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関連審決 不服2017-2496
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事件 令和 1年 (行ケ) 10146号 審決取消請求事件

原告日立建機株式会社
訴訟代理人弁護士 宮川美津子 内田晴康 関川淳子 小勝有紀
訴訟代理人弁理士 廣中健 小林奈央
被告 特許庁長官
指定代理人豊田純一 木村一弘 石塚利恵
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2020/08/19
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2017-2496号事件について令和元年9月19日にした 審決を取り消す。
事案の概要
1 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告は,平成27年4月1日,別紙1?の「商標登録を受けようとする商 標」及び同?アの「商標の詳細な説明」の記載から特定される色彩のみから なる商標について,指定商品を第7類「油圧ショベル」として,商標登録出願 (商願2015-30000号。以下「本願」という。)をした(甲21)。
? 原告は,平成28年11月17日付けで拒絶査定(甲24)を受けたため, 平成29年2月21日,拒絶査定不服審判を請求するとともに(甲25),本 願に係る「商標の詳細な説明」に記載された色彩名を「タキシーイエロー」か ら別紙1?イの「オレンジ色」に変更する手続補正(甲69)をした(以下, 手続補正後の別紙1?及び?イ記載の「油圧ショベルのブーム,アーム,バケ ット,シリンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエイトの部分をオレン ジ色(マンセル値:0.5YR5.6/11.2)」とする構成からなる,色 彩のみからなる商標を「本願商標」という。)。
特許庁は,上記請求を不服2017-2496号事件として審理し,令和 元年9月19日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本 件審決」という。)をし,その謄本は,同年10月1日,原告に送達された。
(3) 原告は,令和元年10月30日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提 起した。
2 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。
その要旨は,本願商標は,商標法3条1項3号に該当し,かつ,同条2項の要 件を具備するものではないから,商標登録を受けることができないというもの である。
? 商標法3条1項3号該当性について 色彩は,商品そのものやその包装はもとより,その商品の広告等において も,商品の美感や魅力の向上等のために選択されるものであって,その色彩 2 について,商品の出所を表示するものとして又は自他商品を識別するための 標識として認識することはないとみるのが相当である。
そして,本願商標の指定商品「油圧ショベル」を含む建設機械を取り扱う業 界において,本願商標の色彩「オレンジ色」と近似する色彩が,種々の建設機 械の商品に普通に使用されている事実があることからすると,「オレンジ色 (マンセル値:0.5YR5.6/11.2)」の色彩を「油圧ショベル」の ブーム,アーム,バケット,シリンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエ イトに使用する本願商標を,その指定商品について使用しても,これに接す る需要者は,いわゆるコーポレートカラーとして認識するというより,むし ろ,商品の美感や魅力の向上等に資するため,通常使用される又は使用され 得る色彩を表したものと認識するにとどまり,その色彩について,商品の出 所を表示するものとして又は自他商品を識別するための標識として認識する ことはない。
したがって,本願商標は,商品の特徴(色彩)を普通に用いられる方法で表 示する標章のみからなる商標であるから,商標法3条1項3号に該当する。
? 商標法3条2項の要件の具備について 商標法3条2項が,同条1項3号等所定の商標であっても,使用をされた 結果,需要者が何人かの業務に係る商品(役務)であることを認識することが できるものについては,商標登録を受けることができるとする趣旨は,特定 人が,当該商標を,その者の業務に係る商品(役務)の自他識別標識として, 永年の間,他人に使用されることなく,独占的排他的に継続使用した実績を 有する場合には,当該商品(役務)に係る取引界においては,事実上,当該商 標の当該特定人による独占的使用が事実上容認されているといえるので,他 の事業者にその使用の機会を開放しておく公益上の要請が乏しくなるととも に,当該商標が,自他商品(役務)識別力を獲得したことにより,商標として の機能を備えるに至ったことによるものと解される。
3 本願商標を付した指定商品「油圧ショベル」の使用開始時期,使用期間及び 使用地域,販売台数及び市場占有率(シェア),広告宣伝の方法,回数及び内 容,原告が楽天リサーチ株式会社(以下「楽天リサーチ」という。 に依頼し, ) 建設業従事者を対象者として実施したアンケート調査(甲10の1,2)の結 果に加えて,建設機械を取り扱う業界において,本願商標の色彩であるオレ ンジ色と近似する色彩が,種々の建設機械の商品に普通に使用されているこ と,原告発行の商品カタログにおいて,油圧ショベルのブーム,アーム,バケ ット,シリンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエイトに本願商標と同 一と認められる色彩を使用していることは認められるものの,その色彩とと もに,使用機種等の文字及び「HITACHI」の文字も使用されているこ と,建設機械の分野の商品は,油圧ショベルに限定されるものではなく,多岐 にわたる商品が存在するが,アンケート調査の対象の建設業従事者が,油圧 ショベルの取引者及び需要者に限定されていること等を総合的に判断すると, 原告が本願商標を原告の業務に係る商品の自他識別標識として,永年の間, 他人に使用されることなく,独占的排他的に継続使用した実績を有する場合 に該当するとはいえないから,本願商標は,同条2項の要件を具備するとは 認められない。
3 取消事由 本願商標の商標法3条2項の要件の判断の誤り
当事者の主張
1 原告の主張 (1) 判断基準の誤り 本件審決は,本願商標の商標法3条2項該当性の判断に当たり,特定人が, 商標を,その者の業務に係る商品(役務)の自他識別標識として, 「永年の間, 他人に使用されることなく,独占的排他的に継続使用した実績を有する場合」 に該当するといえるかどうかを基準として判断した。
4 しかしながら,同項の趣旨は,本来であれば,自他商品の識別力を持たない とされる商標であっても,特定の事業者が当該商標をその業務に係る商品に 使用した結果,当該商標から,商品の出所と特定の事業者との関連を認識す ることができる程度に,広く知られるに至った場合には,登録商標として保 護を与えない実質的な理由に乏しいといえること,当該商標の使用によって, 商品の出所であると認識された事業者による独占使用が事実上容認されてい る以上,他の事業者等に当該商標を使用する余地を残しておく公益的な要請 は喪失したとして差し支えないことにあると解されることからすれば,「永 年の間,他人に使用されることなく,独占的排他的に継続使用した実績」の有 無を判断基準とした本件審決は,適切ではない。
? 需要者の認定の誤り 本願商標の指定商品である「油圧ショベル」は,土砂や岩を掘削するための 建設機械である「掘削機械」に分類される機械であり(甲28の1,2),主 として建設工事や土木工事の現場で使用されている(甲29) 油圧ショベル 。
の特徴として,機械前方に取り付けられるフロントアタッチメントが,ブー ム,バケット及びこの2つを連結させる腕の総称であるアームの3関節構造 を有し,本体が旋回(回転)や走行を行うことができ,さらには,フロントア タッチメントの交換によって様々な作業を行うことができる多様性を有して おり(甲30),これらの特徴は,他の建設機械にはない固有の特徴である。
そして,建設機械の分野の商品は多岐にわたり,需要者はそれぞれの機械 の機能,用途及び必要となる免許等に応じてこれを選別し,建設機械を取り 扱う業界において,各機械はそれぞれ明確に区別されていることからすると, 油圧ショベルの需要者は,油圧ショベルの他の機械にない上記特徴等を需要 する者であり,他の機械を含む建設機械全般の需要者とは異なるものである。
そうすると,油圧ショベルの需要者を油圧ショベル以外の機械の需要者と 同一視した本件審決の認定は誤りであり,これを前提に本願商標が商標法3 5 条2項の要件を具備するとは認められないとした本件審決の判断は誤りであ る。
? 使用による識別力の獲得についての判断の誤りア 商標の構成及び態様 本願商標は, 「油圧ショベル」のブーム,アーム,バケット,シリンダチ ューブ,建屋カバー及びカウンタウエイトの部分を「マンセル値:0.5Y R5.6/11.2」により特定される「オレンジ色」とする構成からなる ものである。
本願商標の色彩は,原告の製造販売する油圧ショベルに使用されており, 「タキシーイエロー」との名称で呼ばれている(甲9の1ないし4,36)。
イ 使用開始時期及び使用期間 原告の前身である株式会社日立製作所(以下「日立製作所」という。 は, ) 1965年(昭和40年)に日本で初めて開発した純国産油圧ショベル「U H03」(甲36)の外面の塗装として本願商標の色彩を使用した。
そして,原告は,1970年(昭和45年)10月の設立当時から,原告 の主力製品の一つである「油圧ショベル」のブーム,アーム,バケット,シ リンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエイトの部分の塗装の色彩と して本願商標の使用を開始し,現在まで約50年以上にわたり,原告の油 圧ショベルに本願商標を継続して使用している。
また,原告は,積込み機,ホイールローダ,ロードローラ,鉱山用ダンプ トラック等の油圧ショベル以外の建設機械の外面の塗装についても,本願 商標の色彩を継続して使用している。
ウ 使用地域,販売台数等 (ア) 使用地域 原告は,本願商標が使用された油圧ショベルを,北海道,東北,関東, 中部,関西及び西日本(九州を含む。)の各地域に所在する事業者に対し 6 て販売し,上記油圧ショベルは,日本全国の建設工事及び土木工事の現 場で使用されている。
(イ) 販売台数 原告の油圧ショベルの1974年から2018年までの年度別販売台 数は,●●●●●●●●●台であり,シェア(市場占有率)は常時概ね2 0%である。また,2005年から2011年までの油圧ショベルの国 内出荷台数のシェアは,原告を含む4社間で1〜4位の順位を交替して いるところ,原告の国内シェアは3位以内(2009年は首位)である。
(ウ) 建設工事等の現場 油圧ショベルは,我が国において建設機械の主力機として広く普及し, そのほとんどが,原告,株式会社小松製作所(以下「小松製作所」とい う。,コベルコ建機株式会社(以下「コベルコ建機」という。,キャタピ ) ) ラージャパン合同会社(以下「キャタピラージャパン」という。)及び住 友建機株式会社(以下「住友建機」という。)の5社によって供給されて いる。上記5社のうち,原告の油圧ショベルのみがオレンジ色を使用し ている。
そして,前記(ア)及び(イ)のとおり,本願商標が使用された原告の油圧 ショベルは日本全国で使用され,販売台数は多数に上り,油圧ショベル 全体の市場において常時約20%のシェアを有していることからすれば, 油圧ショベルの需要者及び取引者は,本願商標が使用された原告の油圧 ショベルを建設工事や土木工事の現場等において,確実かつ頻繁に目に しているはずである。
エ 広告宣伝の方法,回数及び内容(ア) 新聞,雑誌,ウェブ広告等の掲載 原告は,遅くとも1993年から現在まで,本願商標が使用された油 圧ショベルのカラー画像の広告を,少なくとも47種類以上作成し,少 7 なくとも26種類以上の新聞及び雑誌に継続的に掲載してきた。
また,原告は,大手建設機械レンタル会社のカタログや,建設機械関連 の書籍,小冊子への広告出稿など,新聞・雑誌以外の紙媒体への広告出稿 も継続的に行っている。
さらに,原告は,2019年以降,本願商標が使用された油圧ショベル のカラー画像のウェブ広告を作成し,上記ウェブ広告は,少なくとも合 計300万回以上表示され,閲覧された(甲47,52)。
このほか,本願商標が使用された原告の油圧ショベルのうち,実際に市 場で販売されたものの画像は,建設機械分野の専門誌の表紙にも度々取 り上げられるなど広く紹介されている。
(イ) テレビCMの放映 原告は,1990年9月から2016年1月までの25年以上にわた り(ただし,2001年下期から2007年上期は除く。, ) 本願商標が使 用された原告の油圧ショベルを映したテレビCMを繰り返し放映した。
本願商標が使用された原告の油圧ショベルを映したテレビCMは,1 990年から2000年までの10年間に少なくとも12種類が作成さ れた。その後,2007年10月から2014年までの間に4種類が作 成され,合計475回放映された。
原告のテレビCMは,東京キー局を中心に,視聴率の高い番組におい て繰り返し放映されているため,広範囲かつ多数の視聴者が目にしてい ることが推認される。
(ウ) 広告費用 1990年から2014年までの期間における年度別及び媒体別の原 告の広告宣伝費は,多いときで年間15億円を優に超え,2010年か ら2014年においても年間4億円に近い金額が支出されている。
2016年以降は,ウェブ広告に特に力を入れていることから,広告宣 8 伝費の支出は低下しているものの,ウェブ広告では,油圧ショベルの需 要者などに対象を絞って広告配信(ターゲティング広告)を行うことが 可能となり,広告の費用対効果はより高まっている。
(エ) イベントでの展示等 原告は,その主催するイベントや展示会等において,本願商標が使用 された原告の油圧ショベルを展示するなどしたほか,スポーツイベント への協賛やスポーツ選手のスポンサーを担うことにより,本願商標と同 一の色彩が原告のコーポレートカラーであることを強く印象付けさせ, その結果,本願商標が使用された油圧ショベルは原告の製品であること を油圧ショベルの需要者に対して一層認識させた。
オ アンケート調査の結果 (ア) 原告が2017年1月に楽天リサーチに依頼して全国の油圧ショベ ルの取引者及び需要者を対象者として実施した「油圧ショベルの色彩に 関するアンケート調査」 (以下「本件アンケート」という場合がある。甲 10の1,2)の結果によれば,本願商標の画像を見て油圧ショベルのメ ーカーを「日立建機」 (原告)と認知した件数が168件中163件で認 知率97.0%,本願商標と同一の色彩の画像を見て油圧ショベルのメ ーカーを「日立建機」 (原告)と認知した件数が193件中185件で認 知率95.9%であったことからすると,アンケート回答者の合計96. 4%が本願商標又は本願商標と同一の色彩から原告を想起したことを示 している。
本件アンケートの対象者は,建設機械全般の購入可能性のある者から, 明らかに油圧ショベルと関連性の低い業種を除いたうえで,第三者であ る楽天リサーチが日本全国の建設業の就労者比に応じて当該地域毎に無 作為に選定した496か所及び502か所の事業所の事業者(土木建設 業,解体業者,産業廃棄物処理業者及び建設機械レンタル業者など)であ 9 って,その抽出方法は適切であり,調査票や依頼状には正解を誘導する ような情報は何ら記載されていないから,アンケートの公平性及び中立 性は十分に保たれている。
(イ) これに対し本件審決は,@建設機械の分野の商品は,油圧ショベルに 限定されるものではなく,多岐にわたる商品が存在することから,建設 機械の取引者及び需要者は,多数存在することが推認できる中で,本件 アンケート調査の対象者が,油圧ショベルの取引者及び需要者に限定さ れていること,A本件アンケートに係る「調査票」に原告のみを認識して 回答した建設業従事者の数が明確ではないこと,B本件アンケート調査 の対象の建設業従事者及びその回答数は,いずれも,多数とはいえない ことからすると,本件アンケートの調査結果が,建設機械の取引者及び 需要者の実際の認識を反映しているとは直ちにはいえない旨判断した。
しかしながら,@については,本件アンケートの対象者は,土木建設 業,解体業者,産業廃棄物処理業者及び建設機械レンタル業者等であっ て,これらの事業者は,油圧ショベルのみならず,油圧ショベル以外の建 設機械を取り扱うこともあり得る。また,前記?のとおり,油圧ショベル とその他の建設機械は機能や用途が異なり,必ずしも需要者を共通にす るものではないから,建設機械全般の取引者及び需要者における本願商 標の認識度を明らかにする必要はない。
次に,Aについては,商標法3条2項の, 「使用をされた結果需要者が 何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるも の」にいう「何人」については,その名称までを認識していることは要求 されていないし,上記調査票の「以下の画像の色彩を見て,どのメーカー の油圧ショベルかお答えください。」との質問に対する回答が「日立建機 日本」「日立」「ヒタチ」「HITACHI」であれば,それは,日立グ , , , ループに属する油圧ショベルのメーカーである原告を指すことは自明で 10 ある。
さらに,Bについては,本件アンケートが全国496ヶ所及び502ヶ 所の事業所を選定し,アンケート全体の対象者数は合計998件にも及 ぶこと,郵送の方法によるアンケートの回収率が33.9%及び38. 6%であることからすると,本件アンケートの対象数及び回収率は適切 である。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
カ 本件審決の指摘する考慮事情について (ア) 原告の油圧ショベルに表示された使用機種等の文字及び「HITAC HT」の文字について 本件審決は,原告発行の商品カタログにおいて,油圧ショベルのブー ム,アーム,バケット,シリンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエ イトに本願商標と同一と認められる色彩を使用していることは認められ るものの,その色彩とともに,使用機種等の文字及び「HITACHI」 の文字も使用されていることから,これに接する取引者,需要者は自然 と商品に表示された使用機種等の文字及び「HITACHT」の文字に 注目する旨認定した。
しかるところ,本願商標が使用された油圧ショベルには,別紙2のよ うな使用機種等の文字や「HITACHI」の文字が付されているが(甲 2の1ないし22等),使用機種等の文字は,基本的に油圧ショベルの側 面に小さな文字で記載されているため,目につきにくく,建設工事等の 現場において,需要者が遠くから油圧ショベルを視認する際には,これ らの文字に注目することはない。
また,油圧ショベルのブーム及びカウンタウエイトの部分の「HITA CHT」の文字も,それらの占める面積は本願商標の色彩が占める面積 に比して極めて小さく,建設工事等の広い現場において本願商標よりも 11 注目されるものとはいえない。
さらに,原告が顧客の要望を受けて「HITACHT」の文字を記載し ていない油圧ショベルを納品することも頻繁に行われている。
したがって,原告の油圧ショベルに付される使用機種等の文字及び「H ITACHI」の文字は,本願商標に比して需要者の注目をひくものと はいえないから,本件審決の上記認定は誤りである。
(イ) 本願商標の色彩と近似した色彩の種々の建設機械の存在について 本件審決は,建設機械を取り扱う業界において,本願商標の色彩である オレンジ色と近似する色彩が,種々の建設機械の商品に普通に使用され ている事実があることが,原告が本願商標を原告の業務に係る商品の自 他識別標識として,永年の間,他人に使用されることなく,独占排他的に 継続使用した実績を有する場合に該当するとはいえないことの考慮事情 の一つとして挙げている。
しかしながら,前記?のとおり,本願商標の指定商品「油圧ショベル」 は,他の建設機械にはない固有の特徴を有し,他の建設機械と区別され ること, 「油圧ショベル」の需要者と他の機械を含む建設機械全般の需要 者とは異なることに照らすと,本願商標の使用による識別力の獲得につ いて判断するに当たり,油圧ショベル以外の建設機械に使用される色彩 を考慮すること自体が誤りである。
キ 原告による本願商標の独占使用が公益上適当であること 油圧ショベルは,参入企業数が少なく,原告,小松製作所,コベルコ建機, キャタピラージャパン及び住友建機の5社による寡占状態が継続している ところ,上記5社はいずれも特定の単色を自らの油圧ショベルに使用し続 けていること,上記5社のうち,オレンジ色を継続して油圧ショベルに使 用しているのは原告1社のみであること,これらの事情は,油圧ショベル の需要者において知られていること,このような取引の実情に鑑みれば, 12 原告が今後もこれまでと同様に本願商標の色彩を独占したとしても,他社 のデザインの選択の幅が不当に狭くなることはない。
また,色彩のみからなる商標の登録制度を導入した改正商標法(平成2 6年法律第36号。以下同じ。)附則5条3項は,同法施行前から,不正競 争の目的でなく,色彩のみからなる商標と同一又は類似する商標を使用し ていた既存の使用者に対する当該商標の継続的使用権を認めており,仮に 本願商標の色彩又はこれと類似する色彩を油圧ショベルに使用している事 業者が原告以外に存在するとしても,当該事業者が附則5条3項の要件を 満たす場合は,本願商標の登録によっても継続して当該色彩を使用するこ とが可能であり,その業務が妨げられることにはならない。
そうすると,原告による本願商標の独占的使用を認めることは,公益的 見地からみても何ら問題はない。
ク まとめ 以上のとおり,原告は,1970年(昭和45年)の設立以来,約50年 の長期間にわたり,本願商標が使用された原告の油圧ショベルを継続して 販売し,原告の油圧ショベルが全国で使用されていること,原告の油圧シ ョベルの販売台数が毎年数千台の高い販売台数を維持しており,そのシェ アは常時概ね20%であること,原告が多いときで年間15億円に及ぶ多 額の費用をかけて,原告の油圧ショベルについて新聞,雑誌,ウェブ広告等 に多数のカラー広告を掲載し,本願商標が使用された原告の油圧ショベル を映したテレビCMを放映するなどの広告宣伝活動を行ってきたこと,油 圧ショベルの需要者も多く来場するイベントで本願商標と同一の色彩が使 用された原告の油圧ショベルを展示したり,スポーツを介して本願商標と 同一の色彩が原告のコーポレートカラーであるという認知度の向上に積極 的に努めてきたこと,本件アンケートの調査結果によれば,本願商標の認 知率は97.0%(甲10の1),商標を付する位置の特定のない本願商標 13 と同一の色彩の認知率は95.9%であること(甲10の2),さらには, 本願商標について原告の独占的使用を認めたとしても,公益的見地からみ ても問題はないこと等の事情によれば,本願商標は,本件審決時において, 原告によって使用をされた結果,原告の業務に係る油圧ショベルを表示す るものとして需要者の間に広く認識されていたものといえるから,本願商 標は自他商品識別力を獲得したものである。
したがって,本願商標は,原告によって使用をされた結果, 「需要者が何 人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」に該当す るから,商標法3条2項の要件を具備する。
? 被告の主張について ア 被告は,@本願商標に係るオレンジ色は,その指定商品である「油圧ショ ベル」に関連する建設機械や農機に係る分野において,多数の事業者によ って取引上普通に採択されている実情がある(乙13ないし33),A建設 機械や農機の取引においては,販売店を訪れる前から予算や機種などを決 定し,販売店でも建設機械の作動状況などをチェックするなど,慎重に検 討した上で購入に至るものであり,その購入に当たっても,会社名や商品 名等を明記した注文書や物品受領書などを介して取引が行われるのが通常 である,Bしたがって,需要者が商品調達の際に,油圧ショベルの車体色の 色彩(特にオレンジ色)のみに着目して商品の製造元や販売元を識別,選択 することは通常考え難く,識別すること自体も事実上困難である旨主張す る。
しかしながら,@については,本願商標の指定商品は油圧ショベルであ るから,油圧ショベル以外の建設機械や農機の色彩を考慮すべき理由はな い。そして,被告が挙げる個々の商品(乙13ないし33)は,油圧ショベ ルであるが,オレンジ色でない色が採用されているか,又は販売時の色彩 が不明であるもの,オレンジ色の油圧ショベルであるが,現在販売されて 14 いる事実を確認できないもの,油圧ショベルであるが,農業用機又は林業 用機であるため,国内流通が極めて少ないもの,油圧ショベルでなく,か つ,掘削機械である油圧ショベルと用途や需要者が異なる機械であるもの などであるから,本願商標が原告の油圧ショベルを表示するものとして識 別力を獲得していることの妨げになるものではない。
次に,Aについては,需要者は価格や性能等の商品それ自体に関する情 報について種々検討すると同時に,その出所であるメーカー名やブランド についても同様に注意を払うから,当該商品について特定の色彩が継続的 に使用された結果,その色彩によって商品の出所が識別されるようになっ ていれば,商品の自他識別標識としての商品の色彩にも注意を払うことに なるのが実情である。また,色彩が識別力を獲得するのは,需要者らが当該 色彩に着目することによってではなく,その色彩が当該商品について長年 使用されることによって,いわば継続的使用の結果として,当該商標に信 用が化体し,本来識別力のない色彩が自他識別力を具有することによるも のである。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
イ 被告は,本願商標の独占適応性に関し,油圧ショベルが用途の汎用性も あって専門の事業者が製造,販売するような商品ではなく,建設機械や農 機の分野に属する広い範囲の事業者によって製造,販売されている実情が あること,建設機械や農機の分野では,オレンジ色は商品の車体色の色彩 として多数の事業者により採択されている実情があること,橙色(オレン ジ色)はJIS安全色として規格化され,安全確保や事故防止等の観点か ら,何人も自由な使用ができるように開放しておくべき必要性が高い色彩 であることからすると,原告に本願商標の登録を認めることは,元来自由 に利用できるはずであった色彩(オレンジ色及びその近似色)の使用が阻 害又は制限され,その影響は極めて深刻であり,建設機械や農機に係る分 15 野において,現在及び将来を含めた色彩使用の自由を著しく制限するもの であるから,公益的見地から許容されるものではない旨主張する。
しかしながら,農機分野に属する事業者が油圧ショベルを製造販売する ことはあるものの,実際に,農業,林業及び漁業に係る業者が油圧ショベル を購入する割合は,油圧ショベル購入者全体の4.9%にすぎず(甲73の 1) 農機分野に属する事業者が製造販売する油圧ショベルの台数も当然少 , ないと考えられる。
また,油圧ショベル業界は寡占市場であり新規参入が少ないのみならず, オレンジ色が建設機械や農機に係る分野において多数の事業者により広く 採択されている色彩であるとはいえない。
さらに,JISの安全色として,オレンジ色以外にも赤,黄,緑,青,赤 紫といった複数の幅広い範囲の色彩が規格されており(乙10,11),そ もそも油圧ショベルその他建設機械一般にJISの安全色を選択すること がメーカーに義務付けられているわけではないから,JISが規格するオ レンジ色以外の安全色を含む色彩を単体で又は組み合わせて使用すること は依然として可能であり,原告に本願商標の登録を認めても,その色彩選 択の幅が不当に制限されることにはならない。
したがって,被告の上記主張は失当である。
? 小括 以上のとおり,本願商標は,商標法3条2項の要件を具備するから,これと 異なる本件審決の判断は誤りである。
したがって,本件審決は,違法として取り消されるべきである。
2 被告の主張 (1) 判断基準の誤りの主張に対し ア 本願商標に係るオレンジ色は「赤みがかった黄色。」(乙1)の色彩であ り,例えばJISの色彩規格(乙2,3)にも例示されているような,あり 16 ふれた色彩の一つであって,建設工事の現場で利用される「ヘルメット」,「レインスーツ」,「フェンス」,「特殊車両」,「タワークレーン」,「現場作業着」などに一般的に採択されている色彩である(乙4ないし9)。
また,オレンジ色は,本願商標の指定商品と関連する建設機械や農機に係る分野において,油圧ショベル,バックホー,ホイールローダ,ショベルローダ,キャリア,フォークリフト,クレーン車,高所作業車の車体色として,取引上普通に採択されている実情がある。
さらに,「橙」色(マンセル値:5YR 6.5/14)は,人への危害及び財物への損害を与える事故防止などを目的として公表されている「JIS安全色」(乙10ないし12)として規格化されているなど,特に建設工事などに利用される建設機械や車両との関係においては,現場における安全確保や事故防止等の観点から,何人も自由な使用ができるように開放しておくべき必要性が高い色彩であって,事故防止という機能的な側面も備える色彩であるといえる。
このように本願商標である単色のオレンジ色(マンセル値:0.5YR5.6/11.2)は,極めて一般的に採択されている色彩の一種であるのみならず,同色又はその近似色は,その指定商品と関連する建設機械や農機に係る分野において,商品の車体色として取引上普通に採択されている実情があること,事故防止という機能的側面を備える色彩であることを踏まえると,これに接する需要者及び取引者をして,単に商品の美観又は機能を向上させる目的で採択されている色彩との印象を与えるにすぎず,本来的には商品の出所を表示する目的又は機能を有するものではないから,本願商標は,商品の特徴(色彩)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である。
したがって,本願商標は,商標法3条1項3号に該当する。
17 イ そして,商標法3条2項の趣旨に照らすと,本願商標の同項の要件の具 備の有無について,原告が本願商標を原告の業務に係る商品の自他識別標 識として,永年の間,他人に使用されることなく,独占排他的に継続使用し た実績を有する場合に該当するかどうかを基準として判断した本件審決に 誤りはない。
? 需要者の認定の誤りの主張に対し 建設機械には,油圧ショベルのほかにも,機能や用途などに応じて細分化 された多様な商品が含まれるとしても,それら建設機械を取り扱う業界全体 としては,各種建設機器(総合建機,ミニショベル,クレーン,フォークリフ トなど)に関わる業界相互の関連性は極めて密接で,市場分析においては,そ れらは建設機械に係る業界としてまとめて取り扱われている(甲32)。
また,本願商標の指定商品「油圧ショベル」は,ブームやアームを備えた建 設機械で,これにショベル系アタッチメントを組み合わせて,土砂の掘削作 業を主目的に,積み込み作業を行うことができるが,ショベル系以外にも各 種アタッチメントがあり,さまざまな建設機械のベースとして使用されるこ とも多いため(甲28の1,5葉目),汎用性をもった建設機械として,多様 な分野の工事関係者が需要者層に含まれる。中でも,小さなバケットを持つ 「油圧ショベル」であるミニショベルなどは,用途や機能の汎用性もあって, 建設業にとどまらず,農業や林業などにも広く利用されており(乙15ない し18,22),需要者の範囲が極めて広い。
さらに, 「油圧ショベル」は,他の建設機械や農機と商品の構造や機能,需 要者層などが共通することもあり,同一の営業主によって製造,販売される ことも多い。
加えて,油圧ショベルを含む建設機械は,通常は,操縦を行う個人が購入す るのではなく,建設工事を行う法人が業務用に購入することが多いと考えら 18 れるから,操縦のための免許の区分に応じて,建設機械の種別毎に取引市場 が分割されているということはできない。
そのため, 「油圧ショベル」は,他の建設機械や農機とは独立した取引市場 や業界を形成するものではなく,建設機械や農機に係る取引の実情は,業界 が共通又は近接し,取引市場や需要者層が共通する「油圧ショベル」に関して も妥当するというべきである。
以上によれば,「油圧ショベル」の需要者は,他の機械を含む建設機械全般 の需要者とは異なるとの原告の主張は失当である。
? 使用による識別力の獲得についての判断の誤りの主張に対しア 本願商標の独創性の欠如 本願商標は,オレンジ色(マンセル値:0.5YR5.6/11.2)の 色彩(単色)のみからなる商標であり,当該色彩を表示する位置(使用態様) を特定するものの,輪郭や外縁,形状のような図形的又は立体的な要素も ない,単一の色彩それ自体よりなる商標である。
本願商標の色彩は,前記?アのとおり,極めて一般的に採択されている 色彩であって,それ自体はありふれたものである。
また,本願商標は,色彩を表示する位置を油圧ショベルのブーム,アー ム,バケット,シリンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエイトの部分 に特定しているものの,いずれも商品の車体色として色彩が通常施される ような箇所にすぎないから,色彩の表示箇所としては,ありふれたもので ある。
したがって,本願商標は,その色彩及び使用態様に特段の創作性や特異 性はなく,独創性を欠くものである。
イ 建設機械等の分野における取引の実情 (ア) 本願商標に係るオレンジ色は,その指定商品である「油圧ショベル」 19 に関連する建設機械や農機に係る分野において,多数の事業者によって 取引上普通に用いられている。例えば,油圧ショベル,バックホー,ホイ ールローダ,ショベルローダ,キャリア,フォークリフト,クレーン車, 高所作業車などの車体色として,また,商品販売のウェブサイトや店舗 の看板などに表示される装飾やロゴの色彩などとして,取引上普通に採 択されている実情がある(乙13ないし33)。
(イ) 建設機械や農機の取引においては,販売店を訪れる前から予算や機種 などを決定し,販売店でも建設機械の作動状況などをチェックするなど, 慎重に検討した上で購入に至るものであり,その購入に当たっても,会 社名や商品名等を明記した注文書や物品受領書などを介して取引が行わ れるのが通常である(甲12の1ないし6,乙34)。
したがって,車体のロゴや商品名などに着目して取引する場合がある としても,商品の車体色を独立した出所識別標識として着目した上で取 引を行うことは想定し難い。
(ウ) 以上を踏まえると,建設機械や農機の分野においては,オレンジ色を 車体色又はその一部に採択する商品が多数存在することから,本願商標 の色彩も,それらの使用例の中に埋没してしまう上,通常の取引におい ては,製品の機能性や信頼性などのほか,どのメーカーの商品であるか 等の点も慎重に確認した上で,商品を選択し,購入すると考えられるか ら,需要者が商品調達の際に,車体色の色彩(特にオレンジ色)のみに着 目して商品の製造元や販売元を識別,選択することは通常考え難く,識 別すること自体も事実上困難でもある。
ウ 本願商標の使用態様 本願商標に係るオレンジ色を車体色の一部に表示する原告の「油圧ショ ベル」 (ミニショベルを含む。 は, ) オレンジ色が概ね本願商標の色彩を付す る位置(ブーム,アーム,バケット,それらのシリンダチューブ,車体後部。
20 甲2の1)に相当する部分に表示されてはいるが,必ずしもその表示態様 は一定ではなく,車体前部(操縦部)にもオレンジ色を使用するもの(甲2 の13,14,17,18,20,21等)もあれば,全体としては複数色 の組合せ(オレンジ色と緑,オレンジ色と黒,オレンジ色と白,オレンジ色 とグレーなど)とするものがあり,表示方法には幅があって,本願商標の使 用態様(表示箇所)も比較的漠然としており,単色表示との印象を散漫にし ている。
また,原告の油圧ショベル(ミニショベルを含む。)は,車体色の一部を オレンジ色としつつ,アーム部や車体には著名商標である「HITACH I」又は「日立」などの文字が表示されているため,原告の油圧ショベル (ミニショベルを含む。)に接した需要者は,まずは,それらの文字部分に 着目するのが自然である。
加えて,前記イの建設機械等の分野における取引の実情を踏まえると, 原告の油圧ショベル(ミニショベルを含む。)に表示された文字とは別に, 車体色が独立した出所識別標識として機能,認識される可能性は極めて低 い。
したがって,原告による本願商標の使用態様及び取引の実情を考慮すれ ば,原告の油圧ショベル(ミニショベルを含む。)の車体部分に使用される 本願商標は,独立した出所識別標識として認識される可能性は低く,需要 者に対し,独立した出所識別標識であるとの印象を与えるものではない。
エ 販売実績及び広告実績 原告の油圧ショベル(ミニショベルを含む。)は,一定の販売実績や市場 シェアを占めており,また,その広告活動も継続してされてはいるが,本願 商標の使用態様及び取引の実情を踏まえると,本願商標が独立した出所識 別標識として機能する可能性は極めて低いから,商品の販売実績や広告宣 伝活動によって,ブランド名や製品名,その機能などの側面に係る周知性 21 の向上は期待できても,車体色に採択されているにすぎない本願商標の色 彩に係る周知性が向上するとは直ちに考え難い。
そして,原告の取り扱う建設機械や鉱山機械(油圧ショベル(ミニショベ ルを含む。, ) ホイールローダ,ロードローラ,鉱山用ダンプトラックなど) に係るカタログや広告,テレビCM,雑誌記事,イベント及びスポンサー活 動(甲2の1ないし21,6の1ないし13,7の1,8の1ないし12, 40の1ないし4,50の1,2,8,9,11ないし122,54の1な いし5,57ないし61)は,それぞれの記事内容や活動内容も,原告の製 品やその機能の紹介にすぎないものや,油圧ショベルに言及すらしないよ うな漠然とした広告や広報活動にすぎないから,これらの広告等に接する 需要者が,原告の油圧ショベル(ミニショベルを含む。)の車体色である本 願商標を出所識別標識として着目し,その知名度が向上するとは考えにく く,本願商標の色彩に係る周知効果はないか,限定的であるというべきで ある。
オ アンケート調査の結果について (ア) 本件アンケートの調査対象者の選定は,建設業者などを無作為に抽出 したリストではなく,原告の関連会社が顧客開拓のために独自に調査し てリストアップしている需要者データを利用したものであるから,原告 の商品への関心が高い者が抽出されているおそれがある。
また,その需要者データは,原告による複数回の選別(ホイールローダ, ダンプトラック,道路機械などの需要者,農業や酪農の業種を除く。)を 経た上で,調査実施会社により抽出され,最終的には,土木建設業,解体 業,産業廃棄物処理業,建設機械レンタル業に絞られているから,結果と して,調査対象は,大手の建設業者やレンタル業者が中心となり,中小規 模の建設業者,道路などの土木事業者,林業や農業などの従事者の認識 が反映されていない。
22 さらに,調査対象者に含まれている建設機器レンタル事業者は,商品知 識や業界事情に極めて精通した取引者側の立場にいるため,建設業者や 農業従事者などの一般的な需要者の認識とは区別して取り扱うべきであ る。
したがって,本件アンケートは,調査対象者の選定抽出方法が偏って おり,恣意的に調査対象者が選定された可能性を指摘せざるを得ない。
(イ) 本件アンケートの質問方法は,本願商標の画像又は本願商標と同一の 色彩の画像を見せて「どのメーカーの油圧ショベルかをお答えください。」 と極めて単純に質問するものであるところ,メーカー名を思い浮かべる か否かを事前に尋ねることなく,当該色彩が出所識別標識と認識される ことを当然の前提として質問しており,回答者が特段のメーカー名を想 起できなくても何らかのメーカー名を回答せざるを得ない状況になるか ら,憶測での回答を排除できない。
回答者が2社以上のメーカーを想起する場合でも1社のみの回答を促 すような質問方法であり,原告が主張するように油圧ショベルの取引市 場が5社の寡占市場であれば,2社以上想起した回答者は,その中のメ ーカー名(例えば,原告)が自然と選択される一方で,その他のメーカー 名(ミニショベルのメーカー名を含む。)が切り捨てられ,回答として反 映されない可能性が高い。
したがって,本件アンケートは,質問方法が客観的な妥当性を欠いてい る。
(ウ) 以上のとおり,本件アンケート調査は,調査対象者の選定手法及び質 問方法が客観的な公平性を欠くものであって,本願商標の指定商品「油 圧ショベル」(ミニショベルを含む。)に係る需要者の認識を正確に反映 したものではないから,本願商標が,需要者の間において,原告の業務に 係る独立した出所識別標識として認識されていることを示すものではな 23 い。
カ 本願商標の独占適応性の欠如 (ア) 本願商標は,別紙1のとおり,色彩(単色)のみからなるもので,使 用態様 「油圧ショベルのブーム, ( アーム,バケット,シリンダチューブ, 建屋カバー及びカウンタウエイトの部分」に表示)を特定するものの,輪 郭や外縁,形状のような要素もない。
そうすると,本願商標の商標登録により排他的独占権が生じ得る使用 の範囲は,本願商標と同一の色彩を,その輪郭や外縁,形状,態様又は面 積等を問わず, 「油圧ショベルのブーム,アーム,バケット,シリンダチ ューブ,建屋カバー及びカウンタウエイトの部分」に商標として表示(使 用)することである。
(イ) 色彩は,色相,明度,彩度の3属性で分類できるもので,例えばマン セル表色系などのカラーオーダーシステムによって特定できるところ, 人が視覚によって見分け,記憶できる色彩には限界があり,あいまいな カテゴリ(赤,緑,黄,青,茶,紫,オレンジ,ピンク,灰,白,黒など) により記憶されるから,本願商標とマンセル値などの値が多少異なる色 彩であっても,その近似色(いわゆるオレンジ色のほか,赤みの強いオレ ンジ色や黄みの強いオレンジなど)は,本願商標とは,時と所を異にして 接する場合,見分けることは困難である。
そして,商標の類否は,時と所を異にして比較する離隔観察を前提とす るから,本願商標と類似する商標(色彩)には,ある商品につき使用した 場合,時と所を異にして接する場合に記憶に基づき見分けることが困難 で誤認混同を生じるおそれがある,オレンジ色の近似色が含まれる。
(ウ) 本願商標の指定商品「油圧ショベル」は,ユンボ,パワーショベル, バックホー,ドラグショベル,ショベルカーなど様々な名称でも呼ばれ る建設機械の一種であり,中でも小さなバケットを持つもの(バケット 24 容量が0.25?未満)はミニショベルと呼ばれ,同様の機器は建設業に とどまらず,農業や林業などにも広く利用されている。そして,油圧ショ ベル(ミニショベルを含む。 を製造販売する企業は, ) 原告,小松製作所, コベルコ建機,キャタピラージャパン及び住友建機の主要5社のほか, 農機大手を含む企業(ヤンマーホールディングス(以下「ヤンマー」とい う。,クボタ,竹内製作所など)などもあるが,それらの企業は,油圧シ ) ョベルのほかにも,建設機械(ブルドーザー,クレーン,ロードローラな ど)や農機なども取り扱っている(甲32)。
このように,油圧ショベル(ミニショベルを含む。)は,用途の汎用性 もあって,専門の事業者が製造販売するような商品ではなく,建設機械 や農機の分野に属する広い範囲の事業者によって製造販売されている実 情がある。
(エ) 以上を踏まえると,本願商標の登録適格性の判断において考慮すべき 第三者の使用例は,建設機械や農機の分野におけるオレンジ色の表示全 般,つまり,オレンジ色を,その輪郭や外縁,形態,態様又は面積を問わ ず,商品の車体色や広告などに表示する使用例である。
そして,建設機械や農機の分野では,オレンジ色は商品の車体色の色彩 として多数の事業者により採択されている実情があり,橙色(オレンジ 色)はJIS安全色として規格化され,安全確保や事故防止等の観点か ら,何人も自由な使用ができるように開放しておくべき必要性が高い色 彩である。
そうすると,仮に本願商標の登録を認めると,オレンジ色について, 「油圧ショベルのブーム,アーム,バケット,シリンダチューブ,建屋カ バー及びカウンタウエイトの部分」に相当すると判断される可能性のあ る使用態様における色彩使用が事実上制限されることになるから,元来 自由に利用できるはずであった色彩(オレンジ色及びその近似色)の使 25 用が阻害又は制限される影響は極めて深刻である。
したがって,本願商標は,原告に限って独占使用を認めることは,建設 機械や農機に係る分野において,現在及び将来を含めた色彩使用の自由 を著しく制限するものであるから,公益的見地から許容されるものでは ない。
(オ) これに対し原告は,@油圧ショベルは,参入企業が少なく,5社によ る寡占状態が継続しているところ,これらの企業はいずれも特定の単色 を自らの油圧ショベルに使用し続けており,そのうちオレンジ色を継続 して油圧ショベルに使用しているのは,原告1社のみであるから,原告 が今後もこれまで同様に本願商標の色彩を独占したとしても他社のデザ インの選択の余地が不当に狭くなることにはならない,A不正競争の目 的でない既存の使用者に対する継続的使用権もあるから,他の事業者は 業務が妨げられることにはならないため,原告による本願商標の独占使 用を認めることは,公益的見地からも何ら問題はない旨主張する。
しかしながら,油圧ショベルの国内シェアだけみれば,5社が多くを 占めるとしても,その他に建設機械を取り扱う分野全体としては,ミニ ショベルに係る国内企業(クボタ,ヤンマー,竹内製作所など)やその他 の多数の国内企業のほか,欧米(ディア・アンド・カンパニー,ボルボ・ カー,CNHインダストリアル,JCB)や中国(中聯重化,徐工集団, 三一重工),韓国(現代重工業,斗山インフラコア)などの海外企業もあ るから(甲32,34の1) 原告による色彩の独占使用に関する意向が, , 他社から直ちに受け入れられるような市場環境にあるとは考えにくい。
また,仮に主要な事業者や取引者間で,色彩の使用に関する漠然とした 棲み分けがされているとしても,国内市場への新規参入者や既存の事業 者による事業拡張の可能性などをも考慮すれば,そのような状況を,特 26 定人に商標権を付与することで恒常的なルールとして将来にわたって確 立してよいかどうかは別の問題である。
加えて,建設機械や農機に係る分野において,オレンジ色は,油圧ショ ベル(ミニショベルを含む。)を含む商品の車体色として,取引上普通に 採択されている実情があるから,その分野の事業者の間において,本願 商標の使用は原告だけができるというほどの共通認識があるとも考え難 い。そして,本願商標は,自由な使用を開放しておくべき必要性は高いJ IS安全色にも近い色彩であることに照らすと,仮に原告による独占使 用を認めた場合,自由に利用できるはずであり,又は現に自由に利用さ れている色彩の使用が阻害又は制限されるおそれがある。
次に,改正商標法附則5条3項に規定する継続的使用権は,あくまで その法律の施行時点において既に使用されている商標に蓄積された信用 を保護するため,一定の条件の下に継続使用を認めるにすぎないから, 仕様変更(色彩の変更)や新規参入があった場合にまで適用されるもの ではない。
したがって,原告の上記主張は失当である。
(4) 小括 以上によれば,本願商標を車体色の一部に採用する原告の油圧ショベル(ミ ニショベルを含む。 の販売実績や広告実績の程度如何にかかわらず, ) 本願商 標の独創性の欠如,建設機械等の分野における取引の実情(慎重な取引,色彩 のみで識別する困難さ) 本願商標の使用態様 , (色彩が独立した出所識別標識 との印象を与えないこと) 本件アンケートが, , 調査対象者の選定手法及び質 問方法に客観的な公平性を欠くもので本願商標の指定商品「油圧ショベル」 (ミニショベルを含む。)に係る需要者の認識を正確に反映したものではな いこと,さらには,本願商標の独占適応性の欠如を総合的に考慮すれば,本願 27 商標は,永年の間,原告により独占的排他的に継続使用されているものでは なく,事実上,原告による独占的使用が容認されているということはできな いから,原告によって使用をされた結果,需要者が原告の業務に係る商品で あることを認識することができるものに該当するとはいえない。
したがって,本願商標が商標法3条2項の要件を具備しないとした本件審 決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由は理由がない。
当裁判所の判断
1 単一の色彩のみからなる商標と商標法3条2項について ? 本願商標は,別紙1?及び?イの記載から特定される色彩のみからなるも のであり,油圧ショベルのブーム,アーム,バケット,シリンダチューブ,建 屋カバー及びカウンタウエイトの部分をオレンジ色(マンセル値:0.5YR 5.6/11.2)とする構成からなる。
このように本願商標は,単一の色彩のみからなり,その色彩を付する位置 を上記部分に特定した商標である。
?ア ところで,商標法3条1項は,自己の業務に係る商品又は役務について 使用をする商標については,次に掲げる商標を除き,商標登録を受けるこ とができる旨を規定し,同項3号において,「その商品の産地,販売地,品 質,原材料,効能,用途,形状(包装の形状を含む。),生産若しくは使用 の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格」 「普通に用いられ を る方法で表示する標章のみからなる商標」を掲げる。
同号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされる趣旨は,このような 商標は,商品の産地,販売地,品質その他の特性を表示記述する標章であっ て,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものである から,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないもので あり,独占適応性を欠くとともに,一般的に使用される標章であって,多く の場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないことによ 28 るものと解される(最高裁昭和53年(行ツ)第129号同54年4月10 日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁参照)。
しかるところ,商品の色彩は,商品の特性であるといえるから,同号所定 の「その他の特徴」に該当するものと解される。そして,商品の色彩は,古 来存在し,通常は商品のイメージや美観を高めるために適宜選択されるも のであり,また,商品の色彩には自然発生的な色彩や商品の機能を確保す るために必要とされるものもあることからすると,取引に際し必要適切な 表示として何人もその使用を欲するものであるから,原則として何人も自 由に選択して使用できるものとすべきであり,特に,単一の色彩のみから なる商標については,同号の上記趣旨が妥当するものと解される。
イ 次に,商標法3条2項は,同条1項3号から5号までに該当する商標で あっても,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務 であることを認識することができるもの」については,商標登録を受ける ことができる旨を規定している。同条2項の趣旨は,同条1項3号から5 号までに該当する商標であっても,特定の者が長年その業務に係る商品又 は役務について使用した結果,その商標がその商品又は役務と密接に結び ついて出所表示機能をもつに至ることが経験的に認められるので,このよ うな場合には商標登録を受けることができるとしたものと解される。
そうすると,同条1項3号に該当する単一の色彩のみからなる商標が同 条2項の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務で あることを認識することができるもの」に当たるというためには,当該商 標が使用をされた結果,特定人の業務に係る商品又は役務であることを表 示するものとして需要者の間に広く認識されるに至り,その使用により自 他商品識別力又は自他役務識別力を獲得していることが必要であり,さら に,同条1項3号の前記趣旨に鑑みると,特定人による当該商標の独占使 用を認めることが公益上の見地からみても許容される事情があることを要 29 すると解するのが相当である。
以上を前提に,本願商標が同条2項の「使用をされた結果需要者が何人 かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」に該当する かどうかについて判断する。
2 認定事実 証拠(甲1ないし3,5ないし8,10,12,13,28,30,32,3 4ないし37,39ないし41,43ないし45,47,48,50,52,5 3,54の1,54の5,55,65,乙1ないし16,21,22,36ない し38,41ないし50(枝番のあるものは枝番を含む。特に断りのない限り, 以下同じ。))及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
(1) 油圧ショベルの構造,機能,用途等について ア 本願商標の指定商品「油圧ショベル」は,土砂や岩を掘削するための建設 機械である「掘削機械」の一種である。油圧ショベルは,ユンボ,パワーシ ョベル,バックホー,ドラグショベル,ショベルカーなど様々な名称で呼ば れている。油圧ショベルは,社団法人日本建設機械工業会により,統計上, 6トン未満のものは「ミニショベル」として小型建設機械に,6トン以上の ものは「油圧ショベル」として一般土木機械に分類されている(甲29ない し31)。
油圧ショベルは,別紙2に示すように,自走できる下部走行体と,その上 で360度回転できる上部旋回体を有し,機械前方に取り付けられるフロ ントアタッチメントが,ブーム,バケット及びこの2つを連結させる腕の 総称であるアームの3関節構造を有し,本体が旋回(回転)や走行を行うこ とができ,さらには,フロントアタッチメントの交換によって様々な作業 を行うことができる多様性を有している。
油圧ショベルは,日本国内で建設業において広く用いられているほか, その用途に汎用性があることから農業や林業にも利用されている。
30 イ 油圧ショベル(ミニショベルを含む。)を製造販売する企業は,小松製作 所,原告,コベルコ建機,キャタピラージャパン及び住友建機の5社(以下 「主要5社」という場合がある。)のほか,クボタ,ヤンマー,竹内製作所 等がある。これらの企業は,油圧ショベル(ミニショベルを含む。)ととも に,ブルドーザー,クレーン,ロードローラ等の建設機械を製造販売し,ク ボタ,ヤンマー等は農機も製造販売している。
また,市場分析において,油圧ショベル(ミニショベルを含む。)は,ク レーン等とまとめて,建設機械に係る業界として扱われている(甲32)。
(2) 本願商標の使用態様及び使用期間 ア 原告は,1970年(昭和45年)10月1日,日立製作所の建設機械製 造部門が独立し,旧日立建機株式会社と合併して設立された株式会社であ る。
原告の前身である日立製作所は,昭和40年,油圧ショベル「UH03」 の外面の塗装の色彩として,本願商標の色彩を採用した(甲36)。
原告は,その設立当時から,本願商標の色彩を油圧ショベルを始めとす る各種建設機械の外面の塗装の色彩として,現在まで継続して使用してき た。
イ 原告が販売する油圧ショベルには,本願商標のオレンジ色を車体の全体 に使用したもの(甲2の13,2の14,2の17,2の18,2の20, 2の21,8の1,8の4ないし7,8の9ないし12,40の1),アー ム部及び車体後部は本願商標のオレンジ色が採用されているが,操縦席付 近や駆動部は黒色又は鼠色が採用されているもの(甲2の1ないし12, 2の15,2の16,2の19,6の1,6の5ないし13,8の2,8の 3,8の8,9の4,40の2),操縦席,建屋カバー及びカウンタウエイ トはオレンジ色であるが,アーム,ブーム,バケットは黒色であるもの(甲 3の2),アーム,ブーム,シリンダチューブは本願商標のオレンジ色が採 31 用されているが,操縦席や車体後部に緑色のラインが入ったもの(甲6の 2ないし4)がある。
また,原告の販売する油圧ショベルの多くは,アーム部や車体後部に白 抜き又は黒文字で著名商標である「HITACHI」又は「日立」の文字が 付されている(甲2,3の2,6の6ないし13,8の1ないし3,8の5 ないし8,8の10,8の11,40の1,2)。なお, 「HITACHI」 又は「日立」の文字は,顧客の要望により顧客の会社名に変えることもあ る。
? 本願商標が使用された油圧ショベルの販売状況 ア 販売地域 原告は,本願商標が使用された油圧ショベルを,北海道,東北,関東,中 部,関西及び西日本(九州を含む。)の各地域に所在する事業者に対して販 売し,上記油圧ショベルは,日本全国で使用されている。
イ 販売台数及びシェア 本願商標が使用された原告の油圧ショベルの1974年(昭和49年) から2018年(平成30年)までの年度別販売台数は,●●●●●●●● ●台であり,1981年(昭和56年)以降のシェア(市場占有率)は概ね 20%台である。
我が国における油圧ショベルのシェアは,小松製作所,原告,キャタピラ ージャパン,コベルコ建機及び住友建機の主要5社がほぼ独占している。
2005年(平成17年)から2011年(平成23年)までの国内出荷台 数のシェアにおいて,原告は毎年3位以内に入っている。
(4) 本願商標が使用された商品の広告宣伝 ア 新聞,雑誌,ウェブ広告等 原告は,1993年(平成5年)以降,車体の一部に本願商標の色彩を使 用した油圧ショベルのカラー画像を用いた広告を,少なくとも47種類以 32 上作成し,これらを「日本経済新聞」,「朝日新聞」,「産経新聞」,「日 刊工業新聞」 「建通新聞」 「北海道新聞」 , , 等の新聞や, 「日経ビジネス」, 「投資経済」 「東洋経済」 「週刊ダイヤモンド」 「週刊エコノミスト」 , , , , 「日経コンストラクション」,「建設機械」等の雑誌(新聞及び雑誌の合計 26種類)に継続的に掲載した。
また,原告は,大手建設機械レンタル会社のカタログや,書籍・小冊子に も,車体の一部に本願商標の色彩を使用した油圧ショベルのカラー画像を 用いた広告を継続的に出稿したほか,2019年以降,本願商標の色彩を 使用した油圧ショベルのカラー画像を用いたウェブ広告「ほら,見て!」を 作成して,Google等の4種類のオンライン媒体に出稿した。このウ ェブ広告は,合計で300万回以上表示された(甲52)。
イ テレビCM 原告は,1990年(平成2年)9月から2016年(平成28年)1月 までの間(ただし,2001年(平成13年)下期から2007年(平成1 9年)上期を除く。),本願商標の色彩を使用した油圧ショベルのほか,本 願商標の色彩を使用した積込み機,ホイールローダ,鉱山用ダンプトラッ クなどの建設機械を含めて,その映像が表示されるテレビCMを放映した。
ウ 広告宣伝費 1990年(平成2年)から2014年(平成26年)までの期間におけ る年度別及び媒体別の原告の広告宣伝費は,多いときで年間15億円を超 え,2010年(平成22年)から2014年(平成26年)においても年 間4億円に近い金額が支出されている。
(5) アンケート調査の結果 ア 本件アンケート(「油圧ショベルの色彩に関するアンケート調査」)は, 原告が,楽天リサーチに依頼して,「彩色位置を特定したオレンジ色の色彩 のみの商標(本願商標)が,どの建設機械メーカーの油圧ショベルを示すも 33 のとして認知されているかを把握する」こと(甲10の1),「(本願商標 と同一の彩色である)オレンジ色の色彩のみの商標が,本願商標と同一の 色彩に関し,どの建設機械メーカーの油圧ショベルを示すものとして認知 されているかを把握する」こと(甲10の2)を「調査目的」として実施し たものである(以下,本件アンケートのうち,甲10の1のアンケートを 「本願商標に係るアンケート」と,甲10の2のアンケートを「本願商標と 同一の色彩に係るアンケート」という。)。
本件アンケートの概要は,@「調査対象者」は「油圧ショベルの取引者及 び需要者(土木建設業,解体業者,廃棄物処理業者,建設機械レンタル会社 など)」,A「対象者数」は本願商標に係るアンケートにつき「496ヶ 所」 本願商標と同一の色彩に係るアンケートにつき , 「502ヶ所」 B , 「調 査手法」 「全国の油圧ショベルの取引者及び需要者の回答を得るため, は, 郵送(ダイレクトメール)による質問票送付とし,宛先は代表者名,不明の 場合は社名にて送付し,設問において回答するメーカー名は,選択式では なく,自由記入式」とし,具体的な設問内容は「以下の画像の色彩を見て, どのメーカーの油圧ショベルかをお答えください。」,C「回収期間」は, 「2017年1月13日〜1月31日」,D「認知判断基準」は「有効回答 の中で「日立建機」の他,販売会社である「日立建機日本」,「日立」,「ヒ タチ」,「HITACHI」は日立建機を認知しているものと判断した。そ の他のメーカー名を記入したものは,認知していないもの(識別力なし)と した。」というものである。
イ 本件アンケートの「調査対象者」の絞込みは,@原告は,油圧ショベル, ホイールローダ,ダンプトラック,道路機械,環境機械など原告が製造する 建設機械全般を販売している日立建機日本株式会社が顧客開拓のために独 自に調査してリストアップしている日本全国の需要者に係るデータ(約● ●●件)から,廃業した業者や,油圧ショベルと関連性の低い,ホイールロ 34 ーダ,ダンプトラック,道路機械,環境機械等の需要者,農業や酪農といっ た土木建設業等以外の業種等の需要者を対象者から除外し,その結果,残 りの需要者のデータは約●●●件となり,実施件数を約500件と設定し た(甲45),A楽天リサーチは,都道府県への送付件数について,国土交 通省が開催した第2回建設産業活性化会議において,一般財団法人建設経 済研究所が2014年(平成26年)1月30日に発表した「建設業就業者 数の将来設計」記載の2012年(平成24年)時点の地域別の就労者数に 基づき,地域毎のアンケート実施件数(送付件数)を決定し,上記需要者の データから,地域毎のアンケート実施件数になるようアンケート送付先を 無作為に選定したものである(甲10の1,2)。
ウ 本件アンケートの調査結果は,本願商標に係るアンケートにつき,有効 回答数168通(回収率33.9%),「日立建機」と認知した件数が16 8件中163件で,認知率97.0%,本願商標と同一の色彩に係るアンケ ートにつき,有効回答数193通(回収率38.6%),「日立建機」と認 知した件数が193件中185件で,認知率95.9%であった。
(6) 原告以外の事業者による油圧ショベルにおける色彩の使用状況等 ア 油圧ショベル(ミニショベルベルを除く。)について (ア) 油圧ショベルを販売する主要5社のうち,原告以外の4社の色彩の使 用状況は,次のとおりである。
小松製作所が販売する油圧ショベルは,ブーム,アーム,バケット,シ リンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエイトを黄色で,青色のロゴ を採用している(甲1の3,33,35)。
キャタピラージャパンが販売する油圧ショベルは,ブーム,アーム,バ ケット,シリンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエイトを黄色で, 黒地に白抜きのロゴを採用している(甲1の1,33,35)。
コベルコ建機が販売する油圧ショベルは,ブーム,アーム,バケット, 35 シリンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエイトを水色で,白抜きのロゴを採用している(甲1の6,33,35)。
住友建機が販売する油圧ショベルは,バケット,ブーム,アーム,シリ ンダチューブ,カウンタウエイト及び建屋カバーを黄色で,黒いロゴを 採用している(甲1の5,33,35)。また,2013年(平成25年) 11月25日に発売のハイブリッドショベル(SH200HB-6) (乙 42),その後継機で2017年(平成29年)10月1日発売のハイブ リッドショベル(SH200HB-7) (乙43)のブーム,アーム,バ ケット及びシリンダチューブは,いずれも赤みがかったオレンジ色の塗 装がされている。
(イ) 主要5社以外では,韓国建設機械メーカーの「Doosan Inf racore」社の子会社であるボブキャット社が2014年(平成2 6年)5月に発売したホイール式油圧ショベル「DXシリーズ」は,ブー ム,アーム,シリンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエイトにオレ ンジ色の塗装を採用している(乙14)。
また,イワフジ工業株式会社(以下「イワフジ」という。)が2011 年(平成23年)10月1日に発売した林業ベースマシン(CT-500 B/BS) 乙47) ( 及びその後継機(CT-500C/CT500CS) (乙16)は,ブーム,アーム,シリンダチューブ,建屋カバー及びカウ ンタウエイトにオレンジ色又は赤みがかったオレンジ色の塗装を採用し ている。
さらに,クボタが「ミニバックホー」の利点を備えた8トンクラスのバ ックホーとして平成18年7月1日に発売した「KX080-3」は,ブ ーム,アーム及びシリンダチューブにオレンジ色の塗装を採用している (乙49)。なお,クボタのウェブサイト(乙50)には,ミニバックホ ーのベースとなった全旋回式油圧ショベル「KH1」の写真が掲載され 36 ているところ, 「KH1」のバケット,アーム,ブーム,建屋カバー及び カウンタウエイトは,オレンジ色の色彩が採用されている。
イ ミニショベルについて 油圧ショベルのうち6トン未満に分類されるミニショベルは,主に,ヤ ンマー,クボタ,竹内製作所が製造販売している。
ヤンマーの販売するミニショベルは,黄色の塗装が採用され,黒いロゴ が用いられている(甲35)。
クボタの販売するミニショベルに属する「ミニバックホー」(KX-5 7-6E,林業モデル)のカタログ(2017年(平成29年)3月発行。
乙48)には,ブーム,アーム,カウンタウエイトにオレンジ色の塗装が 採用されたものが掲載されている。また,クボタは,そのウェブサイトで, 2020年(令和2年)1月15日付けで,「京都市内で開催した製品展 示会において,開発中の小型建機(ミニバックホー)の試作機を公開」し た旨の記事を,アーム,ブーム,シリンダチューブ及びカウンタウエイト にオレンジ色の色彩を採用したミニバックホーの写真とともに掲載した (乙21)。
3 本願商標の商標法3条2項の要件の具備について (1) 本願商標の指定商品の需要者について 前記2(1)アの認定事実によれば,本願商標の指定商品である「油圧ショベ ル」は,砂や岩を掘削するための建設機械である「掘削機械」の一種であり, このうち,6トン未満のものは「ミニショベル」として小型建設機械に,6ト ン以上のものは「油圧ショベル」として一般土木機械に分類されていること, 油圧ショベルは,様々な作業を行うことができる多様性を有し,その用途に 汎用性があるため,建設業において広く用いられているほか,農業や林業に も利用されていることが認められる。
上記認定事実によれば,油圧ショベルの需要者には,建設業者,建設機械を 37 取り扱う販売業者及びリース業者のみならず,農業従事者及び林業従事者, 農機及び林業機械を取り扱う販売業者等も含まれるものと認めるのが相当で ある。
(2) 本願商標の使用による識別力の獲得について ア 本願商標の構成態様 (ア) 本願商標は,別紙1(1)及び(2)イ記載のとおり,油圧ショベルのブー ム,アーム,バケット,シリンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエ イトの部分をオレンジ色(マンセル値:0.5YR5.6/11.2)と する構成からなる,色彩のみからなる商標であるところ,本願商標の色 彩は,単一の色彩であり,本願商標の色彩を付する位置は,上記部分に特 定されているが,上記部分の形状は,別紙1(1)に着色して示された図形 の形状や輪郭のものに限定されるものではない。
本願商標の色彩名の「オレンジ色」は,一般に「赤みがかった黄色」と 定義され(乙1),基本色の一つであること(乙37の4頁),JISの色 彩規格に,慣用色名として「オレンジ色」 (マンセル値:5YR6.5/ 13)が挙げられていること(乙2),本願商標の色彩と同じ色相が色相 環に挙げられ,近似した色見本が挙げられていること(乙3)からする と,本願商標の色彩のオレンジ色は,ありふれた色彩であって,特異な色 彩であるとはいえない。
また,本願商標の色彩と同系色の「橙」色(マンセル値:5YR6.5 /14)は,人への危害及び財物への損害を与える事故防止・防火,健康 上有害な情報並びに緊急避難を目的として規格化された「JIS安全色」 の一つであり(乙10ないし12),ヘルメット(乙4),レインスーツ (乙5),サイトウェア(乙9),ガードフェンス(乙6),特殊車両(乙 7),タワークレーン(乙8)にオレンジ色が使用されているように,オ レンジ色は,工事現場で一般に使用されている色彩である。
38 さらに,オレンジ色は,黄色と赤色の中間色であって,基本色の一つで あることから,オレンジ色の色彩名から観念される色の幅は広いもので ある上,人の視覚によって,マンセル値で特定された本願商標のオレン ジ色とマンセル値の異なる同系色のオレンジ色を厳密に識別することに は限界がある(乙37,38)。
(イ) 油圧ショベルは,前記2(1)アの構造を有するところ,本願商標で特定 された色彩を付する位置は,油圧ショベルのブーム,アーム,バケット, シリンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエイトの部分であり,車 体色として色彩が通常施される箇所をほぼ網羅しており,色彩を付する 位置としては,ありふれたものである。
(ウ) 以上によれば,本願商標の色彩及び色彩を付する位置は,いずれもあ りふれたものであり,本願商標の構成態様に特異性はない。
イ 原告による本願商標の使用態様,油圧ショベルの販売実績及び広告宣伝 (ア) 前記2(2)及び(3)の認定事実によれば,原告は,1970年(昭和4 5年)10月1日に設立されて以来,50年以上にわたり,本願商標又は 本願商標と同一の色彩が使用された油圧ショベルを全国の事業者に対し て継続して販売してきたこと,原告の油圧ショベルの1974年(昭和 49年)から2018年(平成30年)までの年度別販売台数は,●●● ●●●●●●台であり,1981年以降のシェア(市場占有率)は概ね2 0%台であって,油圧ショベルのシェアは,原告を含む主要5社がほぼ 独占し,2005年(平成17年)から2011年(平成23年)までの 国内出荷台数のシェアでは,原告は毎年3位以内に入っていることが認 められる。
上記認定事実によれば,全国の建設工事,土木工事等の工事現場では, 多くの工事関係者等が本願商標又は本願商標の色彩が使用された原告の 油圧ショベルを頻繁に目にしていたものと認められ,これらの工事関係 39 者等は,原告の油圧ショベルにオレンジ色が使用されていることを認識 したものと認められる。
他方で,前記2?イのとおり,原告の油圧ショベルの多くには,アーム 部や車体後部に白抜き又は黒文字で著名商標である「HITACHI」 又は「日立」の文字が付されており,カタログにも原告の社名や「HIT ACHI」又は「日立」の文字の記載があることが認められ,これらの文 字の表示から,原告の油圧ショベルの出所が現に認識され,又は認識さ れ得ることも否定することはできない。
(イ) 前記2(4)の認定事実によれば,原告は,1993年(平成5年)以降, 本願商標の色彩を使用した油圧ショベルのカラー画像を用いた広告を, 少なくとも47種類以上作成し,これらを合計26種類の新聞及び雑誌 に継続的に掲載したこと,原告は,大手建設機械レンタル会社のカタロ グ,書籍・小冊子に本願商標の色彩を使用した油圧ショベルのカラー画 像を用いた広告を継続的に出稿したほか,本願商標の色彩を使用した油 圧ショベルのカラー画像を用いたウェブ広告をGoogle等の4種類 のオンライン媒体に出稿し,このウェブ広告は,合計300万回以上表 示されたこと,原告は,1990年(平成2年)9月から2016年(平 成28年)1月までの間にわたり,本願商標の色彩を使用した油圧ショ ベル,積込み機,ホイールローダ,鉱山用ダンプトラックなどの建設機械 を含めて,その映像が表示されるテレビCMを放映したこと,1990 年(平成2年)から2014年(平成26年)までの期間の原告の広告宣 伝費は,多いときで年間15億円を超え,2010年(平成22年)から 2014年(平成26年)においても年間約4億円に及んでいることが 認められる。
他方で,これらの広告(テレビCMを含む。)には,いずれも原告の社 名や「HITACHI」 「日立」 又は の文字が表示されていること(甲6, 40 7の1,50等),原告の油圧ショベルのほか,原告の積込み機,ホイー ルローダ,鉱山用ダンプトラックなどに本願商標の色彩を使用した建設 機械が表示されるもの(甲6の1,6の13,50の3,50の4の2, 50の5ないし7,50の10,50の47ないし52,50の62ない し66,50の100,50の103ないし108,50の112ないし 118,50の121,50の122,54の5),油圧ショベルのモチ ーフがオレンジ色をした五線譜の音符として表示されるもの(甲50の 2の2,50の14,50の15,50の34,50の35,50の36), 原告の油圧ショベルその他の建設機械が将棋の駒として表示されるもの (甲50の9の2,50の29,50の30,53,54の1),オレン ジを背景にしたキリンのシルエットと同じシルエットの一つに油圧ショ ベルが表示されるもの(甲50の8の2,50の28,50の41,50 の111)があることに鑑みると,これらの広告は,需要者に対して,本 願商標の色彩が原告のコーポレートカラーであることを印象付けるもの であるとしても,本願商標と原告の油圧ショベルとの間に強い結びつき があることまで印象付けるものとはいえない。
(ウ) さらに,前記2(6)のとおり,本願商標の色彩と同系色であるオレンジ 色をその車体の一部に使用した油圧ショベルとして,住友建機のハイブ リッドショベル,ボブキャット社のDXシリーズ,イワフジの林業ベー スマシン及びその後継機,クボタの「ミニバックホー」等が販売されてい たことに照らすと,本件審決時において,原告が油圧ショベル(ミニショ ベルを含む。)についてオレンジ色の色彩を独占的に使用していたものと 認めることはできない。
(エ) 以上によれば,本願商標が使用された原告の油圧ショベルの販売実績, シェア及び広告宣伝から,本願商標又は本願商標の色彩が原告の油圧シ ョベルに使用されていることは,相当多くの需要者に認識されているこ 41 とは認められるものの,他方で,本願商標は,色彩及び色彩の付する位置 がありふれたものであって,その構成態様は特異なものとはいえないこ と,原告の油圧ショベルの多くには,アーム部や車体後部等に著名商標 である「HITACHI」又は「日立」の文字が付されており,これらの 文字の表示から,原告の油圧ショベルの出所が現に認識され,又は認識 され得ることも否定することはできないこと,原告による広告宣伝は, これに接した需要者に対し,本願商標と原告の油圧ショベルとの間に強 い結びつきがあることまで印象付けるものとはいえないこと,原告以外 の複数の事業者が本願商標の色彩と同系色であるオレンジ色をその車体 の一部に使用した油圧ショベルを販売していたことを総合考慮すると, 本件審決時(審決日令和元年9月19日)において,原告によって本願商 標が使用をされた結果,本願商標のみが独立して,原告の業務に係る油 圧ショベルを表示するものとして需要者の間に広く認識されていたとま で認めることはできない。
ウ 本件アンケートの調査結果について 前記(1)認定のとおり,油圧ショベルの需要者は,建設業者,建設機械を 取り扱う販売業者及びリース業者のみならず,農業従事者及び林業従事者, 農機及び林業機械を取り扱う販売業者等が含まれるものであるが,本件ア ンケートは,土木建設業以外の業種等の需要者が調査対象者から除外され, 農業従事者及び林業従事者等が調査対象者に含まれていないから,本件ア ンケートの調査結果は,油圧ショベルの需要者の一部の認識を反映したも のにとどまっている。
また,前記2(5)アの認定事実によれば,本件アンケートのうち,本願商 標に係るアンケートの設問は,別紙1(1)アの本願商標の画像を示した上で, 「以下の画像の色彩を見て,どのメーカーの油圧ショベルかをお答えくだ さい。」というものであり, 「回答するメーカー名は,選択式ではなく,自由 42 記入式」としているが, 「回答するメーカー名」は複数であってもよいこと の明記はない。他方で,前記イ(エ)のとおり,原告以外の複数の事業者が本 願商標の色彩と同系色であるオレンジ色をその車体の一部に使用した油圧 ショベルを販売していたことに照らすならば, 「回答するメーカー名」は複 数であってもよいことが明記されていないことは,本願商標に係るアンケ ートの調査結果(有効回答数168通(回収率33.9%),認知率97. 0%)にも,影響を及ぼすものといえる。
そうすると,本件アンケートの調査結果から認定できる需要者における 本願商標の認知度は限定的であるものといわざるを得ない。
エ まとめ 前記アないしウによれば,本件商標が使用された原告の油圧ショベルの 販売期間,販売実績,シェア及び広告宣伝から,本願商標又は本願商標の色 彩が原告の油圧ショベルに使用されていることは,相当多くの需要者に認 識されていることは認められるものの,本願商標の色彩のみが独立して, 原告の販売する油圧ショベルを表示するものとして需要者の間に広く認識 されていたものとまで認めることはできず,また,本件アンケートは,農業 従事者及び林業従事者等の認識が反映されておらず,油圧ショベルの需要 者の一部の認識を反映したものにとどまっており,本件アンケートの調査 結果から認定できる需要者における本件商標の認知度は限定的であるもの といわざる得ないことからすれば,本件アンケートの調査結果を併せ考慮 しても,本件審決時(審決日令和元年9月19日)において,本願商標は, 原告によって使用をされた結果,原告の業務に係る油圧ショベルを表示す るものとして需要者の間に広く認識されていたものとまで認めることはで きないから,本願商標は,その使用により自他商品識別機能ないし自他商 品識別力を獲得したものと認めることはできない。
これに反する原告の主張は採用することができない。
43 (3) 本願商標の独占適応性について 原告は,@油圧ショベルは,参入企業数が少なく,原告,小松製作所,コベ ルコ建機,キャタピラージャパン及び住友建機の主要5社による寡占状態が 継続しており,主要5社はいずれも特定の単色を自らの油圧ショベルに使用 し,オレンジ色を継続して油圧ショベルに使用しているのは原告1社のみで あり,各社が特定の単色を使用していること,原告が本願商標に係る色彩で あるオレンジ色(マンセル値:0.5YR5.6/11.2)を使用している ことは,油圧ショベルの需要者においても当然知られているから,このよう な油圧ショベルの業界の実情に鑑みれば,原告が今後もこれまでと同様に本 願商標の色彩を独占したとしても,他社のデザインの選択の余地が不当に狭 くなることにはならない,A仮に現に本願商標の色彩又はこれに類似する色 彩を油圧ショベルに使用している事業者が原告以外に存在するとしても,当 該事業者が改正商標法附則5条3項の要件を満たす場合には,本願商標の登 録によっても継続して当該色彩を使用することが可能であり,その業務が妨 げられることはない旨主張する。
しかしながら,前記(1)及び(2)で説示したとおり,?油圧ショベルは,様々 な作業を行うことができる多様性を有し,その用途に汎用性があるため,建 設業において広く用いられているほか,農業や林業にも利用されており,油 圧ショベルの需要者には,建設業者,建設機械を取り扱う販売業者及びリー ス業者のみならず,農業従事者及び林業従事者等も含まれること,?本願商 標の色彩と同系色の「橙」色(マンセル値:5YR6.5/14)は,人への 危害及び財物への損害を与える事故防止・防火,健康上有害な情報並びに緊 急避難を目的として規格化された「JIS安全色」の一つであり,ヘルメッ ト,レインスーツ,サイトウェア,ガードフェンス等にオレンジ色が使用さ れ,オレンジ色は,工事現場で一般に使用されている色彩であること,?原告 以外の複数の事業者が本願商標の色彩と同系色であるオレンジ色をその車体 44 の一部に使用した油圧ショベルを販売していたこと,?オレンジ色は,黄色 と赤色の中間色であって,基本色の一つであることから,オレンジ色の色彩 名から観念される色の幅は広いものである上,人の視覚によって,マンセル 値で特定された本願商標のオレンジ色とマンセル値の異なる同系色のオレン ジ色を厳密に識別することには限界があり,加えて,本願商標は,色彩を付す る位置を特定した,単一の色彩のみからなる商標であり,色彩を付する位置 の部分の形状や輪郭に限定がないため,本願商標の商標登録が認められた場 合の商標権の禁止権(商標法37条)の及ぶ範囲は広いものとなることに鑑 みると,原告の挙げる@及びAの事情を勘案しても,原告において油圧ショ ベルにおける本願商標の独占的使用を認めることは適当ではないから,@及 びAの事情は,原告による本願商標の独占使用を認めることが公益上の見地 からみても許容される事情に当たるものと認めることはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(4) 小括 以上によれば,本願商標は,本件審決時(審決日令和元年9月19日)にお いて,原告による使用をされた結果,原告の業務に係る油圧ショベルを表示 するものとして,需要者の間に広く認識されたものとはいえないから,本願 商標はその使用により自他商品識別機能ないし自他商品識別力を獲得したも のとはいえず,また,原告による本願商標の独占使用を認めることが公益上 の見地からみても許容される事情があるものと認めることはできないから, 商標法3条2項の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であ ることを認識することができるもの」に該当するものと認めることはできな い。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の 取消事由は理由がない。
結論
45 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。
追加
46 (別紙1)本願商標?商標登録を受けようとする商標?商標の詳細な説明ア出願時商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という。)は,色彩のみからなるものであり,油圧ショベルのブーム,アーム,バケット,シリンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエイトの部分をタキシーイエロー(マンセル値:0.5YR5.6/11.2)とする構成からなる。なお,破線は,商品の形状の一例を示したものであり,商標を構成する要素ではない。
イ手続補正後商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という。)は,色彩のみからなるものであり,油圧ショベルのブーム,アーム,バケット,シリンダチューブ,建屋カバー及びカウンタウエイトの部分をオレンジ色(マンセル値:0.5YR5.6/11.2)とする構成からなる。なお,破線は,商品の形状の一例を示したものであり,商標を構成する要素ではない。
47 (別紙2)原告の油圧ショベル(甲1の12抜粋。青枠吹き出し追加)「ブームに『HITACHI』の文字」「建屋カバーに使用機種「カウンタウエイト部分に『H等の文字」ITACHI』の文字」48
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 中村恭
裁判官 岡山忠広