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関連審決 無効2004-35048
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13行ケ68審決取消請求事件 判例 商標
平成12行ケ349審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  識別機能 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  ありふれた標章 /  3条1項6号 /  3条2項 /  4条1項11号 /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  無効審判 /  非類似 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10402号 審決取消請求事件
原告 ベアーユー エス エー インコーポレーテッド
訴訟代理人弁護士 吉武賢次,宮嶋学,弁理士 黒瀬雅志,塩谷信,小泉 勝義
被告 ラッフルズプロパティーズ インコーポレイテッド
被告 株式会社ラッフルズ
被告ら訴訟代理人弁護士 志知俊秀
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/12/15
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2004-35048号事件について平成16年11月24日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,被告らが,原告を商標権者とする後記登録商標について無効審判請求をしたところ,特許庁は,同商標は商標法3条1項6号の「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標」に該当するものであるから,その登録は無効であるとの審決をしたため,原告が同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本件商標 商標権者:原告(ベアー ユー エス エー インコーポレーテッド) 本件商標:「BEAR」の文字を横書きしてなるもの。
指定商品:第25類「被服,履物」 登録出願日:平成8年7月19日 設定登録日:平成11年7月23日 登録番号:第4298088号 (2) 本件手続 審判請求日:平成16年1月27日(無効2004-35048号) 審決日:平成16年11月24日 審決の結論:「登録第4298088号の登録を無効とする。」 審決謄本送達日:平成16年12月6日(原告に対し) 2 審決の理由の要旨 審決は,以下の理由から,本件商標は,商標法3条1項6号に違反して登録されたものであり,その登録を無効であると判断した。
「本件商標は,「BEAR」の文字を横書きしてなるところ,「BEAR」の語が「熊」を意味する英単語であることは,「被服,履物」の分野における需要者の間においても十分理解されるものとみるのが相当である。 そして,熊ないしBEARは,動物の中でも,犬や猫,あるいは,虎(TIGER),獅子(LION),きりん,象,かば,わに,猿などの動物と同様に,一般の日本人がよく知っている動物であり,本件商標の登録査定日である平成11年6月ころには,「被服,履物」の分野において,このようによく知られている動物である熊を意味する英語の「bear」あるいはこれを単に片仮名表記したにすぎない「ベアー」の文字をその構成の一部とする商標登録が極めて多数あり,これらの登録状況からすると,極めて多数の商標が取引の実際において使用されていたことを窺い知ることができる。」 「上記本件商標の指定商品の分野における事情からすれば,簡単で,かつ,ありふれた英単語である「BEAR」のみからなる本件商標は,これをその指定商品について使用しても,自他商品の識別標識としての機能を有しない商標というべきである。 すなわち,商品「被服,履物」の分野においては,日本人によく知られた動物の名前である「BEAR」又は「ベアー」の文字だけでは足りず,これに他の文字あるいは図形を結合させた標章とすることによって初めて自他商品を識別する機能を生じさせることが可能となるのであり,本件商標が,使用の結果,自他商品の識別力を獲得した等の特段の事情がない限り,商標法3条1項6号に該当し,商標登録を受けることができないものであると解すべきである。そして,被請求人の提出した全証拠を検討しても,本件商標について,被請求人による使用の結果,自他商品の識別機能を有する商標となったという特段の事情は,認めることができない。」
原告の主張の要点
1 取消事由(自他商品の識別力の有無についての判断の誤り) (1) 商標法3条1項6号にいう「需要者が何人かの業務に係る商品…であることを認識することができない商標」とは,その商標が単独で,かつ多くの者によって普通にありふれて使用されている事情がある場合又はその商標が多くの者によって他の語と結合して普通名称,原材料,効能,品位,等級,用途等の品質表示として普通に用いられている事情がある場合等をいうと解される。本件商標の指定商品である「被服,履物」の分野において「bear」あるいは「ベアー」の文字をその構成の一部とする商標が取引の実際において使用されていたとしても,熊を意味する英語の「bear」あるいはこれを片仮名表記した「ベアー」の文字が,単独の商標として多くの者によって使用されている事実はない。
(2) 被服,履物分野のみならず,他の商品分野においても,犬,猫,熊,パンダ,象,ライオン,虎等の日常生活において親しまれている動物の名称や図柄を用いた商標,動物の名称や図柄に他の文字又は図形とを結合した商標が,好んで多く採択され,登録又は使用されていることは広く知られている。動物の名称や図柄の商標と,動物の名称や図柄に他の文字又は図形とを結合した商標とは,特段の理由のない限りそれぞれ非類似の商標として登録又は使用され,それぞれが自他商品識別標識としての機能を果たしているのである。このような被服,履物分野における取引事情からすれば,英文字である「BEAR」のみからなる本件商標は,これをその指定商品について使用した場合,動物である熊を意味する英語の「bear」あるいはこれを片仮名表記した「ベアー」の文字をその構成の一部とする商標と区別され,自他商品識別力を有する標識としての機能を果たすというべきである。
(3) 特許庁の審査実務においても,本件商標の指定商品について,「BEAR」「Bear」などの文字単独の構成よりなる商標が商標法3条1項6号に該当しないことを前提とした取扱いがなされ,これと類似する先願に係る商標がある場合には,商標法4条1項11号に該当するとして登録が拒絶されている。本件商標の指定商品以外の分野についても,同様の文字構成よりなる商標について,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる商標であることを前提とした取扱いがなされている。
(4) 審決は,「本件商標について,被請求人による使用の結果,自他商品の識別力を有する商標となったという特段の事情は,認めることができない。」と判断している。しかしながら,商標法3条2項は,「前項第三号から第五号までに該当する商標であっても,使用をされた結果,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる。」と規定している。すなわち,商標法3条1項6号に該当する商標については,使用によって自他商品識別力を備えることはないのであるから,審決の法律解釈には誤りがある。 2 結論 本件商標が商標法3条1項6号に該当するとした審決の判断は誤りである。
被告らの主張の要点
1 取消事由(自他商品の識別力の有無についての判断の誤り)に対して (1) 本件指定商品の分野においては,「ベアー」「BEAR」「bear」等の文字を含む多数の商標が登録され,「ベアー」ないし「BEAR」が単独で商品に用いられている例も数多く存在する。また,熊の図柄のみから構成され,「熊」ないし「ベアー」の呼称ないし概念しか生じ得ない商標登録ないし出願も数多く存在する。
このような商取引の実情のもとにおいては,英文字「BEAR」のみからなる本件商標が出所を示す商標として本件指定商品に使用されたとしても,需要者が本件商標から当該商品が何人の業務に係る商品であるかを認識することはできず,かかる商標登録を放置すれば消費者による誤認,混同を招き,「ベアー(熊)」に関連した観念,称呼を生じる既登録商標を使用した商品の営業を妨害する結果となる。
(2) 本件指定商品の分野においては,「BEAR」又は「ベアー」の文字に他の文字あるいは図形を結合させた標章とすることによって,これらの標章それぞれが相互に非類似の商標として自他商品識別力を有するのであって,本件商標はもともと自他商品識別力がなく,商標登録が拒絶されるべきであるにもかかわらず誤って登録されてしまったにすぎない。
(3) 東京高裁平成15年11月27日判決(同庁平成15年(行ケ)第42号審決取消請求事件,乙3)は,指定商品を本件商標と同一とする文字商標「ベアー」について,自他商品識別力がなく,商標法3条1項6号に違反するとして審決を取り消しており,特許庁はこれを受けて「ベアー」商標を無効とする旨の審決をしている(乙6)。また,東京高裁平成14年12月19日判決(同庁平成12年(ネ)第6252号,乙4)は,「BeaR」との商標が問題となった事案において,「被服等の市場においては,単なる「ベアー」の呼称や「ベアー(熊)」の観念のみによっては自他商品を識別することが困難であり」と判示している。上記裁判例における判断は本件においても妥当するものである。
(4) 商標法3条2項において1項6号が列挙されていないのは,同号にいう自他商品の識別力なき商標が使用により識別力が生じたときは当然同号に該当しなくなるから,特に「これらの規定にかかわらず」との条項を設けることにより永年の使用により識別力が生じたものについての登録を妨げる規定を排除する必要がなかったからである。同条項についての原告の主張は独自の解釈であり,誤っている。
2 結論 本件商標が商標法3条1項6号に該当するとした審決の判断には何ら誤りはなく,原告の主張は理由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由(自他商品の識別力の有無についての判断の誤り)について (1) 本件商標は「BEAR」の文字を横書きしてなるものであるが,「BEAR」という英語の意味する「熊」は我が国においてよく知られた動物であり,ライオン,トラ,犬,猫などと同様に一般的に人気の高い動物であることから,熊に関する標章は被服や履物分野において好んで採択されていることは周知の事実であり,我が国国民の通常の英語力にも照らすと,本件商標の査定登録時点において,「BEAR」が「熊」を意味する英語の普通名詞であることは本件指定商品である被服,履物分野の需要者に広く理解されていたということができる。そして,証拠(甲18の1〜39,甲19の1〜15,乙17の2,4,乙17の30の1〜8,乙18の5の1,乙18の53の資料1〜4)によれば,熊を意味する英語の「BEAR]「Bear」「bear」あるいはこれを片仮名表記した「ベアー」の文字と他の文字,図形又は熊の図柄とを結合した標章は,「GO!GO!BEARS」(甲18の1),「GOLDEN BEAR」(甲18の2),「THREE BEARS」(甲18の3),「Rocky Bears」(甲18の7)「G.I.bear」(甲18の36)を初めとして枚挙に暇がないほど数多く登録され,このような「bear/BEAR/Bear(熊)」に関連付けられる観念及び称呼を生じさせる多数の商標が実際に使用されていたことが認められる。
かかる本件商標の特徴及び本件指定商品分野における取引の実情によれば,「熊」を意味するよく知られた英単語を大文字表記したにすぎず,簡単かつありふれた標章である本件商標は,それ自体を本件指定商品について使用しても自他商品を識別する標章としての機能を有するものではなく,他の文字あるいは図形・図柄を結合させた標章とすることにより初めて自他商品を識別することが可能になるというべきである。もとより,原告が本件商標を使用した結果,自他商品識別力を獲得したなどの特段の事情がある場合には,「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標」とはいえないので,商標法3条1項6号に該当しないと解すべきであるが,本件証拠を総合しても,原告が本件商標を使用した結果,自他商品識別力を獲得したなどの特段の事情を認めることはできない。
(2) これに対して,原告は,商標法3条1項6号の「需要者が何人かの業務に係る商品…であることを認識することができない商標」とは,その商標が単独で,かつ多くの者によって普通にありふれて使用されている事情がある場合等をいうと解釈した上で,「bear」「ベアー」の文字が単独の商標として広く使用されていない事実を指摘する。しかしながら,同号は,同項1号ないし5号に掲げるもののほか「需要者が何人かの業務に係る商品…であることを認識することができない商標」を総括的に含むものであり,同6号に該当する商標というためには,必ずしもその商標が単独で広く使用されていることを要するものとは解し得ない。原告の上記解釈は独自の解釈というほかなく,採用し得ない。
(3) 原告は,本件商標と「bear」「ベアー」などの文字と他の文字又は図形とを結合した商標とが非類似の商標として登録,使用されていることなどを理由にして,本件商標は,「bear」「ベアー」などの文字と他の文字又は図形とを結合した商標とは識別され,それぞれが自他商品識別機能を有するものであり,特許庁の審査実務においても同様の取扱いがなされていると主張する。しかしながら,「bear/BEAR/Bear(熊)」に関連付けられる観念及び称呼を生じさせる多数の商標が本件指定商品の分野で実際に使用されている実情に照らすと,仮に本件商標と「bear」「ベアー」などの文字と他の文字又は図形とを結合した商標とが非類似の商標として登録,使用されているとしても,「熊」を意味する英語の普通名詞を単に大文字表記したにすぎない本件商標が自他商品識別力を有するというのは困難であり,本件指定商品の需要者はむしろ「BEAR」に付加された語句や図形等の差異によって自他商品を識別しているというべきである。また,特許庁における審査実務がいかなるものであるにせよ,それによって裁判所が具体的な事件について行う商標の自他商品識別力の有無の判断が左右されるものではないことはいうまでもない。
2 結論 以上のとおり,原告の主張する審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 野輝久
裁判官 佐藤達文