関連審決 | 取消2019-300100 |
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事件 |
令和
2年
(行ケ)
10111号
審決取消請求事件
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原告有限会社江本商店 同訴訟代理人弁理士 下田正寛 安倍逸郎 被告縣屋酒造株式会社 同訴訟代理人弁護士 籾倉了胤 横田有里 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2021/01/26 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が取消2019-300100号事件について令和2年8月17日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,商標登録取消審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,商標の不使用(商標法50条1項)が認められるか否かである。 1 商標 被告は,「安心院蔵」の文字を標準文字で表して成り,指定商品を「第33類 日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」とする商標(登録番号4915760号,出願日平成17年4月7日,登録日同年12月16日。以下「本件商標」という。)の商標権者である。 2 特許庁における手続の経緯 原告は,平成31年2月8日,商標法50条1項に基づき不使用を理由として本件商標を取り消すとの審決を求める審判請求(取消2019-300100号。以下「本件審判請求」という。)をした(本件審判請求の登録日は同月25日)ところ,特許庁は,令和2年8月17日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月27日,原告に送達された。 3 本件審決の理由の要点 (1) 事実認定 証拠によると,大分銘醸株式会社(以下「大分銘醸」という。)は,毛筆体風の文字で「安心院蔵」を縦書きにした商標(以下「使用商標」という。)を記載したラベルを付した焼酎(以下,このラベルを付した焼酎を「使用商品」ということがある。)について,平成30年2月及び平成31年1月各発行の大分県宇佐市(以下,単に「宇佐市」という。)の小冊子(甲7,8。以下,併せて「本件各カタログ」という。)に掲載したと認められ,大分銘醸の代表者及び被告代表者の各陳述書(甲16,17)における陳述によると,大分銘醸は被告から本件商標について黙示の許諾を受けていると認められる。 (2) 判断 ア 本件商標と使用商標は,書体及び横書きと縦書きの相違があるものの構成文字を共通にするから,社会通念上同一と認められる。 イ 焼酎は,本件審判請求に係る指定商品「日本酒」の範ちゅうに含まれる。 ウ カタログ等は発行後に展示又は頒布されることが一般的であり,また,本件各カタログの発行月以降は,いずれも,本件審判請求の登録前3年以内の平成28年2月25日から平成31年2月24日までの期間(以下「要証期間」という。)内であることからすると,本件各カタログは,いずれも要証期間内に展示又は頒布されたことが容易に推認でき,使用期間は要証期間内と認められる。 エ 本件商標の使用者である大分銘醸は,被告から本件商標について黙示の許諾を受けているものであるから,本件商標の通常使用権者である。 オ 上記ア〜エからすると,本件商標の通常使用権者は,要証期間内に,日本国内において本件審判請求に係る指定商品「日本酒」の範ちゅうに含まれる商品に関する広告に本件商標と社会通念上同一と認められる商標を付して展示又は頒布したと認められ,この行為は商標法2条3項8号に該当する。したがって,本件商標の登録は,商標法50条により取り消すべきものではない。 4 原告の主張する審決取消事由 本件審決は,次のとおり,通常使用権の有無を判断する証拠から除くべき大分銘醸の代表者の陳述書(甲16)を除かず,同陳述書及び被告代表者の陳述書(甲17)の二つの証拠のみに基づいて通常使用権について判断したとの欠陥があり,また,通常使用権の有効・無効の判断を誤ったものである。 (1) 大分銘醸の代表者の陳述書(甲16)について ア 上記陳述書には,大分銘醸が被告の製品のみの瓶詰を行っている旨が記載されている。しかし,焼酎「安心院蔵」のラベルに醸造元が大分銘醸であると明記されていること(甲3),醸造元である大分銘醸が被告に商品を納品していると納品書及び納品伝票に明記されていること(甲10〜12),大分銘醸の商品案内で使用商品が紹介されていること(甲14)からすると,使用商品の実質的な製造を大分銘醸が行っていたというべきであり,上記陳述書の記載は誤っている。 イ 上記陳述書には,平成12年頃から,大分銘醸が被告の製造する焼酎を「安心院蔵」の名称で販売していた旨が記載されているが,被告は平成16年まで焼酎を製造する設備を有していなかったから,上記記載は誤っている。また,平成14年以降に大分銘醸が販売していたものは,焼酎「安心院蔵縣屋」(商標登録第4551036号)であり,「安心院蔵」ではない。 ウ 大分銘醸の税務を担当した公認会計士・税理士は,大分銘醸が「安心院蔵」の商標を被告から使用させてもらっていることについて説明を受けたことがない(甲23)。会社の税務を担当している者に対し,会社の利益の重大な源泉ともいえる商標権に関する事項について説明がされていないことは,大分銘醸が,本件商標について通常使用権の許諾を受けたとの認識を有していないことを示している。 エ 以上のとおり,上記陳述書には事実と異なる内容が記載されており,その信用性は極めて低い。 (2) 大分銘醸の代表者の陳述書(甲16)及び被告代表者の陳述書(甲17)に基づく認定について 大分銘醸の代表者であるAと被告代表者は,夫婦という関係にあるだけでなく,共同で,大分銘醸から原告を排除する動きを示し,訴訟(大分地方裁判所中津支部平成31年(ワ)第4号株主総会決議取消請求事件。甲22)にまで発展した。それにもかかわらず,物的証拠や第三者による陳述等の客観的証拠が存在せず,それらが提出されていない事実に関し,客観性が乏しく,恣意的になりやすい関係者の陳述のみに基づき,本件の中心的争点である通常使用権の有無を判断することは,審理の公平性の観点から妥当でない。上記2通の陳述書のみに基づいて通常使用権を認めた本件審決には,重大な欠陥がある。 (3) 通常使用権が無効であることについて ア 通常使用権の有効な成立には,許諾をする者(商標権者)と許諾を受ける者(使用権者)との間の有効な意思表示による合意が必要であり,意思表示に重大な欠缺がある場合には,通常使用権の許諾は成立しないと解される。 この点,無効審決の確定等により消滅する可能性が高い商標権についてライセンスを受けた場合,使用権者においては,本来支払う必要のないライセンス料の支払を行わなければならず,経済的不利益を被る可能性が高いから,使用権者の有効な意思表示がされるべき必要性は極めて高い(必要性)。また,使用権者の意思表示に欠缺がある場合,これを無効としても,許諾が必要な使用権者においては,有効な意思表示とするためには追認をすればよい一方,使用権者が無効を主張したときは,商標権者は,意思表示を行った個人に無権代理による責任を追及すれば足り,商標権者に経済的不利益が生じる可能性も低い(許容性)。 イ 本件商標の設定登録日である平成17年12月16日は,被告の代表取締役の不在期間に当たり,平成17年法律87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)258条1項により,Aが代表取締役としての権利義務を有していたところ,同人は,大分銘醸の取締役であったから,被告が大分銘醸に通常使用権を許諾する行為は,利益相反行為に該当する。したがって,大分銘醸は,取締役会において,当該通常使用権の許諾について承認を受けなければならず(旧商法265条1項),当該承認については議事録を作成し,本店に10年間備えおくことが求められる(旧商法260条の4第1項・5項)。 しかるに,平成17年12月16日までに,大分銘醸において,当該通常使用権の許諾について,取締役会での承認が行われたとの事実はない(甲6)。また,その後,追認がされたとの事実も存在せず,その証拠も提出されていない。 したがって,利益相反行為として,大分銘醸の意思表示は無効であり,たとえ黙示の意思表示によるものであっても,通常使用権の許諾は無効である。 なお,許諾による通常使用権について,商標法には31条のほか定めがないが,商標法と同じ産業立法であり,産業の根幹をなす法律である会社法(旧商法を含む。)の規定を適用すべきである。 ウ したがって,大分銘醸は,被告から許諾を受けた通常使用権者ではない。 5 被告の主張 (1) 大分銘醸の代表者の陳述書(甲16)に係る原告の主張について 大分銘醸には,酒税法で求められている焼酎の製造免許がなく,焼酎の製造を行い得ない。また,本件で焼酎の製造が問題となるのは要証期間内においてであり,製造の始期がいつであるかは争点と関係がなく,要証期間以外における販売の対象がどのようなものであったかも争点と関係がない。要証期間内において大分銘醸又は被告が焼酎「安心院蔵」を製造し,又は販売していたことは,証拠(甲7,8,10〜12)から明らかである。原告の主張する上記陳述書における誤りは,いずれも争点とは無関係の事実に係るものであって,上記陳述書の証拠能力及び内容の信用性判断に影響を与える事情ではない。 (2) 大分銘醸の代表者の陳述書(甲16)及び被告代表者の陳述書(甲17)に基づく認定に係る原告の主張について ア 被告が大分銘醸に対し,過去及び現在において,本件商標を大分銘醸が使用することに何らの異議を述べていないことは明らかである(甲17)ほか,次の各事実が存在しており,それらの点を踏まえて,被告が大分銘醸に本件商標の使用を(黙示的に)許諾したと判断した本件審決に誤りはない。 (ア) 本件商標の使用期間内である平成23年4月15日以降における大分銘醸の代表取締役であるAは,平成18年10月11日から被告の取締役であって,平成20年11月25日から平成30年9月8日までは被告の代表取締役でもあった(甲4の1・2,甲5の1・2)。 (イ) 大分銘醸は,原告,被告及び有限会社常徳屋酒造の3社が共同して設立した瓶詰会社であり,平成12年から,被告が製造した焼酎に本件商標を付して販売してきた(甲6,16)。したがって,大分銘醸が本件商標を付した商品を販売して使用することは,被告の意図するところであった。 (ウ) 被告と大分銘醸が併せて掲載されている本件各カタログも存在する(甲7,8)。 イ 原告が提出する陳述書(甲23)は,その作成名義人である税理士において,本件商標の使用について何らの認識もなかったことを意味するものにすぎない。大分銘醸が本件商標の使用について何らの経済的負担も負っていなかったことからすると,会計的な処理上は何らの影響も生じないため,税理士が商標権の使用許諾の有無について認識を持っていなかったことは自然なことである。 (3) 通常使用権が無効であるとの原告の主張について ア 被告から大分銘醸に黙示で通常使用権を付与したものであって,そもそも利益相反行為というべき取引の実態がない。 イ 仮に,被告が大分銘醸に対して本件商標の通常使用権を黙示に付与する行為が大分銘醸において利益相反行為に該当する場合であっても,利益相反行為が無効とされる趣旨は会社の利益保護にあり,大分銘醸が利益相反行為による無効を主張していない本件において,第三者である原告にはこれを主張する適格がない。 ウ 本件商標の通常使用権のライセンス料について被告は大分銘醸に請求をしておらず,大分銘醸が被告に対してライセンス料を支払っていない,いわば無償の通常使用権の許諾行為について,被告において利益相反取引となる可能性はあっても,大分銘醸においては,実質的に利益相反関係がなく,利益相反取引に該当しない。 (4) 被告の管理の下での使用があること なお,大分銘醸は,平成28年3月28日,平成29年3月28日及び平成30年3月30日に,被告に対して本件商標を付した商品を納品し(甲10〜12),平成30年2月発行及び平成31年1月発行の本件各カタログに本件商標を掲載している(甲7,8)から,本件商標について,商標法2条3項1号,2号及び8号に定める使用が認められる上,前記(2)アの事情が存するから,被告から大分銘醸に対する明示又は黙示の通常使用権の許諾が認められないとしても,大分銘醸の本件商標の使用が被告の管理の下においてされていることは明らかである。 WTO加盟国である日本国を拘束し,法律に反映しなければならないとされている多国間協定であるTRIPS協定19条2は,「他の者による商標の使用が商標権者の管理の下にある場合には,当該使用は,登録を維持するための使用として認められる。」と規定している。したがって,商標登録維持のための使用は,商標権者の管理の下にある者によるものであれば,厳密な意味の使用権者でない者によるものであっても,商標の使用として認められると解すべきである。 |
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当裁判所の判断
1 大分銘醸による本件商標の使用について (1) 証拠(甲7,8)及び弁論の全趣旨によると,大分銘醸において,平成30年2月頃及び平成31年1月頃,本件商標と社会通念上同一の使用商標を付した使用商品を宇佐市の発行する本件各カタログに掲載したこと,使用商品は,本件商標の指定商品のうち「日本酒」の範疇に含まれる「焼酎」であることが認められる。 (2) したがって,大分銘醸は,要証期間である平成28年2月25日から平成31年2月24日までの期間内に,本件商標の使用(商標法2条3項8号)をしたものと認められる。 2 大分銘醸が通常使用権者に当たることについて (1) 認定事実 括弧内に掲記する証拠及び弁論の全趣旨によると,前記1(1)の事実に加え,次の各事実が認められる。 ア(ア) 大分銘醸は,昭和59年7月12日に,酒類の製造及び販売等を目的として,原告,被告及び有限会社常徳屋酒造の3社により設立された株式会社である(甲5の1,甲6)。 (イ) 被告と大分銘醸は,平成14年11月以降,いずれも宇佐市安心院町折敷田内に近接して所在している(甲4の1,甲5の1・2,甲18)。 (ウ) 被告代表者であるBと大分銘醸の代表者であるAは,夫婦である。 イ(ア) Aは,大分銘醸において,平成15年8月25日以前から平成17年9月1日まで(平成18年10月11日退任登記)は取締役を,平成18年9月1日から平成22年9月30日まで(平成23年5月19日退任登記),平成23年4月15日から平成26年9月30日まで(平成30年12月3日退任登記)及び平成30年11月1日からは取締役及び代表取締役をそれぞれ務めている(甲5の1・2)。 (イ) Aは,被告において,平成13年11月30日以前から平成15年11月25日まで(平成18年12月7日退任登記)は取締役及び代表取締役を,平成18年10月11日から平成20年11月24日までは取締役を,同月25日から平成30年9月8日までは取締役及び代表取締役をそれぞれ務めている(甲4の1・2)。 ウ Bは,被告において,平成13年11月30日以前から平成15年11月25日まで(平成18年12月7日退任登記)及び平成18年10月11日から平成20年11月24日までは取締役を,同月25日からは取締役及び代表取締役をそれぞれ務めている(甲4の1・2)。 エ(ア) 大分銘醸は,平成28年3月28日付け,平成29年3月28日付け及び平成30年3月30日付けで,被告に宛てて,自社を「むぎ焼酎安心院蔵」の「醸造元」と表示し,「商品名」欄に,「焼酎」,「安心院蔵」などと表記した納品書又は納品伝票を発行した(甲10〜12)。 (イ) 平成28年1月1日の大分合同新聞朝刊に,大分銘醸の商品として,焼酎「安心院蔵」の広告が掲載されたところ,この広告には,「本格焼酎」,「大分むぎ焼酎」,「安心院蔵」,「醸造元 大分銘醸株式会社」,「創業正徳二年「縣屋」」などと記載されたラベル(甲3。以下「本件ラベル」という。)が写っている(甲13)。 (ウ)大分銘醸は,自社の商品を案内するカタログに,本件ラベルを付した焼酎を掲載している(甲3,14)。 (エ) 大分銘醸は,平成30年9月から同年11月までの間に,焼酎「安心院蔵」を,全国各地に出荷した(甲15)。 (2) 大分銘醸による「安心院蔵」との表示の使用等の事実(前記1(1)の事実及び前記(1)エ(ア)〜(エ)の事実)に加え,大分銘醸の設立経緯及び被告との関係その他の事実(前記(1)ア〜ウの事実)からすると,被告においては,大分銘醸が「安心院蔵」との表示を付した焼酎を出荷し,その広告をしていることを,要証期間前から認識していたものと認められる。そして,その点について被告が大分銘醸に対して異議を述べたなどといった事情は何らうかがわれず,むしろ,被告においては,大分銘醸により「安心院蔵」の表示が付された焼酎の納入を受けていたものと認められる(前記(1)エ(ア)の事実)。以上の点に,大分銘醸の代表者と被告代表者の関係等の事実(前記(1)ア(ウ),イ及びウの事実)を考慮すると,被告は,大分銘醸に対し,要証期間前から,本件商標の使用を黙示的に許諾していたことが推認されるというべきである。 その上で,上記推認に沿う大分銘醸の代表者の陳述書(甲16)及び被告代表者の陳述書(甲17)の記載を総合すると,大分銘醸が要証期間において本件商標の通常使用権者であったことを優に認めることができる。 3 原告の主張について (1) 大分銘醸の代表者の陳述書(甲16)について ア 原告は,上記陳述書の信用性が極めて低いと主張するが,前記2(2)で判示したとおり,上記陳述書の記載内容は,他の証拠から認められる事実関係やそれらから推認される事実関係と整合しており,上記陳述書の信用性が低いというべき事情は認められない。 イ 原告は,@上記陳述書には,大分銘醸が被告の製品のみの瓶詰を行っている旨が記載されているが,大分銘醸は焼酎の実質的な製造を行っている(甲3,10〜12,14),A被告は平成16年まで焼酎を製造する設備を有していなかった,B平成14年以降に大分銘醸が販売していたのは焼酎「安心院蔵縣屋」であったと主張して,上記陳述書の記載には誤りがあると主張する。 しかし,上記@について,原告が指摘する証拠(甲3,10〜12,14)から認められる前記2(1)エ(ア)〜(ウ)の事実と上記陳述書における記載が直ちに矛盾するものであるとはいえず,また,それらの事実と上記陳述書における記載との間に必ずしも整合しないとみることができる点があるとしても,それが上記陳述書の記載のうち通常使用権の許諾に係る部分の信用性を否定すべきほどの事情であるとは解されない。また,上記A及びBについては,そもそも原告が主張する事実を認めるべき証拠がなく,その点をおくとしても,上記陳述書の記載のうち通常使用権の許諾に係る部分の信用性を否定すべき事情に当たるとはいえない。 以上のほか,原告は,大分銘醸の税務を担当した税理士が作成したものであるとして陳述書(甲23)を提出するが,同税理士が大分銘醸の代表者から本件商標の使用に関して説明を受けていなかったとしても,そのことが直ちに,大分銘醸が被告から本件商標の使用を許諾されていたとの事実に反するとはいえず,前記2の認定判断が左右されるものではない。 (2) 大分銘醸の代表者の陳述書(甲16)及び被告代表者の陳述書(甲17)に基づく認定について 原告は,上記2通の陳述書のみに基づいて通常使用権を認めた本件審決には,重大な欠陥があると主張するが,大分銘醸が通常使用権者であると認められることは,前記2で認定判断したとおりであり,原告の主張はこの認定判断を左右するものではない。 (3) 通常使用権が無効であることについて 原告は,被告の大分銘醸に対する本件商標の通常使用権の許諾について,旧商法265条1項の利益相反行為に当たることから,大分銘醸の意思表示は無効であると主張する。 しかし,同項は,利益相反行為に関し,会社の利益を保護することを目的とするものと解されるところ,大分銘醸は,当該意思表示の無効を主張しておらず,むしろ,その代表者は本件商標の使用を被告から認められていた旨の記載のある陳述書(甲16)を作成している。それにもかかわらず,原告が上記無効を主張することができるというべき事情は認められない(最高裁昭和48年(オ)第531号同年12月11日第三小法廷判決・民集27巻11号1529頁,最高裁昭和57年(オ)第32号同58年4月7日第一小法廷判決・民集37巻3号256頁各参照)。 したがって,原告の上記主張は,その余の点について判断するまでもなく,採用することができない。 4 まとめ 以上によると,要証期間内に通常使用権者である大分銘醸による本件商標の使用があり,商標法50条1項により本件商標を取り消すべきものとはいえない旨の本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は認められない。 |
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結論
以上の次第で,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 森義之 |
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裁判官 | 佐野信 |
裁判官 | 中島朋宏 |