関連審決 |
不服2017-2498 |
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事件 |
令和
1年
(行ケ)
10147号
審決取消請求事件
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原告日立建機株式会社 同訴訟代理人弁護士 宮川美津子 内田晴康 関川淳子 小勝有紀 同訴訟代理人弁理士 廣中健 小林奈央 被告 特許庁長官 同 指定代理人豊田純一 木村一弘 小出浩子 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2020/06/23 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2017-2498号事件について令和元年9月19日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(1) 原告は,平成27年4月1日,別紙1記載の「商標登録を受けようとする商標」及び別紙2記載の「商標の詳細な説明」の記載から特定される色彩のみからなる商標(以下「本願商標」という。)について,指定商品を第7類「油圧ショベル,積込み機,車輪により走行するローダ,ホイールローダ,ロードローラ」及び第12類「鉱山用ダンプトラック」として,商標登録出願をした(商願2015-29999。甲31)。 (2) 原告は,平成28年11月17日付けで拒絶査定を受けたので(甲34),平成29年2月21日,これに対する不服の審判を請求する(甲35)とともに,同日付けで別紙2記載の「商標の詳細な説明」を別紙2(1)から別紙2(2)記載のとおり補正し,また,指定商品を第7類「油圧ショベル」に補正する手続補正を行った(甲79)。 (3) 特許庁は,これを不服2017-2498号事件として審理し,令和元年9月19日, 「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。 をし, ) 同年10月1日,その謄本が原告に送達された。 (4) 原告は,令和元年10月30日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。要するに,本願商標は,商標法3条1項3号に該当し,同条2項に該当しないから,商標登録を受けることができない,というものである。 3 取消事由 商標法3条2項該当性の判断の誤り |
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当事者の主張
〔原告の主張〕 1 本願商標が自他商品識別力を獲得したこと (1) 商標の構成及び態様 本願商標は, 「マンセル値:0.5YR5.6/11.2」により特定される「オレンジ色」のみから成るものであり,指定商品を第7類「油圧ショベル」とする。 本願商標の色彩は原告の製造販売する油圧ショベルに使用されている。 (2) 使用開始時期及び使用期間 本願商標は,1970年10月に原告が設立されて以来,原告の主力製品の一つである「油圧ショベル」を含む原告の建設機械の外面の塗装の色彩として現在まで約50年にわたり,継続して使用されている。原告が,その設立時に本願商標の色彩の使用を開始したことは,原告の前身である株式会社日立製作所(以下「日立製作所」という。)の建設機械製造部門が1965年に日本で初めて開発した純国産油圧ショベル「UH03」の外面の塗装の色彩として使用されていることから,明らかである。 (3) 使用地域・販売台数等 ア 使用地域 原告は,本願商標の色彩が使用された油圧ショベルを,北海道・東北,関東,中部,関西及び西日本(九州を含む。)の各地域に所在する事業者に対して販売しており,本願商標を付した油圧ショベルは,北海道・東北,関東,中部,関西及び西日本(九州を含む。)で使用されている。 イ 販売台数 本願商標の色彩が使用された原告の油圧ショベル(ミニショベルを除く。)の1974年から2018年までの年度別販売台数は合計●●●●●●●台であり,ミニショベルの1991年から2018年までの年度別販売台数は,合計●●●●●●台である。 競合他社との関係でいえば,原告の油圧ショベル(ミニショベルを除く。)のシェアは上記期間において常時概ね20%であり,ミニショベルのシェアは上記期間において常時概ね10%以上を維持している。2005年から2011年までの油圧ショベル(ミニショベルを除く。)の国内出荷台数のシェアは,原告を含む4社間で1〜4位の順位を交替しているところ,原告は国内シェア3位以内の地位についている。 ウ 建設工事等の現場 建設工事等の現場において多数の油圧ショベルが稼働している中,本願商標に係るオレンジ色が使用された原告の油圧ショベルは,他社と区別されたその鮮やかな色彩から一目で認識することができる。 油圧ショベルが我が国において建設機械の主力機として広く普及し,そのほとんどが5社のメーカーによって供給されている中で,当該5社のうち原告の油圧ショベルのみがオレンジ色を使用していること,また,本願商標に係るオレンジ色が使用された原告の油圧ショベルは日本全国で使用されており,前記イのとおり販売台数は多数に上り,油圧ショベル(ミニショベルを除く。)全体の市場において常時約20%のシェアを有していることからすれば,建設会社等の油圧ショベルの需要者及び取引者は,本願商標に係るオレンジ色が使用された原告の油圧ショベルを建設工事や土木工事の現場等において,確実かつ頻繁に目にしているはずである。 (4) 広告宣伝の方法,回数及び内容 ア 雑誌・新聞,ウェブ広告等の掲載 原告は,少なくとも1993年から現在まで,本願商標に係るオレンジ色が使用された油圧ショベルのカラー画像の広告を,少なくとも72種類以上作成し,少なくとも29種類以上の新聞及び雑誌に継続的に掲載してきた。 また,大手建設機械レンタル会社のカタログや,建設機械関連の書籍・小冊子への広告出稿など,新聞・雑誌以外の紙媒体への広告出稿も継続的に行っている。 さらに,原告は,2018年6月以降,本願商標に係るオレンジ色が使用された油圧ショベルのカラー画像のウェブ広告を3種類作成し,8種類のサービスに出稿しているところ,これらのウェブ広告は,少なくとも合計4000万回以上表示され,油圧ショベルに関心のあるユーザーに閲覧された。 加えて,本願商標に係るオレンジ色が使用された原告の油圧ショベルのうち,実際に市場で販売されたものの画像は,建設機械分野の専門誌の表紙にも度々取り上げられるなどして広く紹介されている。 イ テレビCMの放映 原告は,少なくとも1990年9月から2016年1月までの25年以上にわたり(ただし,2001年下期から2007年上期は除く。)に,テレビCMを繰り返し放映し,また,多数の視聴者が見込まれる時間帯・番組において,本願商標を付した油圧ショベルを登場させたテレビCMを放映した。 本願商標に係るオレンジ色が使用された原告の油圧ショベルを映したテレビCMは,1990年から2000年までの10年間の間に少なくとも12種類が作成された。その後,2007年10月から2014年までの間に4種類が作成され,これらは合計475回放映された。 原告のテレビCMは,東京キー局を中心に,視聴率の高い番組において繰り返し放映されているため,広範囲かつ多数の視聴者が目にしていることが推認される。 ウ 広告費用 原告の1990年から2014年までの期間における年度別及び媒体別の具体的な広告宣伝費は,多い時で年間15億円を優に超え,直近の2010年から2014年においても年間4億円に近い金額が支出されている。2016年以降の近年は,効率的な広告を実施するため,ウェブ広告に特に力を入れていることから,その支出する費用自体は低下しているものの,油圧ショベルの需要者など,対象を絞って広告配信(ターゲティング広告)を行うことが可能となり,広告の費用対効果はより高まっている。 エ イベントでの展示等 原告は,その主催するイベントや,展示会等において,本願商標を付した原告の油圧ショベルを展示したり,紹介したりするなどしたほか,スポーツイベントへの協賛やスポーツ選手のスポンサーを担うことにより,本願商標に係るオレンジ色が原告のコーポレートカラーであることを強く印象付けさせている。 (5) アンケート調査の結果 本願商標が自他商品識別力を獲得したことは,油圧ショベルの色彩に関するアンケート調査では,アンケート回答者の合計96.4%が原告を想起しているとの結果を得られたことからも,明らかである。 アンケートの対象者は,建設機械全般の購入可能性のある者から,明らかに油圧ショベルと関連性の低い業種を除いたうえで,第三者である楽天リサーチが日本全国の建設業の就労者比に応じて当該地域毎に無作為に選定した事業者であって,その抽出方法は適切であり,調査票や依頼状には正解を誘導するような情報は何ら記載されていないから,アンケートの公平性及び中立性は十分に保たれているといえる。 (6) 以上によれば,本願商標は,原告による使用により,原告の油圧ショベルを示すものとして,自他商品識別力を獲得したものである。 2 原告の油圧ショベルに「HITACHT」等の文字が付されていることについて 本願商標は,極めて強い自他商品識別力を獲得したものであるから,本願商標の色彩が使用された油圧ショベルに使用機種等の文字や「HITACHI」の文字が付されていても,本願商標が獲得した自他商品識別力には何ら影響はない。 使用機種等の文字は,小さな文字で記載されているため,目につきにくく,建設工事等の現場において,需要者が遠くから油圧ショベルを視認する際に,これらの文字に注目することはなく,需要者が視認し,注目するのは,まさに本願商標に係る鮮やかなオレンジ色の色彩である。また, 「HITACHT」の文字も,それらの占める面積は本願商標の色彩が占める面積に比して極めて小さく,建設工事等の広い現場において本願商標よりも注目されるものとはいえない上,顧客の希望等により,「HITACHT」の文字を記載していない油圧ショベルも多くある。 このように,原告の油圧ショベルに付される使用機種等の文字及び「HITACHI」の文字は相対的に目立たなくなっていることから,需要者が,本願商標を差し置いてこれらの文字に注目することは考えられず,これらの文字の存在は,本願商標の使用による自他商品識別力の獲得の妨げとなる事情たり得るものではない。 3 本願商標の色彩と近似した色彩の種々の建設機械の存在について 本願商標の色彩と近似した色彩の種々の建設機械が存在していたとしても,本願商標に係る自他識別能力に影響はない。 本願商標の指定商品は油圧ショベルであるところ,建設機械の分野の商品は多岐にわたり,需要者はそれぞれの機械の機能,用途及び必要となる免許等に応じてこれを選別するのであるから,各機械は明確に区別され,油圧ショベルの需要者は,その他の機械を含む建設機械全般の需要者ではない。したがって,油圧ショベル以外の機械については,考慮すること自体誤りである。 また,被告の主張する種々の建設機械等は,油圧ショベルであるが,明らかにオレンジ色でない色彩が使用されているもの,現在販売を確認できないもの,農機又は林業用機械であるため国内での流通量が極めて少ないもの,油圧ショベルではないアタッチメント,油圧ショベルと用途や需要者が異なる建設機械等であるから,原告の油圧ショベルの需要者に対する本願商標の識別力への影響はほぼない。 4 原告による本願商標の独占使用が公益上適当であること 油圧ショベル(ミニショベルを除く。)は,参入企業数が少なく,原告,株式会社小松製作所,コベルコ建機株式会社,キャタピラージャパン合同会社及び住友建機株式会社の5社による寡占状態が継続しており,これらの企業はいずれも特定の単色を自らの油圧ショベルに使用し続けており,そのうちオレンジ色を継続して油圧ショベルに使用しているのは,原告のみである。 原告が今後もこれまでと同様に本願商標の色彩を独占したとしても,他社のデザインの選択の余地が不当に狭くなることにはならず,他の事業者等に本願商標の色彩を使用する余地を残しておく公益的な要請は喪失している。 5 小括 以上によれば,本願商標が商標法3条2項の規定により商標登録を受けることができないとした本件審決は,違法として取り消されるべきものである。 〔被告の主張〕 1 本願商標の出所識別標識としての使用実績及び機能について (1) 本願商標は独創性がないこと 本願商標は,単色の色彩のみからなる商標であるところ,輪郭や外縁のような図形的な要素もなく,その使用の際の形態や態様,表示範囲すら特定しないから,単一の色彩それ自体よりなるものである。そして,本願商標の色彩は,極めて一般的に採択されている色彩(オレンジ色)の一種にすぎないものであるから,それ自体はありふれたもので,創作性や特異性はなく,独創性を欠くものである。 (2) 建設機械等の分野における取引の実情 ア 本願商標に係るオレンジ色は,その指定商品「油圧ショベル」と関連する建設機械や農機に係る分野において,多数の事業者によって用いられており,例えば,商品(油圧ショベル,バックホー,ホイールローダ,ショベルローダ,キャリア,フォークリフト,クレーン車,高所作業車など)の車体色として,また,商品の販売に係る広告の色彩(商品販売のウェブサイトや店舗の看板などに表示される装飾やロゴの色彩など)として,取引上普通に採択されている実情がある。 イ 建設機械や農機の取引においては,通常は,販売店に行く前から予算や機種などを決定し,販売店でも建設機械の作動状況などをチェックするなど,慎重に検討した上で購入に至るもので,その購入にあたっても,会社名や商品名等を明記した注文書や物品受領書などを介して取引が行われるから,車体のロゴや商品名などに着目して取引する場合があるとしても,商品の車体色を独立した出所識別標識である商標として着目した上で取引にあたることは想定し難い。 (3) 原告による本願商標の使用態様 1970年に設立された原告は,販売開始の具体的な年月日は確認できないものの,本願商標に係るオレンジ色を車体色の一部に表示する「油圧ショベル」 (ミニショベルを含む。(以下「原告使用商品」という。 ) )を販売している。 しかしながら,原告と関連する油圧ショベルは,その使用期間とされる相当の期間において,オレンジ色と黒など複数色の組み合わせを用いており,本願商標はその1つとして採択されているにすぎない。 また,原告使用商品は,車体色の一部をオレンジ色としつつ,アーム部や車体には著名商標である「HITACHI」又は「日立」などの文字が表示されているため,原告使用商品に接する需要者は,まずは出所識別標識として強く支配的な印象を与えるそれら文字部分に着目するというのが自然である。さらに,前記(2)アの建設機械等の分野における取引の実情を踏まえるとなお,商品に表示された文字とは別に,車体色が独立した出所識別標識として機能,認識される可能性は極めて低い。 したがって,本願商標は,原告による使用態様によっては,建設機械等の分野における取引の実情を考慮すればなお,独立した出所識別標識として認識される可能性は低く,その指定商品に係る需要者をして,原告使用商品の車体色に採択された色彩(オレンジ色)について,独立した出所識別標識であるとの印象を与えるものではない。 (4) 原告使用商品の販売実績及び広告実績 原告使用商品は,一定の販売実績や市場シェアを占めており,また,その広告活動も継続してされてはいるが,本願商標の使用態様及び取引の実情を踏まえると,車体色が独立した出所識別標識として機能する可能性は極めて低いから,商品の販売実績や広告宣伝活動によって,ブランド名や製品名,その機能などの側面に係る周知性の向上は期待できても,車体色に採択されているにすぎない色彩に係る周知性が向上するとは直ちに考え難い。 そのため,原告使用商品の販売実績や広告実績に関わらず,単に車体色にすぎない色彩に関して,原告固有の出所識別標識としての周知効果はない。 そして,原告の取り扱う建設機械や鉱山機械(原告使用商品,ホイールローダ,ロードローラ,鉱山用ダンプトラックなど)に係るカタログや広告,テレビCM,雑誌記事,イベント及びスポンサー活動は,それぞれの記事内容や活動内容も,原告の製品やその機能の紹介にすぎないものや,油圧ショベルに言及すらしないような漠然とした広告や広報活動にすぎないから,それら広告等に接する需要者が,原告使用商品の車体色を出所識別標識として着目し,その知名度が向上するとは考えにくく,本願商標の色彩に係る周知効果はないか,限定的であるというべきである。 2 本願商標の独占適応性について (1) 本願商標は,色彩(単色)のみからなるもので,商標を使用する際の形態や使用態様も特定していないから,その商標登録により排他的独占権が生じ得る使用の範囲は,本願商標と同一の色彩を,その輪郭や外縁,形態,態様又は面積等を問わず,商標として表示すること,つまり,商品(油圧ショベル)の車体色として付すこと,その付した商品を販売又は輸入をすること,商品(油圧ショベル)の広告(看板,パンフレット,ウェブサイトなど),価格表又は取引書類に付して展示又は頒布をすることなどである。 色彩は,色相,明度,彩度の三属性で分類できるもので,例えばマンセル表色系などのカラーオーダーシステムによって特定できるところ,人が視覚によって見分け,記憶できる色彩には限界があり,あいまいなカテゴリ(赤,緑,黄,青,茶,紫,オレンジ,ピンク,灰,白,黒など)により記憶されるから,本願商標とはマンセル値などの値が多少異なる色彩であっても,その近似色(いわゆるオレンジ色のほか,赤みの強いオレンジ色や黄みの強いオレンジなど)は,本願商標とは,時と所を異にして接する場合,見分けることは困難である。商標の類否は,時と所を異にして比較する離隔観察を前提とするから,本願商標と類似する商標(色彩)には,ある商品につき使用した場合,時と所を異にして接する場合に記憶に基づき見分けることが困難で,誤認混同を生じるおそれがある,オレンジ色の近似色が含まれる。 (2) 本願商標は,その指定商品を「油圧ショベル」とするところ,当該商品は,ユンボ,パワーショベル,バックホー,ドラグショベル,ショベルカーなど様々な名称でも呼ばれる建設機械の一種であり,中でも小さなバケットを持つもの(バケット容量が0.25?未満)はミニショベルと呼ばれ,同様の機器は建設業にとどまらず,農業や林業などにも広く利用されている。そして,油圧ショベル(ミニショベルを含む。)を製造販売する企業は,原告,株式会社小松製作所,コベルコ建機株式会社,キャタピラージャパン合同会社及び住友建機株式会社の主要5社のほか,農機大手を含む企業などもあるが,それら企業は,油圧ショベルのほかにも,建設機械(ブルドーザー,クレーン,ロードローラなど)や農機なども取り扱っている。 このように,油圧ショベル(ミニショベルを含む。)は,用途の汎用性もあって,専門の事業者が製造販売するような商品ではなく,建設機械や農機の分野に属する広い範囲の事業者によって製造販売されている実情がある。 なお,商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により,それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にある場合,たとえ,商品自体が互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても,類似の商品に当たるとされる。建設機械一般や農機の一部は,油圧ショベルと商品の構造や機能,需要者層が共通する上,これらが同一の営業主により製造販売されている場合には,同一又は類似の商標を使用すると,同一の営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認されるおそれがあるものといえるから,本願商標の指定商品「油圧ショベル」 (ミニショベルを含む。)と類似の商品に含まれるというべきである。 (3) 以上を踏まえると,本願商標の登録適格性の判断において考慮すべき第三者の使用例は,建設機械や農機の分野におけるオレンジ色の表示全般,つまり,オレンジ色を,その輪郭や外縁,形態,態様又は面積を問わず,商品の車体色や広告などに表示する使用例である。 そして,建設機械や農機の分野では,オレンジ色は商品の車体色や,商品の販売に係る広告の色彩として,様々な態様ではあるものの,多数の事業者により採択されている実情があり,さらに,橙色(オレンジ色)はJIS安全色として規格化され,安全確保や事故防止等の観点から,何人も自由な使用ができるように開放しておくべき必要性が高い色彩である。 それにもかかわらず,仮に本願商標の登録を認めると,オレンジ色について,車体色としての使用を含む,商品や広告などの色彩と関連した商標としての使用と判断される可能性のある,あらゆる態様における色彩使用が事実上制限されることになり,元来自由に利用できるはずであったオレンジ色及びその近似色の使用が阻害又は制限される影響は極めて深刻である。 したがって,本願商標につき,原告に限って独占使用を認めることは,公益的見地から許容されるものではない。 3 小括 以上によれば,本願商標は,原告により使用をされた結果,需要者が,原告の業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものとはいえないから,取消事由は理由がない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について (1) 本願商標が商標法3条1項3号に該当することは,当事者間に争いがないところ,同条2項は,同条1項3号ないし5号に対する例外として, 「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」は商標登録を受けることができる旨規定している。その趣旨は,特定人が当該商標をその業務に係る商品の自他識別標識として他人に使用されることなく永年独占排他的に継続使用した実績を有する場合には,当該商標は例外的に自他商品識別力を獲得したものということができる上に,当該商品の取引界において当該特定人の独占使用が事実上容認されている以上,他の事業者に対してその使用の機会を開放しておかなければならない公益上の要請は薄いということができるから,当該商標の登録を認めようというものと解される。 そして,使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,当該商標が使用された期間及び地域,商品の販売数量及び営業規模,広告宣伝がされた期間及び規模等の使用の事情,当該商標やこれに類似した商標を採用した他の事業者の商品の存在,商品を識別し選択する際に当該商標が果たす役割の大きさ等を総合して判断すべきである。また,輪郭のない単一の色彩それ自体が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかを判断するに当たっては,指定商品を提供する事業者に対して,色彩の自由な使用を不当に制限することを避けるという公益にも配慮すべきである。 (2) 認定事実 ア 本願商標の使用態様 原告の前身である日立製作所は,昭和40年,油圧ショベル「UH03」の外面の塗装の色彩として,本願商標の色彩を採用した(甲46)。 原告は,昭和45年10月,日立製作所の建設機械製造部門が独立し,旧日立建機株式会社と合併して設立された株式会社であり,遅くとも昭和49年以降,本願商標の色彩を,油圧ショベルを始めとする各種建設機械の外面の塗装の色彩として,現在まで継続して使用してきた(甲1の1〜44,8の1〜15,弁論の全趣旨)。 原告の販売する油圧ショベルには,オレンジ色を車体の全体に使用したものもあるが(甲1の13・14・17・18・20・21・36・37,7の1・4〜7・9〜12),アーム部及び車台後部はオレンジ色であるものの,操縦席近辺や駆動部は黒色ないし鼠色のもの(甲1の1〜12・15・16・19・22〜35・38〜44,5の1・5〜18,7の2・3・8・13,8の1〜15),操縦席近辺はオレンジ色で,アーム部は黒いもの(甲2の2),アーム部はオレンジ色で,操縦席や車台後部に緑色のラインが入ったもの(甲5の2〜4)もある。また,その多くには,アーム部や車台後部等に白抜き又は黒文字で著名商標である「HITACHI」又は「日立」の文字が付されている(甲1の1〜42・44,2の2,8の1・3・4・6〜8・10・12・13)。 原告のカタログにも,上記のとおり,オレンジ色を車体の全体に使用した油圧ショベルの写真のみならず,車体の一部にのみオレンジ色を使用した油圧ショベルの写真も掲載されており,原告の社名や, 「HITACHI」又は「日立」の文字が記載されている(甲1の1〜44,2の2,8の1〜15)。 イ 本願商標の使用期間,使用地域及び販売数量 原告は,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩が使用された油圧ショベルを,北海道・東北,関東,中部,関西及び西日本(九州を含む。)の各地域に所在する事業者に対して販売し,本願商標の色彩が使用された油圧ショベルは,日本全国で使用されている(甲4の2・4,21の1〜6)。 原告は,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩が使用されたミニショベルを除く油圧ショベル(6トン以上のもの。甲40)を昭和49年から平成30年までの間に合計●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●,ミニショベル(6トン未満のもの。甲40)を平成3年から平成30年までの間に合計●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●,それぞれ販売した(甲52の1・2)。 ミニショベルを除く油圧ショベルは,主に,原告,株式会社小松製作所,コベルコ建機株式会社,キャタピラージャパン合同会社及び住友建機株式会社の5社が製造販売しているところ,昭和49年から平成30年までの間の原告の油圧ショベルのシェアは概ね20%である(甲44の1〜8,52の1)。また,ミニショベルについては,平成3年から平成30年までの間の原告のシェアは概ね10%前後である(甲52の2)。 ウ 広告宣伝の方法,期間,規模 雑誌・新聞広告,ウェブ広告等の掲載 原告は,少なくとも平成5年以降,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩が使用された油圧ショベルのカラー画像を用いた広告を,少なくとも72種類以上作成し(甲57) これらを , 「日本経済新聞」, 「朝日新聞」, 「産経新聞」, 「日刊工業新聞」,「建通新聞」, 「北海道新聞」等の新聞や, 「日経ビジネス」, 「投資経済」, 「東洋経済」,「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」「日経コンストラクション」「建設機 , , ,械」「月刊廃棄物」等の雑誌等,少なくとも29種類以上の媒体に,継続的に掲載し ,た(甲5の1〜18,58の1,59の1・2・4〜6・8〜153)。 また,原告は,少なくとも平成20年以降,大手建設機械レンタル会社のカタログや,書籍・小冊子にも,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩が使用された油圧ショベルのカラー画像を用いた広告を継続的に出稿したほか(甲59の154〜162),平成30年6月以降,本願商標の色彩が使用された油圧ショベルのカラー画像を用いたウェブ広告を3種類作成して(甲56,57,59の164・165),8種類のサービスに出稿しており(甲61),これらのウェブ広告は,合計で,少なくとも4000万回以上表示された(甲56,61)。 この他,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩が使用された原告の油圧ショベルのうち,実際に市場で販売されたものの画像が,昭和54年以降,建設機械分野の専門誌の表紙にも取り上げられた(甲7の1〜13)。 これらの広告においては,いずれも原告の社名や, 「HITACHI」 「日立」 又はの文字が記載されている。 テレビCM 原告は,少なくとも平成2年9月から平成28年1月までの間(ただし,平成13年下期から平成19年上期は除く。)に,車体の少なくとも一部に本願商標の色彩が使用された原告の油圧ショベル,積込み機,ホイールローダ,鉱山用ダンプトラック等が映像の一部に登場するテレビCMを,繰り返し放映した。もっとも,これらのテレビCMには,油圧ショベル以外の建設機械に係るものが含まれ,全体の映像も,明らかでない。 エ アンケートの結果 マーケティングリサーチ事業を専門とする楽天リサーチ株式会社(現在の名称は,「楽天インサイト株式会社」)が原告からの依頼により,全国502か所の建設業界の事業者を対象として,平成29年1月に実施したアンケートの結果(以下「本件アンケート」という。 によれば, ) 有効回答数は193件であり(回収率38.6%),本願商標の色彩の画像を見せた上で, 「どのメーカーの油圧ショベルかをお答えください」との質問に対し,185件が原告と回答した(認知率95.9%)との結果となっている(甲19)。 本件アンケートは,原告が製造する建設機械の販売会社が顧客開拓のために独自に調査してリストアップしている日本全国の需要者に係るデータ約●●●件から,ホイールローダ,ダンプトラック,道路機械及び環境機械等の需要者や,農業や酪農など土木建設業者以外の業種の者を除いた約●●●件のうち,10台以上油圧ショベルを保有している者を調査対象としたものである。対象者の業種は,主に土木建設業,解体業,産業廃棄物処理業,建設機械レンタル業であるとされる(甲54)。 オ 原告以外の者による本願商標と類似する標章の使用 以下のとおり,原告以外の事業者により,本願商標と類似する標章が使用されていたことが認められる。なお,以下の証拠には,令和2年1月頃印刷したウェブサイト等もあるが,これらの証拠に弁論の全趣旨を総合すれば,本件審決時(令和元年9月19日)においても,同様に,原告以外の事業者により,本願商標と類似する標章が使用されていたことが推認できる。 「住友建機株式会社」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には, 「油圧ショベル」の商品紹介のページに,アーム部がオレンジ色の油圧ショベルの写真が掲載されている(甲77,乙13)。 「株式会社ボブキャット」の発行する「DOOSAN」のチラシ(令和2年1月27日印刷)には,アーム部及び車体後部がオレンジ色の油圧ショベルの写真及びアーム部及び車体上部をオレンジ色にした油圧ショベルの写真が掲載されている(乙14)。 「イワフジ工業株式会社」のウェブサイト(令和2年1月29日印刷)及びカタログ(平成30年6月発行)には, 「製品情報」中の「林業ベースマシン」のページに,アーム部及び車体下部がオレンジ色の「CT-500C/CS 林業ベースマシン」の写真が掲載されている(乙15,16)。 「神野農機」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には,「商品一覧」の頁に,アーム部及び車体下部がオレンジ色の「フルカワ ミニバックホー FX-007」の写真が掲載されている(乙17)。 「農機新聞」 (平成29年3月7日発行)には, 「イベロジャパンがトラクター用バックホー3機種発売」の見出しの記事情報において,バケット部,アーム部及び本体がオレンジ色のバックホーの部分の写真が掲載されている(乙18)。 「DiESEL TRADiNG」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には, 「建設機械在庫一覧」のページに,アーム及び車体がオレンジ色の「IHI建機 ミニショベル」の写真が掲載されている(乙20)。 「株式会社クボタ」のウェブサイト(令和2年1月27日印刷)には, 「開発中の電動トラクタと小型建機を公開〜脱ディーゼルの進む欧州で事業性を検証し,製品化を目指す〜」の見出しの下, 「小型建機(ミニバックホー)」の試作機の写真として,アーム部,車体及び脚部駆動部の中心部がオレンジ色の油圧ショベルの写真が掲載されている(乙21)。 また, 「製品情報」中の「建設機械」のうち, 「ミニバックホー」のページ(令和2年1月23日印刷)に,アーム部,車体下部がオレンジ色の「林業モデル」のバックホーの写真(乙22)が, 「ホイールローダ」のページ(令和2年2月3日印刷)にアーム部,車体,ホイールがオレンジ色のホイールローダの写真(乙23)が, 「キャリア」のページ(令和2年1月23日印刷)に荷台部などがオレンジ色のキャリアの写真(乙24)が, 「農業ソリューション製品」のページ(令和2年1月23日印刷)に,車体の前部,泥よけ部及び天井部がオレンジ色のトラクタの写真(乙33)が,それぞれ掲載されている。 「WINBULL/YAMAGUCHI」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には, 「YX-21X」の商品紹介の項に,荷台部がオレンジ色のキャリアの写真(乙25)「YXS-121HX」の商品紹介の項に,アーム部及び車体部 ,がオレンジ色の除雪機の写真(乙26)が,それぞれ掲載されている。 「トヨタL&F」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には, 「製品情報」ページに,ショベル部及び車体下部がオレンジ色のショベルローダの写真(乙27) フォーク部及び車体下部がオレンジ色のフォークリフトの写真 , (乙28)が,それぞれ掲載されている。 「サオリエクスポート」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には,「H7年 コベルコ ラフタークレーン RK160-2」の商品紹介の項に,アーム部及び車体がオレンジ色のクレーン車の写真(乙29)「H17 , イスズジャストン」の商品紹介の項に,アーム部及び車体をオレンジ色の高所作業車の写真(乙32)が,それぞれ掲載されている。 「オークフリー」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には, 「H7年TADANO タダノ 4.9t ラフタークレーン」の商品紹介の項に,車体上部がオレンジ色のクレーン車の写真が掲載されている(乙30)。 「エイハンジャパン」のウェブサイト(令和2年1月23日印刷)には, 「高所作業車製品案内」のページに,乗車部及び下部の車体をオレンジ色にしたマスト式高所作業車の写真が掲載されている(乙31)。 カ 油圧ショベルの取引の実情 油圧ショベルは,ユンボ,パワーショベル,バックホー,ドラグショベル,ショベルカーなど様々な名称で呼ばれる掘削機械の一種であり,日本国内で建設業において広く用いられているほか,その用途に汎用性があることから農業や林業にも利用されている(甲38〜40,乙15〜18,22)。 油圧ショベルを製造販売する原告,株式会社小松製作所,コベルコ建機株式会社,キャタピラージャパン合同会社及び住友建機株式会社は,油圧ショベルのほかにも,ブルドーザー,クレーン,ホイールローダー等も製造販売しており,また,ミニショベルを製造販売する株式会社クボタ,ヤンマーホールディングス株式会社,株式会社竹内製作所等は,農機も製造販売しているのであって,同一の事業者が,油圧ショベルのほか,それ以外の建設機械や農機を製造販売している(甲42,44の1〜8,45)。 市場分析においても,油圧ショベルは,ブルドーザー,クレーン,ロードローラ等とまとめて,建設機械に係る業界として扱われている(甲42)。 建設機械等の取引においては,製品の機能や信頼性を検討し,メーカー名や商品名等を明記した注文書や物品受領書などを介して取引が行われている(甲21の1〜6)。 (3) 使用による自他商品識別力について ア 本願商標の色彩を付した油圧ショベルの販売について 前記(2)ア,イのとおり,原告は,約50年にわたり,本願商標の色彩を車体の少なくとも一部に使用した油圧ショベルを販売しており,その販売台数及びシェアは,ミニショベルを除く油圧ショベルが合計約●●●台で概ね20%,ミニショベルが合計約●●台で概ね10%前後であって,それぞれ年間数千台の販売実績を上げていることが認められる。 しかしながら,本願商標の色彩であるオレンジ色は, 「赤みを帯びた黄色」 (乙1)であり,JISの色彩規格に,慣用色名としてオレンジ色が挙げられ(乙2),本願商標の色彩と同じ色相が色相環に挙げられ,近似した色見本が挙げられるなど(乙3),ありふれた色である。そして,本願商標の色彩と類似した色彩である橙(マンセル値:5YR 6.5/14)は,人への危害及び財物への損害を与える事故防止などを目的として公表されているJIS安全色にも採用され(乙10,11),ヘルメット(乙4),レインスーツ(乙5),ガードフェンス(乙6),特殊車両(乙7),タワークレーン(乙8),現場作業着(乙9)等に利用されていることが認められ,建設工事の現場において,一般的に使用される色彩である。 また,前記(2)アのとおり,原告の販売する油圧ショベルの多くには,本願商標の色彩のほか,アーム部や車体等に白抜き又は黒文字で著名商標である「HITACHI」又は「日立」の文字が付されており,カタログにも原告の社名や「HITACHI」又は「日立」の文字の記載があること,本願商標が,単色でなく他の色彩と組み合わせて車体の一部にのみ使用されている商品も少なくないことに照らせば,本願商標の色彩は,これらの文字や色彩と合わせて原告の商品である油圧ショベルを表示しているというべきである。 以上によれば,原告が本願商標の色彩を車体の少なくとも一部に使用した油圧ショベルを販売したことにより,本願商標の色彩のみが独立して,原告の油圧ショベルの出所識別標識として,日本国内における需要者の間に広く認識されていたとまでは認められない。 イ 広告宣伝について 前記(2)ウのとおり,原告は,本願商標の色彩を車体の少なくとも一部に使用した油圧ショベル等の建設機械の画像を用いた宣伝広告を,新聞,雑誌等の各種広告媒体によって,少なくとも20年以上にわたり行っていることが認められる。 しかしながら,これらの広告等には,いずれも,原告の社名が表示されている上,その多くに「HITACHI」又は「日立」の文字が併せて記載されており,本願商標の色彩のみが独立して,原告の商品である油圧ショベルの出所を表示しているとはいえない。 また,これらの広告等の中には,油圧ショベルのモチーフが,オレンジ色をした五線譜上の音符や将棋の駒として表示されたり,オレンジを背景にしたキリンのシルエットとして表示されたりするなど,デザインの一環として用いられ,広告内容が油圧ショベルと関連付けられたものではないものも存在し(甲59の2・8・9等),このような広告は,視聴者に対し,オレンジ色が原告のコーポレートカラーであると印象付け,本願商標の色彩を一定程度認知させるものとはいえても,色彩と商品の結び付きは弱く,このことから直ちに,本願商標の色彩が,原告の油圧ショベルの出所識別標識として,広く認識されたとまで認めることは困難である。 以上によれば,本願商標の色彩を車体の少なくとも一部に使用した油圧ショベルの画像を用いた宣伝広告により,本願商標の色彩が,原告の油圧ショベルの出所識別標識として,需要者の間に広く認識されたとまではいえない。 ウ 本件アンケートの結果 本件アンケートの調査対象は,全国の油圧ショベルの取引者及び需要者とされるものの,ホイールローダ,ダンプトラック,道路機械,環境機械等の需要者や,農業や酪農など土木建設業者以外の業種の者が除かれている上,油圧ショベルを10台以上保有している者のみに絞られているから,対象者は油圧ショベルの需要者の一部に限定されている。また,対象者数は,約●●●件の需要者のうちの502件であり,有効回答数はその38.6%である193件にとどまる。そして,認知率95.9%という高い数字は,有効回答数193件に対する数字であり,対象者数502件に対しては36.8%にとどまる。 本件アンケートの質問方法は,本願商標の色彩の画像を見せた上で, 「どのメーカーの油圧ショベルかをお答えください」と尋ねるものであるところ,かかる質問は,本願商標が出所識別標識と認識されることを前提とするものであるから,その回答によって,本願商標が原告のみの出所識別標識と認識されていることを示しているのか,単に原告の油圧ショベルの車体色と認識するにとどまるのかを区別することはできない。 以上によれば,本件アンケートの結果のみから直ちに,本願商標の色彩が出所識別標識として認識され,本願商標が付された油圧ショベルの出所が原告のみであることが広く認知されていたものと認めることはできない。 エ 原告以外の者による本願商標に類似する色彩の使用 前記(2)オのとおり,本件審決時(令和元年9月19日)までに,住友建機株式会社,DOOSAN等が,車体色がオレンジ色の油圧ショベルを販売し,株式会社クボタやイワフジ工業株式会社等が,車体色がオレンジ色の農機や林業用機械を販売していたこと,また,株式会社クボタ等が,車体色がオレンジ色のホイールローダ,ショベルローダ,キャリア,フォークリフト,クレーン車,高所作業車等の建設機械を販売していたことが認められ,農機等を含む油圧ショベルや各種建設機械の車体色として,複数の事業者によりオレンジ色が広く採択されていた。 そうすると,原告が本願商標の色彩を車体の少なくとも一部に使用した油圧ショベルを長期間にわたり相当程度販売していたとしても,油圧ショベルと需要者が共通する建設機械や,油圧ショベルの用途とされる農機,林業用機械の分野において,車体色としてオレンジ色を採用する事業者が原告以外にも相当数存在していたのであるから,原告が,他者の使用を排除して,油圧ショベルについて本願商標の色彩を独占的に使用していたとまでは認められない。 オ 油圧ショベルの取引の実情 前記(2)カのとおり,油圧ショベルは,建設機械の一種であり,建設業のほか農業や林業にも利用され,同一の事業者が油圧ショベルのほか,それ以外の建設機械や農機を製造販売している。また,油圧ショベルを含む建設機械は,製品の機能や信頼性を重視し,メーカーを確認して製品の選択が行われ,価格も安価なものではないことから,製品を識別し購入する際に,車体色の色彩が果たす役割が大きいとはいえない。 カ 以上のとおり,原告は,本願商標の色彩を車体の少なくとも一部に使用した油圧ショベルを長期間にわたり相当程度販売するとともに,継続的に宣伝広告を行っており,本願商標の色彩は一定の認知度を有しているとはいえるものの,その使用や宣伝広告の態様に照らすなら,本願商標の色彩が,需要者において独立した出所識別標識として周知されているとまではいえない。そして,本願商標は,輪郭のない単一の色彩で,建設現場等において一般的に採択される色彩であること,油圧ショベル及びこれと需要者が共通する建設機械や,油圧ショベルの用途とされる農機,林業用機械の分野において,本願商標に類似する色彩を使用する原告以外の事業者が相当数存在していること,油圧ショベルなど建設機械の取引においては,製品の機能や信頼性が検討され,製品を選択し購入する際に車体色の色彩が果たす役割が大きいとはいえないこと,色彩の自由な使用を不当に制限することを避けるべき公益的要請もあること等も総合すれば,本願商標は,使用をされた結果自他商品識別力を獲得し,商標法3条2項により商標登録が認められるべきものとはいえない。 (4) 原告の主張について ア 取引の実情について 原告は,建設機械の分野の商品は多岐にわたり,需要者はそれぞれの機械の機能,用途及び必要となる免許等に応じてこれを選別するのであるから,各機械は明確に区別され,油圧ショベルの需要者は,その他の機械を含む建設機械全般の需要者ではなく,油圧ショベル以外の機械においてオレンジ色が多数の事業者によって用いられているとしても,本願商標に係る識別力に影響を与えるものではない旨主張する。 しかしながら,前記(2)カのとおり,油圧ショベルは,汎用性をもった建設機械として,多様な分野の工事関係者が需要者に含まれるほか,農業や林業にも広く利用されるものであるから,農業や林業に従事する者も需要者に含まれるというべきである。 そして,前記(2)カのとおり,原告を含む油圧ショベルを製造販売する企業が,油圧ショベルのほかにも,ブルドーザー,クレーン,ロードローラなどの建設機械等も製造販売し,また,ミニショベルを製造販売する企業が,農機も製造販売しており,同一の事業者が,油圧ショベルと他の建設機械や農機を製造販売しているのであるから,これらの商品に同一又は類似の商標を使用する時には,同一営業主の製造販売に係る商品と誤認されるおそれがあるといわざるを得ない。 さらに,油圧ショベルを含む建設機械は,建設工事を行う法人等の事業者が業務用に購入することが通常であると考えられるから,操縦のための免許の区分に応じて,建設機械の種別ごとに取引市場が分割されているとはいえず,前記(2)カのとおり,市場分析においても,油圧ショベルは,建設機械に係る業界として扱われている。 そうすると,油圧ショベルは,農機や林業用機械として用いられている油圧ショベルや,油圧ショベルと異なる建設機械と取引市場や業界を共通にするというべきであるから,これらについて,車体色としてオレンジ色が採択されていることは,本願商標の使用による識別力の存否判断に影響を及ぼすというべきである。 原告は,住友建機株式会社のウェブサイトに掲載された油圧ショベル(乙13) イワフジ工業株式会社のウェブサイト及びパンフレットに掲載された林業ベー ,スマシン(乙15,16)に使用されている色彩は,オレンジ色ではなく赤であると主張する。 しかしながら,住友建機株式会社の油圧ショベル及びイワフジ工業株式会社の林業ベースマシンの車体色は,本願商標の色彩よりも赤みは強いものの,人が視覚によって見分けることができる色彩には限界がある。本願商標の色彩よりも赤みの強いオレンジ色は,本願商標とは時と所を異にして接する場合には,見分けることは困難であること(乙43)に照らせば,これらの商品の車体色も,本願商標の使用による識別力に影響を及ぼすものであるというべきである。なお,原告が使用による自他商品識別力の獲得の根拠として提出する証拠にも,本願商標より赤みの強いオレンジ色のものがある(甲1の28・29・37等)。 また,原告は,乙17のフルカワのミニバックホーや,乙20のIHI建機のミニショベルは,いずれも中古品であって,販売時の色彩は不明であると主張するが,これらの商品も,中古品として市場で流通している以上,需要者の商品選択肢の中にあり,現に付されている車体色も,建設機械の取引市場に係る実情として考慮されるというべきである。 さらに,原告は,農機又は林業用機械である油圧ショベルは,国内での流通量が少ないとも主張するが,平成29年度建設機械動向調査によっても,農業や林業に係る業者の約5%が油圧ショベルを購入しており(甲83の1),無視できる数字であるとはいえない。 イ 独占適応性について 原告は,油圧ショベルの分野では5社が国内シェアの90%を寡占する状態が継続しており,そのうちオレンジ色を継続して油圧ショベルに使用しているのは,原告のみであるから,他の事業者等に本願商標の色彩を使用する余地を残しておく公益的な要請は喪失されている旨主張する。 しかしながら,油圧ショベルを製造販売する業者は,原告,株式会社小松製作所,コベルコ建機株式会社,キャタピラージャパン合同会社及び住友建機株式会社の5社以外にも,ミニショベルを製造販売する株式会社クボタ,ヤンマーホールディングス株式会社,株式会社竹内製作所等も存在することは前記(2)カのとおりである上,海外企業も存在するものと認められる(甲42)。 また,前記(3)エのとおり,建設機械や農機の分野において,オレンジ色は油圧ショベルを含む他社の商品の車体色として広く採択されているのであるから,本願商標の使用は原告だけができるとの共通認識が形成されているとまではいえない。 ウ 「HITACHI」又は「日立」の文字について 原告は,本願商標の色彩は,極めて強い自他商品識別力を獲得したものであるから,本願商標の色彩が使用された油圧ショベルに「HITACHI」又は「日立」の文字が付されていても,本願商標が獲得した自他商品識別力に何ら影響はない旨主張する。 しかしながら, 「HITACHI」「日立」は著名商標であり,原告の油圧ショベ ,ルに接する需要者は,これらの文字部分に着目するのが自然であるというべきである。そして,前記アのとおり,建設機械や農機,林業用機械の分野において,オレンジ色が広く採用されていることに加え,前記(2)カのとおり,建設機械等の取引においては,製品の機能や信頼性を検討し,どのメーカーの商品であるかを慎重に確認した上で商品を購入するのが通常であると考えられることも踏まえると,需要者が,「HITACHI」又は「日立」の文字を考慮することなく,商品の車体色であるオレンジ色のみに着目してその出所を識別するとまではいえない。 エ 以上によれば,原告の主張はいずれも採用できない。 (5) 小括 よって,本願商標は,商標法3条2項の要件を具備するものとは認められないから,取消事由は理由がない。 2 結論 以上のとおり,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
裁判長裁判官部眞規子裁判官小林康彦裁判官関根澄子は,差支えのため署名押印することができない。 裁判長裁判官部眞規子別紙1商標登録を受けようとする商標2商標の詳細な説明(1)出願時商標登録を受けようとする商標は,タキシーイエロー(マンセル値:0.5YR5.6/11.2)のみからなるものである。 (2)補正後商標登録を受けようとする商標は,オレンジ色(マンセル値:0.5YR5.6/11.2)のみからなるものである。 |