関連審決 | 無効2016-890015 |
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事件 |
平成
29年
(行ケ)
10207号
審決取消請求事件
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原告プーマエスイー 同訴訟代理人弁理士 三上真毅 被告Y |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2019/03/26 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が無効2016−890015号事件について平成29年7月7日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文同旨 |
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事案の概要
本件は,商標登録無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,商標法4条1項11号,15号,7号該当性の有無である。 1 本件商標 被告は,下記の商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である(甲1の1・2)。 @ 登録番号 第5392944号 A 出願日 平成20年4月12日 B 登録査定日 平成23年1月11日 C 登録日 平成23年2月25日 D 商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務 第25類 Tシャツ,帽子 2 特許庁における手続の経緯 原告は,平成28年2月25日,特許庁に対し,本件商標が商標法4条1項7号,同項11号及び同項15号に該当するとして,その登録を無効にすることについて審判を請求した(無効2016-890015号。以下「本件審判請求」という。 。 ) 特許庁は,平成29年7月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月18日に原告に送達された。 3 本件審決の理由の要旨 (1) 引用商標の著名性 ア 引用商標は,下記のとおりであり,現に有効に存続している。 @ 登録番号 第4637003号 A 出願日 平成14年4月24日 B 登録日 平成15年1月17日 C 商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務 第25類 被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物, 仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴 イ 引用商標は,本件商標の登録出願時には,原告の業務に係るスポーツシューズ,被服,バッグ等を表示する商標として,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されて周知・著名な商標となっており,それは,本件商標の登録査定時及びそれ以降も継続している。 (2) 商標法4条1項11号該当性 ア 本件商標と引用商標の対比 (ア) 外観 a 共通点 本件商標と引用商標は,四足動物が右側から左上方へ向けて跳び上がるように前足と後ろ足を大きく開いている様子が側面から見た姿で描かれている点で共通し,その向きや基本的姿勢のほか,跳躍の角度,前足・後ろ足の縮め具合・伸ばし具合や角度,胸・背中から足にかけての曲線の描き方について,似通った印象を与える。 b 差異点 本件商標の方が引用商標に比べて頭部が比較的大きく描かれているほか,本件商標においては,その輪郭等に沿うように白線を配し,かつ,全体にわたり白抜きで表した花びら様の図柄が配されており,さらに,口の辺りに歯のようなもの,首飾りのような模様,前足と後ろ足の関節部分にも飾り又は巻き毛のような模様,及び尻尾は全体として丸みを帯びた形状で先端が尖っており,飾り又は巻き毛のような模様が描かれている。 これに対し,引用商標は,模様のようなものは描かれず,全体的に黒いシルエットとして塗りつぶされているほか,尻尾は全体に細く,右上方に高くしなるように伸び,その先端だけが若干丸みを帯びた形状となっている。 c 小括 上記のとおり,本件商標と引用商標とは,全体的な形状において似通った印象を与えるものの,その全体を構成する頭部,首部,足部,尻尾部及び花びら様の図柄の有無において顕著な差異を有するものであって,その差異は,明瞭に看て取れるものであるから,外観において明らかに相違する。 (イ) 称呼及び観念 本件商標からは,特定の称呼及び観念を生じないのに対し,引用商標からは, 「プーマ」又は「ピューマ」の称呼を生じ, 「PUmAのブランド」としての観念を生じるものであるから,本件商標と引用商標は,称呼及び観念を異にする。 イ まとめ 以上のとおり,本件商標と引用商標とは,外観において明らかに相違し,称呼及び観念においても相紛れるおそれはない。 そうすると,本件商標及び引用商標が同一又は類似の商品に使用されたとしても,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえないから,本件商標は,商標法4条1項11号に該当しない。 (3) 商標法4条1項15号該当性 前記(2)のとおり,本件商標と引用商標とは,非類似の商標であって,別異のものというべきである。 そうすると,本件商標は,これを本件商標権者がその指定商品に使用しても,取引者,需要者に,原告の業務に係る引用商標を連想又は想起させることはなく,その商品が,原告あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。 したがって,本件商標は,その登録出願時及び登録査定時において,商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」があったとはいえず,同号に該当しない。 (4) 商標法4条1項7号該当性 ア 本件商標は,その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形でない。 イ 本件商標が,他の法律によって,その使用等が禁止されている事実,その指定商品について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するものとすべき事情,及び特定の国若しくはその国民を侮辱し又は一般に国際信義に反するものとすべき事情は見当たらない。 ウ 本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあったとか,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものとすべき具体的事情は見当たらず,かつ,本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,商標法の予定する秩序に反するものとすべき事情も見当たらない。 エ したがって,本件商標は, 「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものということができず,その登録がされた後においても該当するものということはできないから,商標法4条1項7号に該当しない。 |
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原告主張の審決取消事由
1 商標法4条1項11号該当性 (1)ア 外観 本件商標と引用商標は,その向きや基本的姿勢のほか,跳躍の角度,前肢・後肢の縮め具合・伸ばし具合や角度,胸・背中から肢にかけての曲線の描き方等において高度に共通性があり,全体的な形状において似通った印象を与えるものである。 これに対し,本件審決で指摘されたような相違点は顕著明瞭なものではなく,両商標の共通点に比して看者の注意を引くものではないから,両商標に「明瞭に看て取れる」と評価されるような差異を生じさせるものではない。 したがって,本件商標と引用商標は,その外観において類似している。 イ 呼称及び観念 本件商標からは,引用商標のプーマも含まれる,何らかの四つ足動物という観念が生じるというべきであって,本件商標及び引用商標は,外観において類似するのみに留まらず,観念においても相紛れるおそれがある。 ウ 取引の実情 (ア) 引用商標は,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されて周知著名となっていたのみならず,世界中で周知著名となっていたものであり,そのことは当然に,本件商標に接する需要者の印象,記憶,連想等に強く影響を与える。 (イ) 本件商標の指定商品と引用商標の指定商品は重複し,その主たる需要者はいずれも商標やブランドにつき特別の専門的知識を有しない一般消費者である。 「Tシャツ,帽子」という指定商品の性質上,その需要者である一般消費者は,商品に付された商標の一見した印象によって商品の出所を識別することが多い。 また,両商標に係る商品の流通経路も共通している。どちらも,インターネットや店舗を通じて一般消費者に対して販売されている。 一般消費者は,商品の購入に際し,メーカー名等について常に注意深く確認するとは限らず,小売店やインターネット上の販売サイトで短時間のうちに購入商品を決定することが少なくないことが容易に予想される。 (ウ) 本件商標は,次のとおり,引用商標と共通する使用態様で使用されている。 a 被告は,有限会社沖縄総合貿易を通じて,次の使用例標章を付した半袖シャツを販売している(甲18)。 (使用例標章) 引用商標の一つの典型的使用態様は,半袖シャツ等の衣類の胴体の正面(胸部)の衿の真下部分に,ワンポイントで配置するというものである。その例は,次のとおりである。 (引用商標使用例-甲7)(引用商標使用例-甲19の1)(引用商標使用例-甲19の2)(引用商標使用例-甲19の6) 本件商標の上記使用例標章は,デザイン上の必然性がないのに,引用商標の上記典型的使用態様を採用したものである。 b 本件商標は,引用商標同様に商品(被服)のワンポイントマーク等として表示されることが多いところ,ワンポイントで配置することによって,本件商標の指定商品と引用商標の主たる需要者たる,商標やブランドにつき特別の専門的知識経験を有しない一般消費者が,本件商標に接した際に上記の若干の相違点に気付かず,著名な商標である引用商標を連想し混同する蓋然性がさらに高まるといえる。 c 上記のとおりの本件商標の使用態様が,一見して原告の著名な登録商標である引用商標を想起させるような態様で使用されているものであることは,被告において,原告の著名商標の持つ顧客吸引力に依拠してこれにただ乗りしようとする意図を明確に示すものでもある。 引用商標の配置場所は異なるものの,ポロシャツである点で同一であり,また,それ自体のデザイン(全体に濃い青色であり,衿部分及びロゴが白抜きとなり,衿は部分的に折り返しとなっているが,正面部分の幅の半分程度の部分は折り返しがなく,縁が白抜きされたVネックとなっている。 が高度に類似する原告の次の商品 )が存在することは,被告の模倣の意思の表れとみることができる。 (引用商標使用例-甲19の2) (エ) 以上のとおり,本件商標と引用商標は,外観において類似しており,両者間で若干の相違点はあるものの,このような相違点は看者の注意を引くものではなく,引用商標の著名性を考慮すると,観念においても相紛れるおそれがある。このことに,引用商標の周知著名性,需要者及び流通経路の共通性,需要者の注意力,本件商標が使用例標章のように引用商標と共通する使用態様で使用されており,引用商標と同様に商品(被服)のワンポイントマーク等として表示されることが多いことといった取引の実情を考慮すると,本件商標に接した需要者が本件審決で指摘されたような相違点に気付かず,著名な商標である引用商標を連想する蓋然性は否定できないのであり,むしろ,本件商標がその指定商品である「Tシャツ,帽子」に使用された場合,これに接した需要者等は,四つ足動物の図形に着目して,引用商標及びこれを使用する特定の出所を想起するから,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがある。 したがって,本件商標は引用商標に類似する。 エ 原告が実施した本件商標である下記の標章(以下「調査対象商標」という。)の消費者調査(甲26の1・2,甲56。以下「本件調査」という。)の結果は,約37.6%の回答者が,調査対象商標から原告又はその商標を想起しており,実際には,その他にも,原告又はその商標を想起した回答者が多数存在する可能性がある。したがって,本件調査対象者の多数が,調査対象商標から原告又はその商標を想起し,出所が原告であることを示すものと混同していることは明らかである。 また,本件調査の対象者は,時間をかけて,画面上に大きく表示された調査対象商標を確認したが,本件商標を付した商品は主としてTシャツ等の被服であり,本件商標はしばしば小さく表示され,その購入者たる一般消費者はそれほど時間をかけて確認せずに購入することが通常であるから,実際の取引においては,本件調査対象者以上に混同が生じやすいといえる。 したがって,本件調査結果に鑑みても,本件商標又は引用商標が付された商品の出所について誤認混同を生ずるおそれが認められる。 オ 以上のとおり,一般消費者等の需要者が本件商標に接した場合,原告を想起し,本件商標を付した商品の出所が原告であると誤認混同するおそれがあることが明らかであるから,本件商標と引用商標の間には顕著な類似性が認められるのであり,取引の実情及び本件調査結果を何ら考慮せず本件商標と引用商標の対比のみから誤認混同のおそれ及び類似性を否定した本件審決は誤りである。 そして,本件商標と引用商標とは,その指定商品も同一又は類似するものであるから,本件商標は,商標法4条1項11号に違反して登録されたものである。 (2)ア 被告及び被告の意を受けたデザイナーのデザインした動物図形は,一般的な「シーサー」とは程遠く,被告が主張する被告らの願いに合致しないデザインを採用した理由が説明されていない。 イ 被告は,本件商標の制作やその登録性につき,特許情報活用支援アドバイザーと相談したのか,言及しておらず,被告の上記アドバイザーの指導に係る主張は,本件商標が不正の目的なく制作,出願されたことを裏付けるものではない。 被告は,本件商標の制作前から原告の著名商標を知り,制作の際に引用商標に依拠しながらも,悪気があったわけではないことを表明しているにすぎない。 ウ 本件商標は,引用商標(PUMA図形)にその輪郭等に沿うように白線を配し,口の辺りに歯のようなもの,首飾りのような模様,前足と後足の関節部分における飾り又は巻き毛のような模様,全体的に丸みを帯びて先端が尖った形状の尻尾を結合したものとも看取されることから, 指定商品について需要者の間に広く 「認識された他人の登録商標と他の図形等を結合した商標は,その外観構成がまとまりよく一体に表されているものを含め,原則として,その他人の登録商標と類似するものとする。」旨の著名商標に係る商標審査基準の規定(以下「審査基準の本件規定」という。)に照らしても,本件審決は,商標の類否判断を誤っている。 2 商標法4条1項15号該当性 (1)ア 前記1(1)ア,イのとおり,本件商標と引用商標は,外観において類似しており,両者間で若干の相違点はあるものの,このような相違点は看者の注意を引くものではなく,引用商標の著名性を考慮すると,観念においても相紛れるおそれがある。 また,前記1(1)ウのとおり,本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とは重複し,その主たる需要者はいずれも商標やブランドにつき特別の専門的知識経験を有しない一般消費者であり,本件商標は使用例標章のように引用商標と共通の使用態様で使用された上,引用商標同様に商品(被服)のワンポイントマーク等として表示されることが多いため,本件商標に接した需要者が上記の若干の相違点に気付かず,著名な商標である引用商標を連想する蓋然性は否定できない。 そして,引用商標が原告の業務に係る商品を表すものとして極めて高い周知著名性を有する極めて独創的な商標であること等も併せて考えると,商品の出所につき誤認混同を生じ,被告の商品を原告と組織的・経済的に密接な関係がある者の業務に係る商品であると混同するおそれが十分に認められる。 イ 上記の混同のおそれは,本件調査結果によっても裏付けられる。 (ア) 本件調査結果によると,少なくとも4割近くの回答者が,本件商標から原告又はその商標を想起しているのであって,相当数の回答者が本件商標から原告又はその商標を想起したといえるのであるから,本件商標につき,これに接する者に直ちに原告の引用商標を連想,想起させるとまではいうことができないとした本件審決の判断は,本件調査結果を不当に低く評価するものであり,誤りである。 (イ) 本件審決は,「ピューマ」及び「プーマ」を連想,想起した者が必ずしも原告の業務に係る引用商標と誤認混同しているとは限らないとしているが,特定の商標から引用商標を「連想,想起」するのであれば,当該引用商標と「混同を生ずるおそれ」が存することは否定できないのであって,具体的な理由を示さずに,上記のとおり判断した本件審決には誤りがある。 特に,本件調査に当たり,本件調査対象者は,時間をかけて,画面上に大きく表示された本件商標を確認したのに対し,実際の取引においては,本件商標を付した商品は主としてTシャツ等の被服であり,本件商標はしばしば小さく表示され,その購入者である一般消費者はそれほど時間をかけて確認せずに購入することが通常であることに鑑みると,実際の取引においては,本件調査対象者以上に混同が生じやすいといえる。 (ウ) 以上のとおり,本件商標について,「ピューマ」及び「プーマ」を連想,想起した者が必ずしも原告の業務に係る引用商標と誤認しているとは限らないとした点においても,本件審決の判断は誤りである。 ウ したがって,本件商標は,他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標に該当し,商標法4条1項15号に違反して登録されたものというべきである。 (2)ア 商標権の効力は全国に及ぶ以上,限定された地域における僅かな使用であることをもって,商標法4条1項15号の適用を免れるものではない。 イ 本件商標は,PUMA図形にその輪郭等に沿うように白線を配し,口の辺りに歯のようなもの,首飾りのような模様,前足と後足の関節部分における飾り又は巻き毛のような模様,全体的に丸みを帯びて先端が尖った形状の尻尾を結合したものと看取されることから,著名商標に係る審査基準の本件規定に照らしても,「混同を生ずるおそれ」が認められるべきである。 ウ 本件商標と同一の調査対象商標を見た4割以上の一般需要者が,PUMA又はこれと類似すると認識しており,他のどの回答よりも圧倒的に多いこと(甲26の1・2,甲56)から,称呼及び観念における両商標の関連性は高い。 本件商標が,外観上,具体的な構成において引用商標と相違する点があるとしても, 「本件商標と引用商標とは,全体的な形状において似通った印象を与える」のであれば,その基本的構成は引用商標と比較的類似性の高いものといえる。また,外観上の差異点が,本件商標の構成において格別の出所識別機能を発揮するといえるものでないことは,本件商標と同一の調査対象商標を見た4割以上の一般需要者がPUMA又はこれと類似する認識をしていることからも明らかである。 また,引用商標は,周知・著名な商標であるだけではなく,独創的であり,需要者に強い印象を与えるものである。 さらに,本件商標の指定商品には,引用商標の著名性が需要者に認識されている分野であるスポーツ用品関連の商品やアパレルが含まれるところ,引用商標は,スポーツ用品関連商品やアパレル等にワンポイントマークとして付されていることが多い。本件商標が使用される商品であるTシャツ,帽子といったスポーツ用品関連商品やアパレル等の商品の主たる需要者が,商標やブランドについて正確又は詳細な知識を持たない者を含む一般の消費者を含み,商品の購入に際して払われる注意力はさほど高いものとはいえないこと等の実情や,独創的な引用商標が我が国において高い周知著名性を有していること等を考慮すると,本件商標が,指定商品に使用された場合には,これに接した需要者(一般消費者)は,それが引用商標と基本的構成が類似する図形であることに着目し,本件商標における細部の形状等の差異に気付かないおそれがあることから,本件商標をその指定商品に使用した場合には,これに接する取引者,需要者は,著名商標である引用商標を連想,想起して,当該商品が原告又は原告との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品であると誤信するおそれがある。 3 商標法4条1項7号該当性 (1)ア 前記1(1)ウのとおり,本件商標は,一見して原告の著名な登録商標である引用商標を想起させるような態様で使用されているものであるといえ,このような使用態様は,被告において,原告の著名商標の持つ顧客吸引力に依拠してこれにただ乗りしようとする意図を明確に示すものである。 また,本件商標の指定商品が「Tシャツ,帽子」等の衣料品であり,被告が経営する有限会社沖縄総合貿易は衣料品を取り扱う小売業者であることに鑑みると,被告は本件商標を出願した当時,衣料品関連の事情に精通していたことは明らかである。被告は,本件商標が出願された平成20年当時,原告の引用商標の著名性を知り,あるいは容易に知り得た。そして,右側から跳びかかるかのように左方向を向いた四つ足動物を側面からシルエット風に描いた図形であること,左斜め上に向かって全身を伸展させていること,頭部には耳が二つ並んでいること,口を閉じていること,前肢が頭部の真下に位置して,足先が内側に丸まっていること,後肢はやや後方に向かって伸びきり,足の裏を後ろに向けていて跳躍した瞬間を描いていること,尾が右斜め上に向けて跳ね上がっていること,腹部が細く,胸部に向けて丸みを帯び,肢が太いなど,精悍な体つきをしていること等の各点を併せ持つ引用商標は特徴あるデザインであり,極めて独創的なものといえるところ,一見して引用商標の独創的な構成態様を想起させる本件商標及び使用態様を引用商標と共通にする使用例標章が,引用商標と無関係に採択されたと考えることはできない。 さらに,被告が,横長の長方形の枠の中一杯にはめ込まれたような「PUmA」の欧文字を引用商標の左下に近接して配置した商標(第3324304号等)と構成を共通にする,横長の長方形の枠の中一杯にはめ込まれたような「SHI-SA」の欧文字を本件商標の左下に近接して配置する等した商標(第5392941号等)も商標登録していることからも,本件商標と引用商標の特徴と使用態様の一致は偶然の産物ではなく,原告の商標に依拠した商標を登録することが被告の一貫した方針であることが明らかである。 このように,被告は,意図的に著名な引用商標の特徴を一見して分かる程度に残したまま外観を変え,本件商標及び使用態様を引用商標と共通にする使用例標章に接する需要者に引用商標を連想・想起させ,著名な引用商標の持つ顧客吸引力にただ乗り(フリーライド)する不正な目的で本件商標及び使用態様を引用商標と共通にする使用例標章を採択した。 イ 前記1(1)ウのとおり,本件商標は,原告の著名な登録商標である引用商標を想起させるような態様で使用されていることや,本件調査結果も踏まえると,本件商標に接した一般消費者は,原告又は引用商標を含む原告の商標を想起し,出所が原告であると混同するおそれがあることは明らかであって,被告も当然同様の認識があったと考えられる。 本件商標は,世界的に著名な商標である引用商標が持つ顧客吸引力にただ乗りし,その出所表示機能を希釈化させ,あるいは,その名声を毀損させるなど,不正の目的をもって出願したものであると考えるのが自然である。 ウ 前記1(1)ア,イのとおり,本件商標と引用商標が外観において類似しており,引用商標の著名性を考慮すると観念においても相紛れるおそれがあることに加え,本件商標が使用例標章のように引用商標と共通する使用態様で使用されていることは,被告において,原告の著名商標の持つ顧客吸引力に依拠してこれにただ乗りしようとする意図を有することを明確に示すものである。 問題とすべきは,本件商標が引用商標と共通する使用態様で使用されていることであって,商品の正面(胸部)の襟の真下部分の位置に,商標等をワンポイントのように表示することが,原告を想起させる商標等の表示方法であるか否かではない。 エ 本件商標と外観上同一の図形を要部とする,横長の長方形の枠の中一杯にはめ込まれたような「SHI-SA」の欧文字を本件商標の左下に近接して配置するなどした商標(第5392941号等)と類似の標章に接した需要者が,原告の引用商標を含む登録商標を直ちに想起していることは明らかであり,需要者は,原告の著名商標である引用商標の持つ顧客吸引力がなければ,被告の商品を購入しなかったものと認められる。 オ 以上のとおり,本件商標は,引用商標がスポーツシューズ,被服,バッグ等に長年使用され,日本のみならず世界的にも著名な商標であることを承知の上で,原告の承諾もなく,引用商標に化体した信用・名声及び顧客吸引力に便乗し,不当な利益を得る等の不正な目的のもとに,出願し,登録を受けたものであって,登録出願の経緯に社会的相当性を欠くというべきである。また,本件商標の使用により,引用商標の出所表示機能が希釈化され,引用商標に化体した高い名声と信用,顧客吸引力等を毀損させるおそれがあることから,このような被告の行為は商道徳に反するのみならず,我が国の国際的な信頼をも損なうおそれがあるというべきであり,ひいては国際信義に反するものとして公序良俗を害する行為といわざるを得ないものでもある。 カ 本件調査結果からも,本件商標に接した一般消費者が,原告又は引用商標を含む原告の商標を想起し,出所が原告であると混同することは明らかであり,被告も当然同様の認識があったと考えられる。 したがって,あえて本件商標のような商標を出願するのは,不正の目的をもって行ったと考えるのが自然であり,実際に需要者をして引用商標を含む原告の登録商標を想起させ,それが本件商標を付した商品の購入動機となっているものであるから,引用商標に化体した顧客吸引力に便乗しているものである。 キ したがって,本件商標は商標法4条1項7号に該当しないとした本件審決の判断は誤りである。 (2)ア 商標権の効力は全国に及ぶ以上,限定された地域における僅かな使用であることをもって,商標法4条1項7号の適用を免れるものではない。 イ 本件商標に係る指定商品(Tシャツ,帽子)をはじめ,アパレルを取り扱う業界(ファッション業界)においては,高級ブランドのロゴや特有の柄等をもじって使い,カジュアルに遊んだファッション(パロディ・ファッション)が存在するところ,原告の引用商標は,パロディ・ファッションによる被害を被っており,一般消費者は,極太の四角い書体で,全体が略横長の長方形を構成するようにロゴ化して表した四,五文字程度の欧文字の右上に,左方に向かって全身を使って勢いよく進もうとする動物(生き物)のシルエット風図形を配置した構成を,PUMAパロディTシャツとして,紹介している。被告が代表を務め,本件商標が付されたTシャツを販売する沖縄県内の店舗及びウェブサイトを運営する有限会社沖縄総合貿易は,衣料品等のお土産品の加工及び販売も行う事業者として35年も前から営業を行っているから,パロディ ファッションの実情について知らないはずがない。 ・ 著名ブランドをもじったパロディ・ファッションが存在する上記指定商品を取り扱う業界の実情,我が国の一般消費者が本件商標に関連する被告のTシャツをPUMAパロディと認識している実態,パロディ商品は模倣品被害パターンの一つと捉えられ,アパレル業界は模倣業者のターゲットになりやすいとの問題意識が高まっている状況,被告及び被告が代表を務める法人は,長年,上記指定商品を取り扱う事業に携わっていることを総合的に勘案すると,被告自らの言動等から不正の目的をもって本件商標を出願したことを示す客観的事実が具体的に見当たらないことを根拠に, 「本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあったとか,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものとすべき具体的事情は見当たらず,かつ,本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,商標法の予定する秩序に反するものとすべき事情も見当たらない。」と判断することは,著名商標のパロディを助長することにつながりかねない。 |
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被告の主張
1 商標法4条1項11号該当性について (1) 商標法4条1項11号該当性に係る本件審決の判断は正当である。 本件商標と引用商標とは,頭部,首部,足部及び尻尾部において顕著な差異を有するものであって,両者の差異は何人においても看て取れるものである。 (2) 引用商標は,著名商標ではあるが,著名であるからという理由で,自己の有する著名商標のもとに全て収めようとする思考は,我が国の商標法の正常な秩序を乱すものである。 2 商標法4条1項15号該当性について 商標法4条1項15号該当性に係る本件審決の判断は正当である。 3 商標法4条1項7号該当性について (1) 本件商標は,商標法4条1項7号に該当するものではない。 被告は,本件商標の出願に当たり,沖縄の伝統的な獅子像である「シーサ」の観念を生じさせようと必死の努力をして本件商標を創造した。 被告は,平成15年頃,那覇商工会議所に紹介された沖縄県知的所有権センターに通って学び,特許情報活用支援アドバイザーの指導の下,平成16年5月31日,初めて別件の商標登録出願をし,その後も商標について勉強を続け,平成17年6月21日に別件の商標登録を出願し,平成19年4月13日に商標登録(第5040036号)がされた。 被告は,引用商標の顧客誘引力にただ乗りしたり,その名声を毀損するなどの不正の目的をもって出願したものではない。 (2) 引用商標とは非類似で,極めて限定された沖縄県内での小規模零細の土産品に付された本件商標の使用が,原告の主張する「世界的著名商標」である引用商標に化体された名声や顧客吸引力を毀損できるのか極めて疑問である。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由2(商標法4条1項15号該当性)について 事案の性質に鑑み,取消事由2(商標法4条1項15号該当性)について,まず検討する。 (1) 本件商標の内容 ア 外観 本件商標は,二つの耳がある頭部を有し,頭部と前足の間に間隔がなく,一部が丸まった大きな尻尾を有する四足動物が,右から左に向かって,跳び上がるように,頭部及び前足が後足より左上の位置になる形で,前足と後足を前後に大きく開いている様子を,側面から見た姿でシルエット風に描いた図形である。この図形の内側には,概ね輪郭線に沿って,白い線が配されているほか,口の辺りに歯のような模様,首の周りに飾りのようなギザギザの模様,前足と後足の関節部分や尻尾にも飾り又は巻き毛のような模様が,白い線で描かれている。この図形の内側には,これらの白い線よりも細い白い線で,花柄のような細かい模様が,全体に描かれている。 尻尾は,全体として丸みを帯びた形状で,先端が尖っている。 イ 観念 本件商標から,四足動物を想起し得るが,直ちに特定の動物を想起し得るものではなく,何らかの四足動物という観念は生じるものの,それ以上に特定された観念は生じない。 ウ 称呼 本件商標から,四足動物を想起し得るが,直ちに特定の動物を想起し得るものではなく,特定の称呼は生じない。 エ 被告の主張について 被告は,沖縄の伝統的な獅子像である「シーサ」の観念を生じさせようとして本件商標を創造した旨主張する。 「シーサ」は, 「シーサー」を指すものと解されるところ, 「シーサー」は, 「獅子さん」の意味であり,沖縄で,瓦屋根等にとりつける素朴な焼き物の唐獅子像であって,魔除けの一種である(広辞苑第六版。甲5)「シーサー」の形状には,様々 。 なものがあり,概ねその特徴とされる点としては,たてがみや首飾り,剥き出した牙,渦巻くような毛並み,太くふっくらとした尻尾等があり,また,頭部が体全体に占める割合が相当大きく,目や口も大きく,その姿勢としては,上体を起こした状態で前足をついたものが多いが,四つん這いになったもの,前かがみのもの,後足だけで立ち上がったもの等,様々な形態があり,多くの場合には尻尾が上空に向かって炎のように逆立ち,その先端はすぼんでいる(甲6)。 本件商標を上記の一般的な「シーサー」と比べると,首飾りのような模様,前足・後足の関節部分における飾り又は巻き毛のような模様,尻尾の全体的に丸みを帯びて先端が尖った形状等は,いずれも一般的な「シーサー」の特徴とされているところと一致する。しかし,本件商標は,頭部が体全体に占める割合が相当小さく,口に当たる位置にギザギザの白線の模様はあるが,目に当たる位置に目に見える記載はなく,四足動物が跳び上がるように前足と後足を大きく開いている姿勢は, 「シーサー」の形態として一般的なものとはいえない。 そうすると,本件商標の図形が,四足動物を表現したものと看取することはできても,「シーサー」を表現したものと看取することは困難である。 したがって,本件商標から「シーサー」の観念が生じると認めることはできない。 (2) 引用商標の内容 ア 外観 引用商標は,二つの耳がある頭部を有し,頭部と前足の間に間隔があり,全体に細く,先端が若干丸みを帯びた形状となった,右上方に高くしなるように伸びた尻尾を有する四足動物が,右から左に向かって,跳び上がるように,頭部及び前足が後足より左上の位置になる形で,前足と後足を前後に大きく開いている様子を,側面から見た姿で黒いシルエットとして描いた図形である。 イ 観念 引用商標は,平成15年1月17日に商標登録されたものであるところ,原告は,その登録以前から,Tシャツに引用商標と同様の形の図形を付した商品を販売しており(甲8の1) 帽子を掲載したカタログの表紙に引用商標と同様の形を白抜きし ,てその内部に横線を配した図形を記載したり(甲8の3・5),Tシャツを掲載したカタログの表紙に引用商標と同様の形を白抜きにした図形を「PUmA」の文字の近辺に記載する(甲8の4)などしており,その登録後も,スポーツウェアや帽子に引用商標と同様の形の図形を付した商品を販売しており(甲9の1・3・4,甲31の1・3・4,甲32の1・3・4),それらの雑誌の広告には引用商標と同様の形の図形を「PUmA」の文字の近辺に記載する(甲9の1・4,甲31の1・3・4,甲32の1・3・4)などしており,これらに弁論の全趣旨を総合すると,引用商標は,本件商標の登録出願時(平成20年4月12日)及び登録査定時(平成23年1月11日)において,原告の業務に係る「PUMA」ブランドの被服,帽子等を表示する商標の一つとして,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されて周知著名な商標となっていたことが認められる。 したがって,引用商標からは「PUMA」ブランドの観念が生じる。 ウ 称呼 前記イのとおりであって,引用商標からは,「プーマ」の称呼が生じる。 (3) 本件商標と引用商標の対比 ア 外観 (ア) 共通点 本件商標と引用商標は,二つの耳がある頭部を有する四足動物が,右から左に向かって,跳び上がるように,頭部及び前足が後足より左上の位置になる形で,前足と後足を前後に大きく開いている様子を,側面から見た姿でシルエット風に描かれている点で共通する。 そして,両商標の図形は,その向きや基本的姿勢のほか,跳躍の角度,前足・後足の縮め具合・伸ばし具合や角度,胸・背中から足にかけての曲線の描き方について,似通った印象を与える。 (イ) 差異点 本件商標の図形の動物は,引用商標の図形の動物に比べて頭部が比較的大きく描かれており,頭部と前足の間に間隔がなく,前足と後足が比較的太く,尻尾が大きく,口の辺りに歯のような模様が白い線で描かれ,首の回りに飾りのようなギザギザの模様が,前足と後足の関節部分にも飾り又は巻き毛のような模様が,白い線で描かれ,尻尾は全体として丸みを帯びた形状で先端が尖っており,飾り又は巻き毛のような模様が白い線で描かれているほか,図形の内側に概ね輪郭線に沿って白い線が配されており,また,この図形の内側には,細い白い線で,花柄のような細かい模様が,全体に描かれている。 これに対し,引用商標の図形の動物は,本件商標の図形の動物に比べて頭部が比較的小さく描かれており,頭部と前足の間に間隔があり,尻尾は全体に細く,右上方に高くしなるように伸び,その先端が若干丸みを帯びた形状となっており,図形の内側に模様のようなものは描かれず,全体的に黒いシルエットとして塗りつぶされている。 イ 観念 本件商標からは,何らかの四足動物という観念が生じるのに対し,引用商標からは,「PUMA」ブランドの観念が生じる。 ウ 称呼 本件商標からは,特定の称呼は生じないが,引用商標からは, 「プーマ」の称呼が生じる。 エ 検討 (ア) 前記アのとおり,本件商標と引用商標は,そのシルエット,内部に白線による模様があるかなどにおいて異なるが,全体のシルエットは,似通っており,本件商標において,内部の白い線の歯のような模様,首の回りの飾りのような模様,前足と後足の関節部分の飾り又は巻き毛のような模様及び概ね輪郭線に沿って配されている白い線がシルエット全体に占める面積は,比較的小さく,細い白い線の花柄のような細かい模様は,それほど目立たないものである。 したがって,本件商標と引用商標との間に外観上の差異は認められるものの,外観全体の印象は,相当似通ったものであるということができる。 また,前記イ及びウのとおり,本件商標と引用商標は,本件商標からは何らかの四足動物の観念が生じ,特定の称呼は生じないが,引用商標からは, 「PUMA」ブランドの観念と「プーマ」の称呼が生じる点で異なっているところ,本件商標から何らかの四足動物以上に特定された観念や,特定の称呼が生じ,それが引用商標の観念,称呼と類似していない場合と比較して,その違いがより明確であるということはできない。 (イ) 前記(2)イのとおり,引用商標は,原告の業務に係る「PUMA」ブランドの被服,帽子等を表示する商標として,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されて周知著名な商標となっていたものである。 また,本件商標は,「Tシャツ,帽子」を指定商品とするところ,前記(2)イのとおり, 「PUMA」ブランドの商品としても,Tシャツ,帽子が存在し,引用商標と同様の形の図形を付した商品も存在していたのであるから,本件商標の指定商品は,原告の業務に係る商品と,その性質,用途,目的において関連するということができ,取引者,需要者にも共通性が認められる。 さらに,本件商標の指定商品である「Tシャツ,帽子」は,一般消費者によって購入される商品である。 (ウ) これらの事情を総合考慮すると,本件商標の指定商品たるTシャツ,帽子の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,本件商標を指定商品に使用したときに,当該商品が原告又は原告と一定の緊密な営業上の関係若しくは原告と同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあると認められる。 したがって,本件商標には,商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」があるといえる。 2 結論 以上によると,本件商標の登録は,商標法4条1項15号に違反するから,取消事由2には理由があり,その余の点を判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきである。 よって,主文のとおり判決する。 |