関連審決 | 無効2020-890052 |
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事件 |
令和
3年
(行ケ)
10010号
審決取消請求事件
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原告 炭プラスラボ株式会社 同訴訟代理人弁理士 福地武雄 被告御木本製薬株式会社 同訴訟代理人弁理士 中村知公 前田大輔 伊藤孝太郎 朝倉美知 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2021/06/30 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2020-890052号事件について令和2年12月15日 にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 被告は,以下のとおりの登録第5387228号商標(以下「本件商標」 という。)の商標権者である(甲1,2)。 商標の構成 パールアパタイト(標準文字) 登録出願日 平成22年10月7日 登録査定日 平成23年1月6日 設定登録日 平成23年1月28日 1 指定商品 第1類「化学品」 第3類「化粧品,せっけん類,香料類,つけづめ,つけまつ毛」 ? 原告は,令和2年6月19日,本件商標の指定商品中,第1類「化学品」 及び第3類「化粧品,せっけん類」の商標登録について,商標登録無効審判 を請求した(甲19)。 特許庁は,上記請求を無効2020-890052号事件として審理を行 い,令和2年12月15日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審 決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月24日,原告に送 達された。 ? 原告は,令和3年1月21日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起 した。 2 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。その要旨は, @本件商標は, 「パールアパタイト」の文字を標準文字で表してなり, 「パール」 の片仮名と「アパタイト」の片仮名を結合した構成からなるものと理解される ところ,このうち「パール」の文字は, 「真珠」の意味を有する語として,一般 に広く親しまれているのに対し, 「アパタイト」の文字は,特定の意味合いを理 解させるとはいえないものである,Aこのように「真珠」の意味を有する「パ ール」の文字と,特定の意味合いを理解させるとはいえない「アパタイト」の 文字を結合させた「パールアパタイト」からなる本件商標は,構成全体をもっ て一体不可分の一種の造語として認識,把握されるものであり,特定の商品又 は商品の品質,用途等を具体的に表示するものとして直ちに理解されるものと はいい難く,商品の品質を認識させるものとはいえない,Bしたがって,本件 商標を本件審判の請求に係るいずれの指定商品に使用しても商品の品質の誤認 を生ずるおそれはないというべきであるから,本件商標は,商標法4条1項1 6号に該当せず,同号に違反して登録されたものではないというものである。 2 3 取消事由 本件商標の商標法4条1項16号該当性の判断の誤り |
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当事者の主張
1 原告の主張 ? 「パールアパタイト」の語の意味の認定の誤り 本件審決は,本件商標は, 「真珠」の意味を有する「パール」の文字と,特 定の意味合いを理解させるとはいえない「アパタイト」の文字を結合させた 構成からなるから,構成全体をもって一体不可分の一種の造語として認識, 把握されるものであり,商品の品質を認識させるものとはいえない旨認定し たが,以下のとおり, 「アパタイト」の語は,本件商標の登録査定時において, 取引者,需要者の間で,特定の意味合いを有する語として,一般的に広く知 られていたから,本件審決の上記認定は,その前提において誤りがある。 ア 甲23の1ないし145の2のウェブサイトの記事等は,本件商標の登 録査定時において,歯科の分野,化粧品の分野,せっけんの分野等におい て, 「アパタイト」の語が,特定の化学物質「ハイドロキシアパタイト」を 意味する語として使用されてきたことを示している。 イ 甲146ないし205の新聞記事,雑誌等から,本件商標の登録査定時 において,@「薬用ハイドロキシアパタイト」が配合された歯磨き剤(商 品名「アパガードM」)が,歯垢を吸着し,歯を白くする効用があると一般 的に認識されており,歯磨き剤の取引者,需要者の間で,「アパタイト」 の語が,歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイドロキシアパタイト」 を意味すると認識されていたこと,A「アパタイト」が光触媒として有用 であることが一般的に認識されており,化学品の取引者,需要者の間で, 「アパタイト」の語が,光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を意 味すると認識されていたことが理解される。 ウ 前記ア及びイによれば,本件商標の登録査定時において,「アパタイト」 3 の語が,取引者,需要者の間で,歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハ イドロキシアパタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」 を意味する語として,一般的に広く認識されており, 「アパタイト」という 成分に着目して商品の購入に及ぶといった取引の実情があったものとい える。 したがって,本件商標の構成中の「アパタイト」の文字が特定の意味合 いを理解させるとはいえないとした本件審決の認定は誤りである。 そして,このような取引の実情を考慮すると, 「パール」 「アパタイト」 と とが結合した「パールアパタイト」の語から構成される本件商標は, 「真珠」 及び「アパタイト(ハイドロキシアパタイト)」という物質(化学物質)を 想起させるものであるから, 「真珠」及び「アパタイト(ハイドロキシアパ タイト)」を含有するという商品の品質を表示するものである。 ? 商品の品質の誤認を生ずるおそれの判断の誤り 前記?のとおり,本件商標は, 「真珠」及び「アパタイト(ハイドロキシア パタイト)」を含有するという商品の品質を表示するものである。 そうすると,本件商標を「真珠」及び「アパタイト(ハイドロキシアパタイ ト)」を含有しない「化学品」又は「化粧品,せっけん類」に使用した場合, 取引者,需要者において,「真珠」及び「アパタイト(ハイドロキシアパタイ ト) を含有する商品であるとの商品の品質について誤認を生ずるおそれがあ 」 るから,本件商標は,商標法4条1項16号に該当するというべきである。 これを否定した本件審決の判断は誤りである。 ? 小括 以上のとおり,本件審決における本件商標の商標法4条1項16号該当性 の判断に誤りがあるから,本件審決は取り消されるべきである。 2 被告の主張 ? 「パールアパタイト」の語の意味の認定の誤りの主張に対し 4ア 「パールアパタイト」の語は,辞書に掲載されていない,被告による造 語である。 「パール」の語は,英単語「PEARL」の音訳として認識されるもの であり,当該英単語から即座に認識できる意味合いは,一般的に「真珠」 である。しかし, 「パール」の語は,真珠が持つ色合いや光沢感などにより, 色彩の名称として「パールホワイト」,化粧品に用いられる顔料として「パ ール剤」など,多様な意味合いで使用されているから(甲11ないし13), 「パール」の語から,特定の商品の品質に関する具体的かつ単一の特性を 理解できない。 次に, 「アパタイト」の語は,英単語「apatite」又は「appe tite」のいずれかの語に通じることから, 「燐灰石」 「本能的欲望, 又は (特に)食欲」等の意味合いを有する(甲14ないし18)。また,「アパ タイト」は,リン酸カルシウム類の一般名称(総称)であり(甲45,4 8,114等),これには,水酸アパタイトやチタンアパタイトなど様々な 「アパタイト」が含まれ,必ずしも「ハイドロキシアパタイト」その他の 具体的なリン酸カルシウム化合物と同一視されるものではない。 そうすると, 「アパタイト」の語から,特定の商品の品質に関する具体的 な特性を理解できない。 このように「パール」及び「アパタイト」のそれぞれの文字からは,商 品の品質に関係する特定の意味合いは生じないから,これらの語を結合し た構成からなる造語である本件商標「パールアパタイト」は,特定の商品 の特性を表示するものとはいえない。 したがって,本件商標は,取引者,需要者において,特定の商品の品質 を認識させるものとはいえないとした本件審決の認定に誤りはない。 イ 原告が挙げる甲号各証は,歯磨き粉など歯科に関するものや,触媒化学, 生化学,地質学,分析化学,物理化学等,アパタイトの中の特定の物質に 5 関連する研究に関する論文等であり,本件審判の請求に係る指定商品とは 異なる分野の情報である。また,これらの文献は,歯科医業など特定分野 の専門的な知識を有しないと理解が困難な内容で,高度かつ専門性が非常 に高いものであるから,上記指定商品の一般的な取引者,需要者が,これ らの文献に接し,当該内容についての知識を有することは通常ではない。 また,これらの文献のほとんどは,ヒドロキシアパタイトやフッ素アパ タイト,チタンアパタイト等,リン酸カルシウム類としての「アパタイト」 に含まれる個別の物質名についてのものであり,中にはリン酸カルシウム 類の総称としての「アパタイト」の解説も含まれるが, 「アパタイト」が上 記指定商品との関係で特定の意味合いを持つことを示すものではない。 したがって,原告が挙げる甲号各証から,本件商標の登録査定時におい て, 「アパタイト」が上記指定商品との関係で特定の意味合いを持ち,その 意味合いに通じる特性が,取引者,需要者において商品の特定の品質に関 するものとして理解されていたとはいえない。 ? 商品の品質の誤認を生ずるおそれの判断の誤りの主張に対し 前記-1 のとおり,本件商標は,特定の商品の特性を表示するものとはいえ ず,取引者,需要者において,特定の商品の品質を認識させるものとはいえ ないから,本件商標を本件審判の請求に係る指定商品のいずれに使用しても, 商品の品質について誤認を生ずるおそれはない。 したがって,本件商標は商標法4条1項16号に該当しないとした本件審 決の判断に誤りはない。 ? 小括 以上のとおり,本件審決における本件商標の商標法4条1項16号該当性 の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由は理由がない。 仮に原告が主張するように本件商標が「真珠」及び「アパタイト(ハイド ロキシアパタイト) を含有するという商品の品質を表示するとしても, 」 本件 6 審判の請求に係る指定商品中, 「真珠」及び「アパタイト(ハイドロキシアパ タイト)」を含有する「化学品」,「真珠」及び「アパタイト(ハイドロキシ アパタイト)」を含有する「化粧品,せっけん類」については,商品の品質の 誤認を生ずるおそれはないから,本件審決中,これらの指定商品に係る部分 は維持されるべきである。 |
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当裁判所の判断
1 本件商標の商標法4条1項16号該当性について 商標法4条1項16号が「商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標」に ついて商標登録を受けることができないと規定している趣旨は,商標を構成す る文字,図形等が直接的に特定の商品の品質を表示するものであるため,当該 商標が特定の商品以外の商品に使用された場合に,取引者,需要者が商品の品 質を誤認して,商品を購入することがないように取引者,需要者の保護を図る ことにあるものと解される。 そうすると,本件商標が同号に該当するというためには,本件商標の登録査 定時である平成23年1月6日の時点において,本件商標の構成が直接的に表 示する品質を有する特定の商品と指定商品とが関連し,かつ,本件商標の構成 が表示する特定の商品の品質と指定商品が有する品質が異なるため,指定商品 の取引者又は需要者において,本件商標を指定商品に使用した場合に,商品の 品質の誤認を生ずるおそれがあることを要するものと解される。 以上を前提に,本件商標が同号に該当するかどうかについて判断する。 ? 本件商標の構成 本件商標は,「パールアパタイト」の文字を標準文字で表してなり,「パ ール」の文字部分と「アパタイト」の文字部分とから構成される結合商標で ある。 本件商標を構成する各文字は,外観上まとまりよく一体的に表されており, その構成全体から,「パールアパタイト」の称呼が自然に生じる。 7(2) 本件商標の構成が表示する商品の品質について ア 「パールアパタイト」の語が,一般の辞書等に掲載されていることを認 めるに足りる証拠はない。 一方で,本件商標を構成する「パール」の文字部分は,「真珠」の意味 を有するものと認められる(甲3,11,12)。 イ 原告は,本件商標の登録査定時において,「アパタイト」の語が,取引 者,需要者の間で,歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイドロキシア パタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を意味する語 として,一般的に広く認識されていた旨主張するので,以下において判断 する。 (ア) 証拠(甲23ないし205(枝番のあるものは枝番を含む。特に断 りのない限り,以下同じ。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認 められる。 a 株式会社サンギ(以下「サンギ」という。)は,平成5年2月,歯 を白くする美白効果のある歯磨き剤として,「薬用ハイドロキシアパ タイト」を含有する「アパガードM」を発売した。 「アパガードM」は,1995年(平成7年)に放映を開始した「芸 能人は歯が命」のキャッチコピーのテレビCMの効果等によって,ヒ ット商品となり,1996年(平成8年)には,年間売上げが140 億円を記録した。 「アパガードM」の発売後,同年中には,歯磨き業界大手の他の事 業者(サンスター,ライオン)も,美白効果のある歯磨き剤として, 「ハイドロキシアパタイト」又は「フルオロアパタイト」を配合する 歯磨き剤を製造,販売するようになった(甲146ないし155)。 また,「アパガードM」は,FRIDAY,プレジデント,WED GE等の雑誌(甲175ないし181)において,「薬用ハイドロキ 8 シアパタイト」配合のヒット商品として,取り上げられた。 このほか,「アパガードM」及びその後発品に関する記事が,平成 17年6月14日付けの読売新聞(甲160),平成21年9月14 日付け及び平成22年5月3日付けの日経流通新聞(甲169,17 0),同年6月5日付けの朝日新聞(甲171)や,週刊東洋経済, 日経ヘルス等の雑誌(甲182,183等)に掲載された。 b 「ハイドロキシアパタイト」の語の意義に関し,平成21年7月2 7日付けの朝日新聞(甲27)に,「ハイドロキシアパタイト」は, 「骨や歯,貝殻などの成分。人体への害が少なく,なじみやすいこと から,人工骨や人工歯根などの医用材料に使われている。」,平成2 2年5月29日付けの加藤歯科医院のウェブサイト(甲29) 「ハ に, イドロキシアパタイトとはリン酸カルシウムでできた歯や骨を構成す る成分のことで,エナメル質は97%,象牙質の70%がハイドロキ シアパタイトで構成されています。」などと掲載された。 また,香粧品科学研究開発専門誌フレグランスジャーナル2008 年(平成20年)6月号(甲204)に,「ハイドロキシアパタイト (Ca 10 (PO 4)6(OH) 2)は,リン酸カルシウムの一種であり,歯牙 や骨といった硬組織の主成分であって,化学合成品においても生体に 対する安全性の高い化合物である。…工業的には,…広範囲な用途に 利用されている。化学合成したハイドロキシアパタイトがそのような 用途に利用されるのは,生体硬組織と直接結合するといった高い生体 親和性やタンパク質,核酸および配糖体との吸着特性を有するためで ある。」(20頁右欄)などと掲載された。 さらに,日本化粧品工業連合会作成の医薬部外品の成分表示名称リ ストにおいて,「成分名 ヒドロキシアパタイト」,「別名 ハイド ロキシアパタイト」 「本品は, , 主としてヒドロキシアパタイト(…)」 9 と記載されている(甲139,140)。 c 「アパタイト」の語の意義に関し,材料開発・応用専門誌「ニュー セラミックス」1990年(平成2年)7月号(甲59)に,「アパ タイトはアパタイト構造(六方晶系…)をもつ結晶群の総称であるか, 単にアパタイトといった場合は最も代表的なリン酸カルシウムを意味 することが多い。水酸アパタイト(以下,単にアパタイトと略称する。) といえば,Ca10 (PO4)6(OH)2 であり,生体アパタイトのモデル物 質である。フッ素アパタイトはCa 10 (PO 4 )6(PO 4 )F 2 となる。」 (96頁左欄),「PHOSPHORUS LETTER 2000 年6月第38号」(甲135)に,「アパタイトはM 10(ZO4)6X2 の組 成を持つ結晶鉱物の総称であり,次の各元素が単独あるいは複数M, ZO4,Xの位置に入る。M:Ca,Ba,Sr,Mg,Na…,ZO 4: PO4,AsO 4…,X:F,OH,Cl…このようにアパタイト構造に は多くの種類の元素が入り得るために,さまざまな固溶体が生成する。」 (8頁左欄),「PHOSPHORUS LETTER 2010年 2月第67号」(甲138)に,「アパタイトはカルシウムヒドロキ シアパタイト(Ca 10(PO4 )6(OH)2 :Hap)に代表される塩基性 金属リン酸塩の一種である。 (22頁左欄) 」 などと掲載されている。 d 応用化学,環境化学,触媒化学,生化学等の各種化学分野の文献等 において,「アパタイト」を含む用語が,ハイドロキシアパタイト(ヒ ドロキシアパタイト)のほかに,フッ化アパタイト二酸化チタン光触 媒(甲35),可視光応答型アパタイト被覆二酸化チタンハーフメタ ル(甲39),水酸アパタイト(甲47,58,64,71,111), フッ素アパタイト(甲50),ハロゲン固溶アパタイト(甲53), Pb 2+ 〜Ag +交換水酸アパタイト(甲56),フッ素アパタイト結 晶(甲60),チタンアパタイト(甲86),カルシウムヒドロキシ 10 アパタイト粒子(甲88)などと使用されている。 (イ) 前記(ア)の認定事実によれば,@歯を白くする美白効果のある歯磨 き剤として広告宣伝された,「薬用ハイドロキシアパタイト」を含有す る「アパガードM」がヒット商品となり,新聞,雑誌等で取り上げられた 結果,「薬用ハイドロキシアパタイト」又は「ハイドロキシアパタイト」 の語は,一般消費者の間でも,歯や骨を構成する成分であることはある 程度知られるようになったこと,A「ハイドロキシアパタイト」は,Ca 10 (PO 4)6(OH)2 の化学式で表される,リン酸カルシウムの一種である こと,B「アパタイト」は,M10(ZO4)6X 2 の組成をもつ結晶鉱物の総称 であり,M,Z及びXには複数の種類の元素が入り得るため,特定の化 合物を指すものではなく,「ハイドロキシアパタイト」は,アパタイトの 一種(Mがカルシウム(Ca),Zがリン(P),Xが水酸基(OH)の もの)ではあるが,アパタイトそのものを意味するものではないことが 認められる。 加えて,「アパタイト」の文字は,その称呼から,英単語「appet ite」(「本能的欲望,(特に)食欲」)(甲17)又は「apati te」(「燐灰石。ハイドロキシアパタイト」)(甲16)に通じるもの である。 以上の認定事実に照らすと,前記(ア)の冒頭掲記の証拠(甲23ない し205)から,「アパタイト」の語が,本件商標の登録査定時におい て,取引者,需要者の間で,歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイド ロキシアパタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を 意味する語として,一般的に広く認識されていたものと認めることはで きず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。かえって,「アパタイト」 は,M 10(ZO 4)6X 2 の組成をもつ結晶鉱物の総称であって,具体的な特定 の物質を表するものではなく,このことからしても「アパタイト」が特 11 定の意味合いを理解させるものとはいえない。 したがって,原告の前記主張は,採用することができない。 ウ 前記ア及びイによれば,本件商標は,「真珠」の意味を有する「パール」 の文字と,特定の意味合いを理解させるものとはいえない「アパタイト」 の文字とからなる結合商標であり,その構成全体から,特定の意味合いを 認識することはできないから,特定の商品の品質を直接的に表示するもの と認めることはできない。 したがって,これと同旨の本件審決の認定に誤りはない。 エ これに対し原告は,本件商標の登録査定時において,「アパタイト」の 語が,取引者,需要者の間で,歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイ ドロキシアパタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を 意味する語として,一般的に広く認識されており,「アパタイト」という 成分に着目して商品の購入に及ぶといった取引の実情があったことを考 慮すると,「パール」と「アパタイト」とが結合した「パールアパタイト」 の語から構成される本件商標は,「真珠」及び「アパタイト(ハイドロキ シアパタイト)」という物質(化学物質)を想起させるものであるから, 「真珠」及び「アパタイト(ハイドロキシアパタイト)」を含有するとい う商品の品質を表示する旨主張する。 しかしながら,前記イで説示したとおり,「アパタイト」の語が,取引 者,需要者の間で,歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイドロキシア パタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を意味する語 として,一般的に広く認識されていたものと認めることはできない。 また,「パールアパタイト」の語は,一般の辞書等に掲載されていない 造語であって,具体的な特定の商品を示すことを認めるに足りる証拠はな いのみならず,「パールアパタイト」の語から,「真珠」そのものと「ア パタイト(ハイドロキシアパタイト)」とを成分に含有する具体的な商品 12 を一般に想起することを認めるに足りる証拠はない。 したがって,本件商標の構成が直接的に特定の商品の品質を表示するも のと認めることはできないから,原告の上記主張は採用することができな い。 (3) 商品の品質の誤認を生ずるおそれについて ア 前記(2)ウのとおり,本件商標の構成が直接的に特定の商品の品質を表示 するものと認めることはできないから,本件商標は,取引者,需要者にお いて,特定の商品の品質を認識させるものとはいえない。 したがって,本件商標を本件審判の請求に係る指定商品のいずれに使用 しても,商品の品質について誤認を生ずるおそれがあるものと認められな いから,本件商標は商標法4条1項16号に該当しないとした本件審決の 判断に誤りはない。 イ これに対し原告は,本件商標は,「真珠」及び「アパタイト(ハイドロ キシアパタイト)」を含有するという商品の品質を表示するものであるこ とからすると,本件商標を「真珠」及び「アパタイト(ハイドロキシアパ タイト)」を含有しない「化学品」又は「化粧品,せっけん類」に使用し た場合,取引者,需要者において,「真珠」及び「アパタイト(ハイドロ キシアパタイト)」を含有する商品であるとの商品の品質について誤認を 生ずるおそれがあるから,本件商標は,商標法4条1項16号に該当する 旨主張する。 しかしながら,前記(2)ウのとおり,本件商標の構成が,「真珠」及び「ア パタイト(ハイドロキシアパタイト)」を含有するという商品の品質を直 接的に表示するものと認めることはできないから,原告の上記主張は,そ の前提において採用することができない。 (4) 小括 以上のとおり,本件商標が商標法4条1項16号に該当しないとした本件 13 審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由は理由がない。 2 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。 したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。 |
裁判長裁判官 | 大鷹一郎 |
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裁判官 | 小林康彦 |
裁判官 | 小川卓逸 |