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事件 令和 4年 (ネ) 10067号 損害賠償請求控訴事件
令和 4年 (ネ) 10074号 同附帯控訴事件
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2022/11/30
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 控訴人の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1) 控訴人は、被控訴人に対し、588万0766円及びうち586万0300円に対する令和4年3月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人のその余の請求を棄却する。
2 被控訴人の附帯控訴を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを10分し、その3を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
4 この判決は、第1項(1)に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨(1) 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 上記の部分につき、被控訴人の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
2 附帯控訴の趣旨(1) 原判決を次のとおり変更する。
控訴人は、被控訴人に対し、2128万0344円及びこれに対する平成29年 1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は第1、2審とも控訴人の負担とする。
(3) 第(1)項についての仮執行宣言
事案の概要
1 被控訴人は、原判決別紙商標目録記載の各商標に係る商標権(以下「本件各商標権」という。)を有していた株式会社櫻山(以下「櫻山」という。)の権利義務を承継した会社であり、控訴人は、櫻山の代表取締役を務めていた者であり、A(以下「A」という。)は、控訴人の元夫である。
本件は、被控訴人が、控訴人及びAは共謀して櫻山からAに対する本件各商標権に係る商標権移転登録申請をしたところ、これは櫻山に対する共同不法行為を構成すると主張し、控訴人及びAに対して、民法709条及び同法719条1項に基づき、損害賠償金2128万0344円及びこれに対する最終の不法行為の日である平成29年1月18日から支払済みまで同年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である(なお、被控訴人のAに対する訴訟は、原審における裁判上の和解により終局した。)。
原審は、被控訴人の控訴人に対する請求を963万6770円及びこれに対する前同旨の遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却したところ、控訴人及び被控訴人は、いずれも自己の敗訴部分を不服として、それぞれ控訴及び附帯控訴を提起した。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張 次のとおり改め、後記3のとおり当審で追加された争点及びこれに関する当事者の主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第2の2及び3並びに第3に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決2頁16行目の「以下B」を「B」と改める。
(2) 原判決2頁22行目の「A」から24行目末尾までを「(甲3、乙イ2)」と改める。
(3) 原判決2頁26行目から3頁1行目にかけての「平成19年2月1日」を「平成19年12月1日」と改める。
(4) 原判決3頁5行目の「甲7、8」を「甲6、7」と改める。
(5) 原判決3頁6行目の「平成27年12月15日」を「平成27年12月25日」と改める。
(6) 原判決3頁7行目の「櫻山が同社の子会社となるが」を「控訴人は株式会社ホクショーに対して櫻山の全株式を譲渡するが」と改める。
(7) 原判決3頁10行目の「(共同)」を削る。
(8) 原判決3頁11行目の「外1名」を削る。
(9) 原判決3頁12行目から14行目までを以下のとおり改める。
「オ 控訴人は、Cに対し、平成28年10月20日、櫻山の代表者印、銀行印及び印鑑カードを引き渡した。(甲13)」(10) 原判決3頁17行目から18行目にかけての「本件商標2を自らの名義に移転する申請」を「本件商標2に係る商標権を櫻山からAに移転する旨の商標権移転登録申請」と改める。
(11) 原判決3頁21行目の「拒絶理由通知」を「却下理由通知」と改める。
(12) 原判決3頁25行目の「、株式会社ホクショー」を削る。
(13) 原判決4頁1行目の「乙38」を「乙イ38」と改める。
(14) 原判決4頁3行目の「本件商標2」から4行目の「受けた」までを「本件商標2に係る商標権を櫻山からAに移転する旨の商標権移転登録申請をし、その後、
その旨の商標権移転登録がされた」と改める。
(15) 原判決4頁7行目の「本件商標1」から8行目の「受けた」までを「本件商標1に係る商標権を櫻山からAに移転する旨の商標権移転登録申請をし、その後、
その旨の商標権移転登録がされた」と改める。
(16) 原判決4頁10行目の「図案」から11行目の「拒絶査定がされた」までを「図案からなる商標(以下「A商標1」という。)に係る商標登録出願をしたが、
平成30年1月16日付けで拒絶査定がされた」と改める。
(17) 原判決4頁13行目の「標準文字」から14行目の「受けた」までを「標準文字からなる商標(以下「A商標2」という。)に係る商標登録出願をし、同年10月13日、A商標2について商標登録がされた」と改める。
(18) 原判決4頁16行目の「標準文字」から17行目の「受けた」までを「標準文字からなる商標(以下「A商標3」という。)に係る商標登録出願をし、同年10月13日、A商標3について商標登録がされた」と改める。
(19) 原判決4頁22行目から25行目までを以下のとおり改める。
「ア 櫻山の権利義務を承継していた被控訴人は、平成30年10月9日、控訴人及びAは共謀の上、本件商標1に係る商標権を櫻山からAに移転する旨の商標権移転登録申請をしたところ、これは有印私文書偽造、同行使及び偽造私印使用に該当するなどと主張して、控訴人及びAを告発するなどしたが、秋田地方検察庁は、
その後、両名について公訴を提起しない旨の処分をした。(甲26、27、乙イ4、
5)」(20) 原判決4頁26行目の「平成31年3月30日」を「平成31年3月20日」と改める。
(21) 原判決5頁1行目から2行目にかけての「櫻山の承継人である原告が」を「櫻山の権利義務を承継していた被控訴人は、その後」と改める。
(22) 原判決5頁2行目から3行目にかけての「口頭弁論」を「口頭弁論期日」と改める。
(23) 原判決5頁4行目の「令和元年5月25日付けで」を「令和2年5月25日付けで」と改める。
(24) 原判決5頁5行目から6行目にかけての「A商標2及び3の登録が無効である旨の審決」を「A商標2及び3に係る商標登録を無効とする旨の審決」と改める。
(25) 原判決5頁7行目末尾に改行して以下のとおり加える。
「(6) Aによる解決金の支払(記録上明らかな事実又は当事者間に争いのない事実) ア Aは、原審において、被控訴人が主張する自己の責任原因を争わず、被控訴人に生じた損害の有無及びその額のみを争った。
イ 被控訴人及びAは、令和4年3月16日、原審において、次の条項を含む裁判上の和解(以下「本件和解」という。)をした。なお、本件和解に係る和解調書の「請求の表示」欄には、「請求の趣旨及び原因は、訴状記載のとおり。」との記載があり、本件の訴状に記載された被控訴人の請求は、控訴人及びAの共同不法行為(本件各商標権を櫻山からAに移転する旨の商標権移転登録申請)に基づく損害賠償請求(2128万0344円及びこれに対する平成29年1月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払請求)である。
(ア) Aは、被控訴人に対し、本件解決金として、300万円の支払義務があることを認める。
(イ) Aは、被控訴人に対し、上記(ア)の金員のうち150万円を、令和4年4月28日限り支払う。
(ウ) Aが令和4年4月28日までに上記(イ)の150万円を支払ったときは、
被控訴人は、Aに対し、上記(ア)の金員から既払金を控除した残金の支払義務を免除する。
(エ) 被控訴人及びAは、被控訴人とAとの間には、この和解条項に定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認する。
ウ Aは、被控訴人に対し、令和4年3月27日、本件和解に従い、150万円を支払った(以下、この支払を「本件支払」という。)。」 (26) 原判決5頁15行目の「本件商標1及び2の移転手続」を「本件各商標権に係る商標権移転登録申請」と改める。
(27) 原判決5頁22行目から23行目にかけての「日本初と宣伝していた」を「櫻山が日本初であると宣伝していた」と改める。
(28) 原判決5頁24行目の「その商品」を「櫻山の商品」と改める。
(29) 原判決6頁2行目の「本件商標2の移転登録手続」を「本件商標2に係る商標権移転登録申請書」と改める。
(30) 原判決6頁6行目の「本件商標2の移転登録手続」を「本件商標2に係る商標権移転登録申請」と改める。
(31) 原判決6頁11行目から17行目までを以下のとおり改める。
「 なお、控訴人は、本件商標2に係る商標権移転登録申請がされた当時、櫻山の代表者印を所持していなかったところ、本件商標2に係る商標権移転登録申請書に顕出された印影は、同代表者印の真正な印影と異なる部分があるから(甲12)、
本件商標2に係る商標権移転登録申請に用いられた櫻山の代表者印は、Aが偽造したものと考えられる。そして、控訴人は、平成28年12月12日、上記のとおり偽造された櫻山の代表者印を押捺した書面(甲50)を作成しているのであるから、
控訴人も、本件商標2に係る商標権移転登録申請に関与していたものである。」(32) 原判決6頁20行目の「Aは」から21行目の「登録申請し」までを「Aは、本件各商標権を櫻山からAに移転する旨の商標権移転登録申請をするのみならず、A商標1ないし3に係る商標登録出願をし」と改める。
(33) 原判決6頁22行目から23行目にかけての「本件各商標権の移転登録」を「本件各商標権に係る商標権移転登録申請」と改める。
(34) 原判決6頁23行目の「被告の原告の業務に対する」を「控訴人による被控訴人の業務に対する」と改める。
(35) 原判決6頁25行目の「甲26」を「甲28」と改める。
(36) 原判決7頁4行目及び17行目の各「本件各商標権の移転登録」並びに12行目の「本件商標1及び2の移転登録」をいずれも「本件各商標権に係る商標権移転登録申請」と改める。
(37) 原判決7頁7行目から8行目にかけての「被告の退任」を「控訴人が櫻山の代表取締役を退任したこと」と改める。
(38) 原判決7頁13行目から14行目にかけての「本件商標2の移転登録」を「本件商標2に係る商標権移転登録申請」と改める。
(39) 原判決7頁15行目の「本件商標1の移転登録」を「本件商標1に係る商標権移転登録申請」と改める。
(40) 原判決8頁7行目の「本件商標2の移転登録手続に添付された」を「本件商標2に係る商標権移転登録申請書に添付された」と改める。
(41) 原判決8頁15行目の「印鑑証明書の」を「印鑑証明書を」と改める。
(42) 原判決9頁5行目の「付された印影」を「顕出された櫻山の代表者印の印影」と改める。
(43) 原判決9頁7行目の「被告の社宅」及び10行目の「被告の東京の社宅」をいずれも「櫻山の東京の社宅」と改める。
(44) 原判決9頁14行目の「本件各商標権を移転登録するなど」を「本件各商標権に係る商標権移転登録申請をするなど」と改める。
(45) 原判決10頁2行目の「引継ぎの際に、当時説明していた」を「引継ぎの際に説明していた」と改める。
(46) 原判決10頁19行目の「本件商標1及び2の移転登録」を「本件各商標権に係る商標権移転登録申請」と改める。
(47) 原判決10頁23行目から26行目までを以下のとおり改める。
「 特に、控訴人には、櫻山の代表取締役として、会社の重要書類である印鑑証明書の保管につき過失があったことは明らかである。」(48) 原判決11頁5行目から6行目にかけての「4年以上」を「約6年」と改める。
(49) 原判決12頁5行目の「退任前」を「櫻山の代表取締役を退任する前」と改める。
(50) 原判決12頁6行目の「原告」を「櫻山又は被控訴人」と改める。
(51) 原判決12頁21行目の「商標登録の申請」を「商標登録出願」と改める。
(52) 原判決12頁24行目から26行目までを以下のとおり改める。
「イ 被控訴人は、被控訴人が使用する花柄ロゴ等に係る商標登録出願につき拒絶理由通知を受けたことから、弁理士事務所に対し、これに対応するための印紙代及び意見書作成手数料を支払った(甲33の5ないし13)。」(53) 原判決13頁5行目の「本件各商標権の移転登録」を「控訴人及びAによる本件各商標権に係る商標権移転登録申請」と改める。
(54) 原判決13頁17行目の「被告D」を「控訴人」と改める。
(55) 原判決13頁19行目の「乙8」を「乙イ8」と改める。
(56) 原判決14頁25行目の「乙16」を「乙イ15」と改める。
(57) 原判決15頁1行目の「三菱伊勢丹」を「三越伊勢丹」と改める。
(58) 原判決15頁4行目の「郵券や仮処分登録免許税」を「印紙代、郵券代及び仮処分登録免許税」と改める。
(59) 原判決15頁7行目の「別訴で」の次に「控訴人に対し」を加える。
(60) 原判決15頁9行目の「労働働契約上の」を「労働契約上の」と改める。
(61) 原判決15頁15行目の「余儀なくされた」を「支払を余儀なくされた」と改める。
(62) 原判決32頁の「別紙商標目録」中の「登録日 平成24年1月30日」及び「登録日 平成24年2月6日」をいずれも「登録日 平成24年8月3日」と改める。
3 当審で追加された争点及びこれに関する当事者の主張(1) 争点4(過失相殺の成否)について (控訴人の主張) 仮に、控訴人がAとの共同不法行為に基づいて損害賠償義務を負うとしても、以下のとおり、被控訴人の商品が三越伊勢丹のカタログ等に掲載されなかった原因や被控訴人の損害が拡大した要因の多くは、被控訴人の側にもあるのであるから、本件においては、過失相殺がされるべきであり、被控訴人の過失割合は、5割を下ら ない。
ア 本件商標1及び2並びにA商標1ないし3につき何らかの問題があったとしても、これらの商標は櫻山又は被控訴人の営業に使用されず、また、これらの商標に係る問題は解決していたのであるから、被控訴人とすれば、三越伊勢丹からこれらの商標に係る問題を指摘された際、三越伊勢丹に対し適切な説明をするなどして、
その誤解を解くことができ、そうすれば、三越伊勢丹がこれらの商標に係る問題を理由に被控訴人の商品のカタログ等への掲載を拒否することはなかった。しかしながら、被控訴人は、三越伊勢丹に対する説明や働きかけを一切行わなかったのであるから、被控訴人の商品が三越伊勢丹のカタログ等に掲載されなかったことについては、被控訴人に過失がある。
イ 争点3(控訴人の主張)(1)のとおりの被控訴人の三越伊勢丹に対する不誠実な対応は、過失相殺の根拠として斟酌されるべきである。
(被控訴人の主張) 以下のとおり、被控訴人には、控訴人が主張するような過失はないから、本件において、過失相殺がされるべきではない。
ア 本件商標1及び2並びにA商標1ないし3に係る問題が解決したのは、A商標1について被控訴人のために商標登録がされた令和2年10月のことである。したがって、同月までは、控訴人及びAの共同不法行為により、被控訴人の商品が三越伊勢丹のカタログ等に掲載されないという現実的な可能性があった。
また、仮に、これらの商標に係る問題につき三越伊勢丹が誤解をしており、被控訴人が適切な説明等をすれば、三越伊勢丹がこれらの商標に係る問題を理由に被控訴人の商品のカタログ等への掲載を拒否することはなかったとしても、被控訴人のあずかり知らないところで行われた控訴人及びAの共同不法行為の結果についてまで、被控訴人が三越伊勢丹の誤解を解くべき義務を負うことはなく、被控訴人がそのような説明等をしなかったことが被控訴人の過失を根拠付けることはない。
イ 被控訴人が三越伊勢丹に対し、控訴人が主張するような不誠実な対応をした ことはない。
(2) 争点5(Aによる弁済の成否)について (控訴人の主張) Aは、被控訴人に対し、本件和解に従って本件支払(150万円)をしたところ、
これは、連帯債務者であるAの被控訴人に対する弁済に相当するから、控訴人がAとの共同不法行為に基づいて損害賠償義務を負うとしても、その賠償額から150万円が控除されるべきである。
(被控訴人の主張) 本件和解において、Aが支払うべき金員は解決金とされ、また、包括的な清算条項が設けられていることからすると、本件支払は、Aがした電話回線の無断解約、
被控訴人の従業員に対する威嚇等を含め、被控訴人とAとの間に存在していた全ての紛争を解決するためにされたものであるといえる。したがって、本件支払は、控訴人及びAの共同不法行為(本件各商標権に係る商標権移転登録申請)に基づく損害賠償債務の弁済に当たらない。
当裁判所の判断
1 当裁判所は、被控訴人の請求は588万0766円及びうち586万0300円に対する令和4年3月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおりである。
2 認定事実 次のとおり改めるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第4の1の記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決15頁18行目の「証人E」から19行目の「結果」までを「原審証人B、原審A本人、原審控訴人本人、原審被控訴人代表者」と改める。
(2) 原判決16頁3行目の「乙イ1頁及び2頁、乙ロ・1頁及び2頁」を「甲3、乙イ44・1頁、乙ロ12・1頁及び2頁」と改める。
(3) 原判決16頁5行目の「平成23年から平成24年頃まで、」を「平成23年頃から平成24年頃にかけて」と改める。
(4) 原判決16頁7行目の「乙イ1頁及び2頁、乙ロ・2頁、A・6頁」を「乙イ44・1頁、乙ロ12・2頁、原審A本人・6頁」と改める。
(5) 原判決16頁8行目の「本件商標1及び2を登録したが」を「本件商標1及び2に係る商標登録を受けたが」と改める。
(6) 原判決16頁11行目の「甲7」を「甲6、7」と改める。
(7) 原判決16頁13行目から14行目にかけての「平成27年12月15日」から15行目末尾までを「平成27年12月25日、櫻山の全株式を株式会社ホクショーに譲渡することとした(なお、株式の譲渡日は、平成28年3月7日とされた。)。(甲4、乙イ19、21、39ないし41、44・2頁及び3頁)」と改める。
(8) 原判決16頁17行目の「被告の社宅」を「控訴人が使用する社宅」と改める。
(9) 原判決16頁19行目の「F」を「F’」と改める。
(10) 原判決16頁21行目の「青山の社宅賃料」を「青山の社宅の賃料の負担」と改める。
(11) 原判決16頁23行目の「被告を代表取締役から解任することをも視野に入れる」を「控訴人の役員報酬を月額200万円から月額100万円に減額し、青山の社宅の賃貸借契約を解約するか、その賃料の全部を控訴人に負担させることなども視野に入れる」と改める。
(12) 原判決16頁25行目の「最後の打合せの機会」を「最終で最後のチャンス」と改める。
(13) 原判決17頁1行目の「社宅」から「至らず」までを「青山の社宅の賃料の負担及び東京の事務所の存廃について合意に至らず」と改める。
(14) 原判決17頁3行目の「本件商標2」から4行目の「申請をしたが」まで を「本件商標2に係る商標権について、その名義を櫻山からAに移転する旨の商標権移転登録申請をしたが」と改める。
(15) 原判決17頁5行目の「代表者印」を「櫻山の代表者印」と改める。
(16) 原判決17頁8行目の「被告」から9行目から10行目にかけての「指摘した上」までを「控訴人は、平成28年11月7日頃、株式会社ホクショーに対し、
櫻山が青山の社宅の賃料の負担をやめること及び東京の事務所を閉鎖することは当初の合意に反することを指摘した上」と改める。
(17) 原判決17頁11行目の「最後通知」を「通知」と改める。
(18) 原判決17頁21行目の「事実なく」を「事実がなく」と改める。
(19) 原判決18頁5行目の「、56」を削る。
(20) 原判決18頁8行目の「前記オ」から10行目の「受けた」までを「前記オ及びカの経過で控訴人が入手した印鑑証明書を使用し、本件商標2に係る商標権について、その名義を櫻山からAに移転する旨の商標権移転登録申請をしたほか、
平成29年1月18日、上記申請において提出した印鑑証明書を援用した上、本件商標1に係る商標権について、その名義を櫻山からAに移転する旨の商標権移転登録申請をし、それぞれその旨の商標権移転登録がされた」と改める。
(21) 原判決18頁12行目の「移転以後」を「移転登録後」と改める。
(22) 原判決18頁13行目の「本件商標2を登録した」を「本件商標2に係る商標登録出願をした」と改める。
(23) 原判決18頁14行目から15行目にかけての「A商標1ないし3の登録申請をした」を「A商標1ないし3に係る商標登録出願をした」と改める。
(24) 原判決18頁18行目の「44」から「A・17頁ないし21頁」までを「45、46、乙ロ4、原審A本人・17頁ないし21頁」と改める。
(25) 原判決18頁19行目の「原告代表者」から20行目の「聞き」までを「被控訴人代表者は、平成29年6月頃、櫻山の従業員となったところ、同年7月頃、Aが本件各商標権につき櫻山に無断で商標権移転登録申請をした旨のうわさを 聞き」と改める。
(26) 原判決18頁21行目の「同事務所」から23行目の「告げた上」までを「同事務所の弁理士は、被控訴人代表者に対し、本件各商標権に係る櫻山からAに対する商標権移転登録がされたこと及び同事務所がA商標1ないし3に係る商標登録出願を受任したことを告げた上」と改める。
(27) 原判決18頁24行目の「甲44」を「甲42、43、68」と改める。
(28) 原判決18頁26行目の「無権限」を「無権原」と改める。
(29) 原判決19頁3行目から4行目にかけての「甲51ないし53、A・28頁及び29頁」を「甲51、52、原審A本人・28頁及び29頁」と改める。
(30) 原判決19頁6行目の「建物収去明渡等請求事件」を「建物収去土地明渡等請求事件」と改める。
(31) 原判決19頁15行目から16行目にかけての「甲62、63、70、A・21頁及び22頁」を「甲62ないし64、70、原審A本人・21頁及び22頁」と改める。
(32) 原判決19頁18行目の「原告」を「Bや被控訴人の担当者」と改める。
(33) 原判決19頁19行目の「三越伊勢丹とのミーティングにおいて、三越伊勢丹から」を「三越伊勢丹の担当者とのミーティングにおいて、同担当者から」と改める。
(34) 原判決19頁23行目の「B・6頁」を「原審証人B・1頁ないし6頁」と改める。
3 争点1(控訴人の共謀の有無)について 次のとおり改めるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第4の2に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決20頁5行目の「示唆された」の次に「櫻山の」を加える。
(2) 原判決20頁7行目の「誤信させ」の次に「、Cをして同印鑑証明書を同役場の協力者に宛てて送付させ」を加える。
(3) 原判決20頁9行目の「本件商標2を自らの名義に移転させたこと、その後」を「本件商標2に係る商標権につき、櫻山からAに対する商標権移転登録申請をし、その旨の商標権移転登録がされたこと」と改める。
(4) 原判決20頁11行目から12行目にかけての「A商標1ないし3の登録申請」を「A商標1ないし3に係る商標登録出願」と改める。
(5) 原判決20頁17行目の「本件商標2の移転登録」を「本件商標2に係る商標権移転登録申請」と改める。
(6) 原判決20頁21行目の「本件商標1及び2に係る移転登録」を「本件各商標権に係る商標権移転登録申請」と改める。
(7) 原判決20頁24行目の「本件商標2が第三者である櫻山の保有になったこと」を「自らデザインした本件商標2に係る商標権が株式会社ホクショーの子会社(櫻山)の保有するものとなったこと」と改める。
(8) 原判決20頁26行目の「A・2頁及び6頁」を「原審A本人・2頁及び6頁」と改める。
(9) 原判決21頁6行目から7行目にかけての「乙イロ12・3頁ないし5頁、
A・3頁、4頁及び7頁」を「乙ロ12・3頁ないし5頁、原審A本人・3頁、4頁及び7頁」と改める。
(10) 原判決21頁12行目の「被告・48頁」を「原審控訴人本人・48頁」と改める。
(11) 原判決21頁17行目の「上記推認」を「前記(1)の推認」と改める。
(12) 原判決21頁21行目の「補助金事務局に」を「補助金事務局の」と改める。
(13) 原判決21頁23行目の「被告本人・6頁ないし8頁」を「原審控訴人本人・7頁及び8頁」と改める。
(14) 原判決22頁9行目から10行目にかけての「印鑑証明書の取得が遅滞する」を「印鑑証明書を取得してもらえない」と改める。
(15) 原判決22頁13行目の「被告」から14行目の「以上」までを「控訴人は、平成28年10月20日、Cに対し、既に櫻山の代表者印等を引き渡してしまった以上」と改める。
(16) 原判決22頁16行目の「同月9日」を「同年11月9日」と改める。
(17) 原判決23頁2行目の「申請書」を「本件商標2に係る商標権移転登録申請書」と改める。
(18) 原判決23頁4行目及び10行目の各「申請書」をいずれも「同申請書」と改める。
(19) 原判決23頁6行目の「本店所在地」の次に「(甲4)」を加える。
(20) 原判決23頁9行目から10行目にかけての「前記認定事実(2)カ」を「前記1(2)ク」と改める。
(21) 原判決23頁15行目の「しかし」の次に「、前記前提事実(1)イ、(1)ウ及び(2)イ並びに前記1(1)イ及びエのとおり」を加える。
(22) 原判決23頁22行目の「当時」を「本件各商標権に係る商標権移転登録申請がされた当時」と改める。
(23) 原判決23頁25行目の「本件各商標権を移転登録するなど」を「本件各商標権に係る商標権移転登録申請をするなど」と改める。
(24) 原判決24頁6行目から7行目にかけての「本件各商標権を自らの名義に移転したこと」を「本件各商標権を自らの名義に移転する旨の商標権移転登録申請をしたこと」と改める。
(25) 原判決24頁10行目の「協力し」から11行目の「同意することは」までを「協力することは」と改める。
(26) 原判決24頁19行目の「原告又は」を削る。
(27) 原判決24頁22行目の「協力する」を「協力して行う」と改める。
(28) 原判決24頁22行目の「そうすると」から25行目末尾までを「そして、
Aは一連の行為として本件各商標権の移転登録申請を行ったものと認められる。控 訴人は、Aが本件各商標権を取り返したいと考えていることを知った上で、櫻山の印鑑証明書を取得するなどして、Aによる本件商標2に係る商標権の移転登録申請に協力していたものであるが、本件商標1に係る商標権の移転登録申請においても同じく櫻山の印鑑証明書が必要(本件商標2に係る商標権の移転登録申請で使用した印鑑証明書の援用でも可能)であるところ、控訴人において、本件商標2に係る商標権の移転登録申請には協力するが、本件商標1に係る商標権移転登録申請には協力しないと考えていたとする事情はうかがわれず、同申請についても、Aと協力する関係にあったと推認するのが相当であり、これを覆すに足りる証拠はない。」と改める。
(29) 原判決25頁1行目から11行目までを以下のとおり改める。
「(4) 以上のとおりであるから、控訴人は、Aと共謀の上、本件各商標権に係る商標権移転登録申請をしたものと認めるのが相当である。
そして、前記前提事実(1)イ及び(4)アのとおり、控訴人は、Aと共同して本件商標1に係る商標権移転登録申請をした際、櫻山の代表取締役を退任していたのであるから、控訴人がAと共同して同申請をした行為は、櫻山に対する共同不法行為を構成する。
他方、前記前提事実(1)イ及び(3)オのとおり、控訴人は、Aと共同して本件商標2に係る商標権移転登録申請をした際、櫻山の代表取締役であったが、上記において説示したところに照らすと、同申請は、櫻山に対する加害行為であり、かつ、控訴人及びAの利益のためにされた行為であったと認められ、これは、控訴人が有していた櫻山の代表権を濫用するものであることが明らかであるから、控訴人がAと共同して同申請をした行為も、櫻山に対する共同不法行為を構成するというべきである。」 4 争点3(被控訴人に生じた損害)について 次のとおり改めるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第4の3に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決25頁14行目の「前記認定事実1(3)オ」を「前記1(3)オ」と改 める。(2) 原判決25頁19行目から22行目までを以下のとおり改める。
「 そうすると、控訴人及びAの共同不法行為(本件各商標権に係る商標権移転登録申請(以下「本件申請」という。))による違法状態が除去され、被控訴人の商品がカタログ等に掲載され得る状態になるまで、三越伊勢丹が被控訴人の商品をカタログ等に掲載しなかったことによる被控訴人の逸失利益は、控訴人及びAによる本件申請に係る共同不法行為と相当因果関係のある損害であると認められる。そして、被控訴人は、平成29年8月頃、本件各商標権について櫻山からAに対する商標権移転登録がされていることを知ったこと(前記1(3)イ、甲42、43)、
Bや被控訴人の担当者は、同年12月15日、三越伊勢丹の担当者から、櫻山の商標登録に問題があり平成30年の御中元につき被控訴人の商品をカタログ等に掲載することはできない旨告げられたこと(前記1(3)オ)、被控訴人は、平成30年9月28日付けで、Aを被告とし、本件各商標権についての商標権移転登録抹消登録手続請求訴訟を提起したこと(甲24)、東京地方裁判所は、平成31年3月20日、同訴訟における被控訴人の請求を認容する旨の判決を言い渡し(前記前提事実(5)イ)、同判決は、Aが控訴することなく確定したこと(甲24、弁論の全趣旨)などの事情に照らすと、被控訴人は、平成31年4月中には、本件各商標権について商標権移転登録抹消登録申請をすることができたものと認めるのが相当である。以上に加え、カタログ等への掲載を求めてから実際に掲載がされるまでに要する期間(前記1(3)オのとおり、三越伊勢丹が、被控訴人に対し、平成29年12月15日に既に翌年の御中元に係る被控訴人の商品をカタログ等に掲載できないと告げたことや、一般に御中元用の商品に係る宣伝が開始される時期等に照らすと、
この期間は、4か月程度であると認めるのが相当である。)も併せ考慮すると、上記逸失利益の計算上の終期は、令和元年8月31日とすべきである。」 (3) 原判決25頁24行目の「ことからすれば、」の次に「被控訴人の商品がカタログ等に掲載されなかったことの原因として」を加える。
(4) 原判決25頁25行目の「原告が、原告の商品を当該カタログ等に掲載し得なかったのは」を「三越伊勢丹が被控訴人の商品をカタログ等に掲載しなかったのは」と改める。
(5) 原判決26頁1行目から2行目にかけての「原告は、以後も」を「櫻山及び被控訴人は、控訴人が櫻山の代表取締役を退任した後も、」と改める。
(6) 原判決26頁5行目から6行目にかけての「原告代表者・14頁」を「原審被控訴人代表者・24頁」と改める。
(7) 原判決26頁6行目の「他の店舗」を「他社」と改める。
(8) 原判決26頁10行目から11行目にかけての「本件各商標権の移転」を「本件申請」と改める。
(9) 原判決26頁12行目末尾に改行して以下のとおり加える。
「 他方、被控訴人は、上記逸失利益の計算上の終期(最終月)はA商標2及び3に係る商標登録を無効とする審決がされた令和2年5月であると主張する。しかしながら、A商標2及び3に係る商標登録出願をしたのはAであり(前記前提事実(4)ウ及びエ)、控訴人が本件申請のみならずこれらの手続にも関与していたものと認めるに足りる証拠はないから、仮に、A商標2及び3に係るA名義の商標登録がされていることを三越伊勢丹が問題にし、そのことも三越伊勢丹が被控訴人の商品をカタログ等に掲載しなかったことの原因であるとしても、そのような商標登録がされていることにより被控訴人に生じた営業上の損害(逸失利益)は、控訴人及びAがした共同不法行為(本件申請)と相当因果関係のあるものと認めることはできない。したがって、被控訴人の上記主張を採用することはできない。」 (10) 原判決26頁13行目の「原告(櫻山)」から17行目末尾までを「櫻山の平成26年10月1日から平成29年9月30日までの3年間における営業利益(カタログ等に掲載された商品に係るもの。以下同じ。)の平均は、月額28万円と認めるのが相当であり、これに基づき、被控訴人の逸失利益の額を算定するのが相当である。」と改める。
(11) 原判決26頁19行目の「主張するが」の次に「、証拠(甲65)によると」を加える。
(12) 原判決26頁26行目の「説明している」から27頁3行目末尾までを「説明しているのであるから(原審原告準備書面(5))、控訴人の主張を採用することはできない。」と改める。
(13) 原判決27頁4行目から12行目までを以下のとおり改める。
「ウ もっとも、前記1(3)オ並びに証拠(甲69、原審証人B・5頁及び6頁)及び弁論の全趣旨を総合すると、櫻山及び被控訴人は、平成29年1月15日に代表取締役を退任した控訴人からの引継ぎが十分でなかったことなど、「商標登録の問題」とは別の理由で、同年の御歳暮に係る商品を始め平成30年の御中元の前の時期までの商品につき、これらをカタログ等に掲載してもらうことができず、「商標登録の問題」を理由としてカタログ等への掲載が拒否された商品は、同年の御中元以降のものであると認められる。そうすると、三越伊勢丹が被控訴人の商品をカタログ等に掲載しなかったことによる被控訴人の逸失利益の計算上の始期は、同年5月1日とするのが相当である。
被控訴人は、上記逸失利益の計算上の始期は平成30年1月1日であると主張するが、上記のとおりであるから、これを採用することはできない。
エ 以上のとおりであるから、控訴人及びAが共同して本件申請をした結果として三越伊勢丹が被控訴人の商品をカタログ等に掲載しなかったことにより被控訴人に生じた損害(逸失利益)の額は、合計448万円(平成30年5月1日から令和元年8月31日まで月額28万円)であると認められる。」 (14) 原判決27頁15行目の「被告及びAによって、」を「控訴人及びAが共同して行った本件申請に基づいて」と改める。
(15) 原判決27頁16行目の「当該移転登録を抹消する訴訟」を「当該移転登録の抹消登録手続を求める訴訟」と改める。
(16) 原判決27頁20行目の「上記の」を削る。
(17) 原判決28頁1行目の「令和2年4月7日判決」を「令和2年4月7日第三小法廷判決」と改める。
(18) 原判決28頁10行目から13行目までを以下のとおり改める。
「 そうすると、被控訴人が本件各商標権に係る商標権移転登録抹消登録手続請求訴訟を提起した際に支払ったものと認められる訴え提起手数料(印紙代)18万5000円(甲24)、被控訴人が同訴訟を提起した際に予納した郵券のうち実際に訴状副本の送達等に用いられたと認められる少なくとも2000円(弁論の全趣旨)及び被控訴人が本件各商標権に係る処分禁止の仮処分命令の執行に関して納付したものと認められる仮処分登録免許税16万3300円(甲32)の合計35万0300円については、控訴人及びAがした共同不法行為(本件申請)と相当因果関係のある損害であると認めるのが相当である。」 (19) 原判決28頁15行目の「前記認定」から17行目の「弁護士費用は」までを「控訴人及びAがした共同不法行為(本件申請)と相当因果関係のある弁護士費用(別件訴訟に係るもの)は」と改める。
(20) 原判決28頁18行目から30頁5行目までを以下のとおり改める。
「(3) 特許庁での手続に係る費用 被控訴人は、@A商標1ないし3に係る商標登録を阻止するための費用、A被控訴人が使用する花柄ロゴ等の商標についての商標登録出願に対してされた拒絶理由通知(A商標2及び3に係る商標登録がされていたことを理由とするもの)に対応するための費用、BA商標2及び3に係る商標登録無効審判請求に係る費用は控訴人及びAの共同不法行為と相当因果関係のある損害であると主張する。
しかしながら、A商標1ないし3に係る商標登録出願をしたのはAであり(前記前提事実(4)イないしエ)、控訴人が本件申請のみならずこれらの手続にも関与していたものと認めるに足りる証拠はないから、上記@ないしBの各費用は、いずれも控訴人及びAの共同不法行為(本件申請)と相当因果関係のある損害であるとは認められない。したがって、被控訴人の上記主張を採用することはできない。
(4) 小計 前記(1)ないし(3)によると、控訴人及びAの共同不法行為(本件申請)により被控訴人が被った損害(後記(6)の弁護士費用を除く。)の額は、533万0300円(448万円+35万0300円+50万円)となる。
(5) 過失相殺 後記5のとおり、本件において過失相殺をするのは相当でない。
(6) 弁護士費用 本件訴訟の内容、審理の経過、難易、認容額その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、控訴人及びAの共同不法行為(本件申請)と相当因果関係のある弁護士費用の額は、53万円であると認めるのが相当である。
(7) 損害額合計 以上のとおりであるから、控訴人及びAの共同不法行為(本件申請)により被控訴人が被った損害の額は、合計586万0300円(533万0300円+53万円)となる。」 5 争点4(過失相殺の成否)について (1) 控訴人は、本件商標1及び2等につき何らかの問題があったとしても、これらの商標は櫻山又は被控訴人の営業には使用されておらず、また、これらの商標に係る問題は解決していたのであるから、被控訴人において三越伊勢丹に対し適切な説明をするなどすれば、その誤解を解くことができ、三越伊勢丹が被控訴人の商品のカタログ等への掲載を拒否することはなかったところ、被控訴人は三越伊勢丹に対してそのような説明等を行わなかったのであるから、被控訴人の商品がカタログ等に掲載されなかったことについては、被控訴人に過失があると主張する。
しかしながら、補正して引用する原判決第2の2(3)オ及び(4)ア並びに第4の1(3)オのとおり、三越伊勢丹が被控訴人に対し「商標登録の問題」を指摘して平成30年の御中元に係る被控訴人の商品をカタログ等に掲載しないことを告知したのは、平成29年12月15日であるところ、同日当時、現に本件各商標権に係る櫻 山からAへの商標権移転登録がされていたのであり、また、証拠(甲48、49)及び弁論の全趣旨によると、同移転登録は、被控訴人の逸失利益の計算上の終期(補正して引用する原判決第4の3(1)ア)の4か月前である平成31年4月30日の時点においても、抹消登録がされずに存在していたと認められ、さらに、補正して引用する原判決第4の2(3)ウにおいて説示したとおり、本件商標1及び2は、
控訴人が櫻山の代表取締役であった時期に、控訴人が推し進めたラスク等の製造及び販売の事業に係るものとして商標登録がされたものであって、本件各商標権は、
上記事業を支える重要な知的財産権であったのであるから、平成29年12月15日から平成31年4月30日までの間、被控訴人が「商標登録の問題」につき三越伊勢丹に説明をするなどしても、被控訴人の商品をカタログ等に掲載しないとの三越伊勢丹の方針を撤回させることはできなかったものと認めるのが相当である。そうすると、仮に、被控訴人が三越伊勢丹に対し「商標登録の問題」について適切な説明をするなどしなかったとしても、そのことが被控訴人の損害(逸失利益)を拡大させたものと認めることはできないから、被控訴人が当該説明をするなどしなかった行為を被控訴人の過失として斟酌することはできない。
(2) 控訴人は、被控訴人は三越伊勢丹に対して不誠実な対応をしたところ、これは過失相殺の根拠として斟酌されるべきであると主張する。
しかしながら、補正して引用する原判決第4の3(1)アのとおり、被控訴人が三越伊勢丹の信頼を失ったから、三越伊勢丹が被控訴人の商品をカタログ等に掲載することを拒否したと認めることはできず、その他、被控訴人が三越伊勢丹に対して不誠実な対応をし、そのことが原因で三越伊勢丹が被控訴人の商品のカタログ等への掲載を拒否したものと認めるに足りる証拠はない。
(3) その他、本件において、控訴人のために斟酌すべき被控訴人の過失を基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はないから、過失相殺をするのは相当でない。
6 遅延損害金の起算日について 不法行為に基づく損害賠償債務は、損害の発生と同時に遅滞に陥るものと解され るところ(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁)、控訴人及びAの共同不法行為(本件申請)の内容に照らすと、本件においては、本件申請がされた時に被控訴人に損害が発生したものと認めるのが相当であるから、被控訴人が主張するとおり、本件商標2に係る本件申請が行われた後であり、本件商標1に係る本件申請が行われた日である平成29年1月18日(補正して引用する原判決第2の2(3)オ及び(4)ア)をもって遅延損害金の起算日とするのが相当である。
これに対し、控訴人は、三越伊勢丹が被控訴人の商品のカタログ等への掲載を拒否した平成29年12月15日に被控訴人の損害が発生したとして、同日をもって遅延損害金の起算日とすべきであると主張するが、上記説示したところに照らすと、
これを採用することはできない。
7 争点5(Aによる弁済の成否)について 補正して引用する原判決第2の2(6)のとおり、本件の訴状に記載された被控訴人の請求は、控訴人及びAの共同不法行為(本件申請)に基づく損害賠償請求(2128万0344円及びこれに対する平成29年1月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払請求)であるところ、Aは、原審において、
被控訴人が主張する自己の責任原因を争わず、被控訴人に生じた損害の有無及びその額のみを争った上、Aが被控訴人に対して実質150万円を支払うことなどを内容とする本件和解に応じたこと、その和解調書において、請求の表示として本件の訴状の記載が引用され、Aが被控訴人に対して支払義務を負う金員の性質が「本件解決金」とされたことからすると、同和解調書に「被控訴人及びAは、被控訴人とAとの間には、この和解条項に定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認する。」との包括的な清算条項の記載があることを考慮しても、本件支払は、控訴人及びAの共同不法行為(本件申請)に基づく損害賠償債務の弁済としてされたものと認めるのが相当である。
8 小括 以上のとおりであるから、控訴人は、被控訴人に対し、588万0766円及びうち586万0300円に対する令和4年3月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負うことになる。
(計算式) 586万0300円に対する平成29年1月18日から令和4年3月27日まで年5分の割合による遅延損害金 152万0466円(円未満切捨て) 確定遅延損害金残額 2万0466円 9 控訴人の当審における補充主張について (1) 控訴人は、控訴人が平成28年11月頃にCから入手した櫻山の印鑑証明書(以下「本件印鑑証明書」という。)につき、これは控訴人がAに使用させることを目的として入手したものではないし、また、Cを欺罔して入手したものでもないと主張する。
しかしながら、補正して引用する原判決第4の1(2)オ及びカのとおり、控訴人は、補助金事務局から櫻山の印鑑証明書を提出するよう求められていなかったにもかかわらず、Cに対し、当該提出が必要である旨の虚偽の事実を述べた上、控訴人において本件印鑑証明書を自ら入手する意図を秘し、その提出先が羽後町役場の担当者であるかのように装って、Cをしてこれらの事実があるように誤信させ、もって、本件印鑑証明書を入手したのであるから、控訴人がCを欺罔して本件印鑑証明書を入手したことは明らかである。
そして、補正して引用する原判決第4の1(2)ウ、オ、カ及びクのとおり、Aは、
本件商標2に係る最初の商標権移転登録申請について、平成28年11月4日発送の却下理由通知(櫻山の印鑑証明書の提出により却下理由が解消される旨示唆するもの)を受け、控訴人は、同月9日、上記のとおりCを欺罔した上、その頃、本件印鑑証明書を入手し、Aは、同月15日、上記の商標権移転登録申請を取り下げた上、同月21日、本件印鑑証明書を使用して本件商標2に係る本件申請をしたというのであり、このような事実経過に照らすと、控訴人がAに使用させる目的で本件 印鑑証明書を入手したことは明らかである。
この点に関し、控訴人は、甲66に基づいて補助金事務局が控訴人とやり取りをしたことがないとの事実及び補助金事務局が控訴人に対し櫻山の印鑑証明書の提出を求めたことがないとの事実を認めるのは誤りであると主張する。しかしながら、
甲66は、弁護士法23条の2に基づく照会を受け、公的な団体である補助金事務局(秋田県中小企業団体中央会ものづくり補助金秋田県地域事務局)が東京弁護士会に宛てて提出した回答書であって、その照会及び回答の内容に照らしても、補助金事務局が東京弁護士会に対して虚偽の回答をしたとは考え難い。控訴人は、甲66に記載された「やり取りはございません。」との回答が甲13の添付資料4の記載と矛盾するとも主張するが、同添付資料(Cと控訴人との間で送受信されたメール)によっても、平成28年11月9日に開催予定のものづくり補助金の説明会に控訴人が出席することになっており、控訴人が補助金事務局に対してその旨の連絡をしたとの事実がうかがわれるだけで、控訴人が補助金事務局に連絡した上で説明会に出席したという程度の事実が仮にあったとしても、そのことは、櫻山と補助金事務局との間でやり取りがなかったとの上記回答と直ちに矛盾するものではないし、
まして、補助金事務局が平成28年11月9日以前に櫻山に対し印鑑証明書の提出を求めたことがなく、そもそも平成24年度から令和3年6月3日に至るまで、ものづくり補助金に関して印鑑証明書が必要書類に含まれたことはなく、担当者の個別の判断として印鑑証明書の提出を求めることもないなどとする補助金事務局の回答の信用性を左右するものではない。
また、控訴人は、遅くとも平成28年9月頃には、控訴人はBから様々な嫌がらせを受けており、櫻山に対し印鑑証明書を控訴人に送付するよう依頼しても、Bにおいて印鑑証明書を送付しないことが予想されたため、控訴人はそのような事態を避けるため、本件印鑑証明書の送付先を羽後町役場のGとしたにすぎないと主張する。しかしながら、仮に、控訴人が上記のとおり危惧する事態を避ける必要があったとしても、そうであればなおさら、本件印鑑証明書の送付先を補助金事務局とす るのが自然であって(なお、Cに対して本件印鑑証明書を補助金事務局に送付するよう依頼し、Cによりそのような手続が執られたとしても、それは、櫻山自身が本件印鑑証明書を補助金事務局に送付することを意味するから、何ら不自然なものではない。)、控訴人が本件印鑑証明書を一旦自ら入手することに何の意味もない。
しかるに、控訴人は、自ら本件印鑑証明書を入手しようとして、わざわざCを欺罔してまで、同人をして、事前に依頼していたG宛てに本件印鑑証明書を送付させ、
現に自ら本件印鑑証明書を入手しているのであって、そのことは、控訴人が不正な目的で本件印鑑証明書を入手しようとしたことを強くうかがわせるというべきである。
以上のとおりであるから、控訴人の上記主張を採用することはできない。そうすると、補正して引用する原判決第4の2において説示したとおり、控訴人が本件商標2に係る本件申請につきAと共謀したとの事実は、優にこれを認めることができるというべきである。
(2) 控訴人は、@控訴人がAと行動を共にしたのは、平成29年秋(同年10月下旬頃から同年11月頃にかけて)以降のことであり、控訴人が本件商標1に係る本件申請がされた時期にAと行動を共にした事実はない、AAは、本件商標2に係る本件申請をした日から約2か月が経過し、かつ、控訴人が櫻山の代表取締役を退任した日の3日後である平成29年1月18日に本件商標1に係る本件申請をしたところ、控訴人が本件商標1に係る本件申請につきAと共謀していたのであれば、
このようなことは考え難い、B本件申請は、一連の行為ではない、C控訴人は、本件商標1に係る本件申請がされた当時、本件商標1に係る商標登録の存在を認識していなかったなどとして、控訴人が本件商標1に係る本件申請につきAと共謀し、
又はこれに主体的に関与した事実はないと主張する。
しかしながら、上記@については、前記(1)並びに補正して引用する原判決第4の2(1)、(3)ア及び(3)イにおいて説示したとおり、控訴人は、平成28年11月当時、本件商標2に係る最初の商標権移転登録申請につき却下理由通知(櫻山の印 鑑証明書の提出により却下理由が解消される旨示唆するもの)を受けたAをして櫻山の印鑑証明書を使用させる目的で、すなわち、Aがした本件商標2に係る櫻山からAに対する商標権移転登録申請(櫻山に対する加害行為)に加担する目的で、Cを欺罔してまで本件印鑑証明書を入手し、Aをして本件印鑑証明書を本件商標2に係る本件申請に使用させたのであり、控訴人のこの行為は、Aの櫻山に対する加害行為を実現させる上で極めて重要な行為であるといえるから、控訴人及びAは、同月頃、櫻山に対する加害行為を共同して行うほどに極めて密接な関係にあり、また、
櫻山に対する加害行為を行うために一体として行動していたということができる。
そして、そのような控訴人とAの関係がその後急激に変容し、消滅したなどの事情を認めるに足りる証拠はないところ、補正して引用する原判決第4の1(3)ウ及びエのとおり、控訴人及びAの協力関係は、平成29年11月頃にも存在していたというのであるから、平成28年11月当時に存在した控訴人とAの上記の関係は、
Aが本件商標1に係る本件申請をした平成29年1月当時においても維持されていたものと推認するのが相当である。
上記Aについては、補正して引用する原判決第4の2(4)において説示したとおり、本件申請は、控訴人が櫻山の代表取締役の地位にあるか否かにかかわりなく、
櫻山に対する不法行為を構成するのであるから、Aにおいて、控訴人が櫻山の代表取締役を退任した平成29年1月15日の後に本件商標1に係る本件申請をしたからといって、そのことが控訴人とAとの間の共謀の事実と矛盾するとまでいうことはできない。また、本件商標1に係る本件申請が本件商標2に係る本件申請の日の約2か月後にされたことは、控訴人とAとの間の共謀の事実を否定するものではなく、むしろ、当該共謀の存在を裏付ける事情である。
上記Bについては、本件商標1に係る本件申請は、本件商標2に係る本件申請と同様、櫻山が保有する商標権に深刻な打撃を与える行為であり、櫻山に対する加害行為として共通すること、補正して引用する原判決第2の2(3)オ及び(4)アのとおり、本件商標1に係る本件申請は、本件商標2に係る本件申請がされてからわずか 2か月足らずのうちにされ、また、本件商標2に係る本件申請において使用された本件印鑑証明書を援用する方法によりされたこと、上記のとおり、本件商標1に係る本件申請は、本件商標2に係る本件申請と同様、控訴人及びAが密接な協力関係を有する時期にされたものであることなどの事情に照らすと、本件商標2に係る本件申請及び本件商標1に係る本件申請は、一連一体のものとしてされたと認めるのが相当である。
上記Cについては、本件商標1は、「オウザンのクロワッサン・ラスク」との標準文字からなる商標であり、指定商品を第30類「クロワッサン、ラスク」とするものであるところ、補正して引用する原判決第4の2(3)ウにおいて説示したとおり、本件商標1は、控訴人が櫻山の代表取締役であった時期(平成24年)にその商標登録出願及び商標登録がされたものであり、また、上記のとおりの本件商標1の内容に照らしても、本件商標1に係る商標権は、控訴人が推し進めていたラスク菓子の製造及び販売の事業を支える重要な知的財産権であったといえるから、控訴人が平成29年1月の時点に至っても、いまだ本件商標1に係る商標登録の存在を認識していなかったとは、およそ考え難い。なお、控訴人は、原審本人尋問において、櫻山の代表取締役を退任する前の時期にAから本件各商標権を「戻してほしい」との話をされた旨の供述をしているところである。
以上のとおりであるから、控訴人の上記主張を採用することはできない。そうすると、補正して引用する原判決第4の2において説示したとおり、控訴人が本件商標1に係る本件申請につきAと共謀したとの事実は、優にこれを認めることができるというべきである。
(3) 控訴人は、仮に、三越伊勢丹が被控訴人に対し櫻山の「商標登録の問題」を指摘したとしても、櫻山はA商標1ないし3に係る問題も抱えていたのであるから、本件各商標権に係る本件申請と被控訴人に生じた営業上の損害との間の因果関係は不明であると主張する。
しかしながら、補正して引用する原判決第4の1(3)オのとおり、Bや被控訴人 の担当者は、平成29年12月15日、三越伊勢丹の担当者から、櫻山の商標登録に問題があり、これに問題があるとカタログを全部作り直さなければならないため、
平成30年の御中元のカタログ等に被控訴人の商品を掲載することはできないと告げられたところ、平成29年12月15日当時、櫻山が保有する本件各商標権について現に櫻山からAに対する商標権移転登録がされていたのであるから、三越伊勢丹が被控訴人に対して指摘した「商標登録の問題」に、当該移転登録がされており、
被控訴人において本件商標1若しくは2又はこれらに類似する商標を使用した場合、
Aから異議が申し立てられるなどするおそれがあったことが含まれることは明らかである。そうすると、仮に、三越伊勢丹が被控訴人に対して指摘した「商標登録の問題」に、A商標1について商標登録出願がされていたこと並びにA商標2及び3についてAのために商標登録がされていたことが含まれるとしても、本件各商標権について上記移転登録がされていることと平成30年の御中元に係る被控訴人の商品が三越伊勢丹のカタログ等に掲載されなかったこととの間には、相当因果関係を認めることができるというべきである。そして、本件各商標権について上記移転登録がされたのは、控訴人及びAによる本件申請がされたからであり、また、本件各商標権に係る上記移転登録は、令和元年5月まで抹消登録がされずに存在していたのであるから(甲48、49)、控訴人及びAがした本件申請と平成30年の御中元に係る被控訴人の商品及びそれ以降(ただし、補正して引用する原判決第4の3(1)アのとおり令和元年8月31日まで)の被控訴人の商品が三越伊勢丹のカタログ等に掲載されなかったこととの間にも、相当因果関係があるものと認めるのが相当である。
(4) 控訴人は、@三越伊勢丹が「商標登録の問題」を理由に被控訴人の商品のカタログ等への掲載を拒否したとは考え難い、A被控訴人は、その商品がカタログ等に掲載されるための努力をしなかった、B被控訴人の商品がカタログ等に掲載されなかったのは、被控訴人が三越伊勢丹に対し不誠実な対応をしたためであるとして、「商標登録の問題」は被控訴人の商品がカタログ等に掲載されなかったことの 原因ではないと主張する。
しかしながら、上記@については、補正して引用する原判決第4の1(3)オのとおり、証拠(甲28、原審証人B、原審控訴人本人)及び弁論の全趣旨によると、
三越伊勢丹の担当者は、Bや被控訴人の担当者に対し、平成29年12月15日、
櫻山の商標登録に問題があり、これに問題があるとカタログ等を全部作り直さなければならないため、平成30年の御中元に係る被控訴人の商品をカタログ等に掲載することはできないと告げたものと認められるところである。この点に関し、控訴人は、仮に、三越伊勢丹が被控訴人に対してそのようなことを告げたのであれば、
それは三越伊勢丹の被控訴人に対する不合理な対応であって、そのような三越伊勢丹の不合理な対応によって被控訴人に生じた損害は控訴人及びAの共同不法行為から通常生ずべき損害ではないと主張するが、前記(3)において説示したとおり、現に、平成29年12月15日当時、櫻山が保有する本件各商標権について櫻山からAに対する商標権移転登録がされていたのであり、被控訴人が本件商標1若しくは2又はこれらに類似する商標を使用した場合、Aから異議が申し立てられるなどするおそれがあったのであるから、三越伊勢丹において、本件各商標権について上記の移転登録がされていることを問題にし、そのことを理由に被控訴人の商品のカタログ等への掲載を拒否するのは、十分合理性のある措置であったといえる。
上記Aについては、上記のとおり、本件各商標権に係る櫻山からAに対する商標権移転登録がされている限り、三越伊勢丹において、そのことを理由に被控訴人の商品のカタログ等への掲載を拒否することは、十分合理性のある措置であったといえるから、上記の移転登録の抹消登録がされない限り、被控訴人において、その商品がカタログ等に掲載されるよう努力をしても、三越伊勢丹がそれを許可する可能性はなかったものと認められる。そうすると、上記の移転登録の抹消登録がされるまでの間は、仮に、被控訴人において、その商品がカタログ等に掲載されるよう努力をしなかったとしても、そのことにより、控訴人及びAがした本件申請と被控訴人に生じた営業上の損害との間の相当因果関係が否定されることにはならない。
上記Bについては、補正して引用する原判決第4の3(1)アにおいて説示したとおり、三越伊勢丹が被控訴人の商品をカタログ等に掲載しなかった原因が、被控訴人が三越伊勢丹の信頼を失ったことにあると認めることはできず、その他、被控訴人が三越伊勢丹に対して不誠実な対応をしたため、三越伊勢丹が被控訴人の商品をカタログ等に掲載しなくなったものと認めるに足りる証拠はない。
以上のとおりであるから、控訴人の上記主張を採用することはできない。
(5) 控訴人は、@甲65の原資料である甲67には、カタログ等に掲載された商品に係る売上げ以外の売上げも含まれている、A甲67に記載された売上額及び櫻山の営業利益の算定方法についての被控訴人の説明によると、櫻山の営業利益率は、櫻山の決算報告書(乙イ33)に記載された売上げ及び営業利益により計算した営業利益率を上回ることになるなどとして、甲67を原資料とする甲65に基づいて櫻山の営業利益の額を算定するのは相当でないと主張する。
そこで検討するに、証拠(甲37、65、67)及び弁論の全趣旨によると、甲65には、櫻山の営業利益として、三越伊勢丹から櫻山に送付される明細書(甲67)に記載された櫻山の売上額(櫻山が三越伊勢丹に対して支払う20%の販売手数料を控除したもの。以下、三越伊勢丹に係る櫻山の売上げについて同じ。)の合計から同明細書の[9999]欄に記載された売上額を控除した上、ここから費用として70%を控除した額が記載されているものと認められる。また、被控訴人代表者は、原審本人尋問において、甲67の[9999]欄には櫻山の実店舗における売上額が記載されている、櫻山の売上げに対する製造原価の割合はおおむね50%であるなどと供述している。以上に加え、一般に、百貨店のカタログを利用した販売や百貨店のインターネット販売サイトを利用した販売においては、販売費及び一般管理費が低廉なものに抑えられると考えられることも併せ考慮すると、甲65に記載された額は、櫻山の営業利益を合理的に見積もったものと認めるのが相当である。
これに対し、控訴人は、上記@のとおり主張するが、甲67の[9999]欄に は櫻山の実店舗における売上額が記載されているとする被控訴人代表者の原審本人尋問における上記供述を覆すに足りる証拠はない(甲67をみても、[9999]欄に記載された売上げ以外の売上げに、カタログ等に掲載された商品に係る売上げ以外の売上げが含まれていると認めることはできない。)。
また、控訴人は、上記Aのとおり主張するが、上記のとおり、一般に、百貨店のカタログを利用した販売や百貨店のインターネット販売サイトを利用した販売においては、販売費及び一般管理費が低廉なものに抑えられると考えられ、また、証拠(甲67、乙イ44)及び弁論の全趣旨によると、櫻山の売上げのうちの9割以上が三越伊勢丹に係る売上げによって占められるところ、三越伊勢丹に係る櫻山の売上げのうちカタログ等に掲載された商品に係る売上げが占める割合は、わずか数%であると認められ、これらの事情に照らすと、仮に、カタログ等に掲載された商品に係る櫻山の営業利益率が決算報告書(乙イ33)から算定される櫻山の全体の営業利益率を上回るとしても、直ちに不合理であるとはいえない。
以上のとおりであるから、カタログ等に掲載される商品について被控訴人に生じた営業上の損害(逸失利益)の額を算定するに当たっては、その基礎収入の額を甲65に記載された額に基づいて算定するのが相当である。
(6) 控訴人は、前掲最高裁令和2年4月7日第三小法廷判決は本件の控訴人のような立場の者にも当てはまるとして、本件訴訟において、被控訴人が別件訴訟における費用(印紙、郵券及び仮処分登録免許税に係る費用。以下「別件費用」という。)を損害として主張することは許されないと主張する。
しかしながら、控訴人は、Aと連帯して、控訴人及びAの共同不法行為(本件申請)により被控訴人に生じた損害を賠償する責任を負うところ、補正して引用する原判決第4の3(2)イにおいて説示したとおり、被控訴人は、別件訴訟の当事者でない控訴人を相手方として、別件費用を訴訟費用等の確定処分を経て取り立てることができないのであるから、上記最高裁判決が別件訴訟の当事者でない控訴人にも当てはまると解するのは相当でない。
控訴人は、控訴人があずかり知らない別件訴訟において発生した別件費用を控訴人が負担するとなると、控訴人に予測できない負担が発生するとも主張するが、控訴人は、Aと共同して本件申請をし、これにより、本件各商標権について櫻山からAに対する商標権移転登録がされたのであるから、その結果、被控訴人が、本件各商標権に係る処分禁止の仮処分命令の申立て及び執行や、本件各商標権に係る商標権移転登録抹消登録手続請求訴訟の提起等を余儀なくされるのは当然のことである。
したがって、別件費用に係る被控訴人の損害は、控訴人及びAの共同不法行為(本件申請)と相当因果関係のある損害であって、控訴人に別件費用の支払義務を負担させることは、控訴人に予測できない負担を負わせるものではない。
また、控訴人は、控訴人が本件訴訟において別件費用を負担するとなると、Aも本件訴訟において別件費用を負担することになり、上記最高裁判決を潜脱することになると主張するが、控訴人が本件訴訟において別件費用を負担することは、Aも本件訴訟において別件費用を負担することを意味しない。
さらに、控訴人は、被控訴人はAにつき別件訴訟に係る訴訟費用等の確定処分を経て別件費用に係る債務名義を取得することができるのであるから、控訴人についてまで別件費用に係る債務名義を取得できるとなると、被控訴人が債務名義を二重に取得することになって不当であるとも主張するが、共同不法行為に基づいて不真正連帯債務を負う複数の者について、同一の損害に係る複数の債務名義が存在することは、何ら不当なことではない。
以上のとおりであるから、控訴人の上記主張を採用することはできない。
(7) 控訴人は、別件訴訟に係る弁護士費用を被控訴人の損害と認めることは、
弁護士費用の敗訴者負担が認められていない類型の訴訟である商標権移転登録抹消登録手続請求訴訟において弁護士費用の敗訴者負担を認めることと同義であるし、
また、本件訴訟に係る弁護士費用を算定するに当たり、その算定の基礎となる損害額に別件訴訟に係る弁護士費用も算入すると、弁護士費用が二重に計上されることになるから、別件訴訟に係る弁護士費用を被控訴人の損害と認めるのは相当でない し、仮に、別件訴訟に係る弁護士費用を被控訴人の損害と認めるのであれば、本件訴訟に係る弁護士費用を算定するに当たっては、その算定の基礎となる損害額に別件訴訟に係る弁護士費用を算入すべきではないと主張する。
しかしながら、控訴人及びAは、共同して本件申請をし、その結果、本件各商標権について櫻山からAに対する商標権移転登録がされたのであるから、同移転登録の抹消登録のために必要な法的手続である別件訴訟を提起し、追行するために要した費用が控訴人及びAの共同不法行為(本件申請)と相当因果関係のある損害であることは明らかであるところ、商標権に係る処分禁止の仮処分命令申立事件及び商標権移転登録抹消登録手続請求事件の専門性等に照らすと、これらの手続を弁護士に委任することには十分な合理性が認められるというべきである。したがって、別件訴訟に係る弁護士費用のうちの相当額(50万円)は、上記共同不法行為と相当因果関係のある損害であると認めるのが相当である。
また、控訴人及びAの共同不法行為の内容等からすると、まず別件訴訟を提起し、
その結果を踏まえて本件訴訟を提起するとの二段階の訴訟手続を執ることは合理的なものといえる。そして、補正して引用する原判決第4の3(6)のとおり、上記共同不法行為と相当因果関係のある本件訴訟に係る弁護士費用の額を算定するに当たっては、本件訴訟における認容額を一つの事情として考慮するのが相当であるところ、別件訴訟に係る相当な額の弁護士費用も、本件訴訟における認容額を構成する以上、これを本件訴訟における弁護士費用の額(上記共同不法行為と相当因果関係のあるもの)を算定するに当たって考慮するのは当然であり、そのことは、弁護士費用の二重計上に当たらない。
以上のとおりであるから、控訴人の上記主張を採用することはできない。
10 被控訴人の当審における補充主張について 被控訴人は、櫻山の営業利益の額の算定について、平成28年の実績を特別視するのは相当でないとして、当該営業利益の額の算定に当たっては、同年の実績に基づいて、これを月額55万円とすべきであると主張する。
しかしながら、補正して引用する原判決第4の3(1)イにおいて説示したとおり、
櫻山は、平成28年において、他の年の数倍の営業利益を上げ、特に、同年11月においては、前年同期と比較して11倍以上の営業利益を上げているのであるから、
櫻山の同年の営業利益は、櫻山の営業利益に係る実態を十分に反映するものとはいい難い。したがって、櫻山の営業利益については、これを平成26年10月から平成29年9月までの3年間の実績に基づいて算定するのが相当である。
この点に関し、被控訴人は、11月は御歳暮商戦の時期であるから、平成28年11月の櫻山の営業利益が激増したのは当然であると主張するが、甲65によると、
櫻山は、例えば、同年10月には、前年同期と比較して2倍程度の営業利益を上げ、
同年12月にも、前年同期と比較して2倍程度の営業利益を上げたものと認められるのに対し、上記のとおり、櫻山は、同年11月には、前年同期と比較して11倍もの営業利益を上げているのであるから、同月については、やはり例年とは異なる特別な事情があったものと認めざるを得ない。
以上のとおりであるから、被控訴人の上記主張を採用することはできない。
11 結論 よって、当裁判所の上記判断と異なる原判決は一部不当であるから、控訴人の控訴に基づき、原判決を主文1項のとおり変更し、被控訴人の附帯控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲
裁判官 中島朋宏