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事件 令和 3年 (ワ) 33763号 発信者情報開示請求事件
5原告 株式会社ケイ・エム・プロデュース
同訴訟代理人弁護士 戸田泉
同 角地山宗行
被告 ソフトバンク株式会社
同訴訟代理人弁護士 金子和弘 10 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 15 主文同旨 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、氏名不詳者ら(以下「本件発信者ら」という。)がいわゆる ファイル交換共有ソフトウェアであるBitTorrentを使用して、別紙著 作物目録記載の各動画(以下「本件各動画」という。)を送信可能化したことに 20 より、本件各動画に係る原告の送信可能化権を侵害したと主張して、被告に対し、 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する 法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者 情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案 である。 25 なお、本件では、BitTorrentの仕組み、著作権侵害調査の正確性等 を確認するため、技術説明会(甲7)を実施して、争点を整理している。 12 前提事実(証拠を摘示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものと する。) 当事者 ア 原告は、主にアダルトビデオの制作、販売を業とする株式会社である。(弁 5 論の全趣旨) イ 被告は、電気通信事業等を目的とする株式会社であって、一般利用者に向 けてインターネット接続サービスを提供しており、プロバイダ責任制限法2 条3号の特定電気通信役務提供者に該当する。(弁論の全趣旨) 本件各動画に係る著作権の帰属 10 原告は、本件各動画の著作権者である。(甲1、2、弁論の全趣旨) ? BitTorrentの仕組み BitTorrentは、いわゆるP2P形式のファイル共有ソフトであり、 その概要や使用の手順は、次のとおりである。(甲3、5、7、弁論の全趣旨) ア BitTorrentでは、特定のファイルを配布する場合、まず、当該 15 ファイルを小さなデータ(ピース)に細分化し、分割されたデータ(ピース) をBitTorrentネットワーク上のユーザーに分散して共有させる。 イ BitTorrentを通じて特定のファイルをダウンロードしようと するユーザーは、まず、「トラッカーサイト」と呼ばれるウェブサイトに接 続し、当該ファイルの所在等の情報が記録されたトレントファイルをダウン 20 ロードする。 そして、ユーザーは、当該トレントファイルをBitTorrentに読 み込ませることにより、BitTorrentが、当該トレントファイルに 記載されたトラッカーサーバーに接続し、当該特定のファイルの提供者のリ ストを要求することになる。トラッカーサーバーは、ファイルの提供者を管 25 理するサーバーであり、上記の要求に応じ、自身にアクセスしているファイ ル提供者のIPアドレスが記載されたリストをユーザーに返信する。 2ウ リストを受け取ったユーザーは、当該ファイルのピースを持つ他の複数の ユーザーに接続し、それぞれから、当該ピースのダウンロードを開始する。 そして、全てのピースのダウンロードが終了すると、元の一つの完全なファ イルが復元される。 5エ 完全な状態のファイルを持つユーザーは、「シーダー」と呼ばれる。また、 目的のファイル全体につきダウンロードが完了する前のユーザーは「リーチ ャー」と呼ばれるが、ダウンロードが完了し、完全な状態のファイルを保有 すると、当該ユーザーは自動的にシーダーとなり、今度は、リーチャーから の求めに応じて、当該ファイルの一部(ピース)をアップロードしてリーチ 10 ャーに提供することになる。 また、リーチャーは、目的のファイル全体のダウンロードが完了する前で あっても、既に所持しているファイルの一部(ピース)を、他のリーチャー の求めに応じてアップロードする。すなわち、リーチャーは、目的のファイ ルをダウンロードすると同時に、当該ファイルについて同時にアップロード 15 可能な状態に置かれることになり、他のリーチャーに当該ファイルの一部を 送信することが可能な状態になっている。 オ BitTorrentは、このようなユーザー相互間のデータの授受を通 じて、中央管理的なサーバーを必要とすることなく、大容量のファイルを高 速でダウンロードすることを可能にするものである。 20 ? 原告による著作権侵害調査の概要 ア 原告は、本件訴訟の提起に先立って、株式会社HDR(以下「本件調査会 社」という。)に対し、本件各動画の著作権侵害に係る調査(以下「本件調 査」という。)を依頼したところ、同社から、本件発信者らが、別紙動画目 録記載の発信時刻に、同目録記載のIPアドレスの割当てを受けてインター 25 ネットに接続し、BitTorrentを使用した上で、本件各動画のファ イルを自動的に公衆送信し得る状態に置いていた旨の報告を受けた。 (甲4、 35、弁論の全趣旨) イ 本件調査会社は、本件調査を実施するに当たって、自ら開発した著作権侵 害検出システム(以下「本件検知システム」という。)を使用した。(甲5) ? 被告による本件発信者情報の保有 5 被告は、本件発信者情報を保有している。(弁論の全趣旨) 第3 争点及びこれに対する当事者の主張 本件の争点は、権利侵害の明白性及び特定電気通信該当性であり、この点に関 する当事者の主張は、以下のとおりである。 (原告の主張) 10 1 本件調査の内容 BitTorrentにおいては、特定のファイルをダウンロードしようとす るユーザーが、トラッカーサーバーに接続して当該ファイルの提供者のリストを 要求すると、トラッカーサーバーは、自身にアクセスしているファイル提供者の IPアドレスが記載されたリストをユーザーに返信する仕組みとなっている。本 15 件調査は、この仕組みを利用し、監視ソフトがトラッカーサーバーに接続し、本 件各動画のファイルの提供者のリストを要求して、トラッカーサーバーから当該 提供者のIPアドレスが記載されたリストの返信を受け、当該リストのデータを 本件検知システムのデータベースに記録している。そして、当該リストに記載さ れたIPアドレスが、別紙動画目録記載のIPアドレスである。 20 本件調査においては、実際に当該リストに記録されていたユーザーに接続をし て、当該ユーザーからの応答を確認しており(以下、この応答確認を「Hand shake」という。)、別紙動画目録記載の「発信時刻」欄の日時は、当該応 答確認(Handshake)が行われた日時である。 2 権利侵害の明白性 25 BitTorrentは、ユーザーが、トラッカーサーバーから他のピア(当 該ネットワークに参加しているコンピューター。以下同じ。 の情報を取得して、 ) 4他のピアからファイルのピースを相互にダウンロード及びアップロードしてい くシステムであるから、上記のトラッカーサーバーにアクセスしてファイルのピ ースをダウンロード及びアップロードするまでの流れ全体が「特定電気通信」に 該当する。そして、上記の本件調査及びBitTorrentの仕組みによれば、 5 本件発信者は、遅くとも別紙動画目録記載の「発信時刻」欄の日時までに、本件 各動画のファイルの全部又は一部を取得して端末に保存し、これと同時に、他の ピアからの要求に応じて当該ファイルの送信(アップロード)をすることができ る状態にいたことになるから、本件発信者は、遅くとも当該日時までに、Bit Torrentのネットワークを介した「特定電気通信による情報の流通」によ 10 って、本件各動画に係る原告の送信可能化権を侵害したといえる。 また、上記のHandshakeが行われたということは、本件発信者が、本 件検知システムの要求に応じて、自動的に本件各動画をダウンロードできる状態 にしていたことを示すものであるから、このHandshakeによって、原告 の送信可能化権が侵害されたということができる。 15 3 本件各動画との同一性 BitTorrentにおいては、共有されるファイルを電子的に特定するた めに、ファイルごとにハッシュが定められているところ、本件各動画と、本件発 信者らがアップロードできる状態にしていたハッシュが付されたファイルの動 画は、いずれも同一であることが明らかである(甲12)。 20 4 特定電気通信該当性
被告は、別紙動画目録記載の各通信記録は、本件検知システムと当該ユーザー との間で行われた一対一対応の通信の記録であって、不特定の者に受信されるこ とを目的とする情報の流通行為ではないから、特定電気通信と評価することはで きないと主張する。しかしながら、当該ユーザーは、誰でも当該ファイルを取得 25 することができる状態に置いたのであるから、当該通信が不特定の者によって受 信されることを目的とする電気通信であることは否定されない。 5(被告の主張) 1 権利侵害の明白性 本件発信者らが、原告の著作権を侵害したというためには、本件発信者らがフ ァイルのダウンロードを100%完了し、実際にファイルを閲覧できる状態に至 5 ったことを要するから、ファイル保持率が100%に至っていない場合は、閲覧 不能な以上、著作権を侵害したとはいえない。このことは、「P2P型ファイル 交換ソフトによる権利侵害情報検出システムの技術的認定要件」(乙1)におい て、ピースを送信可能状態にしているだけでは足りず、ファイル全体を送信可能 状態としていることを要するとしていることからも、明らかである。 10 2 本件各動画との同一性 本件発信者らが、原告の著作権を侵害したというためには、本件発信者らがダ ウンロードしたファイルが、原告により権利侵害情報と判定されたファイルと同 一のファイルであることが検証されなければならない。すなわち、特定のトレン トファイルを対象にBitTorrent互換ソフトウェアを用いて実際のフ 15 ァイルをダウンロードし、内容が著作権侵害物であることが実際に確認される必 要がある。 ところが、本件調査においては、監視対象となったピアがダウンロードしたと される実際のファイルを、本件調査会社はダウンロードしておらず、監視対象の ピアにおいてダウンロードしたファイルの内容が、本件各動画と同一の動画であ 20 ったことは何ら確認されていない。 3 特定電気通信該当性 別紙動画目録記載の各通信記録は、本件検知システムと当該ユーザーとの間で 行われた一対一対応の通信の記録であって、不特定の第三者に伝播されることは なく、不特定の者に受信されることを目的とする情報の流通行為ではないから、 25 特定電気通信と評価することはできない。 第4 当裁判所の判断 61 争点に対する判断 認定事実 前記前提事実、証拠(甲4ないし8)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査 につき、次の事実が認められる。 5ア 本件調査会社は、原告から指定されたコンテンツの品番を含むファイルを トラッカーサイトで検索し、著作権侵害が疑われるファイルのハッシュ値 (データ〔ファイル〕を特定の関数で計算して得られる値をいい、ファイル からハッシュ値は一意に定まることから、ファイルの同一性確認のために用 いられるものである。)を取得し、本件検知システムに登録した。 10 イ 本件検知システムは、上記経緯により同システムの監視対象となった上記 ファイルのハッシュ値について、BitTorrentネットワーク上で監 視を行った。具体的には、本件検知システムは、トラッカーサーバーに対し、
上記ファイル(全部又は一部をいう。以下1において同じ。)のダウンロー ドを要求し、当該ファイルをダウンロードできる(所持している)ピアのI 15 Pアドレス、ポート番号等のリストをトラッカーサーバーから受け取って、 本件検知システムのデータベースに記録した(別紙動画目録記載の「IPア ドレス」 「ポート番号」 当該IPアドレス及びポート番号である。 。及び は、 ) そして、本件検知システムは、上記リストを受け取った後、同リストに載 っていたユーザーに接続をして、同ユーザーが応答することの確認(Han 20 dshake)を行っており、別紙動画目録記載の「発信時刻」欄の日時は、 当該Handshake完了時のものである。 もっとも、本件検知システムは、上記Handshakeの時点において、
上記ユーザーが保有している上記ファイルを実際にダウンロードしていな いものの、上記時点において上記ユーザーから返信された上記ファイルのハ 25 ッシュ値によって、実際に上記ユーザーが上記ファイルを所持していること の確認を行っている。そのため、本件検知システムは、上記時点において直 7ちに上記ユーザーから上記ファイルのダウンロードができる状態にあった ことになる。 ウ なお、BitTorrentにおいて、ファイルをダウンロードするよう になったユーザーは、BitTorrentクライアントソフトを停止させ 5 るまで、トラッカーサーバーに対し、当該ファイルが送信可能であることを 継続的に通知し、他のユーザーからの要求があれば、当該ファイルを送信し 得る状態になっている。 ? 権利侵害の明白性 前記前提事実記載のBitTorrentの仕組み及び上記認定事実記載 10 の本件検知システムの仕組み等によれば、本件発信者らは、本件各動画をその 端末にダウンロードして、本件各動画を不特定多数の者からの求めに応じ自動 的に送信し得るようにした上、別紙動画目録記載のIPアドレス及びポート番 号の割当てを受けてインターネットに接続し、Handshakeの時点であ る別紙動画目録記載の「発信時刻」欄記載の各日時において、不特定の者に対 15 し、BitTorrentのネットワークを介して本件各動画に係る送信可能 化権が侵害されその状態が継続していることを通知したものと認めるのが相 当である。そして、当事者双方提出に係る証拠及び弁論の全趣旨によっても、 侵害行為の違法性を阻却する事由が存在することをうかがわせる事情を認め ることはできない。 20 これらの事情を踏まえると、本件発信者らは、Handshakeの時点に おいて、不特定の者に対し、BitTorrentのネットワークを介して本 件各動画に係る送信可能化権が侵害されその状態が継続していることを通知 しているのであるから、本件発信者らによるHandshakeに係る情報は、 プロバイダ責任制限法5条1項にいう「権利の侵害に係る発信者情報」に該当 25 するものと解するのが相当である。また、本件発信者らによるHandsha keに係る情報は、上記のとおり、不特定の者において、本件各動画に係る送 8信可能化権が侵害されその状態が継続していることを確認する上で、必要な電 気通信の送信であるといえるから、「特定電気通信」にも該当するものと解す るのが相当である。 ? 被告の主張 5ア 被告は、ファイル保持率が100%に至っていない場合は、閲覧不能な以 上、著作権を侵害したとはいえないと主張する。しかしながら、証拠(甲1 3)及び弁論の全趣旨によれば、ファイル保持率が100%ではない場合、 すなわち、ファイルのダウンロードが100%まで完了していない場合であ っても、ファイルの閲覧が可能であることが認められる。そうすると、前記 10 認定に係るBitTorrentの仕組み及び本件各動画に係る著作物の 内容等に照らし、少なくとも著作権の一部を侵害したものと認めるのが相当 である。したがって、被告の主張は、採用することができない。 イ 被告は、監視対象のピアにおいてダウンロードしたファイルの動画が、本 件各動画と同一の動画であったことは何ら確認されていないから、当該ファ 15 イルのダウンロードが原告の著作権を侵害したことの立証がない旨主張す る。しかしながら、証拠(甲5ないし7、12)及び弁論の全趣旨によれば、 ハッシュとは、データ(ファイル)を特定の関数で計算して得られる値であ り、元のデータが同じであれば、必ず同じ値がハッシュ関数によって生成さ れること、本件各動画と、監視対象のハッシュに該当するファイルの動画を 20 比べると、少なくとも当該ファイルの動画が、本件各動画の該当動画と同一 内容のものであることが認められることからすると、その余のハッシュに該 当する各ファイルの動画についても、本件各動画と同一内容のものであると 推認するのが相当であり、これを覆すに足りる証拠はない。そうすると、上 記ハッシュに該当する各ファイルの動画は、本件各動画と同一内容の動画で 25 あると認めるのが相当である。したがって、被告の主張は、採用することが できない。 9ウ 被告は、本件調査における通信記録は、一対一の通信記録にすぎないから、 特定電気通信と評価することはできないと主張する。しかしながら、Han dshakeに係る情報の送信が、不特定の者において、本件各動画に係る 送信可能化権が侵害されその状態が継続していることを確認する上で、必要 5 な電気通信の送信であるといえることは、上記において説示したとおりであ る。したがって、被告の主張は、採用することができない。 エ その他に、被告提出に係る準備書面及び証拠を改めて検討しても、被告の 主張は、技術説明会における技術説明及びこれを踏まえた口頭議論の内容等 を踏まえると、上記判断を左右するに至らない。したがって、被告の主張は、 10 いずれも採用することができない。 ? 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者らに対し、損害賠償請求を予定 していることが認められることからすると、原告には本件発信者情報の開示を 受けるべき正当な理由があるものといえる。 ? したがって、原告は、被告に対し、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき、 15 本件発信者情報の開示を求めることができる。 2 結論 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容し、仮執行宣言については、 相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。 20 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 25 中島基至 10 裁判官 古賀千尋 5 裁判官 國井陽平 10 11 (別紙) 発信者情報目録 別紙動画目録(3)ないし(7)記載の各IPアドレスを、同目録記載の各発信時 5 刻頃に被告から割り当てられていた契約者に関する以下の情報。 @ 氏名又は名称 A 住所 B 電子メールアドレス(ただし、別紙動画目録(3)2−4、同3−21、同 5−674及び675、(4)1−2、同3−53、55及び59、(5)1 10 −96、98、99、100及び102、(6)3−16及び17、(7)2 −4、同11−34及び35は除く。) 12 (別紙)著作物目録、動画目録(3)ないし(7)は省略 13
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2023/01/30
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
事実及び理由
全容