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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17・248損害賠償請求控訴事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  指定役務 /  普通名称(3条1項1号) /  周知性 /  顧客吸引力(グッドウィル) /  損害額 /  使用料相当額 /  差止 /  継続 /  商号 / 
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事件 平成 15年 (ワ) 2984号 商標権侵害差止等請求事件
原告 株式会社ビーアンドブィ
上記訴訟代理人弁護士 小林幸夫
同訴訟復代理人弁護士 弓削田博
同補佐人弁理士 村橋史雄
同 石田昌彦
同 遠藤祐吾
被告 有限会社オラカ
上記訴訟代理人弁護士 崔宗樹
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2004/05/28
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,原告に対し,140万円及びこれに対する平成15年2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを5分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決の第1項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
原告の請求
(1) 被告は,その営業する店舗に「カラオケ館」その他「カラオケ館」を付加して表示する標章を付して展示してはならない。
(2) 被告は,その取り扱う宣伝用パンフレットその他の広告,定価表又は取引書類に「カラオケ館」その他「カラオケ館」を付加して表示する標章を付して展示し又は頒布してはならない。
(3) 被告は,原告に対し,9786万6720円及びこれに対する平成15年2月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 原告は,「カラオケ館」という商標(以下「本件商標」という。)について商標権を有するとともに,これを使用してカラオケ店を経営している。
本件において,原告は,「カラオケ館」等の標章を使用してカラオケ店を経営している被告の行為が,商標権侵害及び不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当すると主張して,商標法36条1項ないし不正競争防止法3条1項に基づき,本件商標等を付した看板等の展示及びパンフレット等の使用の差止めを求めるとともに,商標法38条2項,3項又は不正競争防止法4条,5条1項ないし2項1号に基づき損害賠償金9786万6720円(遅延損害金を含む。)の支払を求めている。
2 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定される事実。証拠により認定した事実については末尾に証拠を掲げた。) (1) 原告は,カラオケ施設の提供を主たる業務とする株式会社であり,被告は,カラオケボックスの経営等を目的とする有限会社である。
(2) 原告は,次の商標権(以下「本件商標権」という。)を有している(甲1,2)。
登録番号 第4539039号 出願日 平成12年4月25日 登録日 平成14年1月25日 役務の区分 第41類 指定役務 カラオケ施設の提供 登録商標 別紙商標目録記載のとおり (3) 原告は,昭和59年6月ころ設立され,平成2年2月から,東京都内において店舗名に本件商標を用いたカラオケボックス店の営業を開始し,その後,首都圏,繁華街を中心に直営店に限定して店舗を展開した。原告は,平成14年12月現在,従業員1600名,年商140億円であり,首都圏において44店舗(東京都内40店舗,神奈川県内1店舗〔川崎市川崎区所在〕,埼玉県内3店舗)を有している(甲3,4)。
(4) 被告は,平成14年3月8日から平成15年4月28日まで,横浜市中区長者町9-170において,「カラオケ館」「カラオケ館長者町店」「カラオケ館ベイブリッジ」「カラオケ館ベイブリッジ長者町店」の各標章(以下これらを併せて「被告標章」と総称する。)を,看板,宣伝用パンフレットその他の広告,定価表等に付して使用して,カラオケ店(以下「被告店舗」を営業していた(甲6,7の1,2,乙1,弁論の全趣旨)。
3 争点 (1) 商標権侵害,不正競争(不正競争防止法2条1項1号)の成否(争点1) (2) 差止めの利益の存否(争点2) (3) 原告の損害額(争点3)
争点に関する当事者の主張
1 争点1(商標権侵害,不正競争(不正競争防止法2条1項1号)の成否) (原告) (1) 商標権侵害について 被告標章は本件商標と同一ないし極めて類似するものであり,被告がこれを指定役務であるカラオケボックス店の営業において使用する行為は,原告の商標権を侵害する。
(2) 不正競争行為について ア 本件商標は,原告の営業等表示として需要者の間に広く知られたものである。
被告の営業と原告の営業が,同じカラオケボックス店の営業であり,かつ,被告標章が本件商標と同一ないし極めて類似していることから,被告が被告標章を用いてする営業行為は,原告の営業と混同を生じさせる行為であり,不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当する。
イ 被告は混同を争うが,被告店舗を原告のカラオケ施設であると誤認して,被告店舗に入店する顧客が存在する。被告店舗を原告の店舗と混同する顧客がいることは,原告店舗に被告店舗の電話番号を問い合わせてくる客がいること,被告の会員証を提示して原告店舗に入店しようとする客がいたことから明らかもである。
被告は,原告店舗と被告店舗は商圏を異にしており,顧客が競合することはない旨を主張するが,原告店舗の会員の中には被告店舗所在地である中区等に居住している者も存在していることから,両者が競合関係にあることは明らかである。
(被告) (1) 商標権侵害について 被告標章が本件商標と同一ないし同一部分を含むことは認める。
(2) 不正競争行為について 被告標章が本件商標と同一ないし同一部分を含むことは認めるが,本件商標が原告の営業等表示として需要者の間に広く知らていることは,不知。
被告店舗と原告店舗とでは,美的レベルに格段の差が存在しており,被告の営業行為が原告の商品または営業と混同を生じさせる度合いが高度であることについては否認する。
カラオケボックスの商圏は,1ないし3キロメートル程度であるところ(乙4),被告店舗にもっとも近い原告の店舗は,直線距離で少なくとも15キロメートルは離れているのであるから(乙3),原告の店舗と被告店舗の顧客が競合することはない。
2 争点2(差止めの利益の存否) (原告) 被告は,現在も,被告店舗においてカラオケボックス店の営業を継続しているものであって,今後,その営業に被告標章の使用を再開する可能性は少なくないから,差止の利益は存在する。
(被告) 被告は,平成15年4月28日,横浜市中福祉保健センターに廃業届けを提出し,それ以降,被告店舗の営業を行っていないから,差止の利益は存在しない。
3 争点3(原告の損害額) (原告) (1) 商標法38条2項,不正競争防止法5条2項に基づく損害額 ア 被告店舗の売上等 被告店舗における被告の売上高は,月額1100万円であり,売上原価(商品仕入高)は月額約100万円である。そして,被告店舗の販管費は月額500万円を上回らないから,被告の利益は月額500万円を下らない。これに対し,被告は,被告店舗における販管費は月額1100万円以上である旨主張するが,被告店舗のような規模において,販管費が月額1000万円を超えることはあり得ない。売上の月額と販管費の月額がほぼ同額であり,毎月赤字を出しながら現在に至ってもカラオケ店を経営している旨の被告の主張は到底信用できない。
イ 被告店舗の営業期間等 被告が,被告店舗を経営していた期間は,平成14年3月8日ないし平成15年4月28日までの14か月間である。
さらに,被告の前営業主体が,平成12年5月から同店舗において,被告標章を用いてカラオケ店を経営しており,被告は,上記前営業主体から営業譲渡を受けたから,前営業主体のカラオケ店経営によって生じた損害賠償金支払義務を承継したというべきである。
仮に,被告が前営業主体から営業譲渡を受けた事実が認められないとしても,営業の表示を続用して営業を続けているのであるから,商法26条1項を類推適用して,営業表示の譲受人である被告は,営業表示の譲渡人である前営業主体の債務を引き受けるべきである。
ウ 寄与率 被告は,本件商標と同一又は極めて類似する被告標章を被告店舗の外壁,入り口,路上の看板など,需要者の目に付きやすい場所に付し,顧客に対して交付する会員証にも付していた。原告は,カラオケ業界において業界第2位の実績を誇っており,本件商標の周知性は高いから,上記のように被告が本件商標と同一又は酷似した被告標章を多用して顧客を誘引したことによって得た顧客は極めて多数にのぼるものと考えられる。上記被告の得た利益における被告標章の寄与度は40パーセントを下らない。
エ 小括 以上によれば,被告が被告標章を使用したことによって得た利益は,7200万円(500万円×36か月×40%)を下らない。
したがって,被告が被告商標を使用してカラオケ店を経営したことによって原告が被った損害は,上記被告の得た利益と同額の7200万円である。
(2) 商標法38条3項,不正競争防止法5条3項1号に基づく損害額 ア ライセンス料 原告の競業会社である訴外株式会社第一興商(以下「第一興商」という。)は,フランチャイジーに対して,「BIG ECHO(ビッグ エコー)」のライセンス料としてカラオケルーム1室当たり月額5000円を設定している。
第一興商は業界4位であるのに対し,原告の実績は業界2位である。また,原告は,本件商標のブランド価値の管理の意味から,第三者に本件商標をライセンスする意思を有しておらず,現在も全店直営店であることを考えると,原告が,仮に本件商標をライセンスするとしてもライセンス料はカラオケルーム1室当たり月額6000円を下回ることはない。
イ 被告店舗のカラオケルームの数 被告店舗はカラオケルーム数が28室である。
ウ 被告店舗の営業期間 被告店舗の営業期間については,前記(1)イのとおりであり,被告は,平成12年5月から平成15年4月28日までの前営業主体ないし被告による36か月間の被告店舗の営業につき損害賠償義務を負う。
エ 小括 本件商標を使用する場合に原告が受けるべき金銭の額は,少なくとも604万8000円(6000円×28室×36か月)である。
(被告) (1) 商標法38条2項,不正競争防止法5条2項に基づく損害について ア 被告店舗の売上等 被告店舗における被告の売上高が月額1100万円であるとの主張は認める。
しかし,被告店舗の売上高は,1日37万4660円(年間1億3487万7731円の日割計算)であり,被告店舗の一般管理費は,年間1億2272万3053円であったから,被告は,被告店舗において利益を上げていなかった。
イ 被告店舗の営業期間等 被告は,平成14年3月8日から平成15年4月28日までの間,被告標章を使用して被告店舗を営業していた。
原告は,被告が,被告店舗の前経営者から営業譲渡を受けた旨主張するが,そのような事実はない。被告は,被告店舗建物の所有者である株式会社丸富(以下「丸富」という。)との間で,平成14年2月1日に,被告店舗建物につき賃貸借契約を締結し,その際,丸富は,前経営者である株式会社オージーコーポレーション(以下「オージー」という。)から現状のまま引渡しを受けていたので,そのまま被告標章を使用して店舗を利用したにすぎない。オージーが丸富に対し被告店舗建物を引き渡したのは,被告設立の前であって,被告が,オージーから営業譲渡を受けるということはあり得ない(乙6,7)。
ウ 寄与率 仮に,被告が利益を上げていたとしても,被告標章が利益に寄与した事実はない。
(2) 商標法38条3項,不正競争防止法5条3項1号に基づく損害について 原告の商標法38条3項,不正競争防止法5条3項1号に基づく主張は時機に後れた攻撃防御方法であり,却下されるべきである。
なお,原告は,第一興商のライセンス料が1室月額5000円であるから,同社の業界実績を上回る原告のライセンス料は1室月額6000円であると主張するが,業界実績とライセンス料との間に必然性はない。
当裁判所の判断
1 争点1(商標権侵害,不正競争(不正競争防止法2条1項1号)の成否)について (1) 商標権侵害について 被告標章は,「カラオケ館」「カラオケ館長者町店」「カラオケ館ベイブリッジ」「カラオケ館ベイブリッジ長者町店」というものであり,これらは本件商標(「カラオケ館」)と同一か又は本件商標を含むものであるが,後者においても,本件商標に付加された部分は店舗の所在地を示すものであるから,営業主体を表示する機能を有する部分は,本件商標と同一の「カラオケ館」の部分にある。したがって,被告標章は本件商標と同一又は類似するものであるから,これらの標章を本件商標の指定役務(「カラオケ施設の提供」)に使用する被告の行為は,原告の商標権を侵害する。
(2) 不正競争行為について 前記前提となる事実(前記第2,2(3))に記載したとおり,原告は,平成2年2月から,東京都内において店舗名に本件商標を用いたカラオケボックス店の営業を開始し,その後,首都圏において店舗を展開して,平成14年12月現在,従業員1600名,年商140億円であり,首都圏において44店舗(東京都内40店舗,神奈川県内1店舗〔川崎市川崎区所在〕,埼玉県内3店舗)を有しているものである。
本件商標(「カラオケ館」)は,「カラオケ営業を行う施設」を意味する普通名称に極めて近接した語を商標として出願したものであり,その性質上,自他識別力の乏しいものであるが,上記の原告の営業年数,営業規模,店舗数に照らせば,首都圏少なくとも東京都,埼玉県及び神奈川県湾岸地域においては,原告の営業であることを示す営業等表示として需要者の間に認識されているものと認めることが可能である。
そうすると,被告標章が本件商標と同一又は類似するものであることは前記(1)において判示したとおりであるから,被告がこれをカラオケボックス店の営業に使用する行為は,不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当するものというべきである。被告は,原告の営業との混同を否定するが,原告は神奈川県において川崎市川崎区に店舗を有するものであるところ,証拠(甲9,12,乙4)及び弁論の全趣旨によれば,@ 原告川崎店では,平成13年12月ころから,「横浜の長者町にあるカラオケ館の電話番号を教えてほしい」旨の問い合わせが来ることがあり,平成14年の年末ころからは,問い合わせの頻度が増し,2日に1回くらいの割合になり,また,原告の店舗において,被告の会員カードを提示して入店しようとする顧客がいたこと,A 原告川崎店の会員合計2万0881人の中には,被告店舗に近い中区に居住する者が745名(約3.5%)おり,原告川崎店と被告店舗との間にある横浜市鶴見区に居住する者が3321名(約15.9%)いることが認められるのであり,これらの事情に照らせば,C 原告川崎店と被告店舗の距離は直線距離にして約11キロメートルであるところ,証拠(乙4)によれば,市街地型のカラオケボックスが,折込み広告の際に参考とされる商圏距離につき,これを1ないし3キロメートルとするホームページが存在することを考慮しても,被告が被告標章を使用する行為は混同を生じさせる行為というべきである。
2 争点2(差止めの利益の存否)について 証拠(乙1,2)及び弁論の全趣旨によれば,@ 被告は,平成15年4月28日,横浜市中福祉保健センターに廃業届けを提出し,それ以降,被告店舗の営業を行っていないこと,A 上記廃業届け提出の後,被告店舗の看板における被告標章の「カラオケ館」の部分からいずれも「館」を削除する看板の表示の変更を行ったこと,が認められる(なお,原告提出に係る甲6(写真)は撮影日付を平成15年12月と記載しているが,同号証は,訴状と共に平成15年2月13日に当裁判所に提出され,同年2月20日に訴状と共に被告に送達されたものであるから,被告の廃業届け提出前に撮影された写真であることが明らかであり,証拠説明書の記載に照らせば,平成14年12月に撮影された写真と認められるから,上記認定と矛盾しない。)。
原告は,現在もなお差止の利益が存在すると主張するが,上記認定によれば,被告により公的機関に廃業届が提出され,その後,被告による営業がされないまま本件口頭弁論終結時(平成16年2月23日)に至るまで約10か月が経過しており,被告店舗における被告標章も上記のとおり変更されているものであるから,現在においてもなお差止の利益が存在するとは認められない。
したがって,原告の本訴請求中,被告標章の使用差止めを求める部分は,理由がない。
3 争点3(原告の損害額)について (1) 商標法38条2項,不正競争防止法5条2項に基づく損害額について ア 被告店舗の売上等 被告店舗における被告の売上高が月額1100万円であることは,当事者間に争いがないところ,被告店舗の業種(カラオケ営業),営業規模,売上高,売上原価等の事情に弁論の全趣旨を総合すれば,被告店舗の販管費は月額500万円を上回らないと認めるのが相当である。この点につき,被告は,被告店舗の販管費は年1億2272万3053円であり,被告店舗には利益はなく,むしろ年間79万1027円の営業損失があった旨主張して乙5を提出する。しかし,乙5は被告作成の損益計算書であるところ,その作成経緯や計算の基礎とした伝票,帳簿等の存在については明らかではないから,その記載内容を直ちに信用することはできない。
イ 被告店舗の営業期間等 被告が,平成14年3月8日から平成15年4月28日までの14か月間被告店舗を営業していたことは当事者間に争いがない。
原告は,さらに,被告は,平成12年5月から被告店舗においてカラオケ店を経営していた前営業主体から営業譲渡を受けたから,平成12年5月以降の前経営主体の営業による損害賠償金支払義務をも負うものであると主張する。しかし,被告が被告店舗の前経営主体から営業譲渡を受けたことを認めるに足りる証拠はなく,かえって,証拠(乙6,7)によれば,前経営主体であるオージーは,被告が設立される前の平成12年7月31日に,被告店舗を同店舗建物の所有者である丸富に引き渡しているのであるから,被告が前経営主体から営業譲渡を受けたということはできない。
原告は,被告が前経営主体の使用していた被告標章を引き継ぎ使用してカラオケ店を経営しているのであるから,商法26条1項の類推適用により,被告は前経営主体の営業によって生じた債務を支払う義務を負う旨を主張する。しかしながら,商法26条1項商号譲渡についての規定であるところ,本件における被告標章は商号ではない上,被告が前経営主体から商号ないし営業表示を譲り受けた事実を認めるに足りる証拠もない。原告は,被告が前経営主体が使用していた被告標章を引き継ぎ使用している事実を指摘するが,このような事情のみでは商法26条1項を類推適用を基礎付ける事情たり得ない。
したがって,被告は,前経営主体の営業によって生じた損害賠償債務の支払義務を負わない。
ウ 寄与率 カラオケ店の売上等は,一般に,その立地や,周辺に他のカラオケ店が存在するか否か等に大きく影響されるものである。本件においては,@ 被告店舗周辺に他のカラオケ店が存在するにもかかわらず,被告標章を使用していた被告店舗が周辺の他のカラオケ店に比べて多額の売上を得ていたような特別な事情が認められないこと,A 本件商標(「カラオケ館」)は,「カラオケ営業を行う施設」を意味する普通名称に極めて近接した語であって,その性質上,自他識別力が高いものではないこと,B 原告店舗のほとんどは,東京都内に存在するものであり,原告は神奈川県においては川崎店(川崎市川崎区所在)1店舗を有するにすぎないもので,本件商標の周知性ないし顧客吸引力は,被告店舗所在地(横浜市中区)においては東京都内ほど高いものではなかったこと等の事情が存在するものではあるが,前記認定のとおり,本件商標が少なくとも神奈川県湾岸地域を含む首都圏において原告の営業であることを示す営業等表示として需要者の間で認識されているものであったことに照らせば,被告が被告店舗の営業により得た利益についての被告標章の寄与率は2%を下らないものと認定するのが相当である。
エ 小括 以上によれば,被告が被告標章を使用したことによって得た利益は,140万円(500万円×14か月×2%)と認めるのが相当であるから,原告は,同額の損害を被ったものと推定される(商標法38条2項,不正競争防止法5条2項)。
(2) 商標法38条3項,不正競争防止法5条3項1号に基づく損害額について ア 被告は,原告の商標法38条3項,不正競争防止法5条3項1号に基づく損害額の主張につき,時機に後れた攻撃防御方法である旨主張する。たしかに,原告の上記主張は,第9回弁論準備手続期日(平成16年1月26日)に初めて主張されたものであるが,原告が同主張を予備的に追加したのは,従前の商標法38条2項,不正競争防止法5条2項に基づく損害の主張に対して被告が正確な伝票,帳簿等を提出するなどの対応をせず,単に乙5を提出して利益の存在を否定したために,これに対する対応策としてやむなく行ったものであり,また,同主張が追加されたことにより更に審理に日時を要するという事情も存在しなかったのであるから,原告の上記主張の追加が時機に後れた攻撃防御方法に該当するとまではいえない。
イ そこで判断するに,本件においては,商標法38条3項,不正競争防止法5条3項1号に基づく損害額が上記(1)において認定の損害額(商標法38条2項,不正競争防止法5条2項に基づく損害額)を上回ることを認めるに足りる証拠はない。
原告は,本件商標の使用料相当額を証明する証拠として,甲13を提出して,カラオケ店を経営する第一興商はフランチャイジーに対して商標「BIG ECHO(ビッグ エコー)」のライセンス料としてカラオケルーム1室当たり月額5000円を設定していることに照らせば,本件商標の使用料はカラオケルーム1室当たり月額6000円であると主張する。しかし,甲13は,単に,原告従業員が第一興商の従業員から聴取したとする内容を記載した陳述書にすぎず,その内容の信用性に疑問がある。加えて,第一興商においてフランチャイジーから徴収しているロイヤルティについては商標使用以外のものの対価に相当する部分も存在することを容易に推測することができるところ,ロイヤルティの内訳は軽々しく競業他社にあかされるものでないことも自明なことであり,また,知名度や顧客吸引力の点において,本件商標が,第一興商の商標「BIG ECHO(ビッグ エコー)」と同一以上のものであると認めるに足りる証拠は全く存在しない。
4 結論 以上によれば,原告の本訴請求については,140万円及びこれに対する平成15年2月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 吉川泉
裁判官 青木孝之