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事件 平成 28年 (行ケ) 10115号 審決取消請求事件

原告X
同訴訟代理人弁理士 白坂一 播磨里江子
被告岩崎電気株式会社
同訴訟代理人弁理士 澤野勝文 川尻明
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2016/11/02
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が取消2014-300950号事件について平成28年4月14日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 被告は,昭和37年12月21日,指定商品を第11類「電球類及照明器具」として,「アイライト」の片仮名を横書きして成る商標(以下「本件商標」という。)につき,設定の登録を受けた(商標登録第0602699号。甲1,6の3,乙1)。
1 本件商標権は,5回にわたり,存続期間更新登録がされ,その間,平成16年4月14日に,指定商品を第11類「電球類及び照明用器具」とする指定商品の書換えが登録された(甲6の3)。
? 原告は,平成26年11月26日,本件商標の不使用を理由として本件商標の商標登録の取消しを求める審判を請求し,同年12月17日,同審判の請求が登録され,取消2014-300950号事件として係属した。
特許庁は,平成28年4月14日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同月22日,その謄本が原告に送達された。
? 原告は,平成28年5月20日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。要するに,被告が,平成26年9月18日に,広告照明用の各種照明器具全般の商標として本件商標を表示した商品カタログ(乙5。以下「本件カタログ」という。)を,自ら開設したウェブサイトに,閲覧及びダウンロードが可能なものとして掲載した行為(以下「本件使用行為」という。)を認定し,同行為をもって,本件審判の請求の登録前3年以内(以下「要証期間」という。)に,日本国内において,本件商標の商標権者である被告が,上記請求に係る指定商品第11類「電球類及び照明用器具」に含まれる「照明器具」について,本件商標と社会通念上同一ということのできる商標につき,商標法2条3項8号所定の使用をしたことを証明したものと認められるから,本件商標の登録は,同法50条の規定により取り消すことはできず,また,本件商標の使用は,同条3項本文に規定するいわゆる駆け込み使用と認めることはできない,というものである。
3 取消事由 ? 商標法50条所定の使用の事実を認定した誤り(取消事由1) 2 ? 商標法50条3項本文に該当しないとした判断の誤り(取消事由2)
当事者の主張
1 取消事由1(商標法50条所定の使用の事実を認定した誤り)について〔原告の主張〕 本件カタログは,その内容が漠然としており,専ら不使用を理由とする本件商標の商標登録の取消しを免れるために,名目的に本件商標を付したものにすぎない。
このような広告的使用は,商標法50条所定の「使用」に該当しない。
〔被告の主張〕 被告が開設したウェブサイトは,被告が製造・販売する照明用器具等に関する製品情報を掲載したものであり,照明用器具等の購入を検討する顧客が,その製品情報を入手・確認するためにアクセスして閲覧するものである。被告は,サイン広告照明に関する詳細な製品情報を顧客に提供するために,本件カタログを,上記ウェブサイトに閲覧及びダウンロードが可能なものとして掲載したのであるから,本件カタログの内容を漠然としたものにすることは,あり得ない。したがって,本件商標を,名目的に本件カタログに付したものということはできない。
2 取消事由2(商標法50条3項本文に該当しないとした判断の誤り)について〔原告の主張〕 たとえ被告による商標法50条所定の使用が認められたとしても,以下のとおり,同使用は,被告が本件審判の請求がされることを知った後である。
? 本件商標の権利行使を示唆した時点 株式会社ルイファン・ジャパン(以下「ルイファン社」という。)は,平成25年7月29日,「iLIte」(標準文字)なる商標(以下「iLIte商標」という。)の登録出願をし,また,平成26年2月14日,「iLite」(標準文字)なる商標(以下「iLite商標」という。)の登録出願をした。
ルイファン社は,iLite商標につき,平成26年5月27日付けで拒絶理由 3 通知を受けた。同拒絶理由通知には,商標法4条1項11号に係る引用商標として,本件商標及び被告を商標権者とする「EYE LIGHT」なる商標(商標登録1769321号。以下「EYE LIGHT商標」という。)が掲げられていた。
ルイファン社は,iLite商標について商標登録を受けるために,原告訴訟代理人白坂一を通じ,Aを請求人として,平成26年1月30日に,本件商標及びEYE LIGHT商標につき,不使用を理由とする商標登録の取消しを求める審判を請求し,本件商標に係る審判は,取消2014-300062号事件として(以下「前件審判」という。,EYE ) LIGHT商標に係る審判は,取消2014-300063号事件として(以下「別件審判」という。,それぞれ係属した。
) 被告は,前件審判及び別件審判の係属中,Aに対し,平成26年4月22日付けのファクシミリ(甲2。以下「本件FAX」という。)を送信した。被告は,前件審判及び別件審判は,いずれもルイファン社のダミーによる審判請求に係るものであることを認識した上で,本件FAXを送信したものである。そして,本件FAXには,仮に,前件審判及び別件審判の各請求が取り下げられた後に,ルイファン社が本件商標及びEYE LIGHT商標と同一又は類似の商標を使用した場合には,権利行使を検討中である旨を示唆するものと解される記載が見られる。
通常,このような示唆をされた者は,権利行使の対象とされる商標の商標登録を無効にする審判又は取り消す審判の請求を検討するはずである。
したがって,被告は,本件FAXによって上記権利行使の示唆をした時点において,当然に,本件商標について不使用取消審判が請求されることを知っていたものということができる。
? 前件審判の過程 前件審判におけるAの平成26年4月28日付け審判事件弁駁書及び被告の同年8月20日付け第二答弁書によれば,前件審判においては,本件商標につき,平成23年10月12日のただ1回の使用が証明されたにとどまり,被告は,同日から3年以内に本件商標が使用されない場合は,不使用取消審判を請求されて本件商標 4 の商標登録が取り消されることを,当然に認識していたものということができる。
? 被告の商品カタログ及びメールマガジン 被告は,本件審判において,本件カタログを含むデジタル形式の商品カタログ及びメールマガジンのバックナンバーの写しを提出し,それらには,いずれも平成26年10月8日付けのタイムスタンプが押されている(乙5,6等)。通常,デジタル形式の商品カタログやメールマガジンに関するウェブページにタイムスタンプを押す必要があることは考え難い。しかも,それぞれ別の日に掲載されたカタログとメールマガジンに上記タイムスタンプが押されており,これも,普通に見られることではない。被告は,本件審判の請求がされることを認識しており,それに備えてタイムスタンプを使用したものということができる。
? 被告と,原告及びAとのやり取り 被告は,本件商標に関し,前件審判及びその審決(以下「前件審決」という。)の取消訴訟(以下「前件訴訟」という。)並びに本件審判の過程において,原告やAとの間で,取下げ交渉等多数のやり取りをしていた。その過程において,本件商標につき,平成23年10月12日のただ1回の使用以外の使用を証明することができておらず,本件商標の商標登録が取り消される可能性を十分に認識していたものということができる。また,被告は,Aからはルイファン社の存在を説明されていないにもかかわらず,本件FAXにおいて同社に言及しており,同社によるiLite商標の登録出願の経過を観察したものと考えられる。
以上の経緯に照らせば,被告は,自らのウェブサイトに本件カタログを掲載した平成26年9月18日の時点までに,本件商標について再度の不使用取消審判の請求がされることを認識していたものということができる。
? 被告による新たな商標登録出願 被告は,平成26年10月8日,二段組みで,上段は片仮名の「アイライト」から成り,下段はアルファベットの大文字の「EYE LIGHT」から成る商標(以下「アイライト/EYE LIGHT商標」という。)の登録出願(商願20 5 14-84837号)をした。
上記出願は,前件審決の確定前であり,かつ,前記1〔原告の主張〕のとおり被告が本件商標の広告的使用をした時期と同時期であること,一般的に,片仮名とアルファベットの二段表記の商標を使用する機会は少ないことなどから,被告は,前件審判において本件商標の商標登録を取り消される可能性とともに,仮に取り消されなかったとしても,再度の不使用取消審判の請求がされることを認識し,本件商標の商標登録が取り消されるリスクを意識して,取り消された場合でもアイライトに関連する商標権を有することができるよう,上記出願をしたものである。
? 小括 以上のとおり,被告は,前記各時点において,本件商標につき,不使用取消審判の請求がされることを知っていたものということができ,本件使用行為は,商標法50条3項本文に該当する。
〔被告の主張〕 ? 本件商標の権利行使を示唆した時点について ア ルイファン社による商標登録の出願経過書類,前件審判の関連書類,別件審判の関連書類及び前件訴訟の関連書類及び本件審判の関連書類(甲5〜9。枝番を含む。)のいずれにも,本件商標の駆け込み使用を証明する証拠となり得る事実の記載は,見られない。
イ 被告が本件FAXをAに送信した経緯は,以下のとおりである。すなわち,被告は,Aから,前件審判の請求を取り下げる意向を示されるとともに,同取下げの承諾書の交付を依頼された。被告は,Aが同取下げの代償として本件商標の使用許諾等を求めてくる可能性を想定し,取下げの理由を尋ねたところ,本件商標の使用が判明したためであるとの回答が来た。被告は,前件審判の請求を受けて調査をした結果,ルイファン社が本件商標と同一の「アイライト」なる商標又は類似の商標であるiLite商標を使用していること,iLite商標の登録出願をしていることなどが判明し,Aはルイファン社のダミーではないかと推察した。そこで, 6 被告は,Aに対し,別件審判の取下げ及びiLite商標の指定商品中本件商標の指定商品と抵触するものを削除する補正等を求める内容の本件FAXを送信した。
これに対し,原告代理人白坂から,ルイファン社の関与を明確に否定するとともに,上記補正等には応じられないという趣旨の回答があったので,被告は,ルイファン社との間では何らの手続も取っていない。
また,被告は,本件審判の請求書副本が送達されるまで,請求人である原告の存在さえ認識していなかったのであるから,本件審判の請求の登録前に,原告との間で何らかの手続を取ることは,あり得ない。
加えて,そもそも権利行使を検討中である旨を示唆することは,それ自体,商標法50条3項本文所定の要件に該当することではない。
? 前件審判の過程について 被告において原告主張に係る認識を有していたとしても,それは,本件商標の不使用取消審判が請求される一般的,抽象的な可能性の認識にとどまり,原告から本件審判を請求される蓋然性が高いことを認識していたものと認めることはできないから,商標法50条3項本文に該当しない。
? 被告の商品カタログ及びメールマガジンについて 被告において,本件商標の不使用取消審判が請求されることを想定して商品カタログやメールマガジンのバックナンバーにタイムスタンプを押していたとしても,上記想定は,本件商標の不使用取消審判が請求される一般的,抽象的な可能性の認識にとどまり,原告から本件審判を請求される蓋然性が高いことを認識していたということはできない。
? 被告と,原告及びAとのやり取りについて 被告は,本件審判の請求の登録がされる前は,原告の存在自体を知らなかったのであるから,原告による本件審判の請求を認識するはずがない。
? 被告によるアイライト/EYE LIGHT商標の登録出願について 被告がアイライト/EYE LIGHT商標の登録出願をしたのは,前件審判に 7 おいて本件商標の商標登録が取り消されずに維持されれば,ルイファン社によるiLite商標の登録出願が本件商標に類似するとして拒絶査定を受け,その後願に係るアイライト/EYE LIGHT商標が登録されることとなり,別件審判の審決により商標登録を取り消されたEYE LIGHT商標の使用権を再度取得することが可能となるからである。
仮に,前件審判において本件商標の商標登録が取り消されれば,iLite商標が登録されることとなり,アイライト/EYE LIGHT商標の登録出願は,先願に係るiLite商標に類似するとして拒絶査定を受けることとなる。
したがって,被告は,本件商標の商標登録が取り消されるリスクを意識して,取り消された場合でもアイライトに関連する商標権を有することができるように,アイライト/EYE LIGHT商標の登録出願をしたのではなく,本件商標の商標登録が取り消されることなく維持されることを予測して上記出願をしたものである。
? 小括 以上によれば,本件使用行為は,被告において本件審判の請求がされることを知った後の行為であることを原告が証明したということはできず,したがって,商標法50条3項本文に該当しない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法50条所定の使用の事実を認定した誤り)について ? 認定事実 前記第2の1,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告が要証期間中に行った広告・宣伝等に関し,以下のとおりの事実が認められる。
ア 被告は,各種光源及び照明器具の製造,販売等を目的とする株式会社であり,昭和19年8月に設立された。
イ 本件カタログ(乙5)は,被告が発行したPDF形式のサイン広告照明カタログであり,表紙に「2014」「IWASAKI , 70th SINCE 1944」との記載が,表紙の次のページに「高品質なサイン広告照明『アイライト 8 ?』」との記載が,その次のページに「『アイライト?』シリーズの広告照明」との記載が,最終ページに「創立70周年。 , 」 「このカタログの記載内容は平成26年8月現在のものです。 , 」 「SL12.14.9」との記載がある。また,表紙上部には,「2014/10/08 10:16 JST」のタイムスタンプが押されている。
乙第6号証は,被告が発行したデジタルカタログ形式のサイン広告照明カタログであり,「高品質なサイン広告照明『アイライト?』を通じて。, 」「IWASAKI 70th SINCE 1944」 「 , 『アイライト?』シリーズの広告照明」との記載があり,上部には,「2014/10/08 17:31 JST」のタイムスタンプが押されている。
これらのカタログには,LED投光器,HID投光器等が,「レディオック LEDアイランプ」などの製品名,価格,製品仕様等を明示して掲載されている。
被告のウェブサイトのホームページ中,更新情報のページには,「2014年9月18日 カタログ請求・データダウンロード-サイン広告照明2014」との記載がある(乙7)。
ウ 被告のウェブサイトのホームページ中,メールマガジンのバックナンバーのページには,「バックナンバー〔2014.10.1〕, 」「2014.10.1 VOL.188」「新しいサイン広告照明カタログ〔SL12.14.9〕を刊行い ,たしました。LED投光器やLEDランプなどのレディオックシリーズをはじめ,高品質なサイン広告照明“アイライト”を多数掲載しています。」との記載がある(乙10の1・2。以下「本件メールマガジン」という。。乙第10号証の2の上 )部には,「2014/10/08 17:43 JST」のタイムスタンプが押されている。
? 被告による本件商標の使用について 前記?の認定事実によれば,被告は,平成26年8月頃,その販売するサイン広告照明に係るLED投光器やHID投光器等の照明器具を掲載し,「高品質なサイ 9 ン広告照明『アイライト?』,『アイライト?』シリーズの広告照明」などと記載 」「したPDF形式の本件カタログを作成して,これを,平成26年9月18日に,被告のウェブサイトのホームページから閲覧及びダウンロードが可能なものとして掲載した(本件使用行為)。
したがって,被告は,要証期間中の平成26年9月18日に,本件商標を,その指定商品である照明用器具に関する広告を内容とする情報に付して電磁的方法により提供したものであり,これは,商標法2条3項8号所定の行為であるから,同法50条所定の「使用」の事実が認められる。
? 原告の主張について ア 原告は,本件カタログは,その内容が漠然としており,専ら不使用を理由とする本件商標の商標登録の取消しを免れるために,名目的に本件商標を付したにすぎず,このような広告的使用は,商標法50条所定の「使用」に該当しない旨主張する。
イ しかし,商標法50条の主な趣旨は,登録された商標には,その使用の有無にかかわらず,排他独占的な権利が発生することから,長期間にわたり全く使用されていない登録商標を存続させることは,当該商標に係る権利者以外の者の商標選択の余地を狭め,国民一般の利益を不当に侵害するという弊害を招くおそれがあるので,一定期間使用されていない登録商標の商標登録を取り消すことについて審判を請求することができるというものである。
上記趣旨に鑑みれば,商標法50条所定の「使用」は,当該商標がその指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用(商標法2条3項各号)されていれば足り,出所表示機能を果たす態様に限定されるものではないというべきである。
しかも,前記?のとおり,本件カタログには,LED投光器,HID投光器等が,「レディオック LEDアイランプ」などの製品名,価格,製品仕様等を明示して掲載されている。このように,本件カタログには,被告が販売する照明用器具の広告・宣伝が具体的に記載されており,内容が漠然としたものであるということはで 10 きない。加えて,本件カタログは,その記載内容から,昭和19年8月に設立された被告の創立70周年という節目を迎えたことを契機に作成されたものと認められ,同じ頃に発行されたデジタルカタログ形式のサイン広告照明カタログ及び本件メールマガジンの内容に照らしても,殊更に本件商標の使用実績を残すことのみを意図して作成されたものとみることはできない。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
? 小括 以上のとおり,取消事由1は,理由がない。
2 取消事由2(商標法50条3項本文に該当しないとした判断の誤り)について ? 認定事実 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,前件審判や別件審判の経緯等に関し,以下の事実が認められる。
ア ルイファン社による商標の登録出願について (ア) ルイファン社は,平成25年7月29日,原告代理人白坂を代理人として,指定商品を第11類「防災用照明」等及び第28類「おもちゃ」等とするiLIte商標の登録出願(商願2013-058924号)をした。
同社は,同年11月15日付けで拒絶理由通知を受けた。同通知においては,上記商標が商標法4条1項11号に該当することが拒絶理由の1つとして掲げられており,引用商標一覧中,指定商品を第11類とするものは,被告を商標権者とする本件商標及びEYE LIGHT商標である。ルイファン社は,平成26年3月3日付けで,上記拒絶理由通知に係る拒絶理由が解消されていないとして,上記登録出願について拒絶査定を受けた(甲5の2〜5・8)。
(イ) ルイファン社は,平成26年2月14日,原告代理人白坂を代理人として,指定商品を前記(ア)の指定商品と同一のものとするiLite商標の登録出願(商願2014-010742号)をした。
11 同社は,同年5月27日付けで,前記(ア)の拒絶理由通知と同様の内容の拒絶理由通知を受けた。
同社は,同年6月4日付け意見書を提出し,前件審判及び別件審判が係属中であることに言及し,これらの審判によって本件商標及びEYE LIGHT商標の各登録が取り消されれば,第11類の指定商品についての拒絶理由は全て解消するので,上記各審判の審決を待って審査を進めてほしい旨を述べた(甲5の10・11・13)。
イ 前件審判及び別件審判について (ア) ルイファン社は,iLite商標の登録出願に当たり,これと指定商品を同じくし,外観等が類似するiLIte商標の登録出願に対する拒絶理由通知と同様の内容の拒絶理由通知を受けることが見込まれたことから,前記ア(ア)のiLIte商標の登録出願に対する拒絶理由通知中,第11類の指定商品に関する商標法4条1項11号の引用商標として掲げられた本件商標及びEYE LIGHT商標の取消しを求めて,iLite商標の登録出願に先立ち,平成26年1月30日付けで,Aを請求人,原告代理人白坂を代理人として,本件商標及びEYE LIGHT商標についてそれぞれ不使用取消審判を請求した。本件商標に係る前件審判は,取消2014-300062号事件として(甲6の1),EYE LIGHT商標に係る別件審判は,取消2014-300063号事件として(甲7の1),それぞれ係属した。
被告は,前件審判において,平成26年3月20日付け答弁書を提出して,前件審判に係る要証期間中である平成23年10月に本件商標を使用した旨を主張した(甲6の9)。
(イ) Aは,被告に対し,前件審判を取り下げる旨の意向を示した。原告代理人白坂は,前件審判においても被告の代理人を務めていた被告訴訟代理人澤野勝文に対して,平成26年4月17日付けの文書(乙13)を送付し,Aが上記取下げを希望する理由は,本件商標の使用が判明したためである旨説明するとともに,同封 12 の取下げに係る承諾書への捺印を依頼した。
被告代理人澤野は,上記文書に対し,同月22日付けのファクシミリ(甲2。本件FAX)を送信した。本件FAXには,@前記ア(ア)のとおりルイファン社がiLIte商標の拒絶査定を受けた経緯,同社が前件審判及び別件審判の各請求をした後に,指定商品をiLIte商標と同じくするiLite商標の登録出願をしたこと,上記各商標の登録出願に当たりルイファン社の代理人を務めた者と,上記各審判請求者の代理人が同一人であること,ルイファン社は,iLite商標及び本件商標を使用したペン型ライトを平成25年12月から販売していることから,前件審判及び別件審判を,ルイファン社のダミーが請求したものと理解していること,A別件審判の取下書の提出及びiLite商標の登録出願において指定商品から第11類のものを削除する補正書の提出を要求すること,B前件審判の取下げに係る承諾書は,上記取下書及び補正書の各写しと引換えに渡すことが記載されており,また,末尾に,「なお,ルイファン社が当社登録商標と同一又は類似の商標『iLite』及び『アイライト』を使用してペン型ライトを販売している行為につきましては,現在その対応を検討中であることを申し添えます。」と記載されている。
原告代理人白坂は,本件FAXに対し,平成26年4月25日付けのファクシミリ(乙14)を送信した。同ファクシミリには,前件審判及び別件審判のいずれも取り下げないこと,Aとルイファン社とは関係がないので,同社による商標登録出願に係る補正をすることなどの要望には応じられないことが記載されている。
(ウ) Aは,前件審判において,平成26年4月28日付け審判事件弁駁書(甲6の17)を提出して前記(ア)の被告の答弁書に反論し,被告は,同年8月20日付け第二答弁書(甲6の19)を提出し,上記弁駁書に反論した。
特許庁は,同年9月8日付けで前件審判の審理を終結し,同月10日,審理終結通知書が,各当事者に発送された(甲6の21)。
特許庁は,同年9月24日,前件審判につき,「本件審判の請求は,成り立たない。」との前件審決をした。その理由は,被告が,平成23年10月12日付けで, 13 本件商標が付された個装箱で包装したメタルハライドランプ水中灯を納品したものと認められ,この行為をもって,前件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,商標権者である被告が上記請求に係る指定商品について,本件商標と社会通念上同一ということのできる商標を使用していたことを証明したものと認められるから,本件商標の登録は,商標法50条の規定により取り消すことはできない,というものである(甲6の22)。
他方,被告は,別件審判においては,答弁をせず,特許庁は,平成26年6月17日,EYE LIGHT商標の商標登録を取り消すとの審決をした(甲7の13)。
ウ 前件訴訟について Aは,原告訴訟代理人らを代理人として,平成26年10月24日付けで,前件審決の取消しを求める前件訴訟(平成26年(行ケ)第10234号)を提起した。
Aは,同訴訟の係属中,平成27年6月18日に,被告が本件商標の商標権の一部を無償で利害関係人のルイファン社に譲渡するなどという内容の和解条項案を示したこともあったが,和解成立には至らなかった(甲8の1・34・35)。
知的財産高等裁判所は,同年11月26日,請求棄却の判決を言い渡した(甲8の37)。
エ 本件審判について 原告は,平成26年11月26日,本件審判を請求し,同年12月17日,同審判の請求が登録された。特許庁は,平成28年4月14日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をした。
原告は,同年5月20日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
オ 被告による商標登録出願について 被告は,平成26年10月8日,指定商品を第11類「電球類及び照明用器具」として,アイライト/EYE LIGHT商標の登録出願(商願2014-84837号)をした(甲11の1・3)。
14 被告は,平成27年1月20日付けで,上記商標は,ルイファン社が登録出願中のiLite商標と同一又は類似であるとして商標法4条1項11号に該当する旨の拒絶理由通知を受けた(甲11の4)。
被告は,平成27年3月3日,意見書を提出し,iLite商標は,これと称呼において類似する本件商標の登録が存続する限り,商標登録される可能性が極めて低いので,前件判決の確定まで被告の上記登録出願に対する判断を留保してほしい旨を述べた(甲11の6)。
? 商標法50条3項本文所定の「その審判の請求がされることを知った」について ア 商標法50条3項は,審判請求人に対し,当該商標を使用した商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが当該商標の使用をした場合,同使用が「その審判の請求がされることを知った後であること」の証明を求めており,同規定に照らすと,「その審判の請求がされることを知った」とは,当該審判請求を行うことを交渉相手から書面等で通知されるなどの具体的な事実により,当該相手方が審判請求する意思を有していることを知るなど,客観的にみて審判請求をされる蓋然性が高く,かつ,上記商標の使用者がこれを認識していると認められる場合をいうと解すべきであり,上記商標の使用者において単に審判請求を受ける一般的,抽象的な可能性を認識していたのみでは足りないというべきである。
イ 前記1のとおり,被告は,平成26年8月頃,昭和19年8月の創立から70周年という節目を迎えたことを契機に,本件カタログを作成し,同年9月18日に,被告のウェブサイトのホームページから閲覧及びダウンロードが可能なものとして掲載した。被告は,本件カタログにおいて,「高品質なサイン広告照明『アイライト?』」などと本件商標を広告・宣伝に使用し,LED投光器等の照明器具を,製品名,価格,製品仕様等を明示して掲載している。また,本件カタログとほぼ同時期に,デジタルカタログ形式のサイン広告照明用カタログ(乙6)を作成し,被告のウェブサイトのホームページから閲覧及びダウンロードが可能なものとして掲 15 載した。このカタログにも,「高品質なサイン広告照明『アイライト?』を通じて。 , 」 「IWASAKI 70th SINCE 1944」などの記載がある。
さらに,被告は,平成26年10月1日,上記ホームページに,「高品質な広告照明“アイライト”を多数掲載しています。」など本件カタログを紹介する本件メールマガジンを掲載した。
上記の本件カタログの作成経緯,本件カタログ及びデジタルカタログ形式のカタログの内容,特に,これらのカタログにおいて本件商標が広告・宣伝に使用されている状況,本件メールマガジンの内容に不自然な点はなく,これらの事実自体からは,被告において本件審判請求がされることを知って殊更に本件商標を要証期間内に使用した実績を作出したことはうかがわれない。
ウ 前記?のとおり,@ルイファン社は,iLIte商標の登録出願につき,平成25年11月15日付けで,本件商標及びEYE LIGHT商標との関係で商標法4条1項11号に該当する旨の拒絶理由通知を受け,平成26年3月3日付けで,拒絶理由が解消されていないとして拒絶査定を受けたこと,Aルイファン社は,本件商標及びEYE LIGHT商標の取消しを求めて,平成26年1月30日付けで,Aを請求人として,本件商標及びEYE LIGHT商標についてそれぞれ不使用取消審判を請求したこと,Bルイファン社は,平成26年2月14日,指定商品をiLIte商標の指定商品と同一のものとしてiLite商標の登録出願をしたこと,C@からBのいずれも,原告代理人白坂が,ルイファン社ないしAの代理人を務めたこと,D被告は,@からCの事実を認識し,前件審判及び別件審判のいずれも,ルイファン社のダミーが請求したものと理解していたことが認められる。
これらの事実によれば,被告は,平成26年9月18日当時,ルイファン社がiLite商標の拒絶理由を解消して商標登録を受けるために,本件商標の登録の取消しを強く求めていたことを,認識していたものと推認することができる。
しかし,前記?のとおり,平成26年9月18日当時,本件商標の不使用取消審判である前件審判は,既に審理は終結していたものの,いまだ審決には至っていな 16 かった。しかも,同年4月頃,Aは,被告に対し,前件審判を取り下げる旨の意向を示し,その理由については,本件商標の使用が判明したためである旨を説明した。
以上によれば,同年9月18日の時点において,客観的にみて,本件商標につき,別途の不使用取消審判請求をされる蓋然性が高かったということはできない。
加えて,本件証拠上,本件審判請求前に,原被告間に何らかの接点があったことさえ,認めるに足りない。また,本件使用行為以降の状況をみても,被告が,本件使用行為当時,本件商標の不使用取消審判請求がされることを知っていたことを裏付けるような事情は,みられない。
したがって,被告による平成26年9月18日の本件使用行為は,被告において本件審判請求がされることを知った後のものであるということはできない。
エ 原告の主張について(ア) 原告は,被告が本件FAXにおいて本件商標に係る権利行使を示唆したとして,そのような示唆をされた者は,権利行使の対象とされる商標の商標登録を取り消す審判等の請求を検討するはずであるから,被告は,上記示唆の時点において,本件商標について不使用取消審判が請求されることを知っていた旨主張する。
しかし,本件FAXの内容に鑑みれば,これを受領した者において,直ちに権利行使の対象とされる商標の商標登録を取り消す審判等の請求を検討するとは,必ずしもいえない。加えて,被告代理人澤野が本件FAXを送信した当時,前件審判は係属しており,Aから取下げの意向が示されていたのであるから,この時点において,客観的にみて,本件商標につき,別途の不使用取消審判請求をされる蓋然性が高かったということはできない。
(イ) 原告は,前件審判においては,本件商標につき,平成23年10月12日のただ1回の使用が証明されたにとどまり,被告は,同日から3年以内に本件商標が使用されない場合は,不使用取消審判を請求されて本件商標の商標登録が取り消されることを当然に認識していた旨主張する。
しかし,原告が主張する上記認識は,不使用取消審判請求を受ける一般的,抽象 17 的な可能性の認識の域を出るものではない。
(ウ) 原告は,本件カタログを含む被告の商品カタログ及び本件メールマガジンに,平成26年10月8日付けのタイムスタンプが押されていることにつき,被告は,本件審判が請求されることを認識しており,それに備えてタイムスタンプを使用したものということができる旨主張する。
上記タイムスタンプの使用は,平成26年9月18日の本件使用行為よりも後のことである上,この事実をもって,被告において本件審判が請求されることを認識していたとは,直ちにいうことはできない。たとえ,被告が不使用取消審判を請求される可能性を認識し,それに備えてタイムスタンプを使用していたとしても,同認識は,不使用取消審判請求を受ける一般的,抽象的な可能性の認識にとどまる。
(エ) 原告は,被告は,原告やAとの間で取下げ交渉等多数のやり取りをしており,その過程において,本件商標につき,平成23年10月12日のただ1回の使用以外の使用を証明することができておらず,本件商標が取り消される可能性を十分に認識しており,また,ルイファン社によるiLite商標の登録出願の経過を観察していたことから,平成26年9月18日の時点までに,本件商標について再度の不使用取消審判が請求されることを認識していた旨主張する。
しかし,前記ウのとおり,本件審判請求の前に,原被告間に何らかのやり取りがあったとは認めるに足りず,前記?の被告とAないしその代理人であった原告代理人白坂とのやり取りに照らしても,被告において上記認識を有していたと認めるに足りない。加えて,そもそも上記認識も,不使用取消審判請求を受ける一般的,抽象的な可能性の認識にすぎないものということができる。また,前記?によれば,被告は,iLite商標の登録出願の経過等を調査して,前件審判及び別件審判はルイファン社のダミーが請求したものであるという推論に至っているが,このこと自体は,被告が本件商標について再度の不使用取消審判が請求されることを認識していたことを裏付けるものではない。
? 小括 18 以上のとおり,取消事由2は,理由がない。
3 結論 以上によれば,原告主張の審決取消事由にはいずれも理由がなく,したがって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 部眞規子
裁判官 古河謙一
裁判官 鈴木わかな
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