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事件 |
令和
2年
(ワ)
1160号
商標権侵害差止等請求事件
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5 原告ケントジャパン株式会社 同訴訟代理人弁護士・弁理士 小林幸夫 同 河部康弘 同訴訟代理人弁護士 神田秀斗 10 同補佐人弁理士藤沢則昭 同 藤沢昭太郎 被告株式会社マルシン商会 同訴訟代理人弁護士 東谷宏幸 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2022/01/31 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
15 1 被告は,別紙被告標章目録記載の標章を別紙被告商品目録記載の商品に付し,又は同標章を付した別紙被告商品目録記載の商品を販売し,販売のために展示し,若しくはそれに関する広告に同標章を付してはならない。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 20 事 実 及 び 理 由第1 請求主文同旨第2 事案の概要本件は,別紙原告商標権目録記載1及び2の各商標権(以下「原告各商標権」25 という。)を有する原告が,被告に対し,被告が別紙被告商品目録記載1及び2の各被服(以下「被告各商品」という。)に別紙被告標章目録記載1及び21の各標章(以下「被告各標章」という。)を付する行為,被告各標章が付された被告各商品を販売し又は販売のために展示する行為及び被告各商品の広告に被告各標章を付して展示し又は頒布する行為は原告各商標権を侵害すると主張して,商標法36条1項に基づき,上記各標章の使用の差止めを求める事案で5 ある。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下,書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者等ア 原告は,衣料用繊維製品及び皮革製品の製造,販売及び輸入を主たる10 業務とする株式会社である。原告の旧商号は株式会社ビイエムプランニングであり,平成21年8月18日に現在の商号に変更された(弁論の全趣旨)。 イ 被告は,衣料品・日用雑貨の販売及び輸出入を主たる業務とする株式会社である。 15 (2) 原告が有する商標権ア 原告は,原告各商標権を有する(以下,別紙原告商標権目録記載1の商標権を「原告商標権1」と,同目録記載2の商標権を「原告商標権2」という。また,原告商標権1に係る登録商標を「原告登録商標1」と,原告商標権2に係る登録商標を「原告登録商標2」といい,これらを「原告各20 登録商標」と総称する。 。 )イ(ア) 原告商標権1は,昭和39年9月16日にAを商標権者として登録され,数度の移転を経た後,平成11年11月26日を登録日として株式会社ヴアンヂヤケツトに,平成17年2月25日を登録日として特定承継により株式会社ケントジャパンに,平成21年8月26日を登録日と25 して一般承継により原告に,それぞれ移転した(甲1)。 また,原告商標権1については,原告(当時の商号は株式会社ビイエ2ムプランニング)に対し,平成12年11月1日,地域を日本国内全域,期間を平成16年9月16日まで,内容を全部とする専用使用権が設定され,さらに,平成17年7月7日,地域を日本国内全域,期間を平成26年7月13日まで,内容を全部とする専用使用権が設定された(甲5 1)。 (イ) 原告商標権2は,平成19年4月6日に株式会社ケントジャパンを商標権者として登録され,平成21年8月26日を登録日として一般承継により原告に移転した(甲3)。 ウ 平成12年8月11日当時に原告商標権1の商標権者であった株式会社10 ヴアンヂヤケツト及び専用使用権者であった原告(当時の商号は株式会社ビイエムプランニング)は,株式会社イトーヨーカ堂との間で,同日付けで,地域を日本全国,商品を全ての商品,期間を同年9月1日から平成15年8月31日までとして,同社が原告商標権1を付した商品を独占的に販売すること等を内容とする「商標使用許諾に関する覚書」と題する書面15 (甲178)を取り交わした。その後,株式会社ヴアンヂヤケツト,原告(当時の商号は株式会社ビイエムプランニング)及び株式会社イトーヨーカ堂は,上記書面に記載された条項の一部を変更する内容の平成12年12月19日付け「商標使用許諾に関する変更覚書」と題する書面(甲179)を取り交わした。 20 さらに,同日,原告は,株式会社イトーヨーカ堂に対し,期間を同月1日から平成15年11月30日まで(異議がないときは1年間自動的に更新され,以後も同様とする。 ,地域を日本国の範囲,展開アイテムを)原告商標権1の指定商品の範囲等とする原告商標権1の通常使用権を設定した(甲180)。 25 株式会社イトーヨーカ堂は,同社が運営する小売店舗であるイトーヨーカドーにおいて,平成13年春から,「Kent」の欧文字等で表記され3る服飾ブランド(以下「「Kent」ブランド」という。)の商品の独占的な販売を開始した(甲178ないし181)。 (3) 被告の行為ア 被告は,通信販売のウェブサイト「ベルーナ」において,遅くとも令5 和元年5月31日から,別紙被告標章目録記載1の標章(以下「被告標章1」という。)を付した別紙被告商品目録記載1の被服(以下「被告商品1」という。)を販売し,販売のために展示していた。そして,「ベルーナ」上の被告商品1のウェブページには,商品名として「【2色組】(ケントブロス)綿サッカー刺しゅうシャツ」と記載され,被告商品110 の商品画像等が掲載されており,当該画像には,襟もとに被告標章1が付された青色のシャツの写真が含まれていた(甲5)。 イ 被告は,遅くとも令和元年12月5日までに,別紙被告標章目録記載2の標章(以下「被告標章2」という。)を付した別紙被告商品目録記載2の被服(以下「被告商品2」という。)を販売し,又は販売のために展15 示した(甲6,8)。 (4) 被告各商品と原告各登録商標の指定商品の同一性被告各商品は,いずれも被服であり,原告登録商標1の指定商品に含まれる「被服」及び原告登録商標2の指定商品と同一である。 (5) 被告が有する商標権20 被告は,別紙被告商標権目録記載の商標権を有する(以下,この商標権を「被告商標権」といい,被告商標権に係る登録商標を「被告登録商標」という。。 )2 争点(1) 原告各登録商標と被告各標章との類否(争点1)25 (2) 登録商標使用の抗弁の成否(争点2)(3) 差止めの必要性の有無(争点3)4第3 争点に関する当事者の主張1 争点1(原告各登録商標と被告各標章との類否)について(原告の主張)(1) 原告登録商標1と被告標章1との対比5 ア 被告標章1の分離観察の可否(ア) 被告標章1は,上段に「KENT」,中段に「MARINE SPIRIT」,下段に「BROS.」という手書き風タッチで描かれた欧文字によって構成された結合商標であるところ,中段の文字の大きさは,上段と下段の文字の大きさの半分以下の小さいサイズで記載されているこ10 とから,被告標章1は,外観上,中段部分を境として上段と下段に分離して観察される。 そして,「Kent」ブランドは,昭和38年から株式会社ヴアンヂヤケツトのブランドとして使用され始め,それ以降50年以上にわたって使用されてきており,その間,雑誌「MEN’S CLUB」の特別15 付録に採用されたり,「Kent」ブランドの商品の取扱店舗数が1970年代後半には全国418店舗に増加したりするなど,全国的な人気を集めてきたこと,当該人気に注目した株式会社イトーヨーカ堂が,前記前提事実(2)ウの通常使用権に基づき,「Kent」ブランドの商品をイトーヨーカドーの全国の店舗及び特設ウェブサイトにおいて販売し,20 近時もチラシやテレビCMによる宣伝広告を行っていること,イトーヨーカドーにおける「Kent」ブランドの商品の売上げが,平成21年度からの9年間で●(省略)●に及んでいることなどからすれば,原告登録商標1は,原告の商品を示すものとして全国的な周知性を獲得しており,被服の取引者及び需要者に対して商品の出所識別機能として強く25 支配的な印象を与える。しかるところ,被告標章1の上段は,原告の商品の出所識別機能を有する「Kent」と同じ「KENT」の欧文字か5ら構成されているのに対し,被告標章1の下段を構成する「BROS.」は,兄弟を意味する一般的な名称である「BROTHERS」の略語にすぎず,商品の出所識別標識としての称呼及び観念は生じない。 さらに,被告標章1の中段は上記のとおり小さな文字で記載されてお5 り,取引者及び需要者は中段以外の部分に着目するのが通常といえるから,中段の部分からは商品の出所識別標識としての称呼及び観念は生じない。 したがって,被告標章1から,上段の「KENT」から成る部分を要部として抽出し,分離観察することができる。 10 (イ)a 被告は,被告標章1は,その上段と下段が目立つ一方,中段は単なる添え字程度にしか見えないことを根拠として,中段の部分を除いた「KENT」と「BROS.」からなる一連の結合した標章としての外観を有すると主張する。しかし,中段の外観は,黒地に白い字で記載された上段及び下段と異なり,白地に黒抜きという反転した表示15 がなされ,かつ,周囲を円形の白地によって囲まれているというものであり,このように異質な中段が上下段の文字を分断するから,被告標章1の需要者は,中段部分を境として上下に分離して観察し,上段の「KENT」と下段の「BROS.」を一連一体のものとして認識する余地はない。 20 b 被告は,株式会社ヴアンヂヤケツトが昭和53年に倒産したことを指摘し,その大きな原因は,いわゆるトラディショナルブームが去ったことによる売上げの減少にあり,「Kent」ブランドの商品についても,同様に売上げが激減していたものと考えられるから,周知性を確立するような状況にはなかったと考えられる旨を主張する。確か25 に株式会社ヴアンヂヤケツトが倒産したことは事実であるが,これは同社が展開していた「VAN」というブランドの売上が減少したこと6によるものであり,「Kent」ブランドの売上は好調であった。そうであるからこそ,「Kent」ブランドがイトーヨーカドーにライセンスされたのである。 また,被告は,「Kent」ブランドの商品の売上げが一定程度あ5 ったとしても,それは,同ブランドが周知であることによるものではなく,イトーヨーカドーという国内大手量販店の販売力によるものである旨を主張する。しかし,「Kent」ブランドの売上げが相当大きいものであったこと自体から,「Kent」ブランドが周知であることが認められるのであって,イトーヨーカドーの販売力によるもの10 か否かは「Kent」ブランドが周知性を獲得しているか否かを左右するものではない。 c 被告は,被告商品1には「KENT BROS.」と記載された襟ネーム,商品タグ及び胸ポケットが存在することを理由として,被告標章1も一連の「KENT BROS.」として観察される旨を主張15 する。しかし,上記襟ネーム等は横一列に「KENT BROS.」と記載されているのに対し,被告標章1は,中段の部分を挟んで,上段に「KENT」を,下段に「BROS.」を,二段に配したものであるから,襟ネーム等に上記のような横一列の記載があるとしても,被告標章1の分離観察が可能であることは否定されない。 20 イ 対比(ア) 原告登録商標1と,被告標章1の要部である上段の部分を対比する。 まず,原告登録商標1の外観は,黒字の手書き風タッチで描かれた「KENT」という欧文字から成るところ,被告標章1の外観は,黒地に白抜きの手書き風タッチで描かれた「KENT」という欧文字から成25 るものであって,両者の外観は,文字の色が異なるのみで,類似するものである。 7次に,原告登録商標1と被告標章1の称呼は,いずれも「ケント」であって,同一である。 さらに,前記アのとおり,「Kent」は原告の販売する被服を示すものとして全国的な周知性を獲得していることに照らすと,「Kent」5 と全て同じつづりであり,2文字目以降が大文字か小文字かが異なるにすぎない「KENT」を被服に使用した場合にも,「Kent」を被服に使用した場合と同様に,原告の販売する被服が観念される。したがって,原告登録商標1と被告標章1の観念も同一である。 加えて,被告標章1が使用された被告商品1と原告商標権1の指定商10 品はいずれも被服で同一であり,いずれも店舗やインターネット通信販売で販売される性質の商品であって,このような取引の実情に鑑みれば,同一営業主の提供に係る商品と誤認されるおそれが高い。 (イ) 仮に,被告標章1から上段の部分を要部として分離することができないとしても,原告登録商標1と被告標章1は類似する。 15 すなわち,ファッション業界には,主たるブランドの商品展開(メインブランドライン)とは異なるテイスト,価格帯及び取扱いジャンルの商品を取り揃えたセカンドラインを「兄弟ブランド」等と呼称して展開するという取引の実情がある。そして,兄弟ブランドの商標として,メインブランドの記載に別の文字や単語を組み合わせて二段書きとした態20 様のものが複数存在する。そのため,「KENT」と兄弟を意味する「BROS.」とが上下に並んで配されれば,「KENT」ブランドのセカンドラインであるという観念が生じるから,取引者及び需要者は,「Kent」ブランドの兄弟ブランドであると認識して,商品の出所について誤認混同するおそれがある。 25 ウ 小括前記イ(ア)のとおり,原告登録商標1と被告標章1の要部である上段の8部分は,外観が類似し,称呼及び観念が同一であり,取引の実情に照らしても商品の出所について誤認混同を生じさせるものである。仮に被告標章1を分離観察できないとしても,前記イ(イ)のとおり,被告標章1は,商品の出所について,「Kent」ブランドの兄弟ブランドであるとの誤5 認混同を生じさせるおそれがある。 したがって,原告登録商標1と被告標章1は類似する。 (2) 原告登録商標1と被告標章2との対比ア 被告標章2の分離観察の可否(ア) 被告標章2は,上段に「KENT」,下段に「BROS.」という黒10 字のゴシック体風のタッチで描かれた欧文字で構成されている。このように,「KENT」と「BROS.」が二段書きにされていることからすると,取引者及び需要者は,被告標章2を上段と下段に分離して観察するのが通常である。加えて,前記(1)ア(ア)のとおり,被告標章2の上段は,被服の取引者及び需要者に対して商品の出所識別標識として強く支15 配的な印象を与える「Kent」と同様のつづりである「KENT」から成る原告登録商標1と同じ欧文字で構成されているのに対し,被告標章2の下段は,一般的な名称である「BROTHERS」の略語にすぎず,商品の出所識別標識としての称呼及び観念が生じない。 したがって,被告標章2から,上段の「KENT」から成る部分を要20 部として抽出し,分離観察することができる。 (イ) 被告は,被告標章2の上段と下段は同じ大きさで,かつ同じ字体で表記されていること,被告商品2の襟ネームに「KENT BROS.」の文字が表記されていることから,被告標章2は「KENT」と「BROS.」が結合した商標であると主張する。しかし,前記(ア)のとおり,25 外観及び観念から,被告標章2の「KENT」を要部として分離することは可能である。また,前記(1)ア(イ)cのとおり,襟ネームは横一列に9「KENT BROS.」と表記されたものにすぎず,被告標章2の上段と下段を一連一体のものとして認識させる根拠にはならない。 イ 対比(ア) 原告登録商標1と,被告標章2の要部である上段の部分を対比する。 5 まず,原告登録商標1の外観は,黒字の手書き風タッチで描かれた「KENT」という欧文字から成るところ,被告標章2の外観は,黒字のゴシック体風のタッチで描かれた「KENT」という欧文字から成るものであって,両者の外観は,字体が異なるのみで,類似するものである。 10 また,前記(1)イ(ア)と同様に,原告登録商標1と被告標章2の称呼及び観念はいずれも同一である。 さらに,被告標章2が使用された被告商品2と原告商標権1の指定商品はいずれも被服であるから,前記(1)イ(ア)の取引の実情に鑑みれば,同一営業主の提供に係る商品と誤認されるおそれが高い。 15 (イ) 仮に被告標章2を分離観察することができなくても,前記(1)イ(イ)同様に,被告標章2を見た取引者及び需要者は,「Kent」ブランドの兄弟ブランドであると認識して,商品の出所について誤認混同するおそれがある。 ウ 小括20 前記イ(ア)のとおり,原告登録商標1と被告標章2の要部である上段の部分は,外観が類似し,称呼及び観念が同一であり,取引の実情に照らしても,商品の出所について誤認混同を生じさせるものである。仮に被告標章2を分離観察することができなくとも,前記イ(イ)のとおり,被告標章2は,商品の出所について,「Kent」ブランドの兄弟ブランドで25 あるとの誤認混同を生じさせるおそれがある。 したがって,原告登録商標1と被告標章2は類似する。 10(3) 原告登録商標2と被告標章1との対比ア 前記(1)アのとおり,被告標章1の上段を要部として抽出し,分離観察することができるから,原告登録商標2と,被告標章1の上段の部分を対比する。 5 原告登録商標2の外観は,黒色かつ太字のゴシック体風のタッチで描かれた「Kent」という欧文字から成るものであるから,被告標章1の上段の外観とは,2文字目ないし4文字目の欧文字が大文字か小文字かという点に相違があるのみである。欧文字においては,最初の文字を大文字とし,2文字目以降を小文字として記載することが一般的であるから,取引10 者及び需要者は,「KENT」と「Kent」を同じ文字列と認識する。 そうすると,原告登録商標2と被告標章1の外観は類似するということができる。 さらに,原告登録商標2と被告標章1の称呼はいずれも「ケント」である。また,原告登録商標2は,原告登録商標1及び被告標章1と同様,15 これを被服に使用した場合には原告が販売する商品である被服が観念されるから,原告登録商標2と被告標章1の観念はいずれも同一である。 そして,被告標章1が使用された被告商品1と原告商標権2の指定商品はいずれも被服で同一であり,取引の実情から,出所について誤認混同を生じるおそれが高いことは,前記(1)及び(2)と同様である。 20 このように,原告登録商標2と被告標章1の要部である上段の部分は,外観が類似し,称呼及び観念が同一であり,取引の実情に照らしても商品の出所混同を生じさせるものである。 したがって,原告登録商標2と被告標章1は類似する。 イ 仮に被告標章1について分離観察することができないとしても,前記25 (1)イ(イ)と同様の理由により,取引者及び需要者は,「Kent」ブランドの兄弟ブランドであると認識して,商品の出所について誤認混同するお11それがある。 ウ 前記アのとおり,原告登録商標2と被告標章1の要部である上段の部分は,外観が類似し,称呼及び観念が同一であり,取引の実情に照らしても商品の出所について誤認混同を生じさせるものである。仮に被告標章1を5 分離観察できないとしても,前記イのとおり,被告標章1は,商品の出所について,「Kent」ブランドの兄弟ブランドであるとの誤認混同を生じさせるおそれがある。 したがって,原告登録商標2と被告標章1は類似する。 (4) 原告登録商標2と被告標章2との対比10 ア 前記(2)アのとおり,被告標章2の上段を要部として抽出し,分離観察することができるから,原告登録商標2と,被告標章2の上段の部分を対比する。 原告登録商標2の外観は,黒色かつ太字のゴシック体風のタッチで描かれた「Kent」という欧文字から成るものであるのに対し,被告標章15 2の外観は,黒字のゴシック体風のタッチで描かれた「KENT」という欧文字から成るものであって,前記(3)アと同様の理由により,類似するものである。さらに,原告登録商標2と被告標章2の称呼及び観念はいずれも同一であり,取引の実情に照らしても,商品の出所混同を生じさせるものである。 20 イ 仮に被告標章2について分離観察することができないとしても,前記(2)イ(イ)と同様の理由により,取引者及び需要者は,「Kent」ブランドの兄弟ブランドであると認識して,商品の出所について誤認混同するおそれがある。 ウ 前記アのとおり,原告登録商標2と被告標章2の要部である上段の部分25 は,外観が類似し,称呼及び観念が同一であり,取引の実情に照らしても商品の出所について誤認混同を生じさせるものである。仮に被告標章2を12分離観察することができないとしても,前記イのとおり,被告標章2は,商品の出所について,「Kent」ブランドの兄弟ブランドであるとの誤認混同を生じさせるおそれがある。 したがって,原告登録商標2と被告標章2は類似する。 5 (被告の主張)(1) 原告登録商標1と被告標章1との対比ア 被告標章1の分離観察の可否(ア) 被告標章1は上段に「KENT」,中段に「MARINE SPIRIT」,下段に「BROS.」という文字を配して成るものである。この10 点,中段の「MARINE SPIRIT」の文字は小さく目立たない態様で表示されている一方,上段と下段の文字は大きく,ほぼ同じ大きさで,共通の字体で表示されているから,添え字程度にしか見えない中段を除いた上段の「KENT」と下段の「BROS.」から成る一連の結合した標章としての外観を呈している。加えて,被告標章1が付され15 た被告商品1の襟ネーム,商品タグ及び胸ポケットの各部分には「KENT BROS.」と横一列に記載された箇所があり,被告商品1を目にした取引者及び需要者は,被告標章1と共にこれらの箇所を同時に目にすることは明らかである。 以上によれば,取引者及び需要者は,被告標章1を,一連の「KEN20 T BROS.」として観察するものと認められる。 (イ)a 原告は,中段の「MARINE SPIRIT」を境として上下に分離して観察できると主張する。しかし,上記のとおり,上段と下段の文字の大きさ及び字体が共通することや,中段の文字が小さくて見えづらいことからすると,取引者及び需要者が,中段を境として上25 段と下段を分離して観察するとは認めがたい。 b 原告は,「Kent」は原告が販売する商品を示すものとして全国13的な周知性を獲得しているから,「KENT」からは原告の商品が観念されると主張し,その根拠として,@株式会社ヴアンヂヤケツトが「Kent」ブランドを立ち上げてから50年以上にわたり継続して使用され,全国的な人気を集めてきたこと,A「Kent」ブランド5 の商品が小売業大手の株式会社イトーヨーカ堂が運営する小売店舗であるイトーヨーカドーで取り扱われるようになり,平成21年度からの9年間で●(省略)●を売り上げたこと,B原告は,イトーヨーカドーで販売する「Kent」ブランドの商品について,テレビCMやチラシを用いて積極的な宣伝活動を行ってきたことを挙げる。 10 しかし,上記@については,昭和53年に株式会社ヴアンヂヤケツトが倒産するなど,原告が主張する期間には「Kent」ブランドの流行が去るなどして売上げが激減した時期があったと考えられる。また,上記Aについては,仮に「Kent」ブランドの商品について一定の売上げがあったとしても,商品展開していたイトーヨーカドーの15 販売力によるものにすぎない。さらに,上記Bについては,原告が指摘するテレビCMの企画は一時的なものにとどまるし,「Kent」ブランドの商品に関するチラシについても,イトーヨーカドーのチラシの一部分に,雑多な商品の一つとして記載されているにすぎないから,こうした宣伝活動により「Kent」ブランドが周知性を獲得し20 ていたとは認められない。 そうすると,原告が指摘する上記@ないしBの事情は,いずれも「Kent」ブランドの周知性を基礎付けることにはならない。これに加えて,「KENT」や「Kent」を構成要素に含み,原告以外の者を商標権者とする商標登録が,原告各登録商標の指定商品と同じ25 25類において多数存在することを踏まえると,原告が主張するような周知性が確立されていたとは認められない。 14したがって,「Kent」ブランドの周知性を前提に分離観察を論じる原告の主張は,その前提を欠くものである。 c 原告は,上段の「KENT」を分離観察することができる根拠として,下段の「BROS.」には何ら出所識別機能がない旨を主張する。 5 しかし,原告各商標権と同じ25類において「BROS/ブロス」の商標が登録されているから,「BROS.」にも,出所識別機能があるというべきである。 イ 対比(ア) 前記アのとおり,被告標章1は「KENT BROS.」として観察10 される。そこで,上記の被告標章1と原告登録商標1を対比すると,被告標章1は「ケントブロス」との称呼及び「ケント兄弟」との観念が生ずるのに対し,原告登録商標1は「ケント」の称呼が生じ,「ケント兄弟」なる観念は生じない。また,前記ア(イ)bのとおり,「Kent」ブランドには周知性が認められないから,原告登録商標1から原告の商品15 の観念は生じない。このように,原告登録商標1と被告標章1は,外観のほか,称呼及び観念において相違する。 以上に加え,「Kent」ブランドの商品はイトーヨーカドーの店舗及びウェブサイトでのみ販売されているのに対し,被告標章1が付された商品がイトーヨーカドーの店舗及びウェブサイトで販売されることは20 ないこと,原告が販売する「Kent」ブランドの商品には「Kent」と「IN」と「TRADITION」が三段表記されている商標が付されていることなどの取引の事情に鑑みれば,原告登録商標1と被告標章1が類似するとは認められない。 (イ) 原告は,仮に被告標章1について分離観察することができないとし25 ても,「KENT」と「BROS.」が上下に並んで配されると「KENT」ブランドの兄弟ブランドであるという観念が生じ,出所についての15誤認混同が生じると主張する。 しかし,前記ア(イ)bのとおり,「Kent」ブランドに原告の商品であることを想起させるような周知性が確立されていない以上,取引者及び需要者が「KENT」と「BROS.」が上下に並んで配されている5 ところを見ても,これを「Kent」ブランドの兄弟ブランドであると誤認混同することにはつながらないというべきである。また,兄弟ブランドについて,主たるブランド名に,兄弟や姉妹を意味する単語を結合させたブランド名とする取引の実例は見当たらない。 したがって,「KENT」に兄弟を意味する「BROS.」を結合させ10 た標章から,「Kent」ブランドの兄弟ブランドであるとか,「Kent」ブランドと関連するブランドであると誤って認識されることはないから,原告の上記主張には理由がない。 ウ 小括以上のとおり,原告登録商標1と被告標章1は類似しない。 15 (2) 原告登録商標1と被告標章2との対比ア 被告標章2の分離観察の可否被告標章2は上段に「KENT」の文字を,下段に「BROS.」の文字を二段表記して成るものである。上段の文字と下段の文字は同じ大きさかつ同じ字体で表記されている上,被告標章2が付された被告商品220 の襟ネームには「KENT BROS.」の文字が横一列に表記されている。そして,被告標章2について,上段と下段を分離観察すべき事情は存在しないから,被告標章2も「KENT」と「BROS.」が結合した商標というべきである。 なお,原告は,@「Kent」ブランドに周知性が認められること,A25 下段の「BROS.」には商品の出所識別機能が認められないことを前提に,被告標章2の上段の「KENT」を要部として分離観察することが16できると主張するが,「Kent」ブランドに周知性が認められないこと,「BROS/ブロス」について25類「被服」を指定商品とする商標登録がされており,下段の「BROS.」について商品の出所識別機能が認められることは,前記(1)のとおりであるから,原告の上記@及びAはい5 ずれも認め難く,分離観察が可能である旨の原告の上記主張には理由がない。 イ 対比前記アを前提に,被告標章2と原告登録商標1を比較すると,被告標章2には,「KENT BROS.」の外観,「ケント兄弟」との観念及び10 「ケントブロス」の称呼が生じる。したがって,「KENT」の外観及び「ケント」の称呼を生じ,「ケント兄弟」との観念を生じない原告登録商標1とは,外観,観念及び称呼において相違する。以上に加え,前記(1)イ(ア)の取引の実情に鑑みれば,原告登録商標1と被告標章2が類似するとは認められない。 15 ウ 小括以上のとおり,原告登録商標1と被告標章2は類似しない。 (3) 原告登録商標2と被告各標章との対比前記(1)及び(2)と同様の理由により,原告登録商標2は,被告各標章のいずれにも類似しない。 20 2 争点2(登録商標使用の抗弁の成否)について(被告の主張)前記前提事実(5)のとおり,被告は被告商標権を有するところ,被告各標章はいずれも被告登録商標と社会通念上同一の範囲内にある。 すなわち,被告登録商標は,上段に欧文字の「KENT BROS.」を,25 下段に片仮名の「ケントブロス」を二段に配して成る商標であるが,上段と下段は称呼も観念も同一であるから,被告登録商標上段のみから成る標章も,被17告登録商標と社会通念上同一である。そして,被告登録商標の上段は,「KENT」と「BROS.」の間に空間があることを踏まえると,これらの2語によって構成されたものといえる。 これに対し,被告標章2は,「KENT」と「BROS.」を二段に表記して5 いるものの,これらの文字の字体や大きさはほぼ同じであるから,「KENT」と「BROS.」を横一列に標記した場合と構成要素に変わりはないし,称呼や観念も変わらない。そうすると,被告登録商標と被告標章2は,社会通念上同一といえる。 さらに,被告標章1についてみても,上段の「KENT」と下段の「BRO10 S.」の文字の大きさ及び字体が同じであること,中段の「MARINE SPIRIT」が小さく目立たない態様で付加されているにすぎないことに照らすと,被告登録商標と被告標章1もまた,社会通念上同一といえる。 したがって,被告各標章の使用は被告登録商標の使用にほかならないから,登録商標使用の抗弁が成り立つというべきである。 15 (原告の主張)登録商標使用の抗弁が成立するためには,被告登録商標と被告各標章が厳密な意味で同一である必要がある。 しかし,被告登録商標は,上段に「KENT BROS.」という欧文字,下段に「ケントブロス」という片仮名を二段に配して成るものである。した20 がって,被告標章1が「MARINE SPIRIT」を要素とする点において同標章は被告登録商標と相違し,被告標章2が「KENT」と「BROS.」が二段書きとなっている点で同標章は被告登録商標と相違する。 このように,被告登録商標は,被告各標章と異なる構成であるから,被告の主張には理由がない。 25 3 争点3(差止めの必要性の有無)について(原告の主張)18被告が,被告各商品に被告各標章を付する行為,被告各標章が付された被告各商品を販売し,販売のために展示する行為,被告各商品の広告に被告各標章を付して展示し又は頒布する行為は,原告各登録商標と類似する被告各標章を,原告各登録商標の指定商品である「被服」に使用する行為であり,原告が有す5 る原告各商標権を侵害するものである。したがって,被告が被告各商品に被告各標章を付する行為,被告各標章が付された被告各商品を販売し,販売のために展示する行為及び被告各商品の広告に被告各標章を付する行為を差し止める必要性が認められる。 (被告の主張)10 被告は,現在,被告各商品を製造も販売もしていないし,その在庫品も保有していない。したがって,被告各商品に被告各標章を付する行為,被告各標章が付された被告各商品の販売,販売のための展示及び被告各商品の広告に被告各標章を付する行為を差し止める必要性は認められない。 第4 当裁判所の判断15 1 争点1(原告各登録商標と被告各標章との類否)について(1) 判断基準商標法37条1号は,「指定商品…についての登録商標に類似する商標の使用…」を商標権の侵害とみなす旨規定するところ,商標の類否は,同一又は類似の商品に使用された商標が外観,観念,称呼等によって取引者,需要20 者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものであるが,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所を誤認混同するおそれを推測させる一応の基準というにすぎない。したがって,上記3点において綿密な観察によれば個別25 的には類似しない商標であっても,具体的な取引状況いかんによっては類似する場合があるし,他方,上記3点のうち類似する点があるとしても,他の19点において著しく相違するか,取引の実情によって出所を混同するおそれが認められないものについては,類似しないというべきものである(最高裁平成3年(オ)第1805号平成4年9月22日第三小法廷判決・裁判集民事165号407頁,最高裁平成6年(オ)第1102号平成9年3月11日5 第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。 しかるところ,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類10 否を判断することは,原則として許されない(最高裁昭和37年(オ)第953号昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照)。そして,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められ15 る場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものである(最高裁平成3年(行ツ)第103号平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。 20 (2) 認定事実前記前提事実,証拠(甲9ないし176,185ないし193,213)及び弁論の全趣旨によれば,イトーヨーカドーにおける「Kent」ブランドの商品の販売状況について,以下の事実が認められる。 ア 「Kent」ブランドの商品であるシャツ,パーカー,パンツ,靴下,25 コート,セーター,下着,手袋等の写真及び商品名の記載が,平成22年4月から令和元年12月までの間に,少なくとも168回にわたり,イト20ーヨーカドーのチラシに掲載された。上記商品の写真等は,他の商品と共にチラシの一部分にのみ掲載されていたが,いずれの掲載部分についても,その商品名において「Kent」と表示されているか又は原告登録商標2が表示されていた(ただし,原告登録商標2のみが表示されていたのでは5 なく,原告登録商標2に「SPORTS」の文字等が組み合わされたり,「IN」及び「TRADITION」の文字が組み合わされたりして成る態様で表示されていた。。 )(甲9ないし176)イ イトーヨーカドーは,平成23年から平成26年までの間に,少なくとも4回にわたり,「Kent」ブランドのテレビCMを制作し,同テレビ10 CMは全国で放映された。これらのテレビCMには,アーティストのB及び俳優のCが起用された。(甲185ないし192)ウ イトーヨーカドーが平成21年度から平成30年度までの間に「Kent」ブランドの商品を販売した数量及び売上額は以下のとおりであり,数量の合計は●(省略)●,売上額の合計は●(省略)●である(甲193,15 213,弁論の全趣旨)。 平成21年度:●(省略)●平成22年度:●(省略)●平成23年度:●(省略)●平成24年度:●(省略)●20 平成25年度:●(省略)●平成26年度:●(省略)●平成27年度:●(省略)●平成28年度:●(省略)●平成29年度:●(省略)●25 平成30年度: ●(省略)●(3) 原告各登録商標と被告各標章との類否等21ア 被告標章1の分離観察の可否被告標章1の外観は別紙被告標章目録記載1のとおりである。すなわち,上段に横書きの「KENT」,中段に横書きの「MARINE SPIRIT」,下段に横書きの「BROS.」を,いずれもほぼ同じ列幅で,か5 つ,上段と中段との行間及び中段と下段との行間をほとんど空けることなく三段に配して成る結合商標であって,全体としてまとまりよく構成されている。 もっとも,欧文字は左から右に順次目線を移して読解するものであるから,二段以上にまたがって欧文字が配された場合には,横一列に配され10 た場合と比較して結合の度合いは相当弱くなるといえる。特に,上段と下段でそれぞれ独立した単語となり得る場合には,なおさらである。さらに,上段と下段を構成する欧文字はいずれもおおむね同じ大きさである上,黒地に白抜きで記載されている点及び手書き風の字体である点においても共通するのに対し,中段を構成する欧文字の大きさは上段及び15 下段の欧文字より相当小さく,その行の高さは上段及び下段の行の高さの3分の1程度にすぎない上,白地に黒い字で記載されている。しかも,中段を構成する欧文字は,水平方向に平行に延びる2本の直線と垂直方向の弦を有する2つの半円とを組み合わせた横長の角丸長方形様の図形によって囲まれ,当該図形部分は白く着色されており(そのため,中段20 を構成する欧文字は,上段及び下段とは異なり,黒字で記載されている。 ,中段の全体が一本の白い横棒のような外観を呈している。このよ)うに,中段の外観は上段及び下段と大きく異なる上,横棒のような外観を有しているから,中段を境に,上段と下段が分離されたような外観を有しているということができる。 25 そして,前記(2)アのとおり,イトーヨーカドーは,平成21年度以降,約10年という相当長期間にわたって,168回もの多数回,チラシに22「Kent」ブランドのシャツ,パーカー,パンツ,靴下,コート,セーター,下着,手袋等の広告を掲載しており,前記(2)ウのとおり,「Kent」ブランドの商品については,イトーヨーカドーにおいて,平成21年度から平成30年度までの間に●(省略)●もの売上げがあった5 もので,年によって増減はあるものの,平均すれば年間約50億円を売り上げてきたこと,前記(2)イのとおり,限られた期間及び回数ながら,著名人を起用した「Kent」ブランドのテレビCMが全国に放映されたことに照らせば,「Kent」ブランドは,令和元年当時,被服の分野において,相応の周知性を有しており,取引者及び需要者に対し,商品10 の出所識別標識として相当強い印象を与えていたものと認めるのが相当である。そうすると,被告標章1の上段の「KENT」は,上記「Kent」の二文字目以降を大文字で記載したほかは,つづりが同一であることから,「KENT」の標章が被服に用いられた場合には,取引者及び需要者において「Kent」ブランドを想起するものと認めることがで15 きる。 他方,「BROS.」についてみれば,25類・被服を指定商品とする「BROS ブロス」との登録商標が存在すると認められるものの(乙3),本件全証拠によっても,被服に関する「BROS」の実際の使用例としては,男性用下着のサブブランドとしてのものが認められるのみで20 あって,「BROS」がどの程度の周知性を有するのかは明らかではない。 そうすると,上記の登録商標の存在を根拠に「BROS.」から出所識別標識としての称呼,観念が生ずると認めることはできず,その点については,本件証拠上,明らかではないというべきである。以上の事情を総合すれば,被告標章1の構成部分のうち,「BROS.」から出所識別標25 識としての称呼,観念が生じないとまでは認められないものの,上段の「KENT」と下段の「BROS.」は,二段以上にまたがって配され,23かつ,それぞれが独立した単語となり得ることにより,横一列に配された場合と比較して結合の度合いは相当弱くなることに加え,一本の白い横棒のような外観を有する中段の「MARINE SPIRIT」により上下に分離されている上,「KENT」に対応する「Kent」ブラン5 ドが,被服の分野において,相応の周知性を有しており,取引者及び需要者に対し,商品の出所識別標識として相当強い印象を与え得ることからすれば,上段の「KENT」と下段の「BROS.」とを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとまではいえない。したがって,被告標章1については,上段の「KE10 NT」のみを分離して観察することができると認めるのが相当である。 その結果,被告標章1については,「ケント」との称呼が生じ,かつ,原告が使用権を設定し,イトーヨーカドーが使用する「Kent」ブランドの商品であるとの観念が生じるものと認められる。 イ 被告標章2の分離観察の可否15 被告標章2の外観は別紙被告標章目録記載2のとおりである。すなわち,上段に横書きの「KENT」,下段に横書きの「BROS.」を,いずれもほぼ同じ列幅で,かつ,上段と下段との行間をほとんど空けることなく二段に配して成る結合商標であって,全体としてまとまりよく構成されている。 20 もっとも,欧文字は左から右に順次目線を移して読解するものであるから,上記の「KENT」と「BROS.」のように,二段以上にまたがって欧文字が配された場合には,横一列に配された場合と比較して結合の度合いは弱くなり,上段と下段でそれぞれ独立した単語となり得る場合,その結合の度合いがより弱くなることは,被告標章1の場合と同様であ25 る。 そして,前記アのとおり,「BROS.」から出所識別標識としての称呼,24観念が生じないとは認められないものの,他方で,「Kent」は商品の出所識別標識として取引者及び需要者に相当強い印象を与えていたものと認められ,かつ,「KENT」の標章が被服に用いられた場合には,取引者及び需要者において「Kent」ブランドを想起するものと認めら5 れる。 そうすると,被告標章2においては,被告標章1の中段に相当する部分が存在しないものの,そもそも「KENT」と「BROS.」の結合の度合いが弱い上,「KENT」に対応する「Kent」ブランドが商品の出所識別標識として相当強い印象を与え得ることからして,被告標章2の10 各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められないというべきであり,上段の「KENT」を分離観察することができるというべきである。 その結果,被告標章2についても,被告標章1と同様,「ケント」との称呼及び「Kent」ブランドの商品の観念が生じるものと認められる。 15 ウ 原告各登録商標と被告各標章との類否(ア) 原告登録商標1と被告各標章との類否原告登録商標1の外観は別紙原告商標権目録記載1のとおりであり,全て大文字で,高さ及び幅ともほぼ同じ大きさで記載された欧文字によって構成されている。また,各文字は,手書き風の字体で,イタリック20 のようにやや傾けて記載されている。当該商標からは,「ケント」との称呼が生じ,「Kent」ブランドの商品という観念が生じるものと認められる。 他方,被告標章1の上段の外観,観念及び称呼は前記アのとおりであり,被告標章2の上段の外観,観念及び称呼は前記イのとおりである。 25 そして,被告各標章の外観を原告登録商標1の外観と比較すると,両者は字体や字の太さ等において相違するものの,被告各標章の上段と原告25登録商標1はいずれも大文字で「KENT」と記載されている点において共通し,両者の外観は類似しているものと認められる。加えて,観念及び称呼は両者において共通である。そうすると,被告各標章と原告登録商標1は類似しているものと認めることができる。 5 (イ) 原告登録商標2と被告各標章との類否原告登録商標2の外観は別紙原告商標権目録記載2のとおりであり,1文字目を大文字で,2文字目以降を小文字で記載された欧文字によって構成されている。そして,小文字で記載された2文字目以降の文字は,1文字目と比べて,高さ・幅のいずれにおいてもやや小さい。当該商標10 からは,「ケント」との称呼が生じ,「Kent」ブランドの商品という観念が生じる。 そして,被告各標章を原告登録商標2と比較すると,その外観は,字体や字の太さ等において相違するほか,原告登録商標2の二文字目以降が小文字の欧文字で記載されているのに対し,被告各標章の上段は全て15 大文字の欧文字で記載されている点で相違する。しかし,被告各標章の上段も原告登録商標2も,いずれもつづりは同一であり,かつ,欧文字4個のみからなる文字標章という点においても共通するから,両者の外観は類似していると認められる。加えて,観念及び称呼は両者において共通である。そうすると,被告各標章と原告登録商標2は類似している20 ものと認めることができる。 (4) 小括以上の次第で,被告各標章は,いずれも,原告各登録商標と類似するものであり,かつ,被告各商品は,いずれも被服であり,原告各登録商標の指定商品に含まれるから,被告が被告各商品に被告各標章を使用する行為は,原25 告が有する原告各商標権を侵害するものとみなされる(商標法37条1号)。 2 争点2(登録商標使用の抗弁の成否)について26(1) 被告は,商標法25条本文が,「商標権者は,指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。」と規定して,商標権者が,商標権の効力として,当該登録商標の使用を専有することとしていることを根拠に,被告がその使用する標章について商標登録している場合には,その登5 録商標と同一の標章を適法に使用し得る権利を有することとなるとして,上記の場合に該当することを,抗弁として主張するものと解される。 そして,被告は,使用する標章が登録商標と全く同一でなくとも,取引の実情に鑑みて社会通念上同一と認識されるものであれば,上記の抗弁が成り立つものと解するのが相当であると主張するので,以下,この点について検10 討する。 (2) 被告登録商標は,上段に「KENT BROS.」という明朝体様の欧文字を,下段に「ケントブロス」という明朝体様の片仮名を二段に配して成るものである。 これに対し,被告標章1は,上段に「KENT」という手書き風タッチ15 の欧文字を,中段に「MARINE SPIRIT」というゴシック体様の欧文字を,下段に「BROS.」という手書き風タッチの欧文字を3段に配して成るものであるから,被告登録商標とは,中段の「MARINESPIRIT」という欧文字を含む点,「KENT」と「BROS.」が横一列ではなく二段に配して成る点,「KENT」及び「BROS.」の字体20 が明朝体様ではなく手書き風タッチである点及び「ケントブロス」というカタカナを含まない点において外観上相違する。 また,被告標章2は,上段に「KENT」,下段に「BROS.」という,いずれもゴシック体様の欧文字を二段に配して成るものであるから,被告登録商標とは,「KENT」と「BROS.」が横一列ではなく二段に配し25 て成る点,「KENT」及び「BROS.」の字体が明朝体様ではなくゴシック体様である点及び「ケントブロス」というカタカナを含まない点にお27いて外観上相違する。 以上のような外観上の相違点が存在することに照らせば,被告各標章と被告登録商標が,取引の実情に鑑みて社会通念上同一と認識されるということはできない。 5 したがって,仮に,本件において,被告が主張する登録商標使用の抗弁の適用があり得るとしても,被告各商品に被告各標章を使用する行為について,これが被告登録商標の専用権の範囲内の使用に当たるとは認められないから,上記抗弁は理由がないことに帰する。 3 争点3(差止めの必要性の有無)について10 前記1のとおり,原告各登録商標と類似する被告各標章を被告各商品について使用することは,原告各商標権を侵害するものとみなされる。 そして,前記前提事実(3)のとおり,被告が,被告各標章を付した被告各商品を販売又は販売の申出をする行為は,商標法2条3項1号及び2号所定の「使用」に該当し,被告が,通信販売のウェブサイト上に,被告商品1を販売15 するためのウェブページを設け,同ウェブページに被告標章1を掲載する行為は,商標法2条3項8号所定の「使用」に該当する。 証拠(甲198,200)によれば,原告は,被告に対し,令和元年7月1日,被告商品1を販売する行為が原告各商標権を侵害する旨を記載した警告書を送付したところ,被告は,被告商品1の販売は原告各商標権を侵害しないと20 して被告商品1の販売を中止することに応じられない旨記載した同月19日付け回答書を原告に送付したことが認められる。さらに,証拠(甲201,202)によれば,原告は,同年9月17日付け受任通知書を被告に送付して,被告製品1の販売の停止,損害賠償の支払等を求めたところ,被告は,同年10月21日付け回答書を原告に送付して,上記の同年7月19日付け回答書と同25 様の理由により,原告のいずれの要求にも応じることができない旨を明らかにしたことが認められる。 28本件訴訟係属前における被告の上記回答内容に加え,本件訴訟において,被告が前記第3のとおり主張して原告各商標権の侵害を争っていること,被告各商品は,いずれも被服であり,一般に製造又は販売することが比較的容易な物であることを踏まえると,仮に,被告が主張するように,現時点において,被5 告が被告各商品を製造及び販売しておらず,被告商品の在庫が存在しないとしても,被告に対し,被告各商品に被告各標章を付し,被告各標章を付した被告各商品を販売し,販売のために展示し,又はそれに関する広告に被告各標章を付する行為を差し止める必要があると認めるのが相当である。 4 結論10 以上によれば,原告の請求は全部理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部15 裁判長裁判官國 分 隆 文20 裁判官矢 野 紀 夫25 裁判官29佐 々 木 亮30別紙被告標章目録1 被告標章12 被告標章2以 上31別紙被告商品目録以下の商品番号,商品名又は写真で特定される被服。 1 被告商品1商品番号:437391−A−01商 品 名:(ケントブロス)綿サッカー刺しゅうシャツ」のうち青色のもの「2 被告商品2商品番号:243721商 品 名:「ケントブロス KENT BROS メンズ L トップス」以 上32別紙原告商標権目録1 原告商標権1登録番号 第0653109号出 願 日 昭和38年2月12日出願番号 商願昭38−4929登 録 日 昭和39年9月16日商 標商品の区分 第16類,第20類,第21類,第22類,第24類,第25類指定商品 紙製幼児用おしめ,クッション,座布団,まくら,マットレス,家事用手袋,衣服綿,ハンモック,布団袋,布団綿,布製身の回り品,かや,敷布,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布,被服2 原告商標権2登録番号 第5037926号出 願 日 平成18年10月4日出願番号 商願2006−96734登 録 日 平成19年4月6日商 標商品の区分 第25類指定商品 被服以 上33別紙被告商標権目録1 被告商標権登録番号 第5225111号出 願 日 平成20年6月24日出願番号 2008−054972登 録 日 平成21年4月24日商 標商品の区分 第25類指定商品 洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,仮装用衣服,運動用特殊衣服以 上34 |
事実及び理由 | |
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全容
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