを上回っており,指導の質的側面等に照らしても,被告と原告らの顧客誘引力に極めて大きな差がある。また,上記(1)(被告の主張)アのとおり,被告各標章の周知性及び著名性に対する被告の寄与は,原告らに比して圧倒的に大きい。加えて,原告ら以外にも極真会館を称する団体が多数存在していることなどを考慮すれば,被告各標章に誘引された被告の道場の会員や被告の開催した空手大会への参加者が,原告らが侵害行為と主張する行為がなければ原告らの道場や空手大会を選択したはずであると推定することはできない。同様の理由により,原告らの主張する使用料相当額も認められない。
第3 当裁判所の判断1 争点1(原告らの本件請求が権利濫用に当たるか否か)について(1) 前記前提事実に加えて,証拠(甲16ないし18,20,22,24,乙1〜3,6,7,10ないし12,15,16)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア Cの生前における極真会館の組織等(ア) Cは,昭和39年6月,東京に総本部を置く極真会館を設立し,その館長ないし総裁と称された。極真会館は,設立後,総本部及び関西本部の下,全国各地に支部を設置し,世界各国にも本部及び支部を設置し,昭和41年以降,オープントーナメント全日本空手道選手権大会(以下「全日本大会」という。)やオープントナーメント世界空手道選手権大会(以下「全世界大会」という。)等の各種大会を開催するなどしてその規模を拡大させ,Cの死亡した平成6年4月当時,国内において,総本部,関西本部のほか,55か所の支部(3つの直轄道場を含む),550の道場,会員数50万人を有し,世界130か国,会員数1200万人を超える規模となっていた。
(イ) 極真会館の組織及び運営については「国際空手道連盟・規約」(乙1210)や「国際空手道連盟極真会館・道則」(乙11。以下「道則」という。),「国内支部(大学も含む)規約」(甲24。以下「国内支部規約」という。)等が定められ,これらには,極真会館が道場生,委員,師範,相談役,総裁,理事,顧問,理事長,会長から構成され(道則3条),その日常の組織運営が委員会又は理事会の決議により行われること(道則6条),道場生に入会金,道場使用料及び会費の納入義務があること(道則12条),総本部の認可を受けて全国各地に支部が設置され,Cの任命を受けた支部長において道場を開設し,入門した道場生に対して,極真空手を教授し,級位や初段の段位を与えることができ,認可料や支部会費等を総本部に納入する義務や,各種大会へ選手を派遣して大会の運営に協力する義務,支部長会議及び支部長講習への出席義務等を負うこと(国内支部規約)などが定められていた。また,支部長による極真関連標章の使用については「既に登録してある極真のマーク(カンク,連盟マーク,胸章等)を委員会の承認なしに無断で使用できない」(国内支部規約15項)と定められていた。なお,極真会館の館長や総裁の地位の決定や承継に関する定めはなかった。
もっとも,具体的な組織運営では,上記諸規定によらずにCの個別的裁量によって判断されることもあった。また,支部長は,物品の販売等を制限する定めはあるものの,上記義務を果たす限り,道場や各種大会等において極真関連標章を自由に使用することができた。
イ Cの生前におけるBの地位(ア) Bは,昭和51年に極真会館に入門した後,昭和55年に初めて出場した全日本大会では4位に,昭和56年,57年の全日本大会では3位に,昭和58年の全日本大会では8位に,昭和59年の全世界大会では3位にそれぞれ入賞し,昭和60年,61年の全日本大会及び昭和62年の全世界大会ではいずれも優勝し,昭和61年には百人組手を完遂13した。
また,Bは,極真会館の開催する各種大会において,審判員,模範演技や大会運営委員会の支部長代行委員などを務め,世界20か国余りの道場に指導員として訪れ,各国で演武を披露するなどした。
(イ) Bは,平成4年,極真会館の本部直轄道場を開設して支部長に就任し,上記ア(イ)の運用のとおり,被告各標章を使用していた。
ウ Cの死亡(ア) Cは,自らの後継者を公式に指名することなく,平成6年4月26日に死亡したが,同月19日付けで,Bを後継者とする旨が記載されたCの危急時遺言(本件遺言)が作成されていた。
(イ) Bは,本件遺言書に従い,同年5月10日に開催された支部長会議での承認を経て,極真会館の館長に就任した。しかし,その後,極真会館の内部で対立が生じ,極真会館は極真空手を教授する多数の団体に分裂した。
(ウ) 本件遺言の証人の一人は,本件遺言の確認を求める審判を申し立てたが,東京家庭裁判所は,平成7年3月31日,本件遺言がCの真意に出たものと確認することが困難であるとして上記申立てを却下し,東京高等裁判所の平成8年10月16日付け抗告棄却決定及び最高裁判所の平成9年3月17日付け決定を経て,上記却下決定は確定した。
エ Cの死亡後におけるB及び被告の活動等(ア) 被告(平成6年10月3日設立)は,Cの死後,極真会館が開催していた上記各大会の開催を継続するともともに,全世界女子空手道選手権大会,青少年空手道選手権大会,極真祭,アメリカズカップ,ロシアンカップ,極真ワールドカップ,ロシア青少年大会,全ヨーロッパ選手権大会,全アジア選手権大会など,国内外を問わず,新たな空手大会や国際親善試合を多数開催し,平成16年10月以降,極真専門番組「一14撃入魂」の放送をスタートさせ,テレビ放映される格闘技イベント「K−1」に被告の道場に所属する選手を出場させるなどした。
(イ) 被告は,平成22年時点において,日本国内においては,101か所の支部(直轄道場を含む。),900の道場,実働会員数5万人,累計会員数60万人の規模で,海外においては,170か所の支部,6500の道場,実働会員数80万人,累計会員数1250万人の規模で,極真空手の教授等を行っている。
(ウ) 被告は,平成27年4月16日,平成32年に開催が予定されている東京オリンピック・パラリンピックにおける空手道種目の採用に向けて,公益財団法人全日本空手道連盟との間で友好関係を構築し,互いに協力することを記者会見により発表した。なお,同連盟は,フルコンタクトルールを採用していない。
オ Cの死亡後における原告らの活動(ア) 原告Aは,Cの死亡当時,極真会館の事業活動に全く関与していなかった。
(イ) 原告Aは,母親と共に,平成8年ないし平成9年,Bらを被告として,同人らの占有していた極真会館の総本部の建物の明渡しを求める訴訟を提起し,平成11年2月17日に成立した裁判上の和解に基づき,同年3月31日,Bらから上記建物の引渡しを受け,その後,同建物を利用して極真会館の事業を行うようになった。
(ウ) 原告らは,平成28年3月6日時点において,日本国内において,総本部のほか,7か所の国内道場(友好道場を除く。)を運営し,極真空手の教授等を行っている。
カ 極真関連標章に関する紛争等(ア) Bは,Cの死亡後も被告各標章の使用を継続し,平成6年ないし平成7年までの間,複数の極真関連標章について商標登録出願をし,自己15名義の商標登録を受けた。
(イ) Bは,平成11年頃,東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社に対し,上記商標登録に係る商標権に基づき,極真関連標章を使用する広告の掲載禁止を申し入れた。
(ウ) Cの生前に極真会館に属していた者らは,平成14年,Bを被告として,空手の教授等に際して極真関連標章を使用することにつき,Bの商標権に基づく差止請求権が存在しないことの確認等を求める訴訟を大阪地方裁判所に提起した(同庁同年(ワ)第1018号)。
同裁判所は,平成15年9月30日,Bの上記商標権の行使が権利濫用であるとして上記不存在確認請求を認容し,その控訴審である大阪高等裁判所も,平成16年9月29日,同旨の理由によりBの控訴を棄却した。
(エ) Cの生前に極真会館に属していた者らは,平成16年,Bを被告として,人格権に基づき「極真会館館長」の名称の使用差止め等を求める訴訟を大阪地方裁判所に提起した(同庁同年(ワ)第9616号)。
同裁判所は,平成18年9月11日,上記差止め請求を認容した。
(オ) 原告Aは,平成16年,Bが商標登録を受けた極真関連商標の一部について無効審判を請求したところ,特許庁は,Bの受けた商標登録が商標法4条1項7号に反するものであるとして,同年9月22日付けで登録を無効とするとの審決をした。これに対し,Bは,上記審決の取消を求める訴訟を知的財産高等裁判所に提起したが(同庁平成17年(行ケ)第10028号),同裁判所は,平成18年12月26日,Bの請求を棄却した。
(2) 前記前提事実及び上記認定事実を踏まえて,原告らの本件請求が権利濫用に当たるか否かについて検討する。
ア 前記第2の1前提事実によれば,本件各商標に類似する被告各標章は,16遅くともCの死亡した平成6年4月26日時点から現在まで空手及び格闘技に関心を有する者の間において極真会館又はその活動を表すものとして広く知られているところ,上記(1)認定事実ア,イ及びエによれば,このような被告各標章の周知性及び著名性の形成,維持及び拡大に対し,Cの生前においては,長年にわたり極真空手の教授や空手大会の開催等を行ってきたC及び同人から認可を受けたBを含む支部長らの寄与があり,Cの死後においては,国内外において大規模に極真空手の教授や空手大会の開催等を行い,その普及に努めてきたB及び同人が代表取締役を務める被告の大きな寄与があったと認められる。
また,原告らは,極真関連標章である本件各商標に係る商標権を取得して極真空手の教授等を行っているが,Cは後継者を公式に指名することなく死亡しており(上記(1)認定事実ウ),極真会館において館長や総裁の地位の決定や承継に 関する定めはなく( 上記 (1)認定事実ア (イ)及 び ウ(ア)),世襲制が採用されていたこともうかがわれず,他に相続人である原告AをCの後継者であると認めるに足りる証拠はない。そうすると,原告らは,極真会館を称して極真空手の教授等を行う複数の団体の一つにすぎないというべきである。そして,極真会館の分裂後にBにより設立された被告も,上記のような団体の一つというべきである。
以上の点に加えて,原告らは,Cの死亡後,B及び被告が国内外で被告各標章を使用して大規模に極真空手の教授等を行っていたことを認識していたにもかかわらず,合理的な理由もなく早期に本件各商標に係る商標登録出願を行っていないことも考慮すれば,原告らが被告に対し,本件各商標権に基づき,極真関連商標である本件各商標やこれと類似する商標の使用を禁止することは権利の濫用に当たると解すべきである。
イ これに対し,原告らは,@原告Aが極真関連標章の主体たる地位を承継したこと,A極真関連標章の周知性及び著名性の維持等に対する寄与につ17いて,Cの生前におけるBの寄与はCに帰属するものであり,Cの死後におけるB及び被告の寄与はBの不当な行為による結果であるから保護に値しないこと,B被告は極真空手の最大の特徴であるフルコンタクトルールを放棄する旨表明したことなどから,原告らの権利行使が正当であると主張する。
しかしながら,@については,Cは生前,極真関連標章に係る商標登録出願をしておらず,極真関連標章の主体たる地位が相続の対象となる財産権であるとはいえない。また,周知に至った極真関連標章があったとしても,それは被告各標章と同様に極真会館又はその活動を示すものとして周知になったものというべきであるから,それは少なくともC個人ではなく極真会館の総裁に帰属する法的利益であると解すべきであるところ,上記アのとおり,原告Aを極真会館の総裁であったCの後継者であると認めることはできない以上,原告Aが,極真関連標章の主体たる地位を承継したと認めることはできない。
次に,Aについては,Cの生前における極真関連標章に対するBの寄与がCに帰属するとの原告らの主張は,極真会館がCの社団性すら有しない個人事業の性質を有し,直轄道場の支部長が他の支部長と異なって総本部たるCの被用者であることを前提としているが,上記(1)ア認定のとおりの極真会館の組織及び運営に照らせば,少なくとも極真会館は社団性を有するというべきである上,本件全証拠によっても,直轄道場の支部長と他の支部長とで極真関連標章の使用に関する取扱いが異なっていたことを認めるに足りる証拠はないから,原告らの上記主張の前提に誤りがあるといわざるを得ない。また,Cの死後,Bは,後に無効とされた本件遺言に基づいて自らをCの後継者と称し,後に無効とされた極真関連標章に係る商標登録を受けた上で極真空手の教授等を行っているが,現時点までにおける被告の活動規模や実績等に照らせば,Cの死後における被告の各標章に18対するB及び被告の寄与の全てがBの上記行為の結果であるとはいえず,当該寄与の正当性の全てが否定されることにはならないと解すべきである。
さらに,Bの点については,本件全証拠によっても被告がフルコンタクトルールを放棄したと認めるに足りる証拠はない。なお,上記(1)エ(ウ)認定のとおり,被告は,平成27年4月16日,平成32年開催予定の東京オリンピック・パラリンピックにおける空手道種目の採用に向けて,公益財団法人全日本空手道連盟との間で友好関係を構築し,互いに協力することを記者会見により発表したところ,同連盟は,フルコンタクトルールを採用していないものであるが,このような事実があったとしても,それ故に被告がフルコンタクトルールを放棄したことにはならない。
以上によれば,原告らの上記各主張は,いずれも理由がない。
2 結論よって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの本件請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部裁判長裁判官 沖 中 康 人裁判官 廣 瀬 達 人裁判官 村 井 美 喜 子19
事実及び理由
全容
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