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事件 令和 2年 (ネ) 10040号 損害賠償請求控訴事件

控訴人 株式会社ティアマリア
被控訴人 エルメスアンテルナショナル
同訴訟代理人弁護士 高松薫
同 石田晃士
同 小熊慎太郎
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2020/12/17
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 前項の取消しに係る部分につき,被控訴人の請求を棄却する。
事案の概要
1 本件は,原判決別紙2原告標章記載のかばんの形状(以下「被控訴人標章」 という。)について原判決別紙1原告商標権目録記載の商標権(以下「被控訴 人商標権」といい,その商標を「被控訴人商標」という。)を有し,被控訴人 1 標章の特徴を有する原判決別紙3原告商品目録記載の商品(以下「被控訴人商品」という。)を販売する被控訴人が,被控訴人商品の形態は被控訴人の周知又は著名な商品等表示でもある旨主張した上,控訴人において販売していた原判決別紙4被告商品目録記載のハンドバッグ(以下「控訴人商品」という。)及びそれと同様の形態上の特徴を有するハンドバッグ(その具体的な形態については争いがある。以下,当該ハンドバッグを「バーキンタイプのバッグ」といい,控訴人商品と併せて「控訴人商品等」という。)の形状又は形態は,被控訴人商標と類似する標章であるとともに,被控訴人の周知又は著名な商品等表示と類似する商品等表示(不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号,2号)に該当するところ,控訴人商品等を販売した控訴人の行為は商標権侵害又は不競法2条1項1号,2号の不正競争に当たり,控訴人は遅くとも平成22年8月11日から平成30年2月14日までの期間(以下,「対象期間」という。 に控訴人商品等を少なくとも100個販売したと主張して, )控訴人に対し,商標権侵害の不法行為による損害賠償請求権又は不競法4条による損害賠償請求権に基づき,次の支払を求める事案である。被控訴人は,これらの請求につき,対象期間を通じて発生した損害について不競法4条による損害賠償請求をし,そのうち被控訴人商標登録(平成23年9月9日商標登録)後の期間に生じた損害については上記の両請求権に基づく請求を選択的にするものである。
? 損害金元金 @商標法38条2項又は不競法5条2項によって算定される利益相当損害 金168万4800円,A信用毀損による無形損害100万円及びB弁護士 費用相当額120万円の合計388万4800円? 遅延損害金 前記?の損害金元金の内金221万6800円に対する訴状送達の日の翌 日である令和元年5月10日から,内金166万8000円に対する同年1 2 0月25日付け訴えの変更申立書(請求拡張)送達の日の翌日である同月3 0日から,各支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のも の。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金2 原判決は,被控訴人の請求を,不競法4条に基づき289万8468円及び うち221万6800円に対する令和元年5月10日から,うち68万166 8円に対する同年10月30日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合に よる遅延損害金の支払を求める限度で理由があるとして認容し,認容部分につ いて商標権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求は判断を要しないとし, 被控訴人のその余の請求はいずれも理由がないとして棄却した。控訴人は,こ れを不服として控訴した。
3 前提事実(当事者間に争いがない事実又は証拠及び弁論の全趣旨により容易 に認められる事実)は,原判決「事実及び理由」第2(以下「原判決第2」と いう。)の2(原判決3頁7行目から5頁16行目まで)に記載のとおりであ るから,これを引用する。
4 争点及び争点に関する当事者の主張 争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正し,後記5のとおり 当審における補充主張を付加するほかは,原判決第2の3,4(原判決5頁1 7行目から14頁6行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
原判決13頁8行目の「バッグ100個を」の後に「中国の業者から」を加 える。
5 当審における補充主張 ? 争点1(被控訴人商標と控訴人商品等の形状の類似性(商標権侵害の有無)) ア 控訴人の主張 (ア) オータクロアの形状と類否判断 被控訴人は,バーキンと呼ばれる被控訴人商標とほぼ同一の立体的形 状を有するオータクロアと呼ばれる商品を従前より販売していた。被控 3 訴人商標と控訴人商品等の外観類似性の判断においては,バーキンの 立体的形状とオータクロア及びその類似商品の立体的形状の相違を明確 にした上で,控訴人が販売していたバーキンタイプのバッグの立体的形 状がオータクロアの立体的形状に類似しているのではなく,バーキンの 立体的形状に類似していることを明らかにすることが必要である。
(イ) 被控訴人商標と控訴人商品等の類似性 a 類否判断の手法 商標の類否は,同一又は類似の商品に使用された商標が外観,観念, 称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合し て全体的に考察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らか にし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものであ る。
b 類似性 (a) 被控訴人商標と控訴人商品の外観類似性 控訴人商品の形状は被控訴人商標と異なる点があり,被控訴人商 標と控訴人商品は外観上類似しない。
(b) 被控訴人商標とバーキンタイプのバッグの外観類似性 バーキンタイプのバッグは,控訴人が平成30年2月に被控訴人 関係者に販売した控訴人商品とは立体的形状が異なるから,仮に控 訴人商品の立体的形状が被控訴人商標と外観上類似していたとし ても,バーキンタイプのバッグが被控訴人商標と外観上類似してい たとはいえない。また,仮にバーキンタイプのバッグが控訴人商品 と同様の形状のものであったとしても,前記(a)のとおり被控訴人 商標と控訴人商品は外観上類似しないから,バーキンタイプのバッ グも被控訴人商標と外観上類似しない。
(c) 取引の実情 4 被控訴人商標が付された被控訴人商品は100万円以上であるの に対し,控訴人商品等は2〜3万円であり,価格が大きく異なるか ら,需要者は,控訴人商品等を被控訴人のものと間違えるはずはな い。また,被控訴人商品は,高級皮革が使用されており,縫製も高 品質であるのに対し,控訴人商品等は合成皮革を使用したものであ り,需要者は,それらの質感等の相違を容易に認識することができ る。さらに,被控訴人商品はバーキンという名称で販売されており, 被控訴人のロゴと職人のシリアルナンバーが付されているのに対 し,控訴人商品等は,ティアマリアという控訴人の商号を付して販 売されているから,需要者が被控訴人商品と控訴人商品等を誤認混 同するおそれはない。このように,被控訴人商標が付された被控訴 人商品と控訴人商品等は,価格,品質,商品名及びロゴ等の点で異 なるので,誤認混同が生ずるおそれはないから,取引の実情に照ら して,控訴人商品等と被控訴人商標は誤認混同を生ずることはなく, 類似しない。
(d) 類否 被控訴人商標と控訴人商品等(控訴人商品とバーキンタイプのバ ッグ)は外観上類似せず,取引の実情に照らしても,控訴人商品等 と被控訴人商標は誤認混同を生ずることはなく,類似しないから, 被控訴人商標と控訴人商品等は類似しない。
(ウ) 商標の無効の抗弁 被控訴人は,バーキンと呼ばれる被控訴人商標とほぼ同一の立体的形 状を有するオータクロアと呼ばれる商品を従前より販売していた。オー タクロアに類似する商品は,被控訴人以外の多くの業者により製造販売 されており,被控訴人商標が登録された平成23年9月9日の時点では, オータクロアの立体的形状はハンドバッグの一般的な形状となっており, 5 自他商品の識別機能を失っていた。被控訴人商標は,オータクロアとほ ぼ同一の立体的形状であるから,その登録時に自他商品の識別機能がな く,本件商標は無効であった。そのため,控訴人は,商標法39条,特 許法104条の3第1項,商標法46条1項1号に基づいて被控訴人商 標の無効の抗弁を主張する。
イ 被控訴人の主張 (ア) オータクロアの形状と類否判断 控訴人の主張は争う。
オータクロアの立体的形状は被控訴人商標とほぼ同一ではない。被控 訴人商標は自他商品の識別機能があるとして商標登録されたものであり, 被控訴人商標の一部に自他商品の識別機能がないことについて控訴人の 具体的な主張はなく,その主張を裏付ける証拠の提出もないから,被控 訴人商標と控訴人商品等の外観類似性の判断に当たり,被控訴人商標 と控訴人商品等の立体的形状とを対比することは相当である。
(イ) 被控訴人商標と控訴人商品等の類似性 a 類否判断の手法 商標の類否は,同一又は類似の商品に使用された商標が外観,観念, 称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合し て全体的に考察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らか にし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものであ ることは認める。
b 類似性 (a) 被控訴人商標と控訴人商品の外観類似性 控訴人の主張は争う。
控訴人商品は,被控訴人商標の特徴を全て備えており,外観上の 類似性を否定するような相違点はないから,被控訴人商標と控訴人 6 商品は外観上類似する。
(b) 被控訴人商標とバーキンタイプのバッグの外観上の類似性 控訴人の主張は争う。
被控訴人商標と控訴人商品は外観が類似しており,甲40,41 に掲載されたバーキンタイプのバッグと控訴人商品の構成に差異 はなく,控訴人がバーキンタイプのバッグと控訴人商品の立体的形 状の相違について具体的な主張立証をしていないことからすると, 被控訴人商標とバーキンタイプのバッグは外観上類似している。
(c) 取引の実情 控訴人の主張は争う。
被控訴人商品の中古品が市場において活発に取引されていること 等からすると,被控訴人商品と控訴人商品等が価格,品質,商品名 及びロゴの点で相違することを考慮しても,取引の実情に照らして, 控訴人商品等は被控訴人商標と誤認混同を生ずるおそれがあり,控 訴人商品等は被控訴人商標と類似する。
(d) 類否 控訴人の主張は争う。
被控訴人商標と控訴人商品等は外観上類似し,取引の実情に照ら して,控訴人商品等は被控訴人商標と誤認混同を生ずるおそれがあ るから,被控訴人商標と控訴人商品等は類似する。
(ウ) 商標の無効の抗弁 控訴人の主張は争う。
商標の無効の抗弁は,控訴人が原審において主張していなかったもの であり,時機に後れた攻撃防御方法であり,かつ訴訟の完結を遅延させ るものであるから却下すべきである。
仮に控訴人の商標の無効の抗弁が時機に後れた攻撃防御方法として却 7 下されないとしても,オータクロアの立体的形状は被控訴人商標とほぼ 同一ではない。また,オータクロアの立体的形状がハンドバッグの一般 的な形状となって自他商品の識別機能を失っていたことはなく,そのた めに,被控訴人商標がその登録時に自他商品の識別機能を失っていたこ ともないから,被控訴人商標は有効である。
? 争点2(控訴人商品等の販売の不正競争該当性) ア 争点2-1(被控訴人商品の形態の商品等表示性及びその周知性・著名 性) (ア) 控訴人の主張 被控訴人は,バーキンと呼ばれる被控訴人商品とほぼ同一の立体的形 状を有するオータクロアと呼ばれる商品を従前より販売していたから, 被控訴人商品の形態が著名性のある商品等表示に該当するというために は,オータクロアとバーキンの立体的形状の相違を明らかにした上で, バーキンの立体的形状のみが著名な商品等表示に当たる理由を明らかに すべきである。バーキンと呼ばれる被控訴人商品は,バーキンという有 名女優の名称を使用したことと被控訴人の販売戦略により著名になった のであり,その立体的形状によって著名になったのではないから,被控 訴人商品の形態が被控訴人の著名性のある商品等表示に該当することは ない。
(イ) 被控訴人の主張 控訴人の主張は争う。
被控訴人商品の形態は,被控訴人による販売,広告宣伝活動を通じて, 遅くとも,平成21年までには,被控訴人を出所とする表示として著名 となり,被控訴人の著名な商品等表示(不競法2条1項2号)に該当す るに至った。
イ 争点2-2(被控訴人商品の形態と控訴人商品等の形態の類似性及び混 8 同のおそれ)(ア) 控訴人の主張 a 被控訴人商品の形態とバーキンタイプのバッグの形態との類似性 バーキンタイプのバッグの平面的な写真である甲40と甲41によ って,被控訴人商品の形態とバーキンタイプのバッグの形態とが類似 であるということはできない。
b 被控訴人商品と控訴人商品等の混同のおそれと形態の類似性 被控訴人商品は100万円以上であるのに対し,控訴人商品等は2 〜3万円であり,価格が大きく異なること,被控訴人商品は,高級皮 革が使用されており,縫製も高品質であるのに対し,控訴人商品等は 合成皮革を使用したものであり,需要者は,それらの質感等の相違を 容易に認識することができること,被控訴人商品はバーキンという名 称で販売されており,被控訴人のロゴと職人のシリアルナンバーが付 されているのに対し,控訴人商品等は,ティアマリアという控訴人の 商号を付して販売されていることから,需要者が被控訴人商品と控訴 人商品等を誤認混同するおそれはなく,被控訴人商品の形態と控訴人 商品等の形態は類似しているとはいえない。
c 不競法制定時の附則3条1号の適用の有無 (a) 不競法制定時の附則3条柱書は「新法第3条,第4条本文及び第 5条の規定は,この法律の施行前に開始した次に掲げる行為を継続 する行為については,適用しない。」と規定し,同附則3条1号は 「新法第2条第1項第2号に掲げる行為に該当するもの(同項第一 号に掲げる行為に該当するものを除く。)」と規定する。
(b) 乙35(商品リーフレット)によれば,控訴人が平成2年頃,被 控訴人商品の形態に類似する「オータクロアタイプ」と称するバッ グを販売していたことは裏付けられ,乙36(商品リーフレット) 9 によれば,控訴人が平成4年頃,被控訴人商品の形態に類似する「バ ーキンタイプ」及び「オータクロアタイプ」と称するバッグを販売 していたことは裏付けられるから,控訴人は,不競法が施行された 平成6年5月1日前から不競法2条1項2号に該当する行為を行っ ていたものであり,不競法制定時の附則3条1号の適用除外に該当 し,不競法4条は適用されない。
(イ) 被控訴人の主張 a 被控訴人商品の形態とバーキンタイプのバッグの形態の類似性 控訴人の主張は争う。
前記?イ(イ)b(b)のとおり,被控訴人商標とバーキンタイプのバッ グは外観上類似しているから,被控訴人商品の形態とバーキンタイプ のバッグの形態も類似している。
b 被控訴人商品と控訴人商品等の混同のおそれと形態の類似性 控訴人の主張は争う。
前記?イ(イ)b(a)のとおり,被控訴人商標と控訴人商品は外観上類 似しているから,被控訴人商品の形態と控訴人商品の形態は類似して いる。そして,被控訴人商品の中古品が市場において活発に取引され ていることからすると,被控訴人商品と控訴人商品等が価格,品質, 商品名及びロゴの点で相違することを考慮しても,取引の実情に照ら して,控訴人商品等の形態は被控訴人商品の形態と誤認混同を生ずる おそれがあるから,控訴人商品等の形態は被控訴人商品の形態と類似 する。
c 不競法制定時の附則3条1号の適用の有無 (a) 不競法制定時の附則3条柱書,同条1号の規定は認める。
(b) 控訴人の主張は争う。
控訴人が,不競法が施行された平成6年5月1日前から被控訴人 10 商品の形態に類似するバッグを販売していたことは立証されてい ないから,不競法制定時の附則3条1号の適用除外に該当しない。
仮に控訴人が,同日前から被控訴人商品の形態に類似するバッグを 販売していたとしても,それは不競法2条1項1号に該当し,不競 法制定時の附則3条1号かっこ書きに該当するから,同条1号の適 用除外に該当しない。したがって,不競法4条は適用される。
? 争点3(商標権侵害及び不正競争についての控訴人の故意・過失) ア 控訴人の主張 控訴人商品は,販売用としてショールームに置いてあった商品ではなく, 控訴人のショールームで洋服の展示会を開いた韓国のデザイナーから謝 礼としてもらい受け,サンプル品として保管していたものを誤って譲渡し てしまったものであり,これは,乙41(A(以下「A」という。)作成 の陳述書)により裏付けられるから,控訴人には,商標権侵害及び不正競 争につき故意又は過失はなかった。
イ 被控訴人の主張 控訴人の主張は争う。
被控訴人商品の形態は,被控訴人による販売,広告宣伝活動を通じて, 遅くとも,平成21年までには,被控訴人の著名な商品等表示(不競法2 条1項2号)に該当するに至っており,他方,控訴人は,昭和61年の設 立以来,バッグ,装身具の販売等を行ってきたから,控訴人は,平成22 年8月11日以降の控訴人商品等の販売による不正競争については少な くとも過失があった。
控訴人商品はサンプル品として保管していたものを誤って譲渡してしま ったものであるという控訴人の主張は,乙41により裏付けられていると はいえない。
? 争点4(被控訴人の損害) 11 ア 控訴人の主張 (ア) 控訴人商品等の販売個数 平成22年8月11日の時点においてバーキンタイプのハンドバッ グが100個存在したという証拠はなく,平成30年2月14日に誤っ て被控訴人関係者に有償譲渡したバッグは平成22年頃に仕入れたバ ッグではなく,控訴人商品等をチャリティーバザーで販売したのは販売 利益を寄付するためであったから,対象期間中に少なくとも100個の 控訴人商品等を販売したということはない。
(イ) 控訴人商品等の販売に係る限界利益率 控訴人商品はサンプル品であって仕入処理が行われておらず,購入し た際の領収証等の資料はない。バーキンタイプのバッグの仕入れに関す る資料は保管期間経過によって全て廃棄処分済みである。バーキンタイ プと同程度の販売価格のハンドバッグの仕入価格は販売価格の55%程 度であったから,バーキンタイプのバッグの仕入価格も販売価格の5 5%程度であった。控訴人がバザーなどで在庫品を販売した場合,小売 価格の20%相当額を寄付することとなっていたので,粗利益は小売価 格の25%程度であった。その他の販売経費として,ハンドバッグ1個 当たりの梱包費用 送料として約1000円が発生していた。
・ そのため, 限界利益率を60%と認定する合理的な根拠はない。
イ 被控訴人の主張 (ア) 控訴人商品等の販売個数 控訴人の主張は争う。
控訴人は,バーキンタイプのバッグを平成22年夏か秋頃に中国の業 者から100個仕入れ,それがバーキンタイプのバッグの最後の仕入れ であったこと,その100個のバーキンタイプのバッグについて,平成 26年1月か2月頃に,最後の1点を販売したことを主張しており,控 12 訴人は,平成30年2月14日,控訴人の店舗を訪問した被控訴人関係 者に対して控訴人商品を販売した(甲1,乙34)から,控訴人は,対 象期間に控訴人商品等を少なくとも100個販売した。
(イ) 控訴人商品等の販売に係る限界利益率 控訴人の主張は争う。
控訴人は,被控訴人から控訴人商品等の販売に係る帳簿等の開示を求 められ,文書提出命令の申立てを受けたにもかからず,これらを提出せ ず,仕入価格は販売価格の55%であるとして,販売価格の45%が利 益であることを自認しているとも解されることからすると,限界利益率 を販売価格の60%とすることに誤りはない。
当裁判所の判断
1 当裁判所の判断は,後記2のとおり当審における補充主張に対する判断を付 加するほかは,原判決「事実及び理由」第3の1ないし5(原判決14頁8行 目から23頁8行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 当審における補充主張に対する判断 ? 争点1(被控訴人商標と控訴人商品等の形状の類似性(商標権侵害の有無)) について ア オータクロアの形状と類否判断 原判決第2の2?(原判決3頁26行目ないし4頁19行目)に記載の とおり,被控訴人商品は,昭和59年(1984年)以来販売され,ファ ッション誌等に多数掲載されてきたものであり,その立体的形状(原判決 別紙3原告商品目録)と同一である被控訴人商標(原判決別紙1原告商標 権目録,原判決別紙2原告標章)は,その登録時である平成23年9月9 日時点において自他商品の識別機能を有しており,商標法3条2項の要件 を充足していたものと認められる。平成23年5月31日付け拒絶査定不 服審決(甲3の3)においても,被控訴人商標が商標法3条2項の要件を 13 充足する旨判断されたものである。そのため,被控訴人商標は自他商品の 識別機能を有しており,被控訴人商標と控訴人商品等の外観類似性の判 断に当たり,被控訴人商標と控訴人商品等の立体的形状とを対比すること は相当であると認められる。
控訴人は,被控訴人商標と控訴人商品等の外観類似性の判断において は,バーキンの立体的形状とオータクロア及びその類似商品の立体的形状 の相違を明確にした上で,控訴人が販売していたバーキンタイプのバッグ の立体的形状がオータクロアの立体的形状に類似しているのではなく,バ ーキンの立体的形状に類似していることを明らかにすることが必要であ る旨主張するところ,この主張は,被控訴人商標のうち,オータクロアと 共通する部分は自他商品の識別機能がないとして,それを除いた部分と控 訴人商品等の立体的形状類似性を検討すべきであるとの趣旨と解され る。しかし,控訴人は,バーキンとオータクロアの立体的形状が類似する と主張するだけで,具体的な共通部分についても,また,共通部分につい て自他商品の識別機能が失われる理由についても具体的な主張立証をし ていない。そうすると,上記のとおり,被控訴人商標には自他商品の識別 機能があるものと認められる以上,被控訴人商標と控訴人商品等の外観類似性の判断に当たり,被控訴人商標と控訴人商品等の立体的形状とを対 比することは相当であり,控訴人の上記主張は,採用することができない。
イ 被控訴人商標と控訴人商品等の類似性 (ア) 類否判断の手法 商標の類否は,同一又は類似の商品に使用された商標が外観,観念, 称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して 全体的に考察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにし 得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当であり, このような判断の手法それ自体については当事者間に争いがない。
14 (イ) 類似性 a 被控訴人商標と控訴人商品の外観類似性 被控訴人商標の特徴は,原判決別紙3原告商品目録記載の@ないし Dのとおりであり(原判決第2の2?,原判決3頁23行目),控訴 人商品の形状は上記@ないしDの形態上の特徴の全ての点で被控訴人 商標と一致している(原判決第2の2?,原判決5頁2行目ないし1 6行目)。また,被控訴人商標(原判決別紙1原告商標権目録,原判 決別紙2原告標章)と控訴人商品(原判決別紙4被告商品目録,原判 決別紙5被告商品写真)を比べると,両者は,各部材の寸法や形状に 若干異なる部分がある程度の差異があるにとどまり,外観上の類似性 を否定するような相違点があるとは認められない。そのため,被控訴 人商標と控訴人商品の形状は外観上類似する。
b 被控訴人商標とバーキンタイプのバッグの外観類似性 (a) 控訴人が平成22年8月頃に販売したバーキンタイプのバッグ (甲41)と平成26年1月頃に販売したバーキンタイプのバッグ (甲40)との間には,色や素材の違いを除いて外観上の大きな違 いは認められず,バーキンタイプのバッグの中で更に形状の異なる ものがあったことについて,控訴人が具体的な主張立証をしていな いことも考慮すると,対象期間中に販売されたバーキンタイプのバ ッグはいずれも同じ外観上の特徴を有していたものと認めるのが相 当である。そして,バーキンタイプのバッグの写真(甲40,41) によれば,被控訴人商標と控訴人商品の形態上の特徴の一致点(原 判決第2の2?,原判決5頁2行目ないし16行目)のうち,正面 方向から観察した際に視覚に映る特徴,すなわち,@本体正面が底 辺のやや長い台形状であり,A略凸状となるように両サイドに切り 込みを有し,横方向に略3等分する位置に鍵穴状の縦方向の切込み 15 が2箇所設けられた蓋部が本体背面の上端部と縫合されており,B本体正面の上部まで延在する左右一対のベルトが設けられており,C前記蓋部の凸型部分と前記左右一対のベルトとを本体正面の上部中央にて同時に固定することができる先端にリング状を形成した固定具が設けられ,さらに,前記鍵穴状の切込みの外側の位置において,前記蓋部の凸型部分と前記各ベルトとを同時に固定することができる左右一対の補助固定具が設けられており,D本体正面上部に,円弧状をなす一対のハンドルが縫合され,前記正面側のハンドルは前記鍵穴状の切込みを通るように設けられている点は,バーキンタイプのバッグにも認められる。他方で,控訴人は,バーキンタイプのバッグの他に,正面から写真撮影をした場合にはバーキンタイプのバッグと見分けがつかない形状であるが,被控訴人商標の特徴である蓋部を有せず,蓋部のような形状の革を張り付けたデザインのハンドバッグを販売していたと主張する一方で,肝心の控訴人商品とバーキンタイプのバッグとの立体的な構成の違いについては具体的な主張立証をしていない。このように,控訴人商品の特徴のうち正面方向から観察した際に視覚に映る特徴がすべてバーキンタイプのバッグに認められる上,控訴人が,バーキンタイプのバッグと控訴人商品の立体的構成等の差異について具体的に主張立証していないことを考慮すると,バーキンタイプのバッグは,被控訴人商標と控訴人商品の形態上の特徴の一致点のうち,正面方向から観察した際に視覚に映る特徴以外の部分,すなわち側面方向等から観察した際に視覚に映る特徴や,蓋部,一対のハンドル並びに左右一対のベルトとそれを固定する左右一対の補助固定具及び中央の固定具についての立体的な構成をも備えていたものと合理的に推認され,バーキンタイプのバッグは,被控訴人商標と控訴人商品の形態上の特徴 16 の一致点をすべて備えていたものと認められる。
そして,前記aのとおり,被控訴人商標と控訴人商品の形状は外 観上類似することからすると,バーキンタイプのバッグも,控訴人 商品と同様に,被控訴人商標と外観上類似するものであったと認め られる。
(b) 控訴人は,バーキンタイプのバッグは控訴人商品とは立体的形状 が異なるから,控訴人商品の立体的形状が被控訴人商標と類似して いたとしても,バーキンタイプのバッグが被控訴人商標と類似して いたとはいえないと主張するが,前記(a)のとおり,バーキンタイプ のバッグは,被控訴人商標と控訴人商品の形態上の特徴の一致点を すべて備えていたものと認められるから,控訴人のこのような主張 は,採用することができない。
また,控訴人は,被控訴人商標と控訴人商品は外観上類似しない から,バーキンタイプのバッグも被控訴人商標と外観上類似しない と主張するが,前記aのとおり,被控訴人商標と控訴人商品の形状 は外観上類似するから,控訴人のこのような主張は,採用すること ができない。
c 取引の実情 控訴人は,被控訴人商標が付された被控訴人商品と,控訴人商品等 は,価格,品質,商品名及びロゴ等の点で異なるので,取引の実情に 照らして,控訴人商品等と被控訴人商標は誤認混同を生ずることはな く,類似しない旨主張する。
しかし,被控訴人商標が付された被控訴人商品と,控訴人商品等が, 価格,品質,商品名及びロゴ等の点で異なるとしても,そのことから 直ちに,取引の実情に照らして,控訴人商品等の形状と被控訴人商標 が誤認混同を生ずることがないとはいえないし,類似性が否定される 17 ことはない。被控訴人商品の新品は,被控訴人の直営店舗や専門店等を通じて店舗又はインターネット上で販売されており,それらの販路の数は比較的限定されているものの(弁論の全趣旨),高級ブランドバッグである被控訴人商品の中古品については,中古市場が成立しており,店舗及びインターネット上で活発に取引がされている一方で(公知の事実),控訴人商品等も新品は店舗(甲1,2,弁論の全趣旨)及びインターネット上で販売され(原判決第2の2?イ(原判決3頁14行目ないし19行目)),中古品もインターネット上で取引されており(甲51〜61),このように,被控訴人商品と控訴人商品等は,新品及び中古品のいずれについても市場に共通性があると認められる。また,中古品については,被控訴人商品であっても品質は新品に比べて劣化しており,価格も新品よりは低廉である上,一般に中古品は,ある期間使用された後に譲渡されるため,出所や商品名が新品のように明確にされていない場合や,品質,商品名及びロゴの有無等を十分に確認することなく取引が行われている場合(特にインターネット上の取引の場合)が少なくないから(弁論の全趣旨),価格,品質,商品名及びロゴによって被控訴人商品と控訴人商品等が明確に区別されるとはいい難く,被控訴人商品の中古品が市場において活発に取引されていることからすると,被控訴人商品と控訴人商品等の混同の可能性が具体的に存在すると認められる。そうすると,前記a,bのとおり,控訴人商品等(控訴人商品及びバーキンタイプのバッグ)は被控訴人商標と外観上類似するから,価格,品質,商品名及びロゴに相違があることを考慮しても,被控訴人商標を付した被控訴人商品と控訴人商品等は具体的な取引において誤認混同のおそれがあるものと認められる。したがって,取引の実情に照らして,控訴人商品等の形状は被控訴人商標と誤認混同を生ずるおそれがあり,類似するもの 18 と認められる。
d 類否 被控訴人商標と控訴人商品等は,前記a,bのとおり外観上類似す るものと認められ,いずれも何らの観念又は称呼が生じるとは認めら れないから,観念又は称呼の点で相違するとは認められない。そして, 前記cのとおり,取引の実情に照らして,控訴人商品等の形状は被控 訴人商標と誤認混同を生ずるおそれがあり,類似するものと認められ る。したがって,被控訴人商標と控訴人商品等は類似するものと認め られる。
ウ 商標の無効の抗弁 商標の無効の抗弁は,控訴人が原審において主張せず,当審で主張した ものであり,時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法に該当すると認め られるが,それにより訴訟の完結を遅延させることはないものと認められ るから,商標の無効の抗弁を時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法と して却下すべきであるとの被控訴人の申立ては却下する。
しかしながら,前記アのとおり,被控訴人商標は,自他商品の識別機能 を有しており,有効と認められ,被控訴人商標に自他商品の識別機能がな かった旨の控訴人の主張を裏付ける証拠はないから,商標の無効の抗弁は 理由がない。
? 争点2(控訴人商品等の販売の不正競争該当性)について ア 争点2-1(被控訴人商品の形態の商品等表示性及びその周知性・著名 性)について 被控訴人商品の形態には,原判決別紙3原告商品目録記載@ないしDの 特徴があり,これらを兼ね備えることにより,他の商品と識別し得るもの と認められる。そして,原判決第2の2?(原判決3頁26行目ないし4 頁19行目)に記載のとおり,被控訴人商品は,昭和59年(1984年) 19 以来販売され,ファッション誌等に多数掲載されてきたものである。また,証拠(甲4,33)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,被控訴人商品に関し,雑誌広告等に多額の広告宣伝費を費やしており,被控訴人商品は,そのほとんどが1個100万円を超える高級バッグであるにもかかわらず,平成21年までの期間を見ても,その販売数は年々増加する傾向にあり,販売個数は,平成10年(1998年)には年間3000個,平成15年(2003年)には年間8000個,平成21年(2009年)には1万7000個をそれぞれ超えるに至ったことが認められる。そうすると,被控訴人商品の形態は,被控訴人による販売,広告宣伝活動を通じて,遅くとも,平成21年までには,被控訴人がその出所であることを示す表示として著名となり,被控訴人の著名な商品等表示(不競法2条1項2号)に該当するに至ったものと認められる。
控訴人は,被控訴人商品の形態が著名性のある商品等表示に該当するというためには,オータクロアとバーキンの立体的形状の相違を明らかにした上でバーキンの立体的形状のみが著名な商品等表示に当たる理由を明らかにすべきである旨主張し,また,バーキンと呼ばれる被控訴人商品は,その立体的形状がオータクロアの立体的形状とほぼ同じであり,バーキンという有名女優の名称を使用したことと被控訴人の販売戦略により著名になったのであり,その立体的形状によって著名になったのではないから,被控訴人商品の形態が被控訴人の著名性のある商品等表示に該当することはない旨主張する。しかし,控訴人の上記主張はいずれも根拠がなく,仮にオータクロアという被控訴人の商品が存在したとしても,また,仮にバーキンという有名女優の名称を使用したことや被控訴人の販売戦略が被控訴人商品の周知性を高めることに寄与したとしても,上記のとおり,平成21年までに被控訴人商品の形態が被控訴人の著名な商品等表示(不競法2条1項2号)に該当するに至ったものと認められるものであり(な 20 お,2?アで説示した点に照らせば,オータクロアの存在により,バーキ ンの形態の著名性が失われると認めるに足りる証拠はないものというべ きである。),控訴人の上記主張は,採用することができない。
イ 争点2-2(被控訴人商品の形態と控訴人商品等の形態の類似性及び混 同のおそれ)について (ア) 被控訴人商品の形態とバーキンタイプのバッグの形態との類似性 前記?イ(イ)bのとおり,バーキンタイプのバッグは,控訴人商品と 同様の特徴を有するものであり,被控訴人商標とバーキンタイプのバッ グが外観上類似するものであったことからすると,被控訴人商品の形態 とバーキンタイプのバッグの形態は類似していたものと認められる。
控訴人は,バーキンタイプのバッグの平面的な写真である甲40と甲 41によって,被控訴人商品の形態とバーキンタイプのバッグの形態と が類似であるということはできないと主張する。しかし,前記?イ(イ) bのとおり,控訴人商品の特徴のうち正面方向から観察した際に視覚に 映る特徴がすべてバーキンタイプのバッグに認められる上,控訴人が, バーキンタイプのバッグと控訴人商品の立体的構成等の差異について具 体的に主張立証していないことも考慮すると,バーキンタイプのバッグ は,被控訴人商標と控訴人商品の形態上の特徴の一致点のうち,正面方 向から観察した際に視覚に映る特徴以外の部分,すなわち側面方向等か ら観察した際に視覚に映る特徴や,蓋部,一対のハンドル並びに左右一 対のベルトとそれを固定する左右一対の補助固定具及び中央の固定具に ついての立体的な構成をも備えていたものと合理的に推認され,バーキ ンタイプのバッグは,被控訴人商標と控訴人商品の形態上の特徴の一致 点をすべて備えていたものと認められる。そして,被控訴人商標と控訴 人商品の形状が外観上類似することから(前記?イ(イ)a),バーキン タイプのバッグも,控訴人商品と同様に,被控訴人商標と外観上類似す 21 るものと認められ,被控訴人商品の形態とバーキンタイプのバッグの形 態は類似するものと認められる。したがって,控訴人の上記主張を採用 することはできない。
(イ) 被控訴人商品と控訴人商品等の混同のおそれと形態の類似性 前記?イ(イ)aのとおり,被控訴人商標と控訴人商品は外観上類似し ているから,被控訴人商品の形態と控訴人商品の形態は類似するものと 認められ,また,前記(ア)のとおり,被控訴人商品の形態とバーキンタ イプのバッグの形態は類似するものと認められるから,被控訴人商品の 形態と控訴人商品等(控訴人商品及びバーキンタイプのバッグ)の形態 も類似する。
控訴人は,被控訴人商品と控訴人商品等は価格が大きく異なること, 需要者は,被控訴人商品と控訴人商品等の質感等の相違を容易に認識す ることができること,被控訴人商品と控訴人商品等は,名称やロゴの有 無等の点で異なることから,需要者が被控訴人商品と控訴人商品等を誤 認混同するおそれはなく,被控訴人商品の形態と控訴人商品等の形態は 類似しているとはいえないと主張する。
しかし,前記?イ(イ)cで述べたのと同様に,控訴人商品等は被控訴 人商品の形態と類似するから,価格,品質,商品名及びロゴに相違があ ることを考慮しても,被控訴人商品と控訴人商品等は具体的な取引にお いて誤認混同のおそれがあるものと認められ,取引の実情に照らして, 控訴人商品等の形状は被控訴人商品の形態と誤認混同を生ずるおそれが あり,類似するものと認められる。
(ウ) 不競法制定時の附則3条1号の適用の有無 a 不競法制定時の附則3条柱書は「新法第3条,第4条本文及び第五 条の規定は,この法律の施行前に開始した次に掲げる行為を継続する 行為については,適用しない。」と規定し,同附則3条1号は「新法 22 第2条第1項第2号に掲げる行為に該当するもの(同項第一号に掲げ る行為に該当するものを除く。)」と規定する。
b 控訴人は,乙35(商品リーフレット)によれば,控訴人が平成2 年頃,被控訴人商品の形態に類似する「オータクロアタイプ」と称す るバッグを販売していたことが裏付けられ,乙36(商品リーフレッ ト)によれば,控訴人が平成4年頃,被控訴人商品の形態に類似する 「バーキンタイプ」及び「オータクロアタイプ」と称するバッグを販 売していたことが裏付けられるから,控訴人は,不競法が施行された 平成6年5月1日前から不競法2条1項2号に該当する行為を行って いたものであり,不競法制定時の附則3条1号の適用除外に該当し, 不競法4条は適用されないと主張する。
c 乙35,36は,商品リーフレットのようなものであるが,発行年 月日等の記載はなく,その製作配布時期を裏付ける客観的証拠がない ことからすると,これらによって,平成2年頃又は平成4年頃に控訴 人が被控訴人商品の形態に類似するバッグを販売していたことが裏付 けられるとはいえず,その他に,控訴人が,不競法が施行された平成 6年5月1日前から被控訴人商品の形態に類似するバッグを販売して いたことを認めるに足りる証拠はないから,不競法制定時の附則3条 1号の適用除外に該当する事実は認められない。
また,控訴人の前記bの主張は,不競法が施行された平成6年5月 1日当時において,被控訴人商品の形態が被控訴人の商品等表示とし て著名であったことを前提とするところ,そうであるとすれば,被控 訴人商品の形態は被控訴人の商品等表示として周知でもあったことに なる。そして,乙35,36に掲載されたバッグの形態が被控訴人商 品の形態に類似しており,被控訴人商品と混同を生じることからする と,仮に控訴人が,不競法が施行された平成6年5月1日前から被控 23 訴人商品の形態に類似するバッグを販売していたとしても,それは不 競法2条1項1号に該当したものと認められ,不競法制定時の附則3 条1号かっこ書きに該当するから,同号の適用除外には該当しないも のと認められる。
したがって,控訴人の前記bの主張は採用することができず,不競 法4条は適用されるものというべきである。
? 争点3(商標権侵害及び不正競争についての控訴人の故意・過失)につい て ア 前記?アのとおり,被控訴人商品の形態は,被控訴人による販売,広告 宣伝活動を通じて,遅くとも,平成21年までには,被控訴人がその出所 であることを示す表示として著名となり,被控訴人の著名な商品等表示(不 競法2条1項2号)に該当するに至ったものと認められる。他方,控訴人 は,昭和61年8月22日に設立され,それ以来,自己の経営する店舗, 自己の運営するウェブサイト及び店舗外での販売会において,バッグ,装 身具の販売等を行ってきたから(原判決第2の2?イ(原判決3頁14行 目ないし19行目)),控訴人は,バッグ,装身具等について少なくとも 一般的な消費者よりも豊富な知識や情報を有していたものと推認され,遅 くとも平成21年までには,被控訴人商品の形態が被控訴人を出所とする バッグの形態として著名であることを認識していたものと認められる。そ のため,平成22年8月11日以降の控訴人商品等の販売による不正競争 について,控訴人には少なくとも過失があったものと認められる。
イ これに対し,控訴人は,控訴人商品は,販売用としてショールームに置 いてあった商品ではなく,控訴人のショールームで洋服の展示会を開いた 韓国のデザイナーから謝礼としてもらい受け,サンプル品として保管して いたものを誤って譲渡してしまったものであり,これは,乙41(A作成 の陳述書)により裏付けられるから,控訴人には,商標権侵害及び不正競 24 争につき故意又は過失はないと主張する。そして,乙41(A作成の陳述 書)には,韓国のデザイナーがセレクトして送ってきた商品のうちから, 平成27年10月2日の控訴人のブログに掲載されているハンドバッグを 控訴人にプレゼントした旨記載されている。
しかし,平成27年10月2日の控訴人のブログ(甲46)に掲載され ているハンドバッグは,控訴人商品とは少なくとも色彩が大きく異なるも のであるから,乙41の上記の記載が仮に真実であるとしても,Aが控訴 人にプレゼントしたバッグは控訴人商品とは別のものであることになり, 乙41によって,控訴人商品が,韓国のデザイナーから謝礼としてもらい 受け,サンプル品として保管していたものであることが裏付けられるとは いえず,控訴人の上記主張を採用することはできない。
? 争点4(被控訴人の損害)について ア 控訴人商品等の販売個数について (ア) 控訴人は,遅くとも平成22年8月11日以降,バーキンタイプの バッグを販売しており(甲41,弁論の全趣旨),平成30年2月14 日には,控訴人の店舗を訪問した被控訴人関係者に対して,控訴人商品 を販売した(甲1,乙34)ことからすると,控訴人は,対象期間(平 成22年8月11日から平成30年2月14日までの期間)において控 訴人商品等を販売していたものと認められる。そして,控訴人は,バー キンタイプのバッグを平成22年夏か秋頃に中国の業者から100個仕 入れ,それがバーキンタイプのバッグの最後の仕入れであったこと,そ の100個のバーキンタイプのバッグについて,被控訴人商標権の登録 がされた直後の平成23年10月頃の在庫は30個程度であったが,控 訴人はその頃からバザーに出品するなどして在庫処分を開始しており, 平成25年4月には在庫処分をほぼ終了し,平成26年1月か2月頃に, 最後の1点を販売したことを主張しており(本判決による補正後の原判 25 決第2の4?【被告の主張】ア(イ)(原判決13頁6行目ないし12行 目)),これらの控訴人の主張は,バーキンタイプのバッグの販売及び その前提としての仕入れという,控訴人に不利益な事実に関する主張で あるから,その主張に係る事実があったものと認めることができる。そ うすると,控訴人は,対象期間中に,少なくとも100個の控訴人商品 等を販売したものと認めるのが相当である。
(イ) これに対し,控訴人は,平成22年8月11日の時点においてバー キンタイプのハンドバッグが100個存在したという証拠はなく,平成 30年2月14日に誤って被控訴人関係者に有償譲渡したバッグは平 成22年頃に仕入れたバッグではなく,控訴人商品等をチャリティーバ ザーで販売したのは販売利益を寄付するためであったから,対象期間中 に少なくとも100個の控訴人商品等を販売したことはないと主張す る。
しかし,前記(ア)のとおり,控訴人は,バーキンタイプのバッグを平 成22年夏か秋頃に100個仕入れたことが認められ,仮に平成30年 2月14日に被控訴人関係者に有償譲渡した控訴人商品が平成22年 頃に仕入れたバッグではないとしても,控訴人が平成30年2月14日 時点において被控訴人商品に形態の類似した控訴人商品を譲渡してい たことからすると,控訴人が対象期間(平成22年8月11日から平成 30年2月14日までの期間)において,平成22年に仕入れたバーキ ンタイプのバッグや控訴人商品を含めて,控訴人商品等を,実際には1 00個を超えて販売した可能性があるとしても,少なくとも100個販 売したことは,これを認めることができる。また,控訴人が控訴人商品 等の一部をチャリティーバザーで販売し,その利益の一部を寄付したと しても,それは控訴人が利益を得たことを否定する事情にはならず(寄 付は,利益の処分と評価すべきものであって,利益そのものを否定する 26 事情には当たらない。),控訴人が販売利益を寄付したことを裏付ける 客観的な証拠もないから,いずれにせよ,控訴人は控訴人商品等を10 0個販売したことにより利益を得たものと推認される。
イ 控訴人商品等の販売に係る限界利益率について 控訴人は,控訴人商品はサンプル品であって仕入処理が行われておらず, 購入した際の領収証等の資料はないと主張し,また,バーキンタイプのバ ッグの仕入れに関する資料は保管期間経過によって全て廃棄処分済みで あると主張して,これを提出しない。さらに,控訴人は,バーキンタイプ と同程度の販売価格のハンドバッグの仕入価格は販売価格の55%程度 であったから,バーキンタイプのバッグの仕入価格も販売価格の55%程 度であったと主張し,販売価格の55%の価格でハンドバッグの仕入れを 行ったことを裏付ける証拠として乙31(平成29年1月の取引の納品書) を提出する。しかし,乙31は,どのような態様の商品の仕入れに係るも のか明らかでなく,平成22年に中国の業者から100個仕入れたと認め られるバーキンタイプのバッグとは,仕入の時期,取引先,仕入数が異な るから,乙31により,バーキンタイプのバッグの仕入価格が販売価格の 55%程度であったことは認められず,その他に,これを裏付ける証拠は ない。控訴人がその他の経費として主張する梱包費用,送料については, 具体的な支出の有無や額を裏付ける的確な証拠はない。
そこで限界利益率について検討すると,上記のとおり,控訴人の主張に よっても,仕入価格が販売価格の55%を上回ることはない。また,控訴 人は,バッグ等の販売を業として行っており,控訴人商品等の仕入れ,販 売,経費等に関する資料を所持し,その内容を把握しているのが自然であ ると解されるにもかかわらず,これらを提出せず,その内容を明らかにせ ず,そのため,経費等も具体的に立証されていない。このように,控訴人 が,被控訴人主張の利益率(60%)を否認しながら,関連性の乏しい証 27 拠のほかは,本来提出されてもおかしくない証拠を含め,何ら証拠を提出 していないことからすると,控訴人は控訴人商品等の販売により相当高率 の利益を得たと疑われてもやむを得ない側面があること,及び60%とい う利益率が有名ブランドを模したバッグの販売による利益率として不当 に高いとは考えられないことなどの事情を併せ考えると,控訴人商品等の 販売による限界利益率を60%と認定することについて,これが高率に過 ぎるとして不当とする根拠はない。これらの事情を考慮すると,控訴人商 品等の販売による控訴人の限界利益は,平均して販売価格の60%であっ たものと認めるのが相当である。
3 控訴人はその他るる主張するが,いずれも,法的根拠が明らかでなく主張自 体失当であるか又は理由がない。
4 結論 以上によれば,被控訴人の請求は,控訴人に対し,不競法4条に基づき28 9万8468円及びうち221万6800円に対する令和元年5月10日から, うち68万1668円に対する同年10月30日から各支払済みまで民法所定 の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し, その余は理由がないから棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当であり, 本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 鶴岡稔彦
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