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事件 平成 29年 (ネ) 10053号 商標権侵害差止等請求控訴事件

控訴人(1審被告) NPO法人極真カラテ門馬道場
訴訟代理人弁護士 中澤佑一 松本紘明 柴田佳佑 西郷豊成 船越雄一 延時千鶴子 岩本瑞穗 平津慎副
被控訴人(1審原告) Y
同所
被控訴人(1審原告) 有限会社マス大山エンタープライズ
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2017/12/25
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 上記部分に係る被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
主文同旨
事案の概要(以下,略称等の表記は特に断らない限り原判決に従う。)
1 事案の要旨 (1) 本件は,原判決別紙商標目録記載1〜3の各登録商標(本件商標1〜3) の商標権者である被控訴人(1審原告)Y(以下「被控訴人Y」という。) と,原判決別紙商標目録記載4〜6の各登録商標(本件商標4〜6)の商標 権者である被控訴人(1審原告)有限会社マス大山エンタープライズ(以下 「被控訴人会社」という。)が,控訴人(1審被告)及び1審被告A(以下, 「1審被告A」といい,控訴人と併せて「1審被告ら」という。)に対し, 以下の各請求をする事案である。
ア 被控訴人Yが,1審被告らに対し,1審被告らが,本件商標1〜3に類 似する本件標章1,同2-1,同2-2,同3を,@本件各建物の看板, 建物ドア,表示板等に使用する行為,A空手の教授を受ける者の利用に供 する道着に付して空手教授を行う行為及びB本件ウェブサイトに付す行為 が,いずれも被控訴人Yの有する本件商標権1〜3を侵害すると主張して, 商標法36条1項に基づき,本件標章1,同2-1,同2-2,同3の各 使用の差止めを求める請求。
イ 被控訴人会社が,1審被告らに対し,1審被告らが,本件商標4〜6に 類似する本件標章4-1,同4-2,同5,同6を,@本件各建物の看板, 建物ドア,表示板等に使用する行為,A空手の教授を受ける者の利用に供 する道着に付して空手教授を行う行為及びB本件ウェブサイトに付す行為 が,いずれも被控訴人会社の有する本件商標権4〜6を侵害すると主張し て,商標法36条1項に基づき,本件標章4-1,同4-2,同5,同6 の各使用の差止めを求める請求。
ウ 被控訴人Yが,1審被告らに対し,1審被告らの上記アの行為が被控訴 2 人Yの有する本件商標権1〜3を侵害する共同不法行為に当たると主張し て,民法709条及び商標法38条2項に基づき,損害賠償金1200万 円及びこれに対する1審被告らに対する最終の訴状送達の日(1審乙事件 の訴状送達日)の翌日である平成28年4月2日から支払済みまで年5分 の割合による遅延損害金の連帯支払を求める請求。
エ 被控訴人会社が,1審被告らに対し,1審被告らの上記イの行為が被控 訴人会社の有する本件商標権4〜6を侵害する共同不法行為に当たると主 張して,民法709条及び商標法38条3項に基づき,損害賠償金225 万円及びこれに対する1審被告らに対する最終の訴状送達の日(1審乙事 件の訴状送達日)の翌日である平成28年4月2日から支払済みまで年5 分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める請求。
(2) 原判決は,@被控訴人らの控訴人に対する請求については,損害賠償請求 の一部を認容し,その余(損害賠償請求の残部及び差止請求)を棄却し,A 被控訴人らの1審被告Aに対する請求については,その全部を棄却した。
(3) これに対し,控訴人のみが原判決中控訴人敗訴部分を不服として本件控訴 をした。
2 前提事実 前提事実は,次のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」第2の2 (原判決3頁19行目から8頁26行目まで)に記載のとおりであるから,こ れを引用する。
(1) 原判決8頁25行目から26行目にかけて「当裁判所」とあるのを「東京
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(2)同頁26行目末尾の次に改行の上,次のとおり加える。
「(9)本件商標権3の消滅等本件商標権3については,平成29年5月11日,総極真が請求した商標登録無効審判事件(無効2014-890093号)において,商標法3 4条1項7号に違反して登録されたものとして,同法46条1項1号の規定によりその登録を無効とする旨の審決がなされ,同審決は同年6月19日に確定したことから,同年7月13日付けでその登録が抹消された(乙128,156)。
なお,総極真は,本件商標権1,2,4〜6についても,同年8月22日にそれぞれ商標登録無効審判を請求しており,現在,特許庁において,その審理が行われている(乙157〜161)。」3争点及び争点に関する当事者の主張争点は,原判決「事実及び理由」第2の3(1)から(8)まで(原判決9頁2行目から9行目まで)に記載のとおりであり,争点に関する当事者の主張は,下記(1)及び(2)において当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第2の4(1)から(8)まで(原判決9頁11行目から25頁19行目まで)に記載のとおりであるから,これらを引用する。
(1)控訴人の主張ア商標法4条1項7号該当性に関し原判決は,被控訴人らが,本件各商標について,宗家としての空手教授等の事業に使用する目的を有していたことは明らかであり,本件各商標に係る登録出願(以下「本件各出願」という。)が不正の目的に基づくものであったと認めるに足りる証拠はないとして,同号該当性を認めなかった。
しかし,仮に被控訴人らが本件各商標を宗家としての空手教授等の事業に使用する目的を有していたとしても,同時に,権利の濫用等の理由によって本来商標権を行使することが許されない他の事業者(すなわち,極真関連標章の周知性及び著名性の形成,維持及び拡大において多大な寄与があった支部長ら及びこれと同視できる者)の活動を妨害し,使用料名目等で金銭を請求するなどの不正の目的を有していたのであれば,やはり本件各商標の登録は同号に違反するものとして無効とされるべきである。上記4 不正の目的と自らの事業に使用する目的は両立するのであるから,本件において問題とされるべきなのは,飽くまでも被控訴人らに不正の目的が認められるか否かであって,被控訴人らが本件各商標を自らの事業に使用する目的を有していたか否かは関係ない。
また,Bが保有する極真関連標章に係る登録商標について被控訴人Yが無効審判を請求し,特許庁が当該登録商標の登録を無効とする旨の審決をしたのに対して,Bが当該審決の取消しを求めた訴訟において,知的財産高等裁判所は,Bが自ら運営する極真会館に関して当該登録商標を使用する目的を有し,かつ,現に使用していることが明らかであったにもかかわらず,Bが不正の目的を有していたと判断し,上記無効審決を維持して請求を棄却する判決をした(平成17年(行ケ)第10028号〜同第10033号)。本件においても,同様に,被控訴人らに不正の目的が認められる以上,自らの事業に使用する目的の有無にかかわらず,本件各商標の登録はいずれも無効とされるべきである。
なお,本件各商標のうち本件商標3については,既に特許庁において商標登録を無効とする審決が確定しているところ,本件各商標はいずれも単独で使用される表示ではなく,道場又は流派の表示として一体的に使用されるものであるから,商標登録の有効無効についても一体のものとして判断すべきであり,その意味でも,本件各商標の登録はいずれも無効とされるべきである。
権利の濫用に関し(ア)控訴人道場(門馬道場)は,平成16年2月7日,C道場から独立する形で発足し,その後,東日本極真連合,全日本極真連合会及び総極真から認可を受けた道場として活動をしている。各団体への加盟期間は以下のとおりである。
東日本極真連合:5 平成16年2月22日から平成21年11月頃まで全日本極真連合会:平成21年3月19日から平成24年11月24日まで総極真:平成24年11月26日から(現在も加盟中)これらの団体は,いずれも,極真関連標章の周知性及び著名性の形成,維持及び拡大において多大な寄与があった支部長ら及びこれと同視できる者によって率いられている団体であり,仮にBや被控訴人ら等の商標権者がこれらの団体に対して本件各商標権その他の極真関連標章に係る商標権を行使しようとしたとしても,権利の濫用に当たり,権利行使が認められないはずの団体である。
そして,控訴人ないし1審被告Aは,これらのいずれの団体においても加盟道場として多大な貢献をしており,控訴人道場はこれらの組織にとって欠くことのできない重要な存在であった。
さらに,控訴人道場は,平成16年2月7日の独立時において,その道場数は3,門下生数は約200人であったが,その後,1審被告Aの努力によって福島県内において着実にその勢力を拡大しており,直近の平成29年7月19日時点では,道場数23,門下生800人強を誇る総極真の中でも一二を競う大勢力となっている。「空手バカ一代」に始まるかつての極真ブームの頃であればいざ知らず,少子化の影響もあり伸び悩む極真空手業界において,この成長は全国的に見ても顕著な成功例といってよい。
また,道場数や門下生数だけでなく,大会における選手としての活躍についても,1審被告A自身が全日本階級別空手道選手権大会38歳以上軽量級の部において準優勝を成し遂げている。そして,全日本大会型の部3連覇,極真ワールドカップ型の部優勝など分裂後の他派閥を含め6 極真空手全体を見渡しても顕著な実績を有し,「伝統派空手と比較すると劣ると言われた極真の型のイメージを一変させた」とまでいわれる著名な選手であるDを育てたことや(乙145),総極真開催の第1回世界大会において2名の世界チャンピオンを輩出したことなど(乙122),控訴人道場はその優秀さが知られている。
このように,控訴人道場は,平成16年2月7日の独立以降,一貫して極真会館の空手道場として活動し,道場数及び門下生数の拡大,選手としての実績のいずれの面においても顕著な実績を残している。Eの死後,平成16年2月7日以降現在に至るまでの間において,このような顕著な実績を残した道場は,ほとんど存在しない。この点において,控訴人道場は,Eの生前から既に支部長であった者の道場と比較しても決して引けを取らない実績を残しているのである。
原判決は,本件各標章の周知性及び著名性の維持又は拡大に対する寄与に関して,E生前における寄与のみならずEの死後における寄与をも考慮した点においては妥当であるといえるが,「被告Aの寄与が大きかったとは認め難い」と判断した点については不当であるといわざるを得ない。以上に述べたことのみからでも,平成16年2月7日以降現在に至るまでの間において,本件各標章の周知性及び著名性の維持又は拡大に対する1審被告らの寄与が,他の道場と比較して,非常に大きいものであったことは明らかである。
したがって,Eの死後,控訴人道場が発足した後における本件各標章の周知性及び著名性の維持又は拡大に対する1審被告らの寄与が非常に大きいことに照らして,1審被告らは,Eの生前からの支部長らと同視すべき存在であるというべきであり,被控訴人らが控訴人に対して本件各商標権を行使して極真関連標章の使用差止め及び損害賠償を請求することは権利の濫用に当たるというべきである。
7 (イ)また,1審被告Aが総極真の設立当初からのメンバーであること,被控訴人らは極真関連標章を使用して極真空手の教授等を行う複数の事業体の一つにすぎないこと,直轄道場を持たず,社員となっている道場主が主催する各地域の道場の集合体であるという総極真の性質等の事情に鑑みれば,少なくとも総極真発足後の控訴人による本件各標章の使用に対して,被控訴人らが本件各商標権を行使することは,総極真に対する権利行使と同視されるべきであり,権利の濫用に該当するというべきである。
損害額の認定に関し仮に商標権侵害が認められるとしても,原判決が認定した損害額は過大である。また,本件商標権3は既に無効審決の確定により消滅しているから,損害額の算定に当たっては,このことが考慮されるべきである。
(2)被控訴人らの主張いずれも争う。
第3当裁判所の判断当裁判所は,原判決とは異なり,本件各商標は,その商標登録を無効とする審決が既に確定し(本件商標3),あるいは,その登録出願(本件各出願)の経緯に照らし,商標法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当し,その商標登録は同法46条1項1号の規定により無効にされるべきものである(本件商標1,2,4〜6)から,本件各商標権に基づく被控訴人らの控訴人に対する請求はいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1本件商標権3に基づく請求について本件商標3については,商標法4条1項7号違反を理由に同法46条1項1号に基づいてその商標登録を無効とする審決が既に確定しており,本件商標権3は初めから存在しなかったものとみなされる(同法46条の2第1項本文)8 ことから,被控訴人らの控訴人に対する請求のうち,同商標権に基づく損害賠償請求及び差止請求については,その余の点を判断するまでもなく理由がないものとして棄却すべきものである。
したがって,以下においては,その余の商標権に基づく請求について判断することとする。
2認定事実前提事実に加え,証拠(甲8,9,15〜20,乙64〜66,68,70,71,74,75,79,95,100,112,113,117,119,122,123,127〜130の1・2)及び弁論の全趣旨によって認められる事実並びに当裁判所に職務上顕著な事実を総合すると,次の事実関係が認められる。
(1)Eの生前における極真会館の組織等アEは,昭和39年,極真会館を設立し,その館長ないし総裁と呼称された。極真会館は,設立後,東京池袋の総本部及び関西本部のほか,全国各地に支部を設置するとともに世界各国にも本部及び支部を設置し,全日本大会や全世界大会等の各種大会を開催するなどしてその規模を拡大させ,Eの死亡した平成6年4月当時,国内において,総本部,関西本部のほか,55の支部,550の道場,会員数50万人を有し,海外も含めると130か国において会員数1200万人を超える規模となっていた。
イEの生前,Fらを含めた極真会館の支部長らは,支部長への就任に当たって,極真会館との間で規約を取り交わしていた。規約には,極真会館本部の役員として,総裁兼館長,名誉会長,会長,副会長,理事,委員会委員,顧問,相談役,師範及び指導員をおくこと(1条),支部長の決定については,本部の委員会で承認を得た後,会長又は総裁が裁可すること(7条),支部長には5年ごとに規約を更新する義務があり,支部長としての品格等に問題がある場合には支部長を更迭されることがあり得ること(19 7条),支部若しくは支部長が規約に違反した場合,本部委員会及び本部理事会の議決によって支部の認可を取り消し,又は違約金を徴することがあること(34条)などが定められていた。また,規約上,支部による極真関連標章の使用については「既に登録してある極真のマーク(カンク,連盟マーク,胸章等)を委員会の承認なしに無断で使用できない」(15条)と定められていた。なお,規約には,極真会館の総裁兼館長の地位の決定や承継に関する定めは存在しなかった。もっとも,実際の運用として,道場や各種大会等において,支部長らはE又は極真会館本部から個別の許可を得ることなく極真関連標章を自由に使用しており,Eや本部が支部長に対して極真関連標章の使用を禁止することはなかった。
(2)Eの生前における1審被告A及びFらの活動等ア1審被告Aの活動等1審被告Aは,昭和55年に極真会館福島県支部が運営する道場に入門して極真会館の門下生となったが,道場の責任者との関係が悪化するなどして次第に道場から足が遠のくようになり,同人が土木設計の会社を設立した以降は道場の活動から完全に距離を置くようになった。
イFらの活動等(ア)Fは,昭和42年に極真会館に入門し,入門から僅か1年1か月で初段に昇段した。これは,当時の極真会館における最短での初段昇段であった。Fは,昭和44年に初めて出場した第1回全日本大会で3位に入賞し,昭和45年に開催された第2回全日本大会で優勝を果たした。Fは,昭和46年1月に,極真会館の徳島県支部長に就任し,次いで昭和52年10月には,愛知県支部長にも重ねて就任し,これらの支部及び支部内の分支部において,上記(1)イの運用に従って,本件各標章を使用して空手教授を行った。Fは,Eが死亡した平成6年4月26日時点において,徳島,愛知の両県内に極真会館の道場11か所を開設して空手10 教授を行っていた。
(イ)Gは,昭和44年に極真会館に入門した後,昭和46年に開催された第3回全日本空手道選手権大会で3位に入賞し,昭和50年に開催された第1回オープントーナメント全世界空手道選手権大会では4位に入賞した。Gは,昭和51年,極真会館の山梨県支部長に就任し,次いで昭和52年には,静岡県支部長にも重ねて就任し,これらの支部及び支部内の分支部において,上記(1)イの運用に従って,本件各標章を使用して空手教授を行った。Gは,Eが死亡した平成6年4月26日時点において,山梨,静岡の両県内に極真会館の道場70か所を開設して空手教授を行っていた。
(3)Eの死亡アEは,自らの後継者を公式に指名することなく,平成6年4月26日に死亡したが,同月19日付けで,Bを後継者とする旨が記載されたEの危急時遺言(本件遺言)が作成されていた。
イBは,本件遺言に従い,同年5月10日に開催された支部長会議での承認を経て,極真会館の館長に就任した。しかし,その後,極真会館の内部で対立が生じ,極真会館は極真空手を教授する多数の団体に分裂した(なお,その後も分裂は収束することなく,現在も日本国内に極真ないし極真会館を名乗る多数の団体と道場が国内各地に存在している。)。
ウ本件遺言の証人の一人は,本件遺言の確認を求める審判を申し立てたが,東京家庭裁判所は,平成7年3月31日,本件遺言がEの真意に出たものと確認することが困難であるとして同申立てを却下し,東京高等裁判所も,平成8年10月16日付けで抗告棄却決定をした(その後特別抗告も棄却された。)。
(4)Eの死亡後における1審被告ら,Fら及び総極真の活動等ア1審被告らの活動等11 (ア)1審被告Aは,平成9年,極真会館福島県支部の支部長を務めていたCと再会し,Cの許可を得て,C道場の分支部である矢吹支部(平成10年に福島県南支部と改称した。)を創設した。1審被告Aは,平成16年2月7日,Cの許可を得てC道場から独立し,同月22日,事務局を福島県郡山市内に置く「国際空手道連盟極真会館総本部」代表者(H)との間で,1審被告Aを「福島県南本部」の本部長ないし責任者とする誓約書(規約)を取り交わした。
(イ)1審被告Aは,平成18年9月1日,被控訴人Yを代表者とする「国際空手道連盟極真会館総本部」(宗家)との間で,本件規約を取り交わし,本件支部契約を締結した。本件規約には,宗家の代表者を被控訴人Yとすること(2条),支部は本件規約を遵守し,本部の指令に従い常に緊密な連携を保ち,本部の決定事項を遵守しなければならないこと(8条1項),「極真」,「極真会」,「極真会館」,「国際空手道連盟極真会館」その他の極真にかかわる商標等に関する権利は本部が管理し,,支部はこれらの権利を本部の許諾なしに使用できないこと(13条1項,2項),本件規約に基づく支部の認可が失効した場合,当該支部は,本件規約によって許諾された支部の名称及び上記商標等を一切使用できないこと(16条2項)などが定められていた。
1審被告Aは,宗家との間で本件支部契約を締結していた平成20年11月14日,控訴人を設立したが,被控訴人Yとの関係悪化等によって,本件支部契約は遅くとも平成21年2月2日に失効した。
(ウ)1審被告Aは,本件支部契約の終了後も,本件規約16条2項の規定に反して本件各標章を含む極真関連標章の使用を継続していた。
被控訴人Yは,平成23年8月1日,1審被告Aに対し,同被告が本件支部契約の失効後も極真関連標章を使用していることが宗家の権利等を侵害するとして,その使用中止及び違約金3000万円(月額10012 万円の2年6か月分)の支払等を求める通知書(乙74,79)を宗家の代表者として送付した(なお,通知書では,1審被告Aは,「平成21年1月末に極真会館総本部から除名処分を受け」たこととされていた。。
)(エ)1審被告Aは,平成24年11月26日,後記イ(イ)のとおりFらが中心となって設立した総極真の前身である「社団法人世界総極真」(なお,同団体は,平成25年4月2日に設立登記を行い,総極真となった。以下,設立登記前の同団体についても「総極真」という場合がある。)から,公認道場の開設を許可する書面の交付を受け,その後,控訴人道場は,総極真の加盟道場として空手教授等の業務を行うようになった。
(オ)控訴人は,現在,20を超える控訴人道場を総極真の加盟道場として運営しており,その数は,総極真の加盟道場全体の約1割を占めている。
イFら及び総極真の活動(ア)Fらは,Eの死亡後も継続して,極真関連標章を使用して空手教授等を行ってきた。Gは,平成16年1月,Fらが当時所属していた一般社団法人国際空手道連盟極真会館(連合会)が第1回極真連合杯(連合会の第1回世界大会)を開催した際,実行委員長として同大会を取り仕切り,テレビ放映の調整を行うなどした。
(イ)Fらは,平成24年11月26日,総極真の前身である「社団法人世界総極真」を設立し,平成25年4月2日,総極真の設立登記を経由して,Fがその代表理事に,Gがその理事に,それぞれ就任した。また,総極真の設立時には,Fらが従来運営していた道場のほか,Fらと協力関係を構築してきた道場主ら及びその運営に係る道場も総極真に参加した。
総極真は,現在,日本国内で約200の道場を運営し,また,約60か国に所在する海外の道場が総極真に加盟している。なお,総極真は,平成28年10月,極真空手の世界大会(総極真としての第1回世界大13 会)を開催し,大会の模様がテレビ放映されるなどした。
(5)Eの死亡後における被控訴人らの活動ア被控訴人Yは,Eの死亡時まで,極真会館の事業活動に全く関与していなかった。
イ被控訴人Yは,平成11年2月17日に成立した裁判上の和解に基づき,Bらから極真会館の総本部の建物の引渡しを受け,以後,同建物を利用して極真会館の事業(道場の運営やEに関する記念館の開設など)を行うようになった。
ウ被控訴人らは,平成29年2月7日時点において,日本国内において,総本部のほか4か所の国内道場(支部)を運営し,極真空手の教授等を行っている。また,被控訴人らは,海外においても数か所の支部を運営し,概ね1年に1回程度の頻度で,極真空手の選手権大会であるマス大山メモリアルカップを開催している。
(6)極真関連標章に関する紛争等アBは,Eの死亡後も極真関連標章の使用を継続し,平成6年から平成7年までの間に,複数の極真関連標章について商標登録出願をし,自己名義の商標登録を受けた。
イF及びEの生前に極真会館に属していたその他の者らは,平成14年,Bを被告として,空手の教授等に際して極真関連標章を使用することにつき,Bの商標権に基づく差止請求権が存在しないことの確認等を求める訴訟を大阪地方裁判所に提起した(平成14年(ワ)第1018号)。
同裁判所は,Bの上記商標権の行使が権利濫用であるとして上記不存在確認請求を認容し,その控訴審である大阪高等裁判所も,平成16年9月29日,同旨の理由によりBの控訴を棄却した(平成15年(ネ)第3283号)。
同控訴審判決の理由中では,Bが権利行使することは,「たかだか一会14 派を率いるにすぎない被告(判決注:B)が,他の会派の構成員による本件商標の使用を,従来の規制の範囲を超えて規制しようとするものであって,権利の濫用として許されない」旨が判示されていた(乙64)。
ウまた,G及びEの生前に極真会館に属していたその他の者らは,平成14年,Bを被告として,空手の教授等に際して極真関連標章を使用することにつき,Bの商標権に基づく差止請求権が存在しないことの確認等を求める訴訟を東京地方裁判所に提起した(平成14年(ワ)第16786号)。
同裁判所は,平成15年9月29日,Bの上記商標権の行使が権利濫用であるとして上記不存在確認請求を認容した。
同判決の理由中では,やはり,「極真会館の分派の代表にすぎない被告(判決注:B)が本件商標権に基づき,原告らに対して,同じく極真会館の分派に属する者に対して,本件標章の使用を禁止することは権利の濫用に当たる」旨が判示されていた(乙68)。
エさらに,被控訴人Yは,平成16年1月15日,Bが商標登録を受けた商標の一部について無効審判を請求したところ,特許庁は,Bの受けた商標登録が商標法4条1項7号に反するものであるとして,同年9月22日付けで登録を無効とするとの審決をした。これに対し,Bは,上記審決の取消しを求める訴訟を知的財産高等裁判所に提起したが(平成17年(行ケ)第10028号),同裁判所は,平成18年12月26日,Bの請求を棄却する旨の判決を言い渡した。
同判決においては,極真関連の登録商標が極真会館の日常活動に密接に関連する,極真会館にとって極めて重要な財産であることや,極真会館の代表者として,そのような重要な財産を管理,処分するに当たっては,極真会館内部の適正な手続を経る必要があることを説示した上で,本件商標の正当な出所といえるEの生前の極真会館が,その死後,複数の団体に分裂し,極真空手の道場を運営する各団体が対立競合している状況下におい15 て,Eの死亡時から間もない当時の極真会館の代表者としての原告(判決注:B)が重大な義務違反により個人名義で登録出願したことによる本件商標の登録を,登録査定時においてEの生前の極真会館とは同一性を有しない一団体の代表者である原告にそのまま付与することは,商標法の予定する秩序に反する旨の理由が示されていた。
オその一方で,被控訴人Yは,平成15年7月17日に本件商標4,平成16年10月15日に本件商標1〜3について,それぞれ自ら商標登録出願をした。また,被控訴人会社は,平成15年7月17日に本件商標5について商標登録出願をした。
そして,被控訴人らは,本件商標権1及び2については平成21年2月27日,本件商標権3については同年12月4日,本件商標権4については平成22年10月22日,本件商標権5については平成24年5月11日にそれぞれ各自の名義で設定登録を受けた(なお,本件商標権4は設定登録後に被控訴人Yから被控訴人会社に移転された。)。
さらに,被控訴人会社は,平成24年6月6日に本件商標6について商標登録出願をし,平成25年1月25日に被控訴人会社名義で本件商標権6の設定登録を受けた。
カ上記のとおり,被控訴人らが本件各商標権の設定登録を受けている間,被控訴人Yは,平成24年11月20日付けで,Fらに対し,「国際空手道連盟極真会館代表」名義で,Fらが新団体を創設すると聞き及んでいるが,新団体の創設に当たり同会館に権利が帰属する本件商標権1〜5や,観空マーク,連名マーク,Eの氏名及び肖像などを無断で使用することがないようあらかじめ警告するとともに,仮に無断使用があった場合には直ちに法的措置を採る旨警告する通知書を送付した(乙130の1・2)。
キ被控訴人らは,平成27年にBが代表者を務める株式会社国際空手道連盟極真会館を被告として本件各商標権に基づき標章使用の差止め及び損害16 賠償の支払を求める訴えを東京地方裁判所に提起した。
同裁判所は,平成28年6月30日,被控訴人らが同被告に対し本件各商標権に基づき極真関連商標である本件各商標やこれと類似する商標の使用を禁止することは権利の濫用に当たるとして,被控訴人らの請求をいずれも棄却する旨の判決を言い渡した(平成27年(ワ)第20338号)。
被控訴人らは,同判決を不服として控訴したが,知的財産高等裁判所は,平成29年5月17日,被控訴人らが極真会館としての活動を継続する者に対して本件各商標権侵害を主張するのは,客観的に公正な競業秩序を乱すものとして,権利の濫用であると認めるのが相当であるとして,控訴をいずれも棄却する旨の判決を言い渡した(平成28年(ネ)第10076号)。これに対し,被控訴人らは上告及び上告受理申立てをせず,同判決はそのまま確定した(当裁判所に顕著な事実)。
ク被控訴人らは,平成28年には,総極真を被告として本件各商標権に基づき標章使用の差止め求める訴え(反訴)を東京地方裁判所に提起した。
同裁判所は,同年11月24日,被控訴人らが同被告に対し本件各商標権に基づき極真関連商標である反訴被告各標章の使用を禁止することは権利の濫用に当たるとして,被控訴人らの請求をいずれも棄却する旨の判決を言い渡した(平成28年(ワ)第16340号)。
被控訴人らは,同判決を不服として控訴したが,知的財産高等裁判所は,平成29年8月30日,極真会館としての活動を承継,継続する者に対して本件各商標権侵害を主張するのは,客観的に公正な競業秩序を乱すものとして,権利の濫用であると認めるのが相当であるとして,控訴をいずれも棄却する旨の判決を言い渡した(平成29年(ネ)第10012号)。
これに対し,被控訴人らは上告及び上告受理申立てをせず,同判決はそのまま確定した(当裁判所に顕著な事実)。
3検討17 (1)上記認定事実によれば,本件においては,次の点を指摘できる。
ア本件各商標を含む極真関連標章は,Eが死亡した平成6年4月の時点で既に,Eが主宰する極真会館にとってその活動に密接に関連する重要な財産及び象徴であり,少なくとも空手及び格闘技に興味を有する者の間では,極真会館というまとまった一つの団体を出所として表示する標章として広く知られていた。また,これらの極真関連標章は,被控訴人らが本件各商標の登録出願(本件各出願)を行った平成15年から平成24年にかけての時点でもなお,空手の教授等の活動を行う上で強い顧客吸引力を有するものであった。
イEが主宰する極真会館は,Eの死後,いずれもEの生前の極真会館と同一性を有しない複数の団体に分裂しており,被控訴人らもその一団体と代表者にすぎない。この点,被控訴人Yは,自身が極真関連標章の主体たる地位,すなわちEが主宰する極真会館の事業を承継した旨主張するが,極真会館とE個人とが同一であるとはいえない以上,Eの相続人である被控訴人Yが極真会館の事業を当然に相続したとはいえないし,E死亡当時,被控訴人Yは極真会館の事業活動に全く関与していなかったこと,Eが後継者を公式に指定しなかったこと,極真会館において世襲制が採用されていなかったこと等の事情に鑑みると,被控訴人Yは相続以外の原因で極真会館の事業を承継した者であるとも認められず,この点を覆すに足る証拠はない。したがって,被控訴人らを含むいずれの団体とその代表者も,他の団体に対し,極真会館の事業承継や極真関連標章の自己への正当な帰属を直ちに主張し得る立場にはなかった。
ウ極真関連標章については,従前,Bが複数の標章について商標登録出願をし,自己名義の商標登録を受けたことがあったが,これに対し,被控訴人Y自身が商標法4条1項7号違反を理由に商標登録の無効審判を請求し,商標登録を無効とする審決がなされ,同無効審決はBが提起した審決取消18 訴訟を経て確定していた。
なお,前記認定のとおり,上記審決取消訴訟の判決は,Bによる商標登録が公序良俗等に反する理由として,極真会館にとって極めて重要な財産である極真関連標章についての商標登録出願を行うに当たっては,(当時の代表者として)極真会館内部の適正な手続を経る必要があるのに,それを怠った出願が行われ,その後,極真会館が複数の団体に分裂し,極真空手の道場を運営する各団体が対立競合している状況において,上記の出願に基づき,極真会館とは同一性を有しない一団体の代表者に商標権が付与されるのは,商標法の予定する秩序に反するという点を指摘しているが,極真会館内部での適正な手続(分裂後にあっては,他の団体との協議等)を経ないまま商標登録出願が行われている点や,その出願に基づき商標権が付与されるのが,極真会館とは同一性を有しない一団体の代表者(又は,当該代表者が経営する会社)である点では,本件各商標も,上記判決が指摘したのと同様の問題点を抱えているものといわざるを得ない。
エまた,被控訴人らは,本件各商標の登録を受ける中で,1審被告Aに対しては,権利侵害ないし規約違反を理由に極真関連標章の使用禁止と違約金名目で高額の金員の支払を求める通知を行い,Fらに対しては,極真関連標章の使用を禁止する旨の警告を行ったばかりか,Bが代表を務める団体に対しては,本件各商標権に基づき標章使用の差止めと損害賠償の支払を求める訴訟を提起し,総極真に対しては,極真関連標章の使用差止めを求める訴訟を提起するなど,本件各出願を行った後,極真会館の他の団体やその代表者に対し自らの影響力を強めようとする姿勢が顕著であるところ,このような行為は,客観的に見れば,極真会館にとって重要な財産である極真関連標章に係る権利を盾に取って,自己の利益を図ろうとするものと評されてもやむを得ないものといわざるを得ない。
(2)以上のとおり,本件各出願を行った時点で,被控訴人らは,極真会館関係19 者にとって極真関連標章が重要な財産及び象徴であることを当然認識し得る立場にあり,また,分裂した各団体の中で極真会館の事業の承継を正当に主張し得る者がない状況にあることも明確に認識し得る立場にあったものと認められる。そして,被控訴人らによる本件各商標権の取得は,極真会館とは同一性を持たない分派が多数併存する中で,その一分派にすぎない一団体(その代表者や当該代表者が経営する会社)が,極真会館にとって極めて重要な財産であり象徴である極真関連標章について,いわば抜け駆け的に商標登録出願を行い,その権利を独占しようとするという,前記審決取消訴訟判決が,商標法の予定する秩序に反する旨を指摘したのと同様の状況で行われたものなのであるから,やはり,商標法の予定する秩序に反するものといわなければならない。特に,被控訴人らの場合,Bの出願に係る商標登録を公序良俗等に反するとして無効にする一方で,自らの利益のために,客観的に見ればBと同様の手法により商標権を取得しているのであるから,その不当性は更に強度だといわざるを得ないのであって,この点からしても,その商標登録は認められるべきものではない。
してみると,本件各出願に係る本件各商標は,本件各出願の目的及び経緯に照らし,商標法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものといえる。したがって,かかる限度で控訴人の主張は理由があるというべきであり,これに反する被控訴人らの主張は採用できない。
4小括以上のとおり,本件各商標(本件商標3を除く。)の商標登録には,商標法4条1項7号所定の無効理由があるから,被控訴人らは,商標法39条が準用する特許法104条の3第1項の規定により,控訴人に対しその権利を行使することができない。
第4結論20 以上の次第であるから,その余の点について判断するまでもなく,本件控訴は理由がある。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部裁判長裁判官鶴岡稔彦裁判官寺田利彦裁判官間明宏充21
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