関連審決 | 無効2015-680001 |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
28年
(行ケ)
10262号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告美津濃株式会社 訴訟代理人弁護士 中村稔 田中伸一郎 佐竹勝一 山本飛翔 弁理士 苫米地正啓 被告 福建鴻星尓克体育用品有限公司 (審決の表示)FUJIAN HONGXINGERKE SPORTS GOO DS CO., LTD. 訴訟代理人弁理士 吉川俊雄 |
|
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2017/09/13 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が無効2015−680001号事件について平成28年11月2日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日-1-と定める。 |
事実及び理由 | |
---|---|
原告の求めた裁判
主文同旨 |
|
事案の概要
本件は,商標登録無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟であり,争点は,@商標法4条1項11号該当性(商標の類否)及びA同項15号該当性(混同のおそれ)である。 1 本件商標及び特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は,次の商標(以下「本件商標」という)に係る商標権を有している(甲1,2)。 国際商標登録 第1119597号商標の構成 下記のとおり 国際商標登録出願日 2012(平成24)年2月20日 設定登録日 平成25年3月15日 指定商品 第18類「擬革,通学用かばん,バックパック,旅行用小型手提げかばん,スケート靴用革ひも,獣皮,傘」,第25類「被服,新生児用被服,水泳着,防水加工を施した被服,履物及び運動用特殊靴,帽子,メリヤス下着・メリヤス靴下,スカーフ,手袋(被服),スポーツジャージー及び競技用ジャージー,ティーシャツ,ジャケット(被服) フットボール靴, , サンダル靴及びサンダルげた,運動靴」及び第28類「ゲーム用ボール,ボディビル用具,運動用機械器具,スノーシュー,ローラースケート靴,釣りざお,おもちゃ,アーチェリー用具,シャトルコック,運動用ネット,体操用具,ひざ当て(運動用具),保護用パッド(運動用被服の部分品),スケート靴,インラインスケート」(参考訳文) 【本件商標】 (2) 原告は,平成27年5月1日,本件商標の登録が商標法4条1項11号及び同項15号に該当するから,同法46条1項1号の規定により無効とされるべきものであるとして,本件商標の登録無効審判請求をした(無効2015-680001号)。 特許庁は,平成28年11月2日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月10日,原告に送達された。 2 審決の理由の要点 (1) 引用商標(下記引用商標1及び2) 【引用商標1】 登録番号 第4716649号 出願日 平成14年7月24日 登録日 平成15年10月10日 指定商品 第18類「皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具,がま口口金,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,乗馬用具,愛玩動物用被服類」,第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」及び第28類「遊戯用器具,囲碁用具,将棋用具,歌がるた,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,トランプ,花札,マージャン用具,ビリヤード用具,おもちゃ,人形,愛玩動物用おもちゃ,運動用具,スキーワックス,釣り具,昆虫採集用具,遊園地用機械器具(業務用テレビゲーム機を除く。」のほか,第1類,第3類,第4類,第6類,第8類,第9 )類,第11類,第12類,第14類,第16類,第19類,第20類,第21類,第22類,第23類,第24類,第26類,第27類及び第32類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品 【引用商標2】 登録番号 第1703877号 出願日 昭和56年5月19日 登録日 昭和59年7月25日 指定商品の書換登録 平成17年3月9日 更新登録 平成26年6月24日 指定商品 第15類「楽器,演奏補助品,音さ」,第18類「乗馬用具」,第25類「運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。,乗馬靴,仮装用衣 )服」及び第28類「運動用具,おもちゃ,人形,囲碁用具,将棋用具,歌がるた,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,トランプ,花札,マージャン用具,遊戯用器具,ビリヤード用具,釣り具」のほか,第6類,第8類,第9類,第19類,第20類,第21類,第22類,第24類,第27類及び第31類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品 (2) 引用商標の著名性について 引用商標は,原告の業務に係る商品「スポーツシューズ,スポーツウェア,スポーツバッグ」などを表示する商標として,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,スポーツ用品に関連する商品の取引者,需要者の間に広く認識されていたものと認められる。 (3) 商標法4条1項11号該当性について 本件商標は,左右の上方に位置する二つの辺の端を互いに交わることのない二本の曲線で結んだ横長の図形を黒塗りしたものであるところ,その左右の辺は,左を右の7倍ほどの長さにし,それぞれがハの字型に下方に向けて広がり,図形中央下部は,キセルの雁首のように湾曲して描かれており,左上部の辺と二本の曲線とが接する部分は角が丸められている構成よりなり,全体として,直ちに何らかの具体物をモチーフとしたものとは特定することはできず,幾何図形の一種と認識させるものと認める。 これに対し,引用商標は,左右の上方に位置する二つ辺と下部に位置する辺の端をそれぞれ互いに交わることのない曲線で結んだ横長の図形を黒塗りし,その中央部に逆三角形状の白抜き部分を有するものであるところ,その左右の辺は,左を右の6倍(引用商標1)又は4倍(引用商標2)ほどの長さにし,それぞれが左方向に傾斜し,底部に水平の辺を有するものであって,三つの片とそれぞれを結ぶ曲線とが接する部分は角が尖っている構成よりなり,全体として,尾がぴんと伸びた横向きの鳥のような印象を受けるものである。 そこで,両商標を比較すると,両者は,左右の上方に,左をより長くした長さの異なる2つの辺を有すること,その左右の辺の端を結ぶ曲線又は直線により図形の外形が形成されていることなどの点で共通するものであるが,構成各部分において,1)底部における曲線と直線の差異(辺の数の差),2)図形の内部における白抜き部分の有無の差,3)それぞれの辺から延びる曲線の傾斜の差,4)右上部の辺の傾斜方向の差,5)左上部の辺と曲線の接する部分の角(尖っているか丸まっているかの差)の差異を有し,また,本件商標が何らモチーフを特定できないものであるのに対し,引用商標は鳥をモチーフとしたものとの印象を与えるものであるから,その構成全体から受ける印象も相違するものである。 そうすると,これらの相違から,本件商標と引用商標とは,その構成全体としてそれぞれが看者に与える印象が大きく異なり,それぞれ異なったものとして記憶されるとみるのが相当であるから,時と処を異にして接した場合も外観において混同を生ずるおそれはないものというべきである。 また,本件商標と引用商標は,特定の称呼,観念を生ずるものとはいえないから,称呼,観念においては比較することができない。 以上によれば,本件商標と引用商標とは,その外観,称呼及び観念のいずれにおいても,混同を生ずるおそれのない非類似の商標である。 したがって,本件商標は,商標法4条1項11号に該当しない。 (4) 商標法4条1項15号該当性について 引用商標は,請求人である原告の業務に係る商品「スポーツシューズ,スポーツウェア,スポーツバッグ」などを表示する商標として,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,スポーツ用品に関連する商品の取引者,需要者の間に広く認識されていたものと認められる。 しかしながら,本件商標は,引用商標と類似しないものであり,その相違の程度の高い別異の商標といえ,また,他に混同を生ずるとすべき格別の事情もない。 したがって,本件商標は,これをその指定商品について使用しても,その商品の需要者が,請求人である原告と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し,商品の出所について混同するおそれがある商標とはいえない。 請求人である原告の主張については,本件商標と引用商標とは,その構成全体としてそれぞれが看者に与える印象が大きく異なることからすれば,被服や靴などにワンポイントマークとして使用した場合であっても,両商標を判別することは十分に可能であって,混同を生ずるおそれはないといえること,スポーツの場面における商標の見え方,見る時間等は,商品の取引の実情とはいえないこと,新聞記事やツイッターへの多くの書き込みは,本件商標が引用商標の盗用ではないかといった趣旨の内容であり,これらの記載者は,本件商標と引用商標とが別異の出所を表示するものであるとの認識に立っていることは明らかで,これらを根拠として本件商標が請求人である原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であるとはいえないことからすると,いずれも採用することができない。 以上によれば,本件商標は,商標法4条1項15号に該当しない。 |
|
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性判断の誤り) (1) 本件商標と引用商標の類否判断の誤り 審決は,本件商標と引用商標との類否を判断するに当たり,必須であり,かつ,特徴をなす多くの構成要素について何ら考慮することなく,両者が類似しないと判断したものであって,このような類否判断には誤りがあるといわざるを得ない。以下のとおり,本件商標の図形は,その構成要素の多くが引用商標の構成要素と同じであり,同じでない部分も酷似ないし近似しており,両者を付した商品について出所の混同を生じることは必須である(なお,本件商標と引用商標を比較するためには同等の大きさによる必要がある。。 ) ア 本件商標と引用商標は,いずれも全体の図柄として左端に比し右端が高くなるように右端へ向かって全体として傾斜しているところ,この傾斜角度は同じ角度である(以下「比較@」という。。 ) イ 本件商標と引用商標は,いずれも上部の左端から右に延びる直線が一定の傾斜角度を有するところ,これらの傾斜角度の違いは微差であり,目視した場合に区別できるほどの差異ではない(以下「比較A」という。。 ) ウ 本件商標と引用商標は,いずれも湾曲部の下から右端に至る線も左から右上方に傾斜しているところ,その傾斜角度の差は1.8°しかなく,看者がよほど注意しなければ区別できない程度の微差である(以下「比較B」という。。 ) エ 本件商標と引用商標は,いずれも左端から湾曲部に至る線と湾曲部の下から右端に至る線のそれぞれの傾斜角度はほぼ同じであり,両者は平行関係にある(以下「比較C」という。 。 ) オ 本件商標と引用商標は,いずれも上部の左端から右に延びる直線は一定の距離で下方にえぐるように折れ曲がり,一定の深さと一定の幅をもつ湾曲部を構成している。これらの湾曲部の深さの比率は類似している(以下「比較D」という。。 ) カ 上記湾曲部は一定の傾きをもっているところ,この傾きの度合いは,同じである(以下「比較E」という。。 ) キ 本件商標と引用商標は,いずれも左端から前記湾曲部への折れ曲がり箇所まで延びている直線の距離に比べ,湾曲部の下端から右端まで延びている直線の距離の方が若干長く表現されているという点で同じであり,湾曲部の下端から本件商標の右端まで延びている直線の距離については引用商標の方が本件商標よりも僅かに長いとはいえ,看者に格別の差異を感じさせるほどのものではない(以下「比較F」という。。 ) ク 本件商標と引用商標は,いずれも左端から下方に向かって僅かに湾曲しながら下方の中央部に向かって傾斜している曲線が延びており,右端からも下方の中央部に向かって傾斜している直線が左方向に延び,中央部の僅か手前で,この直線が僅かに曲線となって下方の中央部にまで延びている。この右端から下方の中央部に延びる線と左端から下方の中央部に延びる線のそれぞれの距離及び短い直線状をなす下方の中央部の長さとこれらの左端と右端の双方から延びている線の長さは,いずれも前者よりも後者が長い(以下「比較G」という。。 ) ケ 本件商標と引用商標は,いずれも左端から下方に向かって緩やかな曲線が延びており,両者の曲線の度合いは同じである(以下「比較H」という。。 ) コ 本件商標と引用商標は,いずれも右端から下方に向かって一定の距離,直線で傾斜をもって延び,その先では底部に向かって曲線で延びて繋がっている。 この直線部分の傾斜角度は異なるが,この違いも子細に点検しなければ,識別できない程度のものである(以下「比較I」という。 。 ) サ 本件商標と引用商標は,いずれも右端から下方に延びる線は底部に近い箇所では曲線を描いている。これらの曲線の度合いを見るために楕円に添わせてみると,ほとんど同じ楕円に添うことが判明する(以下「比較J」という。。 ) シ 本件商標と引用商標のそれぞれの胴体部の最も厚い部分と右端に近い最も細い部分の比率も実質的にみて等しいといえる(以下「比較K」という。。 ) ス 本件商標と引用商標のそれぞれの胴体部の最も厚い部分の長さとそれぞれの商標の全体の長さの比率は酷似している(以下「比較L」という。 。 ) (2) 審決の類否判断について ア 審決は,本件商標について,全体として,直ちに何らかの具体物をモチーフとしたものとは特定することはできず,幾何図形の一種と認識させるものと認めると認定した。しかしながら,被告は,自ら大きな鳥をモチーフとして,本件商標を創作したと主張しており,引用商標は,鳥をモチーフにしたものとの印象を与えるものであるから,両者は同じく,鳥をモチーフにして,これを図案化したものという印象を需要者,その他の取引の関係者に与える点で,一致しているといえる。 イ 審決は,本件商標と引用商標を比較し,前記第2の2(3)の1)〜5)の差異を有するものであると認定した。しかしながら,上記1),3)〜5)については,微差であるといえ,このような差異を指摘することは不合理である。 また,2)については,本件商標と引用商標とを区別するのに充分な特徴ではない。本件商標と引用商標は,いずれも鳥をモチーフにして図案化された商標である。 そもそも鳥は飛翔する姿が常態であって,鳥の絵やこれを図案化したものについて,脚部に相当する部分は特徴をなす部分ではないといえる。 さらに,看者が引用商標や本件商標に接するのは,例えば,スポーツシューズをアスリート,プレーヤー等が履いた写真やテレビ放送であり,陳列棚に置かれているのと異なり,側面の全体がはっきり見えるようには撮影されない。しかも,これも一瞬のごく短い時間であるから,白抜きの逆三角形の有無を理由として,混同を生じるおそれはないということはできない。 また,引用商標も本件商標もワンポイントマークとしてスポーツウェア等に使用されることが多く,この場合,識別できれば足りる程度に小さく付され,縫い込まれたワンポイントマークにおいて,白抜きの逆三角形は見えない程度の大きさにならざるを得ない。このような取引の実情を考えると,白抜きの逆三角形があるために,引用商標を付した商品が本件商標を付した商品と混同を生ずるおそれがないなどということはありえない。 ウ 本件商標が引用商標に似ているとマスコミで実際に取り上げられたり,ツイッターでも多数つぶやかれたりしている。新聞記事を書いたり,ツイッターの書き込みをした者は,自分は両者を別異のものと認識したが,うっかりすると盗用品を買うおそれがあるから注意するようにと警告しているのであって,まさに,混同のおそれを十分に認識してこのような書き込みなどをしているものである。 エ スポーツ用品メーカーのウェアやシューズの購入経験のある者を調査対象者としたビデオリサーチ株式会社の調査(甲223。以下「本件調査」という。)によると,原告会社の知名度は,世界のトップ5社の中に数えられる程度に高いことが示されている。また,調査対象者に対し,シューズ及びウェアに付された本件商標の写真を示したところ,思い浮かぶ企業名・ブランド名を挙げた者のうち,原告(ミズノ・ランバード)と回答した者の割合は約54.9%であった(193名中106名)。本件調査の結果は,本件商標が引用商標と類似し,多くの需要者が本件商標の使用を引用商標の使用と誤認混同するものであることを明確に示している。 (3) 以上のとおりであり,審決が認定する本件商標と引用商標の構成上の相違に根拠はなく,審決が無視した引用商標の周知著名性,取引の事情を合わせて検討すれば,出所混同のおそれは高いから,審決の商標法4条1項11号該当性に関する判断には誤りがある。 2 取消事由2(商標法4条1項15号該当性判断の誤り) 審決は,引用商標の周知著名性を認めた上で,本件商標は,引用商標と類似しないものであり,その相違の程度の高い別異の商標といえ,また,他に混同を生ずるとすべき格別の事情もないとして,本件商標は商品の出所について混同するおそれがある商標とはいえないと判断した。 しかしながら,前記1のとおり,本件商標は,引用商標を基礎にして,その構成要素に些細な変更を加えたものであり,明らかに外形的に類似する。また,本件商標の図案は,引用商標と同じく鳥をモチーフにするものであり,観念的にも類似する。したがって,本件商標と引用商標は,相違の程度が高い別異の商標ではない。 引用商標は,原告の商品であることを表示する商標として,特に我が国において非常に高い周知著名性を獲得しており,本件商標は,引用商標の世界的な名声と信用に便乗するため,作成されたものと解さざるを得ない。 原告は,既に,30年以上にわたって引用商標をその商品に使用してきており,20年近くハウスマークとしてほとんど全ての商品に使用している。多くのスポーツ愛好家が原告の商品を愛用しており,プロスポーツ選手も多数が引用商標の付された原告の商品を使用している。このような引用商標の周知著名性に加えて,@スポーツ用品メーカーの広告,宣伝及び消費者への購買の動機付け,Aウェア等のワンポイントマークとして付されること等の取引の実情に鑑みれば,本件商標の付された商品が原告の商品であると混同されるおそれは大きい。 スポーツ用品メーカーの主たる顧客であるスポーツの愛好家は,自分自身のパフォーマンス向上のために,どのシューズ,ウェア,用具を使用するかに重大な関心を持っており,自身が憧れ,目標にしているトップ選手が使用しているブランド等が選択肢として検討されることが非常に多い。試合会場又はテレビで大会等を見た観客である顧客は,そこで活躍する選手が使用し身に着けた商品に魅力を感じて,販売店に赴き,購入することになるのであるが,競技をしている選手が使用し,身に着けている商品についてはマークの概略的な形(シルエット)の特徴でしか認識できないことも多い。引用商標は,ウェア等のワンポイントマークとして付されていることが多く,本件商標についても同じような使用が予想されるところ,引用商標の白抜きの逆三角形等のような細かな部分はマークの表示が小さいため,およそ目につかない。さらに,このようなワンポイントマークは,ニット製品に付されるときは刺繍でなされることが多く,この場合にはなおさら確認が難しくなる。 以上のような取引状況等も考慮すると,本件商標の使用が出所の混同を生じさせる可能性は極めて高いものと認められる。本件商標が,商標法4条1項15号に該当しないとの審決の判断には誤りがあるから,取り消されるべきものである。 |
|
被告の主張
1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性判断の誤り)について (1) 本件商標と引用商標の構成について 原告は,本件商標と引用商標の構成について,比較@〜Lを特段に取り上げているけれども,本件商標と引用商標とで全く近似していないか,測定基準が不適切であるか,原告の商標によってまちまちで採用できないかのいずれかである。 ア 比較@については,単純に左端と右端の測定ポイントを採用し,その2点の傾斜角度を測っただけであるから,その角度によって商標自体が「全体として傾斜している」というのは不適切である。また,本件商標と引用商標とで測定基準が一致せず,不適切であるといえる。 イ 比較Aについては,傾斜角度は原告の商標によってまちまちでかなりの差があり共通しないことから,単純に引用商標1と比較することは不適切である。 ウ 比較Bについては,測定基準点によってその傾斜角度は異なるにもかかわらず,原告が採用する測定基準点は恣意的であるから,不適切である。 エ 原告は,比較Cについて,比較Aの傾斜角度と比較Bの傾斜角度がほぼ同じであると主張する。しかしながら,比較A及び比較Bについては,上記イ及びウのとおり不適切であるから,比較Cについても採用することができない。 オ 比較Dについては,湾曲部の深さ及び高さの比率を比較しているが,実際は何が測定されたのか不明である。また,原告の主張する「高さの比率」は,「1.0:1.2」であって2割もの相違があり,明らかに相違するものである。 カ 比較Eについて,原告は,湾曲部が一定の傾きを持っていると主張する。しかしながら,湾曲部の「始まりの点」「終わりの点」「中心点」の定義が不明確である。 キ 比較Fについては,看者に大きな差異を感じさせるものであるといえるから,むしろ,本件商標と引用商標1とは顕著に相違する。 ク 比較Gについては,原告の商標によってまちまちで単純に引用商標1と比較することはできないし,むしろ,その角度の相違が目につく。 ケ 比較Hについて,本件商標のカーブは,引用商標1のカーブに比べて緩やかであるから,相違している。 コ 比較Iについては,測定基準点が恣意的であるから,不適切である。 サ 比較Jについては,本件商標では,明らかに輪郭線が楕円に添っておらず,本件商標と引用商標1とでは顕著に相違する。 シ 比較Kについては,引用商標1において「胴体部の最も厚い部分」を対比していない。また,測定基準点が恣意的に採用されている。 ス 比較Lについても,上記シのとおり,採用することができない。 (2) 本件商標と引用商標の類否判断について ア 審決は,本件商標と引用商標とは,前記第2の2(3)の1)〜5)の差異を有すると認定し,これらの差異によって,本件商標と引用商標とは,構成全体から受ける印象も相違すると判断しているところ,当該認定及び判断は正しく何ら誤りはない。 イ 「図形の内部における白抜き部分の有無の差」について 引用商標は,図形の内部に白抜きの逆三角形の部分を有するのに対し,本件商標にはそのような構成はないことは一目瞭然である。 白抜きの逆三角形部分は,原告が意図する「鳥が走っている」というイメージと切っても切り離せない特徴的部分であり,重要な要部である。 原告は,看者が引用商標や本件商標に接するのはスポーツシューズをアスリート,プレーヤー等が履いた写真やテレビ放送であると主張する。しかしながら,需要者が本件商標や引用商標を付した商品を購入する場面というのは,スポーツ店などの店舗の陳列棚に置かれている商品を目の前にしている状態である。実際に商品を購入する場面において,側面の全体がはっきり見えない状態や,一瞬のごく短い時間で判断を下さなければならないという場面はない。スポーツの場面における商標の見え方,見る時間等は,商品の取引の実情とはいえないと審決が認定したとおりである。 仮に,商品を購入する前の段階で,需要者が写真やテレビ放送に接する場合があるとしても,商品の出所の混同を生じるおそれはない。原告によれば,スポーツ品メーカーの主たる顧客は「スポーツ愛好家」である。スポーツ愛好家は,それ以外の者に比べて,各スポーツの用品やブランドについて相当の知識があり,加えて,商品の購入に際しては「自分自身のパフォーマンスの向上」が掛かっているから,相当の注意を払って慎重に選択する。したがって,需要者たるスポーツ愛好家は,スポーツ雑誌等の写真において商標全体がよく見えない場合があるとしても,注意力がある上に,それだけで購入を決定することはなく,購入の際に,店舗等で商標を確認することができる。 以上によれば,本件商標と引用商標とで商品の出所の混同を生ずるおそれはない。 商標がワンポイントマーク等として使用されているからといって,直ちに2つの商標が類似であると判断することはできない。引用商標は,ワンポイントマークとして,靴下などの小さいものに縫い付けられたものであっても,逆三角形の部分はつぶれて見えることはなく,はっきりと認識できる。 したがって,ワンポイントマークとして小さく表示されることがあるとしても,本件商標と引用商標とは,逆三角形部分の有無という顕著な相違により,混同のおそれはない。 ウ 本件商標と引用商標とは,その他に,以下の差異も有する。 商標の縦横比の相違 本件商標は引用商標に比べ縦幅が短いため,本件商標は,引用商標に比べかなり平べったい印象を与える。 左端頂部の高さの相違 本件商標の左側頂部は,商標全体の高さの下から4分の1程度の低い位置にあるが,引用商標の左側頂部は,上から3分の1程度のかなり高い位置にある。 左上部の左傾斜直線の長さの相違 本件商標の,左上部の左傾斜直線の長さは,商標の横方向の半分近くを占め,長いのに対し,引用商標1の左傾斜直線の長さは商標の横方向の3分の1ほど,引用商標2では7分の2程度で,短い。これにより,商標の左側の印象が,本件商標ではどっしりして見えるのに対し,引用商標ではコンパクトに締まって見える。 以上のように,本件商標と引用商標との差異を考慮すると,看者に与える印象が大きく異なるから,外観において混同を生ずるおそれはない。 エ 原告は,本件商標が引用商標と類似するとしてマスコミで実際に取り上げられたことの根拠として,東京スポーツの記事(甲88)を示している。しかしながら,東京スポーツの上記記事は,世俗的関心を引くことのみを追求したものであり,被告について面白おかしく書き立てたものである(乙4〜6)。 また,「パクリやーん」などとのツイッターへの書き込みは,到底,正義感などというものではなく,世俗的関心から,何の責任もない者がおもしろおかしく書き立て,被告を揶揄しているのである。原告が提出した新聞記事やツイッターの多くの書き込みの記載者は,本件商標と引用商標とが別異の出所を表示するものであるとの認識に立ったものであり,これらを根拠として本件商標が原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標とはいえない。 なお,被告の企業努力等を通じて,本件商標は,中国において,「中国で最も価値のあるブランドトップ500」に選出され(甲193),周知著名商標となっている(甲190)。被告は,本件商標のロゴマークを大切にし,一層の信用の蓄積に努め,守り育てているのである(甲156〜206,208)。 オ 本件調査の結果(Q1)について,原告でない回答をした者が61.2%であり,原告(ミズノ・ランバード)と回答した割合(38.8%)よりもはるかに多い。原告の主張は, 「ない,わからない」との回答を恣意的に排除したものであり,その数字に意味はない。 (3) 以上のとおり,取引の実情を考慮したとしても,本件商標と引用商標とは出所混同のおそれはなく,本件商標が商標法4条1項11号に該当しないとした審決の判断に誤りはない。 2 取消事由2(商標法4条1項15号該当性判断の誤り)について 前記1のとおり,本件商標と引用商標との差異を併せてみれば,看者に与える印象が大きく異なるというのが相当であって,外観において混同を生ずるおそれはない。原告は,本件商標の図案は,引用商標と同じく鳥をモチーフにするものであり,外形的類似に加えて観念的な類似も存在すると考えると主張する。しかしながら,原告は,審判段階において, 「本件商標は特定の観念および称呼を生ずるものではない」と主張しており,矛盾する。そもそも, 「また,本件商標と引用商標は,特定の称呼,観念を生ずるものとはいえないから,称呼,観念においては比較することができない」との審決の認定について,原告は,特段争っていない。 さらに,自分自身のパフォーマンス向上のためにどのシューズ,ウェア,用具を使用するかを重要な関心事とし,試合会場やテレビで放送される試合の内容のみならず,選手がどのようなブランド,モデルの商品を使用しているかにまで注目し,それと同じブランド,モデルの購入を検討するスポーツ愛好家たる需要者は,スポーツ用品ブランドについて相当の知識もあるし,自分自身のパフォーマンスの向上」 「が掛かっているから,相当の注意を払って購入しようとするものである。そして,購入時には,購入店においてはっきりと商標を確認することができるのである。 引用商標は,シューズ,ユニフォーム等にワンポイントマークとして使用された場合であっても,白抜きの逆三角形の部分はつぶれることなく,はっきりと認識できるから,本件商標と引用商標とで商品の出所の混同を生ずるおそれはないというのが相当である。 また,新聞記事やツイッターの多くの書き込みの記載者は,本件商標と引用商標とが別異の出所を表示するものであるとの認識に立ったものであり,これらを根拠として本件商標が原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標とはいえない。前記のとおり,原告の提出する記事やツイッターの書き込みは信用ならないものであり,いずれも採用するに値しない。 以上のとおり,仮に引用商標が周知・著名であるとして,その周知著名性を考慮したとしても,原告の主張は不当であり,商標法4条1項15号に関する審決の判断に誤りはない。 |
|
当裁判所の判断
1 取消事由2(商標法4条1項15号該当性判断の誤り)について 原告は,本件商標が商標法4条1項15号に該当しないとした審決の認定判断は誤りであると主張するので,以下,検討する。 (1) 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」は,当該商標をその指定商品等に使用したときに,当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ,すなわち,いわゆる広義の混同を生ずるおそれがある商標をも包含するものであり,同号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の関連性の程度,需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,上記指定商品等の需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断すべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。 (2) 本件商標と引用商標との対比 審決は,本件商標の構成について,前記第2の2(3)のとおり認定した上で,引用商標と対比し,両者は,前記同1)から5)の差異を有し,また,本件商標が何らモチーフを特定できないものであるのに対し,引用商標は鳥をモチーフとしたものとの印象を与えるものであるから,その構成全体から受ける印象も相違すると判断した。これに対し,原告は,本件商標と引用商標の構成についての審決の認定に誤りがあることを前提に,本件商標と引用商標とは多数の共通点があり,審決の認定した上記差異1),3)〜5)については,微差であり,2)については,本件商標と引用商標の特徴的部分ではなく,また,取引の実情等を考慮すると,2)の差異があることによって,出所の混同を生じるおそれがないとはいえないなどと主張する。 ア 本件商標と引用商標の構成 本件商標の構成 本件商標は,前記のとおりの図柄であり,左右の上方に位置する二つの辺の端を互いに交わることのない二本の曲線で結んだ横長の図形を黒塗りしたものであるところ,その左右の辺は,左を右の7倍ほどの長さにし,それぞれがハの字型に下方に向けて広がり,図形中央下部は,キセルの雁首のように湾曲して描かれており,左上部の辺と二本の曲線とが接する部分は角が丸められている構成からなるものであって,本件商標の基本的な構成は,概ね,審決が認定したとおりであるといえる。 引用商標の構成 引用商標は,前記のとおりの図柄であり,左右の上方に位置する二つの辺と下部に位置する辺の端をそれぞれ互いに交わることのない曲線で結んだ横長の図形を黒塗りし,その中央部に逆三角形状の白抜き部分を有するものであるところ,その左右の辺は,左を右の6倍(引用商標1)又は4倍(引用商標2)ほどの長さにし,それぞれが左方向に傾斜し,底部に水平の直線を有するものであって,三つの辺とそれぞれを結ぶ曲線とが接する部分は角が尖っている構成からなるものであって,引用商標の基本的な構成は,概ね,審決が認定したとおりであるといえる。 イ 本件商標と引用商標との異同 審決が認定したとおり,本件商標と引用商標とは,左右の上方に,左をより長くした長さの異なる二つの辺を有すること,その左右の辺の端を結ぶ曲線又は直線により図形の外形が形成されていることなどの点で共通するものであるが,構成各部分において,1)底部における曲線と直線の差異(辺の数の差),2)図形の内部における白抜き部分の有無の差,3)それぞれの辺から延びる曲線の傾斜の差,4)右上部の辺の傾斜方向の差,5)左上部の辺と曲線の接する部分の角(尖っているか丸まっているかの差)の差異などを有することに加え,被告が指摘するように,本件商標は,引用商標よりも縦幅が短く,本件商標と引用商標とは縦横比が相違することから,引用商標と比較して,平たい印象を受けることなどの差異を有することが認められる。以上のような差異,特に,2)図形の内部における白抜きの逆三角形部分の有無を考慮すると,本件商標と引用商標とを直接対比した場合の視覚的印象は別異のものということもできる。 しかしながら,本件商標及び引用商標の全体的な構図をみると,本件商標と引用商標は,いずれも,その全体の図柄として左端に比して右端が高くなるように右上方に傾斜しており,左上部分には右上方向に傾斜している直線があり,その傾斜直線の左端から鋭角に中央下部へ延びる曲線があり,また,上記傾斜直線の右端から鋭角に左下方向へ向かうとともに,弧を描きながら湾曲して右上がりに緩やかな曲線が延びており,その曲線の終点である右上部から中央部に向けて曲線が延びている構成を有するものといえる。そして,上部の左端から右方向に延びる直線の傾斜角度及び湾曲した部分の下から右端に向かって上方に傾斜している曲線の傾斜角度は比較的類似していること,上記湾曲部の深さの比率や傾きの度合いも類似していること,本件商標と引用商標の左側部分における,それぞれの最も厚い部分の幅はほぼ同じであることなどの点において,本件商標と引用商標とは共通するものであり,本件商標の全体的な配置や輪郭等については,引用商標(特に上側部分)と比較的高い類似性を示すものであるということができる。 (3) 引用商標の周知著名性 証拠(甲6〜81,118〜125)及び弁論の全趣旨によれば, 引用商標は,我が国においては,昭和58年にスポーツシューズについて使用が開始され,その後,昭和62年からは,スポーツウェアやアパレル製品,スポーツバッグなどにも付されるようになり,平成10年には原告のハウスマークとして使用されており,平成19年以降には,原告の製品全てに付されるようになったこと,引用商標が使用開始された昭和58年以降,平成26年に至るまで,引用商標が付されたスポーツウェアやアパレル製品,スポーツバッグなどは多数販売され,その売上高は,平成20年度以降,毎年合計で1000億円以上に達していること,昭和58年から平成26年にかけて,引用商標を付した商品は,オリンピックなどのスポーツイベントで使用され,テレビ,雑誌,新聞その他多くのメディアにおいて紹介され,また,宣伝広告されてきたことなどが認められる。 以上の事実に加え,原告の知名度に関する本件調査の結果(甲223)も考慮すると,引用商標は,原告の業務に係る商品である「スポーツシューズ,スポーツウェア,スポーツバッグ」などを表示する商標として,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,スポーツ用品に関連する商品の需要者の間に広く認識されていたものと認められる。 (4) 本件商標の指定商品と引用商標に係る商品 本件商標の指定商品は,第18類「擬革,通学用かばん,バックパック,旅行用小型手提げかばん,スケート靴用革ひも,獣皮,傘」,第25類「被服,新生児用被服,水泳着,防水加工を施した被服,履物及び運動用特殊靴,帽子,メリヤス下着・メリヤス靴下,スカーフ, (被服) スポーツジャージー及び競技用ジャージー, 手袋 ,ティーシャツ,ジャケット(被服) フットボール靴, , サンダル靴及びサンダルげた,運動靴」及び第28類「ゲーム用ボール,ボディビル用具,運動用機械器具,スノーシュー,ローラースケート靴,釣りざお,おもちゃ,アーチェリー用具,シャトルコック,運動用ネット,体操用具,ひざ当て(運動用具),保護用パッド(運動用被服の部分品),スケート靴,インラインスケート」であり,当該指定商品は,引用商標の著名性が需要者に認識されている分野であるスポーツ用品(運動用具)関連の商品を含むものであるといえる。 (5) 商標の使用形態等における取引の実情 証拠(甲12,19,28,29,34,36,38,40,43,54,68,69,112,165,167,175)及び弁論の全趣旨によれば,引用商標は,スポーツシャツ,スポーツジャージーなどのウェアや靴下,帽子などについて,刺繍やプリントなどによるいわゆるワンポイントマークとして付されているものも多くあること(なお,引用商標だけでなく,他の著名な図形商標も,スポーツ用品(運動用具)に関連する商品などにワンポイントマークとして付されていることが多いといえる。,シューズ(運動靴)については,靴の側面に商標を付する表 )示形態が多く採用されていることが認められる。また,証拠(甲9,10,22,23,25,28,120)及び弁論の全趣旨によれば,そのような態様で商標を付したスポーツシャツやシューズが商品カタログやスポーツ雑誌等において紹介されており,プロスポーツ選手等が上記の表示形態で商標が付されたスポーツシャツなどのウェアやシューズを身に付けている写真等も掲載されていること,また,プロスポーツ選手等が上記の表示形態で商標が付されたスポーツシャツなどのウェアやシューズを身に付けている場面を,プロスポーツの試合会場やテレビ中継等で目にする機会も多いことなどが認められる。そして,本件商標が,その指定商品である被服,スポーツジャージー,靴下,帽子,運動靴などの商品分野において使用される場合には,ワンポイントマークとして表示される可能性が高いものということができる(甲165,167,175)。 このように,本件商標がワンポイントマークとして表示される場合などを考えると,ワンポイントマークは,比較的小さいものであるから,そもそも,そのような態様で付された商標の構成は視認しにくい場合があるといえる。また,マーク自体に詳細な図柄を表現することは容易であるとはいえないから,スポーツシャツ等に刺繍やプリントなどを施すときは,むしろその図形の輪郭全体が見る者の注意を惹き,内側における差異が目立たなくなることが十分に考えられるのであって,その全体的な配置や輪郭等が引用商標と比較的類似していることから,ワンポイントマークとして使用された場合などに,本件商標は,引用商標とより類似して認識されるとみるのが相当である(本件商標と引用商標の差異のうち,比較的特徴的であるといえる白抜きの逆三角形部分についても,外観において紛れる場合が見受けられる。。さらに,多数の商品が掲載されたカタログ等や,スポーツの試合観戦の場合 )などにおいては,その視認状況等を考慮すると,特に,外観において紛れる可能性が高くなるものといえる。 また,本件商標の指定商品は,「被服」を始め「帽子,メリヤス靴下,スカーフ,サンダル靴,ティーシャツ」等であり,日常的に消費される性質の商品が含まれ,スポーツ用品(運動用具)関連商品を含む本件商標が使用される商品の主たる需要者は,スポーツの愛好家を始めとして,広く一般の消費者を含むものということができる。そして,このような一般の消費者には,必ずしも商標やブランドについて正確又は詳細な知識を持たない者も多数含まれているといえ,商品の購入に際し,メーカー名やハウスマークなどについて常に注意深く確認するとは限らず,小売店の店頭などで短時間のうちに購入商品を決定するということも少なくないと考えられる。 (6) 混同を生ずるおそれについて 本件商標と引用商標は,全体的な構図として,配置や輪郭等の基本的構成を共通にするものであり,本件商標が使用される商品である被服等の商品の主たる需要者が,商標やブランドについて正確又は詳細な知識を持たない者を含む一般の消費者であり,商品の購入に際して払われる注意力はさほど高いものとはいえないことなどの実情や,引用商標が我が国において高い周知著名性を有していることなどを考慮すると,本件商標が,特にその指定商品にワンポイントマークとして使用された場合などには,これに接した需要者(一般消費者)は,それが引用商標と全体的な配置や輪郭等が類似する図形であることに着目し,本件商標における細部の形状(内側における差異等)などの差異に気付かないおそれがあるといい得る。 また,引用商標は,スポーツ用品(運動用具)関連の商品分野において,原告の商品を表示するものとして,需要者の間において著名であるところ,本件商標の指定商品には,引用商標の著名性が需要者に認識されているスポーツ用品(運動用具)関連の商品を含むものであるから,本件商標をその指定商品に使用した場合には,これに接する需要者は,著名商標である引用商標を連想,想起して,当該商品が原告又は原告との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品であると誤信するおそれがあるものというべきである。 したがって,本件商標は,商標法4条1項15号に該当するものとして商標登録を受けることができないというべきであるから,これと異なり,本件商標が同号に該当しないとした審決の判断には誤りがあるといわざるを得ない。 (7) 被告の主張について ア 被告は,本件商標と引用商標とは,審決が認定した差異以外に,商標の縦横比の相違,左端頂部の高さの相違,左上部の左傾斜直線の長さの相違を有するものであり,看者に与える印象が大きく異なるというのが相当であるから,外観において混同を生ずるおそれはない旨主張する。 確かに,本件商標と引用商標とを対比すると,前記のとおり,具体的な構成においていくつかの相違点が認められるものである。しかしながら,前記認定のとおり,引用商標は,前記のような図柄であって,原告の商品を表示するものとして,いわゆるスポーツ用品関連の商品分野において,高い著名性を有していたことに照らせば,被告が指摘するような具体的構成における差異が存在するとしても,引用商標と全体的な輪郭等の構成が共通していると認められる本件商標をスポーツ用品関連の商品を含む本件商標の指定商品に付して使用した場合には,これに接する需要者において,当該商品が原告又は原告との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品であると誤信するおそれがあるものというべきである。 また,具体的な構成において引用商標と相違する点があるとしても,その全体的な輪郭等の構成が引用商標と客観的に類似性の高いものとなっており,これをワンポイントマークとして使用した場合などには,一般の消費者の注意力などをも考慮すると,出所の混同を生ずるおそれがあることは前記のとおりである。 なお,商標法4条1項15号該当性の判断は,当該商標をその指定商品等に使用したときに,当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれが存するかどうかを問題とするものであって,当該商標が他人の商標等に類似するかどうかは,上記判断における考慮要素の一つにすぎないものである。被告が主張するような差異が存在するとしても,その点については,本件商標の構成において格別の出所識別機能を発揮するものとまではいえないし,単に本件商標と引用商標の外観上の類否のみによって,混同を生じるおそれがあるか否かを判断することはできない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 イ 被告は,商標の使用態様がシューズ等へのワンポイントマークとしての使用であったとしても,@自分自身のパフォーマンス向上のためにどのシューズ,ウェア,用具を使用するかを重要な関心事とし,試合会場やテレビで放送される試合の内容のみならず,選手がどのようなブランド,モデルの商品を使用しているかにまで注目し,それと同じブランド,モデルの購入を検討するスポーツ愛好家たる需要者は,スポーツ用品ブランドについて相当の知識もあるし, 「自分自身のパフォーマンスの向上」が掛かっているから,商品購入時には相当の注意を払うといえること,A商品の購入時には,購入店においてはっきりと商標を確認することができ,引用商標の白抜きの逆三角形の部分はつぶれることなく,はっきりと認識できることなどからすると,本件商標と引用商標とで商品の出所の混同を生ずるおそれはない旨主張する。 確かに,本件商標の指定商品について,被告がいうようなスポーツ愛好家も需要者であるといえるけれども,前記のとおり,本件商標の指定商品は, 「被服」を始め「帽子,メリヤス靴下,スカーフ,サンダル靴,ティーシャツ」等であり,日常的に消費される性質の商品が含まれ,これを購入する者が特別の知識を有しない一般の消費者であることに照らせば,需要者全体の注意力が高いと直ちに認めることはできない。また,上記の商品において,商標等の表示がいわゆるワンポイントマークとして比較的小さく付されることが多い実情に照らしても,本件商標と引用商標の間の白抜きの逆三角形部分などの相違点に需要者の注意が向けられないままに商品の選択,購入がされる場合が少なくないものと考えられる。 すなわち,ワンポイントマークは,比較的小さいものであり,マーク自体に詳細な模様や図柄を表現することは実際上容易ではなく,これを商品に付して使用する場合には,その図形の輪郭全体が見る者の注意を惹き,内側における差異が目立たなくなることが十分に考えられる。そして,本件商標は,その全体的な配置や輪郭等が引用商標と類似していることから,白抜きの逆三角形部分の有無にかかわらず,外観において引用商標と相紛れる場合が見受けられるのは前記のとおりである。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 2 小括 以上によれば,本件商標が商標法4条1項15号に該当しない旨の審決の判断は誤りであり,原告が主張する取消事由2は理由がある。 |
|
結論
以上のとおり,原告主張の取消事由2は理由があり,その余の取消事由について判断するまでもなく,原告の請求は理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 清水節 |
---|---|
裁判官 | 中島基至 |
裁判官 | 岡田慎吾 |