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関連審決 取消2021-300094
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事件 令和 4年 (行ケ) 10038号 審決取消請求事件
5 旧商号 トランスファーワイズ リミテッド
原告 ワイズペイメンツ リミテッド 10 同訴訟代理人弁護士 渡辺光
同 松野仁彦
同訴訟代理人弁理士 松下友哉 15 被告 ビーオーシーアイ−プルデンシャル アセット マネジメント リミテッド
同訴訟代理人弁護士 波田野晴朗 20 同松本陸
同訴訟代理人弁理士 右馬埜大地
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2022/09/28
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
25 3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
1事 実 及 び 理 由第1 請求特許庁が取消2021−300094号事件について令和3年12月22日にした審決を取り消す。
5 第2 事案の概要1 特許庁における手続の経緯等(?の送達日を除き当事者間に争いがなく、同送達日は弁論の全趣旨により認められる。)? 被告は、以下の商標(登録第5328151号。 「本件商標」以下 という。)の商標権者である。
10 商 標 別紙のとおり登録出願日 平成21年12月11日登録査定日 平成22年4月28日設定登録日 平成22年6月4日指定役務 第36類「証券投資信託受益証券の募集・売出し、投資、
15 金融資産の管理、投資の仲介、投資用ポートフォリオの管理、財務管理、有価証券の売買、金融派生商品取引、金融・財務分析、信託の引受け、銀行業務、株式市況に関する情報の提供、投資に関する助言又は指導、金融又は財務に関する助言」20 ? 原告は、令和3年2月12日、本件商標について、商標法50条1項の規定により、商標登録取消審判を請求し(以下「本件審判請求」という。)、
同年3月2日、その登録がされた。
特許庁は、上記請求を取消2021−300094号事件として審理を行い、令和3年12月22日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審25 決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、令和4年1月5日、原告に送達された。
2? 原告は、令和4年5月6日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 本件審決の理由の要旨本件商標の通常使用権者であると認められる楽天証券株式会社(以下「楽天5 証券」という。)は、本件審判請求の登録前3年以内の平成30年3月2日から令和3年3月1日までの期間(以下「要証期間」という。)内に、本件商標と社会通念上同一の商標である「W.I.S.E.−CSI300 CHINA TRACKER」の商標(以下「使用商標1」という。)を、ウェブサイトに表示している。使用商標1は、楽天証券が取り扱う「香港籍指数連動型上10 場投資信託」及び「私募外国投資信託(香港ドル建)」(以下、これらを「本件投資信託」という。)の名称であると認められるから、楽天証券は、要証期間に日本国内において、請求に係る指定役務中、第36類「証券投資信託受益証券の募集・売出し」等に関する広告を内容とする情報に本件商標と社会通念上同一の商標を付して電磁的方法により提供する行為(商標法2条3項8号)15 をした。
また、被告は、要証期間内に、本件商標と社会通念上同一の商標である「W.I.S.E.−CSI300 China Tracker」の商標(以下「使用商標2」という。)を、「運用報告書(全体版)」に表示し、楽天証券のウェブサイトを通じて提供することで、要証期間に日本国内において、請求に係20 る指定役務中、第36類「証券投資信託受益証券の募集・売出し」等に関する取引書類を内容とする情報に本件商標と社会通念上同一の商標を付して電磁的方法により提供する行為(商標法2条3項8号)をした。
3 取消事由使用商標1及び2の使用に関する事実認定判断の誤り25 第3 当事者の主張1 原告の主張3? 楽天証券によるウェブサイトにおける使用商標1の使用についてア 本件審決は、甲第3号証の1ないし3を根拠に、楽天証券がそのウェブサイトにおいて要証期間内に使用商標1を使用していたと認定する。しかし、甲第3号証の1ないし3は、本件審判請求の登録後の令和3年5月15 9日時点におけるウェブサイト画面を印刷したものであり、要証期間内にこのような形でウェブサイトが存在していたか否かは明らかでない。楽天証券と被告は緊密な業務提携関係にあるというのであるから、事後的にこのようなウェブサイトを作成することも可能である。
イ 本件審決は、被告が、楽天証券において本件商標を使用することについ10 て黙示の許諾を与えている旨認定するが、大企業間において、まして、外国法人を一方当事者とする場合に、書面によらない契約が締結されることは考えられない。
ウ 本件審決は、楽天証券のウェブサイトにおいて使用役務に関する広告に使用商標1が表示される行為は、「役務に関する広告・・・を内容とする15 情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為(商標法2条3項8号)」に当たるものと認定する。
しかし、同号は、ネットワークを通じた広告の保護を目的とするものであるところ、「広告」の一般的な意味からすれば、同号の「役務に関する広告・・・を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行20 為」とは、商業上の目的で、商品・役務を積極的に広く宣伝するための情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為を意味するものと解すべきである。
楽天証券のウェブサイトにおける使用商標1の表示は、ファンドに関する客観的なデータないし情報を提供するものにすぎず、ファンドの顧客を25 得るために役務の情報を宣伝し、又は需要者の関心を引く、いわゆる広告のような表現は一切存在しない。また、甲第3号証の1ないし3の記載か4らは、これらのウェブサイトから、需要者が直接にファンドの「買い」又は「売り」ができるか否かは不明である。
? 被告による運用報告書(全体版)における使用商標2の使用についてア 本件審決は、運用報告書(全体版)(甲5ないし7の各3。以下「本件5 運用報告書」という。)における使用商標2の表示行為をもって、使用商標2が「使用」された事実を認めている。
しかし、商標の「使用」というためには、出所表示機能を発揮する態様での使用(商標的使用)でなければならない。
使用商標2は、本件運用報告書のタイトルないしサブタイトルであり、
10 同報告書の内容を表示する記載であって、商標的使用がされているとはいえない。
イ 商標法2条3項8号の「取引書類」は、注文書、納品書、送り状、出荷案内書、物品領収書、カタログのように、商業的な目的で、商品や役務に係る取引に関連して作成交付される書類をいうものであり、公益的な理由15 から法律上作成が義務付けられる書面は含まれない。
本件運用報告書は、いずれも金融庁に提出されたものであり、投資信託及び投資法人に関する法律(以下「投資信託・投資法人法」という。)14条1項により作成が義務付けられているものであって、その記載事項は、
受益者が計算期間における当該投資信託財産の運用状況を的確に把握で20 きるようにするという公益的な見地から、投資信託財産の計算に関する規則58条により詳細に定められており、その表紙についても、一般社団法人投資信託協会が定める投資信託及び投資法人に係る運用報告書等に関する規則(以下「運用報告書規則」という。)2条1項により、「当該投資信託の名称」を始めとして、期別及び決算年月日、当該投資信託の仕組25 み、投資信託委託会社、問い合わせ先の名称及び電話番号等を表示することが、事細かに定められている。
5したがって、本件運用報告書は、商標法2条3項8号の「取引書類」には当たらない。
ウ 平成29年から令和元年の各交付運用報告書(甲5ないし7の各2)の表紙には、「運用報告書(全体版)は販売会社である楽天証券株式会社の5 下記のウェブサイトにおいて電磁的方法により提供しています」との記載があるが、リンク先において、実際に閲覧可能な状態で「運用報告書(全体版)」がアップロードされていたか否か、仮にアップロードされていたとしても、本件運用報告書と同一の態様で使用商標2が表示されていたか否かは不明である。
10 また、甲第3号証の1ないし3には、本件運用報告書が閲覧可能な状態でアップロードされていたことを示す記載は見当たらない。
したがって、本件運用報告書が、「電磁的方法により提供」(商標法2条3項8号)されていたとは認められない。
? 小括15 以上のとおりであって、通常使用権者及び被告が、要証期間内に日本国内において、請求に係る使用役務について、本件商標と社会通念上同一の商標の使用をしていたことが証明されたとする本件審決の判断は誤りである。
2 被告の主張? 楽天証券による使用商標1の使用について20 ア 甲第3号証の1ないし3記載のウェブサイトにおける使用甲第3号証の1ないし3は、要証期間外に印刷されたものであるが、
平成29年から令和元年の交付運用報告書(甲5ないし7の各2)には、
運用報告書(全体版)が楽天証券のウェブサイトにより電磁的方法により提供されている旨記載されていることに鑑みれば、楽天証券のウェブ25 サイトが要証期間内も甲第3号証の1ないし3記載のような形態であったことは間違いがない。
6原告は、前記1?イのとおり、外国法人を一方当事者とする大企業間において、書面によらない契約が締結されることは考えられない旨主張するが、商標の使用許諾契約は要式契約ではない。なお、被告は、楽天証券を通じて本件投資信託を日本国内で販売しているのであるから、楽5 天証券が通常使用権者でないとすれば、被告自身による使用商標1の使用が認められるともいえる。
原告は、前記1?ウのとおり、甲第3号証の1ないし3記載のウェブサイトには、広告のような表現は一切存在しない旨主張するが、当該ウェブサイトには顧客が金融商品を購入するか否かを判断する情報が記載10 され、顧客はこれらのウェブサイトから本件投資信託を購入することが可能であるから、「広告」に当たることは疑いない。
イ 「トウシル」のウェブサイト(乙1)における使用楽天証券は、「トウシル」という投資情報メディアを運営し、要証期間内である令和元年3月6日に「『MSCI新興国株指数』の中国A株組み15 入れ拡大で、中国株に追い風か」との記事を公開しており、楽天証券が扱う中国本土株に連動する主なETF(上場投資信託)として本件投資信託を紹介し、使用商標1を使用している(乙1)。「トウシル」のウェブサイトにおいて使用商標1が使用されている部分をクリックすると、甲第3号証の1ないし3記載のウェブサイトに遷移し、顧客は同ウェブサイトか20 ら本件投資信託の取引を行うことができる。
したがって、本件商標の通常使用権者である楽天証券は、請求に係る指定役務中、第36類「証券投資信託受益証券の募集・売出し、投資、金融資産の管理」の範ちゅうに含まれる役務に、役務に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為(商標法2条3項825 号)をした。
? 被告による使用商標2の使用について7ア 原告は、前記1?アのとおり、使用商標2は、本件運用報告書のタイトルないしサブタイトルとして使用されているものである旨主張する。
しかし、運用報告書規則2条1項2号では、運用報告書(全体版)の表紙には「当該投資信託の名称」を記載するものとされており、使用商標25 がタイトルないしサブタイトルとして使用されているものではない。
イ 原告は、前記1?イのとおり、運用報告書(全体版)が公益的見地から法律上作成を義務付けられたものであるから、商標法2条3項8号にいう「取引書類」に当たらない旨主張する。
しかし、同号にいう「取引書類」は取引に関連する一切の書類を指すか10 ら、運用報告書(全体版)が公益的性格を有することは、それが取引関連書類であることと矛盾しない。
ウ 原告は、前記1?ウのとおり、本件運用報告書が、「電磁的方法により提供」(商標法2条3項8号)されていたとは認められない旨主張するが、
被告において金融庁に対して提出した交付運用報告書(甲5ないし7の各15 2)において、本件運用報告書が楽天証券のウェブサイトにおいて電磁的方法により提供されている旨記載されているのであるから、原告の主張は失当である。
? 小括以上のとおりであって、通常使用権者及び被告が、要証期間内に日本国内20 において、請求に係る使用役務について、本件商標と社会通念上同一の商標の使用をしていたことが証明されたとする本件審決の判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断1 認定事実? 甲第3号証の1ないし3記載の楽天証券のウェブサイト中、「W.I.S.25 E.−CSI300 CHINA TRACKER(W.I.S.E.−CSI300 チャイナ・トラッカー)」に関するページでは、「株価」、「フ8ァンド情報」、「チャート」の各頁に「W.I.S.E.−CSI300 CHINA TRACKER」(使用商標1)の表示があるとともに、
「買い」、
「売り」のボタンがあって、本件投資信託の売買ができるようになっており、
さらに、過去10年(2012年から2021年)の株価の推移を示すグラ5 フ、指数連動型ファンドであること、基準価額、組入上位銘柄等が掲載されている。
? 本件運用報告書の表紙には、「W.I.S.E.−CSI300 China Tracker」(使用商標2)が表示されており、また、その下方に「香港籍指数連動型上場投資信託」 「私募外国投資信託及び (香港ドル建)」10 である旨の記載があり、さらに、管理会社名として被告の表示がある(甲5ないし7の各3)。
なお、運用報告書(全体版)は、投資信託・投資法人法14条1項により、
投資信託財産の計算期間の末日に、投資信託委託会社が作成し、知れている受益者に交付すべきもので、同条2項により、投資信託約款に定めがあると15 きは、電磁的方法により提供することが可能とされるものである。また、交付運用報告書は、同条4項により、運用報告書(全体版)に記載すべき事項のうち重要なものとして内閣府令で定めるものを記載した書面で、知れている受益者に交付すべきものである。
運用報告書(全体版)及び交付運用報告書を作成したときは、遅滞なく金20 融庁長官に届け出なければならないとされる(投資信託・投資法人法14条6項225条1項、同法施行令135条1項、5項、平成19年9月28日金融庁告示第90号4条)。
投資信託・投資法人法14条は、同法59条により、外国投資信託の受益証券の発行者に準用される。
25 2 楽天証券による使用商標1の使用? 甲第3号証の1ないし3記載のウェブサイトにおける使用9ア 前記1?の認定事実によれば、甲第3号証の1ないし3記載の楽天証券のウェブサイトにおいて、同社が取り扱う指数連動ファンドとして「W.I.S.E.−CSI300 CHINA TRACKER」の表示、すなわち使用商標1が用いられているところ、使用商標1と本件商標とは、
5 一部にスペースの有無やローマ字の大文字と小文字の差異があるものの、
構成文字や称呼を共通にする、社会通念上同一の商標と認められる。
イ 甲第3号証の1ないし3そのものは、本件審判請求の登録後の令和3年5月19日時点におけるウェブサイト画面を印刷したものであるが、以下の理由により、要証期間内にも、同様の形態のウェブサイト画面が存在し10 たものと推認することができる。
本件投資信託はオンラインのみにより販売されているところ(甲10)、楽天証券の内部資料(甲8の1・2)によれば、要証期間内である平成30年10月から令和3年2月までの間、本件投資信託の取引が行われている。
15 作成対象期間(計算期間)を、それぞれ平成29年、平成30年、令和元年とする本件投資信託の交付運用報告書(甲5ないし7の各2)には、運用報告書の全体版については、販売会社である楽天証券のウェブサイトで電磁的方法により提供されているとしてURLを表示しているから、同期間に、楽天証券において本件投資信託を対象とするウェブ20 サイトが存在したことが認められる。
楽天証券の金融商品を取り扱うサイトでは、平成22年頃から、ウェブページ上の表示態様に大きな変更がなく、取引ページにおいて「株価」、
「企業情報」(株式を投資対象とする場合)又は「ファンド情報」(投資信託を投資対象とする場合)、 「チャート」の各頁の上側に企業名や25 ファンド名が表示される構成となっており(乙2ないし5)、このような表示態様は、甲第3号証の1ないし3記載の表示態様と同様である。
10楽天証券が運営する投資情報メディア「トウシル」のウェブサイトには、要証期間内である2019年(令和元年)3月6日付けの「『MSCI新興国株指数』の中国A株組み入れ拡大で、中国株に追い風か」と題する記事があり、現在もインターネットからアクセスすることができ5 るが、同記事では、楽天証券が取り扱う中国本土株に連動する主なETFとして本件投資信託を紹介し、使用商標1が記載されている(乙1)。
同記事内において使用商標1が使用されている部分にはリンクが埋め込まれており、同部分をクリックすると、甲第3号証の1ないし3記載のウェブサイトと同様の構成の楽天証券のウェブサイトに遷移し、顧客10 は同ウェブサイトから本件投資信託の取引を行うことができる仕様となっている。
被告が楽天証券と結託して、楽天証券のウェブサイトをあえて改変して、甲第3号証の1ないし3記載のウェブサイトを急遽立ち上げ、これを印刷して書証として提出したものであることを疑わせるに足りる事15 情は見当たらない。
ウ 前記1?の認定事実によれば、使用商標2のみならず、使用商標1についても、本件投資信託(「香港籍指数連動型上場投資信託」及び「私募外国投資信託(香港ドル建)」)の名称であることは明らかであるから、使用商標1は、要証期間を含む期間において、請求に係る指定役務中、第320 6類「証券投資信託受益証券の募集・売出し、投資、金融資産の管理」の範ちゅうに含まれる役務に使用されていることになる。
エ 楽天証券のウェブサイトにおける使用商標1の使用が本件投資信託の販売会社としてのものであることは明らかである。前記イ のとおり、被告の本件投資信託の交付運用報告書では、運用報告書(全体版)については、
25 販売会社である楽天証券のウェブサイトで電磁的方法により提供されているとしてURLを表示しているのであるから、被告が、楽天証券におい11て使用商標1をウェブサイトで使用していることを認識していることも明らかである。そうすると、被告が楽天証券に使用商標1の通常使用権を許諾していることは優に推認される。
そして、前記1?のとおり、楽天証券のウェブサイトでは、過去10年5 の本件投資信託の価格等、本件投資信託に関する重要な情報が示され、本件投資信託の売買も可能なのであるから、「役務に関する広告・・・を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」が行われていたことになる。
オ 以上によれば、本件商標の通常使用権者である楽天証券は、要証期間に10 日本国内において、請求に係る指定役務中、第36類「証券投資信託受益証券の募集・売出し」等に関する広告を内容とする情報に、本件商標と社会通念上同一の商標である使用商標1を付して、自社のウェブサイト上で表示し、役務に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法(インターネット)により提供する行為(商標法2条3項8号)をしてい15 たものと認められる。
? 投資情報メディア「トウシル」における使用前記?イ の認定事実によれば、楽天証券の運営する投資情報メディア「トウシル」において、使用商標1が、要証期間内に、請求に係る指定役務中、第36類「証券投資信託受益証券の募集・売出し、投資、金融資産の管20 理」の範ちゅうに含まれる役務に使用され、かつ、「役務に関する広告・・・を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」(商標法2条3項8号)がされていることが認められるといえるから、前記 の場合と同様の理由により、本件商標の通常使用権者である楽天証券は、要証期間に日本国内において、請求に係る指定役務中、第36類「証券投資信託受益25 証券の募集・売出し」等に関する広告を内容とする情報に、本件商標と社会通念上同一の商標である使用商標1を付して、その運営する「トウシル」で12表示し、役務に関する広告を電磁的方法(インターネット)により提供する行為(商標法2条3項8号)をしていたものと認められる。
? 原告の主張についてア 原告は、前記第3の1?アのとおり、@甲第3号証の1ないし3が本件5 審判請求の登録後の時点におけるウェブサイト画面を印刷したものであること、A楽天証券と被告が密接な関係にあることから、楽天証券のウェブサイトが要証期間内において甲第3号証の1ないし3記載のウェブサイトのような態様で存在したとは限らない旨主張する。
しかし、要証期間内にも、同様の形態のウェブサイト画面が存在したも10 のと推認することができること及び被告が楽天証券と結託して、楽天証券のウェブサイトをあえて改変したこと等を疑わせるに足りる事情もないことについては前記?イのとおりであるから、原告の主張は採用できない。
イ 原告は、前記第3の1?イのとおり、外国法人を一方当事者とする大企業間において、書面によらない契約が締結されることは考えられない旨主15 張する。
しかし、被告が販売会社である楽天証券を通じ本件投資信託を販売する場合において、楽天証券が本件商標と社会通念上同一の商標を使用することは当然に想定されることであり、これを禁止すれば本件投資信託の販売に支障を来すのであるから、個別の書面がなくても、被告による楽天証券20 に対する通常使用権の許諾は優に推認することができる。
ウ 原告は、前記第3の1?ウのとおり、楽天証券のウェブサイトは、ファンドに関する客観的なデータないし情報を提供するものにすぎず、需要者が直接にファンドの「買い」又は「売り」ができるか否かは不明であるから、「広告」には当たらない旨主張する。
25 しかし、楽天証券のウェブサイトに記載された価格、基準価額、組入銘柄等は、需要者である投資家にとって、本件投資信託の購入を決定する上13で極めて重要な情報を提供するものである。また、前記1?のとおり、甲第3号証の1ないし3記載のウェブサイトにおいては、「買い」、「売り」のボタンがあって、本件投資信託の売買ができるようになっており、要証期間内にも、同様の形態のウェブサイト画面が存在したものと推認するこ5 とができることについては前示のとおりであるから、需要者が直接にファンドの「買い」又は「売り」ができる形態になっていたものと認めることができる。
以上によれば、楽天証券のウェブサイトは、需要者に本件投資信託の購入に必要な情報を提供して購入を促すものであり、「広告」に当たるもの10 と認めることができ、原告の主張は採用できない。
3 被告による使用商標2の使用?ア 前記1?の認定事実によれば、本件運用報告書には、「W.I.S.E.−CSI300 China Tracker」(使用商標2)の表示がされているところ、使用商標2と本件商標とは、構成文字や称呼を共通に15 する、社会通念上同一と認められる商標である。
イ 前記1?のとおり、本件投資信託は指数連動ファンドであって、「香港籍指数連動型上場投資信託」及び「私募外国投資信託(香港ドル建)」であり、また、本件運用報告書において管理会社として表示されているのは被告であるから、使用商標2は、遅くとも本件運用報告書の存在する平成20 29年から令和元年まで、すなわち要証期間内において、請求に係る指定役務中、第36類「証券投資信託受益証券の募集・売出し、投資、金融資産の管理」の範ちゅうに含まれる役務に、被告によって使用されていたことになるし、本件運用報告書は、販売会社である楽天証券のウェブサイトで電磁的方法により提供されているから、
「役務に関する・ ・取引書類・ ・・ ・25 を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」(商標法2条3項8号)がされていたことになる。
14ウ 以上によれば、被告は、要証期間に日本国内において、請求に係る指定役務中、第36類「証券投資信託受益証券の募集・売出し」等に関する取引書類を内容とする情報に、本件商標と社会通念上同一の商標である使用商標2を付し、日本国内の販売会社である楽天証券のウェブサイトを通じ5 て電磁的方法(インターネット)により提供する行為(商標法2条3項8号)をしていたものと認められる。
? 原告の主張についてア 原告は、前記第3の1?アのとおり、使用商標2について、商標的使用がされているとはいえない旨主張する。
10 しかし、運用報告書規則(甲17。投資信託協会の自主規制により作成されるものである。甲16。)2条1項2号では、運用報告書(全体版)の表紙には「当該投資信託の名称」を記載するものとされており、本件運用報告書の表紙には管理会社として被告が表示され、使用商標2の右上には登録商標であることを示す?も表示されていることに鑑みれば、使用商15 標2について、被告の業務に係る役務であることを認識することができる態様の使用がされているということができるから、原告の主張は採用できない。
イ 原告は、前記第3の1?イのとおり、運用報告書(全体版)は、金融庁に提出されるもので、公益的な理由から法律上作成が義務付けられる書面20 であるから、商標法2条3項8号の「取引書類」には当たらない旨主張する。
しかし、運用報告書(全体版)は、信託財産の運用が期待どおりに行われているかについて、受益者に検討する機会を与えるためのもので、取引者である受益者を本来の対象とするものであり、金融庁長官に届け出なけ25 ればならないとされるのは、その作成・交付の適正を確保するためのものである(甲16)。そして、公益的な理由から法律上作成が義務付けられ15る書面であっても、同時に取引に関連して作成される書類としての性質を有することはあり得るものであり、本件運用報告書は、ファンドの仕組み、
ファンドの運用の経過、ファンドの経理状況等、取引上の意思決定に資する情報が記載されており、取引に関連して作成される書類としての性質を5 有するといえる。したがって、原告の主張は採用できない。
ウ 原告は、前記第3の1?ウのとおり、平成29年から令和元年の各交付運用報告書(甲5ないし7の各2)の表紙記載のリンク先において、実際に閲覧可能な状態で本件運用報告書がアップロードされていたか否か、仮にアップロードされていたとしても、本件運用報告書と同一の態様で使用10 商標2が表示されていたか否かは不明である旨主張するが、被告において、
知れたる受益者への交付や金融庁長官への届出が義務付けられる交付運用報告書において、URLでリンク先を明示しながら、本件運用報告書をアップロードしないとか、使用商標2が表示されていない別個の態様のものをアップロードするなどという事態は想定し難く、採用できない。
15 4 小括以上のとおりであって、いずれの点から見ても、通常使用権者及び被告が、
要証期間内に日本国内において、請求に係る使用役務について、本件商標と社会通念上同一の商標の使用をしていたことが証明されたとする本件審決の判断に誤りはない。
20 第5 結論以上のとおり、原告主張の取消事由は理由がなく、本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。
したがって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
25知的財産高等裁判所第4部16裁判長裁判官菅 野 雅 之5裁判官本 吉 弘 行10裁判官岡 山 忠 広17(別紙)18
事実及び理由
全容