関連審決 | 取消2016-300335 |
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事件 |
平成
29年
(行ケ)
10228号
審決取消請求事件
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原告 スペリー・トップ‐サイダー・リミテ ッド・ライアビリティ・カンパニー 訴訟代理人弁理士 長谷玲子 被告 ケントジャパン株式会社 訴訟代理人弁理士 藤沢則昭 同 藤沢昭太郎 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2018/06/13 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が取消2016-300335号事件について平成29年8月3日 にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 1(1) 被告は,以下の商標(登録第5487411号。 「本件商標」 以下 という。) の商標権者である(甲2,6)。 商 標 別紙商標目録記載のとおり 登録出願日 平成23年11月16日 設定登録日 平成24年4月20日 指 定 商 品 第25類「ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」(2) 原告は,平成28年5月18日,本件商標について,商標法50条1項所 定の商標登録取消審判(以下「本件審判」という。)を請求し,同月30日, その登録がされた(甲6)。 特許庁は,本件審判の請求を取消2016-300335号事件として審 理し,平成29年8月3日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審 決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月11日,原告に送 達された。 (3) 原告は,平成29年12月8日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提 起した。 2 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。その要旨は,本件商標の通常使用権者である株式会社フィールドハウス(以下「フィールドハウス」という。)が,本件審判の請求の登録前3年以内(以下「要証期間内」という。)に,日本国内において,筆記体で書された「Top-Sider」の欧文字(以下「本件使用商標」という。)が留め具付近の革部材に素押しされ,本件使用商標が表示された下げ札を付した「ベルト」を販売,納品した行為は,商標法2条3項1号,2号の使用に該当し,本件審判の請求に係る指定商品中の「ベルト」について,本件商標と社会通念上同一の商標を使用していたことを証明したものといえるから,本件商標の登録は,同法50条の規定により取り消すことはできない,というものである。 2 なお,フィールドハウスが本件商標の通常使用権者であることは当事者間に 争いがない。 3 取消事由 本件商標の使用の事実の判断の誤り |
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当事者の主張
1 原告の主張 ? フィールドハウスが本件使用商標をベルトに付した事実の不存在 本件審決は,フィールドハウスが株式会社トーア(以下「トーア」という。) に対し本件使用商標を素押ししたベルトの製造を発注し,これを受注したト ーアが有限会社熊沢(以下「熊沢」という。)に対し,本件使用商標を素押 しするよう指示をした後,熊沢からトーアに留め具付近の革部材に本件使用 商標を素押ししたベルトが納品され,トーアがフィールドハウスに上記ベル トを納品したものと推認することができるから,フィールドハウスは,本件 使用商標をベルトに付したものと認められ,これは商標法2条3項1号の使 用に該当する旨判断した。 しかし,トーア作成の熊沢に対する指示書(甲22)には,ベルトに素押 しする文字は「Top-Sider」であると手書きで記載されているだけ であり,素押しする文字が本件使用商標と同一の構成文字から成る「Top -Sider」であることを確認することはできない。また,トーアの受注 者側である熊沢が作成した納品書等の取引書類は提出されていないから,ト ーアと熊沢との間で取引があったものと認めることはできない。 したがって,トーアが留め具付近の革部材に本件使用商標を素押ししたベ ルトを製造し,これをフィールドハウスに納品したものと推認することがで きない以上,トーアがフィールドハウスに上記ベルトを納品したものと認め られないから,本件審決の上記判断は誤りである。 ? フィールドハウスによる本件商標が付されたベルトの販売の事実の不存在 3 本件審決は,フィールドハウスが,株式会社ヴァンヂャケット(以下「ヴ ァンヂャケット」という。)に対し,留め具付近の革部材に本件使用商標が 素押しされているベルトを販売,納品したことを推認することができるから, フィールドハウスは,本件使用商標を付したベルトを譲渡したことが認めら れ,これは商標法2条3項2号の使用に該当する旨判断した。 しかし,被告は,フィールドハウスの傍系会社であって,かつ,ヴァンヂ ャケットの株主であること,被告の代表取締役のAは,フィールドハウス及 びヴァンヂャケットの筆頭株主であること,被告の取締役のBは,ヴァンヂ ャケットの社長であること,フィールドハウスの代表者のCは,ヴァンヂャ ケットの取締役であること,フィールドハウスとヴァンヂャケットの本店所 在地はいずれも(略)であることからすると,被告,フィールドハウス及び ヴァンヂャケットは,関連会社であるといえる。 そうすると,本件審決がいうフィールドハウスのヴァンヂャケットに対す る上記ベルトの譲渡行為は,関連会社間の単なる商品の移動であって,本件 商標の登録の不使用取消しを免れる目的で,名目的に本件使用商標を使用す る外観を呈する行為にすぎないから,商標法2条3項2号の使用に該当しな い。 したがって,本件審決の上記判断は誤りである。 ? 小括 以上のとおり,被告は,要証期間内において,本件商標の通常使用権者で あるフィールドハウスが本件商標と社会通念上同一の商標を使用したことを 証明したとはいえないから,本件商標の登録は商標法50条の規定により取 り消されるべきである。 2 被告の主張 (1) 原告の主張(1)に対し トーア作成の熊沢に対する指示書(甲22)には,ベルトに素押しする文 4 字が本件使用商標と同一の構成文字であることを確認することができる。そ して,上記指示書のほか,フィールドハウス作成のトーアに対する発注書(甲 8),トーア作成の受注明細(甲9),トーアの従業員作成の証明書(甲1 0,27)等の記載事項を総合すれば,トーアが熊沢に対しベルトに本件使 用商標を素押しするように指示したこと,トーアがフィールドハウスに対し 本件使用商標が素押しされたベルトを納品したことが認められるから,フィ ールドハウスが本件使用商標をベルトに付した旨の本件審決の判断に誤りは ない。 (2) 原告の主張(2)に対し 本件審決が認定するとおり,被告,フィールドハウス及びヴァンヂャケッ トが関連会社であるとしても,財務や業務,仕入先,販売先等が異なる別法 人であって,関連会社間の取引自体は通常あり得るものである。 そして,ヴァンヂャケットは,フィールドハウスに対し,本件使用商標が 素押しされたベルトの商品について,受入伝票(甲16)を発行し,フィー ルドハウスは,ヴァンヂャケットに対し,販売代金を請求していること(甲 17)からすると,フィールドハウスがヴァンヂャケットに対し上記ベルト を販売,納品したものであるから,フィールドハウスが本件使用商標を付し たベルトを譲渡した旨の本件審決の判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 認定事実 ? 証拠(甲3ないし5,8ないし18,20ないし22,24,25,27 ないし32)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア 被告は,平成10年3月に設立された,衣料用繊維製品及び皮革製品の 製造,販売,輸出入,特許権,実用新案権,意匠権,商標権及び技術的知 識の実施許諾等を業とする株式会社である。 フィールドハウスは,平成13年8月に設立された,ネクタイ,ベルト, 5 帽子等の製造を業とする株式会社である。 ヴァンヂャケットは,昭和55年12月に設立された,男子服の販売等 を業とする株式会社である。 イ 被告は,平成27年9月1日,フィールドハウスに対し,以下のとおり, 本件商標の通常使用権を許諾した。 期 間 平成27年9月1日〜平成28年8月31日 指定商品 第25類「ベルト」 販売地域 日本国ウ(ア) フィールドハウスは,2015年(平成27年)12月3日付け各 発注書(甲8)をもって,トーアに対し,「トップサイダー」のブラン ドを付してヴァンヂャケットに販売する目的で,品番を「FTS-14 100」ないし「FTS-14104」とするベルト(以下「本件ベル ト」という。)合計430本を,納期を平成28年2月1日として発注 し,トーアは,平成27年12月4日付け「受注明細」(甲9)をもっ て,これを受注した。その際,フィールドハウスは,トーアに対し,本 件使用商標のロゴを交付し,本件ベルトの留め具付近の革部材に本件使 用商標を素押しするよう指示した。 トーアは,上記ロゴを用いて本件使用商標の版下を作成した後,平成 27年12月4日,熊沢に対し,本件ベルトに上記版下を素押しするよ う指示(甲22)して,本件ベルト合計430本を発注した。 (イ) フィールドハウスと東京吉岡株式会社(以下「東京吉岡」という。) は,平成27年12月11日及び同月15日,本件ベルト用の本件使用 商標を表示した下げ札のデザイン案(甲28,29)の打合せをした。 フィールドハウスは,同月21日,東京吉岡に対し,本件使用商標が 表示された下げ札(以下「本件下げ札」という。)合計475枚(甲3 0)を発注し,東京吉岡は,平成28年1月20日,本件下げ札をフィ 6 ールドハウスに納品(甲31,32)した。 (ウ) 熊沢は,トーアから前記(ア)の発注を受けて,留め具付近の革部材 に本件使用商標を素押しした本件ベルト合計430本を製造し,トーア は,平成28年2月1日,これをフィールドハウスに納品(甲11,1 2)した。 フィールドハウスは,同日,ヴァンヂャケットに対し,本件下げ札を 付した本件ベルト合計430本を販売し,納品(甲14ないし16)し た。 エ ヴァンヂャケットは,平成28年2月から3月までの間に,その店舗に おいて,留め具付近の革部材に本件使用商標が素押しされ,本件下げ札が 付された本件ベルト合計20本(甲20,21)を販売した。 (2) これに対し原告は,トーア作成の熊沢に対する指示書(甲22)には,ベ ルトに素押しする文字は「Top-Sider」であると手書きで記載され ているだけであり,素押しする文字が本件使用商標と同一の構成文字から成 る「Top-Sider」であることを確認することはできないし,また, トーアの受注者側である熊沢が作成した納品書等の取引書類は提出されてい ないから,トーアと熊沢との間で取引があったものと認めることはできない 旨主張する。 しかしながら,甲22の指示書(甲22)には,上段に「Top-Sid er」,中段に「25」,下段に「素押し」の文字が記載された三段からな る部分や「Top-Sider」の文字に「25o 素押し」の説明が付記 された部分があることからすると,上記指示書から,ベルトに素押しする文 字が「Top-Sider」の欧文字であることを確認することができる。 また,前掲?の各証拠によれば,トーアが平成27年12月4日に熊沢に 対し本件ベルトに本件使用商標の版下を素押しするよう指示して,本件ベル ト合計430本を発注したこと(前記(1)ウ(ア))が認められる。 7 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 2 本件商標の使用の事実の有無について (1) 前記1(1)の認定事実によれば,本件商標の通常使用権者であるフィール ドハウスは,平成28年2月1日,トーアに指示をして留め具付近の革部材 に本件使用商標を素押しさせた本件ベルトに,本件使用商標が表示された下 げ札(本件下げ札)を付した上で,ヴァンヂャケットに対し,本件ベルト合 計430本を販売,納品したことが認められる。 そして,フィールドハウスの上記行為は,商標法2条3項1号の商品に標 章を付す行為及び同項2号の商品に標章を付したものの譲渡行為に該当する というべきである。 また,筆記体で書された「Top-Sider」の欧文字を横書きして成 る本件使用商標と活字体で書された「TOP-SIDER」の欧文字を横書 きして成る本件商標とは,書体が異なり,一部の文字につき大文字と小文字 の相違があるものの,構成文字は同一であり,「トップサイダー」という同 一の称呼を生ずるものであるから,社会通念上同一の商標であるものと認め られる。 そうすると,本件商標の通常使用権者であるフィールドハウスは,要証期 間内である平成28年2月1日に,本件審判の請求に係る指定商品中の「ベ ルト」について,本件商標と社会通念上同一の商標である本件使用商標を使 用(商標法2条3項1号,2号)したことが認められる。 (2) この点に関し原告は,フィールドハウスのヴァンヂャケットに対する本件 ベルトの譲渡行為は,関連会社間の単なる商品の移動であって,本件商標の 登録の不使用取消しを免れる目的で,名目的に本件使用商標を使用する外観 を呈する行為にすぎないから,商標法2条3項2号の使用に該当しない旨主 張する。 そこで検討するに,原告が主張するように,被告の代表取締役のAは,フ 8 ィールドハウス及びヴァンヂャケットの筆頭株主であること,被告の取締役 のBは,ヴァンヂャケットの社長であること,フィールドハウスの代表者の Cは,ヴァンヂャケットの取締役であることが認められ(甲3ないし5,弁 論の全趣旨),被告,フィールドハウス及びヴァンヂャケットは,役員の一 部が共通し,相互に資本関係のある関連会社であるといえる。 しかしながら,被告,フィールドハウス及びヴァンヂャケットは,別個の 法人であって,前記1?認定のとおり,フィールドハウスのヴァンヂャケッ トに対する本件使用商標を付した本件ベルトの販売,納品は,売買取引の実 体を伴うものであり,関連会社間の単なる商品の移動ということはできない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 3 結論 以上によれば,原告主張の取消事由は理由がなく,本件審決にこれを取り消 すべき違法は認められない。 したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。 |
裁判長裁判官 | 大鷹一郎 |
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裁判官 | 山門優 |