関連審決 | 異議2014-900360 |
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事件 |
平成
28年
(行ケ)
10052号
商標登録取消決定取消請求事件
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原告 株式会社鎖GROUP 同訴訟代理人弁護士 都築健太郎 同 弁理士 平野泰弘 杉本明子 被告特許庁長官 同 指定代理人榎本政実 井出英一郎 冨澤武志 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2016/08/10 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 特許庁が異議2014-900360号事件について平成28年1月15日にした異議の決定を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(1) 原告は,以下の商標(登録第5704607号。以下「本件商標」という。) 1の商標権者である(甲1,45)。 登録商標:別紙1本件商標目録記載のとおり登録出願:平成26年3月14日登録査定日:平成26年8月22日設定登録:平成26年9月26日指定役務:第35類「広告業,経営の診断又は経営に関する助言,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,ホテルの事業の管理,文書又は磁気テープのファイリング,コンピュータデータベースへの情報編集,広告用具の貸与,求人情報の提供,織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,ティーシャツの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,おむつの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,履物の小売又は卸売の業務小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,タオルの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,布製身の回り品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,身の回り品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,電子計算機用プログラムの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,電子応用機械器具及びその部品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,電気機械器具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,印刷物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,紙類及び文房具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,運動具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,おもちゃ・人形及び娯楽用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,ダウンロード可能な音楽又は音声の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,録音済み記録媒体の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する 2便益の提供,楽器及びレコードの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,ダウンロード可能な映像又は画像の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,録画済みDVDの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,録画済み記録媒体の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,電子出版物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」び記録の供覧,図書の貸与,通信を用いて行う映像又は画像の提供,映画の上映・制作又は配給,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)」含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計,デザインの考案,電子計算機用プログラムの設計・作成又は保守,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技能又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,機械器具に関する試験又は研究,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供」 (2) 有限会社Libra(以下「異議申立人」という。)は,平成26年12月25日,特許庁に対し,本件商標の商標登録の取消しを求めて異議を申し立てた(甲40の1,45)。 (3) 特許庁は,これを異議2014-900360事件として審理し,平成28年1月15日,「登録第5704607号商標の商標登録を取り消す。」との別紙決定書(写し)記載の決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は,同月25日,原告に送達された。 (4) 原告は,平成28年2月23日,本件決定の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 本件決定の理由の要旨 3 本件決定の理由は,別紙決定書(写し)のとおりである。要するに,(1) 別紙2引用商標目録記載の商標(以下「引用商標」という。)は,異議申立人の業務に係る役務「ラッパーの競技大会の主催,競技大会の模様を撮影したDVDや録音したCDの販売若しくはインターネット上でのダウンロード販売,ストリーミングの提供,Tシャツなどの関連商品の販売」を表示するものとして,周知であり,(2) 本件商標と引用商標とは類似していて,(3) 原告は,不正の目的のために引用商標と類似する本件商標を先に登録出願し,設定登録を受けたものと推認せざるを得ないから,(4) 本件商標は,商標法4条1項19号に違反して登録されたものと認められる,というものである。 3 取消事由 (1) 商標法4条1項19号該当の判断の誤り(取消事由1) ア 引用商標が,原告代表者のAではない「他人」の業務に係る役務を表示するものとして,日本国内における需要者の間に広く認識されているか イ 原告が「不正の目的」をもって,引用商標と類似する本件商標を使用したか (2) 異議申立ての権利の濫用(取消事由2) |
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当事者の主張
1 取消事由1(商標法4条1項19号該当の判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 引用商標が,原告代表者のAではない「他人」の業務に係る役務を表示するものとして,日本国内における需要者の間に広く認識されているかについて ア 原告代表者は,平成12年,音楽グループ「MS CRU」(以下,原告代表者がリーダーを務める音楽グループを「MSC」という。)を結成し,平成14年から平成15年にかけての時期には,CDの発表,ライブの活動,雑誌への掲載等により,ラップミュージックの愛好家の間では,有力な音楽グループとして広く認識されていた。そして,原告代表者は,ヒップホップミュージックの日本最大規模のイベントであるMCバトル「B BOY PARK」において,平成14年に 4優勝し,MC(ラップミュージシャン)やラップミュージックの愛好家の間に広く認識されていた。 ところで,平成15年のMCバトル「B BOY PARK」は,審査上の不手際によって混乱し,原告代表者は準決勝において敗退した。原告代表者は,MCバトル「B BOY PARK」の信用が大きく低下したので,独自にMCバトルを立ち上げることにし,平成16年に「お黙り!ラップ道場」という名称で,平成16年9月10日開催の第3回からは,「UMB」の名称を用いてMCバトルを開催した。「UMB」は「ULTIMATE MC BATTLE」の略称であり,引用商標のロゴは,原告代表者が友人に依頼して作成してもらったものである。 イ 他方,異議申立人は,平成15年5月,原告代表者ないしMSCの活動を支援するために設立されたのであって,その当時において,原告代表者ないしMSCは,優れた技量を有するMCとして名声を獲得していた。そして,原告代表者と異議申立人との間において,MCバトルの開催について何ら合意はされなかった。異議申立人がMCバトル「UMB」に初めて関与したのは,平成17年8月13日に開催されたMCバトルからにすぎず,大会が既に軌道に乗った後のことである。また,異議申立人及びその代表者Bが,MCバトル「UMB」の開催やDVD販売に何ら重要な役割を果たしたわけでもない。 ウ 以上のとおり,原告代表者は,異議申立人に所属する前の時点において,MC及びラップミュージックの愛好家の間で広く認識されるようになっていた。MCバトル「UMB」は,原告代表者が,平成16年,異議申立人の事業と関係なく立ち上げ,成功に導いたものである。原告代表者は,異議申立人所属のアーティストではあったが,会社組織の一員として,MCバトル「UMB」を立ち上げ,成功に導いたわけではない。「UMB」の商標は,平成17年時点において,原告代表者の主催するMCバトルの商標としてMC及びラップミュージックの愛好家の間で広く認識されるようになり,異議申立人のMCバトル「UMB」への関与はその後のことにすぎない。原告代表者は,異議申立人が所属先であることから,その関与を 5支援の一環として受け入れたのであり,異議申立人は,支援者として,MCバトルのポスター及びDVDに異議申立人を表す文字を表示することができたにすぎず,異議申立人が,「UMB」の商標を,MC及びラップミュージックの愛好家の間で広く認識させたものではない。そして,原告は,原告代表者の同意のもと,本件商標の商標登録出願を行った。 したがって,引用商標は,「他人」の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものではない。 (2) 原告が「不正の目的」をもって,引用商標と類似する本件商標を使用したかについて 「UMB」の商標は,原告代表者の名声が化体したものといえ,原告が本件商標を使用したとしても,名声を不当に利用するものとはいえず,フリーライドは認められない。 異議申立人は,原告代表者らに対し,売上げのうち50%を支払う旨の合意に反して,分配金の支払債務の履行を怠った。さらに,異議申立人代表者は,従業員に対し,日常的に暴言や暴行を加え,音楽活動と関連性のない業務に従事させ,音楽グループ「MSC」のメンバーにも暴力を振るうなどの背信的行為に及んだ。そのため,原告代表者らは,平成23年,異議申立人から離れて原告を設立した。にもかかわらず,異議申立人は,平成27年においても,原告代表者らが異議申立人所属のアーティストであるかのような表示を継続し,「UMB」の商標を使用してMCバトルの開催を継続した。そこで,原告は,原告代表者の名声が化体した「UMB」の商標が異議申立人に悪用されることを防ぎ,原告代表者が「UMB」の商標を使用するために,本件商標の商標登録出願手続を行い,登録を受けた。「UMB」の商標が原告代表者の名声を化体し,このことが,MC及びラップミュージックの愛好家の間で広く認識されていることは,平成27年に原告が開催し,原告代表者が審査員として参加したMCバトル「UMB」が大きな成功を収めたことからも明らかである。 6〔被告の主張〕(1) 引用商標が,原告代表者のAではない「他人」の業務に係る役務を表示するものとして,日本国内における需要者の間に広く認識されているかについて仮に,原告代表者が,MCとして,異議申立人に所属する前からMC及びラップミュージックの愛好家の間で広く認識されていたとしても,原告代表者が,平成16年に,MCバトル「UMB」を立ち上げ,成功に導いたことを裏付ける事実は見当たらず,また,MCバトルの開催及び当該MCバトルを収録したDVDの制作,販売等に際し,ライブラの標章を表示する行為について,原告代表者が,異議申立人による支援の一環として受け入れたことを裏付ける事実も見当たらないことからすれば,「UMB」の商標が,平成17年の時点において,原告代表者の主催するMCバトルに使用する商標として,MC及びラップミュージックの愛好家の間で広く認識されるようになっていたとは到底いうことができない。 むしろ,「UMB」の商標を需要者の間に広く認識させた主体についてみると,引用商標は,平成18年ころから約10年間,異議申立人の名称又はライブラの標章の表示とともに,MCバトルの業務等についてUMBの標章が継続的に使用された結果,本件商標の登録出願日及び登録査定日において,少なくとも我が国の需要者の間で,異議申立人の業務,とりわけMCバトルを表すものとして,相当程度広く認識されていたものである。また,本件商標は,引用商標との比較において,互いに相紛れるおそれのある類似の商標である。 そうすると,本件商標は,他人である異議申立人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内における需要者の間に広く認識されている引用商標と類似の商標といえる一方,原告の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標ということはできない。 (2) 原告が「不正の目的」をもって,引用商標と類似する本件商標を使用したかについて仮に,原告が平成27年に開催し,原告代表者が審査員として参加したMCバト 7ルが成功したものであったとしても,そのことをもって,「UMB」の商標に原告代表者の名声が化体しているとはいえず,その他,「UMB」の商標に原告代表者の名声が化体していることを裏付ける事実は見当たらない。 異議申立人と原告との関係や原告による本件商標登録の意図とその後の経緯を総合勘案すれば,原告は,引用商標がいまだ商標登録されていないことを奇貨として,それに化体された業務上の信用と顧客吸引力にただ乗りし,不正の利益を得るなど,不正の目的のために引用商標と類似する本件商標を先に登録出願し,商標登録を受けたといえる。 2 取消事由2(異議申立ての権利の濫用)について〔原告の主張〕 MCバトル「UMB」は,原告代表者が成功に導いたものであり,異議申立人及び同代表者はその成功に寄与しておらず,成功後に関与してきたにすぎない。したがって,他人の名声を不当に利用しようとしているのは,原告ではなく,異議申立人といえる。 また,異議申立人は,原告代表者らが異議申立人所属後も音楽活動に真摯に取り組み,異議申立人の事業を成功に導いていたにもかかわらず,契約に反し,分配金を支払わなかった。その上,異議申立人代表者は,従業員等に対する暴力行為等により支援体制を著しく損なった。異議申立人及び同代表者は,背信的行為の限りを尽くし,原告代表者らが異議申立人を離れざるを得ない状況を作出した。 かかる事情に鑑みれば,異議申立人の異議申立ては,信義誠実の原則に反し,権利の濫用というべきであるから,異議申立てを認容する本件決定は,権利の濫用を助長するものといえ,違法の評価を免れないというべきである。 〔被告の主張〕 原告代表者がMCバトル「UMB」を成功に導いたとする主張を裏付ける事実は見当たらない。 本件異議申立ては,本件商標の登録が商標法43条の2第1号に掲げる理由に該 8当することを主張してされたものであり,また,本件決定は,異議申立人及び原告の主張及び証拠を審理した上で,本件商標の登録出願時及び登録査定時に,本件商標が同法4条1項19号に該当する旨判断したものであり,これらに違法はない。 そして,仮に,原告の主張する事情があったとしても,当該事情は,本件商標が同法4条1項19号に該当するか否かの判断に影響するものではないから,本件異議申立てが権利の濫用などということはできない。 |
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当裁判所の判断
1 認定事実 証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 異議申立人は,各種イベントの企画・立案,制作並びにその運営及び管理,レコード,コンパクトディスク,ビデオソフト等の録音録画物の企画,制作並びに販売などを主業とし,平成15年6月27日に設立された会社である(甲16)。 (2) 異議申立人は,平成17年から10年間にわたり,「ULTIMATE MC BATTLE」(アルティメット エムシー バトル)(以下「UMB」という。 という名称のラップのフリースタイル大会 ) (以下「本件MCバトル」という。)を,毎年主催してきた(甲4〜8,28)。 本件MCバトルは,北海道から沖縄に至る全国において地区予選を行い,その後,その予選を勝ち抜いた各MC(ラップミュージシャン)による決勝大会を行うものであるところ,平成17年には,全国16地区の予選に500余名のMCがエントリーし(甲11,18の24,56),平成18年には,全国16地区の予選に900余名のMCが出場し,同年の決勝大会の観客動員数は1300人を超えた(甲4,18の1)。また,平成20年には,全国16地区の予選に964名のMCが出場し(甲7,18の22),平成21年には,全国16地区で予選が行われた(甲4,18の3)。 そして,本件MCバトルは,平成23年以降,予選開催地を倍増(全国の30ないし32地区)しており,同年以降,予選エントリーしたMC数及び決勝大会の観 9客動員数は,それぞれ,平成23年が1333名及び993名(甲18の5,25の1),平成24年が1000名以上及び1204名(甲18の6,25の2),平成25年が1000名以上及び1375名(甲18の7,25の3)であり,平成26年の決勝大会の観客動員数は1371名に及んだ(甲25の4)。 (3) 異議申立人は,遅くとも平成18年以降,本件MCバトルを収録した各種DVDを制作,販売しており(甲10,18(枝番を含む)),その販売枚数は,6万枚を優に超える(甲24の1〜4)。 また,異議申立人は,平成23年以降,携帯電話等に係るアプリケーション・プログラムを用いて,本件MCバトルの模様をストリーミング形式で配信している(甲4,6,8,28)。 さらに,異議申立人は,自己のウェブサイト「Libra ONLINE STORE」において,本件MCバトルを収録したDVDや,当該MCバトルに係るチケット,ティーシャツ及びタオルを販売している(甲10,34)。 (4) 異議申立人は,本件MCバトルを開催するに当たり,その宣伝広告のためのポスターを制作しており,少なくとも平成20年頃から平成27年頃までの間のポスターには,引用商標と態様がほぼ同一の「UMB」のロゴ又はそれと同一つづりの「UMB」の文字(以下,両者を併せて「UMB標章」という。)が使用されていた(甲7,8,28)。 また,本件MCバトルを収録したDVDの表裏表紙や当該MCバトルのストリーミング形式による配信についてのアプリケーション・プログラムのアイコンには,UMB標章が付され(甲6,8,18(枝番を含む),28),本件MCバトルに係るチケット,ティーシャツ及びタオルには,UMB標章が付されていた(甲10)。 さらに,本件MCバトルを収録したDVDや当該MCバトルを宣伝広告するポスター等には,それらが異議申立人の業務に係るものであることを表示するものとして,異議申立人の名称又は「Libra Record(s)」,「Libra TV!!!」,「Libra」等の文字やロゴ(以下「ライブラ標章」という。)が 10常に表示されており,また,異議申立人のウェブサイトにも,それが異議申立人の業務に係るものであることを表示するものとして,異議申立人の名称又はライブラ標章が常に表示されていた。 加えて,本件MCバトルの開催や当該MCバトルを収録したDVDは,引用商標と同一つづりの「UMB」の文字又は当該MCバトルの名称である「ULTIMATE MC BATTLE」の文字とともに,新聞,雑誌,テレビにおいても取り上げられた(甲13,19の1〜5,20の1〜5,21の1〜8,22の2・3)。 (5) 原告は,平成23年10月5日,CD,レコード,DVD,ビデオの企画・制作・販売,イベントの企画,運営等を目的として設立された。 (6) 原告は,平成26年3月14日,異議申立人に通告することなく,本件商標を出願した。また,原告は,平成27年,MCバトル「UMB」を開催し,原告代表者が審査員として参加した(甲61)。当該MCバトルは収容人数800人のところ,830枚の前売券及び当日券が販売された(甲62,63の1・2)。 2 取消事由1(商標法4条1項19号該当の判断の誤り)について (1) 引用商標が,原告代表者のAではない「他人」の業務に係る役務を表示するものとして,日本国内における需要者の間に広く認識されているかについて ア 前記1認定事実のとおり,異議申立人は,平成18年頃から約10年の長きにわたり,自己の名称又はライブラ標章の表示とともに,本件MCバトルの業務等についてUMB標章を継続的に使用しており,かつ,当該MCバトルは,北海道から沖縄に至る広範な地域において,毎年,約1000名のMCが参加し,決勝大会の観客動員数も1000名を優に超えるものであることからすれば,引用商標は,少なくとも我が国の需要者(MC及びラップミュージックの愛好家)の間において,異議申立人の業務,とりわけ,本件MCバトルを表すものとして,本件商標の登録出願日(平成26年3月14日)には,相当程度広く認識され,その周知性は,本件商標の登録査定日(平成26年8月22日)においても継続していたものということができる。 11 イ 原告の主張について これに対し,原告は,@原告代表者は,異議申立人に所属する以前から,ラップミュージックの愛好家の間において広く認識され,平成16年に自らMCバトルを立ち上げ,本件MCバトルの象徴的存在であったといえること,A本件MCバトルは,原告代表者が「オーディエンス参加型のジャッジシステム」を考案するなど原告代表者の監修の下に始められ,その名称「UMB」も原告代表者が発案し,引用商標のロゴは友人に依頼して作成したものであり,開催費用も原告代表者が負担していたこと,B異議申立人の本件MCバトルへの関与は,本件MCバトルが成功して以降にとどまり,原告代表者は,所属先である異議申立人の関与を支援の一環として受け入れたにすぎないことからすれば,引用商標は「他人」の商標に当たらないと主張する。 そこで,判断すると,原告代表者は,平成14年頃から平成15年頃にかけて,ラップミュージックの愛好家の間において注目され(甲48,49の1〜3・7〜9,51の1〜4),平成14年当時,日本最大規模のMCバトルであった「B BOY PARK」において優勝したこと(甲49の4〜6),平成16年から平成17年にかけて,本件MCバトルの前身である「お黙り!ラップ道場」を2回,「UMB」の名称を付した本件MCバトルの予選大会を5回開催し(内2回は「お黙り!ラップ道場」と併記),ジャッジシステムや「UMB」の名称を考案したことが認められる(甲49の14・15・17・19・20,50の1,53,57,58,60,66,67)。しかしながら,引用商標は,平成18年頃から,異議申立人の名称又はライブラ標章とともに,大会を告知するポスターやDVD等の物品販売において継続的に使用され,大会規模も次第に大きくなっていったのであるから,引用商標は,異議申立人の業務,とりわけ本件MCバトルを表すものとして需要者の間において周知になったというべきである。他方,原告代表者は,ラップミュージックの愛好家の間において知られ,本件MCバトルの前身の立上げに関与しているものの,引用商標が,異議申立人の本件MCバトルへの関与以前に,既にラップ 12ミュージックの愛好家の間において,原告代表者の主催するMCバトルを表すものとして,周知であったとまでは認め難いし,異議申立人がライブラ標章とともに引用商標を使用したことが,原告代表者に対する支援の一環にすぎなかったとも認め難い。 ウ したがって,引用商標は,「他人」である異議申立人の業務を表すものとして周知なのであり,原告代表者の業務を表すものとして周知であったとはいえない。 (2) 本件商標と引用商標とが類似していることについては,当事者間に争いがない。 (3) 不正の目的について ア 前記1認定事実のとおり,異議申立人は,平成18年頃から約10年間,自己の名称又はライブラ標章の表示とともに,UMB標章を使用して,本件MCバトルを開催し,かつ,当該MCバトルを収録したDVDの制作,販売等を行い,平成18年以降の累計販売枚数は,6万枚を優に超えていた。そして,引用商標は,本件商標の登録出願日には,少なくとも我が国の需要者の間において,異議申立人の業務,とりわけ,本件MCバトルを表すものとして,相当程度知られるに至っていて,その周知性は,本件商標の登録査定日においても継続していた。一方,原告代表者は,これらのことを知悉していたところ,異議申立人に通告せずに,引用商標と類似する本件商標を出願し,また,本件MCバトルとは別に,原告代表者が審査員として参加するMCバトルを開催した。 イ 以上のとおり,原告は,異議申立人に無断で本件商標を登録出願し,商標登録を受けた後,本件MCバトルとは別に,原告代表者が審査員として参加するMCバトルを開催し,引用商標と類似する「UMB」のロゴ及び「UMB」の文字を使用したのであるから,引用商標がいまだ商標登録されていないことを奇貨として,それに化体された業務上の信用と顧客吸引力にただ乗りし,不正の利益を得る目的を有していたものと認められる。また,異議申立人が本件MCバトルを収録したDVDを制作,販売していたことからすれば,原告は,引用商標と類似する「UMB」 13のロゴ及び「UMB」の文字を使用してMCバトルを開催することによって,異議申立人に,DVDの売上減少等の損害を加える目的を有していたものと認められる。 したがって,原告は,「不正の目的」をもって,引用商標と類似する本件商標を使用したと認められる。 (4) 以上によれば,本件商標は,他人の業務に係る役務を表示するものとして日本国内における需要者の間に広く認識されている引用商標と類似の商標であって,不正の目的をもって使用をするものであり,商標法4条1項19号に該当する。 3 取消事由2(異議申立ての権利の濫用)について 原告は,@異議申立人が他人の名声を不当に利用しようとしており,A分配金を約定どおりに支払わず,従業員等に対する暴力行為に及ぶ等の背信的行為を行ったことから,原告代表者は,異議申立人を離脱せざるを得なくなったのであるから,異議申立てを認容する本件決定は,権利の濫用を助長するものといえ,違法の評価を免れないと主張する。 しかしながら,@については,引用商標は異議申立人の業務を表すものであるから,本件異議申立てによって,異議申立人が他人の名声を不当に利用しようとしているとはいえず,Aの事情を考慮しても,商標法4条1項19号違反を理由とする本件異議申立てが権利の濫用として許されないということはできない。 4 結論 したがって,原告の主張する取消事由は,いずれも理由がなく,原告の本訴請求は棄却されるべきものである。 よって,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 部眞規子 |
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