運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2021-890027
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙2PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙3PDFを見る pdf
事件 令和 4年 (行ケ) 10034号 審決取消請求事件
5
原告X
同訴訟代理人弁理士 佐藤勝
被告 株式会社フラッシュエージェント 10
同訴訟代理人弁理士 宮永栄
同 柴田泰子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2022/09/14
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
15 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2021-890027号事件について令和4年3月30日に した審決を取り消す。
20 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない) 原告は、平成30年4月3日、
「スマホ修理王」の文字を標準文字で表して なる商標(以下「本件商標」という。)について、指定役務を第37類「電話 機械器具の修理又は保守」として、商標登録出願をし、令和元年7月9日、
25 その登録査定を受け、同年8月30日、本件商標の商標権の設定登録(登録 第6174509号)を受けた。
1 被告は、令和3年6月8日、本件商標について商標登録無効審判を請求し た。
特許庁は、上記請求を無効2021-890027号事件として審理を行 い、令和4年3月30日、「登録第6174509号の登録を無効とする。」 5 旨の審決(以下「本件審決」という。)をした。
原告は、令和4年5月2日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起し た。
2 本件審決の要旨(ただし、本件審決の取消事由に関する部分に限る。) 原告は、被告とフランチャイズ契約を結び、被告の加盟者(フランチャイジ10 ー)であったところ、同契約解除のわずか4日後に本件商標を登録出願したも のであり、
「スマホ修理王」の文字から構成される引用商標1及び「スマホ修理 王」の文字を含む引用商標2(別紙の1)が被告の業務である「スマートフォ ンの修理」について使用される商標であることを十分に認識した上で、それが 商標登録されていないことを奇貨として、被告の業務を妨害し、不当な利益を15 得る目的をもって上記登録出願をしたとみるのが相当であるから、本件商標は、
出願の経緯、目的に社会相当性を欠くものがあり、登録を認めることが法の予 定する秩序に反するものとして到底容認できない場合に当たり、「公の秩序又 は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当する。
したがって、本件商標は、商標法4条1項7号に該当する。
20 3 取消事由 本願商標の商標法4条1項7号該当性の判断の誤り
当事者の主張
1 原告の主張 本件商標の登録出願時は、その4日前とはいえ、原告と被告との間のフラ25 ンチャイズ契約は終了しており、原告からすればフランチャイザーである被 告は競合他社であるにすぎない。原告と被告との間のフランチャイズ契約に 2 は、本件商標の出願登録や登録事項に関する規定もなければ、契約終了後の 競業禁止についても規定はなく、信義則上も契約終了後はフランチャイジー が本件商標の商標権を取得することに関して制限されるものではない。原告 は、契約解除後に本件商標が登録出願をされていないことを知り、自らの携 5 帯電話等の修理業に使用する目的で本件商標を登録出願したものであって、
本件商標の登録出願は、自由競争の範囲内の正当な行為である。
本件審決は、@原告が引用商標2と類似する原告使用標章(別紙の2)を 原告のウェブサイトに掲載したこと、A本件商標に係る商標権の買取りに関 して交渉が行われた際に原告が被告に提示した金額をもって、原告が不当な10 利益を得る目的で本件商標を出願したものと判断したものとうかがわれる。
しかし、@については、原告使用標章の使用は、本件商標の設定登録後で あり、本件商標の使用形態の1つであるし、スマホ修理業の分野では、文字 商標の配色として赤と黒を組み合わせて標章を構成することは比較的普通に 行われていることである。原告使用標章が引用商標2と類似するからといっ15 てそれを理由に権利を失効させることは、商標法4条1項7号の不当な拡大 解釈である。
また、Aについては、原告が被告に提示した金額は、譲渡、放棄又はライ センスも定かではない段階で申し出た金額であって、最初は高めの金額を提 示することは当然であり、こうした交渉過程で提示した金額を理由に加害の20 意図があるとはいえない。
本件審決は、原告が享有すべき職業選択の自由を著しく狭く解釈した不当 な判断であり、また、被告が本件商標の商標登録出願を怠っていたことを棚 上げにして、
「スマホ修理王」の文字がスマートフォンの修理に使用されるこ とを原告が十分に認識していたことをもって加害の意図があるとして本件商25 標が公序良俗に反するものと判断したものであり、商標の先願主義に反する ものであって、商標法4条1項7号の適用を誤るものであるから、取り消さ 3 れるべきである。
2 被告の主張 原告と被告との間のフランチャイズ契約に係る契約書(乙52。以下「本 件契約書」といい、同契約書に係る契約を「本件フランチャイズ契約」とい 5 う。)には、「スマホ修理王」の商標についての記載はないが、本件契約書4 条(商標・商号・その他の表示の提供)には、
「1.本部は、加盟者における XPERIA 等修理業経営について『XPERIA 修理王』の商標・サービスマーク・ その他営業シンボル・著作物の使用を許諾する。
・・・3.第1項に定める許 諾に関しては、以下を条件とする。@加盟者との本契約中ならびに加盟者の10 事業所内に限る。
・・・」と規定されているところ、原告が、平成29年1月 5日付けで、被告に対し、店舗の屋号に「スマホ修理王 新宿店」「XPERIA 、
修理王 新宿店」とする旨を通知したことをもって、上記本件契約書4条の 「商標・商号・その他の表示」には、
「XPERIA 修理王」のほかに「スマホ修 理王」が含まれるから、本件フランチャイズ契約の解除後に原告が本件商標15 を使用することはこの条項に反するものであり、使用することができない本 件商標の商標登録出願をする必要性は認められない。
また、本件契約書13条の「業務に関する報告」に関する条項に加え、1 9条(協議)に「本契約に定めのない事項については、FC の特性や特長を損 ねないこと、ならびに他の加盟店との公平性を損ねないこと等を考慮した上20 で、本部ならびに加盟者での協議の上、信義誠実の原則に則り、その取り決 めに従う。 との条項があることからすると、
」 フランチャイジーであった原告 は、本件契約書中に本件商標に関する商標の登録出願について規定がないと しても、被告が使用する本件商標を尊重し、被告による本件商標の使用及び 登録を妨げてはならない信義則上の義務を負っていたとみるべきであり、本25 件商標を被告に無断で登録出願し、本件商標の設定登録後に被告に本件商標 の使用の中止を求める行為は、信義誠実の原則に反する。
4 商標の選択範囲は無限であるにもかかわらず、原告がフランチャイザーよ り許諾を受けていた本件商標を契約解除後も店名の変更も看板の変更も行わ ないで使用し続けたのは、引用商標1及び2に化体した被告の顧客吸引力フリーライドし、引用商標の有する識別力及び顧客吸引力希釈化又は汚染 5 を目的とする以外には考えられない。
本件商標の設定登録の重要性や必要性について認識していなかったことは 被告の過失であるが、原告は、本件商標が設定登録されていない事実を利用 して、本件フランチャイズ契約の解除直後に本件商標の登録出願をし、契約 時には被告の許可を得て使用していた「スマホ修理王」の商標を用いて営業10 を続け、本件商標の設定登録後は被告による本件商標の使用の中止を求め、
かつ、使用継続の条件として高額の金銭の支払を求めたものであって、被告 の業務を妨害し、不当な利益を得る目的で本件商標の登録出願をしたものと いえる。
以上によれば、本件商標は、その出願の目的及び経緯に照らして社会的妥15 当性を欠くものであり、商標の使用する者の業務上の信用の維持を図り、そ の商標を保護することにより、取引秩序の維持を通じて健全な産業の発達に 寄与し、併せて需要者の利益を保護するという商標法の目的に照らしても、
その登録を認めることは商標法の予定する秩序に反するものである。
したがって、これと同旨の本件審決の判断に誤りはなく、原告が主張する20 取消事由は理由がない。
当裁判所の判断
1 認定事実 前記第2の1記載の事実及び証拠(乙2ないし17、22ないし29、31 ないし33、35ないし49、51ないし60、62ないし64)によれば、
25 以下の事実が認められる。
被告の事業内容及びフランチャイズ事業の展開 5 ア 被告は、平成16年8月16日、機械の修理及び販売等を目的として設 立された株式会社である。
被告は、平成22年から東京都渋谷区道玄坂でスマートフォンの修理を 業として行うようになり、平成24年10月頃から、「iPhone 修理王」の 5 名称でスマートフォン「iPhone」の端末修理を行うとともにフランチャイ ズ事業を開始した。
また、被告は、
「iPhone」以外にも、平成27年頃から「Android」を搭 載した端末機の修理を行うようになり、各端末機の商品名等に「修理王」 の文字を結合させた「Android 修理王」 「XPERIA 修理王」等のほか、

10 「iPhone」端末機と「Android」搭載端末機の両方に対応する「スマホ修 理王」の文字からなる商標(引用商標1)を、店舗の名称、ウェブサイト、
広告、プレスリリース資料、求人募集広告、顧客対応メール、修理依頼書 兼同意書等に使用するようになった。
イ 被告は、クラウドソーシングを利用して「スマホ修理王」のロゴの作成15 を依頼し、平成28年2月24日、引用商標2と類似する商標(スマート フォン端末機の図柄と「スマホ修理王」の文字部分が青色となっている) を作成して、その頃から、引用商標2又はこれに類似する商標を、鹿児島 本店の宣伝広告、被告が開設したフェイスブックや大阪心斎橋店のフェイ スブック、上野御徒町店のウェブサイト、路上広告、桜丘店のポスト投函20 用宣伝はがき、渋谷神南本店、桜丘店の看板に使用した。
ウ 被告は、平成28年6月頃から、
「XPERIA」端末機のフランチャイズ事 業を開始し、その加盟店を募集した。同フランチャイズに関する資料(甲 45、46)には、
「iPhone」端末機に比べて「Android」搭載端末機の修 理 業 者 が 少 な い こ と 、 XPERIA 」 端 末 機 の 修 理 か ら 開 始 し 、 続 け て 「25 「GALAXY」端末機等の修理を追加する予定であること、検索上位に表示 される「スマホ修理王」のウェブサイトに加盟店を掲載することで顧客を 6 加盟店に誘導すること等が謳われているほか、加盟店の事業内容として、
「iPhone」端末機の修理、
「XPERIA」端末機の修理、この両方をそれぞれ 加盟店の修理事業として選択できることが記載されている。
被告は、平成29年2月4日時点で、フランチャイズ加盟店を含め、3 5 1店舗でスマートフォンの修理事業を展開しており、令和3年5月27日 時点では16店舗である。
本件フランチャイズ契約の締結及び解除 ア 原告は、平成28年11月9日、被告が開設する「スマホ修理王 FC 加 盟申し込みホームページ」を利用して、被告が運営する「スマホ修理王」10 のフランチャイズ契約の加盟申込みをした。
イ 被告は、原告によるフランチャイズ契約の加盟申込みを受けて、平成2 8年11月28日、原告との間で、以下の条項を含む本件フランチャイズ 契約を締結した。
第1条(目的)15 本契約は、本部ならびに加盟者が、本部の許諾による「XPERIA 修理 王」ブランドでの XPERIA 等修理業経営のための FC 契約関係を形成す ることを目的とする。
第2条(FC サービスの目的) 本契約において本部が加盟者に提供する FC サービスの内容は、次の20 各号の通りとする。
@開業前の技術研修および開業に必要な物品の提供 A商標・商号・その他の表示の提供 B技術および経営に関する指導ならびにサポート 第4条(商標・商号・その他の表示の提供)25 1 . 本 部 は 、 加 盟 者 に お け る XPERIA 等 修 理 業 経 営 に つ い て 、
「XPERIA 修理王」の商標・サービスマーク、その他営業シンボル・ 7 著作物の使用を許諾する。
2.前項に関わらず、本部は、
「XPERIA 修理王」を加盟者の商号また は企業の別称とすることを認めない。
3.第1項に定める許諾に関しては、以下を条件とする。
5 @加盟者との本契約期間中ならびに加盟者の事業所内に限る。
A加盟者自身が作成するインターネット上における WEB サイト等 での使用はできない。
B本部の事前の承諾を得て加盟者の WEB サイトに掲示するバナー は、前項の定めによらない。
10 第10条(パーツの仕入れと転売の禁止) 1.加盟者は、修理に要するパーツについては、本部が運営するパー ツ販売専門 WEB サイト「XPERIA パーツ王」から専属的に購入す る。
2.加盟者は、修理に要するパーツを本部以外から購入してはならな15 い。(以下略) 第16条(契約期間) 1.本契約の有効期間は平成28年12月1日から平成30年11月 30日までの2年間とする。(以下略) 第17条(解約の内容および月額料金の精算等)20 1.解約の要件および手続きを、次の通り定める。
(中略) ・下記各号に該当した場合の自動解除。
@加盟者が本契約に違反したとき (中略)25 ・下記各号に該当した場合で、文書による催告後10日以上経過し ても改善されない場合の解除。
8 (中略) B加盟者が本部に無断で商標等を外部で使用したとき (以下略) ウ 被告は、平成29年1月5日付けで、原告に対し、 『XPERIA 修理王』 「 5 フランチャイズ加盟基本契約書に関する屋号について」と題する文書で、
原告が本件フランチャイズ契約に基づいて運営する店舗の屋号を「スマホ 修理王 新宿店」 「XPERIA 修理王 、 新宿店」と指定する旨を通知した。
「XPERIA 修理王 by スマホ修 原告は、平成29年12月22日までに、
理王新宿店」 「スマホ修理王」の部分は引用商標2)と題したウェブサイ (10 ト(甲63。以下「本件ウェブサイト」という。)を開設し、同ウェブサイ トでスマートフォン「XPERIA」の機種に関する修理についての宣伝広告 をするなど、原告運営の店舗について、
「スマホ修理王」の名称を使用した。
エ 被告は、原告が被告以外からスマートフォンの修理に要するパーツを仕 入れた事実が判明したため、平成30年3月30日付けで、原告に対し、
15 本件フランチャイズ契約の10条1項及び2項に違反したことを理由と して、同契約17条の解除条項により同日付けで解除すること(以下「本 件解除」という。 、同年4月6日までに原告が運営する店舗、書面、ツー ) ル、ウェブサイト等から「XPERIA 修理王」及び「修理王」の名称を削除 することを求める旨をメール及びチャットで送信した。
20 オ 原告は、遅くとも平成30年11月30日までには、本件ウェブサイト の「XPERIA 修理王 by スマホ修理王新宿店」の名称を「新宿駅前 XPERIA 修理専門店」の名称に変更するウェブサイトに改めた。
本件商標の登録出願とその後の経緯 ア 原告は、本件解除の4日後である平成30年4月3日、「スマホ修理王」25 の文字を標準文字で表してなる本件商標について、指定役務を第37類 「電話機械器具の修理又は保守」として、商標登録出願をし、令和元年7 9 月9日、その登録査定を受け、同年8月30日、本件商標の商標権の設定 登録を受けた。
イ 原告は、令和元年12月20日付けの文書で、被告に対し、
「調査により ますと、貴社は、
“スマホ修理王”なる商標を使用した、スマートフォンな 5 どの携帯電話機の修理業を自ら及びフランチャイズ展開もしながら営ん でいると認められます。 として、
」 本件商標の商標権を侵害していると警告 した上で、本件商標の使用の中止を求めた。これに対して、被告は、令和 2年1月30日付けの文書で、原告に対し、被告は遅くとも平成27年か ら本件商標の使用を開始しており、また、原告と被告との間では平成2810 年11月に「XPERIA 修理王」のフランチャイズ契約を締結し、同契約期 間中に店舗屋号を「スマホ修理王 新宿店」とする通知をしており、さら に、原告が「スマホ修理王 FC 加盟申し込みページ」からフランチャイズ 加盟を希望するメールを送信していることから、被告において本件商標を スマートフォンの修理業務との関係で使用していることを原告は十分に15 理解しているものと思料しているため、警告状を受け取り困惑しているこ と、被告による本件商標の使用は先使用権により本件商標の商標権を侵害 するものではなく、原告が本件商標を保有する意義は被告との関係では実 質的にはないと解されることから、本件商標を放棄するよう求める旨を通 知した。
20 また、被告は、令和2年6月5日付けの文書で、原告に対し、本件商標 の放棄又は譲渡のために50万円(税別)を支払う用意がある旨を通知し た。これに対し、原告は、同月26日付けの文書で、被告に対し、被告が 提示する金額は本件商標の買取価格としては低いとし、本件商標の独占的 使用権として、契約料150万円、設定登録の日から5年間の使用料とし25 て月額40万円、ライセンス終了時に被告が希望するのであれば、本件商 標の商標権買取価格を120万円(合計金額2670万円)とするライセ 10 ンス契約を提案した。
ウ 原告訴訟代理人弁理士及び被告訴訟代理人弁理士は、令和2年10月1 2日、被告訴訟代理人弁理士の事務所で、本件商標の商標権の譲渡を含め て協議をしたが、その際、原告訴訟代理人弁理士は、被告訴訟代理人弁理 5 士に対し、被告が提示する50万円は到底受け入れがたく、大幅に金額が 上げられない限り(100万円から300万円程度では受け入れられな い。 、本件商標の商標権を譲渡することはできない旨回答した。
) 2 本件商標の商標法4条1項7号該当性 本件契約書には、 『XPERIA 修理王』ブランドでの XPERIA 等修理経営 「10 のための FC 契約関係を形成する」(第1条)「 、『XPERIA 修理王』の商標… の使用を許諾する。(第4条1項)とある(前記1 」 イ 、 )ものの、
「本 契約において本部が加盟者に提供する FC サービスの内容は、次の各号とす る。…A商標・商号・その他の表示の提供」 (第2条)「本部は、加盟者にお 、
ける XPERIA 等修理業経営について『XPERIA 修理王』の商標・サービスマ15 ーク、その他営業シンボル・著作物の使用を許諾する。 (第4条1項) 「第 」 、
1項に定める許諾に関しては、以下を条件とする。@加盟者との本契約期間 中ならびに加盟者の事業所内に限る。」 (第4条3項)とあり(前記1 イ 、
)、被告は、原告に対し、原告が本件フランチャイズ契約に基づいて運営す る店舗の屋号を「スマホ修理王 新宿店」「XPERIA 修理王 、 新宿店」と指20 定する旨を通知し(前記1 ウ)、原告は、少なくとも本件フランチャイズ契 約の契約期間中、運営するスマートフォンの修理業に関し「XPERIA 修理王 by スマホ修理王新宿店」の名称を使っていた(前記1 オ)ことからすると、
本件フランチャイズ契約においてフランチャイザーである被告がフランチャ イジーである原告に提供し、許諾の対象となる「商標・商号・その他の表示」25 には、
「XPERIA 修理王」だけでなく「スマホ修理王」の商標も含まれるもの と解される(なお、原告は、本件商標(標準文字の「スマホ修理王」)は本件 11 フランチャイズ契約で規定されていない旨主張するが、上記のとおりである から採用できない。 。
) また、原告は、被告が開設する「スマホ修理王 FC 加盟申し込みホームペ ージ」を利用して本件フランチャイズ契約の申込みをしていること(前記1 5 ア)、本件フランチャイズ契約終了後、被告より、ウェブサイト等から 「XPERIA 修理王」及び「修理王」の名称を削除するよう求められたのに応 じて、本件ウェブサイトの「XPERIA 修理王 by スマホ修理王新宿店」 (スマ ホ修理王の部分は引用商標2)の名称を「新宿駅前 XPERIA 修理専門店」と 変更していること(前記1 ウないしオ)からすると、原告は、
「スマホ修理10 王」の商標(引用商標1、2)は被告がフランチャイズ事業で使用しており、
その使用のためには被告の許諾が必要であることを十分に認識し、現にその ような認識の下で、被告のフランチャイジーとして「スマホ修理王」の商標 を使用していたと解するのが相当である。
そうであるにもかかわらず、原告は、本件フランチャイズ契約に関し、平15 成30年3月30日付けで、本件解除がされ、WEB サイト等から『XPERIA 修理王』および『修理王』の名称を削除するよう求められたその4日後に本 件商標の登録出願に及び、令和元年8月30日に本件商標の設定登録を受け ると、同年12月20日付けで、フランチャイザーであった被告に対し、被 告が展開するフランチャイズ事業で「スマホ修理王」の商標を使用すること20 が本件商標の商標権侵害に当たる旨を警告し(前記1 ア、イ)、本件商標の 放棄又は譲渡のために50万円(税別)を支払う用意があると通知した被告 に対し、本件商標の商標権買取価格を含め合計2670万円のライセンス契 約を提案し、代理人間の協議においても100万円から300万円程度では 受け入れられない旨回答した(前記1 イ、ウ)ことが認められる。
25 こうした事実経過等に鑑みれば、本件商標の登録出願は、元フランチャイ ジーである原告が、被告から本件解除をされたわずか4日後に行ったもので 12 あり、これまでと同様の名称を使用することにより被告の顧客吸引力を利用 し続けようとしたものと評価せざるを得ず、元フランチャイジーとして遵守 すべき信義誠実の原則に大きく反するものであるのみならず、「スマホ修理 王」の名称でフランチャイズ事業を営んでいる被告がその名称に係る商標登 5 録を経ていないことを奇貨として、被告によるフランチャイズ事業を妨害す る加害目的又は本件商標を高額で被告に買い取らせる不当な目的で行われた ものというべきである。
このような本件商標の登録出願の目的や経緯等に鑑みれば、本件商標の出 願登録は、商標制度における先願主義を悪用するものであり、社会通念に照10 らして著しく社会的相当性を欠く事情があるというべきであって、こうした 商標の登録出願及び設定登録を許せば、商標を保護することにより商標の使 用する者の業務上の信用を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要 者の利益を保護することを目的とする商標法の目的に反することになりかね ないから、本件商標は、公の秩序に反するものであるというべきであって、
15 商標法4条1項7号に該当する。
なお、原告は、本件審決は原告が享有すべき職業選択の自由を著しく狭く 解した不当な判断であると主張するが、事業において使用する特定の屋号等 の選択が職業選択の自由に含まれるものとしても、他人がその商標で築き上 げた信用の希釈又は特定の商標との混同等を理由として特定の商標の使用が20 制限されることはやむをえないものであるし、もとより本件商標以外の屋号 等を選択することは可能であるから、原告の主張は当を得ないものというべ きであり、その他原告が縷々主張するところによっても、上記認定は左右さ れ得ない。
以上によれば、本件商標は、商標法4条1項7号に該当するものであり、
25 これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
3 結論 13 以上によれば、原告主張の取消事由は理由がないから、原告の請求は棄却さ れるべきものである。
よって、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 菅野雅之