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関連審決 取消2018-300815
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事件 令和 2年 (行ケ) 10050号 審決取消請求事件
5
原告X
訴訟代理人弁護士 松田光代 坂井美紀夫 10 被告農口酒造株式会社
訴訟代理人弁理士 宮田正道 宮田誠心
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2020/12/23
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 15 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が取消2018-300815号事件について令和2年3月27日に20 した審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 被告は,以下の商標(登録第5707382号。以下「本件商標」という。) の商標権者である(甲99,100)。
25 商 標 農口(標準文字) 登録出願日 平成26年5月23日 1 登録査定日 平成26年9月5日 設定登録日 平成26年10月3日 指定商品 第33類「日本酒,洋酒,果実酒,酎ハイ,中国酒,薬味 酒」 5 ? 原告は,平成30年10月26日,商標法51条1項の規定により,本件 商標について商標登録取消審判を請求した。
特許庁は,上記請求を取消2018-300815号事件として審理を行 い,令和2年3月27日,「本件審判の請求は成り立たない」との審決(以 下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年4月4日,原告に送達さ10 れた。
? 原告は,令和2年4月22日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起 した。
2 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。
15 その要旨は,@本件商標は,「農口」の文字を標準文字により表されてなる ところ,本件商標と被告が使用する別紙1の使用例1及び2記載の草書体又は 楷書体で「農口」の文字を縦書きしてなる商標(甲5ないし7。以下,このう ち,使用例1記載の草書体のものを「本件使用商標1」,使用例2記載の楷書 体のものを「本件使用商標2」という場合がある。)とは,外観において類似20 し,「ノウグチ」又は「ノグチ」の称呼を共通にするものであるから,観念に おいて比較することができないとしても,類似の商標と認められる,A引用商 標(甲8,9)は,「農口尚彦研究所」の文字を縦書きの楷書体で書してなる ところ,本件商標は,引用商標とは外観及び称呼において相紛れるおそれのな いものであるから,両商標は,非類似の商標であって,その類似性が高いとは25 いえず,また,原告(請求人)は,原告自身が著名な杜氏であることを前提に 引用商標も著名であると主張するのみであり,原告が提出した主張及び証拠に 2 よっては,引用商標が原告の業務に係る商品の出所を表示するものとして周知 性を有するものとは認められないから,被告が本件使用商標1及び2を本件商 標の指定商品に使用したとしても,需要者をして原告の業務に係る商品である と誤認を生じさせるおそれはなく,原告の業務に係る商品と混同を生ずるもの 5 とはいえない,B本件使用商標1及び2と引用商標とは相紛れるおそれのない 非類似の商標であって,被告が本件使用商標1及び2を使用しても引用商標を 想起するということはできないから,被告による本件使用商標1及び2の使用 が,品質の誤認を生ずるものであるということはできない,C本件使用商標1 及び2をその指定商品に使用しても原告の業務に係る商品と混同を生じさせる10 おそれはなく,被告が,原告の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識 していたといえる事情は見いだせないから,被告による本件使用商標1及び2 の使用について,商標法51条1項所定の故意を認めることはできない,Dし たがって,被告が故意に本件商標と類似する本件使用商標1及び2をその指定 商品に使用して商品の品質の誤認又は原告の業務に係る商品と混同を生ずるも15 のをしたということはできないから,本件商標の商標登録は,同項の規定によ り取り消すことはできないというものである。
3 取消事由 商標法51条1項該当性の判断の誤り
当事者の主張
20 1 原告の主張 (1) 出所の混同についての判断の誤り ア 引用商標の周知性 (ア) 原告は,戦後失われつつあった「山廃仕込み」の技術を復活させ, 全国新酒鑑評会で連続12回を含む通算27回の金賞を受賞した名杜25 氏であり,「日本酒造りの神様」と呼ばれている。原告の実績は,顕著 であり,日本酒の需要者の間で広く認識されている(甲2の1ないし3, 3 甲11ないし24)。
原告は,平成25年末から2シーズン,被告の酒蔵で杜氏を務めた後, 平成29年から,石川県で,引用商標の「農口尚彦研究所」の名称の酒 造で,杜氏として酒造りを始めた。株式会社農口尚彦研究所(甲108) 5 は,同年から,原告の手による日本酒に引用商標を付して製造販売して いる(以下,引用商標を付した上記日本酒を「農口尚彦研究所」の日本 酒」という場合がある。)。
(イ) 「農口尚彦研究所」の日本酒は,日本酒評価サイトである「SAK ETIME」の石川の日本酒ランキング2020において,第1位を獲10 得した(甲88)。
ANAの国際線ファーストクラスにおいて,2018年(平成30年) から継続して「農口尚彦研究所」の日本酒が提供されている(甲24, 89)。
このほか,様々な著名雑誌や全国放送のテレビ等においても,原告の15 みでなく,「農口尚彦研究所」も,北陸を代表する酒蔵として紹介され ている。
例えば,@「週刊ダイヤモンド」(2018年2月10日号。甲18) には,「新日本酒紀行」として「農口尚彦研究所」が「農口尚彦研究所」 の日本酒の写真とともに紹介されている,A「MONO」(平成30年20 2月16日号。甲20)には,「今月のもう一杯」のコーナーで「農口 尚彦研究所」の日本酒がその写真とともに紹介されている,B最高視聴 率20.5%を誇ったTBSの日曜劇場「陸王」のホームページにおい ても,「伝統産業に生きる」のコーナーで「農口尚彦研究所」が紹介さ れている(甲16),C三井住友信託銀行の「三井住友信託スペシャル25 対談シリーズ」の第2回として,原告が俳優Aのインタビューに答えて おり,その記事の中で,「農口尚彦研究所」及び「農口尚彦研究所」の 4 日本酒の写真が多数使用されている(甲90),D2019年2月15 日放送のNHK総合のニュース番組「ニュースウオッチ9」において, 「”伝説の杜氏” 86歳 引退後一転なぜ酒造り」のタイトルで,「農 口尚彦研究所」の特集が放送されている,E原告は2019年度グッド 5 エイジャー賞を受賞しており,そのインタビュー記事の中でも「農口尚 彦研究所」が紹介され,蔵や原告の手による日本酒の写真が掲載されて いる(甲91),F婦人画報115号(令和2年2月号)の特集「冬の 海へ 2泊3日の美味旅」において,「農口尚彦研究所」のテイスティ ングルーム「杜庵」が紹介されている(甲92),G地元新聞社の紙面10 においても「農口尚彦研究所」の活動はたびたび記事として取り上げら れ(甲93,94),石川県内においても,「農口尚彦研究所」は,加 賀の酒蔵として広く県民に親しまれる存在となっている。
(ウ) 以上によれば,原告自身の名はもちろん,原告の手による「農口尚 彦研究所」の日本酒及びその日本酒を販売する「農口尚彦研究所」の名15 称も,需要者の間で広く認識されており,引用商標は,本件審決時にお いて,原告の業務に係る商品「日本酒」を表示するものとして,周知又 は著名であったといえる。
したがって,これを否定した本件審決の認定は誤りである。
イ 本件使用商標1及び2と引用商標の類似性20 (ア) 本件使用商標1及び2は,草書体又は楷書体で「農口」の文字を縦書 きしてなるのに対し,引用商標は,「農口尚彦研究所」の文字を縦書き の楷書体で書してなるところ,両商標は,文字数及び称呼は異なるが, 「農口」の文字を有する点で共通する。
日本酒の世界において原告の名は周知又は著名であること,「農口」25 が名杜氏である「X」を示すことは,小売店及び日本酒ファンの間では 常識であることからすると,本件使用商標1及び2を本件商標の指定商 5 品中の「日本酒」に付した場合,本件使用商標1及び2から名杜氏Xの 観念が生じる。
一方,引用商標の「農口尚彦研究所」は原告の名に普通名称である「研 究所」を付しただけのものであるから,引用商標の構成中,「農口」又 5 は「農口尚彦」の部分が要部に当たる。そして,引用商標を日本酒に付 した場合には,引用商標から名杜氏Xの観念が生じる。
そうすると,本件使用商標1及び2と引用商標は,観念が共通するか ら,類似の商標に該当する。
(イ) 仮に前記(ア)の主張が認められないとしても,日本酒については,同10 一銘柄であっても,醸造方法,グレード,原料等や価格帯が異なる商品 が多数流通している実情があり,商品名(銘柄)そのものに加え,ラベ ルから読み取れる様々な情報が顧客吸引力を有するといえるから,日本 酒における使用商標は,商品のラベルのデザイン全体であると考えるの が合理的である。
15 しかるところ,引用商標(甲8,9)を付した商品のラベルは,日本 酒の容器中央上部に短冊状のラベルで「農口尚彦研究所」が記されてお り,容器胴部の幅広のラベル中央には原告の苗字に由来する「の」をモ チーフにした「農口尚彦研究所」のマークが表示され,その左側又は下 部に「杜氏 X」の文字及び「X」の落款がある。
20 一方,本件使用商標1及び2のラベルは,別紙1記載のとおり,ラベ ルの色や背景に差異はあるものの,中央に「X」又は「杜氏 X」の観 念を生じさせる「農口」の表示があり,左側に「杜氏 X」の文字及び 「X」の落款がある。本件使用商標1及び2のラベルにおいては,「農 口」の文字が要部であり,「杜氏 X」の文字が記載されていることも25 相まって,「杜氏 X」の名が印象付けられる。
したがって,引用商標を付した商品のラベル全体と本件使用商標1及 6 び2のラベル全体を対比すると,両商標は,類似の商標に該当する。
(ウ) 以上によれば,本件使用商標1及び2は,引用商標と類似の商標で あるから,これを否定した本件審決の判断は誤りである。
出所の混同 5 (ア) 本件使用商標1及び2と引用商標は,石川県内の酒蔵で製造された 日本酒に使用されており,酒蔵の位置は,被告の酒蔵が能美市,「農口 尚彦研究所」の酒蔵が能美市と隣接した小松市にあり,いずれも「加賀 の地酒」である。かかる酒蔵の位置及び「加賀の地酒」という商品の性 質から,両商標は,需要者に出所の混同を起こさせてしまう可能性の高10 い関係にある。
また,本件使用商標1及び2のラベルと引用商標(甲8,9)を付し た商品のラベルは,いずれも「杜氏 X」の文字が記されている点で共 通し,この表示により,本件使用商標1及び2を付した日本酒と引用商 標を付した日本酒のどちらを手に取った需要者も,原告が杜氏として酒15 造りを行った商品であると認識することとなる。
そして,本件使用商標1及び2を付した日本酒は,引用商標を付した 日本酒との間で現実に出所の混同が生じている。
例えば,@石川県内の大手スーパー「イオンモール新小松」において は,本件使用商標1及び2を付した日本酒が原告の手によるかのような20 表示のもとで売られていた(甲25の1,2),A被告の公式ホームペ ージの「お客様の声」では,本件使用商標1及び2を使用した日本酒を 購入した需要者が,「大吟醸,2本いただいて最初の1本はすぐいただ きました。山廃純米の「労働者の酒」(←Xさんの言い方)と違って, なんとシャープで淡麗で美しいことか。…Xさん,どうか健康で長生き25 していただき,私たちファンを長く楽しませてください。」と原告に対 してお礼の言葉を述べており,本件使用商標1及び2を付した日本酒が 7 原告の手による日本酒であると誤認している(甲29),B被告の公式 ツイッターでは,平成29年9月26日に「長年飲みたかったXの杜氏 さまが復活しているのを今更知り」,同年10月16日に「X 杜氏さ んの名前のお酒」,同月21日に「Xさんが価格破壊している」,同年 5 12月29日に「能登のお酒」,「能登の農口」,平成30年2月4日 に「念願のX杜氏の酒」,同年4月8日に「2017年冬に活動を再開 した名杜氏X氏を再び呼び寄せて作った一本」などのリツイートの書き 込みがある,CSNS上では,「農口酒造については,会社名は兎も角, 銘柄名からは農口ははずすべきだろう。」など,杜氏Xの手によらない10 日本酒「農口」の存在を憂慮する書き込み(甲27,28)が掲載され ているほか,2020年(令和2年)1月11日付けの書き込み(甲9 5),同年2月23日付けの書き込み(甲97),同年3月1日付けの 書き込み(甲96)においても,本件使用商標1及び2を付した日本酒 は,引用商標を付した日本酒との間で出所の混同が生じている。
15 (イ) 以上によれば,引用商標は,周知又は著名な商標であり,本件使用商 標1及び2は引用商標と類似の商標であって,被告が本件使用商標1及 び2を本件商標の指定商品の「日本酒」に使用した場合,その商品が原 告及び「農口尚彦研究所」と組織的又は経済的な関係を有する者の業務 に係る商品であるかのように商品の出所について混同を生じさせるおそ20 れがあるばかりでなく,現実に原告及び「農口尚彦研究所」の業務に係 る商品と混同を生じている。
したがって,被告が本件使用商標1及び2を本件商標の指定商品に使 用したとしても,原告の業務に係る商品と混同を生ずるものとはいえな いとした本件審決の判断は誤りである。
25 (2) 品質の誤認についての判断の誤り 前記(1)ウ(ア)のとおり,需要者は,本件使用商標1及び2を使用した被告 8 の日本酒を原告の手による日本酒であるとの誤解の下で購入しているから, 商品の品質の誤認も生じている。
したがって,被告による本件使用商標1及び2の使用が,品質の誤認を生 ずるものであるということができないとした本件審決の判断は誤りである。
5 (3) 「故意」についての判断の誤り 原告は,平成25年末から2シーズン,被告の酒蔵で杜氏を務めた後,平 成27年4月に被告の酒蔵を離れる際に,自己の名を今後使用しないことを 求め,被告代表者も何ら異議を述べなかったため,被告に原告の造った酒が なくなった時点で,「農口」及び「杜氏X」の表示は被告の商品から消える10 ものと確信していた。
ところが,被告は,本件使用商標1及び2を使用した日本酒を販売し続け たため,原告の代理人弁護士は,平成28年3月17日到達の内容証明郵便 (甲33の1,2)によって,被告に対し,「杜氏 X」の名を配したラベ ルを貼付した製品の回収及びホームページをはじめとする全ての広告媒体等15 における「X」の名の削除を求めた。これに対し,被告は,同年4月21日 付け回答書(甲34の1,2)で,原告が退職後に製造した日本酒のラベル については,原告の氏名が表示されないように,被告代表者が製造している ことを示す表示をして流通させている旨,今後はラベルの内容自体を一新し, 更に誤解のない内容にすることを検討している旨,原告から指摘を受けたホ20 ームページ上の表示については,削除依頼済みである旨を回答した。
しかし,@被告は,上記回答後も,本件使用商標1及び2の横に「杜氏 X」 の名を付した日本酒を販売していたこと(甲25の1,2等),A被告のホ ームページの「会社概要」に「霊峰白山を望み,日本海の荒波に臨む酒造り を行うこと,およそ二百年の歴史ある酒蔵。全国新酒鑑評会にて通算二十七25 回の金賞を受賞した現代の名工Xを杜氏が平成二十五年末より再始動。生涯 現役を貫くXが酒造りの原点であるきめ細かい愛情を大切に,日本酒の神髄 9 に迫ります。 と掲載して, 」 原告の名を全面に押し出していたこと(甲36, 39ないし44),B被告の公式ツイッターでも,平成28年12月9日に 「山廃と吟醸酒の第一人者,日本酒の神と称される杜氏 Xさん。現代の名 工,黄綬褒章を受賞し,その酒は酒好きには堪らない逸品で…」との書き込 5 みを,同月14日に「入手困難,石川県でおすすめの日本酒・土産は「農口」 な理由。」と記載し,「現代の名工「X」の酒造り」との広告写真が張り付 けられた書き込みをリツイートしていること(甲37),C原告は,被告を 債務者として,「X」及び「杜氏 X」の標章の使用禁止等を求める仮処分 の申立て(金沢地方裁判所平成30年(ヨ)第67号標章使用差止等仮処分10 命令申立事件)をし,令和元年5月30日,原告の申立てを認容する仮処分 決定(以下「本件仮処分」という。甲45)を得たが,その後の同年9月4 日時点において,石川県内のスーパーマーケットで,「杜氏 X」の表示を 使用した被告の商品が販売されていたこと(甲98),以上の@ないしCの 事情によれば,被告は,本件商標と類似する本件使用商標1及び2を使用す15 るに当たり,上記使用の結果,品質の誤認や出所の混同を生ずるおそれがあ ることを認識していたといえるから,被告には,商標法51条1項所定の「故 意」がある。
したがって,被告による本件使用商標1及び2の使用について,故意を認 めることはできないとした本件審決の判断は誤りである。
20 (4) 小括 以上によれば,被告は故意に本件商標に類似する本件使用商標1及び2を 本件商標の指定商品中の「日本酒」に使用し,商品の品質の誤認又は原告の 業務に係る商品と混同を生じさせたから,かかる被告の行為は,商標法51 条1項に該当する。
25 これを否定した本件審決の判断は誤りであるから,本件審決は,違法とし て取り消されるべきである。
10 2 被告の主張 (1) 出所の混同についての判断の誤りの主張に対し ア 引用商標の周知性について 原告が提出した主張及び証拠によっては,引用商標が原告の業務に係る 5 商品の出所を表示するものとして周知性を有するものとは認められない から,これと同旨の本件審決の認定に誤りはない。
イ 本件使用商標1及び2と引用商標の類似性について (ア) 原告は,引用商標の構成中「研究所」の部分は,研究などを行う組 織や施設を示す普通名称であるから,引用商標の要部は,「農口尚彦」10 である旨主張する。
しかし,「研究所」は,日本酒において普通名称でも,製造場所や品 質等を表示するものでもなく,識別性を有する名称であり,また,引用 商標の外観も全体が一体不可分の商標と看取されるから,「農口尚彦」 と「研究所」を分離して個々に把握すべき合理的な理由は存しない。
15 そして,引用商標は,その全体から「Xが主宰する研究所」,「Xに 因んだ研究所」又は「Xを研究する施設」程度の意味合いを想起させる ものであり,「研究所」を無視して,「X」又は「杜氏 X」のみを想 起させるものではない。
したがって,原告の上記主張は失当である。
20 (イ) 本件使用商標1及び2と引用商標は,構成文字及び構成文字数に顕 著な差異を有するから,外観において相紛れるおそれがなく,また,両 商標は,「ノグチ」又は「ノウグチ」の音を有する点で共通するとして も,「ナオヒコケンキュウショ」の音の有無において相違し,称呼にお いても相紛れるおそれがないこと,さらに,格別の観念が生じない両商25 標は,観念において比較することができないこと,両商標が需要者に与 える印象,記憶,連想等を総合すると,両商標は,非類似の商標である。
11 この点に関し原告は,日本酒については,同一銘柄であっても,醸造 方法,グレード,原料等や価格帯が異なる商品が多数流通している実情 があり,商品名(銘柄)そのものに加え,ラベルから読み取れる様々な 情報が顧客吸引力を有するといえるから,日本酒における使用商標は, 5 商品のラベルのデザイン全体であると考えるのが合理的であり,引用商 標を付した商品のラベル全体と本件使用商標1及び2のラベル全体を対 比して,両商標の類否を判断すべきである旨主張する。
しかし,ラベルに酒のグレードや容量に係る情報が記されるのは,商 標の使用目的である出所の混同防止と関わりのない事項であり,また,10 商品に関して商標以外の情報をラベルに表示することは一般の商品でも 行われており,商品「日本酒」のラベルのみの特殊性ということはでき ず,ラベル全体をもって使用商標であると評価するのが合理的である理 由となり得ないから,原告の上記主張は失当である。
したがって,本件使用商標1及び2と引用商標は,非類似の商標であ15 るとした本件審決の判断に誤りはない。
出所の混同について 本件使用商標1及び2と引用商標とは,前記イ(イ)のとおり明確に識別 され,その類似の程度は極めて弱いため,互いに相紛れる商標とはいえず, かつ,引用商標が取引者,需要者の間で広く知られていたことの立証もさ20 れていないから,被告による本件使用商標1及び2の使用は,原告の業務 に係る商品との混同を生ずるおそれがあるとはいえない。
また,本件使用商標1及び2と引用商標は,ラベルに「杜氏 X」の文 字が表示されているという共通点があるとの点については,「杜氏 X」 の文字は,本件商標と非類似の標章であるから,商品の出所の混同につい25 て判断する対象とならない。
(2) 品質の誤認についての判断の誤りの主張に対し 12 本件使用商標1及び2は,本件商標の指定商品「日本酒(清酒)」の種類 を表示し,又は暗示する標章でないから,被告が本件使用商標1及び2を日 本酒に使用することにより,品質の誤認が生じるとはいえない。
したがって,被告による本件使用商標1及び2の使用が,品質の誤認を生 5 ずるものであるということができないとした本件審決の判断に誤りはない。
(3) 「故意」についての判断の誤りの主張に対し 前記(1)及び(2)のとおり,被告による本件使用商標1及び2の使用は,原告 の業務に係る商品との混同を生ずるものではなく,また,原告が引用商標の 使用を開始したのは,被告が本件使用商標1及び2の使用を開始した後であ10 り,このような使用開始時期の時系列等に照らしても,被告による本件使用 商標1及び2の使用について,被告に商標法51条1項所定の故意があると いうことはできない。
これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(4) 小括15 以上によれば,被告が故意に本件商標と類似する本件使用商標1及び2を その指定商品に使用して商品の品質の誤認又は原告の業務に係る商品と混同 を生ずるものをしたということはできないから,被告による本件使用商標1 及び2の使用は,商標法51条1項に該当しない。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の20 取消事由は理由がない。
当裁判所の判断
1 出所の混同の判断の誤りについて (1) 引用商標の周知性について 原告は,原告の手による「農口尚彦研究所」の日本酒及びその日本酒を販25 売する「農口尚彦研究所」の名称も,需要者の間で広く認識されており,引 用商標は,本件審決時において,原告の業務に係る商品「日本酒」を表示す 13 るものとして,周知又は著名であったから,これを否定した本件審決の認定 は誤りである旨主張するので,以下において判断する。
ア 認定事実 前記第2の1の事実と証拠(甲2,4ないし24,31,33,34, 5 38ないし45,47,84,88ないし94,107ないし109,1 12ないし123,129(枝番のあるものは枝番を含む。))及び弁論 の全趣旨を総合すれれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告は,昭和7年12月24日,石川県能登町で,杜氏一家の三代 目として出生し,静岡県及び三重県の酒造で酒造工等として稼働した後,10 昭和36年に石川県内の菊姫合資会社に杜氏として就職し,平成9年, 同社を定年退職した(甲11,12)。この間,原告は,全国鑑評会の 金賞を12年連続で受賞し,通算では同賞を24回受賞した(甲12)。
その後,原告は,平成10年から平成24年までの間,石川県内の酒 造で杜氏を務めた(甲38,84,117)。
15 (イ) 被告は,清酒の製造及び販売等を目的とする株式会社である。被告 は,平成25年10月31日,商号を「山本酒造本店株式会社」から「農 口酒造株式会社」に変更した(甲4)。
原告は,そのころ,被告に就職し,同年11月から平成27年4月ま での間,2シーズン(甲31)にわたり,杜氏として酒造りをし,同月,20 被告を退職した。
被告は,平成26年から,別紙1記載の使用例1又は使用例2記載の ラベルを瓶に貼付した「農口」の銘柄の日本酒の販売を開始した。
また,被告は,同年5月23日,「農口」の標準文字からなる本件商 標について商標登録出願をし,同年10月3日,本件商標権の設定登録25 を受けた。
(ウ) 原告は,被告を退職した後,平成29年,株式会社農口尚彦研究所 14 に就職し,杜氏として酒造りを始めた。株式会社農口尚彦研究所は,同 年4月23日,商号を「見砂酒造株式会社」から「株式会社農口杜氏研 究所」に変更した後,更に同年6月7日,現商号に変更した(甲108)。
株式会社農口尚彦研究所は,同年12月頃から,原告が杜氏として製 5 造した日本酒を「農口尚彦研究所」の銘柄(「農口尚彦研究所」の日本 酒)で販売を開始した。
「農口尚彦研究所」の日本酒の瓶(甲8,9)には,胴部の中央に平 仮名「の」の文字をモチーフにした図形を配し,その左側に小さく縦書 きで「杜氏 X」と書した文字及び落款風の印などが記されたラベルと,10 首部に上記図形及びその下に「農口尚彦研究所」の文字を縦書きの楷書 体で書した文字が記された短冊状のラベル(甲8,9。別紙2の写真の ラベルはその一例)が貼付されている。
また,原告は,同年3月27日,指定商品を第33類「清酒」として, 「農口尚彦」の標準文字からなる商標について商標登録出願をし,同年15 9月8日,その商標登録を受けた(甲10)。
(エ) 平成29年10月から令和2年4月(本件審決当時)までの間,原 告及び「農口尚彦研究所」等は,雑誌,新聞,ウェブサイト等(甲11, 13ないし24,88ないし94,112ないし117,119,12 1,122)で紹介された。その例は,以下のとおりである。
20 a 日本酒専門サイト「SAKETIMES」の2017年(平成29 年)10月13日の「プロジェクト」の記事(甲121)において, 「酒造りの神様・X杜氏の復活!理想の酒蔵でみずからの技術・精神・ 生き様を次世代に伝えていく」の見出しの下に,原告及び建設中の酒 蔵の写真とともに, 新しい酒蔵を建てるにあたって重視されたのは, 「25 細部に至るまでX杜氏の『技術・精神・生き様』を込めること。「農 口尚彦研究所」という名前がつけられたのは,X杜氏が再び美酒を追 15 い求める場所でありながら,「X」という人物そのものを継承してい く場所だからです。」などと掲載された。一方で,上記記事には,酒 造りをする日本酒の銘柄又はブランド名として,「農口尚彦研究所」 が用いられることを示す記載はない。
5 b 日本酒専門サイト「SAKETIMES」の2017年(平成29 年)11月17日の「リリース情報」の欄(甲122)において,「酒 造りの神様 Xが復活する。」の大見出し,「農口尚彦研究所がクラ ウドファンディングサービス「Makuake」にてプロジェクトを 開始!リターンは新設備で一番最初に醸造したお酒」の見出しの下に,10 原告の写真とともに,「今回,Makuakeでご支援いただいた方 には,リターンとして,新しく建設した酒蔵で一番最初に醸造した」 返礼品としては「本醸造酒720ml」,「山廃純米酒720ml」, 「山廃吟醸」などと掲載された。一方で,日本酒の銘柄又はブランド 名として,「農口尚彦研究所」が用いられることを示す記載はない。
15 c 2017年(平成29年)11月頃のTBSの日曜劇場「陸王」の 番組ホームページの「伝統産業に生きる!」のコーナー(甲16)に おいて,「File8 農口尚彦研究所」として,「最も有名な杜氏 の一人で“酒造りの神様”と呼ばれるX氏(84歳)は,1970年 代以降,低迷が続いていた日本酒市場において「吟醸酒」を世に広め,20 昨今の日本酒ブームの礎を作った立役者です。」,「今年の11月に はX氏の理想が詰まった酒蔵「農口尚彦研究所」が石川県小松市観音 下町(かながそまち)に完成。2017年12月には,新しい日本酒 が蔵出しされるとのこと。」などと掲載された。上記ホームページに は,「2017年末,X氏の新たな挑戦がカタチとなり初蔵出しされ25 る。左党を自負する方なら“酒づくりの神様”がつくる日本酒を味わ ってみたいはず。」との説明とともに「日本酒」の写真が掲載されて 16 いる。一方で,日本酒の銘柄又はブランド名として,「農口尚彦研究 所」が用いられることを示す記載はなく,また,掲載された「日本酒」 の写真から,日本酒の瓶のラベルに「農口尚彦研究所」と記載されて いることを判読することは困難である。
5 d 2018年(平成30年)1月19日(UPDATE)の「婦人画 報 2月号」のウェブサイト(甲19)において,「酒造りの神,X の酒が復活!」の見出しの下に,原告が酒蔵「農口尚彦研究所」の杜 氏として復活した旨の紹介記事が掲載された。上記ウェブサイトには, 「日本酒」を並べた横に原告が座った写真が掲載されている。一方で,10 日本酒の銘柄又はブランド名として,「農口尚彦研究所」が用いられ ることを示す記載はなく,また,掲載された「日本酒」の写真から, 日本酒の瓶のラベルに「農口尚彦研究所」と記載されていることを判 読することは困難である。
e 2018年(平成30年)2月10日発行の「週刊ダイヤモンド」15 の「新日本酒紀行」の欄(甲18)において,「85歳の杜氏の新た な挑戦!酒造りで地域と伝統技術を次世代へ」,「農口尚彦研究所」 などの見出しの下に,「農口尚彦研究所 純米酒 小松市産五百万石」 の写真とともに,原告を紹介する記事が掲載された。一方で,日本酒 の銘柄又はブランド名として,「農口尚彦研究所」が用いられること20 を示す記載はなく,また,掲載された「日本酒」の写真から,日本酒 の瓶のラベルに「農口尚彦研究所」と記載されていることを判読する ことは困難である。
f 2018年(平成30年)2月10日発行の「MONOマガジン」 (甲20)の「今月のもう一杯」の欄において,「日本酒の神様,ふ25 たたび始動!」の見出しの下に,「日本酒」の写真とともに,「肝心 の新作については,まずXさんの85回目の誕生日の翌々日,12月 17 26日に本醸造酒を発売。続いて今年1月中旬の「純米酒」…「山廃 吟醸酒」,そして「純米酒大吟醸酒」を3月中旬までに発売する予定 だ。」などと掲載された。掲載された「日本酒」の写真の下には,「左 より「農口尚彦研究所 本醸造酒」五百万石使用,価格3240円(1 5 800ml),「同純米酒」五百万石使用,価格3240円(180 0ml),「同 山廃純米酒」五百万石使用,価格2160円(72 0ml)…「同 純米大吟醸酒」山田錦使用,価格4320円(72 0ml),8640円(1800ml)」との記載がある。一方で, 日本酒の銘柄又はブランド名として「農口尚彦研究所」が用いられる10 ことを示す記載はなく,また,掲載された「日本酒」の写真から,日 本酒の瓶のラベルに「農口尚彦研究所」と記載されていることを判読 することは困難である。
g 2018年(平成30年)4月13日の日本経済新聞夕刊(甲17) において,「能登杜氏「四天王」の酒蔵」の大見出し,「石川に「農15 口尚彦研究所」」,「若手に酒造りを継承」の見出しの下に,酒蔵「農 口尚彦研究所」の紹介記事が掲載された。一方で,酒造りをする日本 酒の銘柄又はブランドとして「農口尚彦研究所」が用いられることを 示す記載はない。
h 2018年(平成30年)5月20日発行の雑誌「ひととき 2020 18・6」の「この熱き人々」の欄(甲109)において,「X 杜 氏」のタイトルで,原告及び日本酒の写真とともに,原告の紹介記事 が掲載された。掲載された「日本酒」の写真の下には,「純米大吟醸 酒。ラベルのデザインも斬新」との記載がある。一方で,日本酒の銘 柄又はブランド名として「農口尚彦研究所」が用いられることを示す25 記載はなく,また,掲載された「日本酒」の写真から,日本酒の瓶の ラベルに「農口尚彦研究所」と記載されていることを判読することは 18 困難である。
i 2018年(平成30年)5月発行の「月刊専門料理」(甲22) において,「「農口尚彦研究所」本格始動!キーマンによる特別鼎談」 の見出しの下に,「日本酒」の写真とともに,原告と人間国宝の陶芸 5 家やアートディレクターとの鼎談が記載された記事が掲載された。掲 載された日本酒の写真の下には「記念すべき初リリースとなったライ ンナップ。左から,「山廃吟醸」(1800ml,5,400円), 「山廃純米」(同 4,320円),「本醸造」(同 3,240円, 「純米」(同 3,240円),「純米大吟醸」(同 8,640円)」10 との記載がある。一方で,日本酒の銘柄又はブランド名として,「農 口尚彦研究所」が用いられることを示す記載はなく,また,掲載され た「日本酒」の写真から,日本酒の瓶のラベルに「農口尚彦研究所」 と記載されていることを判読することは困難である。
j 2018年(平成30年)5月発行の「SMBCマネジメント」の15 「人を育てる」の欄(甲21)において,「「酒造りがしたい」とい う情熱と相手に合わせる心を大切に」の見出しの下に,原告の名を冠 した酒蔵,株式会社農口尚彦研究所が設立され,杜氏に就任にした経 緯等に関する原告のインタビューが掲載された。一方で,日本酒の銘 柄又はブランド名として,「農口尚彦研究所」が用いられることを示20 す記載はない。
k 「京橋もと」の「2018-05-08」のブログ(甲116)に おいて,「農口尚彦研究所 山廃純米酒 無濾過生原酒」と付記した 写真とともに,「2017年石川県小松市に「農口尚彦研究所」が誕 生し日本酒業界はX杜氏2年ぶりの復活に沸き立ちました。」などと25 掲載された。一方で,掲載された「日本酒」の写真から日本酒の瓶の ラベルに「農口尚彦研究所」と記載されていることを判読することは 19 困難である。
l 2018年(平成30年)8月11日の北陸中日新聞のウェブサイ ト(甲24)において,「「農口」世界へ飛び立つ ANA国際線で 酒提供」の見出しの下に,日本酒の写真とともに,「「酒造りの神様」 5 と呼ばれるXさん(85)が杜氏(とうじ)を務める石川県小松市の 酒造会社,農口尚彦研究所の日本酒が今秋から,全日空の国際線ファ ーストクラスなどの機内食メニューに通年で採用される。」,「全日 空によると…通常,3カ月ごとに各地の日本酒を入れ替えるが,通年 での採用は極めてまれ。」などと掲載された。一方で,掲載された「日10 本酒」の写真から日本酒の瓶のラベルに「農口尚彦研究所」と記載さ れていることを判読することは困難である。
m 2018年(平成30年)9月8日の中日新聞のウェブサイト(甲 15)において,「Xさん 酒造りの情熱伝える あす27時間テレ ビ出演 石川テレビ」の見出しの下に, 「小松市観音下町の酒造会社,15 農口尚彦研究所で杜氏(とうじ)を務めるXさん(85)が,九日に …フジテレビ制作の「二十七時間テレビ」に,食にまつわる名人の一 人として出演する。」などと掲載された。一方で,酒造りをする日本 酒の銘柄又はブランド名として,「農口尚彦研究所」が用いられるこ とを示す記載はない。
20 n 2018年(平成30年)12月21日発行の雑誌「東京カレンダ ー」(甲113)の「大人の初デート。」の記事において,女性が「日 本酒リストを見ては「農口尚彦研究所がある!」と喜び,どうやら本 当に日本酒好きのようだ。」などと掲載された。
o 2019年(平成31年)1月1日発行の「致知 2月号」(甲125 12)において,「最高の味を求め続けて」の大見出し,「酒造りの 神様,その飽くなき挑戦」の見出しの下に,「「酒造りの神様」「伝 20 説の杜氏」と称されるX氏,八十六歳。十六歳で修行に入り,この道 一筋七十年になる現代の名工だ。全国新酒鑑評会で連続十二回を含め, 計二十七回の金賞受賞歴を誇り,その味を求めるファンは後を絶たな い。」,「それで二年間のブランクを経て,二〇一七年十一月に完成 5 した「農口尚彦研究所」というこの酒蔵で新たな挑戦をスタートしま した。」(48頁)などのインタビュー記事が掲載された。一方で, 日本酒の銘柄又はブランド名として,「農口尚彦研究所」が用いられ ることを示す記載はない。
p 2019年(令和元年)7月23日(更新日)の星野リゾートのウ10 ェブサイト(甲115)において,「日本酒の神様「X」杜氏の酒造 りに酔いしれる」の見出しの下に,原告及び「日本酒」の写真ととも に,「日本酒を極め続けてきた「能登杜氏(とうじ)」Xが造る酒。
それは,名だたる高級料理店をはじめ,最近では海外からの人気も高 い,石川県の銘酒です。」,「2017年,石川県小松市に完成した15 合理的で先駆的な酒蔵「農口尚彦研究所」が発信する,濃醇な酒の魅 力と新たな日本酒の世界観をご紹介します。」などと掲載された。掲 載された「日本酒」の写真の下には,「左から「大吟醸」8,640 円,山廃(やまはい)シリーズ「五百万石」5,400円,同「愛山」 5,400円,同「美山錦」5,400円,全て720ml」と記載20 されている。一方で,日本酒の銘柄又はブランド名として,「農口尚 彦研究所」が用いられることを示す記載はなく,また,掲載された「日 本酒」の写真から日本酒の瓶のラベルに「農口尚彦研究所」と記載さ れていることを判読することは困難である。
q 2019年(令和元年)9月12日発行の「GOOD AGING25 BOOK 2019」(甲91)において,「株式会社農口尚彦研究 所 杜氏 X」,「喜ばれる日本酒造りに生きる「農口尚彦研究所」 21 で復活した杜氏人生」の見出しの下に,「第17回グッドエイジャー 賞」を受賞した原告の紹介記事が掲載された。一方で,日本酒の銘柄 又はブランド名として,「農口尚彦研究所」が用いられることを示す 記載はない。
5 r 2019年(令和元年)9月25日発行の雑誌「Forbes 2 019 11月号」(甲114)の「美酒のある風景」の欄において, 「Noguchi Naohiko Sake Institute YAMAHAI AIYAMA 伝説の杜氏Xが挑む,渾身の食中酒」 との見出しの下で,「日本酒」の写真とともに,原告及び「農口尚彦10 研究所 山廃 愛山」の紹介記事が掲載された。一方で,日本酒の銘 柄又はブランド名として,「農口尚彦研究所」が用いられることを示 す記載はなく,また,上記日本酒の写真には,「の」の文字をモチー フにした図形などを配したラベルが貼付されているが,「農口尚彦研 究所」の文字を縦書きで書してなる文字が記された短冊状のラベルの15 貼付はない。
s 2020年(令和2年)1月29日の北陸中日新聞(甲93)にお いて,「酒に合う 創作料理に舌鼓」,「小松 農口研究所で催し」 の見出しの下に,日本酒に合う創作料理を楽しむ催しが酒造会社「農 口尚彦研究所」で行われた旨の記事が掲載された。一方で,日本酒の20 銘柄又はブランド名として,「農口尚彦研究所」が用いられることを 示す記載はない。
t 2020年(令和2年)2月10日のANA(全日空)のウェブサ イト(甲89)の「ANA NEWS」のウェブページにおいて,「A NA日本酒セレクションの新たな銘柄を決定」の見出しの下に,「A25 NAは,2020年3月より機内およびラウンジにてご提供する日本 酒セレクションの新たな銘柄を決定しました。今回の日本酒セレクシ 22 ョンは…25都府県※1の46銘柄を選定し…人気の「農口尚彦研究 所」に加え,「而今」,「醸し人九平次」…など長年にわたり多くの 方々に愛されてきた希少性の高い銘柄を取り揃えました。」などと掲 載された。
5 u 2020年(令和2年)2月29日の北陸中日新聞(甲94)にお いて,パンと日本酒を手に持つ食パン店の社長の写真とともに,金沢 市の食パン店「新出製パン所」と小松市の酒造会社「農口尚彦研究所」 がコラボし,生地に酒かすを加えた食パンが販売される旨の記事が掲 載された。一方で,日本酒の銘柄又はブランド名として,「農口尚彦10 研究所」が用いられることを示す記載はなく,また,掲載された写真 から日本酒の瓶のラベルに「農口尚彦研究所」と記載されていること を判読することは困難である。
v 2020年(令和2年)4月16日の三井住友信託銀行のウェブサ イトの「三井住友信託スペシャル対談シリーズ」(甲90)において,15 原告及び俳優のAの写真とともに,Aが原告にインタビューする対談 記事が掲載された。掲載された写真には,対談者の後方に「日本酒」 の瓶が並べられている。一方で,日本酒の銘柄又はブランド名として 「農口尚彦研究所」が用いられることを示す記載はなく,また,掲載 された写真から日本酒の瓶のラベルに「農口尚彦研究所」と記載され20 ていることを判読することは困難である。
w 2020年(令和2年)4月17日(更新日時)の日本酒の口コミ サイト「SAKETIME」(甲88)の「石川の日本酒ランキング 2020」の欄において,「1位 農口尚彦研究所」として「「農口 尚彦研究所」は,X杜氏の酒づくりの技術や精神を次世代に継承すべ25 く2017年新設された石川県の酒蔵だ。X杜氏は”酒造りの神様“の 異名をもち,能登杜氏四天王として数えられる日本最高峰の醸造家の 23 一人…」と記された口コミが掲載された。
イ 検討 原告は,「農口尚彦研究所」の日本酒は,日本酒評価サイトである「S AKETIME」の石川の日本酒ランキング2020において,第1位を 5 獲得したこと,ANAの国際線ファーストクラスにおいて,2018年(平 成30年)から継続して「農口尚彦研究所」の日本酒が提供されているこ と,このほか,様々な著名雑誌や全国放送のテレビ等においても,原告の みでなく,「農口尚彦研究所」も,北陸を代表する酒蔵として紹介されて いることなどからすると,原告自身の名はもちろん,原告の手による「農10 口尚彦研究所」の日本酒及びその日本酒を販売する「農口尚彦研究所」の 名称も,需要者の間で広く認識されており,引用商標は,本件審決時にお いて,原告の業務に係る商品「日本酒」を表示するものとして,周知又は 著名であったといえるから,これを否定した本件審決の認定は誤りである 旨主張するので,以下において判断する。
15 (ア) 引用商標は,別紙2に示すとおり,「農口尚彦研究所」の文字を縦 書きの楷書体で書してなるものである。
商品「日本酒」は,嗜好品であり,その需要者は,一般消費者である から,引用商標が周知であるというためには,需要者である一般消費者 の間で,引用商標が原告の業務に係る「日本酒」を表示するものとして20 広く認識されている必要がある。
(イ) そこで検討するに,前記アの認定事実によれば,原告が杜氏を務め る株式会社農口尚彦研究所は,平成29年12月頃から,引用商標を付 した日本酒(「農口尚彦研究所」の日本酒)を継続して販売し,本件審 決時(審決日令和2年3月27日)までの販売期間は約1年5か月であ25 ることが認められる。一方で,引用商標を付した日本酒の販売数量,売 上金額,市場占有率等についての立証はなく,引用商標を付した日本酒 24 の販売実績を認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 次に,前記ア(エ)の雑誌,新聞,ウェブサイト等には,原告について, 「酒造りの神様・X杜氏の復活!」,「酒造りの神,Xの酒が復活!」, 「日本酒の神様,ふたたび始動!」,「「酒造りの神様」「伝説の杜氏」 5 と称されるX氏」などと掲載され,原告が平成29年から酒蔵「農口尚 彦研究所」で杜氏として酒造りを再開したことが紹介されていること, 引用商標を付した日本酒が,2018年(平成30年)から,ANAの 国際線ファーストクラスの機内で提供される「日本酒セレクション」に 採用されていること,令和2年にもANAのウェブサイトで人気の銘柄10 として紹介されていることが認められる。
もっとも,上記雑誌,新聞,ウェブサイト等においては,「農口尚彦 研究所」は,原告が杜氏を務める酒蔵として紹介されており,上記AN Aのウェブサイトを除き,日本酒の銘柄又はブランド名として,「農口 尚彦研究所」が用いられることを明確に示す記載はない。また,日本酒15 が掲載された写真についても,当該写真から「農口尚彦研究所」と表示 されていることを判読することは困難である。
加えて,前記ア(エ)の雑誌,新聞,ウェブサイト等における原告の紹 介記事等によれば,原告の氏名である「X」は,日本酒の銘柄等に関心 の高い日本酒愛好家の間では知名度が高かったものといえるが,嗜好や20 こだわり等も様々な一般消費者の間において,広く知られていたとまで 認めることはできない。
以上によれば,前記ア(エ)の雑誌,新聞,ウェブサイト等の掲載状況 から,本件審決時において,酒蔵「農口尚彦研究所」及び「農口尚彦研 究所」の日本酒は,日本酒の銘柄等に関心の高い日本酒愛好家の間では,25 相当程度認識されていたものと認められるものの,一般消費者の間で広 く認識されていたものと認めることはできず,ましてや,引用商標が原 25 告の業務に係る商品「日本酒」を表示するものとして,広く認識されて いたものと認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はな い。
(エ) 以上によれば,引用商標は,本件審決時において,原告の業務に係 5 る商品「日本酒」を表示するものとして,需要者の間で広く認識されて いたものと認めることはできないから,原告の前記主張は採用すること ができない。
? 本件使用商標1及び2と引用商標の類否について ア 本件使用商標1及び2について10 (ア)a 被告が平成26年から別紙1記載の使用例1又は使用例2記載の ラベルを瓶に貼付した「農口」の銘柄の日本酒の販売を開始したこと は,前記(1)ア(イ)のとおりである。
使用例1のラベルには,草書体の縦書きの「農口」の文字(本件使 用商標1)が,使用例2のラベルには,楷書体の「農口」の文字(本15 件使用商標2)が,それぞれ大きく表示され,「農口」の文字の左側 に「杜氏 X」の文字及び「X」の落款が表示されている。
しかるところ,本件使用商標1及び2の「農口」の文字は,他の文 字部分等から明確に分離して観察することができるから,独立した商 品の出所識別標識として認識することができる。
20 b 本件使用商標1及び2は,その構成文字に応じてそれぞれ「ノグチ」 又は「ノウグチ」の称呼を生じる。
また,「農口」の語は,特定の意味を有しない造語として認識され ると解されるので,本件使用商標1及び2からは特定の観念を生じな い。
25 (イ) これに対し原告は,日本酒の世界において原告の名は周知又は著名 であること,「農口」が名杜氏である「X」を示すことは,小売店及び 26 日本酒ファンの間では常識であることからすると,本件使用商標1及び 2を本件商標の指定商品中の「日本酒」に付した場合,本件使用商標1 及び2から名杜氏Xの観念が生じる旨主張する。
しかしながら,前記?イ(ウ)認定のとおり,原告の氏名である「X」 5 は,日本酒の銘柄等に関心の高い日本酒愛好者の間では知名度が高かっ たものといえるが,嗜好やこだわり等も様々な一般消費者の間において, 広く知られていたものと認められない。
また,原告や酒蔵「農口尚彦研究所」を紹介する前記(1)ア(エ)の各記 事等では,原告は「X」のフルネームで紹介されるものがほとんどであ10 り,「農口」と紹介されているのは,「「X」世界へ飛び立つ ANA 国際線で酒提供」,「Xさん 酒造りの情熱伝える」((1)ア(エ)l,m) の2つにとどまっていることに照らすと,日本酒の銘柄にある程度詳し い需要者層においても,単なる「農口」との表示から名杜氏である「X」 の観念が生じるものとは認められない。
15 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ 引用商標について (ア) 引用商標は,楷書体で「農口尚彦研究所」の文字を縦書きしてなる ものである。
引用商標は,同書,同大,同間隔の文字で一連に縦書きで表記された20 ものであり,全体が1つのまとまりある標章として認識されるから,そ の全体からよどみなく一連のものとして「ノグチナオヒコケンキュウジ ョ」又は「ノウグチナオヒコケンキュウジョ」の称呼が生じる。
そして,引用商標からは「Xの研究所」ないし「Xを研究する研究所」 の観念を生じる。
25 (イ) これに対し原告は,引用商標の「農口尚彦研究所」は原告の名に普 通名称である「研究所」を付しただけのものであるから,引用商標の構 27 成中,「農口」又は「農口尚彦」の部分が要部に当たり,引用商標を日 本酒に付した場合には,引用商標から名杜氏Xの観念が生じる旨主張す る。
しかしながら,前記?イ(ウ)認定のとおり,原告の氏名である「X」 5 は,日本酒の銘柄等に関心の高い日本酒愛好者の間では知名度が高かっ たものといえるが,嗜好やこだわり等も様々な一般消費者の間において, 広く知られていたものと認められないことに照らすと,引用商標が日本 酒に使用された場合,引用商標の構成中の「農口尚彦」の文字部分が, 取引者,需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与10 えるものとは認められない。また,「研究所」の語は,研究がされる場 を意味する普通名詞であるが,日本酒の分野においてありふれたもので あるとはいえず,引用商標の構成中の「研究所」の文字部分に出所識別 標識としての称呼又は観念が生じないということもできない。
したがって,引用商標から「農口尚彦」の文字部分を要部として抽出15 することはできないから,原告の上記主張は,その前提において理由が ない。
ウ 類否について 本件使用商標1及び2と引用商標を対比すると,本件使用商標1及び2 はそれぞれ「農口」の漢字2字から構成されるのに対し,引用商標は,「農20 口尚彦研究所」の漢字7字から構成されるから,本件使用商標1及び2と 引用商標は,外観が異なる。
また,本件使用商標1及び2からそれぞれ「ノグチ」又は「ノウグチ」 の称呼が生じるのに対し,引用商標から「ノグチナオヒコケンキュウジョ」 又は「ノウグチナオヒコケンキュウジョ」の称呼が生じるから,本件使用25 商標1及び2と引用商標は,称呼が異なる。
本件使用商標1及び2からは特定の観念が生じないのに対し,引用商標 28 からは「Xの研究所」ないし「Xを研究する研究所」の観念が生じるから, 両者は観念においても相違する。
そうすると,本件使用商標1及び2と引用商標は,外観及び称呼が異な り,観念においても相違することからすると,本件使用商標1及び2と引 5 用商標が本件商標の指定商品中の「日本酒」に使用された場合,その出所 について誤認混同を生ずるおそれがあるものと認められないから,本件使 用商標1及び2が引用商標に類似する商標であると認められない。
エ 原告の主張について 原告は,@日本酒については,同一銘柄であっても,醸造方法,グレー10 ド,原料等や価格帯が異なる商品が多数流通している実情があり,商品名 (銘柄)そのものに加え,ラベルから読み取れる様々な情報が顧客吸引力 を有するといえるから,日本酒における使用商標は,商品のラベルのデザ イン全体であると考えるのが合理的である,A本件使用商標1及び2のラ ベルは,別紙1記載のとおり,ラベルの色や背景に差異はあるものの,中15 央に「X」又は「杜氏 X」の観念を生じさせる「農口」の表示があり, 左側に「杜氏 X」の文字及び「X」の落款がある,本件使用商標1及び 2のラベルにおいては,「農口」の文字が要部であり,「杜氏 X」の文 字が記載されていることも相まって, 「杜氏 X」の名が印象付けられる, Bしたがって,引用商標を付した商品のラベル全体と本件使用商標1及び20 2のラベル全体を対比すると,両商標は,類似の商標に該当する旨主張す る。
しかしながら,本件使用商標1及び2の「農口」の文字は,別紙1記載 の使用例1及び2のとおり,ラベルの中央に大きく表示され,他の文字部 分等から明確に分離して観察することができ,独立した商品の出所識別標25 識として認識することができること(前記ア(ア)a)に照らすと,本件使 用商標1及び2と引用商標の類否を判断するに当たり,引用商標を付した 29 商品のラベル全体と本件使用商標1及び2のラベル全体を対比すべき理 由はない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 出所の混同について 5 原告は,引用商標は,周知又は著名な商標であり,本件使用商標1及び2 は引用商標と類似の商標であって,被告が本件使用商標1及び2を本件商標 の指定商品の「日本酒」に使用した場合,原告及び「農口尚彦研究所」と組 織的又は経済的な関係を有する者の業務に係る商品と混同を生じさせるおそ れがあるばかりでなく,現実に原告及び「農口尚彦研究所」の業務に係る商10 品と混同を生じているから,被告による本件使用商標1及び2の使用は,商 標法51条1項に該当し,これと異なる本件審決の判断は誤りである旨主張 する。
しかしながら,引用商標は,本件審決時において,原告の業務に係る商品 「日本酒」を表示するものとして,需要者の間で広く認識されていたものと15 認められないこと,本件使用商標1及び2と引用商標が類似するものと認め られないことは,前記(1)及び(2)のとおりであるから,原告の上記主張は,そ の前提において,採用することができない。
2 品質の誤認についての判断の誤りについて 原告は,需要者は,本件使用商標1及び2を使用した被告の日本酒を原告の20 手による日本酒であるとの誤解の下で購入しており,商品の品質の誤認も生じ ているから,被告による本件使用商標1及び2の使用が,品質の誤認を生ずる ものであり,これを否定した本件審決の判断は誤りである旨主張する。
そこで検討するに,商標法51条1項にいう「商品の品質」には,商品が日 本酒(清酒)の場合,原料,製造方法等の違いによって分類される特定名称や25 特定の杜氏が関与して製造された商品であることをも含むものと解される。
しかるところ,前記1(2)ア(ア)bのとおり,本件使用商標1及び2から,特 30 定の観念を生じるものではなく,原告の観念を生じるものでもないから,本件 使用商標1及び2を付した日本酒を原告が杜氏として製造した日本酒であると の誤認を生じさせるものと認めることはできない。
もっとも,被告の日本酒の瓶に貼付されたラベルには,別紙1記載の使用例 5 1及び2のとおり,本件使用商標1又は2の左側に「杜氏 X」の表示がある こと(前記1(2)ア(ア)a)に鑑みると,上記ラベルに接した需要者は,「杜氏 X」の表示から原告が杜氏として酒造りをした日本酒であると認識するものと 認められるが,そのことは,「杜氏 X」の表示から生じる認識であって,本 件使用商標1及び2自体から生じた認識あるいは誤認であるということはでき10 ない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
3 小括 以上によれば,被告が本件商標と類似する本件使用商標1及び2をその指定 商品に使用して商品の品質の誤認又は原告の業務に係る商品と混同を生ずるも15 のをしたということはできないから,被告の故意の有無について判断するまで もなく,被告による本件使用商標1及び2の使用は,商標法51条1項に該当 するものと認めることはできない。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取 消事由は,理由がない。
20 第5 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,本件審決にこれを取り消 すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。
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