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関連審決 異議2017-900255
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事件 平成 30年 (行ケ) 10065号 商標登録取消決定取消請求事件

原告亜太電信株式会社
同訴訟代理人弁護士 波光巖 池田辰也
被告特許庁長官
同 指定代理人 薩?摩純一 井出英一郎 板谷玲子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2018/09/19
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が異議2017-900255号事件について平成30年3月30日にした決定を取り消す。
事案の概要
本件は,原告が有する以下の商標登録につき,アイコム株式会社(以下「異議申立人」という。)が,商標法43条の2に基づき登録異議の申立てをしたところ,特許庁が同登録を取り消す旨の決定をしたことから,原告がその取消しを求めた事案であり,争点は,同法4条1項11号該当性の有無である。
1 本件商標 原告は,以下の商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である(甲1)。
(1) 登録番号 第5946945号 (2) 出願日 平成28年8月15日 (3) 査定日 平成29年4月6日 (4) 登録日 平成29年5月19日 (5) 商標 (6) 商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務 第9類 電子応用機械器具及びその部品 2 特許庁における手続の経緯 異議申立人は,平成29年8月10日,本件商標登録につき,商標法4条1項10号,11号,15号に該当すると主張して登録異議を申し立て(異議2017-900255号),特許庁は,平成30年3月30日,本件商標登録を取り消すとの決定をし,同異議決定謄本は,原告に送達された。
3 決定の理由の要点 (1) 本件商標について 本件商標は,複数の円弧を組み合わせた図形(以下「図形部分」という。)とその右横に図案化された欧文字(以下「欧文字部分」という。)及び「亜太電信」の漢字(以下「漢字部分」という。)を上下二段に横書きした構成からなるものであるところ,欧文字部分は,やや図案化して表現されているものの,格別特異な表現方法ではなく,欧文字5文字を表現したものと看取されるものであり,その3文字目に当たる部分については,両端が先細りとなった欧文字の「C」を表したものと 認識されるものであって,全体として「AiCOM」の文字を図案化したものと容易に看取できるものである。したがって,当該欧文字部分からは,「アイコム」の称呼が生じ,また,特定の観念は生じないといえる。また,「亜太電信」の漢字部分からは,「アタデンシン」の称呼が生じ,特定の観念は生じず,図形部分からは,特定の称呼及び観念が生じない。
そして,本件商標の図形部分,欧文字部分及び漢字部分は,外観,称呼及び観念上のつながりや関連性は認められないから,それぞれが独立して自他商品の識別標識としての機能を果たすものといえ,本件商標は,その構成中,「AiCOM」の欧文字部分を要部として抽出し,類否判断することができる。
したがって,本件商標からは,その構成中の要部である「AiCOM」の文字部分に相応して「アイコム」の称呼が生じ,特定の観念は生じない。
(2) 引用商標について ア 本件において引用する登録商標は別紙のとおりであるところ(以下,記載の順に「引用商標1」などといい,併せて「引用商標」という。, 引用商標1, )引用商標6及び引用商標8は「ICOM」,引用商標2及び引用商標9は「アイコム」,引用商標3は「AICOM」の文字をそれぞれ横書きしてなるものである。
そして,引用商標4及び引用商標7は,語頭部分がやや図案化されているが,欧文字の「i」を表したと容易に理解されるから,全体として「iCOM」の文字よりなるものということができる。
以上からすると,引用商標1〜4並びに引用商標6〜9からは, 「アイコム」の称呼を生じ,また,特定の観念を生じない。
イ 引用商標5は「アイコム株式会社」の文字を横書きしてなるものであるところ,その構成中の「株式会社」の文字は法人の種別を表す語であるから,商標の要部となり得る部分は「アイコム」の片仮名部分であるというべきである。
そうすると,引用商標5からは,その構成中の要部である「アイコム」の文字部分に相応して「アイコム」の称呼を生じ,特定の観念は生じない。
(3) 本件商標と引用商標との対比 ア 外観 本件商標の欧文字部分「AiCOM」と引用商標3の「AICOM」は, 「i」と「I」の文字において,小文字と大文字等の違い及び「A」と「C」の外形上の相違があるものの,そのつづりを同じくするものであるから,外観において近似した印象を与えるものである。
次に,本件商標と引用商標1,引用商標4及び引用商標6〜8の「ICOM」とは,語頭の「A」の文字の有無及び大文字「I」と小文字「i」の相違という差異があるが,5文字という比較的短いつづり字からなる本件商標の構成中,iCOM」 「の4文字のつづりを共通にするものであるから,両者は,外観においてやや近似した印象を与えるものである。
そして,本件商標と引用商標2及び引用商標9並びに引用商標5の要部である「アイコム」とは,欧文字及び片仮名という文字種を異にするところがあるものの,商標の使用においては,商標の構成文字を同一の称呼が生じる範囲内で文字種を相互に変更したり,デザイン化したりすることが一般的に行われている取引の実情があることを考慮すると,これに接した取引者,需要者に対し,文字種の相違が,外観上の差違として強い印象を与えるとはいえないというべきである。
称呼 本件商標と引用商標は,「アイコム」の称呼を共通にするものである。
観念 本件商標と引用商標は,特定の観念を生じないものであるから,両者は観念において区別できない。
エ 類否の判断 以上のとおり,本件商標と引用商標とは,「アイコム」の称呼を共通にし,かつ,観念においても区別できないものである。そして,本件商標と引用商標とは,外観上近似した印象を与えるか,あるいは,外観上の差異があるとしても,看者に強い 印象を与えるものとはいえないから,これらを総合勘案すると,本件商標と引用商標は,互いに類似する商標である。
(4) 本件商標の指定商品と引用商標の指定商品の比較 本件商標の指定商品は,第9類「電子応用機械器具及びその部品」であり,他方,引用商標の指定商品は,第9類「電子応用機械器具及びその部品」又は「電子計算機用プログラム」を含むものであるから,その限りにおいては,本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とは同一又は類似である。
(5) 小括 以上によると,本件商標は,引用商標と類似の商標であって,引用商標の指定商品と同一又は類似の商品を指定商品とするものであるから,商標法第4条1項11号に違反して登録されたものである。
原告主張の取消事由
以下のとおり,本件商標が商標法4条1項11号に該当するとした決定の認定判断には誤りがある。
1 本件商標は,全体観察すべきであり,決定が本件商標を分離観察し,欧文字部分を,取引者,需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える部分である要部としていることは誤りである。
2以上の文字,図形又は記号の組み合わせからなる結合商標の類否の判断は,全体観察によるのが原則であり,各構成部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合には,例外的に分離観察してその部分が有する外観,称呼又は観念により類否の判断をすることが認められるが,本件商標はそのようなものではない。
2 仮に,本件商標から要部を抽出して観察するとしても,その要部は原告の社名である「亜太電信」の漢字部分であり,欧文字部分ではない。
3 また,欧文字部分の称呼及び外観について,欧文字部分の5文字のうち1文字目は, 「V」を逆にしたものであって「A」ではない。また,3文字目は「C」と は必ずしも認識されず,この部分は,AiCOM」 「 を図案化したものではないから,欧文字部分からは「アイコム」の称呼は生じない。欧文字部分の外観が,一見しても引用商標と類似していないことは明白である。決定は,当該部分の外観をAiCOMと看取されるとし,これが引用商標と外観において近似した印象を与えるとするが,当該部分を敢えて「AiCOM」に引き直すことは,外観を直視したものではない。
4 本件商標を付した商品の販売方法は,通信販売会社を通じたインターネット販売である。したがって,商品の販売において本件商標を称呼する必要がなく,称呼されないから,称呼の共通性は重視すべきではない。
5 仮に,欧文字部分が引用商標と類似するとしても,それは三つある構成部分の一つにすぎない。そして,他の部分に,商標権者の社名である「亜太電信」との部分があるから,これが欧文字等の打消し表示と観察され,本件商標全体を一体として見た需要者は,外観が引用商標と大きく異なるため,商品の出所を誤認混同することがない。
被告の主張
1 本件商標と引用商標との類否について (1) 本件商標について ア 本件商標の外観 本件商標は,その構成中の左側に赤色の弧線と青色の円弧を複数組み合わせた図形を配し,右側の上段に赤色と青色で,図案化された部分を伴う欧文字,下段に青色で,欧文字部分よりやや小さい大きさで「亜太電信」の漢字を横書きした構成からなる。
そして,図形部分,欧文字部分及び漢字部分は,それぞれに重なり合うところがなく,各部分が独立した態様で表されているものである。
また,欧文字部分についてみるに,当該部分は,やや図案化して表現されている部分を伴うものの,1文字目に相当する部分については,相等しい2本の直線によ り表現された形状が「A」の外郭と共通し, 「A」の文字を図案化する際に広く用いられている方法である(乙21〜26)から, 「A」の文字を表したものと認識されるといえる。欧文字部分の3文字目に相当する部分については,両端が先細りに表された右側を開口部とする円弧であるところ,円の右側に開口部が設けられていること,その開口部は円弧の中央部に位置し,全体の高さに比して半分程度の高さで設けられていること,円弧の左中央部から右中央の開口部に向けて徐々に細くなるように表現されていることが, 「C」の文字と共通する特徴で,同様の図案化の手法は広く用いられている(乙27〜32)。さらに,3文字目に相当する部分で「O」の文字を挟み込んだような態様についても, 「C」の文字の開口部を利用することによってそれに続く欧文字を挟み込んだような図案化の手法が広く用いられている(乙29〜38) 加えて, 。 3文字目に相当する部分の左右に欧文字が配置される構成により,本件商標に接する者は,欧文字部分全体が欧文字を表したものと類推して看取,把握するといえる。そうすると,欧文字部分は, 「AiCOM」の欧文字を,その1文字目と3文字目について図案化して表したものと理解,認識されるものである。
以上からすると,本件商標は,複数の円弧等からなる図形部分,一部図案化して表された「AiCOM」の欧文字部分, 「亜太電信」の漢字部分を組み合わせた結合商標であり,当該各部分が異なる大きさで融合せずに配置されていること,図形と文字の相違,文字種や図案化の有無という相違があることから,視覚上,上記各構成部分が独立して把握される構成であるといえる。
そして, 「AiCOM」の欧文字は,図案化をもって目立つ態様により表され,赤色も用いられていることもあいまって,構成上,本件商標を看る者に印象的な部分として認識されるといえるものである。
イ 本件商標の観念 本件商標の構成中,図形部分,欧文字部分及び漢字部分は,いずれも特定の意味合いを理解させるものではない。
また,欧文字部分と漢字部分とが一体となることによって特定の意味合いを理解させたり,図形部分も含めた構成部分それぞれが互いに観念的なつながりを認識させたりするものでもなく,その他,本件商標の指定商品の分野において,上記各構成部分が一体の意味を表すものとして,一般に認識されているという実情もないから,本件商標は,構成全体としてまとまった観念を生じるということはできない。
以上からすると,本件商標は,いずれの構成部分も特定の観念を生じないもので,各構成部分が結びついて何らかの観念を生じるものでもないから,観念上,一体不可分のものとして認識されるものではない。
ウ 本件商標の称呼 本件商標の構成中,図形部分は,特定の称呼を生じない。
また,欧文字部分からは,これより理解される「AiCOM」の文字に相応して「アイコム」の称呼を生じ,漢字部分からは,これを構成する「亜太電信」の漢字の親しまれた読みから「アタデンシン」の称呼を生じるといえる。
そして,本件商標全体としては,上記構成文字に相応して「アイコムアタデンシン」の称呼を生じるものといえるが,本件商標全体から生じる「アイコムアタデンシン」の称呼は,やや冗長といえる。
エ 小括 以上からすると,本件商標は,上記各構成部分について,分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているということはできない。
そして,本件商標は,各構成部分がそれぞれ単独で商品の出所識別標識としての機能を果たし得るといえるところ,その構成中,欧文字部分は,図案化をもって目立つ態様によって表されることにより,本件商標に接する者の目をひくものといえ,文字部分において唯一赤色も用いて表されていることもあいまって,構成上,本件商標を看る者に印象的な部分として認識されるといえるものである。
そうすると,本件商標は欧文字部分を要部として抽出し,類否判断することも許 されるものといえる。
(2) 本件商標と引用商標との類否について ア 本件商標と引用商標の称呼及び観念について 本件商標の要部である欧文字部分と引用商標は, 「アイコム」の称呼を同一にするものである。また,本件商標と引用商標は,いずれも特定の観念を生じるものではなく,観念上,区別することができない。
イ 本件商標と引用商標3との類否 本件商標の要部である欧文字部分の「AiCOM」と引用商標3「AICOM」とは,2文字目の小文字「i」と大文字「I」の違い及び1文字目「A」と3文字目「C」の外形上の差異があるものの,商標の使用においては,商標の構成文字において,一部又は全部の文字を,大文字と小文字を相互に変更したり(乙21,39),図案化したりすることが一般的に行われている取引の実情があることを考慮すると,これに接する取引者,需要者に,大文字と小文字の相違や図案化の有無が商標の類否を判断する上での外観上の差異として強い印象を与えるとはいえず,本件商標の要部と引用商標3とは,構成する文字のつづりを同じくするもので,外観上,近似した印象を与えるものである。
以上からすると,本件商標と引用商標3とは,要部の外観において近似し,称呼を同一にする商標であって,観念において区別できるものではないといえるから,これらが取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察した場合,互いに紛れるおそれのある類似の商標というべきである。
ウ 本件商標と引用商標2,引用商標5及び引用商標9との類否 本件商標の要部である欧文字部分の「AiCOM」と引用商標2及び引用商標9並びに引用商標5の要部「アイコム」とは,欧文字と片仮名という文字種や図案化の有無に差異があるものの,商標の使用においては,商標の構成文字を同一の称呼が生じる範囲内で文字種を相互に変更したり(乙26〜28,37),図案化したりすることが一般的に行われている取引の実情があることを考慮すると,これに接す る取引者,需要者に,文字種の相違や図案化の有無が商標の類否を判断する上での外観上の差異として強い印象を与えるとはいえない。
そうすると,本件商標の要部と引用商標2及び引用商標9並びに引用商標5の要部とは,外観において差異があるとしても,その差異が看者に強い印象を与えるとはいえないものであり,称呼を同一にするものであって,観念において区別できるものではないといえるから,これらが取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察した場合,本件商標と引用商標2,引用商標5及び引用商標9は,互いに紛れるおそれのある類似の商標というべきである。
エ 本件商標と引用商標1,引用商標4及び引用商標6〜8との類否 本件商標の要部である欧文字部分の「AiCOM」は,引用商標1,引用商標6及び引用商標8を構成する「ICOM」とは,語頭の「A」の文字の有無,これに続く小文字「i」と大文字「I」の違い及び「C」の部分の外形上の差異があり,また,引用商標4及び引用商標7を構成する「iCOM」とは,語頭の「A」の文字の有無,これに続く「i」及び「C」の部分の外形上の差異があるものの,それを構成する5文字のうち4文字を,上記各引用商標とつづりを共通にするものであるから,外観上,やや近似した印象を与えるものであるといえる。
そうすると,本件商標の要部と引用商標1,引用商標4及び引用商標6〜8とは,外観において差異があるとしても,やや近似した印象を与えるものであり,称呼を同一にするものであって,観念において区別できるものではないといえるから,これらが取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察した場合,本件商標と引用商標1,引用商標4及び引用商標6〜8は,互いに紛れるおそれのある類似の商標というべきである。
オ 本件商標の指定商品と引用商標の指定商品との類否 本件商標の指定商品は,「電子応用機械器具及びその部品」である。
一方,引用商標の指定商品は,引用商標1〜6に「電子応用機械器具及びその部品」を,引用商標7〜9に上記商品中に含まれる商品「電子計算機用プログラム」 を,それぞれ含むものである。
そうすると,本件商標の指定商品と引用商標の指定商品中「電子応用機械器具及びその部品」又は「電子計算機用プログラム」とは,同一又は類似するものである。
カ まとめ 以上のとおり,本件商標は,引用商標と類似する商標であり,かつ,引用商標の指定商品と同一又は類似する商品について使用をするものであるといえるから,商標法4条1項11号に該当すると判断すべきである。
2 原告の主張に対する反論 (1) 原告は,本件商標中の「亜太電信」の漢字部分が欧文字部分等の打消し表示となる旨主張するが,原告の主張は,独自のものであって,当を得たものではない。
(2) 原告は,本件商標を付した商品の販売は,通信販売会社を通じたインターネット販売であるから,商品の販売において本件商標は称呼されない旨主張する。
しかし,原告の主張は,本件商標を付した商品の販売方法について述べるにすぎないものであって,実際にそのような販売方法に限定されているかも不明である上,仮にそうであったとしても,指定商品である「電子応用機械器具及びその部品」の販売は,一般にインターネットによる販売に限定されていないものであるから,上記主張は,原告に係る個別の商品についての特殊的,限定的な事情であって,指定商品についての一般的,恒常的な取引の実情ということはできない。
なお,仮にインターネット販売における取引の実情について検討したとしても,本件商標の要部と引用商標とは,構成する文字のつづりを同じくするものや,欧文字と片仮名という文字種を異にするものなどであるところ,商標の構成文字を図案化したり,同一の称呼が生じる範囲内で文字種を相互に変更したりすることが一般的に行われていることを考慮すると,商標の類否を判断する上で,両者の外観上の相違が出所識別標識としての顕著な差異として強い印象を与えるとはいい難い。また,インターネット上のネットショップ等において,商品をその称呼に相応する表 音文字である片仮名表記によって検索する場合もある(乙39,40)そうすると, 。
両商標はその出所について互いに紛れるおそれのある類似の商標というべきである。
当裁判所の判断
1 商標法4条1項11号に係る商標の類否は,対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に,当該商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきところ,その際には,これらの商標の外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合し,当該商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについては,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合には,その構成部分の一部を抽出し,当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することが許される場合があり,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許される(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
以下,上記判断枠組みに沿って本件商標と引用商標の類否について検討を進めることとする。
2 分離観察の許否 (1)ア 本件商標は,前記のとおり,六つの円弧(上部で右方向へと伸びている 円弧及び下部で左方向へと伸びている円弧は赤色で,他の四つの円弧は同色の青色からなっている。 を組み合わせた図形部分, ) 同図形部分の右横に図案化した5文字の欧文字部分と「亜太電信」の漢字部分を上下2段に横書きした構成からなる結合商標と解されるものであり,欧文字部分は,漢字部分より大きく,青色で記載されている。また,欧文字部分は「i」の点の部分が赤色でそれ以外は青色であり,他方で漢字部分は全て青色である。そして,図形部分,欧文字部分及び漢字部分は,いずれもそれぞれに重なり合うことなく,独立に表されている。
イ 本件商標の構成中,欧文字部分は,AとCがやや図案化されているものの,その形状から,「AiCOM」の文字からなるものと認識できるから,同部分からは「アイコム」との称呼が生じる。
「亜太電信」からなる本件商標の漢字部分からは「アタデンシン」との称呼が生じる。
上記のような両部分から生ずる称呼に加え,欧文字部分と漢字部分が,いずれも造語であって何らの観念も生じないものであること,欧文字部分と漢字部分が,異なる種類の文字で,前記のとおり上下に2段に分けて横書きで記載されていることを考え併せると,欧文字部分と漢字部分との間に外観観念上,何らかの関連性があるとは認められないものである。また,この両部分を併せた称呼である「アイコムアタデンシン」はやや冗長である。
本件商標の構成中,図形部分についても,何らの称呼観念も生じないものであり,外観,称呼及び観念の各点で欧文字部分及び漢字部分のいずれとも何らの関連性が認められないものである。
そして,上記のような各構成部分は,いずれも指定商品との関係でその内容,属性,品質等を表すものとはいえず,各構成部分は,指定商品との関係でそれぞれ独立して出所識別機能を有し得るものといえる。
さらに,上記アのとおり,「AiCOM」の欧文字部分が,図案化されて漢字部分よりも大きく記載され,かつ「i」の部分に赤色が用いられている。
そうすると,本件商標の各構成部分が,分離して観察することが取引上不自然で あると思われるほど不可分的に結合しているとは認められず,本件商標から「AiCOM」の欧文字部分を要部として観察することが許されるというべきである。
なお,結合商標においては要部が複数生じることもあるのであり, 「亜太電信」の漢字部分が要部となるとしても,そのことによって直ちに「AiCOM」の欧文字部分が要部とならなくなるものではない。
(2) 原告は,本件商標の欧文字部分の冒頭が「V」を逆にしたものであることなどから,欧文字部分は,「AiCOM」とは認識されないと主張する。
しかし,欧文字部分の冒頭の文字について,確かに欧文字の「A」をそのまま記載したものではないが,同じ長さの2本の直線が上部において鋭角に交差されているという外郭の形状は,「A」と同一である。また,本件商標と同様に,「A」の文字の内側にある直線を省略して図案化している例は,他の企業の標章にも複数見受けられる(乙20〜26)。一方,欧文字部分の冒頭の文字について,それが原告の主張するように,欧文字の「V」を逆にしたものであると認識させる契機となるようなものは,何ら見当たらない。そうすると,本件商標に接した者が,欧文字部分の冒頭の文字を「V」を逆にしたものと認識するとは認められず,上記のとおり,「A」と認識するものと認められる。
また,欧文字部分の3文字目についても,図案化されてはいるものの,円弧の右側に開口部があり,同開口部が円弧の中央部にあるなどの特徴は欧文字の「C」と同一である。加えて,他の標章について,本件商標と同じような態様で「C」を図案化している例や本件商標と同様に「C」の右側開口部に他の欧文字を挟み込んで図案化している例が見受けられること(乙27〜38)も踏まえると,本件商標に接した者が,欧文字部分の3文字目を欧文字の「C」と容易に認識するものと認められる。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
3 本件商標と引用商標の類否 (1) 本件商標の「AiCOM」との欧文字部分からは, 「アイコム」との称呼が 生じ,上記のように同部分からは何らの観念も生じない。
他方,引用商標からはいずれも「アイコム」という本件商標と同一の称呼が生じるところ,引用商標はいずれも造語であって何らの観念も生じず,本件商標と引用商標を観念で区別することはできない。
また, 「AICOM」の欧文字からなる引用商標3と本件商標の「AiCOM」という欧文字部分は,AとCについて図案化がされているか否か, 「i」が大文字か小文字かという違いはあるものの,同一のつづりから構成されているものであって,外観において類似するものといえる。
「ICOM」や「i」の文字を図案化した「iCOM」の欧文字からなる引用商標1,4,6〜8についても,「A」の有無,「i」が大文字か小文字か,図案化がされているのか,書体等の違いはあるものの, 「iCOM」の4文字のつづりを本件商標と共通にしているから,外観上,似通った印象を与えるものである。
「アイコム」「アイコム株式会社」という片仮名からなる引用商標2,5,9に ,ついても,外観は異なるものの,その要部が,本件商標の欧文字部分の称呼を片仮名で表したものであり,商標の使用の中で,構成文字を同一の称呼が生じる範囲内で相互に変更するなどする取引の実情があること(乙26〜28,37)を踏まえると,その外観上の差異が類否の判断を大きく左右するものとまではいえないところである。
以上に加え,本件商標の指定商品である第9類「電子応用機械器具及びその部品」の需要者に一般消費者が含まれ得ることも併せて考慮すると,本件商標と引用商標は,出所について誤認混同を生ずるおそれがある類似する商標というべきである。
(2) 原告は,この点について,@本件商標を付した商品の販売方法はインターネット販売であり,本件商標は称呼されない,A欧文字部分が引用商標と類似するとしても,それは三つある構成部分の一つにすぎず,本件商標の他の部分に,商標権者の社名である「亜太電信」との部分があるから,これが欧文字等の打消し表示となるなどと主張する。
ア 上記@について,本件商標を付した商品が,仮に現在インターネット販売しかされていないとしても,インターネット上のショップ等において,欧文字からなる標章を片仮名読みしたもので商品の検索等がされている事例がある(乙39,40)ことからすると,インターネット販売において,欧文字部分が称呼されないと認めることはできず,原告の主張は失当である。
イ 上記Aについても, 「亜太電信」が原告の社名等を示すものとして周知であることを認めるに足りる立証はなく,漢字部分の存在により出所混同のおそれが生じなくなるということはできない。また,漢字部分が欧文字部分と独立し,かつ欧文字部分より小さく,しかも青色一色で表示されていることを踏まえると,漢字部分の識別力が欧文字部分より強いとはいえず,漢字部分の存在によって,本件商標が引用商標と非類似になるとまではいえない。なお,消費者庁「打消し表示に関する実態調査報告書」(甲26)は,「不当景品類及び不当表示防止法」上の打消し表示についての考え方を示したものであって,上記判断を左右するものではない。
4 小括 以上のとおり,本件商標と引用商標が類似するとした決定の認定判断に誤りはない。そして,本件商標の指定商品は,第9類「電子応用機械器具及びその部品」であるところ,引用商標の指定商品は第9類「電子応用機械器具及びその部品」又は「電子計算機用プログラム」を含むものであって,本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とが同一又は類似するから,本件商標が商標法4条1項11号に該当するとした決定に誤りはない。
結論
以上のとおり,原告の請求には理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
追加
裁判長裁判官森義之裁判官佐野信裁判官熊谷大輔 (別紙)1登録第912916号商標(1)出願日昭和44年6月19日(2)登録日昭和46年7月29日(3)更新登録日昭和56年8月31日,平成3年10月29日,平成13年5月8日,平成23年6月21日(4)書換登録日平成14年2月27日(5)商標(6)商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務第9類「電子応用機械器具及びその部品」を含む第7類から第12類,第17類及び第21類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品2登録第2269852号商標(1)出願日昭和61年5月15日(2)登録日平成2年9月21日(3)更新登録日平成12年5月9日,平成22年5月25日(4)書換登録日平成22年7月21日(5)商標(6)商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務第9類「電子応用機械器具及びその部品」を含む第7類から第12類,第17類及び第21類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品 3登録第2269853号商標(1)出願日昭和61年5月15日(2)登録日平成2年9月21日(3)更新登録日平成12年5月9日,平成22年5月25日(4)書換登録日平成22年7月21日(5)商標(6)指定商品(7)商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務第9類「電子応用機械器具及びその部品」を含む第7類から第12類,第17類及び第21類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品4登録第2269854号商標(1)出願日昭和62年7月20日(2)登録日平成2年9月21日(3)更新登録日平成12年5月9日,平成22年5月25日(4)書換登録日平成22年7月21日(5)商標(6)商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務第9類「電子応用機械器具及びその部品」を含む第7類から第12類,第17類及び第21類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品 5登録第2431298号商標(1)出願日平成元年8月2日(2)登録日平成4年6月30日(3)更新登録日平成14年5月14日,平成24年4月10日(4)書換登録日平成14年6月5日(5)商標(6)商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務第9類「電子応用機械器具及びその部品」を含む第7類から第12類,第17類及び第21類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品6登録第4062397号商標(1)出願日平成6年12月27日(2)登録日平成9年10月3日(3)更新登録日平成19年10月16日,平成29年10月10日(4)商標(5)商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務第9類「電子応用機械器具及びその部品」を含む第9類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品 7登録第4681908号商標(1)出願日平成14年1月1日(2)登録日平成15年6月13日(3)更新登録日平成25年4月9日(4)商標(5)商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務第9類「電子計算機用プログラム」を含む第9類,第35類,第38類及び第41類から第45類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務8登録第4681909号商標(1)出願日平成14年1月1日(2)登録日平成15年6月13日(3)更新登録日平成25年4月9日(4)商標ICOM(標準文字)(5)商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務第9類「電子計算機用プログラム」を含む第9類,第35類,第38類及び第42類から第45類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務 9登録第4681910号商標(1)出願日平成14年1月1日(2)登録日平成15年6月13日(3)更新登録日平成25年4月9日(4)商標アイコム(標準文字)(5)商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務第9類「電子計算機用プログラム」を含む第9類,第35類,第38類及び第42類から第45類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務以上