関連審決 | 取消2003-30606 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17行ケ10098審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成17行ケ10097審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成17行ケ10096審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成18行ケ10183審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成18行ケ10105審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 指定商品 / 指定役務 / 周知性 / 4条1項11号 / 4条1項15号 / 不正目的(不正の目的) / ただ乗り(フリーライド) / 不使用 / 権利濫用(権利の濫用) / 通常使用権 / 専用使用権 / 外観(外観類似) / 観念(観念類似) / 国内 / 使用許諾 / 不使用取消審判 / 正当な理由 / 外国 / 継続 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10095号
審決取消請求事件
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原告X 訴訟代理人弁理士 深見久郎 同 森田俊雄 同 竹内耕三 同 野田久登 同 向口浩二 被告 パパジョンズ インターナショナル インコーポレーテッド 代表者 訴訟代理人弁護士 中村哲朗 同 中村紀夫 同 雨宮正啓 同 伊郷亜子 同 廣中太一 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2005/12/20 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が取消2003−30606号事件について平成16年8月10日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文第1項と同旨 |
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事案の概要
本件は,被告の有する本件商標について,原告が商標法50条1項に基づき不使用による商標登録取消しの審判を請求したところ,特許庁が審判請求不成立の審決をしたことから,原告が同審決の取消しを求めた事案である。 |
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当事者の主張
1 請求原因 (1) 特許庁における手続の経緯 被告は,商標登録第3199279号商標(平成6年1月13日出願,平成8年9月30日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。 原告は,平成15年5月8日付けで本件商標につき商標法50条1項に基づき不使用による商標登録取消審判を請求(以下「本件取消審判請求」という。)し,同年6月4日(以下「取消審判請求登録日」という。)にその予告登録がなされた。 特許庁は,同請求を取消2003-30606号事件として審理した上,平成16年8月10日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成16年8月20日原告に送達された。 (2) 本件商標の内容 本件商標の内容は,次のとおりである(甲13の2)。 (商標) (指定商品) 第30類「ピザ」 (3) 審決の内容 審決の詳細は,別添審決写し記載のとおりである。その要旨とするところは,本件商標は,審判請求登録前3年以内に日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれによっても指定商品について使用されていなかったものの,その不使用については,商標権者たる被告は我が国におけるピザに係るフランチャイズ展開について具体的な準備を進めてきており,本件商標について真摯なる使用の意思が認められるから,商標法50条2項ただし書にいう正当な理由があるとしたものである。 (4) 小括 しかし,審決が被告において本件商標を本件取消審判請求登録前の3年以内に日本国内において使用しなかったとしたことは正当であるが,使用をしなかったことについて正当な理由があるとしたことは誤りであるから,本件審決は違法として取り消されるべきである。 2 請求原因に対する認否 請求原因(1)ないし(3)の事実はいずれも認める。 3 被告の抗弁 (1) 被告による本件商標の使用 本件商標は,取消審判請求登録日である平成15年6月4日の前3年以内に,以下のように被告によって使用されていたから,そもそも原告の本件取消審判請求は成り立たない。 ア 本件商標を表示しての指定商品の提供 被告は,日本におけるフランチャイズ展開の協議のために関連業者が米国(アメリカ合衆国)を訪れた際には,本件商標を表示した店舗に案内し,ピザ,販売促進品等を提供している。例えば,伊藤忠商事の従業員に対し,平成13年1月11日から同月13日の間にピザ,飲食物及び販売促進品を提供した。これらの提供がなされたのは海外であるが,日本における事業展開に関するものであれば国内での使用と同視すべきである。米国訪問のときに提供した場合とその後郵送した場合とで結論を異にすることは不合理であるからである。これらの行為はいずれも,被告が,審判請求の登録前3年以内に指定商品及び指定商品の販売促進のために本件商標を付したものを日本において譲渡して本件商標を使用したと認定されるべきものである。 イ 本件商標を付した取引書類の頒布 被告は,フランチャイジーの開拓営業過程において,以下に列挙するとおり本件商標の付された指定商品のカタログを日本国内の取引先に手渡し,また,本件商標の付された年次報告書を,ピザ及び飲食物提供に関するフランチャイズの規模,状況及び業務方針の説明のために手渡している。 @ JETRO NY(2000年10月) A 伊藤忠商事(2000年12月/2001年1月) B アリアケジャパン(2001年1月) C パシフィックアライアンス(2001年1月) D プラザクリエイト(2002年1月/2月) E アクアネット(2002年7月1日) F ジャストプランニング(2002年8月26日) G ストロベリーコーンズ(2002年10月18日) H 西洋フードシステム(2003年2月3日) I オリックスアルファ(2003年4月22日) このように,被告は,取消審判請求登録日の前3年以内に指定商品であるピザ及び飲食物の提供に関する取引書類である名刺,カタログ及び年次報告書を頒布して本件商標を使用している。 ウ ウェブページによる広告 被告は,平成8年(1996年)12月20日から現在に至るまで,ウェブページによって指定商品であるピザ及びピザの提供に関する広告を行い(乙8,9),このウェブページの広告には,本件商標が付されている。ウェブページには,被告のフランチャイズ店において販売提供されるピザの種類が掲載されているほか,フランチャイジーの募集を行い,その条件まで詳細に記載されている上,日本を含めた海外からのフランチャイジー希望者にも対応する形をとっている。このウェブページは,日本の検索エンジン「MSNサーチ」,「アップル・エキサイト」等において「papajohns」,「papa john's」の語で検索した場合に直ちに検索されるものである(乙24)。また,日本からのアクセスも多数に上るものであり,日本からのフランチャイジー申込み及び問い合わせも多くある(乙7)。 このように,被告は,日本国内において取消審判請求登録日の前から指定商品であるピザ及び飲食物の提供に関する広告を電磁的方法により提供して本件商標を使用している。電磁的方法による広告に関する商標法改正(2条3項8号)は,商標の「使用」にこれが含まれることを明確にするためのものであり,同改正法施行前の広告行為にも当然に適用される。 エ 雑誌による広告 被告は,ニューズ・ウィーク等の世界的に著名な雑誌に本件商標を付して商業広告を出しており,これらが日本において頒布されていることは明白であるから,これは,商品若しくは役務に関する広告に該当し,商標法2条3項8号の「使用」であることは明らかである。なお,当該広告は,主にフランチャイジーを募集するための広告であるが,被告が急成長中のピザカンパニーであること,世界中に約3000店舗を有すること,ピザの品質にこだわる企業姿勢,国際的ピザチェーンの中で品質と顧客満足度においてNo.1を4年間獲得したことが記載されている上,ピザ自体の写真が広告の半分を占めていることから,これによって指定商品に信用蓄積作用が生じていることは明らかあり,ピザあるいは飲食物の提供そのものの商品広告でないことによって商標法2条3項8号の「使用」に該当しないということはできない。 (2) 「正当な理由」の存在(商標法50条2項ただし書) 仮に被告による使用の事実が認められないとしても,被告が本件商標を我が国において使用していないことについて正当な理由があるとした審決の認定判断に誤りはない。 ア 本件のように商標権者が外国人であり,かつ,世界第3位もの規模を誇る大規模フランチャイズチェーンである場合(乙1,乙2)は,商標権者が日本人である場合,又は商標権者がフランチャイズ形式を前提としない企業である場合よりも商標の使用に多大な困難の伴うことは明白であり,そのような場合には個別事情に応じた弾力的な基準が設けられるべきであって,これは「正当な理由」という抽象的な要件のみを規定し,具体的要件を定めていない商標法50条2項ただし書の趣旨にも合致する解釈である。したがって,被告が我が国におけるピザに係るフランチャイズ展開について具体的な準備を進めており,本件商標について「真摯なる使用の意思」が認められることを指摘し,これをもって正当な理由があると認定した審決に違法はない。 仮に,原告の主張するように登録商標の使用について正当な理由がある場合を商標権者の責めに帰すことができない不可抗力が存在する場合に限定して解釈するとしても,本件において,被告には正当な理由が存在することは明らかである。すなわち,被告は,少なくとも平成12年5月以降は,日本におけるマスター・フランチャイジーの発掘活動を熱心に行っており,それにもかかわらず,日本におけるマスター・フランチャイジーの発掘・契約に至らなかったのは,当時,既に米国をベースとする大規模ピザチェーン「Pizza Hut」及び「Domino's Pizza」が既に日本市場に参入していたこと,既に大規模ピザチェーンに成長していた被告のマスター・フランチャイジーとしてふさわしい経験・資力を有している日本企業の絶対数が少なかったこと,当時日本は不況であって外食フランチャイズ産業は過当競争値下げ競争に入っていたこと,マスター・フランチャイジーに最もふさわしいと思われた伊藤忠商事との成約が同社側の事情でかなわなかったこと等,被告の責めに帰すことのできない事情が存在したからである(乙5)。 イ 原告は,本件商標の使用はフランチャイズ方式によらなければ不可能というわけではないこと,マスター・フランチャイジーにとって資格・資力は必須条件ではないこと,マスター・フランチャイジーを捜し契約を締結することには長時間を要しないことを指摘して,審決の認定が誤っている旨主張する。 しかし,外国で発達した大規模外食チェーンが他国に進出する際には,当該国の消費者の傾向やその国の文化等に通じている企業等にその展開を任せなければ,事実上その進出は不可能である。既に世界的に有名なピザ店舗フランチャイズチェーンであった被告にとって,そのブランド力を維持するために資格・資力を持つマスター・フランチャイジーを捜すことは必須であり(乙5),被告のブランド力を維持するにふさわしい資格・資力を持つマスター・フランチャイジーの探索活動に多大な困難を伴うことは当然である。したがって,フランチャイズ産業の他国進出においては,マスター・フランチャイジーを捜すのが通例であり,資格・資力のあるマスター・フランチャイジーを捜し契約をすることは困難を伴い一定の時間を要する,とした審決の認定に誤りはない。 ウ 原告は,被告の行った準備行為は単なる使用許諾先の探索活動にすぎないからフランチャイズ展開について具体的な準備ということはできず,被告による探索活動の内容からは被告が「真摯なる使用の意思」を有していたとはいえない旨主張する。 しかし,「真摯なる使用の意思」の前提となる具体的な準備行為に該当する行為は,商標権者の行う商標使用行為の実態に即して個別に判断すべきである。この点,大規模フランチャイズチェーンの他国進出においてはまず資格・資力のあるマスター・フランチャイジーを捜しフランチャイズ契約を締結するのが不可欠であり(乙5),かつ,この作業が一番の困難を伴うこと,その後は契約内容を履行すれば足りることにかんがみると,大規模フランチャイズチェーンが他国進出する際にはマスター・フランチャイジーの探索を開始し,複数の企業と交渉して使用の意思を外部に表明することで足りると解するべきである。本件において,被告はブローカー等の第三者(乙5,乙18)を通じて,上記(1)イの@ないしIに列挙するように指定商品のカタログ(乙6)を日本国内のマスター・フランチャイジー開拓のために手渡し,また,年次報告書を被告の指定商品に関するフランチャイズの規模,状況及び業務方針の説明のために手渡している(乙5,乙7)。特に,被告は平成10年に日本におけるフランチャイズチェーン展開について伊藤忠商事にプレゼンテーションを行うとともに,伊藤忠商事の従業員は,平成13年1月に,日本におけるブローカーと共に米国の被告事務所へ赴き,試食,施設見学,交渉等を行い,その後も,様々な企業の代表が伊藤忠商事を介して被告事務所に訪問してきた(乙5,乙7)。さらに,被告のウェブページにおいては,フランチャイジーの募集を行い,その条件まで詳細に記載されているし,日本を含めた海外からのフランチャイジー希望者にも対応する形をとっており,日本からのアクセスも多数に上るものである(乙7)。また,日本においても頒布されているニューズ・ウィーク等の世界的に著名な雑誌にフランチャイジーを募集する旨の広告を載せ,ここには被告が急成長中のピザカンパニーであること,世界中に約3000店舗を有すること,ピザの品質にこだわる企業姿勢,国際的ピザチェーンの中で品質と顧客満足度においてNo.1を4年間獲得したことを記載し,精力的に世界中のフランチャイジーを募集している(乙10〜17)。 以上のように,被告は,内部で本件商標使用の準備行為をするのみならず,日本国内の数多くの有名企業と交渉を継続して行っており,その使用意思が外部に表明されていること,ウェブページを通じて世界中の企業等に対しフランチャイジーの募集を行っていること,著名雑誌の広告を通じて世界中の企業等に対しフランチャイジーの募集を行っていることからすれば,被告が本件商標を日本において使用する具体的準備を行っていたのは明らかである。また,大規模フランチャイズチェーンのマスター・フランチャイジーについては,ブランド力を維持するだけの資力・資格が必要であるところ,この候補者に該当する企業自体が限定されるのであるから,これだけの数の企業にマスター・フランチャイジー発掘のために接触したことにかんがみれば,被告に商標使用について「真摯なる使用の意思」が存在したことは明らかである。 したがって,「真摯なる使用の意思」を認定した審決に誤りはない。 (3) 取消審判請求の権利濫用 原告による本件取消審判請求は,被告を害することを目的としてなされたものであり,権利濫用に該当する。 原告は,京都でチーズケーキ店を営んでおり,その業務との関係で,「菓子及びパン」を指定商品とする登録商標2件(登録番号第4251306号,第4324338号)と「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,香辛料,即席菓子のもと」を指定商品とする登録商標2件(登録番号第4333124号,第4368033号)の合計4件の登録商標を原告が代表取締役を務めるジェ・ピー・カーメル有限会社(以下「カーメル社」という。)を通じて取得している(乙19〜22)。そして,原告の経営するチーズケーキ店にはピザのメニューはなく,また,ピザを調理する設備も存在しない。 被告は,本件取消審判請求に先立つ平成14年12月時点で,米国内に2585店舗を有し,英国に79店舗,カナダに7店舗,コスタリカに11店舗,グアテマラに4店舗,ホンジュラスに4店舗,メキシコに38店舗,プエルトリコに10店舗,サウジアラビアに14店舗,ベネズエラに22店舗を有しており(乙1),アジアでは,平成15年に上海,韓国に新店舗を開設した(乙7)。これら店舗においては,すべて本件商標が使用されている。また,被告は,米国で「PAPA JOHN'S」の商標を取得しており,かつ,90以上の国々及びEUにおいても同様の商標を取得している(乙1)。被告の株式は米国のナスダックに上場され(乙1),また,被告は,フランチャイズの拡大計画を1985年(昭和60年)の創立以来行ってきており,日本市場参入のために,自ら又はブローカー,JETRO等の第三者を通じてフランチャイジーの業界の企業と協議・交渉をしてきた。 他方,原告は,本件取消審判請求と同日(平成15年5月8日)付けで,次のとおりの内容を有する商標登録出願(乙23。以下,同出願に係る商標を「乙23商標」という。)を行っているが, 乙23商標と本件商標は,その外観,呼称及び観念において極めて紛らわしく,類似するものである上,その指定商品には本件商標の指定商品である第30類の「ピザ」や,第43類として「飲食物の提供」が入っており,その指定商品も同一であるから,商標法4条1項11号により両立しない関係にある。すなわち,仮に原告の本件取消審判請求と上記出願が認められれば,被告は本件商標と同一の商標を指定商品「ピザ」ないし「飲食物の提供」で登録することはできなくなる。 以上のように,原告は,自らの登録商標の保全,自らの業務の維持,保全につき何ら積極的な利益をもたらさない本件取消審判請求を行っていること,他方,原告による本件取消審判請求及び上記新たな商標登録出願が認められれば,被告は多大な打撃を被ることは確実であること,原告がこれらのことを認識して本件取消審判請求・商標登録出願を同一日に行っていることからすれば,原告に,被告の日本市場参入を不当に阻止しようとする目的があることは明らかである。したがって,原告による本件取消審判請求の申立ては被告が有する本件商標に化体された信用にただ乗りするフリーライドを意図したものであるといわざるを得ない。 また,原告は,京都市においてチーズケーキ店を営んでいるものの,ピザを販売しておらず,その使用する商標と本件商標とは呼称を共通にする類似関係にあるものの,指定商品が異なっていたことから並存していたものである。原告の出願に係る乙23商標は,商標法4条1項15号,19号に該当し,仮に本件商標がその登録を取り消されたとしても,依然として拒絶理由を有していることに変わりはない。 したがって,原告による本件取消審判請求は,被告に損害を加える不正の目的をもって行ったものといわざるを得ないほか,原告の上記出願に係る乙23商標が商標法4条1項15号,19号に該当することからすれば,請求の具体的な利益を欠いた不当なものであり,権利濫用というほかない。 4 被告の抗弁に対する原告の認否と反論 (1) 本件商標の使用の主張に対し 被告は,本件商標は指定商品「ピザ」について取消審判請求登録日である平成15年6月4日前3年以内に被告によって使用されていたと主張するが,本件商標がその指定商品について審判請求の登録前3年以内に使用されなかったことは,審決の認定したとおりである。 (2) 「正当な理由」の主張に対し ア 「正当な理由」の適用範囲 (ア) 審決は,「被請求人は,本件審判請求の登録前3年以内の期間内に,我が国におけるピザに係るフランチャイズ展開について具体的な準備を進めていたことが明らかであり,本件商標について真摯なる使用の意思が認められるものである。かかる場合は,商標の使用する者の業務上の信用の維持を図るという商標法の目的に照らし,被請求人が本件商標を我が国において使用していないことについて正当な理由があるものとすべきである」(審決19頁最終段落)と認定判断し,一企業内の経営的又は経済的理由による不使用であっても,使用の準備がなされており,「真摯なる使用の意思」が認められる場合は,商標法50条2項ただし書に規定する「正当な理由」に該当するとしたが,かかる判断は,「正当な理由」の解釈を誤ったものである。 (イ) 東京高裁平成9年(行ケ)第53号・同9年10月16日判決(甲2)は,「商標法は,「商標権は,設定の登録により発生する。」(商標法18条1項)として,商標権の成立につき登録主義を採用しているが,商標法1条の規定に照らすと,同法は,使用商標の保護を本来の目的としていて,商標権者が登録商標を使用することを保護の前提としているものと解される。しかして,一定期間登録商標を使用しない場合には保護すべき対象がないものと考えられ,他方,そのような不使用の登録商標に対し排他独占的な権利を与えておくのは,第三者の商標選択の範囲を不当に狭めるなどの不合理があることから,商標法50条の不使用による商標登録の取消審判制度が設けられているものと解される。上記のとおり,商標法は本来,登録商標の使用を保護の前提としていること,及び,不使用取消審判制度が設けられている趣旨からすると,登録商標の不使用につき商標法50条2項ただし書にいう「正当な理由」があるといえるためには,登録商標を使用しないことについて当該商標権者の責めに帰すことのできないやむを得ない事情があり,不使用を理由に当該商標登録を取り消すことが,社会通念上商標権者に酷であるような場合をいうものと解するのが相当である」としたが,上記判示内容にかんがみれば,一企業内の経営的又は経済的理由による不使用は,「当該商標権者の責めに帰すことのできないやむを得ない事情」とはいえないことはもとより,単に使用の準備がなされており,「真摯なる使用の意思」が認められる場合であっても,「正当な理由」に該当するとはいえない。また,東京高裁平成14年(行ケ)第50号・同年9月20日判決(甲7)及び平成14年(行ケ)第67号・同年9月20日判決(甲8)は,商標権者が使用の準備をしていた場合であっても,「正当な理由」に該当にしない旨を明確に判示しており,かかる判示内容にかんがみれば,使用の準備が「正当な理由」に該当しないことは明らかである。 イ 本件商標の使用を阻害する要因の有無についての認定の誤り (ア) 審決は,本件商標の使用を阻害する要因の基礎的事実として,「フランチャイズ産業の他国進出においては,マスター・フランチャイジーを捜すのが通例であるところ,資格・資力のあるマスター・フランチャイジーを捜し契約を締結することは困難を伴い一定の時間を要する」(審決19頁下第2段落)と認定したが,誤りである。 (イ) 本件商標に係る指定商品は,第30類「ピザ」であって,「フランチャイズ方式によって販売されるピザ」又は「フランチャイズ方式によるピザの提供」ではなく,被告がどのような経営方式で本件商標を使用するかは被告の自由である。したがって,被告による本件商標の使用が「フランチャイズ方式」によるものでなければならないとする前提は,被告の個別事情であり,不当である。ピザの販売は,既存の流通経路を通じて達成可能であるから,フランチャイズ方式によらなければならないとする必然性は全く存在しない。また,ピザの販売は,レストランにおける持ち帰り方式による販売に限らず,冷凍ピザの販売,インターネットによる販売,宅配ピザ等によっても可能であり,ピザの販売において「マスター・フランチャイジーを捜すのが通例」ではないことは明らかである。さらに,審決は,「マスター・フランチャイジー」は資格・資力のあるものでなければならないことを当然の前提としているが,「資格・資力」は望ましい条件ではあっても,フランチャイズの展開において必須の条件ではない。 (ウ) 審決のいう「一定の時間」とはどれほどの時間を指すのか全く不明であるが,契約は当事者の条件が相互に合致さえすれば成立し得るのであるから,1年に満たない期間でも契約の締結は可能であるというべきである。特に,本件においては,被告は複数の外国への進出経験があるのであるから,条件が合致さえすれば,極めて短期での契約締結は可能であったというべきである。 ウ 「具体的な準備」及び「真摯なる使用の意思」の有無についての認定の誤り (ア) 審決は,「以上を総合勘案すると,被請求人は,本件審判請求の登録前3年以内の期間内に,我が国におけるピザに係るフランチャイズ展開について具体的な準備を進めていたことが明らか」(審決19頁最終段落)と認定したが,被告が行ったとする「マスター・フランチャイジー」の探索活動は,単なる本件商標の使用許諾先の探索活動にすぎず,「フランチャイズ展開について具体的な準備」ということはできない。 (イ) また,審決は,「本件商標について真摯なる使用の意思が認められる」(審決19頁最終段落)と認定したが,誤りである。 そもそも,商標登録には少なくとも使用意思の存在が要件とされており(商標法3条1項柱書,15条),不使用の場合はその登録を取り消すこととしているのであるから,商標権を取得しその維持を図らんとする者が使用意思を有することは当然のことである。したがって,通常の使用意思の水準を越えて「真摯な使用意思」があるということを認定するためには,商標権者の企業規模と資力に応じて,使用のための相応の努力が払われたことを示す事実が客観的証拠によって裏付けられなければならない。しかし,被告がブランド力を維持しつつ日本に進出することは容易であったというべきであり,被告が日本進出をちゅうちょしたのは,単に,被告独自の理論に基づく理想のマスター・フランチャイジーが探索できなかったか,又は被告の理想とする高収益をもたらすような市場がなかったというだけである。そうであるならば,被告が独善的に理想とする環境が整わないことをもって,本件商標の不使用について「正当な理由」が存在すると主張することは,到底許されない。 エ 以上を総合勘案すると,「正当な理由」に値するほどの事情が被告にあったとは到底いえず,本件商標の不使用について正当な理由があると認定判断した審決は誤りである。 (3) 権利濫用の主張に対し ア 自らの商標登録出願の日と同日に第三者が有する商標につき不使用取消審判を請求することが違法ではないことはもとより,商標登録出願前に発見された先行登録商標を排除するために,該商標登録出願と同日又はその前後に不使用取消審判を請求することは,商標実務上しばしば採用される手法である。原告が,商標登録出願前に先行商標調査を行い,その結果発見された本件商標が不使用のまま放置されていることを知り,その登録の取消しを求めて商標法50条に基づく本件取消審判請求をすることは,商標法50条の趣旨に合致した合理的な行為である。 イ 原告が出願した乙23商標は,下記のとおりの内容を有するが,本件商標の存在とは別途独自に採択・使用され,国内において周知性を獲得しているものである。 記 (商標) (指定商品又は指定役務) 第30類「アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,ホイップクリーム用安定剤,食品香料(精油のものを除く。),茶,コーヒー及びココア,氷,菓子及びパン,調味料,香辛料,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,コーヒー豆,穀物の加工品,アーモンドペースト,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,酒かす,米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテン」 第43類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供,動物の宿泊施設の提供,保育所における乳幼児の保育,老人の養護,会議室の貸与,展示施設の貸与,布団の貸与,業務用加熱調理機械器具の貸与,業務用食器乾燥機の貸与,業務用食器洗浄機の貸与,加熱器の貸与,調理台の貸与,流し台の貸与,カーテンの貸与,家具の貸与,壁掛けの貸与,敷物の貸与,タオルの貸与」 まず,乙23商標の構成中の欧文字「Jon」は,「ジョン」なるファーストネームに対応する通常の綴りである本件商標の構成中の「JOHN」とは異なり,「H」の文字を欠くものである。これは,「Jon」の欧文字の採択が原告の父親のファーストネームである「Jon」に由来するからである。また,乙23商標は,原告の祖父の肖像写真を「PAPA」の欧文字と「Jon's」の欧文字との間に配してなる。かかる肖像写真は本件商標の構成に存しないものである。これら乙23商標の各構成要素の由来と特徴にかんがみれば,乙23商標が本件商標とは別途独自に採択されたことは明らかである。 さらに,乙23商標は,被告のピザレストランが米国においてわずか1店舗しか存在していなかった1985年(昭和60年)ころ(甲28),すなわち,被告のピザレストランがフランチャイズチェーン化する以前から,日本国内においてチーズケーキについて使用され(甲20添付の第9号証の1),チーズケーキに使用する原告の商標として周知に至ったものである(甲20,21)。「PAPA Jon'S」又は「パパジョンズ」といえば「京都のニューヨーク風チーズケーキ」,「京都のニューヨーク風チーズケーキ」と言えば「PAPA Jon'S」又は「パパジョンズ」とのことであると言われるほど乙23商標は我が国において周知性を確立している。一方本件商標は日本国内において全くその存在が知られていない。したがって,乙23商標が本件商標の存在とは別途独自に国内において周知性を獲得したことは明らかである。このような事情の下にあっては,乙23商標が本件商標にフリーライドする必要は全くなく,そのような意図を有したということはあり得ない。 |
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当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(本件商標の内容)及び(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。 ところで,審決は,前記のとおり,商標権者たる被告は本件取消審判請求の登録前3年以内に日本国内において使用しなかったものであるが,その使用をしていなかったことについては正当な理由があるとしたものである。これに対し原告は,本件商標を本件取消審判請求の登録前3年以内に日本国内において使用しなかったものであるとしたことは正当であるが,その使用をしていなかったことについては正当な理由があるとしたことは誤りであると主張し,一方被告は,抗弁として,@本件商標は,指定商品「ピザ」について審判請求登録前3年以内に被告によって使用されている,A仮に被告による使用の事実が認められないとしても,本件商標を日本において使用していないことについては正当な理由がある,B原告による本件取消審判請求は権利濫用である,と主張する。 そこで,被告の抗弁につき,以下,順に判断することとする。 2 被告による本件商標の使用の有無(抗弁(1)) (1) 本件商標を表示しての指定商品の提供 ア 被告は,日本におけるフランチャイズ展開の協議のために関連業者が米国を訪れた際には,本件商標を表示した店舗に案内し,ピザ,販売促進品等を提供していると主張する。 イ 証拠(乙1,2,5〜7)によれば,@被告は,1985年(昭和60年)に創業したピザ販売業者であり,1986年(昭和61年)からフランチャイズ店の展開を開始し,2002年(平成14年)12月29日の時点において,被告及びその加盟店のレストランは,被告によるものが,米国に585店舗,英国に9店舗,フランチャイズによるものが,米国(アラスカ及びハワイを除く。)2000店舗,アラスカに3店舗,カナダに7店舗,コスタリカに11店舗,グアテマラに4店舗,ハワイに15店舗,ホンデュラスに4店舗,メキシコに38店舗,プエルトリコに10店舗,サウジアラビアに14店舗,ベネズエラに22店舗,英国に70店舗,合計2792店舗であること,A被告は,1994年(平成6年)から日本における業務拡大の計画を有し,日本の多数のフランチャイジー候補者に対し営業活動を行ってきたこと,Bこれらの営業活動において,2001年(平成13年)1月11日から同月13日の間,伊藤忠商事の担当者がJETRO NYの担当者及び被告から日本におけるフランチャイズ先の紹介を依頼されたブローカーであるAと共に米国ケンタッキー州ルイスビーレ所在の被告本社を訪問し,施設を見学して被告のピザを試食し,本件商標を付したティーシャツ,マグカップ等の販売促進品等の提供を受けたこと,C同年3月にも,伊藤忠商事及び日本企業の担当者らが上記被告本社を訪問し,同様に施設を見学し被告のピザを試食したこと,D同年4月にも伊藤忠商事の担当者らが上記被告本社を訪問し,その際,被告ピザのサンプルの提供を受けたこと,以上の事実を認めることができる。 ウ ところで,商標の不使用による登録取消の審判請求があった場合,商標法50条2項本文は,「前項の審判の請求があった場合においては,その審判請求の登録前三年以内に日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り,商標権者は,その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない」としているから,同項にいう「使用」は日本国内における使用でなければならないと解するほかない。しかし,上記イに認定した使用は,いずれも米国におけるものであり,日本国内における使用とは認められない。 被告は,これらの提供がなされたのは海外であるが,日本における事業展開に関するものであれば国内での使用と同視すべきであると主張するが,採用することができない。 (2) 本件商標を付した取引書類の頒布 ア 被告は,フランチャイジーの開拓営業過程において,下記@ないしIのとおり本件商標の付された指定商品のカタログを日本国内の取引先に手渡し,また,本件商標の付された年次報告書を,ピザ及び飲食物提供に関するフランチャイズの規模,状況及び業務方針の説明のために手渡したと主張する。 記 「@ JETRO NY(2000年10月) A 伊藤忠商事(2000年12月/2001年1月) B アリアケジャパン(2001年1月) C パシフィックアライアンス(2001年1月) D プラザクリエイト(2002年1月/2月) E アクアネット(2002年7月1日) F ジャストプランニング(2002年8月26日) G ストロベリーコーンズ(2002年10月18日) H 西洋フードシステム(2003年2月3日) I オリックスアルファ(2003年4月22日)」 イ 確かに,証拠(乙1,2,5〜7)によれば,被告は,日本におけるフランチャイズ展開のための営業活動として,上記ア@ないしIの時期に,上記@ないしBについては米国を訪れた相手方に対し,本件商標と社会通念上同一と認められる商標の付された指定商品のカタログ(本訴乙6・審判乙12),同商標の付された年次報告書(本訴乙1・審判乙1)を,ピザ及び飲食物提供に関するフランチャイズの規模,状況及び業務方針の説明のために手渡したことが認められる。 ウ しかし,上記@ないしBは,いずれも米国において手渡されたものであり,上記(1)ウと同様の理由により,日本国内における使用とは認められない。また,上記CないしEについても,これが日本国内において手渡されたことを認めるに足りる証拠はない(商標法50条2項によれば,これらの事実を被請求人たる被告が証明する責任があると解される。)。 加えて,上記@ないしIにおいて頒布されたカタログ(乙6)及び年次報告書(乙1)は,日本おけるフランチャイズ展開のために行われたものであって,被告の会社自体の宣伝,フランチャイズ事業の方法・条件等の説明を行うものであると認められる。そして,被告は,日本国内において指定商品である「ピザ」を生産・販売したことはなく,日本の需要者は被告のピザの提供を受けることができないのであるから,上記カタログ及び年次報告書が商標法2条3項8号の「取引書類」に該当するとしても,その頒布は,指定商品である「ピザ」に関するものであるとは認めることができない。 (3) ウェブページによる広告 ア 被告は,平成8年12月20日から現在に至るまで,ウェブページによって指定商品であるピザ及びピザの提供に関する広告を行っている(乙8,9)と主張する。 イ 確かに,証拠(乙8,9,24)によれば,被告は,インターネットのウェブページ(本訴乙8・審判乙3,本訴乙9・審判乙4)において,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を表示してピザに関する広告を行い,フランチャイジーの募集を行っていること,上記ウェブページには日本からもアクセスが可能であること,上記ウェブページは,日本の検索エンジン「MSNサーチ」,「アップル・エキサイト」等において「papajohns」,「papa john's」の語で検索した場合に直ちに検索できる(本訴乙24・審判乙5,6)ことが認められる。 ウ しかし,上記ウェブページは,米国サーバーに設けられたものである上,その内容もすべて英語で表示されたものであって,日本の需要者を対象としたものとは認められない。上記ウェブページは日本からもアクセス可能であり,日本の検索エンジンによっても検索可能であるが,このことは,インターネットのウェブページである以上当然のことであり,同事実によっては上記ウェブページによる広告を日本国内による使用に該当するものということはできない。 被告は,電磁的方法による広告に関する商標法改正は,商標の「使用」にこれが含まれることを明確にするためのものであり,同改正法施行前の広告行為にも当然に適用されると主張する。確かに,ウェブページによる広告は,平成14年法律第24号により改正された商標法2条3項8号のいう,「広告」を「内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」に該当するものということができる。しかし,同行為を日本国内による使用に該当するものということができないことは上記のとおりであるから,被告の上記主張は理由がない。 (4) 雑誌による広告 ア 被告は,ニューズ・ウィーク等の世界的に著名な雑誌に本件商標を付して商業広告を出しており,これらが日本において頒布されていることは明白であるから,これは,商品若しくは役務に関する広告に該当し,商標法2条3項8号の「使用」に該当すると主張する。 イ 証拠(乙10〜17)によれば,被告は,ニューズ・ウィーク2003年3月3日号(本訴乙10・審判乙25),同3月10日号(本訴乙11・審判乙26),同3月27日号(本訴乙12・審判乙27)及び同3月24日号(本訴乙13・審判乙28),インターナショナル・フランチャイジング2000年夏号(本訴乙14・審判乙29),コマーシャル・ニュース・ユー・エス・エー2000年10月号(本訴乙15・審判乙30)及び同2002年3月号(本訴乙16・審判乙31)並びにリテイル・アジア2003年9月号(本訴乙17・審判乙32)に,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を表示してピザに関する広告を行い,フランチャイジーの募集を行っていることが認められる。 ウ しかし,上記雑誌は,日本国内において頒布されたとしても,日本国内で発行されたものとは認められない上,その内容もすべて英語で表示されたものであって,日本の需要者を対象としたものとは認められない。 加えて,上記雑誌の広告は,フランチャイズ展開のために行われたものであって,被告会社自体の宣伝,フランチャイズ事業の広告であると認められる。 そして,被告は,日本国内において指定商品であるピザを生産・販売したことはなく,日本の需要者は被告のピザの提供を受けることができないのであるから,上記雑誌の広告は,指定商品であるピザに関し日本国内においてなされた広告であるとは認めることはできない。 したがって,上記雑誌による広告は,商標法2条3項8号の「使用」に該当するということはできない。 (5) 以上に検討したところによれば,本件商標は,指定商品「ピザ」について審判請求の登録前3年以内に日本国内において被告によって使用されたと認めることはできない。 3 「正当な理由」の有無(抗弁(2)) (1) 審決は,「被請求人は,本件審判請求の登録前3年以内の期間内に,日本での業務拡大のために日本のフランチャイズ候補者に対し営業活動を行っており,日本でのピザ店舗展開に興味を持っていた伊藤忠社員に本件商標と社会通念上同一といえる商標が付された被請求人の会社概要,フランチャイジー用パンフレット等を手渡し,さらに同社員が被請求人会社及びそのレストランを訪問しピザの提供を受けたほか,被請求人の日本でのマスター・フランチャイジーとなることに興味を有していたプラザクリエイト,アクアネット,ジャストプランニング,ストロベリーコーンズ,西洋フードシステム等の日本企業と日本でのフランチャイズ展開に係る交渉を継続していたことが認められる・・・。また,直接日本を対象としたものではないとしても,被請求人は,自己が開設するインターネットのウェブページや「Newsweek」等の雑誌にフランチャイジー募集の広告を行っていたこと・・・,日本からも被請求人の日本での事業計画について問い合わせがあったこと・・・が認められる。そして,フランチャイズ産業の他国進出においては,マスター・フランチャイジーを捜すのが通例であるところ,資格・資力のあるマスター・フランチャイジーを捜し契約を締結することは困難を伴い一定の時間を要することが認められる」(審決19頁第4段落)との認定事実を基に,「以上を総合勘案すると,被請求人は,本件審判請求の登録前3年以内の期間内に,我が国におけるピザに係るフランチャイズ展開について具体的な準備を進めていたことが明らかであり,本件商標について真摯なる使用の意思が認められるものである。かかる場合は,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図るという商標法の目的に照らし,被請求人が本件商標を我が国において使用していないことについて正当な理由があるものとすべきである」(同最終段落)と判断したものである。 (2) しかし,商標法50条2項ただし書の「正当な理由」があるというには,商標権者において登録商標を使用できなかったことが真にやむを得ないと認められる特別の事情が具体的に主張立証される必要があると解するを相当とするところ,上記(1)の審決の認定事実によっては商標権者の責めに帰することのできない特別の事情があったと認めることはできず,また,他に上記特別の事情が存したことを認めるに足りる証拠もない。 (3) この点につき,被告は,本件のように商標権者が外国人であり,かつ,世界第3位もの規模を誇る大規模フランチャイズチェーンである場合(乙1,乙2)は,商標権者が日本人である場合,又は商標権者がフランチャイズ形式を前提としない企業である場合よりも,商標の使用に多大な困難の伴うことは明白であり,そのような場合には個別事情に応じた弾力的な基準が設けられるべきである,そして,被告は,少なくとも平成12年5月以降は,日本におけるマスター・フランチャイジーの発掘活動を熱心に行っており,それにもかかわらず,日本におけるマスター・フランチャイジーの発掘・契約に至らなかったのは,当時,既に米国をベースとする大規模ピザチェーン(「Pizza Hut」及び「Domino's Pizza」)が既に日本市場に参入していたこと,被告のマスター・フランチャイジーとしてふさわしい経験・資力を有している日本企業の絶対数が少なかったこと等,被告の責めに帰すことのできない事情が存在した,などと主張する。 しかしながら,我が国の商標法は,商標権者による商標の現実的使用を重視している(3条1項柱書,50条)ことからすると,同法50条2項にいう「正当な理由」とは,前述したように,商標権者において登録商標を使用できなかったことが真にやむを得ないと認められる特別の事情がある場合に限られると解すべきところ,被告の上記主張は,企業たる被告の内部事情にすぎず(被告がその経営判断により本件商標を日本国内において使用することは十分に可能であった),これをもって前記特別の事情と認めることはできない。したがって,商標権者である被告が上記のように外国企業であっても,本件商標の指定商品である「ピザ」について本件商標を使用することができないことにつき「正当な理由」があったと認めることはできない。 (4) 以上検討したところによれば,被告が本件商標を日本において使用していないことについて商標法50条2項ただし書の「正当な理由」があるということはできない。 4 権利濫用の有無(抗弁(3)) (1) 被告は,原告による本件取消審判請求は,被告を害することを目的としてなされたものであり,権利濫用に該当すると主張し,その理由として,@原告は,本件取消審判請求と同日(平成15年5月8日)付けで前記内容の乙23商標について商標登録出願を行っているが,乙23商標と本件商標は,両立しない関係にあり,仮に原告の本件取消審判請求が認められ,かつ,上記出願が認められれば,被告は本件商標と同一の商標を指定商品「ピザ」ないし「飲食物の提供」で登録することはできなくなるところ,原告は,自らの登録商標の保全,自らの業務の維持,保全につき何ら積極的な利益をもたらさない本件取消審判請求を行っていること,A他方,原告による本件取消審判請求及び上記新たな商標登録出願が認められれば,被告は多大な打撃を被ることは確実であること,B原告がこれらのことを認識して本件取消審判請求・商標登録出願を同一日に行っていることからすれば,原告に,被告の日本市場参入を不当に阻止しようとする目的があること,Cしたがって,原告による本件取消審判請求の申立ては,被告が有する本件商標に化体された信用にただ乗りするフリーライドを意図したものであるといわざるを得ないこと,等を挙げる。 (2) 証拠(甲20〜23,乙19〜23)によれば,@原告は,昭和60年ころから,「PAPA Jon's」の商標を使用してチーズケーキを製造・販売するようになり,昭和61年2月25日,京都市を本店所在地として,喫茶,欧風料理の飲食業,洋菓子及びサンドイッチ類の製造販売等を業とするカーメル社を設立し,京都市上京区烏丸通上立売東入ル相国寺門前町等の「PAPA Jon's」の商標を使用する店舗でケーキ店を営んでいること,Aカーメル社は,いずれも「PAPA Jon's」の構成を含み,指定商品を第30類「菓子及びパン」とする登録第4251306号商標(平成9年6月16日出願,平成11年3月19日登録。乙19)及び登録第4324338号商標(平成9年6月16日出願,平成11年10月15日登録。乙20),指定商品を第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,香辛料,即席菓子のもと」とする登録第4333124号商標(平成10年10月22日出願,平成11年11月12日登録。乙21)及び登録第4368033号商標(平成10年10月22日出願,平成12年3月17日登録。乙22)の各登録商標を有していること,B原告は,本件取消審判請求と同日(平成15年5月8日)付けで前記乙23商標について商標登録出願を行ったこと,以上の事実を認めることができる。 (3) 上記認定の事実によれば,原告による本件取消審判請求は,原告の乙23商標についての商標登録出願の障害となる本件商標を排除するために行われたものと推認することができる。しかし,商標登録の出願をする者が,その障害となる先行登録商標を排除するために,その不使用取消審判請求をすること自体は何ら違法ということはできず,また,商標登録出願の際に指定商品又は役務に係る使用を現実に行っていることを必要とするものでもないから,上記事実をもって本件取消審判請求を権利濫用に当たるとすることはできない。そして,被告は日本国内において指定商品であるピザを生産・販売したことがないことは上記のとおりであるところ,本件商標が日本国内において取引者・需用者に広く知られ信用を獲得するに至っていたとは認めるに足りる証拠はないから,原告による本件取消審判請求が被告が有する本件商標に化体された信用にただ乗りするフリーライドを意図したものであると認めることもできない。 したがって,原告の本件取消審判請求を権利濫用ということはできない。 5 結論 以上のとおり,本件商標は,指定商品「ピザ」について審判請求登録前の3年以内に被告によって使用されていたとの事実を認めることはできず,被告が本件商標を日本において使用していないことについて正当な理由があるということもできず,また,原告による本件審判の請求は権利濫用であるということもできない。 したがって,原告の本件取消審判請求を不成立とした審決は違法というほかなく,取消しを免れない。 よって,原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 上田卓哉 |