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関連審決 審判1999-35256
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成16行ケ168審決取消請求事件 判例 商標
平成21行ケ10048審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別機能 /  指定商品 /  指定役務 /  権利能力 /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  広義の混同 /  4条1項8号 /  4条1項15号 /  顧客吸引力(グッドウィル) /  ただ乗り(フリーライド) /  希釈化(ダイリュージョン) /  類似性(類否判断) /  取引の実情 /  継続 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 547号 審決取消請求事件
原告 東亜グラウト工業株式会社
同訴訟代理人弁理士 江藤聡明
同 岡川寧子
被告 株式会社ピー・シー・フレーム
同訴訟代理人弁理士 石井良和
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/05/11
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が平成11年審判第35256号事件について平成15年10月30日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いがない事実
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,「PCフレームアンカー工法」の文字を横書きしてなり,商標法施行令(以下「施行令」という。)1条別表第37類の「土木工事,タイル・レンガ・ブロック工事」を指定役務とする登録第3191898号商標(平成4年9月18日登録出願(平成3年法律第65号附則5条1項に規定する使用に基づく特例の適用を主張)。平成8年8月30日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
(2) 被告は,平成11年5月31日,原告を被請求人として,本件商標の登録を無効とすることを求めて特許庁に審判を請求した。同請求は平成11年審判第35256号事件として特許庁に係属した。
(3) 特許庁は,上記事件について審理を行った上,平成14年5月13日,本件商標が商標法4条1項8号に該当するとし,「登録第3191898号の登録を無効とする。」との審決をした。原告は,この審決を不服として,東京高等裁判所にその取消しを求める訴えを提起した(平成14年(行ケ)第311号事件として係属)ところ,同裁判所は,上記審決の判断を誤りであるとしてこれを取り消す旨の判決をした。
(4) 上記判決を受けて,特許庁は本件審判請求事件について再度審理を行い,平成15年10月30日,あらためて「登録第3191898号の登録を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は同年11月10日に原告に送達された。原告は,本件審決を不服として,その取消しを求め本訴を提起した。
2 本件審決の理由の要旨 (1) 本件商標の登録出願時点(平成4年9月18日)において,法面安定化工としての「PCフレームアンカー工法」の名称(以下「引用商標」という。)は土木業界,特に法面工事の業界において,被告(請求人)を含めた「PCフレーム協会」の取扱いに係るものとして,需要者の間に広く知られたものとなっており,これが本件商標の登録時においても継続していたものと認められる。
(2) そうとすれば,本件商標をその指定役務に使用した場合,被告又は被告と経済的,組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかの如く,役務の出所について混同を生じさせるおそれがあるものといわなければならない。
(3) したがって,本件商標の登録は,商標法4条1項15号(以下「本号」という。)に違反してされたものであるから,同法46条1項の規定により,無効とすべきである。
当事者の主張
1 原告の主張 次に述べるとおり,本件商標が本号に違反して登録されたものであるとした本件審決の認定判断は誤りであり,本件審決は取り消されるべきである。
(1) 引用商標の周知性 本号は,「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」は商標登録を受けることができない,としている。本件商標が,本号に該当するか否かは,引用商標(「PCフレームアンカー工法」)が,PCフレーム協会の業務に係る商品又は役務を表示するものとして,本件商標の登録出願時及び査定時の双方において需要者・取引者の間で広く知られていたかが問題となる。そして,商標の周知性を立証するためには,その商標の使用に関して,多数の取引書類,印刷物,商標の使用を示す写真,広告業者・取引先・需要者・公的機関等の証明書等の証拠資料が必要である。そして,これらの多数の証拠資料を総合的に判断し,その商標が客観的に周知性を獲得しているか否かが判断されるべきである。
ア この点,本審決において,引用商標の周知性を認める根拠とされている資料は,次に掲げるわずか5件の証拠だけであり,そのうち1件はPCフレーム協会自身のパンフレット(甲6),2件は雑誌に自ら掲載した広告(甲7,9)であり,その他のうち1件は,使用の実態を推量するには不十分な会員リスト(甲10)のみである。これらの資料は,本件商標が本号に該当することの理由付けとしての引用商標の周知性を示す証拠としては,数的にも質的にも不十分であって,この程度の証拠によって,引用商標がPCフレーム協会の取扱いに係るものとして周知であるとは到底認められるものではない。この程度の証拠のみによりその周知性が認められるとするならば,後述するように原告がこれまで自ら行ってきた,本件商標の使用(宣伝のみならず,実際の営業段階での使用)についても周知性を生じさせるものとして評価されるべきである。
(ア) 「PCフレームアンカー工法」パンフレット(PCフレーム協会 1997年(平成9年)発行。甲6) (イ) 「新技術による法面・斜面対策」(総合土木研究所発行。甲5)〜その目次頁には,「PCフレームアンカー工法」の文字とその説明が「事務局 PCフレーム協会」の文字とともに掲載されており,また,本文中には「PCフレームアンカー工法」による代表的な施工例6件が,該技術誌が発行された昭和63年9月時点において,実際に行われたことが示されている。
(ウ) 「基礎工」Vol.15,No.12(1987年(昭和62年)発行。甲7) 掲載の「PCフレームアンカ工法」の広告〜「PCフレームアンカー工法」の表題と写真とともに「PCフレーム協会」と表示し,「PCフレーム協会員」として複数の社名を表示した広告が掲載されている。
(エ) 「土と基礎」Vol.38,No.5(1990年(平成2年)発行。甲9) 掲載の「PCフレームアンカー工法」の広告〜「PCフレームアンカー工法」の表題と写真とともに「PCフレーム協会」と表示し,「PCフレーム協会員」として複数の社名を表示した広告が掲載されている。
(オ) PCフレーム協会会員リスト(平成10年現在。甲10) イ さらに言えば,次に述べるとおり,「PCフレームアンカー工法」は,他にも様々な工法がある状況における,斜面・法面工事の中のシェアの低い1つの工法にすぎないところ,このような状況において,上記証拠のみをもって,引用商標がPCフレーム協会の商標として取引者・需要者の間で広く知られていたとする認定には妥当性がない。
すなわち,本件商標の登録出願が行われた平成4年度(平成4年4月〜平成5年3月)において,「PCフレームアンカー工法」による施工金額は,13億2420万円であり,これは斜面・法面工事の全体施工金額のわずか約0.39%である。また,工事件数についてみると,平成4年度の「PCフレームアンカー工法」の施工件数は約60件程度である。斜面・法面工事の1件あたりの施工額が約2000万円〜3000万円であることにかんがみれば,上記施工額から推測される斜面・法面工事の全体の件数は約1万4000件程度(1件約2500万円として計算)であると思われる。そうすると,斜面・法面工事の全体の件数に占める「PCフレームアンカー工法」の施工件数の割合は,わずか0.43%程度となる。なお,平成4年度の上記「PCフレームアンカー工法」の施工の内,36.1%は原告が自らの名において施行を行ったものである(甲12)。
(2) 原告の本件商標の登録の正当性について 原告は,昭和58年に,プレキャストコンクリート板とグラウンドアンカ ーを用いて斜面安定を図る斜面切取り工法(「PCフレームアンカー工法」と同様の工法)を初めて斜面・法面工事に適用した。そして,昭和61年12月に,該工法の普及発展を図ることを目的として,原告を含む5社が参加するPCフレーム協会と,原告会社の代表取締役であるAを代表取締役とする被告会社が設立された。
原告会社及びAは,該工法の施工上のノウハウ及びその意匠権を被告会社へ無償で提供すると共に,参加企業の利害調整は言うに及ばず,資金の調達に至るまで意を注ぎ,PCフレーム協会及び被告会社の発展のために極めて重要な指導的役割を果たしてきた。
本件商標が出願された平成4年までにおいて,原告のPCフレームアンカ ー工法による斜面・法面工事の施工実績は,他の会社に比べ突出しており,原告が実質的に中心となって「PCフレームアンカー工法」の宣伝,営業を行ってきた結果,多数の受注,施工に至っていたことが理解される。また,原告が施行した上記工事は,原告自ら営業活動を行い,受注し,施工したものであって,その過程においてPCフレーム協会の名称が用いられた事実はない。このことは,甲8の原告パンフレットに,PCフレーム協会の名称が全く表記されていないことからも推察できる。このような原告の実績にかんがみれば,本件商標がPCフレーム協会とのみ結び付いて認識されると考えるのは妥当ではなく,原告の業務に係るものとして取引者・需要者に認識される状況が存在していたことも考慮されるべきである。
上記のように「PCフレームアンカー工法」という本件商標の実質的な使 用は原告を中心として行われていたこと,原告会社の代表取締役の功績,原告がPCフレーム協会内において指導的役割を果たしてきたこと等を背景として,サービスマーク制度の導入時に該工法に係る本件商標を自らの使用を証明して出願・登録したことはむしろ自然な流れであり,何ら問題とされる点は存しない。
なお,本件商標の登録出願は,サービスマーク制度導入時の使用に基づく 特例の適用を主張して出願されたものであり,その際に提出した使用の証拠も,原告自身の使用に基づくものであり,この点においても本件商標の登録に関しては,何ら違法性はない。
(3) 以上のように,本件審決は,上記のような不十分な証拠のみにより,引用商標がPCフレーム協会の商標として周知であったとした点において認定を誤り,その結果,本件商標を指定役務に使用した場合,役務の出所について混同を生じさせるおそれがあるとする誤った判断がなされたものである。
すなわち,該工法の施工実績やPCフレーム協会の広告活動から判断すると,本件商標の出願時である平成4年9月18日において,引用商標が,PCフレーム協会の取扱いに係るものとして需要者・取引者の間に広く認識されている状況にはなかったものである。さらに,原告の取扱いに係る商標としてよりもより広く知られていたとする客観的な根拠も存しない。原告は該工法の開発者でもあり,サービスマーク制度導入の際に適式に商標登録出願を行い,正当に商標登録を受けたものであり,その過程において何らの問題も存在しない。
したがって,本件商標は商標法4条1項15号に違反してされたものではなく,無効にされるべきものではない。
2 被告の主張 本件商標の登録が本号に違反するとした本件審決の認定判断に誤りはない。
(1) 引用商標の周知性 ア 土木工事は,殆どが公共事業といってよく,工事の発注者は国,県,市町村の官公庁が中心である。建設・土木業者が技術開発を行って新技術を確立しても,公共事業であることから発注者側の官公庁は,技術の安全性と信頼性を第1に考え,また,工法の採用に当たっては実績が重要視される。したがって,実績を積まないことには,発注者に検討さえもしてもらえないのであるから,実績を増やすためには,開発した工法を実施する仲間を増やさなければならず,そのためにも「協会」が必要なのである。
また,官公庁の発注に関しては,入札が原則であるから,発注者が特許技術を含む工法を工事の仕様として定めると,実施できる業者が1社の場合,入札ができないことになり,随意契約とせざるを得ないのであるが,発注者は会計検査において,入札をせずに随意契約とした理由を釈明しなければならないので,特許技術を含む工法の採用は極力避けるのが常である。
発注者が,工事を発注するにあたり,特許技術が有効であると認めた場合は,特許権者及び開発者に対し,協会を設立して会員を募り,複数の業者が特許技術を実施可能な状態にして入札制度にのるように示唆する場合もあるほどである。そこで,業者側は協会を設立し,業者が参集して複数業者がその工法を実施できる状態にして入札が可能な状態であることを官公庁に認知させ,協会が協会名を付した工法を統一名称として公的機関に採用を働きかけるのである。
協会を設立して工法を売り込む場合,業者が連合して実績を上げるのが目的であり,また,複数業者が施工可能状況にあることを発注者に示す必要があり,協会の名称が営業の際の商標の主要部となるのであるから,重要であることは論を待たないのである。
土木工事業界における協会の存在意義,役割は上述したとおりであるところ,PCフレーム協会は,「「PCフレームアンカー工法」,「PCウォール工法」,「PCリジッドビームウォール工法」の周知,普及をはかるとともに,品質,施工法,施工管理,安全性等に関し,一層の向上を図るための研究を行い,本工法の健全な発展により,地域社会の整備と環境保全に寄与する事」を目的として設立された法人格を有しない社団であり,上記各工法の製品製造又は施工をする者で被告より実施許諾を受けたものである正会員を中心として構成されている。
イ 平成4年にサービスマークの登録が商標法に導入されるまでは,土木工事のように役務を提供して構築物を完成させる建設業者には販売する商品がないため,商標法の恩恵を受けることができず,工法の名称を守るためには,工事に使用する土木機械,セメントやコンクリートの資材,その他の製品を指定商品として「○○工法」の商標を登録して工法の名称を守る手法が考え出され,数多くの出願が行われた。
「PCフレームアンカー工法」についても,普及活動を主体的に行うPCフレーム協会は権利能力のない団体であり,商標登録出願を行うことができないため,協会活動の法的な面を支援する組織である被告が,「PCフレーム」に関して次の5つの商標の登録出願を行っている。
@ 商願平1-97458「PCフレームアンカー/PC FRAME ANCHOR」(指定商品を平成3年政令第299号による改正前の施行令1条別表(以下「旧別表」という。)第7類とするもの) A 商願平1-97459「PC フレーム/PC FRAME」(指定商品を旧 別表第7類とするもの) B 商願平3-81659「ピーシーフレーム」(指定商品を旧別表第7類とするもの) C 商願平3-81660「P.C.F.A」(指定商品を旧別表第7類とするもの) D 商願平5-36189「PCフレームアンカー工法」(指定商品を施行令1条別表第19類とするもの) これらの商標登録出願は,PCフレーム協会の略称(甲4の会則第1条参照)である「P.C.F.A」を除き,拒絶査定を受けたが,拒絶査定された商標も含め,PCフレーム協会は継続的にこれらの商標を使用して需要者への周知を図り,「PCフレームアンカー工法」等の普及発展に努めてきたものである。
ウ PCフレーム協会の設立において,需要者である官公庁等に対しては,PCフレーム協会が窓口となって「PCフレームアンカー工法」の宣伝普及に努めたのであり,官公庁が発注の際に価格の算定に使用する資料の1つである財団法人経済調査会発行の月刊誌「積算資料」(乙13の(1))においても,「PCフレームアンカー工法」の施工(販売)主体としてPCフレーム協会が掲載されているのであり,同協会の会員である個々の施工業者は,原告を含めて掲載されていない。上記「積算資料」を発行する財団法人経済調査会の性格及び刊行物については,同調査会の業務案内パンフレット(乙13の(2))に示すとおりであり,同調査会は,設立経緯及び事業内容からみて,準公的機関ともいえるものである。
上記「積算資料」に工法として掲載されるためには,施工の実績を積み,安定した工法であることが認められないと掲載されないのであって,乙13の(1)にあるように,1988年(昭和63年)に「PCフレームアンカー工法」が,法面工事の1つとしてPCフレーム協会を発売元として掲載されていることは,「PCフレームアンカー工法」が,PCフレーム協会の名の下に実施される施工法であって,原告の施工実績も含めて十分な実績が積まれたものであり,需要者においてPCフレーム協会が提供するものであることが周知であることを示すものである。
さらに,PCフレーム協会は,建設省に働きかけ,平成8年には,工事費の積算基準を公表する「建設省土木工事積算基準」に,PCフレーム(プレキャスト・プレストレストコンクリート板)を使用した斜面安定工法の掲載にこぎつけた。なお,工事費の積算基準の公表は,建設省官技発第173号(乙15の(1))に基づくものである。
平成8年度版「建設省土木工事積算基準」(建設大臣官房技術調査室監修,土木工事積算研究会編,乙15の(2))には,「PCフレーム設置工」との見出しが記載された項に,「本資料は,グラウンドアンカーとPCフレーム(プレキャスト・プレストレストコンクリート板)を緊結することにより,斜面等の安定化を図る工法に適用する。」と記載されている。ところが,平成9年度版の「建設省土木工事積算基準」(乙15の(3))には,「プレキャストコンクリート板設置工」との見出しが記載された項において,「本資料は,グラウンドアンカーとプレキャストコンクリート板を緊結することにより,斜面等の安定化を図る工法に適用する。」と記載されている。
工事方法の名称が「PCフレーム設置工」から「プレキャストコンクリート板設置工」に,また,施工概要の標準施工フローにおいて,「PCフレーム据付」から「プレキャストコンクリート板据付」に変更され,さらに,使用する部材の名称が「PCフレーム」から「プレキャストコンクリート板」にそれぞれ変更されたのは,「PCフレーム」の名称が,PCフレーム協会が販売する特定の受圧板を指す名称として需要者に周知であったため,後発の業者から同基準の改定要請があり,新規参入のコンクリートブロック製の他の受圧板商品にも,同基準の「工事歩掛」を適用できるようにするため,建設省がこれを変更したものである。
エ 上記のように,本件商標の登録出願当時において,PCフレーム協会とPCフレーム,または,「PCフレームアンカー工法」は,需要者において一体のものとして広く認識されるに至っていたものであり,その状態は現在まで継続しているものである。
原告は,既にPCフレーム協会から脱退しており,PCフレームアンカー工法,または,それに類似する商標を使用して法面安定化工事を行えない状況にあり,類似する商標を使用して営業活動を行えば,需要者に混乱を引き起こすだけである。
(2) 原告による本件商標の使用について ア 原告は,「PCフレームアンカー工法」と類似の工法をPCフレーム協会設立前から実施してきたと主張するが,「PCフレームアンカー工法」とは無関係に上記類似の工法を別途に実施したにすぎない。原告1社のみがこの種の工法を施工している状況では前記のように工法の普及に限界があるため,原告は,協会の設立のメリットを享受すべく,PCフレーム協会の設立に参加したのである。
PCフレーム協会設立後の原告による「PCフレームアンカー工法」の施工は,PCフレーム協会の1会員としてこれを施工したにすぎないものであり,それをあたかも同協会と無関係に独立して行ってきたかのような主張は,同協会の機能を無視したものであって事実に反する。
PCフレーム協会の設立当初,原告の代表取締役であったAは,PCフレーム協会の会長に就任するとともに,被告会社の代表取締役社長にも就任し,原告は,会員の責務としてPCフレーム協会の下に「PCフレームアンカー工法」の普及活動を行ってきたのである。裏を返せば,原告が単独で同種の工法の普及活動をしても,公共事業におけるその工法の普及発展は困難であると判断したからこそ,工法の普及を促進する際の道具として有効な特許等を各社が持ち寄って相互使用を承認したPCフレーム協会の設立に原告は参加したのである。上記のとおり,PCフレーム協会設立以後は,同協会が窓口となって「PCフレームアンカー工法」等を普及発展させてきたのであり,原告が独自に普及活動をしたのではない。
原告会社の代表取締役のAは,被告会社設立から平成9年12月まで被告会社の代表取締役であった。また,平成10年の初頭まで,PCフレーム協会の会長であり,PCフレーム協会の活動方針を総括する立場にあったのであるから,原告独自に普及活動をする必要はなく,PCフレーム協会を窓口にすればことは足りていたのである。
イ 原告が独自に「PCフレームアンカー工法」の施工を行い,普及発展を図って「PCフレームアンカー工法」を周知にしたものであれば,前記「積算資料」に,販売元として原告会社名が記載されているはずであるが,そのような事実はない。
PCフレーム協会会則(甲4)には会員の任務として「本会員は,本工法の普及に当たる任務を有する」と定められており,PCフレーム協会設立に参加した原告は,同協会設立後に入会した会員の模範となるべく,率先して施工を行ったにすぎない。また,当然のことであるが,「PCフレームアンカー工法」は同協会の会員のみが施工できるのであり,同協会を脱退すれば,「PCフレームアンカー工法」の施工ができないのはもちろん,引用標章等の使用もできないのである。
原告は,自己の施工高が会員中1番であって,中心的役割を果たしてきたと主張するが,原告の施工はPCフレーム協会の1会員としてのものであるから,施工実績はすべてPCフレーム協会に属するものである。前述のように,建設業界における「協会」の役割からみて,需要者にしてみれば,「PCフレームアンカー工法」がPCフレーム協会として実績を伸ばしていると認識するのである。
原告は,PCフレーム協会における自己の地位の優位性を同協会内における施工高を示して強調しているが,原告の代表取締役がPCフレーム協会の会長,さらには,被告の代表取締役であったのであるから,原告が中心となって同協会を運営することは当然のことにすぎず,原告が実績を上げたと主張することは,PCフレーム協会,または,被告が「PCフレームアンカー工法」の実績をあげたということに等しいものである。
なお,原告のパンフレット(甲8)は,基本的には会社案内であり,自己が施工できる工法を列挙したものである。そこに記載された「PCフレームアンカー工法」の名称は,同工法を実施できる会員であることを示すにとどまるものであり,また,原告が提供する工法の1つとして詳しく工程やメリットを掲載したのであり,原告がその主要な商品として位置づけていることを示すにすぎない。「PCフレームアンカー工法」の内容に関する部分は,PCフレーム協会が作成したものと同一,または,それを基にアレンジしたものにすぎない。具体的に指摘すれば,甲8の20頁右下の写真は,甲5の表紙の中央上部の写真の右下の樹木を消去したものであり,「PCフレームアンカー工法の施工手順」の図面は,甲6の9〜10頁の施工手順の「1.斜面切取〜6.アンカー(PC鋼材)緊張・定着」とレイアウトは同一であり,掘削機を模式的に描いた部分はドアや窓の形状,キャタピラーの線の数が同一であるところから,同一の原図を印刷原稿としたものである。
また,写真は,すべて同一である。PCフレーム協会を設立する目的は,共同で技術開発を行い,実績を上げて官公庁等の発注者の認知度を高めることに関する会員1社当たりのコストを下げる意味合いもあるのであり,原告の代表取締役のAが会長であるPCフレーム協会が統一的に普及活動を行っているのに,わざわざ,工法の普及活動を独立して別個に行うことは二重の出費でしかなく,原告が単独で行う合理的な理由がないのである。
(3) 以上のとおり,本件商標の登録出願当時,引用商標(PCフレームアンカー工法)は,法面安定化工事を発注する需要者等の間において,PCフレーム協会が提供する役務を表示するものとして周知性を獲得し,その周知性は本件商標の登録時を経て今日まで継続しているものであり,他方,原告が本件商標をPCフレーム協会と無関係に独自の商標として使用した事実はなく,本件商標の登録が本号に違反するとした本件審決の認定判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 原告は,本件商標の登録が本号に違反するものであるとした本件審決の認定判断は誤りである旨主張する。
ところで,本号の規定は,周知表示又は著名表示へのただ乗り及び当該表示の希釈化を防止し,商標の自他識別機能を保護することによって,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,需要者の利益を保護することを目的とするものであるから,本号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定役務等に使用したときに,当該役務等が他人の業務に係る役務等であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該役務等が上記の他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品提供事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る役務等であると誤信されるおそれ,すなわち,広義の混同を生ずるおそれがある商標を含むものと解するのが相当である。そして,この場合,本号にいう「混同を生ずるおそれ」があるかどうかは,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定役務等と他人の業務に係る役務等との性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情等に照らし,当該商標の指定役務等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断すべきである。
そこで,上記の観点から,本件商標の登録が本号に違反するものであるか否かについて,以下検討する。
2(1) 引用商標の周知性について ア 証拠(甲3ないし7,9ないし11,乙3,4,11,13の(1),(2),15の(1)ないし(3),16,17,19)及び弁論の全趣旨を併せれば,次の事実が認められる。
(ア) PCフレーム工法が出現する以前の法面の防護工法としては,現場打ち法枠工法や,フリーフレーム法枠工法等が一般的に知られており,これらの従来工法では,施工現場において型枠,鉄筋,金網等を組み立てた上,コンクリート打ちやモルタルの吹きつけを施工していたことから,コンクリートやモルタルが硬化し一定の強度が発現されるまでは法枠(アンカー)の抑止力が働かず,次の法面の工事ができず,工期が長期化したり,法面を全部切り取り下方から施工する場合崩落の危険もあるなどの欠点があった。
昭和59年ころ,上記の従来工法の問題点を解消すべく,法枠をプレキャストコンクリート製品として工場で製作し,工事現場に運搬してこれを据え付け,グラウンドアンカーによって法枠を積極的に法面に押し付ける工法(積極的に法面を強力に抑止防護する受圧板工法。当時は,いまだPCフレームやPCフレームアンカー工法の名称は付けられていなかった。)が,黒沢建設株式会社のB社長により発案され,「土師野尾ダム右岸法面防護工事」(施主・長崎県諫早土木事務所),「冷水トンネル坑口法面防護工事」(施主・福岡県道路公社)(いずれも施工者は原告である。)において,この工法(いずれもスクエアタイプ)が採用された。また,昭和61年の「瀧光徳寺五重宝塔法面防護工事」(施工者は原告である。)において,自然と調和した緑の植栽ができる空地を設けたクロスタイプの「PCフレームアンカー工法」が創作されて施工された。この工法は,そのメリット(法枠の軽量化が図られ,施工の合理化や工期の短縮が可能になった。)が認められ,法面防護工事や道路改良工事等で次第に採用されるようになった。
(イ) 公共建設土木工事において採用されている指名競争入札制度の下においては,建設・土木各社が技術開発した成果は,複数の企業が施工可能な工法でなければ実際の工事に採用され難い事情があることから,建設土木各社は,「工法協会」等といった組織を設けて,新しく開発した建設土木技術,工法を普及させる方法が採られる例が比較的多い。「工法協会」等は任意の団体であり,その目的の1つは,加盟各社の保有工業所有権を互いに許諾し合うことで当該開発技術,工法を加盟の複数の会社が使用できる状況を作ることにあるとされている。
このような建設・土木業界の実情を踏まえて,黒沢建設株式会社,三信カーテンウォール株式会社,原告会社,日本基礎技研株式会社,株式会社富士ピー・エスの5社は,昭和61年12月,各社が有する工業所有権,ノウハウを持ち寄り,協力して上記工法を本格的に開発普及することとなり,その際に,上記工法について「PCフレーム」,「PCフレームアンカー工法」の名称を使用することが決められた。上記各社は,その目的を達成すべく,昭和61年12月8日,共同出資により,上記工法に関する工業所有権等を一括して管理するための会社として被告会社を設立し,原告会社の代表者がその代表取締役に就任した。そして,上記各社は上記工法に関する工業所有権等の専用実施権を被告会社に許諾した。また,上記各社は,同時に,「「PCフレームアンカー工法」等の周知,普及をはかると共に,品質,施工法,施工管理等の一層の向上を図るための研究を行い,本工法の健全な発展により,地域社会の整備と環境保全に寄与する事」を目的として,PCフレーム協会を設立し,原告会社の代表者がその会長に就任した。同協会は,正会員である上記工法の製品製造又は施工をする者で被告より実施権の許諾を受けたもの,賛助会員である上記工法に関わる材料製造会社であって,理事会の承認を受けたもの等を構成員とする法人格を有しない任意団体である。
昭和61年12月10日,PCフレーム協会作成の「PCフレームアンカー工法」の初版カタログが完成し,これが同工法の周知,普及のため利用されることになった。
平成3年,群馬県四万川ダム建設事務所発注の「万沢林道地すべり防止工事」,建設省関東地方建設局甲府工事事務所発注の「清水端防災(その13)工事」において,前記(ア)記載のスクエアタイプとクロスタイプの長所を取り入れた,中間的タイプとしてのセミスクエアタイプの「PCフレームアンカー工法」が創作され施工された。
このようにして「PCフレームアンカー工法」の基本3形態が完成し,PCフレーム協会は,平成4年発行のカタログ「PCフレームアンカー工法」に上記基本3形態の工法を掲載し,頒布した。これらのカタログは,その後も,年ごとに改訂を重ね,需要者である官公庁等のほか,取引関係者に頒布された。1997年(平成9年)PCフレーム協会発行の「PCフレームアンカー工法」パンフレット(甲6)には,「画期的な斜面安定工法」の表題の下,「“PCフレーム工法”を世に送り出ししてから8年余が経過致しました・・・」と記載されている。
(ウ) 「PCフレームアンカー工法」を普及させるためには,公的な全国価格を公表する必要があり,そのため,PCフレーム協会では,財団法人経済調査会に対し同調査会発行の月刊誌「積算資料」への「PCフレームアンカー工法」等の価格掲載を働きかけ,その工法の内容や施工実績等の説明を行い,再三の交渉努力により,昭和63年1月号「積算資料」の「のり面緑化工(2)」欄に,メーカーをPCフレーム協会とする「PCフレームアンカー工法」の標準施工単価が掲載され,その後現在に至るまで,同様の標準施工単価の掲載が継続的に行われてきている。また,同協会は,財団法人建設物価調査会に対しても同調査会発行の月刊誌「建設物価」への上記価格掲載を働きかけ,昭和63年9月号「建設物価」の「のり面工」の欄にPCフレーム協会をメーカーとする「PCフレームアンカー,PCフレームクロスタイプ」の公表価格が掲載され,その後現在に至るまで,同様の公表価格の掲載が継続的に行われてきている。同様に,同協会は,財団法人建設物価調査会に対し,同調査会発行の「建設省土木工事積算基準」への「PCフレームアンカー工法」に関する基準の掲載を要請し,「建設省土木工事積算基準」平成8年度版に,「PCフレーム設置工」の標準積算基準が「特許工法につき留意する」旨の付記がされて掲載された。
なお,財団法人経済調査会は,経済企画庁・建設省(当時)共管の公益法人として設立されたものであり,土木工事や建設工事の市場単価の調査を行い,官公庁及び民間企業の建設工事を中心とした予算計画,設計,積算,資材調達,監査などの各部門で必要な基礎資料を提供することを目的として,上記調査結果を上記月刊誌等に掲載する機関である。その価格調査基準によれば,調査対象事業所は,各地区において調査対象資材の取扱い高が比較的大きく,かつ信頼度の高い事業所(メーカー,商社,問屋,特約店等)を選定するものとされている。
また,財団法人建設物価調査会は,1995年に建設省(当時)により設立許可された財団であり,その事業目的は,「土木・建築等の建設工事に関する工事費並びにこれらに要する資材の価格及び労務費の実態を調査して,工事の設計及び見積り等に資し,もって建設事業の進歩,発展に寄与すること」を目的とするものであり,建設省,農林水産省,国鉄(当時)の工事担当者を委員とする編集委員会を設置するなどして,建設価格の公表を行っており,財団法人経済調査会と同様の公的機関に準ずる組織である。
(エ) PCフレーム協会は,協会支部の会員会社と連携して,前記のパンフレットの頒布,現場見学会や技術講習会等の開催及び雑誌広告等をするなどして,「PCフレームアンカー工法」の普及宣伝活動を積極的に行い,これにより需要者の間に同工法のメリットが認知されるようになり,同工法による工事件数,施工高はほぼ順調に増加し,平成3年度(平成3年4月〜平成4年3月)には,工事件数38件,施工高約13億2400万円となり,また平成8年度(平成8年4月〜平成9年3月)には,工事件数182件,施工高約57億5900万円に達した。同協会設立時から平成12年度までのPCフレームの工事件数,施工高の推移は別紙記載のとおりである。
因みに,上記(ウ)の「建設省土木工事積算基準」の「プレキャストコンクリート板設置工法」に包含される工法の施工実績のうち,「PCフレームアンカー工法」の施工実績が占める割合は,平成4年においては約70%,平成8年には約50%であった。
また,PCフレーム協会設立以降,上記のとおり工事件数,施工高が増加していくとともに,同協会の会員会社数も増加していき,平成8年当時には会員会社は28社になり,平成10年現在において33社に及んでいた。
(オ) 「新技術による法面・斜面対策」(総合土木研究所・昭和63年9月21日発行。甲5)には,表紙に「P.C.F.A.工法 プレストレストコンクリートフレームアンカー工法」,「PCフレーム協会」などの文字とともに法面工事の施工写真が掲載され,目次頁に「表紙説明」として,「PCフレームアンカー工法-P.C.F.A.工法 PCフレームアンカー工法は,プレキャストのプレストレストコンクリートフレームとグラウンドアンカーの組合せで構成され,主に切土のり面の安定化および自然斜面の崩壊や地すべりの防止に適用されるものである。・・・事務局 PCフレーム協会」と記載されている。また,その本文中に,「PCフレームアンカー工法とその設計・施工」と題するCの論稿が掲載され,昭和63年までに行われた「PCフレームアンカー工法」による施工例6件,すなわち,「PCフレームアンカー工法」の代表的な実施例として,京滋バイパス平津工事(施主・日本道路公団),国道266号線改良工事(施主・熊本県本渡土木事務所),県道中野〜厚木線改良工事(施主・神奈川県津久井土木事務所),大川瀬ダム(施主・近畿農政局東播用水農業水利事業所),長崎地方裁判所擁壁防護工事(施主・九州地方法務局)及び姉ヶ崎火力発電所擁壁防護工事(施主・東京電力株式会社)の例が掲載されている。
また,雑誌「基礎工」Vol.15,No.12(1987年(昭和62年)発行。甲7)には,「PCフレームアンカー工法」の表題と写真の下に「PCフレーム協会 事務局潟sー・シー・フレーム」と表示し,その下に「PCフレーム協会員」として原告会社を含む全6社の社名を表示した1頁の広告が掲載されている。
さらに,雑誌「土と基礎」Vol.38,No.5(1990年(平成2年)発行。甲9)には,「PCフレームアンカー工法」の名称及び写真とともに,「PCフレーム協会」と表示し,「PCフレーム協会員」として原告会社を含む全15社の社名を表示した半頁大の広告が掲載されている。
(カ) なお,原告は,PCフレーム協会の運営方針についての意見の相違から,平成11年2月ころ,プレキャスト・プレストレストコンクリート製の受圧板を使用した「PUC工法」の普及のための活動をする「斜面受圧板協会」を日本ゼニスパイプ株式会社等と設立し,そのころ,PCフレーム協会を脱会し,PCフレーム協会と利害が対立することとなった。
イ 土木工事は,殆どが公共事業といってよく,工事の発注者,すなわち法面工事の1工法である「PCフレームアンカー工法」の需要者は,国,県,市町村の官公庁や日本道路公団等の特殊法人が中心であり,また,取引関係者も殆どが建設・土木業界に属する企業であることは公知の事実であるところ,上記認定の事実によれば,本件商標登録の出願時点(平成4年9月18日)において,法面工事の工法としての引用標章(PCフレームアンカー工法)は,需要者である官公庁等はもちろん,取引関係者である土木・建設業界,特に法面工事の業界に属する企業の間において,原告会社を含めた「PCフレーム協会」の会員各社の取扱いに係る工法を表示する標章として,広く知られたものとなっており,その周知性は本件商標の登録時を経てその後においても継続していると認められる。
この点に関し,原告は,「PCフレームアンカー工法」は,他にも様々な工法がある状況における,斜面・法面工事の中のシェアの低い1つの工法にすぎないところ,このような状況において,本件審決がその判断の認定に供した証拠のみをもって,引用商標がPCフレーム協会の商標として取引者・需要者の間で広く知られていたとする認定には妥当性がない旨主張する。しかしながら,「PCフレームアンカー工法」の需要者は官公庁等が中心であり,その範囲がかなり限定されるところ,官公庁等は,各工法のメリット,実績等を充分に考慮して工法の選択を行うものと考えられるのであって,法面工事の斜面・法面工事の全体の中に同工法が占める割合がかなり低いものであるとしても,そのことは上記周知性の認定を左右するものではないというべきである。
しかして,本件商標は,「PCフレーム協会」の取扱いに係る工法の標章である引用標章(PCフレームアンカー工法)と全く同一のものであり,引用標章の上記のような周知性を考慮すれば,本件商標をその指定役務に使用するときには,これに接した取引者及び需要者に対し,「PCフレーム協会」の使用に係る上記標章を想起させて,その役務が「PCフレーム協会」の会員各社及びこれらの会社と何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように,その出所につき誤認を生じさせるおそれがあり,本件商標の登録を維持した場合には,「PCフレーム協会」の使用に係る上記標章の有する顧客吸引力へのただ乗りやその有する自他識別機能希釈化を招来しかねないと考えられる。
(2) 原告は,本件商標が出願された平成4年までにおいて,原告のPCフレームアンカー工法施工実績は,他の会社に比べ突出しており,原告が実質的に中心となって「PCフレームアンカー工法」の宣伝,営業を行ってきた結果,多数の受注,施工に至っていたものであり,このような原告の実績にかんがみれば,「PCフレームアンカー工法」の標章がPCフレーム協会とのみ結び付いて認識されると考えるのは妥当ではなく,原告の業務に係るものとして取引者・需要者に認識される状況が存在していたというべきである旨主張する。
しかしながら,PCフレーム協会の設立後は,需要者である官公庁等に対しては,PCフレーム協会が窓口となって「PCフレームアンカー工法」の宣伝普及に努めたのであり,官公庁等が発注の際に価格の算定に使用する雑誌の1つである財団法人経済調査会発行の月刊誌「積算資料」等においても,「PCフレームアンカー工法」の施工(販売)主体としてPCフレーム協会が掲載されているのである。
PCフレーム協会会則(甲4)には会員の任務として「本会員は,本工法の普及に当たる任務を有する」と定められており,PCフレーム協会設立に参加し,その会員である原告は,同協会の会員として,その会則に定められたところに従い,「PCフレームアンカー工法」による法面工事の受注について宣伝を含む営業活動,同工法による工事の施工を行ったものであり,その実績はPCフレーム協会に帰属するものとみるほかはなく,取引者・需要者においても,原告による上記営業活動,工事の施工は,PCフレーム協会の一員としてされていたものと認識していたと認めるのが相当である。
原告のパンフレット(甲8)は,基本的には会社案内であり,自己が施工できる工法を列挙したものであり,PCフレームアンカー工法についていえば,それは,PCフレーム協会が作成したものと同一,または,それを基にアレンジしたものにすぎず,「PCフレームアンカー工法」を実施できる会員であることを示すにとどまるものというべきであり,このようなパンフレットが頒布されていたからといって,「PCフレームアンカー工法」の標章が,PCフレーム協会と関係なく,原告独自の業務に係る役務を表示するものとして取引者・需要者に認識されていたと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
(3) 上記に検討したとおり,本件商標の出願当時において,引用商標(PCフレームアンカー工法)はPCフレーム協会の取扱いに係る工法として周知性を獲得し,その周知性は本件商標の登録時を経てその後も継続しているものと認められ,他方,原告が,本件商標の出願当時,PCフレーム協会とは関係なく独自に,その施工に係る法面工事の工法に本件商標を使用していたものとは認められないのであって,本件商標の登録が本号に違反するとした本件審決の判断に誤りがあるとはいえない。
3 以上によれば,原告が取消事由として主張するところは理由がなく,その他本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青蜉]
裁判官 沖中康人
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