関連審決 |
取消2018-300215 |
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事件 |
令和
1年
(行ケ)
10157号
審決取消請求事件
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5 原告 株式会社ビーアンドオー研究所 同訴訟代理人弁理士 木村政彦 同 高尾智満 10 被告 ダインスカンパニー リミテッド 15 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2022/09/12 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
20 第1 請求 特許庁が取消2018-300215号事件について令和元年10月15日 にした審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等25 ? 原告は、以下の商標(登録第5911020号。 「本件商標」 以下 という。) の商標権者である(甲25、26)。 1 商 標 別紙1「本件商標」のとおり 登録出願日 平成28年9月5日 登録査定日 平成28年12月9日 設定登録日 平成29年1月6日 5 指定商品 第8類「つめ磨き(電動式のもの又は電動式でないもの)、 つめ磨き器(電動式のもの又は電動式でないもの)、つめ やすり、つめ切り、電気かみそり及び電気バリカン、手動 利器(「刀剣」を除く。)、つめ用ピンセット、つめ用紙や すり」10 ? 被告は、平成30年4月12日、本件商標について、商標法53条の2の 規定により、商標登録取消審判を請求した(甲22)。 特許庁は、上記請求を取消2018-300215号事件として審理を行 い、令和元年10月15日、「登録第5911020号商標の商標登録を取 り消す。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は同年115 0月25日原告に送達された(弁論の全趣旨)。 ? 原告は、令和元年11月12日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提 起した。 ? 被告は、公示送達による送達を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。 2 本件審決の理由の要旨20 ? 被告は、パリ条約の同盟国等である韓国において、別紙2記載の引用商標 に関する商標権(2015年〔平成27年〕8月28日登録出願、指定商品・ 「爪磨き器、非電気式磨き器、つめやすり、非電気式つめやすり」、設定登 録日・2016年〔平成28年〕7月22日)を、被告商品の韓国における 総代理店であるSTOUCH Co.、Ltd.(以下「エスタッチ社」と25 いう。)と共有する者である。 引用商標と本件商標は相紛れるおそれのある類似の商標というのが相当で 2 ある。 また、本件商標の指定商品と引用商標が使用される商品とは、同一又は類 似の商品と認められる。 ? 原告は、被告商品を継続的に輸入し販売する又は販売していた者であるこ 5 とは明らかであって、被告との間には、継続的な取引により慣行上の信頼関 係が形成されていたというのが相当である。 したがって、原告は、本件商標の登録出願時において、商標法53条の2 にいう「代理人若しくは代表者」であった者に該当するというべきである。 ? 関係会社とのメールのやり取りによれば、被告が日本でのNUDE NA10 IL商標を商標登録出願する意思がなかったということはできない。被告が 原告に対し、日本において引用商標の権利を取得することを放棄した、又は、 取得する関心がないことを信じさせた場合に該当すると認めるに足る客観的 な証拠はない。 そうすると、原告の本件商標の登録出願をする行為は、正当な理由があっ15 たものと認めることはできない。 第3 原告の主張 1 取消事由1(原告が「代理人若しくは代表者」に該当するとの判断の誤り) について ? 商標法53条の2が適用されるためには、本件商標の登録出願がなされた20 平成28年9月5日の1年前である平成27年9月5日から平成28年9月 5日までの間(以下「本件期間」という。)に原告が被告の「代理人若しく は代表者」であったことが少なくとも必要となるが、本件期間内に原告が被 告の「代表者」であったという事実はない。 ? 以下のとおりの理由により、原告が被告の代理人とはいえない。 25 ア 本件審決は、本件期間より後の平成29年3月14日までの間の取引高 及び取引回数をも考慮して、被告との間には、継続的な取引により慣行上 3 の信頼関係が形成されていたと判断しており、不当である。 原告は、白岩物産株式会社(以下「白岩物産」という。)から、引用商 標を使用したつめやすり(以下「被告商品」という。)の紹介を受け、本 件期間内に、白岩物産に対して被告商品を数回発注した。しかし、本件期 5 間内の原被告間の取引期間は約3か月と短い上、原告が注文した被告商品 のうち、6割を超える数量は、平成28年5月6日付けの原告から白岩物 産宛ての初回の注文書(甲19)による2万個(枚)に相当するものであ り、これは、審判請求書(甲22)の「a.請求人商品の取引」における 表中に示された同年5月18日の6000個、同月25日の3500個、 10 同年6月7日の1万0500個の取引に対応するから、実質的な取引回数 は、被告が本件審判で主張する5回よりも更に少ない。 また、本件審決は、本件期間内の取引総額は1261万円に上り、単な る得意先又は顧客の範囲を超えた取引高であると説示するが、1回の取引 あたりの数量については、商品単価に対する輸送等のコストの影響を勘案15 して適宜決定されるものであり、信頼関係とは無関係である。 イ 日本において、被告商品の韓国における総代理店であったエスタッチ社 により、引用商標に対応する商標(以下「エスタッチ社商標」という。) の商標出願が、平成27年12月3日付けで出されていた(商願2015 -119036号、甲9)ので、原告は、日本におけるエスタッチ社商標20 の安定的な使用を確保するために、白岩物産の勧めによりエスタッチ社商 標の使用に関する契約書案(以下「本件契約書案」という。)を作成し、 これを、平成28年6月10日に白岩物産を介して被告に対して送付した が(甲11、12)、妥結には至っていない。 ? 以上によれば、原告が「代理人若しくは代表者」に当たるとした本件審決25 の判断は誤りである。 2 取消事由2(「正当な理由」についての判断の誤り)について 4 ? 被告は、遅くとも平成28年7月5日の時点でエスタッチ社商標の出願が 登録料未納付により却下されたことを把握していた(甲14)にもかかわら ず、自ら商標出願することなく長期間放置していた。これは、被告が、原告 のみならず任意の第三者においてエスタッチ社商標に代わる商標を登録する 5 ことが可能な状態を許容していたことを意味する。 このように、被告は、本件商標の登録出願がなされた平成28年9月5日 の時点において、エスタッチ社商標に代わる商標の登録出願を積極的に行う 意思はなく、エスタッチ社商標に代わる商標の権利取得を放棄していたのに 等しい。他方、原告には、顧客に納入した被告製品に付された商標に関する10 問題が生じることを回避する必要があったため、原告は、本件商標の登録出 願について正当な理由を有する。 ? したがって、正当な理由の存在を否定した本件審決の判断は誤りである。 第4 当裁判所の判断 1 事実関係15 ? 被告は、パリ条約の加盟国である韓国において、引用商標に係る商標権を エスタッチ社と共有している(甲2、3)。 別紙記載の引用商標と本件商標を比較すると、いずれも、上段にアルファ ベットの大文字で大きく「NUDE NAIL」と記載し、下段に小文字で 小さく「glass nail shiner」と記載するもので、両者は20 相紛れるおそれのある類似の商標であり、また、前記第2の1?の本件商標 の指定商品と、前記第2の2?の引用商標の指定商品とは、同一又は類似の 商品であるものと認められる。 ? エスタッチ社は、平成27年12月3日、わが国において、エスタッチ社 商標の出願をした(甲9)。 25 ? 原告は、白岩物産を通じ、平成28年5月6日、被告商品2万枚を注文し、 同年5月18日発送の6000枚について228万円の、同月25日発送の 5 3500枚について133万円の、同年6月7日発送の1万0500枚につ いて399万円の請求を受け、これを支払った(甲7の1ないし3、19)。 また、原告はその後も被告商品を注文し、本件期間内の平成28年7月1 3日発送の1200枚について45万6000円、同年8月16日発送の1 5 万2000枚について456万円を支払った(甲7の4,5)。本件期間後 も、平成29年3月14日まで、被告商品の注文は継続している(甲7の6 ないし12)。 ? 原告は、平成28年6月10日、白岩物産を通じて、被告に対し、被告が エスタッチ社商標の登録出願により生じた権利又は登録後における商標権を10 同社から譲り受け、この権利について原告に商標法31条の使用権を許諾し、 これを独占的なものとすること等を内容とする本件契約書案を提示した(甲 12、13)。 白岩物産は、平成28年7月1日、被告の意向として、独占的使用権の許 諾は難しいとの回答をし(甲13)、また、同月5日、エスタッチ社の出願15 が無効(正確には、登録料未納による出願却下。甲22)となったため、同 月15日前には被告が引用商標の出願をする予定であること、原告に独占的 権利を与えるには、最低販売保証数量や、販売計画等について、協議、確認 をする必要があることを、原告に指摘した(甲14)。 ? 被告は、原告による本件商標の登録出願を知らずに、平成28年12月220 日に引用商標の出願をしたが(商願2016-136383)、同出願は、 本件商標を引例として、平成29年5月15日起案の拒絶理由通知を受けた (甲15,22)。 2 取消事由1(原告が「代理人若しくは代表者」に該当するとの判断の誤り) について25 ?ア 商標法53条の2が適用されるためには、本件期間内に原告が被告の 「代理人若しくは代表者」であったことを要するが、同期間内に原告が被 6 告の代表者であったことの主張立証はないから、原告が「代理人」であっ たか否かが問題となる。 イ 商標法53条の2は、輸入者が権利者との間に存在する信頼関係に違背 して、正当な理由がなく外国商標を勝手に出願して競争上有利に立とうと 5 する弊害を除去し、商標の国際的保護を図る規定というべきであり、この 観点からすると、ここにいう「代理人」に該当するか否かは、輸入者が「代 理人」、「代理店」等の名称を有していたか否かという形式的な観点のみ から判断するのではなく、商標法53条の2の適用の基礎となるべき取引 上の密接な信頼関係が形成されていたかどうかという観点も含めて検討す10 るのが相当である。 この点、原告は、被告商品を輸入して、日本国内でこれを販売するため に被告との取引関係に入ったものというべきところ、前記1?のとおり、 本件期間内の被告商品の納入は合計5回、1261万円に上り、決して少 ないものとはいえず、さらに、本件期間後の平成29年3月14日まで継15 続している。そうすると、原告と被告の関係は、単発の商品購入にとどま るものではなく、継続的な取引関係の構築を前提とするものであり、この ことは、原告がわが国におけるエスタッチ社商標の使用権を取得しようと したこと、さらには、本件商標の登録出願をしたこと自体からも裏付けら れるものである。以上の事情を総合考慮すると、原告と被告の間には、本20 件期間内に既に、代理人ないし代理店と同様の取引上の密接な信頼関係が 形成されたものと認めるのが相当であり、代理店契約の存否等にかかわら ず、原告は、同条の2にいう「代理人」に該当するというべきである。 ウ 原告は、前記第3の1?アのとおり、本件審決が本件期間後の取引も考 慮したことを不当と主張するが、原告と被告との間に本件期間内に取引上25 の密接な信頼関係が形成されていたかを判断する一要素として、取引が継 続的なものであるかを検討するために、本件期間後の取引を参酌して総合 7 的に判断することは許されるというべきであるから、理由がない。 また、原告は、本件期間内の5回の納入のうち3回までは平成28年5 月6日付けの初回の注文に基づくものであるとか、1回の取引当たりの数 量については商品単価に対する輸送等のコストの影響を勘案して適宜決 5 定されるものである旨主張するが、そのような事情は、前記イにおいて認 定した総合考慮の結果を否定するに足りるものではない。 さらに、原告は、前記第3の1 イのとおり、原告がエスタッチ社商標 の使用に関する本件契約書案を作成し、被告に対して送付したが、妥結に 至っていないことをもって、原告が被告の代理人とはいえない旨主張する。 10 しかし、エスタッチ社商標の使用権をめぐる交渉状況は前記1?のとお りであって、原告が独占的通常使用権の許諾を求めたところ、被告が難色 を示していたという状況にあったものである。これは、原告が、エスタッ チ社商標ないし将来被告が日本において出願する予定の引用商標と同一の 商標は、本来、被告及びエスタッチ社が韓国において共有する商標に由来15 すること、また、被告が独占的通常使用権の許諾には簡単には応じられな いという意向であったことを知りながら、本件商標の登録出願をしたこと を意味するものであって、原告の信義則違反を基礎付ける事実とはなり得 ても、原告が被告の代理人であることを否定する事情ということはできな い。 20 ? 以上によれば、原告が商標法53条の2にいう「代理人若しくは代表者」 に該当するとした本件審決の判断に誤りはない。 3 取消事由2(「正当な理由」についての判断の誤り)について ? 原告は、前記第3の2?のとおり、被告は、本件商標の登録出願がなされ た平成28年9月5日の時点において、エスタッチ社商標に代わる商標の権25 利取得を放棄していたのに等しく、他方、原告には、顧客に納入した被告製 品に付された商標に関する問題が生じることを回避する必要があったため、 8 原告が本件商標の登録出願をするについて正当な理由を有する旨主張する。 しかし、被告が、同年7月5日の時点でエスタッチ社商標の出願が登録料 未納付により却下されたことを把握していたとしても、原告による本件商標 の登録出願まではわずか2か月にすぎず、これをもって「長期間」放置した 5 とか、原告のみならず任意の第三者においてエスタッチ社商標に代わる商標 を登録することが可能な状態を許容していたなどと評価できないことは明ら かである。なお、白岩物産は、前記1?のとおり、同日付けメールで、被告 が同月15日までに引用商標の商標登録出願をする予定であることを原告に 告げているけれども、同日までに引用商標の商標登録出願がされなかったか10 らといって、被告が出願の意思を失ったと推認されるものでもない。 さらに、前記2?ウのとおり、原告は、エスタッチ社商標ないし将来被告 が日本において出願する予定の引用商標と同一の商標は、本来被告及びエス タッチ社が韓国において共有する商標に由来すること、また、被告が独占的 通常使用権の許諾には簡単には応じられないという意向であったことを知り15 ながら、独占的通常使用権をめぐる交渉中に本件商標の登録出願をしたもの であるから、原告が当該出願について正当な理由があるなどといえないこと も明白である。なお、原告のいう「被告製品に付された商標に関する問題」 とは、引用商標を付した商品が出回り値崩れを起こしているという趣旨と解 されるが(甲20の1・2、甲21の1ないし8)、これは、本来、独占的20 通常使用権をめぐる交渉において解決されるべき問題であり、本件商標の登 録出願を正当化するものではない。 ? 以上によれば、原告の商標登録出願に「正当な理由」がないとした本件審 決の判断に誤りはない。 第5 結論25 以上のとおりであって、原告主張の取消事由は理由がなく、本件審決にこれ を取り消すべき違法は認められない。 9 したがって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり 判決する。 |