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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成13行ケ121審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  識別機能 /  指定役務 /  普通名称(3条1項1号) /  記述的商標(3条1項3号) /  普通に用いられる方法 /  周知性 /  ただ乗り(フリーライド) /  類似性(類否判断) /  結合商標 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  差止 /  使用許諾 /  外国 /  非類似 /  商号 / 
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事件 平成 15年 (ネ) 4925号 商標権侵害差止請求控訴事件
控訴人(原告) エノテカ株式会社
訴訟代理人弁護士 三村まり子,矢嶋雅子,湯川雄介
被控訴人(被告) 株式会社グラナダ
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/03/18
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴人が当審で拡張した請求を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴人の求めた裁判
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,その営業するイタリア料理レストランの店舗に別紙標章目録記載1ないし3の標章を使用し,又は,これらを使用したイタリア料理レストランを営業してはならない。
事案の概要
本判決においては,原判決と同様の意味において又はこれに準じて,「本件商標権」,「本件商標」(別紙商標目録記載のもの),「被控訴人店舗」(原判決の表示は「被告店舗」),「被控訴人標章」(原判決の表示は「被告標章」。別紙標章目録記載のもの。同目録記載の番号に対応して「被控訴人標章1」のようにいい,これらを総称して「被控訴人標章」という。)との略称を用いる。
1 本件は,控訴人が,イタリア料理レストランを営業して被控訴人標章1ないし3を使用している被控訴人の行為について,役務及び商標が同一又は類似するので控訴人の本件商標権を侵害するものであり,また,本件商標が控訴人の営業表示として周知であるので不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に当たるものであると主張して,商標法36条1項又は不正競争防止法3条に基づき,被控訴人に対し,被控訴人標章1ないし3の使用差止め及びこれらの標章を使用した営業の差止めを請求した事案である。なお,控訴人は,原審においては,被控訴人標章1のみについて上記のような標章の使用差止め及びその標章を使用した営業の差止めを求めたが,当審において,差止めの対象として被控訴人標章2,3の使用及びこれらを使用した営業を追加し,請求を拡張した。
原判決は,被控訴人標章1は,本件商標とその外観,称呼,観念のいずれにおいても異なり,本件商標と同一又は類似するものということはできないとして,上記商標法36条1項に基づく差止請求及び不正競争防止法3条に基づく差止請求は,いずれも理由がないとして,控訴人の請求を棄却した。
そこで,控訴人は,本件控訴を提起するとともに,上記のように請求を拡張した。
争いのない事実等,争点及び当事者の主張は,次のとおり,当審における当事者の主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」に記載のとおりである。
2 当審における控訴人の主張の要点 (1) 被控訴人標章1,2は,本件商標を一部に有する結合された標章であり,その標章からは,「ENOTECA」という外観,称呼及び観念と「KIORA」という外観,称呼及び観念とはそれぞれ独立に生じる。被控訴人標章3も,それぞれが独立した2つの部分からなる結合商標であり,前半部分については同じことがいえる。
被控訴人標章の「ENOTECA」の部分を見ると,字体,文字間隔及びイメージが本件商標として公報に記載された文字や控訴人が商標及び広告において使用している表示と酷似しており,見る者をして控訴人の商標及び店舗を想起させるに十分なものである。被控訴人標章の「ENOTECA」部分の外観は,本件商標と同一である。被控訴人標章と本件商標とは要部の外観が酷似している。
称呼についても,被控訴人標章の「ENOTECA」の部分と本件商標とは全く同一である。
観念については,外観及び称呼が同一である以上,異なった観念が生じることはあり得ない。
被控訴人標章は,控訴人を想起させる「ENOTECA」に,「KIORA」という部分を結びつけることにより,需要者には,「控訴人が経営するENOTECAレストランのKIORA店」という観念を生じさせ,これにより控訴人との誤認混同を生じさせている。
被控訴人標章と本件商標とは,類似性があることは明白である。
なお,類似性以外の争点についても,被控訴人標章は,看板だけでなく,ホームページや広告物に使用されており,商標として使用されていることは明らかであり,また,本件商標は,周知性があり,需要者に誤認混同が生じていることも明らかであって,控訴人の請求は認容されるべきものである。
(2) 「ENOTECA」の商標は,その語が日本においてまだ知られていない状況の中で,控訴人により商標権が取得,使用され,識別力を取得するに至った。一般人であれば,「ENOTECA」ないし「エノテカ」という語は,具体的なワインショップないしレストランの名前と認識しているのであって,決して,飲食店の店舗の種類ないし性格を意味する一般用語と認識しているのではない。この点についての原判決の認定は誤っている。
控訴人は,ワインの輸入販売業及びレストラン業等を主要な事業目的として,エノテカ株式会社との商号で昭和63年に設立登記がされた。当時,既に他社が「Enoteca」との商標登録(当時の第19,20,28類)をしていたことから,控訴人は,使用許諾を得てこれを使用し,その後平成7年には同商標を譲り受けた。控訴人は,サービスマーク登録制度ができた平成4年には,関連会社名で第42類,指定役務を「イタリア料理の提供,フランス料理の提供」として「ENOTECA」を登録し,その後,控訴人に移転された。
控訴人は,平成元年,「ENOTECA/エノテカ」の名でワインショップ及びレストランを開店し,現在,控訴人が直営するワインショップは17店,レストランは7店,ベーカリーは4店に及んでいる。ワインショップ及びレストラン業を合わせた平成14年3月時点での年間売上高は,70億円にのぼっている。本件商標は,ワイン販売事業及びレストラン業において,需要者に幅広く認知されるようになった。
主要な伊和・和伊辞典における「enoteca」という単語の掲載状況,「エノテカ」との語についての一般人に対する街頭調査の結果(「エノテカ」を普通名詞と回答した者は,103名中の13名にすぎず,しかも,これらの者には,正確な意味で普通名詞と認識して回答したか怪しい者も含まれており,「ワインを提供する飲食店」という意味での普通名詞と認識している者は1人もいなかった。)によれば,一般人は,「enoteca」,「エノテカ」との語を「ワインを提供する飲食店」という意味の普通名詞と認識しているとはいえない。また,控訴人は,日本以上にイタリア語への親和度が高いフランス及びイギリスでも,「ENOTECA」の商標登録を有している。
以上によれば,本件商標が自他識別力を有することは明らかであり,商標法上の保護を受けるべきであることは明白である。本件商標には,商標法3条1項3号ないし5号に該当するような一般名称であっても登録を認める同条2項よりも,厚い保護が認められるべきであり,被控訴人標章のうち「ENOTECA」ないし「エノテカ」について,商標法26条1項3号の適用がないことも明白である。
(3) 原判決の認定は,以下のような点で不合理である。
(a) 原判決は,「ENOTECA」は,普通名詞であるというが,問題は,イタリア語でどのような意味を有しているかではなく,日本に居住する一般人,すなわちイタリア語を解さない日本人が「ENOTECA」という語を見て,ワインの「棚や箱」,「コレクション」,「展示館」,「販売店」,「レストラン」を意味する普通名詞と認識しているのか,又は,出所識別力がある商標と認識しているのかという点である。街頭調査結果から明らかなとおり,日本では,一般に「ENOTECA」は,「ワイン販売店」とか「ワインを主体としたレストラン」と認識されているのではなく,具体的なワインショップないしレストランの名前として認識されているのである。
(b) 指定役務を「西洋料理を主とする飲食物の提供」などとして「エノテーカピンキオーリ」,「RISTORANTE/ENOTECA/PINCHIORRI」などの標章が第三者のために商標登録されているが,このことから直ちに「ENOTECA」ないし「エノテカ」が普通名称として一般人に認識されていることは導かれない。また,上記商標登録がされている事実は,本件商標と被控訴人標章が非類似であるとの結論を導く根拠ともならない。これらは,「エノテーカピンキオーリ」との称呼は生じるが,「エノテカ」との称呼は生じないと判断されたものと解され,登録査定の判断においては,「エノテーカピンキオーリ」が世界的に有名な老舗レストランであることが考慮されている可能性がある。これに対し,被控訴人標章は,前記のとおりであり,本件商標と類似するものである。なお,「ENOTECA」ないし「エノテカ」を含む他の商標が登録を拒絶されている事実がある。
(c) 原判決は,「ENOTECA」という語が一般的な用語であり,その部分が強力な出所識別機能を果たしているということはできないとの認定につき,「ENOTECA」その他の類似した標章を付した飲食店が被控訴人以外に19店舗存在し,これらはいずれもワインを提供ないし販売するイタリア料理店であることも根拠の1つとしている。しかし,19店舗の各標章について,商標法ないし不正競争防止法違反の有無を検証することなく,ただ存在しているという事実のみを根拠として上記結論を導き出すことはできない。近年,「エノテカ」という標章を用いるイタリアレストランが増加してきたのは,控訴人が多くの媒体に露出し,周知,著名になってきたからであり,たまたま「ENOTECA」がイタリア語において一般名称であることを奇貨として,控訴人の知名度にただ乗りして短期に収益を上げようとする者が増えてきたからである。被控訴人自身,被控訴人標章を用いて営業を開始したのは,平成13年4月のことである。
(d) 原判決は,4つの雑誌記事に「エノテカ」に関する記事があることをもって,「ENOTECA」という語が飲食店の店舗の種類ないし性格を意味する用語として,ワイン愛好者や西洋料理に関心のある需要者の間で相当程度認識されていると認定する。しかし,第1に,「需要者」は,ワイン愛好者や西洋料理に関心のある者に限定されるべきではなく,一般消費者が「ENOTECA」という語をどのように認識するかを検討すべきである。限られた分野の雑誌記事からは,本件で問われるべき需要者の認識を認定することはできず,前記の街頭調査結果からは,「エノテカ」は,一般名称ではなく固有名詞として認識されている。第2に,原判決は,その引用する記事の解釈を誤っている。第3に,原判決がいうワイン愛好者や西洋料理に関心のある需要者を主要な対象読者としていると思われる雑誌の中には,控訴人のレストラン「ENOTECA」を紹介する記事を掲載しているものが数多く存在しており,需要者が「ENOTECA」ないし「エノテカ」を普通名詞として認識する可能性は極めて低い。
(e) 原判決は,被控訴人が店舗のドア及びウィンドウ部分,名刺における所在場所を示す表示及び営業許可に係る施設名に「KIORA」ないし「キオラ」のみの標章を使用していることを認定して,「ENOTECA」の部分が需要者の注意を特に強くひくことはなく,その部分が強力な自他役務の出所識別機能を果たしているものとはいえないとしている。しかし,被控訴人の店舗看板,店舗カード,ホームページなどの需要者一般がアクセスするアイテムでは,「ENOTECA」ないし「エノテカ」が明記されており,はっきり認識されるようになっている。営業許可申請など一般の顧客が目にするはずもないものに言及するのはナンセンスである。
(4) 被控訴人は,被控訴人標章2及び3を被控訴人が公衆の閲覧に供する自社のホームページにおいて使用しており,被控訴人標章1と同様に,本件商標権を侵害するものであり,また,不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に当たるものである。
3 当審における被控訴人の主張の要点 (1) 被控訴人標章は,「ENOTECA」の部分がワインを主体にしたレストラン(ワインバー)という被控訴人店舗の性格を表す語句であるのに対し,「KIORA」の部分は,被控訴人店舗の独自の名称を意味する造語であり,両者を併せてはじめて「KIORAという名称のワインを主体にしたレストラン(ワインバー)」を意味することとなる。「ENOTECA」という語なくして「KIORA」がどのような種類の飲食店か判断がつかないのであり,両語句は一連不可分である。
飲食店においては,「エノテカ」等の店舗の種類ないし性格を示す普通名称を店舗の固有の名称の前に付すということが一般的な慣習として行われており,このような取引の実情からすれば,需要者が被控訴人店舗を控訴人の経営に係る店舗ないし控訴人の関連店舗であると誤認混同することはあり得ず,被控訴人標章と本件商標は類似するものではない。
被控訴人標章が商標として使用されていることは争う。
(2) 控訴人商標に周知性はない。
また,控訴人の主張する辞典においては,「リストランテ」,「トラットリア」,「オステリア」の語も掲載されていない。「エノテカ」の語の不掲載をもって理由とすることはできない。
街頭調査の結果についての控訴人の解釈には誤りがある。控訴人主張の街頭調査の結果は,巧みな誘導に基づくものであること,また,質問の回答結果によって定められた次の質問への進行方法についての構成が不適切であること,調査実施場所が適切でないことなどから,到底信用できない。
需要者が「エノテカ」との商標を自他識別力を有しない普通名称として認識していることは明らかである。被控訴人標章のうち,「ENOTECA」ないし「エノテカ」の部分に商標法26条1項3号の適用がないとの控訴人の主張は誤りである。
(3) 本件商標と「エノテーカピンキオーリ」などの商標が非類似で,本件商標と被控訴人標章とが類似であるという根拠はない。
あらゆる分野の一般消費者がイタリアレストランを利用したり,ワインを嗜好するわけではない。本件において問題とすべき需要者は,ワイン愛好者や西洋料理に関心のある者である。
原判決の引用する雑誌は,一般書店で入手可能なものであり,仮に,需要者にあらゆる分野の一般消費者が含まれるとしても,「ENOTECA」の語は,需要者の間で,店舗の種類ないし性格を意味する一般名称として相当程度認識されているものである。
被控訴人の店舗カード,リーフレットでは,「ENOTECA KIORA」と「RISTORANTE KIORA」をひとまとめにしており,また,インターネットのホームページの表示でも,「ENOTECA KIORA」と「RISTORANTE KIORA」をひとまとめにしてあり,需要者は,「KIORA」という名称のイタリア料理店には,「ENOTECA」の形態と「RISTORANTE」の形態があると認識するのが普通であり,被控訴人標章のうち,「ENOTECA」の部分が需要者の注意を特に強くひくものではない。
(4) 日本人向けの旅行ガイドブックや雑誌で「エノテカ」の語が意味の解説もなく使用されていることなどからすれば,普通名称として需要者の間で広く認識されていることが明らかである。
「ENOTECA」の語を付した飲食店は,インターネットのホームページ検索により少なくとも19店舗は存在し,ホームページのない店舗も含めれば相当数にのぼる。「エノテカ」の語は,一般名称として需要者に深く浸透している。
被控訴人は,「KIORA」という名称のイタリア料理店に「ENOTECA」の形態と「RISTORANTE」の形態があることを利用者に示すために,「ENOTECA」の部分を付記的に使用しているにすぎない。つまり,「リストランテ」,「ピッツエリア」,「トラットリア」などと同様に,店舗の性格を示す普通名称として付記的に使用されているにすぎず,「ENOTECA」の部分は,商標として使用されているのではない。
被控訴人標章の要部は,「KIORA」の部分であり,本件商標と被控訴人標章とは外観非類似であって,「ENOTECA」を含み「エノテカ」の称呼を生じるとされながらも,登録された商標も存在し,被控訴人標章が控訴人の商標権を侵害しないことは明らかである。
また,商品等表示が非類似であり,控訴人商標に周知性はなく,両者の誤認混同の可能性がなく,被控訴人が本件商標にフリーライドしているものでもないので,不正競争防止法2条1項1号に該当するものでもない。
当裁判所の判断
1 当裁判所も,被控訴人標章1は,本件商標と同一又は類似するものということはできないものと判断し,また,当審において追加された被控訴人標章2及び3についても上記と同様に判断するものであって,結局,当審で拡張された請求部分も含め,控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく,これを棄却すべきものと判断する。その理由は,下記のとおり付加するほか,原判決が「第3 当裁判所の判断」として説示するとおりである(なお,原判決で「被告標章」というのは,「被控訴人標章1」を指すものである。)。
2 被控訴人標章2及び3並びに「ENOTECA」又は「エノテカ」の語に関し,当審で提出された証拠に照らし,次のとおり認定することができる。
(1) 被控訴人標章2及び3は,インターネットにおける被控訴人のホームページにおいて使用されている(乙30-1・2,甲40-1・2)。
被控訴人標章2の構成は,別紙標章目録2記載のとおりであり,欧文字の「KIORA」の右側上部に,縦横の長さが「KIORA」部分の3分の1程度の大きさで,「ENOTECA」という欧文字を横書きにしたものである。そして,上記「ENOTECA」の部分は,ゴシック体であり,その文字の下端に接する形で下線が引かれ,その下線は,「E」よりも更に左側に突き出して引かれている。一方,「KIORA」の部分は,デザイン化された書体で表され,「K」の文字は,縦横の長さが「IORA」の各文字の1.5倍程度の大きさで表示されている。なお,ホームページにおける色彩は,「ENOTECA」の文字及び下線が黄緑色,「KIORA」の文字は灰白色である(乙30-1・2による。)。被控訴人標章2は,被控訴人標章1と比べ,上記下線の有無と色彩が異なるものの,その余は,ほぼ同じ構成である。
被控訴人標章3は,別紙標章目録3記載のとおりであり,欧文字の「ENOTECA KIORA」の下に,これとほぼ同じ大きさで,「エノテカ キオラ」という片仮名文字を横書きしたものである。いずれも文字は黒色のゴシック体で記載されている。
(2) 辞典類における「ENOTECA」又は「エノテカ」の語の掲載状況は,次のとおりである(甲42)。
「伊和中辞典」(平成13年2月10日発行第2版3刷,小学館)及び「ポケットプログレッシブ伊和・和伊辞典」(平成13年5月1日発行初版1刷,小学館)には,掲載されている。しかし,「小学館 伊和中辞典」(昭和63年1月20日発行初版4刷,小学館),「新伊和辞典」(昭和57年1月10日発行増訂版2刷,白水社)には掲載がない。また,「広辞苑」(平成10年11月11日発行第5版1刷,昭和61年10月6日発行第3版4刷,岩波書店),「現代用語の基礎知識」(平成15年版,昭和63年版,自由国民社),「imidas」(平成15年版,昭和63年版,集英社),「知恵蔵」(平成15年版,平成2年版,朝日新聞社),「コンサイスカタカナ語辞典」(平成12年9月10日発行第2版1刷,三省堂),「カタカナ語新辞典」(平成13年6月発行改訂第2版,梧桐書院),「ポケット版外来語新語辞典」(平成15年2月10日発行,成美堂出版),「コンサイス外来語辞典」(昭和62年4月1日発行第4版1刷,三省堂),「外来語新辞典」(昭和62年2月発行改訂第1版,梧桐書院)には,掲載されていない。
もっとも,上記「広辞苑」,「imidas」,「カタカナ語新辞典」等においては,「エノテカ」をはじめ,「リストランテ」,「トラットリア」,「オステリア」などの語のいずれも掲載されていない(乙32)。
(3) 雑誌類における「ENOTECA」又は「エノテカ」の記載として次のものがある(当審で提出されたもの。)。
(a) 「イタリアベストガイド」(平成15年版,成美堂出版,乙23)には,「SHOPPING」などの項目と並んで「ENOTECA」の項目が設けられており,「Enoteca Le Cantine(エノテカ・レ・カンティーネ)」,「Enoteca Baldi(エノテカ・バルディ)」「Enoteca Chianti Classico(エノテカ・キャンティ・クラシコ)」,「Enoteca Cotti(エノテカ・コッティ)」などの店舗名の飲食店が紹介されている。そして,「この広場には,肉屋,エノテカ,トラットリアなどが集まっている」,「パンツァーノで28年営業しているというエノテカ」,「周囲には,レストラン,エノテカもある」などの記載がある。
(b) 「るるぶイタリア・ロンドン・パリ’03」(平成15年1月1日発行,JTB,乙24)には,「エノテカ&バーカロ」との項目があり,「エノテカとはもともと試飲のできるワイン販売店のこと。地方によってはグラスワインとつまみを出す居酒屋を指す。」との記載があり,「人気急上昇中のエノテカ」として「アルカディア(Arcadia)」という店舗が,「イタリアワインを扱う古いエノテカ」として「エノテカ・コルシ(Enoteca Corsi)」が紹介されるなどしている。
(c) 「るるぶイタリア’04」(平成15年10月1日発行,JTB,乙25)には,「エノテカ&バーカロ編」というコーナーがあり,「エノテカ」について上記乙24と同旨の説明がされた後,「エノテカ」の楽しみ方が紹介されている。また,「店の看板や店名にEnotecaエノテカと入っていても,ワイン販売店というよりはレストラン的な要素が強いところもある。」,「現在は,居酒屋風のところや,高級なところも増加。」と記載されている。そして,「エノテカ・ディ・サルデーニャ」などの数々の店舗が紹介されている。
(d) 「イタリア,マップルマガジン」(平成15-16年版,平成15年4月1日発行,昭文社,乙26)では,「Ristorante・リストランテ いわゆるレストランのこと…」,「Trattoria・トラットリア 家庭料理をウリにする飲食店。…リストランテより安価…気軽に地元料理…」,「Osteria・オステリア 厳密には居酒屋…」,「Enoteca・エノテカ ワイン専門店。オードブルや食事も楽しめる店も急増中。」,「Barcaro・バーカロ ワイン&おつまみ形式の居酒屋。ヴェネツィアの独特な文化…」などの紹介がある。また,「最近は,…レストランさながらの料理を出すエノテカが増えている。
雰囲気的にもおしゃれなワインバーといった趣の店が増加中だ。」,「ワインを中心にした食事を楽しめるのが最近のエノテカ事情。」との記載がある。
(e) 「わがまま歩き イタリア ブルーガイド」(平成15年2月10日発行第1改訂版,実業之日本社,乙27)では,「レストランの種類」として,「リストランテ 最高級から中級までの,いわゆるレストランのこと。…」,「トラットリア/オステリア リストランテより気軽に入れる…。日本でいえば,家庭的な雰囲気の定食屋さんとかトンカツ専門店みたいな位置だろうか。…」,「エノテカ/ワインバー 酒屋を兼ねた居酒屋をエノテカ(ヴェネツィアではバカリ)という。…なかにはレストラン並みの料理を揃えている店もある。」と紹介され,その他,「ビッレリア」,「ピッツェリア」,「ターヴォラ・カルダ」も紹介されている。
そして,「エノテカ・マリオ」などの店舗が紹介されている。
3 上記認定事実及び前記引用に係る原判決認定の事実(「争いのない事実等」も含む。)に照らせば,以下のように判断することができる。
まず,被控訴人標章1について原判決の説示した判断は,相当として是認することができる。
そして,被控訴人標章2については,被控訴人標章1と同様の理由により,本件商標とは,外観,称呼,観念のいずれにおいても異なり,本件商標と同一又は類似するものということはできない。
被控訴人標章3についても,「ENOTECA」又は「エノテカ」の部分は,それ自体又はその語に続く店名を示す「KIORA」又は「キオラ」と合わせて,「ワインを販売する店」ないし「ワインを提供する飲食店」という,当該店舗の種類ないし性格を意味するものであって,それがイタリア料理を提供する飲食店という役務について使用されるときは,「ENOTECA」又は「エノテカ」の部分は,自他役務の出所識別機能について重要な部分を占めるものとは解されない。したがって,被控訴人標章3では,「ENOTECA」の部分と「KIORA」の部分の表記が同じ大きさであり,「エノテカ」の部分と「キオラ」の部分の大きさも同様であることを考慮しても,被控訴人標章3も,被控訴人標章1,2と同様に,本件商標とは,外観,称呼,観念のいずれにおいても異なり,これと同一又は類似するものということはできないというべきである。
4 以下,控訴人の主張を検討しつつ,上記判断の理由を敷衍して説示する。
(1) 控訴人は,被控訴人標章からは,「ENOTECA」という外観,称呼及び観念と「KIORA」という外観,称呼及び観念とはそれぞれ独立に生じること,そして,「ENOTECA」又は「エノテカ」という語がイタリア語として,どのような意味を有しているかではなく,日本に居住する一般人が「ENOTECA」という語を見て,普通名詞と認識しているのか,又は,出所識別力がある商標と認識しているのかという点が問題であって,日本では,一般に「ENOTECA」は,「ワイン販売店」とか「ワインを主体としたレストラン」と認識されているのではなく,具体的なワインショップないしレストランの名前として認識されていることを主張するので,この点について検討する。
(a) 前記認定事実(原判決引用部分も含む。)によれば,イタリアにおいて,「ENOTECA」(Enoteca,エノテカ)は,飲食店の中で,「Ristorante」(リストランテ),「Trattoria」(トラットリア)などと並んで飲食店の種類ないし性格を意味する普通名称であること,イタリアでは,当該店舗の固有名称に「ENOTECA」(Enoteca)の語を付加した飲食店がごく普通に多数存在していることが認められる。
そして,前認定(原判決引用部分も含む。)のとおり,我が国において,多くの旅行ガイドブックや雑誌において,イタリアの「ENOTECA」又は「エノテカ」について,その営業形態,いわれ,利用の仕方,具体的な店舗名などにつき,相当の情報量を伴って紹介されるようになっており,また,東京都にあるレストランで,店名に「エノテーカ」を冠する「エノテーカピンキオーリ」は,特に著名であり,他にも,店名に「ENOTECA」(Enoteca,エノテカ,エノテーカ)という語を含む飲食店が,インターネットにホームページを開設して検索に該当するものだけでも,19店舗存在していることなどの事情が認められる。そして,証拠(乙9,10-1〜4,11,13,14,17,29,33,34)及び弁論の全趣旨によれば,我が国におけるイタリアなどの外国料理を提供する飲食店においては,その店舗名等につき,イタリアなどの外国語による名称や表示方法をそのままの欧文字で,又はその読みを片仮名文字に表記して使用することが多いこと,飲食店の固有の名称に店舗(提供役務)の種類ないし性格を表す名称を付加することは,外国のみならず,我が国においてもごく普通の店舗名の表示方法であることが認められ,これらのことは,イタリア料理など西洋料理に関心のある者はもとより,一般にも相当広く認識されているものと認められる。
以上の事実に照らせば,当審の口頭弁論終結時までには,西洋料理の飲食業という役務についての主な需要者は,固有の名称に「ENOTECA」又は「エノテカ」という語が付加された店舗名に接すれば,「ENOTECA」の正確なイタリア語の意味やいわれまでは周知となっていないとしても,「ENOTECA」の部分が店舗の種類ないし性格を意味する用語であり,この「ENOTECA」の部分によっては,個々の店舗(営業主体)を識別することが困難である旨を認識するようになっているものと推認される。
(b) そこで,被控訴人標章についてみるに,前認定の事実によれば,被控訴人は,「KIORA」,「キオラ」という造語からなる被控訴人の固有の名称の前に「ENOTECA」,「エノテカ」という語を付加し(被控訴人標章3),あるいは,デザイン化された書体で表された「KIORA」の右側上部に,縦横の長さが「KIORA」部分の3分の1程度の大きさの「ENOTECA」という語を付加して(被控訴人標章1,2),使用しているものである。そして,被控訴人の営む飲食店には,「ENOTECA KIORA」(エノテカ キオラ)と「RISTORANTE KIORA」(リストランテ キオラ)があり(乙30-1・2),さらに,「TRATTORIA KIORA」(トラットリア キオラ)の開店準備が進められていること(乙42,弁論の全趣旨)に加えて,前認定の店名の使用実態からみて,被控訴人は,イタリアにおけるのと同様に,また,上記のごく普通の店舗名の表示方法と同様に,「ENOTECA」(エノテカ)という語を店舗の種類ないし性格を意味する一般的な用語として使用しているものと認めることができる。
(c) 辞典類における「ENOTECA」ないし「エノテカ」の記載状況は,前認定のとおりであるが,「エノテカ」のほか,「リストランテ」,「トラットリア」,「オステリア」などの語も記載されていないものが存在することを考えると,辞典類の編集方針によるものと考えられるので,上記認定を妨げるものではない。
雑誌には,控訴人の経営するレストラン「エノテカ」が紹介されたものも多く存在するが,それだからといって,上記認定を妨げるものではない。
控訴人は,需要者を誰とみるべきかについて主張するが,被控訴人標章がイタリア料理等の提供という役務に使用されており,本件商標の指定役務が「イタリア料理の提供,フランス料理の提供」であることからして,西洋料理に関心のある者を主な需要者として検討したものと解される原判決に誤りはない(なお,西洋料理とワインは極めて密接な関係にあるから,原判決がワイン愛好者の認識に言及した点も誤りとはいえない。)。
控訴人は,街頭調査の結果(甲101,102)を援用するが,回答人の母集団と声をかけた対象者の選択,回答を拒否した者の数,拒否の段階・態様・理由の有無等,回答した者の発問趣旨の理解の程度,聞き取りした結果に基づいてしたメモの正確性などについての記述や資料がなく,事後的に第三者がアンケートの信頼性について検証することができないことなど,この種街頭調査の結果は,裁判所における事実認定に供する証拠としてふさわしくないものといわざるを得ない。
なお,当事者双方は,商標法26条1項3号に関して言及している。この点については,役務の普通名称普通に用いられる方法で表示する商標(これを一部に有する商標も含む。)には,商標権の効力は及ばないという上記規定(1項柱書括弧部分を含む。)の趣旨に照らせば,「ENOTECA」(エノテカ)の語につき,我が国において,およそ普通名称であることを認識し得ないような事情があるのでなければ,「KIORA」,「キオラ」という固有の名称に「ENOTECA」,「エノテカ」という語を付加する形態により,飲食店の種類ないし性格を表すものとして「ENOTECA」(エノテカ)という語が普通に用いられる方法で使用されている限りは,被控訴人の自由な使用が認められてしかるべきである。この観点からも,被控訴人標章における「ENOTECA」又は「エノテカ」の部分は,自他役務の出所識別機能について重要な部分を占めるものではないというべきである。
(d) 以上説示したことからすれば,控訴人の上記主張は,いずれも採用の限りではない。
(2) 控訴人は,会社設立当初からの本件商標の使用状況などについて主張する。
しかし,控訴人の会社設立当初はともかく,当審の口頭弁論終結時には,前判示のとおりに認められるのであるから,控訴人主張の点は,前判示の結論を覆すべきものではない。
(3) 控訴人は,本件商標は,イギリス及びフランスでも商標登録されていることや,我が国における「エノテカ」を含む商標の登録拒絶状況などについて主張するが,商標登録の要件を具備するか否かと本訴請求の当否とは,別問題であって,控訴人主張の事情は,前判示の結論を直ちに否定し得るものではない。
(4) 控訴人は,「エノテカ」の標章を用いるイタリアレストランが近年増加してきたのは,たまたま「ENOTECA」がイタリア語において一般名称であることを奇貨として,控訴人の知名度にただ乗りする者が増えてきたからであるとも主張する。
しかし,前認定の事実に照らせば,我が国においても,イタリア料理を提供する飲食店の中でイタリアでいう「ENOTECA」形態の店舗に該当すると標榜する者が,自らの固有の店舗名称に「ENOTECA」(エノテカ)の名称を付加することは,ごく自然なことであり,かつ,普通名称普通に用いられる方法による表示であれば許容されるべきことであって,このことをもって,直ちに,控訴人の著名性にただ乗りするものであるとは断じ得ない。
(5) その他,控訴人は,被控訴人の店舗における表示や営業許可関係書類における表示に関する原判決の認定を非難するが,原判決の挙示する関係証拠に照らすならば,原判決の認定判断を是認することができる。
5 結論 以上によれば,原判決は相当であって,本件控訴は理由がないので,これを棄却し,控訴人が当審で拡張した請求は理由がないので,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 田中昌利