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関連審決 取消2016-300169
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事件 令和 2年 (行ケ) 10091号 審決取消請求事件

原告 株式会社ベガスベガス
訴訟代理人弁護士 小林幸夫 藤沼光太
訴訟代理人弁理士 佐々木實 押本泰彦
被告株式会社ダイハチ
訴訟代理人弁理士 岡本武也 石原啓策 小早川俊一郎
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2021/02/03
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が取消2016−300169号事件について令和2年6月26日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文第1項と同旨
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 原告は,以下のとおりの登録第5334030号商標(以下「本件商標」 という。)の商標権者である(甲2,3)。
商 標 別紙1記載のとおり 登録出願日 平成21年8月18日 1 設定登録日 平成22年7月2日 指定役務 第41類「セミナーの企画・運営又は開催,運動施設の提供, 娯楽施設の提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のため の施設の提供,遊戯用器具の貸与」?ア 被告は,平成28年3月9日,本件商標の指定役務中「娯楽施設の提供」 に係る商標登録について,商標法50条1項所定の商標登録取消審判(以 下「本件審判」という。 を請求し, ) 同月23日,その登録がされた(甲3)。
特許庁は,本件審判の請求を取消2016-300169号事件として 審理し,平成29年5月9日,本件審判の請求は,成り立たない旨の審決 (以下「第1次審決」という。)をした。
被告は,第1次審決の取消しを求める審決取消訴訟(知的財産高等裁判 所平成29年(行ケ)第10126号)を提起し,同裁判所は,同年12 月25日,第1次審決を取り消す旨の判決(以下「前訴判決」という。甲 12)をした。
その後,原告は,前訴判決を不服として上告受理の申立て(最高裁判所 平成30年(行ヒ)第90号)をしたが,平成30年9月25日に上告不 受理決定がされ,前訴判決は確定した(甲13)。
イ 前訴判決の理由の要旨は,@第1次審決は,原告の2015年(平成2 7年)7月22日の発寒店の折込チラシ(以下「本件折込チラシ1」とい う。甲11・審判乙55)記載の「ベガス発寒店ファンのお客様へ」の部 分に使用された「ベガス」の文字部分が出所識別機能を果たし得るものと 認定した上,本件折込チラシ1に本件商標と社会通念上同一と認められる 商標が付されていると認定したが,上記文字部分は,店内改装のため一時 休業する店舗の名称を一部省略した略称を表示したものにすぎず,本件折 込チラシ1に係る娯楽施設の提供という役務の出所自体を示すものではな いと理解するのが自然であるから,本件折込チラシ1に上記文字部分を付 2 する行為は,本件商標について商標法2条3項にいう「使用」をするもの であると認めることはできない,A原告の同年1月5日の苫小牧店の折込 チラシ(以下「本件折込チラシ2」という。)に本件商標と社会通念上同一 と認められる商標が付されていると認定した第1次審決の判断には誤りが ある,Bしたがって,その余の点を判断するまでもなく,原告が本件審判 の請求の登録前3年以内の期間(以下「要証期間」という。)内に本件審判 の請求に係る指定役務について本件商標と社会通念上同一と認められる商 標を使用していることを証明したものと認められるとした第1次審決の判 断に誤りがあるというものである。
? 特許庁は,前訴判決の確定を受けて,取消2016-300169号事件 の審理を再開し,令和2年6月26日, 「本件商標の指定役務中,第41類「娯 楽施設の提供」についての商標登録を取り消す。 との審決 」 (以下「本件審決」 という。)をし,その謄本は,同年7月4日,原告に送達された。
? 原告は,令和2年7月31日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起 した。
2 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。
その要旨は,@本件折込チラシ1に「ベガス」の文字部分を付する行為は, 本件商標について商標法2条3項にいう「使用」をするものであると認めるこ とはできない,A本件折込チラシ2には,本件商標と社会通念上同一と認めら れる商標が付されていないから,本件商標について同項にいう「使用」をする ものであると認めることはできない,B別紙2の原告の2014年(平成26 年)6月6日の北仙台店の折込チラシ(以下「本件折込チラシ3」という。甲 14の1,2)の裏面には, 「ベガス北仙台店/パチンコ・スロット/11機種 導入」と記載されている部分が認められ,この部分には「ベガス」の文字部分 が使用されているが,本件折込チラシ3に上記文字部分を付する行為は,本件 3 商標について同項にいう「使用」をするものであると認めることはできない, C別紙3の原告の同年7月27日の北仙台店の折込チラシ(以下「本件折込チ ラシ4」という。甲17)には,「ベガス北仙台店 今月の新台ラインナップ」 と記載されている部分が認められ,この部分には「ベガス」の文字部分が使用 されているが,本件折込チラシ4に上記文字部分を付する行為は,本件商標に ついて,同項にいう「使用」をするものであると認めることはできない,Dそ の他,要証期間において本件審判の請求に係る指定役務について本件商標の使 用をしたことを認めるに足りる証拠はない,Eしたがって,原告は,要証期間 内に,日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれか が本件審判の請求に係る指定役務について本件商標(社会通念上同一のものを 含む。)の使用をしていることを証明したものと認められず,また,原告は,上 記指定役務について使用をしていないことについて正当な理由があることも明 らかにしていないから,同法50条の規定により,上記指定役務についての本 件商標の商標登録を取り消すべきものであるというものである。
3 取消事由 本件商標の使用の事実に係る判断(本件折込チラシ1及び2に係る判断を除 く。)の誤り
当事者の主張
1 原告の主張 ? 本件折込チラシ3及4における本件商標の使用について ア 原告は,原告の北仙台店の新聞の折込チラシとして,平成26年6月6 日に本件折込チラシ3(甲14の1,2)を,同年7月27日に本件折込 チラシ4(甲17)をそれぞれ頒布した。
別紙2の本件折込チラシ3の裏面(甲14の2)には, ベガス北仙台店」 「 , 「パチンコ・スロット」及び「11機種導入」との記載があり,別紙3の 本件折込チラシ4(甲17)には, 「ベガス北仙台店 今月の新台ラインナ 4 ップ」との記載があり,本折込チラシ3及び4には, 「ベガス北仙台店」の 標章が付されている。
本件折込チラシ3及び4には, 「ベガス北仙台店」の標章が付された同一 紙面に「パチンコ」「スロット」,「11機種導入」との記載があることか , らすると,需要者,取引者は,本件折込チラシ3及び4を「娯楽施設の提 供」に関する広告として頒布されたものと認識するのが自然である。
そして,店名の前にその店舗の所在地を記載して表記することが一般に 行われていることからすると, 「ベガス北仙台店」の標章に接した需要者は, 「ベガス」の文字部分が出所識別機能を果たしていると認識するのが自然 であるから, 「ベガス北仙台店」の標章は,別紙1記載の「ベガス」の片仮 名を横書きに書してなる本件商標と社会通念上同一の商標であるといえ る。
そうすると,原告が「ベガス北仙台店」の標章が付された本件折込チラ シ3及び4を新聞の折込チラシとして頒布した行為は,「娯楽施設の提供」 の「役務に関する広告に標章を付して頒布する行為」 (商標法2条3項8号) に該当するから,原告は,要証期間内に日本国内において,本件審判の請 求に係る指定役務について,本件商標と社会通念上同一と認められる商標 を使用したものといえる。
イ これに対し本件審決は,@本件折込チラシ3に付された「ベガス北仙台 店」の標章について,本件折込チラシ3の裏面の上部には,大きく「ベガ スベガス北仙台店」という文字,さらに,本件折込チラシ3の表面の下部 には,登録商標であることを示す「?」の文字を付した「ベガスベガス」 という文字が大きく付されているほか, 「VEGAS VEGAS」, 「ベガ スベガス北仙台店」という文字も併せて記載されていることからすると, 本件折込チラシ3に接した需要者は,同チラシにおいて,パチンコ,スロ ットマシンなどの娯楽施設の提供という役務に係る出所を示す文字は,同 5 チラシにおいて多用されている「ベガスベガス」又は「VEGAS VEGAS」であって,1箇所だけで用いられた「ベガス」の文字部分は,店舗の名称を一部省略した略称を表示したものにすぎず,本件折込チラシ3に係る上記役務の出所自体を示すものではないと理解するのが自然であるから,本件折込チラシ3に「ベガス」の文字部分を付する行為は,本件商標について商標法2条3項にいう「使用」をするものであると認めることはできない,A本件折込チラシ4に付された「ベガス北仙台店」の標章について,本件折込チラシ4の下部には,登録商標であることを示す「?」の文字を付した「ベガスベガス」という文字が大きく付されているほか,「VEGAS VEGAS」 「ベガスベガス北仙台店」という文字も併せ ,て記載されていることからすると,本件折込チラシ4に接した需要者は,同チラシにおいて,パチンコ,スロットマシンなどの娯楽施設の提供という役務に係る出所を示す文字は,同チラシにおいて多用されている「ベガスベガス」又は「VEGAS VEGAS」であって,1箇所だけで用いられた本件文字部分は,店舗の名称を一部省略した略称を表示したものにすぎず,本件折込チラシ4に係る上記役務の出所自体を示すものではないと理解するのが自然であるから,本件折込チラシ4に「ベガス」の文字部分を付する行為は,本件商標について,同項にいう「使用」をするものであると認めることはできない旨判断したが,以下のとおり本件審決の判断は誤りである。
(ア) 本件折込チラシ3及び4に付された「ベガス北仙台店」の標章中の 「ベガス」の文字部分が,店舗の名称を一部省略した略称の表示である ことや, 「ベガスベガス」又は「VEGAS VEGAS」の文字部分が 役務の出所を示す表示であることは, 「ベガス」の文字部分が役務の出所 識別機能を果たすことを否定する理由にはならない。
すなわち,例えば,店舗の名称である「スターバックス」の略称であ 6 る「スタバ」 「ファミリーマート」の略称である「ファミマ」 「ミスタ , ,ードーナツ」の略称である「ミスド」も商標登録(甲42ないし44)されており,これらの略称に触れた需要者は,それぞれ「スターバックス」 「ファミリーマート」 「ミスタードーナツ」と同一の出所を想起す , ,る。
また, 「ファミリーマート」及び「ミスタードーナツ」の公式ホームページ(甲45ないし47)には, 「ファミリーマート」又は「ミスタードーナツ」の商標ととともに,商標登録された略称の「ファミマ」又は「ミ「ミスド」も併せて使用されており,これらのホームページを見た需要者は,当該略称からも, 「ファミリーマート」や「ミスタードーナツ」と同一の出所を想起する。これらと同様に,略称はそれ自体で出所識別機能を果たすから,需要者が「ベガス」の文字部分を「ベガスベガス」又は「VEGAS VEGAS」の略称又は愛称であると認識するのであれば, 「ベガス」の文字部分から「ベガスベガス」又は「VEGAS VEGAS」と同一の出所を想起するのが通常である。
さらに,同一のチラシ内に使用された複数の標章がそれぞれ出所識別機能を果たすことも通常である。そして,原告のみならず,多くの企業は,ブランドの正式名称より短く覚えやすいブランドの略称を正式名称と共に用いて何の略称であるかを周知させて,ブランディングを行うことがあるところ,本件審決の判断を前提とすると,ブランドの正式名称と共にブランドの略称を使用した場合,略称に常に出所識別機能が認められないということになり,不使用取消審判による商標登録の取消しを免れるためには,未だブランディングが十分でなかったとしても,略称を単独で用いなければならなくなるが,このことは,ブランディングのための企業の経済活動を著しく制限することになりかねず,実務上不都合が生じるおそれが高い。
7 (イ) 商標法50条1項,2条1項及び3項には,商標の使用の態様を限 定する文言はなく,また,同法26条1項6号は, 「需要者が何人かの業 務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使 用されていない商標」について,商標権の効力が及ばない旨を規定し, 商標的使用であるかは,商標権の効力の範囲の制限の問題としている。
加えて,不使用取消審判は,行政により商標権者の財産である登録商 標を取り消すという重大な処分であり,取消しを認めるべき商標である か否かについては,厳格に解さなければならず,条文上根拠のない限定 解釈により,同法50条所定の「使用」の態様を限定することは,商標 権者の予測可能性を奪うものであり,許されない。
このような商標法における「使用」の文言の統一的解釈の必要性及び 商標権者の予測可能性の担保の見地に照らすと,同法50条所定の「使 用」は,形式的に同法2条1項及び3項の「使用」に当たるか否かによ って判断すべきであり,出所表示機能を果たし得る使用態様に限るとの 解釈は採用すべきでない。
したがって,仮に本件折込チラシ3及び4における「ベガス北仙台店」 の標章の使用が娯楽施設の提供の役務の出所識別機能を果たし得る使用 態様でないとしても,商標法50条の「使用」に当たると解すべきであ る。
(ウ) 以上によれば,本件折込チラシ3及び4における「ベガス北仙台店」 の標章の使用は商標法50条の「使用」に当たらないとの本件審決の前 記判断は誤りである。
? 甲4ないし10,27及び30における本件商標の使用について 甲4の折込チラシの「A氏 明日,ベガスに来店。」の記載部分における「ベ ガス」の標章,甲5の折込チラシの「ベガス大谷地に夏到来!!」の記載部分 における「ベガス大谷地」の標章,甲6の折込チラシの「ベガス大谷地からの 8 ありがとう。」の記載部分における「ベガス大谷地」の標章,甲7の折込チラシ 及び甲8の折込チラシの各「ベガス札幌店のファンのお客様へ」の記載部分に おける「ベガス札幌店」の標章,甲9の折込チラシの「狸のベガス!!」の記 載部分における「ベガス」の標章,甲10の折込チラシの「狸小路4丁目のベ ガスが!」の記載部分における「ベガス」の標章,甲27の折込チラシの「ベ ガス米沢店 来店取材 決定!」の記載部分における「ベガス米沢店」の標章 及び甲30の折込チラシの「ベガス米沢店 来店取材 決定!」の記載部分に おける「ベガス米沢店」の標章は,いずれも本件商標と社会通念上同一の商標 である。
そして,甲4ないし10,27及び30の折込チラシは,要証期間内に頒 布された「娯楽施設の提供」の役務に関する広告である。
そうすると,原告が甲4ないし10,27及び30の折込チラシを頒布し た行為は, 「娯楽施設の提供」の「役務に関する広告に標章を付して頒布する 行為」 (商標法2条3項8号)に該当するから,原告は,要証期間内に日本国 内において,本件審判の請求に係る指定役務について,本件商標と社会通念 上同一と認められる「ベガス」の標章等を使用したものといえる。
? 小括 以上によれば,本件商標の商標権者である原告は,要証期間内に日本国内 において,本件審判の請求に係る指定役務について,本件商標と社会通念上 同一と認められる商標を使用したものといえるから,本件商標の使用の事実 を否定した本件審決の判断には誤りがある。
2 被告の主張 ? 本件折込チラシ3及4における本件商標の使用の主張に対し ア 本件折込チラシ3の裏面には「ベガス北仙台店/パチンコ・スロット/1 1機種導入」と記載されている部分が,本件折込チラシ4には「ベガス北仙 台店 今月の新台ラインナップ」と記載されている部分がある。
9 しかし,一方で,本件折込チラシ3及び4は,本件審決が認定するように,いずれも,登録商標であることを示す「?」を付した「ベガスベガス」の大きな文字や, 「VEGAS VEGAS」「ベガスベガス北仙台店」の大きな ,文字を,これらの文字と比して小さな「ベガス北仙台店」の文字に近接させた構成であり,「ベガス北仙台店」の文字は,常に「ベガスベガス」「VE ,GAS VEGAS」「ベガスベガス北仙台店」の文字と併せて使用されて ,おり, 「ベガス」の文字が単独で使用されていない。
加えて,本件折込チラシ3及び4が示す店舗の場所に存在するのは, 「ベガスベガス北仙台店」という名称の店舗であって, 「ベガス北仙台店」ではないこと,本件折込チラシ3及び4の頒布地域は,店舗を利用する可能性の高い「ベガスベガス北仙台店」という店舗を知っている需要者が存在する限られた地域であることを考慮すると,本件折込チラシ3及び4に接する需要者は,「ベガス北仙台店」に含まれる「ベガス」の文字は,「ベガスベガス」又は「VEGAS VEGAS」の店舗名称を一部省略した略称等を表示したものにすぎないと理解するのが自然である。
そうすると,本件折込チラシ3及び4において, 「ベガス北仙台店」の文字又はこれに含まれる「ベガス」の文字は,分離独立して観察することはできないから,役務の出所識別標識としての機能を果たし得ないのみならず,商標法2条3項各号の「使用」に形式的・外形的にも該当せず, 「全く使用されていない」と判断すべきものである。
仮に本件折込チラシ3及び4において「ベガス北仙台店」の文字又はこれに含まれる「ベガス」の文字を分離独立して観察することができたとしても, 「ベガス北仙台店」の文字は,本件商標と社会通念上同一の商標であるとはいえいないし,また, 「ベガス」という略称等表示の使用をもって,本件商標についての「使用」であると認めることは, 「ベガスベガス」又は「VEGAS VEGAS」とは異なる「ベガス」に係る信用までを保護するこ 10 とを意味することになるから,不使用取消審判制度の趣旨に照らして相当で ない。
イ 以上によれば,原告による「ベガス北仙台店」の標章が記載された本件折 込チラシ3及び4の配布は,本件商標についての商標法2条3項及び50 条の「使用」に該当しないから,これと同旨の本件審決の判断に誤りはな い。
? 甲4ないし10,27及び30の折込チラシにおける本件商標の使用の主 張に対し 甲4ないし10,27及び30の折込チラシの各構成(いずれの店舗のチ ラシも,登録商標であることを示す「?」を付した「ベガスベガス」や, 「VE GAS VEGAS」「ベガスベガス北仙台店」の文字が併せて使用されてお , り, 「ベガス」の文字が単独で使用されていない。)を踏まえれば,前記-1 ア で述べたのと同様の理由により,上記各折込チラシに接する需要者は, 「ベガ ス」の文字は, 「ベガスベガス」又は「VEGAS VEGAS」の店舗名称を 一部省略した略称等を表示したものにすぎないと理解するのが自然であり,ま た, 「ベガス」という略称等表示の使用をもって,本件商標についての「使用」 であると認めることは, 「ベガスベガス」又は「VEGAS VEGAS」とは 異なる「ベガス」に係る信用までを保護することを意味することになるから, 不使用取消審判制度の趣旨に照らして相当でない。
したがって,上記各折込チラシに「ベガス」の文字部分を付する行為は本 件商標についての商標法2条3項及び50条の「使用」に該当しない。
? 小括 以上によれば,原告が要証期間内に日本国内において本件審判の請求に係 る指定役務について本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用した ものとはいえないから,原告主張の取消事由は理由がない。
当裁判所の判断
11 1 本件折込チラシ3及4における本件商標の使用の有無について ? 本件折込チラシ3及び4の配布について 証拠(甲14の1,2,15ないし19)及び弁論の全趣旨によれば,以 下の事実が認められる。
ア 原告(商号「株式会社ベガスベガス」)は,遊技場の経営等を目的とする 株式会社である。
イ 原告は,平成26年6月頃,株式会社東急エージェンシー(以下「東急 エージェンシー」という。)及び株式会社永井印刷(以下「永井印刷」とい う。)に発注して,別紙2の本件折込チラシ3(甲14の1,2)を制作及 び印刷し,同月6日,仙台市内において,山新折込センターを介して,本 件折込チラシ3を「河北新報」に折り込んで2万9000枚配布した。
また,原告は,同年7月頃,東急エージェンシー及び永井印刷に発注し て,別紙3の本件折込チラシ4(甲17)を制作及び印刷させ,同月27 日,本件折込チラシ4を「河北新報」に折り込んで3万4300枚配布し た。
? 本件折込チラシ3について ア 本件折込チラシ3(甲14の1,2)は,両面印刷の1枚のチラシであ る。
本件折込チラシ3の表面(甲14の1)には,別紙2のとおり,上部に おいて, 「ベガスベガス北仙台店」との見出しが付され,中央部において, 大きな文字で「本日6日FRI金午前11時開店予定」と記載され,その 下には, 「開店時間が通常と異なりますので お間違えの無いよう,ご案内 申し上げます。 , 」「新台情報は裏面をチェック!」と記載され,下部におい て,赤色を背景とする白抜き文字で「ベガスベガス ? 」の文字が大きく記載 され,さらに,その下には,「VEGAS VEGAS」 「北仙台店」 , ,そ の住所等の記載があり,その右側には, 「ベガスベガス北仙台店店舗マップ」 12 が記載されている。
次に,本件折込チラシ3の裏面(甲14の2)には,別紙2のとおり, 上部において, 「ベガスベガス北仙台店」及び「新台入替しました」との2 段書きの金色の大きな文字の見出しが付され,その左下側において,外側 の線が太く,内側の線が細い二重の円の中に,3段書きで上から順に「ベ ガス北仙台店」の黒色の文字, 「パチンコ・スロット」の赤色の文字及び「1 1機種導入」の赤色の文字が記載され,さらに,中央部から下部において, パチンコ台及びスロットマシンの図形が,3段にわたり,1段目は3台, 2段目及び3段目は各4台掲載されている。
イ(ア) 前記ア認定のとおり,本件折込チラシ3の裏面に記載された二重の 円の中には,3段書きで上から順に「ベガス北仙台店」の黒色の文字, 「パチンコ・スロット」の赤色の文字及び「11機種導入」の赤色の文 字が記載されている。
二重の円の記載部分における最上段の「ベガス北仙台店」の文字は, 色彩が異なる2段目及び3段目の各文字と分離して観察することができ, 「ベガス」の片仮名の文字部分と「北仙台店」の漢字の文字部分からな る独立した標章として認識できる。
そして,二重の円の記載部分全体から,「ベガス北仙台店」の標章は, 「パチンコ・スロット」が「11機種導入」された店舗の名称を表示す る標章であり, 「ベガス北仙台店」において「パチンコ・スロット」の遊 技機が設置され,その遊技機を提供する役務が受けられることを理解で きることからすると,本件折込チラシ3は, 「パチンコ・スロット」の遊 技機の提供の役務に係るチラシであって,本件折込チラシ3に記載され た「ベガス北仙台店」の標章は,需要者が何人かの業務に係る役務であ ることを認識することができる態様で使用されているものと認められる。
次に,「ベガス北仙台店」の標章の構成中,「ベガス」の文字部分は, 13 それ自体が「ラスベガス」を想起させる造語であるものと認められ,ま た,本件折込チラシ3の表面及び裏面に「ベガスベガス北仙台店」の文 字が表示されていることからすると,本件折込チラシ3に接した需要者 は,「ベガス」の文字部分は,「ベガスベガス」の略称としての意味合い も有するものと認識すると認められる。
一方で, 「ベガス北仙台店」の標章の構成中の「北仙台店」の文字部分 は, 「北仙台」の地域にある店舗の意味合いを有し,単に,上記役務の提 供の場所を表示するものと認識され,役務の出所識別標識としての機能 があるものとはいえないことからすると, 「ベガス北仙台店」の標章の構 成中の「ベガス」の文字部分は,その文字部分のみから役務の出所識別 標識としての機能を有するものと認められるから,要部に相当するもの である。
そこで, 「ベガス北仙台店」の標章中の「ベガス」の文字部分と別紙1 記載の「ベガス」の片仮名を横書きに書してなる本件商標とを対比する と,両者は,字体の違いはあるが,構成する文字が同一であり, 「ベガス」 という同一の称呼が生じること, 「ラスベガス」を想起させる点において 観念が共通することからすると, 「ベガス北仙台店」の標章は,本件商標 と社会通念上同一の商標であると認められる。
(イ) 以上によれば,原告が平成26年6月6日に山新折込センターを介 して「ベガス北仙台店」の標章が記載された本件折込チラシ3を「河北 新報」に折り込んで2万9000枚配布した行為は, 「パチンコ・スロッ ト」の遊技機の提供の役務に関する広告としてのチラシに本件商標と社 会通念上同一の商標を付して頒布した行為(商標法2条3項8号)であ ると認められるから,本件商標の「使用」に該当するものと認められる。
? 本件折込チラシ4について ア 本件折込チラシ4(甲17)は,片面印刷の1枚のチラシである。
14 本件折込チラシ4には,上部右側において, 「ベガス北仙台店 今月の新 台ラインナップ」との横書きの赤色の見出しが付され,その下に,パチン コ台・スロットマシンの図形が,4段にわたり,各段5台ずつ掲載され, 上部左側において, 「元B」「Cさんが」及び「北仙台店に来店」との縦書 , きの3段の文字が記載され,下部において,大きな赤色の文字で「7月2 7日[日]朝8時オープン」と記載され,その下側において,赤色を背景とす る白抜き文字で「ベガスベガス ? 」の文字が大きく記載され,その右側には, 「VEGAS VEGAS」 「北仙台店」の文字が,さらに,その右側に , は, 「ベガスベガス北仙台店店舗マップ」が記載され,その下側には,住所 等が記載されている。
イ(ア) 本件折込チラシ4に記載された「ベガス北仙台店 今月の新台ライ ンナップ」との横書きの赤色の見出し部分においては,別紙3のとおり, 「ベガス北仙台店」の文字と「今月の新台ラインナップ」の文字との間 に間隔があり,ベガス北仙台店」 「 の文字を分離して観察することができ, これを「ベガス」の片仮名の文字部分と「北仙台店」の漢字の文字部分 からなる独立した標章として認識できる。
そして, 「ベガス北仙台店 今月の新台ラインナップ」との横書きの記 載部分及びその記載部分の下にパチンコ台・スロットマシンの図形が, 4段にわたり,各段5台ずつ掲載されていることから, ベガス北仙台店」 「 の標章は,パチンコ台・スロットマシンの「新台」が設置された店舗の 名称を表示する標章であり, 「ベガス北仙台店」において「パチンコ・ス ロット」の遊技機が設置され,その遊技機を提供する役務が受けられる ことを理解できることからすると,本件折込チラシ4は, 「パチンコ・ス ロット」の遊技機の提供の役務に係るチラシであって,本件折込チラシ 4に記載された「ベガス北仙台店」の標章は,需要者が何人かの業務に 係る役務であることを認識することができる態様で使用されているもの 15 と認められる。
次に,「ベガス北仙台店」の標章の構成中,「ベガス」の文字部分は, それ自体が「ラスベガス」を想起させる造語であるものと認められ,ま た,本件折込チラシ4の下側において, 「ベガスベガス ?」の文字が大き く記載され,その右側には, 「VEGAS VEGAS」「北仙台店」の , 文字が,さらに,その右側には, 「ベガスベガス北仙台店店舗マップ」が 記載されていることからすると,本件折込チラシ4に接した需要者は, 「ベガス」の文字部分は, 「ベガスベガス」の略称としての意味合いも有 するものと認識すると認められる。
一方で,前記-2 イ(ア)と同様の理由により, 「ベガス北仙台店」の標章 の構成中の「ベガス」の文字部分は,その文字部分のみから役務の出所 識別標識としての機能を有するものと認められるから,要部に相当する ものであり, 「ベガス北仙台店」の標章は,本件商標と社会通念上同一の 商標であると認められる。
(イ) 以上によれば,原告が平成26年7月27日に山新折込センターを 介して「ベガス北仙台店」の標章が記載された本件折込チラシ4を「河 北新報」に折り込んで3万4300枚配布した行為は, 「パチンコ・スロ ット」の遊技機の提供の役務に関する広告としてのチラシに本件商標と 社会通念上同一の商標を付して頒布した行為(商標法2条3項8号)で あると認められるから,本件商標の「使用」に該当するものと認められ る。
(4) 被告の主張について 被告は,@本件折込チラシ3及び4は,登録商標であることを示す「?」 を付した「ベガスベガス」の大きな文字や, 「VEGAS VEGAS」「ベ , ガスベガス北仙台店」の大きな文字を,これらの文字と比して小さな「ベガ ス北仙台店」の文字に近接させた構成であり, ベガス北仙台店」 「 の文字は, 16 常に「ベガスベガス」 ,「VEGAS VEGAS」 ,「ベガスベガス北仙台店」の文字と併せて使用されており, 「ベガス」の文字が単独で使用されていないこと,本件折込チラシ3及び4が示す店舗の場所に存在するのは, 「ベガスベガス北仙台店」という名称の店舗であって, 「ベガス北仙台店」ではないこと,本件折込チラシ3及び4の頒布地域は,店舗を利用する可能性の高い「ベガスベガス北仙台店」という店舗を知っている需要者が存在する限られた地域であることを考慮すると,本件折込チラシ3及び4に接する需要者は, 「ベガス北仙台店」に含まれる「ベガス」の文字は, 「ベガスベガス」又は「VEGAS VEGAS」の店舗名称を一部省略した略称等を表示したものにすぎないと理解するのが自然であることからすれば,本件折込チラシ3及び4において, 「ベガス北仙台店」の文字又はこれに含まれる「ベガス」の文字は,分離独立して観察することはできないので,役務の出所識別標識としての機能を果たし得ないのみならず,商標法2条3項各号の「使用」に形式的・外形的にも該当せず, 「全く使用されていない」と判断すべきものである,A仮に本件折込チラシ3及び4において「ベガス北仙台店」の文字を分離独立して観察することができたとしても, 「ベガス北仙台店」の文字は,本件商標と社会通念上同一の商標であるとはいえないし,また, 「ベガス」という略称等表示の使用をもって,本件商標についての「使用」であると認めることは,「ベガスベガス」又は「VEGAS VEGAS」とは異なる「ベガス」に係る信用までを保護することを意味することになるから,不使用取消審判制度の趣旨に照らして相当でないとして,原告による「ベガス北仙台店」の標章が記載された本件折込チラシ3及び4を配布した行為は,本件商標の「使用」に該当しない旨主張する。
しかしながら,@については,本件折込チラシ3の裏面の二重の円の中に記載された「ベガス北仙台店」の文字を本件折込チラシ3の他の記載部分から分離して観察することができるかどうかは,その文字の大きさ,間隔, 17 配置,色彩等の態様に照らして外形的に把握すべき事柄であることからす ると,原告の「北仙台店」の店舗の名称は, 「ベガスベガス北仙台店」であ って, 「ベガス北仙台店」という名称の店舗は存在せず, 「ベガス北仙台店」 は「ベガスベガス北仙台店」の略称であることや, 「ベガス北仙台店」の文 字に含まれる「ベガス」の文字は, 「ベガスベガス」の略称として理解される ことは,前記-2 イ(ア)認定のとおり, 「ベガス北仙台店」の文字を本件折込 チラシ3の他の記載部分から分離して観察することができることを否定す べき理由になるものとは認められない。本件折込チラシ4の「ベガス北仙 台店」の文字についても,前記-3 イ(ア)認定のとおり,これと同様である。
また,一つの広告に特定のブランド名の商標とそのブランド名の略称の 商標が記載されることは,取引上普通に行われており(甲45ないし47), そのいずれもが同一の事業者の出所識別標識として認識され得ることは, 特段不自然ではないから,本件折込チラシ3に「ベガスベガス北仙台店」 の標章の記載があり,これが出所識別標識としての機能を果たし得ること は, 「ベガスベガス北仙台店」又は「ベガスベガス」の略称としての「ベガ ス北仙台店」の標章又はこれに含まれる「ベガス」の文字部分が出所識別 標識としての機能を果たし得ることを打ち消し,又は否定すべき理由にな るものとは認められない。
次に,Aについては,本件折込チラシ3及び4記載の「ベガス北仙台店」 の標章が本件商標と社会通念上同一の商標であると認められることは,前 記-2 イ(ア)及び-3 イ(ア)認定のとおりであり,また,同一の事業者が特定 のブランド名の商標とともに,そのブランド名の略称の商標を保有し,そ のいずれをも使用することが不使用取消審判制度の趣旨に反するものとは いえない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(5) 小括 18 以上によれば,原告は,要証期間内である平成26年6月6日及び同年7 月27日に,日本国内において,本件審判の請求に係る指定役務「娯楽施設 の提供」の範疇に含まれる「パチンコ・スロット」の遊技機の提供の役務に 関する広告に本件商標と社会通念上同一の商標の使用をしていたことを証明 したものと認められるから,その余の点について判断するまでもなく,原告 主張の取消事由は理由がある。
2 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由があるから,本件審決は取り消さ れるべきものである。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 小林康彦
裁判官 高橋彩