関連審決 |
不服2019-60 |
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事件 |
令和
4年
(行ケ)
10033号
審決取消請求事件
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原告X 被告特許庁長官 同 指定代理人豊田純一 同 森山啓 同 綾郁奈子 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2022/11/21 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2019-60号事件について令和4年3月2日にした審決を 取り消す。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 原告は、平成27年9月24日、「MIRAI」の文字を標準文字で表して なる商標(以下「本願商標」という。 について、 ) 指定商品を第12類「船舶、 船舶の部品及び附属品、航空機、航空機の部品及び附属品、鉄道車両、鉄道車 両の部品及び附属品、自動車、自動車の部品及び附属品、二輪自動車、二輪自 動車の部品及び附属品」とする商標登録出願をした(商願2015-920 58。以下「本願」という。)。 1 なお、本願は、平成27年7月18日に登録出願された商願2015-6 8401(以下「原商標登録出願」という。)に係る商標法10条1項の規定 による分割出願として登録出願されたものである。 原告は、平成29年2月6日付けで拒絶理由の通知を受け、同年3月11 日に意見書を提出するとともに、同日付け手続補正書により、指定商品を「航 空機、航空機の部品及び附属品、鉄道車両、鉄道車両の部品及び附属品」と補 正したが、平成30年7月31日付けで拒絶査定を受けたため、平成31年 1月4日、拒絶査定不服審判を請求した。 特許庁は上記請求を不服2019-60号事件として審理を行い、令和4 年3月2日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審 決」という。)をし、その謄本は、同年4月7日、原告に送達された。 原告は、令和4年5月1日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起し た。 2 本件審決の理由の要旨 本願は、原商標登録出願について商標法施行規則22条2項が準用する特許 法施行規則30条の規定による必要な補正がなされておらず、商標法10条1 項の規定による商標登録出願の要件を満たすものではないから、同条2項が規 定する出願日遡及の効果は生じない。 別紙引用商標目録?の構成よりなる商標(以下「引用商標」という。)は、ト ヨタ自動車株式会社(以下「トヨタ社」という。)の取扱に係る燃料電池車(以 下「トヨタ燃料電池車」という。)を表示する商標として、平成26年9月7日 以前より、現在に至り、自動車の取引者、需要者はもとより、一般の需要者の間 においても広く知られている。 本願商標と引用商標とは、互いに類似する商標と判断するのが相当であり、 類似性の程度は高い。 本願商標の指定商品と引用商標が使用されるトヨタ燃料電池車の商品は、商 2 品の用途や、取引者及び需要者を共通にする。 以上の事情からすれば、本願商標は、原告がこれをその指定商品について使 用した場合、取引者、需要者をして、引用商標を連想又は想起させ、その商品が トヨタ社あるいは同社と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業 務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれ があり、商標法4条1項15号に該当する。 3 取消事由 本願商標の商標法4条1項15号該当性の判断の誤り |
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当事者の主張
1 原告の主張 ? 出願日の遡及について 本件審決は、本願は、原商標登録出願について商標法施行規則22条2項 が準用する特許法施行規則30条の規定による必要な補正がなされておらず、 商標法10条1項の規定による商標登録出願の要件を満たさないため、同条 2項が規定する出願日遡及の効果は生じない旨判断した。 しかし、分割出願に関する商標法10条1項では、もとの商標登録出願の 指定商品及び指定役務についての補正が本願と同時になされていることが出 願分割の要件としては規定されていない。商標法施行規則22条2項は、特 許法施行規則30条の規定を商標登録出願に準用し、分割出願をしようとす る場合においては、もとの商標登録出願の願書を補正する必要があるときは、 その補正は、新たな商標登録出願と同時にしなければならない旨規定するが、 これは商標法10条1項に規定する要件に加え、「その補正は、新たな商標登 録出願と同時にしなければならない」という新たな要件を規定していること になり、同項の想定しないものであり、このような省令への委任を前提とし た規定は同項には存在しない。 よって、商標法施行規則22条2項は商標法10条1項に反し違憲違法で 3 ある。 これを前提とすると、原商標登録出願より更に前の、最初の登録出願であ る商標登録出願(商願2014-75417、平成26年9月8日出願。以下 「原々商標登録出願」という。 を複数回適法に出願分割したものである本願 ) は、同日に出願されていることになる。 ? 引用商標の周知著名性について 未来工業株式会社(以下「未来工業」という。)は、平成25年12月25 日出願、指定商品を「自動車並びにその部品及び附属品」とする「MIRA I」商標(以下「別件商標」という。)の登録第5671887号の商標権を 有している。そうすると、引用商標が、トヨタ燃料電池車を表示するものとし て、平成26年9月7日以前より、需要者の間においても広く知られていた との本件審決の認定は疑わしいし、引用商標は、商標法4条1項11号に該 当するものとして拒絶査定されるべきものである。 ? 小括 原々商標登録出願以降の分割出願は有効であり、引用商標は、原々商標登 録出願の出願日には周知著名となっていなかったから、本願商標の商標法4 条1項15号該当性を認めた本件審決は誤りである。 2 被告の主張 ? 出願日の遡及について ア 最高裁判所平成16年(行ヒ)第4号同17年7月14日第一小法廷判 決・民集59巻6号1617頁(以下「平成17年最高裁判決」という。) は、「商標法10条は、「商標登録出願の分割」について、新たな商標登 録出願とすることができることやその商標登録出願がもとの商標登録出願 の時にしたものとみなされることを規定しているが、新たな商標登録出願 がされた後におけるもとの商標登録出願については何ら規定していないこ と、商標法施行規則22条4項は、商標法10条1項の規定により新たな 4 商標登録出願をしようとする場合においては、新たな商標登録出願と同時 に、もとの商標登録出願の願書を補正しなければならない旨を規定してい ることからすると、もとの商標登録出願については、その願書を補正する ことによって、新たな商標登録出願がされた指定商品等が削除される効果 が生ずる」旨判示している。 商標登録出願の分割は、もとの商標登録出願の指定商品等を2以上に分 けることが前提となり、これは商標法施行規則22条2項により準用する 特許法施行規則30条により、もとの商標登録出願の願書の補正をするこ とによりなされるべきとされているから、商標法10条2項が規定する出 願日遡及の効果は、もとの商標登録出願に係る指定商品等の一部を削除す る補正と同時に、当該削除した商品等を指定商品等とする新たな商標登録 出願がされた場合に、すなわち、上記の分割の前提要件が充足し、商標法 10条1項の規定による商標登録出願の要件を満たした場合に、認められ ると解すべきである。 本願は、原商標登録出願に係る指定商品等の一部を削除する補正がされ ておらず、もとの商標登録出願の指定商品等を2以上に分けるという上記 の分割の前提要件を充足していないため、同項の規定による商標登録出願 の要件を満たすものではないから、同条2項が規定する出願日遡及の効果 は生じないものであり、本願の先後願の判断基準日(登録出願日)は、平成 27年9月24日である。 イ 原告は、前記1?のとおり、商標法施行規則22条2項は違憲違法である 旨主張する。 しかし、国家行政組織法12条1項において、「各省大臣は、主任の行政 事務について、法律若しくは政令を施行するため、又は法律若しくは政令の 特別の委任に基づいて、それぞれその機関の命令として省令を発すること ができる。」と規定されていることによれば、法律(商標法10条)を施行 5するために、それぞれの機関(経済産業省)の命令として省令を発することができ、その省令において、行政事務を実施するための規則(特許法施行規則30条を準用する商標法施行規則22条2項)を制定することに何らの違法性はない。 また、商標法10条が分割出願の規定である以上、原出願と分割出願とを整理するために原出願の補正(原出願から分割出願の指定商品等を削除するための補正)が必要となるのは当然といえるから、このような手続を定めた省令を商標法10条が想定していないなどということはできない。 本願商標が商標法4条1項15号に該当することについてア 引用商標及び「MIRAI」の周知著名性について 引用商標は、平成26年12月15日のトヨタ燃料電池車の販売開始 時から現在に至るまで継続して使用され、ひんぱんに紹介されている。 また、「MIRAI」と称されるトヨタ燃料電池車は、走行中に水しか排 出しないエコカーとして、官公庁にも採用されている。 そうすると、引用商標及び「MIRAI」の文字は、トヨタ燃料電池車 を表示するものとして、遅くとも、本願の商標登録出願日(平成27年9 月24日)より前に、取引者、需要者はもとより、一般世人の間にも広く 知られていた。 原告は、前記1?のとおり、別件商標が平成25年12月25日に出 願され、その後商標登録されていることからすると、引用商標が、トヨタ 燃料電池車を表示するものとして、平成26年9月7日以前より、需要 者の間においても広く知られていたとの本件審決の認定は疑わしいなど と主張する。 しかし、別件商標の存否が引用商標の周知著名性を左右するものとは いえないし、本願商標については、他の案件の審査や審理に影響される ことなく、個別に、審査及び審理を進めるべきものである。 6 ちなみに、トヨタ社は、平成25年11月20日から同年12月1日 に開催された第43回東京モーターショー2013にトヨタ燃料電池車 を出展し(乙98)、販売開始前の平成26年9月6日の新聞では、その 名称を「ミライ」とすること、トヨタ社は、米国の特許商標庁に「TOY OTA MIRAI」を商標登録する手続を進めていることが確認でき (乙34) それ以降、 、 同年12月15日のトヨタ燃料電池車の販売前の 新聞記事情報(乙35、36、94)等によると、トヨタ燃料電池車は「M IRAI」と紹介され、発売について告知がされており、同日以降、イン ターネットや新聞等のメディアでひんぱんに取り上げられていることか らすると、引用商標及び「MIRAI」の文字は、トヨタ燃料電池車を表 示するものとして、遅くとも、本願商標の商標登録出願日以前より現在 に至るまで、自動車の取引者、需要者はもとより、一般世人の間において も広く知られているということができる。 イ 本願商標と引用商標の類似の程度 本願商標 本願商標は「MIRAI」の文字を標準文字で表示してなり、 「ミライ」 の称呼を生じる。 また、「MIRAI」の文字は、トヨタ燃料電池車を表示するものとし て自動車の取引者、需要者はもとより、一般世人の間でも広く認識され ている。よって、本願商標は、「トヨタ燃料電池車のブランド名」の観念 を生じる。 引用商標 自動車の取引者、需要者はもとより、一般世人は、引用商標はデザイン 化されているものの、「MIRAI」の文字をモチーフとして構成されて いることは十分認識することができ、引用商標からは「ミライ」の称呼を 生じる。 7 また、引用商標及び「MIRAI」の文字は、トヨタ燃料電池車を表示 するものとして、取引者、需要者はもとより、一般世人の間にも広く知ら れていたから、「トヨタ燃料電池車のブランド名」の観念を生じる。 類否 引用商標は「MIRAI」の欧文字をデザイン化していることが容易 に看取できるから、本願商標と引用商標は外観上相紛れるものである。 本願商標と引用商標は「ミライ」の称呼を共通にする。 本願商標と引用商標は、「トヨタ燃料電池車のブランド名」という観念 においても共通する。 そうすると、本願商標と引用商標は類似し、その類似性の程度は高い。 ウ 本願商標の指定商品と引用商標が使用される燃料電池車の関連性及び取 引者・需要者の共通性 本願商標の指定商品「航空機、航空機の部品及び附属品、鉄道車両、鉄道 車両の部品及び附属品」と引用商標が使用される「燃料電池車」は、いずれ も輸送を目的とする商品であり、商品の用途や取引者及び需要者を共通に するものである。 また、トヨタ社の燃料電池車(MIRAI)の技術を応用した、水素で走 るハイブリッド鉄道車両開発が行われており(乙63、96)、本願商標の 指定商品と引用商標が使用される「燃料電池車」とは、密接な関連性を有し ている。 エ まとめ 以上のアないしウの事情を総合すれば、本願商標に接する取引者、需要 者は、引用商標及びトヨタ燃料電池車「MIRAI」を連想又は想起する。 そうすると、本願商標は、原告がこれをその指定商品について使用した 場合、取引者、需要者をして、引用商標及びトヨタ燃料電池車「MIRAI」 を連想又は想起させ、その商品がトヨタ社あるいは同人と経済的若しくは 8 組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、そ の商品の出所について混同を生ずるおそれがある。 ? 小括 以上のとおりであって、本願商標が商標法4条1項15号に該当するとし た本件審決の判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 出願日の遡及について ? 商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と 他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度、 当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目 的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取 引の実情等に照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普 通に払われる注意力を基準として、総合的に判断すべきである。 商標法4条1項15号に該当する商標であっても、商標登録出願の時にこ れに該当しなければ、同号は適用されないので(同条3項)、本件において商 標登録出願がいつであるかが問題となる。 この点につき、原告は、前記第3の1?のとおり、商標法施行規則22条2 項は違憲違法であり、その結果、本願は商標法10条1項による商標登録出 願の要件を満たすものとなり、同条2項が規定する出願日遡及の効果が生ず るから、本件における出願日は、原々商標登録出願がされた平成26年9月 8日になる旨主張するので、以下検討する。 商標法10条1項は、「商標登録出願人は、商標登録出願が審査、審判若し くは再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の 審決に対する訴えが裁判所に係属している場合であって、かつ、当該商標登 録出願について第76条第2項の規定により納付すべき手数料を納付してい る場合に限り、2以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登 9録出願の一部を1又は2以上の新たな商標登録出願とすることができる。」と定めている。 このように、分割出願においては、もとの商標登録出願の指定商品等を2以上に分けることが当然の前提となっているから、もとの商標登録出願と分割出願で指定商品等が重複するのを避けるため、もとの商標登録出願から分割出願に係る指定商品等を削除する必要がある。 この点につき、平成17年最高裁判決は、「商標法10条は、「商標登録出願の分割」について、新たな商標登録出願をすることができることやその商標登録出願がもとの商標登録出願の時にしたものとみなされることを規定しているが、新たな商標登録出願がされた後におけるもとの商標登録出願については何ら規定していないこと、商標法施行規則22条4項は、商標法10条1項の規定により新たな商標登録出願をしようとする場合においては、新たな商標登録出願と同時に、もとの商標登録出願の願書を補正しなければならない旨を規定していることからすると、もとの商標登録出願については、 その願書を補正することによって、新たな商標登録出願がされた指定商品等が削除される効果が生ずると解するのが相当である。 旨説示して、 」 新たな商標登録出願がされたことにより、当然にもとの商標登録出願が補正されるものとはいえないことを明らかにしている。そうすると、上記のように、もとの商標登録出願と分割出願で指定商品等が重複するのを避けるためには、もとの商標登録出願から分割出願に係る指定商品等を削除する補正が必要となることは、商標法10条1項自体が想定しているものということができる。 そして、商標法施行規則22条2項は、特許法施行規則30条を準用し、商標法10条1項の規定により新たな商標登録出願をしようとする場合において、もとの商標登録出願の願書を補正する必要があるときは、その補正は、新たな商標登録出願と同時にしなければならないとしているところ、これは、 もとの商標登録出願から分割出願に係る指定商品等を削除する必要が生ずる 10 という、同項が想定する事態に対処するものであるというべきであり、上記 最高裁判決も、このような意味で、商標法施行規則22条4項(現2項)が商 標法10条1項に適合することを明らかにしていると理解される。 本件においては、そもそも、本願の商標登録出願時はもとより現在に至る まで、原商標登録出願について、本願に係る指定商品を削除する補正がされ たとは認められず、商標法施行規則22条2項の要件を欠くばかりか、もと の商標登録出願の指定商品等を2以上に分けるという前記 の分割の前提を も欠くものである。そうすると、本願の商標登録出願は、商標法10条1項の 規定による商標登録出願の要件を満たすものではないから、分割出願として 不適法であり、同条2項が規定する出願日遡及の効果は生じないものであり、 これと同旨の本件審決の判断に誤りはなく、出願時は平成27年9月24日 となる。 2 本願商標の商標法4条1項15号該当性について ? 引用商標の周知著名性について トヨタ社は、平成25年11月20日から同年12月1日に開催された第 43回東京モーターショー2013にトヨタ燃料電池車を出展し(乙98)、 平成26年9月6日付けの日本経済新聞(乙34)では、トヨタ社がトヨタ燃 料電池車の名称を「ミライ」とし、米国の特許商標庁に「TOYOTA MI RAI」を商標登録する手続を進めていることが報じられている。 そして、トヨタ社は、同年11月18日、トヨタ燃料電池車を同年12月1 5日に販売し、その名称は「MIRAI(ミライ)」となる旨発表し、新聞各 紙やウェブサイトで報じられ(乙4ないし6、35、36等)、これらの記事 のうち、写真が掲載されているものについては、モデル車両のボディやナン バープレートに引用商標が表示されている。 また、平成27年1月15日には、自動車関係のウェブサイトでトヨタ燃 料電池車が同年の受注目標400台に対し1500台を受注したことが報じ 11られ(乙9)、同月23日には、産経新聞で、トヨタ燃料電池車の生産能力を平成29年に増強することが報じられており(乙10、91)、その他、本件出願前に、水素と空気中の酸素が反応して走る環境負荷の低い自動車として、 トヨタ燃料電池車が官邸や地方公共団体に納入されたことが報じられている(乙38、87、89、90)。これらの記事のうち、写真が掲載されているものについては、モデル車両のナンバープレートに引用商標が表示され、それ以外のものについては、本文で「MIRAI(ミライ)」の表示があることが確認できる。 以上によれば、引用商標は、本願商標の商標登録出願時には、自動車の取引者及び需要者の間で、トヨタ社の取扱に係るトヨタ燃料電池車を表示するものとして周知著名だったものというべきである。 また、本願商標の指定商品「航空機、航空機の部品及び附属品、鉄道車両、 鉄道車両の部品及び附属品」と引用商標が使用される「燃料電池車」は、人や物品の輸送を目的とするもので、商品の用途や取引者及び需要者に共通性があるし、大手企業において多角経営が行われることは一般的であり、トヨタ社の燃料電池車(MIRAI)の技術を応用した水素で走るハイブリッド鉄道車両開発をトヨタ社、JR東日本及び日立製作所が進めていること(乙63、96)も考慮すると、本願商標の指定商品と引用商標が使用される「燃料電池車」とは、密接な関連性を有しているといえる。このように、本願商標の指定商品と引用商標が使用される商品の関連性並びに取引者及び需要者の共通性が認められるから、本願商標の指定商品の取引者、需要者の間においても、引用商標は、トヨタ社の取扱に係るトヨタ燃料電池車を表示するものとして周知著名だったものというべきである。 そして、証拠(乙1ないし3、19ないし22、25ないし33、42ないし87等)によれば、本願商標の商標登録出願日以降も、トヨタ社はトヨタ燃料電池車に引用商標や「MIRAI」の欧文字等を使用し、「MIRAI」や 12 「ミライ」の文字は、トヨタ社の取扱に係るトヨタ燃料電池車の名称を表示 する商標として、新聞やウェブサイトに取り上げられており、上記周知著名 性は、現在に至るまで維持されているといえる。 なお、原告は、前記第3の1?のとおり、別件商標が平成25年12月25 日に出願され、その後商標登録されていることからすると、引用商標が、トヨ タ燃料電池車を表示するものとして、平成26年9月7日以前より、需要者 の間においても広く知られていたとの本件審決の認定は疑わしいなどと主張 する。 しかし、別件商標の存在は、トヨタ燃料電池車が上記出願日及びそれ以降 に周知著名性を有するとの判断を左右するものではないから、原告の主張は、 当を得ないものというほかない。 ? 本願商標と引用商標の類似性の程度について ア 本願商標 本願商標は標準文字・ローマ字の「MIRAI」からなり、「ミライ」の 称呼を生じる。 また、本願商標は、日本語の「未来」に由来することが容易に理解でき、 同観念を生じるほか、前記?のとおり、引用商標がトヨタ燃料電池車を表 示するものとして、本願商標の指定商品の取引者及び需要者並びに自動車 の取引者及び需要者の間で周知著名であることから、「トヨタ燃料電池車 のブランド名」の観念も生じる。 イ 引用商標 引用商標は「MIRAI」の文字をデザイン化したものと認識すること ができ、引用商標からは「ミライ」の称呼を生じる。 また、引用商標及び「MIRAI」の文字は、引用商標がトヨタ燃料電池 車を表示するものとして、自動車の取引者及び需要者並びに本願商標の指 定商品の取引者及び需要者の間で周知著名であることから、「未来」の観念 13 と共に、「トヨタ燃料電池車のブランド名」の観念も生じる。 ウ 類否 引用商標は「MIRAI」の欧文字をデザイン化したものであるから、本 願商標と引用商標は外観上相紛れるものである。 本願商標と引用商標は「ミライ」の称呼を共通にする。 本願商標と引用商標は、「未来」及び「トヨタ燃料電池車のブランド名」 という観念においても共通する。 そうすると、本願商標と引用商標は類似し、その類似性の程度は高いも のというべきである。 ? 混同のおそれについて 以上?及び?において認定したとおり、引用商標は、本願商標の商標登録 出願日である平成27年9月24日には、本願商標の指定商品の取引者及び 需要者並びに自動車の取引者及び需要者の間で、トヨタ社の取扱に係る燃料 電池車を表示するものとして周知著名であり、現在に至っていること、本願 商標と引用商標は類似し、その類似性の程度は高いことからすると、本願商 標は、原告がこれをその指定商品について使用した場合、取引者、需要者をし て、引用商標を連想又は想起させ、その商品がトヨタ社あるいは同社と経済 的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのよ うに、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきで ある。 3 結論 以上によれば、本願商標が商標法4条1項15号に該当するとした本件審決 の判断に誤りはない。そうすると、原告主張の取消事由は理由がなく、本件審決 にこれを取り消すべき違法は認められない。 よって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。 14 |
裁判長裁判官 | 菅野雅之 |
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裁判官 | 本吉弘行 |
裁判官 | 岡山忠広 |