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事件 令和 3年 (行ケ) 10160号 審決取消請求事件
5
原告 株式会社ポンパドゥル
同訴訟代理人弁護士 早川大地
同訴訟代理人弁理士 松田次郎 10 同松田省躬
被告株式会社C・B・H
同訴訟代理人弁理士 高橋幸夫 15 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は、原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 20 特許庁が無効2021−890009号事件について令和3年11月2日に した審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は、次の商標(以下「本件商標」という。 の商標権者である。 ) (甲1) 25 登録番号 第6113801号 商標の構成 三橋の森の一升パン (標準文字) 1
指定商品 第30類「パン、パン生地、パン種、ベーキングパウダ ー、即席パンのもと、精油以外のパン用香味料、パン用 調味料、パン用香辛料、パン用食用粉類、小麦粉・澱粉 を主原料とする製パン用クリーム、チョコレートスプレ 5 ッド」 登録出願日 平成30年4月26日 登録査定日 平成30年12月17日 設定登録日 平成31年1月11日 (2) 原告は、次の商標(以下「引用商標」という。 の商標権者である。 ) (甲2) 10 登録番号 第5839434号 商標の構成
指定商品 第30類「菓子、パン、サンドイッチ、中華まんじゅう、 15 ハンバーガー、ピザ、ホットドッグ、ミートパイ」 登録出願日 平成27年11月16日 登録査定日 平成28年3月9日 設定登録日 平成28年4月8日 (3) 原告は、令和3年3月2日、本件商標について、商標登録無効審判を請求 20 した(無効2021−890009号)。 (4) 特許庁は、令和3年11月2日、 「本件審判の請求は、成り立たない。」と する審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月11日に原告 に送達された。 (5) 原告は、令和3年12月13日、本件審決の取消しを求めて、本件訴えを 25 提起した。 2 本件審決の理由の要旨 2本件審決の理由は、別紙審決書(写し)のとおりであり、要するに、本件商 標は、引用商標とは類似しない商標であるから商標法4条1項11号には該当 せず、また、商品の出所の混同を生ずるおそれがある商標とはいえないから同 条項15号にも該当しないというものである。 53 取消事由 (1) 取消事由1 商標法4条1項11号該当性に関する判断の誤り (2) 取消事由2 商標法4条1項15号該当性に関する判断の誤り 10 第3 当事者の主張 1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性に関する判断の誤り) 〔原告の主張〕 以下のとおり、本件商標は、引用商標と商標が類似し、指定商品も同一又は 類似であるから、商標法4条1項11号に該当する。 15 (1) 引用商標(使用商標)の周知性について ア 原告は、平成26年7月頃から、全国各地で運営する70数件の店舗及 びウェブサイト上において、引用商標の上段部分と構成が共通する「一升 パン」との商品名(以下「原告使用商標」という。)のパン(以下「原告商 品」という。)を製造、販売してきたものであり、平成29年及び平成30 20 年において、原告商品の販売個数はそれぞれ4989個及び6532個、 売上金額はそれぞれ1496万7000円及び1959万6000円で あった。また、原告は、原告及び出店先企業のウェブ媒体を通じて大々的 な宣伝広告活動をし、各店舗等において大量のチラシを配布するなど、原 告商品の宣伝広告活動を行ってきた。 25 イ 以上によれば、原告使用商標は、本件商標の出願時及び登録査定時にお いて、原告商品を表示するものとして、取引者、需要者の間において広く 3認識されていたものといえる。なお、原告商品は約1.8kgの大きめの パンであり、その主な需要者層は1歳になる子供を持つ家庭であるため、
上記の販売個数や売上金額は、決して小さなものではない。 (2) 本件商標の要部認定について 5ア 本件商標は、「三橋の森」「の」及び「一升パン」の各構成部分からなる 、 ものであるところ、 「の」は格助詞であり、所有や所属等を表すものである。 イ そして、「三橋の森」部分は、「○○の森」との名称が、森等の緑に囲ま れた公園等の地域を表すものとして一般的に使用されていることなどか らすれば、場所を想起させるにとどまる識別力の弱い語であるといえる。 10 他方で、 「一升パン」部分は、パンの単位としては通常用いられない「一 升」の語を「パン」の語に組み合わせた造語というべきであり、上記(1)の とおり原告使用商標が高い周知性を有することも併せ考えると、識別力の 強い造語であるといえる。 ウ このように、本件商標は、特定の場所を示す「三橋の森」及び識別力の 15 ある造語である「一升パン」という性質の異なる2語が、格助詞の「の」 を挟んで結合しているものであり、これらを分離して観察することが取引 上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものではない。ま た、単に場所を示す「三橋の森」と比べて、体言である「一升パン」は、 商品の識別情報として、取引者、需要者に対し強く支配的な印象を与える。 20 したがって、本件商標については、その構成部分のうち「一升パン」部 分を要部として認定することが許される。 (3) 商標が類似すること 本件商標の要部及び引用商標の上段部分は、いずれも「一升パン」であり、 「イッショウパン」との称呼が共通する。また、 「一升パン」は造語であるか 25 ら、特定の観念は生じず、比較することはできない。そして、本件商標及び 引用商標は、一段書きと二段書きという構成の違いや、 「三橋の森の」の語の 4有無の違いにより外観が異なるが、総合的に観察すれば、類似の商標とみる のが相当である。 (4) 指定商品が同一であること 本件商標及び引用商標の指定商品は、いずれも「パン」であり、同一であ 5 る。 (5) 他の拒絶例について 本件商標のように、 「○○の△△」という商標の出願については、格助詞で ある「の」の前後の語のいずれかが要部として抽出された上で、他の商標と 類似するとして拒絶された例が多数存在する。 10 〔被告の主張〕 (1) 原告使用商標は周知性を有しないこと ア 原告使用商標の周知性に関して原告が提出した証拠には、本件商標の登 録査定時以降のものであったり、原告商品の価格と食い違っていたりする ものが多く含まれており、適切な裏付けとなるものではない。 15 イ 被告がインターネット等で確認したところ、本件商標の登録査定時にお いて、子供の1歳の誕生日のお祝いに「一升餅」の代わりに用いられる「一 升パン」との名称のパンを製造、販売した実績のあるパン屋等が全国各地 に147店舗あることが確認された。この事実からすれば、 「一升(約1. 8kg)の重量のパン生地」を使用して焼き上げたパン又は「焼き上がり 20 後の重量が一升(約1.8kg) であるパンという意味を持つ 」 「一升パン」 の語は、本件商標の登録査定時よりも前の時点から、全国各地の不特定多 数の者に広く使われていることは明らかであるから、 「一升パン」といえば
原告であるという程度の周知性があるとは到底考えられない。 ウ 原告の店舗において原告商品が販売されている事実や、ウェブ媒体にお 25 ける広告宣伝活動がされている事実があるとしても、原告商品は主力商品 ではなく、店舗において目立つ商品ではない上、ウェブ媒体における露出 5度も高くないから、原告使用商標が周知性を有することの根拠にはならな い。 エ 原告商品の価格は、1500円から6800円とかなりばらつきがある 上、平成30年の販売個数をみると、1店舗当たりの売上個数は87個に 5 すぎず、競合する他のパン屋の売上げと圧倒的な差があるとはいい難いこ となどからすれば、原告商品の販売個数や売上金額を原告使用商標の周知 性の判断材料とすることはできない。 オ 原告が配布したというチラシは、その内容が不明である上、配布枚数も 1店舗当たり1か月30枚程度にすぎないことからすれば、原告使用商標 10 が周知性を有することの根拠にはならない。 (2) 本件商標の要部認定について ア(ア) 「三橋の森」は、森等の緑に囲まれた公園等の地域を表すものでは なく、複合商業施設の名称である。また、 「三橋の森」の語は、造語であ って公共的な色彩はなく、商標登録もされている。 15 したがって、「三橋の森」部分は、強い識別力を発揮するものである。 (イ) 多数のインターネット記事等の内容から明らかなように、「一升パ ン」の取引者、需要者は、 「一升餅は約1.8kgの重さであること」及 び「『一升パン』を『一升餅』の代わりに使用すること」を前提知識とし た上で、 「一升パン」の「一升」の部分から「約1.8kgの重さ」を認 20 識し、 「一升パン」 「約1. が 8kgの重さ」であることを理解した上で、 「一升パン」という文字を使用して「約1.8kg(一升)の重さのパ ン」の取引をしている。また、上記インターネット記事等の内容から明 らかなように、一升パン」 「 の語は、本件商標の登録査定時よりも前から、 全国各地の不特定多数の「一升パン」の取引者、需要者に使用されてい 25 る。さらに、上記(1)で主張したとおり、「一升パン」といえば原告とい う程度の周知性は生じていない。 6したがって、 「一升パン」部分は、識別力が非常に弱く、自他商品の識 別標識としての機能を持たないものであり、取引者、需要者に対して強 く支配的な印象を与えるものではない。 (ウ) 上記(ア)及び(イ)によれば、本件商標は、「三橋の森にある一升パ 5 ン」「三橋の森で製造・販売される一升パン」といった意味合いを有す 、 ることを全く違和感なく理解することができるから、 三橋の森」 「一 「 及び 升パン」は、格助詞である「の」を挟んで、分離して観察することが取 引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していることは明らか である。 10 したがって、本件商標の構成部分のうち「一升パン」部分を要部とし て認定することはできない。 イ 本件商標は、固有名詞である「三橋の森」、格助詞である「の」及びパン の名称である「一升パン」が、標準文字により、同書、同大、同間隔で、 外観上まとまりよく一体的に構成されている。そして、前の語句と後の体 15 言とを結合させて一体にするとともに、前の語句の内容を後の体言に付け 加えて後の体言を限定し、全体として意味を表すという「の」の文字の持 つ働きからすれば、「三橋の森の一升パン」が本件商標の要部となる。 ウ 識別力の強弱を重視すれば、三橋の森」 「 部分は強い識別力を持つものの、 「一升パン」部分は識別力が弱いから、 「三橋の森」部分が本件商標の要部 20 となり得る。 (3) 商標が類似しないこと ア 上記(2)で主張したところによれば、本件商標からは、よどみなく一連に 称呼し得る「ミハシノモリノイッショウパン」という称呼が生じ、場合に よっては「ミハシノモリ」という称呼が生じるが、 「イッショウパン」とい 25 う称呼は生じない。 イ また、本件商標を「パン」に使用した場合であっても、祝い事に用いる 7「約1.8kgの重さのパン(一升パン)」の取引者、需要者が、引用商標 の商標権者である原告が販売する「パン」であると誤認することはないか ら、出所の混同は生じない。 ウ したがって、本件商標及び引用商標は、非類似である。 5 (4)他の拒絶例について
原告が他の拒絶例として挙げる例には、本件商標の登録査定時よりも後の ものが多く含まれるほか、本件とは事案が異なるものが含まれるなど、不適 切なものが多く含まれている。 2 取消事由2(商標法4条1項15号該当性に関する判断の誤り) 10 〔原告の主張〕 以下の各事情によれば、本件商標は、商標法4条1項15号に該当する。 (1) 原告使用商標の周知性 前記1〔原告の主張〕(1)で主張したとおり、原告使用商標は、本件商標の 出願時及び登録査定時において、原告商品を表示するものとして我が国の需 15 要者の間において広く認識されていた。 (2) 本件商標及び原告使用商標の類似性
原告使用商標は、引用商標の上段部分と共通する構成であるから、前記1 〔原告の主張〕(3)で主張したとおり、本件商標及び原告使用商標は類似する ものとみるのが相当である。 20 (3) 出所混同のおそれ
原告使用商標は、需要者の間で広く認識されている上、本件商標の指定商 品は、いずれもパンを製造又は販売する事業者が取り扱うものであるから、 商品の出所について混同を生ずるおそれがあるといえる。 〔被告の主張〕 25 (1) 原告使用商標が周知性を有しないこと 前記1〔被告の主張〕(1)で主張したとおり、原告使用商標は、本件商標の 8登録査定時において、原告商品を表示するものとして需要者の間において広 く認識されていたものではない。 (2) 商標が非類似であること 前記1〔被告の主張〕(3)で主張したところによれば、本件商標及び原告使 5 用商標は、非類似である。 (3) 出所混同のおそれがないこと
原告使用商標は、本件商標の登録査定時において、原告商品を表示するも のとして需要者の間において広く認識されていたものではないから、被告が 本件商標をその指定商品に使用したとしても、商品の出所について混同を生 10 じるおそれはあり得ない。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実 各文末に掲記した証拠(枝番があるものは枝番を含む。 及び弁論の全趣旨に ) よれば、以下の事実が認められる。 15 (1) 原告は、昭和44年にパンの製造・小売店であるポンパドウル第1号店を 開店した。その後、原告及びそのグループ会社は、全国各地に70を超える 店舗を展開し、令和4年2月3日の時点において自ら公開している企業情報 によれば、グループ全体の売上高は130億円とされている。(甲3、10) (2) 原告は、平成26年7月から、1歳の誕生日を迎えた子供のお祝い用のパ 20 ンとして、 「一升パン」との名称で、原告商品の製造及び販売を開始した。 (甲 4) (3) 原告及びそのグループ会社は、全国各地の店舗における店頭販売のほか、
原告のウェブサイトにおける通信販売を通じて、原告商品を販売しており、 平成26年ないし平成30年における年間の販売個数及び売上金額の合計は、 25 それぞれ次のとおりであった。(甲11ないし13、48、49) 平成26年 304個 85万3632円 9平成27年 2413個 677万5704円 平成28年 3693個 1171万8840円 平成29年 4989個 1496万7000円 平成30年 6532個 1959万6000円 5 (4)原告は、原告商品の宣伝広告活動として、百貨店その他の事業者のウェブ サイトに原告商品の紹介記事を掲載しているほか、平成26年10月から平 成30年10月までの間、合計8万8960枚のチラシを作成し、店頭にお いて配布するなどしている。(甲14ないし26、44ないし47) 2 取消事由1(商標法4条1項11号該当性に関する判断の誤り)について 10 (1) 商標の類否に係る判断基準 商標法4条1項11号に係る商標の類否は、対比される両商標が同一又は 類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれ があるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用 された商標が、その外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印 15 象、記憶、連想等を総合して、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえ つつ全体的に考察すべきものであり(最高裁昭和39年(行ツ)第110号
同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照) 複数の 、 構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分 の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否 20 を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識 別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外 の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合な どを除き、許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953 号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高 25 裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47 巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日 10 第二小法廷判決・集民228号561頁参照)。 (2) 本件商標及び引用商標の類否 ア 本件商標 前記第2の1(1)のとおり、本件商標は、「三橋の森の一升パン」の文字 5 を標準文字で同書、同大、同間隔で横一列に書してなるものである。また、 本件商標は、一般の辞書等に掲載されている語ではなく、造語とみるのが 相当であるから、特定の観念を生じないものといえる。さらに、本件商標 からは、やや冗長ではあるものの、一連の語としてよどみなく称呼するこ とができる「ミハシノモリノイッショウパン」の称呼が生じるものといえ 10 る。 イ 引用商標 前記第2の1(2)のとおり、引用商標は、上段に配置された「一升パン」 及び下段に配置された「いっしょうパン」の各文字からなるものであると ころ、その構成全体をみると、下段の文字は上段の文字の読みを表したも 15 のにすぎないと認められるから、上段部分を本件商標と対比するのが相当 である。 そして、引用商標の上段部分は、 「一升パン」の文字を一般的な書体で同 書、同大、同間隔で横一列に書してなるものである。また、同部分は、一 般の辞書等に掲載されている語ではなく、造語とみるのが相当であるから、 20 特定の観念を生じないものといえる。さらに、同部分からは、 「イッショウ パン」の称呼が生じるものといえる。 ウ 本件商標と引用商標の上段部分との対比 (ア) 外観 本件商標は、 「三橋の森の一升パン」の文字を標準文字で書してなるも 25 のであるのに対し、引用商標の上段部分は、 「一升パン」の文字を一般的 な書体で書してなるものであるところ、両者は、 「一升パン」の文字が共 11 通するものの、 「三橋の森の」の文字の有無という点で差異があることか らすれば、全体の外観が明らかに相違するというべきである。 (イ) 観念 本件商標及び引用商標の上段部分は、いずれも特定の観念を生じない 5 ものであるから、対比することができない。 (ウ) 称呼 本件商標からは「ミハシノモリノイッショウパン」との称呼が生じる のに対し、引用商標の上段部分からは「イッショウパン」との称呼が生 じるところ、両者は「イッショウパン」部分において称呼が共通するも 10 のの、 「ミハシノモリノ」部分の有無という点で差異があることからすれ ば、全体の称呼が明らかに相違するというべきである。 (エ) 以上によれば、本件商標及び引用商標の上段部分は、全体の外観及 び称呼が明らかに相違するというべきであり、また、いずれも特定の観 念を生じないものであるところ、これを全体的に考察すると、両者が同 15 一又は類似の商品に使用された場合に、当該商品の出所について誤認混
同を生ずるおそれがあるとはいえない。 エ 小括 したがって、本件商標は、引用商標に類似する商標であるとはいえない。 (3) 原告の主張に対する判断 20 ア(ア) 原告は、本件商標について、特定の場所を示すものにすぎない「三 橋の森」の語と、識別力の強い造語である「一升パン」の語とが組み合 わされた結合商標であり、これらは不可分的に結合しているものではな く、また、 「一升パン」部分が商品の識別情報として強く支配的な印象を 与えるから、同部分を要部として認定し、引用商標と対比すべきである 25 旨主張する(前記第3の1〔原告の主張〕(2))。 (イ) そこで検討するに、本件商標の構成全体をみると、 「三橋の森」 「一 と 12 升パン」との間の「の」は、所有や所属等を示す格助詞であるといえる から、本件商標は、 「三橋の森」の語と「一升パン」の語とが格助詞であ る「の」で結合された結合商標であるといえる。 そして、 「三橋の森」の語は、一般の辞書等に掲載されている語ではな 5 く、また特定の地域や森の名称を指すものでもないことからすれば、造 語であるとみるのが相当である。また、証拠(甲27の1ないし3)及 び弁論の全趣旨によれば、 「三橋の森」は、埼玉県内に所在する、結婚式 場やフレンチレストラン等が一体となった複合商業施設の名称であると 認められる。これらの事情を考慮すると、 「三橋の森」の語は、単に「森 10 等の緑に囲まれた公園等の地域」を表すものとはいえず、 「三橋の森」部 分からは、商品の出所識別標識としての称呼、観念が生じるものといえ る。 他方で、 「一升パン」の語は、前記のとおり、一般の辞書等に掲載され ている語ではないことからすれば、造語であるとみるのが相当である。 15 また、一般に、 「一升」の語は、米や日本酒、醤油の容量を表す単位とし て用いられるものの、パンの数量を表す単位として用いられるものとは いえないことからすれば、 「一升パン」の語は、通常は組み合わされるこ とのない「一升」の語と「パン」の語とが組み合わされたものといえる。 これらの事情を考慮すると、 「一升パン」部分についても、商品の出所識 20 別標識としての称呼、観念が生じるものといえる。 このように、本件商標の「三橋の森」部分及び「一升パン」部分は、 いずれも商品の出所識別標識として機能する語であるといえる。 (ウ) しかしながら、 「一升パン」の語は、旧来から1歳の誕生日を迎えた 子供のお祝いとして用いられてきた「一升餅」の「餅」の語を「パン」 25 に置き換えたものにすぎないといえる(甲4)上、このような「一升パ ン」と称する商品は、本件商標の登録査定時において、原告以外の少な 13 くとも100を超える事業者によっても製造、販売されていたといえる こと(甲4、乙1ないし147)からすれば、 「一升パン」の語は、通常 は組み合わされることのない二つの語を組み合わせた造語であること を考慮しても、それ自体が特徴的又は印象的な語であるとまではいえな 5 い。また、前記のとおり、本件商標は、「三橋の森の一升パン」の文字を 標準文字で書してなるものであり、いずれかの部分が目立つ態様で記載 されているものではない上、後記3(2)で検討するところに照らせば、本 件商標の登録査定時において、 「一升パン」の語が、原告商品を表示する ものとして、本件商標の取引者及び需要者の間において広く認識されて 10 いたものとはいえない。 以上の各事情を考慮すると、本件商標の「一升パン」部分は、取引者、 需要者に対して商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるも のであるとは認められない。 (エ) 以上によれば、本件商標について、 「一升パン」部分が取引者、需要 15 者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと は認められず、また、 「一升パン」部分以外の部分である「三橋の森」部 分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないとも認められないか ら、本件商標の「一升パン」の部分を抽出し、この部分だけを引用商標 と比較して商標そのものの類否を判断することは許されないというべ 20 きである。 (オ) したがって、原告の上記主張は採用することができない。 イ 原告は、本件商標のように「○○の△△」という商標出願については、 「の」の前後の語のいずれかが要部として抽出された上で、他の商標と類 似するとして拒絶された例が多数存在する旨主張する(前記第3の1〔原 25 告の主張〕(5))。 しかしながら、商標登録の可否は、商標の構成、指定商品又は指定役務、 14 取引の実情等を踏まえて、具体的な実情に基づき商標ごとに個別に判断す べきものであるから、原告が指摘するような他の例があるからといって、 前記の結論が左右されるものではないというべきである。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 5ウ このほか、原告は縷々主張するが、いずれも前記の結論を左右するもの ではないというべきである。 (4) 小括 以上検討したところによれば、本件商標は、引用商標に類似する商標であ るとはいえないから、商標法4条1項11号に該当するものとは認められな 10 い。 3 取消事由2(商標法4条1項15号該当性に関する判断の誤り)について (1) 判断基準 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生 ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務に使用 15 したときに、当該指定商品又は指定役務が他人の業務に係る商品又は役務で あると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該指定商品又は指定役務 が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又 は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の 業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標を含むものと 20 解するのが相当である。そして、上記の「混同を生ずるおそれ」の有無は、 当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創 性の程度や、当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は 役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務 の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指 25 定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基 準として、総合的に判断されるべきものである(最高裁平成10年(行ヒ) 15 第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参 照)。 (2) 原告の表示の周知著名性の程度等 ア 原告使用商標の周知著名性の有無については、本件商標の取引者及び需 5 要者による認識を基準として判断すべきであるところ、前記第2の1(1) のとおり、本件商標の指定商品は、パン等であることからすれば、その取 引者及び需要者には、パン等の製造業者及び販売業者のほか、広く一般消 費者が含まれるものといえる。 イ そして、前記1の認定事実(1)ないし(3)によれば、原告は、そのグルー 10 プ会社と共に、全国各地に70数店舗の店舗を展開する企業であるところ、 各店舗における店頭販売のほか、ウェブサイトにおける通信販売を通じて、
原告使用商標を付した原告商品を販売してきたものであり、その販売個数 及び売上金額は年々増加しているものといえる。 しかしながら、前記1の認定事実(2)のとおり、原告が原告商品の販売を 15 開始したのは平成26年7月であり、本件商標が出願された平成30年4 月までの期間は約3年9か月、本件商標について登録査定がされた同年1 2月までの期間は約4年5か月ほどでしかない。また、前記1の認定事実 (1)のとおり、原告及びそのグループ会社における売上高は130億円と されているところ、同認定事実(3)のとおりの原告商品の売上金額からす 20 れば、原告商品の売上げがグループ全体の売上げに占める割合は、ごくわ ずかにすぎないというべきである。さらに、前記1の認定事実(4)のとおり、
原告は、百貨店等のウェブサイトに原告商品の紹介記事を掲載したり、各 店舗においてチラシを配布したりしているものの、他の商品よりも多額の 宣伝広告費用を投じているなどの事情は見当たらない。 25 以上の事情を考慮すると、原告商品は、広く全国で販売され、一定の売 上げのある商品であるとはいえるものの、販売開始からそれほど長い期間 16 が経過している商品ではない上、原告及びそのグループ会社における主力 商品ではなく、その宣伝広告活動も通常の範囲にとどまるというべきであ る。 ウ また、前記2(3)ア(ウ)で検討したとおり、「一升パン」の語は、それ自 5 体が特徴的又は印象的な語であるとまではいえない上、「一升パン」と称す る商品は、本件商標の登録査定時において、原告以外の少なくとも100 を超える事業者によっても製造、販売されていたといえる。 エ 以上の各事情を考慮すると、原告使用商標は、本件商標の出願時及び登 録査定時のいずれの時点においても、原告商品を表示するものとして、上 10 記の取引者及び需要者の間において広く認識されていたものとはいえな い。 (3) 取引者及び需要者の共通性 ア 前記第2の1(1)のとおり、本件商標の指定商品はパン等であり、原告使 用商標に係る商品は、1歳の誕生日を迎えた子供のお祝い用のパンである 15 原告商品である。 イ そうすると、本件商標の指定商品及び原告使用商標に係る商品は、パン であるという点で共通し、その主な取引者及び需要者も、パンの製造業者 及び取引業者並びに一般消費者であるという点で共通するものといえる。 (4) 本件商標及び原告使用商標の類似性 20 原告使用商標は、引用商標の上段部分と同じ構成であるところ、前記2で 検討したところに照らせば、本件商標及び原告使用商標の類似性の程度は著 しく低いというべきである。 (5) 検討
上記(2)ないし(4)の各事情を基に検討すると、本件商標及び原告使用商標 25 の類似性の程度は著しく低いというべきである上、原告使用商標は、本件商 標の出願時及び登録査定時において、原告商品を表示するものとして取引者 17 及び需要者の間において広く認識されていたものとはいえないことからすれ ば、本件商標の指定商品及び原告使用商標に係る商品の主な取引者及び需要 者が共通することを考慮しても、本件商標の指定商品の取引者及び需要者が、 本件商標が付された商品に接した場合に、当該商品が原告の業務に係る商品 5 であると混同するおそれがあるとはいえない。 (6) 原告の主張に対する判断 ア 原告は、原告使用商標の周知性に関し、原告商品の主な需要者層は1歳 になる子供を持つ家庭であるから、原告商品の販売個数や売上金額は決し て小さなものではない旨主張する(前記第3の1〔原告の主張〕(1)及び2 10 〔原告の主張〕(1))。 しかしながら、上記(2)アのとおり、原告使用商標の周知著名性の有無に ついては、本件商標の取引者及び需要者による認識を基準として判断すべ きであるから、原告の主張は失当というべきである。 イ このほか、原告は縷々主張するが、いずれも前記の結論を左右するもの 15 ではないというべきである。 (7) 小括 以上検討したところによれば、本件商標は、原告の業務に係る商品と混同 を生ずるおそれがある商標であるとはいえないから、商標法4条1項15号 に該当するものとは認められない。 20 4 結論 以上によれば、本件商標は、引用商標に類似する商標であるとはいえないか ら、商標法4条1項11号に該当するものとは認められず、また、原告の業務 に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であるとはいえないから、同条項 15号に該当するものとも認められない。したがって、本件審決の判断に誤り 25 はなく、原告の取消事由1及び2はいずれも理由がない。 よって、原告の請求は、理由がないからこれを棄却することとして、主文の 18 とおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 5 裁判長裁判官 東海林保 10 裁判官 中平健 15 裁判官 都野道紀 20 (別紙審決書写し省略) 19
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2022/05/31
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
事実及び理由
全容